説明

改良された視認性および精度を有する有色熱インジケータを含む加熱物品

【課題】熱変色領域において可逆的な変色を示し、かつ耐久性を向上させた熱変色性顔料組成物を提供する。
【解決手段】前記熱変色性顔料組成物は、−核−外被構造を有し、直径が20nmから25000nmまでの間である複合顔料粒であり、それぞれが、・前記熱変色性半導体顔料を含む核と、・無機材料または有機無機ハイブリッド材料によって形成された固体で透明な連続した外被とを含む、複合顔料粒と、−少なくとも1種の熱安定性顔料とを含むことを特徴とし、さらに、前記熱変色性顔料組成物は、使用温度T1の変動範囲内の40℃以下の幅を有する熱変色領域において可逆的な変色を示す、ことを特徴とする加熱物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、改良された視認性および精度を有する可逆有色熱インジケータ(reversible coloured heat indicator)を備える加熱物品(heating article)に関する。具体的には、本発明は、スキレット(skillet)、ソースパン、ソテーパン、バーベキューグリル、フラットアイロン(flat iron)、矯正用ヘアアイロン(hair straightening iron)などの物品に関する。
【背景技術】
【0002】
実際に、このような物品の使用者にとって、物品が加熱されているときに使用中の物品の温度の変化を見ることは特に有益である。調理物品の場合には、衛生上および味覚上の理由から(例えばグリルまたはスキレットでステーキを焼くために)、ならびに調理物品のコーティングを弱くする可能性がある偶発的な過熱を限定するために、調理の間、温度をうまく制御する必要がある。ヘアアイロンの場合には、熱変色機能インジケータ(thrmochromic funtional indiator)は、ヘアアイロンの最適使用温度を使用者が知ることを可能にし、この特定の場合には、この最適使用温度が、毛髪のジスルフィド結合の破壊温度に関係する。フラットアイロンの場合には、熱変色機能インジケータが、例えば高温のベース(base)でやけどを負う(具体的には、アイロンがその動作温度に達し、サーモスタットの指示灯が消えたときに高温のベースでやけどを負う)危険を予防することを可能にする。
【0003】
この分野では、その内表面の温度を知ることを可能にする温度インジケータを備える調理容器が既に知られている。それらのインジケータは一般に、調理容器のベースに組み込まれ、導線によって電気ユニットに接続された温度センサを含み、この電気ユニットは、センサが測定した温度を表示する画面を備える。このような手段により、容器の調理面の温度が使用者に絶えず知らされ、そのため、使用者は、調理面が、肉を上手に「焼く」のに十分な温度に達した正確な瞬間を検出することができる。さらに、容器の調理面の温度が表示されることで、物品が高温であり、やけどの危険があることを使用者に警告することも可能になる。
【0004】
それにもかかわらず、このような温度インジケータは、複雑であり、電気絶縁、特に洗浄水に対する電気絶縁が問題になるという欠点を有する。
【0005】
加熱物品の他の知られているいくつかの実施形態では、温度インジケータが、ある温度で突然に変色する能力を有する有機熱変色性物質(organic thermochromic substance)からなる。具体的には、この有機熱変色性物質は、ChromaZone(登録商標)の商品名で呼ばれている、微小なカプセルに入れられた熱変色性顔料である。この顔料は、温度が上昇すると、物理状態が変化する(微小カプセル内の溶媒が固体状態から液体状態に変化する)ことによって、有色状態から無色状態に変化する。しかしながら、温度インジケータとして使用されるこの熱変色性顔料は、直接には物品の加熱面に置かれないという欠点を有する。したがって、例えば調理物品の場合には、熱変色性顔料が、柄の基部、物品の外縁、または平らな縁に置かれ、そのため、その化合物の変色は、調理面が到達した実際の温度を指示しない。このタイプの熱変色性化合物は200℃を超える温度には耐えることができないため、使用するたびに温度が少なくとも200℃に達する調理面に直接に配置することはできない。調理面に直接に配置した場合には、このような化合物はすぐに不可逆的に損傷することになる。
【0006】
本発明の趣旨では、熱変色性物質、熱変色性混合物または熱変色性組成物という用語は、温度に従って可逆的に変色する物質、混合物または組成物を指す。
【0007】
本出願の出願人に属する特許文献1も知られており、この特許は、温度に従って可逆的に変色する熱感受性の(thermosensitive)物体からなる熱インジケータを具備する調理器具であって、前記熱インジケータが、不粘着性(non−stick)コーティング、特にポリテトラフルオロエチレンからなる不粘着性コーティングの中に調合された調理器具を記載している。熱感受性インジケータの相対的な変色、したがって温度変化を評価することを可能にするためのインジケータとして、この調理器具に、熱安定性顔料(thermostable pigment)を組み込むこともできる。
【0008】
本発明の趣旨では、熱安定性顔料という用語は、所与の温度範囲内の温度上昇にさらされたときの色合い(tint)の変化が非常に小さい無機または有機化合物を指す。
【0009】
しかしながら、熱安定性顔料と熱感受性顔料を単純に関連づけても、温度変化をはっきりと見分けることはできない。
【0010】
これらの課題を解決するため、本出願の出願人は、少なくとも200℃において耐性である熱安定性樹脂からなるベースコーティングによって覆われた表面を備え、この表面に、少なくとも200℃において耐性である熱安定性樹脂に基づくデザイン(design)が塗布された加熱物品を開発した。このデザインは、少なくとも2つのパターン(pattern)を含み、一方のパターンは、温度が上昇するにつれて暗くなる熱変色性化合物を含み、もう一方のパターンは、やはり熱変色性だが、温度が上昇するとより明るくなる化合物を含む。この物品は、特許文献2の主題である。
【0011】
連続した領域内でこれらの熱変色性化合物を同時に使用することによって、加熱物品の調理面の温度変化の視覚的な知覚を向上させることが実際に可能になる。しかしながら、一方では、これらの2つの赤色は、室温において同様のクロマチックバリュー(chromatic value)を有するため、他方では、少なくとも50℃の熱幅(heat amplitude)を有する領域内において色の混同が起こるために、この知覚は困難であることがある。したがって、測定の精度および判読の容易さは、特に特別な訓練を受けていない人に対しては容易ではない。したがって、使用者は、このインジケータが提供する情報を見逃しがちである。
【0012】
衛生上および味覚上の理由から、ならびに調理物品のコーティングを弱くする可能性がある偶発的な過熱を限定するために、調理の間、温度をよく監視する必要があるという事実に変わりはない。
【0013】
さらに、その特性から、温度が上昇するにつれて白→黄→橙→赤→黒の順に漸進的に変色すると予想することができる半導体(SC)も知られている。
【0014】
本発明の趣旨では、熱変色性半導体(SC)という用語は、温度が上昇するにつれて変色する半導体化合物を指す。これらの半導体化合物の漸進的で完全に可逆的な熱変色特性は、材料の膨張に起因するその半導体の禁制帯の幅の低減に関連する。
【0015】
本発明に対して予想される応用分野において、調理物品型またはアイロン型の加熱物品は一般に、100℃から300℃までの間の温度範囲で使用される。しかしながら、この温度範囲におけるSCの変色は限定的かつ不明瞭なものにとどまり、以下の変化に限られている:淡黄色から明黄色(Bi23)、黄−橙色から赤−橙色(V25)、赤−橙色から非常に暗い赤色(Fe23)など。したがって、これらのさまざまな赤色を得ることが可能である場合であっても、熱変色効果の知覚が困難かつ不正確であることには変わらない。
【0016】
特に、一般に調理物品、アイロンなどの加熱物品の使用温度範囲である温度範囲(100℃から300℃までの間)において、これらの半導体の熱変色効果の知覚のこれらの問題を解決するため、1種または数種の熱安定性SCを1種または数種の熱変色性SCと混合することが知られている。
【0017】
熱変色性半導体と熱安定性半導体とをこのように組み合わせることの主な効果は、得ることができる色合いの範囲が特に広いことである。さらに、色合いの変化の知覚も高まる。オフホワイト(off−white)色から明黄色に変化する熱変色性半導体の混合物は、それが青色顔料と関連づけられた場合、シアンブルー(cyan−blue)色からシトロングリーン(citron−green)色へと変化することができる。この混合物は、必ずしも、熱変色性顔料単独よりも大きな測色パラメータ(colorimetric parameter)変化を示さないが、人間の眼の最大感度は、緑色に対応する波長を中心とする波長域にあるため、人間の眼はこの変化をよりはっきりと知覚する。
【0018】
特許文献3および4は、強化された熱変色性特性を有する複雑な組成物を得るための1種または数種の熱変色性半導体と1種または数種の安定性顔料とからなる混合物の開発を開示している。より具体的には、特許文献4では、酸化ビスマスBi23(熱変色性)とCoAl24(熱安定性、青色)を15:1の比率で混合し、これらの顔料をケイ酸カリウムによって結合させる。この混合物を含むコーティングは室温では青色であり、400℃で橙色になる。
【0019】
明らかに、熱変色性半導体と熱安定性顔料のそれらの混合物は、それらを含むコーティングに、改良された視認性および精度を有する可逆的な熱変色性を与えるという利点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、ある種の熱変色性半導体顔料は、加熱された表面上での使用中に、油またはグリース(grease)と両立しないという大きな欠点を有し、それらの熱変色性半導体顔料は脂質感受性(lipid−sensitive)であると言われる。実際に、例えば、それらの半導体金属酸化物は、油またはグリースの存在下で加熱すると容易に還元され、この還元反応後に形成された化合物はもはや熱変色性ではない。
【0021】
したがって、加熱下で脂質感受性である熱変色性半導体を保護して、熱変色性SCを還元する能力を有する油またはグリースに対してそれらの熱変色性半導体を不活性にする必要がある。
【0022】
顔料ベースの組成物を専門とする当業者には、無機質の殻(shell)(または外被(envelope))で覆うことによって顔料を保護することが知られている。このような技法は、化粧品、塗料など数多くの分野で一般的に使用されている。例えば、特許文献5は、酸化物の殻で被覆された金属粒子(SiO2で被覆された銀粒子)を顔料として含むヘアケア製剤を記載している。これらの顔料は、長期にわたって毛髪に光沢を与える。塗料においては、無機シリカ殻によって被覆することによって酸化チタンの光触媒効果が低減され、群青顔料の耐酸性が改良される(ソーダ、粘土および硫黄を加熱することによって得られる人工無機顔料)。
【0023】
最後に、この分野でも、例えばシリカ、酸化セリウムまたは鉄に基づく無機殻で被覆することによって、耐久性を向上させるある効果(金属性、真珠様効果など)を有する顔料を生み出すことが可能である。
【0024】
さらに、当業者には、シリカベースのコーティングによって、ビスマスとバナジウムの混合された酸化物BiVO4に基づく市販の黄色顔料(具体的には、Sicopal Yellow K1160FG(登録商標)の商品名で販売されているBASFの顔料、Lysopac Jaune 6613 P(登録商標)の商品名で販売されているCAPPELLEの顔料、およびVanadur Plus 9010(登録商標)の商品名で販売されているHEUBACHの顔料など)に提供された保護が、温度下でのより良好な色安定性を可能にし、押出し成形されたプラスチック中でそれらの顔料を使用することを可能にすることも知られている。これらの保護された顔料を生産する方法は、Du Pont社の特許文献6、BASF社の特許文献7、Bayer AG社の特許文献8およびCappelle社の特許文献9に記載されている。特にシリカを含む高密度で、連続したコーティングであるこれらの顔料のコーティングは、析出によって付着させる。実際には、このコーティングの内側の黄色顔料は、室温での明黄色から300℃での赤−橙色までの範囲の熱変色特性を有するが、それらの黄色顔料の色は、加えられた他の顔料の色を無効にするほどに非常に明るく、強烈であるため、それらの黄色顔料を、熱変色性顔料と熱安定性顔料とを混合した混合物中で使用することはできない。
【0025】
最後に、特許文献10は、あらゆる種類の組成物からなる粒子の周囲の不浸透性のシリカ殻のさまざまな合成経路を記載している。この被覆は、析出によるケイ酸ソーダからのケイ酸(「活性シリカ」)縮合によって、またはゾル−ゲル法(sol−gel)によるオルトケイ酸メチル(またはTMOS)からのケイ酸(「活性シリカ」)縮合によって、または加水分解されたSiCl4からのケイ酸(「活性シリカ」)縮合によって実施することができる。析出またはゾル−ゲルによるこれらの被覆技法は、非常に多種多様な殻(または外被):金属酸化物(金属Al、Si、Ti、B、Mg、Sn、Mn、Hf、Th、Nb、Ta、Zn、Mo、Ba、Sr、Ni、Sbの酸化物)およびZn、Al、Mg、Ca、Bi、Fe、Crなどのリン酸塩またはピロリン酸を形成することができるため、今でも広範囲に使用されている。
【0026】
しかしながら、これらのどの文献にも、油またはグリースの存在下で非常に高くなることがある温度に対して耐熱性の特定の特性を有する透明な保護についての言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】仏国特許FR 1 388029
【特許文献2】欧州特許EP 1121576
【特許文献3】欧州特許EP 0 287 336
【特許文献4】欧州特許EP 1 405 890
【特許文献5】仏国特許FR 2 858 768
【特許文献6】米国特許第4063956号明細書
【特許文献7】米国特許第4851049号明細書
【特許文献8】米国特許第5851587号明細書
【特許文献9】欧州特許EP 1086994
【特許文献10】米国特許第2285366号明細書
【特許文献11】仏国特許2 576 253
【特許文献12】欧州特許出願EP 2 139 964
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、その内表面が熱変色性のデザインを具備する本発明に基づく調理容器の第1の例の横断面図である。
【図2】図2は、図1に示した調理容器の内表面を覆うデザイン内の複合顔料および熱安定性顔料の分布を概略的に示している。
【図3】図3は、図1および2に示したデザイン内に存在する核−外被構造を有する複合顔料を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
意図された用途において、その役割、具体的には、加熱されることが意図された加熱物品(例えば調理物品)の表面に配置された温度インジケータとしての役割を適正に果たすためには、加熱下で脂質感受性である熱変色性半導体顔料が外被によって保護されていなければならず、その外被は透明でなければならず、その外被は、被覆された顔料を少なくとも450℃までの油に対して不透過性にするために、少なくとも5nmの厚さを有する連続したものでなければならないことを、本出願の出願人は見出した。さらに、このような被覆を有する熱変色性顔料の粒径は、製剤中で容易に分散し、得られるコーティングの被覆力(covering power)が良好になるように、十分に微細なものでなければならない。
【0030】
本発明において、用語加熱物品は、それ自体の加熱システムを有する物品、または、外部システムによって加熱される物品であって、外部システムが供給する熱エネルギーを、前記物品と接触した第3の材料または物体に伝達する能力を有する物品を指す。
【0031】
本発明において、用語被覆力は、コーティングが塗布された基板の表面の色または色合いの変化を、可能な最も薄い厚さで覆い隠す前記コーティングの能力を指す。
【0032】
これらの制約はどれも、保護ステップを細心の注意を要するものとし、具体的には、保護ステップでは、粒子の表面の初期活性化(これは、熱処理ステップもしくは粉砕(milling)ステップ、またはその両方とすることができる)、十分に小さなサイズ、制御された厚さおよび均質性を有すること、ならびに外被の十分な焼きしめ(densification)が必要となる。
【0033】
したがって、本発明は、加熱下で脂質感受性の熱変色性半導体顔料を、高温の油に対して不活性にする(すなわち油による前記半導体の還元を防ぐ)ために、加熱下で脂質感受性の熱変色性半導体顔料の表面においてこの保護を効果的に実現することからなる。粉末顔料の場合には、前記顔料がその中に調合されたコーティングの測色被覆率(colorimetric coverage)が良好であることを保証するために、十分に微細な粒径が維持されることを保証する必要もある。
【0034】
より具体的には、本発明は、
− 50℃から400℃までの間の使用温度範囲T1で加熱されることが意図された表面を有する基板と、
− 前記表面の少なくとも一部分に塗布されたデザインであり、少なくとも1つのパターンを有するコーティング層の形態を有し、この少なくとも1つのパターンは、加熱下で脂質感受性である少なくとも1種の熱変色性半導体顔料を含有する熱変色性顔料組成物を含む、デザインと
を備える加熱物品に関する。
【0035】
本発明によれば、この熱変色性顔料組成物は、
− 少なくとも1種の熱安定性顔料と、
− 核−外被(一般的には「核−殻」と呼ばれている)構造を有し、直径が20nmから25000nmまでの間である複合顔料粒であり、それぞれが、
− 加熱下で脂質感受性である熱変色性半導体顔料を含む核と、
− 無機材料または有機無機ハイブリッド材料からなる固体で透明な連続した外被と
を含む、複合顔料粒と
を含み、
この熱変色性顔料組成物は、使用温度T1の変化範囲内の40℃以下の幅を有する熱変色領域において可逆的な変色を示す。
【0036】
本発明に基づく複合顔料粒は、450℃程度の温度までの油、より具体的には、植物、動物または合成物起源のトリグリセリド脂肪酸型の油から、拡張して、脂肪酸エステル(複数のアルキル基を有し、そのうちの少なくとも1つのアルキル基がCnであり、nが8以上であるモノ、ジまたはポリ脂肪酸エステルまでの油に対して不活性であるという特性を有する。
【0037】
加熱下で脂質感受性である熱変色性半導体顔料は、液体の形態または固体の形態を有することができる。加熱下で脂質感受性である熱変色性半導体顔料は、分割された状態の固体粒子の形態を有し、複合顔料粒はそれぞれ、少なくとも1種の顔料粒子を含むことが好ましい。
【0038】
熱変色性顔料組成物はさらに、それが加熱下で脂質感受性でなければ、1種または数種の被覆されていない熱変色性顔料を含むことができる。
【0039】
有利には、複合顔料粒の外被は5nmから100nmまでの間の厚さを有する。実際、外被の厚さが5nmよりも薄いと、顔料粒子の表面の凹凸の全てを覆うことができない。100nmよりも厚いと、外被の厚さは厚すぎ、熱変色性顔料の測色強度が低下する危険性がある。
【0040】
複合顔料粒の外被は20から50nmまでの間であることが好ましく、30nm程度であるとより好ましい。加熱下の油に対する耐性に関して、最良の結果は、これらの優先的な値で得られる。
【0041】
本発明に基づく加熱物品は、改良された視認性および精度を有し、同時に高温に対して特に耐性である可逆有色熱インジケータをこのように具備するという大きな利点を有する。したがって、本発明に基づく加熱物品では実際に、温度インジケータが、核の無機顔料と無機外被または有機無機ハイブリッド外被とに基づく核−外被構造を有する複合顔料粒子を含むデザイン層によって構成されている。複合顔料粒は、複合顔料粒がその核の中に含む熱変色性化合物よりも明らかに温度耐性が高い。
【0042】
複合粒の外被は、無機質または有機無機質とすることができる。複合粒は一般に、少なくとも1種の金属ポリアルコキシラート(metal polyalkoxylate)からゾル−ゲル法によって合成する。
【0043】
この外被は無機質であることが好ましい。例えば、この外被は、以下の元素の酸化物から選択された1種または数種の金属酸化物から有利に構成することができる:Al、Si、Ti、B、Mg、Fe、Zr、Ce、Sn、Mn、Hf、Th、Nb、Ta、Zn、Mo、Ba、Sr、Ni、Sb。複合粒子の無機外被は、以下の元素のリン酸塩またはピロリン酸塩から選択することもできる:Zn、Al、Mg、Ca、Bi、Fe、Crなど。
【0044】
複合顔料粒の核は、熱変色性顔料に加えて、液体の形態、または分割された状態の固体粒子の形態の少なくとも1種の熱安定性顔料を含むことが好ましい。
【0045】
また、デザインは、加熱されることが意図された表面のうちの小さな表面だけを覆うことができるが、加熱されることが意図された表面の全体を覆うこともできる。デザインは、不連続または連続(平坦)とすることができる。
【0046】
デザインは、加熱されることが意図された(および使用中に使用者がその温度を推定しようとする)基板の表面に直接に塗布することができる。実際、加熱下で脂質感受性の熱変色性半導体顔料を、適当な厚さを有する透明な連続した殻(または外被)で保護すると、その熱変色性半導体顔料を、油またはグリースに対して不活性にすることができ、特に、熱変色性半導体顔料を300℃〜450℃程度の温度まで加熱したときに、インジケータの早期老化は観察されない。
【0047】
しかしながら、加熱されることが意図された表面は、デザイン層がその上に少なくとも部分的に塗布された連続または不連続ベースコーティングであり、少なくとも200℃において耐性である少なくとも1種の熱安定性結合剤を含む連続または不連続ベースコーティングによって、少なくとも部分的に覆われていた方が有利なことがある。
【0048】
さらに、デザイン層、ならびに場合によっては加熱されることが意図された基板の表面および/またはベースコーティングを、少なくとも200℃において耐性である少なくとも1種の熱安定性結合剤を含む連続した透明の仕上げ層の連続層で、有利に覆うことができることがある。この仕上げ層は、デザインの完全な視認性を使用者に与え、デザインを摩耗から保護し、場合によっては(例えばフルオロカーボン樹脂に基づく仕上げコーティングでは)デザインに不粘着特性を与える。
【0049】
本発明に基づく加熱物品が、加熱されることが意図された基板の表面を覆う逐次的な3つの層を備える場合には、仕上げ層の熱安定性結合剤とベースコーティング層の熱安定性結合剤が同一であると有利である。ベースコーティング、デザインおよび仕上げ層は、同時に焼成することが好ましい。この同時焼成は、それぞれの層の熱安定性結合剤の同時焼結を可能にし、したがってデザインの複合粒子相互の凝集を促進する。
【0050】
本発明の特に有利な第1の実施形態によれば、デザインは、複合顔料に加えて、少なくとも300℃において熱安定性である結合剤を含むことができ、この結合剤は、単独で、または他のフルオロカーボン樹脂との混合物として存在するフルオロカーボン樹脂、ポリエステル−シリコーン樹脂、シリコーン樹脂およびゾル−ゲル材料の中から有利に選択することができる。
【0051】
ゾル−ゲル材料を結合剤として含むこの第1の実施形態では、前記ゾル−ゲル材料が、少なくとも1種の金属ポリアルコキシラートのマトリックスと、前記マトリックス中に分散した、前記コーティングの総重量の少なくとも5重量%の少なくとも1種のコロイド金属酸化物とを有利に含むことができる。
【0052】
このような結合剤を含むこの場合、複合粒子の外被は、加熱下の油またはグリースの潜在的作用から顔料を隔離する障壁を形成するシリカ外被であることが好ましい。この外被は、(後により詳細に説明する本発明の方法に従って)以下のように生成することができる。顔料の表面を活性化し、顔料を粉砕して、満足のいく粒径を得た後に、基本条件下のゾル−ゲル法によって、アルコキシシラン前駆物質からシリカ外被(または殻)を形成する。次いで、この外被を、グリースに対して完全に不浸透性にするために熱処理によって焼きしめる。
【0053】
この第1の実施形態では、単独で、または他の熱安定性樹脂との混合物として存在する、フルオロカーボン樹脂または数種のフルオロカーボン樹脂の混合物を、熱安定性結合剤として使用することも可能である。
【0054】
このフルオロカーボン樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロプロピルビニルエーテル(PFA)の共重合体、もしくはテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレン(FEP)の共重合体、または前記フルオロカーボン樹脂の混合物とすることができる。
【0055】
少なくとも200℃において耐性であるこの他の熱安定性樹脂は、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PPEK)またはシリコーンとすることができる。
【0056】
最後に、(熱安定性結合剤を含む)この第1の実施形態では、熱安定性結合剤として、シリコーン樹脂またはポリエステル−シリコーン樹脂を使用することも可能である。
【0057】
(デザイン層が熱安定性結合剤を含む)この第1の実施形態では、本発明に基づく加熱物品が、加熱されることが意図された基板の表面を覆う逐次的な少なくとも2つの層、具体的には(デザインで覆われたベースコーティング、仕上げ層で覆われたデザイン、または仕上げ層で覆われたデザインで覆われたベースコーティング)を備える場合、これらの異なる層(したがってそれらのそれぞれの熱安定性結合剤)が互いに両立する必要がある。しかしながら、それらの結合剤が同一である必要は必ずしもない。したがって、ベースコーティングおよび/または仕上げ層の結合剤がゾル−ゲル材料であっても、デザイン層中の結合剤をシリコーン樹脂型とすることが可能である。
【0058】
本発明の第2の特に有利な実施形態によれば、デザインは熱安定性結合剤を含まない。
【0059】
塗布のタイプによっては、組成物の特性を塗布プロセスに適合させるために、調合添加剤の添加が必要なことがある。したがって、セリグラフィ(serigraphy)塗布またはタンポグラフィ(tampography)塗布では、デザイン層の組成物中に少なくとも1種の増粘剤が存在する必要があり、この増粘剤は、有機(ウレタンベース、アクリルベース、セルロースベースなど)または無機(焼成シリカ(pyrogenic silca)、Laponite(登録商標)など)とすることができる。
【0060】
例えば吹付け、カーテン(curtain)、ローラ(roller)、クエンチング(quenching)、塗装などによる、デザインの他の塗布モードも可能である。
【0061】
核−外被構造を有する複合顔料粒についてより具体的に言うと、核を構成する熱変色性顔料として半導体金属酸化物が使用され、この半導体金属酸化物は、以下の半導体の中から選択されることが好ましい。
− V25。室温では橙−黄色。
− Bi23。室温では、ごくわずかに黄色のオフホワイト色。
− BiVO4。室温では黄色。
− WO3、CeO2、In23。Bi23に非常によく似ている。
− Fe23。室温では橙から褐色。
− パイロクロア(pyrochloric)Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84SC。室温では橙−黄色。
【0062】
デザインの熱変色性顔料組成物は、複合顔料粒に加えて、少なくとも1種の熱安定性顔料を含む。
【0063】
特許文献2に記載されている単独で使用された熱変色性顔料によって構成された温度インジケータについて言えば、複合顔料粒に関連した熱安定性顔料の使用は、特に幅広い範囲の色合いを得ること、および色合いの前記変化の知覚を高めることを可能にする。一方、本発明に基づく加熱物品の温度インジケータは、特許文献2に記載されている温度インジケータよりも、(使用中に使用者によって知覚可能であるという意味において)視認性が高く、判読しやすく(すなわち消費者が理解しやすく)、正確である。
【0064】
そのために、例えば、熱変色性顔料組成物は、少なくとも1種の熱安定性顔料と熱変色性顔料を被覆する少なくとも1種の複合顔料粒子の混合物を含むことができ、前記混合物は、以下の混合物から有利に選択することができる。
・ 被覆された(以下、被覆)Bi23+Co3(PO42
・ 被覆Bi23+LiCoPO4
・ 被覆Bi23+CoA124
・ 被覆V25+Cr23
・ 被覆YCaTiVO+Co3(PO42
【0065】
上記の被覆された熱変色性顔料(すなわち、実際には、その核が熱変色性顔料を含む複合顔料粒子の量と熱安定性顔料の量の重量比、ならびにその色の変化および最終的な色:
− 被覆Bi23(室温では淡黄色)とCo3(PO42(熱安定性のすみれ色(violet))の混合物。Bi23とCo3(PO42の重量比は3:1。この混合物は室温では藤色(mauve)であり、200℃で緑色になる。
− 被覆Bi23(室温では淡黄色)とLiCoPO4(熱安定性のすみれ色)の混合物。Bi23とLiCoPO4の重量比は1:3。この混合物は室温ではすみれ色であり、200℃で灰色になる。
− 被覆Bi23(室温では淡黄色)とCoA124(熱安定性の青色)の混合物。Bi23とCoA124の重量比は30:1。この混合物は室温では青色であり、200℃で緑色になる。
− 被覆V25(室温で黄−橙)とCr23(熱安定性の緑色)の混合物。V25とCr23の重量比は1:1。この混合物は室温では緑色であり、200℃で褐色になる。
− 被覆Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84(室温では黄−橙色)とCo3(PO42(熱安定性のすみれ色)の混合物。Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84とCo3(PO42の重量比は1:4。この混合物は室温では緑色であり、200℃で灰色になる。
【0066】
本発明の特に有利な実施形態によれば、加熱物品は、それぞれが顔料組成物を含む少なくとも2つのパターンを備えることができ、これらのパターンの顔料組成物のうちの少なくとも一方の顔料組成物は熱変色性である。好ましくは、全く同じ熱変色性顔料組成物パターンが、それによればこれらのパターンが分離された少なくとも1つの横断面を見つけることが可能であるように配置される。対照的に、上から見ると、これらのパターンは互いに接続されていてもよく、または分離されていてもよい。
【0067】
この実施形態の第1の代替実施形態によれば、これらのパターンは、
− 室温において、人間の眼によって室温で知覚可能な初期の測色差(colorimetric difference)を有し、
− 60℃から350℃までの間(より具体的には、調理物品については一般に200℃から300℃までの間)である加熱物品の使用温度T1において、実質的に全く同じ最終的な色を有する。
【0068】
例えば、可能な組合せは以下のとおりである。
− 加熱物品のこれらのパターンのうちの一方のパターンは、被覆Bi23(室温では淡黄色)とLiCoPO4(熱安定性のすみれ色)の混合物を含み、Bi23とLiCoPO4の重量比は1:3であり、この混合物は室温ではすみれ色であり、200℃で灰色になり、
− もう一方のパターンは、被覆Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84(室温では黄−橙色)とCo3(PO42(熱安定性のすみれ色)の混合物を含み、Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84とCo3(PO42の重量比は1:4であり、この混合物は室温では緑色であり、200℃で灰色になる。
【0069】
本発明の他の実施形態によれば、これとは逆の実施形態を予想することもできる。すなわち、これらの2つのパターンが、室温において全く同じ色を有する(例えば、これらのパターンのうちの一方のパターンが熱変色性であり、もう一方のパターンが熱安定性であるか、または両方のパターンが熱変色性である)。物品の温度が上昇すると、これらの2つのパターン間の測色差の出現(これは温度上昇の指示を構成する)が観察される。
【0070】
この実施形態の第2の代替実施形態によれば、これらのパターンのうちの一方のパターンは、使用温度T1の付近で可逆的な変色を示す顔料組成物を含み、もう一方のパターンは、少なくとも40℃の使用温度T1よりも高い温度T2の付近で可逆的な変色を示す顔料組成物を含む。この第2の代替実施形態によれば、加熱物品は、複数の温度インジケータを備える。
【0071】
実際、加熱要素がその最適な使用温度に達したときに、消費者に警告することは特に有益である。
− 調理物品に関しては、最適な調理温度が食品(魚、野菜、赤身の肉、白身の肉)によって異なる。
− アイロンの応用分野では、この温度が、アイロンをかける織物によって異なる。
【0072】
最高温度に達したときに消費者に警告することも有用である。この場合、この最高温度は、処理される物体(調理物品の場合の栄養素、アイロンでの織物繊維など)を維持するため、または道具のコーティングを維持するための最高温度である。(やけどの危険の予防など)危険警報も特に有用である。
【0073】
したがって、デザインが2つのパターンを有する調理物品型の加熱物品の場合には、デザインが、以下のように振り分けられた少なくとも2つの温度インジケータを具備することを考えることができる。
− 使用温度T1の付近で可逆的な変色を示す、これらのパターンのうちの一方のパターンの顔料組成物は、加熱されることが意図された基板の表面が最適な使用温度に達したときに消費者に警告するように意図されたいわゆる「低温」インジケータを構成し、
− 加熱物品の劣化が始まる温度T2の付近で可逆的な変色を示すもう一方のパターンの顔料組成物は、処理される物体(調理物品の場合の栄養素、アイロンでの織物繊維など)が劣化する可能性があること、および物品の加熱を調整する必要があることを使用者に警告するように意図された「高温」インジケータを構成する。
【0074】
加熱されることが意図された表面を有する基板の性質に関して、この基板は、金属、木材、ガラス、セラミックまたはプラスチックの中から選択された材料から製作することができる。
【0075】
本発明の脈絡では、金属基板、具体的にはアルミニウム、ステンレス鋼、鋳鉄、鉄または銅を使用することが好ましい。
【0076】
加熱されることが意図された基板の表面へのコーティング(すなわちこの表面に直接に塗布されたデザイン層または場合によってはベースコーティング層)の接着をより良好にするため、加熱されることが意図された基板の表面を、その比表面積が増大するように有利に処理することができる。
− アルミニウムに対しては、陽極処理(管状アルミナ構造の生成)によって、化学腐食によってまたはサンディング(sanding)によって、熱溶射技法(プラズマ、フレームまたはアーク溶射)に従って材料を連続的にもしくは不連続に供給することによって、この処理を実行することができ、
− その他の金属基板も、研磨、サンディング、ブラシ研磨もしくはマイクロビーズ研磨し、または上記のような材料の供給にかけることができる。
【0077】
本発明に基づく加熱物品の例としては特に、調理物品、バーベキューグリル、電気調理機器(クレープパン、ワッフル焼き型、テーブルグリル、ラクレットグリル、フォンデュ鍋、炊飯器、ジャム鍋、製パン機のバットなど)、アイロン、矯正用ヘアアイロンなどを挙げることが可能である。
【0078】
本発明に基づく核−外被構造を有する複合顔料粒は、以下のステップを含むプロセスによって生成することができる。
− 熱変色性半導体顔料粒子の粉末、具体的にはBi23を用意するステップ
− 前記熱変色性半導体顔料粒子の表面を少なくとも部分的に活性化するステップ
− シリカ前駆物質の加水分解−縮合段階を開始させるために、少なくとも1種の金属ポリアルコキシラートをアルコールと混合し、複合顔料粒形成物(43)を得るために、この加水分解−縮合段階を撹拌しながら数時間継続させるステップ
− 前記粒子(430)を回収し、未反応の試薬および溶媒から前記粒子(430)を分離するための濾過ステップ
− 200℃から600℃までの間の温度で、少なくとも10分間、前記粒子の外被を焼きしめるステップ
【0079】
この活性化ステップは、(顔料粒子の最初の粒径に基づいて)熱処理もしくは粉砕処理、または熱処理と粉砕処理の同時処理とすることができる。
【0080】
金属ポリアルコキシラートはTEOS、加水分解−縮合のために使用するアルコールはイソプロパノールであることが好ましい。
【0081】
本発明に基づくこのプロセスのこれらのさまざまなステップについては、実施例2で詳細に説明する。
【0082】
本発明に基づくこのプロセスによって得られる複合顔料粒は、熱変色性SC(典型的にはBi23)を含む核とシリカ外被とを備える核−外被構造を有する。この外被は、連続しており、油に対して不透過性であり、透明であり、少なくとも450℃において耐熱性であり、この粒子がその中に含まれる製剤と両立し、その粉末の最終的な粒径は、製剤中での良好な分散および得られたコーティングの良好な測色被覆率を可能にする。
【0083】
本発明の他の特定の特徴および利点は、実施例および(下記の単一の図1によって表された)実施形態において明瞭になる。
【0084】
以下の実施例では本発明をより詳細に提示する。実施例において、特に明記しない限り、百分率および部(part)は全て、重量に関して表現されている。
【0085】
実施例
製品
顔料
熱安定性顔料:
・PK5033の商品名でFERRO社によって販売されているCo3(PO42(室温ではすみれ色)
熱変色性顔料:
・「Bismuth oxide (III)」の名称でFluka社によって販売されている、粉末の形態のBi23(室温では、わずかに黄色の色合いを帯びたオフホワイト色)
シリカ外被:
・前駆物質としてのTEOSからゾル−ゲル法によって得た。
【0086】
ベースコーティング層および仕上げコーティング層
部分A:
・Klebosolの商品名でClariant社によって販売されている、シリカを30%含む水溶液の形態のコロイドシリカ
・イソプロパノール
・FA1220 of Ferroの商品名でFERRO社によって販売されている食品用等級の黒色顔料
部分B:
・ − ゾル−ゲル重合前駆物質:メチルトリメトキシシラン(MTMS)またはMTES
・ − 有機酸:酢酸
【0087】
デザイン層
・ − 増粘剤:メタクリル酸とアクリル酸エステルの共重合体
・ − 溶媒:プロピレングリコール
【0088】
加熱物品の熱変色性の確認および油試験の方法
複合粒子の外被の品質を肉眼によって評価するために、2つのタイプの観察を実行する。
・複合粒子の測色特性および熱変色特性が維持されることの確認:この確認は、室温において、および100℃から300℃までの間の温度に加熱した後において、未加工の粉末(すなわち被覆されていない顔料粉末)の色と、保護された粉末の色とを比較することに基づく。それらの色の違いは最小限であるべきである。
・複合粒子粉末の油試験:この試験は、グリースを用いて調理することによる)、調理物品の使用条件をシミュレーションすることによって、未加工の(すなわち被覆されていない)顔料に提供された保護の有効性を評価することからなる。そのために以下のステップを実行する。
○粉末を油に浸し、200℃で9時間、加速試験では270℃で2時間加熱する。
○前記粉末を濾過、洗浄した後、粉末の色およびその熱変色性を確認する。(保護された粉末と保護されていない粉末の間の)熱変色性の変化は最小限であるべきである。
【実施例1】
【0089】
本発明に基づく調理物品の生成
本発明に基づく調理容器を、非限定的な例として提供した添付図を参照して以下で説明するとおりに生成する。
− 図1は、その内表面が熱変色性のデザインを具備する本発明に基づく調理容器の第1の例の横断面図である。
− 図2は、図1に示した調理容器の内表面を覆うデザイン内の複合顔料および熱安定性顔料の分布を概略的に示している。
− 図3は、図1および2に示したデザイン内に存在する核−外被構造を有する複合顔料を概略的に示している。
【0090】
図1に示した調理容器は、加熱されることおよび調理する食品を受け取ることが意図された内表面21を有する基板2を備えるフライパン(またはスキレット)1からなる。
【0091】
この内表面21は、連続したベースコーティング層3によって覆われている。
【0092】
ベースコーティング3の少なくとも一部分には、複数のパターン41、42を含む不連続のデザイン4が塗布されており、ベースコーティング3は、少なくとも200℃の温度に対して耐性である熱安定性結合剤として、実施例5で説明する実施形態に従って得たゾル−ゲル材料を含む。
【0093】
デザインの組成物は、熱変色性複合顔料43および熱安定性顔料44に基づく実施例4の顔料ペーストを含む。
【0094】
複合顔料43は、図3に示すような核−外被構造を有する顔料粒であり、核430は、熱変色性SC(1種または数種)を含み、外被431は、無機材料または有機無機ハイブリッド材料でできている。
【0095】
デザイン4のパターン41内の熱変色性複合顔料43および熱安定性顔料44の分布が図2に示されている。
【0096】
デザイン4は、特許文献11に記載されたプロセスに基づくセリグラフィによって、またはタンポグラフィによって、または他の任意の手段(吹付け、カーテン、ローラ、クエンチングなど)によって、塗布することができる。
【0097】
デザイン4を塗布した後、実施例5で説明する実施形態に従って、デザイン4およびベースコーティング層3を完全に覆う連続した透明な仕上げ層を塗布し、これを焼成にかける。この焼成は、ベースコーティング3の焼成の後に逐次的に実行することができる。しかしながら、コーティング3およびデザイン4の焼成は、単一の焼成操作として同時に実行した方が好ましい。
【実施例2】
【0098】
シリカ外被内の熱変色性顔料Bi23の生成
熱変色性SC顔料(Bi23)の表面を活性化し、顔料を粉砕して、満足のいく粒径を得た後に、基本条件下のゾル−ゲル法によって、アルコキシシラン前駆物質からシリカ殻を形成する。次いで、この殻を、グリースに対して完全に不浸透性にするために熱処理によって焼きしめる。この殻を合成する手順を以下に示す。
【0099】
活性化
最初に、粉末の形態の熱変色性顔料を、430℃に加熱することによって活性化する。
【0100】
粉砕
複合粒子の粒径は、製剤中で容易に分散し、得られるコーティングの測色被覆率が良好になるように、十分に微細なものでなければならない。
【0101】
しかしながら、形成されたばかりの保護外被を破壊する危険があるため、カプセル化後は、被覆Bi23粉末を粉砕することがもはやできないことを考えると、外被を合成する前に、適合した粒径のBi23粉末を得る必要がある。そのためには、粉砕後の被覆されていないBi23粉末の(例えばレーザ回折グラニュロメータ(granulometer)によって確定された)粒径分析が、粉末のメディアン径が5μm未満であることを示していなければならない。
【0102】
したがって、手順は以下の通りである。予め活性化しておいた粉末を、イソプロパノールを含むDiscontimillボールミルに、溶媒30gに対して粉末70gの比率で非常にすばやく投入する。この粉砕を2時間30分続ける。
【0103】
開始
このステップは、シリカ前駆物質の加水分解−縮合の開始に対応し、それは以下のように実行される。
1.最初に、粉砕されたBi23がイソプロパノール中に分散した分散系に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を撹拌しながら加える。TEOSの量は次のように規定される。厚さ約30nmの外被を得るためには、比面積0.14m2/g(これは半径2.5μmの粒子に対応する)の粉砕されたBi23粉末100gに対して、TEOS2.4gを分散系に加える必要がある。
2.この分散系に、アンモニアゴムを加えてpH11に調整した水を撹拌しながらゆっくりと加えることによって、シランの加水分解を開始させる。この水は、シランの量に対して合理的な化学量論的過剰(約3の化学量論比R)で加える。
【0104】
熟成
このTEOSの加水分解−縮合を、撹拌しながら室温で数時間継続させる。
【0105】
濾過
次いで、未反応の合成溶媒および試薬を濾別することによって、被覆シリカ粒子(まだ完全には焼きしめられていない)を抽出する。
【0106】
焼きしめ
形成されたシリカ殻をできるだけ不透過性にするために、最終的な熱焼きしめステップを実行する。
【0107】
500℃、30分の焼きしめは、非常に高温の油またはグリースに対する効果的な保護を得ることを可能にする。これよりもより短い持続時間またはこれよりも低い焼きしめ温度は、シリカの網目を有効に架橋させ、焼きしめるのには不十分である。対照的に、過大な持続時間および温度は、保護の有効性を低下させる。
【実施例3】
【0108】
本発明に基づく実施例1の調理物品の内側調理面21上のベース層3の生成
部分Aおよび部分Bを含む2成分系の形態のゾル−ゲル組成物を調製する。
− 部分Aは、コロイドシリカと、部分Bの金属前駆物質の加水分解を可能にする水と、部分Aおよび部分Bに対する良好なアカウンティング(accounting)を可能にするイソプロパノールと、食品用等級の黒色顔料とからなる分散系を含む。
− 部分Bは、コーティングのマトリックスの形成を可能にし、(有毒なVOCであるメタノールの形成につながるメチルトリメトキシシランとは違い、非毒性の揮発性有機化合物(VOC)である)エタノールだけを拒絶する、ゾル−ゲル前駆物質としてのメチルトリエトキシシランと、ゾル−ゲル反応が触媒されることを可能にする酢酸とを含む。
【0109】
これらの2つの部分AおよびBは、この分離された形態で、6か月を超える期間、保管することができる。
【0110】
図1に示すように調理物品の内表面に塗布する前に、均質混合物(intimate mixture)を形成し、加水分解反応を開始させることを可能にするために、部分Aと部分Bをミキサで混合する。次いで、実際に塗布する前に、この混合物を少なくとも24時間熟成させて、加水分解反応および縮合反応を十分に進行させる必要がある。この混合物のポットライフ(pot−life)は少なくとも72時間である。
【0111】
次いで、直径40ミクロンの孔を有するステンレス鋼製の格子上でこの混合物を濾過し、その後、少なくともグリースおよびダストが事前に除去された予め形成しておいたアルミニウム皿の内表面に、空気銃(pneumatic gun)を用いて塗布する。コーティングの接着を促進するため、基板の内表面は、その比表面積が増大するように(例えばサンディングによって)事前に処理しておく。
【0112】
次いで、厚さ5から50ミクロンの少なくとも1層のベースコーティング3を塗布する。多層塗布の場合には、それぞれの層を乾燥させてから次の層を塗布する。
【実施例4】
【0113】
実施例3で生成したベースコーティング層3上でのデザイン層4の生成
最初に、被覆Bi2337.5gおよびCo3(PO4212.5gを水50gに分散させることによって、顔料ペーストを調整する。
【0114】
デザイン組成物は、水で希釈したこの顔料ペーストと、製剤の乾燥を制御するためのプロピレングリコール、エチレングリコールなどのより重い溶媒の混合物とからなる。次いで、アニオン性高分子電解質(メタクリル酸とアクリル酸エステルの共重合体)によって、タンポグラフィによる塗布に適したレオロジ(rhelolgy)を有するのに十分な程度に、この分散系の粘度を増大させる。
【0115】
このようにして粘度を高めたデザイン組成物を、パターン(横断面では分離されているが、上から見ると接続されていてもよい)の形に不連続に塗布して、少なくとも1つの層4を形成する。多層塗布の場合には、それぞれの層を乾燥させてから次の層を塗布する。
【実施例5】
【0116】
実施例3で生成したデザイン層上での仕上げ層の生成および焼成
ゾル−ゲルコーティング層3と同じ方法で仕上げ層5を生成する。唯一の違いは、仕上げ層5は、透明であり続けなければならず、したがって顔料(任意選択で無色のフレーク)を含まないことである。
【0117】
部分AおよびBの調合、手順および塗布は、実施例3に記載したものと全く同じである。
【0118】
メチルトリエトキシシランベースのコーティングのマトリックスのメチル基は、前記層5に不粘着特性を与える。特許文献12に記載されているように、仕上げ層5にシリコーン油を加えることによって、この特性を改良することができる。
【0119】
これらの層を全て塗布し、乾燥させた後、物品1を250℃で15分間焼成する。
【産業上の利用可能性】
【0120】
いうまでもなく、本発明は、上記の例(主として調理物品)だけに限定されず、本発明の範囲を逸脱しない他のタイプの加熱物品(例えばフラットアイロン、バーベキューグリルプレートなど)を予想することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃から400℃までの間の使用温度範囲T1で加熱されることが意図された基板(2)と、前記表面(21)の少なくとも一部分に塗布されたデザイン(4)であり、少なくとも1つのパターン(41、42)を有するコーティング層の形態を有し、前記少なくとも1つのパターン(41、42)は、加熱下で脂質感受性である少なくとも1種の熱変色性半導体顔料を含有する熱変色性顔料組成物を含む、デザイン(4)とを備える加熱物品(1)であって、
前記熱変色性顔料組成物は、
− 核−外被構造を有し、直径が20nmから25000nmまでの間である複合顔料粒(43)であり、それぞれが、
・前記熱変色性半導体顔料を含む核(430)と、
・無機材料または有機無機ハイブリッド材料によって形成された固体で透明な連続した外被(431)と
を含む、複合顔料粒(43)と、
− 少なくとも1種の熱安定性顔料と
を含むことを特徴とし、さらに、
前記熱変色性顔料組成物は、前記使用温度T1の変動範囲内の40℃以下の幅を有する熱変色領域において可逆的な変色を示す、ことを特徴とする加熱物品(1)。
【請求項2】
加熱下で脂質感受性である前記熱変色性半導体顔料は、分割された状態の固体粒子の形態を有し、複合顔料(43)はそれぞれ、少なくとも1種の顔料粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の加熱物品(1)。
【請求項3】
前記複合顔料粒の前記外被(431)は5nmから100nmまでの間の厚さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の加熱物品(1)。
【請求項4】
前記複合顔料粒の前記外被(431)は20から50nmまでの間、好ましくは30nm程度の厚さを有することを特徴とする請求項3に記載の加熱物品(1)。
【請求項5】
前記複合顔料ゲインの前記外被(431)は、以下の元素:Al、Si、Fe、Zr、Ce、Ti、B、Mg、Sn、Mn、Hf、Th、Nb、Ta、Zn、Mo、Ba、Sr、Ni、Sbの酸化物から選択された1種または数種の金属酸化物からなる無機外被であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の加熱物品(1)。
【請求項6】
前記複合顔料粒の前記外被(431)は、1種または数種のZn、Al、Mg、Ca、Bi、FeまたはCrのリン酸塩またはピロリン酸塩からなる無機外被であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の加熱物品(1)。
【請求項7】
前記複合顔料粒(43)の前記核(430)は、液体の形態、または固体粒子の形態で分割された状態の少なくとも1種の熱安定性顔料をさらに含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の加熱物品(1)。
【請求項8】
前記デザイン(4)は、少なくとも300℃において熱安定性である少なくとも1種の結合剤を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の加熱物品(1)。
【請求項9】
前記デザイン(4)は、少なくとも1種の金属ポリアルコキシラートのマトリックスと、前記マトリックス中に分散した、前記コーティングの総重量の少なくとも5重量%の少なくとも1種のコロイド金属酸化物とを含むゾル−ゲル材料を、結合剤として含むことを特徴とする請求項8に記載の加熱物品(1)。
【請求項10】
前記デザイン(4)の前記熱安定性結合剤は、単独で、または他の熱安定性樹脂との混合物として存在する、フルオロカーボン樹脂または数種のフルオロカーボン樹脂の混合物であることを特徴とする請求項8に記載の加熱物品。
【請求項11】
前記デザイン(4)の前記熱安定性結合剤は、シリコーン樹脂またはシリコーンポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項8に記載の加熱物品。
【請求項12】
加熱されることが意図された前記表面(2)は、前記デザインがその上に塗布された(4)連続または不連続ベースコーティング(3)によって少なくとも部分的に覆われており、前記ベースコーティング(3)は、少なくとも200℃において耐性である少なくとも1種の熱安定性結合剤を含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の加熱物品。
【請求項13】
前記デザイン(4)、ならびに場合によっては加熱されることが意図された前記表面(2)および/または前記ベースコーティング(3)は、少なくとも200℃において耐性である少なくとも1種の熱安定性結合剤を含む透明な連続した仕上げ層(5)で覆われていることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の加熱物品。
【請求項14】
前記デザイン(4)は熱安定性結合剤を含まないことを特徴とする請求項13に記載の加熱物品。
【請求項15】
前記ベースコーティング(3)の前記熱安定性結合剤および/または前記仕上げ層(5)の前記熱安定性結合剤は、同一であり、少なくとも1種の金属ポリアルコキシラートのマトリックスと、前記マトリックス中に分散した、前記コーティングの総重量の少なくとも5重量%の少なくとも1種のコロイド金属酸化物とを含むゾル−ゲル材料からなることを特徴とする請求項13または14に記載の加熱物品。
【請求項16】
前記複合顔料粒の前記外被(431)はシリカ殻であることを特徴とする請求項9または15の一項に記載の加熱物品。
【請求項17】
前記複合顔料粒(43)の前記核(431)に含まれている加熱下で脂質感受性である前記熱変色性半導体顔料は金属酸化物であることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の加熱物品。
【請求項18】
加熱下で脂質感受性である前記熱変色性半導体顔料は、Bi23、Al23、V25、WO3、CeO2、In23、パイロクロアSCであるY1.84Ca0.16Ti1.840.161.84およびBiVO4から選択されることを特徴とする請求項17に記載の加熱物品。
【請求項19】
熱安定性顔料と加熱下で脂質感受性である熱変色性半導体顔料の混合物は、混合物(Bi23+Co3(PO42、(Bi23+LiCoPO4)、(Bi23+CoA124)、(Y1.84Ca0.16Ti1.840.161.84+Co3(PO42)および(V25+Cr23)から選択されることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の加熱物品。
【請求項20】
顔料組成物を含む少なくとも2つのパターン(41、42)を備え、前記2つのパターン(41)の前記顔料組成物のうちの少なくとも一方の顔料組成物は熱変色性であることを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の加熱物品。
【請求項21】
前記パターン(41、42)は、
− 室温において、室温で知覚可能な初期の測色差を有し、
− 50℃から400℃までの間の使用温度T1において、実質的に全く同じ最終的な色を有する
ことを特徴とする請求項20に記載の加熱物品。
【請求項22】
前記パターン(41、42)は、室温において全く同じ色を有し、50℃から400℃までの間の使用温度T1において、人間の眼で知覚可能な最終的な測色差を有することを特徴とする請求項20に記載の加熱物品。
【請求項23】
前記パターンのうちの一方のパターン(41)は、前記使用温度T1の付近で可逆的な変色を示す顔料組成物を含み、もう一方のパターン(42)は、少なくとも40℃の前記使用温度T1よりも高い温度T2の付近で可逆的な変色を示す顔料組成物を含むことを特徴とする請求項20に記載の加熱物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−52101(P2012−52101A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−163165(P2011−163165)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(594034072)セブ ソシエテ アノニム (63)
【Fターム(参考)】