説明

改善された二硫化鉄カソードを有するリチウム電池

リチウム又はリチウム合金を含むアノードと、水酸化カルシウムCa(OH)2及び炭酸リチウムLi2CO3添加剤が混合された二硫化鉄(FeS2)を含むカソードと、を有する一次電池。電解質は、典型的には1,3−ジオキソラン及びスルホランを含む溶媒混合物に溶解されたリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CF3SO2)2N(LiTFSI)塩を含み得る。電解質はその中に、典型的に、電解質100万重量部当たり約100〜2000重量部(ppm)の水を含有する。Ca(OH)2及びLi2CO3が混合された二硫化鉄粉末、炭素、結合剤、及び液体溶媒を含むカソードスラリーが調製される。混合物は導電性基材上にコーティングされ、溶媒は蒸発されて乾燥カソードコーティングが基材上に残される。アノード及びカソードは、間に挟まれたセパレータと共にらせん状に巻き付けられ、電池ケーシング内に挿入され得、次いで電解質が添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属又はリチウム合金を含むアノードと、水酸化カルシウム及び炭酸リチウム添加剤と共に二硫化鉄を含むカソードと、リチウム塩及び溶媒を含む電解質とを有するリチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムのアノードを有する一次(非充電式)電気化学電池は既知であり、幅広く商業的に利用されている。アノードは、本質的にリチウム金属から構成されている。かかる電池は、典型的には、二酸化マンガンを含むカソードと、有機溶媒に溶解した、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)のようなリチウム塩を含む電解質と、を有する。電池は、当該技術分野では一次リチウム電池(一次Li/MnO電池)として参照されており、一般には充電式であることは意図していない。あるいは、リチウム金属のアノードを備えるが、異なるカソードを有する一次リチウム電池も知られている。かかる電池は、例えば、二硫化鉄(FeS)を含むカソードを有しており、Li/FeS電池と呼ばれている。二硫化鉄(FeS)はまた、黄鉄鉱としても既知である。Li/MnO電池又はLi/FeS電池は、典型的には円筒形電池の形態で、典型的には単3又は単4サイズの電池であるが、その他のサイズの円筒形電池であってもよい。Li/MnO電池は、従来のZn/MnOアルカリ電池の2倍である約3.0Vの電圧を有し、またアルカリ電池よりも高いエネルギー密度(電池体積1cmあたりのワット−時)も有する。Li/FeS電池は、約1.2〜1.8Vの電圧(新品)を有し、これは従来のZn/MnOアルカリ電池とほぼ同じである。それにもかかわらず、Li/FeS電池のエネルギー密度(電池体積1cmあたりのワット−時)は、同等のサイズのZn/MnOアルカリ電池よりも高い。リチウム金属の理論特定容量は、3861.4ミリアンペア時/gと高く、FeSの理論特定容量は、893.6ミリアンペア時/gである。FeSの理論容量は、FeS1分子あたり4個のLiからの4個の電子移動に基づいており、鉄元素Feと2個のLiSとの反応生成物をもたらす。すなわち、4個の電子のうち2個が、FeSのFe+2における+2の酸化状態を鉄元素(Fe)の0に変え、残りの2個の電子が、硫黄の酸化状態をFeSの−1からLiSの−2に変える。
【0003】
全般的に見れば、Li/FeS電池は、同じサイズのZn/MnOアルカリ電池よりも一層強力である。すなわち、所与の連続電流ドレインの場合、特に200ミリアンペアを超える高い電流ドレインでは、電圧対時間放電特性において明白であり得るように、Li/FeS電池の電圧は、Zn/MnOアルカリ電圧よりも長い時間安定している。これにより、Li/FeS電池から得られるエネルギー出力は、同じサイズのアルカリ電池で得られるエネルギー出力よりも高くなる。Li/FeS電池のより高いエネルギー出力は、より明確かつより直接的に一定電力(ワット)でのエネルギー(ワット−時)対連続放電のグラフプロットに示され、新品の電池は、0.01ワット程度の小電力〜5ワットの範囲の固定連続電力で終了まで放電される(放電中に電池の電圧が降下するにつれて、負荷抵抗は徐々に低下し、固定の一定電力を維持するように電流ドレインが上昇する)。Li/FeS電池に関するエネルギー(ワット−時)対電力(ワット)のグラフプロットは、同じサイズのアルカリ電池よりも上方にある。それにもかかわらず、両方の電池(新品)の起動電圧はほぼ同じ、すなわち約1.2〜1.8Vの間である。
【0004】
このように、Li/FeS電池は、同じサイズのアルカリ電池、例えば、単4、単3、単2又は単1サイズの電池、あるいは任意の他のサイズの電池に優る利点を有するが、その利点とは、Li/FeS電池が、従来のZn/MnOアルカリ電池と互換的に使用でき、また特により高い電力需要に対して、より長い耐用年数を有するということである。同様に、一次(非充電式)電池であるLi/FeS電池を、同じサイズの充電式ニッケル水素電池の代替として使用することもできるが、これはLiFeS電池とほぼ同じ電圧(新品)を有する。したがって、一次Li/FeS電池は、デジタルカメラに電力供給するのに使用することができるが、これは高パルスの電力需要での動作を必要とする。
【0005】
Li/FeS電池用のカソード材料は、最初にスラリー混合物(カソードスラリー)などの形態で調製されてもよく、それは従来のコーティング法によって金属基材の上に容易にコーティングすることができる。電池に添加される電解質は、必要な電気化学反応を、所望の高い出力範囲にわたって効率よく引き起こすことができる、Li/FeS系に好適な有機電解質でなければならない。電解質は、良好なイオン伝導度を示し、また十分に安定でなければならず、すなわち未放電の電極材料(アノード及びカソード成分)に対して非反応性であり、放電生成物に対しても非反応性でなければならない。これは、電解質と電極材料(放電済みのもの又は未放電のもののどちらか)との間の望ましくない酸化/還元副反応が、それによって電解質を徐々に汚染して、その有効性を軽減するか又は過剰にガスを発生させる可能性があるためである。この結果、壊滅的な電池の故障が生じる可能性がある。このように、Li/FeS電池で用いられる電解質は、必要な電気化学反応を促進することに加えて、更に、放電された又は放電されていない電極材料に対して安定でなければならない。加えて、電解質は、リチウムイオンが必要な還元反応に関与してカソードでLiSを生成できるように、イオン移動度を良好にしリチウムイオン(Li)をアノードからカソードへ移送させられるものでなければならない。
【0006】
電極複合体は、リチウムのシート、FeS活性物質を含むカソード複合体のシート、及びこれらの間に挟まれたセパレータから形成されている。電極複合体は、例えば、米国特許第4,707,421号のらせん状に巻き付けられたリチウム電池に示されるように、らせん状に巻き付けられて電池ケーシングに挿入されてもよい。Li/FeS電池用のカソードコーティング混合物は、米国特許第6,849,360号に記載されている。アノードシートの一部は、典型的には、電池の負端子を形成する電池ケーシングに電気的に接続される。電池は、ケーシングから絶縁されたエンドキャップで閉じられている。カソードシートは、電池の正端子を形成するエンドキャップと電気的に接続され得る。ケーシングは、典型的にはエンドキャップの周縁部上に圧着されて、ケーシングの開放端部を密封する。電池は、電池が短絡放電又は過熱などの悪条件にさらされた場合に電池を遮断するよう、PTC(正温度係数)デバイス等を内部に装備していてもよい。
【0007】
Li/FeS一次電池で用いられる電解質は、「有機溶媒」中に溶解した「リチウム塩」から形成される。Li/FeS一次電池用の電解質に用いることができる代表的なリチウム塩は、例えば、米国特許第5,290,414号にあるような関連分野に参照されており、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS);リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI);ヨウ化リチウム、LiI;臭化リチウム、LiBr;テトラフルオロ臭素酸リチウム、LiBF;六フッ化リン酸リチウム、LiPF;六フッ化ヒ酸リチウム、LiAsF;Li(CFSOC及び様々な混合物などの塩が挙げられる。Li/FeS電気化学の分野において、リチウム塩は、特定の電解質溶媒混合物と共に最良に機能する特定の塩として常に互換性があるものではなく、特定のリチウム塩を有する特定の溶媒混合物が著しく向上した性能をもたらすことがある。
【0008】
米国特許第5,290,414号(Marple)には、電解質が、1,3−ジオキソラン(DX)と非環状(環状ではない)エーテル系溶媒である第2の溶媒との混合物を含む溶媒に溶解されたリチウム塩を含む、FeS電池に有益な電解質の使用が報告されている。参照されているような非環状(環状ではない)エーテル系溶媒は、ジメトキシエタン(DME)、エチルグリム、ジグリム、及びトリグリムであり得るが、1,2−ジメトキシエタン(DME)が好ましい。実施例に示されるように、ジオキソラン及び1,2−ジメトキシエタン(DME)は、電解質中に相当量、すなわち1,3−ジオキソラン(DX)50体積%及びジメトキシエタン(DME)40体積%、又は1,3−ジオキソラン(DX)25体積%及びジメトキシエタン(DME)75体積%で存在する(7段目、47〜54行)。このような溶媒混合物中でイオン化可能な特定のリチウム塩は、実施例に示されているように、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSOである。別のリチウム塩、すなわちリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSONも、7段目、18〜19行に記載されている。この参考文献では、所望により3,5−ジメチルイソキサゾール(DMI)、3−メチル−2−オキサゾリドン、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレングリコールサルファイト(EGS)、ジオキサン、ジメチルサルフェート(DMS)、及びスルホラン(請求項19)から選択される第3の溶媒を選択的に追加してもよいことが教示されており、好ましいのは3,5−ジメチルイソキサゾールである。
【0009】
米国特許第6,218,054号(Webber)には、ジオキソラン系溶媒及びジメトキシエタン系溶媒を約1:3の重量比(ジオキソラン1重量部対ジメトキシエタン3重量部)で含む、電解質溶媒系が開示されている。
【0010】
米国特許第6,849,360 B2号(Marple)には、1,3−ジオキソラン(DX)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、及び少量の3,5ジメチルイソキサゾール(DMI)を含む有機溶媒混合物中に溶解されたヨウ化リチウム塩を含む、Li/FeS電池用の電解質が開示されている(6段目、44〜48行)。この参考文献は、アルミニウムと合金されたリチウムのアノードを開示している。
【0011】
米国特許出願公開第2007/0202409 A1号(Yamakawa)には、33段落目に、Li/FeS電池用の電解質溶媒に関して、「有機溶媒の例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、及びジプロピルカーボネートが挙げられ、これらのうちいずれか1つ、あるいはこれらのうち2つ以上を単独で又は混合溶媒の形態で使用することができる」と、記載されている。
【0012】
このような記述は、電解質溶媒の特定の組み合わせのみが、溶媒中に溶解される特定のリチウム塩によるLi/FeS電池用として作用可能になることを教示するものであるので、誤解を招く恐れがある。(例えば、上述の米国特許第5,290,414号及び同第6,849,360号を参照。)Yamakawaによる参考文献は、上に列挙した溶媒のどの組み合わせが所与のリチウム塩と共に使用されるものかを教示していない。
【0013】
米国特許出願公開第2006/0046152号(Webber)は、FeS及びFeSをその中に含むカソードを有し得るリチウム電池用の電解質系を開示している。開示された電解質は、1,2−ジメトキシプロパン及び1,2−ジメトキシエタンの混合物を含む溶媒系に溶解されたヨウ化リチウム塩を含む。
【0014】
任意の1つ以上のリチウム塩と併用してLi/FeS電池に好適な電解質を製造するための特定の有機溶媒又は異なる有機溶媒の混合物を選択することは困難である。だからといって、リチウム塩及び溶媒混合物の種々の組み合わせを有する電池は全く機能し得ないというわけではないが、実用的には十分よく機能しないことがある。リチウム塩と、塩の溶解及びイオン化に好適な既知の有機溶媒の任意の組み合わせだけで形成した電解質を用いるこのような電池に関する課題は、生じる問題がおそらく非常に本質的であり、したがって電池は商用利用には役に立たないと考えられることである。一般に、リチウム電池の開発史が示すように、例えば非充電式Li/MnO又はLi/FeS電池のようなリチウム一次電池であれ、充電式リチウム電池又はリチウムイオン電池であれ、リチウム塩と有機溶媒とをただ組み合わせるだけでは、良好な電池、すなわち良好で信頼性のある性能を示すものは得られないと予想できる。このように、Li/FeS電池で使用可能な多くの有機溶媒を単に提供するだけの参考文献は、特定の効果若しくは予期せぬ効果を示す溶媒の組み合わせ又は特定の溶媒混合物中の特定のリチウム塩の組み合わせを必ずしも教示しない。
【0015】
Li/FeS電池用の有効な電解質は、電解質中でリチウム塩のイオン化を促進し、十分に安定である、すなわち経時的に分解せず、アノード成分又はカソード成分を劣化させない。有効な電解質は、リチウムイオンが良好な輸送速度でセパレータを通り抜けてアノードからカソードに移動できるように、電解質内でのリチウムイオンの良好なイオン移動度をもたらす有機溶媒混合物中に溶解したリチウム塩を含む。
【0016】
二硫化鉄は、粉末の形態で購入される。それは、運搬及び保存の間に、周囲空気と水分にさらされる。これにより、主に酸及び、塩を含有するFeを含む汚染物質がFeS粒子の表面上及び孔内で形成される。汚染物質には、酸及び、塩を含有するFe、例えばFeS、HS、HSO、HSO、FeSO、FeSOnHO(水和物)が挙げられる。これらの汚染物質がカソード内に存在する場合、汚染物質は電解質又は電池組成物と直接反応し、電池の適切な性能を著しく妨げる。カソード混合物での使用前にFeS粒子に窒素雰囲気下で熱処理を施す場合、汚染物質量が低減され得ることが判明した。しかし、熱処理を施した粒子がその後周囲空気と水分にさらされて保存されるとき、汚染物質は、FeS表面上に徐々に再形成及び再現し得る。電池アセンブリ作業において、FeS粒子に熱処理を施し、熱処理を施したFeS粒子をスラリー形成前に周囲空気及び水分にさらすことなしに直ちにカソードスラリーの形成に使用することは、実用的ではない。
【0017】
従来のFeS粉末、例えばケムトール社(Chemetall GmbH)製のパイロックス・レッド(Pyrox Red)325粉末は、粉末の酸性度の増強を弱める又は遅延させるために、その中にpH上昇添加剤を含むものが通常入手可能である。このような添加剤は、炭酸カルシウム(CaCO)を含むと考えられる。かかる炭酸カルシウムは、FeS粉末に加えられて、それが周囲空気中で保存されて酸素及び水分にさらされているときに、粉末の内部又は粉末表面上に酸性不純物を形成させないようにする。これは、FeSがカソード混合物中での使用を意図されているのか、又はその他の用途、例えば車のブレーキ製造における添加剤として意図されているのかに関わらない。
【0018】
しかしながら、炭酸カルシウム(CaCO)又は炭酸カルシウムを含む混合物のようなpH上昇添加剤のFeS粉末への添加は、FeS粉末が周囲空気下で保存されるとき、FeS粒子の凝集作用を起こしやすい。かかるFeS粉末の凝集作用は、Li/FeS電池に期待する性能水準への到達を著しく妨げる。また、炭酸カルシウム若しくは炭酸カルシウムを含む混合物添加剤は、かかる混合物がFeSカソード混合物に運び入れられるという欠点を有する。炭酸カルシウムは、カソード内で単に絶縁体として作用する、即ち、それは電気化学的に活性でなく、カソードにより多くの伝導性を与えない。換言すれば、炭酸カルシウムはカソード内で、そうでなければFeS活性物質用に利用可能な、特定の容積を占める。pHを上昇させるためにFeSに炭酸カルシウムが混合された場合、典型的にそれは混合物の最大約2.5重量%(上限)を占めることがある。しかしながら、炭酸カルシウムはFeSよりも低密度である。FeS対CaCOのかさ密度の比は約1.66である。即ち、2.5グラムの炭酸カルシウムは、4.15グラムのFeSと同じ体積を含有する。したがって、カソードに存在する炭酸カルシウム2.5グラムごとに、カソードに含むことができる4.15グラム少ないFeS活性物質がある。
【0019】
米国特許第4,913,988号(Langan)では、非水性電池のカソードに混合されるLiCO及びCa(OH)添加剤の組み合わせの使用が記載されている。LiCOは、カソードの約0.5〜約2重量%、好ましくは約1重量%を構成していてもよく、Ca(OH)は、カソードの約0.5〜6重量%、好ましくは1.3重量%を構成していてもよい。非水性電池は、活性金属アノード、例えば、リチウム金属を有することができる(請求項4)。二酸化マンガンは、非水性電池に好ましいカソード活性物質として指摘されている(3段目、14〜15行)。参考文献は、リチウムアノードと主として二酸化マンガン(Li/MnO電池)を含むカソードとを有し、二酸化マンガンカソードにLiCO及びCa(OH)を添加した、非水性電池に焦点を当てている。しかしながら、参考文献は、このような非水性電池が別のカソード物質、例えば、硫化鉄(理論放電容量893mAh/グラム)又は酸化銅(理論放電容量674mAh/グラム)と共に使用され得ることにも言及している。いずれにしても、参考文献は電池が非水性電池であることを明示している。非水性電池は、適切な有機化合物(非水性溶媒)に溶解された塩から構成される電解質を使用する(1段目、26〜30行)。参考文献は、二酸化マンガンをカソード活性物質として使用するよう意図するとき、二酸化マンガン中に存在する水を、最初に空気中又は不活性雰囲気中において約350℃の温度で約8時間加熱することにより除去できることを教示している(4段目、4〜10行)。参考文献は、LiCO及びCa(OH)は「湿式法」により、すなわちいくらかの水の存在において二酸化マンガンと共に混合され得ることを指摘している。その場合、次に混合物は、所望のカソード構成に形成される前に、十分に乾燥するまで約120℃〜150℃の温度で加熱することで乾燥される。LiCO及びCa(OH)カソード添加剤を含む最終の電池が「非水性」電池であることは、明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第4,707,421号
【特許文献2】米国特許第6,849,360号
【特許文献3】米国特許第5,290,414号
【特許文献4】米国特許第6,218,054号
【特許文献5】米国特許第6,849,360 B2号
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0202409 A1号
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0046152号
【特許文献8】米国特許第4,913,988号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
結果的に、本発明では、FeS粉末における酸性汚染物質の蓄積率を低減し、したがって事実上、電気化学的カソード容量を犠牲にすることなくFeSの保存寿命を延長させることが望ましい。単に絶縁体として機能し、カソード内での容積を占める、そうでなければ付加的FeS活性物質に使用され得る炭酸カルシウムのようなpH上昇添加剤の量を低減することが望ましい。ただし、同時に、電池がもはや非水性電池とみなされないように、電池の電解質に水を添加することが望ましい。
【0022】
特にFeS粉末によって電池内に運び込まれる酸性汚染物質の量を低減するために、Li/FeS電池用のカソードを形成する方法を改善することも望ましい。
【0023】
デジタルカメラの電力のための充電式電池に代わって使用できる良好な速度能力を有する一次(非充電式)Li/FeS電池を製造することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、アノードがリチウム金属を含む、一次リチウム電池を目的とする。リチウム金属は、少量のその他の金属、例えばアルミニウム、又はリチウム合金の約1又は2重量%未満、及び最大約5重量%を典型的には含むカルシウムと合金され得る。したがって、本明細書で使用される「リチウム」又は「リチウム金属」という用語は、このようなリチウム合金を含むことが理解されよう。アノード活性物質を形成するリチウムは、好ましくは薄い箔の形態である。電池は、カソード活性物質の二硫化鉄(FeS)(一般に「黄鉄鉱」として知られる)を含むカソードを有する。望ましくは、電池は、らせん状に巻き付けられた電極アセンブリを内包する円筒形であってもよい。電極アセンブリは、アノードと、カソード複合体シートとが、それらの間のセパレータと共にらせん状に巻き付けられて形成される。カソード複合体シートは、基材上に、好ましくは導電性金属基材上に、二硫化鉄(FeS)粒子を含むカソードスラリー混合物をコーティングする工程により形成される。導電性金属基材上のカソードスラリーコーティングは、次に、その中の溶媒類を蒸発させるために予備乾燥され、コーティングを圧縮するためにカレンダー成形された乾燥カソード複合体シート(基材上の乾燥したカソードコーティング)を形成する。本発明の態様によると、カレンダー成形したカソード複合体は、次に、焼成される。アノードシート、焼成したカソード複合体シートと、それらの間のセパレータを含むらせん状電極は、形成され、電池ケーシングに挿入され、その後電解質が加えられる。
【0025】
本発明の主な態様は、カソード複合体、換言すれば、導電性基材上にコーティングされた二硫化鉄(FeS)、炭素、及び結合剤材料を含むカソードコーティングを形成するための改善された方法を目的とする。本発明の方法は、電池ケーシング挿入用の巻き付けられた電極アセンブリの形成前に、二硫化鉄(FeS)粒子及び導電性基材上のカソードコーティングに存在し得る汚染物質の量を除去するではないにしても著しく低減するという利点がある。
【0026】
カソードの形成前に、FeS粉末の保存寿命は、FeS粉末を炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))緩衝剤と混合することにより延長され得ることが判明している。炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))の混合物は、FeSのpHを上昇させ、FeSのpHを高い値(すなわち、5超)に維持する緩衝剤として働く。特に明記しない限り、本明細書及び請求項で使用されるpHという用語は、ASTM D−1512方式によって測定されたpHである。
【0027】
FeS粉末を合成した後、又は供給元からバッファリングされていないものを購入(すなわち、供給元から緩衝添加剤を含まない状態で入手)した後、できるだけ速やかに炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))緩衝剤をFeS粉末に予備混合することが望ましい。あるいは、供給元のプレミックスである、Ca(OH)及びLiCO緩衝添加剤を有するFeS粉末を入手することも便利であろう。したがって、FeS粉末は、カソードに必要とされる所望の量のCa(OH)及びLiCO緩衝剤(典型的にはFeSの重量に基づいて約0.5〜1.5重量%)がFeS粉末に既に予備混合された状態で供給元から入手され得る。このような混合物は、保存時のFeS粒子表面上の酸性汚染物質の蓄積からFeSを保護する。カソードの最終混合物中に存在することもあるグラファイト(及び同様にアセチレンブラック)は、所望によりFeS粉末にCa(OH)及びLiCO緩衝添加剤と共に予備混合されてもよく、又は後から添加されてもよい。
【0028】
このような方法でFeS粉末を所要量の炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))と予備混合することは、FeS粉末保存時のFeS粒子表面上の酸性汚染物質の蓄積を防止又は遅延する働きをすることが判明している。FeSとの混合物中の炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))の総量は、望ましくはFeSの重量に基づいて約0.1〜4重量%であり、好ましくはFeSの重量に基づいて約0.5〜1.5重量%である。炭酸リチウム(LiCO)の水酸化カルシウム(Ca(OH))に対する重量比は、望ましくは約20:1〜1:20である。炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))は、FeS表面の大部分を覆うと考えられ、その結果、雰囲気にさらされるFeSの表面積の量を減少させる。これは、周囲大気にさらされることによる汚染からの一定の付加的保護を、FeS粒子に提供する。炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))の混合物は、FeS粒子の表面を保護するのに好ましい混合物であるが、炭酸リチウム(LiCO)又は水酸化カルシウム(Ca(OH))はいずれも、単独で、又は炭酸カルシウム(CaCO)をLiCO若しくはCa(OH)のいずれかに添加して、又はCaCOをLiCO及びCa(OH)の混合物に添加して、使用され得る。FeSの平均粒径は、望ましくは約6〜30マイクロメートル、好ましくは約10〜25マイクロメートルである。
【0029】
FeS粉末と炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))との予備混合物は、カソード混合物の形成に使用する準備ができるまで、窒素又はその他の不活性ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、又はクリプトン)で満たした密封したアルミ箔の袋又は容器で、又は不完全真空条件下の空気中で混合物を保存することにより更に保護され得る。炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))と混合された状態のFeSは、望ましい場合にはカソードの形成直前に、任意の残留酸性汚染物質を更に除去するために、熱処理を施されてもよい。ただし、炭酸リチウム及び水酸化カルシウム添加剤が混合されたFeSの混合物は、密封した袋又は容器内で、混合物が袋又は容器内に含まれる周囲空気にさらされた周囲条件で保存しても十分であることが一般に知られている。
【0030】
本発明の主な態様は、Li/FeS電池用のカソード形成に使用する前に、FeS粉末を保存するときの粉末内の酸性汚染物質の蓄積率の低減を目的とする。本発明の方法により調製されるとき、炭酸リチウム及び水酸化カルシウム添加剤が混合されたFeS粒子を含むカソードは、カソードが電池ケーシングに挿入される時点で低減した酸性汚染物質含量を示す。その後、電解質は、電池へのカソード挿入後、できるだけ速やかに電池に加えられる。電解質は、FeS粒子の空気及び水分への暴露を防ぎ、ひいてはFeS表面上での汚染物質の形成を防ぐ。
【0031】
本発明の方法では、水酸化カルシウム及び炭酸リチウム添加剤の添加前にFeS粒子に予熱を施すことにより粒子を前処理する必要がない。しかしながら、かかるFeSの前処理を、所望により含んでもよい。本発明の方法によって、カソードは次のように形成され得る:
a)好ましくは任意のpH上昇添加剤を含んでいないFeS粉末を入手し、水酸化カルシウム及び炭酸リチウム緩衝剤の混合物をFeS粉末に添加する。FeSを緩衝剤と混合する方法には、円筒形容器内での長時間のロールミル混合が挙げられ得るが、これに限定されない。あるいは、FeS粉末は、供給元から緩衝剤がその中に既に予備混合された状態で入手してもよい。FeS粉末は、別のpH上昇添加剤を、すなわち、混合された水酸化カルシウム及び炭酸リチウムの混合物以外に、有する必要はない。水酸化カルシウム及び炭酸リチウム緩衝剤は、混合物の5重量%以下(典型的にはFeSの重量に基づいて約0.5〜1.5重量%)を構成する。このFeS粉末及び緩衝剤の混合物を、カソードスラリーの調製が必要になるまで、密封袋又は密封容器で、周囲温度において、周囲空気を容器内に取り込んだ状態で保存する。混合物は、乾燥した、又は実質的に乾燥した混合物として少なくとも約30日間保存される。所望により、混合物を保存する前に、水酸化カルシウム及び炭酸リチウムを添加したFeS粉末にグラファイト及びアセチレンブラックを混合してもよい。好ましくは、このFeS粉末と水酸化カルシウム及び炭酸リチウムとの混合物を、密封したアルミ箔の袋又は密封した容器で、不完全真空状態下の空気雰囲気、又は窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、若しくはクリプトン、又はそれらの混合物の不活性雰囲気において、カソードスラリーの調製に使用する準備ができるまで保存する。
b)好ましくはグラファイト(Timcal製のTimrex KS6)と、結合剤溶媒に溶解したエラストマー結合剤のKraton G1651とを、FeS粉末及び緩衝剤の混合物に添加することにより、FeS粒子、緩衝剤(水酸化カルシウム及び炭酸リチウム)、炭素粒子、結合剤、及び結合剤溶媒を含むカソードスラリーを形成し、カソードスラリーを導電性基材の側面に塗布する。
c)カソードスラリーを、例えば、対流空気式オーブンなどで乾燥し、基材上に乾燥又は実質的に乾燥したカソードコーティングを形成する。
d)所望によりカソードスラリーを導電性基材の反対側にも塗布し、その場合には次いで乾燥工程(c)を繰り返す。
e)乾燥したカソードコーティングをカレンダー加工し、その厚みを基材上で圧縮する。
f)所望により導電性基材上の乾燥カソードコーティングを不完全真空気圧(又はヘリウム、アルゴン、ネオン、若しくはクリプトン、又はそれらの混合物の不活性雰囲気)で焼成し、乾燥カソードコーティング中の任意の酸性汚染物質の更なる含量低下を保証する(本明細書で使用される「不完全真空圧」という用語は、大気圧より低いことを意味すると理解すべきである。本明細書で使用される「実質的に乾燥したコーティング」という用語は、指触で乾燥した又は湿った固体塊であるコーティングを意味すると理解されよう。)
【0032】
導電性基材上のカソードコーティングは、工程(f)において約250℃〜375℃、好ましくは約290℃〜350℃の高温で約2〜24時間焼成されてもよい。(本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第11/901,214号(2007年9月14日出願)を参照のこと。)かかる焼成は、最大約3〜4日間まで延長されてもよい。焼成したカソードを冷却した後、焼成したカソードと、アノードシートと、それらの間のセパレータとを含む、巻き付けられた電極アセンブリを形成し、電池ケーシングに挿入してもよい。次に、できるだけ速やかに、好ましくは約24時間以内に、電解質が電池に添加される。焼成カソード、又は巻き付けられた電極アセンブリは、電池ケーシングへの挿入前に、密封した窒素若しくはその他の不活性ガスを含有するホイルの袋、又は不完全真空状態下で空気中若しくはその他の雰囲気下で一定期間保存され得る。あるいは、電池ケーシングへの挿入前及び挿入後の巻き付けられた電極アセンブリは、低相対湿度の乾燥した室内雰囲気下で最長約24時間までの期間保存され得る。電解質は次に、カソードを電解質で覆っている電池に添加される。
【0033】
望ましい電解質は、ピリジン約500〜1000ppmを添加した1,3−ジオキソラン(60〜90体積%)及びスルホラン(10〜40体積%)を含む溶媒混合物に溶解されたリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)塩(0.5〜1.2モル/リットル)を含む。上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用のこのような組成物の好ましい電解質は、ジオキソランの重合を抑制するためにピリジン約800ppmを添加した、1,3−ジオキソラン(80体積%)及びスルホラン(20体積%)を含む溶媒混合物に溶解されたリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)塩(0.8モル/リットル)を含む。
【0034】
上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用の別の望ましい電解質は、3,5−ジメチルイソキサゾール(0.1〜5重量%、典型的には0.1〜1重量%)を添加した1,3−ジオキソラン(50〜90重量%)及び1,2−ジメトキシエタン(10〜50重量%)の溶媒混合物に溶解されたリチウム塩のヨウ化リチウム(LiI)(0.5〜1.2モル/リットル)及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)(全電解質に基づいて0.05〜1.0重量%)の混合物を含む。上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用のこのような組成物の好ましい電解質は、ジオキソランの重合を抑制するために3,5−ジメチルイソキサゾール約0.2重量%を添加した、1,3−ジオキソラン70重量%及び1,2−ジメトキシエタン30重量%の溶媒混合物に溶解されたリチウム塩のヨウ化リチウム(LiI)(1.0モル/リットル)及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)(全電解質に基づいて0.1重量%)の混合物を含む。
【0035】
Li/FeS電池用の電解質中の水分含量は、典型的には、全電解質100万部当たり約100部未満であってよい。ただし、追加の水分含量を有する電解質と共にFeSカソードに混合された炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))を用いた本明細書に記載の好適な試験結果に基づいて、電解質中の水分含量は、典型的には100ppmを越えていてもよく、例えば、約200〜600ppm以上であってもよいことが判明している。例えば、水(脱イオン水)が電解質溶媒に添加され得ることから、Li/FeS電池の電解質中の水分含量は、最大約1000ppm、更には最大約2000ppmであってもよい。(本発明の譲受人に譲渡された特許出願第12/009858号(2008年1月23日出願)を参照のこと。)したがって、炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))がカソード内のFeSに添加されているとき、電解質中の水分含量は、約100〜1000ppm、例えば、約500〜1000ppm、又は約600〜1000ppm、最大約2000ppm、例えば、約600〜2000ppmであってもよい。電解質中の水分含量の好ましい値は、約100〜600ppm、例えば、約200〜600ppmである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】円筒形電池実施形態で表されるような、本発明の改良されたLi/FeS電池の等角図。
【図2】電池の上部及び内部を示すために図1の透視線2−2で切断された電池の部分横断立面図。
【図3】らせん状の巻線電極アセンブリを示すために図1の透視線2−2によって切断された電池の部分断面立面図。
【図4】電極アセンブリを構成する層の配置を示す概略図。
【図5】下にある層が見えるように、その層それぞれを部分的に剥離した、図4の電極アセンブリの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
円筒形電池10は、図2〜5に示されるように、アノードシート40と、カソード複合体62と、それらの間のセパレータシート50とを含む、らせん状に巻き付けられた電極アセンブリ70(図3)を有していてもよい。Li/FeS電池10の内部構造は、カソード組成物が異なること以外は、米国特許第6,443,999号に示され説明されている、らせん状に巻き付けられた構造と同様とすることができる。図に示されるようなアノードシート40はリチウム金属を含み、カソードシート60は「黄鉄鉱」として周知の二硫化鉄(FeS)を含む。この電池は、好ましくは図に示されるように円筒形であり、任意のサイズ、例えば単6(42×8mm)、単4(44×9mm)、単3(49×12mm)、単2(49×25mm)及び単1(58×32mm)のサイズであってよい。したがって、図1に図示される電池10はまた、2/3A電池(35×15mm)又はその他の円筒形サイズであり得る。ただし、それは、電池構造を円筒形に制限することを意図しているわけではない。あるいは、本発明の電池は、リチウム金属を含むアノード及び本明細書に記載されているようにして製造された二硫化鉄(FeS)を含むカソードから形成される、らせん状に巻き付けられた電極アセンブリを、角柱状のケーシング内に挿入させることも可能で、例えば、全体的に立方体形状の矩形の電池であってもよい。Li/FeS電池は、らせん状に巻き付けられた構造に限定されないが、アノードとカソードを、例えば、上述のようにコイン電池内で使用するために積み重ねて配置してもよい。
【0038】
らせん状の巻線形電池の場合、電池ケーシング(ハウジング)20の好ましい形は、図1に示されるような円筒形である。ケーシング20は、好ましくはニッケルめっき鋼から形成される。電池ケーシング20(図1)は、連続した円筒形の表面を有する。アノード40と、カソード複合体62と、それらの間のセパレータ50とを含む、らせん状に巻き付けられた電極アセンブリ70(図3)は、平板状の電極複合体13(図4及び5)をらせん状に巻き付けることにより調製され得る。カソード複合体62は、金属基材65上にコーティングされた二硫化鉄(FeS)を含むカソード層60を含む(図4)。
【0039】
電極複合体13(図4及び5)は、次の方法で製造することができる。本発明の方法に従って、内部に分散した二硫化鉄(FeS)粉末を含むカソード60は、カソード複合体シート62を形成するように、導電性基材シート65(好ましくは、貫通開口を有する又は有さない固体シートであり得るアルミニウム又はステンレススチールのシート)の少なくとも片面にコーティングされた湿潤スラリーの形態に初めに調製され得る(図4)。従来のロールコーティング技術を使用して、導電性基材65の片面に湿潤スラリーを被覆してよい(図4及び5)。アルミニウムシート65を用いる場合、それは、貫通する開口部を有しないアルミニウムのソリッドシートであっても、あるいは貫通する開口部を有するエキスパンド加工された若しくは穿孔されたアルミニウム箔のシートであるためにグリッド若しくはスクリーンが形成されてもよい。基材シート65の開口は、空孔をパンチング加工又は穴抜き加工することにより生じさせてもよい。
【0040】
二硫化鉄(FeS)、結合剤、導電性炭素及び溶媒を含む、上記の表Iに示す組成物を有する湿潤カソードスラリー混合物は、均質な混合物が得られるまで表Iに示す構成成分を混合することによって調製される。
【0041】
好ましいカソードスラリー混合物を表Iに示す。
【表1】

【0042】
上記の量(表I)の構成成分は、当然、少量又は大量のバッチのカソードスラリーが調製できるように、比例的に増減することができる。したがって湿式カソードスラリーは、好ましくは次の組成物を有する。すなわちFeS粉末(58.9重量%)、結合剤のKraton G1651(2重量%)、グラファイトのTimrex KS6(4.8重量%)、アセチレンブラックのSuper P(0.7重量%)、炭化水素溶媒類のShellSol A100(13.4重量%)及びShellSol OMS(20.2重量%)である。
【0043】
FeS粉末は、供給元からCaCO緩衝添加剤が既にFeS粉末に混合された状態で入手され得る。CaCOは、典型的にはFeS粉末の最大1.5重量%を含み得る。FeSのpHを上昇し、その保存寿命を延長するために、CaCO(又はCaCOを含む混合物)は、供給元によって添加される。すなわち、CaCOの添加によってもたらされるFeSの高pH値は、FeSが周囲空気にさらされる又は保存される際に、FeS粒子内又はFeS粒子の表面上での酸性汚染物質の蓄積速度を遅らせることを目的とする。このようなFeS粉末は、例えば、Pyrox Red 325粉末として供給元のChemetall GmbHから入手可能である。FeSのPyrox Red 325粉末は、粒子がTylerメッシュサイズ325のふるい(ふるいの開口は0.045mm)を通過すると考えられるほど十分に小さい粒径を有する。(325メッシュのふるいを通過しないFeS粒子の残留量は最大10%である。)ただし、より有効な方法は、供給元、例えば、Chemetall GmbHからバッファリングされていないFeSを入手し、Ca(OH)及びLiCOを含む緩衝剤をFeSに添加することであることが本明細書において判明している。FeSは、約6〜30マイクロメートル、好ましくは約10〜25マイクロメートルの平均粒径を好ましくは有する。Ca(OH)及びLiCOの総量は、FeSの重量に基づいて約0.1〜4重量%、好ましくは約0.5〜1.5重量%を構成してもよい。Ca(OH)のLiCOに対する重量比は、望ましくは約20:1〜1:20である。Ca(OH)及びLiCOを添加したFeSは、周囲条件、すなわち周囲空気にさらされた状態で、長期間、例えば、少なくとも数ヶ月、例えば、最大約6ヶ月、及びそれより長期間にわたって保存され得る。Ca(OH)及びLiCO緩衝添加剤は、FeS粒子の表面にHS、HSO、及びその他の酸性成分が形成するのを防止又は遅延し、これにより保存時にFeSを保護する。驚いたことに、本明細書の実験データは、カソード内のFeSに炭酸リチウム(LiCO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))添加剤が存在すると、電池が添加された水を含んでいても電池の放電性能に有益な効果があることを示している。添加される水は、上記のような量で電解質に添加される水の形態であってもよく、例えば、100〜1000ppm、例えば、約500〜1000ppm、又は約600〜1000ppm、最大約2000ppm、例えば、約600〜2000ppmであってもよい。
【0044】
湿潤カソードスラリーの調製が必要なときに、FeS粉末とCa(OH)及びLiCO緩衝添加剤とのプレミックスを保存場所から取り出し、結合剤及び溶媒溶液と混合できるようにする。その混合物は、グラファイト、結合剤、及び溶媒と、均質の混合物が得られるまで混合され、それにより湿潤カソードスラリーが形成される。
【0045】
カソードスラリーは、2〜4重量%の結合剤(Kraton Polymers,Houston Texasから入手のKraton G1651エラストマー結合剤)、50〜70重量%の活性FeS粉末、4〜7重量%の導電性炭素(カーボンブラック及びグラファイト)、及び25〜40重量%の溶媒(類)を含むことが望ましい。(カーボンブラックは、全体又は一部にアセチレンブラック炭素粒子を含んでいてもよい。したがって、カーボンブラックという用語は、本明細書で使用するとき、カーボンブラック及びアセチレンブラック炭素粒子にまで広がり、及びそれらを包含すると理解すべきである。)Kraton G1651結合剤は、エラストマーブロックコポリマー(スチレン−エチレン/ブチレン(SEBS)ブロックコポリマー)であり、皮膜形成剤である。この結合剤は、活性FeS及びカーボンブラック粒子に対して十分な親和性を有することから、湿潤カソードスラリーの調製を促進し、また溶媒を蒸発させた後でこれら粒子を互いに接触させたままにする。FeS粉末は、約1〜100マイクロメートル、望ましくは約6〜30マイクロメートル、例えば、約10〜25マイクロメートルの平均粒径を有し得る。グラファイトは、Timcal Ltd.製の商品名Timrex KS6グラファイトとして入手可能である。Timrexグラファイトは、高度に結晶化した合成グラファイトである。(他のグラファイトも、天然、合成、又はエキスパンドグラファイト及びこれらの混合物から選択して用いてもよいが、Timrexグラファイトは高純度であるため好適である。)カーボンブラックは、取引表記スーパーP(Super P)導電性カーボンブラック(BET表面積62m/g)としてティムカル社(Timcal Co.)から入手可能である。
【0046】
溶媒には、好ましくは、ShellSol A100炭化水素溶媒(Shell Chemical Co.)として入手可能なC〜C11(主にC)芳香族炭化水素の混合物、及びShellSol OMS炭化水素溶媒(Shell Chemical Co.)として入手可能な主にイソパラフィン(平均M.W.166、芳香族化合物含有量0.25重量%未満)の混合物が挙げられる。Shell Sol A100溶媒とShell Sol OMS溶媒との重量比は、重量比4:6であることが望ましい。ShellSol A100溶媒は、大部分が芳香族炭化水素(90重量%を超える芳香族炭化水素)、主にC〜C11芳香族炭化水素を含む炭化水素混合物である。ShellSol OMS溶媒は、イソパラフィン炭化水素(イソパラフィン98重量%、分子量約166)と0.25重量%未満の含有量の芳香族炭化水素との混合物である。スラリー配合物は、二重遊星ミキサーを用いて分散されてよい。乾燥粉末を最初にブレンドして、均一性を確実にしてから、混合ボウル内の結合剤溶液に添加する。
【0047】
湿潤カソードスラリーを形成した後(表1)、湿潤スラリーを次に、導電性基材65の片面にコーティングする。湿潤カソードスラリーがコーティングされた導電性基材65は、次にスラリー中の溶媒を蒸発させるために従来型の対流式オーブン(又は不活性ガス中)で乾燥され、これにより乾燥カソードコーティング60を導電性基材65の片面に形成する(図4及び5)。好ましくは、この工程は、導電性基材65の反対側の面も湿潤カソードスラリーでコーティングするために繰り返される(表1)。導電性基材65の反対側の面上の湿潤カソードスラリーを次に、対流式オーブンで乾燥することで溶媒を蒸発させ、それにより、乾燥カソードコーティング60を導電性基材65の反対側の面上にも形成することができる。(試験電池はこの方法で作製される。)金属基材65上にコーティングされた湿潤カソードスラリーの乾燥は、オーブンの温度を(コーティングのひび割れを避けるため)40℃の初期温度から130℃を超えない最終温度まで、約7〜8分間かけて、又は溶媒が実質的にすべて蒸発するまで、段階的に調整、又は徐々に上昇させることにより達成されるのが好ましい。(少なくとも溶媒の約95重量%が蒸発され、好ましくは少なくとも溶媒の約99.9重量%が蒸発される。)次に、乾燥カソードコーティング60(導電性基材65の片面のみ又は両面ともに塗布したか否かにかかわらず)をカレンダー加工して前記乾燥カソード60の厚みを圧縮し、これによりカソード複合体62の完成品を形成する(図4及び5)。
【0048】
アノード40は、リチウム金属又はリチウム合金の固体シートから調製されてもよい。アノード40は、望ましくはリチウム金属(純度99.8%)の連続シートから形成される。アノード40中のリチウム金属は、少量のその他の金属、例えばアルミニウム、又はリチウム合金を典型的には約1又は2重量%未満及び最大約5重量%含むカルシウムで合金化されていてもよい。アノード活性物質を形成するリチウムは、好ましくは薄い箔の形態である。電池の放電時に、合金中のリチウムは、そのため、純粋なリチウムとして電気化学的に作用する。したがって、本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合の「リチウム又はリチウム金属」という用語は、そのようなリチウム合金をその意味に含むものとする。アノード40を形成するリチウムシートは、基材を必要としない。リチウムアノード40は、有利には、螺旋状に巻回した電池の場合、厚さが望ましくは約0.09〜0.20mm、望ましくは約0.09〜0.19mmのリチウム金属の押出成形シートから形成することができる。
【0049】
単3サイズのLi/FeS電池10の場合、典型的には、約4.5〜5.0グラムのカソード活性物質(例えば、FeS)がカソード内に含まれていてよい。アノード活性物質、すなわちリチウム又はリチウム合金の量は、その理論容量に基づいて電池の平衡を保つことによって決定される。一般に、アノードの理論容量には、内部にあるすべてのアノード活性物質の理想容量(ミリアンペア時)の算定が伴い、カソードの理論容量には、内部にあるすべての全カソード活性物質の理想容量(ミリアンペア時)の算定が伴う。本出願で使用するアノードの理論容量及びカソードの理論容量といった用語の使用は、このように定義されると理解されよう。「アノード活性」物質及び「カソード活性」物質は、それぞれアノード及びカソード内の有効な電気化学放電が可能な物質として定義される。(間にセパレータを有するアノード及びカソードの部分のみが考慮される。)すなわち、「アノード活性物質」及び「カソード活性物質」により、電池の負極端子及び正極端子間の電流フローは、これら端子間の外部回路を接続して電池を正常に使用した場合に、促進される。アノード活性物質がリチウム金属(又はリチウム合金)であり及びカソード活性物質がFeSである巻線型円筒形電池10において、アノードの理論比容量は、3861.4ミリアンペア−時/gではリチウムに基づく可能性があり、カソードの理論比容量は、893.5ミリアンペア−時/gではFeSに基づく可能性がある。本発明の電解質配合物を利用する巻線型円筒形電池10は、アノード又はカソードのどちらかの理論容量(ミリアンペア−時)が過剰であるか又は両方が同じであるように平衡させてもよい。巻線型電池は一般に、カソードの理論容量(ミリアンペア−時)とアノードの理論容量(ミリアンペア−時)との比が約1.05〜1.15となるように平衡させることができる。あるいは、電池は、アノードの理論容量(ミリアンペア−時)とカソードの理論容量とが約1.05〜1.15となるように平衡させもよい。
【0050】
電解質透過性セパレータ材料50(好ましくは厚さが約0.025mm以下、望ましくは約0.008〜0.025mmのミクロ孔質ポリプロピレン又はポリエチレン)の個々のシートが、リチウムアノードシート40の両側に挿入される(図4及び5)。好ましい実施形態では、セパレータシートは、厚さ約0.025mm(1ミル)のミクロ孔質ポリエチレン又はポリプロピレンであり得る。好ましい実施形態では、セパレータシートは、厚さ約0.016mmのミクロ孔質ポリエチレン又はポリプロピレンであり得る。ミクロ孔質のポリプロピレンの孔径は、望ましくは約0.001〜5マイクロメートルである。第1(上部)セパレータシート50(図4)は外部セパレータシートと呼ばれることがあり、第2シート50(図4)は内部セパレータシートと呼ばれることがある。導電性基材65上にカソードコーティング60を備えたカソード複合体シート62を、次に、内側のセパレータシート50に対して配置することで、図4に示される平板状の電極複合体13が形成される。平板状の複合体13(図4)をらせん状に巻き付けて、電極らせん状アセンブリ70(図3)を形成する。巻き付けは、マンドレルを使用して電極複合体13の延長したセパレータ端部50b(図4)を把持し、次いで複合体13を時計回りにらせん状に巻き付けて、巻き付けられた電極アセンブリ70(図3)を形成するよう達成され得る。
【0051】
巻き付けが完了すると、セパレータ部分50bは、図2及び3に示されるように、巻線電極アセンブリ70のコア98内に現れる。非限定的な例として、セパレータの各旋回部の底縁部50aは、図3に示され、米国特許第6,443,999号に教示されているように、連続的な膜55に熱形成されてもよい。図3から分かるように、電極らせん状物70は、アノードシート40とカソード複合体62との間にセパレータ材料50を有する。らせん状に巻き付けられた電極アセンブリ70は、ケーシング本体の形状に一致する構造を有する(図3)。らせん状の巻線電極アセンブリ70を、ケーシング20の開放端部30に挿入する。巻き付けられると、電極らせん状物70の外側の層は、図2及び3に示されるセパレータ材料50を含む。電極複合体13を巻く前に、追加の絶縁層72、例えば、ポリプロピレンテープ等のプラスチックフィルムを望ましくはセパレータ層50を覆って配置してよい。このような場合、らせん状に巻き付けられた電極70は、巻き付けられた電極複合体をケーシングの中に挿入すると、ケーシング20の内面に接触した絶縁層72を有するであろう(図2及び3)。あるいは、ケーシング20の内面を電気絶縁材料72でコーティングしてから、巻線電極らせん状物70をケーシングの中に挿入することも可能である。
【0052】
電解質は、巻き付けた電極らせん状物70を挿入した後で電池ケーシングに加えることも可能である。電解質は、典型的にはFeSを1グラム当たり電解質約0.4グラムの基準で巻き付けられた電池に添加されてもよい。望ましい電解質は、ピリジン約500〜1000ppmを添加した1,3−ジオキソラン(60〜90体積%)及びスルホラン(10〜40体積%)を含む溶媒混合物に溶解されたリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)塩(0.5〜1.2モル/リットル)を含む。上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用のこのような組成物の好ましい電解質は、ジオキソランの重合を抑制するためにピリジン約800ppmを添加した、1,3−ジオキソラン(80体積%)及びスルホラン(20体積%)を含む溶媒混合物に溶解されたリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)塩(0.8モル/リットル)を含む。
【0053】
上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用の別の望ましい電解質は、3,5−ジメチルイソキサゾール(0.1〜5重量%、典型的には0.1〜1重量%)を添加した1,3−ジオキソラン(50〜90重量%)及び1,2−ジメトキシエタン(10〜50重量%)の溶媒混合物に溶解されたリチウム塩のヨウ化リチウム(LiI)(0.5〜1.2モル/リットル)及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)(全電解質に基づいて0.05〜1.0重量%)の混合物を含む。上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用のこのような組成物の好ましい電解質は、ジオキソランの重合を抑制するために3,5−ジメチルイソキサゾール約0.2重量%を添加した、1,3−ジオキソラン70重量%及び1,2−ジメトキシエタン30重量%の溶媒混合物に溶解されたリチウム塩のヨウ化リチウム(LiI)(1.0モル/リットル)及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)(全電解質に基づいて0.1重量%)の混合物を含む。
【0054】
巻線型電池10における本発明の電解質中の水分含量は、典型的に、全電解質100万部当たり約100部未満であってもよい。ただし、水(脱イオン水)が電解質溶媒に添加され得ることから、電解質中の水分含量は、最大約1000ppm、更には最大約2000ppmであってもよいと考えられる。(本発明の譲受人に譲渡された特許出願第12/009858号(2008年1月23日出願)、及び本出願に記載の緩衝添加剤を使用した実験試験の表IIを参照のこと。)したがって、本発明の電解質中の水分含量は、約100〜1000ppm、例えば約500〜1000ppm、又は約600〜1000ppm及び約2000ppmまで、例えば約600〜2000ppmであってよいと考えられる。
【0055】
電池の正端子17を形成するエンドキャップ18は、その面のうちの1つの上でエンドキャップ18の内面に溶接することができる金属タブ25(カソードタブ)を有してもよい。金属タブ25は、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。カソード基材65の一部分は、図2に示されるように、巻き付けられたらせん状物の上部から延びる部分64に延びていてもよい。カソード基材部位64を金属タブ25の露出面に溶接してから、ケーシング周縁部22を、エンドキャップ18の周りに、間にある絶縁ディスク80の周縁部85と共に圧着し、電池の開口端部30を閉じることができる。エンドキャップ18は、望ましくは通気口19を有し、この通気口には、電池内のガス圧が予め定められたレベルを超えると破裂してガスを逃すように設計された、破裂可能な膜を収容することができる。正端子17は、望ましくはエンドキャップ18の一体化部分である。あるいは、端子17は、米国特許第5,879,832号に記載されている種類のエンドキャップアセンブリの最上部として形成することができ、このアセンブリは、エンドキャップ18の表面にある開口部から中へ挿入し、その後、それに溶接することができる。
【0056】
金属タブ44(アノードタブ)、好ましくはニッケル又はニッケルめっき鋼製のものは、リチウム金属アノード40の一部に押し込むことができる。アノードタブ44は、らせん状物内のどの部分でもリチウム金属の中に押し込むことができ、例えば、それは、図5に示されるように、らせん状物の最外層でリチウム金属の中に押し込むことができる。アノードタブ44は、その片面をエンボス加工することで、リチウムの中に押し込もうとするタブの面上に複数の起立部分を形成することができる。タブ44の反対側の面は、図3に示すように、ケーシング側壁24の内面又はより好ましくはケーシング20の閉口端部35の内面のいずれかである、ケーシングの内面に溶接することができる。アノードタブ44は、ケーシングの閉鎖端部35の内面に溶接することが好ましい。なぜならば、これは、電気スポット溶接プローブ(細長い抵抗溶接電極)を電池コア98の中に挿入することによって容易に達成されるためである。溶接プローブは、電池コア98の外側境界の一部に沿って存在するセパレータスタータタブ50bと接触させないように注意する必要がある。
【0057】
一次リチウム電池10はまた、所望により、エンドキャップ18の下に配置されて、カソード60とエンドキャップ18との間で直列に接続されたPTC(正の熱係数)デバイス95を備えていてもよい(図2)。かかるデバイスは、電池が、予め定められたレベルよりも高い電流ドレインで放電するのを防ぐ。したがって、電池に、異常に高い電流、例えば、単3サイズの電池に約6〜8アンペアよりも高い電流が長時間流れると、PTCデバイスの抵抗が劇的に増大することにより、異常な高ドレインが停止される。当然のことながら、通気口19及びPTCデバイス95以外のデバイスを用いて、電池を誤用又は放電から保護してもよい。
【0058】
FeS粉末は、最終的なカソードにとって望ましい場合に、水酸化カルシウム(Ca(OH))及び炭酸リチウム(LiCO)の混合物と予備混合され得る。FeS粉末が周囲空気中に保存されている場合であっても、両成分は、保存中、FeS粉末のpHを上昇させるか、又はFeSの更なる酸性化を防ぐ。Ca(OH)及びLiCO緩衝添加剤の混合物は、特に電解質に水が添加されたときに、FeSに対して同じ重量のCaCO緩衝添加剤より好ましいことが判明している。これは、FeS粉末に対してCa(OH)及びLiCO緩衝添加剤がより良好な電池性能及びより長い電池耐用期間をもたらすためである。驚くべきことに、より良好な電池性能は、電解質に水が添加されていても、Ca(OH)及びLiCOをFeS粉末に添加したときに得られる。
【0059】
上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用の特定の好ましい電解質は、ジオキソランの重合を抑制するためにピリジン約800ppmを添加した、1,3−ジオキソラン(80体積%)及びスルホラン(20体積%)を含む溶媒混合物に溶解されたリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)塩(0.8モル/リットル)を含む。
【0060】
上記のようなカソードを有するLi/FeS電池用の別の特定の好ましい電解質は、ジオキソランの重合を抑制するために3,5−ジメチルイソキサゾール約0.2重量%を添加した、1,3−ジオキソラン70重量%及び1,2−ジメトキシエタン30重量%の溶媒混合物に溶解されたリチウム塩のヨウ化リチウム(LiI)(1.0モル/リットル)及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)(全電解質に基づいて0.1重量%)の混合物を含む。
【0061】
Li/FeS電池用の電解質中の水分含量は、典型的には、全電解質100万部当たり約100部未満であってよい。ただし、FeSカソードに混合された水酸化カルシウム(Ca(OH))及び炭酸リチウム(LiCO)を用いた本明細書に記載の好適な試験結果(表II)に基づいて、全電解質中の水分含量は100ppmを越えていてもよい。更に、水(脱イオン水)が電解質溶媒に添加され得ることから、Li/FeS電池の電解質中の水分含量は、最大約1000ppm、更には最大約2000ppmであってもよいと考えられる。(本発明の譲受人に譲渡された特許出願第12/009858号(2008年1月23日出願)を参照のこと。)したがって、水酸化カルシウム(Ca(OH))及び炭酸リチウム(LiCO)が本発明のカソード内のFeSに添加されるとき、電解質中の水分含量は、約100〜1000ppm、例えば、約500〜1000ppm、又は約600〜1000ppm、最大約2000ppm、例えば、約600〜2000ppmであってもよいと考えられる。電解質中の水分含量の好ましい値は、約100〜600ppm、例えば、約200〜600ppmである。
【0062】
驚くべきことに、電解質に水が添加されたLi/FeS電池の向上したDIGICAM性能は、Ca(OH)及びLiCO添加剤の両方を含むカソードを、水を含まずカソードに標準的なCaCO緩衝添加剤を含む同じ電池と比較したときに認識された。これは、カソード内のFeSに水酸化カルシウム(Ca(OH))及び炭酸リチウム(LiCO)を添加すると、電池が添加された水を含んでいても電池の放電性能に有益な効果があるという本明細書の実験データにより支持される結論に至っている。添加される水は、上記のような量で電解質に添加される水の形態であってもよく、例えば、100〜1000ppm、例えば、約500〜1000ppm、又は約600〜1000ppm、最大約2000ppm、例えば、約600〜2000ppmであってもよい。
【0063】
実験試験
以下は、単3サイズの巻き付けられたLi/FeS電池の対照群(群A)と、単3サイズの巻き付けられたLi/FeS電池の4つの試験群(群B、B1、C、及びC1)とのDIGICAM試験結果の比較を示した例である。電池は、おおむね上記のようにカソード材料60をアルミニウム基材65の両面にコーティングして調製された。電池は、同じ構成で同じリチウム金属アノード及び同じカソード組成物から構成され(同様に同じ平均粒径16マイクロメートルのFeSを含み)、同じ電解質を使用しているが、電池群は以下の点が異なる。対照電池群Aでは、カソードに標準的な緩衝剤のCaCO(FeSの重量に基づいて1.5重量% CaCO)を添加した。試験電池群Bのカソードには、Ca(OH)(FeSの重量に基づいて1.1重量%)及びLiCO(FeSの重量に基づいて0.05重量%)の混合物を含む緩衝剤を添加した。試験電池群Cのカソードには、Ca(OH)(FeSの重量に基づいて0.05重量%)及びLiCO(FeSの重量に基づいて1.1重量%)の混合物を含む緩衝剤を添加した。更に、電解質に水600ppmを添加した以外は群B電池と同じである試験電池群B1を調製した。同様に、電解質に水600ppmを添加した以外は群C電池と同じである試験電池群C1を調製した。各電池群に使用した電解質は、他の点では同じであり、すなわち、ピリジン800ppmを添加した1,3−ジオキソラン(80体積%)及びスルホラン(20体積%)を含む溶媒混合物に溶解されたリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)塩(0.8モル/リットル)であった。
【0064】
単3電池(群A、B、B1、C、及びC1)の充填後、電池をすべて電池容量の約3%の放電深度までわずかに予備放電した。次に、群A、B、B1、C、及びC1の電池の一部を室温で約3日間保存し(新品の電池)、その後、以下のDIGICAM試験に供した。これらの電池を「新品の電池」と呼ぶ。群A、B、B1、C、及びC1の残りの電池を60℃の温度で20日間保存し、その後、以下に記載のDIGICAM試験に供した。これらの電池を「保存した電池」と呼ぶ。試験はすべて、新品の電池の各群の複数の電池及び保存した電池の各群の複数の電池を使用して行った。以下の表IIに報告されるDIGICAM試験結果は、新品及び保存した電池の表示された群のそれぞれの平均値を示す。
【0065】
デジタルカメラ放電試験(DIGICAM試験)を使用して電池群をすべて約1.05ボルトのカットオフ電圧まで放電した。デジタルカメラ試験(DIGICAM試験)は、電池にパルス放電サイクルを印加することにより電池を消耗させるパルス試験手順で構成され、各サイクルは、1.5Wパルスを2秒間、直後に0.65Wパルスを28秒間という2段階で構成される。これらのサイクルを10回繰り返し(経過時間5分)、その後、55分休止する。次いで、終止電圧に到達するまでこのサイクルを繰り返す。1.05Vのカットオフ電圧に達するまでこのサイクルを継続する。これら終止電圧に到達するのに要した1.5Wパルスの総数を記録した。結果を表II(以下)に報告する。DIGICAM試験結果(表II)は、DIGICAM試験により測定したとき、Ca(OH)及びLiCO緩衝添加剤を有する電池(群B、B1、C、及びC1電池)は、カソード緩衝添加剤としてCaCOを使用した対照群A電池と比べて良好な性能(1.05Vカットオフまでの1.5Wパルスの数)をもたらしたことを明らかに示している。(過去の経験から全くバッファリングされていないFeSを有する電池は長期保存後に同様に機能しないことが実証されているため、バッファリングされていないFeSを有する同じ電池を使用したDigicam試験の比較は行わなかった。)
【0066】
性能(1.05Vカットオフまでの1.5Wパルスの数)の向上は、比較に「新品の電池」を使用したかどうか、又は比較に「保存した電池」(60℃で20日間保存)を使用したかどうかにかかわらず認識された。更に、Ca(OH)及びLiCOカソード添加剤を含み、電解質に脱イオン水600ppm(重量による百万分率)も添加した群B1及びC1電池は、新品及び保存した電池ともに、CaCOカソード添加剤を使用して電解質に水を添加していない対照群Aの新品および保存した電池より良好なDIGICAM性能を示した。したがって、Ca(OH)及びLiCOカソード添加剤を有する試験電池(群B、B1、C、及びC1)は、試験電池の電解質への水の添加の有無にかかわらず、CaCOカソード添加剤を有する対照電池(群A)より良好なDIGICAM性能を示した。
【表2】

注:
1.DIGICAM試験に供する前に室温(21℃)で3日間保存した電池。
2.DIGICAM試験に供する前に60℃で20日間保存した電池。
3.電解質は、ピリジン800ppmを添加した1,3−ジオキソラン(80体積%)及びスルホラン(20体積%)を含む溶媒混合物に溶解されたLi(CFSON(LiTFSI)塩(0.8モル/リットル)の混合物であった。
4.1.5重量% CaCOは、FeSの重量に基づいてカソードに添加された。
5.1.1重量% Ca(OH)及び0.05重量% LiCOは、FeSの重量に基づいてカソードに添加された。
6.1.1重量% Ca(OH)及び0.05重量% LiCOは、FeSの重量に基づいてカソードに添加され、水(脱イオン水)600ppmが電解質に添加された。
7.0.05重量% Ca(OH)及び1.1重量% LiCOは、FeSの重量に基づいてカソードに添加された。
8.0.05重量% Ca(OH)及び1.1重量% LiCOは、FeSの重量に基づいてカソードに添加され、水(脱イオン水)600ppmが電解質に添加された。
【0067】
FeSを有する混合物にCa(OH)及びLiCOを添加した場合の有益な効果も表IIIに示した。種々の化学緩衝剤を添加したFeS粉末(平均粒径16マイクロメートル)の試料混合物を調製し、周囲条件下でプラスチック袋に保存した。混合物のpHを経時的に追跡した。試料混合物は、相当量の周囲空気を内包するプラスチック袋に保存された。各試料の少量分を月間隔で取り出し、pHを測定した。したがって、以下の表IIIから分かるように、Ca(OH)及びLiCOの組み合わせは、混合物を対前月比で約6ヶ月間にわたって保存するとき、CaCO緩衝剤を添加したFeS混合物の保存品と比較すると、又は任意の緩衝添加剤を含まないFeSの保存品と比較すると、非常に良好なFeSでのpH上昇効果を有する。表IIIに報告されたpH値は、FeSに対して提供された表IIの電池群A、B、及びCと同じ組成物の緩衝添加剤に関するものである。更に、バッファリングされていない試料(すなわち、任意の化学緩衝剤が添加されていないFeS)のpHも比較のために表IIIに示す。
【表3】

注:
1.試料中のFeSの平均粒径はすべて約16マイクロメートルであった。試料中のFeSは、供給元からバッファリングされていない状態、すなわち、供給元によってFeS粉末に化学緩衝剤が添加されていない状態で入手された。出願者は、試料A、B、及びCについて上述したようにFeSに種々の緩衝剤を添加した。試料は、周囲条件下(21℃)のプラスチック袋で、袋内に存在する相当量の周囲空気にさらされた状態で保存された。各試料の少量分を様々な月間隔で袋から取り出し、それらのpHを測定した。
2.表IIIのpH測定で試験された試料は、添加された水を含まなかった。
3.CaCO、Ca(OH)、又はLiCOの1モルは、理論上、HSO(FeS粒子の表面上に形成され得る酸性汚染物質)の1モルを中和すると考えられる。ただし、Ca(OH)又はLiCOの分子量はCaCOの分子量より小さいため、CaCOの中和反応の実際の効率がCa(OH)及びLiCOの組み合わせと同じであると仮定すると、HSOの中和に必要なCa(OH)及びLiCOの量はより少量である。
4.試料のpHは、ASTM D1512に定義された方法とほぼ同じInternational Standard Method ISO 787/9−1981(E)を使用して測定された。pH測定の調製では、バッファリングされていないFeS試料5グラム又はバッファリングされた試料A、B、若しくはC5グラムを、COを含まない脱イオン水50ミリリットルに添加し、次いでその溶液を1分間撹拌した。撹拌停止後5分以内に、IQ Scientific Instruments,Inc.製のpHメーターモデルIQ240を使用してそれぞれの試料溶液のpH測定を行った(pHスケールで0.1の精度まで)。
【0068】
結論
Ca(OH)及びLiCOの組み合わせにおけるFeSでのpH上昇効果は、FeS粒子に対して標準的なCaCO緩衝添加剤より効果的であった。したがって、Ca(OH)及びLiCOは、FeSを保護し、保存中にFeS粒子の表面上で酸性成分が形成される速度を遅延した。これにより、DIGICAM試験により測定したとき、Li/FeS電池のより良好な性能がもたらされた。Ca(OH)及びLiCO添加剤の両方を含むカソードを、水を含まずカソードに標準的なCaCO緩衝添加剤を含む同じ電池と比較したときに、電解質に水が添加されたLi/FeS電池の向上したDIGICAM性能が認識されたことは、驚くべきことであった。
【0069】
本発明について特定の実施形態を参照しながら説明してきたが、当然のことながら、本発明の概念から逸脱することなくその他の実施形態も可能であり、すなわち、その他の実施形態は本発明の特許請求及び均等物の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、正極端子及び負極端子と、リチウム金属を含むアノードと、二硫化鉄(FeS)、水酸化カルシウム(Ca(OH))及び炭酸リチウム(LiCO)、並びに導電性炭素を含むカソードと、を備えた一次電気化学電池であって、前記電池が、その中に挿入された電解質を更に含んでおり、前記電解質が、溶媒ジオキソランと、ジメトキシエタン及びスルホランからなる群から選択される少なくとも1つの他の溶媒と、を含む溶媒混合物に溶解されたリチウム塩を含む、一次電気化学電池。
【請求項2】
前記リチウム塩が、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記リチウム塩が、ヨウ化リチウム(LiI)を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記リチウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)を更に含む、請求項3に記載の電池。
【請求項5】
前記電解質中の水分含量が、前記電解質100万重量部当たり約100〜2000重量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池。
【請求項6】
前記少なくとも1つの他の溶媒が、ジメトキシエタンを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項7】
前記リチウム塩が、ヨウ化リチウム(LiI)及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)を含み、前記少なくとも1つの他の溶媒が、ジメトキシエタンを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項8】
前記少なくとも1つの他の溶媒が、スルホランを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項9】
前記ジオキソランが、1,3−ジオキソランを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項10】
前記ジメトキシエタンが、1,2−ジメトキシエタンを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項11】
前記二硫化鉄(FeS)が、約6〜30マイクロメートルの平均粒径を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項12】
前記電解質が、約60〜90体積%のジオキソランを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項13】
前記カソード中の水酸化カルシウム及び炭酸リチウムの総量が、前記カソード中の前記FeSの重量に基づいて約0.1〜4重量%である、請求項1に記載の電池。
【請求項14】
前記アノード及びカソードが、それらの間のセパレータシートと共にらせん状に巻き付けられている、請求項1に記載の電池。
【請求項15】
二硫化鉄(FeS)と導電性炭素とを含む前記カソードが、アルミニウムを含む基材シート上にコーティングされている、請求項1に記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−521639(P2012−521639A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502117(P2012−502117)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/027741
【国際公開番号】WO2010/111103
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(593093249)ザ ジレット カンパニー (349)
【Fターム(参考)】