説明

改良植物品種の迅速な育種方法

本発明は、改良植物品種の作出を目的とした連続戻し交配において、次世代の交配に供する個体の選抜効率を高め、迅速な育種方法を提供すること、及び「コシヒカリ」の良食味を保持したまま耐倒伏性を付与した改良イネ品種を短期間に作出することを目的とする。 本発明は、目的形質が導入された改良植物品種の迅速な育種方法であって、以下の工程:(a)対象となる植物品種に目的形質を有する他の植物品種を交配し、(b)交配後代の染色体の遺伝子型を、幼植物期において一塩基多型(SNP)マーカーを用いてタイピングし、(c)タイピングした遺伝子型に基づいて次世代の交配に供する個体を選抜し、(d)選抜した個体に前記の対象となる植物品種を戻し交配し、(e)上記(b)から(d)の工程を少なくとも3回繰り返すこと、を含む、前記育種方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、目的形質が導入された改良植物品種の迅速な育種方法、及び該方法により作出された改良植物品種、詳しくは「コシヒカリ」を反復親とし、半矮性形質を有する「IR24」を供与親とする連続戻し交配において、一塩基多型(SNP)マーカーを用いてタイピングした遺伝子型に基づいて次世代の交配に供する供与親を選抜することを特徴とする改良イネ品種の迅速な育種方法、及び該方法により作出された改良イネ品種に関する。
【背景技術】
作物の交雑育種では、望ましい形質を持つ品種・系統を交配し、その雑種後代からより優れた性質を持つ個体を選んで新品種を作出する。従来は、そのような雑種後代における個体の選抜を表現型によって行っていた。そのため、特性評価や個体選抜に膨大な手間と時間がかかり、1つの品種を育成には十数年の年月が必要だった。また、このような方法では同じものを選ぶことができる再現性は低く、基本的には偶然性の度合いが高い。突然変異体を用いた育種法や、培養変異を用いた細胞培養育種方法も品種育成に用いられるが、いずれも新規形質の付与が困難であったり、他形質に影響を及ぼす可能性もあって好ましいとはいえない。
福井県の農業試験場で作出された「コシヒカリ」は良食味品種として多くの人々に支持され、品種化されてから現在に至るまでの約半世紀にわたり栽培されている。栽培技術の改良と消費者の良食味志向により作付面積は年々拡大し、栽培の限界も北上しつつある。一方で、「コシヒカリ」は長稈で台風により倒伏しやすく、またいもち病に弱いという欠点がある。従って良食味を生かしつつ、耐倒伏性や、耐病性などの付与が求められている。
そこで良食味米としての「コシヒカリ」の特徴を保持したまま短稈化させるために、稈を矮化させる遺伝子座のみを導入することが試みられている。従来の育種法では、ある優れた品種(反復親)に他品種(供与親)の特定の遺伝子座のみを導入する場合にはF1雑種に反復親を用いて「連続戻し交配」し、表現型のみを用いて選抜を行ってきた。しかしながら、この育種法においては選抜に経験を要し、染色体を置換するのに年月がかかりなおかつ当該遺伝子座の遺伝子作用が劣性である場合には選抜に際して困難を伴うという問題点がある。従って、この「連続戻し交配」による染色体の置換を効率的に行うことができれば育種期間の短縮に繋がるだけでなく、余分な領域の混入を正確に除くことができるはずである。
イネゲノム解析の初期段階から、ゲノム解析技術を育種に役立てることが育種現場との連携の下に検討されてきた。最初の段階では目的とする遺伝形質と連鎖するDNAマーカーを作ること(標識化)が行われた(Kurata,N.,et al.,Nat.Genet.,8,365−372,1994;Harushima,Y.,et al.,Genetics,148,479−494,1998)。多くの遺伝子が関与する量的形質遺伝子座(quantitative trait locus:QTL)の解析にもDNAマーカーが利用され、矢野らはこの解析により出穂期に関連するいくつかの遺伝子を見出し、それらを組み合わせて様々な出穂期を示すイネを作出した(Yano,M.,et al.,Plant Physiol.,127,1425−1429,2001参照)。DNAマーカーについては従来のRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)マーカーに代わり、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)、CAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequences)、SSR(Simple Sequence Repeat)などのマーカーが登場し、これらを用いた育種法が開発されている(McCouch,S.R.,et al.,Plant Mol.Biol.,35,89−99,1997;Yano,M.,et al.,http://rgp.dna.affrc.go.jp/publicdata/caps/index.html参照)。
連続戻し交配育種法では目的遺伝子座周辺に上記DNAマーカーを設定し、各世代の選抜の際に遺伝子型をそれらのマーカーを用いて分析し、目的遺伝座を保持しつつ、他の染色体を反復親の染色体に置換していく。しかしながら、この方法では特定の遺伝子座周辺の遺伝子型のみで選抜を行うため、その遺伝子座以外の全染色体を反復親の染色体に置換するには時間を要する。従って、この時間を短縮するために全染色体にDNAマーカーを設定し、各世代において置換の程度の高い個体を選抜できることが望まれる。
本発明者らのグループでは、イネゲノム全域の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)の探索を行い、育種に利用可能なマーカー化を行っている(Nasu,S.,et al.,DNA Res.,9,163−171,2002)。
本発明の課題は、改良植物品種の作出を目的とした連続戻し交配において、次世代の交配に供する個体の選抜効率を高め、迅速な育種方法を提供することにある。また、本発明のさらなる課題は、「コシヒカリ」の良食味を保持したまま耐倒伏性を付与した改良イネ品種を短期間に作出することにある。
【発明の開示】
本発明者らは上記課題を解決すべき鋭意研究を重ねた結果、植物ゲノム全域を網羅する一塩基多型(SNP)マーカー(以下、SNPマーカーと記載する)を用いることによって、連続戻し交配後代の染色体の遺伝子型を幼植物期において迅速にタイピングでき、次世代の交配に供する個体の選抜が飛躍的に効率化できることを見出した。その結果、所望の改良植物品種を短期間に作出することに成功し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)目的形質が導入された改良植物品種の迅速な育種方法であって、以下の工程:
(a)対象となる植物品種に目的形質を有する他の植物品種を交配し、
(b)交配後代の染色体の遺伝子型を、幼植物期においてSNPマーカーを用いてタイピングし、
(c)タイピングした遺伝子型に基づいて次世代の交配に供する個体を選抜し、
(d)選抜した個体に前記の対象となる植物品種を戻し交配し、
(e)上記(b)から(d)の工程を少なくとも3回繰り返すこと、
を含む、前記育種方法。
(2) 対象となる植物品種がイネ品種である、上記(1)の方法。
(3) イネ品種が「コシヒカリ」である、上記(2)の方法。
(4) 他の植物品種が半矮性遺伝子を有するイネ品種である、上記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 半矮性遺伝子を有するイネ品種がsd−1遺伝子を有する「IR24」である、上記(4)の方法。
(6) 上記(1)から(5)のいずれかの方法により作出された改良植物品種。
(7) 「IR24」由来のsd−1遺伝子座がホモ接合であり、それ以外の染色体領域が「コシヒカリ」由来の染色体で構成されていることを特徴とする、上記(1)から(5)のいずれかの方法により作出された改良イネ品種。
【図面の簡単な説明】
図1は、IR24」「コシヒカリ」間で利用できるSNPマーカーの染色体上の分布を示す。地図距離は「日本晴」「カサラス」の地図に準ずる。
図2は、「コシヒカリ」、および「コシヒカリ」と「IR24」の交配後代(戻し交配4回)の植物体の写真を示す。
図3は、各世代におけるsd−1遺伝子座の遺伝子型と全染色体レベルでの「コシヒカリ」への置換の程度を示す。
図4は、「半矮性コシヒカリ」育成の流れ図を示す。置換率とは全マーカーに対して「コシヒカリ」「IR24」ヘテロ型の遺伝子型が観測されたマーカーの割合である(図中、1:「コシヒカリ」ホモ接合領域、2:「IR24」「コシヒカリ」ヘテロ接合領域、3:「IR24」ホモ接合領域を表す)。
図5は、「半矮性コシヒカリ」の所内圃場試験栽培の様子である。左側が「コシヒカリ」、右側が「半矮性コシヒカリ」である。
図6は、所内圃場で試験栽培した株である。左側が「コシヒカリ」、右側が「半矮性コシヒカリ」である。
図7は、所内圃場で栽培した「半矮性コシヒカリ」と「コシヒカリ」の到穂日数を示す(出穂始め:全個体の10%以上が出穂した日、出穂日:全個体の50%以上が出穂した日、出穂揃え:全個体の90%以上が出穂した日)。
図8は、「半矮性コシヒカリ」と「コシヒカリ」の稈長を示す。図中のエラーバーは平均値と標準偏差を示す。
図9は、「半矮性コシヒカリ」と「コシヒカリ」の籾と玄米の写真を示す。
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年1月31日に出願された日本国特許出願2003−024143号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
本発明は、目的形質が導入された改良植物品種の迅速な育種方法であって、以下の工程:
(a)対象となる植物品種に目的形質を有する他の植物品種を交配し、
(b)交配した後代の染色体の遺伝子型を、幼植物期においてSNPマーカーを用いてタイピングし、
(c)タイピングした遺伝子型に基づいて次世代の交配に供する個体を選抜し、
(d)選抜した個体に前記の対象となる植物品種を戻し交配し、
(e)上記(b)から(d)の工程を少なくとも3回繰り返すこと、
を含むことを特徴とする。
本発明の育種方法は、従来の交雑育種に、ゲノム全域をカバーするマーカーを用いた効率的な解析に基づく雑種後代の個体の選抜と世代促進を組み合わせた画期的な方法であり、非常に短期間に確実に新形質を付加する新しい育種方法である。
本発明において、「対象となる植物品種」とは、優良品種ではあるが、改良すべき形質を有する植物品種をいい、戻し交配における「反復親」に該当する。
一方、「目的形質を有する植物品種」とは、上記の「対象となる植物品種」における改良すべき形質を有している他の品種をいい、戻し交配における「供与親」に該当する。
本発明の育種方法の対象となる植物としては、イネ(Oryza sativa)、コムギ(Triticum aestivum L.)、オオムギ(Hordeum vulgare L.)、トウモロコシ(Zeamays L.)、ダイズ(Glycine max)、ソルガム(Sorghum Bicolor)、トマト(Licopersicon esculentum)、オランダイチゴ(Fragaria ananassa)、キク(Chrysanthemum cvs)などが挙げられるが、ゲノム配列データが公開されているイネ(Otyza sativa)をはじめとしてイネと遺伝的相同性(シンテニー)を持つイネ科の植物(Gale,M.D.,et al.,Science,282(5389),656−659(1998))、例えばコムギ、オオムギ、ライムギ(Secale cereale L.)、トウモロコシ、ソルガム、サトウキビ(Saccharum officinarum L.)が好ましい。
「目的形質を有する植物品種」は、「対象となる植物品種」に目的形質を導入できる限り特には限定されないが、同種の植物で、和合性を持つものであることが好ましい。例えば「対象となる植物品種」が「コシヒカリ」の場合、「目的形質を有する植物品種」として矮化遺伝子を有するイネ品種を用いれば、「コシヒカリ」に耐倒伏性を付与することができる。矮化遺伝子を有するイネ品種としては、いくつかの種類が存在するが、半矮性遺伝子であるsd−1遺伝子をもつインド型イネ品種「IR24」が好ましい。「IR24」はGibberellin 20−oxidaseをコードするsd−1遺伝子が欠損変異しており(Lisa Monna,et al.,DNA Reserch,9,11−17,2002)、「IR24」型sd−1遺伝子のホモ接合体は半矮性を示し、短稈化する一方で収量形質に影響を及ぼさないので好適である(Futsuhara,Y.,et al.,Science of the Rice Plant,vol.3;Matsuo,M.,et al.,Food and Agriculture Policy Reserch Center,Tokyo,300−318,1997)。これに対し、矮性遺伝子であるd1、d61(Ashikari.M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,96,10284−10289,1999;Yamamuro,C.,et al.,Plant Cell,12,1591−1605,2000)は、イネを短稈化させる遺伝子として知られているが、これらは穂の長さ、米粒の大きさをも矮化させ収量形質を悪化させるという、いわゆる矮性の形質を示し、好ましくない。
本発明において、「矮性遺伝子」とは正常型より稈長を短縮させ、穂長、種子の粒形を矮化させる作用を持つ遺伝子(狭義の矮性遺伝子)をいい、「半矮性遺伝子」とは正常型より稈長を短縮させる一方で、穂長、種子の粒形等の収量形質には影響を与えない遺伝子をいう。また、「矮化遺伝子」とは、正常型より稈長を短縮させる作用を持つ遺伝子(広義の矮性遺伝子)をいい、「矮性遺伝子」と「半矮性遺伝子」とを包含する。
本発明において、「連続戻し交配」又は「戻し交配」とは、反復親と供与親とを交配することによって得られた交配後代から次世代の交配に供する個体を選抜し、反復親を再びその選抜した個体に交配する操作を繰り返すことをいう。かかる交配によって、最終的に目的の遺伝子座が供与親型のホモ接合で、それ以外の染色体領域が反復親由来の染色体で構成されている植物体を得ることができる。
本発明においては、交配後代の染色体の遺伝子型を、幼植物期においてSNPマーカーを用いてタイピングし、染色体の遺伝子型に基づいて次世代の交配に供する個体を選抜する。
ここで、「一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)」とは、塩基配列において1個の塩基が変異した多型をいい、本発明においては「対象となる植物品種」と「目的形質を有する植物品種」との間の点変異を意味する。本発明においては、SNPは一塩基の置換による多型を意味するほか、塩基の挿入又は欠失もSNPに含めることことする。
また、「幼植物期」とは、胚〜発芽期の形態から成体への移行過程をいう。
以下、イネを例に本発明方法について具体的に説明する。
(1)反復親と供与親の交配
イネの世代促進のために、栽培は日長調節が可能な遮光カーテン付の温室で行うことが好ましい。発芽しにくい種子については、40−50℃で1週間程度保温することで休眠打破しておく。催芽は、2日間種子を水に浸し、30℃に保温することによって行い、催芽期間中は水を毎日交換する。反復親と供与親の出穂期が大きく異なる場合には、出穂が揃うように両系統の種子を催芽、播種、育成しておく。
催芽開始より2日後、育苗箱に播種し、播種から2週間後にプラスチックポットに移植、栽培を行う。反復親(「コシヒカリ」)と供与親(「IR24」)が出穂したら交配を行う。
交配は、まず母本の除雄を行い、次に授粉を行う。母本の除雄法としては、温湯除雄法又は剪定法が挙げられる。温湯除雄法は、除雄のために出穂後2、3日後の穂を42℃の7分間温湯に浸し、その後開花した穎花上部を切除し、開花しない穎花は切除する方法である。剪定法は、出穂後2、3日後の穎花のうち開花が予測される穎花の上部を切除しピンセットで雄蕊を除去する一方でそれ以外の穎花は切除する方法である。授粉は父本の雄蕊をピンセットで摘み取り母本の柱頭にふりかけることで行う。
種子は交配を行った日より3週間から4週間程度で登熟するのでF1世代の種子回収を行う。F1種子は両親系統と同じように休眠打破後、催芽し、播種する。反復親の播種は、交配後代(ここではF1)の出穂期が予測しえない場合、F1種子の播種日に前後して播種を行えばよい。F1雑種と反復親が出穂したら戻し交配を行う。交配後3週間から4週間程度で登熟するので、BC1F1世代の種子回収を行う。
(2)SNPマーカーの設定
交配後代の染色体の遺伝子型をタイピングするために、あらかじめ反復親、供与親間で使用できるSNPマーカーを全染色体上に設定しておく。
「コシヒカリ」、「IR24」からのゲノムDNA抽出は、CTAB法(Murray,M.G,et al.,Nucleic.Acids.Res.,8,4321−4325,1980;Yano et al.,分子マーカーを利用した有用形質の遺伝解析方法,pp.4−11,2000)を用いて行う。
SNPマーカーの設定にはRice Genome Research Program(RGP)により公開されているイネEST,BAC等の塩基配列データベース(http://rgp.dna.affrc.go.jp/Publicdata.html)や、他の品種間で既に公知のSNPマーカーの情報、例えば、Nasu,S.,et al.,DNA Res.,9,163−71,2002に記載のSNPマーカーの情報が利用できる。
他の品種間で既に公知のSNPマーカーの情報を用いる場合、例えば以下の方法によってSNPマーカーの設定を行う。「コシヒカリ」、「IR24」のそれぞれのゲノムDNAを鋳型とし、SNPを含む領域をNasu,S.,et al.,DNA Res.,9,163−71,2002に開示されている、インド型イネ「廣陸矮4号(G4)」と野生イネ(O.rufipogon)「W1943」間で使用できるSNPマーカーに対するゲノムPCRプライマーセット(5’側プライマー、3’側プライマー)を用いてPCRによって増幅し、増幅産物を酵素処理して残存プライマーの分解、モノヌクレオチドの脱リン酸化を行う。次に、それぞれのSNPに対応するSNPプライマー(SNPの一塩基手前に3’末端が位置するプライマー)と2種類の蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(ddATP,ddCTP,ddGTP,ddCTPのうちいずれか2種類)を用いて、上記PCR産物を鋳型として一塩基伸長反応(AcycloPrime反応)を行い、蛍光偏光度を測定し、SNP部位の塩基種(遺伝子型)を判定する(AcycloPrime−FP法;Chen,X.,et al.,Genome Res.,9,492−98,1999)。「コシヒカリ」、「IR24」間に公知の情報と同じSNPが存在する場合、そのSNPプライマーを「コシヒカリ」、「IR24」間のSNPマーカーとして設定することができる。AcycloPrime反応には、市販の試薬、例えばAcycloPrime−FP SNPs Detection Kit(PerkinElmer Life Sciences)を用いることができる。
一方、公知のSNPマーカーの情報を用いない場合は、例えば、以下の方法によってSNPマーカーの設定を行うことができる。公表されているゲノム配列とRiceGAAS(Sakata,K.,et al.,Nucleic Acids Res.,30,98−102,2002;http://RiceGAAS.dna.affrc.go.jp/)を用いて推定される遺伝子間領域内の500から1000bpの断片を増幅するプライマーを設計する。抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、増幅をアガロースゲル電気泳動で確認した後、増幅産物を酵素処理して残存プライマーの分解、モノヌクレオチドの脱リン酸化を行う。増幅断片のヌクレオチド配列を決定し、「コシヒカリ」、「IR24」2品種の配列を市販のソフトウェア(例えばDNASIS Pro Software(Hitachi Software Engineering Co.,Ltd.)を用いてアラインメントし、SNPを探索する。
SNPが検出された断片につき、SNPの一塩基手前に3’末端が位置するプライマー(SNPプライマー)を設計する。このSNPプライマーと2種類の蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(ddATP,ddCTP,ddGTP,ddCTPのうちいずれか2種類)を用いて上記PCR産物を鋳型として一塩基伸長反応(AcycloPrime反応)を行い、蛍光偏光度を測定することによってSNP部位の塩基種(遺伝子型)を判定する(AcycloPrime−FP法)。判定した遺伝子型が前記の配列決定の結果から予想されるものと同じである場合、そのSNPプライマーをSNPマーカーとして設定することができる。
SNP検出は、上記のAcycloPrime−FP法(Genome Research,9,492−498,1999)のほか、例えば、PCR−SSCP(single−strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法(Cloning and polymerase chain reaction−single−strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome,11,Genomics,Jan 1,12(1),139−146,1992;Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single−strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products,Oncogene,Aug 1,6(8),1313−1318,1991;Multiple fluorescence−based PCR−SSCP analysis with postlabeling,PCR Methods Appl.,Apr 1,4(5),275−282,1995)、TaqMan PCR法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、pp.94−105;Genet Anal.,14,143−149,1999)、Invader法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、pp.94−105;Genome Research,10,330−343,2000)、Pyrosequencing法(Anal.Biochem.,10,103−110,2000)、MALDI−TOF MS法(Trends Biotechnol.,18,77−84,2000)、DNAアレイ法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、pp.128−135;Nature Genetics,22,164−167,1999)等によっても行うことができる。
本発明においては、SNPマーカーの中から、対象となる植物の染色体1本あたり少なくとも5個、または15cM当たり少なくとも1つのSNPマーカーが存在するように、ほぼ均等に設定することが好ましい。「均等」とは、染色体の一定領域にSNPマーカーが集中しないように、染色体上にほぼ満遍なく、網羅的にSNPが存在していることをいう。
本発明の育種方法を適用する「コシヒカリ」と「IR24」との間で利用できるSNPマーカーは、例えばイネ染色体1から12に存在する以下の多型である。
染色体1:S0349、S0002、S0003、S0353、S0247、S0554、S0419、S0015、S0008、S0358、S0010、S0011、S0013、S0259、S0007、S0513
染色体2:S0514、S0031、S0262、S0428、S0429、S0296、S0028、S0018、S0430、S0298、S0023、S0024、S0199、S0378、S0021、S0379、S0302、S0380
染色体3:S0524、S0040、S0276、S0277、S0434、S0035、S0043、S0330、S0333 S0292、S0036、S0038、S0532、S0045、S0534、S0046
染色体4:S0056、S0061、S0063、S0052、S0447、S0048、S0057、S0059、S0054、S0055、S0444、S0443、S0060、S0051
染色体5:S0074、S0562、S0068、S0072、S0286、S0079、S0069
染色体6:S0233、S0270、S0127、S0086、S0493、S0494、S0370、S0097、S0089、S0273、S0157、S0088
染色体7:S0100、S0099、S0264、S0304、S0189、S0103、S0104、S0113、S0548、S0118、S0116、S0306、S0125
染色体8:S0499、S0308、S0130、S0135、S0136、S0138、S0128、S0139、S0140、S0266、S0337、S0141、S0144、S0145
染色体9:S0151、S0316、S0152、S0467、S0155、S0167、S0314
染色体10:S0339、S0168、S0161、S0340、S0166、S0342、S0162、S0269、S0169、S0158、S0170
染色体11:S0389、S0346、S0179、S0181、S0175
染色体12:S0196、S0460、S0211、S0208、S0461、S0207、S0210、S0586
また、上記のSNPマーカーに対応するゲノムPCRプライマーセット(5’側プライマー、3’側プライマー)及びSNPプライマーの配列を表1から表4に示す(表中、「Ko」は「コシヒカリ」を示す。)




(3)交配後代のSNPマーカーによる遺伝子型のタイピング
BC1F1種子の休眠打破後、交配後代を播種し、反復親は交配後代より前後に時期をずらして播種する。播種日より7日から14日後に幼苗の葉を5mm程度採取する。ゲノムDNAは簡易ゲノム抽出法(Lisa Monna,et al.,DNA Research,9,11−17,2002)により抽出する。
まず、両系統それぞれのゲノムDNAを鋳型としてSNPを含む領域をPCRにより増幅し、アガロースゲル電気泳動で増幅を確認した後、増幅産物を酵素処理して残存プライマーの分解、モノヌクレオチドの脱リン酸化を行う。次に、SNPの一塩基手前に作成したSNPプライマーとそれぞれのSNPに対応する2種類の蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(ddATP,ddCTP,ddGTP,ddCTPのうちいずれか2種類)を用いて、PCR産物を鋳型とし一塩基伸長反応させる(AcycloPrime反応)。反応産物はそれぞれのSNPに対応した蛍光偏光度を示すため(Chen,X.et al.,Genome Res.,9,492−498,1999)、この蛍光偏光度を測定し、遺伝子型をタイピングする。
ここで、遺伝子型の「タイピング」とは、SNP部位の塩基種が「コシヒカリ」型か、「IR24」型かを決定することをいう。この遺伝子型のタイピングは交配後代の幼植物期、イネの場合は播種から出穂までの間に行うことが好ましい。
(4)次世代交配に供する個体の選抜、戻し交配
遺伝子型のタイピング後、グラフィカルマップによる選抜には、(i)目的の遺伝子座(sd−1遺伝子座)が供与親型、反復親型のヘテロ接合になっていること、(ii)他の染色体領域において反復親型のホモ接合の割合が高いこと、を基準にすればよい。選抜した個体を次世代の戻し交配に用いることとする。BC2F1世代以降の選抜においては1世代前の系統において供与親と反復親のヘテロ接合領域のみ遺伝子型のタイピングを行い、上記と同様の基準で次世代の戻し交配に供する個体を選抜する。
上記の遺伝子のタイピング、選抜、戻し交配からなる操作は、少なくとも3回、好ましくは5回、繰り返せばよい。
(5)自殖
戻し交配、選抜を繰り返し目的の遺伝子座以外に供与親型、反復親型のヘテロ接合が検出されなくなった世代で自殖を行う。
自殖種子を育苗箱に播種し7日後に幼苗の葉よりゲノムDNAを抽出する。目的の遺伝子座(本発明においてはsd−1遺伝子座)のみで遺伝子型のタイピングを行い供与親型のホモ接合となった個体を選抜することで、目的の遺伝子座のみ導入された植物体(半矮性コシヒカリ)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1) SNPマーカーの設定
育種に先立ち、反復親として用いる日本型イネ(Oryza sativa L.spp.japonica)品種「コシヒカリ」と、供与親として用いるインド型(Oryza sativa L.spp.indica)イネ品種「IR24」間で使用できるSNPマーカーを以下のようにして全染色体上に設定した。
【0000】
まず、「コシヒカリ」、「IR24」の成葉からCTAB法(Murray,M.G.,et al.,Nucleic.Acids.Res.,8,4321−25,1980;Yano et al.,分子マーカーを利用した有用形質の遺伝解析方法,p.4−11,2000)によってゲノムDNAを抽出した。次に、Nasu,S.,et al.,DNA Res.,9,163−171,2002、表3に記載のインド型イネ「廣陸矮4号(G4)」と野生イネ(O.rufipogon)「W1943」間及びその後追加作成された合計263個のSNPマーカーに対するゲノムPCRプライマーセット(5’側プライマー、3’側プライマー)を用いて、上記で抽出した「コシヒカリ」、「IR24」のそれぞれのゲノムDNAを鋳型としてSNPを含む領域を増幅した。増幅産物をアルカリフォスファターゼとエクソヌクレアーゼIで処理して残存プライマーの分解、モノヌクレオチドの脱リン酸化を行った。それぞれのSNPに対応するSNPプライマーと2種類の蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(ddATP,ddCTP,ddGTP,ddCTPのうちいずれか2種類)を用いて、PCR産物を鋳型とし一塩基伸長反応(AcycloPrime反応)をAcycloPrime−FP SNPs Detection Kit(PerkinElmer Life Sciences)を用いて行った。反応産物の蛍光偏光度をマルチラベルカウンターWallac1420 ARVO sx(Wallac/PerkinElmer Life Sciences)で読みとり、SNP部位の塩基種(遺伝子型)を判定した(Chen,X.,et al.,Genome Res.,9,492−498,1999)。この探索と、公知のイネ塩基配列データベース(http://rgp.dna.affrc.go.jp/Publicdata.html)を利用して新規に作成した1個を合わせ、「コシヒカリ」「IR24」間で多型を示す141個のSNPマーカーを設定した(表5;表中、カバー率は、日本晴/カサラスおける地図距離、すなわち遺伝的な染色体の大きさに対して作成したSNPマーカーがどれだけ染色体を網羅したかを示す)。また、設定したSNPマーカーの染色体上の位置を図1に示す。

(実施例2) 半矮性コシヒカリの育成
反復親として日本型イネ(Oryza sativa L.spp.japonica)品種「コシヒカリ」、半矮性遺伝子sd−1の供与親としてインド型(Oryza sativa L.spp.indica)イネ品種「IR24」を用いて「半矮性コシヒカリ」の育成を行った。育成スケジュールを下記表6に示す。

短日処理のために、日長調節が可能な遮光カーテン付の温室で行い、午前7時に開き午後5時に閉じるように設定した。栽培は水深15cmの水槽にてポット栽培を行った。交配において授粉はピンセットで摘みあらかじめ穎花の上部を切除した母本の柱頭にふりかける方法を用い、母本の除雄のために温湯除雄法または剪定法を用いた(山本隆一,農研センター資料,30,pp.176−180,1995)。
▲1▼交配〜F1
2000年11月に「コシヒカリ」を同年11月に「IR24」を育苗箱に播種し、播種14日後にそれぞれをポットへ移植し温室にて栽培した。2001年2月に「コシヒカリ」が、また「IR24」が同年2月に出穂したので、「コシヒカリ」を母本、「IR24」を父本として交配を行った。交配は温湯除雄法により行った。同年3月にF1種子を得た。
2001年3月にこのF1種子を育苗箱に5粒播種し、同年3月に5株をポットへ移植し温室において栽培した。このF1雑種を「PKS1」と名付けた。sd−1遺伝子座は不完全優性を示すために「PKS1」の稈長は「コシヒカリ」に近い。
▲2▼第1回戻し交配〜BC1F1
この「PKS1」は順調に生育し、2001年7月には出穂が観察されたので「PKS1」を母本、「コシヒカリ」を父本として交配を行った。交配は温湯除雄法により行った。同年8月にBC1F1種子を34粒得た。
2001年8月にこれを育苗箱に播種し34個体の幼苗を得た。播種から12日後に幼苗の葉を5mm程度採取し、96穴のラックチューブ[QIAGEN Collection Microtube(racked,10*96)]に入れた。TPS buffer(100mM Tris−HCl buffer,10mM EDTA,1M KCl)を400ul加え、直径3mmのジルコニアビーズ(YTZボール,ニッカトー)を1個加えチューブキャップ(QIAGEN Collection Microtube Caps)で封をした後、ミキサーミルMM300(Retsch)を用いて破砕した(30s−1,1min)。冷却遠心機(HITACHI CR 21G,スイングローター R3S,3000rpm,30min,4℃)により残渣を沈殿させ、上清100ulをとり、あらかじめ100ulのイソプロパノールを分注しておいた96穴PCRプレートに加えピペッティングにより混和した。これを室温にて遠心分離し(KUBOTA 8100,ローター RS−3010,2000rpm,20min,RT)、上清を除いた後、200ulの70%エタノールを加え、同様に遠心分離して上清を除き風乾した。滅菌水を50ul加え、ゲノムDNAを溶解させた。
次に、遺伝子型のタイピングを実施例1で設定した141個のSNPマーカーを用いて以下のようにして行った。まず、「IR24」「コシヒカリ」それぞれのゲノムDNAを鋳型としてSNPを含む領域をPCRにより増幅した。増幅産物をアルカリフォスファターゼとエクソヌクレアーゼIによりプライマーを分解し、モノヌクレオチドを脱リン酸化した。それぞれのSNPに対応するSNPプライマー(前記表1〜4参照)と2種類の蛍光標識ジデオキシヌクレオチド(ddATP,ddCTP,ddGTP,ddCTPのうちいずれか2種類)を用いて、PCR産物を鋳型として一塩基伸長反応(AcycloPrime反応)をAcycloPrime−FP SNPs Detection Kit(PerkinElmer Life Sciences)を用いて行った。反応産物はそれぞれのSNPに対応した蛍光偏光度を示すため、この蛍光偏光度をマルチラベルカウンターWallac1420 ARVO sx(Wallac/PerkinElmer Life Sciences)で読みとり、遺伝子型のタイピングを行った。
選抜には次の2点、(i)sd−1遺伝子座において「IR24」「コシヒカリ」のヘテロ接合になっていること、(ii)他の染色体領域において「コシヒカリ」のホモ接合の割合が高いもの、を基準とした。遺伝子型のタイピングと、グラフィカルマップによる選抜は出穂前に完了した。
sd−1遺伝子座が「コシヒカリ」「IR24」のヘテロ接合である個体を18個体選抜し、このうち2個体を戻し交配に用いた。さらにこのうち1個体を「PKS3」と名付けた。
▲3▼第2回戻し交配〜BC2F1
2001年10月に「PKS3」が出穂したので「PKS3」を母本、「コシヒカリ」を父本として交配を行った。交配は剪定法により行った。
2001年11月にBC2F1種子を26粒得た。50℃,7日間の休眠打破後、同年12月にこのBC2F1種子を育苗箱に26粒播種し、14個体の幼苗を得た。同年12月、前述した簡易ゲノムDNA抽出法により、ゲノムDNAを調製した。BC2F1以降の世代の遺伝子型タイピングは1世代前の母本(BC2F1においては「PKS3」を示す)の染色体領域のうち「コシヒカリ」「IR24」のヘテロ接合領域のみを対象とした。この選抜により、sd−1遺伝子座が「IR24」「コシヒカリ」のヘテロ接合である個体を6個体を得、このうち3個体を戻し交配に用いた。さらにこのうち1個体を「PKS13」と名付けた。
▲4▼第3回戻し交配〜BC3F1
2002年2月に「PKS13」が出穂したので、「PKS13」を母本、「コシヒカリ」を父本として交配を行った。交配は剪定法により行った。
2002年3月にBC3F1種子を30粒得た。50℃,7日間の休眠打破後、同年4月にこのBC3F1種子を育苗箱に30粒播種し、21個体の幼苗を得た。同年4月、前述した簡易ゲノムDNA抽出法によりゲノムDNAを調製した。「コシヒカリ」「IR24」のヘテロ接合領域のみ遺伝子型のタイピングを行い、sd−1遺伝子座がヘテロ接合である個体を7個体選抜し、このうち3個体を戻し交配に用いた。さらにこのうち1個体を「PKS21」と名付けた。
▲5▼第4回戻し交配〜BC4F1
2002年5月に「PKS21」が出穂したので、「PKS21」を母本、「コシヒカリ」を父本として交配を行った。交配は剪定法により行った。同年6月にBC4F1種子を35粒得た。
2002年7月にBC4F1種子を50℃,7日間の休眠打破を行い育苗箱に35粒播種し、23個体の幼苗を得た。同年7月、前述した簡易ゲノムDNA抽出法によりゲノムDNAを調製した。「コシヒカリ」「IR24」のヘテロ接合である領域のみを対象として遺伝子型のタイピングを行い、sd−1遺伝子座がヘテロ接合である個体を10個体選抜した。このうち最も「コシヒカリ」の染色体に置き換わった1個体を「PKS31」と名付けた。
【0000】
▲6▼自殖及び固定系統選抜〜BC4F2
2002年9月に「PKS31」が出穂したので、そのまま自殖させ種子を64粒得た。2002年10月にBC4F1種子を50℃,7日間の休眠打破を行い、育苗箱に64粒播種し、31個体の幼苗を得た。sd−1遺伝子座が「IR24」のホモ接合である個体を11個体選抜した。このうち1系統を「PKS31−27」と名付け、ここで、sd−1遺伝子座のみ導入された「コシヒカリ」である「半矮性コシヒカリ」を完成した。
表7に以上の育成経過をまとめた。

「コシヒカリ」、および「コシヒカリ」と「IR24」の交配後代(戻し交配4回)の植物体の写真を図2に示す。また、各世代におけるsd−1遺伝子座の遺伝子型と全染色体レベルでの「コシヒカリ」への置換の程度を図3に、また、「半矮性コシヒカリ」育成の流れ図を図4に示す。
(実施例3) 半矮性コシヒカリの栽培
実施例2で育成した「半矮性コシヒカリ」を2003年度に圃場に展開し試験栽培を行った。試験栽培地は株式会社植物ゲノムセンター(茨城県つくば市観音台)の所内圃場で行った。播種時期は2003年4月24日、移植日は2003年5月23日であった。2003年7月7日に鳥害を防ぐために防鳥ネットを圃場にかけた。図5に試験栽培を行った圃場の様子(左側:「コシヒカリ」、右側:「半矮性コシヒカリ」)を示す。
(実施例4) 半矮性コシヒカリの特性
実施例3で示したように「半矮性コシヒカリ」の試験栽培を行い、2003年9月にその特性調査を行った。特性項目及び特性基準は農水省で公開されている水稲の特性表・特性審査基準に従った。その結果を表8にまとめた。また、圃場で栽培した「半矮性コシヒカリ」と「コシヒカリ」を図6(左側「コシヒカリ」、右側:「半矮性コシヒカリ」)に示す。

(i)出穂期
両品種の出穂日を調査し、播種日(2003年4月24日)より出穂に至るまでの日数を求めた。図7に出穂調査の結果を示す。出穂始めとは全個体の10%以上が出穂した日、出穂日は全個体の50%以上が出穂した日また出穂揃えは全個体の90%以上が出穂した日とする。出穂期は「コシヒカリ」と同日であり、出穂始め、出穂揃えも同日であった。したがって、「半矮性コシヒカリ」の出穂特性は全く「コシヒカリ」と同じであるといえる。
(ii)稈長
移植時には「半矮性コシヒカリ」の苗丈、葉身の形状は「コシヒカリ」に類似していたが、分けつ期、出穂期を経るにつれ次第に草丈に差が現れ、稈長では明らかな差が見られた。成熟期における稈長は「コシヒカリ」より約10cm低くなっていた。その結果を図8に示す。
(iii)止葉の直立の程度、穂数、着粒密度、草型
「半矮性コシヒカリ」につき、止葉は「コシヒカリ」より直立しており、受光体勢は良く、穂数は「コシヒカリ」より多い。着粒密度は「コシヒカリ」と差異なく、穂長は1cmほど短くなっている。この結果より、「半矮性コシヒカリ」の草型は偏穂数型と判断された(表8参照)。
(iv)耐倒伏性、穂首の抽出度
耐倒伏性はcLr法によるcLr値により判定した。「半矮性コシヒカリ」の耐倒伏性は「コシヒカリ」より強く、「日本晴」並かあるいは若干劣る程度であった。また、穂首の抽出度は「コシヒカリ」に比べて4cm程度短くなっており、なびき型倒伏により強くなっている(表8参照)。
(v)地上部全重、玄米の形状、品質
育成地においては、「半矮性コシヒカリ」の地上部全重は「コシヒカリ」と同程度であるにもかかわらず、収量はより多くなっている。これは一穂当たりの籾数が若干少なくなっているにもかかわらず、穂数が多くなっているためである。玄米の形と大きさは「コシヒカリ」、「日本晴」と同程度であった。光沢、腹白、胴割は「コシヒカリ」と同程度で、玄米の外観品質も「コシヒカリ」と同程度と判定された(表8参照)。また、「半矮性コシヒカリ」と「コシヒカリ」の籾、玄米の外観を図9に示す。
(vi)食味、穂発芽性
「半矮性コシヒカリ」の食味について炊飯米の外観、香り、味、粘り、硬さの5項目より総合的に判断する官能試験で判定した。2003年に収穫した「コシヒカリ」「半矮性コシヒカリ」とを供試した結果、「コシヒカリ」と同等の上中と判定された。穂発芽性は「コシヒカリ」と同程度で、穂発芽性易の「キヌヒカリ」と比較して難と判定された(表8参照)。
これらの特性検定によりsd−1遺伝子座による半矮性の形質が発現する一方で、良食味である「コシヒカリ」の形質が保持されていることが裏付けられた。またこれは、sd−1遺伝子座のみ導入されているという遺伝子タイピングの結果に符合した。ここで、改良植物品種の迅速な育種法により半矮性コシヒカリを2年で育成できた。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、連続戻し交配育種法による植物への新形質付与を従来より迅速かつより省力的に行う方法が提供され、イネ品種の育種の効率化が図れる。また、本発明により育成された半矮性コシヒカリは良食味と高い倒伏性を兼ね備えており、安定した収量、品質を提供しうる。さらにこれを中間母本として本発明の方法で新形質を付与していくことで、良食味を保持したままより付加価値の高い品種を迅速に育成することが可能となる。
本発明により育成された半矮性コシヒカリは、遺伝子組換えによらず作出されたものであるので、安全性が高く、一般消費者が安心して受け入れることができ、その需要にかなうものである。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1〜423:合成DNA
【配列表】
















































































































































































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的形質が導入された改良植物品種の迅速な育種方法であって、以下の工程:
(a)対象となる植物品種に目的形質を有する他の植物品種を交配し、
(b)交配後代の染色体の遺伝子型を、幼植物期において一塩基多型(SNP)マーカーを用いてタイピングし、
(c)タイピングした遺伝子型に基づいて次世代の交配に供する個体を選抜し、
(d)選抜した個体に前記の対象となる植物品種を戻し交配し、
(e)上記(b)から(d)の工程を少なくとも3回繰り返すこと、
を含む、前記育種方法。
【請求項2】
対象となる植物品種がイネ品種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イネ品種が「コシヒカリ」である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
他の植物品種が半矮性遺伝子を有するイネ品種である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
半矮性遺伝子を有するイネ品種がsd−1遺伝子を有する「IR24」である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記請求項1から5のいずれかに記載の方法により作出された改良植物品種。
【請求項7】
「IR24」由来のsd−1遺伝子座がホモ接合であり、それ以外の染色体領域が「コシヒカリ」由来の染色体で構成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の方法により作出された改良イネ品種。

【国際公開番号】WO2004/066719
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504677(P2005−504677)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000435
【国際出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(500301371)株式会社植物ゲノムセンター (16)
【出願人】(503044617)株式会社 植物ディー・エヌ・エー機能研究所 (7)
【Fターム(参考)】