説明

改良型繊維強化ポリエステル組成物

本発明は、好ましくはブレーキブースター用に適した、固体状態後縮合された繊維強化ポリマー組成物の生産方法であって、i)(A)6.0未満のMz/Mw、1.70未満のPET相対溶液粘度(RSV)(7.2重量部の2,4,6トリクロロフェノールと10重量部のフェノールで構成された溶媒125グラム中に1グラムのポリマーを希釈させることにより25℃で決定されたもの)、および1.90未満のPBTについての相対粘度(100グラムのメタクレゾール中に1グラムのPBTを希釈させることにより25℃で決定されたもの)を有するポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリブチレンテレフタレート(PBT)と、(B)強化用繊維と、を含むポリマー組成物を配合するステップと;ii) 固相縮合条件下でステップi)で得た配合ポリマー組成物を加熱し、こうしてPETのRSVを少なくとも1.70までそしてPBTのRSVを少なくとも1.90まで増大させ、その間、固体状態後PETおよび/またはPBTのz平均分子質量対重量平均分子質量の比(Mz/Mw)をステップi)のために使用されたPETおよび/またはPBTと実質的に同じに維持するステップと、を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、繊維強化ポリエステル組成物、その生産、および成形品におけるその組成物の使用に関する。
【0002】
ガラス繊維などの繊維をポリエステル樹脂内に取込むことで、引張り強度などの機械的特性を改善することができる、ということは周知である。同様に、繊維強化ポリエステルの機械的特性が、ポリエステルの分子量の増大に伴って増強されるということも周知である。
【0003】
繊維強化ポリエステル組成物を調合する際に遭遇する問題は、分子量の増加に伴い粘度が高くなるため、ポリエステル樹脂内に繊維を取込む能力によってポリエステルの分子量が制限されるという点にある。
【0004】
この問題は、繊維の添加後にポリエステルの分子量を増大させることにより克服されてきた。米国特許第5,869,561号明細書は、溶融混合中にガラス繊維ポリエステルの分子量を増大させ、こうして組成物の機械的特性を改善するための連鎖延長剤の使用について開示している。米国特許第4,163,002号明細書は、充填剤で強化されたポリアルキレンテレフタレート成形組成物中のポリエステルの分子量を増大させ、衝撃強度および機械的老化特性の改善を導くための、固体状態後縮合(Solid State Post Condensation)(SSPC)の使用について教示している。
【0005】
DSM社(Geleen,the Netherland)から入手可能なArnite(登録商標)AV2 370/Bなどのガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート(PET)などの市販製品がこのSSPC技術に基づいて開発され成功を収めてきた。
【0006】
これらの改善にも関わらず、さらに改善された機械的特性および/または改善された加工性を有しより大きい設計融通性を可能にする繊維強化ポリエステル組成物に対するニーズがなおも存在している。
【0007】
本発明において、解決法が提供された。
【0008】
本発明の一実施形態においては、好ましくはブレーキブースターに適した、固体状態後縮合された繊維強化ポリマー組成物の生産方法であって、
i)(A)6.0未満のMz/Mw、1.70未満のPET相対溶液粘度(RSV)(7.2重量部の2,4,6トリクロロフェノールと10重量部のフェノールで構成された溶媒125グラム中に1グラムのポリマーを希釈させることにより25℃で決定されたもの)、および1.9未満のPBTの相対粘度(100グラムのメタクレゾール中に1グラムのポリマーを希釈させることにより25℃で決定されたもの)を有するポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリブチレンテレフタレート(PBT)と、
(B)強化用繊維と、
を含むポリマー組成物を配合するステップと;
ii) 固相縮合(Solid Phase Condensation)条件下でステップi)で得た配合ポリマー組成物を加熱し、こうしてPETのRSVを少なくとも1.70までそしてPBTのRSVを少なくとも1.90まで増大させ、その間、固体状態後PETおよび/またはPBTのz平均分子質量対重量平均分子質量の比(Mz/Mw)をステップi)のために使用されたPETおよび/またはPBTと実質的に同じに維持するステップと、
を含む方法が提供されている。
【0009】
ステップi)のために使用されるPETおよび/またはPBTとは、配合ステップ前の状態のポリマーとして理解される。配合ステップ中、RSVは幾分か低下するかもしれず、分子量分布も同様に影響されるかもしれないと考えられる。
【0010】
ポリマー組成物は、好ましくは、ポリマー組成物の合計重量に対して、40〜95wt%のポリマー成分および5〜60wt%の強化用繊維を含む。ポリマー成分は、PETおよび/またはPBTそして最終的にはさらなるポリマーである。
【0011】
意外にも、PETおよび/またはPBTを含む従来の固体状態後縮合繊維強化ポリマー組成物と比べて、低い相対容液粘度(すなわちより優れた流動)は、組成物の狭い分子量分布(すなわちMz/Mw<6.0)と組合わさって、切欠き引張り強度などの機械的強度を維持するかまたは改善する結果となる。
【0012】
本発明の方法によって得られるポリマー組成物では、従来のポリマー組成物に比べて設計の自由度が高まり、同じ機械的特性を備えながらより薄くより軽量の構成要素を生産することができる。代替的にまたは付加的に、ポリマー組成物の改善された機械的特性を利用して、この組成物の用途としての新しい応用分野を開発してよい。
【0013】
本発明の別の実施形態においては、組成物の合計重量に対して、
(A)40〜95wt%のPETおよび/またはPBTそして最終的にはさらなるポリマー成分、および
(B)5〜60wt%の強化用繊維、
を含む、好ましくはブレーキブースターに適した繊維強化熱可塑性ポリマー組成物であって、
PETおよび/またはPBTが6.0未満のz平均分子質量対重量平均分子質量比(Mz/Mw)を有し、前記PETが少なくとも1.70の相対溶液粘度(RSV)(7.2重量部の2,4,6トリクロロフェノールと10重量部のフェノールで構成された溶媒125グラム中に1グラムのポリマーを希釈させることにより25℃で決定されたもの)を有しかつPBTが、1.9未満の相対粘度(100グラムのメタクレゾール中に1グラムのポリマーを希釈させることにより25℃で決定されたもの)を有する繊維強化熱可塑性ポリマー組成物が提供されている。
【0014】
構成要素(A)および(B)は好ましくは、全ポリマー組成物の少なくとも80w%、より好ましくは少なくとも90w%そして最も好ましくは少なくとも99.5w%を占めている。
【0015】
[強化用繊維]
強化用繊維は、少なくとも10/1の長さ/直径または縦横比L/Dを有するガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維および針状鉱物充填材を含む。このような針状鉱物充填材の一例は、珪灰石である。強化用繊維は好ましくはガラス繊維である。
【0016】
本発明の範囲内で定義されている強化用繊維は、非反応性である。強化用繊維は、SSPC条件下(ステップ(iii))でその繊維がPETおよび/またはPBTと反応しないかまたはほとんど反応せず、そのためMz/Mw比が、ステップi)のために使用されるPETおよび/またはPBTのMz/Mwと実質的に同じである(すなわち実質的に増加しない)場合に、非反応性である。実質的に同じでない量は、問題となっている具体的ポリマーおよび加工条件、およびSSPC反応条件下で対応する無強化ポリエステルにおいて見られるMz/Mw比の増大量に応じて当業者が理解する数量である。Mz/Mw比は、一般に、ステップ(i)のために使用されるポリマーのMz/Mw比に対するステップ(ii)の生成物のMz/Mw比の増加%が100%未満、好ましくは50%未満、さらに好ましくは30%未満そして最も好ましくは15%未満である場合、実施的に増大していないとみなされる。例えば、(Mz/Mw)−ステップ(ii)が3.0で(Mz/Mw)−ステップ(i)が2.0である場合、増加%は50%である。
【0017】
繊維特性(例えばガラスまたはセラミック繊維)の差は、繊維に塗布されるコーティングの特性に関係すると考えられている。便宜上、「強化繊維」および「ガラス繊維」という用語は適切な場合、互換的に使用される。
【0018】
繊維コーティングは典型的に以下のものを含む:
・ 皮膜形成剤
・ 結合剤
・ 潤滑剤
・ その他の添加剤
【0019】
コーティングは一般に、脱塩水などの溶媒を用いて塗布され、この溶媒はその後蒸発させられる。
【0020】
ガラス繊維の生産中の摩擦および破断を防ぐためにガラス単繊維またはフィラメントを合わせて保持する目的で皮膜形成剤または結合剤が適用される。皮膜形成剤は同様に、特定のポリマーとの相溶性も提供する。一般に使用される乳化性皮膜形成化合物としては、ポリビニルアセテート、ポリエステル類、エポキシ類、ポリウレタン類、ポリアクリレート類およびそれらの組合せが含まれる。
【0021】
カップリング剤(coupling agent、keying agent)は、ガラス繊維で強化されたポリマーが高い機械的強度および潤滑強度保持を示すことができるようにする。ガラス繊維とポリマーの間の結合は、ガラス繊維に対してカップリング剤を塗布することを通して増強できる。大部分のカップリング剤は、オルガノシラン系の化合物である。
【0022】
高い摩擦係数に起因して、繊維破断の増大を導く繊維間の摩擦を防ぐためにガラス繊維コーティングには一般に潤滑剤が添加される。調合物中には、帯電防止剤、熱安定剤、可塑化剤、乳化剤、消泡剤などのその他の添加剤を含みいれてよい。
【0023】
理論により束縛されることは望まないものの、一部のガラス繊維グレードでは、ガラス繊維コーティングの構成要素はSSPC反応条件下で反応性があり、Mz対Mwの比の増加により示されるように、分子量分布の拡大を導くと考えられている。ガラス繊維中で使用される精確なコーティング調合は、典型的に、ガラスメーカーの所有権に関わる知識であり、したがって公開されていないことから、ガラス繊維の反応性に起因すると考え得る特定の構成要素を知ることが、ガラス繊維を選択する上で利益になることはほとんどない。しかしながら、非反応性ガラスを構成するものが何であるのかは、本発明の実施例において実施されているように、PETについては1.70未満から1.70超(例えば2.00)までそしてPBTについては から1.9超までRSVが増大したSSPC前後の(ポリエステルおよび異なるガラス繊維を含む)一定数のポリマー組成物のMz/Mwを測定すること、およびMz/Mwの増加を計算して非反応性および反応性ガラス繊維へと繊維分類することを通して、適切に決定されてよい。
【0024】
本発明に係る方法において使用されるポリエステル組成物中で強化用繊維として使用するための適切なガラス繊維は、剛性、強度および靭性および加工性などの機械的特性の最適なバランスを得るため、一般的に5〜20μm、好ましくは8〜15μmそして最も好ましくは9〜11μmという繊維直径を有する。繊維の長さは、配合前には典型的に3〜6mmであり、配合ステップの後には典型的に1mm未満に短縮される。
【0025】
[繊維強化ポリマー組成物]
[強化繊維含有量]
本発明の好ましい実施形態において、ポリマー組成物は20〜50wt%、より好ましくは30〜45wt%、そしてさらに一層好ましくは33〜38wt%の強化用繊維を含む。その利点は、ポリマー組成物の高い強度および剛性、低い相対密度および容易な加工挙動の間でよりバランスよく折り合いがついていることにある。本発明の特別な実施形態において、ポリマー組成物は、25〜60wt%の平均強化繊維含有量を有し、この平均強化繊維含有量は、ポリマー組成物の異なるロット間そして1つのロットから取られた複数の試料間、ひいてはこれらの組成物から成形された異なる部品間の0.6%以下の標準偏差を示す。生産された状態のロットの典型的サイズは約5000〜25000kgである。
【0026】
好ましくは、この標準偏差は、0.5%以下、より好ましくは0.4%以下、そして最も好ましくは0.3%以下である。本発明者らは、強化繊維含有量のこのような狭い分布を有するポリマー組成物が使用される方法において、ブレーキブースターなどの成形品の寸法公差に非常に優れた成果が得られるということを発見した。組成物およびそれから成形された製品の相対密度を恒常かつ再現可能にすることに加えて、ガラス繊維含有量にほとんど変動がないことは恐らく、組成物の溶融粘度のわずかな変動ひいては非常に安定した射出成形プロセスすなわち圧力、温度などの変動が少ないという結果をも同様にもたらす。これは、成形プロセス中のポリマー組成物の劣化を最小限におさえるためだけでなく、得られた成形部品の結晶化度、密度、寸法および残留応力を制御するためにも有利である。
【0027】
[相対溶液粘度]
RSVは、成形されたポリマー組成物の加工性と機械的特性の間のバランスに対する指標として使用される。一般に、RSVが高くなれば、強度および靭性は改善される結果となり、一方RSVが低くなると、組成物のメルトフローおよび結晶化速度は促進される。ポリマー組成物の機械的特性は同様に、ポリマー組成物のポリマー成分と強化用繊維の間の相互作用によっても大きく左右される。したがって、PETおよび/またはPBTが十分低いRSVを有して、優れた機械的特性という形で現れる複合構成要素間の優れた結合を確保するために十分なポリエステル−ガラス繊維接触が存在する強化用繊維の均一分散を可能にすることが望ましい。
【0028】
一般に、ステップi)のために使用されるPETは、2.00未満、より好ましくは、1.80未満そしてさらに一層好ましくは、1.75未満の相対溶液粘度(RSV、ISO1628−5に記載されている手順に基づいて7.2/10(wt/wt)のトリクロロフェノール/フェノール混合物125グラム中のポリマー1グラムの溶液について25℃で決定されるもの)を有している。このRSV範囲は、配合ステップi)が完了した後のPETのRSVが1.70未満、好ましくは1.65未満、より好ましくは1.60未満、さらに一層好ましくは1.55未満そして最も好ましくは1.50未満となるようにするために必要なものである。低いRSVは、配合用構成要素がより容易に混合され、こうして構成要素の均等な分布を促進することを可能にする。
【0029】
一般に、ステップi)のために使用されるPBTは、2.20未満、より好ましくは、2.00未満そしてさらに一層好ましくは、1.95未満の相対溶液粘度(RSV、ISO1628−5に記載されている手順に基づいてメタクレゾール100グラム中のポリマー1グラムの溶液について25℃で決定されるもの)を有している。このRSV範囲は、配合ステップi)が完了した後のPBTのRSVが1.90未満、好ましくは1.85未満、より好ましくは1.80未満、さらに一層好ましくは1.75未満そして最も好ましくは1.70未満となるようにするために必要なものである。低いRSVは、配合用構成要素がより容易に混合され、こうして構成要素の均等な分布を促進することを可能にする。
【0030】
PETおよび/またはPBTのRSVは、例えばグラニュール形状で配合されたポリマー組成物を数時間にわたり不活性雰囲気中でその融点より約10℃〜50℃低い高温に対して曝露することなどによって、固体状態後縮合を通して増大される。このような固体状態後縮合の別の利点は、組成物中に存在し組成物の加工挙動またはそれを成形した部品の特性に影響を及ぼすかもしれないあらゆる揮発性物質が実質的に除去されるという点にある。
【0031】
固体状態後縮合は、PETのRSVが少なくとも1.70、好ましくは1.75超、より好ましくは1.80超そしてさらに一層好ましくは少なくとも1.85となるまで実施される。ポリエステル組成物を造形品へと容易に加工できるようにするため、RSVは好ましくは2.10未満、より好ましくは1.90未満である。
【0032】
PBTについては、固体状態後縮合は、PBTのRSVが少なくとも1.90、好ましくは1.95超、より好ましくは2.00超そしてさらに一層好ましくは少なくとも2.05となるまで実施される。ポリエステル組成物を容易に造形品に加工できるようにするためには、RSVは好ましくは2.30未満、より好ましくは2.10未満である。
【0033】
[PETおよび/またはPBT]
ポリマー組成物は、ポリマー成分であるPETおよび/またはPBT以外に、例えばポリマー成分の合計重量に対して30wt%未満の量で1つ以上のさらなるポリマー成分を含んでいてよい。このようにして、機能的特性、例えば機械的、電気的特性および/または防火性を増強させることが可能である。好ましくは、ポリマー組成物は、ポリマー成分の合計重量に対して少なくとも80wt%、さらに一層好ましくは少なくとも95wt%そして最も好ましくは少なくとも98wt%のPETおよび/またはPBTを含む。好ましくは、ポリマー組成物はPETを含む。好ましくは、ポリマー組成物は、ポリマー成分の合計重量に対して少なくとも80wt%、さらに一層好ましくは少なくとも95wt%そして最も好ましくは少なくとも98wt%のPETを含む。特殊な実施形態においては、ポリマー組成物は、ポリマー成分としてPETおよび/またはPBTのみ、より好ましくはPETのみを含む。
【0034】
好ましくは、ポリエステル組成物中のPETおよび/またはPBTの少なくとも50wt%がホモポリマーである。組成物はさらに、ボトルを製造するために用いられるタイプのポリマーと同様に5mole%を超えるその他のモノマーを含むかもしれないPETコポリマーを含んでいてよい。このようなポリマーは、バージングレードとして使用されても、またリサイクルグレードとしてすなわち例えばソフトドリンクボトルなどの使用後の製品から回収された材料として使用されてもよい。
【0035】
ポリマー組成物内の核形成剤としては、任意の公知の核形成剤を使用してよい。好ましくは、無機添加剤、例えばマイクロタルカムまたは金属カルボン酸塩、特にアルカリ金属カルボン酸塩、例えば安息香酸ナトリウムが使用される。より好ましくは、アルカリ金属カルボン酸塩、例えば安息香酸ナトリウムが(ポリエステル組成物中のポリマー合計重量に基づいて)約0.05〜0.5wt%の量で使用される。
【0036】
ポリマー組成物は、当該技術分野において公知のもの(例えば離型剤および核形成剤)などのその他の添加剤を少量(2wt%未満)含んでいてよい。
【0037】
[配合]
本発明に係る方法のステップi)において、任意の慣習的配合プロセスを使用してよい。適切には、ポリマー組成物は、溶融混合装置内でさまざまな構成要素を溶融ブレンドすることにより配合される。適切な溶融混合装置は、例えば押出し機、特に二軸スクリュー押出し機、最も好ましくは同時回転スクリューを伴うものである。
【0038】
ポリマー成分およびその他の構成要素はまず最初に乾燥ブレンドとして混合され、次に溶融混合装置に補給される。代替的方法においては、ポリマー成分は溶融混合装置に計量されその中で溶融されてポリマーメルトを形成し、このポリマーメルトに対し他の添加剤が加えられる。その利点は、配合中の最高温度をより良好に制御できること、そして構成要素がポリエステル中により良好に分散することにある。適切にはポリマーメルトが形成された後、強化用繊維が添加される。
【0039】
[固体状態後縮合]
ステップi)における配合の後に得られたポリマー組成物は、好ましくはポリエステルポリマーの融点に近いがそれより低い温度(例えば約50℃〜10℃未満)で、かつ減圧下または不活性ガス流下で、熱処理に付される。ポリエステルがPETである実施形態については熱処理は好ましくは、ポリエステルの融点に応じて160℃〜245℃、より好ましくは170℃〜240℃の温度にポリエステル組成物を加熱し維持する。より高い温度の利点は、RSVを得るために必要とされる時間がより短縮されるという点にある。
【0040】
本発明に係る方法の別の好ましい実施形態において、不活性ガス雰囲気は、10kPa未満、より好ましくは1kPa未満、さらに一層好ましくは500Pa未満の圧力を有する。より低い圧力は、所要RSVがより短時間で得られるという利点を有する。こうして、生産設備を拡張する必要なくより高い歩留りを有するより高効率の生産プロセスが可能になる。
【0041】
本発明に係るポリマー組成物のSSPCは、その目的に適したあらゆる装置の中で任意の様式で実施されてよい。このプロセスは、例えばバッチプロセス(例えば回転式乾燥機内)としてかまたは連続プロセス(例えば移動床反応装置内)として適切に実施可能である。
【0042】
SSPCポリマー組成物はこのとき、射出成形などの当該技術分野において公知の加工技術を用いて、造形物体へと加工されてよい。
【0043】
別段の記述のないかぎり、構成要素の百分率%は、合計組成物の合計重量との関係における重量%として表現される。
【0044】
本発明において熱可塑性ポリマー組成物とは、反復的に溶融加工されるまたは溶融加工される能力を有するポリエステル組成物を意味し、そのためその材料は同じまたはその他の利用分野においてリサイクル可能であるとみなされる。
【0045】
本発明は同様に、ポリマー組成物を含む成形品を生産するための方法にも関する。好ましくは、このような物品は自動車、電気または電子構成要素である。より好ましくは、自動車構成要素は、燃料ポンプまたはスロットルバルブ本体、最も好ましくは、ブレーキブースターである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】テストバーの対面切欠きの機械加工を表わす図面である。
【図2】旋回流試験において使用される金型の製品キャビティの一部分の代表的概略図面である。
【図3】流動挙動(α)とRSVの関係を表わすグラフである。
【図4】破断時の力[N]とRSVの関係を表わすグラフである。
【0047】
[実施例]
[材料]
CE−A 組成物の合計重量に対して0.1wt%の核形成剤、すなわちUnivar Benelux社製安息香酸ナトリウムE221と、0.35wt%のParacera C40、カルナバワックス(Carnaubawax、Paramelt B.V.社製離型剤)とを含む、DSM Engineering Plastics B.V.,The Netherlandsから入手可能な1.72のRSVを有するPET
CE−B 2.35のRSVが達成されるまでSSPCを受けたCE−A
CE−C PET組成物の合計重量に対して35wt%のガラス繊維と配合されたCE−A
CE−D PET組成物の合計重量に対して(PET組成物中で使用するために設計された)ガラス繊維を35wt%含み、1.90のRSVを有する固体状態後縮合された市販のPETであるArnite(商標)AV2 370/B
E−1 PET組成物の合計重量に対して35wt%のガラス繊維と配合されたCE−A。ガラス繊維は、PPG社からChop Vantage(登録商標)HP3540という商標名で入手可能である(ポリアミドとの使用向け)。
E−2 PET組成物の合計重量に対して35wt%のガラス繊維と配合されたCE−A。ガラス繊維は、PPG社からChop Vantage(登録商標)HP3420という商標名で入手可能である(ポリフェニレンスルフィドとの使用向け)。
【0048】
[分析方法]
[相対溶液粘度測定法]
135℃で2,4,6トリクロロフェノールおよびフェノールの混合物中に溶解させたPET化合物を用いて、ISO1628−5に基づく方法で、RSVを決定した(25℃で測定された125gの溶媒中の1gのポリマー)。溶媒混合物の質量比は、7.2重量部の2,4,6トリクロロフェノール対10重量部のフェノールである。
【0049】
[サイズ排除クロマトグラフィ]
PET化合物の分子質量および分子質量分布は、サイズ排除クロマトグラフィで決定した。
【0050】
3本のPSSカラムおよびRI、UV、DRおよびRALLS検出器を備えたHewlett Pachkard 1090M2を使用した。溶出溶媒は、0.1m%のトリフルオロ酢酸カリウムが添加されたヘキサフルオロイソプロパノールであった。射出前に0.2μmのフィルター上で試料を濾過した。
【0051】
[切欠き引張り試験]
射出成形されたISO527タイプの1Aのテストバーについて、切欠き引張り試験を実施する。図1中の図面にしたがってテストバーの狭い断面の半分の位置に対面切欠きを機械加工する。切欠きは、深さが2mmであり、これは切欠きの場所での横断面が10×4mmから6×4mmまで削減されていることを意味する。切欠きの半径は0.25mmである。引張りバーの試験は、ISO527規格にしたがって行う。引張り試験速度は5mm/分である。試験中、力と変位の測定値を記録する。破断時の力を、その材料の破損耐性の尺度として直接使用する。
【0052】
[計装式旋回流試験]
旋回流試験を、直径22mmのスクリューを伴うEngel45B射出成形機を使用して実施した。(厚み(t)2mm、幅15mmの)らせん形状(図2参照)の製品を予備乾燥した(窒素で真空下にて120℃、10時間)グラニュールから生産した。温度設定値は260〜270℃であり、金型温度は130℃であった。20mm/秒の射出速度を適用した。流動挙動(α)を、流動長(L)対厚み(t)の比に対する(流れ変換器PM−1において測定された)圧力(P)で表現した。すなわち、
α=P/(L/t)
【0053】
図2は、旋回流試験において使用される金型の製品キャビティの一部分の代表的概略図面である。溶融前線の検出のために、金型内で一連の圧力変換器(PM−1〜PM−5)を使用した。
【0054】
[試料の調製]
[配合によるPET組成物の調製]
Berstorff製のZE40A UTX 2軸スクリュー押出し機上で、ポリマー組成物を調製した。バレル温度を260〜280℃に設定し、スクリュー速度は300RPMであり、歩留りは180kg/時であった。PET、核形成剤および離型剤などの構成要素を、プレブレンドとしてホッパーに計量した、サイドフィーダーを介してポリマーメルト内にガラス繊維を導入した。押出し加工したストランドを水中で冷却し造粒した。
【0055】
[PET組成物のSSPC]
比較例CE−Bを以下の通りに製造した:
Buechi製のRotavapor R151上で、ポリマー組成物の熱処理を実施した。10L入りのグラスフラスコに2kgのPETグラニュールを投入し、乾燥した純粋窒素で通気した。その後、圧力を100Paまで減少させ、油浴中で回転フラスコを加熱した。グラニュールの温度を215℃〜235℃まで上昇させた。1.90という標的RSVを達成するまで、約10時間〜25時間、グラニュールをこれらの条件に維持した。
【0056】
この期間の後、油浴を取り除き、グラニュールを室温まで冷却し、その後RSVを測定した。
【0057】
比較例CE−Dおよび実施例E−1およびE−2を以下の通りに実施した:
回転式乾燥機100リットルユニット内で、ポリマー組成物の熱処理を実施した。乾燥機に45kgのPETグラニュールを投入し、圧力を80mbarまで減少させ、乾燥純粋窒素で通気し、温度を当初120℃まで上昇させた。120℃で1時間後に、圧力を400Paまで減少させ、温度を135℃まで上昇させた。1時間後に、グラニュールの温度を205℃まで上昇させ、その間圧力を4mbarに保ち、窒素で通気した。標的RSVが達成させるまで約4〜20時間、グラニュールをこれらの条件に維持した。この期間の後、試料を室温まで冷却し、その後RSVを測定した。
【0058】
[射出成形によるテストバーの調製]
ISO527規格にしたがった引張りテストバーを、260〜270℃の温度設定値および140℃の金型温度で、Engel80E射出成形機上で予備乾燥された(窒素流を用い真空下で120℃、10時間)グラニュールから射出成形した。
【0059】
[結果]
[配合およびSSPCの効果]
分子量分布(Mn、MwおよびMz)に対する配合およびSSPCの効果を査定し、結果を表1にまとめた。強化も配合もされていないPET(比較実験A(CE−A))とガラス繊維を配合して(CE−C)を生産すると、結果としてRSVは減少し(1.72から1.52まで)、Mw/MnおよびMz/Mwの増加により特徴づけされるように分子量分布は拡がった。この結果は一部には、配合およびガラス繊維との反応(↑Mz/Mw)中のポリマーが幾分か劣化した(↓RSV)せいである。繊維で強化されたPET(CE−C)の熱処理が効果を表わすにつれて、RSVが1.90に達してSSPCが中止されるまで(Mw/Mn=5.7、Mz/Mw=11.2)(CE−D)、分子量分布の拡大が続いた。これとは対照的にCE−Aの熱処理はRSVを2.35まで増大させることになり(CE−B)、Mz/Mw値は実質的に同じにとどまった。したがって、CE−Dで実証されているように、CE−C中に使用されるガラス繊維が配合およびSSPCステップ中にPETと反応したという結論を下すことができた。
【0060】
[ガラス繊維のタイプがもたらす効果]
2つのガラス繊維(実施例1および2(E−1&E−2))をPETと配合し、RSV粒度が約1.90に達するまでSSPCに付した。結果は、Mz/Mwが30%未満しか増加しない(すなわち実質的に同じである)ことを示した。
【0061】
【表1】



【0062】
[機能的性能]
Mz/Mwにより特徴づけされる分子量分布が実質的に同じにとどまっていたガラス繊維強化PET組成物は、流動特性のわずかな劣化を結果としてもたらす(図3)が、破断時の力の改善は比例してさらに大きくなる(図4)。正味の効果は、従来の調合物に比べた機械的特性と流動特性の両方の改善を同時に達成できるという点にある。これらの結果は、特に現在CE−D中に使用されているガラス繊維グレードが、具体的にPETおよびPBT樹脂における使用に向けられたものであり、一方HP3540グレードのガラス繊維はポリアミド樹脂における使用に具体的に向けられているということを考えると、意外である。
【0063】
流動特性および機械的特性の改善された組合せは、切欠き引張り試験における破断時の力の改善を通して判断されるように、ブレーキブースターなどの自動車の利用分野にとって特に有利であることが発見されている。好ましくは、ポリマー組成物は、切欠き引張り試験を用いて測定された場合に、3200N超、より好ましくは3250N超、さらに一層好ましくは3300N超そして最も好ましくは3350N超の破断時の力を有する。その他の適切な自動車の利用分野としては、スロットルバルブ本体および燃料ポンプが含まれる。優れた機械的特性および流動特性の組合せはまた、この組成物を電子および電気的利用分野にとっても適切なものにしている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状態後縮合された繊維強化ポリマー組成物の生産方法であって、
i)(A)6.0未満のMz/Mw、1.70未満のPET相対溶液粘度(RSV)(7.2重量部の2,4,6トリクロロフェノールと10重量部のフェノールで構成された溶媒125グラム中に1グラムのポリマーを希釈させることにより25℃で決定されたもの)、および1.90未満のPBTについての相対粘度(100グラムのメタクレゾール中に1グラムのPBTを希釈させることにより25℃で決定されたもの)を有するポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリブチレンテレフタレート(PBT)と、
(B)強化用繊維と、
を含むポリマー組成物を配合するステップと;
ii) 固相縮合条件下でステップi)で得た前記配合ポリマー組成物を加熱し、こうして前記PETの前記RSVを少なくとも1.70までそして前記PBTの前記RSVを少なくとも1.90まで増大させ、その間、前記固体状態後PETおよび/またはPBTのz平均分子質量対重量平均分子質量の前記比(Mz/Mw)をステップi)のために使用された前記PETおよび/またはPBTと実質的に同じに維持するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
ステップi)で使用される前記PETおよび/またはPBTのMz/Mwの増大が、ステップii)のあと、100%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップi)で使用される前記PETおよび/またはPBTのMz/Mwの増大が、ステップii)のあと、50%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組成物の合計重量に対して、
(A)40〜95wt%のPETおよび/またはPBTと;
(B)5〜60wt%の強化用繊維と、
を含む繊維強化熱可塑性ポリマー組成物であって、
前記PETおよび/またはPBTが6.0未満のz平均分子質量対重量平均分子質量比(Mz/Mw)を有し、前記PETが少なくとも1.70の相対溶液粘度(RSV)(7.2重量部の2,4,6トリクロロフェノールと10重量部のフェノールで構成された溶媒125グラム中に1グラムのポリマーを希釈させることによって得られた溶液から25℃で決定されたもの)を有しかつ前記PBTが、少なくとも1.90の相対粘度(100グラムのメタクレゾール中に1グラムのPBTを希釈させることにより25℃で決定されたもの)を有する繊維強化熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項5】
前記強化用繊維がガラス繊維である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法または請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記PETの前記相対溶液粘度が2.10未満である、請求項1〜3および5のいずれか一項に記載の方法および請求項4および5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
前記組成物がPETを含む、請求項1〜3、5および6のいずれか一項に記載の方法および請求項4〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜3および5〜7のいずれか一項に記載の方法を用いて得られた組成物および請求項4〜7のいずれか一項に記載の組成物に由来する成形品。
【請求項9】
前記成形品が自動車、電子または電気構成要素である、請求項8に記載の成形品。
【請求項10】
前記成形品がブレーキブースターである、請求項8に記載の成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−518695(P2012−518695A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550542(P2011−550542)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051905
【国際公開番号】WO2010/094676
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】