改良型プロトフィブリル選択的抗体及びその使用
本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病、及び他の類似の疾患の予防、処置及び診断に関する。より具体的には、プロトフィブリル高次構造においてアミロイドβタンパク質(Aβ)に対し選択性を有し、且つIgGクラス及びIgG1若しくはIgG4サブクラス又はそれらの組み合わせ又はそれらの突然変異体であり、高Fc受容体結合性及び低C1(C1q)結合性を保有し、Aβプロトフィブリルのクリアランスに有効で、且つ炎症のリスクが低減された高親和性抗体に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病、及び他の類似疾患の予防、処置及び診断に関する。より正確には、プロトフィブリル高次構造においてアミロイドβタンパク質(Aβ)に対し選択性を有し、且つIgGクラス及びIgG1若しくはIgG4サブクラス又はこれらの組み合わせ又はこれらの突然変異体であり、高Fc受容体結合性及び低C1(C1q)結合性を保有し、Aβプロトフィブリルのクリアランスに有効で、及び炎症のリスクが低減された、高親和性の10−7M、好ましくは10−8M、さらには10−9M未満又は10−10M若しくは10−11M未満の抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、認知、記憶及び行動障害を引き起こす進行性で不可逆的な神経変性障害である。ADは高齢者人口における認知症の最も一般的な原因であり、65歳超の人口のおよそ5%及び80歳超の20%が発症している。ADは複数の認知機能における潜行性の発病及び進行性の悪化を特徴とする。神経病理としては、細胞外及び細胞内の双方の好銀性タンパク質沈着を伴う。細胞外の沈着物は老人斑と称され、主に異栄養性神経突起(腫脹し、変形した神経突起)に囲まれるアミロイドβタンパク質(Aβ)からなる。この細胞外沈着物内のAβは原線維状であることを特徴とし、βひだ状シート構造を伴う。この沈着物のAβはある種の色素、例えばコンゴレッドで染色でき、原線維状の超微細構造を呈する。老人斑中の原線維状構造のAβが備えるこれらの特徴が、一般名称としてのアミロイドの定義である。古典的な細胞内のAD病変は神経原線維変化(NFT)であり、これは高リン酸化微小管結合タンパク質τのよじれた鎖で構成されるペアードヘリカルフィラメント(PHF)と呼ばれる繊維状構造からなる。脳において頻繁に見られる老人斑及び神経原線維変化の堆積が、死後に行われるAD診断の基準である。AD脳はまた、肉眼的な脳萎縮、神経細胞損失、局所炎症(ミクログリオーシス及び星状細胞増加症)及びしばしば脳血管壁内に脳アミロイド血管症(CAA)も呈する。
【0003】
Aβペプチドの2つの型、Aβ40及びAβ42がAD老人斑における主な型であるが、ADに関連する脳血管アミロイドにおいてはAβ40が顕著な型である。酵素活性によりAβは、健常及びAD罹患の双方の被験者における全ての体細胞中でアミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる大型タンパク質から継続的に形成される。β−及びγ−セクレターゼ活性を通じた2つの主要なAPP切断イベントによりAβ産生が可能となる一方、α−セクレターゼと呼ばれる第3の酵素がAβ配列を内側で切断することによりAβ生成を妨げる(セルコエ(Selkoe)、1994年;エスター(Ester)、2001年;米国特許第5604102号明細書)。Aβ42は42アミノ酸長のペプチドであり、すなわちAβ40と比較してC末端で2つのアミノ酸分だけ長い。Aβ42は疎水性がより高く、且つAβ二量体、Aβ三量体、Aβ四量体、Aβオリゴマー、Aβプロトフィブリル又はAβフィブリルなどのより大型の構造のAβペプチドへとより容易に凝集する(ジャレット(Jarret)、1993年)。Aβフィブリルは疎水性且つ不溶性だが、その他の構造は全て疎水性が低く可溶性である。これらのより高度な分子構造のAβペプチドは全て、例えば電子顕微鏡法によるそれらの生物物理学的及び構造的外観、及び例えばサイズ排除クロマトグラフィー/ウエスタンブロットでの分析によるそれらの生化学的特徴に基づき、個々に定義される。これらのAβペプチド、特にAβ42は、寿命の間に種々のより高度な分子構造のAβへと徐々に集合することとなる。ADは年齢に大きく依存する障害であり、この集合プロセスが急速に生じるほど、生涯においてより早期に発症する。これが、ADの主原因はAPP切断、Aβ42のレベル及びこれらのより高度な分子構造への集合であると主張するADの「アミロイドカスケード仮説」の中核をなす。他の全てのAD脳についての神経病理及び認知症などのADの症状が、何らかの形でAβ又はその集合体により引き起こされている。
【0004】
Aβは、種々の長さで、すなわち1−39、1−40、1−42及び1−43が、並びに種々の断片サイズで、すなわち1−28及び25−35が存在し得る。ペプチドのN末端で切断が生じ得る。これらの全てのペプチドは凝集して可溶性中間体及び不溶性フィブリルを形成することができ、各分子型が特有の構造的高次構造及び生物物理学的特性を有する。例えば単量体Aβ1−42は42アミノ酸長の可溶性且つ非毒性ペプチドであり、正常なシナプス機能に関与していることが示唆される。一定の条件下で、Aβ1−42は凝集して二量体、三量体、四量体、五量体、最大12量体及びそれ以上のオリゴマー型となることができ、それぞれの物理化学的特性、例えば分子の大きさ、EM構造及びAFM(原子間力顕微鏡法)分子形状などはどれも異なる。より高い分子量の可溶性オリゴマーAβ型の例がプロトフィブリル(ウォルシュ(Walsh)、1997年)であり、これは見かけの分子量が100kDaより大きく、且つ直径4〜11nm及び長さ200nm未満の曲線線形構造を有する。近年、Aβプロトフィブリルなどの可溶性オリゴマーAβペプチドが、海馬における記憶形成を反映すると考えられているシナプス可塑性の尺度である長期増強(LTP)を損なうことが実証されている(ウォルシュ(Walsh)、2002年)。さらに、オリゴマーの北極型(Arctic)Aβペプチドが脳におけるLTPに対し野生型Aβより一層深刻な阻害作用を呈し、これはそれらのAβプロトフィブリルを形成する強力な性質に起因するものと思われる(クリュバン(Klyubin)、2003年)。
【0005】
文献には、プロトフィブリルとは明らかに異なる他の可溶性オリゴマー型も記載されている。かかるオリゴマー型の1つがADDL(アミロイド由来拡散性リガンド)である(ランベルト(Lambert)、1998年)。AFM分析によりADDLは、z軸に沿った4.7〜6.2nmの主に小球状の型で、分子量が17〜42kDaであることが明らかとなった(スタイン(Stine)、1996年)。別の型はASPD(アミロイドスフェロイド)と呼ばれるものである(ホシ(Hoshi)、2003年)。ASPDはAβ1−40の球状オリゴマーである。毒性試験から、10nmより大きい球状ASPDは低分子型のものより毒性が高いことが示された(ホシ(Hoshi)、2003年)。この見解は、早期発症型ADを引き起こす北極型(E693)APP突然変異の最近の発見により支持されている(米国特許出願公開第2002/0162129A1号明細書;ニルスバース(Nilsberth)ら、2001年)。この突然変異はAβペプチド配列の内側に位置する。このため突然変異保因者は、Aβペプチドの変異体、例えば北極型Aβ40及び北極型Aβ42を生成することになる。北極型Aβ40及び北極型Aβ42は双方とも、より高度な分子構造、すなわちプロトフィブリルへとより一層容易に凝集し得る。従って、北極型突然変異の発症機序から、可溶性でより高分子のプロトフィブリルがADを引き起こしているとともに、特異的な固有のエピトープ、すなわち「AD疾患エピトープ」を含むことが示唆される。
【0006】
アルツハイマー病(AD)脳においては一般的に、実質及び血管壁に細胞外アミロイドプラークが所見される。このプラークはアミロイド(Aβ38−43アミノ酸長の疎水性で自己凝集性のペプチドを含み、徐々に重合してプラーク沈着となる。可溶性Aβオリゴマー種はアミロイドプラークそれ自体より疾患相関性が高いことが提言されている(マクリーン(McLean)ら、1999年;ナスランド(Naeslund)ら、2000年)。これらの前フィブリル中間体Aβ種のなかで、オリゴマー型は試験管内及び生体内の双方において有害な生物学的作用を誘発することが示されており(ウォルシュ(Walsh)ら、2002年)、従って疾患病因の中心的役割を果たすものであり得る。様々な分子サイズのオリゴマーAβ種がいくつか知られている。重要なことには、Aβの単量体型、オリゴマー型及びフィブリル型の高次構造は異なり、高次構造選択的な抗体の標的となり得る。主要なAβ病原体の主体は不明であるものの、一部の証拠からは高分子量Aβオリゴマーが特に神経毒性を有することを示唆する(ホシ(Hoshi)ら、2003年)。
【0007】
早期発症型ADを引き起こす、アミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子における病原性突然変異についても記載されている。そのうちの1つがスウェーデン型APP突然変異(ムーラン(Mullan)ら、1992年)であり、これはAβレベルの上昇を引き起こす。Aβドメイン内に位置する他の北極型APP突然変異(E693G)は大型のAβオリゴマーであるプロトフィブリルの形成を亢進することが分かっており、これらのAβ中間体が特に病原性を有することが示唆される((米国特許出願公開第2002/0162129A1号明細書;ニルスバース(Nilsberth)ら、2001年)。北極型APP突然変異の同定及びAβプロトフィブリルについての毒性作用の解明では、AD発病におけるAβオリゴマーに一層焦点が当てられている。
【0008】
アルツハイマー病に対する治療方針としての免疫活性化は、(シェンク(Schenk)ら、1999年)により最初に報告された。免疫化戦略の標的は、アルツハイマープラークにおいて所見されるフィブリル型のAβであった。フィブリル化したAβをワクチン(AN−1792)として使用した活性Aβワクチン接種の最近の第I/II相臨床試験は、少数の患者における髄膜脳炎の発症により中止せざるを得なかった(ベイヤー(Bayer)ら、2005年)。この研究において見られた副作用は、血管壁の原線維性アミロイドに対し反応する抗Aβ抗体により引き起こされたものと見られた。CAAにおける原線維性アミロイドは血液脳関門(BBB)にごく近接しており、従って抗原抗体反応によりBBBに傷害が起こり、Tリンパ球のCNSへの浸潤に至った可能性がある(フェイファ(Pfeifer)ら、2002年;ラッケ(Racke)ら、2005年)。そのうえ、参加患者のうちAβワクチンに対する免疫応答を呈したのは少数のみであった。当該研究は早々に終了されたが、活性Aβ免疫化はAD患者の一部にしか有益でない可能性を含むように思われる。
【0009】
ヒトAβプロトフィブリルに対し選択的なモノクローナル抗体が記載されている(米国特許出願公開第2002/0162129A1号明細書)。純度が高く、且つ安定なヒトAβプロトフィブリルを生成するためのこの方法は、北極型突然変異(Glu22Gly)を有する合成Aβ42ペプチドの使用を伴う。この突然変異により免疫化及びAβプロトフィブリル選択的抗体のハイブリドーマスクリーニングが促進される。重要なことは、この抗体は野生型Aβプロトフィブリル及びAβ−Arcプロトフィブリルの双方と結合する(PCT/SE2005/000993号明細書)。
【0010】
Aβフィブリル(オヌアライン(O’Nuallain)、2002年)、ミセルAβ(カイエド(Kayed)、2003年)、ADDL(ランベルト(Lambert)、2001年)などの他のAβ高次構造に関して選択的な抗体が記載されている。しかしながら、これらはどれもAβプロトフィブリル選択性ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、改良型抗体、すなわちアルツハイマー病、ダウン症候群又は他の神経変性障害の予防、処置及び診断を改善するための、炎症のリスクが低減された、クラスIgG及びサブクラスIgG1又はIgG4若しくはそれらの組み合わせ又はそれらの突然変異体の高親和性(10−7M未満)Aβプロトフィブリル選択的抗体に関する。前記抗体は、古典的ハイブリドーマ技術及び抗体工学により開発されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、オリゴマーAβ型、すなわち「アルツハイマー疾患エピトープ」を構成するAβプロトフィブリルを選択的に結合する抗体由来のVL鎖及びVH鎖上のCDR1−3領域の共通アミノ酸配列を開示し、Fc領域の修飾と組み合わせることで補体因子C1q結合を低減し、補体の活性化及び炎症のリスクを低減する。
【0013】
抗体の定常領域は多くの重要な機能を有し、特にFc受容体及び補体因子C1qを結合する機能を有する。このC1q結合機能が不活化されることで炎症反応が回避された。
【発明の効果】
【0014】
要約すれば、この種類の高親和性プロトフィブリル選択的抗体は、他の既知の免疫療法的な治療様式と比較した場合、以下の特徴的な利点を有する。
1)高親和性により、疾患の原因であるAβプロトフィブリルを標的とする。
2)補体因子C1qとの結合性が低いか、又は全くないことにより、炎症性副作用、すなわち髄膜脳炎のリスクが低減する。
3)高親和性抗体により、有効な処置に必要な臨床用量が低減される。
4)正確な投薬様式を提供する。
5)血管壁におけるAβフィブリルへの結合、すなわちCAAが少なく、炎症性副作用のリスクが低減する。
6)末梢において結合する抗体が少なく、ひいてはより多くの抗体が血液脳関門を通過し得るとともに脳内でのAβオリゴマー型の結合及び除去に利用可能となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一態様は、ヒト野生型Aβプロトフィブリルを結合するCDR領域の抗体共通アミノ酸配列の発見である(実施例1)。この発見は、治療用又は診断用として野生型ヒトAβプロトフィブリルに対し高親和性及び高選択性を供する結合部位(CDR領域)を定義するものである。免疫グロブリン(IgG)分子の基本構造は、ジスルフィド架橋により共に結合する2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖を含む(図1)。軽鎖はλ又はκのいずれかであり、それぞれ約110アミノ酸残基の可変領域(VL)及び定常領域(CL)を有する。重鎖の有する可変領域(VH)は約110アミノ酸残基だが、定常領域(CH)は300〜400アミノ酸残基とはるかに大きく、CHγ1、CHγ2及びCHγ3領域又はドメインを含む。
【0016】
定常領域(Fc)は補体系を活性化するとともに、感染性微生物又は外来/非自己抗原を貪食及び破壊するマクロファージ、ミクログリア及び好中球上でFc受容体と結合する。これは抗体の治療原理の一部、すなわちFc受容体介在性ミクログリア食作用及びAβプロトフィブリルのクリアランスであることから、この機能は特に重要である。沈降仮説に従えば、他の抗体介在性クリアランス機序、すなわちAβ抗体の非凝集特性及び末梢におけるAβプロトフィブリルのクリアランスもまた作動している。重鎖及び軽鎖の可変領域は相補性決定領域又はCDRと呼ばれる3つの超可変領域を含む。CDR領域は約13〜23アミノ酸長の短い伸長部であり、VL及びVH領域に位置する。抗体の1本の「腕」上の6つのCDR領域が、抗原を結合する「ポケット」を形成する。図1は、IgG免疫グロブリン及びそのサブドメインの基本構造を示す。
【0017】
本発明の別の態様は、高親和性のプロトフィブリル選択的抗体に関する。プロトフィブリルに対する10−7M、好ましくは10−8M、さらには10−9M未満、10−10M未満、又は10−11M未満の範囲の親和性が記載される(実施例2)。これらの抗体は、親和性が10−6Mの範囲の抗体と比較してより低用量で投与され得る点で有利である。これは、効果を実現するうえで少量の抗体しか必要ないため、注射により投与されるこれらの高親和性抗体が皮下に投与され得る点で有意義な臨床上の利点を有する。投与様式は皮下注射に限定されない。さらには、有効とするために必要な用量が少なくなることから、抗体の製造原価が低減されるであろう。
【0018】
本発明の別の態様においては、抗体がIgGクラスのものであり、血液脳関門を通過し得るため、治療用途に好適である。脳実質内でのAβプロトフィブリルのクリアランスは、ミクログリア細胞によるFc受容体介在性食作用により実現される。他の抗Aβクリアランス機序も同様に作動するものと見られる。可溶性Aβプロトフィブリルのこのクリアランスが、処置の中心的な機序である。Aβプロトフィブリルは神経毒性が高く、疾患プロセスを惹起及び駆動すると考えられる。脳におけるAβプロトフィブリルのクリアランスは有意義な臨床的価値を有する。異なるAβ凝集型、すなわち二量体、三量体、四量体及びプロトフィブリル及びフィブリルを含むより高分子のオリゴマー型は平衡状態にあるため、Aβプロトフィブリルの除去を介して、Aβプロトフィブリルのクリアランスに加え、Aβフィブリルを含む他のAβオリゴマー型が間接的に低減されるであろう。Aβフィブリルを含むプラークの低減の例が、高親和性プロトフィブリル選択的抗体(mAb158)による処置後72時間のアルツハイマートランスジェニックマウスモデル(APPswe)において示されている(実施例3)。従って、前記抗体によるAβプロトフィブリルのクリアランスは他のAβ凝集型又はオリゴマー型を間接的に低減するという利点もまた有するであろう。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、サブクラスIgG1の高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的抗体であり、これは脳内のミクログリア細胞上に存在するヒトFcγRI受容体に対し高親和性を有する。高親和性抗体はAβプロトフィブリルの効率的なクリアランスをもたらすこととなり、有意義な治療的価値を有するものである。従って、他の免疫療法方針、例えば活性ワクチン接種又は他のAβ型を標的とするIgG1サブクラスの他のモノクローナル抗体によるモノクローナル抗体処置などと比較した場合、この抗体はCNS及び末梢の双方においてAβプロトフィブリルのクリアランスを示す。重要なことは、この処置はAβプロトフィブリルなどの毒性の可溶性Aβ種が高いレベルで存在する疾患過程の初期だけでなく、疾患過程の後期においても効果的であり得る。スウェーデン型及び北極型突然変異APPswearcを示すトランスジェニックマウスモデルにおいては、高いレベルのオリゴマーAβ型が記載されている(ロード・A(Lord A.)ら、2006年)。
【0020】
本発明のさらに別の態様においては、高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体がAβ凝集を低減又は阻害し、それにより脳内の可溶性オリゴマーAβ型のレベルが低下し得る。
【0021】
さらに、本発明の別の態様においては、高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体がAβのオリゴマー型、すなわちCNS外のAβプロトフィブリルも同様に結合し、それにより前記Aβ型の血液脳関門にわたる平衡は、前記Aβ型のCNSレベルがより低くなるようにシフトし得る(ドレナージ)。
【0022】
上記で考察されるとおり、アルツハイマー患者を処置するためAβフィブリルに対し選択的なAβワクチン(AN−1792)を使用したエラン(Elan)臨床研究は、結果として症例の6%に副作用、すなわち髄膜脳炎を生じた。脳実質内、また重要なことには血管壁内にも存在するアミロイドプラークの中核となるAβフィブリルを標的とする方針は、結果として重篤な副作用を生じた。この副作用は、脳の血管壁において抗体がCAA(脳アミロイド血管症)と結び付き、炎症性のプロセスを開始したことにより引き起こされた可能性が最も高いと見られた。この重大な臨床的課題は、補体活性化活性の低下した改良型高親和性プロトフィブリル選択的抗体により回避される。この抗体は、副作用、すなわち髄膜脳炎のリスクが低減した、高いAβプロトフィブリルクリアランス効果を保有するであろう。
【0023】
本発明の別の態様においては、高親和性プロトフィブリル選択的抗体が低Aβフィブリル結合性を有し(実施例2を参照)、CAA中に存在するAβフィブリルへの結合性が低いため、副作用のリスクが低減する。
【0024】
本発明のさらに別の態様においては、高親和性Aβプロトフィブリル選択的IgG抗体が改変されることによりIgG1のCH2ドメインと結合する補体因子C1qが低減するとともに補体活性化及び炎症リスクが低減する。この修飾はいくつかの異なる方法で行われ得る。一つの方法は、IgG1定常領域のCHγ2ドメインを欠失させて、IgG4由来の対応するドメイン又はC1q結合を供するドメインの一部に交換したキメラ抗体の作成である。IgG4はC1qを結合せず、従って補体カスケードを活性化しないことが十分に立証されている。これを実現するため、IgG1上の高親和性Fc受容体ドメイン(CHγ3)を、補体因子C1qに対する結合性を有しないIgG4ドメイン(CHγ2)と組み合わせるような方法で、重鎖(CH)の定常領域が改変される。キメラ定常重鎖(IgG1:CHγ1、CHγ2:IgG4、CHγ3:IgG1)を含むこの新規抗体は、Fc受容体介在性食作用を通じたAβプロトフィブリルの効率的なクリアランス、及び副作用、すなわち髄膜脳炎などの炎症リスク低減の、双方の重要な特性を有することとなる。
【0025】
炎症リスクを低減するさらに別の方法は、抗体のオリゴ糖構造を変化させることであり、これにより補体因子C1q結合性及び補体活性化が低減されることとなる。ヒトIgG1ではAsn−297における二分岐の複合型オリゴ糖の異なる構造が30種類記載されている。CH2関連炭水化物の不在が、抗体の「ヒンジ」領域に高次構造上の変化を引き起こし、エフェクター分子との相互作用効果並びに補体活性化機能及びC1q結合の減退を低減すると考えられている。
【0026】
任意の他のアミノ酸に対するAsn−297の部位特異的突然変異誘発による高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的抗体の修飾は、C1q結合性の低いFc受容体を保有する抗体を生成し、従って特に血液脳関門における炎症リスクが低減するであろう。抗体上でグリコシル化を修飾する代替例としては、酵素N−アセチルグルコサミニル転移酵素Iが不活化された細胞型における抗体の発現がある。これによりAsn−297の炭水化物構造が変化した抗体が得られることとなる。限定はされないが、Man5GlcNAc2の構造が形成される。この炭水化物修飾は、補体因子C1q結合性を低減するとともに炎症を阻害するものである(ライト(Wright)ら、1998年)。あるいは、グリコシル化されたプロトフィブリル選択的抗体は、グリコシル化を阻害するツニカマイシンの存在下で抗体を発現する細胞を培養することにより実現し得る。この抗体は、補体活性化活性が変化していると同時にFc受容体機能も変化しているであろう(レザーバロウ(Leatherbarrow)ら、1985年)。補体活性化が低く、且つFc受容体結合性が高い抗体を発現するクローンのスクリーニングにより、Aβプロトフィブリルの高Fc介在性クリアランス及び低C1q結合性を示すプロトフィブリル選択的抗体が生成されることとなる。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、ADを処置又は予防するための、補体因子C1qの結合を低減又は阻害するような方法で補体因子C1q結合部位が修飾されている、すなわちPro331>Ser331(スー(Xu)ら、1994年)の、IgG1サブクラスの高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的抗体である。ヒトIgG1の第331位におけるプロリン残基はまた、スレオニン若しくはグリシン又は任意の他の極性アミノ酸に換えてもよい。この修飾は、部位特異的突然変異誘発又はDNA欠失などの標準的な分子生物学的技術により実現され得る。
【0028】
本発明のさらに別の態様は、ヒト組織、特に脳脊髄液、血液、尿又は唾液においてプロトフィブリルレベルを特異的に測定するための、アルツハイマー病の診断ツール又はバイオマーカーとしての高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的IgG抗体の使用である。CSF又は血液中のヒトAβプロトフィブリルのレベルは、アルツハイマー病に罹っていない対応する高齢者対照群と比較した場合、異なると見られる。アルツハイマー病の発症者は、CSF又は血液中のAβプロトフィブリルレベルが上昇していると見られる。従って、CSF又は血液中のAβプロトフィブリルレベルの測定により疾患の早期診断が行われ得る。これは、新規高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体をサンドイッチELISA法と組み合わせることにより実現可能であり(実施例2A)、ここではAβプロトフィブリルが10pMレベルに至るまで測定されている。測定における他のAβ型、例えばAβフィブリル、Aβ単量体及びAβ断片(1−16;17−40)などの干渉は、10%以下である。
【0029】
本発明はさらに、ヒト及び動物組織、例えば限定はされないが、脳脊髄液、血液、血清、尿及び脳組織といった組織中のAβプロトフィブリルを測定するための高親和性プロトフィブリル特異抗体の使用に関し、アルツハイマー病についての可能な診断方法を提供する。これらの組織中並びに細胞培養物中のAβプロトフィブリルを、抗Aβプロトフィブリル抗体を使用して測定するための好適な方法は、ELISA、RIA、ウエスタンブロッティング又はドットブロッティングなどの免疫測定法である。本方法は、臨床治験における処置効果(プロトフィブリル低減)の追跡に好適であり得るとともにアルツハイマー病又はダウン症候群の診断検査として好適であり得る。
【0030】
CSF及び血液中のAβプロトフィブリルレベルは非常に低いため、低レベルのAβプロトフィブリルを計測可能とするために、ELISA法に基づく診断検査において高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体を必要とする。近接連結(実施例4)(グルベルグ(Gullberg)、2004年)若しくは類似の増幅系又はビアコア(Biacore)若しくは類似の技術など、他の高感度方法を使用して感度を高めてもよい。近接連結技術は、分析物(この場合タンパク質)上の異なるエピトープに対して産生した抗体が、前記分析物上で互いに近づいて結合し得るという発見に基づく。前記異なる抗体がオリゴヌクレオチドと接合する場合、前記オリゴヌクレオチド間の距離は、連結オリゴヌクレオチドが連結成分を用いてオリゴヌクレオチド間に架橋を形成するうえで十分に短いものであろう。増幅成分もまた付加され、その上でRT−PCRが実施され得る。この原理により、主体性及び標的タンパク質量を反映する増幅可能なDNA配列が生成される。この技術により亢進されたシグナル応答が得られ、ひいてはより低濃度の分析物を検出することが可能となる。
【0031】
本発明者らは意外にも、修正版近接連結技術を同様にこのAβプロトフィブリル特異抗体に使用することで、Aβ単量体は検出せずに、低濃度の大型Aβペプチド構造、すなわちAβプロトフィブリルを検出し得ることを発見した。本発明者らは、プロトフィブリル高次構造のAβペプチドが、本発明により、2個の抗体がプロトフィブリル上で互いに十分に近づいて結合可能となる構造(反復単位)を示すことを発見した。前記抗体がオリゴヌクレオチドと接合される場合、前記オリゴヌクレオチドは連結オリゴヌクレオチドを使用して架橋され得る。増幅成分を使用してPCRが実施される。この原理により、主体性及び標的プロトフィブリル量を反映する増幅可能なDNA配列が、生成される(図4Aを参照)。
【0032】
近接連結又はその「ローリングサークル」と呼ばれる種類の技術は、高感度技術であるとともに特に、アルツハイマー病及び他の神経変性障害の診断に使用されるAβプロトフィブリルなどの反復配列を伴う重合体構造の検出に非常に適している。
【0033】
本発明はさらに、ヒト及び動物組織中のAβプロトフィブリルの検出、局在決定及び定量の画像化における高親和性プロトフィブリル特異抗体の使用に関する。抗体は、限定はされないが、I131、C14、H3又はガリウム68といった放射性同位元素などの検出用放射性リガンドで標識され得るであろう。本方法は、アルツハイマー病又はダウン症候群の診断ツールとして好適であろう。
【0034】
本発明のさらに別の態様は、獣医学における使用に特化した抗体種の作製である。概説される診断方法もまた、獣医学上の使用に好適である。
【0035】
本発明の別の態様は、副作用を回避するため、すなわち治療薬又は診断薬として使用する際のヒトにおける前記抗体に対する免疫応答を回避するための、前記抗体のヒト化である。
【0036】
さらに別の態様は、例えば、限定はされないがPBSなどの、ヒト及び動物への投与に好適な生理緩衝液中の抗体の製剤である。抗体製品は安定性を高めるため凍結乾燥され得る。凍結乾燥製剤は、限定はされないが、マンニトール(manitol)などの賦形剤を含んで、凍結乾燥後の製品を安定化させ得る。
【0037】
抗体製品は、抗菌剤を含み得る。
【0038】
本発明に係る抗体又は断片は、前記CDR領域及び/又はそのフレームワーク内にアミノ酸欠失、置換及び挿入を示し得る。挿入又は置換されるアミノ酸はまた、抗体の親和性及び特異性がなお損なわれていないことを条件に、アミノ酸誘導体であってもよい。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は例示のために提供されるが、本発明をこれらの具体例に限定することを意図したものではない。
【0040】
実施例1
ヒト野生型Aβプロトフィブリル選択的モノクローナル抗体がクローニング及び配列決定された。重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列が表1に示される。CDR領域1〜3の位置には下線が引かれているとともに、これらは表2及び3にも同様に示される。CDR領域のアミノ酸配列は、「アルツハイマー疾患エピトープ」を構成するヒト野生型Aβプロトフィブリルを結合するための構造基盤を形成する。
【0041】
高親和性プロトフィブリル特異抗体BA9/158についてのVL鎖及びVH鎖のCDR領域1〜3のアミノ酸配列が、表1、2及び3に示される。他のプロトフィブリル選択的抗体(BA2、BA3、BA4及びBA7)の配列決定データがCDR領域の代替的アミノ酸配列を提供するが、これらに限定されない。VH鎖及びVL鎖のCDR1−3領域のアミノ酸配列が組み合わされて分子「ポケット」を作り、これが高い親和性及び特異性でヒトAβ野生型プロトフィブリルを結合する。この「ポケット」が「アルツハイマー病エピトープ」の構造基盤を形成する。CDRアミノ酸配列長の変動がVH鎖及びVL鎖の双方に観察され、ヒトAβプロトフィブリルとの結合に適合する(表2及び3)。CDR領域が短いほど、提供される抗体の結合ポケットの3次元構造はより限定的となり、長いほど適応性が高くなる。
【0042】
本願出願人は、限定はされないが、表1、2及び3に示されるとおりのCDR配列、並びに表4及び5に示されるとおりのプロトフィブリル特異抗体についての、VH鎖及びVL鎖の「マウスフレームワーク」領域、すなわちCDR領域外、並びにヒトVL及びVHフレームワーク領域のアミノ酸配列を主張する。
【0043】
高親和性プロトフィブリル特異抗体BA9/158に由来するVL鎖及びVH鎖のVL及びVH領域1〜3のフレームワーク領域のアミノ酸配列が、表4及び5に示される。
【0044】
表1、2及び3に示されるもの以外のCDR領域における他のアミノ酸置換は、ヒト野生型Aβプロトフィブリルとの高親和性及び高特異性結合を伴うことで適合性を有する。CDR領域の特定の位置に極性アミノ酸が存在する場合、当該の特定アミノ酸は、Aβプロトフィブリルとの高い親和性及び特異性結合が保有又は改良されながら、別の極性アミノ酸に置換され得る。同様に、ある位置に非極性又は負若しくは正に帯電したアミノ酸が存在する場合、当該アミノ酸は同一群由来の類似のアミノ酸に置換され得る。
【0045】
また、特定の1個又は複数のアミノ酸は、CDR領域における任意の位置で、抗体と類似の機能及び構造を供する機能的等価物に交換され得る。
【0046】
実施例2.ELISAによる高親和性ヒトAβ野生型プロトフィブリル(profibril)選択的モノクローナル抗体の特性決定
実施例2は、サンドイッチELISAにより計測した場合、Aβ単量体との交差反応が200〜1000倍低く、且つAβフィブリルとの交差反応が40倍未満の高親和性プロトフィブリル選択的抗体を示す(図2A)。競合ELISA実験から、抗体はヒトAβ42野生型プロトフィブリルに対し強力な親和性を有するが、AβペプチドのN末端部分及びAβ単量体に対しては非常に弱い親和性しか有しない。AβのC末端断片との結合は観察されなかった(図2B)。さらにこの抗体は、メジン又はトランスサイレチンのような他の種類のアミロイドとは交差反応しない。さらにこの抗体は、Aβの豊富な前駆体であるヒトAPPを認識しない。
【0047】
図2AにサンドイッチELISAが示される。抗体158がウェル内に被膜され、続いて濃度を上昇させながら異なるAβ型がウェルに添加された。結合したAβ型の計測が、ビオチン化mAb158及びHRP標識ストレプトアビジンを添加することにより行われた。製造者により推奨される手順に従い発色が計測された。
【0048】
図2Bには、競合ELISAが示される。ELISAプレートをヒトAβプロトフィブリルで被膜した。続いて抗体158が異なるAβ型を増量させながらインキュベートされた(競合法)。インキュベーション混合物をマイクロタイタープレートウェルに添加して、遊離抗体をウェル中の固定プロトフィブリルと結合させた。結合した158抗体が標準的手順を使用して第2の抗体により計測された。
【0049】
実施例3
高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体の有効性が、アルツハイマートランスジェニックマウスモデル(APPswe)において急性脳内注射により測定された。有効性評価に使用されるトランスジェニックマウスは、スウェーデン型突然変異(APPSwe)に伴うヒトAPPを発現する。このパラダイムにおいて、抗体は脳実質のプラークリッチ領域に直接注射され、神経病理に対する影響が72時間後に評価される(ウィルコック(Wilcock)ら、2003年)。他の研究では、抗Aβ抗体の直接施用により結果として生体内でアミロイド沈着物の急速なクリアランスが生じることが示されている(バクスカイ(Bacskai)ら、2001年;ブレンザ(Brendza)ら、2005年)。高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体の注射は、APPSweマウスモデルにおいて有意なプラーク低減をもたらす(図3)。
【0050】
図3において、トランスジェニックマウスモデル(APPswe)における高親和性プロトフィブリル選択的抗体の治療有効性が試験された。A:14月齢のAPPSweトランスジェニックマウスが頭蓋内にPBSを、及びB:高親和性プロトフィブリル選択的抗体(158)を1μg/μl注射され、及び注射後72時間で検査された。対照側(A;矢印)と比較した場合、注射部位(B;矢印)の近傍の鉤状回における著しいAβ負荷のクリアランスが注目される。
【0051】
実施例4.Aβプロトフィブリルを計測するための高親和性プロトフィブリル選択的抗体と組み合わせた近接連結
ヒト野生型Aβプロトフィブリルが10pMの範囲に至るまで検出された一方、Aβ単量体調製物は全く検出されなかった。超高感度近接連結法及び高親和性抗体の組み合わせが特に有利であるのは、アルツハイマー病及び他のタンパク質「凝集」疾患、例えばプリオン病、クロイツフェルトヤコブ病、アミロイドーシス及びパーキンソン病などを診断する際に特に好適なオリゴマー型の分析物のみを測定する系を提供するためである。
【0052】
図4において、ヒトAβプロトフィブリルが近接連結技術によりpMレベルで計測される。近接連結測定法(proximity ligation assay)の方法説明を以下に示す(グルベルグ(Gullberg)ら、2004年より):ステップ1、近接プローブ対との試料のインキュベーション(約1時間);ステップ2、連結に必要な全成分の添加及び定量的PCRによる検出(約5分間の連結時間)。測定においては高親和性プロトフィブリル選択的モノクローナル抗体が使用された;ステップ3、定量的PCR(約2時間)。合成Aβ単量体及びAβプロトフィブリル調製物が希釈され、それらの反応性について上記の近接連結測定法で試験された。
【0053】
実施例5.mAb158は一般的なアミロイドエピトープを認識しない。
既に報告されているAβ高次構造依存性抗体は他のアミロイド形成性タンパク質のオリゴマー及びフィブリルを結合することが示されており、全てのアミロイド凝集について共通のエピトープの存在が示唆される。Aβ以外のアミロイド形成性タンパク質からプロトフィブリルを生成する技術的困難から、代わりにmAb158が異なるアミロイドフィブリルに対し試験された。これらの実験にはドットブロットアッセイが使用されたが、これは抗体抗原反応が溶液中で生じる場合、阻害ELISAはフィブリルなどの不溶性抗原に好適でないためである。しかしながら、ドットブロットアッセイは、様々なAβ型についての抗体特異性を評価する、すなわちプロトフィブリル(profibril)及びフィブリルに対する選択性の差異を計測するうえでは好適でない。メジンのフィブリルである膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)及びα−シヌクレインがニトロセルロース膜上に固定され、天然の高次構造が維持された。mAb158は、Aβフィブリル以外のどのアミロイドとも反応性を示さなかった(図5A)。mAb158のAβフィブリルに対する結合性は、Aβプロトフィブリルエピトープの一部がAβフィブリル構造中にも存在することを示唆する。陽性対照としては、抗体6E10(Aβ)、pAb179(メジン)、pAbA110(IAPP)及びmAb211(α−シヌクレイン)が使用された(図5B)。代表的ブロットは反復実験(n=3)から示した。
【0054】
mAb158はAPPを結合しない
APP及び可溶性APP断片のレベルは一般に、CSF及び脳ホモジネートなどの生体試料中でAβのレベルを上回り、従ってAβ−抗体のAPPに対する交差反応性はAPPと結合することにより処置を阻害し、結果としてAβプロトフィブリル及び/又はAβオリゴマーを結合及び除去するための遊離抗体が少なくなる可能性がある。また、これはAβのサンドイッチELISAアッセイによる生体試料中のAβプロトフィブリルの計測を妨げ得る。mAb158が未変性APPと結合するかどうかを解明するため、免疫沈降実験が実施された。HEK細胞培養培地(偽処理、APPSwe及びAPPArc−Swe)及びマウス脳ホモジネート(非トランスジェニック、APPSwe及びAPPArc−Swe)をmAb158又は6E10で免疫沈降させた後、検出抗体として6E10を伴う変性ウエスタンブロットを行った(図5C)。図5Cに見られるとおり、mAb158は細胞培養培地由来のαAPP又はマウス脳ホモジネート由来の完全長APPを免疫沈降させなかったが、予期されたとおり、6E10は免疫沈降させた。対照として使用された合成Aβプロトフィブリルは双方の抗体により同様に十分に免疫沈降した(図5C)。代表的なブロットは反復実験(n=3)から示した。
【0055】
実施例6.Aβプロトフィブリル特異的サンドイッチELISAの確立。
生体試料中のAβプロトフィブリルの計測を可能にするため、mAb158を捕捉抗体及び検出抗体の双方として伴うサンドイッチELISAが確立された。このアッセイは1pMの検出限界及び最高250pMの線形範囲でAβプロトフィブリルを計測する(図6A、線は標準曲線の線形回帰を示す)。標準曲線において使用されるAβプロトフィブリルのサイズに関しては不確実であるため、濃度1pMは1個のAβ単量体の分子量(4514g/mol)に基づくが、プロトフィブリルの分子量は少なくとも100kDaと推定されていることから、モルで計算されるAβプロトフィブリルの検出限界は50fMという低さであり得る。AβArcプロトフィブリルの標準曲線から得られるシグナルは野生型Aβプロトフィブリルより少なく、これはおそらくAβプロトフィブリルのサイズの差に起因する(図6A、6B)。合成LMW−Aβ(低分子量Aβ)を滴定した。用語「低分子量Aβ」は、分子量が約4〜12kDaのAβの単量体、二量体及び三量体を意味する。Aβプロトフィブリル及びAβ1−16を使用してELISAの高次構造特異性が検証され(図6B)、ここでは凝集しないことを予期して親水性Aβ1−16ペプチドが使用された。2つの同一の抗体からなるELISAでは、シグナルを生成するために少なくとも二量体のタンパク質が必要とされるが、予想通り、Aβ1−16はmAb158サンドイッチELISAではμM濃度でさえ検出されなかった(図6B)。LMW−Aβ及びAβプロトフィブリルを、凝集したAβを単量体に解離させることが知られる70%のギ酸(FA)で前処置すると、サンドイッチELISAのシグナルは消失した(データは示さず)。従って、高nM濃度でのLMW−Aβの検出(図6B)はおそらく、凝集量の少ないペプチド調製物に起因する。
【0056】
過剰量の単量体Aβ、ホロAPP及びAPP断片は、生体試料中に天然に存在するが、捕捉抗体被膜の結合部位を占有し、ひいてはプロトフィブリルの結合を阻害することによりAβプロトフィブリル分析を妨げる可能性がある。この問題が、Aβ1−16の過剰量を一定濃度のAβプロトフィブリル(50pM、単量体単位としての表現)まで増加させながら添加し、それをmAb158ELISA及び6E10−6E10サンドイッチELISAの双方で分析することにより調査された(図6C)。Aβプロトフィブリルと比較したとき、モルで500,000倍の過剰量のAβ1−16はmAb158サンドイッチELISAでの計測を妨害しなかったが、これはAβ1−16が捕捉抗体と結合しにくいことから予期されたとおりであった。対照的に、500倍の過剰量のAβ1−16は6E10−6E10ELISAにおけるシグナルを減少させるのに十分であったが、ここでAβ1−16は高親和性で捕捉抗体と結合した(図6C)。そのうえ、合成Aβプロトフィブリルが偽処理のHEK細胞培養培地又は非トランスジェニックマウス脳ホモジネートに添加されると、90%のシグナルが回復した(データは示さず)。
【0057】
実施例7.生体試料中のAβプロトフィブリルの計測
北極型突然変異を保因する細胞及びマウスモデルにおいてAβプロトフィブリルの存在が示唆されているが、現在のところ生体試料中のAβプロトフィブリルを直接測定する方法はない。従ってmAb158サンドイッチELISAはまず初めに、かかる細胞及びマウスモデルにおいてAβプロトフィブリルレベルを計測するとともにそれらをこのAβ内突然変異を有しないモデルと比較する機会を提供する。スウェーデン型突然変異のみを保因する細胞及びマウス由来の試料が野生型Aβプロトフィブリル標準曲線と比較された一方、北極型突然変異を伴うAβを発現する細胞及びマウス由来の試料がAβArcプロトフィブリル標準曲線(図6A)と比較された。この測定において計測される全てのAβを確実に溶解状態にするとともに、Aβフィブリルからの干渉の可能性を一切排除するため、全試料が分析前に5分間、17,900×gで遠心された。一時的に導入されたAPPSwe及びAPPArc−SweHEK細胞からの細胞培地群が分析され、偽処理のHEK細胞培養培地と比較された。標準曲線(図6A)からAβプロトフィブリルレベルが3回の平均値として計算された後APPレベルに対し正規化され、導入レベルの差が補正された(ステン(Stenh)ら)。APPArc−SweHEK細胞培養培地中のAβプロトフィブリル濃度は28pM(±2)であり、APPSweに見られた8.2pM(±0.3)より有意に高かった(p<0.0001)(図7A)。偽処理の培地中ではAβプロトフィブリルは検出できなかった。Aβプロトフィブリルのレベルもまた、プラーク及び神経細胞内のAβ病理の双方を伴う10月齢のAPPArc−Swe及びAPPSweトランスジェニックマウス由来の脳において計測された(ロード(Lord)ら)。脳はTBS中でホモジナイズされたうえで、分析に先立ち可溶性Aβ画分を回収するため遠心された。細胞培養培地を使用した分析と同様、AβプロトフィブリルレベルはAPPArcSweトランスジェニックマウス脳において397pM(±59)及びAPPSweトランスジェニックマウス脳において108pM(±14)と、群間で有意に異なった(p=0.005)(図7B)。
【0058】
上述の図(図6及び7)における試料数は、偽処理の細胞(n=3)及びAPPSwe(n=8)を一時的に導入したもの及びAPPArc−Sweを一時的に導入したもの(n=11)であった。APPArc−Swe培地中のAβプロトフィブリルのレベルはAPPSwe培地中より約9倍高かった一方、偽処理の培地からはシグナルは得られなかった(A)。非トランスジェニックマウス脳ホモジネート(n=6)のTBS可溶性画分中のAβプロトフィブリルレベルの計測値が、トランスジェニックマウス(APPSwe、n=3、及びAPPArc−Swe、n=6)と比較された(B)。細胞培養培地と同様、APPArc−SweマウスのAβプロトフィブリルレベルはAPPSweマウスのものより7倍高かった。エラーバーは±SEMを示す。
【0059】
実施例8.mAb158は腹腔内投与後のAPPswearcトランスジェニックマウス中のAβプロトフィブリル及び総Aβを有意に低下させる
mAb158(12mg/kg)が9〜10月齢のAPPswearcマウスに対し18週間にわたり1週間に1回、腹腔内注射された。研究後、脳が単離され、TBS中でホモジナイズした後遠心にかけて不溶性物質を沈降させた。不溶性物質はギ酸中で可溶化された。従って、マウス脳からは2つの画分、すなわちTBS画分及びギ酸画分が得られた。TBS画分中のAβプロトフィブリルレベルがELISAにより測定された。プラセボ群と比較してmAb158処置群にはAβプロトフィブリルの有意な低減が見られた(図8)。図8は、mAb158又はプラセボのいずれかによる処置後4ヶ月のAPPswearcトランスジェニックマウス脳TBS抽出物中のAβプロトフィブリルレベルを示す。
【0060】
ギ酸画分中の総AβがELISAにより測定された(ギ酸を使用して全てのAβ型が可溶化されたことにより、全てのAβ型が検出可能となった)。プラセボ群と比較して処置群には総Aβの有意な低減が観察された(図9)。図9は、mAb158又はプラセボのいずれかによる処置後4ヶ月のAPPswearcトランスジェニックマウス脳ギ酸抽出物中の総Aβレベルを示す。
【0061】
実施例9〜11
【0062】
【表A】
【0063】
物質
【0064】
【表B】
【0065】
【表C】
【0066】
【表D】
【0067】
【表E】
【0068】
【表F】
【0069】
実施例9−158抗体のDNA配列
9.1−RNA調製
マウスハイブリドーマ158のスナップ凍結細胞ペレット(ラベル付きバイアル060824#158 5×106細胞)が、2006年10月3日にTAGに入れられた。これらの細胞は切断まで凍結貯蔵され、キアゲン(Qiagen)RNeasyミディキットを使用して製造者の実験手順に従いRNAが単離された。
【0070】
9.2−第一鎖合成
約5マイクログラムの158RNAが逆転写に供され、アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)第一鎖合成キットを使用して製造者の実験手順に従い158cDNAが産生された−これが反復されることにより3つの個別のcDNA産物(ラウンド1、2及び3)が生成され、RT反応によるDNA突然変異を防いだ。
【0071】
9.3 158免疫グロブリンcDNAのクローニング
ハイブリドーマ158cDNAがPCRにより別個の23反応において増幅された。免疫グロブリンκ鎖可変領域(VK)cDNAが、11個のVKプライマー(MKV1〜11)をκ定常領域プライマーMKC(表6)と組み合わせて使用して増幅された。同様に、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)cDNAがPCRにより、12個の異なるVHプライマー(MHV1〜12)を4個のIgG定常領域プライマーの混合物(MHCG1/2a/2b/3:表7)と組み合わせて使用して増幅された。
【0072】
初回分のIgH−PCR反応の結果は、MHV5プライマーを使用した単一増幅産物であった。他の11個のプライマー対はどれもPCR産物をもたらさなかった。オリゴヌクレオチドプライマーMHV5+(MHCG1/2a/2b/3混合物)によりプライミングされたPCR反応の産物が、TOPO−TAクローニング(登録商標)キットを使用してpCR2.1(登録商標)−TOPO(登録商標)ベクターに連結された。初回分のIgK−PCR反応の結果は、プライマーMKV1及びMKV2をMKCと共に使用した2個の単一増幅産物であった。他の9個のプライマー対は産物を生成しなかった。オリゴヌクレオチドプライマーMKV1又はMKV2+MKCによりプライミングされたPCR反応の産物が、TOPO−TAクローニング(登録商標)キットを使用してpCR2.1(登録商標)−TOPO(登録商標)ベクターに連結された。
【0073】
連結されたベクターで形質転換された大腸菌(E.coli)TOP10細菌が、LB/アンピシリン/X−gal寒天プレート上で、寒天グリッド上のPCRスクリーニング混合物中へと選び取ることによりクローニングされた。クローニングされたプラスミドインサートがPCR増幅によりスクリーニングされた。PCR産物はゲル電気泳動され、及びサイズ補正されたPCR増幅産物(約500bp)を産生するクローンが同定された。各クローンの一晩培養物(5ml)が、QIAprepスピンミニプレップキット実験手順を使用して切断され、DNAプラスミドミニプレップが産生された。
【0074】
9.4−cDNA配列決定
RT−PCR、クローニング、及びDNA配列解析の完全サイクルが反復され、各免疫グロブリン鎖についての3つの完全に独立した配列情報を得た。各々独立したセットのRT−PCR反応からのプラスミドクローンが、1212及び1233プライマー(表10)を使用して双方向で配列決定された。プラスミドがBigDye(登録商標)ターミネーターv3.0サイクル・シーケンシング・レディ・反応キット(ABI)を使用して配列決定され、GeneAmp9600PCR機上でサイクルに付され、及びABI310キャピラリシーケンサー上で解析された。
【0075】
9.5−158VK DNA配列
PCRプライマーMKV2及びMKCを使用して第一鎖cDNAラウンド1及び2で生成されたVKクローンの配列は、MOPC−21、SP2及びAg8などの骨髄腫融合パートナーに由来する無菌κ転写産物と同一であった。これは無菌転写産物である。PCRプライマーMKV1及びMKCを使用して第一鎖cDNAラウンド1〜3上で生成されたVKクローンの共通配列(158VK)が表11に示される。これは機能上の再構成である。表11は、表1、4及び5に示される配列といくらかの相違を示す。これらの相違は、PCRプライマーが位置したFW1領域にある。本願出願人のプライマーによりコードされなかった、158VKにおけるリーダーの断片と最も同一性の高いマウスVKリーダー配列は、K5.1#であった(表12)。#K5.1シグナル配列を正確に切断するシグナルペプチドの予測が、予測プログラムにより行われた。最も可能性が高いと予測された切断部位は、正確にアミノ酸残基19と20との間であった(表13)。キメラ158VKタンパク質及びDNA配列が表14に示される。
【0076】
9.6−158VH DNA配列
PCRプライマーMHV5及びMHCG1/2a/2b/3混合物を使用して第一鎖cDNAラウンド1〜3で生成されたVHクローンの共通配列(158VH)が、表15に示される。158VKと同様、表1、4及び5に示されるFW1配列とはいくらか異なる。本願出願人のプライマーによってはコードされなかった、リーダーの断片と最も同一性の高いマウスVHリーダー配列は、NL−1であった(表16)。
【0077】
実施例10−キメラ発現ベクターの構築
キメラ発現ベクターの構築には、HindIII制限部位及びコザック配列の前方での、好適なリーダー配列のVH及びVKへの付加が伴う。コザック配列(表8)により可変領域配列の効率的な翻訳が確実となる。これはリボソームが翻訳を開始し得る正確なAUGコドンを定義するとともに、最も重要な塩基は第−3位、AUG開始上流のアデニンである。リーダー配列は、Kabatデータベース内で最も類似したマウスリーダー配列として選択される。これらの付加は、順方向プライマー(表9)内でコードされる。さらには、キメラ発現ベクターの構築には、天然ApaI制限部位に至り、158のJ領域の3’末端と隣接する、ヒトγ1定常領域の5’断片の導入が伴う。CHは挿入されたVH配列の下流の発現ベクター内でコードされるが、V−Cイントロンが欠如している。軽鎖について、天然スプライスドナー部位(表8)及びBamHI部位が、V領域の下流に付加される。スプライスドナー配列は、VKの定常領域へのインフレーム付着が必要なκV:Cイントロンのスプライシングを円滑にする。マウスVH及びVK遺伝子が解析され、不要なスプライスドナー部位、スプライス受容部位、コザック配列がいずれも、及び機能性の全抗体のサブクローニング及び/又は発現を後に干渉し得る任意の追加的なサブクローニング制限部位の存在について同定された。この場合、何も見つからなかった。
【0078】
10.1−発現ベクター
発現ベクターpKN100、及びpG1D200のプラスミドDNA調製物が、キアゲン(Qiagen)マキシキットを使用して製造者の実験手順に従い精製された。TOP10細菌の培養物500ml由来の、キアゲン(QIAGEN)プラスミドミディ及びマキシキットを使用したプラスミドDNA精製物にいずれかのベクターが導入された。ベクターマップが図10及び11に示される。
【0079】
10.2−軽鎖キメラ化プライマー
マウスリーダー配列K5.1#がキメラ158VKの設計に組み込まれた。プライマーは、この完全リーダーと、pKN100発現ベクター(表9)へのクローニング用の末端制限部位HindIII及びBamHIを備える158VKとを含有するPCR産物を生成するよう設計された。順方向プライマー158vlは、HindIII制限部位;コザック部位及びK5.1#リーダー配列を導入する。逆方向プライマー158vlrevは、スプライスドナー部位及びBam HI制限部位を導入する。
【0080】
10.3−重鎖キメラ化プライマー
リーダー配列NL−1がキメラ158VHの設計に組み込まれた。プライマーは、このリーダーと、pG1D200発現ベクターへのクローニング用の末端制限部位HindIII及びApaIを備える158VH領域とを含むPCR産物を生成するよう設計された。これらは表9に示される。順方向プライマー158vhは、HindIII制限部位;コザック翻訳開始部位及びNL−1リーダー配列を導入する。逆方向プライマー158vhrevは、γ1C領域の5’末端及び天然ApaI制限部位を導入する。VKのK5.1リーダー配列についてのシグナルペプチド切断部位の予測が表17に示される。
【0081】
10.4−キメラ158VH構築物、pG1D200158VHの生成
158VH DNA断片がプライマーの158vh及び158vhrev(表9)で増幅された。450bp(約)のPCR産物がベクターpCR2.1にT−A連結され、これを使用して化学的にコンピテントTOP10細菌が形質転換された。クローンが然るべき挿入サイズにより選択され、1212プライマー(表10)を使用して配列決定された。的確な発現インサートがpG1D200発現ベクターにサブクローニングされ、的確なサブクローンが、プライマーBDSH61R(表10)を使用したDNA配列決定により選択された。このクローンを200mlの培養液中で成長させ、キアゲン・マキシキットを使用して製造者の実験手順を用いてプラスミドDNAを産生した。キメラ158VHタンパク質及びDNA配列が表18に示される。
【0082】
10.5−キメラ158VK構築物、pKN100158VKの生成
158VK DNA断片がプライマー158vl及び158vlrev(表9)で増幅された。450bp(約)のPCR産物がベクターpCR2.1にT−A連結され、これを使用して化学的にコンピテントなTOP10細菌が形質転換された。クローンが然るべき挿入サイズにより選択され、1212プライマー(表10)を使用して配列決定された。的確なクローンがpKN100発現ベクターにサブクローニングされた。正しいサブクローンが、挿入サイズについてのスクリーニング及びプライマーHu−K2(表10)を使用したDNA配列決定により選択された。このクローンを200mlの培養液中で成長させ、キアゲン・マキシキットを使用して製造者の実験手順を用いてプラスミドDNAを産生した。
【0083】
実施例11−キメラ158抗体の産生及び結合特性
11.1−COS7細胞の形質転換及び細胞培養
1つのバイアルのCOS7細胞を解凍して、10%の胎仔クローンI血清及び抗生物質を補給したDMEM中で成長させた。1週間後、細胞(107/mlで0.8ml)が、pG1D200158VHに加えpKN100158VK(各10μgのDNA)によって電気穿孔処理された。細胞をペトリ皿の8mlの成長培地中で3日間成長させた。
【0084】
11.2−キメラ抗体産生
サンドイッチELISAを使用してCOS7上清中の抗体濃度が計測された。キメラ158VH×158VK抗体を0.3μg/mlで、続いて3.7μg/ml(表19)で、一時的に同時導入されたCOS細胞馴化培地において発現させた。
【0085】
11.3−キメラ抗体活性
2つのELISAを使用してキメラ158の抗原結合を分析した。3.7μg/mlのキメラ抗体馴化培地を使用して、Aβ単量体の結合が直接ELISA実験手順(図12)により計測され、マウス158IgGと比較された。次に、抗体と液相中で混合したうえ続いてAβ単量体と固相で結合させた単量体又はプロトフィブリルを使用して、競合ELISAが行われた(図13)。これらから、キメラ158抗体が元の158マウス抗体と同様にアミロイドAβ単量体及びプロトフィブリルと結合することが示された。
【0086】
注釈
その後の配列決定により、表1及び4に示されるとおりのマウス抗体配列データが、5’末端でVH鎖及びVK鎖の双方にエラーを含むことが示された。本願出願人はこれが、V領域内に位置するプライマーの使用に起因することを提言したい。その後の配列決定において、V領域内に突然変異を導入できない、リーダー配列内に位置するプライマーが使用された。この配列決定は、配列の差異を示した(表15及び11を参照)。しかしながら、前記差異はCDR領域内には位置しない。
【0087】
直接結合ELISA及び競合ELISAによりそれぞれ示されるとおり、キメラ抗体はアミロイドAβ単量体及びプロトフィブリルを結合する。この証拠から、158VH鎖及び158VK鎖の組み合わせが抗LSAP抗体158をコードすることが確認され、これらの配列がヒト化158抗体を生成するためのヒト化手順に好適であることが示唆される。
【0088】
実施例12−ヒト化抗体設計及び考察
【0089】
【表G】
【0090】
【表H】
【0091】
12.1−ヒトV遺伝子データベース
国際免疫遺伝学データベース(International Immunogenetics Database)2006及び「Sequences of Proteins of Immunological Interest」のKabatデータベース第5版(最終更新日1999年11月17日)からのヒト及びマウス免疫グロブリンのタンパク質配列を使用してKabatアラインメントにおける免疫グロブリンタンパク質配列のデータベースを編纂した。本願出願人のデータベースは、9322本のヒトVH配列及び2689本のヒトVK配列を含む。配列分析プログラムSR7.6が使用され、158VH及び158VKタンパク質配列(表20)についてヒトVH及びVKデータベースに問い合わせた。
【0092】
12.2−158RHAのためのヒトフレームワークの選択
12.2.1−158VHのヒトVH配列との比較
バーニヤ(フート・J(Foote,J.)及びG・ウィンター(G.Winter)、1992年、「Antibody framework residues affecting the conformation of the hypervariable loops」、J Mol.Biol.224:487−499頁)、カノニカル(モレア・V(Morea,V.)、A・M・レスク(A.M.Lesk)、及びA・トラモンタノ(A.Tramontano)、2000年、「Antibody modeling:implications for engineering and design」、Methods 20:267−279頁)及びVH−VL界面(コチア・C(Chothia,C.)、J・ノボトニー(J.Novotny)、R・ブルコレリ(R.Bruccoleri)、及びM・カープラス(M.Karplus)、1985年、「Domain association in immunoglobulin molecules.The packing of variable domains」、J Mol.Biol.186:651−663頁)(VCI)残基において、158VHとの同一性が最も高いヒトVH配列で、V領域フレームワーク(FW)内に位置するものが、表21に示される。158と同一のVCI残基の数(VCIスコア)及びFW残基の数(FWスコア)もまた示される。これらのVH配列の全てが、表22に示されるとおり、同一のVCI残基、及びCDR長を共有する。AJ556669は、このデータセットの他のヒト配列中には見られない異常なPro74を有することから、本願出願人は当初の分析においてこれを無視することとする。しかしながら、Pro74は158VH配列中に存在するため、AF062243に基づくVH構築物が抗原を結合しない場合には、AJ556669がヒト化の代替FWとして考慮され得るであろう。これらの配列のアラインメント(表23)は、それらの相違を強調表示している。このデータセット内でAF062243は唯一、保存された変化T(82a)S及びF79の保存を有する。AF062243の他の特徴は、保存された変化D1E、K19R、A23S、T77S、S118Tである。他の全てのFW変化は、表23のフレームワーク全てに共通していた。AF062243が158RHAの基盤となるフレームワークとして選択された。
【0093】
12.3−158RHAの生成
158RHAの設計は単に、158VHからAF062243のアクセプターFWへのCDR1、2及び3の移植である。AF062243と最も同一性の高いヒト生殖細胞系列V遺伝子は、VH M99649(VH3−07)であり(表24)、これからリーダーペプチドが抽出された(表25)。シグナルPアルゴリズム(ニールセン・H(Nielsen,H.)、J・エンゲルブレヒト(J.Engelbrecht)、S・ブルナク(S.Brunak)、及びG・フォン・ヘイネ(G.von Heijne)、1997年、「Identification of prokaryotic and eukaryotic signal peptides and prediction of their cleavage sites」、Protein Eng 10:1−6頁)から、これがシグナルペプチダーゼにより適切に切断されるものと予測された(表26)。表27は、158VH CDR1、2及び3をAF062243FWに移植して158RHAタンパク質配列を生成するスキームを示す。表28は、158VH及びAF062243の天然DNA配列からのDNA配列158RHAssの生成を示す。158RHAss DNA配列の分析からスプライスドナー部位の存在が予測されたが、その予測スコアが表29に示される。非コード突然変異の導入により、表30に示されるとおりのこれらの予測されたスプライス部位が不活化され、最終158RHA DNA配列(表31)が生成された。
【0094】
12.4−158RKAのためのヒトフレームワークの選択
12.4.1−158VKのヒトVK配列との比較
VCI残基で158VKとの同一性が最も高いヒトVK配列が、158VKと同一のVCI残基の数(VCIスコア)及びFW残基の数(FWスコア)と共に表32に示される。11本の配列が158VKと同一のVCI残基を全て有する。表33は、これらの配列の全てが158VKと同一のCDR長を有することを示す。表34は、これらの相違を強調表示しており、同様にI85を保有するAB064054のみがK45を保有することを示す。G100P変化は、P100が本願出願人のヒトVKデータベース内で15%の出現率を有して一般的なため、特別注目に値しない。2つの置換、T7S及びK74Rが保存されているとともに、他の全ての置換は表34の全ての配列に共通である。以上の理由から、158RKAを生成するためにAB064054が選択された。
【0095】
12.5−158RKAの生成
158RKAの設計は単に、CDR1、2及び3を158VKからヒトAB064054のアクセプターFWへと移植することである。AB064054に最も近い生殖細胞系列V遺伝子はA19であり(表35)、これからリーダーペプチドが抽出された(表36)。シグナルPアルゴリズムから、このリーダーペプチドの適切な切断(表37)が予測された。表38は、158VK CDRをAB064054のFWに挿入することによる158RKAのタンパク質配列の生成を示す。表39は、158VK及びAB064054の天然DNA配列からの158RKAssのDNA配列の生成を示す。158RKAssの分析からスプライスドナー部位の存在が予測されたが、そのスコアが表40に示される。非コード突然変異(41)の導入によりこれらの部位が不活化され、最終158RKA DNA構築物が生成された(表42)。
【0096】
12.6 ヒト化抗体(BAN2401)結合活性
158RKA及び158RHA遺伝子を、IgG1定常領域を含む発現ベクターに挿入した。この構築物をCOS細胞で発現させてヒト化158抗体を生成した。ヒト化158抗体が結合活性及び特異性について競合ELISAで試験した。ヒト化抗体は、mAb158及び158キメラ抗体と同一の結合特性を示した(図14を参照)。
【0097】
12.7 158RHA鎖及び158RKA鎖における追加的な突然変異
マウス生殖細胞系列V遺伝子VH AAK71612を158VHと比較することにより、単一の体細胞突然変異A60GがCDR2において同定された。さらには、抗体158の分子モデルは、158RHAには保存されていない3個のVH FW残基をCDR残基の5Å内に含む。これらの置換は、D1E、P74A及びT82Sである(表43)。同様に、158RKAに保存されていないCDR残基の5Å内に2個のVK FW残基がある。この置換は、L3V及びG100Pである(表44)。ヒト化バージョン158RHB、158RHC、158RHD、158RKB及び158RKCにおける、158RHA及び158RKAへの位置VH−1、VH−74、VH−82、VK−3及びVK−100での逆突然変異の導入が、表43及び44に示される。
【0098】
【表I】
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
【表7】
【0106】
【表8】
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
【表11】
【0110】
【表12】
【0111】
【表13】
【0112】
【表14】
【0113】
【表15】
【0114】
【表16】
【0115】
【表17】
【0116】
【表18】
【0117】
【表19】
【0118】
【表20】
【0119】
【表21】
【0120】
【表22】
【0121】
【表23】
【0122】
【表24】
【0123】
【表25】
【0124】
【表26】
【0125】
【表27】
【0126】
【表28】
【0127】
【表29】
【0128】
【表30】
【0129】
【表31】
【0130】
【表32】
【0131】
【表33】
【0132】
【表34】
【0133】
【表35】
【0134】
【表36】
【0135】
【表37】
【0136】
【表38】
【0137】
【表39】
【0138】
【表40】
【0139】
【表41】
【0140】
【表42】
【0141】
【表43】
【0142】
【表44】
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病、及び他の類似疾患の予防、処置及び診断に関する。より正確には、プロトフィブリル高次構造においてアミロイドβタンパク質(Aβ)に対し選択性を有し、且つIgGクラス及びIgG1若しくはIgG4サブクラス又はこれらの組み合わせ又はこれらの突然変異体であり、高Fc受容体結合性及び低C1(C1q)結合性を保有し、Aβプロトフィブリルのクリアランスに有効で、及び炎症のリスクが低減された、高親和性の10−7M、好ましくは10−8M、さらには10−9M未満又は10−10M若しくは10−11M未満の抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、認知、記憶及び行動障害を引き起こす進行性で不可逆的な神経変性障害である。ADは高齢者人口における認知症の最も一般的な原因であり、65歳超の人口のおよそ5%及び80歳超の20%が発症している。ADは複数の認知機能における潜行性の発病及び進行性の悪化を特徴とする。神経病理としては、細胞外及び細胞内の双方の好銀性タンパク質沈着を伴う。細胞外の沈着物は老人斑と称され、主に異栄養性神経突起(腫脹し、変形した神経突起)に囲まれるアミロイドβタンパク質(Aβ)からなる。この細胞外沈着物内のAβは原線維状であることを特徴とし、βひだ状シート構造を伴う。この沈着物のAβはある種の色素、例えばコンゴレッドで染色でき、原線維状の超微細構造を呈する。老人斑中の原線維状構造のAβが備えるこれらの特徴が、一般名称としてのアミロイドの定義である。古典的な細胞内のAD病変は神経原線維変化(NFT)であり、これは高リン酸化微小管結合タンパク質τのよじれた鎖で構成されるペアードヘリカルフィラメント(PHF)と呼ばれる繊維状構造からなる。脳において頻繁に見られる老人斑及び神経原線維変化の堆積が、死後に行われるAD診断の基準である。AD脳はまた、肉眼的な脳萎縮、神経細胞損失、局所炎症(ミクログリオーシス及び星状細胞増加症)及びしばしば脳血管壁内に脳アミロイド血管症(CAA)も呈する。
【0003】
Aβペプチドの2つの型、Aβ40及びAβ42がAD老人斑における主な型であるが、ADに関連する脳血管アミロイドにおいてはAβ40が顕著な型である。酵素活性によりAβは、健常及びAD罹患の双方の被験者における全ての体細胞中でアミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる大型タンパク質から継続的に形成される。β−及びγ−セクレターゼ活性を通じた2つの主要なAPP切断イベントによりAβ産生が可能となる一方、α−セクレターゼと呼ばれる第3の酵素がAβ配列を内側で切断することによりAβ生成を妨げる(セルコエ(Selkoe)、1994年;エスター(Ester)、2001年;米国特許第5604102号明細書)。Aβ42は42アミノ酸長のペプチドであり、すなわちAβ40と比較してC末端で2つのアミノ酸分だけ長い。Aβ42は疎水性がより高く、且つAβ二量体、Aβ三量体、Aβ四量体、Aβオリゴマー、Aβプロトフィブリル又はAβフィブリルなどのより大型の構造のAβペプチドへとより容易に凝集する(ジャレット(Jarret)、1993年)。Aβフィブリルは疎水性且つ不溶性だが、その他の構造は全て疎水性が低く可溶性である。これらのより高度な分子構造のAβペプチドは全て、例えば電子顕微鏡法によるそれらの生物物理学的及び構造的外観、及び例えばサイズ排除クロマトグラフィー/ウエスタンブロットでの分析によるそれらの生化学的特徴に基づき、個々に定義される。これらのAβペプチド、特にAβ42は、寿命の間に種々のより高度な分子構造のAβへと徐々に集合することとなる。ADは年齢に大きく依存する障害であり、この集合プロセスが急速に生じるほど、生涯においてより早期に発症する。これが、ADの主原因はAPP切断、Aβ42のレベル及びこれらのより高度な分子構造への集合であると主張するADの「アミロイドカスケード仮説」の中核をなす。他の全てのAD脳についての神経病理及び認知症などのADの症状が、何らかの形でAβ又はその集合体により引き起こされている。
【0004】
Aβは、種々の長さで、すなわち1−39、1−40、1−42及び1−43が、並びに種々の断片サイズで、すなわち1−28及び25−35が存在し得る。ペプチドのN末端で切断が生じ得る。これらの全てのペプチドは凝集して可溶性中間体及び不溶性フィブリルを形成することができ、各分子型が特有の構造的高次構造及び生物物理学的特性を有する。例えば単量体Aβ1−42は42アミノ酸長の可溶性且つ非毒性ペプチドであり、正常なシナプス機能に関与していることが示唆される。一定の条件下で、Aβ1−42は凝集して二量体、三量体、四量体、五量体、最大12量体及びそれ以上のオリゴマー型となることができ、それぞれの物理化学的特性、例えば分子の大きさ、EM構造及びAFM(原子間力顕微鏡法)分子形状などはどれも異なる。より高い分子量の可溶性オリゴマーAβ型の例がプロトフィブリル(ウォルシュ(Walsh)、1997年)であり、これは見かけの分子量が100kDaより大きく、且つ直径4〜11nm及び長さ200nm未満の曲線線形構造を有する。近年、Aβプロトフィブリルなどの可溶性オリゴマーAβペプチドが、海馬における記憶形成を反映すると考えられているシナプス可塑性の尺度である長期増強(LTP)を損なうことが実証されている(ウォルシュ(Walsh)、2002年)。さらに、オリゴマーの北極型(Arctic)Aβペプチドが脳におけるLTPに対し野生型Aβより一層深刻な阻害作用を呈し、これはそれらのAβプロトフィブリルを形成する強力な性質に起因するものと思われる(クリュバン(Klyubin)、2003年)。
【0005】
文献には、プロトフィブリルとは明らかに異なる他の可溶性オリゴマー型も記載されている。かかるオリゴマー型の1つがADDL(アミロイド由来拡散性リガンド)である(ランベルト(Lambert)、1998年)。AFM分析によりADDLは、z軸に沿った4.7〜6.2nmの主に小球状の型で、分子量が17〜42kDaであることが明らかとなった(スタイン(Stine)、1996年)。別の型はASPD(アミロイドスフェロイド)と呼ばれるものである(ホシ(Hoshi)、2003年)。ASPDはAβ1−40の球状オリゴマーである。毒性試験から、10nmより大きい球状ASPDは低分子型のものより毒性が高いことが示された(ホシ(Hoshi)、2003年)。この見解は、早期発症型ADを引き起こす北極型(E693)APP突然変異の最近の発見により支持されている(米国特許出願公開第2002/0162129A1号明細書;ニルスバース(Nilsberth)ら、2001年)。この突然変異はAβペプチド配列の内側に位置する。このため突然変異保因者は、Aβペプチドの変異体、例えば北極型Aβ40及び北極型Aβ42を生成することになる。北極型Aβ40及び北極型Aβ42は双方とも、より高度な分子構造、すなわちプロトフィブリルへとより一層容易に凝集し得る。従って、北極型突然変異の発症機序から、可溶性でより高分子のプロトフィブリルがADを引き起こしているとともに、特異的な固有のエピトープ、すなわち「AD疾患エピトープ」を含むことが示唆される。
【0006】
アルツハイマー病(AD)脳においては一般的に、実質及び血管壁に細胞外アミロイドプラークが所見される。このプラークはアミロイド(Aβ38−43アミノ酸長の疎水性で自己凝集性のペプチドを含み、徐々に重合してプラーク沈着となる。可溶性Aβオリゴマー種はアミロイドプラークそれ自体より疾患相関性が高いことが提言されている(マクリーン(McLean)ら、1999年;ナスランド(Naeslund)ら、2000年)。これらの前フィブリル中間体Aβ種のなかで、オリゴマー型は試験管内及び生体内の双方において有害な生物学的作用を誘発することが示されており(ウォルシュ(Walsh)ら、2002年)、従って疾患病因の中心的役割を果たすものであり得る。様々な分子サイズのオリゴマーAβ種がいくつか知られている。重要なことには、Aβの単量体型、オリゴマー型及びフィブリル型の高次構造は異なり、高次構造選択的な抗体の標的となり得る。主要なAβ病原体の主体は不明であるものの、一部の証拠からは高分子量Aβオリゴマーが特に神経毒性を有することを示唆する(ホシ(Hoshi)ら、2003年)。
【0007】
早期発症型ADを引き起こす、アミロイド前駆体タンパク質(APP)遺伝子における病原性突然変異についても記載されている。そのうちの1つがスウェーデン型APP突然変異(ムーラン(Mullan)ら、1992年)であり、これはAβレベルの上昇を引き起こす。Aβドメイン内に位置する他の北極型APP突然変異(E693G)は大型のAβオリゴマーであるプロトフィブリルの形成を亢進することが分かっており、これらのAβ中間体が特に病原性を有することが示唆される((米国特許出願公開第2002/0162129A1号明細書;ニルスバース(Nilsberth)ら、2001年)。北極型APP突然変異の同定及びAβプロトフィブリルについての毒性作用の解明では、AD発病におけるAβオリゴマーに一層焦点が当てられている。
【0008】
アルツハイマー病に対する治療方針としての免疫活性化は、(シェンク(Schenk)ら、1999年)により最初に報告された。免疫化戦略の標的は、アルツハイマープラークにおいて所見されるフィブリル型のAβであった。フィブリル化したAβをワクチン(AN−1792)として使用した活性Aβワクチン接種の最近の第I/II相臨床試験は、少数の患者における髄膜脳炎の発症により中止せざるを得なかった(ベイヤー(Bayer)ら、2005年)。この研究において見られた副作用は、血管壁の原線維性アミロイドに対し反応する抗Aβ抗体により引き起こされたものと見られた。CAAにおける原線維性アミロイドは血液脳関門(BBB)にごく近接しており、従って抗原抗体反応によりBBBに傷害が起こり、Tリンパ球のCNSへの浸潤に至った可能性がある(フェイファ(Pfeifer)ら、2002年;ラッケ(Racke)ら、2005年)。そのうえ、参加患者のうちAβワクチンに対する免疫応答を呈したのは少数のみであった。当該研究は早々に終了されたが、活性Aβ免疫化はAD患者の一部にしか有益でない可能性を含むように思われる。
【0009】
ヒトAβプロトフィブリルに対し選択的なモノクローナル抗体が記載されている(米国特許出願公開第2002/0162129A1号明細書)。純度が高く、且つ安定なヒトAβプロトフィブリルを生成するためのこの方法は、北極型突然変異(Glu22Gly)を有する合成Aβ42ペプチドの使用を伴う。この突然変異により免疫化及びAβプロトフィブリル選択的抗体のハイブリドーマスクリーニングが促進される。重要なことは、この抗体は野生型Aβプロトフィブリル及びAβ−Arcプロトフィブリルの双方と結合する(PCT/SE2005/000993号明細書)。
【0010】
Aβフィブリル(オヌアライン(O’Nuallain)、2002年)、ミセルAβ(カイエド(Kayed)、2003年)、ADDL(ランベルト(Lambert)、2001年)などの他のAβ高次構造に関して選択的な抗体が記載されている。しかしながら、これらはどれもAβプロトフィブリル選択性ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、改良型抗体、すなわちアルツハイマー病、ダウン症候群又は他の神経変性障害の予防、処置及び診断を改善するための、炎症のリスクが低減された、クラスIgG及びサブクラスIgG1又はIgG4若しくはそれらの組み合わせ又はそれらの突然変異体の高親和性(10−7M未満)Aβプロトフィブリル選択的抗体に関する。前記抗体は、古典的ハイブリドーマ技術及び抗体工学により開発されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、オリゴマーAβ型、すなわち「アルツハイマー疾患エピトープ」を構成するAβプロトフィブリルを選択的に結合する抗体由来のVL鎖及びVH鎖上のCDR1−3領域の共通アミノ酸配列を開示し、Fc領域の修飾と組み合わせることで補体因子C1q結合を低減し、補体の活性化及び炎症のリスクを低減する。
【0013】
抗体の定常領域は多くの重要な機能を有し、特にFc受容体及び補体因子C1qを結合する機能を有する。このC1q結合機能が不活化されることで炎症反応が回避された。
【発明の効果】
【0014】
要約すれば、この種類の高親和性プロトフィブリル選択的抗体は、他の既知の免疫療法的な治療様式と比較した場合、以下の特徴的な利点を有する。
1)高親和性により、疾患の原因であるAβプロトフィブリルを標的とする。
2)補体因子C1qとの結合性が低いか、又は全くないことにより、炎症性副作用、すなわち髄膜脳炎のリスクが低減する。
3)高親和性抗体により、有効な処置に必要な臨床用量が低減される。
4)正確な投薬様式を提供する。
5)血管壁におけるAβフィブリルへの結合、すなわちCAAが少なく、炎症性副作用のリスクが低減する。
6)末梢において結合する抗体が少なく、ひいてはより多くの抗体が血液脳関門を通過し得るとともに脳内でのAβオリゴマー型の結合及び除去に利用可能となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一態様は、ヒト野生型Aβプロトフィブリルを結合するCDR領域の抗体共通アミノ酸配列の発見である(実施例1)。この発見は、治療用又は診断用として野生型ヒトAβプロトフィブリルに対し高親和性及び高選択性を供する結合部位(CDR領域)を定義するものである。免疫グロブリン(IgG)分子の基本構造は、ジスルフィド架橋により共に結合する2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖を含む(図1)。軽鎖はλ又はκのいずれかであり、それぞれ約110アミノ酸残基の可変領域(VL)及び定常領域(CL)を有する。重鎖の有する可変領域(VH)は約110アミノ酸残基だが、定常領域(CH)は300〜400アミノ酸残基とはるかに大きく、CHγ1、CHγ2及びCHγ3領域又はドメインを含む。
【0016】
定常領域(Fc)は補体系を活性化するとともに、感染性微生物又は外来/非自己抗原を貪食及び破壊するマクロファージ、ミクログリア及び好中球上でFc受容体と結合する。これは抗体の治療原理の一部、すなわちFc受容体介在性ミクログリア食作用及びAβプロトフィブリルのクリアランスであることから、この機能は特に重要である。沈降仮説に従えば、他の抗体介在性クリアランス機序、すなわちAβ抗体の非凝集特性及び末梢におけるAβプロトフィブリルのクリアランスもまた作動している。重鎖及び軽鎖の可変領域は相補性決定領域又はCDRと呼ばれる3つの超可変領域を含む。CDR領域は約13〜23アミノ酸長の短い伸長部であり、VL及びVH領域に位置する。抗体の1本の「腕」上の6つのCDR領域が、抗原を結合する「ポケット」を形成する。図1は、IgG免疫グロブリン及びそのサブドメインの基本構造を示す。
【0017】
本発明の別の態様は、高親和性のプロトフィブリル選択的抗体に関する。プロトフィブリルに対する10−7M、好ましくは10−8M、さらには10−9M未満、10−10M未満、又は10−11M未満の範囲の親和性が記載される(実施例2)。これらの抗体は、親和性が10−6Mの範囲の抗体と比較してより低用量で投与され得る点で有利である。これは、効果を実現するうえで少量の抗体しか必要ないため、注射により投与されるこれらの高親和性抗体が皮下に投与され得る点で有意義な臨床上の利点を有する。投与様式は皮下注射に限定されない。さらには、有効とするために必要な用量が少なくなることから、抗体の製造原価が低減されるであろう。
【0018】
本発明の別の態様においては、抗体がIgGクラスのものであり、血液脳関門を通過し得るため、治療用途に好適である。脳実質内でのAβプロトフィブリルのクリアランスは、ミクログリア細胞によるFc受容体介在性食作用により実現される。他の抗Aβクリアランス機序も同様に作動するものと見られる。可溶性Aβプロトフィブリルのこのクリアランスが、処置の中心的な機序である。Aβプロトフィブリルは神経毒性が高く、疾患プロセスを惹起及び駆動すると考えられる。脳におけるAβプロトフィブリルのクリアランスは有意義な臨床的価値を有する。異なるAβ凝集型、すなわち二量体、三量体、四量体及びプロトフィブリル及びフィブリルを含むより高分子のオリゴマー型は平衡状態にあるため、Aβプロトフィブリルの除去を介して、Aβプロトフィブリルのクリアランスに加え、Aβフィブリルを含む他のAβオリゴマー型が間接的に低減されるであろう。Aβフィブリルを含むプラークの低減の例が、高親和性プロトフィブリル選択的抗体(mAb158)による処置後72時間のアルツハイマートランスジェニックマウスモデル(APPswe)において示されている(実施例3)。従って、前記抗体によるAβプロトフィブリルのクリアランスは他のAβ凝集型又はオリゴマー型を間接的に低減するという利点もまた有するであろう。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、サブクラスIgG1の高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的抗体であり、これは脳内のミクログリア細胞上に存在するヒトFcγRI受容体に対し高親和性を有する。高親和性抗体はAβプロトフィブリルの効率的なクリアランスをもたらすこととなり、有意義な治療的価値を有するものである。従って、他の免疫療法方針、例えば活性ワクチン接種又は他のAβ型を標的とするIgG1サブクラスの他のモノクローナル抗体によるモノクローナル抗体処置などと比較した場合、この抗体はCNS及び末梢の双方においてAβプロトフィブリルのクリアランスを示す。重要なことは、この処置はAβプロトフィブリルなどの毒性の可溶性Aβ種が高いレベルで存在する疾患過程の初期だけでなく、疾患過程の後期においても効果的であり得る。スウェーデン型及び北極型突然変異APPswearcを示すトランスジェニックマウスモデルにおいては、高いレベルのオリゴマーAβ型が記載されている(ロード・A(Lord A.)ら、2006年)。
【0020】
本発明のさらに別の態様においては、高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体がAβ凝集を低減又は阻害し、それにより脳内の可溶性オリゴマーAβ型のレベルが低下し得る。
【0021】
さらに、本発明の別の態様においては、高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体がAβのオリゴマー型、すなわちCNS外のAβプロトフィブリルも同様に結合し、それにより前記Aβ型の血液脳関門にわたる平衡は、前記Aβ型のCNSレベルがより低くなるようにシフトし得る(ドレナージ)。
【0022】
上記で考察されるとおり、アルツハイマー患者を処置するためAβフィブリルに対し選択的なAβワクチン(AN−1792)を使用したエラン(Elan)臨床研究は、結果として症例の6%に副作用、すなわち髄膜脳炎を生じた。脳実質内、また重要なことには血管壁内にも存在するアミロイドプラークの中核となるAβフィブリルを標的とする方針は、結果として重篤な副作用を生じた。この副作用は、脳の血管壁において抗体がCAA(脳アミロイド血管症)と結び付き、炎症性のプロセスを開始したことにより引き起こされた可能性が最も高いと見られた。この重大な臨床的課題は、補体活性化活性の低下した改良型高親和性プロトフィブリル選択的抗体により回避される。この抗体は、副作用、すなわち髄膜脳炎のリスクが低減した、高いAβプロトフィブリルクリアランス効果を保有するであろう。
【0023】
本発明の別の態様においては、高親和性プロトフィブリル選択的抗体が低Aβフィブリル結合性を有し(実施例2を参照)、CAA中に存在するAβフィブリルへの結合性が低いため、副作用のリスクが低減する。
【0024】
本発明のさらに別の態様においては、高親和性Aβプロトフィブリル選択的IgG抗体が改変されることによりIgG1のCH2ドメインと結合する補体因子C1qが低減するとともに補体活性化及び炎症リスクが低減する。この修飾はいくつかの異なる方法で行われ得る。一つの方法は、IgG1定常領域のCHγ2ドメインを欠失させて、IgG4由来の対応するドメイン又はC1q結合を供するドメインの一部に交換したキメラ抗体の作成である。IgG4はC1qを結合せず、従って補体カスケードを活性化しないことが十分に立証されている。これを実現するため、IgG1上の高親和性Fc受容体ドメイン(CHγ3)を、補体因子C1qに対する結合性を有しないIgG4ドメイン(CHγ2)と組み合わせるような方法で、重鎖(CH)の定常領域が改変される。キメラ定常重鎖(IgG1:CHγ1、CHγ2:IgG4、CHγ3:IgG1)を含むこの新規抗体は、Fc受容体介在性食作用を通じたAβプロトフィブリルの効率的なクリアランス、及び副作用、すなわち髄膜脳炎などの炎症リスク低減の、双方の重要な特性を有することとなる。
【0025】
炎症リスクを低減するさらに別の方法は、抗体のオリゴ糖構造を変化させることであり、これにより補体因子C1q結合性及び補体活性化が低減されることとなる。ヒトIgG1ではAsn−297における二分岐の複合型オリゴ糖の異なる構造が30種類記載されている。CH2関連炭水化物の不在が、抗体の「ヒンジ」領域に高次構造上の変化を引き起こし、エフェクター分子との相互作用効果並びに補体活性化機能及びC1q結合の減退を低減すると考えられている。
【0026】
任意の他のアミノ酸に対するAsn−297の部位特異的突然変異誘発による高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的抗体の修飾は、C1q結合性の低いFc受容体を保有する抗体を生成し、従って特に血液脳関門における炎症リスクが低減するであろう。抗体上でグリコシル化を修飾する代替例としては、酵素N−アセチルグルコサミニル転移酵素Iが不活化された細胞型における抗体の発現がある。これによりAsn−297の炭水化物構造が変化した抗体が得られることとなる。限定はされないが、Man5GlcNAc2の構造が形成される。この炭水化物修飾は、補体因子C1q結合性を低減するとともに炎症を阻害するものである(ライト(Wright)ら、1998年)。あるいは、グリコシル化されたプロトフィブリル選択的抗体は、グリコシル化を阻害するツニカマイシンの存在下で抗体を発現する細胞を培養することにより実現し得る。この抗体は、補体活性化活性が変化していると同時にFc受容体機能も変化しているであろう(レザーバロウ(Leatherbarrow)ら、1985年)。補体活性化が低く、且つFc受容体結合性が高い抗体を発現するクローンのスクリーニングにより、Aβプロトフィブリルの高Fc介在性クリアランス及び低C1q結合性を示すプロトフィブリル選択的抗体が生成されることとなる。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、ADを処置又は予防するための、補体因子C1qの結合を低減又は阻害するような方法で補体因子C1q結合部位が修飾されている、すなわちPro331>Ser331(スー(Xu)ら、1994年)の、IgG1サブクラスの高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的抗体である。ヒトIgG1の第331位におけるプロリン残基はまた、スレオニン若しくはグリシン又は任意の他の極性アミノ酸に換えてもよい。この修飾は、部位特異的突然変異誘発又はDNA欠失などの標準的な分子生物学的技術により実現され得る。
【0028】
本発明のさらに別の態様は、ヒト組織、特に脳脊髄液、血液、尿又は唾液においてプロトフィブリルレベルを特異的に測定するための、アルツハイマー病の診断ツール又はバイオマーカーとしての高親和性ヒトAβプロトフィブリル選択的IgG抗体の使用である。CSF又は血液中のヒトAβプロトフィブリルのレベルは、アルツハイマー病に罹っていない対応する高齢者対照群と比較した場合、異なると見られる。アルツハイマー病の発症者は、CSF又は血液中のAβプロトフィブリルレベルが上昇していると見られる。従って、CSF又は血液中のAβプロトフィブリルレベルの測定により疾患の早期診断が行われ得る。これは、新規高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体をサンドイッチELISA法と組み合わせることにより実現可能であり(実施例2A)、ここではAβプロトフィブリルが10pMレベルに至るまで測定されている。測定における他のAβ型、例えばAβフィブリル、Aβ単量体及びAβ断片(1−16;17−40)などの干渉は、10%以下である。
【0029】
本発明はさらに、ヒト及び動物組織、例えば限定はされないが、脳脊髄液、血液、血清、尿及び脳組織といった組織中のAβプロトフィブリルを測定するための高親和性プロトフィブリル特異抗体の使用に関し、アルツハイマー病についての可能な診断方法を提供する。これらの組織中並びに細胞培養物中のAβプロトフィブリルを、抗Aβプロトフィブリル抗体を使用して測定するための好適な方法は、ELISA、RIA、ウエスタンブロッティング又はドットブロッティングなどの免疫測定法である。本方法は、臨床治験における処置効果(プロトフィブリル低減)の追跡に好適であり得るとともにアルツハイマー病又はダウン症候群の診断検査として好適であり得る。
【0030】
CSF及び血液中のAβプロトフィブリルレベルは非常に低いため、低レベルのAβプロトフィブリルを計測可能とするために、ELISA法に基づく診断検査において高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体を必要とする。近接連結(実施例4)(グルベルグ(Gullberg)、2004年)若しくは類似の増幅系又はビアコア(Biacore)若しくは類似の技術など、他の高感度方法を使用して感度を高めてもよい。近接連結技術は、分析物(この場合タンパク質)上の異なるエピトープに対して産生した抗体が、前記分析物上で互いに近づいて結合し得るという発見に基づく。前記異なる抗体がオリゴヌクレオチドと接合する場合、前記オリゴヌクレオチド間の距離は、連結オリゴヌクレオチドが連結成分を用いてオリゴヌクレオチド間に架橋を形成するうえで十分に短いものであろう。増幅成分もまた付加され、その上でRT−PCRが実施され得る。この原理により、主体性及び標的タンパク質量を反映する増幅可能なDNA配列が生成される。この技術により亢進されたシグナル応答が得られ、ひいてはより低濃度の分析物を検出することが可能となる。
【0031】
本発明者らは意外にも、修正版近接連結技術を同様にこのAβプロトフィブリル特異抗体に使用することで、Aβ単量体は検出せずに、低濃度の大型Aβペプチド構造、すなわちAβプロトフィブリルを検出し得ることを発見した。本発明者らは、プロトフィブリル高次構造のAβペプチドが、本発明により、2個の抗体がプロトフィブリル上で互いに十分に近づいて結合可能となる構造(反復単位)を示すことを発見した。前記抗体がオリゴヌクレオチドと接合される場合、前記オリゴヌクレオチドは連結オリゴヌクレオチドを使用して架橋され得る。増幅成分を使用してPCRが実施される。この原理により、主体性及び標的プロトフィブリル量を反映する増幅可能なDNA配列が、生成される(図4Aを参照)。
【0032】
近接連結又はその「ローリングサークル」と呼ばれる種類の技術は、高感度技術であるとともに特に、アルツハイマー病及び他の神経変性障害の診断に使用されるAβプロトフィブリルなどの反復配列を伴う重合体構造の検出に非常に適している。
【0033】
本発明はさらに、ヒト及び動物組織中のAβプロトフィブリルの検出、局在決定及び定量の画像化における高親和性プロトフィブリル特異抗体の使用に関する。抗体は、限定はされないが、I131、C14、H3又はガリウム68といった放射性同位元素などの検出用放射性リガンドで標識され得るであろう。本方法は、アルツハイマー病又はダウン症候群の診断ツールとして好適であろう。
【0034】
本発明のさらに別の態様は、獣医学における使用に特化した抗体種の作製である。概説される診断方法もまた、獣医学上の使用に好適である。
【0035】
本発明の別の態様は、副作用を回避するため、すなわち治療薬又は診断薬として使用する際のヒトにおける前記抗体に対する免疫応答を回避するための、前記抗体のヒト化である。
【0036】
さらに別の態様は、例えば、限定はされないがPBSなどの、ヒト及び動物への投与に好適な生理緩衝液中の抗体の製剤である。抗体製品は安定性を高めるため凍結乾燥され得る。凍結乾燥製剤は、限定はされないが、マンニトール(manitol)などの賦形剤を含んで、凍結乾燥後の製品を安定化させ得る。
【0037】
抗体製品は、抗菌剤を含み得る。
【0038】
本発明に係る抗体又は断片は、前記CDR領域及び/又はそのフレームワーク内にアミノ酸欠失、置換及び挿入を示し得る。挿入又は置換されるアミノ酸はまた、抗体の親和性及び特異性がなお損なわれていないことを条件に、アミノ酸誘導体であってもよい。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は例示のために提供されるが、本発明をこれらの具体例に限定することを意図したものではない。
【0040】
実施例1
ヒト野生型Aβプロトフィブリル選択的モノクローナル抗体がクローニング及び配列決定された。重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列が表1に示される。CDR領域1〜3の位置には下線が引かれているとともに、これらは表2及び3にも同様に示される。CDR領域のアミノ酸配列は、「アルツハイマー疾患エピトープ」を構成するヒト野生型Aβプロトフィブリルを結合するための構造基盤を形成する。
【0041】
高親和性プロトフィブリル特異抗体BA9/158についてのVL鎖及びVH鎖のCDR領域1〜3のアミノ酸配列が、表1、2及び3に示される。他のプロトフィブリル選択的抗体(BA2、BA3、BA4及びBA7)の配列決定データがCDR領域の代替的アミノ酸配列を提供するが、これらに限定されない。VH鎖及びVL鎖のCDR1−3領域のアミノ酸配列が組み合わされて分子「ポケット」を作り、これが高い親和性及び特異性でヒトAβ野生型プロトフィブリルを結合する。この「ポケット」が「アルツハイマー病エピトープ」の構造基盤を形成する。CDRアミノ酸配列長の変動がVH鎖及びVL鎖の双方に観察され、ヒトAβプロトフィブリルとの結合に適合する(表2及び3)。CDR領域が短いほど、提供される抗体の結合ポケットの3次元構造はより限定的となり、長いほど適応性が高くなる。
【0042】
本願出願人は、限定はされないが、表1、2及び3に示されるとおりのCDR配列、並びに表4及び5に示されるとおりのプロトフィブリル特異抗体についての、VH鎖及びVL鎖の「マウスフレームワーク」領域、すなわちCDR領域外、並びにヒトVL及びVHフレームワーク領域のアミノ酸配列を主張する。
【0043】
高親和性プロトフィブリル特異抗体BA9/158に由来するVL鎖及びVH鎖のVL及びVH領域1〜3のフレームワーク領域のアミノ酸配列が、表4及び5に示される。
【0044】
表1、2及び3に示されるもの以外のCDR領域における他のアミノ酸置換は、ヒト野生型Aβプロトフィブリルとの高親和性及び高特異性結合を伴うことで適合性を有する。CDR領域の特定の位置に極性アミノ酸が存在する場合、当該の特定アミノ酸は、Aβプロトフィブリルとの高い親和性及び特異性結合が保有又は改良されながら、別の極性アミノ酸に置換され得る。同様に、ある位置に非極性又は負若しくは正に帯電したアミノ酸が存在する場合、当該アミノ酸は同一群由来の類似のアミノ酸に置換され得る。
【0045】
また、特定の1個又は複数のアミノ酸は、CDR領域における任意の位置で、抗体と類似の機能及び構造を供する機能的等価物に交換され得る。
【0046】
実施例2.ELISAによる高親和性ヒトAβ野生型プロトフィブリル(profibril)選択的モノクローナル抗体の特性決定
実施例2は、サンドイッチELISAにより計測した場合、Aβ単量体との交差反応が200〜1000倍低く、且つAβフィブリルとの交差反応が40倍未満の高親和性プロトフィブリル選択的抗体を示す(図2A)。競合ELISA実験から、抗体はヒトAβ42野生型プロトフィブリルに対し強力な親和性を有するが、AβペプチドのN末端部分及びAβ単量体に対しては非常に弱い親和性しか有しない。AβのC末端断片との結合は観察されなかった(図2B)。さらにこの抗体は、メジン又はトランスサイレチンのような他の種類のアミロイドとは交差反応しない。さらにこの抗体は、Aβの豊富な前駆体であるヒトAPPを認識しない。
【0047】
図2AにサンドイッチELISAが示される。抗体158がウェル内に被膜され、続いて濃度を上昇させながら異なるAβ型がウェルに添加された。結合したAβ型の計測が、ビオチン化mAb158及びHRP標識ストレプトアビジンを添加することにより行われた。製造者により推奨される手順に従い発色が計測された。
【0048】
図2Bには、競合ELISAが示される。ELISAプレートをヒトAβプロトフィブリルで被膜した。続いて抗体158が異なるAβ型を増量させながらインキュベートされた(競合法)。インキュベーション混合物をマイクロタイタープレートウェルに添加して、遊離抗体をウェル中の固定プロトフィブリルと結合させた。結合した158抗体が標準的手順を使用して第2の抗体により計測された。
【0049】
実施例3
高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体の有効性が、アルツハイマートランスジェニックマウスモデル(APPswe)において急性脳内注射により測定された。有効性評価に使用されるトランスジェニックマウスは、スウェーデン型突然変異(APPSwe)に伴うヒトAPPを発現する。このパラダイムにおいて、抗体は脳実質のプラークリッチ領域に直接注射され、神経病理に対する影響が72時間後に評価される(ウィルコック(Wilcock)ら、2003年)。他の研究では、抗Aβ抗体の直接施用により結果として生体内でアミロイド沈着物の急速なクリアランスが生じることが示されている(バクスカイ(Bacskai)ら、2001年;ブレンザ(Brendza)ら、2005年)。高親和性Aβプロトフィブリル選択的抗体の注射は、APPSweマウスモデルにおいて有意なプラーク低減をもたらす(図3)。
【0050】
図3において、トランスジェニックマウスモデル(APPswe)における高親和性プロトフィブリル選択的抗体の治療有効性が試験された。A:14月齢のAPPSweトランスジェニックマウスが頭蓋内にPBSを、及びB:高親和性プロトフィブリル選択的抗体(158)を1μg/μl注射され、及び注射後72時間で検査された。対照側(A;矢印)と比較した場合、注射部位(B;矢印)の近傍の鉤状回における著しいAβ負荷のクリアランスが注目される。
【0051】
実施例4.Aβプロトフィブリルを計測するための高親和性プロトフィブリル選択的抗体と組み合わせた近接連結
ヒト野生型Aβプロトフィブリルが10pMの範囲に至るまで検出された一方、Aβ単量体調製物は全く検出されなかった。超高感度近接連結法及び高親和性抗体の組み合わせが特に有利であるのは、アルツハイマー病及び他のタンパク質「凝集」疾患、例えばプリオン病、クロイツフェルトヤコブ病、アミロイドーシス及びパーキンソン病などを診断する際に特に好適なオリゴマー型の分析物のみを測定する系を提供するためである。
【0052】
図4において、ヒトAβプロトフィブリルが近接連結技術によりpMレベルで計測される。近接連結測定法(proximity ligation assay)の方法説明を以下に示す(グルベルグ(Gullberg)ら、2004年より):ステップ1、近接プローブ対との試料のインキュベーション(約1時間);ステップ2、連結に必要な全成分の添加及び定量的PCRによる検出(約5分間の連結時間)。測定においては高親和性プロトフィブリル選択的モノクローナル抗体が使用された;ステップ3、定量的PCR(約2時間)。合成Aβ単量体及びAβプロトフィブリル調製物が希釈され、それらの反応性について上記の近接連結測定法で試験された。
【0053】
実施例5.mAb158は一般的なアミロイドエピトープを認識しない。
既に報告されているAβ高次構造依存性抗体は他のアミロイド形成性タンパク質のオリゴマー及びフィブリルを結合することが示されており、全てのアミロイド凝集について共通のエピトープの存在が示唆される。Aβ以外のアミロイド形成性タンパク質からプロトフィブリルを生成する技術的困難から、代わりにmAb158が異なるアミロイドフィブリルに対し試験された。これらの実験にはドットブロットアッセイが使用されたが、これは抗体抗原反応が溶液中で生じる場合、阻害ELISAはフィブリルなどの不溶性抗原に好適でないためである。しかしながら、ドットブロットアッセイは、様々なAβ型についての抗体特異性を評価する、すなわちプロトフィブリル(profibril)及びフィブリルに対する選択性の差異を計測するうえでは好適でない。メジンのフィブリルである膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)及びα−シヌクレインがニトロセルロース膜上に固定され、天然の高次構造が維持された。mAb158は、Aβフィブリル以外のどのアミロイドとも反応性を示さなかった(図5A)。mAb158のAβフィブリルに対する結合性は、Aβプロトフィブリルエピトープの一部がAβフィブリル構造中にも存在することを示唆する。陽性対照としては、抗体6E10(Aβ)、pAb179(メジン)、pAbA110(IAPP)及びmAb211(α−シヌクレイン)が使用された(図5B)。代表的ブロットは反復実験(n=3)から示した。
【0054】
mAb158はAPPを結合しない
APP及び可溶性APP断片のレベルは一般に、CSF及び脳ホモジネートなどの生体試料中でAβのレベルを上回り、従ってAβ−抗体のAPPに対する交差反応性はAPPと結合することにより処置を阻害し、結果としてAβプロトフィブリル及び/又はAβオリゴマーを結合及び除去するための遊離抗体が少なくなる可能性がある。また、これはAβのサンドイッチELISAアッセイによる生体試料中のAβプロトフィブリルの計測を妨げ得る。mAb158が未変性APPと結合するかどうかを解明するため、免疫沈降実験が実施された。HEK細胞培養培地(偽処理、APPSwe及びAPPArc−Swe)及びマウス脳ホモジネート(非トランスジェニック、APPSwe及びAPPArc−Swe)をmAb158又は6E10で免疫沈降させた後、検出抗体として6E10を伴う変性ウエスタンブロットを行った(図5C)。図5Cに見られるとおり、mAb158は細胞培養培地由来のαAPP又はマウス脳ホモジネート由来の完全長APPを免疫沈降させなかったが、予期されたとおり、6E10は免疫沈降させた。対照として使用された合成Aβプロトフィブリルは双方の抗体により同様に十分に免疫沈降した(図5C)。代表的なブロットは反復実験(n=3)から示した。
【0055】
実施例6.Aβプロトフィブリル特異的サンドイッチELISAの確立。
生体試料中のAβプロトフィブリルの計測を可能にするため、mAb158を捕捉抗体及び検出抗体の双方として伴うサンドイッチELISAが確立された。このアッセイは1pMの検出限界及び最高250pMの線形範囲でAβプロトフィブリルを計測する(図6A、線は標準曲線の線形回帰を示す)。標準曲線において使用されるAβプロトフィブリルのサイズに関しては不確実であるため、濃度1pMは1個のAβ単量体の分子量(4514g/mol)に基づくが、プロトフィブリルの分子量は少なくとも100kDaと推定されていることから、モルで計算されるAβプロトフィブリルの検出限界は50fMという低さであり得る。AβArcプロトフィブリルの標準曲線から得られるシグナルは野生型Aβプロトフィブリルより少なく、これはおそらくAβプロトフィブリルのサイズの差に起因する(図6A、6B)。合成LMW−Aβ(低分子量Aβ)を滴定した。用語「低分子量Aβ」は、分子量が約4〜12kDaのAβの単量体、二量体及び三量体を意味する。Aβプロトフィブリル及びAβ1−16を使用してELISAの高次構造特異性が検証され(図6B)、ここでは凝集しないことを予期して親水性Aβ1−16ペプチドが使用された。2つの同一の抗体からなるELISAでは、シグナルを生成するために少なくとも二量体のタンパク質が必要とされるが、予想通り、Aβ1−16はmAb158サンドイッチELISAではμM濃度でさえ検出されなかった(図6B)。LMW−Aβ及びAβプロトフィブリルを、凝集したAβを単量体に解離させることが知られる70%のギ酸(FA)で前処置すると、サンドイッチELISAのシグナルは消失した(データは示さず)。従って、高nM濃度でのLMW−Aβの検出(図6B)はおそらく、凝集量の少ないペプチド調製物に起因する。
【0056】
過剰量の単量体Aβ、ホロAPP及びAPP断片は、生体試料中に天然に存在するが、捕捉抗体被膜の結合部位を占有し、ひいてはプロトフィブリルの結合を阻害することによりAβプロトフィブリル分析を妨げる可能性がある。この問題が、Aβ1−16の過剰量を一定濃度のAβプロトフィブリル(50pM、単量体単位としての表現)まで増加させながら添加し、それをmAb158ELISA及び6E10−6E10サンドイッチELISAの双方で分析することにより調査された(図6C)。Aβプロトフィブリルと比較したとき、モルで500,000倍の過剰量のAβ1−16はmAb158サンドイッチELISAでの計測を妨害しなかったが、これはAβ1−16が捕捉抗体と結合しにくいことから予期されたとおりであった。対照的に、500倍の過剰量のAβ1−16は6E10−6E10ELISAにおけるシグナルを減少させるのに十分であったが、ここでAβ1−16は高親和性で捕捉抗体と結合した(図6C)。そのうえ、合成Aβプロトフィブリルが偽処理のHEK細胞培養培地又は非トランスジェニックマウス脳ホモジネートに添加されると、90%のシグナルが回復した(データは示さず)。
【0057】
実施例7.生体試料中のAβプロトフィブリルの計測
北極型突然変異を保因する細胞及びマウスモデルにおいてAβプロトフィブリルの存在が示唆されているが、現在のところ生体試料中のAβプロトフィブリルを直接測定する方法はない。従ってmAb158サンドイッチELISAはまず初めに、かかる細胞及びマウスモデルにおいてAβプロトフィブリルレベルを計測するとともにそれらをこのAβ内突然変異を有しないモデルと比較する機会を提供する。スウェーデン型突然変異のみを保因する細胞及びマウス由来の試料が野生型Aβプロトフィブリル標準曲線と比較された一方、北極型突然変異を伴うAβを発現する細胞及びマウス由来の試料がAβArcプロトフィブリル標準曲線(図6A)と比較された。この測定において計測される全てのAβを確実に溶解状態にするとともに、Aβフィブリルからの干渉の可能性を一切排除するため、全試料が分析前に5分間、17,900×gで遠心された。一時的に導入されたAPPSwe及びAPPArc−SweHEK細胞からの細胞培地群が分析され、偽処理のHEK細胞培養培地と比較された。標準曲線(図6A)からAβプロトフィブリルレベルが3回の平均値として計算された後APPレベルに対し正規化され、導入レベルの差が補正された(ステン(Stenh)ら)。APPArc−SweHEK細胞培養培地中のAβプロトフィブリル濃度は28pM(±2)であり、APPSweに見られた8.2pM(±0.3)より有意に高かった(p<0.0001)(図7A)。偽処理の培地中ではAβプロトフィブリルは検出できなかった。Aβプロトフィブリルのレベルもまた、プラーク及び神経細胞内のAβ病理の双方を伴う10月齢のAPPArc−Swe及びAPPSweトランスジェニックマウス由来の脳において計測された(ロード(Lord)ら)。脳はTBS中でホモジナイズされたうえで、分析に先立ち可溶性Aβ画分を回収するため遠心された。細胞培養培地を使用した分析と同様、AβプロトフィブリルレベルはAPPArcSweトランスジェニックマウス脳において397pM(±59)及びAPPSweトランスジェニックマウス脳において108pM(±14)と、群間で有意に異なった(p=0.005)(図7B)。
【0058】
上述の図(図6及び7)における試料数は、偽処理の細胞(n=3)及びAPPSwe(n=8)を一時的に導入したもの及びAPPArc−Sweを一時的に導入したもの(n=11)であった。APPArc−Swe培地中のAβプロトフィブリルのレベルはAPPSwe培地中より約9倍高かった一方、偽処理の培地からはシグナルは得られなかった(A)。非トランスジェニックマウス脳ホモジネート(n=6)のTBS可溶性画分中のAβプロトフィブリルレベルの計測値が、トランスジェニックマウス(APPSwe、n=3、及びAPPArc−Swe、n=6)と比較された(B)。細胞培養培地と同様、APPArc−SweマウスのAβプロトフィブリルレベルはAPPSweマウスのものより7倍高かった。エラーバーは±SEMを示す。
【0059】
実施例8.mAb158は腹腔内投与後のAPPswearcトランスジェニックマウス中のAβプロトフィブリル及び総Aβを有意に低下させる
mAb158(12mg/kg)が9〜10月齢のAPPswearcマウスに対し18週間にわたり1週間に1回、腹腔内注射された。研究後、脳が単離され、TBS中でホモジナイズした後遠心にかけて不溶性物質を沈降させた。不溶性物質はギ酸中で可溶化された。従って、マウス脳からは2つの画分、すなわちTBS画分及びギ酸画分が得られた。TBS画分中のAβプロトフィブリルレベルがELISAにより測定された。プラセボ群と比較してmAb158処置群にはAβプロトフィブリルの有意な低減が見られた(図8)。図8は、mAb158又はプラセボのいずれかによる処置後4ヶ月のAPPswearcトランスジェニックマウス脳TBS抽出物中のAβプロトフィブリルレベルを示す。
【0060】
ギ酸画分中の総AβがELISAにより測定された(ギ酸を使用して全てのAβ型が可溶化されたことにより、全てのAβ型が検出可能となった)。プラセボ群と比較して処置群には総Aβの有意な低減が観察された(図9)。図9は、mAb158又はプラセボのいずれかによる処置後4ヶ月のAPPswearcトランスジェニックマウス脳ギ酸抽出物中の総Aβレベルを示す。
【0061】
実施例9〜11
【0062】
【表A】
【0063】
物質
【0064】
【表B】
【0065】
【表C】
【0066】
【表D】
【0067】
【表E】
【0068】
【表F】
【0069】
実施例9−158抗体のDNA配列
9.1−RNA調製
マウスハイブリドーマ158のスナップ凍結細胞ペレット(ラベル付きバイアル060824#158 5×106細胞)が、2006年10月3日にTAGに入れられた。これらの細胞は切断まで凍結貯蔵され、キアゲン(Qiagen)RNeasyミディキットを使用して製造者の実験手順に従いRNAが単離された。
【0070】
9.2−第一鎖合成
約5マイクログラムの158RNAが逆転写に供され、アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)第一鎖合成キットを使用して製造者の実験手順に従い158cDNAが産生された−これが反復されることにより3つの個別のcDNA産物(ラウンド1、2及び3)が生成され、RT反応によるDNA突然変異を防いだ。
【0071】
9.3 158免疫グロブリンcDNAのクローニング
ハイブリドーマ158cDNAがPCRにより別個の23反応において増幅された。免疫グロブリンκ鎖可変領域(VK)cDNAが、11個のVKプライマー(MKV1〜11)をκ定常領域プライマーMKC(表6)と組み合わせて使用して増幅された。同様に、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)cDNAがPCRにより、12個の異なるVHプライマー(MHV1〜12)を4個のIgG定常領域プライマーの混合物(MHCG1/2a/2b/3:表7)と組み合わせて使用して増幅された。
【0072】
初回分のIgH−PCR反応の結果は、MHV5プライマーを使用した単一増幅産物であった。他の11個のプライマー対はどれもPCR産物をもたらさなかった。オリゴヌクレオチドプライマーMHV5+(MHCG1/2a/2b/3混合物)によりプライミングされたPCR反応の産物が、TOPO−TAクローニング(登録商標)キットを使用してpCR2.1(登録商標)−TOPO(登録商標)ベクターに連結された。初回分のIgK−PCR反応の結果は、プライマーMKV1及びMKV2をMKCと共に使用した2個の単一増幅産物であった。他の9個のプライマー対は産物を生成しなかった。オリゴヌクレオチドプライマーMKV1又はMKV2+MKCによりプライミングされたPCR反応の産物が、TOPO−TAクローニング(登録商標)キットを使用してpCR2.1(登録商標)−TOPO(登録商標)ベクターに連結された。
【0073】
連結されたベクターで形質転換された大腸菌(E.coli)TOP10細菌が、LB/アンピシリン/X−gal寒天プレート上で、寒天グリッド上のPCRスクリーニング混合物中へと選び取ることによりクローニングされた。クローニングされたプラスミドインサートがPCR増幅によりスクリーニングされた。PCR産物はゲル電気泳動され、及びサイズ補正されたPCR増幅産物(約500bp)を産生するクローンが同定された。各クローンの一晩培養物(5ml)が、QIAprepスピンミニプレップキット実験手順を使用して切断され、DNAプラスミドミニプレップが産生された。
【0074】
9.4−cDNA配列決定
RT−PCR、クローニング、及びDNA配列解析の完全サイクルが反復され、各免疫グロブリン鎖についての3つの完全に独立した配列情報を得た。各々独立したセットのRT−PCR反応からのプラスミドクローンが、1212及び1233プライマー(表10)を使用して双方向で配列決定された。プラスミドがBigDye(登録商標)ターミネーターv3.0サイクル・シーケンシング・レディ・反応キット(ABI)を使用して配列決定され、GeneAmp9600PCR機上でサイクルに付され、及びABI310キャピラリシーケンサー上で解析された。
【0075】
9.5−158VK DNA配列
PCRプライマーMKV2及びMKCを使用して第一鎖cDNAラウンド1及び2で生成されたVKクローンの配列は、MOPC−21、SP2及びAg8などの骨髄腫融合パートナーに由来する無菌κ転写産物と同一であった。これは無菌転写産物である。PCRプライマーMKV1及びMKCを使用して第一鎖cDNAラウンド1〜3上で生成されたVKクローンの共通配列(158VK)が表11に示される。これは機能上の再構成である。表11は、表1、4及び5に示される配列といくらかの相違を示す。これらの相違は、PCRプライマーが位置したFW1領域にある。本願出願人のプライマーによりコードされなかった、158VKにおけるリーダーの断片と最も同一性の高いマウスVKリーダー配列は、K5.1#であった(表12)。#K5.1シグナル配列を正確に切断するシグナルペプチドの予測が、予測プログラムにより行われた。最も可能性が高いと予測された切断部位は、正確にアミノ酸残基19と20との間であった(表13)。キメラ158VKタンパク質及びDNA配列が表14に示される。
【0076】
9.6−158VH DNA配列
PCRプライマーMHV5及びMHCG1/2a/2b/3混合物を使用して第一鎖cDNAラウンド1〜3で生成されたVHクローンの共通配列(158VH)が、表15に示される。158VKと同様、表1、4及び5に示されるFW1配列とはいくらか異なる。本願出願人のプライマーによってはコードされなかった、リーダーの断片と最も同一性の高いマウスVHリーダー配列は、NL−1であった(表16)。
【0077】
実施例10−キメラ発現ベクターの構築
キメラ発現ベクターの構築には、HindIII制限部位及びコザック配列の前方での、好適なリーダー配列のVH及びVKへの付加が伴う。コザック配列(表8)により可変領域配列の効率的な翻訳が確実となる。これはリボソームが翻訳を開始し得る正確なAUGコドンを定義するとともに、最も重要な塩基は第−3位、AUG開始上流のアデニンである。リーダー配列は、Kabatデータベース内で最も類似したマウスリーダー配列として選択される。これらの付加は、順方向プライマー(表9)内でコードされる。さらには、キメラ発現ベクターの構築には、天然ApaI制限部位に至り、158のJ領域の3’末端と隣接する、ヒトγ1定常領域の5’断片の導入が伴う。CHは挿入されたVH配列の下流の発現ベクター内でコードされるが、V−Cイントロンが欠如している。軽鎖について、天然スプライスドナー部位(表8)及びBamHI部位が、V領域の下流に付加される。スプライスドナー配列は、VKの定常領域へのインフレーム付着が必要なκV:Cイントロンのスプライシングを円滑にする。マウスVH及びVK遺伝子が解析され、不要なスプライスドナー部位、スプライス受容部位、コザック配列がいずれも、及び機能性の全抗体のサブクローニング及び/又は発現を後に干渉し得る任意の追加的なサブクローニング制限部位の存在について同定された。この場合、何も見つからなかった。
【0078】
10.1−発現ベクター
発現ベクターpKN100、及びpG1D200のプラスミドDNA調製物が、キアゲン(Qiagen)マキシキットを使用して製造者の実験手順に従い精製された。TOP10細菌の培養物500ml由来の、キアゲン(QIAGEN)プラスミドミディ及びマキシキットを使用したプラスミドDNA精製物にいずれかのベクターが導入された。ベクターマップが図10及び11に示される。
【0079】
10.2−軽鎖キメラ化プライマー
マウスリーダー配列K5.1#がキメラ158VKの設計に組み込まれた。プライマーは、この完全リーダーと、pKN100発現ベクター(表9)へのクローニング用の末端制限部位HindIII及びBamHIを備える158VKとを含有するPCR産物を生成するよう設計された。順方向プライマー158vlは、HindIII制限部位;コザック部位及びK5.1#リーダー配列を導入する。逆方向プライマー158vlrevは、スプライスドナー部位及びBam HI制限部位を導入する。
【0080】
10.3−重鎖キメラ化プライマー
リーダー配列NL−1がキメラ158VHの設計に組み込まれた。プライマーは、このリーダーと、pG1D200発現ベクターへのクローニング用の末端制限部位HindIII及びApaIを備える158VH領域とを含むPCR産物を生成するよう設計された。これらは表9に示される。順方向プライマー158vhは、HindIII制限部位;コザック翻訳開始部位及びNL−1リーダー配列を導入する。逆方向プライマー158vhrevは、γ1C領域の5’末端及び天然ApaI制限部位を導入する。VKのK5.1リーダー配列についてのシグナルペプチド切断部位の予測が表17に示される。
【0081】
10.4−キメラ158VH構築物、pG1D200158VHの生成
158VH DNA断片がプライマーの158vh及び158vhrev(表9)で増幅された。450bp(約)のPCR産物がベクターpCR2.1にT−A連結され、これを使用して化学的にコンピテントTOP10細菌が形質転換された。クローンが然るべき挿入サイズにより選択され、1212プライマー(表10)を使用して配列決定された。的確な発現インサートがpG1D200発現ベクターにサブクローニングされ、的確なサブクローンが、プライマーBDSH61R(表10)を使用したDNA配列決定により選択された。このクローンを200mlの培養液中で成長させ、キアゲン・マキシキットを使用して製造者の実験手順を用いてプラスミドDNAを産生した。キメラ158VHタンパク質及びDNA配列が表18に示される。
【0082】
10.5−キメラ158VK構築物、pKN100158VKの生成
158VK DNA断片がプライマー158vl及び158vlrev(表9)で増幅された。450bp(約)のPCR産物がベクターpCR2.1にT−A連結され、これを使用して化学的にコンピテントなTOP10細菌が形質転換された。クローンが然るべき挿入サイズにより選択され、1212プライマー(表10)を使用して配列決定された。的確なクローンがpKN100発現ベクターにサブクローニングされた。正しいサブクローンが、挿入サイズについてのスクリーニング及びプライマーHu−K2(表10)を使用したDNA配列決定により選択された。このクローンを200mlの培養液中で成長させ、キアゲン・マキシキットを使用して製造者の実験手順を用いてプラスミドDNAを産生した。
【0083】
実施例11−キメラ158抗体の産生及び結合特性
11.1−COS7細胞の形質転換及び細胞培養
1つのバイアルのCOS7細胞を解凍して、10%の胎仔クローンI血清及び抗生物質を補給したDMEM中で成長させた。1週間後、細胞(107/mlで0.8ml)が、pG1D200158VHに加えpKN100158VK(各10μgのDNA)によって電気穿孔処理された。細胞をペトリ皿の8mlの成長培地中で3日間成長させた。
【0084】
11.2−キメラ抗体産生
サンドイッチELISAを使用してCOS7上清中の抗体濃度が計測された。キメラ158VH×158VK抗体を0.3μg/mlで、続いて3.7μg/ml(表19)で、一時的に同時導入されたCOS細胞馴化培地において発現させた。
【0085】
11.3−キメラ抗体活性
2つのELISAを使用してキメラ158の抗原結合を分析した。3.7μg/mlのキメラ抗体馴化培地を使用して、Aβ単量体の結合が直接ELISA実験手順(図12)により計測され、マウス158IgGと比較された。次に、抗体と液相中で混合したうえ続いてAβ単量体と固相で結合させた単量体又はプロトフィブリルを使用して、競合ELISAが行われた(図13)。これらから、キメラ158抗体が元の158マウス抗体と同様にアミロイドAβ単量体及びプロトフィブリルと結合することが示された。
【0086】
注釈
その後の配列決定により、表1及び4に示されるとおりのマウス抗体配列データが、5’末端でVH鎖及びVK鎖の双方にエラーを含むことが示された。本願出願人はこれが、V領域内に位置するプライマーの使用に起因することを提言したい。その後の配列決定において、V領域内に突然変異を導入できない、リーダー配列内に位置するプライマーが使用された。この配列決定は、配列の差異を示した(表15及び11を参照)。しかしながら、前記差異はCDR領域内には位置しない。
【0087】
直接結合ELISA及び競合ELISAによりそれぞれ示されるとおり、キメラ抗体はアミロイドAβ単量体及びプロトフィブリルを結合する。この証拠から、158VH鎖及び158VK鎖の組み合わせが抗LSAP抗体158をコードすることが確認され、これらの配列がヒト化158抗体を生成するためのヒト化手順に好適であることが示唆される。
【0088】
実施例12−ヒト化抗体設計及び考察
【0089】
【表G】
【0090】
【表H】
【0091】
12.1−ヒトV遺伝子データベース
国際免疫遺伝学データベース(International Immunogenetics Database)2006及び「Sequences of Proteins of Immunological Interest」のKabatデータベース第5版(最終更新日1999年11月17日)からのヒト及びマウス免疫グロブリンのタンパク質配列を使用してKabatアラインメントにおける免疫グロブリンタンパク質配列のデータベースを編纂した。本願出願人のデータベースは、9322本のヒトVH配列及び2689本のヒトVK配列を含む。配列分析プログラムSR7.6が使用され、158VH及び158VKタンパク質配列(表20)についてヒトVH及びVKデータベースに問い合わせた。
【0092】
12.2−158RHAのためのヒトフレームワークの選択
12.2.1−158VHのヒトVH配列との比較
バーニヤ(フート・J(Foote,J.)及びG・ウィンター(G.Winter)、1992年、「Antibody framework residues affecting the conformation of the hypervariable loops」、J Mol.Biol.224:487−499頁)、カノニカル(モレア・V(Morea,V.)、A・M・レスク(A.M.Lesk)、及びA・トラモンタノ(A.Tramontano)、2000年、「Antibody modeling:implications for engineering and design」、Methods 20:267−279頁)及びVH−VL界面(コチア・C(Chothia,C.)、J・ノボトニー(J.Novotny)、R・ブルコレリ(R.Bruccoleri)、及びM・カープラス(M.Karplus)、1985年、「Domain association in immunoglobulin molecules.The packing of variable domains」、J Mol.Biol.186:651−663頁)(VCI)残基において、158VHとの同一性が最も高いヒトVH配列で、V領域フレームワーク(FW)内に位置するものが、表21に示される。158と同一のVCI残基の数(VCIスコア)及びFW残基の数(FWスコア)もまた示される。これらのVH配列の全てが、表22に示されるとおり、同一のVCI残基、及びCDR長を共有する。AJ556669は、このデータセットの他のヒト配列中には見られない異常なPro74を有することから、本願出願人は当初の分析においてこれを無視することとする。しかしながら、Pro74は158VH配列中に存在するため、AF062243に基づくVH構築物が抗原を結合しない場合には、AJ556669がヒト化の代替FWとして考慮され得るであろう。これらの配列のアラインメント(表23)は、それらの相違を強調表示している。このデータセット内でAF062243は唯一、保存された変化T(82a)S及びF79の保存を有する。AF062243の他の特徴は、保存された変化D1E、K19R、A23S、T77S、S118Tである。他の全てのFW変化は、表23のフレームワーク全てに共通していた。AF062243が158RHAの基盤となるフレームワークとして選択された。
【0093】
12.3−158RHAの生成
158RHAの設計は単に、158VHからAF062243のアクセプターFWへのCDR1、2及び3の移植である。AF062243と最も同一性の高いヒト生殖細胞系列V遺伝子は、VH M99649(VH3−07)であり(表24)、これからリーダーペプチドが抽出された(表25)。シグナルPアルゴリズム(ニールセン・H(Nielsen,H.)、J・エンゲルブレヒト(J.Engelbrecht)、S・ブルナク(S.Brunak)、及びG・フォン・ヘイネ(G.von Heijne)、1997年、「Identification of prokaryotic and eukaryotic signal peptides and prediction of their cleavage sites」、Protein Eng 10:1−6頁)から、これがシグナルペプチダーゼにより適切に切断されるものと予測された(表26)。表27は、158VH CDR1、2及び3をAF062243FWに移植して158RHAタンパク質配列を生成するスキームを示す。表28は、158VH及びAF062243の天然DNA配列からのDNA配列158RHAssの生成を示す。158RHAss DNA配列の分析からスプライスドナー部位の存在が予測されたが、その予測スコアが表29に示される。非コード突然変異の導入により、表30に示されるとおりのこれらの予測されたスプライス部位が不活化され、最終158RHA DNA配列(表31)が生成された。
【0094】
12.4−158RKAのためのヒトフレームワークの選択
12.4.1−158VKのヒトVK配列との比較
VCI残基で158VKとの同一性が最も高いヒトVK配列が、158VKと同一のVCI残基の数(VCIスコア)及びFW残基の数(FWスコア)と共に表32に示される。11本の配列が158VKと同一のVCI残基を全て有する。表33は、これらの配列の全てが158VKと同一のCDR長を有することを示す。表34は、これらの相違を強調表示しており、同様にI85を保有するAB064054のみがK45を保有することを示す。G100P変化は、P100が本願出願人のヒトVKデータベース内で15%の出現率を有して一般的なため、特別注目に値しない。2つの置換、T7S及びK74Rが保存されているとともに、他の全ての置換は表34の全ての配列に共通である。以上の理由から、158RKAを生成するためにAB064054が選択された。
【0095】
12.5−158RKAの生成
158RKAの設計は単に、CDR1、2及び3を158VKからヒトAB064054のアクセプターFWへと移植することである。AB064054に最も近い生殖細胞系列V遺伝子はA19であり(表35)、これからリーダーペプチドが抽出された(表36)。シグナルPアルゴリズムから、このリーダーペプチドの適切な切断(表37)が予測された。表38は、158VK CDRをAB064054のFWに挿入することによる158RKAのタンパク質配列の生成を示す。表39は、158VK及びAB064054の天然DNA配列からの158RKAssのDNA配列の生成を示す。158RKAssの分析からスプライスドナー部位の存在が予測されたが、そのスコアが表40に示される。非コード突然変異(41)の導入によりこれらの部位が不活化され、最終158RKA DNA構築物が生成された(表42)。
【0096】
12.6 ヒト化抗体(BAN2401)結合活性
158RKA及び158RHA遺伝子を、IgG1定常領域を含む発現ベクターに挿入した。この構築物をCOS細胞で発現させてヒト化158抗体を生成した。ヒト化158抗体が結合活性及び特異性について競合ELISAで試験した。ヒト化抗体は、mAb158及び158キメラ抗体と同一の結合特性を示した(図14を参照)。
【0097】
12.7 158RHA鎖及び158RKA鎖における追加的な突然変異
マウス生殖細胞系列V遺伝子VH AAK71612を158VHと比較することにより、単一の体細胞突然変異A60GがCDR2において同定された。さらには、抗体158の分子モデルは、158RHAには保存されていない3個のVH FW残基をCDR残基の5Å内に含む。これらの置換は、D1E、P74A及びT82Sである(表43)。同様に、158RKAに保存されていないCDR残基の5Å内に2個のVK FW残基がある。この置換は、L3V及びG100Pである(表44)。ヒト化バージョン158RHB、158RHC、158RHD、158RKB及び158RKCにおける、158RHA及び158RKAへの位置VH−1、VH−74、VH−82、VK−3及びVK−100での逆突然変異の導入が、表43及び44に示される。
【0098】
【表I】
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
【表7】
【0106】
【表8】
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
【表11】
【0110】
【表12】
【0111】
【表13】
【0112】
【表14】
【0113】
【表15】
【0114】
【表16】
【0115】
【表17】
【0116】
【表18】
【0117】
【表19】
【0118】
【表20】
【0119】
【表21】
【0120】
【表22】
【0121】
【表23】
【0122】
【表24】
【0123】
【表25】
【0124】
【表26】
【0125】
【表27】
【0126】
【表28】
【0127】
【表29】
【0128】
【表30】
【0129】
【表31】
【0130】
【表32】
【0131】
【表33】
【0132】
【表34】
【0133】
【表35】
【0134】
【表36】
【0135】
【表37】
【0136】
【表38】
【0137】
【表39】
【0138】
【表40】
【0139】
【表41】
【0140】
【表42】
【0141】
【表43】
【0142】
【表44】
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型ヒトAβプロトフィブリルに対し選択的および高親和性を有する抗体又はその断片であって、前記抗体又は断片がその6つのCDR領域において以下の共通配列、
VH−CDR1 SFGMH
VH−CDR2 YISSGSSTIYYGDTVKG
VH−CDR3 EGGYYYGRSYYTMDY
VL−CDR1 RSSQSIVHSNGNTYLE
VL−CDR2 KVSNRFS
VL−CDR3 FQGSHVPPT
を有し、前記抗体又は断片が前記CDR領域内でアミノ酸欠失、置換及び挿入を示し得る、抗体。
【請求項2】
前記CDR領域内に1〜10個のアミノ酸欠失、置換及び挿入を示す、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記CDR領域内に1〜5個のアミノ酸欠失、置換及び挿入を示す、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記CDR領域内に1〜3個のアミノ酸欠失を示す、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体が低減された補体活性化活性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
前記低減された補体活性化活性を、前記アミノ酸のプロリンを第331位でセリン又は他の極性アミノ酸に換えることにより獲得する、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
前記低減された補体活性化活性を、グリコシル化を阻害するか、又は低下させるか、又は変化させることにより獲得する、請求項6に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体がIgGクラスである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体がIgG1又はIgG4サブクラスである、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
IgG1又はIgG4サブクラスのキメラである抗体であって、重鎖定常領域CH2又はCH2の一部がIgG4に由来し、および領域CH1及びCH3がIgG1に由来することにより補体活性化が低減される、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
表31の完全重鎖配列及び表42の完全軽鎖配列を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
表43の重鎖(VH)に、A60G、D1E、P74A及びT82Sから選択される突然変異を含むか、及び/又は表44の軽鎖(VK)に、L3V及びG100Pから選択される突然変異を含むか、又はこれらのVH及びVK突然変異の組み合わせを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
CDR1の前記重鎖配列の左側8番目のアミノ酸がSであることを除き、表31の完全重鎖配列及び表42の完全軽鎖配列を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項15】
ヒト又はヒト化又は変異型であることによりヒトにおける抗原性が低減される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
マウス抗体である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項17】
Aβ単量体とプロトフィブリルとの間の特異性の比が少なくとも1:200である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項18】
6つのCDR領域に以下の共通配列:
VH−CDR1 AASGFTFSSFGMHWVR
VH−CDR2 WVAYISSGSSTIYYGDTVKGRFT
VH−CDR3 CAREGGYYYGRSYYTMDYWGQ
VL−CDR1 ISCRSSQSIVHSNGNTYLEWYL
VL−CDR2 LIYKVSNRFSGVP
VL−CDR3 YYCFQGSHVPPTFGG
を有する抗体であって、前記抗体又は断片が前記CDR領域内にアミノ酸欠失、置換及び挿入を示し得る、請求項1に記載の抗体。
【請求項19】
前記抗体がマウス抗体である、請求項18に記載の抗体。
【請求項20】
前記抗体が表11の完全軽鎖配列158VK及び表15の完全重鎖配列158VHを含む、請求項18又は19に記載の抗体。
【請求項21】
ヒト及び獣医学用途の、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体及び薬学的に許容可能な緩衝液を含む組成物。
【請求項22】
抗菌剤をさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が凍結乾燥されている、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が賦形剤と共に凍結乾燥されることにより凍結乾燥中及びその後の前記抗体の安定性が向上する、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記賦形剤がマンニトール又はトレハロースである、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
アルツハイマー病を予防又は処置する方法であって、アルツハイマー病に罹っている、又は罹っていることが疑われる患者に対し、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25に記載の組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項27】
ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害を予防又は処置する方法であって、ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害に罹っている、又は罹っていることが疑われる患者に対し、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25に記載の組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項28】
Aβプロトフィブリルを試験管内で検出する方法であって、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を、Aβプロトフィブリルを含む、又は含むことが疑われる生体試料に付加する工程と、
前記Aβプロトフィブリルと前記抗体との間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含む、方法。
【請求項29】
前記検出方法が免疫測定法である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記検出方法が近接連結測定法である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
Aβプロトフィブリルを生体内で検出する方法であって、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を、Aβプロトフィブリルを含む、又は含むことが疑われる哺乳動物に付加する工程と、
前記Aβプロトフィブリルと前記抗体との間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含んでなる、方法。
【請求項32】
アルツハイマー病を診断する方法であって、
被験者から生体試料を採取する工程と、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を前記試料に付加する工程と、
前記試料中の前記抗体と任意のAβプロトフィブリルとの間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含む、方法。
【請求項33】
ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害を診断する方法であって、
被験者から生体試料を採取する工程と、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を前記試料に付加する工程と、
前記試料中の前記抗体と任意のAβプロトフィブリルとの間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含む、方法。
【請求項34】
アルツハイマー病の処置用薬剤を調製するための、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項35】
ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害の処置用薬剤を調製するための、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項1】
野生型ヒトAβプロトフィブリルに対し選択的および高親和性を有する抗体又はその断片であって、前記抗体又は断片がその6つのCDR領域において以下の共通配列、
VH−CDR1 SFGMH
VH−CDR2 YISSGSSTIYYGDTVKG
VH−CDR3 EGGYYYGRSYYTMDY
VL−CDR1 RSSQSIVHSNGNTYLE
VL−CDR2 KVSNRFS
VL−CDR3 FQGSHVPPT
を有し、前記抗体又は断片が前記CDR領域内でアミノ酸欠失、置換及び挿入を示し得る、抗体。
【請求項2】
前記CDR領域内に1〜10個のアミノ酸欠失、置換及び挿入を示す、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記CDR領域内に1〜5個のアミノ酸欠失、置換及び挿入を示す、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記CDR領域内に1〜3個のアミノ酸欠失を示す、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体が低減された補体活性化活性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
前記低減された補体活性化活性を、前記アミノ酸のプロリンを第331位でセリン又は他の極性アミノ酸に換えることにより獲得する、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
前記低減された補体活性化活性を、グリコシル化を阻害するか、又は低下させるか、又は変化させることにより獲得する、請求項6に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体がIgGクラスである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体がIgG1又はIgG4サブクラスである、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
IgG1又はIgG4サブクラスのキメラである抗体であって、重鎖定常領域CH2又はCH2の一部がIgG4に由来し、および領域CH1及びCH3がIgG1に由来することにより補体活性化が低減される、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
表31の完全重鎖配列及び表42の完全軽鎖配列を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
表43の重鎖(VH)に、A60G、D1E、P74A及びT82Sから選択される突然変異を含むか、及び/又は表44の軽鎖(VK)に、L3V及びG100Pから選択される突然変異を含むか、又はこれらのVH及びVK突然変異の組み合わせを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
CDR1の前記重鎖配列の左側8番目のアミノ酸がSであることを除き、表31の完全重鎖配列及び表42の完全軽鎖配列を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項15】
ヒト又はヒト化又は変異型であることによりヒトにおける抗原性が低減される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
マウス抗体である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項17】
Aβ単量体とプロトフィブリルとの間の特異性の比が少なくとも1:200である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項18】
6つのCDR領域に以下の共通配列:
VH−CDR1 AASGFTFSSFGMHWVR
VH−CDR2 WVAYISSGSSTIYYGDTVKGRFT
VH−CDR3 CAREGGYYYGRSYYTMDYWGQ
VL−CDR1 ISCRSSQSIVHSNGNTYLEWYL
VL−CDR2 LIYKVSNRFSGVP
VL−CDR3 YYCFQGSHVPPTFGG
を有する抗体であって、前記抗体又は断片が前記CDR領域内にアミノ酸欠失、置換及び挿入を示し得る、請求項1に記載の抗体。
【請求項19】
前記抗体がマウス抗体である、請求項18に記載の抗体。
【請求項20】
前記抗体が表11の完全軽鎖配列158VK及び表15の完全重鎖配列158VHを含む、請求項18又は19に記載の抗体。
【請求項21】
ヒト及び獣医学用途の、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体及び薬学的に許容可能な緩衝液を含む組成物。
【請求項22】
抗菌剤をさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が凍結乾燥されている、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が賦形剤と共に凍結乾燥されることにより凍結乾燥中及びその後の前記抗体の安定性が向上する、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記賦形剤がマンニトール又はトレハロースである、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
アルツハイマー病を予防又は処置する方法であって、アルツハイマー病に罹っている、又は罹っていることが疑われる患者に対し、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25に記載の組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項27】
ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害を予防又は処置する方法であって、ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害に罹っている、又は罹っていることが疑われる患者に対し、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25に記載の組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項28】
Aβプロトフィブリルを試験管内で検出する方法であって、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を、Aβプロトフィブリルを含む、又は含むことが疑われる生体試料に付加する工程と、
前記Aβプロトフィブリルと前記抗体との間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含む、方法。
【請求項29】
前記検出方法が免疫測定法である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記検出方法が近接連結測定法である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
Aβプロトフィブリルを生体内で検出する方法であって、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を、Aβプロトフィブリルを含む、又は含むことが疑われる哺乳動物に付加する工程と、
前記Aβプロトフィブリルと前記抗体との間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含んでなる、方法。
【請求項32】
アルツハイマー病を診断する方法であって、
被験者から生体試料を採取する工程と、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を前記試料に付加する工程と、
前記試料中の前記抗体と任意のAβプロトフィブリルとの間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含む、方法。
【請求項33】
ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害を診断する方法であって、
被験者から生体試料を採取する工程と、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体を前記試料に付加する工程と、
前記試料中の前記抗体と任意のAβプロトフィブリルとの間に形成される複合体の濃度を計測する工程と、
を含む、方法。
【請求項34】
アルツハイマー病の処置用薬剤を調製するための、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項35】
ダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症及び他の神経変性障害の処置用薬剤を調製するための、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体又は請求項21〜25のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−530374(P2009−530374A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501383(P2009−501383)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000292
【国際公開番号】WO2007/108756
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(506318919)バイオアークティック ニューロサイエンス アーベー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000292
【国際公開番号】WO2007/108756
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(506318919)バイオアークティック ニューロサイエンス アーベー (2)
【Fターム(参考)】
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