説明

擬似移動床式クロマトグラフィー装置

【課題】 高度な品質管理を要する製品を工業的に生産するのに好適な擬似移動床式クロマトグラフィー装置を提供する。
【解決手段】 八本のカラム1a〜1hを流体流路2a〜2hでそれぞれ接続して無端状の流路を形成し、それぞれの流体流路2a〜2hには無端状の流路を流れる流体の流れ方向を一方向にするために逆止弁3a〜3hを設け、逆止弁3a〜3hの下流側のそれぞれの流体流路に、移動相供給用枝管4a〜4h、試料溶液供給用枝管5a〜5h、ラフィネート排出用枝管6a〜6h、及びエクストラクト排出用枝管7a〜7hを接続し、流体流路2a〜2hを除くこれらの流路には、それぞれの流路を流体流路2a〜2hに対して開閉する開閉弁8a〜8h、9a〜9h、10a〜10h、及び11a〜11hを設けて、擬似移動床式クロマトグラフィー装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種以上の溶剤を含有する混合溶剤を移動相に用い、かつ移動相を回収して再利用することが可能な擬似移動床式クロマトグラフィー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、複数のカラムを直列に接続して形成される無端状の流路を有する。擬似移動床式クロマトグラフィー装置では、前記無端状の流路の任意の箇所に、目的の物質を含有する試料溶液及び移動相が供給され、また無端状の流路の任意の二箇所から移動相が排出される。このような試料溶液の供給と移動相の排出とを連続して行うと、排出される移動相の少なくともいずれかに目的の物質が含まれ、無端状の流路から取り出される。
【0003】
前記擬似移動床式クロマトグラフィー装置における移動相の供給、排出及び循環は、弁の操作によって制御される。擬似移動床式クロマトグラフィー装置における種々の弁の使用やその配置については、様々な提案がなされている。
【0004】
例えば、前記擬似移動床式クロマトグラフィー装置としては、四個以上のカラムが直列に接続されて形成される無端状の流路と、循環している流体の流れ方向に沿って交互に無端状の流路に配置される流体の導入口及び流体の抜出口とを有し、無端状の流路を循環している流体の流れ方向に前記導入口及び抜出口の位置を間欠的に移動させるように構成されている擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、一台の循環ポンプと、この循環ポンプが、非収着質に富む流体(ラフィネート)の抜出口から脱着剤流体(溶離液)導入口までの間を占める一次精製帯域と、脱着剤流体導入口から収着質に富む流体(エクストラクト)の抜出口までの間を占める脱着帯域との間に常にくるように流路を切り替えるための電磁弁とをさらに配置した装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また前記擬似移動床式クロマトグラフィー装置としては、複数のカラムが直列に接続されて形成される無端状の流路を有し、この無端状の流路に、目的の物質を含有する試料溶液と移動相とを供給して試料溶液から目的の物質を分離する擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、前記無端状の流路を第一から第四の区画に分けたときに、第二の区画と第三の区画の間の配管を遮断する開閉弁と、該第二の区画の末端から流出する液を原液と合流させる分岐配管に介設された開閉弁と、該第二の区画の末端から流出する液を原液と合流させて第三の区画の頂部に供給するための第一のポンプ手段と、第四の区画と第一の区画の間の配管を遮断する開閉弁と、該第四の区画の末端から流出する液を溶離液と合流させる分岐配管に介設された開閉弁と、該第四の区画の末端から流出する液を溶離液と合流させた後に第一の区画の頂部に供給するための第二のポンプ手段とをさらに有する装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また前記擬似移動床式クロマトグラフィー装置としては、複数のカラムが直列に接続されて形成される無端状の流路を有し、この無端状の流路に、目的の物質を含有する試料溶液と移動相とを供給して試料溶液から目的の物質を分離する擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、カラム同士を接続する流体通路のうち任意の流体通路を選択し、選択されたこの流体通路に試料溶液を供給する第一ロータリーバルブと、試料溶液が供給された流体通路の下流側に接続される単位充填床の下流側に位置する単位充填床から、吸着されにくい物質を含有するラフィネートを抜き取る第二ロータリーバルブと、ラフィネートの抜き取られた単位充填床の下流側に位置する単位充填床から流体を抜き取る第三ロータリーバルブと、この第三ロータリーバルブから吐出される流体と移動相とを、循環ポンプ
を介して、流体を抜き取られた単位充填床の下流側に接続される流体通路を選択してこれに供給する第四ロータリーバルブと、移動相のが供給された流体通路の下流側に接続される単位充填床の下流側の単位充填床を選択してこの単位充填床から、吸着されやすい物質を含有するエクストラクトを抜き取る第五ロータリーバルブと、前記流体通路のそれぞれの、前記第一ロータリーバルブによって試料溶液が供給される地点及び前記第四ロータリーバルブによって流体と移動相とが供給される地点よりも上流側、かつ第三ロータリーバルブ方向へ循環液が抜き取られる地点の下流側のその流体通路に設けられ、下流方向への流れは許すが、上流方向への流れは阻止する逆止弁とをさらに有する装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
前記擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、例えば、光学異性体等の目的の物質を含有する混合物から目的の物質を分離して取り出すことにより目的の物質を製造するのに有用な手段であり、医薬品の製造等の分野において用いられている。このような分野において、擬似移動床式クロマトグラフィー装置を用いて前記目的の物質を工業的に生産する場合では、装置の構成や制御の簡素化に加えて、高度な品質管理が可能な装置が要求されている。
【0008】
前述した擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、工業生産に適用する場合の構成の簡素化や制御の容易さについては優れているが、高度な品質管理を要する製品の工業生産に適用する観点については、検討の余地が残されている。
【特許文献1】特公平6−95090号公報
【特許文献2】特許第2962590号明細書
【特許文献3】特許第3315149号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高度な品質管理を要する製品を工業的に生産するのに好適な擬似移動床式クロマトグラフィー装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、無端状の流路の流体の流れ方向を逆止弁で制御し、かつ無端状の流路に接続された供給用の流路及び排出用の流路のそれぞれを開閉弁で開閉する。
【0011】
すなわち、本発明は、複数のカラムが直列に接続されて形成される無端状の流路を有し、この無端状の流路に、目的の物質を含有する試料溶液と移動相とを供給して試料溶液から目的の物質を分離する擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、無端状の流路は、複数のカラムと、それぞれのカラムを接続する流体流路と、それぞれの流体流路を流れる流体を一方向に流すためにそれぞれの流体流路に設けられる逆止弁とを有し、それぞれの流体流路には、移動相を流体流路に供給するための移動相流路と、試料溶液を流体流路に供給するための試料溶液流路と、流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第一の排出流路と、流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第二の排出流路とが接続され、移動相流路及び試料溶液流路は、流体流路に流体を流したときの逆止弁よりも下流側の流体流路に接続されており、移動相流路、試料溶液流路、第一の排出流路、及び第二の排出流路のそれぞれには、それぞれの流路を流体流路に対して開閉する開閉弁が設けられている装置である。
【0012】
前記構成によれば、弁の操作を行わなくても無端状の流路における流体の流れ方向を制御することが可能であり、前記目的の物質の製造における操作の容易さの観点から優れている。
【0013】
また、前記構成によれば、無端状の流路に接続されている各種の流路の開閉が開閉弁で行われることから、ロータリーバルブを用いる装置に比べて流路の内圧をより高圧にすることが可能となり、カラムに充填される粒子状の分離剤の小径化及び移動相の流量の増加が可能となり、前記目的の物質の生産性を高め、工業生産に適用する観点から優れている。
【0014】
また、前記構成によれば、無端状の流路に接続されている各種の流路の開閉が開閉弁で行われることから、ロータリーバルブを用いる装置に比べて、前記流路の開閉に伴って無端状の流路に面して滞留する流体(いわゆるデッドボリューム)の発生を低減することが可能となり、無端状の流路から高い純度の前記目的の物質の溶液を得ることが可能となり、より高度な品質管理を要する製品を製造する観点から優れている。
【0015】
本発明では、前記第一の排出流路及び前記第二の排出流路は、前記逆止弁よりも下流側の前記流体流路に接続されており、逆止弁よりも上流側の流体流路には、流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第三の排出流路がさらに接続されており、第三の排出流路には、第三の排出流路を前記流体流路に対して開閉する開閉弁が設けられており、第三の排出流路は前記移動相流路に接続されていると、無端状の流路を流れた移動相を、無端状の流路に再び供給して移動相として再利用することが可能となり好ましい。また前記構成によれば、逆止弁の上流側の移動相が再利用に用いられることから、無端状の流路において試料溶液が拡散して再利用用の移動相へ混入することを防止することができ、再利用する移動相の純度を高める観点から好ましい。
【0016】
本発明では、前記カラムは、光学活性な多糖又は多糖誘導体を含有する分離剤を収容するカラムであり、前記目的の物質は光学異性体であると、目的の物質としての光学異性体を分離する観点から好ましく、前記多糖はセルロース又はアミロースであり、前記多糖誘導体は、セルロースのエステル誘導体、セルロースのカルバメート誘導体、アミロースのエステル誘導体、及びアミロースのカルバメート誘導体から少なくとも選ばれるとより一層好ましい。
【0017】
本発明では、前記第一及び第二の排出流路の少なくともいずれかの排出流路から、前記目的の物質の純度が97%以上である流体を排出させて得ると、医薬品や食品又はそれらの原料等の高度な品質管理を要する製品を工業的に製造する観点から好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、無端状の流路の流体の流れ方向を制御する逆止弁と、無端状の流路に接続された移動相流路、試料溶液流路、及び第一及び第二の排出流路のそれぞれを開閉する開閉弁とを有することから、高度な品質管理を要する製品を工業的に生産するのに好適に用いることができる。
【0019】
本発明では、無端状の流路と移動相流路とを接続する第三の排出流路を、それぞれの流体流路における逆止弁の上流側に接続し、この第三の排出流路を開閉する開閉弁をさらに設けると、純度の高い移動相を再利用する観点からより一層効果的である。
【0020】
本発明では、前記カラムは、光学活性な多糖又は多糖誘導体を含有する分離剤を収容するカラムであり、前記目的の物質は光学異性体であると、光学異性体を効率よく分離する観点からより効果的であり、前記多糖はセルロース又はアミロースであり、前記多糖誘導体は、セルロースのエステル誘導体、セルロースのカルバメート誘導体、アミロースのエステル誘導体、及びアミロースのカルバメート誘導体から少なくとも選ばれると、より一層効果的である。
【0021】
本発明では、第一及び第二の排出流路の少なくともいずれかの排出流路から、目的の物質の純度が97%以上である流体を排出させて得ると、医薬品や食品及びこれらの原料等の高度な品質管理を要する製品を製造する観点からより一層効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、複数のカラムが直列に接続されて形成される無端状の流路を有し、この無端状の流路に、目的の物質を含有する試料溶液と移動相とを供給して試料溶液から目的の物質を分離する。
【0023】
前記無端状の流路は、前記複数のカラムと、それぞれのカラムを接続する流体流路と、それぞれの流体流路を流れる流体を一方向に流すためにそれぞれの流体流路に設けられる逆止弁とを有する。
【0024】
前記カラムは、目的の物質を分離することができる分離剤を有するカラムであれば特に限定されない。分離剤は、カラム管に充填される粒子状の分離剤であっても良いし、カラム管に収容される多孔質体の分離剤であっても良い。また分離剤は、分離剤そのものから構成されていても良いし、シリカ等の担体と、担体に担持される分離剤とから構成されていても良い。前記カラムの数は特に限定されないが、4〜24であることが好ましい。また前記カラムは、製品の生産性を高める観点から、内径が30cm〜100cmであることが好ましい。
【0025】
前記流体流路には、加圧された液体や流体を流すのに通常用いられるステンレス製の管等の管を用いることができる。また前記逆止弁には、高速液体クロマトグラフィー装置や超臨界流体クロマトグラフィー装置で通常用いられる逆止弁を用いることができる。
【0026】
それぞれの前記流体流路には、前記移動相を前記流体流路に供給するための移動相流路と、前記試料溶液を前記流体流路に供給するための試料溶液流路と、前記流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第一の排出流路と、前記流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第二の排出流路とが接続される。これらの流路も、流体流路と同様に、加圧された液体や流体を流すのに通常用いられるステンレス製の管等の管を用いることができる。
【0027】
前記移動相流路及び前記試料溶液流路は、前記流体流路に流体を流したときの前記逆止弁よりも下流側の前記流体流路に接続される。流体流路に接続される前述した流路の位置関係については、移動相流路及び試料溶液流路と逆止弁とが前述した位置関係にあれば特に限定されないが、移動相流路は試料溶液流路よりも上流側に接続されていることが、コンタミネーションの発生を防止する観点から好ましい。また前記第一及び第二の排出流路のうち、一方の排出流路のみから目的の物質を取り出す場合では、目的の物質を取り出す方の排出流路が他方の排出流路よりも上流側に接続されていることが、コンタミネーションの発生を防止する観点から好ましい。
【0028】
前記移動相流路、前記試料溶液流路、前記第一の排出流路、及び前記第二の排出流路のそれぞれには、それぞれの流路を前記流体流路に対して開閉する開閉弁が設けられる。前記開閉弁は、前述した流路を開閉することができる弁であれば特に限定されない。前記開閉弁には、高速液体クロマトグラフィー装置や超臨界流体クロマトグラフィー装置で管の開閉に通常用いられる弁を用いることができる。
【0029】
前記流体流路に接続される各種流路における開閉弁の設置位置については特に限定されないが、流体流路に接続されている各種流路における流体流路側の端部であることが、デ
ッドボリュームの発生やそれに伴うコンタミネーションの発生を防止する観点から好ましい。
【0030】
前記第三の排出流路は、前記流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための流路であり、前記逆止弁よりも上流側の前記流体流路に一端が接続され、前記移動相流路に他端が接続される。前記第三の排出流路には、流体流路やこれに接続される各種流路と同様に、加圧された液体や流体を流すのに通常用いられるステンレス製の管等の管を用いることができる。
【0031】
前記流体流路に接続される前述した各種流路と第三の排出流路との位置関係は特に限定されないが、第三の排出流路が前記逆止弁よりも上流側の流体流路に接続されていることが、無端状の流路を流れる移動相のうち、目的の物質や移動相を構成する以外の溶剤を含まない高い純度の移動相を回収し、またこれを再利用する観点から好ましい。
【0032】
前記第三の排出流路には、第三の排出流路を前記流体流路に対して開閉する開閉弁が設けられる。この開閉弁には、前述した各種流路と同様に、高速液体クロマトグラフィー装置や超臨界流体クロマトグラフィー装置で管の開閉に通常用いられる弁を用いることができる。
【0033】
本発明では、分離したい目的の物質の種類に応じて前記分離剤をカラムに収容することによって、種々の目的の物質の分離に用いることができる。例えば目的の物質が光学異性体である場合では、前記カラムは光学活性な多糖又は多糖誘導体を含有する分離剤を収容するカラムであることが、高い分離効率で光学異性体を分離する観点から好ましい。
【0034】
前記多糖は、光学活性な多糖であれば、合成多糖、天然多糖及び天然物変性多糖のいずれかであっても良い。前記多糖は、結合様式の規則性の高い多糖が好ましく、また鎖状の多糖が好ましい。前記多糖としては、種々の多糖を例示することができるが、特にセルロースやアミロースが好ましい。
【0035】
前記多糖誘導体は、光学異性体の分離に用いることができる多糖誘導体であれば特に限定されない。このような多糖誘導体としては、例えば、前記多糖を骨格として含み、この多糖が有する水酸基及びアミノ基の少なくとも一部が、試料中の光学異性体に作用する官能基で置換されている多糖誘導体が挙げられる。前記多糖誘導体としては、種々の多糖誘導体を例示することができるが、特にセルロースのエステル誘導体、セルロースのカルバメート誘導体、アミロースのエステル誘導体、及びアミロースのカルバメート誘導体から選ばれる少なくともいずれかが好ましい。具体的に前記多糖誘導体としては、例えば国際公開95/23125号パンフレットに記載されている種々の多糖誘導体が挙げられる。
【0036】
前記分離剤は、粒子状に成形された形態、又は粒子状の担体に担持されている形態等の粒子状の形態であっても良いし、カラムに収容される一体型の担体に担持されている形態、又は分離剤からなる一体型の成形物の形態等の、カラムに一体的に収容される成形物の形態であっても良い。特にカラムに一体的に収容される成形物の形態は、擬似移動床式クロマトグラフィーにおける圧力損失を抑制する観点から好ましい。
【0037】
前記粒子状の形態の分離剤のうち、粒子状に成形された形態の分離剤は、例えば特許第2783819号明細書に記載されているように、分離剤としての前記多糖又は多糖誘導体を溶媒に溶解し、得られた溶液を、水等の前記分離剤が溶解しない不溶性溶媒、好ましくは陰イオン界面活性剤等の分散剤を含有する前記不溶性溶媒に、この不溶性溶媒を攪拌しながら滴下することによって製造することが可能である。
【0038】
また前記粒子状に成形された形態の分離剤は、多孔質体を形成することができる。このような分離剤は、例えば気泡又はポリジェンを前記分離剤の溶液に分散させ、分散させた溶液を前記不溶性溶媒に分散させ、分散している分離剤の溶液から溶媒を留去又は置換し、得られた分離剤の粒子を、必要に応じてポリジェンを溶解する洗浄用の溶剤で洗浄する方法が挙げられる。ポリジェンには、生成する分離剤の粒子に比べて、前記洗浄用の溶剤に対する溶解性の優れる樹脂や塩等の公知の粒子が用いられる。
【0039】
また前記粒子状の分離剤のうち、粒子状の担体に担持されている形態の分離剤は、例えば分離剤を物理吸着や化学吸着によって担体に担持させることによって製造することができる。分離剤の担体への担持は、分離剤及び必要に応じて他の化合物を含む溶液に担体を浸漬し、必要に応じて前記他の化合物を反応させ、溶液中の溶媒を留去するか、溶液中の溶媒を他の溶媒に置換する方法によって行うことができる。
【0040】
前記担体としては、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、及びこれらの誘導体等の多孔質の有機担体;シリカ、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイト等の多孔質の無機担体;等が挙げられる。
【0041】
カラムに一体的に収容される成形物の形態のうち、カラムに収容される一体型の担体に担持されている形態の分離剤は、例えば一体型の担体に分離剤を前述したような手法で担持させることによって製造することが可能である。
【0042】
また分離剤からなる一体型の成形物の形態の分離剤は、例えば前述した粒子状の形態の分離剤の製造における分離剤の溶液を適当な形状の容器に供給し、又は分離剤の溶液をカラム管に直接供給し、その後溶媒を留去又は置換することによって製造することが可能である。
【0043】
前記移動相は、前記分離剤の種類や、前記目的の物質の種類等の諸条件に応じて適宜選択される。前記移動相には、高速液体クロマトグラフィー装置や超臨界流体クロマトグラフィー装置で移動相として通常用いられる溶剤及びその混合物を用いることができる。前記溶剤としては、例えば水、酸、アルカリ、及び有機溶剤等が挙げられる。
【0044】
前記有機溶剤としては、例えばエタノールアミンやメタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール等の低級アルコール、ノルマルヘキサン等の低極性の溶剤、アセトニトリル、酢酸エチル等の極性溶剤、及びこれらを混合した混合溶剤、酢酸等の酸性の溶剤、ジエチルアミン等の塩基性の溶剤等が挙げられる。
【0045】
前記混合溶剤の混合比は特に限定されないが、目的の物質の溶出時間の適正化や良好な分離を行う観点からは、第一の溶剤と前記第二の溶剤との体積比(第一の溶剤:第二の溶剤)が10:90〜50:50であることが好ましい。また前記酸性の溶剤や塩基性の溶剤は、目的の物質の安定化や分離剤に対する悪影響の抑制の観点から、移動相全体に対して0.01〜0.5体積%であることが好ましく、0.01〜0.2体積%であることがより好ましい。
【0046】
本発明では、前記第一及び第二の排出流路の少なくともいずれかの排出流路から、排出される流体中の前記目的の物質の純度が97%以上である流体を排出させて得ることが、擬似移動床式クロマトグラフィー装置によって目的の物質を試料溶液から分離することによって、より高度な品質管理を要する製品を製造する観点から好ましく、目的の物質の純度が98%以上であることがより好ましい。
【0047】
本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、前述した構成以外の他の構成を有していても良い。このような他の構成としては、例えば、無端状の流路における流体の循環や前述した各種流路から排出された流体の移送に用いられるポンプ、弁の開閉やポンプの運転を制御する制御装置、無端状の流路から排出された流体中の目的の物質の純度を検出する純度検出部、無端状の流路から排出された目的の物質を含有する流体から移動相を除去して目的の物質を収集するための収集部、収集部で除去された移動相を回収し、回収した移動相の組成を無端状の流路に供給され得る移動相の組成に調整する調整部、回収した移動相を精製するための精製装置等が挙げられる。
【0048】
前記ポンプには、高速液体クロマトグラフィー装置や超臨界流体クロマトグラフィー装置で流体の移送に通常用いられる定量ポンプを用いることができる。また、前記制御装置には、擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、弁の開閉やポンプの運転の制御に通常用いられる装置を用いることができる。
【0049】
前記純度検出部は、無端状の流路から排出された流体中の目的の物質を定量でき、好ましくはさらに不純物を定量できる機器であれば特に限定されない。このような純度検出器としては、例えばガスクロマトグラフィー装置、高速液体クロマトグラフィー装置、近赤外分光分析装置、質量分析装置、GC−MS装置等の各種分析機器を用いることができる。
【0050】
前記収集部は、例えば特開平6−239767号公報に示されているような公知の構成を採用することができ、例えば無端状の流路から排出された移動相を濃縮する濃縮装置によって構成することができる。前記収集部は、単数設けられていても良いし、試料溶液に含まれる目的の物質の種類数に応じて複数設けられていても良い。また前記濃縮装置には減圧濃縮装置等の公知の手段を用いることができる。前記濃縮装置は、単数設けられていても良いし、移動相を段階的に濃縮するように複数設けられていても良い。
【0051】
前記調整部は、例えば米国特許第6325898号明細書において調整装置(regulating device)として示されているような、組成を調整すべき移動相を収容する調整槽と、調整槽に供給された移動相の組成を検出する検出器と、調整槽に供給された移動相に補給すべき溶剤を収容する補給用槽と、検出器の検出結果に応じて補給用槽からの溶剤の補給を制御する補給用制御装置とを有する公知の構成を採用することができる。調整部における移動相の組成の検出は、検出器が検出する要素に応じて予め作成された検量線を用いて行うことができる。
【0052】
前記精製装置は、回収した移動相の純度を高める装置であれば特に限定されない。前記精製装置としては、例えば特開平6−239767号公報に示されているような蒸留装置や、活性炭等の吸着剤を収容してなる吸着塔等が挙げられる。
【0053】
以下、本発明の一実施の形態をより具体的に説明する。
本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、図1及び図2に示すように、八本のカラム1a〜1hが直列に接続されて形成される無端状の流路を有する。前記無端状の流路は、八本のカラム1a〜1hと、それぞれのカラムを接続する流体流路2a〜2hと、それぞれの流体流路2a〜2hを流れる流体を一方向に流すためにそれぞれの流体流路2a〜2hに設けられる逆止弁3a〜3hとを有する。逆止弁3a〜3hは、図中に矢印で示す向き、すなわち無端状の流路において紙面に対して反時計回り、に流体が流れるように設けられている。
【0054】
それぞれの流体流路2a〜2hには、移動相供給用枝管4a〜4hと、試料溶液供給用枝管5a〜5hと、ラフィネート排出用枝管6a〜6hと、エクストラクト排出用枝管7
a〜7hがそれぞれ接続されている。移動相供給用枝管4a〜4hと試料溶液供給用枝管5a〜5hは、流体流路2a〜2hに流体を流したときの逆止弁3a〜3hよりも下流側の流体流路2a〜2hに接続されている。また、ラフィネート排出用枝管6a〜6hとエクストラクト排出用枝管7a〜7hは、逆止弁3a〜3hよりも下流側の流体流路2a〜2hに接続されている。なお、ラフィネート排出用枝管6a〜6h及びエクストラクト排出用枝管7a〜7hは、移動相供給用枝管4a〜4h及び試料溶液供給用枝管5a〜5hよりも下流側の流体流路2a〜2hに接続されている。
【0055】
移動相供給用枝管4a〜4hはそれぞれ移動相供給用主管4に接続されており、移動相供給用枝管4a〜4hと移動相供給用主管4は、移動相を流体流路2a〜2hに供給するための移動相流路を構成している。また、試料溶液供給用枝管5a〜5hはそれぞれ試料溶液供給用主管5に接続されており、試料溶液供給用枝管5a〜5hと試料溶液供給用主管5は、試料溶液を流体流路2a〜2hに供給するための試料溶液流路を構成している。
【0056】
また、ラフィネート排出用枝管6a〜6hはそれぞれラフィネート排出用主管6に接続されており、ラフィネート排出用枝管6a〜6hとラフィネート排出用主管6は、流体流路2a〜2hを流れる流体を流体流路2a〜2hから排出するための第一の排出流路を構成している。また、エクストラクト排出用枝管7a〜7hはそれぞれエクストラクト排出用主管7に接続されており、エクストラクト排出用枝管7a〜7hとエクストラクト排出用主管7は、流体流路2a〜2hを流れる流体を流体流路2a〜2hから排出するための第二の排出流路を構成している。
【0057】
移動相供給用枝管4a〜4hには、移動相供給用枝管4a〜4hを流体流路2a〜2hに対して開閉する開閉弁8a〜8hが設けられており、試料溶液供給用枝管5a〜5hには、試料溶液供給用枝管5a〜5hを流体流路2a〜2hに対して開閉する開閉弁9a〜9hが設けられており、ラフィネート排出用枝管6a〜6hには、ラフィネート排出用枝管6a〜6hを流体流路2a〜2hに対して開閉する開閉弁10a〜10hが設けられており、エクストラクト排出用枝管7a〜7hには、エクストラクト排出用枝管7a〜7hを流体流路2a〜2hに対して開閉する開閉弁11a〜11hが設けられている。
【0058】
さらに、逆止弁3a〜3hよりも上流側の流体流路2a〜2hには、移動相排出用枝管12a〜12hがそれぞれ接続されている。移動相排出用枝管12a〜12hは、移動相排出用主管12にそれぞれ接続されており、流体流路2a〜2hを流れる流体を流体流路2a〜2hから排出するための第三の排出流路を構成している。また、移動相排出用枝管12a〜12hには、移動相排出用枝管12a〜12hを流体流路2a〜2hに対して開閉する開閉弁13a〜13hがそれぞれ設けられている。
【0059】
なお、移動相供給用主管4は、移動相を収容する図示しない移動相タンクに接続されている。移動相供給用主管4には、前記移動相タンクから移動相供給用枝管4a〜4hに移動相を送るための移動相供給用ポンプ14と、移動相供給用ポンプ14と移動相供給用枝管4a〜4hとの間で移動相供給用主管4を開閉する開閉弁15とが設けられている。
【0060】
また、試料溶液供給用主管5は、試料溶液を収容する試料溶液タンクや試料溶液を試料溶液供給用主管5に注入するための注入器等の図示しない試料溶液の供給源に接続されている。試料溶液供給用主管5には、前記試料溶液の供給源から試料溶液供給用枝管5a〜5hに試料溶液を送るための試料溶液供給用ポンプ16と、試料溶液供給用ポンプ16と試料溶液供給用枝管5a〜5hとの間で試料溶液供給用主管5を開閉する開閉弁17とが設けられている。
【0061】
また、ラフィネート排出用主管6は、後述するラフィネート収集装置に接続されている
。ラフィネート排出用主管6には、ラフィネート排出用主管6の流体を前記ラフィネート収集装置に送るためのラフィネート排出用ポンプ18と、ラフィネート排出用ポンプ18より下流側でラフィネート排出用主管6を開閉する開閉弁19とが設けられている。
【0062】
また、エクストラクト排出用主管7は、後述するエクストラクト収集装置に接続されている。エクストラクト排出用主管7には、エクストラクト排出用主管7の流体を前記エクストラクト収集装置に送るためのエクストラクト排出用ポンプ20と、エクストラクト排出用ポンプ20より下流側でエクストラクト排出用主管7を開閉する開閉弁21とが設けられている。
【0063】
また、移動相排出用主管12は、移動相供給用ポンプ14と開閉弁15との間の移動相供給用主管4に接続されている。移動相排出用主管12には、移動相排出用主管12の流体を移動相供給用主管4に送るための移動相排出用ポンプ22が設けられている。
【0064】
前記ラフィネート収集装置は、三体の蒸発器30〜32と、蒸発器30の缶出液を蒸発器30から排出して蒸発器31に供給するための缶出液排出管33と、蒸発器31の缶出液を蒸発器31から排出して蒸発器32に供給するための缶出液排出管34と、蒸発器32の缶出液を蒸発器32から排出するための缶出液排出管35と、缶出液排出管35で排出された缶出液を収容するラフィネート貯留槽36とを有する。
【0065】
同様に前記エクストラクト収集装置は、三体の蒸発器40〜42と、蒸発器40の缶出液を蒸発器40から排出して蒸発器41に供給するための缶出液排出管43と、蒸発器41の缶出液を蒸発器41から排出して蒸発器42に供給するための缶出液排出管44と、蒸発器42の缶出液を蒸発器42から排出するための缶出液排出管45と、缶出液排出管45で排出された缶出液を収容するエクストラクト貯留槽46とを有する。
【0066】
蒸発器30〜32は、蒸発器30〜32の移動相の蒸気を蒸発器30〜32から排出するための移動相留出管37によって並列に接続されている。また蒸発器40〜42も、蒸発器40〜42の移動相の蒸気を蒸発器40〜42から排出するための移動相留出管47によって並列に接続されている。移動相留出管37及び47は、留出した移動相を収容する調整槽50に接続されている。
【0067】
調整槽50には、例えば調整槽50に収容された移動相を攪拌する攪拌装置と、調整槽50に収容された移動相の組成を検出する近赤外分光センサと、調整槽50に収容された移動相の温度を検出する温度センサと、近赤外分光センサ及び温度センサからの信号が入力される制御装置と、調整槽50に収容された移動相に補給すべき溶剤を収容する補給用槽と、補給用槽と調整槽50とを接続する補給用流路と、それぞれの補給用流路に介在するポンプ及び自動弁とが設けられている。調整槽50は、移動相還流管51によって、移動相供給用ポンプ14よりも上流側の移動相供給用主管4に接続されている。
【0068】
以下に、前述した本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置による、目的の物質の分離、製造操作の一例を説明する。
【0069】
なお、カラム1a〜1hは、例えば特許第2783819号明細書に記載の方法によって製造されるセルロースのカルバメート誘導体からなる粒子が充填されたカラムであるとする。また、移動相供給用ポンプ14、試料溶液供給用ポンプ16、ラフィネート排出用ポンプ18、エクストラクト排出用ポンプ20、及び移動相排出用ポンプ22は、それぞれ定量ポンプである。また、前述した開閉弁及びポンプは、例えば調整槽50に設けられている前記制御装置に接続されており、開閉弁の開閉やポンプの運転は、前記制御装置によって制御されるものとする。
【0070】
移動相には、例えば50体積%のメタノールと50体積%のアセトニトリルとの混合溶剤に、総量で0.01体積%のジエチルアミンを混合した混合溶剤が用いられる。試料溶液は、ラセミ体等の光学異性体の混合物の溶液であり、目的の物質は例えば光学異性体のうちのL体であるとする。
【0071】
まず、開閉弁15及び8aを開き、他の開閉弁を閉じて、移動相供給用枝管4aから無端状の流路に移動相を供給する。無端状の流路に供給された移動相は、例えばポンプによって無端状の流路を循環する。
【0072】
次に、例えば開閉弁13hを開き、移動相排出用ポンプ22を稼動させて、無端状の流路から移動相を所定の流量Aで移動相排出用枝管12hへ排出する。排出された移動相は、移動相排出用ポンプ22を介して移動相供給用主管4に供給され、新たな移動相として無端状の流路に供給される。
【0073】
次に、例えば開閉弁17及び9dを開き、試料溶液供給用枝管5dから無端状の流路に試料溶液を供給する。無端状の流路に供給された試料溶液はカラム1eに送られ、試料溶液中の光学異性体のうち、目的の物質であるL体は、カラム中の分離剤により強く吸着され(以下、L体を「ラフィネート」とも言う)、R体は分離剤により弱く吸着される(以下、R体を「エクストラクト」とも言う)。エクストラクトは、ラフィネートに比べて分離剤に対して脱着しやすく、移動相の流れ方向におけるラフィネートよりも下流側に分布する。ラフィネート及びエクストラクトは、共に移動相の流れによってカラム1eを移動する。
【0074】
ラフィネート及びエクストラクトがカラム1eから流出したら、開閉弁8a、13h及び9dを閉じるとともに、開閉弁8b、13a及び9eを開く。この開閉弁の操作により、移動相は、移動相供給用枝管4bから無端状の流路へ供給され、無端状の流路から移動相排出用枝管12aへ排出される。また試料溶液は、試料溶液供給用枝管5eから無端状の流路に供給される。このようにして、試料溶液は、無端状の流路のうち、ラフィネートとエクストラクトとの混合比率の高い位置に供給される。
【0075】
ラフィネート及びエクストラクトがカラム1eを通過する時間を1ピリオドとしたときに、前述したような開閉弁の開閉操作を、無端状の流路における移動相の流れ方向の下流側へ1ピリオドごとに行う。
【0076】
前述した開閉弁の開閉操作を数ピリオド行うと、分離剤に対する吸着性に起因するエクストラクトの分布とラフィネートの分布との偏りがより顕在化する。そして試料溶液の供給位置に対して、無端状の流路における移動相の流れ方向の上流側にはエクストラクトが主に分布して濃縮され、下流側にはラフィネートが主に分布して濃縮される。
【0077】
ラフィネートとエクストラクトとの分布が、適当な距離まで広がったら、ラフィネート排出用枝管及びエクストラクト排出用枝管をさらに無端状の流路に対して開放する。例えば、移動相が移動相供給用枝管4aから無端状の流路に供給され、移動相が無端状の流路から移動相排出用枝管12hへ排出され、試料溶液が試料溶液供給用枝管5dから無端状の流路に供給されている場合(図1参照)あれば、ラフィネートに関しては、例えば開閉弁10b及び19を開くと共にラフィネート排出用ポンプ18を稼動させて、ラフィネートを含有する移動相を無端状の流路からラフィネート排出用枝管6bへ排出し、エクストラクトに関しては、例えば開閉弁11f及び21を開くと共にエクストラクト排出用ポンプ20を稼動させて、エクストラクトを含有する移動相を無端状の流路からエクストラクト排出用枝管7fへ排出する。
【0078】
このとき無端状の流路から排出される移動相、すなわちラフィネート排出用枝管6b、エクストラクト排出用枝管7f、及び移動相排出用枝管12hから排出される移動相の総和が前述した所定の流量Aとなるように、移動相の排出量を調整する。移動相の排出量の調整は、移動相排出用ポンプ22、ラフィネート排出用ポンプ18、及びエクストラクト排出用ポンプ20の運転や、開閉弁31h、10b及び11fの開度によって行われる。
【0079】
また、ラフィネートを含有する移動相は、ラフィネートの純度が検出され、所定の純度(例えば97%以上)であれば前記ラフィネート収集装置に送られる。ラフィネートの純度は、例えばラフィネート排出用主管6に設けられた近赤外分光センサによる検出や、ラフィネート排出用主管6から採取した移動相をガスクロマトグラフィー装置等の測定装置で測定することによって検出される。
【0080】
なお、純度が確定するまで、ラフィネート排出用主管6から排出される移動相を別のタンクに収容して保存しても良い。また、例えばラフィネート排出用主管6中の移動相におけるラフィネートの純度の検出する検出器又は測定装置と開閉弁19とを電気的に接続し、移動相中のラフィネートの純度の検出値に応じて開閉弁19を開閉することも可能である。
【0081】
エクストラクト及びラフィネートが無端状の流路から排出されるようになると、無端状の流路におけるエクストラクトとラフィネートの分布はほぼ一定となる。
【0082】
その後は、前述した移動相の供給及び排出、及び試料溶液の供給に係る開閉弁の開閉と同様に、ラフィネートを含有する移動相の排出及びエクストラクトを含有する移動相の排出に係る開閉弁の開閉がピリオドごとに断続的に行われる。例えば、前述した場合からの開閉弁の開閉操作であれば、開閉弁8a、13h、9d、10b及び11fを閉じると共に、開閉弁8b、13a、9e、10c及び11gを開く。こうして、移動相の供給、試料溶液の供給、ラフィネートの排出、エクストラクトの排出、及び移動相の排出が連続して行われる。
【0083】
所定の純度以上のラフィネートを含有する移動相は、蒸発器30〜32によって例えば段階的に濃縮される。例えばラフィネートを含有する移動相は、蒸発器30によって30〜50質量%まで濃縮され、次いで蒸発器31によって40〜70質量%まで濃縮され、次いで蒸発器32によって60〜99質量%まで濃縮され、貯留槽36に収容される。各蒸発器で除去された移動相は、移動相留出管37によって調整槽50に供給される。貯留槽36に収容されたラフィネート含有組成物は、必要に応じて再結晶や減圧蒸留等によって精製される。
【0084】
エクストラクトを含有する移動相も、ラフィネートを含有する移動相と同様に、蒸発器40〜42によって段階的に濃縮され、貯留槽46に収容される。また各蒸発器で除去された移動相は、移動相留出管47によって調整槽50に供給される。貯留槽46に収容されたエクストラクト含有組成物は、必要に応じて再結晶や減圧蒸留等によって精製されても良いし、加熱等によってラセミ化し、試料溶液の材料として再利用しても良い。
【0085】
調整槽50に供給された移動相は、必要に応じて組成が調整され、移動相還流管51を介して移動相供給用主管4に送られ、擬似移動床式クロマトグラフィー装置における移動相に再利用される。調整槽50における移動相の組成の調整は、例えば前記攪拌装置で均一に攪拌され、前記近赤外分光センサによって近赤外領域(例えば0.8〜2.5μm)における移動相の反射光(又は透過光)の波長ごとの強度が検出され、前記温度センサによって移動相の温度が検出され、これらの検出値を受信した前記制御装置によって、補給
すべき溶剤の種類と量とが求められ、前記自動弁及びポンプが操作されて所定の溶剤が補給されることによって行われる。
【0086】
なお、ラフィネート排出用主管6には、無端状の流路から排出された移動相中の不純物を移動相から除去するための吸着器やガードカラム等の吸着手段をさらに設けても良い。同様に、移動相排出用主管12や移動相還流管51には、移動相中の不純物を移動相から除去するための前記吸着手段をさらに設けても良い。
【0087】
また、本実施の形態では、移動相の供給、試料溶液の供給、ラフィネートの排出、及びエクストラクトの排出を、二本のカラムを挟む等間隔の位置で行い、移動相の排出を移動相の供給の直前で行う形態として説明したが、本発明ではこの形態に限定されず、移動相の供給、試料溶液の供給、ラフィネートの排出、エクストラクトの排出、及び移動相の排出の間隔を分離剤の種類や目的の物質の種類等に応じて適宜設定することが可能である。
【0088】
また、本実施の形態では、無端状の流路から移動相排出用枝管へ移動相を排出する形態として説明したが、無端状の流路から移動相排出用枝管への移動相の排出は、無端状の流路からラフィネート排出用枝管及びエクストラクト排出用枝管への移動相の排出が始まった後は行わなくても良い。
【0089】
本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、カラム1a〜1hと流体流路2a〜2hとによって形成される無端状の流路と、逆止弁3a〜3hと、逆止弁3a〜3hの下流側における流体流路2a〜2hに接続される移動相供給用枝管4a〜4h、試料溶液供給用枝管5a〜5h、ラフィネート排出用枝管6a〜6h、及びエクストラクト排出用枝管7a〜7hと、これらの枝管のそれぞれに設けられる開閉弁8a〜8h、9a〜9h、10a〜10h、及び11a〜11hとを有することから、各枝管の無端状の流路側の端部で各枝管を開閉することが可能であり、無端状の流路中の移動相に通じるデッドボリュームを低減することができ、高度な品質管理を要する製品の製造に好適に用いることができる。
【0090】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、それぞれの枝管を開閉する手段として開閉弁8a〜8h、9a〜9h、10a〜10h、及び11a〜11hを有することから、無端状の流路の内圧をより一層高めることが可能であり、移動相の流速をより一層高め、あるいは分離剤の粒径をより一層小さくすることが可能となり、目的の物質の生産性を高めることができ、このような目的の物質の工業生産に好適に用いることができる。
【0091】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、逆止弁3a〜3hの下流側の流体流路2a〜2hに移動相供給用枝管4a〜4h及び試料溶液供給用枝管5a〜5hが接続されていることから、無端状の流路に供給された移動相や試料溶液の上流側への逆流が防止され、目的の物質を効率よく分離することが可能となり、また移動相や試料溶液の逆流によるコンタミネーションの発生を防止することが可能であり、高度な品質管理を要する製品を製造する観点からより一層効果的である。
【0092】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、逆止弁3a〜3hの下流側であって、かつ移動相供給用枝管4a〜4h及び試料溶液供給用枝管5a〜5hの下流側の流体流路2a〜2hにラフィネート排出用枝管6a〜6h及びエクストラクト排出用枝管7a〜7hが接続されていることから、これらの枝管に付着した流体の上流側への逆流が防止され、ラフィネートやエクストラクト及び試料中の不純物の逆流によるコンタミネーションの発生を防止することが可能であり、高度な品質管理を要する製品を製造する観点からより一層効果的である。
【0093】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、逆止弁3a〜3hよりも上流側の無端状の流路にそれぞれ接続される移動相排出用枝管12a〜12hと、開閉弁13a〜13hと、移動相排出用枝管12a〜12hと移動相供給用主管4とを接続する移動相排出用主管12とを有することから、無端状の流路からは、前述したコンタミネーションが防止された移動相が排出され、無端状の流路から排出された移動相をそのまま新たな移動相として再利用することが可能であり、目的の物質の分離、製造に要する移動相の量を低減することができ、高度な品質管理を要する製品を工業的に製造する観点からより一層効果的である。
【0094】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、移動相排出用枝管12a〜12hと開閉弁13a〜13hとを有することから、無端状の流路の内圧をより一層高めることが可能であり、前述した移動相の再利用と目的の物質の生産性の向上とを共に図ることができ、目的の物質の工業的に製造する観点からより一層効果的である。
【0095】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、所定の純度のラフィネートを含有する移動相を無端状の流路から排出させ、収集することから、所定の品質以上のラフィネートを収集することができ、高度な品質管理を要する製品を工業的に製造する観点からより一層効果的である。
【0096】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、前記ラフィネート収集装置及び前記エクストラクト収集装置を有することから、無端状の流路から排出された移動相から所望の物質を収集すると共に移動相を回収することが可能であり、回収した移動相を新たな移動相として再利用することが可能となり、目的の物質の分離、製造に要する移動相の量を低減することができ、目的の物質を工業的に製造する観点からより一層効果的である。
【0097】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、調整槽50を有することから、移動相の組成を必要に応じて調整することが可能であり、高度な品質管理を要する製品を工業的に製造する観点からより一層効果的である。
【0098】
また、本実施の形態の擬似移動床式クロマトグラフィー装置は、回収した移動相の組成を検出する手段として近赤外分光センサを有することから、移動相の組成を迅速かつ精密に検出することが可能となり、移動相の調整を迅速かつ精密に行うことができ、高度な品質管理を要する製品を工業的に製造する観点からさらに一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の擬似移動床式クロマトグラフィー装置の一実施の形態の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1に示す擬似移動床式クロマトグラフィー装置における要部の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0100】
1a〜1h カラム
2a〜2h 流体流路
3a〜3h 逆止弁
4 移動相供給用主管
4a〜4h 移動相供給用枝管
5 試料溶液供給用主管
5a〜5h 試料溶液供給用枝管
6 ラフィネート排出用主管
6a〜6h ラフィネート排出用枝管
7 エクストラクト排出用主管
7a〜7h エクストラクト排出用枝管
8a〜8h、9a〜9h、10a〜10h、11a〜11h、13a〜13h、15、17、19、21 開閉弁
12 移動相排出用主管
12a〜12h 移動相排出用枝管
14 移動相供給用ポンプ
16 試料溶液供給用ポンプ
18 ラフィネート排出用ポンプ
20 エクストラクト排出用ポンプ
22 移動相排出用ポンプ
30〜32、40〜42 蒸発器
33〜35、43〜45 缶出液排出管
36 ラフィネート貯留槽
46 エクストラクト貯留槽
37、47 移動相留出管
50 調整槽
51 移動相還流管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカラムが直列に接続されて形成される無端状の流路を有し、この無端状の流路に、目的の物質を含有する試料溶液と移動相とを供給して試料溶液から目的の物質を分離する擬似移動床式クロマトグラフィー装置において、
前記無端状の流路は、前記複数のカラムと、それぞれのカラムを接続する流体流路と、それぞれの流体流路を流れる流体を一方向に流すためにそれぞれの流体流路に設けられる逆止弁とを有し、
それぞれの前記流体流路には、前記移動相を前記流体流路に供給するための移動相流路と、前記試料溶液を前記流体流路に供給するための試料溶液流路と、前記流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第一の排出流路と、前記流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第二の排出流路とが接続され、
前記移動相流路及び前記試料溶液流路は、前記流体流路に流体を流したときの前記逆止弁よりも下流側の前記流体流路に接続されており、
前記移動相流路、前記試料溶液流路、前記第一の排出流路、及び前記第二の排出流路のそれぞれには、それぞれの流路を前記流体流路に対して開閉する開閉弁が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記第一の排出流路及び前記第二の排出流路は、前記逆止弁よりも下流側の前記流体流路に接続されており、
前記逆止弁よりも上流側の前記流体流路には、前記流体流路を流れる流体を流体流路から排出するための第三の排出流路がさらに接続されており、
前記第三の排出流路には、第三の排出流路を前記流体流路に対して開閉する開閉弁が設けられており、
前記第三の排出流路は前記移動相流路に接続されていることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記カラムは、光学活性な多糖又は多糖誘導体を含有する分離剤を収容するカラムであり、前記目的の物質は光学異性体であり、前記試料溶液は、前記光学異性体の混合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記多糖はセルロース又はアミロースであり、前記多糖誘導体は、セルロースのエステル誘導体、セルロースのカルバメート誘導体、アミロースのエステル誘導体、及びアミロースのカルバメート誘導体から少なくとも選ばれることを特徴とする請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記第一及び第二の排出流路の少なくともいずれかの排出流路から、前記目的の物質の純度が97%以上である流体を排出させて得ることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−133159(P2006−133159A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324857(P2004−324857)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】