説明

改良された被服要求品質を有する繊維材料及びその改良方法

【課題】絹の風合を損なうことなく、経時においても光による黄変や汗による黄ばみが有効に防止され、かつ有毒ガスの付着残留度が少なく、さらに保温性、強度の経時的な低下も有効に防止され得る織布を提供することを目的とする。
【解決手段】繊維全質量に基づいて0.01ないし5.0質量%の酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸及び/又は緯糸に用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた織布からなる、該中間材について、JIS L0842に従う耐光性試験及びJIS L0848に従う耐汗性試験においてそれぞれ4級以上の等級を有する、繊維材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絹繊維特有の風合を有しつつ、なおかつ被服要求品質が改良された繊維材料及びその改良方法に関する。さらに詳細には、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維と絹繊維からなる繊維材料、例えば糸、該糸からなる編物又は織物に関する。
【背景技術】
【0002】
絹等の天然繊維を主体とした、下着、上着、靴下等の編物又は織物製品は、肌触り、見た目等の風合の点において良好であるが、その反面、光の影響による黄変や汗の影響による黄ばみが生じ易い等の欠点をも有している。その為、かかる欠点を克服する為に種々の試みがこれまで為されてきた。例えば、特許文献1は、日光や紫外線の照射で黄変しにくい生糸及び絹を生産する為に、生糸或いは絹にデオキシシチジル酸及びシチジル酸からなる群より選ばれた化合物を含有せしめることを特徴とする生糸及び絹の黄変防止方法を開示している。さらに、特許文献2は、表面が酸化チタンでメッキされている酸化チタン含有絹繊維を開示し、該絹繊維は酸化チタンの光触媒作用により劣化したり黄変することがないことが記載されている。
【特許文献1】特開平6−141739号公報
【特許文献2】国際公開第98/53132号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの公報に記載された発明は、以下に示すような解決すべき課題が残されている。特許文献1において開示されるような、デオキシシチジル酸及びシチジル酸等の紫外線吸収剤を絹自体に含有させることは、該絹の耐光性を向上させて黄変は防止され得るものの、反対に該絹の品質を劣化させ、該絹の肌触り、見た目等の風合を損なうおそれがある。さらに、特許文献2においては、絹繊維表面にメッキされた酸化チタンが、汗の影響や体との接触により比較的容易に脱落し、黄変の抑制効果が低下してしまう可能性がある為に、下着や靴下等、皮膚に直接接触する製品の材料として使用するには適切であるとは言い難い。さらに、酸化チタンは絹繊維表面にメッキされるので、絹繊維特有の肌触りや見た目等の風合が表面の該酸化チタンにより損なわれてしまうおそれもある。さらにその上、これら従来の天然繊維を主体として被服に加工した時、作られた被服は、着用されていない未使用品においては、保温性、強度などに関して被服として要求される品質はある程度満足されるものの、被服の着用を繰り返すうちに、熱、光、水分、天候等の影響を受けて前述の被服要求品質が徐々に低下し、もしくは失われていく。例えば、アンモニア臭等の悪臭が着用のうちに被服に染み付いていき、洗濯等によっても容易に消えなくなることはよく見られ、特にホルムアルデヒド等、ハウスシック症の原因物質が経時的に被服に付着し、残留することは、同症の患者にそれだけ苦痛を与えることになる。従って、被服としての商品価値並びに商品寿命を向上させる為にも、それに使用される繊維材料の被服要求品質について改良の必要があり、それが望まれていた。
本発明はかかる要求に応えるべくなされたものであって、絹特有の風合を損なうことなく、経時においても光による黄変や汗による黄ばみが有効に防止され、かつ有毒ガスの付着残留度が少なく、さらに保温性、強度の経時的な低下も有効に防止され得、それのみならず、より低く抑えられた生産コストで製造し得る繊維材料の織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明の一の態様は、繊維全質量に基づいて0.01ないし5.0質量%の酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸及び/又は緯糸に
用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた織布からなる、該中間材について、JIS L0842に従う耐光性試験及びJIS L0848に従う耐汗性試験においてそれぞれ4級以上の等級を有する、繊維材料に関する。
本発明の二の態様は、繊維全質量に基づいて0.01ないし5.0質量%の酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸及び/又は緯糸に用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた織布からなる、該中間材について、有毒ガス徐放性試験において、ホルムアルデヒド、イソ吉草酸及びアンモニアに対して79%以上の高い有毒ガス徐放率を示す、繊維材料に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、絹特有の風合を損なうことなく、経時においても光による黄変や汗による黄ばみが有効に防止され、かつ有毒ガスの高い徐放性が得られ、その付着残留度が少なく、さらに保温性、強度の経時的な低下も有効に防止され得、それのみならず、より低く抑えられた生産コストで製造し得る繊維材料の織布が提供され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維と絹繊維とから紡いで作られた糸を示す図である。図2は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる芯糸の外表面に、絹繊維からなる鞘糸を巻き付けて作られた複合糸を示す図である。図3は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸と絹繊維からなる糸とを互いに撚り合わせて作られた撚り糸を示す図である。図4は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維と絹繊維とから紡いで作られた糸、複合糸又は撚り糸から平織りされた織布を示す図である。図5は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸に用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた本発明の織布の一態様を示す図である。
【0007】
本明細書において、被服要求品質とは、糸等の繊維材料から作られる上着、下着、靴下等の被服類において要求され、それらが保持され得るべき品質、例えば黄変、黄ばみが経時的に生じにくいこと、吸着された悪臭やアレルギーの原因となる有害物質の徐放性が高く、その残留が生じにくいこと、所要の強度、弾性等の物性を有し、破れが生じにくく、並びに保温性に優れること、伸縮性に富み、体形、体の動きに適合し易いこと、通気性が良いこと等の品質を指す。
絹繊維特有の風合を有し、かつ前述の被服要求品質がより良く改良された本発明の繊維材料を得る為には、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維と絹繊維を用いることが必要であるが、これら両繊維を相互に接触させる形態となすことで十分である。その一の態様として、図1に示すように、複数本の酸化チタンを含有したポリアミド系繊維1及び絹繊維2とを紡いでなる糸3が挙げられる。糸3は、それぞれ長さが異なったポリアミド系繊維1と絹繊維2とが全体的にほぼ均一に存在して相互に接触してなる形態をとっている為、経時においても光による黄変や汗による黄ばみが有効に防止され、かつ有毒ガスの付着残留度が少なく、さらに保温性、強度の経時的な低下も有効に防止され、かつ糸3全体としても、絹繊維2特有の風合を有するものとなっている。ポリアミド系繊維1及び絹繊維2は、構成される糸3の改良された被服要求品質が維持され、そして絹繊維2特有の風合を著しく損なわない範囲内において、それぞれ所望の割合において紡ぐことができる。
【0008】
上記の繊維材料のより好ましい態様は、図2に示す、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる芯糸4の外表面に絹繊維からなる鞘糸5を巻き付けて得られた複合糸6である。複合糸6は、芯糸4が鞘糸5と接触すると共にその該表面が完全に覆われた状態となっている為、改良された被服要求品質を有するだけでなく、その風合も絹繊維からなる
鞘糸5のそれに限りなく近いものを有しており、大変好ましい態様である。また、複合糸6は、芯糸4が実質露出しない状態で鞘糸5が芯糸4に巻き付けられていればよく、例えば、複合糸6は、芯糸4が露出しない状態で鞘糸5が巻き付けられている態様であっても、又絹繊維からなる鞘糸5の特有の風合が極端に損なわれない範囲内において、芯糸4が露出した状態で鞘糸5が巻き付けられた態様であっても良い。芯糸が実質露出しない状態とは、芯糸が完全に露出しない状態の他、複合糸の一部分又は複数部分において芯糸が露出されている状態をも包含するものとする。
【0009】
また、糸である繊維材料としては、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸と絹繊維からなる糸とを互いに撚り合わせて作られた撚り糸も挙げられる。例えば図3に示すように、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸7と絹繊維からなる糸8とが撚り合わされることにより相互に接触し、その為、作られた撚り糸9は改良された被服要求品質、並びに使用された絹繊維の風合に近い風合を有するものである。また例えば複合糸又は撚り糸を鞘糸又は芯糸として使用して他の複合糸を作っても、複合糸又は撚り糸を使用して他の撚り糸を作っても良い。
【0010】
改良された被服要求品質を有する繊維材料の他の態様は、布を構成する糸の少なくとも一部において、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維と絹繊維とから紡いで作られた糸、複合糸又は撚り糸(以下、本明細書においてこれらを酸化チタン含有糸と略す)を使用して織られた織布又はこれら酸化チタン含有糸を使用して編成された編物である。該織布は、一例として図4に示すように、酸化チタン含有糸を経糸10及び/又は緯糸11として使用して、互いに一本ずつ上下に交差した平織により得られる(織布12)。ここで、経糸10及び緯糸11は、作られた織布の被服要求品質が改良され、かつ絹繊維の風合が大きく損なわれない範囲内であれば、酸化チタン含有糸の他に、他の種類の糸を使用しても良い。例えば、経糸10及び緯糸11全てに酸化チタン含有糸を使用する態様の他、全ての経糸10に絹糸を使用し、全ての緯糸11に酸化チタン含有糸(撚り糸)を使用する態様、或いは全ての経糸10の内酸化チタン含有糸を適当な割合で使用し、その他の残りの経糸10には絹糸を使用し、かつ、全ての緯糸11には絹糸、酸化チタン含有糸、又は絹糸と酸化チタン含有糸の双方を使用する態様等が挙げられる。かかる織布は織り方は任意であり、平織の他、斜文織、繻子織、紋織、搦み織、重ね織又は添毛織等によっても得ることもできる。
【0011】
また、本発明の好ましい態様は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸及び/又は緯糸に用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた織布である。例えば図5に示すような織布13は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸14を中間材の経糸とし、絹繊維からなる糸15及び15’にて上下から中間材の経糸14を覆い隠すように接触して作られてなる。したがって、織布13は改良された被服要求品質を有しつつ、その上に肌触り、見た目等の風合も絹繊維単一で織られた織布のそれと同等であり、特に下着類、靴下等の肌に直接に接触する製品の材料としては好適である。また、絹繊維からなる糸15及び15’は同一種類であっても、又は異なった種類であってももちろん差し支えない。
【0012】
また改良された被服要求品質を有する編物は、その編み方は任意であり、例えば手編又は機械編により、平編(メリヤス編、天竺編)、ゴム編(畦編)、パール編(ガータ編)、タック編、浮編、片畦編、両面編、レース編、添毛編、デンビー編(トリコット編)、バンダイク(アトラス)編、プレンコード編、二目編、ペレリン編、二重デンビー編、二重バンダイク編、ミラニーズ編、ラッシェル編、裏毛編又はジャカード編等により得られる。
【0013】
改良された被服要求品質を有する繊維材料の他の態様としては、図6に示す、酸化チタンを含有する化学繊維の糸を用いて織られた布16と、その上側に重ね接結させた、絹繊維の糸を用いて織られた布17とからなる布18が挙げられる。布18は、布16の上下どちらかの側においてのみ布17が絹糸19により縦横に縫い付けられて(図中の破線)接結されている態様である。
繊維材料の別の好ましい態様としては、図7に示す、酸化チタンを含有する化学繊維の糸を用いて織られた布20と、その上下両側に重ね接結させた、絹繊維の糸を用いて織られた布21とからなるサンドイッチ構造布22が挙げられる。構造布22は、布20が布21及び21とによりサンドイッチ状に挟まれる形態で布21及び21が布20と接触している為に、サンドイッチ構造布22全体としてみれば、改良された被服要求品質を有するのみならず、肌触り、見た目等の風合は布21のそれと同等である。図7においては、布20、21は絹糸19により縦横に縫い付けられて(図中の破線)接結されているが、むろん、絹以外の糸を使用しても良いし、或いは他の接結手段を適宜選択しても良い。
【0014】
本発明に使用され、繊維材料の被服要求品質を改良し得る酸化チタンの形態は粉末形態が望ましく、その平均粒径は0.5μm以下であることが好ましい。粒径が0.5μmを超えると、該酸化チタンが含有されたポリアミド系繊維からなる糸が切れ易くなる。また酸化チタンは、繊維全質量に基づき、一般に0.01ないし5.0質量%の量で該ポリアミド系繊維に含有される。0.01質量%より少ないと、構成される繊維材料の被服要求品質が効果的に改良されない。5.0質量%を超えると繊維材料の被服要求品質がそれ以上向上せず、その上、ポリアミド系繊維の紡糸工程や延伸工程での糸切れが発生しやすくなり、また紡糸機、編機又は織機のローラーやガイド等に摩擦損傷を与えるおそれも高まる為に好ましいとは言い難い。酸化チタンの含有量は、繊維材料の被服要求品質の改良の効果の向上と、前述した糸切れの防止とのバランスを考慮すると、繊維全質量に基づいて0.1ないし1.0質量%が好ましい。かかる酸化チタンが含有されたポリアミド系繊維は、適宜湿式紡糸、乾式紡糸又は溶融紡糸することによって、例えばその原料となるポリマーを溶融し、そしてこれに酸化チタンを直接混合し、その後に紡糸することによって製造することができる。
【0015】
以上説明したように、本発明の改良された被服要求品質を有する繊維材料は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる中間材(経糸、緯糸)に、絹繊維からなる糸を中間材を覆い隠すように織り込んで作られたものである。この繊維材料は、絹繊維が用いられているにもかかわらず、その絹繊維が酸化チタンを含有するポリアミド系繊維と常に接触する形態にあることから、経時においても光による黄変や汗による黄ばみが有効に防止され得る。また、長期にわたって有毒ガスの徐放性も優れ、本発明の繊維材料から作られた被服に対して、例えば悪臭を発するガスや人体に有害なガスが吸着されても、それらガスが存在しない環境においては、吸着したガスが非常に高い割合で徐放される。その為、悪臭やハウスシック症の原因となる有害ガスが常に被服に吸着する状態を有効に回避することができる。さらに、本発明の繊維材料からなる生地は、長期間の使用後においても絹繊維のみから構成される生地と比較してより保温性に優れている他、強度においてもより持続性に優れている為、従来品より薄手で軽量であっても保温性及び強度が変わらない被服を製造することも出来る。また、本発明の繊維材料は、見た目、肌触り等の風合も絹繊維単一からなる繊維材料に極めて近い特性を有している。のみならず、生産面においても、酸化チタンが安価で入手しやすい上に、酸化チタンのポリアミド系繊維への含有も容易になし得るので、該繊維材料の生産コストも抑えられ、生産性の面でも有利であるという利点をも有している。
【0016】
以下、本発明を試験例により更に具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(試験例1)黄変及び黄ばみ試験
酸化チタン含有糸を用いた織布の、光又は汗による黄変及び黄ばみの度合いを、絹繊維のみからなる織布の光又は汗による黄変及び黄ばみの度合いと比較検討した。
試料A:100質量%の溶融したナイロン−6ポリマーに1.0質量%の酸化チタン(平均粒経0.1μm)を加えて均一となるまで混合した後、この溶融液を紡糸機を通して紡糸し、酸化チタンを含有した糸を得た。そして、この酸化チタンを含有した糸を芯糸とし、鞘糸として絹糸を巻き付けて得た複合糸を用いて平織りにし、織布である試料Aを得た。
試料B:試料Aの説明で述べたと同様の方法で得た酸化チタンを含有した糸を図4に示す経糸10に用い、試料Aで使用した絹糸と同様の絹糸を図4に示す緯糸11に用いて平織りすることにより、図4に示す織布である試料Bを得た。
試料E:試料Aで使用した絹糸と同様の絹糸を平織にして、織布である試料Eを得た。
試料F:100質量%の溶融したナイロン−6ポリマーに0.005質量%の酸化チタンを加えて均一となるまで混合した後、この溶融液を紡糸機を通して紡糸し、酸化チタンを含有した糸を得た。そして、この酸化チタンを含有した糸を芯糸とし、鞘糸として絹糸を巻き付けて得た複合糸を用いて平織りにし、織布である試料Fを得た。
比較例:100質量%の溶融したナイロン−6ポリマーに8.0質量%の酸化チタンを加えて均一となるまで混合した後、この溶融液を紡糸機を通して紡糸した。しかしながら、該紡糸工程そして続く延伸工程において糸切れが多発し、所望の太さの糸を入手することが困難となった為に中止した。
【0018】
これら得られた試料A、B、E及びFについて、染色堅ろう度試験を行った。なお、以下に示すとおり耐光性試験はJIS L0842(カーボンアーク灯光試験)にしたがって行い、耐汗性試験(酸及びアルカリ)はJIS L0848にしたがって行った。
JIS L0842(カーボンアーク灯光試験)の方法
試料A、B、E又はF及びブルースケールをそれぞれ厚紙に挟んで、カーボンアーク灯形耐光試験機の試料ホルダに取り付けた。次に、該試験片ホルダを試験片回転架に隙間がないように取り付け、そしてJIS L 0841の6.(1)(第1露光法)にしたがって露光を行った。その判定は、JIS L 0801の9.(染色堅ろう度の判定)にしたがって行った。
JIS L0848(耐汗性試験)の方法
試料A、B、E又はFをそれぞれ100×40mmの大きさの試料片に裁断し、これと同じ大きさの、JIS L0803に規定する添付白布2枚の間に挟み、2辺をそれぞれ縫い合わせて複合試験片を各々作成した。次に、酸性人工汗液及びアルカリ性人工汗液をそれぞれ入れた2個のビーカー中に、それぞれの複合試験片を押し付け、動かして試験液を十分均一に浸透させた。そして試験液を流し出し、複合試験片を2本のガラス棒の間に挟んで余分の試験液がしたたり落ちない程度にまでしごき取った。複合試験片をガラス板2枚の間に挟み、汗試験機に取り付けて12.5kPaの圧力をかけた。続いて、垂直位置に複合試験片を取り付けた汗試験機を、37±2℃の乾燥機中に入れて4時間保持した。その後、汗試験機から複合試験片を取り離し、試験片と添付白布2枚を切り離して60℃以下で乾燥した。試験片の変退色の判定は、JIS L 0801の9.(染色堅ろう度の判定)にしたがって行った。結果を表1に示す。
【表1】

表1の結果から分かるように、試料E及び試料Fはそれぞれ、耐光性試験、耐汗性試験共に2−3級及び3級にとどまったのに対し、試料A及びBはいずれも4級以上の良好な結果が得られた。すなわち、本発明に規定される量の酸化チタンを含有したナイロン糸と絹糸からなる試料A及びBは、光の影響による黄変や汗の影響による黄ばみが非常に有効に抑制されたものであると理解される。なお、試料A及びBは、化学繊維であるナイロン糸をも用いているにもかかわらず、見た目、肌触り等の風合が絹糸の布と同等であった。
【0019】
(試験例2)有害ガスの吸着性及び徐放性試験
酸化チタン含有糸を用いた生地の有毒ガスの吸着・残留特性の経時的変化を、絹繊維のみからなる生地のそれと比較検討した。
試験試料
試料a:絹からなる糸を全体の70%及び酸化チタン含有ナイロン繊維からなる糸を全体の30%用いて丸編した生地を、1年の間、着用、洗濯を繰り返して使用した生地。
試料b:絹からなる糸を100%用いて丸編した未使用の生地。
試料c:生地bを1年の間、着用、洗濯を繰り返して使用した生地。
試験方法
有毒ガス吸着性試験:試料a、b又はcに有毒ガスを吸着させ、その吸着した量を測定する為、試料a、b又はcを各々の合成樹脂製パック中に入れ、そして各パックを既知のコントロール濃度の有毒ガスとしてホルムアルデヒド、イソ吉草酸又はアンモニアで満たし、そして3時間経過後の各パック中のそれぞれのガス濃度を検知管を用いて測定した。そして既知のコントロール濃度からパック中に残存するガス濃度を差し引いて得た値を、各々の試料に対して吸着した有毒ガス濃度とした。結果を表2に示す。なお、吸着率は、各種有毒ガスのコントロール濃度に対する各試料に吸着した各種有毒ガス濃度の割合を指す。
有毒ガス徐放性試験:上記の有毒ガス吸着性試験において有毒ガスが吸着された試料a、b及びcを、ホルムアルデヒド、イソ吉草酸及びアンモニアが含有されない空気が封入されたテトラーパック(容量5リットル)中に移して、3時間後の該パック中のホルムアルデヒド、イソ吉草酸及びアンモニア濃度を検知管を用いてそれぞれ測定した。結果を表3に示す。なお、徐放率は、表2において記載される各種有毒ガスの吸着量に対する放出量の割合を指す。
【表2】

【表3】

表2及び3の結果より、絹繊維のみからなる生地bの有毒ガス徐放率を、該生地を1年使用した状態の生地である試料cの徐放率と比較すると、その数値が極端に低下しているが、これに対し、1年間使用された試料aは、有毒ガスの吸着率こそ決して低くはないが、同様に1年間使用された試料cと比較して、表2及び3に記載される3種の有毒ガスに対して非常に高い有毒ガス徐放率を保っている。このことから、生地aは、1年使用された後においても、有毒ガスは吸着されるものの、該ガスが存在しない環境においては、吸着されたガスは生地aから容易に放出され得ることが分かる。すなわち、生地aから作られた被服は、トイレ等において悪臭の原因であるアンモニア臭が吸着したとしても、トイレ外の環境においては該アンモニアは簡単にすぐに該被服から消え去る効果が、被服をたとえ1年使用した場合においても有効に持続され得、もってアンモニアの悪臭が被服への悪臭残存防止効果もまた長期にわたって有効に持続されることを示している。またホルムアルデヒドの高い徐放率から、近年において問題となっているハウスシック症防止において有効な被服の材料となり得ると言える。さらに、イソ吉草酸の高い徐放率からも、汗による不快臭の染み付きが有効に回避され得ることが見て取れる。かように高い有毒ガス徐放率を長期にわたって維持し得る繊維材料は、衣服の材料として好適な材料であると言うことが出来る。
【0020】
(試験例3)保温率測定試験
酸化チタン含有糸を用いた生地の保温性の経時的変化を、絹繊維のみからなる生地のそれと比較検討した。
試験試料
試料a:絹からなる糸を全体の60%及び酸化チタン含有ナイロン繊維からなる糸を全体の40%用いて丸編した生地を1年の間、着用、洗濯を繰り返して使用した生地。
試料b:絹からなる糸を100%用いて丸編した生地。
試験方法
得られた試験試料a及びbの保温率を、JIS L 1018A法(恒温法)にしたがって測定した。
試料a及びbのそれぞれ異なる2箇所から試験片30cm×30cmを採取し、保温性試験機を用い、試験片を恒温発熱体に取り付け、低温度の外気に向かって流れ出す熱量が一定となり、発熱体の表面温度が一定値を示すようになってから2時間後に試験片を透過して放散される熱損失を求め、これと試験片のない裸状のままで同様の温度差及び時間に放散される熱損失との比から、保温率(%)を求めた。なお、測定は2回行い、その平均値を算出して結果とした。結果を表4に示す。
【表4】

本試験前においては、生地aは保温性の点で絹繊維より劣るナイロン繊維も使用されている為に、絹繊維のみからなる生地bよりも保温率が劣ると推測されたが、驚くべきことに、表4から、1年にわたって使用されたにもかかわらず、生地aの保温率の方が生地bのそれと比較して極めて高い結果が得られた。この結果から、生地aは、未使用の時点で高い保温性を有し、そして1年使用後においても絹繊維のみからなる生地bよりも高い保温性が持続されているものと推測され得る。かように、絹のみからなる生地bと比較してより高い保温性を長期にわたって維持し得る生地aは、たとえより肉薄で軽量の被服を構成したとしても、絹のみからなる厚い生地bと同等の保温性を維持することも可能であるので、被服の材料としてなお一層好適な材料であると言うことが出来る。
【0021】
(試験例4)破断強度及び破断伸度の測定
酸化チタン含有糸を用いた生地の破断強度及び破断伸度の経時変化を、絹繊維のみからなる生地のそれらと比較検討した。
試験試料
試料a:絹からなる糸を全体の70%及び酸化チタン含有ナイロン繊維からなる糸を全体の30%用いて丸編した未使用の生地。
試料b:生地aを1年の間、着用、洗濯を繰り返して使用したもの。
試料c:絹からなる糸を100%用いて丸編した未使用の生地。
試料d:生地cを1年の間、着用、洗濯を繰り返して使用したもの。
試験方法
得られた試験試料a、b、c及びdの生地から絹糸をそれぞれ3本取出し、破断強度及び破断伸度の測定試験を行った。なお、該試験は農林水産消費技術センターに依頼して、テンシロン2型材料試験機を用い、試長10cm、H.S40mm/分、C.S100mm/分の条件において各糸について行われた。その結果を平均値として表5に示す。
【表5】

表5より、酸化チタン含有糸を用いた生地から取出された試料の絹糸の場合は、未使用(試料a)から1年使用後(試料b)に至っても、破断強度が3.46g/dから2.47g/d及び破断伸度が14.3%から10.8%までの低下にとどまり、経時による性能低下が効果的に抑制される結果を示している。これに対し、絹100%の生地から取出された試料の絹糸の場合は、未使用(試料c)から1年使用後(試料d)に至った時、破断強度が3.254g/dから0.493g/d及び破断伸度が15.1%から3.2%まで大きく低下した結果を示している。すなわち、かように、破断強度及び破断伸度を長期にわたって維持し得る酸化チタン含有糸を用いた生地からなる被服は、薄い生地であっても、絹繊維のみからなる生地と同等の強度を有し且つ強度が経時的に低下しないので、軽量の被服の材料としてより一層適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維と絹繊維とから紡いで作られた糸を示す図である。
【図2】図2は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる芯糸の外表面に、絹繊維からなる鞘糸を巻き付けて作られた複合糸を示す図である。
【図3】図3は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸と絹繊維からなる糸とを互いに撚り合わせて作られた撚り糸を示す図である。
【図4】図4は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維と絹繊維とから紡いで作られた糸、複合糸又は撚り糸から平織りされた織布を示す図である。
【図5】図5は、酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸に用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた本発明の織布の一態様を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 酸化チタンを含有したポリアミド系繊維 2 絹繊維 3 糸 4 芯糸
5 鞘糸 6 複合糸 7,14 酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸 8 絹繊維からなる糸 9 撚り糸 10 経糸 11 緯糸
12,13 織布 15,15’ 絹繊維からなる糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維全質量に基づいて0.01ないし5.0質量%の酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸及び/又は緯糸に用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた織布からなる、該中間材について、JIS L0842に従う耐光性試験及びJIS L0848に従う耐汗性試験においてそれぞれ4級以上の等級を有する、繊維材料。
【請求項2】
繊維全質量に基づいて0.01ないし5.0質量%の酸化チタンを含有したポリアミド系繊維からなる糸を織布の中間材の経糸及び/又は緯糸に用い、該中間材にその上方及び下方より絹繊維からなる糸を該中間材を覆い隠すように織り込んで作られた織布からなる、該中間材について、有毒ガス徐放性試験において、ホルムアルデヒド、イソ吉草酸及びアンモニアに対して79%以上の高い有毒ガス徐放率を示す、繊維材料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−328630(P2006−328630A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220313(P2006−220313)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【分割の表示】特願2004−570154(P2004−570154)の分割
【原出願日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【出願人】(505221971)
【出願人】(505221982)
【Fターム(参考)】