説明

改良された、逆エマルジョンポリマーの逆転

特定の化学構造を有する界面活性剤の組合せを用いて、逆エマルジョン水親和性ポリマー生成物を逆転させる方法を開示する。2種類以上の界面活性剤の組合せ若しくはブレンドは、効果的な破壊用界面活性剤系を提供する。界面活性剤ブレンドは、個別の界面活性剤よりも効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明の分野は、逆エマルジョンポリマー生成物の逆転に関する。本発明は、油中水型(w/o)逆エマルジョンポリマーの逆転を改良するための界面活性剤組合せの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
逆重合、即ち、油中水型重合は、高分子量水親和性ポリマーの製造に、商業的規模で用いられている。油中水型エマルジョンポリマーは、科学文献において、逆エマルジョンであると述べられている;これは、水不溶性ポリマーが水性媒質中に分散している水中油滴(o/w)若しくはラテックスエマルジョン技術の変形としてのその歴史的展開に基づいている。逆エマルジョンは、非水性(油)相中に分散した水性(水)相を意味し、この場合、該水性相と油相は、それぞれ、不連続相と連続相と呼ばれることもありうる。得られる水親和性ポリマーは、不連続水性相中に存在する。
【0003】
この製法の利点は、低粘性の高固形分体として、高分子量水親和性ポリマーを製造できることである。この製法は、20〜50%がポリマーである低粘性を示すエマルジョンを生成し、該ポリマーは、数千万の分子量を有することが可能である。これとは対照的に、高分子量の水溶性ポリマーを製造するための他の方法は、水溶性モノマーの溶液重合を包含するが、これは、低固形分溶液(<5%ポリマー)及び/又は高い溶液粘度及び/又は低い生成物分子量を招く。低固形分の生成物はまた、輸送にもより大きく費用がかかる可能性がある。
【0004】
逆エマルジョンポリマーは、より一般的には界面活性剤として知られる表面活性剤を用いて、製造され、安定化される。用いられる界面活性剤は、重合前に、油相中の水溶性モノマーの乳化を可能にして、得られるエマルジョンポリマーに安定性を与えるであろう。重合プロセス中で安定なエマルジョンが必要であることは言うまでもないが、沈降抵抗性や、経時的粘度変化と早期逆転とが最小であることを含めた安定性には、強力なエマルジョン安定化パッケージ(emulsion stabilization package)を必要とされる。優れたエマルジョン安定性を与えるエマルジョン界面活性剤系が、開発されている。
【0005】
エマルジョンの逆転は使用前の工程を意味し、ここでは相が反転して、ポリマーが不連続相から放出される。多量の水溶液の添加は、本発明の方法の重要な態様である。これは、連続水性(水)相を生じ、それまで分散していた水性相が凝集して、溶解状態のポリマーの分散を生じて、結果として、該溶液の増粘化を招く。エマルジョンへの「破壊用界面活性剤(breaker surfactants)」と呼ばれる界面活性剤の添加が逆転を助成する。該破壊用界面活性剤は、ある程度の撹拌若しくは剪断を用いて比較的多量の水を油中水型エマルジョンと一緒にするときに、元のエマルジョンの安定化系を破壊するように機能する。エマルジョンの逆転又は相反転を生じるのは、これらの3要素:多量の分散相、剪断力及び破壊用界面活性剤(単数又は複数)の連合作用による。さらに、該ポリマーはこの時点で他の水性相物質と相互作用するのに利用される。比較的少量(該オリジナルエマルジョンの20〜40重量%)の油が、水相中に分散するようになり、この場合、多量の水溶液の添加のために、該油は比較的少量の成分になる。
【0006】
該ポリマーは、水溶液中に逆転し、結果として生じる活性ポリマー濃度は、典型的に、0.1〜1.0重量%の範囲である。用いる濃度は、非限定的に、水の化学と温度、溶液粘度、供給速度、及び装置サイズと流量を包含する、多くの要素に依存する。
【0007】
バッチ系、連続系又は半連続系のいずれかを用いて、エマルジョンポリマーを水溶液中に逆転させることができる。バッチ・プロセスでは、水を含有する容器の撹拌器渦流中にエマルジョン原液を、目標濃度に達するまで、供給する。次に、ポリマーを均質になるまで混合する。連続又は半連続系では、水の細まり流れと、所望の濃度のエマルジョン原液の細まり流れとが接触する。生じる混合物は、次に、例えばスタティック・ミキサー(static mixer)又は機械的ポンプのような混合工程に通されて、そこで、混合作用が逆転工程を向上させる。次に、該水溶液は、典型的に、タンクに移入され、そこで、均質になるまで混合される。連続系では、タンクに移入する工程が削除される。
【0008】
ポリマーの分散を助けるために、該プロセスに導入する直前の逆転ポリマー溶液に、追加の希釈水が通常加えられる。
【0009】
追加の界面活性剤の使用により、エマルジョンの逆転、今や連続相となった水相中への導入、並びにその後の該連続水相の増粘化を促進・容易化することは知られている;この界面活性剤は、しばしば、「インバーター」、「逆転界面活性剤」又は「破壊用界面活性剤」と呼ばれる(「破壊用」なる用語を用いる)。混乱を避けるために、「乳化界面活性剤」なる用語は、本明細書では、エマルジョンを安定化させるために用いる界面活性剤(単数又は複数)を意味するように用いることにする。「破壊用界面活性剤」なる用語は、エマルジョンを破壊する又は逆転させるために用いる界面活性剤(単数又は複数)を意味するように用いることにする。「エマルジョン安定化パッケージ若しくは系」なる用語は、1種又はそれより多い乳化界面活性剤を意味する。「破壊用界面活性剤パッケージ若しくは系」なる用語は、1種又はそれより多い破壊用界面活性剤を意味する。
【0010】
破壊用界面活性剤(単数又は複数)は、通常、重合後に、得られたエマルジョンポリマー中に加えるが、エマルジョン安定化パッケージの一部として加えることができる。これらのエマルジョンは、水中での過剰な高剪断条件下で自己逆転するので、自己逆転界面活性剤と呼ばれる。或いは、破壊用界面活性剤(単数又は複数)を適当な箇所で逆エマルジョンに加えることができる、又は逆エマルジョンの添加前の水に加えることができる。逆転工程は、エマルジョンポリマー生成物の有用性にとって重要である、その理由は、逆転工程は、該ポリマーを連続水性相中に入れることになるからであり、該ポリマーはその後、そこで、凝集剤、凝固剤、分散剤又は流動剤として作用しうる。
【0011】
油中水型エマルジョンが商業的に存立可能かどうかは、エマルジョンを容易にかつ効果的に逆転させる能力にかかっている。エマルジョンを逆転させるために要する時間は、重要な製品の物特性である。溶液が最大粘度に達するための時間は、ポリマーがエマルジョンから水溶液中へ完全に平衡化していることの指標であるので、これは逆転時間の良好な尺度である。逆転時間の他の指標は、ポリマー添加後の溶液導電率である。逆転が不良なエマルジョンは、ポリマーが不連続相内に留まるので、低い導電率を示すが、良好な逆転性を有するエマルジョンは、水中への導入後に、ポリマーが水溶液中に分散するので、高い導電率を示す。
【0012】
逆転は、典型的には、適用箇所での使用直前に行なわれる。このプロセスのために重要なのは、破壊用界面活性剤系の選択である。該破壊用界面活性剤系は、逆転工程中に元のエマルジョンの安定化系を破壊し、相の反転を促進・容易化し、ポリマーが水溶液中に完全に導入されるのを可能にする化学的性質を有さなければならない。しかし、商業的に存立可能なエマルジョン生成物のための他の重要な必要条件は、該エマルジョンが、製造と使用との間の期間中に安定でなければならないことである。したがって、生成物安定性と逆転の容易さとの間に、釣り合いが存在しなければならない。
【0013】
優れたエマルジョン安定性を与える、逆エマルジョンポリマーに用いるためのエマルジョン界面活性剤系は、開発されているが;このようなわけで、これらの系は、逆転させるのが困難でありうる。逆転させるのが最も困難である安定化系には、1種またはそれより多いジブロック及びトリブロックポリマー界面活性剤を含有する系が包含される。逆転させるのが特有に困難である、他の逆エマルジョン水溶性ポリマー系は、該ポリマー(又はそのモノマー)が疎水性基又は表面活性基を含有する系である。
【0014】
逆エマルジョン重合は、高分子量水溶性ポリマーを製造するための標準的な化学プロセスである。このようなプロセスは、当業者に知られている、例えば、米国特許No.3,284,393と、再発行米国特許No.28,474及びNo.28,576を参照のこと。破壊用界面活性剤の使用は、当業者に知られている、例えば、ポリマー粉末を油中水型エマルジョン中に溶解し、次に、該エマルジョン又は水へのアルキルフェノールエトキシレートの添加によって逆転速度に影響を与えることによって、製造した逆エマルジョンの逆転を記載する米国特許No.3,642,019及び3,734,873を参照のこと。米国特許No.5,925,714は、破壊用界面活性剤としてアルコキシル化ひまし油を0.5〜7.0%のレベルで用いる、自己逆転性逆エマルジョンを特許請求している。この発明は、逆転が改良されたことによる、ポリマー凝固効率の改良として記されている。
【0015】
逆エマルジョンを安定化するためにポリマー界面活性剤を用いることは、当該技術分野で知られている。ポリマー乳化界面活性剤系は1種またはそれより多いポリマー界面活性剤を含むことができる。
【0016】
当該技術分野には、現在知られているものよりも効果的である逆転系を見い出す必要性が依然として存在する。
【0017】
発明の簡単な説明
本発明は、エマルジョン重合生成物の逆転に関する。本発明は、油中水型ポリマーエマルジョンの逆転方法であって、(a)水性相に水親和性(水溶性又は水中分散性ポリマーを有する油中水型ポリマーエマルジョンを用意すること、(b)該油中水型ポリマーエマルジョンを、少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤と第二の破壊用界面活性剤とを含み、該破壊用ポリマー界面活性剤が1つ以上の親水性基を含有する界面活性剤組合せ物の有効量と接触させること、及び(c)該エマルジョンを逆転させること、を含む方法に関する。
【0018】
少なくとも2種類の界面活性剤の組合せ又はブレンドが、効果的な破壊用界面活性剤系であることは、判明している。界面活性剤の組合せは、個々の界面活性剤よりも効果的であり、したがって、相乗効果が観察される。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、非ポリマー界面活性剤と組合せた、エマルジョンポリマー生成物のための効果的な破壊用界面活性剤(単数又は複数)としての、1つ以上の親水性セグメントを有するポリマー界面活性剤の使用に関する。「効果的」なる用語は、迅速な逆転と、平衡値まで溶液粘度が比較的迅速に上昇することを表すために用いられる。
【0020】
少なくとも2種類の界面活性剤の組合せ又はブレンドが効果的な破壊用界面活性剤系であることは、判明している。該組合せの第一成分若しくは主要破壊用界面活性剤は、少なくとも1つ又はそれ以上の親水性基を含むポリマー界面活性剤である。該ポリマー界面活性剤と組合せて用いるための第二若しくは補助破壊用界面活性剤は、非ポリマー界面活性剤である。
【0021】
界面活性剤のある一定の組合せが、逆転させるのが困難である逆エマルジョン水親和性(水溶性又は水中分散性)ポリマー生成物のための破壊用界面活性剤として効果的であることが、意外にも、判明している。これらの破壊用界面活性剤はまた、大抵の逆エマルジョン重合生成物の逆転にも有効である。本発明について、「水親和性」なる用語は、水溶性ポリマーと水中分散性ポリマーの両方を包含する。
【0022】
本発明は、油中水型ポリマーエマルジョンの逆転方法であって、(a)水性相に水親和性ポリマーを有する、油中水型エマルジョンを用意すること;(b)該油中水型ポリマーエマルジョンを、有効量の破壊用界面活性剤組合せ物と接触させること、ここで該組合せ物は少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤と第二の破壊用界面活性剤とを含み、該ポリマー界面活性剤が1またはそれより多い親水性基を含有する;及び(c)該エマルジョンを逆転させること、を含む方法に関する。
【0023】
該破壊用界面活性剤を一緒に又は同時に加えなければならないことはない。主要破壊用界面活性剤と補助破壊用界面活性剤をブレンドとして一緒に加えることができる、或いは、いずれかの順序で別々に若しくは個々に、エマルジョンに加えることができる。破壊用界面活性剤は、一般に、ポリマーを形成するモノマーの重合後にエマルジョンに加えられる。破壊用界面活性剤の一部又は全てを、モノマーの重合前に加えることができる。また、ポリマーの形成後のいつでも、破壊用界面活性剤を添加することができる。ポリマーを使用する準備ができるまで、ポリマーを油中水型エマルジョン状態に留めて、その後に、破壊用界面活性剤を加えることができる。
【0024】
油中水型エマルジョンを逆転させるには、一般に、多量の水を該油中水型エマルジョンと接触させる。場合によっては、破壊用界面活性剤の全て又は一部を該多量の水に加えてから、この破壊用界面活性剤の一部又は全てを含有する多量の水を、油中水型エマルジョンと接触させることもできる。
【0025】
本発明の1つの好ましい実施態様では、ポリマー界面活性剤は2つ以上の親水性基を含有する。
【0026】
本発明の1つの実施態様では、第一破壊用界面活性剤は、親水性基の少なくとも1つがポリグリコール基であるような破壊用界面活性剤である。本発明の他の実施態様では、第一破壊用界面活性剤は、親水性基の少なくとも2つがポリグリコール基であるような破壊用界面活性剤である。該2つのポリグリコール基が同じ分子量及び/又は化学構造を有する必要はない。
【0027】
第一界面活性剤は、非限定的に、エチレンオキシド(EO)/プロピレンオキシド(PO)コポリマーを包含する群から選択されうる。EO−POコポリマーは、EO−POブロックコポリマーのサブセットを包含する。EO−POコポリマーは、出発分子からの、2種類のモノマーの一方、EO又はPOのいずれかの逐次反応によって製造される。出発分子は、時には開始剤と呼ばれ、EO又はPO重合の開始物質として作用し、得られるポリマーのコア(核)に存在することになる。次に、最初の重合に用いられない他方のモノマーが、初期ポリマーの末端ヒドロキシル基から反応する。出発分子は、一般には、ジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオール、ジアミン、トリアミン等である。出発分子の例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、エチレンジアミン等を包含する。出発分子の官能価は、抽出可能なプロトン数であり、出発分子コアから伝播するポリマー鎖の数を決定する。例えば、プロピレングリコール及びジエチレングリコールのようなジオールは、官能価2を有し、そのコアから発する2つの鎖を有すると考えられ、したがって、線状ポリマーである。エチレンジアミンは官能価4を有し、コアから発する4つのポリマー鎖を有すると考えられ、得られるポリマーは四官能性(tetrafunctional)である。出発分子の官能価に関係なく、得られるEO−POコポリマーは、ポリマー分子量をさらに増加させるために、二酸によって鎖をさらに伸長させることができる。二酸の知られた例の1つはフマル酸である。
【0028】
第一破壊用界面活性剤の例は、非限定的に、下記EO−POコポリマー:Pluronic(登録商標)L62、Pluronic(登録商標)L64、Pluronic(登録商標)L101、及びPluronic(登録商標)25R4、これらの全てはジオール・出発によって製造される(BASF Corporation,Mount Olive,NJの製品);Tetronic(登録商標)701、Tetronic(登録商標)704、Tetronic(登録商標)901、Tetronic(登録商標)904、及びTetronic(登録商標)90R4、これらの全てはエチレンジアミン・出発によって製造される(BASF Corporation,Mount Olive,NJの製品);Polyglycol PT7200、グリセロール・出発によって製造される(Dow Chemical Company,Midland,MIの製品);Pluracol(登録商標)380、トリメチロールプロパン・出発によって製造される(BASF,Wyandotte,MIの製品);及びWitbreak(登録商標)DGE-182、グリセロール・出発によって製造され、その後、フマル酸によって鎖伸長される(Akzo Nobel Surface Chemistry,Chicago,ILの製品)、並びにこれらの組合せを包含する。
【0029】
破壊用ポリマー界面活性剤と組合せて用いるための第二若しくは補助破壊用界面活性剤は、非ポリマー界面活性剤である。補助破壊用界面活性剤の例は、非限定的に、エトキシル化アルコール、アルコール・エトキシレート、ソルビタンのエトキシル化エステル、脂肪酸のエトキシル化エステル、エトキシル化脂肪酸エステル、ソルビトール及び脂肪酸のエトキシル化エステル、又は上記のいずれかの組合せを包含する。
【0030】
破壊用ポリマー界面活性剤は、破壊用界面活性剤組合せ物の少なくとも約1.0重量%から、好ましくは少なくとも約2.0重量%から、好ましくは少なくとも約2.5重量%から、より好ましくは少なくとも約5.0重量%からを占める。破壊用ポリマー界面活性剤は、破壊用界面活性剤組合せ物の約98重量%まで、好ましくは約75重量%までであることができる。破壊用ポリマー界面活性剤は、破壊用界面活性剤組合せ物の約2.0〜約98重量%、好ましくは約2.5〜約75重量%、より好ましくは約5〜約50重量%を占める。組合せた破壊用界面活性剤の総量は、総エマルジョン系の約10%未満又は約5%未満であることが好ましく、該総量は、総エマルジョン系の好ましくは約4%未満、最も好ましくは約3%以下である。10%を越える量も、本発明によって考えられる。しかし、界面活性剤の割合が増加するにつれて、エマルジョンの粘度が許容され難いレベルにまで上昇する可能性がある。全ての%は重量に基づくものである。
【0031】
界面活性剤は、表面及び界面に吸着する傾向を有する物質である。これは、界面活性剤の基本的な性質であり、表面に集積する傾向が強ければ強いほど、界面活性剤は良好である。界面活性剤は、疎水性部分と親水性部分の両方から構成される。英語のサーファクタント(surfactant:界面活性剤)なる言葉は、英語のサーフィス・アクティブ・エージェント(surface active agent:表面活性剤)の略語である。該物質にそれらの表面活性特性を与えるのは、親水性部分と疎水性部分の両方の存在である。界面とは、例えば空気/液体又は水性液体/有機液体のような、混和不能な2相の間の境界である。
【0032】
ポリマーは、共有結合によって連結した、多くの小さい、比較的単純な化学単位から構成される、大きい分子である。該化学単位は、当該技術分野では、モノマーと呼ばれる。ポリマーは、モノマー単位の連鎖であると見なすことができる。即ち、モノマーは共有結合によって連続形式で一緒に連結されるのであり、単一分子からの単なる側鎖ではない。該連鎖は、しばしば、主鎖と呼ばれる。ポリマーは1種又はそれより多いモノマーから構成されることができる。2種類以上のモノマーから構成されるポリマーでは、連鎖内の配置はランダムでも、交互でも、又はブロック状でもよい。ブロック状配置を有するポリマーは、一緒に結合された単一モノマー・セグメントから構成されたポリマーと見なすことができる。ポリマー鎖は線状でも、分枝状でもよい。
【0033】
ポリマー界面活性剤は、表面活性特性を有するポリマーである。界面活性剤の疎水性部分と親水性部分との両方は、本質的に、ポリマーである。ポリマー界面活性剤の構造は、非限定的に、親水性主鎖にグラフトされた疎水性鎖、疎水性主鎖にグラフトされた親水性鎖、又は交互の疎水性セグメントと親水性セグメントであることができる。
【0034】
この特許出願において、破壊用ポリマー界面活性剤は、疎水性セグメントと親水性セグメントの両方が、相互に共有結合した、5を超える単位(モノマー)から構成されている分子であると考えられ、該破壊用ポリマー界面活性剤の数平均分子量は500を越える。破壊用ポリマー界面活性剤なる用語が本明細書で定義されているとおり、その部分の1つのみが本質的にポリマーである界面活性剤は除外される。
【0035】
界面における界面活性剤濃度は、該界面活性剤の構造(化学的及び物理的)並びに、界面を形成する2相の性質に依存する。界面活性剤は、両親媒性であると言われ、このことは、界面活性剤が少なくとも2つの部分、特定の流体に溶解性である部分(親液性部分)と不溶性である部分(疎液性部分)から成ることを意味する。親水性及び疎水性なる用語は、それぞれ、該流体が水である場合に用いられる。ポリマー界面活性剤は、疎水性鎖が親水性主鎖ポリマーにグラフトされている分子、親水性鎖が疎水性主鎖にグラフトされている分子、及び疎水性セグメントと親水性セグメントとが交互である分子を包含する。本発明のために、ポリマー界面活性剤のための重要な識別要素は、疎水性セグメントと親水性セグメントの両方がポリマーであることである。これは、ポリマー界面活性剤を、ポリマー親水性セグメントが疎水性分子に連結されている界面活性剤構造から区別するためである。本発明のために、ポリマー親水性セグメントが疎水性分子に連結されている界面活性剤構造は、破壊用ポリマー界面活性剤に包含されない。このような界面活性剤構造の例は、非限定的に、エトキシル化脂肪酸、エトキシル化脂肪酸アミン及びエトキシル化アルコールを包含する。
【0036】
場合によっては、界面活性剤の作用を強化するために、他の物質を破壊用界面活性剤に加えることができる。これは、ヒドロトロープとして知られる物質を包含し、該物質の1例はトルエンスルホン酸ナトリウムである。
【0037】
逆エマルジョン重合は、当業者に知られた標準的化学プロセスである。一般に、逆エマルジョン重合プロセスは、(1)モノマーの水溶液を調製し、(2)該水溶液を、適当な乳化界面活性剤(単数又は複数)を含有する炭化水素液体に加えて、逆モノマーエマルジョンを形成し、(3)該モノマーエマルジョンについてフリーラジカル重合を行なって、(4)場合によっては、該エマルジョンを水に加えたときの該エマルジョンの逆転を促進するために、破壊用界面活性剤を加えることによって行なわれる。
【0038】
逆エマルジョンは、典型的には、例えば、アクリルアミド;メタクリルアミド;例えばN−メチルアクリルアミドのような、N−アルキルアクリルアミド;例えばN,N−ジメチルアクリルアミドのような、N,N−ジアルキルアクリルアミド;メチルアクリレート;メチルメタクリレート;アクリロニトリル;N−ビニルメチルアセトアミド;N−ビニルホルムアミド;N−ビニルメチルホルムアミド;酢酸ビニル;N−ビニルピロリドン;例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又はヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;上記のいずれかの混合物等のような、非イオン性モノマーに基づく水溶性ポリマーである。2種類以上の異なるモノマーを含有するコポリマーを製造することもできる。さらに、コポリマーは1種又はそれより多いアニオンモノマー又はカチオンモノマーを含有することができる。得られたコポリマーは、非イオン性、カチオン性、アニオン性、又は両性(カチオン電荷とアニオン電荷の両方を含有する)であることができる。イオン性水溶性ポリマー又はポリ電解質は、非イオン性モノマーをイオン性モノマーと共に共重合することによって、又はイオン官能性(ionic functionality)を与えるための、非イオン性ポリマーの重合後処理によって製造される。
【0039】
典型的なカチオン性モノマーは、非限定的に、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウムハライド、例えばジアリルジメチルアンモニウムクロリド;ジアルキルアミノアルキル化合物の(メタ)アクリレート、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、及びこれらの塩と四級塩(quaternaries);N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、及びこれらの塩と四級塩;並びに上記の混合物等のような、カチオン性エチレン系不飽和モノマーを包含する。
【0040】
典型的なアニオン性モノマーは、非限定的に、下記のような遊離酸とその塩:アクリル酸;メタクリル酸;マレイン酸;イタコン酸;アクリルアミドグリコール酸;2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸;3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸;スチレンスルホン酸;ビニルスルホン酸;ビニルホスホン酸;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸;及び上記のいずれかの混合物等を包含する。
【0041】
エマルジョンによっては、該エマルジョンの製造に用いた界面活性剤が原因となって、他のエマルジョンよりも破壊するのが困難な場合がある。問題の重合系に用いる乳化界面活性剤又は乳化界面活性剤混合物は、一般に、油溶性である。これらの乳化界面活性剤は典型的に、全体の組成に依存した一定範囲のHLB(親水性親油性バランス)値を有する。1種またはそれより多い乳化界面活性剤を用いることができる。乳化界面活性剤(単数又は複数)の選択と量は、重合のための逆モノマーエマルジョンを得るために選択される。エマルジョン重合系に用いる乳化界面活性剤は、当業者に知られている。典型的な乳化界面活性剤は、非限定的に、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン・ソルビタンモノオレエート、ジ−2−エチルヘキシルスルホスクシネート、オレアミド−プロピルジメチルアミン、イソステアリル−2−乳酸ナトリウム、又はこれらの混合物を包含する。問題の重合生成物の乳化界面活性剤(単数又は複数)は、少なくとも1種類のジブロック若しくはトリブロックポリマー界面活性剤を包含することができる。これらの界面活性剤が非常に効果的なエマルジョン安定剤であるが、逆転させるのが困難でありうることが、知られている。典型的なジブロック及びトリブロックポリマーエマルジョン界面活性剤は、非限定的に、脂肪酸のポリエステル誘導体とポリ(エチレンオキシド)に基づくジブロック及びトリブロックコポリマー(例えば、Hypermer(登録商標)B246SF, Uniqema, New Castle, DE)、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのジブロック及びトリブロックコポリマー(例えば、Pluronic(登録商標)F-127及びPluronic(登録商標)25R2(BASF Corp.,Mt.Olive, NJ))、ポリイソブチレン・無水コハク酸とポリ(エチレンオキシド)に基づくジブロック及びトリブロックコポリマー、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドとエチレンジアミンとの反応生成物、上記のいずれかの混合物等を包含する。ジブロック及びトリブロックコポリマーの乳化界面活性剤は、脂肪酸のポリエステル誘導体とポリ(エチレンオキシド)に基づくものであることができる。
【0042】
破壊するのが困難であるエマルジョン系の1例においては、ジブロック又はトリブロック乳化界面活性剤が、乳化系の主要乳化界面活性剤となっている。取り扱いと加工を容易にし、エマルジョン安定性を改良する、又はエマルジョン粘度を変えるために、補助乳化界面活性剤を加えることができる。補助乳化界面活性剤の例は、非限定的に、ソルビタン脂肪酸エステル、エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエトキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルフェノールのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド・アダクツ、長鎖アルコール若しくは脂肪酸のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド・アダクツ、混合エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド・ブロックコポリマー、アルカノールアミド、これらの混合物等を包含する。
【0043】
逆エマルジョン重合生成物の逆転は、通常は、困難なプロセスではない。逆転を促進するために、重合後の生成物に、通常、破壊用界面活性剤と呼ばれる界面活性剤を加える。大抵の生成物の逆転を促進するために、破壊用界面活性剤の他に、大量の水の添加と若干の機械的エネルギーで通常は充分である。激しい撹拌が逆転を促進することが知られている。しかし、一部のポリマーエマルジョンが、他の生成物よりも逆転させるのがかなり困難であることが、観察されている。逆転の困難さは、非常に緩慢な粘度上昇(viscosity build)で発現する。如何なる理論にも縛られる訳ではなく、この原因は、一部は、多重エマルジョン及び/又はポリマー凝集体の形成によると考えられる。ある種のモノマーは、それらの両親媒性のために、エマルジョンの安定性を助長することができる。さらに、ある種の乳化界面活性剤は、高度なエマルジョン安定性を与える。
【0044】
例えばHypermer(登録商標)B246SFのような界面活性剤製品は、エマルジョン安定性が重要な問題である高モノマー含量エマルジョンに用いるのに適した製品として、市販されている。このポリマー乳化界面活性剤は、該エマルジョンの両方の相による多重の、広範囲な相互作用を受ける。この結果、非常に安定な界面層が生じて、良好な機械的安定性を有するエマルジョンが得られる。この安定性の結果は、エマルジョンが破壊され難くなり、それ故、逆転され難くなることである。Uniqemaからの製品資料は、これらの界面活性剤が、例えばソルビタンエステル及びポリオキシエチレン誘導体のような慣用的物質よりも、重合のために安定なエマルジョンを生成すること、及び逆転が不充分であるので、特別あつらえの逆転系を必要とすることを確認している。
【0045】
ある種のモノマーは、水溶性であるとしても、他のモノマーよりも大きく疎水性の性質を有する。これらのモノマーは、時には「両親媒性モノマー(amphophilic monomers)」と呼ばれ、それらのより大きい両親媒性の性質のために、界面領域に会合して、逆転に影響することができるある程度の表面活性を与えることができる。より大きい両親媒性の物質とは、分子に水との親和性の低い領域が存在することを意味する。このようなモノマーの例は、芳香環又は脂肪族部分を有するモノマーを包含する。典型的な両親媒性モノマーは、非限定的に、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド;スチレンスルホン酸;スチレンスルホン酸の塩(この例は、非限定的に、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸ナトリウムを包含する);脂肪アルキル若しくはアルキルポリオキシエチル(メタ)アクリル酸エステル(この例は、非限定的に、ラウリルポリオキシエチルメタクリレート、ベヘニルエトキシ(メタ)アクリレート及びメチルポリオキシエチルメタクリレートを包含する);ビニルアルコキシレート;アリルアルコキシレート;アリルポリオキシアルキレンスルフェート(これの例は、非限定的に、フェニルポリオールエーテルスルフェートのアルカリ金属塩を包含する);並びにフッ素原子含有モノマー(これの例は、非限定的に、とりフルオロエチル(メタ)アクリレートを包含する)を包含する。このような両親媒性モノマーを用いて製造されたポリマーエマルジョンは、該モノマーによって与えられる高度な安定性を示し、それ故、破壊するのが困難である。
【0046】
典型的な破壊用界面活性剤は、非限定的に、線状及び分枝状アルコール・エトキシレート、エトキシル化ソルビタン、ノニルフェノールエトキシレート、エトキシル化ひまし油等を包含する。これらの界面活性剤は、唯一の破壊用の系として用いた場合に、ポリマー乳化界面活性剤及び/又は両親媒性モノマーを含有する、本明細書で述べるような逆エマルジョンポリマーに不良な逆転を生じる。
【0047】
実施例の配合(formulations)に述べるような逆エマルジョンポリマーは、ポリマーが粘度上昇に緩慢であるという点で、容易に逆転しないことが、観察されている。換言すると、最大粘度に達するには、比較的長時間を要する。不良な逆転性は、さらに、不溶性ゲルを生ずることになる。正味の結果は、困難な生成物取り扱いと、低い性能特性である。対照的に、他の多くの逆エマルジョンポリマーが容易に逆転して、非常に短い時間で最大粘度に達することが注目される。
【0048】
該破壊用ポリマー界面活性剤の任意の代替物質は、高分子量画分又はオリゴマー画分が製造されるように熱処理されているエトキシル化ひまし油である。エトキシル化ひまし油は加熱されると反応して、非加熱物質よりも高い分子量を有する物質の画分を生じる。この高分子量画分は、物質の重量平均分子量とz−平均分子量を増加させる。得られる破壊用界面活性剤は、非修飾界面活性剤よりも効果的である。この破壊用界面活性剤は単独でも、又は他の破壊用界面活性剤と組合せても用いることができる。1つの例は、オリゴマーの小画分が製造されるように熱処理されているエトキシル化ひまし油である。典型的なエトキシル化ひまし油は、非限定的に、Alkamuls(登録商標)EL719(Rhodia, Cranbury, NJの製品)及びSurfonic(登録商標)C0-42(Huntsman LLC, Austin, TXの製品)を包含する。エトキシル化ひまし油は特に効果的であるとは言えないが、低レベルのオリゴマー物質によって、該性能が非常に強化されることが注目される。オリゴマー物質は、物質を密封容器内で120℃において約17日間加熱することによって製造することができる。或いは、物質をガラス反応器内でエア・スパージしながら(with air sparge)150℃において少なくとも約8時間加熱することによって、オリゴマー物質を製造することができる。
【0049】
エトキシル化ひまし油破壊用界面活性剤系は、逆転させ難い逆エマルジョン水溶性又は水親和性ポリマー生成物のための破壊用界面活性剤として用いることができる。これらの破壊用界面活性剤は、大抵の逆エマルジョン重合生成物にも有効である。
【0050】
如何なる化学種であってもその重要な寄与は、その分子量である。ポリマーは鎖長さの分布の存在によって、さらに区別される。例えば、ポリマーの分子量は50,000である又は重合度は700であると、通常述べられる。これらの値は、平均値であり、全ての鎖が正確に同じ数のモノマー単位から構成されているのではなく、全ての鎖の平均値が該値であり、一部の鎖はこれよりも長く、他の鎖はこれよりも短い。分子量として幾つかの異なる値を用いることができることが、認識される。この理由は、数種類の平均値、一部は加重平均値、を用いて、分子サイズの良好な指標を得ることができるからであり、長い鎖はポリマー物質の物理的性質に大きい影響を及ぼすからである。数平均分子量Mは、事実上、既知質量中の分子数のカウントである。重量平均分子量Mは、各分子がその質量の二乗に比例してMに寄与するという点で、Mよりも大きい。重い(大きい)分子は軽い分子よりもMに大きく寄与するので、Mは常にMよりも大きい。さらに、サンプルの分子量を増加させる化学的又は物理的プロセスは、MをMよりも大きく増加させることになる。分解プロセスもMに大きい影響を及ぼすことになる。
【0051】
重量平均分子量の算出に用いる式が、各項にサンプル分子量の各分子群の分子量を乗ずることによって数平均値から導出されることが、注目される。このプロセスの反復によって、z−平均分子量Mが得られる。重要な結果は、連鎖の画分の分子量が増加する場合に、Mの増加はMの増加よりも大きく、次には、Mの増加はMの増加よりも大きいということである。熱処理したエトキシル化ひまし油界面活性剤は、非修飾界面活性剤よりも大きいMとMを有し、次には、逆転効率の改良を生じる。
【実施例】
【0052】
実施例1:逆転され難い逆エマルジョンポリマーの製造
代表的な逆エマルジョン重合を次のように用意した。オーバーヘッド・メカニカル・スターラー、温度計、窒素スパージ管及び冷却管を装備した、適当な反応フラスコに、パラフィン油(135.0g,Exxsol(登録商標)D80油,Exxon,Houston,TX)の油相と、乳化界面活性剤(4.5g,Atlas(登録商標)G-946と9.0g, Hypermer(登録商標)B246SF; Uniqema, New Castle,DEの製品)を装入した。該油相の温度を次に37℃に調節した。
【0053】
水中53重量%アクリルアミド溶液(126.5g)、アクリル酸(68.7g)、脱イオン水(70.0g)、及びVersenex 80(Dow Chemical, Midland, MI)ケラント(chelant)溶液(0.7g)を含む水性相を、別に、調製した。次に、該水性相を水中水酸化アンモニウム溶液(33.1g,29.4重量%,NHとして)の添加によってpH5.4に調節した。中和後の該水性相の温度は39℃であった。
【0054】
次に、該水性相を該油相に、安定な油中水型エマルジョンを得るためにホモジナイザーによって同時に混合しながら、加えた。次に、該エマルジョンに、窒素をスパージしながら、60分間4枚刃ガラススターラーによって混合した。窒素スパージ中に、該エマルジョンの温度は50±1℃に調節した。その後、スパージを中断して、窒素ブランケットを導入した。
【0055】
トルエン中3重量%AIBN溶液(0.213g)を2時間の期間にわたって供給することによって、重合を開始した。これは、総モノマーに基づいて250ppmのAIBNとして最初にAIBNを装填することに相当する。該供給の経過中に、バッチ温度を62℃にまで発熱させて(〜50分間)、その後、該バッチを62±1℃に維持した。該供給後に、該バッチを62±1℃に1時間維持した。その後、トルエン中3重量%AIBN溶液(0.085g)を1分間未満で装入した。これは、総モノマーに基づいて100ppmのAIBNとして2回目のAIBNの装填に相当する。次に、該バッチを62±1℃に2時間維持した。該バッチを次に室温にまで冷却した。
実施例2:逆転され難い逆エマルジョンポリマーの製造
代表的な逆エマルジョン重合を次のように用意した。オーバーヘッド・メカニカル・スターラー、温度計、窒素スパージ管及び冷却管を装備した、適当な反応フラスコに、パラフィン油(139.72g,Escaid(登録商標)110油,Exxon,Houston,TX)の油相と、乳化界面活性剤(3.75g,Cirrasol(登録商標)G-1086と11.25g, Span(登録商標)80; 両方ともUniqema, New Castle,DEから)を装入した。
【0056】
水中50重量%アクリルアミド溶液(25.66g,総モノマーに基づいて30モル%)、スチレンスルホン酸、ナトリウム塩粉末(87.17g,総モノマーに基づいて70モル%)、脱イオン水(231.5g)、Versenex(登録商標)80 (Dow Chemical)ケラント溶液(0.14g)を含む水性相を、別に、調製した。次に、該水性相のpHは約10であった。
【0057】
次に、該水性相を該油相に、安定な油中水型エマルジョンを得るためにホモジナイザーによって同時に混合しながら、加えた。次に、該エマルジョンに、窒素をスパージしながら、60分間4ブレード・ガラススターラーによって混合した。窒素スパージ中に、該エマルジョンの温度は57±1℃に調節した。その後、スパージを中断して、窒素ブランケットを導入した。
【0058】
総モノマーのモルに基づいて75ppmのAIBNを最初に装填したことに相当する、トルエン中3重量%AIBN溶液を供給することによって、重合を開始した。最初のAIBNの装填の4時間後に、総モノマーのモルに基づいて75ppmのAIBNの2回目の装填に相当する、トルエン中3重量%AIBN溶液を該反応器に〜30秒間にわたって加えた。次に、該バッチを57±1℃に1.5時間維持した。AIBNの最終装填:総モノマーのモルに基づいて100ppmのAIBNの最終装填に相当する、トルエン中3重量%AIBN溶液を、該反応器に〜30秒間にわたって供給した。該バッチを次に65±1℃に加熱して、0.5時間にわたって維持した。該バッチを次に室温にまで冷却した。
実施例3:逆転時間
逆エマルジョンポリマーの逆転時間を、3種類の試験を用いて測定した:渦流試験と呼ばれる第一試験は、250mlプラスチック・ビーカーに脱イオン水98mlを入れることを含む。2インチ直径の3枚刃プロペラを備えたメカニカル・アジテーター(Cole Parmer, Vernon Hills,IL)を、該ビーカーの中央に置き、該ブレードをビーカーの底から0.25インチの高さに位置決めした。該アジテーターを500rpmの速度で作動させて渦流れを発生させ、渦流の低点がビーカーの底と同点になるようにした。次に、注射器を用いて、エマルジョンポリマー2mlを迅速に渦流中に導入した。ポリマー導入後の渦流の消失(この場合に、該ポリマー溶液の表面は完全に水平になり、渦流は存在しない)に要した時間を逆転時間として測定した。短い逆転時間は、望ましい逆転性を意味する。1分間未満の逆転時間が望ましい。
【0059】
トルク試験と呼ばれる第二試験は、エマルジョンの1%溶液の粘度を時間の関数として測定する。このデバイスは、T形刃(53mm長さ、13mm幅)を備えたミキサーと、トルク・センシング・プラットホーム(torque sensing platform)に置かれた1パイントのステンレス鋼カップ(内径75mm)から成る。
【0060】
測定は、室温において、次のように行なった。メスシリンダーに脱イオン水300mlを計りいれ、該ステンレス鋼カップに移した。次に、該ミキサーを作動させ、速度を800+/−10RPMにセットした。この時点で、データ・ロギングを開始して、エマルジョン添加前に10〜30秒間、測定済みトルク・ベースラインに進行させた。次に、3ccプラスチック使い捨て式注射器を用いて、エマルジョンを添加し、トルク上昇を300秒間まで記録した。この方法で得たトルク値を次に、ベースライン補正し、データを有効逆転時間の測定又は1つの配合(formulation)と他の配合との直接比較に用いた。
【0061】
トルクの急激な上昇と、その後の緩慢に上方にドリフトするプラトーが観察される。このドリフトは、プラトー測定を困難にして、プラトーに達するまでに必要な時間として逆転時間を定義することを不可能にする。簡潔にデータを報告することを可能にするために、単独の数で逆転を定義することが有用である。それ故、標準化トルク値が0.015mVを越えるまでに必要な時間として逆転時間を定義することにする。このトルク値は、渦流が消失する実質的な逆転に相当する。短い逆転時間は、望ましい逆転性を意味する。渦流試験に関すると同様に、1分間未満の逆転時間が望ましい。
【0062】
第三試験は、導電率試験である。この導電率試験は、次の修正を加えて、該渦流試験と同様な方法で行なわれる。ポリマーエマルジョンを渦流中に導入した後に、該溶液を30秒間混合させる。次に、アジテーターを取り出し、直ちに、導電率メーター(Model no.32, YSI Incorporated, Yellow Springs, OH)からの電極を該溶液中に挿入する。水への初期エマルジョン添加後1分間の時点で導電率を記録する。1分間目の導電率読み取り値とポリマー溶液の平衡導電率とを比較する(この平衡導電率は、一定の導電率値が得られるまで数時間にわたって混合を続けることによって各特定ポリマーに関して測定されている、ポリマー溶液の平衡導電率に比較する。1分間目の高い導電率が望ましい、これは、ポリマーが水溶液中に充分に分散されていることの表れであるからである。
【0063】
この実施例の逆エマルジョンポリマー・サンプルに破壊用界面活性剤を加えて、逆転試験を次のように行なった。渦流及び導電率試験のために、上述のように調製したエマルジョン50mlをプラスチック・ビーカーに入れて、撹拌のために磁気撹拌バーを用いた。ピペットを用いて、望まれる量の破壊用界面活性剤(単数又は複数)を加えた。渦流を発生させるような速度で、該サンプルを10〜15分間混合した。
【0064】
第二サンプル調製方法を用いて、トルク試験のサンプルを調製した。望ましい量の破壊用界面活性剤をバイアルに入れて、このバイアルにエマルジョンを加えた。総量は10〜20gであった。実験室用渦流ミキサー(laboratory vortex mixture)を用いて、該物質を60秒間混合した。試験前少なくとも10分間、サンプルを静止状態にした。
データ
表1〜3のデータは、実施例1の逆エマルジョンポリマーを用いて得たものである。
【0065】
表1
渦流試験を用いた逆転時間データ
【0066】
【表1】

【0067】
(a)最終エマルジョン中の「破壊用」界面活性剤の重量%
(b)Surfonic(登録商標)L24-7、Huntsman, Austin, TXの製品
(c)Polyglycol PT 7200、Dow Chemical, Midland, MIの製品
(d)Cirrasol(登録商標)G-1086、Uniqema, New Castle, DEの製品
(e)Pluronic(登録商標)L-62、BASF, Mount Olive, NJの製品
(f)Pluronic 31R1、BASF, Mount Olive, NJの製品
表1の逆転に関するデータにより、アルコール・エトキシレート、エトキシル化ソルビタン及び破壊用ポリマー界面活性剤が、単独破壊用界面活性剤として用いた場合に、逆転時間が一般に3分間を越えるという不良な逆転を明確に示す。本発明の方法を用いて、破壊用界面活性剤の組合せを用いる場合には、逆転時間の顕著な改善が見られる。界面活性剤の組合せの逆転時間は、個別の界面活性剤よりも効果的であり、したがって、予想外の相乗効果が発見されている。
【0068】
表2
トルク試験を用いた逆転時間
【0069】
【表2】

【0070】
(a)最終エマルジョン中の「破壊用」界面活性剤の重量%
(b)Surfonic(登録商標)L24-7、Huntsman, Austin, TXの製品
(c)Polyglycol PT 7200、Dow Chemical, Midland, MIの製品
(d)Cirrasol(登録商標)G-1086、Uniqema, New Castle, DEの製品
(e)Pluronic(登録商標)L-62、BASF Corporation, Mount Olive, NJの製品
(f)Pluronic(登録商標)25R4、BASF Corporation, Mount Olive, NJの製品
(g)Pegosperse(登録商標)600 DOT、Lonza Group, Allendale, NJの製品
表2の逆転データは、単独破壊用界面活性剤として用いた場合の、逆転時間が一般に2分間を越える、アルコール・エトキシレート及びエトキシル化ソルビタンの不良な逆転を明確に示す。本発明の方法を用いて、破壊用界面活性剤の組合せを用いる場合には、逆転時間の顕著な改善が見られる。界面活性剤の組合せの逆転時間は、個別の界面活性剤よりも効果的である。
実施例4〜6:エトキシル化ひまし油
磁気撹拌バーを含有する250ml丸底フラスコに、Alkamuls(登録商標)EL719エトキシル化ひまし油30gを加えた。加熱マントルを用いて、該フラスコを150℃に加熱しながら、該液体に通して空気を16時間バブルさせた。実施例4として表示される、この物質の色は、加熱期間中の時間の関数として暗くなるのが観察された。
【0071】
実施例5として表示される第二サンプルは、空気の代わりに窒素ガスを用いたことを除いて、同じ方法によって調製した。このサンプルも時間が経つにつれて暗色化することが観察されたが、緩慢であるように思われ、該サンプルは第一サンプルよりもかなり明色であった。
【0072】
表3と4において、実施例6として表示されるサンプルは、非処理(対照)Alkamuls(登録商標)EL719である。
【0073】
表3に示すように、加熱によって分子量にシフトが生じることが判明した。
【0074】
【表3】

【0075】
(a)Waters HR(高分解能)カラム(Waters Corporation, Milford, MAの製品)を用いるサイズ排除クロマトグラフィーと、屈折率デテクターを用いて分子量を測定した;ポリスチレン基準を較正のために用いた。移動相は、250ppm BHTを含有するテトラヒドロフランであった;ポリマー濃度は0.25%であった。
【0076】
これらのデータは、熱処理が高分子量画分を生じることを示す。不活性環境における加熱によって、分子量の変化を誘発させることができるが、該変化は、空気の存在下で加熱した場合に、より一層劇的である。
【0077】
トルク試験に用いるために、上述したように、実施例1のエマルジョンによって、エマルジョンのサンプルを用意した。添加レベルは、総エマルジョンに基づいて5重量%であった。トルク試験によって、逆転を測定した。
【0078】
【表4】

【0079】
(a)異なる単位で表現したことだけを除いて、逆転時間データは同じであった。
【0080】
表4のデータは、熱処理が、破壊用界面活性剤としてのより良好な活性を与える高分子量画分の形成を生じることを示す。
実施例7:逆転試験
実施例2の逆エマルジョンからのポリ(スチレンスルホネート)と、導電率試験を用いて、他のシリーズの逆転試験を行なった。
【0081】
表5
【0082】
【表5】

【0083】
(a)最終エマルジョン中の「破壊用」界面活性剤の重量%
(b)Surfonic(登録商標)L24-7、Huntsman, Austin, TXの製品
(c)Tetronic(登録商標)701、BASF Corporation, Mount Olive, NJの製品の製品
(d)Surfonic(登録商標)TDA-9、Hntsman, Austin, TXの製品
表6の逆転データは、単独の破壊用界面活性剤として用いた場合のアルコール・エトキシレートの不良な逆転と、充分なレベルのブロックコポリマー界面活性剤を単独の破壊用界面活性剤として用いた場合の不良なエマルジョン安定性とを明確に示す。アルコール・エトキシレートのみから成る破壊用界面活性剤系が、実施例2のエマルジョンのポリ(スチレンスルホネート)の非常に不良な逆転性の指標である、逆転時の白色ビーズを示したことは、注目すべきである。本発明の方法を用いて、破壊用界面活性剤の組合せを用いる場合には、逆転時間の顕著な改善が見られ、導電率は平衡値の約半分である。本発明の方法によると、目に見えるゲル又はビーズが存在しなかったことが注目される。界面活性剤ブレンドの逆転時間は、個別の界面活性剤よりも効果的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中水型ポリマーエマルジョンの逆転方法であって、(a)水性相中に水親和性ポリマーを有する、油中水型ポリマーエマルジョンを用意すること;(b)該油中水型ポリマーエマルジョンを、有効量の破壊用界面活性剤組合せ物と接触させること、ここで該界面活性剤組合せ物は少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤と第二の破壊用界面活性剤とを含み、該破壊用ポリマー界面活性剤が1又はそれより多い親水性基を含有する;及び(c)該エマルジョンを逆転させること
を含む方法。
【請求項2】
少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤が2つ以上の親水性基を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該1つ以上の親水性基の少なくとも1つがポリグリコール基である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
1つ以上の親水性基を含有する、少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤が、エチレンオキシド/プロピレンオキシド・コポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
該少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤が、ジオール開始剤によって製造されるエチレンオキシド/プロピレンオキシド・コポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
該少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤が、エチレンジアミン開始剤によって製造されるエチレンオキシド/プロピレンオキシド・コポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
該少なくとも1種類の破壊用ポリマー界面活性剤が、トリメチロールプロパン開始剤によって製造されるエチレンオキシド/プロピレンオキシド・コポリマーであるか、又はグリセロール開始剤によって製造される代替物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
該第二の破壊用界面活性剤が、アルコール・エトキシレート、エトキシル化脂肪酸エステル、エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸のエトキシル化エステル及びこれらの組合せから成る群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
破壊用ポリマー界面活性剤と第二の破壊用界面活性剤との総量が、エマルジョンの総重量を基準にして約10重量%未満である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
破壊用ポリマー界面活性剤と第二の破壊用界面活性剤との総量が、エマルジョンの総重量を基準にして約5重量%未満である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
該ポリマー界面活性剤が、該破壊用界面活性剤組合せ物の少なくとも約2.0重量%を占める、請求項1記載の方法。
【請求項12】
該ポリマー界面活性剤が、該破壊用界面活性剤組合せ物の少なくとも約2.0重量%から98重量%までを占める、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該ポリマー界面活性剤が、該破壊用界面活性剤組合せ物の少なくとも約2.5重量%から75重量%までを占める、請求項12記載の方法。
【請求項14】
該水親和性ポリマーが少なくとも1種類の両親媒性モノマーを含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
該両親媒性モノマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド;スチレンスルホン酸;スチレンスルホン酸の塩;脂肪アルキル若しくはアルキルポリオキシエチル(メタ)アクリル酸エステル;ビニルアルコキシレート;アリルポリオキシアルキレンスルフェート;及びフッ素原子含有モノマーと、これらの組合せから成る群から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該水親和性ポリマーが、少なくとも1種類のジブロック若しくはトリブロックポリマー界面活性剤を含有する乳化界面活性剤を含む逆エマルジョン法によって製造される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
油中水型ポリマーエマルジョンの逆転方法であって、(a)水性相中に水親和性ポリマーを有する、油中水型ポリマーエマルジョンを用意すること、(b)該油中水型ポリマーエマルジョンを、有効量の破壊用界面活性剤組合せ物と接触させること、ここで該破壊用界面活性剤組合せ物が、オリゴマー物質を含有する熱処理済みエトキシル化ひまし油を含み;及び(c)該エマルジョンを逆転させること
を含む方法。
【請求項18】
該水親和性ポリマーが少なくとも1種類の両親媒性モノマーを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
該両親媒性モノマーが、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド;スチレンスルホン酸;スチレンスルホン酸の塩;脂肪アルキル若しくはアルキルポリオキシエチル(メタ)アクリル酸エステル;ビニルアルコキシレート;アリルポリオキシアルキレンスルフェート;及びフッ素原子含有モノマーと、これらの組合せから成る群から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
該水親和性ポリマーが、少なくとも1種類のジブロック若しくはトリブロックポリマー界面活性剤を含有する乳化界面活性剤を含む逆エマルジョン法によって製造される、請求項17記載の方法。

【公表番号】特表2007−529570(P2007−529570A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545398(P2006−545398)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/042158
【国際公開番号】WO2005/058977
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(591020249)ハーキュリーズ・インコーポレーテッド (75)
【氏名又は名称原語表記】HERCULES INCORPORATED
【Fターム(参考)】