説明

改良木材及びその製造方法

【課題】 アブラヤシ木部を原料とし、寸法安定性が良好で、毛羽立ちが無く、腐敗しにくい利用価値の高い改良木材を提供することを目的とする。
【解決手段】 アブラヤシ木部に、リグニン又はリグニンの変成物が添加され、その後に加熱処理させたものであることを特徴とする改良木材である。
また、アブラヤシ木部に、リグニン又はリグニンの変成物を溶媒に溶解して含浸又は注入した後、加熱処理することを特徴とする改良木材の製造方法でもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブラヤシ木部の改良木材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アブラヤシ、別名パームは、果肉と種子から油脂を取るため、マレーシアをはじめ熱帯地域で広く栽培されている。しかし、アブラヤシは成木となって一定期間過ぎると、油脂の生産性が落ちるため、伐採され、新しい木に植えかえられる。
伐採されたアブラヤシ木部は、大部分が放置又は焼却されている。理由は、油ヤシ木部が、寸法安定性が悪い、毛羽立ちが多い、腐敗しやすい、力学的強度が低い等、木材としての利用困難なためである。
アブラヤシの木部を有効利用することは、木材資源の枯渇が深刻な問題となっている今日、特に意義が大きい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、アブラヤシ木部を原料とし、寸法安定性が良好で、毛羽立ちが無く、腐敗しにくい利用価値の高い改良木材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は鋭意研究により、アブラヤシ木部にリグニン又はリグニンの変成物を添加して加熱処理することにより、寸法安定性と防腐性が極めて向上することを見出した。
【0005】
すなわち本発明は、アブラヤシ木部に、リグニン又はリグニンの変成物が添加され、その後に加熱処理されていることを特徴とする改良木材である。
【0006】
また本発明は、アブラヤシ木部に、リグニン又はリグニンの変成物を溶媒に溶解して含浸又は注入した後、加熱処理することを特徴とする改良木材の製造方法でもある。
【0007】
本発明の改良木材に使用されるアブラヤシ木部は、アブラヤシの幹の全ての木部が対象となる。また、アブラヤシの品種としては、ギニアアブラヤシ、アメリカアブラヤシ、それらの交配品種等、ヤシ科アブラヤシ属に分類されるあらゆるものが対象となる。
かかるアブラヤシの木部は、あらかじめ板状、柱状に切削されたものが好ましく、板状がより好ましい。
【0008】
次に、本発明の改良木材に使用されるリグニンまたはリグニンの変性物は、針葉樹、広葉樹、草本類等、あらゆる種類のものが対象となるが、特に、稲、麦、竹、さとうきび、アシ等イネ科植物のリグニンまたはリグニンの変性物が好ましい。
かかるリグニンまたはリグニンの変性物は、植物から直接抽出したものであってももちろん良いが、パルプ黒液から抽出したものが工業的に有利である。
【0009】
また本発明の改良木材に使用されるリグニンの変成物は、ソーダリグニン、チオリグニン、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩等あらゆるものが対象となるが、ソーダリグニンとリグニンスルホン酸塩が工業的に有利である。
リグニン又はリグニンの変成物の使用量は、乾燥重量で、アブラヤシ木部に対して0.5〜30重量%、好ましくは2〜10重量%である。
【0010】
リグニン又はリグニンの変成物をアブラヤシ木部に添加する方法は、リグニン又はリグニンの変成物を溶媒に溶解して含浸または注入する方法が好ましいが、必ずしもそれに限定されない。前期溶媒としては、水、水とメタノールまたはアセトンの混合溶媒が好ましいが、必ずしもそれに限定されずリグニンまたはリグニンの変性物を溶解するあらゆる溶媒が対象となる。
前期含浸する方法としては、アブラヤシ木部を前記リグニンまたはリグニンの変性物を溶解したものに浸漬して含浸させる方法が好ましい。注入する方法としては、圧縮式注入管、真空式注入管等を使用して、リグニンまたはリグニンの変性物を溶解したものをアブラヤシ木部に注入する等があげられる。しかし必ずしもそれに限定されず、リグニン又はリグニンの変成物をアブラヤシ木部の内部に添加するあらゆる方法が対象となる。かかる方法において、リグニン又はリグニンの変成物はアブラヤシ内部に均一に添加されるのが好ましい。
【0011】
アブラヤシ木部にリグニン又はリグニンの変成物を添加した後、必要により、アブラヤシ木部の水分量を調節する。水分の存在は、リグニン又はリグニンの変成物をアブラヤシ木部の成分との化学反応を促進するので重要である。しかし、水分が多すぎると加熱処理の工程で、効率が悪くなったり、リグニン又はリグニンの変成物が流出したりするので好ましくない。好ましい水分量は使用するアブラヤシ木部の密度、サイズによって差異があるが通常、アブラヤシ木部乾燥重量に対して20〜100重量%である。
【0012】
本発明において、アブラヤシ木部にリグニン又はリグニンの変成物を添加し、アブラヤシ木部の水分量を調整した後に、加熱処理が行われる。加熱処理の方法として、熱板上で加熱、電気炉内で加熱、高周波による加熱等、あらゆる方法が対象となる。加熱処理温度は、アブラヤシ木部の温度が120〜300℃になるのが好ましく、180〜230℃がより好ましい。
表面温度が300℃を超えると木材が劣化する恐れがある。また、表面温度が120℃以下だとリグニン又はリグニンの変成物とアブラヤシの成分が十分に反応しない恐れがある。
また加熱処理時間は、主に目的とする改良木材の厚さと加熱処理方法により異なる。時間の一応の目安は、アブラヤシ木部の内部まで熱が届くまでである。
【0013】
油ヤシ木部で密度の低いものは一般的に力学的強度も低い。本発明においては、力学的強度を向上させるために、前記過熱処理と同時に加圧してアブラヤシ木部を圧縮した改良木材も対象とする。かかる改良木材は、アブラヤシ木部の元の厚さの40%を下回らない範囲の厚さに、好ましくは50%を下回らない範囲の厚さに圧縮したものである。
改良木材の厚さがアブラヤシ木部の元の厚さの40%を下回ると、形状がゆがみ好ましくない。
かかる改良木材の製法としては、通常のホットプレスを使用すれば良いが、これに限定するものではなく、例えば、蒸気噴射プレス、高周波プレス等を利用しても良い。
【0014】
本発明の改良木材は、寸法安定性が優れている。通常、アブラヤシ木部は、水分の吸放出によって形状が変化しやすく、木材としての利用が困難である。本発明の改良木材は、水分の吸放出による形状の変化はほとんど無い。具体的には、本発明の改良木材を20℃の水に48時間浸漬した後の吸水厚さ膨張率は、圧縮しないもので5%以下、好ましくは2%以下であり、圧縮させたもので10%以下、好ましくは5%以下である。
【0015】
また本発明の改良木材は、防腐性が優れている。通常、アブラヤシ木部は水を含んだ状態では数日で腐敗し、又、乾燥したものも放置しておくと吸湿し腐敗する。
本発明の改良木材は、特に腐敗しやすい環境を除けば、水に浸して含水率50%以上にしたものであっても、空気中に放置すると自然乾燥し、カビも腐敗臭も発生しない。
【0016】
また本発明の改良木材は、表面に毛羽立ちが無い。通常、アブラヤシ木部は表面に毛羽立ちが多く、木材としての利用が困難である。本発明の改良木材は表面にツヤがありなめらかで毛羽立ちが無く、木材としての利用に適している。
【0017】
本発明の改良木材でアブラヤシ木部を圧縮したものは、力学的強度が優れている。通常アブラヤシ木部で、とりわけ気乾密度が0.35g/cmを下回るものはそのままでは力学的強度が低く、木材としての利用が困難である。このようなアブラヤシ木部を圧縮すると、一時的に力学的強度は向上するが吸水して元のアブラヤシ木部の厚さに戻り、力学的強度も落ちてしまう。本発明のアブラヤシ木部を圧縮したものは、寸法安定性が良く、吸水しても元のアブラヤシ木部の厚さに戻らず良好な力学的強度を持続する。
かかる本発明の改良木材の好ましい力学的強度は、用途によって異なるが、例えば曲げ強さで400kgf/cmが好ましく、500kgf/cm以上がより好ましい。また曲げヤング係数で5000kgf/cm以上が好ましく、6000kgf/cm以上がより好ましい。
かかる曲げ強さ、曲げヤング係数は、アブラヤシ木部の圧縮率によって調整可能である。
【0018】
本発明の改良木材が、優れた性能を発揮する理由は、リグニン又はその変成物をアブラヤシ木部が含有する遊離の糖類及び繊維部分が熱の作用によって化学反応して高分子化して樹脂化するためと考えられる。
アブラヤシ木部が腐敗しやすい主な原因は遊離の糖類であるが、それか樹脂化することによって腐敗しにくくなる。また毛羽立ちする繊維部分も、樹脂化物が結合剤の役割を果たし、平滑な表面となる。
【0019】
本発明によれば次のような効果がある。
(1)本発明の改良木材は、寸法安定性が良好である。
(2)本発明の改良木材は、毛羽立ちがなく表面性が良好である。
(3)本発明の改良木材は、腐敗しにくい。
(4)本発明の改良木材で加熱処理と同時に圧縮したものは、力学的強度が良好である。
(5)本発明の改良木材は、無害なリグニンまたはリグニンの変性物を使用しているので、化学系接着剤や防腐剤と異なり、安全である。
(6)本発明の改良木材は、未利用の木質系資源を有効利用しており、森林資源の保全に役立つ
(7)本発明は、アブラヤシ木部が大量に伐採され焼却され二酸化炭素として放出される現状を改善し、地球温暖化防止に貢献する。
(8)本発明の改良木材の製造方法は、かかる改良木材を効率良く製造する。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
尚、実施例及び比較例では、油脂がとれなくなったため伐採されたアブラヤシの成木を、強制乾燥した後、たて5cm、よこ20cm、厚さ2cmのサイズに切断したものを試験片として使用した。
また実施例において、アブラヤシ木部にリグニン又はリグニンの変成物を添加する方法は、イネワラのパルプ黒液から抽出したPH10のソーダリグニンの粉末を水に溶かして10%濃度の水溶液とし、その水溶液にアブラヤシ木部の試験片を48時間浸漬する方法を用いた。
また実験例及び比較例において加熱処理のために、電気ヒーターを熱源とするホットプレスを使用した。
また実験例及び比較例で得た改良木材の寸法安定性を調べるために、以下の方法で吸水厚さ膨張率を測定した。すなわち、試験片を20℃の水の水面下3cmに48時間浸漬し、吸水後の厚さと吸水前の厚さの差を吸水前の厚さで割った値の百分率を吸水厚さ膨張率とした。
【実施例1】
【0021】
気乾密度0.45g/cmのアブラヤシ木部の試験片を、前記ソーダリグニン水溶液に浸漬した後取り出し、表面をふいた後乾燥し、アブラヤシ木部の乾燥重量に対する水分量が50%になるように調節した。
この試験片に添加されたリグニンの量を測定するため、サンプルの一部を完全乾燥し重量を測定した。その重量の増加分をリグニンの添加量とした。本実施例のリグニンの添加はアブラヤシに対して4重量%であった。
次に、電気ヒーターを熱源とするホットプレスを使用し、試験片を圧縮しないようにちょうどプレス機の上面と下面のスペースが、試験片厚さと同じ2cmになるように設定して230℃の温度で20分間加熱処理を行い、本発明の改良木材を得た。
この改良木材の表面は、つやがありなめらかで、アブラヤシ木部のケバは全部消滅していた。また、この改良木材の寸法安定性を調べるために、吸水厚さ膨張率を測定した所0%であった。
次にこの改良木材の腐敗性を調べるために、吸水厚さ膨張率試験で使用した水を吸水した試験片を、気温20℃、湿度50%の空気中で10日間放置した。この試験片は、カビも臭気も発生せず、自然乾燥した。
【比較例1】
【0022】
実験例1で使用したものと同じ気乾密度0.45g/cmのアブラヤシ木部の試験片を、何の処理もしないで、吸水厚さ膨張率試験を測定した所、6%であった。
次にこの試験片の腐敗性を実施例1と同じ方法で調べた所、試験開始2日後に腐敗臭が出はじめ、その後腐敗がすすみ6日後には形状が崩れるほどに腐敗が進行した。
【実施例2】
【0023】
気乾密度0.3g/cmのアブラヤシ木部の試験片を使用する以外は実施例1と同じ方法で、アブラヤシ木部にリグニンを添加した。
この試験片に添加されたリグニンの量を実施例1と同じ方法で測定した所アブラヤシ木部に対して6重量%であった。
次に、実施例1と同じホットプレスを使用し、12mmのスペーサを入れて230℃の温度で12分加熱しながら加圧し、厚さ12mmの改良木材を得た。
この改良木材の表面は、つやがありなめらかで、アブラヤシ木部のケバは全部消滅していた。また、この改良木材の寸法安定性を調べるために、吸水厚さ膨張率を調べた所2%であった。また、この改良木材の曲げ強さは680kgf/cm、曲げヤング係数は7200kgf/cmであった。
次にこの改良木材の腐敗性を調べるために、吸水厚さ膨張率試験で使用した水を吸水した試験片を、気温20℃、湿度50%の空気中で10日間放置した。この試験片は、カビも臭気も発生せず、自然乾燥した。
【比較例2】
【0024】
実施例2で使用したものと同じ気乾密度0.3g/cmのアブラヤシ木部を使用して、リグニンまたはリグニンの変性物を使用する以外は、実施例2と同じ方法でアブラヤシ木部を圧縮した。
この圧縮したアブラヤシ木部の曲げ強さは540kgf/cm、曲げヤング係数は5200kgf/cmであり、また吸水厚さ膨張率は60%であった。
また、実施例2と同じ方法で腐敗性を調べたところ、試験開始3日後に腐敗臭が出はじめ、その後腐敗がすすみ9日後には木材の形状が崩れるほどに腐敗が進行した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の改良木材は、未利用の廃棄木材を有効に活用して、有用な木材原料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブラヤシ木部に、リグニン又はリグニンの変成物が添加され、その後に加熱処理されていることを特徴とする改良木材。
【請求項2】
前記加熱処理と同時に加圧して、アブラヤシ木部の元の厚さの40%を下回らない範囲の厚さに圧縮されていることを特徴とする請求項1の改良木材。
【請求項3】
前記リグニンが、イネ科植物リグニンである請求項1又は2の改良木材。
【請求項4】
アブラヤシ木部に、リグニン又はリグニンの変成物を溶媒に溶解して含浸又は注入した後、加熱処理することを特徴とする改良木材の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理と同時に加圧して、アブラヤシ木部の元の厚さの40%を下回らない範囲の厚さに圧縮することを特徴とする請求項4の改良木材の製造方法
【請求項6】
前記リグニンが、イネ科植物リグニンであることを特徴とする請求項4又は5の改良木材の製造方法。

【公開番号】特開2009−298132(P2009−298132A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180725(P2008−180725)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(500068913)河野新素材開発株式会社 (12)
【出願人】(508208661)
【Fターム(参考)】