説明

改善された水溶解度を有するラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物及びその製造方法、並びに放射線療法と併用するための抗癌組成物

【課題】有機溶媒を含まず、生体適合性に優れており、生分解性の高分子だけを用いて静脈注射、皮下/筋肉注射が可能なラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物、その製造方法及び放射線療法と併用するための抗癌組成物を提供する。
【解決手段】(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び(iii)活性成分として、ラパマイシンを含み、前記A−B型ジブロック共重合体と前記ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩が形成するミセルの内部に、ラパマイシンが封入されることを特徴とするラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された水溶解度を有するラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物、さらに詳しくは、水溶解度の低いラパマイシンを高分子ナノ粒子で可溶化し、水溶解度を改善させたラパマイシン含有注射剤組成物及びその製造方法、並びに放射線療法と併用するための抗癌組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラパマイシン(分子式:C5179NO13、分子量:914.2)は、シロリムスとしても知られているマクロライドラクトン系化合物である。これは、免疫抑制活性を有しており、そのため、臓器移植患者の移植拒絶抑制剤(Rapamune)として商品化されている。また、ラパマイシンは、臓器移植による拒絶反応抑制の他にも、肺炎、全身性エリテマトーデス、乾癬などの免疫炎症皮膚疾患(immunoinflammatory skin disorders)、免疫炎症腸疾患(immunoinflammatory bowel disorders)、眼炎症、再狭窄(restenosis)、リウマチ性関節炎などの治療にも使用することができる。
【0003】
最近、ラパマイシンが免疫抑制剤としての機能だけでなく、哺乳動物のラパマイシンターゲット(mTOR:mammalian target of rapamycin)の抑制剤としてアポトーシスを誘導し、癌細胞を破壊する抗癌剤としての機能があることを示す報告があった。しかし、ラパマイシンは、水に対する溶解度が非常に低い(1〜2μg/mL)ので、経口投与時、吸収率が非常に低く、個体間での生体利用率の差が非常に大きい。
【0004】
ラパマイシンを含む製剤として、Rapamune錠剤が紹介されている。前記錠剤は、スクロース、ラクトース、ポリエチレングリコール8000、硫酸カルシウム、微細結晶質セルロース、ポビドン、ポロキサマー188、グリセリルモノオレートなどの賦形剤を含んでいる。また、Rapamune経口溶液剤には、Phosal 50PG(ホスファチジルコリン、プロピレングリコール、モノ−グリセリド、ジ−グリセリド、エタノール、大豆脂肪酸、パルミチン酸アスコルビル)とポリソルベート80が含まれており、1.5〜2.5%のエタノールが含まれている。
【0005】
Rapamune経口溶液剤を、ヒトに経口投与した時、生体利用率は約14%である。Rapamune錠剤を経口投与した時は、Rapamune溶液剤を経口投与した時よりも相対的に約25%高い生体利用率を示した。しかし、両製剤の生体利用率はいずれも20%以下と低く、これはラパマイシンの水に対する低い溶解度に起因する。
【0006】
そこで、ラパマイシンを様々な可溶化技術を用いて製剤化するために、様々な試みが行われてきた。特許文献1には、界面活性剤ポリソルベート80、N、N−ジメチルアセトアミド、及びレシチンまたはリン脂質のいずれかを含む混合溶液に、ラパマイシンが溶解されているラパマイシン溶液を含有するカプセル製剤組成物が開示されている。特許文献2には、ラパマイシンがプロピレングリコール水溶液に0.1〜4mg/mL濃度で溶解しており、非イオン性界面活性剤を含有しない注射用水溶液組成物が開示されている。しかし、従来のラパマイシン注射用水溶液の場合は、水溶液の安定性に劣り、短い時間内に投与しなければならない。現状としては商業的に市販されている注射剤は無い。
【0007】
一方、特許文献3は、哺乳類の器官または組織の移植による拒絶反応を抑制するのに有効な量でラパマイシンを含有する、器官または組織の移植拒絶抑制用組成物が開示されている。しかし、この特許文献3は、ラパマイシンをオリーブ油のような油、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、クレモホールEL、及びポリソルベート80のような界面活性剤と共に使用する場合を開示している。
【0008】
一方、特許文献4及び5には、難溶性薬物を可溶化し得る技術として、疎水性ポリエチレングリコール(A)と疎水性ポリラクチド(B)がA−B型ジブロックで結合された両親媒性ブロック共重合体を用いた高分子ミセルが開示されている。しかし、前記高分子ミセルでラパマイシンを可溶化した具体例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,559,121号公報
【特許文献2】米国特許第5,616,588号公報
【特許文献3】韓国特許第0160957号公報
【特許文献4】米国特許第6,322,805号公報
【特許文献5】米国特許第6,616,941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するためのものである。本発明の技術的課題は、有機溶媒を含まず、生体適合性に優れており、生分解性の高分子だけを用いて静脈注射、皮下/筋肉注射が可能なラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物、その製造方法及び放射線療法と併用するための抗癌組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の技術的課題を解決するために、本発明は、(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び(iii)活性成分として、ラパマイシンを含み、前記A−B型ジブロック共重合体とポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩が形成するミセルの内部に、ラパマイシンが封入されることを特徴とする、ラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物を提供する。
【0012】
本発明の別の側面によると、(a)(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び(iii)活性成分として、ラパマイシンを有機溶媒に可溶化させる工程;(b)前記工程(a)の生成物から有機溶媒を除去する工程;及び(c)前記工程(b)の生成物に水性媒体を加える工程を含む、ラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物の製造方法が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の側面によると、(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び(iii)活性成分として、ラパマイシンを含み、前記A−B型ジブロック共重合体と前記ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩が形成するミセルの内部に、ラパマイシンが封入されるものである、放射線療法と併用するための抗癌組成物が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る注射剤組成物は、乾燥後、水溶液中で再構成(reconstitution)した時、ラパマイシンの溶解度が0.1mg/mL以上の注射液を提供することができる。本発明によると、有機溶媒を含まず、生体適合性に優れており、生分解性の高分子だけを用いて静脈注射、皮下/筋肉注射が可能なラパマイシン注射剤組成物を得ることができる。本発明の組成物を放射線療法と併用して投与したとき、抗癌効果を顕著に増大する効果を期待することができる。
【0015】
本発明のラパマイシン含有注射剤組成物は相乗作用により、放射線照射効果を最大化することができるので、放射線療法時に誘発される毒性を低減することができる。また、ラパマイシンは放射線増感活性効果だけでなく、免疫抑制作用など強力な薬理活性を有しているが、重大な副作用も有する薬物である。また、水に溶けないため、可溶化剤を用いて製剤化しなければならない。現在、注射剤に使用されている可溶化剤は、界面活性剤であり、大部分、過敏症のような毒性を有する界面活性剤である。しかし、本発明のラパマイシン含有注射剤組成物は、可溶化剤の毒性を誘発せず、ラパマイシンの用量を最小限に抑制し、且つ副作用を抑えながら、最大の放射線増感効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】製造例1に係るD,L−PLA−COONaのNMRスペクトルである。
【図2】製造例2に係るmPEG−PLAのNMRスペクトルである。
【図3】実験例1で得たラパマイシン含有高分子ナノ粒子の薬物動態評価を示すグラフである。
【図4】実験例2で得たラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の放射線増感効果の実験結果を示すグラフである。
【図5】実験例3で得たラパマイシン含有高分子ナノ粒子の試験管内抗癌活性の実験結果を示すグラフである。
【図6】実験例4で得たラパマイシン含有高分子ナノ粒子の薬物動態実験結果を示すグラフである。
【図7】実験例5で得たラパマイシン含有高分子ナノ粒子の動物モデルでの抗癌効果実験結果を示すグラフである。
【図8】実験例6で得たラパマイシン含有高分子ナノ粒子の動物モデルでの放射線増感効果の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明において、用語“ラパマイシン”は、ラパマイシン、その誘導体または類似体、及びこれらの薬学的に許容される塩を全て含む。ラパマイシンの誘導体または類似体には具体的に、ベンゾイルラパマイシン、エベロリムス、テムシロリムス、ピメクロリムス、バイオリムスなどが含まれるが、これらに制限されない。また、用語“ナノ粒子”は、粒径がnm水準の粒子を総称する概念であり、ミセル、混合ミセル、ナノカプセルまたはナノスフェアなどを含み、そのサイズは、例えば1〜500nmの粒径であってもよいが、これに制限されない。
【0019】
本発明において、前記両親媒性ジブロック共重合体(i)は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体であり、前記親水性ブロック(A)はポリエチレングリコールであってもよいし、前記疎水性ブロック(B)はポリ乳酸またはその誘導体であってもよい。
【0020】
前記親水性ブロック(A)のポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコールなどであってもよいし、具体的にはメトキシポリエチレングリコールであるが、これらに限定されない。前記親水性ブロック(A)の数平均分子量は、好ましくは500〜20,000ダルトンであり、より好ましくは1,000〜10,000ダルトン、さらに好ましくは1,000〜5,000ダルトンである。親水性ブロック(A)の数平均分子量が500ダルトン未満のとき、疎水性部分に比べて親水性部分が小さくなり、本発明組成物が水に溶解されないことがある。親水性ブロック(A)の数平均分子量が20,000ダルトンを超えると、親水性部分が大きくなり過ぎ、ミセル形成が難しいことがある。また、前記両親媒性ジブロック共重合体内の親水性ブロック(A)の含量は、ジブロック共重合体全体100重量%に基づいて、好ましくは40〜70重量%、より好ましくは50〜65重量%のものが、両親媒性ジブロック共重合体のミセルを安定的に保持できるという観点では有利である。
【0021】
前記疎水性ブロック(B)のポリ乳酸またはその誘導体は、例えば、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、及びそれらの共重合体よりなる群から選択される一つ以上であってもよく、より具体的には、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトンまたはポリジオキサン−2オンであってもよい。本発明の実施態様によると、前記疎水性ブロック(B)のポリ乳酸またはその誘導体は、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリカプロラクトン、乳酸とマンデル酸の共重合体、乳酸とグリコール酸の共重合体、乳酸とカプロラクトンの共重合体、及び乳酸と1,4−ジオキサン−2オンの共重合体よりなる群から選択される一つ以上であってもよい。前記疎水性ブロック(B)の数平均分子量は、好ましくは500〜10,000ダルトン、より好ましくは500〜5,000ダルトンである。疎水性ブロック(B)の数平均分子量が500ダルトン未満のとき、親水性部分が大きくなり、ミセル形成されない問題がある。10,000ダルトンを超えると、疎水性部分が大きくなり、組成物が水に可溶化できないことがある。また前記両親媒性ジブロック共重合体内の疎水性ブロック(B)の含量は、ジブロック共重合体全体100重量%に基づいて、好ましくは30〜60重量%、より好ましくは35〜50重量%のものが、安定的に両親媒性ジブロック共重合体のミセルを保持できるという観点では有利である。
【0022】
本発明において、前記末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩は、薬物が含有されたミセルのコア内部を固くし、薬物の封入効率を向上させる役割を果たす。
【0023】
前記末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体としては、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、及びこれらの共重合体よりなる群から選択される一つ以上を使用することができる。より具体的には、前記ポリ乳酸またはその誘導体は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトンまたはこれらの共重合体である。本発明の好ましい実施態様によると、前記ポリ乳酸またはその誘導体はポリ乳酸、乳酸とマンデル酸の共重合体、乳酸とグリコール酸の共重合体、及び乳酸とカプロラクトンの共重合体よりなる群から選択される一つ以上であってもよい。
【0024】
本発明において、ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩とは、前述のポリ乳酸またはその誘導体の末端カルボン酸アニオンと、アルカリ金属イオンがイオン結合で結合された形態を意味する。前記アルカリ金属は、好ましくはナトリウム、カリウム、及びリチウムよりなる群から一つ以上選択され、より好ましくはナトリウムである。
【0025】
前記ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩において、アルカリ金属イオンとイオン結合したカルボキシル基の反対側の末端は、ヒドロキシ、アセトキシ、ベンゾイルオキシ、デカノイルオキシ、パルミトイルオキシ、及びアルコキシよりなる群から選択された一つで置換され得る。
【0026】
具体的には、本発明の末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸アルカリ金属塩は下記化学式1で示すことができる。
【0027】
【化1】

【0028】
式中、
Aは、
【0029】
【化2】

であり、
Bは、
【0030】
【化3】

であるか、
【0031】
【化4】

であるか、または、
【0032】
【化5】

【0033】
であり、
Rは、水素、アセチル基、ベンゾイル基、デカノイル基、パルミトイル基、メチル基またはエチル基であり、
Z及びYは独立して、水素、メチル基またはフェニル基であり、
Mはナトリウム、カリウムまたはリチウムであり、
nは1〜30の整数であり、
mは0〜20の整数である。
【0034】
さらに詳しくは、前記ポリ乳酸またはその誘導体の塩は下記化学式2で示すことができる。
【0035】
【化6】

【0036】
式中、
Rは水素、アセチル基、ベンゾイル基、デカノイル基、パルミトイル基、メチル基またはエチル基であり、
Xはメチル基であり、
Y’は水素またはメチル基であり、
Zは水素、メチル基またはフェニル基であり
Mはナトリウム、カリウムまたはリチウムであり、
pは0〜25の整数であり、
qは0〜25の整数であり、但し、p+qは5〜25の整数である。
【0037】
前記ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩は、好ましくは20mg/mL以上の水溶解度を示し、水性媒体に溶解すると、その分子内に存在するカルボン酸アニオンの親水性部分及びポリ乳酸の疎水性部分がバランスをとることによって、ミセル形成に関与するようになる。従って、その分子量が大きすぎると、疎水性部分が大きくなり、親水性を示す末端のカルボン酸アニオン同士の会合が難しくなり、ミセルが良好に形成されない場合がある。反対に、その分子量が小さすぎると、ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩は水に完全に溶解し、ミセル形成自体が難しくなる。本発明の好ましい実施態様によると、前記ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩の数平均分子量は、500〜2,500ダルトン、具体的に1,000〜2,000ダルトンである。この分子量が500ダルトン未満のとき、水に完全に溶解し、ミセル形成自体が難しくなる。分子量が2,500ダルトンを超えると、疎水性が大きくなり、水溶液での溶解が難しくなり、ミセルを形成しない場合がある。
【0038】
本発明の好ましい実施態様によると、本発明のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物は、ラパマイシン0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜5重量%、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体40〜90重量%、好ましくは45〜74重量%、及び末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩10〜50重量%、好ましくは25〜45重量%を含む。
【0039】
本発明の実施態様で、A−B型ジブロック共重合体と末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩の重量比は9:1〜3:7、より具体的には5:1〜1:2である。
【0040】
一方、前記両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸または誘導体のアルカリ金属塩を混合して形成された高分子ナノ粒子組成物の場合、ナノ粒子の安定性をより向上させるために、更に、二価または三価の金属イオンを添加することができる。前記二価または三価の金属イオンは、高分子ナノ粒子内のポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩末端の一価のアルカリ金属カチオンと置換反応し、ポリ乳酸または誘導体末端のカルボキシル基と、更に強いイオン結合を形成する。
【0041】
従って、本発明の実施態様によると、(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含み、このカルボキシ末端が二価または三価の金属イオンで固定されたポリ乳酸またはその誘導体、及び(iii)活性成分として、ラパマイシンを含み、前記A−B型ジブロック共重合体と前記ポリ乳酸またはその誘導体が形成するナノ粒子の内部にラパマイシンが封入されることを特徴とする、ラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物が提供される。
【0042】
前記末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体には、前述したようなもの等を使用することができる。
【0043】
前記二価または三価の金属イオンによるイオン結合は、強い結合力により高分子ナノ粒子の安定性を更に向上させる役割を果たす。前記二価または三価の金属イオンは、好ましくはカルシウム、マグネシウム、バリウム、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、及びアルミニウムよりなる群から選択された二価または三価の金属イオンであり、より好ましくはカルシウムまたはマグネシウムの二価カチオンである。
【0044】
前記二価または三価の金属イオンの当量は、高分子ナノ粒子内部に封入された薬物の放出速度に応じて調節され得る。具体的には、高分子ナノ粒子組成物で、ポリ乳酸アルカリ金属塩のカルボキシル基の当量に対して、前記二価または三価の金属イオンが1当量未満のとき、ポリ乳酸塩のカルボキシ末端基と結合する金属イオンの数が少なく、薬物の放出速度が速くなる。1当量を超えると、ポリ乳酸塩のカルボキシ末端基と結合する金属イオンの数が多く、薬物の放出速度が遅延する。
【0045】
ポリ乳酸またはその誘導体のカルボキシル基末端が、二価または三価の金属イオンで固定された場合、本発明の組成物は好ましくは、組成物の全重量に対して、ラパマイシン0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜5重量%;前記した両親媒性ブロック共重合体40〜90重量%、より好ましくは45〜74重量%;及び末端に少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体10〜50重量%、より好ましくは25〜45重量%に加えて、前記した二価または三価の金属イオンを前記ポリ乳酸またはその誘導体の末端カルボキシル基当量に対して、0.01〜10当量、より好ましくは1〜2当量で含む。両親媒性ブロック共重合体の相対的割合が大きすぎると、高分子ナノ粒子としての性質よりはミセルの性質を有するため、希釈時、安定性に問題が生じる場合がある。ポリ乳酸またはその誘導体の金属塩の相対的割合が大きすぎると、二価または三価の金属イオン添加時、ポリ乳酸またはその誘導体の二価または三価の金属塩は沈殿し、均一に分散したナノ粒子溶液が得られない場合がある。
【0046】
前述するように、二価または三価の金属イオンを用いると、結果的に、両親媒性ブロック共重合体、及びカルボキシ末端が二価または三価の金属イオンで固定されたポリ乳酸またはその誘導体を含むナノ粒子内部に薬物が封入された組成物を得ることができる。
【0047】
本発明の実施態様で、本発明の組成物は、凍結乾燥または噴霧乾燥された乾燥形態であってもよい。即ち、前記した成分を含有する水溶液でミセルを生成させた後、凍結乾燥、噴霧乾燥などの方法で乾燥すると、固体の高分子ナノ粒子組成物を得ることができる。凍結乾燥組成物の場合、凍結乾燥保護剤として多糖類、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどを更に含んでいてもよい。凍結乾燥保護剤には、好ましくはマンニトール、ソルビトール、ラクトース、トレハロース、及びスクロースよりなる群から選択される一つ以上が挙げられ、より好ましくはマンニトール及びラクトースを用いることができる。
【0048】
本発明の組成物において、ラパマイシンは、前述した高分子の疎水性ブロック部分と物理的に会合し、水溶液で前記高分子が形成するナノ粒子の疎水性コアに位置するようになり、このとき、ラパマイシン含有高分子ナノ粒子の粒径は、好ましくは10〜150nm範囲である。
【0049】
本発明に係る乾燥形態の組成物を、水性媒体で再構成すると、ラパマイシン濃度が0.1mg/mL以上、例えば、0.1〜25mg/mL、より具体的には0.2〜10mg/mLの注射剤組成物を得ることができる。ラパマイシン濃度が、0.1mg/mLより低いと、所望のラパマイシンの薬理効果を得ることができない。ラパマイシン濃度が、25mg/mLより高いと、室温より低い温度で水溶液の粘性が高くなり、注射することが困難となる。一実施態様では、ラパマイシンの濃度が0.1〜25mg/mLの注射剤組成物を提供する。
【0050】
本発明のラパマイシン含有高分子ミセル注射剤組成物は、前記した成分の他にも、防腐剤、安定化剤、水和剤または乳化剤、浸透圧調節のための塩、及び/又は緩衝剤等の医薬品添加物、及びその他治療上、有用な物質を更に含有していてもよい。本発明の注射剤組成物は、直腸、局所、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下などの経路にて投与できる。本発明の実施態様によると、凍結乾燥形態の組成物を注射用蒸留水、5%ブドウ糖、及び生理食塩水などの水性媒体で再構成し、静脈注射にて投与することができる。
【0051】
本発明の他の側面によると、(a)(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び(iii)活性成分としてのラパマイシンを有機溶媒に可溶化する工程;(b)前記工程(a)の生成物から有機溶媒を除去する工程;及び(c)前記工程(b)の生成物に水性媒体を加える工程を含むラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の製造方法が提供される。
【0052】
前記工程(a)で、有機溶媒には、好ましくは、ジクロロメタン、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリル、1,2−プロピレングリコール、N−メチルピロリドン、N,N−ジアセトアミド、ポリエチレングリコールまたはその誘導体(分子量300〜600ダルトン)、及びグリセリンよりなる群から選択される一つ以上が挙げられる。
【0053】
前記工程(b)で、有機溶媒の除去は従来の方法により行うことができる。具体的には真空蒸発器を用いて蒸発させることができる。
【0054】
前記工程(c)で、水性媒体には蒸留水、注射用水、生理食塩水または凍結乾燥保護水溶液が使用可能である。
【0055】
本発明のラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の製造方法は、前記工程(c)の後に、その生成物に二価または三価の金属イオンを添加し、ポリ乳酸またはその誘導体の末端基を更に固定する工程(c−1)をさらに含んでいてもよい。例えば、前記工程(c)で得られた高分子ミセル水溶液に、二価または三価の金属イオンを含む水溶液を加え、室温で30分以上撹拌することができる。前記二価または三価の金属イオンは、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、リン酸塩、及び水和物の形態で添加することができる。具体的には、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムまたは水酸化亜鉛を添加することができる。
【0056】
また、本発明のラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の製造方法は、(d)前記工程(c)または工程(c−1)で得られた高分子ナノ粒子組成物を滅菌する工程;(e)滅菌したミセル水溶液を容器に一定量ずつ充填する工程;及び(f)前記工程(e)で充填された容器を凍結乾燥する工程を更に含んでいてもよい。前記工程(f)で、凍結乾燥時、凍結乾燥保護剤としてマンニトール、ソルビトール、乳酸、トレハロース、及びスクロースよりなる群から選択される一つ以上を使用することができる。より具体的には、マンニトールを使用することができる。また、前記凍結乾燥後、(g)蒸留水、注射用水、生理食塩水などの水溶媒体で再構成し、ラパマイシン含有注射用水溶液組成物を得る工程を更に含んでいてもよい。
【0057】
本発明のさらに別の側面によると、本発明のラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物を活用した、放射線療法と併用するための抗癌組成物が提供される。
【0058】
本発明の抗癌組成物を放射線療法と併用して投与する場合、ラパマイシンの体内投与は30mg/m2〜300mg/m2の投与量で1回投与し、この時、放射線は1日量80Gyで5回照射できる。本発明の抗癌組成物の場合、ゆっくりと点滴静脈注射、皮下または筋肉注射することが可能である。
【0059】
癌を移植した動物実験において、本発明に係る高分子ナノ粒子組成物を、放射線と共に処理した場合、その組成物の有効性は顕著に向上する。例えば、本発明の抗癌組成物は数分〜数週の間隔で、放射線照射の前または後に投与することができる。投与方法は、本発明の組成物と放射線療法との間の時間間隔は、有意に延長することが好ましい。従って、二つの療法間に数日〜数週の間隔差があってもよい。本発明の抗癌組成物と併用可能な放射線は、例えば、γ線、X線(外部ビーム)などを含む。本発明の実施態様で、放射線の量は約1〜100Gyの範囲、具体的に約5〜80Gy、より具体的に10〜50Gyの範囲で照射することがきる。放射性同位元素の用量範囲は、同位元素の半減期及び放出された放射線の強度と種類によって決定される。
【0060】
本発明の一実施態様によると、本発明のラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物を活用した、放射線療法と併用するための抗癌組成物は、放射線照射の1分〜7日前に投与できる。
【0061】
本発明の他の実施態様によると、本発明のラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物を活用した、放射線療法と併用するための抗癌組成物は、放射線療法と組み合わせられる化学療法を4〜12週間に亘って週1〜5回(例えば、週1回、週2回、週3回、週5回)実施する併用療法に使用できる。
【0062】
本発明のさらに別の実施態様によると、哺乳動物の癌細胞に放射線照射時、照射前または照射後に、本発明のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物を投与し、放射線療法に対する哺乳動物の癌細胞の感受性を増進することが可能な、哺乳動物の癌細胞の放射線療法方法を開示する。
【0063】
以下、本発明を製造例、実施例、及び実験例などを通して詳しく説明する。しかし、これらは本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲はこれらにより制限されるものではない。
【0064】
製造例1.D,L−PLA−COONa(数平均分子量1,200ダルトン)
本発明のポリ乳酸アルカリ金属塩は、韓国出願第2002−0063955号などに開示された方法に従って製造した。即ち、D,L−乳酸1,000gを、撹拌機を取り付けた2L三口フラスコに入れた。その後、80℃に加熱した油槽で、加熱及び減圧アスピレータで25mmHgに減圧しながら、1時間反応させ、過度に存在する水分を除去した。反応温度を160℃に上げ、圧力を5〜10mmHgに減圧した条件で、7時間反応させた後、反応を終了した。その結果、粗ポリ乳酸646gを得た。下記NMR分析法で測定した結果、製造されたポリ乳酸の数平均分子量は1,200ダルトンであった。前記ポリ乳酸500gにアセトニトリル750mLを加え、溶解した。そこに、炭酸水素ナトリウム水溶液(0.1g/mL)750mLをゆっくり加えた。室温で2時間撹拌し、高分子を中和した。中和した高分子溶液に、塩化ナトリウム75gを加え、層分離した。層分離した有機溶媒層を集め、有機溶媒を分留、除去し、ポリ乳酸ナトリウム塩を製造した。
【0065】
ポリラクティック酸ナトリウム塩に対するNMRの測定結果を図1に示す。
1H−NMRスキャンのピーク面積から数平均分子量の計算>
〔式1〕
数平均分子量(ダルトン)={(A+B)/(C/N)}×72.1
式中、
AはD,L−ポリ乳酸のメチレンプロトンのピーク面積であり、
Bは高分子末端D,L−乳酸のメチレンプロトンのピーク面積であり、
Cはジカルボン酸のメチレンプロトンのピーク面積であり、
Nはジカルボン酸のメチレンプロトンの個数である。
【0066】
製造例2.mPEG−PLA(分子量2,000〜1,700ダルトン)
500gのモノメトキシポリエチレングリコール(数平均分子量:2,000)を100mLの2口丸底フラスコに加え、減圧下、100℃に2〜3時間加熱し、脱水した。反応フラスコに乾燥窒素を充填し、注射器を用い、反応触媒のスタナスオクトエート(Sn(Oct)2)をD,L−ラクチドの約0.1重量%(1g、2.5モル)の量で加え、30分間撹拌した後、130℃で1時間減圧(1mmHg)し、触媒を溶解した溶媒(トルエン)を除去した。そこに精製したラクチド1,375gを加え、130℃で18時間加熱した。生成した高分子を塩化メチレンに溶解した後、ジエチルエーテルに加え、高分子を析出した。得られた高分子を真空オーブンで48時間乾燥した。前記過程を通して得られたmPEG−PLAの数平均分子量は2,000〜1,750ダルトンであり、図2のH−NMRにより、A−B型であることが確認された。
【0067】
実施例1.ラパマイシン含有D,L−PLA−COONa/mPEG−PLA混合高分子ナノ粒子組成物
ラパマイシン20mg、製造例2のmPEG−PLA 895mg、製造例1のD,L−PLACOONa 329mgをエタノール中で可溶化した後、真空蒸発器で有機溶媒を蒸発させた。前記乾燥物に、ラパマイシン濃度が2mg/mLになるように注射用滅菌水を加え、ミセルを形成した。D,L−PLACOONaのモル量の1/2モル量になるように、二価のカルシウム金属イオンを約26mg、精製水に溶解した後、200rpmにて撹拌中のミセル水溶液に滴下しながら、ポリ乳酸塩末端基をイオン結合で固定し、ラパマイシンが封入された高分子ナノ粒子を形成した。この溶液を0.2μmの膜にて滅菌ろ過した後、バイアルに入れ、凍結乾燥した。製造した組成物のラパマイシン含量及び高分子ナノ粒径の測定結果は、下記通りである。
−含量:99.8%
−粒径:19.5nm
【0068】
実験例1.ラパマイシン含有高分子ナノ粒子の薬物動態評価
実施例1のラパマイシン封入ナノ粒子組成物の薬物動態を評価した。動物実験のために、体重210〜250gのSDラットの雄を用い、ラパマイシンを基準に5mg/kg用量を静脈及び皮下注射後、5、15、30分、及び1、2、4、8、24時間毎に0.3mLの全血を尾静脈から採血した。採血した全血は、タンパク質沈澱法(PPT, Progress in Pharmaceutical and Biomedical Analysis, Volume 5, 2003, Pages 199-254)で処理した後、遠心分離し、0.15mLの上清を得、LC/MS/MS法で血中ラパマイシン濃度を分析した。
(1)HPLC条件
i)分析カラム:Zorbax XDB−C18(2.1×100mm, 3.5mm, Agilent)
ii)移動相:10mM酢酸アンモニウム/MeOH(1/99,v/v)
iii)流速:0.3mL/min
(2)タンデム質量分析
i)イオン化: エレクトロスプレーイオン化,Negative(ESI−)
ii)MS法: 多重反応モニタリング(MRM)
iii)キャピラリー電圧:2.95kV
iv)コーン電圧:134V
v)衝突エネルギー:22eV
vi)温源:100℃
vii)脱溶媒和温度:200℃
viii)遷移量:シロリムス912.6→321.4amu
【0069】
ラパマイシンの薬物動態プロファイルを図3に、その薬物動態パラメーターを表1に示す。静脈投与と皮下投与のCmaxは、静脈投与時が皮下投与時より約7倍高く、消失段階での半減期(t1/2)は、約3時間とほとんど同じであったが、24時間での血中濃度は皮下投与時が静脈投与時より約2倍高かった。静脈投与時を100としたとき、皮下投与時の生体内利用率(F%)は約74%であった。
【0070】
【表1】

【0071】
実験例2.ラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の放射線増感効果の評価
放射線療法と併用した時の、実施例1の組成物の抗癌活性を調べた。
【0072】
液体窒素に保存したものから細胞を採取し、試験管内細胞培養のために用いた。細胞を採取した後、滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、生存細胞数を測定した。細胞を7×107細胞/mLの濃度で滅菌PBSに再懸濁した。
【0073】
健常なヌード(nu/nu)無胸腺マウス(20〜25g、8週齢)の右側腹部に7×105ヒト肺癌細胞(A549)を含有する0.1mLの細胞懸濁液を皮下注射した。A549は、放射線と抗癌剤を含む化学療法に耐性を有する癌としてよく知られている。癌が一定のサイズに達した後、3回異種移植して3〜4mmの異種移植片を形成した。異種移植断片を健常なヌード(nu/nu)無胸腺マウス(20〜25g、8週齢)の右側腹部に、12ゲージ套管針で皮下注射した。腫瘍体積が100〜300mm3に達した後、薬物を投与し、この時点を1日目と記録した。1日目に、マウスを5群に分け、5日間、毎日、実施例1の組成物を、尾静脈を介して、ラパマイシン5mg/kg用量で投与し、3時間後、2Gyの放射線を照射した。時間経過とともに腫瘍の長軸及び短軸を測定し、これより腫瘍体積を下記数式1により計算した。また、治療効果を評価するために、相対的腫瘍体積を下記の数式2のように計算した。
〔数式1〕
腫瘍体積(TV)=0.5×L×W
(L:長軸、W:短軸)
〔数式2〕
相対的腫瘍体積(RTV)=(Vt/Vo)×100%
(Vt:t日目のTV、Vo:0日目のTV)
【0074】
実験の有意性を確認するために、一処理当たり4匹以上のマウスと、一群当たり4個以上の腫瘍を使用した。処理開始時点で、最小腫瘍径は4または30mm3の体積に相当する。最終薬物投与後、2週間以内に死亡した動物を細胞毒性の死とみなし、評価から除外した。3匹につき1匹以上の細胞毒性死があった処理群や、平均体重が15%以上減少した後、完全に回復しない処理群は、抗腫瘍効果がないとみなした。実験結果を図4に示す。
【0075】
図4に示すように、実施例1の組成物単独投与群(PNP−Si)と放射線単独治療群(IR)の抗癌効果は、無処理群(CONT)及び高分子ナノ粒子対照溶媒投与群(PNP)に比べて、良好な癌増殖の抑制を示した。しかし、実施例1の組成物と放射線療法を併用した群(IR+PNP−Si)の場合は、CONT及びPNP群だけでなく、PNP−Si群及びIR群に比べても、さらに一層、抗癌効果を発揮し、癌の増殖をほぼ阻止することが示された。
【0076】
実施例2.ラパマイシン含有D,L−PLA−COONa/mPEG−PLA混合高分子ナノ粒子組成物
ラパマイシン25mg、製造例2のmPEG−PLA 1,650mgと製造例1のD,L−PLACOONa 825mgをジクロロメタンに完全に溶解した後、減圧下にてロータリーエバポレーターを用い、有機溶媒を蒸発させた。前記乾燥物にラパマイシン濃度が1.0mg/mLになるように注射用水を加え、ミセルを形成させた。さらに塩化カルシウム溶液100mg/mLを塩化カルシウムで67.5mgになるようにし、ミセルに加え、混合液を撹拌した。この溶液を0.2μm膜にて、ろ過滅菌した後、バイアルに入れ、凍結乾燥した。製造された組成物のラパマイシン含量及び高分子ナノ粒子サイズの測定結果は下記のとおりである。
−含量:101.9%
−粒径:19.7nm
【0077】
実験例3.ラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の試験管内抗癌活性評価
実施例2のラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物を用い、ラパマイシンが高分子ナノ粒子に封入された後にも、癌細胞の増殖抑制効果が保持されるか否かを評価するために、下記実験を実施した。
【0078】
肺癌細胞のA549、NCI−H460細胞株と乳癌細胞のMDA−MB−231、MCF7をそれぞれDMEM(A549、MCF7)、RPMI1640(NCI−H460、MDA−MB−231)細胞培養液で培養した。処理一日前に、それぞれ、50個(生理食塩水実験群、ラパマイシン非含有高分子ナノ粒子組成物)、100個(ラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物、ラパマイシン)の細胞を6穴培養ディッシュに分注した。培養器で24時間培養し、細胞を培養皿の底に付着させた。培養液を除去した後、2mLの新しい培養液で、試料をそれぞれ10、100、500nMに希釈し、細胞を処理した。この細胞を培養器で14日間培養し、細胞コロニーを得た。0.5%のクリスタルバイオレット溶液で細胞を固定及び染色した後、生成されたコロニーの数を求めた。生理食塩水実験群で得た細胞コロニー数を使用してコロニー形成率(plating efficiency)を求めた(数式3)。
〔数式3〕
コロニー形成率=生理食塩水処理群のコロニー数/生理食塩水処理群の分注した細胞数×100
各実験群での生存率(surviving fraction)は下記の数式4により求めた。
〔数式4〕
生存率=処理群のコロニー数/(処理群の分注した細胞数×コロニー形成率/100)
実験結果を図5に示す。
【0079】
図5の結果を参照すると、ラパマイシン非含有高分子ナノ粒子対照溶媒は、細胞の増殖能力に及ぼす影響がほとんどなく、ラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物(PNP-シロリムス)は、ラパマイシン自体の使用と同様に癌細胞の増殖能力を顕著に減少させることが確認された。これは、ラパマイシンが高分子ナノ粒子に封入されても薬効が保持されていることを意味するものである。
【0080】
実験例4.ラパマイシン含有高分子ナノ粒子の薬物動態の評価
実施例2のラパマイシン封入組成物の薬物動態を、実験例1と同様の方法で評価した。但し、上記組成物をラパマイシン基準に10mg/kg用量を経口、静脈または皮下注射した後、15、30分、及び1、2、4、8、24、48時間毎に0.3mLの全血を尾静脈から採血した。
【0081】
ラパマイシン血中濃度の分析結果を図6に示し、薬物動態パラメーターを表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
静脈投与した実施例2の組成物のAUCは、ラパマイシン自体のAUCに比べて3倍以上高く現われ、その結果、本発明の高分子ナノ粒子組成物は、血中滞留性を有することが分かった。微粒子の薬物伝達体が血中滞留性を有するという事実は、EPR(浸透性および滞留性の増強)効果による癌組織内の蓄積性を有するという意味であり、低用量でも同じ効果を有し得ることを意味する。
【0084】
実施例2の組成物を皮下投与する場合、生体内利用率(BA%)は、100%であった。静脈投与のAUCは約33%水準であったが、24時間及び48時間での血中濃度は約2倍以上であった。すなわち、持続的に有効濃度以上のレベルが長時間保持された。経口投与時、生体内利用率は約30%であり、既存の経口剤型(20%未満)より本発明の組成物がさらに高い生体内利用率を示した。
【0085】
実験例5.ラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の癌移植動物モデルでの抗癌効果の評価
実施例2のラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の動物モデルでの抗癌効果を下記のように評価した。
【0086】
肺癌細胞株A549細胞をDMEM培地で培養した。細胞を採取した後、滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄してカウントした。健常なヌード(nu/nu)無胸腺マウス(20〜25g、6週齢)の右大腿に、1×106個のA549細胞を含有する0.1mLの懸濁液を皮下注射した。3週後、癌腫のサイズが約70mm3に達した後、マウスを5群に分け、この時点を1日として記録した。この時点から20mg/kgの用量でラパマイシン含有、非含有高分子ミセル組成物をそれぞれの実験群に尾静脈注射を介して投与した。1日目から、1週間に2回、腫瘍の長軸及び短軸を測定し、これより腫瘍の体積を数式5により求めた。腫瘍体積測定と同時にマウスの体重も測定した。
〔数式5〕
腫瘍体積=0.5×(長軸の長さ)×(短軸の長さ)2
図7に示すように、ラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物は、コントロール群及び対照溶媒(Vehicle)投与群に比べて顕著なA549癌の増殖遅延効果を示した。週3回、4週間投与した群(q3d×3days×4weeks)が週1回、4週間投与した群(qw×4weeks)に比べて、わずかに抗癌効果に優れていたが、有意差はなかった。このことから、本発明に係る製剤は、薬物過剰投与時の薬物毒性発現の可能性を考慮する時、低用量でも効果を発揮できると判断できる。一方、薬物投与に伴うマウスの体重変化は10%未満であり、投与完了後、回復する傾向を示した。薬物を週3回、4週間投与した群は、薬物を週1回、4週間投与した群に比べて回復が遅かった。
【0087】
実験例6.ラパマイシン含有高分子ナノ粒子組成物の放射線増感効果の評価
放射線療法と併用した時の、実施例2の組成物の抗癌活性を、実験例2と同様にして評価した。その実験結果を図8に示す。本実験は実験例2とは異なって、上記組成物を5日間だけ毎日、5mg/kg用量を投与した後、放射線照射群(2Gy処理)と未処理群を比較した。
【0088】
図8に示すように、実施例2の組成物単独投与(実施例2)と放射線単独治療(IR)群は、コントロール群よりは優れた抗癌効果を示したが、実施例2の群とIR群との間には有意差はなかった。しかし、実施例2の組成物を投与3時間後に2Gyの放射線照射を行った群(実施例2+IR)は、コントロール群の全てに比べて高い癌増殖抑制を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、
(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び
(iii)活性成分として、ラパマイシンを含み、
前記A−B型ジブロック共重合体と前記ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩が形成するミセルの内部に、ラパマイシンが封入されることを特徴とするラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項2】
前記ジブロック共重合体の親水性ブロック(A)の数平均分子量が500〜20,000ダルトンであり、前記疎水性ブロック(B)の数平均分子量が500〜10,000ダルトンであり、前記ジブロック共重合体内の親水性ブロック(A)の含量がジブロック共重合体全体100重量%を基準に、40〜70重量%である請求項1に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項3】
前記親水性ブロック(A)がポリエチレングリコールまたはメトキシポリエチレングリコールであり、前記疎水性ブロック(B)がポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、及びこれらの共重合体よりなる群から選択される一つ以上である請求項1に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項4】
前記末端に少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体が、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、及びこれらの共重合体よりなる群から選択される一つ以上であり、その数平均分子量が500〜2,500ダルトンである請求項1に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項5】
前記アルカリ金属が、ナトリウム、カリウム、及びリチウムよりなる群から一つ以上選択される一価金属である請求項1に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項6】
更に、二価または三価の金属イオンを含むものである請求項1に記載のラパマイシン高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項7】
前記二価または三価の金属イオンが、カルシウム、マグネシウム、バリウム、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、及びアルミニウムよりなる群から選択された金属の二価または三価カチオンである請求項6に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項8】
前記A−B型ジブロック共重合体と、前記末端に少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩との重量比が、9:1〜3:7である請求項1に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項9】
前記ラパマイシンの濃度が、0.1〜25mg/mLに再構成されるものである請求項1に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物。
【請求項10】
(a)(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び(iii)活性成分として、ラパマイシンを有機溶媒に可溶化させる工程、
(b)前記工程(a)の生成物から有機溶媒を除去する工程、及び
(c)前記工程(b)の生成物に水性媒体を加える工程、
を含むラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物の製造方法。
【請求項11】
前記工程(c)の後に、更に、その生成物に二価または三価の金属イオンを添加する工程(c−1)を含むものである請求項10に記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物の製造方法。
【請求項12】
(i)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を有するA−B型ジブロック共重合体、
(ii)末端に、少なくとも一つのカルボキシル基を含むポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩、及び
(iii)活性成分として、ラパマイシンを含み、
前記A−B型ジブロック共重合体と、前記ポリ乳酸またはその誘導体のアルカリ金属塩とから形成されるナノ粒子の内部に、ラパマイシンが封入されるものであることを特徴とする、放射線療法と併用するための抗癌組成物。
【請求項13】
更に、二価または三価の金属イオンを含むものである請求項12に記載の放射線療法と併用するための抗癌組成物。
【請求項14】
放射線照射の1分〜7日前に投与されるものである請求項12に記載の放射線療法と併用するための抗癌組成物。
【請求項15】
放射線療法と組み合わせた化学療法を、4〜12週間に亘って、週1〜5回実施する併用療法に用いられるものである請求項12に記載の放射線療法と併用するための抗癌組成物。
【請求項16】
哺乳動物の癌細胞を放射線療法で治療する方法であって、哺乳動物の癌細胞に放射線照射時、照射前または照射後に、請求項1〜9のいずれかに記載のラパマイシン含有高分子ナノ粒子注射剤組成物を投与し、哺乳動物の癌細胞の放射線療法に対する感受性を増大させることを特徴とする治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−516407(P2013−516407A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547021(P2012−547021)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009476
【国際公開番号】WO2011/081430
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(511285358)サムヤン バイオファーマシューティカルズ コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】