説明

攪拌粉砕装置およびそのメンテナンス方法

【課題】内筒をできるだけ長期間使用できるようにし、コスト低減を図る攪拌粉砕装置を提供する。
【解決手段】外筒1aと内筒1bとで構成される攪拌容器1に回転軸2を挿入し、回転軸2に複数の攪拌ディスク3をカラー5によって間隔をあけて一体回転可能に取り付ける。攪拌容器1内に攪拌媒体を収納し、攪拌容器1の内部に供給されたスラリーを攪拌ディスク3で攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する。ディスク押え6と一端側の攪拌ディスク3aとの間、ヘッドカラー7と他端側の攪拌ディスク3bとの間に挿入されるスペーサ8の枚数を可変することにより、攪拌ディスク3を回転軸に対して軸方向位置調整可能とした。内筒1bの一部が磨耗Aした時、攪拌ディスク3の位置をずらすことにより、磨耗Aが局部的に進行するのを防止でき、内筒1bの交換寿命を延ばすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散状の攪拌媒体を用いてスラリー中の固体粒子を微粒子化する攪拌粉砕装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、セラミックスラリー中の固体粒子(セラミックス粒子)を微粒子化するために、特許文献1に示されるような攪拌粉砕装置が用いられている。
攪拌粉砕装置は、筒状の攪拌容器と、攪拌容器の一方側面から内部に挿入された回転軸と、攪拌容器の内部に位置し、回転軸に所定の間隔で一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、攪拌容器内に収納された攪拌媒体(例えばビーズ)とを備えている。攪拌容器の内部にスラリーを供給し、回転軸をモータによって回転駆動させると、攪拌ディスクが回転し、攪拌ディスクの回転によって攪拌媒体には遠心力が与えられ、流動化した攪拌媒体の隙間にスラリーの固体粒子が捕捉される。捕捉された固体粒子は、攪拌媒体間の流動速度差によって生じる摺動力、剪断力、摩擦などによって分散粉砕される。固体粒子が分散粉砕されたスラリーが攪拌容器から外部へ排出され、攪拌媒体は攪拌容器内に残る。
【0003】
上記のような攪拌粉砕装置の場合、粉砕・解砕・分散等の処理を行うと、攪拌容器の内壁等の磨耗が避けられず、定期的な部品交換が必要になる。特に、攪拌粉砕装置では、遠心力を与えられた攪拌媒体が攪拌容器の内壁に衝突するため、内壁のうち攪拌ディスクの外周と対向する部分に磨耗が集中する。そのため、ディスクの外周との対向面以外の磨耗が進行していなくても、内壁部全体を交換しなければならない。一般に、攪拌容器は、外筒と、外筒の内周部に挿入された内筒とで構成される。内筒はZrO2 、SiN、超硬合金のような耐摩耗性に優れた材料で形成されているが、非常に高価であり、上記のように内筒の一部のみが磨耗しただけで内筒全体を交換する必要があるため、コスト上昇の要因となっていた。
【特許文献1】特開平10−113568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、内筒をできるだけ長期間使用できるようにし、コスト低減を図る攪拌粉砕装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、第1の発明(請求項1)は、筒状の攪拌容器と、上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置において、上記攪拌ディスクは上記回転軸に対して軸方向位置調整可能に取り付けられていることを特徴とする攪拌粉砕装置を提供する。
【0006】
第2の発明(請求項4)は、外筒とこの外筒の内周部に挿入された内筒とを有する筒状の攪拌容器と、上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置において、上記内筒は軸方向に分割された複数の筒状ブロックで構成されていることを特徴とする攪拌粉砕装置を提供する。
【0007】
第3の発明(請求項7)は、筒状の攪拌容器と、上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置のメンテナンス方法において、上記攪拌容器の内周面の一部が磨耗した場合に、上記攪拌ディスクの上記回転軸に対する軸方向取付位置を変更し、上記攪拌容器の磨耗部分と上記攪拌ディスクとの軸方向相対位置を変更することを特徴とする攪拌粉砕装置のメンテナンス方法を提供する。
【0008】
第4の発明(請求項8)は、外筒とこの外筒の内周部に挿入された内筒とを有する筒状の攪拌容器と、上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置のメンテナンス方法において、上記内筒を軸方向に分割された複数の筒状ブロックで構成し、上記筒状ブロックのうち一部の筒状ブロックが磨耗した場合に、磨耗した筒状ブロックと磨耗していない筒状ブロックの配列順序を変更するか、または磨耗した筒状ブロックのみを交換することを特徴とする攪拌粉砕装置のメンテナンス方法を提供する。
【0009】
本発明にかかる攪拌粉砕装置では、粉砕・解砕・分散等の処理を行うと、遠心力を与えられた攪拌媒体が攪拌容器の内壁に衝突するため、内壁のうち攪拌ディスクの外周と対向する部分に磨耗が集中しやすい。第1の発明では、攪拌ディスクを回転軸に対して軸方向位置調整可能に取り付けてあるので、攪拌容器の内周面と攪拌ディスクとの軸方向相対位置を可変できる。そのため、攪拌容器の内壁の磨耗部分に対して攪拌ディスクの軸方向位置をずらすことができ、当初の磨耗部分の磨耗がそれ以上進行しない。その結果、実質的に攪拌容器の寿命を延ばすことができる。
【0010】
攪拌ディスクを回転軸に軸方向移動可能に外挿し、かつ回転軸に外挿されたカラーによって間隔をあけて配置し、回転軸の一端部側に設けられた押圧手段と他端部側に設けられた支持手段とによって攪拌ディスクを回転軸に対して軸方向に保持した構造の攪拌粉砕装置の場合、押圧手段と一端側の攪拌ディスクとの間、支持手段と他端側の攪拌ディスクとの間、または攪拌ディスクとカラーとの間にスペーサを配置することにより、攪拌ディスクの回転軸に対する位置を簡単に調整できる。
【0011】
上記のようにスペーサを用いる場合、スペーサをカラーの軸方向寸法より薄い複数の板材で構成し、すべてのスペーサの厚みの総和を隣合う攪拌ディスクの間隔(ディスク間距離)とほぼ同等に設定するのが望ましい。この場合には、攪拌容器の内壁の磨耗の進行に応じて、押圧手段と一端側の攪拌ディスクとの間、支持手段と他端側の攪拌ディスクとの間、さらには攪拌ディスクとカラーとの間に挿入されるスペーサの枚数を調整することで、磨耗位置と攪拌ディスクとの相対位置を自在にずらすことができる。
例えば、運転開始当初は全てのスペーサを押圧手段と一端側の攪拌ディスクとの間、または支持手段と他端側の攪拌ディスクとの間の一方に配置し、一定時間毎に1枚ずつスペーサを他方側へ入れ換えることにより、内壁の磨耗位置を少しずつずらすこともできる。
このように押圧手段と一端側の攪拌ディスクとの間と、支持手段と他端側の攪拌ディスクとの間とでスペーサを移し替えるようにすれば、回転軸に支持された複数の攪拌ディスクを一体的に軸方向にずらすことができるので、個々の攪拌ディスクの位置をずらす場合に比べて調整作業が容易になる。
【0012】
第2の発明では、攪拌容器の内筒を軸方向に分割された複数の筒状ブロックで構成したので、攪拌ディスクの外周部と対向する攪拌容器の内壁部分が磨耗した場合、磨耗した筒状ブロックのみを交換するか、あるいは磨耗した筒状ブロックと磨耗していない筒状ブロックの配列順序を変更することができる。磨耗した筒状ブロックのみを交換する方法では、必要最低限の部材とコストで済むため、コスト低減が図れる。また、筒状ブロックの配列順序を変更する方法では、磨耗部分と攪拌ディスクとの位置をずらすことで、磨耗していない筒状ブロックを有効活用できるので、内筒の寿命を大幅に延ばすことができる。
【0013】
内筒をZrO2 のようなセラミックス材料で構成した場合には、大型になるほど寸法精度が悪くなり、またクラック等の不良が発生しやすく、良品率が低下する。そのため、製造コストがさらに高くなるという問題がある。また、重い内筒一式を抜き差しする交換作業もやりにくい。これに対し、内筒を複数の筒状ブロックで構成すれば、個々のブロックを小型化できるので、良品率が向上し、製造コストを低減できるとともに、重い内筒一式を抜き差しする必要がなく、ブロックの交換作業も容易である。
【0014】
好ましい実施形態によれば、筒状ブロックの軸方向寸法を互いに同一とし、隣合う攪拌ディスクの間隔の1/2以下とするのがよい。例えば、筒状ブロックの軸方向寸法を攪拌ディスクの間隔の1/2とした場合には、隣合う筒状ブロックを相互に交換することで、新品の筒状ブロックを用いることなく、寿命を約2倍に延ばすことができる。また、筒状ブロックの軸方向寸法を攪拌ディスクの間隔の1/3とした場合には、3個の筒状ブロックをローテーションさせることで、寿命を約3倍に延ばすことができる。さらに、筒状ブロックの軸方向寸法を攪拌ディスクの厚みとほぼ同等とした場合には、磨耗した筒状ブロックだけを新品と交換すればよいので、内筒全体を交換する場合に比べて交換費用を削減できる。
【0015】
好ましい実施形態によれば、筒状ブロックを、軸長の異なる複数種類のブロックで構成することができる。
例えば、全ての攪拌ディスクの外周を覆う長い軸長を持つ第1のブロックと、攪拌ディスクの厚み以下の軸長の複数の第2のブロックとで構成した場合、運転当初は第2ブロックを第1のブロックの一端側に配置しておき、第1ブロックの攪拌ディスクの外周部と対向する部位が磨耗したとき、第2ブロックを一端側から他端側へ順次移し替えることにより、第1ブロックを軸方向にずらすようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、第1の発明によれば、攪拌ディスクを回転軸に対して軸方向位置調整可能に取り付け、攪拌容器の内周面と攪拌ディスクとの軸方向相対位置を可変できるようにしたので、攪拌ディスクの外周部と対向する攪拌容器の内壁部分が磨耗した場合に、攪拌ディスクの位置をずらせば、磨耗位置と攪拌ディスクとの相対位置をずらすことができる。そのため、内壁のほぼ全面を有効に利用でき、実質的に攪拌容器の寿命を延ばすことができ、コストを低減できる。
【0017】
第2の発明によれば、攪拌容器の内筒を軸方向に分割された複数の筒状ブロックで構成したので、攪拌ディスクの外周部と対向する内筒部分が磨耗した場合に、磨耗した筒状ブロックのみを交換するか、あるいは磨耗した筒状ブロックと磨耗していない筒状ブロックの配列順序を変更することにより、磨耗していない筒状ブロックを有効活用することができる。そのため、実質的に内筒の寿命を延ばすことができ、コスト低減を図ることができる。また、内筒を輪切りした分割構造物とすることができるので、各部材の軸方向寸法を短縮でき、製造コストを低減できるとともに、交換作業も容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明にかかる攪拌粉砕装置の第1実施例を示す。この攪拌粉砕装置はセラミックスラリー中の固体粒子(セラミックス粒子)を微粒子化するために用いられる。
攪拌粉砕装置は、横向きに配置された筒状の攪拌容器1と、攪拌容器1の一方側面から内部に挿入された回転軸2と、攪拌容器1の内部に位置し、回転軸2に所定の間隔で一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスク3とを備えており、攪拌容器1内にはビーズ等からなる多数の攪拌媒体(図示せず)が収納されている。
【0020】
攪拌容器1は、外筒1aと、外筒1aの内周部に挿入された内筒1bとで構成されており、内筒1bはZrO2 、SiN、超硬合金のような耐摩耗性に優れた材料で形成されている。攪拌容器1には図示しない供給口と排出口とが設けられ、供給口から攪拌容器1の内部にセラミックスラリーを供給できるようになっている。また、排出口は攪拌粉砕後のスラリーを抽出して外部に排出できる構造となっている。供給口および排出口の構造はそれ自体公知であるから、ここでは説明を省略する。攪拌容器1の一側面は開口しており、その開口部11はモータ4の本体に連結されたベッセルヘッド9によって閉じられている。攪拌容器1とベッセルヘッド9とを分離して攪拌容器1の開口部を開き、回転軸2を攪拌容器1から相対的に引き出すことで、容易にメンテナンスを実施できる。
【0021】
回転軸2の基端部は、攪拌容器1外に配置されたモータ4に連結されている。回転軸2には、複数の攪拌ディスク3と複数のカラー5とが交互に外挿されている。攪拌ディスク3およびカラー5は耐摩耗性材料で形成されている。回転軸2は異形断面を持っており、攪拌ディスク3とカラー5は回転軸2に対して軸方向に移動可能であるが、相対回転不能である。つまり、攪拌ディスク3およびカラー5は回転軸2と一体回転する。回転軸2の自由端にはディスク押え6が着脱可能に取り付けられ、ディスク押え6を回転軸2から取り外すことにより、攪拌ディスク3およびカラー5を回転軸2から抜き取ることができる。回転軸2の基端部側(モータ側)にはヘッドカラー7が挿通されている。ディスク押え6によって攪拌ディスク3およびカラー5をヘッドカラー7に向かって軸方向に押圧することにより、全ての攪拌ディスク3とカラー5(ヘッドカラー7を含む)とを回転軸2に固定できる。
【0022】
ディスク押え6と先端側の攪拌ディスク3aとの間、および基端側の攪拌ディスク3bとヘッドカラー7との間には、適宜枚数のスペーサ8が挿入されている。スペーサ8は耐摩耗性材料によってカラー5の軸方向寸法より薄肉な円板状に形成されており、全てのスペーサ8の厚みの総和はディスク間距離Lとほぼ同等に設定されている。ここでは、合計10枚のスペーサ8を用いたが、スペーサ8の枚数および厚みは任意に設定できる。ディスク押え6と先端側の攪拌ディスク3aとの間に挿入されるスペーサ8の枚数と、基端側の攪拌ディスク3bとヘッドカラー7との間に挿入されるスペーサ8の枚数とを調整することにより、回転軸2に対する攪拌ディスク3の位置を自在に調整することができる。回転軸2の位置は攪拌容器1に対して一定であるから、結局、攪拌容器1に対する攪拌ディスク3の位置を調整することができる。
【0023】
供給口から攪拌容器1の内部にセラミクススラリーを供給し、回転軸2をモータ4によって回転駆動させると、攪拌ディスク3が回転し、攪拌ディスク3の回転によって攪拌媒体には遠心力が与えられ、流動化した攪拌媒体の隙間にスラリーの固体粒子が捕捉される。捕捉された固体粒子は、攪拌媒体間の流動速度差によって生じる摺動力、剪断力、摩擦などによって分散粉砕される。固体粒子が分散粉砕されたスラリーが排出口から攪拌容器1の外部へ排出され、攪拌媒体は攪拌容器1内に残る。上記のように粉砕・解砕・分散等の処理を行うと、遠心力を与えられた攪拌媒体が内筒1bの内壁に衝突するため、内筒1bのうち攪拌ディスク3の外周と対向する部分に磨耗Aが集中する。
【0024】
図1の(a)は攪拌粉砕装置の使用前期を示し、図1の(b)は使用中期、図1の(c)は使用後期を示す。
使用前期では、図1の(a)に示すように、ディスク押え6と先端側の攪拌ディスク3aとの間に全てのスペーサ8を挿入しておき、基端側の攪拌ディスク3bとヘッドカラー7との間にはスペーサ8を挿入しない。この状態で運転を継続すると、内筒1bのうち攪拌ディスク3の外周と対向する部分に磨耗Aが発生する。そこで、一定時間(例えば2000時間)を経過する毎にスペーサ8を1枚ずつ基端側の攪拌ディスク3bとヘッドカラー7との間に移す。この一定時間とは、内筒1bに発生した磨耗部Aが使用限界となる前、好ましくは使用限界の半期程度がよい。スペーサ8の移替作業を繰り返すことで、図1の(b)のように磨耗部Aを軸方向にずらすことができ、最初の磨耗部Aがそれ以上磨耗するのを防止できる。
図1の(c)は、全てのスペーサ8が基端側の攪拌ディスク3bとヘッドカラー7との間へ移し替えられた状態を示す。この状態では、磨耗部Aが内筒1bのほぼ全域に広がっており、局部的な磨耗の進行を防止できる。この状態で磨耗部Aが使用限界に達すれば、内筒1bを新品に交換すればよい。
従来では内筒1bの交換寿命が5000〜10000時間であったのに対し、上記のようにスペーサ8の移し替えによって磨耗部Aの位置をずらすことで、交換寿命を約3倍(15000〜30000時間)に延ばすことができる。
【0025】
上記説明では、運転開始時は全てのスペーサ8をディスク押え6と先端側の攪拌ディスク3aとの間に挿入しておき、そのスペーサ8を1枚ずつ基端側の攪拌ディスク3bとヘッドカラー7との間に移すようにしたが、これとは逆に、運転開始時に全てのスペーサ8を基端側の攪拌ディスク3bとヘッドカラー7との間に挿入しておき、そのスペーサ8を1枚ずつディスク押え6と先端側の攪拌ディスク3aとの間に移すようにしてもよい。また、スペーサ8を1枚ずつ移す方法に限らず、複数枚同時に移してもよい。さらに、スペーサ8を攪拌ディスク3とカラー5との間に挿入することで、回転軸2に対する攪拌ディスク3の位置を個別に調整することもできる。この方法は、磨耗部Aが局部的に発生した場合に適用することができる。
【実施例2】
【0026】
図2は本発明にかかる攪拌粉砕装置の第2実施例を示し、第1実施例と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この実施例は、内筒1bを軸方向に分割された複数の筒状ブロック1cで構成し、これら筒状ブロック1cを軸方向に隙間なく連結したものである。すべての筒状ブロック1cは同一寸法に設定されており、1個の筒状ブロック1cの軸方向寸法L1はディスク間距離Lの約1/2に設定されている。筒状ブロック1cはZrO2 、SiN、超硬合金などの耐摩耗性材料で形成されるが、特にZrO2 のようなセラミックス材料で形成した場合には、製造時の良品率が上がるので、低コストで製造できる。
図2では、各筒状ブロック1cの端面を攪拌ディスク3の軸方向中心と対応する位置に設定したが、各筒状ブロック1cの軸方向中心を攪拌ディスク3の軸方向中心と対応させても、同様の効果を得ることができる。
【0027】
図2の(a)は前半期を示し、図2の(b)は後半期を示す。
攪拌媒体が内筒1b(筒状ブロック1c)の内壁に衝突するため、内筒1bのうち攪拌ディスク3の外周と対向する部分に磨耗Aが集中する。そのため、前半期では、図2の(a)に示すように、筒状ブロック1cの一方の端部付近が磨耗する。
磨耗部Aの磨耗が使用限界付近まで進行すると、攪拌容器1を回転軸2から引き出し、図2の(b)に示すように隣合う筒状ブロック1cを入れ換えるか、または各筒状ブロック1cの左右を反転させる。これによって、磨耗部Aの位置をずらすことができ、殆ど磨耗していない筒状ブロック1cの他方の端部を攪拌ディスク3の外周部と対向させることができる。そのため、内筒1bの交換寿命を約2倍に延ばすことができる。
【実施例3】
【0028】
図3は本発明にかかる攪拌粉砕装置の第3実施例を示し、第1実施例と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この実施例は、内筒1bを軸方向に分割された複数の筒状ブロック1dで構成した点で第2実施例と共通するが、1個の筒状ブロック1dの軸方向寸法L2をディスク間距離Lの約1/3に設定した点で相違する。
図3では、各筒状ブロック1dの端面を攪拌ディスク3の軸方向中心と対応する位置に設定したが、各筒状ブロック1dの軸方向中心を攪拌ディスク3の軸方向中心と対応させても、同様の効果を得ることができる。
【0029】
図3の(a)は前期を示し、図3の(b)は中期、図3の(c)は後期を示す。
前期では、図3の(a)のように、攪拌ディスク3の外周と対向する筒状ブロック1dの一方の端部付近A1が磨耗する。
磨耗部A1の磨耗が使用限界付近まで進行すると、攪拌容器1を回転軸2から引き出し、図3の(b)に示すように筒状ブロック1dを1ピッチ(=L2)だけ軸方向にずらす。これによって、磨耗部A1の位置を攪拌ディスク3の外周部からずらすことができる。この状態で、攪拌粉砕を実施することで、図3の(b)に示すように筒状ブロック1dの別の部分A2が磨耗し、初期の磨耗部A1の磨耗は殆ど進行しない。
磨耗部A2の磨耗が使用限界付近まで進行すると、図3の(c)に示すように筒状ブロック1dを1ピッチ(=L2)だけさらにずらす。これによって、磨耗部A2の位置を攪拌ディスク3の外周部からずらすことができる。この状態で、攪拌粉砕を実施することで、図3の(c)に示すように筒状ブロック1dの別の部分A3が磨耗し、磨耗部A1,A2の磨耗は殆ど進行しない。
このようにディスク間距離Lの1/3の軸長の筒状ブロック1dを用いることで、内筒1bの交換寿命を約3倍に延ばすことができる。
【実施例4】
【0030】
図4は本発明にかかる攪拌粉砕装置の第4実施例を示し、第1実施例と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この実施例は、内筒1bを軸方向に分割された複数の筒状ブロック1eで構成した点で第2,第3実施例と共通するが、1個の筒状ブロック1dの軸長L3を攪拌ディスク3の厚みTとほぼ同等に設定したものである。なお、図4では筒状ブロック1dの軸長L3がディスク間距離Lの1/4に設定されているが、これに限るものではない。
この場合には、攪拌ディスク3の外周と対向する筒状ブロック1eが使用限界まで磨耗Aすれば、この磨耗した筒状ブロック1eのみを交換し、他の筒状ブロック1eはそのまま使用を継続するものである。そのため、必要最少限のブロックで済み、コスト低減を図ることができる。
【実施例5】
【0031】
図5は本発明にかかる攪拌粉砕装置の第5実施例を示し、第1実施例と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この実施例は、第4実施例の変形例であり、攪拌ディスク3の外周部と対向する部位にのみ、攪拌ディスク3の厚みTとほぼ同等の軸長L3を持つ筒状ブロック1eを配置し、その他の部位にはカラー5の軸長とほぼ等しい軸長を持つ筒状ブロック1fを配置したものである。
この場合には、磨耗部Aを持つ軸長の短い筒状ブロック1eだけを取り除くことで、軸長の長い筒状ブロック1fはそのまま使用することができる。
【実施例6】
【0032】
図6は本発明にかかる攪拌粉砕装置の第6実施例を示し、第1実施例と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この実施例は、内筒を全ての攪拌ディスク3の外周部をほぼ取り囲む軸長L4を持つ第1ブロック1gと、第1ブロック1gより軸長の短い複数の第2ブロック1hとで構成したものである。第2ブロック1hは第1ブロック1gの両端部に配置されている。なお、第1ブロック1gは単一部品で構成するだけでなく、軸方向に分割された複数部品で構成してもよいが、その場合も各第1ブロック1gの軸長L4をディスク間距離Lより長くするのがよい。第2ブロック1hの軸長L5は攪拌ディスク3の厚みT以下がよく、すべての第2ブロック1hの厚みの総和はディスク間距離Lとほぼ同等とするのがよい。
この場合には、(a)のように使用前期では第2ブロック1hを一端側に集めておき、第1ブロック1gの磨耗Aが進行するに従い、(b)のように第2ブロック1hを順次他端側に移し替えることで、磨耗Aが第1ブロック1gの一部だけに集中せず、軸方向全体に広げることができる。(c)は使用後期である。
この場合も、内筒の寿命を延ばすことができる。
【0033】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
上記実施例では、攪拌容器が横置き型の例について説明したが、縦置き型でも適用できる。
また、回転軸は片持ち支持された例を示したが、両持ち支持されたものでもよい。
さらに、攪拌ディスクとカラーとを回転軸に交互に外挿し、回転軸の一端部側に設けられた押圧手段(ディスク押え)と他端部側に設けられた支持手段(ヘッドカラー)とによって攪拌ディスクを回転軸に対して軸方向に保持した例を示したが、攪拌ディスクを回転軸に間隔をあけて取り付ける方法は、これに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る攪拌粉砕装置の第1実施例の断面図であり、(a)は使用前期、(b)は使用中期、(c)は使用後期を示す。
【図2】本発明に係る攪拌粉砕装置の第2実施例の断面図であり、(a)は使用前半期、(b)は筒状ブロックを配置交換した状態を示す。
【図3】本発明に係る攪拌粉砕装置の第3実施例の断面図であり、(a)は使用前期、(b)は使用中期、(c)は使用後期を示す。
【図4】本発明に係る攪拌粉砕装置の第4実施例の断面図である。
【図5】本発明に係る攪拌粉砕装置の第5実施例の断面図である。
【図6】本発明に係る攪拌粉砕装置の第6実施例の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
A 磨耗部
1 攪拌容器
1a 外筒
1b 内筒
1c,1d,1e,1f,1g,1h 筒状ブロック
2 回転軸
3 攪拌ディスク
3a 先端側の攪拌ディスク
3b 基端側の攪拌ディスク
4 モータ
5 カラー
6 ディスク押え(押圧手段)
7 ヘッドカラー(支持手段)
8 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の攪拌容器と、
上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、
上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、
上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、
上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置において、
上記攪拌ディスクは上記回転軸に対して軸方向位置調整可能に取り付けられていることを特徴とする攪拌粉砕装置。
【請求項2】
上記攪拌ディスクは上記回転軸に軸方向移動可能に外挿され、かつ上記回転軸に外挿されたカラーによって間隔をあけて配置されており、上記回転軸の一端部側に設けられた押圧手段と他端部側に設けられた支持手段とによって上記攪拌ディスクは上記回転軸に対して軸方向に保持されており、
上記押圧手段と一端側の攪拌ディスクとの間、上記支持手段と他端側の攪拌ディスクとの間、または上記攪拌ディスクとカラーとの間にスペーサを配置することにより、上記攪拌ディスクを上記回転軸に対して軸方向位置調整可能としたことを特徴とする請求項1に記載の攪拌粉砕装置。
【請求項3】
上記スペーサは上記カラーの軸方向寸法より薄い複数の板材で構成されており、
すべてのスペーサの厚みの総和は隣合う上記攪拌ディスクの間隔とほぼ同等に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の攪拌粉砕装置。
【請求項4】
外筒とこの外筒の内周部に挿入された内筒とを有する筒状の攪拌容器と、
上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、
上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、
上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、
上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置において、
上記内筒は軸方向に分割された複数の筒状ブロックで構成されていることを特徴とする攪拌粉砕装置。
【請求項5】
上記筒状ブロックの軸方向寸法は互いに同一であり、かつ隣合う上記攪拌ディスクの間隔の1/2以下であることを特徴とする請求項4に記載の攪拌粉砕装置。
【請求項6】
上記筒状ブロックは、軸長の異なる複数種類のブロックで構成されていることを特徴とする請求項4に記載の攪拌粉砕装置。
【請求項7】
筒状の攪拌容器と、
上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、
上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、
上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、
上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置のメンテナンス方法において、
上記攪拌容器の内周面の一部が磨耗した場合に、上記攪拌ディスクの上記回転軸に対する軸方向取付位置を変更し、上記攪拌容器の磨耗部分と上記攪拌ディスクとの軸方向相対位置を変更することを特徴とする攪拌粉砕装置のメンテナンス方法。
【請求項8】
外筒とこの外筒の内周部に挿入された内筒とを有する筒状の攪拌容器と、
上記攪拌容器の内部に挿入された回転軸と、
上記攪拌容器の内部に位置し、上記回転軸に間隔をあけて一体回転可能に取り付けられた複数の攪拌ディスクと、
上記攪拌容器内に収納された攪拌媒体とを備え、
上記攪拌容器の内部に供給されたスラリーを攪拌媒体と共に攪拌ディスクで攪拌することにより、スラリー中の固体粒子を攪拌媒体により攪拌粉砕し、攪拌粉砕後のスラリーを外部に排出する攪拌粉砕装置のメンテナンス方法において、
上記内筒を軸方向に分割された複数の筒状ブロックで構成し、
上記筒状ブロックのうち一部の筒状ブロックが磨耗した場合に、磨耗した筒状ブロックと磨耗していない筒状ブロックの配列順序を変更するか、または磨耗した筒状ブロックのみを交換することを特徴とする攪拌粉砕装置のメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−229560(P2007−229560A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51668(P2006−51668)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】