改質された表面を有するケイ酸塩ガラス物品
本発明は、改質された表面領域を有するケイ酸塩ガラス物品、例えば、ガラス容器などに関する。改質された表面は、いくつかある有利な特性の中で特に、改善された化学的耐性、増強された硬度、および/または増強された熱安定性、例えば熱衝撃抵抗などを、有する。特に、本発明は、H2/N2(1/99)などの還元性ガス雰囲気において、Tgで熱処理することにより、ケイ酸塩ガラス物品の表面領域を改質するための方法に関する。ケイ酸塩ガラス物品の表面領域中の網目修飾カチオン(NMC)の濃度は、バルク部分中よりも低く、かつ網目修飾カチオンの表面領域における組成は、内方拡散の結果である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、改質された表面領域を有するケイ酸塩ガラス物品、例えば、ガラス容器などに関する。改質された表面は、いくつかある有利な特性の中でも特に、改善された化学的耐性、増強された硬度、および/または増強された熱安定性、例えば熱衝撃抵抗などを、有する。特に、本発明は、ケイ酸塩ガラス物品の表面領域を改質するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
表面特性が、ガラスの物理的および化学的特性に対して、したがってそれらの用途に対して、強い影響を有することは周知である。これらの特性は、表面改質技術、例えば、金属酸化物またはポリマーによるコーティング、ガラスと塩溶融物との間のイオン交換、ファイヤーポリッシュなどを用いることによって、目的に合わせて変更することができる。表面を改質することによって、新しい状況に対してまたは既存の材料の著しい改善に対して適用することができる新しい機能的表面を作り出すことができる。
【0003】
今までの研究により、酸化還元反応を用いることによって、Fe2+を含有するケイ酸塩ガラス物品の表面を改質することができることが示されている。新規な表面は、前述のガラス物品を、大気中にて、ガラス転移温度(Tg)付近の温度で好適な期間の間熱処理することによって得ることができる。熱処理により、第一鉄(Fe2+)が第二鉄(Fe3+)へと酸化され、これにより、二価のカチオン(主に、Mg2+)のガラス内部から表面に向けての拡散(いわゆる外方拡散)が生じる。驚いたことに、当該酸化プロセスにおいては、電子種(正孔)とFe2+との間の反応によりFe3+が形成されるような著しい程には、酸素は前述のガラス物品中へ拡散されない。二価のカチオンがガラス物品の表面で酸素と反応するために、該表面上に結晶層が形成される。この表面層は、優れた熱特性を示し、すなわち、この知見は、工業的に適用される可能性を有している。しかしながら、ガラス材料の物理的および化学的特性(機械的特性、化学的耐性、不活性、光学特性など)に対する表面層の効果は、依然として知られていない。
【0004】
別の研究では、シリカがガラス構造の結合性を向上させるために、ガラス物品の物理的および化学的特性が、シリカの表面含有量によって影響を受け得ることが示されている[Derianoら、2004]。例えば、ガラスの化学的耐性の増強が予想される。したがって、それらの表面改質法は、例えば、薬品および化学物質に対するガラス容器の耐化学薬品性の改善などにおける、工業的適用の可能性を有している。液体が腐食性の場合には、ガラスの劣化が生じる場合がある。
【0005】
さらに別の研究では、PindおよびSorensen(2004)が、SiO2−Al2O3−MgO−CaO−FeO/Fe2O3ガラス系における酸化還元および拡散プロセスについて研究し、およそ80%というFe3+/Fetot比を有する試料を調製した。これらの試料の1つは、還元性雰囲気(10/90 H2/N2)において加熱された。この場合、酸化メカニズムの鏡像として、Mg2+が、表面から内部方向へと拡散した(内方拡散と呼ばれる)。ケイ素イオン(Si4+)は拡散しないので、表面付近のケイ素濃度が増加し、すなわち、シリカリッチなナノ層が表面上に形成される。H2雰囲気での第二鉄イオン含有ガラスの還元について取り扱った他の研究では、ガス状H2の浸透(溶解および拡散)が、支配的な還元プロセスであること、すなわち、二価のカチオンの内方拡散は生じないことが示されている[Gaillardら、2003]。
【0006】
Rigatoら(1994)による研究では、アルカリ−鉛−ケイ酸塩ガラスの熱化学的還元は、表面における著しい水素の取り込みは生じないが、表面を水の化学的および物理的な吸着に対して非常に高感度にすることが示されている。吸着に起因する水素濃度が不可逆的である場合のPb減少のために、該処理により、組成的に改変された、おそらく微孔質で、シリカリッチなガラスの薄い(25nm)層が表面に形成される。熱化学的処理の時間および温度は、吸着の初期動態に影響を及ぼす。これらの観察は、湿潤環境に晒されている電子増倍器およびマイクロチャンネルプレートデバイスの挙動に対して実用上重要である。
【0007】
Derianoら(2004)による研究では、N2およびNH3ガス中での熱処理によって、ソーダ−石灰−シリカガラスの機械的特性を改善できることが記載されている。彼らは、観察された強度改善は、水およびアンモニアとガラスとの反応に起因し得ると主張している。これは、網目修飾カチオンとプロトンとの交換プロセスをもたらす。これにより、ソーダ−石灰−シリカガラスは、水の拡散によって律速されるプロセスにより、高いシリカ含有量のガラスへと変えられる。
【0008】
米国特許第3,460,927号には、多価元素含有ガラスを水素雰囲気中で還元することによって、それらの曲げ強度(荷重変形に抵抗する能力)を改善する熱処理法について記載されている。該処理は、ガラス転移温度よりもはるかに低い温度において実施される。
【0009】
還元性雰囲気中における鉄含有ケイ酸塩ガラスの表面付近での、酸化還元反応と拡散プロセスとの間の関係に対する理解は、異なる方向性を指し示す結果のために、現在のところ非常に限定的である。
【0010】
高いシリカ含有量の表面を形成することができるなら、それは、溶融および形成のために非常に高い温度(最高2400℃まで)を必要とするバルクシリカ(SiO2)を製造するよりも、経済的に好都合であるだろう。
【0011】
したがって、高いシリカ含有量の比較的厚い表面を有するケイ酸塩ガラス生成物を作製するための改善された方法は、製造において高価なバルクシリカを使用するよりも経済的に好都合な選択肢として、あるいは金属酸化物またはポリマーのコーティング、ガラスと塩溶融物との間のイオン交換、ファイヤーポリッシュなどの使用に対して好都合な選択肢として、有利であるだろう。
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の目的は、ケイ酸塩ガラス物品の特性の改善に関する。
【0013】
特に、本発明の目的は、上記において言及した先行技術の問題を、改善された表面特性によって解決する改善されたケイ酸塩ガラス物品を提供することである。
【0014】
したがって、本発明の1つの局面は、バルク部分および表面領域を有し、網目修飾カチオン(NMC)を含むケイ酸塩ガラス物品であって、表面領域中の網目修飾カチオンの濃度が、バルク部分中よりも低く、網目修飾カチオンの表面領域における組成が内方拡散の結果である、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0015】
本発明は、特に、しかし非限定的に、改善された化学的耐性、増強された硬度、および/または増強された熱安定性を有する改良されたケイ酸塩ガラス物品を得るのに有利である。任意の特定の理論に束縛されるわけではないが、網目修飾カチオン(NMC)は、網目構造内の隙間の位置を占め、したがって、非架橋酸素をもたらすことが意図される。表面領域における網目修飾カチオン(NMC)の濃度を下げることによって、表面上に、より結合された網目構造が生じ、それによって、イオンがガラスを通って拡散することが困難となり、したがって、化学的耐性、例えば、酸およびアルカリ耐性が改善される。
【0016】
同様に、表面層の結合性が高められることにより、結果として該表面層における有効なシリカ濃度が増加し、それにより、機械的特性、例えば硬度などが増大する。
【0017】
表面領域の結合性を高めることに加えて、該表面領域の厚さを増加させることは、化学的耐性をさらに改善するため、硬度を高めるため、および/または熱安定性を高めるために、有利であり得る。表面領域においてシリカの比較的高い濃度を得るためには、ガラスのタイプが、比較的大きい重量パーセントのシリカ、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%などのシリカを含むことが意図され得る。
【0018】
したがって、一態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも10〜35重量%、好ましくは少なくとも30〜49重量%、さらにより好ましくは少なくとも50重量%のシリカを有する。ケイ酸塩以外の他の成分、例えば、アルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物、または多価金属酸化物などが、ケイ酸塩ガラス物品中に含まれ得る。別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも0〜90重量%、例えば0.5〜85重量%など、好ましくは少なくとも1〜80重量%、例えば3〜75重量%など、好ましくは少なくとも5〜50重量%、例えば7〜30重量%など、好ましくは少なくとも10〜20重量%の、アルカリ酸化物を有する。さらに別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも0〜90重量%、例えば0.5〜85重量%など、好ましくは少なくとも1〜80重量%、例えば3〜75重量%など、好ましくは少なくとも5〜50重量%、例えば7〜30重量%など、好ましくは少なくとも10〜20重量%の、アルカリ土類酸化物を有する。
【0019】
さらに別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも0.001〜90重量%、例えば0.5〜85重量%など、好ましくは少なくとも1〜80重量%、例えば3〜75重量%など、好ましくは少なくとも5〜50重量%、例えば7〜30重量%など、好ましくは少なくとも10〜20重量%の、多価金属酸化物を有する。
【0020】
シリカがガラスの結合性を高めるため、表面層は、表面特性に対して強い影響を及ぼす。特に、(酸溶液およびアルカリ溶液の両方における)化学的耐性およびガラスの硬度が非常に高められる。
【0021】
したがって、別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、表面領域において、バルク領域よりも実質的に高いケイ酸塩架橋酸素の含有量を有し、すなわち、表面領域の網目構造の結合性は、バルク領域よりも高い。
【0022】
特に、本発明の一態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、表面領域の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%において、四面体あたりの非架橋酸素原子の数であるNBO/Tが減少している。
【0023】
さらに別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、表面領域において、バルク部分よりも実質的に高いSiO2濃度を有する。
【0024】
大気中での熱処理による鉄含有ガラスの酸化により、Mg2+、Ca2+、およびFe2+イオンの、(外方拡散と呼ばれる)内側から表面方向への拡散が生じる。この観察は、玄武岩質ガラス系に基づく以前の研究の結果と一致している。Mg2+の拡散は、拡散プロセス全体において支配的であり、ならびに表面では、Mg2+イオンが外部酸素と反応してペリクレース(MgO)結晶を形成する。表面へと拡散するFe2+イオンは、表面においてFe3+へと酸化される。表面領域または表面層は、ガラスの硬度を高め、酸溶液の攻撃からガラスを保護するが、アルカリ溶液に対しては、より脆弱となる。
【0025】
周囲条件において、二価のカチオンの外方拡散が、熱処理の酸化性雰囲気下だけでなく、N2雰囲気下においても、さらにはH2/N2(10/90 v/v)のような還元性雰囲気下においても生じるという、重要な現象が観察された。空気中でガラスを加熱した場合に生じる結晶層とは異なるモルホロジーおよび濃度プロフィールを有する酸化物のナノ層が、外方拡散によりガラス表面上に形成される。カチオンの拡散度は、熱処理の温度および期間に応じて変わる。N2およびH2/N2(10/90)における外方拡散は、熱窒化(窒素の組み込み)に関連していること、すなわち、外方拡散のメカニズムは、熱処理に使用されるガスのタイプに依存するということが提唱されている。H2/N2(10/90)中でのFe3+からFe2+への還元、またはV5+からV4+への還元は、ガラス中へのH2の浸透によって起こる。これにより、ヒドロキシル基が形成されて、ガラス構造体中に組み入れられる。Fe3+の還元は、H2/N2(10/90)中では拡散をもたらさないにもかかわらず、ヒドロキシル基が組み入れられることにより、カチオンの拡散の速度が増加する。その上、生成されたOH基は、結晶化に対するガラスの安定性およびガラスの機械的特性を低下させる。
【0026】
驚いたことに、ガラスをH2/N2(1/99)中で加熱する場合、H2の浸透と正孔の外方拡散の両方が、Fe3+からFe2+への還元、またはV5+からV4+への還元に寄与するということが本発明の発明者たちによって見出された。正孔の拡散は、移動可能な網目修飾カチオン(主に、Mg2+、Ca2+、およびFe2+)の内方拡散によって電荷的に補われる。その結果、Si4+イオンは拡散しないのでシリカリッチなナノ層がガラスの表面上に形成される。したがって、本発明によるさらなる態様において、内方拡散は、還元性ガスおよび/または還元性液体による還元によって引き起こされる。
【0027】
シリカリッチな層の厚さは、多価元素の含有量によって制御することができる。したがって、本発明による別の態様において、表面領域の深さは、内方拡散プロセスの関数である。本発明によるさらに別の態様において、網目修飾カチオンの表面領域における組成は、内方拡散の結果であり、ここで、該内方拡散は、多価元素の還元によって引き起こされる。
【0028】
これは、ガラス網目構造中において、還元された元素がアルカリ土類イオンよりも低い移動度を有する場合に有利であり得る。
【0029】
シリカリッチな層の厚さは、加熱の温度および期間を調整することによっても制御することができる。したがって、本発明によるさらに別の態様において、表面領域の深さは、時間、温度、拡散イオンの電界強度、還元性ガスの分圧、多価元素の濃度および酸化還元比、ならびに/またはガラスのタイプの、関数である。したがって、層の厚さは、特定の要件に従って調整することができる。
【0030】
速度論的解析により、化学拡散によって特徴付けられるような本発明の拡散メカニズムを検証し、二価のカチオンの拡散係数を算出した。したがって、本発明によるさらに別の態様において、拡散は化学拡散によって特徴付けられる。したがって、拡散が時間に対して放物線型であるような様式で、拡散は還元動態によって律速される。
【0031】
ガラス物品の製造における多価元素の選択には、様々な基準が存在し得る。
【0032】
多価元素は、本発明のある特定の態様において、弱い還元性雰囲気、例えば、約0.001、0.01、0.02、0.03、0.07、または0.09barのH2中で比較的容易に還元される酸化還元状態を有するべきである。
【0033】
いくつかのガラス物品では、元素および酸化還元状態により、ガラス用途に応じたガラス物品の色、例えば、ガラスの透明度、特定の用途の工芸ガラスのための特定の色、薬品、ビール、ワイン、および他の液体、または化学薬品などを劣化から保護するための特定のUV吸収性などが、決定され得る。
【0034】
さらに別の態様において、本発明は、化学薬品の貯蔵のためのガラス容器、グラスファイバー、工芸ガラス、ビール、ワイン、および他の液体の貯蔵のためのガラス容器であるケイ酸塩ガラス物品に関する。特に、本発明は、刺激の強い化学薬品または侵食性の化学薬品の貯蔵、あるいは機械に有害な環境における使用に有利である。
【0035】
したがって、本発明によるさらなる態様において、ケイ酸塩ガラスは、10〜1200nmの光学領域、好ましくは380〜750nmの可視領域において透明である。
【0036】
本発明のさらなる態様において、ケイ酸塩ガラスは、400〜10nm、400〜315nm、315〜280nm、または280〜100nmの範囲の、好ましくは400〜100nmの範囲のUV光を、吸収することができる。
【0037】
材料の硬度を測定する方法として、ビッカース硬度(Hv)試験が開発されている。本発明において、ビッカース硬度測定により、熱処理されたガラスが本来のガラスより硬いことが明らかである。硬度は、熱処理の期間および温度に伴って増加し、すなわち、改質層の厚さが増加すると硬度が増加する。
【0038】
したがって、本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、当該表面領域の方が、対応する未処理のガラスの表面領域よりも実質的に高いケイ酸塩ガラス硬度、例えば、少なくとも+10%、+20%、+30%、+40%、+50%、+100%、+200%、+300%、+1000%高いHvを有する。
【0039】
シリカによってガラスの結合性が高められるため、前述のナノ層は、表面特性に対して強い影響を及ぼす。特に、それは、酸溶液およびアルカリ溶液の両方における化学的耐性を非常に高め得る。酸溶液では、ガラスからのアルカリイオンの浸出が、支配的な溶解メカニズムである。本発明の一実施例(図6B)において、ガラス物品からHCl溶液へ浸出したナトリウムは、未処理のガラスと比較した場合、5分の1未満に減少している。
【0040】
したがって、本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、前述の表面領域の方が、未処理のガラスの対応する表面領域よりも実質的に高い化学的耐性、例えば、未処理のガラスの対応する表面領域よりも少なくとも1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、5、10、30、50、100、1000倍良好な化学的耐性を有する。
【0041】
改質された表面は、いくつかある有利な特性の中でも特に、増強された熱安定性、例えば、熱衝撃抵抗を有する。
【0042】
したがって、本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、対応する未処理のガラスの熱衝撃抵抗よりも、実質的に高い熱衝撃抵抗、例えば、対応する未処理のガラスの熱衝撃抵抗よりも少なくとも1.5、2、3、5、10、30、50、100、1000倍良好な熱衝撃抵抗を有する。
【0043】
シリカリッチな層の厚さは、多価元素の含有量および還元によって制御され得る。
【0044】
本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、遷移金属カチオンを含む。
【0045】
さらに好ましい態様において、本発明は、少なくとも一部の遷移金属カチオンが網目修飾カチオン(NMC)である、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0046】
別の態様において、本発明は、少なくとも一部の網目修飾カチオン(NMC)が、周期表のIIa族に由来する、例えば、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、およびRa2+である、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0047】
さらに別の態様において、本発明は、多価元素が、Au、Ir、Pt、Pd、Ni、Rh、Co、Mn、Ag、Se、Ce、Cr、Sb、Cu、U、Fe、As、Te、V、Bi、Eu、Ti、Sn、Zn、およびCdからなる群より選択される、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0048】
別の態様において、本発明は、遷移金属カチオンが、Ti4+、Ti3+、V5+、V4+、V3+、Cr6+、Cr5+、Cr3+、Mn7+、Mn6+、Mn5+、Mn4+、Mn3+、Fe5+、Fe4+、Fe3+、Co4+、Co3+、およびNi3+からなる群より選択される、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0049】
さらに別の態様において、本発明は、遷移金属カチオンが、Ti2+、V2+、Cr2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Zr2+、Nb2+、Mo2+、Ru2+、Rh2+、Pd2+、Ag2+、Cd2+、Ta2+、W2+、Re2+、Os2+、Ir2+、Pt2+、Hg2+、およびRa2+からなる群より選択される、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0050】
本発明の方法により、高いシリカ含有量の表面を有するケイ酸塩ガラス物品が得られ、したがって、バルクシリカガラスによるガラス物品を製造する必要性を避けることができる。後者は、溶融および形成のために非常に高い温度(最高2400℃まで)を必要とする。したがって、本発明は、バルクシリカガラスの製造よりも、経済的に、より好ましい。
【0051】
本発明により、さらなる高価な原料を必要とする付帯的なコーティング技術を使用せずに、改善された化学的耐性、増強された硬度、および/または増強された熱安定性を有する、改良されたケイ酸塩ガラス物品が得られる。
【0052】
したがって、本発明の別の局面は、還元性ガスを含む雰囲気においてケイ酸塩ガラス物品を熱処理する工程を含む、ケイ酸塩ガラス物品の表面領域を改質する方法であって、該ケイ酸塩ガラス物品のより深い領域への網目修飾カチオン(NMC)の内方拡散をもたらし、それによって表面領域における網目修飾カチオンの濃度が下げられる、方法に関する。
【0053】
本発明のさらに別の局面は、還元性ガスが1種以上の還元性ガスの混合物である、前述の方法に関する。
【0054】
本発明のさらに別の局面は、還元性ガスがさらに1種以上の不活性ガスと混合されている、前述の方法に関する。
【0055】
本発明の好ましい局面は、前記雰囲気が窒素ガスと水素ガスとの混合物を含む、前述の方法に関する。
【0056】
本発明の別の好ましい局面は、前記雰囲気が一酸化炭素ガスと二酸化炭素ガスとの混合物を含む、前述の方法に関する。
【0057】
本発明のさらに好ましい局面は、前記雰囲気が、SbH3、AsH3、B2H6、CH4、PH3、SeH2、SiH4、SH2、SnH4、Cl2、NO、N2O、CO、H2、N2O4、SO2、C2H4、およびNH3からなる群より選択されるガスの混合物を含む、前述の方法に関する。
【0058】
多価元素の還元によって引き起こされる、ガラス物品における内方拡散を得るためには、還元性ガスの浸透が該還元を支配していないことが、不可欠であると現在のところ見なされている。
【0059】
本発明の好ましい局面は、還元性ガスが、未処理のケイ酸塩ガラスにおいて実質的に不浸透性である、前述の方法に関する。
【0060】
表面領域または表面層の結合性を高めることに加えて、該表面領域の厚さを増すことも、化学的耐性をさらに改善するため、硬度を高めるため、および/または熱安定性を増加させるために有利であり得る。
【0061】
したがって、本発明の好ましい局面は、少なくとも100nm、200nm、400nm、500nm、600nm、700nm、1000nm、1500nm、または3000nmの表面領域の厚さが得られるように熱処理が実施される、前述の方法に関する。
【0062】
シリカリッチな層の厚さは、熱処理の温度および期間を調整することによって制御することができる。
【0063】
したがって、本発明の好ましい局面は、熱処理が、ケイ酸塩ガラスのガラス転移温度(Tg)の、例えば、0.1〜3.0倍、0.5〜3.0倍、0.6〜3.0倍、0.7〜3.0倍、0.8〜2.0倍、または0.9〜2.0倍において実施される、前述の方法に関する。
【0064】
本発明の別の局面は、熱処理が、0.001〜36時間、0.01〜36時間、0.1〜36時間、0.1〜30時間、0.1〜24時間、0.2〜36時間、0.2〜34時間、0.2〜20時間、0.3〜36時間、0.3〜25時間、0.3〜18時間、0.4〜36時間、0.4〜27時間、0.4〜12時間、0.5〜36時間、0.5〜15時間、1〜5時間、1〜4時間、または1〜3時間の間実施される、前述の方法に関する。さらに短い時間または長い時間も、本発明の教示の範囲内である。
【0065】
前述の方法において、周囲雰囲気の圧力を調整することは、熱処理の温度および/または期間に重要な影響を与える。
【0066】
本発明のさらに別の局面は、前記雰囲気の圧力が、0.001〜20気圧、0.001〜10気圧、0.01〜10気圧、0.01〜5気圧、0.1〜5気圧、または1〜10気圧である、前述の方法に関する。前述の範囲の下限は、いずれも最小値でもあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0067】
ここで、本発明を、以下の非限定的な例においてさらに詳細に説明する。
【0068】
【図1】提案される様々な表面改質メカニズムの概略図を示す。図1Aは、MgO/CaO層の形成を示す。図1Bは、シリカリッチな層の形成を示す。
【図2A】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2Aは本来の6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図2B】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2BはTgにおいて2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図2C】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2CはTgにおいて16時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図2D】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2DはTgの1.05倍において2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図3A】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3AはH2/N2(10/90)中にて、Tgで様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図3B】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3BはH2/N2(10/90)中にて、様々な温度で2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図3C】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3CはH2/N2(1/99)中にて、Tgで様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図3D】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3DはH2/N2(1/99)中にて、様々な温度で2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図4A】H2/N2(1/99)中でのTgにおける6wtFeガラス試料の熱処理の時間(ta)に対する、二価のカチオンの減少領域の厚さ(Δξ)の二乗のプロットを示す。
【図4B】処理前後のFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、ガラスの初期の鉄含有量および熱処理条件への依存性を記載する表を示す。
【図4C】6wtFeガラス(未処理、空気中でTgにおいて16時間加熱、H2/N2(1/99)中でTgにおいて16時間加熱)のCEMSスペクトルを示す。
【図5A】H2/N2(1/99)中にて、Tgで様々な期間の間加熱した、厚さ0.20mmの6wtFeガラス試料のUV−VIS−NIRスペクトルを示す。
【図5B】処理前後のFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、熱処理時間(ta)への依存性として表される、対応するFe2+濃度を示す。
【図6】図6Aは、様々な温度および期間において熱処理された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのビッカース硬度および水接触角のデータの表を示す。図6Bは、様々な温度および期間において熱処理された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスの化学的耐性のデータの表を示す。
【図7】実験戦略および使用した分析技術の概略図を示す。
【図8】A=Na、K、Rb、CsであるSiO2−CaO−Fe2O3−A2Oガラスについて、温度の関数として粘度を示す。
【図9】H2/N2(1/99)中で様々な温度において2時間熱処理されたSiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)ガラスの、絶対温度の逆数の関数としての、ln k'のアレニウスプロットを示しており、差し込み図は、アルカリイオンのイオン半径rA(白丸)および脆性インデックス(fragility index)m(黒丸)の両方の関数としての、カルシウム拡散の活性化エネルギーEdを示す。
【図10】温度Tの関数としての、7種の調製されたままのガラスの正規化された質量変化Δm/m0を示しており、ここで、Δmおよびm0は、それぞれ試料の質量変化および初期質量であり、質量変化は、空気中で10℃/分のアップスキャン(upscan)速度で測定しており、空気中でTg=633℃における時間tの関数として、Cr含有ガラスの正規化された質量変化Δm/m0を示す。
【図11】Δnrel,dynの関数としての、結晶化開始温度Tcを示しており、Δnrel,dynは、空気中において10℃/分で975℃まで動的に加熱している間に酸化された多価元素の正規化されたモル数であり、Tcは、空気中において10℃/分で実施されたDSC実験から特定した。
【図12】Δnrel,isoの関数としての、空気中でそれぞれのTgにおいて6時間熱処理された7種のガラスのCa2+のSNMSピーク面積を示しており、面積は、Ca2+のSNMS濃度曲線とc=cバルクを通る水平線との間を計算しており、Δnrel,isoは、空気中でTgにおいて6時間、等温熱処理している間に酸化された多価元素の正規化されたモル数であり、点線は、回帰直線(linear fit)を表す。
【図13】イオン半径rの関数としての、アルカリ土類イオンの拡散深度(Δξ)を示しており、ガラスは、H2/N2(1/99)中で様々な期間(ta)の間それぞれのTgで熱処理されており、黒四角はta=16時間を示しており、白四角はta=2時間を示しており、差し込み図は、Mg含有ガラスにおけるTa=Tgでのta(0.5、2、8、および16時間)に対する(Δξ)2のプロットを示している。
【図14】様々な条件において、H2/N2(1/99)中で熱処理された、R=Mg、Ca、Sr、BaであるSiO2−Na2O−Fe2O3−ROガラスについての、絶対温度の逆数の関数としての、ln k'のアレニウスプロットを示しており、黒四角:R=Mg、白四角:R=Ca、黒三角はR = Srを示し、白三角はR=Baを示しており、差し込み図は、アルカリ土類イオンのイオン半径(r)の関数としての、対応する拡散の活性化エネルギー(Ed)を示している。
【図15】脆性インデックスmおよびTgでの粘性流動の活性化エネルギー(Eη)に対する、Tg付近での拡散の活性化エネルギー(Ed)を示す。
【図16】未処理、ならびにH2/N2(1/99)およびCO/CO2(98/2)中でTg=926Kにおいて16時間加熱した厚さ0.20mmの6wtFeガラス試料のUV−VIS−NIRスペクトルを示す。
【図17】CO/CO2(98/2)中でTg=926Kにおいて16時間熱処理した6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールを示しており、曲線は、ガラスのバルクにおける同一元素の濃度で除した、所定の深さにおける元素の濃度(C/Cバルク)としてプロットしている。
【発明を実施するための形態】
【0069】
ここで、本発明を、以下においてより詳細に説明する。
【0070】
本発明の詳細な説明
定義
本発明をさらに詳細に説明する前に、以下の用語および慣例について最初に定義する。
【0071】
多価元素:
「多価元素」という用語は、ガラス科学およびガラス技術の分野における数多くの論文中に見出すことができる。本明細書の文脈において、この用語は、様々な酸化還元状態で存在し得る元素を意味する。最も良い直接的な定義の1つは、Pyeら(2005)p.28に見出され得る。:「本章においては、極度な酸化条件または還元条件が必要であるとしても、少なくとも2つの異なる酸化状態でガラス溶融物中に生じ得る全ての元素を、多価であると見なす。」
【0072】
網目修飾カチオン:
以下の定義が、Shelby(2005)p.10に見出される。:「最後に、電気陰性度が非常に低く、そのため酸素と強固なイオン結合を形成するカチオン(第III族)は、網目形成体としては全く作用しない。これらのイオンは網目形成酸化物によって形成された網目構造を修飾するためにのみ機能するので、これらのイオンは修飾体と呼ばれる。」
【0073】
ガラス転移温度(Tg):
ガラス転移温度(Tg)は、Shelby(2005)によって定義されたように、ガラスを加熱したときにガラス転移により熱容量が変化する開始点として定義される。
【0074】
本発明の好ましい目的は、上記において言及した先行技術の問題を、改善された表面特性により解決する、改良されたケイ酸塩ガラス物品を提供することにある。
【0075】
溶融物を冷却することにより、冷却速度に応じてガラスまたは結晶のいずれかの形成が生じ得る[Shelby、2005]。結晶性物質またはガラス状物質は同じ組成を有し得るが、結晶はガラスよりも、より秩序だった構造を有するので、それらの物質は構造において異なっている。ガラス形成の理論について説明するために、2つの用語:短距離秩序(SRO)および長距離秩序(LRO)について定義する必要がある。SROは、局所的な原子結合の単位(最近接原子の構成)が、固体全体において一様である場合に存在する。LROは、空間における原子の配置が周期的である場合に存在する[GerstenおよびSmith、2001]。現在のところ、ガラスの理想的な定義は存在しない。可能な定義は、完全にLROを欠いた、ガラス転移の挙動の範囲を示す無定形固体、である。所定のガラスに存在するSROは、理想的には、対応する結晶中に見出されるものと同一である。結晶は、原子配列の完全な周期性を意味する完全なLROを備えた固体として定義される。
【0076】
酸化物ガラスの構造に関して様々な理論が存在するが、ランダムネットワーク理論は、最も一般的に使用されるモデルである[Shelby、2005]。ガラス中の原子は、SROが存在する連続するランダムな網目構造を形成する。連続する三次元網目構造形成のための条件[Zachariasen、1932]は、以下である。
1)酸素原子が、2つ以下のカチオンと結合している。
2)網目構造カチオンの酸素配位数が小さくなければならない。
3)酸素多面体が、お互いに、辺または面ではなく、角を共有している。
4)三次元網目構造を形成するために、各酸素多面体の少なくとも3つの角が共有されていなければならない。
これらの法則は、網目構造のLROの程度については何も指し示していないので、ガラスおよび多くの結晶性固体の両方の構造を説明している。したがって、ガラス形成のみを説明するように、Zachariasenによってさらなる要件が加えられた。網目構造は、LROを破壊するように歪められていなければならない。この歪みは、結合の長さおよび角度のばらつき、ならびにそれらの軸の周囲における構造単位の回転によって達成することができる。
【0077】
酸化物ガラス中の化学的成分は、ガラスの構造配列におけるそれらの役割に従って、異なるカテゴリに分けることができる。Stanworth(1971)は、カチオンの電気陰性度に基づいて、酸化物を3つの群に分類している。すなわち、酸化物は、すべての場合においてアニオンが酸素であるカチオン−アニオン結合の部分イオン性に従って分類される。カチオンが、50%付近または50%未満の部分イオン性で酸素と結合を形成する場合、当該カチオンは、網目形成体として機能するであろう[Shelby、2005]。すべてのガラスは、それが構造体の主な源であるような少なくとも1種の網目形成体を含有する。
【0078】
ケイ酸塩ガラスにおいて、ケイ素は、網目形成体として機能し、架橋酸素(BO)原子によって結合されたケイ素−酸素四面体として存在する。四面体は、それ自体が非常に秩序立っている。必要なLRO欠如は、Si−O−Si角のばらつき、四面体に結合している酸素原子が占める位置の周りでの隣接する四面体の回転、および結合性酸素をケイ素原子の1つに接続している直線の周りでの四面体の回転によって導入される[Shelby、2005]。酸素と強いイオン結合を形成するカチオンは、主要な網目構造の一部を形成することなく、網目構造を修飾/干渉するためだけに機能するので、網目修飾体と呼ばれる[Shelby、2005]。網目修飾体は、酸化物として導入され、配位数≧6を有するので、非架橋酸素(NBO)原子に負の電荷を提供する。カチオンは、局所的電荷中性を維持するように、網目構造の隙間のサイトに存在する。アルカリイオン(例えば、Na+およびK+)ならびにアルカリ土類イオン(例えば、Ca2+およびMg2+)の両方は、網目修飾体として機能し得る。すべてのアルカリイオンは、1つの隣接するNBOを有するが、一方で、すべてのアルカリ土類イオンは、2つの隣接するNBOを有する。網目構造の強度は、網目形成体および網目修飾体の量に依存している。網目修飾体の量の増加により、結果として、結合性(または重合度)を減少させるNBOの量も増加する。これは、ガラスの融点およびいくつかの他の特性を下げる[Shelby、2005]。
【0079】
図1A〜Bは、本発明を説明するための、表面改質についての2つの提案されたメカニズムの概略図を示す。
【0080】
図1Aは、Mg2+、Ca2+、およびFe3+を含むケイ酸塩ガラス試料または物品1上での結晶性MgO/CaO層2の形成についての公知のメカニズムを示している。ガラス試料1は、表面6、表面領域3、バルク部分4、および、いわゆる酸化還元フロント5を有しているとして示されている。熱処理により、第一鉄(Fe2+)が第二鉄(Fe3+)へと酸化され、それによって、ガラス内部から表面に向かって二価のカチオン(主に、Mg2+)の外方拡散が生じる。二価のカチオンが表面においてイオン性酸素と反応して、表面6上に結晶層2が形成される。この表面層2は、優れた熱特性を示す。
【0081】
図1Bは、表面領域3におけるシリカリッチな層の形成についての、本発明によるメカニズムを示している。当該概略図は、動的プロセスのある時点での図である。酸化還元フロント5において、Fe3+イオンは、Fe2+イオンおよび正孔(h・)に変換される。大気圧における酸素分圧が非常に低いために、ガラス物品1から酸素を取り出すための大きな駆動力が生じる。表面では、酸素アニオンが、h・を埋めるために2つの電子を提供し、続いてH2と反応してH2Oを形成することにより、自由表面6から放出される。表面方向へのh・の拡散は、酸化メカニズムの鏡像として二価のカチオン(Fe2+を含む)が内部方向へ移動することによって、電荷的にバランスが取られる。したがって、内方拡散は、多価元素が高原子価状態から低原子価状態へと還元されることによって駆動される。網目修飾カチオン(この実施例では、Mg2+、Ca2+、およびFe3+)が、Si4+イオンの拡散を伴わずに表面から移動するため、シリカリッチな表面層3が形成される。酸素アニオンが表面においてh・に電子を提供しているが、最終的な電子の供給源は、周囲大気中のH2分子である。
【0082】
したがって、本発明の1つの局面は、バルク部分4と表面領域3とを有するケイ酸塩ガラス物品1であって、網目修飾カチオン(NMC)、例えば、図1Bにおいて示されるようなMg2+、Ca2+、およびFe2+などを含むケイ酸塩ガラス物品1に関する。表面領域3における網目修飾カチオン(NMC)の濃度は、バルク部分4よりも低く、概して、網目修飾カチオンの表面領域における組成は、下記において詳細に説明されるような、上述の内方拡散の結果である。
【0083】
図2A〜Dは、様々な条件において、H2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスおよび本来の6wtFeガラスの二次中性粒子質量分析(SNMS)の深さプロフィールの概略図を示している。各元素の深さプロフィールは、バルク濃度に対して正規化されている。ガス浸透の速度を減少させることによってシリカリッチな表面を形成するために、H2の分圧を0.01barまで下げている。SNMS深さプロフィールは、この取り組みが成功していることを示している。ガラスの化学組成および他の様々な関連データを、下記の表1に示す。
【0084】
(表1)出発物質の化学組成、鉄酸化還元比、密度、ガラス転移温度(Tg)、およびNBO/T。NBO/Tの計算については、以下の本文において説明する。
*すべて鉄は、Fe2O3として示されている。
【0085】
ガラスの網目構造の結合性を特徴付けるため、四面体あたりの非架橋酸素原子の数(NBO/T)を、化学組成から算出する。そのために、以下の式を使用する[Zotovら、1992]。
式中、角括弧付の数は、それぞれの酸化物のモル数を意味する。1wtFeおよび3wtFeに関しては、言及された鉄酸化還元比の範囲の中心値を計算に使用した。バナジウム含有ガラスに関しては、V5+を網目形成体と見なし、V4+を網目修飾体と見なす。しかしながら、初期のバナジウム酸化還元比が明らかになっていないので、NBO/Tの計算は実施できない。鉄含有ガラスに関しては、予想されるように、ガラスの結合性の増加(NBO/Tの減少)に伴ってTgも高くなっている。1wtVの比較的高いTgは、バナジウムの大部分が、V5+の状態で存在していることを示している。
【0086】
表面層におけるNBO/Tの算出
未処理の6wtFeガラスのNBO/Tは、表1に記載されているように0.81である。SNMS(元素の濃度)データ、CEMS(鉄の酸化還元状態)データ、およびFT−IR(OH基の濃度)データを使用することにより、本発明者たちは、H2/N2(1/99 v/v)中でTgにおいて16時間処理したガラスの200nmの表面層におけるNBO/T比を算出した。この表面層は、約0.45のNBO/Tを有する。これは、現在のところ、本発明者たちがNBO/Tを算出した唯一の試料である。
【0087】
図2Aは、本来の6wtFeガラスのプロフィールを示している。未処理のガラスの深さプロフィールから、深さによってイオン濃度が変わらないことが明らかである。
【0088】
図2Bは、Tgにおいて2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示している。H2/N2(1/99)ガス下において、Tgで2時間にわたる6wtFeガラスの熱処理により、二価のカチオンの内部方向への移動および表面付近でのシリカ濃度の著しい増加が生じる。
【0089】
図2Cは、Tgにおいて16時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示している。このように、図2Bとの比較から明らかであるように、熱処理の期間を長くすることによって、改質された表面層の厚さを増加させることが可能である。
【0090】
図2Dは、Tgの1.05倍において2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示している。図2Bと比較すると、熱処理の温度を高くすることにより、結果として、改質された表面層の厚さが増加することがわかる。すなわち、本発明に従って加熱と還元とを組み合わせることによって、より厚い深さが得られる。
【0091】
図3A〜Dは、様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示している。熱処理された試料のIR反射スペクトルを示す場合は、900〜1200cm-1の範囲におけるデータのみを示しているが、これは、より低い波数では変化が生じないためである。これは、480cm-1におけるピークの位置および強度はガラス組成によってあまり変わらないという以前の研究と一致している。
【0092】
図3Aは、H2/N2(10/90)中で、Tgにおいて様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示しており、図3Bは、H2/N2(10/90)中で、様々な温度において2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示している。未処理の6wtFeガラスでは、FT−IR反射スペクトルは、480cm-1および1100cm-1付近に、それぞれSi−O−Si結合振動およびSi−O−Si逆対称伸縮振動に起因する主要なピークを示す。熱処理の期間(図3A)および温度(図3B)の増加に伴って、以下のスペクトルの特徴が観察される。第1に、1100cm-1のピークは、より低い波数へとシフトし、その強度は減少する。第2に、940cm-1におけるピークの形成と成長が観察される。第3に、970cm-1付近に低強度のピークの形成および成長が観察される。Si−O−Si逆対称伸縮ピークの変化は、表面においてシリカが減少していることを示している。これは、本明細書には記載されていない、対応するSNMSの結果を裏付けている。940cm-1におけるピークは、Si−OHの振動に起因し、これは、OH基が形成されているとするFT−IR吸収分光分析の結果に一致する。970cm-1付近の弱いピークは、Si−N結合の振動に起因する。
【0093】
図3Cは、H2/N2(1/99)中で、Tgにおいて様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示しており、図3Dは、H2/N2(1/99)中で、様々な温度において2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示している。Si−OHおよびSi−N結合の振動に起因するピークも、これらのIRスペクトルに存在しているが、ピークの強度は、H2/N2(10/90)中で加熱されたガラスに対して観察されるピークの強度よりも低い。IR吸収の測定結果は、水素圧が低下すると、あまりOH基が形成されないことを示している。このことは、Si−OHピークの強度が低いことを説明する。Si−O−Si逆対称伸縮の波数およびピーク強度は、taおよびTaの増加と共に増加している。これらの変化は、以前にケイ酸塩ガラスについて、表面における網目修飾体の総含有量が減少する場合に、観察されている[Derianoら、2004]。これは、シリカリッチな表面層が形成されているとするSNMSの結果と一致する。
【0094】
図4Aは、H2/N2(1/99)中でのTgにおける6wtFeガラス試料の熱処理の時間(ta)に対する、改質された表面領域の厚さ(Δξ)の二乗のプロットによる速度論的解析を示している。図1Bに提示されている還元メカニズムが妥当な場合、二価のカチオンの化学拡散が、還元動態を律速するはずであり、すなわち、拡散は、時間に対して放物線型のはずである。放物線型の動態は、Δξ2=2k'tのように統合された形式で表現することができ、この場合、tは時間であり、k'は放物線型の反応速度定数である。したがって、図4Aに見られる直線関係は、動態の特性が、実際に放物線型であること、すなわち、還元反応の自由エネルギーの消失に対して律速しているのが網目修飾カチオン(NMC;例えば、Mg2+、Ca2+、およびFe2+)の拡散であることを証明している。前述において予測したメカニズム(図1B)に対する明確な証拠が、これにより達成された。Mg2+は、最も速く拡散する種であると思われ、これは、Mg2+の電界強度が、Ca2+およびFe2+と比べて高いことと一致している。
【0095】
図4Bは、処理の前後におけるFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、ガラスの初期鉄含有量および熱処理条件への依存性を記載する表を示している。未処理のガラスは、鉄の総含有量の増加に伴って、より多くのFe3+イオンを含有している。予想されるように、図4Bは、ガラスの鉄の総含有量が増加するのに伴って、Δc(Fe2+)が増加することを明らかにしている。
【0096】
図4Cは、6wtFeガラス(未処理、空気中でTgにおいて16時間加熱、H2/N2(1/99)中でTgにおいて16時間加熱)の転換電子メスバウアー分光分析(CEMS)スペクトルを示しており、Fe3+およびFe2+についてのフィットさせた二重線が示されている。CEMSは、試料の表面領域(約200nm)における鉄の酸化還元状態を調べるために使用することができ、すなわち、それは、バルクにおける酸化還元状態を特定する従来のメスバウアー分光分析とは異なっている。従来のメスバウアー分光分析では、共鳴吸収γ線の吸収ピークが記録される。CEMSでは、試料中の励起された(準安定の)鉄の核から放出されるエネルギーを調べる。試料中の励起された鉄の核は、3つのプロセスにより、それらの基底状態へと戻る。吸収されたエネルギーのおよそ90%は、いわゆる内部転換によって放出され、およそ10%は、γ線として放出される。内部転換は、X線またはいわゆる転換電子を介するエネルギーの伝達を含む。励起核は、当該核内において特定の存在確率を有する電子に、そのエネルギーを渡すことができるために、転換電子が放出される。CEMSでは、励起核から放出された転換電子を記録する。これらの電子は、試料を通る際に強く減衰し、すなわち、信号は、試料の最上層(およそ200nm)からのみ得られる。
【0097】
Fe3+およびFe2+のアイソマーシフトは、それぞれ0.27±0.06および1.07±0.09mm/sと決定される。四極子分裂は、Fe3+およびFe2+に対して、それぞれ1.13±0.09および1.7±0.2mm/sである。これらの値は、文献データと良く一致している。Fe3+/Fetot比は、2つの二重線の相対的な面積を測定し、ガラス中に金属鉄が存在しないと仮定することにより、各試料に対して評価する。算出された比率を、図4Cに記載する。比率の誤差が比較的高いのは、i)弱い供給源の使用、およびii)試料の表面積が小さいためである。Fe3+/Fetotは、未処理の6wtFeガラスでは、68±7%に等しい。これは、従来のメスバウアー分光分析による、粉末状試料の酸化還元比を測定した結果と一致している。予想されるように、空気中でのガラスの熱処理では、表面付近におけるFe3+イオンの量は、Fe2+イオンの量と比較して増加するが、一方で、H2/N2(1/99)中での処理では、その反対である。
【0098】
図5Aは、H2/N2(1/99)中で、Tgにおいて様々な期間の間加熱した厚さ0.20mmの6wtFeガラス試料のUV−VIS−NIRスペクトルを示している。様々な熱処理条件の関数として、鉄酸化還元状態を調べている。UV−VIS−NIR分光分析は、そのために使用される主要な方法である。定量的にこの方法を使用するために、Fe2+のモル吸光係数を事前に決定しておく。
【0099】
図5Bは、処理の前後におけるFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、熱処理時間(ta)への依存性として表された、対応するFe2+濃度を示している。taの増加に伴うFe2+ピークの強度の増加は、H2/N2(10/90)中で加熱されたガラスにおいて観察される増加よりも少ない(記載せず)。したがって、鉄の酸化還元比は、処理雰囲気中の水素分圧が増加すると共に、より還元された状態へとシフトする。このことは、より高い圧力において、ガラス中へのH2の溶解性(SH2)が増加することによって説明される。
【0100】
図6Aは、様々な温度および期間において熱処理された6wtFeガラスおよび未処理の6wtFeガラスのビッカース硬度(Hv)および水接触角のデータを記載した表を示している。ビッカース硬度は、微小押し込み法によって測定する。各試料に対して、0.25Nの負荷と最大負荷での5秒間の保持時間とにより、遠く離れた位置で25回の押し込みを実施した。ビッカース硬度の測定により、処理前のガラスよりも熱処理されたガラスの方が硬いということが明らかである。硬度は、熱処理の期間および温度に伴って増加しており、すなわち、改質層の厚さが増加すると硬度も増加している。接触角の測定は、熱処理の結果として、表面がより疎水性になっていることを示している。硬度の測定は、±0.3GPaよりも優れた精度で実施した。
【0101】
図6Bは、様々な温度および期間において(H2/N2(1/99)中で)熱処理された6wtFeガラスおよび未処理の6wtFeガラスの化学的耐性のデータを記載した表を示している。試料の耐薬品性は、0.25MのHClおよび0.25MのKOH水溶液において試験した。試料をプラスチック容器中で試験溶液(ガラスの表面領域1cm2に対して20cm3)に浸漬した後、該容器を、90℃でサーモスタット振盪装置に取り付けた(100rpmで撹拌した)。12時間後、前記試料を溶液から取り出した。浸出したNa+イオンおよびMg2+イオンの濃度を、原子吸光分析(AAnalyst 100、Perkin Elmer社)を用いて、試験溶液中で測定した。ガラスの溶解は、酸溶液およびアルカリ溶液の両方において試験した。酸性溶液では、主に一価のアルカリイオンがガラスから浸出し、H+および/またはH3O+と交換される。アルカリ溶液では、ヒドロキシルイオンがSi−O結合を切断し、それによってシラノール基が形成され得るので、溶液が網目構造の結合を直接攻撃するために、ガラスが連続的に溶解する。熱処理されたガラスは、未処理のガラスよりも、酸およびアルカリ溶液の両方に対して高い耐性を有する(図6Bを参照のこと)。耐アルカリ性の増加は、処理されたガラスにおける網目構造の高い結合性に起因する。網目修飾カチオンNMCは、網目構造内において隙間の位置を占め、非架橋酸素(NBO)を生成する。処理されたガラスの表面上の結合された網目構造は、イオンがガラスを通って拡散することを困難にし、OH-およびH+などのイオンが網目構造に浸透してガラス種と反応することを妨げる。したがって、熱処理されたガラスにおけるOH-の拡散は困難であり、それらの耐アルカリ性を増強する。H+の拡散が妨げられることによって耐酸性が増加し、処理された試料の表面付近におけるナトリウムの減少はわずかな程度となる。
【0102】
要約すれば、ガラス中に存在する多価元素を還元することによって、シリカリッチなガラス表面を作り出すことが可能である。ガラスの硬度と化学的耐性は、本発明による加熱および還元の組み合わせから得られる表面改質の結果として増強される。この安価で効果的な表面改質法は、還元可能な網目修飾カチオン(NMC)を含有するような、例えば、遷移金属を有するような、任意の酸化物ガラスを強化するために使用することができ、すなわち、通常、シリカリッチなガラスのために必要となるような高温でのガラスの溶融を必要とせずに、SiO2の特性に迫る特性を有するガラスを作り出すことが可能である。
【0103】
Taおよびtaの調査された範囲において、Taまたはtaの変化は、好ましくは、表面改質の程度を変化させるために使用することができる。熱処理の雰囲気は、組成、モルホロジー、および/または酸化還元状態に関して、表面がどのように改質されるかを主に決定する。調査したガラス特性に対する熱処理の雰囲気の効果を以下の表2にまとめる。
【0104】
(表2)熱処理雰囲気の関数としての、Tgにおいて16時間処理した6wtFeガラスに関する調査されたガラス特性における変化。++:5%超の特性の増加;+:5%未満の特性の増加;0:特性は変化せず(または誤差範囲内);−:5%未満の特性の減少;−−:5%超の特性の減少。すべての変化は、未処理の6wtFeガラスに対する割合である。
【0105】
表2は、いくつかの所望の特性を達成するために、適切な表面改質法を選択する際に使用され得る。ガラスのほとんどの用途において、H2/N2(1/99)中での処理の効果は、最も好都合である。
【0106】
図7は、実験戦略および使用した分析技術の概略図を示している。
【実施例】
【0107】
SiO2リッチな表面層の形成に対するアルカリイオンの影響
カチオンの内方拡散プロセスにおけるアルカリイオンの役割は、以下の疑問に答えることによって解明される。:
−アルカリ土類イオンの拡散率に対するアルカリイオンの影響とは何か?
−アルカリイオンがアルカリ土類イオンより遅いのは何故か?
−どのアルカリイオンが最も効果的に、SiO2リッチな表面層を作り出せるか?
【0108】
これらの疑問に答えるために、3つのタイプの拡散実験を行う。
第1に、SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズのガラスを、還元性H2/N2(1/99 v/v)雰囲気中で、所望の期間の間様々な温度で熱処理して、アルカリイオンの種類の関数としての、Ca2+拡散の活性化エネルギーを決定する。
第2に、拡散プロセスの初期段階を調べるために、短い期間で熱処理を実施する。
第3に、アルカリイオンおよびアルカリ土類イオンを有するガラスおよび有しないガラスを、それらの拡散プロフィールの観点から比較する。さらに、鉄含有ケイ酸塩ガラスの還元反応、密度、ガラス転移温度、および脆性に対するアルカリイオンの影響も調査する。
【0109】
これらの結果は、観察された拡散現象についての洞察を得るために使用される。
【0110】
これらの条件下において、Ca2+イオンはアルカリイオンより速く拡散すること、ならびにアルカリイオンの存在がCa2+の拡散率を減少させるということが見出された。SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、またはCs)ガラスシリーズにおいて、Ca2+拡散の活性化エネルギーは、Na+、K+、Rb+、およびCs+の順番に、アルカリのサイズに伴って減少する。この傾向は、液体脆性(liquid fragility)の減少に一致する。
【0111】
試料調製
6種のガラス(表3を参照のこと)を、分析用試薬グレードのSiO2、CaCO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、およびFe2O3の粉末から調製した。バッチを混合し、電気炉(SF6/17、Entech社)において、Pt90Rh10のるつぼ中で、1500℃で3時間溶融させた。その後、当該ガラス溶融物を真鍮のプレート上で冷却し、プレスして、直径7〜10cmおよび高さ約5mmの円筒状のガラスを得た。調製したガラスは、それぞれのガラス転移温度より約10K高い温度で10分間アニール処理し、その後、室温まで自然冷却させた。さらに、SiO2−CaO−Fe2O3−A2Oシリーズのリチウム含有ガラスの調製も試みたが、相分離のために不可能であった。
【0112】
(表3)化学組成、アルカリイオンの半径rA、密度、モル体積、ガラス転移温度Tg、および調製したガラスの脆性インデックス(fragility index)m a
arAは、配位数6の場合である8。Tgおよびmは、それぞれDSCおよび粘性測定によって決定した。bすべての鉄は、Fe2O3として示されている。cn.d.:調べられていない。
【0113】
円筒状のガラス試料(直径約8〜10mm;厚さ3mm)を調製した。拡散実験のための試料は、エタノール下においてSiCぺーパーを用いて、6段階の手順により、約2mmの厚さまで一方の表面を平たく研磨した。その後、3μmのダイヤモンドペーストで表面を注意深く磨き、最後にアセトンで洗浄した。還元反応を調べるために、紫外−可視−近赤外(UV−VIS−NIR)の分光測定を実施した。これらの実験のための試料は、均一な厚さを達成するために、同一の平面を研磨し、次いで、上述の手順を用いて0.2mmの厚さまで研磨した。
【0114】
試料のキャラクタリゼーション
ガラスの化学組成を、表3に記載する。それらは、S4−Pioneer分光計(Bruker−AXS社)において、蛍光X線(XRF)によって分析した。ガラス中の主な不純物は、Al2O3(約0.2モル%)であった。ガラスの密度は、He比重計(Porotech社)により測定した。それについても表3に示してある。
【0115】
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)機器(STA 449C Jupiter、Netzsch社)を使用して測定した。各計測に関する定圧熱容量(Cp)曲線は、空のるつぼで実施した補正を除した後に、サファイア参照試料のCp曲線に対して算出した。測定は、パージされたAr雰囲気中で実施した。Tgを決定するために、次の加熱手順を実施した。最初に、試料を、各試料のそれぞれのTg(K)の約1.11倍の温度まで、10K/分で加熱した。続いて、当該試料を、10K/分で室温まで冷却した。次いで、ガラスの熱履歴を確実に一様にするために、温度10K/分での二次アップスキャンによってTgを測定した。Tgは、転移領域の前のガラスCp曲線を外挿した直線と、転移領域内のCpの急上昇する曲線の変曲点における接線との間の交点として定義される。
【0116】
粘度は、ビーム曲げ(T>Tg)実験および共軸円筒(T>T液相線)実験によって測定した。ビーム曲げ実験では、長さ45mmおよび断面積3×5mm2のバーをバルクガラスから切り出した。当該バーを、40mm間隔の非対称3点荷重曲げモード(VIS401、Bahr社)において屈曲させた。300gの重りを使用して、10K/分の定加熱速度において、およそ1012〜109.5Pa・sの粘度範囲を調べた。粘度は、DIN ISO7884−4に従って算出した。低粘度(<103Pa・s)は、共軸円筒式粘度計を使用して測定した。粘度計は、加熱炉、粘度計ヘッド、スピンドル、および試料るつぼから成る。粘度計ヘッド(Physica Rheolab MC1、Paar Physica社)は、高温炉(HT7、Scandiaovnen A/S社)の頂部に取り付けた。スピンドルおよびるつぼは、Pt80Rh20製であった。粘度計は、米国規格基準局(NBS)710A標準ガラスを使用して較正した。
【0117】
熱処理
還元反応および拡散プロセスを誘導するために、磨いたガラスを、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下、1気圧において電気炉で熱処理した。ガラス試料を冷たい加熱炉に挿入し、ガス流を流した。次いで、加熱炉を、10K/分で予め決められた熱処理温度まで加熱し、所定の期間、この温度に維持した。その後、加熱炉を、10K/分で室温まで冷却した。
【0118】
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズのガラスを、それらのそれぞれのTg(K)の0.95倍、1.00倍、1.025倍、および1.05倍で2時間、それらのそれぞれのTgで60時間、ならびにSi−Ca−Fe−NaガラスのTg(892K)で60時間、処理した。さらに、Si−Ca−Fe−Naガラスを、そのTgにおいて、それぞれ0.2、1、8、および16時間処理した。三元Si−Ca−FeおよびSi−Na−Feガラスを、それらのそれぞれのTgにおいて2時間処理した。
【0119】
UV−VIS−NIR分光分析
通常、ガラス中の鉄は、Fe2+およびFe3+の状態で存在している。本作業においては、UV−VIS−NIR吸収分光分析を使用して、SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズの厚さ0.20mmの試料の中の鉄の原子価状態における変化を測定した。UV−VIS−NIRスペクトルは、UV−VIS−NIR Specord 200分光測定器(Analytik Jena AG社)を使用して、1nmの解像度で、300〜1100nmの波長範囲にわたって記録した。スペクトルは、参照として空気を用いて記録した。
【0120】
第一鉄(Fe2+)イオンは、1050〜1100nmに最大吸収を有する幅広い吸収ピークを有する。このピークの位置および最大吸収は、ガラス組成によって変わる。また、本発明のガラスの吸光係数はわかっていなかった。したがって、Si−Ca−Fe−Naガラスに対するランベルト・ベール式の吸光係数を算出した:A =c・ε・x、式中、Aは吸光度であり、cは濃度であり、εは吸光係数であり、かつxは試料の厚さである。別の研究において、メスバウアー分光分析により、このガラスの酸化還元状態[Fe3+]/[Fetot](ただし、[Fetot]=[Fe2+]+[Fe3+])が77±2%であることが見出された。[Fe3+]/[Fetot]比および鉄の総含有量を使用することによって、未処理のSi−Ca−Fe−Naガラス中の第一鉄の濃度を算出した。1075nm付近の吸光度を、試料の厚さ(0.12、0.20、0.40、および0.80mm)に対してプロットすることにより、直線関係を得た(R2=0.995)。このプロットの傾き(c・ε)から算出した吸光係数は、3.82L mol-1mm-1であった。
【0121】
二次中性粒子質量分析法
拡散プロセスを調べるために、電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)を使用して、表面の組成分析を実施した。測定は、Balzers QMH511四重極質量分析計およびPhotonics SEM XP1600/14増幅器を備えたINA3(Leybold AG社)機器において実施した。分析したエリアは5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の12の異なる方向において、スパッタされたクレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0122】
結果
図8は、A=Na、K、Rb、CsであるSiO2−CaO−Fe2O3−A2Oガラスにおける、粘度ηの、温度Tへの依存性を示している。所定の温度における、アルカリイオンのイオン半径rAの増加による粘度の増加は、低温データおよび高温データの両方に観察される。液体脆性インデックスを決定するために、粘度データを以下のMauro−Yue−Ellison−Gupta−Allan(MYEGA)式にフィットさせる。
式中、η∞、Tg、およびmは、フィッティングパラメータであり、η∞は、無限温度における粘度であり、mは、ガラス形成液体の脆性インデックスである。該脆性インデックスは、以下の式のように、Tgにおけるlogη対Tg/T曲線の傾きとして定義される。
【0123】
モデルでは、Tgにおける粘度は、酸化物ガラスに対して熱量測定されたTg値と同等であるように示されているので、1012Pa・sに等しいと設定される。MYEGA式では、Vogel−Fulcher−Tammann(VFT)およびAvramov−Milchev(AM)式と比較して、低温外挿の実施における精度が改善される。粘度データのフィッティングにおいて上記の式を適用する。フィッティングは、Levenberg−Marquardtアルゴリズムを使用して行う。フィットしたmの値は、rAの関数として、図8の差し込み図に示される。A=Na、K、Rb、CsであるSiO2−CaO−Fe2O3−A2Oシリーズのガラス溶融物では、アルカリイオンのサイズが増加すると共に、脆性が減少している。対照的に、ガラス転移温度は、rAと共に高くなる。
【0124】
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズの未処理のガラスおよび熱処理されたガラスのUV−VIS−NIRスペクトルは記載していない。しかしながら、最大吸収ピークがおよそ1075nmに見られ、これは、Fe2+イオンの存在によるものである。Fe2+ピークの最大吸収度および位置は、すべてのガラスにおいて同じである(±5%以内)。これは、初期[Fe3+]/[Fetot]比が、すべてのガラスにおいて、およそ同じであることを示している。このことは、ガラスに対して熱重量測定を実施することによって、さらに確認されている。酸素の組み込みによる質量増加は、6種すべてのガラスにおいて同じであった(±6%以内)。メスバウアー分光分析を使用することによって、未処理のSi−Ca−Fe−Naガラスが、Feイオンの77±2%をFe3+として含有していることが見出された。
【0125】
還元反応の動態を調べるために、Si−Ca−Fe−Naガラスを、そのTgである892Kにおいて2、8、16、および60時間熱処理した。処理時間taの増加に伴い、Fe3+がFe2+に還元されることによりFe2+バンドの吸光度も増加する。Fe2+濃度の変化は、処理時間の平方根に対してだいたい直線的に増加しており、これは、拡散律速動態が生じていることを意味している。それぞれのTgにおいて60時間、およびSi−Ca−Fe−NaガラスのTg(892K)において60時間熱処理されたSiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)ガラスのUV−VIS−NIRスペクトルは記載していない。ガラスを同じ温度で処理した場合、アルカリイオンの半径の増加に伴って、Fe2+ピークの吸光度における変化も増加している。ガラスがそれぞれそのTgにおいて処理される場合、その傾向は定性的には同じであるが、ガラス間の違いはさらに顕著となる。これは、Si−Ca−Fe−Csガラスが最も高いTgを有するためであり、したがって、該ガラスが最も高い温度で処理されるためである。
【0126】
6種のガラスにおいて還元により誘起された拡散プロセスを研究するために、SNMS技術を使用した。該方法は、深さの関数としてのガラスの表面組成についての情報を提供する。深さプロフィールは記載していない。しかしながら、H2/N2(1/99)中において1.05Tg=1010Kで2時間熱処理されたSi−Ca−Fe−Kガラスの深さプロフィールが見出される。カルシウム、カリウム、および鉄の減少が、表面付近において観察される。カルシウムの減少の程度は、カリウムおよび鉄の減少よりも大きい。定性的には、6種すべてのガラスは、それらのそれぞれのTg付近の温度での2時間の熱処理の結果として、同じタイプの、表面の網目修飾カチオンの減少を示す。該表面での減少は、Fe3+からFe2+への還元によって誘起されたこれらのイオンの内方拡散によって引き起こされる。内方拡散の結果として重要なのは、シリカリッチな表面層の形成である。H2/N2(1/99)中での熱処理の前は、ガラスは、深さの関数としての組成においては何の変化も示していない。拡散プロセスの初期段階を研究するために、Si−Ca−Fe−Naガラスを、そのTgにおいて1時間および0.2時間熱処理した。0.2時間処理されたガラスは、約50nmの層においてカルシウムおよび鉄が減少しているが、一方で、ケイ素およびナトリウムの濃度は、バルクよりもこの層においてより高いことを示している。処理時間が1時間まで延びると、カルシウムおよび鉄が減少した層の厚さが増加し、ナトリウムの内方拡散が生じる。その上、およそ50〜100nmの範囲の深さにおいて、ナトリウムが豊富であることが観察される。三元Si−Ca−FeおよびSi−Na−Feガラスを、それらのそれぞれのTgにおいて2時間熱処理した。Ca2+およびNa+のそれそれの内方拡散が、これらのガラスにおいても観察される。
【0127】
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)ガラスシリーズにおいて、カルシウム拡散の温度依存性を系統的に調査した。Ca2+の拡散に対するアルカリイオンの効果を定量的に分析するために、Ca2+の拡散深度(Δξ)を、連続した3回の測定に対してc/cバルク≧1である最初の深さとして算出する。アルカリ土類イオンのカチオン性内方拡散は、時間に対して放物線型であり、したがって、以下の式によりカルシウム拡散の速度定数k'を算出する。
式中、tdは拡散時間(2時間)である。k'は、律速種(二価のカチオン)の拡散係数と熱力学的駆動力(酸素活性における勾配)の積に比例する。したがって、k'の温度感応性から、アレニウス座標にデータをプロットすることによってカルシウムの拡散の活性化エネルギー(Ed)を得ることができる(図9)。各ガラスの拡散データにより、調べた温度範囲の温度に対するアレニウス型の依存性が明らかである。Edを各直線の傾きから算出し、アルカリイオンのイオン半径に対してプロットする。Edは、アルカリイオンのサイズの増加に伴って減少する。
【0128】
酸化還元−拡散プロセスに対するアルカリイオンの効果
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズのガラスを、Si−Ca−Fe−NaガラスのTg(すなわち、同じ温度)で熱処理する場合、還元度の順は、これらのガラスのモル体積と同じ傾向に従う(表3)。網目修飾体イオンは、網目構造における隙間のサイトを占めると考えられるため、それらは、小さなH2分子の通路を遮断する。したがって、ガラス構造が比較的隙間の空いている場合、H2分子がガラスに浸透することは、より容易である。それに対して、拡散データは、Ca2+の等温内方拡散が、Si−Ca−Fe−Naガラス、すなわち、最も小さいモル体積のガラスにおいて、最も速いことを示している。これは、2つの同時に起こるプロセス、すなわち、H2の浸透および正孔の外側方向への流れが、Fe3+からFe2への還元に寄与しているためである。前者のプロセスは、0.01barのH2での還元反応を支配している。したがって、(SNMSによって測定されるような)改質された表面層の厚さは、(UV−VIS−NIR分光分析によって測定されるような)還元度に、直接関連付けることはできない。換言すれば、2つのプロセスがFe3+の還元に寄与しているため、Fe3+の大きな還元度は、必ずしもSiO2リッチな厚い表面層をもたらすわけではない。
【0129】
したがって、大きいアルカリイオンが、ガラスにおいて最も遅いCa2+の等温拡散をもたらす別の理由があるはずである。Si−Ca−Fe−Csガラスは、当該ガラスの中で最も高いTgを有し、酸化還元により誘発されるこのタイプの拡散は、約0.8Tg(K)付近の温度で開始することがわかっている。アルカリ土類イオンの動きは、網目構造の粘性軟化とは切り離されているが、一見したところ、当該プロセスは、ある程度の粘性軟化を必要とする。したがって、ガラスが同じ温度で熱処理される場合、最も低いTgを有するガラスのCa2+拡散が最も速いであろう。
【0130】
Ca2+拡散の温度感応性は、rAの増加に伴って拡散活性化エネルギー(Ed)が減少することを示している。別の研究において、Greavesの修正ランダムネットワーク(MRN)モデルに基づき、ガラス網目構造内の相互接続チャンネル(interconnected channel)の存在が予測された。液体脆性を下げることによって、硬い系内のより単純な拡散経路により、アルカリ土類の拡散を高めることができることが見出された。SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズにおいて、Edとmとの間に正の相関が存在するので、このことにより、この研究における結果を説明できるかもしれない。
【0131】
内方拡散に関連して、この研究で得られた結果は、アルカリイオンの拡散が、二価のカルシウムイオンより遅いことをはっきりと示している。プロセスの初期において、アルカリイオンは、有効な程度までには拡散を開始しておらず、Ca2+およびFe2+の拡散が支配的である。これらのガラスの表面層におけるナトリウムの高濃度は、カルシウムおよび鉄の内方拡散に起因する。Si−Ca−Fe−NaガラスにおけるCa2+の拡散度は、三元Si−Na−FeガラスにおけるNa+の拡散度より大きいので、Ca2+拡散は、Na+の拡散より速い。該2種類のガラスはおよそ同じTgを有するので、該2種類のガラスは比較可能である。さらに、Si−Ca−Fe−CsガラスにおけるCa2+の拡散度が、三元Si−Ca−FeガラスにおけるCa2+の拡散度よりも小さいことから、アルカリイオンの存在が、アルカリ土類イオンの拡散率を減少させる。これらの2種のガラスも、ほとんど同じTgを有する。したがって、比較的遅いアルカリイオンの存在は、相互接続チャンネルにおける、より速いアルカリ土類イオンの拡散を遮断し得る。すなわち、遅いアルカリイオンが隙間を占め、それによって、充填密度が増加する。これらの隙間は、もはやアルカリ土類の移動のために使用することができない。
【0132】
アルカリ土類イオンがアルカリイオンより速い理由は、二価のアルカリ土類イオンが、正孔の外方向への流れに対して電荷的にバランスを取るために正の電荷を輸送するものとして最も好適であるから、ということのはずである。1つのアルカリ土類イオンが2つの正孔を中和するのに対し、1つのアルカリイオンが中和するのは、正孔1つだけである。さらに、アルカリ土類イオンは、三価の網目修飾体イオン(例えば、Al3+)よりも移動しやすく、これは、後者のイオンが、より強く酸素アニオンに結合するためである。アルカリイオンの拡散係数は、文献に見出されるものと比較して、内方拡散プロセスにおいての方がより小さいが、これは、後者の結果が、主に放射性トレーサーの使用によって得られたためである。
【0133】
結論
鉄含有ケイ酸塩ガラス中のガラス転移域におけるカルシウムイオンの拡散に対する、アルカリイオンの影響について研究した。拡散は、Tg付近の温度において還元性雰囲気中でガラスを熱処理することによって誘起される。移動性カチオンの内方拡散を必要とする、Fe3+からFe2+への還元が、この処理により生じる。Ca2+の移動度はガラス中に存在するアルカリイオンのタイプに強く依存し、ならびにCa2+の拡散がアルカリイオンの拡散よりも速いということが見出された。アルカリイオンの存在は、Ca2+の移動度を減少させ、ならびにアルカリイオンの半径の増加に伴って、Ca2+の拡散の活性化エネルギーが減少する。後者の傾向は、液体脆性の低下およびガラス転移温度の上昇と一致する。
【0134】
SiO2リッチな表面層の形成に対する多価元素の影響
この作業では、7種の異なる多価元素(Fe、Mn、Cu、Ce、Ti、V、およびCr)について、シリカリッチな表面層の形成に対するそれらの影響に関して調べる。これは、内方拡散のメカニズムを理解するためであり、ならびに本方法の幅広く最適な適用のために行われる。この作業の結果として、どの元素が、それぞれ結晶性酸化物層およびシリカリッチな層を得るためのガラス成分として最も好適であるかを見極めることができる。
【0135】
それぞれが次の多価金属:Fe、Mn、Cu、Ce、Ti、V、およびCrのうちの1種を含有する、7種のソーダ−石灰ケイ酸塩ガラスを、それぞれのガラス転移温度において所定の期間の間、空気中で酸化、およびH2/N2(1/99)中で還元した。酸化性条件下では、金属イオンがより低い原子価状態からより高い原子価状態へと酸化され、その結果、カルシウムイオンが外側方向へ拡散し、酸素イオンと反応するため、結晶性酸化物の表面層がガラス上に形成される(バナジウム含有ガラス除く)。対照的に、還元性条件下では、ナトリウムおよびカルシウムイオンが内部方向に拡散するので、シリカリッチな表面層がガラス上に形成される。外方拡散および内方拡散の両方の拡散度は、同じ条件の熱処理では、多価イオンのタイプに強く依存することが見出される。この作業において調べた7種の多価金属のうち、銅は、内方拡散および外方拡散の両方において最も高い拡散度の拡散を誘起し、したがって、無定形シリカおよび結晶性アルカリ土類酸化物の両方において最も厚い表面層を誘導した。酸化物層は、一次結晶化の開始温度を下げる。また、シリカリッチな表面層は、熱塩基性溶液中でのガラスの耐化学薬品性を高める。
【0136】
試料調製
7種のガラスを、3種の主要な分析用試薬グレードの化学薬品(SiO2、Na2CO3、およびCaCO3)および1種の少量の分析用試薬グレードの多価金属酸化物(Cr2O3、MnO2、CeO2、V2O5、CuO、Fe2O3、またはTiO2)から調製した。バッチ材料を、電気炉(SF6/17、Entech社)で、Pt90Rh10のるつぼ中で、1500℃で3時間溶融させた。次いで、該溶融物を真鍮のプレート上にキャストし、プレスして、直径7〜10cmおよび高さ約5mmの円筒状のガラスを得た。調製したガラスは、すぐに640℃で10分間アニール処理し、その後、密閉した電気炉において室温まで自然冷却した。ガラスの化学組成は、蛍光X線(S4−Pioneer、Bruker−AXS社)によって分析した。結果を表4に記載する。主な不純物は、Al2O3(<0.1モル%)であった。
【0137】
(表4)様々な多価酸化物(AxOy)を含有する、調製されたガラスの化学組成およびガラス転移温度(Tg)
【0138】
熱量分析
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定した。DSC測定は、同時熱分析装置(STA)(449C Jupiter、Netzsch社)おいて実施した。すべてのガラスについて、10℃/分でのアップスキャンおよびダウンスキャン(downscan)を2回実施した。二回目のアップスキャンの際の吸熱Cp(定圧熱容量)の急上昇の開始温度をTgと見なした。
【0139】
STA機器は、等温(すなわち、一定の温度での)加熱および動的(すなわち、一定の加熱速度で温度を上げながらの)加熱の両方の間に、DSCおよび熱重量(TG)信号の両方を記録するためにも使用し、ここから、多価イオンの酸化度を決定した。測定は、ガラス試料を粉砕し篩別した粉末状の試料において実施した。各ガラスについて、45〜63μmのサイズの分級物を収集した。ガラス試料を入れた白金るつぼおよび空の白金るつぼを、室温でSTAの試料担持部に置いた。試料から水を蒸発除去するために、最初に、るつぼを10℃/分の速度で300℃まで加熱し、15分間そのまま維持し、その後、室温まで冷却した。等温加熱実験では、両方のるつぼを60℃の初期温度で5分間維持し、10℃/分の速度でそれぞれのガラスのTgまで加熱し、その温度で6時間または12時間維持した。動的加熱実験では、るつぼを60℃の初期温度で5分間維持し、次いで10℃/分の速度で975℃まで加熱した。両方のタイプの加熱スケジュールの終了後、るつぼを10℃/分の速度で250℃まで冷却し、最終的に、自然な速度で室温まで降温した。モレキュラーシーブによって乾燥させた空気を、パージガスとして使用した。
【0140】
多価元素の酸化還元状態の決定
紫外−可視−近赤外(UV−VIS−NIR)Specord 200分光測定器(Analytik Jena AG社)を使用し、1nmの解像度で、UV−VIS−NIRスペクトルを300〜1100nmの波長範囲にわたって記録した。SiCペーパーを用いて6段階の手順によって研磨し、続いて3μmのダイヤモンド懸濁液を用いて磨いた、厚さ2.0mmの試料において測定を実施した。UV−VIS−NIRスペクトルを使用して、未処理のガラスに存在する多価元素の酸化還元状態を定性的に特定した。
【0141】
後処理およびキャラクタリゼーション
バルクガラスを、直径10mmおよび高さ2〜3mmの円筒状に切断した。次いで、各試料の一方の表面を、SiCペーパーを用いて6段階の手順により研磨し、続いて3μmのダイヤモンド懸濁液を用いて磨いた。カチオンの内方拡散を誘起するために、磨かれたガラスを、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下、電気炉で1気圧において熱処理した。ガラス試料を、冷たい加熱炉に挿入し、ガス流を流した。次に、加熱炉を、10℃/分でそれぞれのガラスのTgまで加熱し、その温度で6時間維持した。加熱炉を10℃/分で室温まで冷却して、拡散プロセスを終わらせた。カチオンの外方拡散を誘起するために、磨いたガラスを、大気条件下において同じ加熱手順を適用して熱処理した。
【0142】
電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)により、拡散プロフィールを決定した。SNMSを使用して、ガラス内の深さの関数として元素濃度を決定する。測定は、Balzers QMH511四重極質量分析計およびPhotonics SEM XP1600/14増幅器を備えたINA3(Leybold AG社)機器を使用することによって実施した。分析したエリアは、5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の12の異なる位置において、クレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0143】
化学的耐性試験
ガラス特性に対する内方拡散の影響を観察するために、熱塩基性溶液中における未処理の試料および熱処理された試料の両方の化学的耐性を測定した。試料の化学的耐性を、0.25MのKOH水溶液中(pH=13.2)で調べた。試験溶液(ガラスの表面領域1cm2に対して20cm3)を含むプラスチック容器中に試料を浸漬した後、該容器を、90℃でサーモスタット振盪装置に取り付けた(100rpmで撹拌した)。6時間後、試料を溶液から取り出した。浸出したCa2+イオンの濃度を、原子吸光分析(AAnalyst 100、Perkin Elmer社)を用いて、前記試験溶液中で測定した。
【0144】
結果および考察
未処理のCr含有ガラスおよびTi含有ガラスのUV−VIS−NIRスペクトルを測定した(記載せず)。Crは、ケイ酸塩ガラス中においてCr2+、Cr3+、およびCr6+として存在し得る。Cr2+による吸収バンドは全く観察されないが、一方で、Cr3+(445、640、660、および690nmにおいて)およびCr6+(360nmにおいて)の両方は観察される。Tiは、Ti4+およびTi3+として存在し得る。Ti4+は、UV範囲において電荷移動遷移のみが生じるd0電子配置を有する。したがって、Ti4+は無色であり、スペクトルにおいて、吸収バンドは全く観察できない。Ti3+は、570nmを中心とする単一のバンドを有し得ることが報告されているが、これは、この作業においては観察されていない。FeおよびMnは、それぞれ、Fe2+およびFe3+ならびにMn2+およびMn3+として存在し得る。二価状態および三価状態が、両方のガラスにおいて検出される。Vは、V3+、V4+、およびV5+として存在し得るが、V4+のみが検出される。V5+は、空気中で溶融されたケイ酸塩ガラス中に存在することが予想されるが、強い電荷移動バンドはUV範囲に見出され、これが、急なUV吸収端をもたらす。Cuは、Cu0、Cu+、およびCu2+として存在し得、Cu2+は、未処理のガラスのスペクトルにおいて観察され、一方で、Cu+は無色である。最後に、Ceは、Ce3+およびCe4+として存在し得る。両方の酸化還元状態が、UV範囲で吸収ピークをもたらし、したがって、それらは、急なUV吸収端のために観察することができない。表4には、この作業において調べた7種のガラスの化学的組成およびTgが示されている。予想されるように、より強い電界強度の多価金属イオン(Ti、Ce、Cr、V)を有するガラスは、その他のものよりも高いTg値を有する。例えば、Ti4+は、網目形成体として機能し、V5+は、ケイ酸塩網目構造の重合度を増加させるために役立ち得ることが知られている。
【0145】
製造されたままのガラスについての酸化プロセスおよび結晶化挙動に対する多価元素の影響を調べるために、粉末状試料に対して、空気中で10℃/分の加熱速度において、DSCおよびTG測定の両方を実施した。動的加熱に対する試料のエネルギー応答、および加熱の際のガラスの質量変化を、それぞれDSCおよびTGを使用して測定する。550℃を超える温度において、0.20%の質量の増加が観察された。質量の増加は、Cr2+からCr3+への酸化および/またはCr3+からCr6+への酸化が原因である。しかしながら、Cr2+は、酸化性溶融条件下において調製されたケイ酸塩ガラス中に非常に少量しか存在せず、かつUV−VIS−NIRスペクトルでは観察されないため、Cr2+からCr3+への酸化は無視することができる。鉄の酸化メカニズムによると、酸化反応により、金属表面酸化物の形成によるガラス中への酸素の組み込みが生じる。Cr3+からCr6+への酸化は、ガラス転移温度(Tg=633℃)と結晶化の開始温度(Tc=855℃)の間の約705℃において最大値を有するDSC曲線における弱い発熱ピークと関連付けられる。TG曲線(記載せず)の変曲点は、酸化ピークの最高点に対応している。
【0146】
空気中で10℃/分で加熱された7種のガラスのTGトレースを図10に示す。すべてのガラスは、Cr含有ガラスと同様の質量増加を示し、すなわち、調べたすべての多価元素は、酸化可能なイオンを有する。しかしながら、質量増加の程度は、ガラスによって異なる。酸化されたそれぞれの多価元素のモル数Δnを算出するためには、酸化反応の化学量論がわからなければならない。表4により、Cr含有ガラスおよびMn含有ガラスは、Tgを超えて加熱される場合、以下の反応を生じる。
4Cr3++3O2−>4Cr6++6O2-
4Mn2++O2−>4Mn3++2O2-
【0147】
第2の反応の化学量論も、Ti3+からTi4+へ、V4+からV5+へ、Fe2+からFe3+へ、Cu+からCu2+へ、およびCe3+からCe4+への酸化に対して有効である。加熱の際の試料の質量増加は、酸素が組み入れられたことのみに起因すると思われる。メスバウアー分光分析実験は、空気中で鉄含有アルミノケイ酸塩グラスファイバーを加熱している間に、Fe2+がFe3+へと酸化されるというこの仮定を確認するものである。以下の式によって、酸化されたモル数の正規化された値(Δnrel)を算出することができる。
式中、m0は、試料の初期質量であり、Δmは、最大の質量増加であり、かつ
は、酸素のモル質量である。xは、酸化される多価元素のモル数と酸化プロセスで消費されるO2のモル数との間の比であり、すなわち、xは、Cr3+からCr6+への酸化の場合、4/3であり、他方の酸化反応では、xは4である。動的加熱手法に対して式を使用して計算された値(Δnrel,dyn)を、表5に記載する。Cu+は、最大限に酸化されるが、一方で、Ti3+およびV4+は非常に限られた量が酸化される。
【0148】
(表5)製造されたままのガラスのΔnrel,iso、Δnrel,dyn、Tc、およびTp。Δnrel,isoおよびΔnrel,dynは、それぞれ、空気中においてTgで6時間等温加熱している間、および空気中において10℃/分で975℃まで動的に加熱している間に酸化された、多価元素の正規化されたモル数である。特性温度は、空気中で10℃/分のアップスキャン速度で実施したDSC測定から決定した。
【0149】
表5は、ガラスのTc(結晶化の開始温度)およびTp(結晶化のピーク温度)の値を示す。概して、結晶化は、大きな質量増加が生じる場合、すなわち、動的加熱の際の酸化度が高い場合に、より低い温度で生じる(図11)。空気中でのDSCアップスキャンの際に、低原子価状態のイオンの酸化が生じ、それによって酸化物表面層が形成される。X線回折(XRD)、原子間力顕微鏡法(AFM)、および二次中性粒子質量分析法(SNMS)を使用することによって、酸化物層がナノ結晶質であることが証明された。この研究で得られた結果は、ナノ結晶質層が、結晶化のための活性化エネルギーを下げることを示しており、これは、結晶が、表面で既に形成される核から成長し得るためである。これは、ナノ結晶質表面層が存在する場合、結晶化が表面において始まることがDSC実験によって示されている以前の研究の結果とも一致する。
【0150】
粉末状試料を、空気中でそれぞれのTgにおいて6時間等温加熱した際の質量増加も、TGによって測定した。図10の差し込み図に、Cr含有ガラスの質量変化が示されている。等温加熱手順の間に酸化されたモル数を正規化した値(Δnrel,iso)を、前述において言及した式を使用して算出し、表5に記載する。Δnrel,isoおよびΔnrel,dynの間には正の相関があり、すなわち、動的加熱の結果として大きな酸化度が生じる場合には、等温加熱の結果としても大きな酸化度が生じる。
【0151】
酸化および還元反応に関連する拡散プロセスを調べるために、測定の前に、それぞれのTgにおいて6時間、空気中で酸化するかまたはH2/N2(1/99)中で還元した7種のガラスの濃度の深度プロフィールを、SNMSを使用して測定する。未処理のガラスは、深さの関数としての組成において変化を示さないことに注目されたい。空気中で酸化されたCu含有ガラスのSi、O、Ca、およびNaの、濃度の正規化された深度プロフィールは記載していない。カルシウムの高い表面濃度が見出されるが、これは、Ca2+の外方拡散のためである。ナトリウムおよびケイ素の表面濃度が低いのは、表面付近においてカルシウムおよび酸素が豊富であるためである。H2/N2(1/99)中での熱処理の結果としての、Cu含有ガラスの濃度プロフィールは記載していない。ナトリウムおよびカルシウムの減少が、表面付近において見出されるが、これにより、表面層においてシリカの高濃度が生じる。SNMSによる多価元素の検出における不確実性は、比較的高いが、これは多価元素の濃度が低いためである。したがって、これらの元素が、熱処理の結果として拡散したかどうかを評価することは不可能である。
【0152】
空気中およびH2/N2(1/99)中で加熱される場合、すべてのガラスにおいて、それぞれCa2+の外方拡散および内方拡散が生じる。唯一の例外はV含有ガラスであり、該ガラスにおいては、空気中で熱処理しても、外方拡散が観察されない。これは、V4+の酸化が非常に制限されているためであるに違いない(表5)。様々なガラスにおけるCa2+の拡散度を定量的に比較するために、Ca2+曲線のピーク面積(ACa)およびCa2+の拡散深度(DCa)を算出する。該面積については、Ca2+のSNMS濃度曲線とc=cバルクを通る水平線との間を計算する。連続した3回の測定に対して、それぞれc/cバルク≦1およびc/cバルク≧1である最初の深度として、DCa,oxおよびDCa,redを算出する。算出値を表6に記載する。AとDとの間に正の相関が認められる。
【0153】
(表6)酸化性(空気)および還元性(H2/N2 1/99)雰囲気下で、それぞれのTgにおいて6時間熱処理された7種のガラスにおける、Ca2+のSNMSピーク面積および拡散深度。該面積については、Ca2+のSNMS濃度曲線とc=cバルクを通る水平線との間を計算する。
【0154】
所定の多価元素の酸化度が、拡散度と関係があるかどうかを調べるために、Δnrel,isoの関数として、ACa,oxをプロットする(図12)。ACa,oxおよびΔnrel,isoの両方が、等温加熱手順によって得られるが、ACa,oxは、バルク試料を使用することによって決定され、その一方で、Δnrel,isoは、粉末試料を使用して決定されたことに注目されたい。バルク試料を使用することによって質量変化を得た場合、表面積が小さいために、質量増加は、装置の検出限界を下回るであろう。図12は、Ca2+の拡散度が、多価元素の酸化度の増加に伴って、だいたい直線的に増加することを示している。これは、外方拡散が多価元素の酸化によって駆動されることを明確に示している。同様の傾向が、内方拡散度と多価元素の還元度との間において予想される。しかしながら、これは、白金のるつぼおよび試料ホルダーを使用するために、還元性のH2/N2雰囲気においてTG測定を行うことができないので、調べることができなかった。
【0155】
表6に表された結果に基づき、同じ熱処理条件下では、Cuが、最も厚い層を形成する元素であると結論づけられる。熱処理前に高度に還元または酸化されている元素は、最も薄い改質された表面層を形成する。これは次のように説明することができる。例えば、元素が、H2/N2(1/99)中での熱処理の前に完全に還元されている場合、還元され得るイオンの濃度は低く、したがって、形成される層も薄いであろう。他方で、元素がほぼ完全に酸化されている場合、還元可能なイオンの濃度は高いが、還元反応は熱力学的に不利であり、このことからも、結果として薄層が生じるであろう。
【0156】
ガラス特性に対する表面改質の影響は、未処理のガラスと熱処理されたガラスの両方について、0.25MのKOH溶液中(pH=13.2)での化学的耐性を決定することによって調べる。90℃で6時間後の浸出液中のCa2+の濃度を表7に示す。
【0157】
(表7)製造されたままのガラス、ならびに空気中およびH2/N2(1/99)中で、それぞれのTgで6時間熱処理されたガラスの化学的耐性。化学的耐性は、0.25MのKOH溶液中で90℃で6時間後のCa2+イオンの浸出量(c(Ca2+))によって表される。濃度測定は、±0.2mg/Lよりも良い精度で実施された。
【0158】
浸出実験の間、ヒドロキシルイオンが、Si−O網目結合を直接攻撃し、結果として、シラノール基(−Si−OH)が形成される。
表面からのガラスの連続した溶解は、このプロセスの結果である。未処理のガラスは、それほど異なった化学的耐性を有してはいない。空気中で酸化されているガラスの中には、対応する未処理のガラスよりも、塩基性溶液に対する耐性が低いものもある。これは、ケイ素の表面濃度が低いことによって説明されるが、それは、比較的多量のCa2+イオンを溶解するために、切断される必要のあるSi−O結合がほとんど無いためである。H2/N2(1/99)中で還元されたガラスの耐塩基性の増加は、処理されたガラスの網目構造の、Ca2+の内方拡散による高い結合性に起因する。空気中およびH2/N2(1/99)中で加熱された試料の両方において、化学的耐性は、改質された表面層の厚さに依存しているようである。
【0159】
結論
ケイ酸塩ガラスにおける7種の多価元素の酸化および還元は、表面付近の拡散プロセスをもたらす。酸化プロセスにより、結晶性酸化物の表面層が形成され、一方で、還元プロセスにより、シリカリッチな層が形成される。結晶性の表面層は、一次結晶化プロセスの開始温度を下げ、一方で、シリカリッチな表面層は、熱塩基性溶液中での化学的耐性を高める。網目修飾イオンの拡散メカニズムは、Tg付近の温度において多価元素を含有するすべてのガラスにおいて普遍的であるように思われる。最も厚い、改質された表面層を形成するためには、多価元素が、酸化および還元されたイオンの混合物としてガラス中に存在しなければならない。調べた元素の中で、同一酸化還元処理条件下において、Cuが最も厚い表面層を形成するのに最適の成分である。
【0160】
SiO2リッチな表面層の形成に対するアルカリ土類イオンの影響
ここで、SiO2−Na2O−Fe2O3−RO(R=Mg、Ca、Sr、Ba)ガラスシリーズにおける内方拡散プロセスに対するアルカリ土類イオンのタイプによる影響を調査する。さらに、カチオンの内方拡散が、ガラス転移域におけるガラスの粘性流動挙動、すなわち液体脆性と、相関があるか否か、およびどのような相関があるかを見出すことを試みた。後者は、一般的に受け入れられている、非アレニウス型流動度について説明する概念である。液体脆性は、ガラスの組成および構造に関連しており、ガラス構造は、正孔および網目修飾イオンの拡散のエネルギー障壁に強い影響を及ぼす。本作業において、速度論的脆性インデックスm(すなわち、Tgにおける、粘性の対数対Tg/Tの曲線の勾配)および熱力学インデックスCpl/Cpg(すなわち、Tgにおける、液状とガラス質の定圧熱容量の比)の両方を、液体脆性の測定値として決定する。最後に、カチオンの内方拡散プロセスは初期Fe3+濃度によって影響を受けるので、メスバウアー分光分析を使用して、鉄の酸化還元状態に対するアルカリ土類イオンの影響についても調べる。
【0161】
SiO2−Na2O−Fe2O3−RO(R=Mg、Ca、Sr、Ba)ガラスシリーズにおける、液体脆性とアルカリ土類イオンの(表面から内部方向への)内方拡散との相関関係を調べた。内方拡散は、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下における、ガラス転移温度(Tg)付近の温度での、Fe3+からFe2+への還元によって引き起こされる。このような拡散の結果、シリカリッチなナノ層が形成される。還元プロセスの際、拡散度(深さ)は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、およびBa2+の順に減少し、その一方で、脆性は、同じ順で増加する。Tgでの粘性流動のための活性化エネルギーEηに対するTg付近での内方拡散の活性化エネルギーEdの比率は、液体脆性の増加と共に増加することが見出される。カチオンの内方拡散は、化学組成を変えることによってガラス系の脆性を低くすることにより、高められる。
【0162】
試料調製
4種の鉄含有アルカリ−アルカリ土類ケイ酸塩ガラス(表8を参照のこと)を、分析用試薬グレードのSiO2、Na2CO3、MgO、CaCO3,SrCO3、BaCO3、およびFe2O3の粉末から調製した。混合したバッチ材料を、電気炉(SF6/17、Entech社)で、Pt90Rh10のるつぼ中で、1500℃で3時間溶融させた。次いで、該溶融物を真鍮のプレート上にキャストし、プレスして、直径7〜10cmおよび高さ約5mmの円筒状のガラスを得た。調製したガラスは、それぞれのガラス転移温度より10K高い温度で10分間アニール処理し、その後、20時間以内に室温まで冷ました。
【0163】
(表8)調製したガラスの化学組成、密度、モル体積(=モル質量/密度)、および鉄の酸化還元比。アルカリ土類イオンの半径rは、配位数6の場合である。
*すべての鉄は、Fe2O3として示されている。
【0164】
試料のキャラクタリゼーション
ガラスの化学組成は、蛍光X線(S4−Pioneer、Bruker−AXS社)によって分析した。結果を表8に記載する。主な不純物は、Al2O3(約0.2モル%)であった。ガラスの密度は、He比重計(Porotech社)により測定した。それについても表8に示してある。粉末状試料において透過型57Feメスバウアー分光分析を用いて、Feイオンの酸化還元状態に対するアルカリ土類イオンの影響を調べた。ロジウム中に57Coの線源を有する等加速度分光計を使用し、α−Feを用いて較正した。測定は室温で実施し、データは、各試料について1週間かけて収集した。アイソマーシフトは、較正スペクトルとの比較により得られる。
【0165】
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)機器(STA 449C Jupiter、Netzsch社)を使用して測定した。各計測についてのCp曲線は、空のるつぼを用いて実施した補正を除した後に、サファイア参照試料のCp曲線に対して算出した。測定は、パージされたAr雰囲気中で実施した。Tgを決定するために、以下の加熱手順を実施した。最初に、試料を、各試料のそれぞれのTg(K)の1.11倍の温度まで、10K/分で加熱した。続いて、該試料を、10K/分で室温まで冷却した。次いで、4種のガラスの熱履歴を確実に一様にするために、温度10K/分での二次アップスキャンによって、Tgを決定した。Cpl/Cpg比も、このスキャンによって決定した。液体脆性を決定するために、ビーム曲げ(T>Tg)実験および共軸円筒(T>T液相線)実験によって粘度を測定した。ビーム曲げ実験では、長さ45mmおよび断面積3×5mm2のバーをバルクガラスから切断した。該バーを、40mm間隔の非対称3点荷重曲げモード(VIS401、Bahr社)において屈曲させた。300gの重りを使用して、10K/分の定加熱速度において、およそ1012〜1010Pa・sの粘度範囲を調べた。粘度は、DIN ISO7884−4に従って算出した。低粘度(<102Pa・s)は、共軸円筒式粘度計を使用して測定した。粘度計は、4つの部分:加熱炉、粘度計ヘッド、スピンドル、および試料るつぼから成っていた。粘度計ヘッド(Physica Rheolab MC1、Paar Physica社)は、高温炉(HT7、Scandiaovnen A/S社)の頂部に取り付けた。スピンドルおよびるつぼは、Pt80Rh20製であった。粘度計は、米国規格基準局(NBS)710A標準ガラスを使用して較正した。
【0166】
拡散実験
上記の研究に基づくと、1μm未満の拡散深度が予想されるので、慎重に試料表面を調製した。最初に、バルクガラスを、直径10mmおよび高さ2〜3mmの円筒状に切断した。次いで、各試料の一表面を、SiCペーパーを用いて6段階の手順により研磨し、続いて1μmのダイヤモンド懸濁液を用いて磨いた。
【0167】
カチオンの内方拡散を誘発するために、磨いたガラスを、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下、1気圧において電気炉で熱処理した。加熱炉中の酸素の存在は、完全に回避することはできない。しかし、Fe3O4/Fe2O3酸化還元緩衝剤を使用することによって、その分圧を既知の値に維持することが可能である。Fe2O3およびFe3O4粉末を、3:2のモル比で混合し、該試料と一緒に加熱炉内に入れた。ガラス試料および酸化還元緩衝剤を冷たい加熱炉内に挿入し、ガス流を流した。次いで、加熱炉を、10K/分で予定された熱処理温度Taまで加熱し、期間taの間、この温度に維持した。加熱炉を10K/分で室温まで冷却して、拡散プロセスを終わらせた。ガラスは、それぞれのTg(K)の0.95倍、1.00倍、1.025倍、および1.05倍において2時間、ならびにそれらのTgで16時間処理した。さらに、Mg含有ガラスを、そのTgにおいて0.5時間および8時間処理した。
【0168】
電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)により、拡散プロフィールを決定した。SNMSは、ガラス内の深さの関数として元素の濃度を決定するために使用される。測定は、Balzers QMH511四重極質量分析計およびPhotonics SEM XP1600/14増幅器を備えたINA3(Leybold AG社)機器を使用することによって実施した。分析したエリアは5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の12の異なる位置において、クレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0169】
結果
295Kにおける未処理のCa含有ガラスの透過型57Feメスバウアースペクトルは記載していない。スペクトルに見られる2つの二重線は、常磁性のFe3+(0.28mm/sのアイソマーシフトおよび1.07mm/sの四極子分裂)およびFe2+(1.00mm/sのアイソマーシフトおよび1.86mm/sの四極子分裂)によるものである。Fe3+による六重線も、該スペクトルに見られる。これは、クエンチングの際に形成され得るクラスタの存在に起因し得る。六重線および2つの二重線は、4種すべてのガラスのメスバウアースペクトルに見られ、ピークの面積のみが異なっている。Fe3+(二重線および六重線)およびFe2+(二重線)の相対スペクトル面積を使用して、未処理のガラスのそれぞれに対して、Fe3+/Fetot比を算出する(表8)。
【0170】
4種のガラス組成についての、DSCアップスキャンの際に記録された定圧熱容量(Cp)曲線は記載していない。Tgは、転移ゾーンの前のガラスのCp曲線を外挿した直線と、転移ゾーン内のCpが急上昇する曲線の変曲点における接線との間の交差点において決定する。±3K内の精度のTg値を、表9に示す。Tgを、アルカリ土類イオンのイオン半径(r)の関数としてプロットする(記載せず)。配位数6の場合のアルカリ土類イオンの半径を、表8に記載する。Tgは、rの増加に伴って減少することが見出せる。
【0171】
(表9)DSCおよび粘度測定によって決定された、R=Mg、Ca、Sr、BaであるSiO2−Na2O−Fe2O3−ROガラスの特徴パラメータ。Fおよびmの誤差は、95%信頼限界内である。
【0172】
ビーム曲げおよび共軸円筒式粘度計から得られる、4種の組成物についての粘度データは記載していない。しかしながら、低温および高温のデータの両方に対して、rの増加に伴って粘度(η)の減少が観察される。ガラス形成液体の粘度の温度依存性について説明するために、以下のAvramov−Milchev(AM)式を適用する。
式中、A、B、F、Tgは定数であり、これらは、粘度データを式に対してフィットさせることによって得られる。Aは、logη∞であり、この場合、η∞は、無限温度における粘度である。Fは、ガラス形成液体の脆性インデックスであり、これは、周囲圧力における化学組成の関数である。F値が高くなれば、液体脆性は増す。Tgにおける酸化物ガラスの粘度は1012Pa・sに等しいので、当該式は、以下の数式のように簡素化され得る。
この式には、パラメータが3つしかない。Levenberg−Marquardtアルゴリズムを使用することにより、この修正AM式にデータをフィットさせる。この式は、Vogel−Fulcher−Tammann(VFT)式およびAdam−Gibbs(AG)式の両方よりも、より良くデータをフィットさせることがわかる。4種の組成物についてのF値を表8に示す。脆性は、インデックスmによっても説明され得るが、これは、Tgでのlogη対Tg/Tの曲線の傾きとして定義される。
Fは、以下の関係により、mに変換することができる。
mの算出値を表9に記載する。調べたガラス溶融物は、アルカリ土類イオンのサイズの増加に伴って、より脆くなっている。ここで説明する脆さは、いわゆる速度論的脆性である。速度論的脆性を、Tgにおける熱力学的特性変化と関連付けるいくつかの試みがなされてきた。熱力学的脆性の尺度として、液体の熱容量とTgでのガラスの熱容量との比(Cpl/Cpg)を使用することが提案されている。DSC測定値に基づいて、4つの組成物に対してCpl/Cpgを算出し、その値を表9に示す。Cplは、ガラス転移域を超えている超過したCpのオフセット値である。Cpgを決定するために、Tgより下の温度におけるCp値に対して一次関数をフィットさせる。Tgでのこの関数の値が、Cpgとして示される。表9の結果は、rの増加に伴って、Cpl/Cpgが増加することを示している。比較のため、ガラス転移時の熱容量の段階的変化(Cpl−Cpg)も算出して、表9に一覧する。Cpl/CpgとCpl−Cpgに、同様の傾向が観察される。
【0173】
H2/N2(1/99)下で、それぞれのTgにおいて16時間熱処理した4種のガラスにおける拡散プロフィールは記載していない。しかしながら、すべてのガラスが、表面付近においてナトリウム、鉄、およびそれぞれのアルカリ土類イオンの減少を示す。この内方拡散が、シリカの高い表面濃度をもたらす。未処理のガラスは、深さの関数としての組成においては変化を示さないことに注目されたい。データを定量的に分析するために、Ta=Tgに対して、アルカリ土類イオンの拡散深度(Δξ)を決定する(図12)。Δξは、連続する3回の測定に対してc/cバルク≧1である最初の深さとして算出される。図12は、アイソコム(isokom)温度でのアルカリ土類イオンの移動度の順は、Mg2+>Ca2+>Sr2+>Ba2+であることを示している。
【0174】
還元メカニズムが妥当な場合、アルカリ土類イオンの化学拡散が生じるはずであり、すなわち、拡散は、時間に対して放物線型のはずである。放物線型の動態は、以下のような統合された形式で表すことができる。
(Δξ)2=k't
式中、tは時間であり、かつk'は定数である。k'は、律速種の拡散係数と、(室温に対して)正規化された熱力学的駆動力の積に比例する。速度論的解析は、Mg含有ガラスにおいて、Ta=Tgでの加熱処理の期間(0.5、2、8、および16時間)に対して(Δξ)2をプロットすることによって実施する。決定係数(R2)0.999を有する直線関係が見出される(図13の差し込み図を参照のこと)。これは、速度論的特性が実際に放物線型であることを証明している。
【0175】
アルカリ土類の拡散の温度依存性を調べるために、一定の拡散時間での温度によるΔξの変化から、k'の温度感度を算出する。図14は、結果として得られるアレニウスプロットを示している。各ガラスに対する拡散データにより、温度に対するアレニウス型の依存性が明らかとなる(図14の実線を参照のこと)。各直線の傾きから、Tg付近での拡散の活性化エネルギー(Ed)を算出し、図14の差し込み図においてrの関数として示す。Edは、rの増加に伴って増加しており、したがって、アルカリ土類イオンの電界強度の減少に伴って増加している。
【0176】
アルカリ土類イオンの性質のみが変わり、その濃度は変わっていないので、ガラスの組成における小さな差異(表8)を無視すれば、非架橋酸素(NBO)の数は、すべてのガラスにおいて同じである。公知であるように、ケイ酸塩溶融物の脆性の差異は、ヒドロキシル含有量の小さな変化から生じ得る。しかしながら、ヒドロキシル含有量における違いは、主には溶融状態の差異に起因し、これは、この研究のケイ酸塩ガラスでは変更されていない。したがって、未処理のガラスのヒドロキシル濃度におけるごくわずかな変化のみが想定される。さらに、鉄の酸化還元比は、データの誤差範囲を考慮する場合、試料間で異なっておらず(表8を参照のこと)、これは、以前の研究の結果と一致している。したがって、Tg、脆性、および拡散において観察される変化は、NBOまたはFe3+の濃度では説明できない。該変化は、アルカリ土類イオンのサイズ(したがって、それらの電界強度)、イオンの充填密度、および結合角分布における違いに起因するはずである。
【0177】
アルカリ土類イオン(R2+)のrの減少に伴うTgの上昇は、網目構造全体の強化の結果と考えられるが、rの減少が、それらの電界強度の増加をも引き起こし、したがって、R2+イオンを囲んでいる[SiO4]四面体の構造グループに対するR2+イオンの誘引も高めるためである。Mg2+イオンは、近くの[SiO4]四面体を最も強く誘引し、したがって、ガラス転移を開始するためには、より高いポテンシャルエネルギー障壁を乗り越えなければならない。同様に、粘度は、rの増加に伴って、高温および低温の両方において減少する。アルカリ土類の電界強度に従って、ガラスのモル体積も、Ba>Sr>Ca>Mgの順に減少し、高い電界強度のカチオンに対して、構造にあまり隙間がないことを示している(表8)。
【0178】
(Fまたはmによって定量化された)速度論的脆性は、(Cpl/CpgまたはCpl−Cpgによって定量化された)熱力学的脆性と正の相関を示す。しかしながら、この相関関係は、小有機物液体およびポリマー性液体には当てはまらず、一方で、無機ガラス形成液体に対しては該相関が存在する。本作業において調べたガラスシリーズにおいて、脆性は、アルカリ土類イオンのrの増加に伴って増加することが見出される。これは以下のように説明することができる。より脆弱な液体では、より脆弱でない液体よりも温度による液体の構造の変化が大きい。Mg2+の高い電界強度は、高度の短距離秩序をもたらし、これが、温度の上昇によって構造が急速に崩壊することを防ぐ。
【0179】
拡散実験では、Mg2+イオンが、アイソコム温度において最も速く、ならびに最も低いEdを有することが示された。アルカリおよびアルカリ土類イオンの半径が同じであれば、アルカリ土類イオンが、アルカリ−アルカリ土類ケイ酸塩ガラス内において最も移動性を有していることが、以前に報告されている。1つの八面体サイトから別の八面体サイトへのアルカリ土類イオンのジャンプは、電気双極子モーメントを誘起する高い負電荷密度を残す。このモーメントが、アルカリ土類イオンの後方へのジャンプをもたらし得る。しかしながら、アルカリイオンとアルカリ土類イオンが同じ半径を有する場合、高い移動性を有するアルカリイオンは、容易に、アルカリ土類イオンのサイトに入ることができ、したがって、後方ジャンプの確率が減少する。本発明のナトリウムアルカリ土類ケイ酸塩ガラスでは、Na+の半径(1.02Å)がCa2+の半径(1.00Å)と非常に似ているので、Ca2+イオンは、最も移動が速く、ならびに最も低いEdを有しているはずである。加えて、鉄の還元が、アルカリイオンの拡散を引き起こす(拡散プロセスにおけるNa+の役割については、後述において説明する)。これらの要因が、空のアルカリ土類イオンのサイトにジャンプするNa+の能力を制限する。このことは、Ca2+が本発明のガラスにおいて最も移動の速いイオンであると見出されない理由を説明し得る。
【0180】
MRNモデルにより、網目修飾酸化物は、相互接続されたチャンネル(すなわち、パーコレーションネットワーク(percolative network))を非常に高い濃度で形成する。パーコレーションの閾値は、16体積%の修飾酸化物において生じるが、本作業において調べたガラス組成は、これを超えている。アルカリ土類イオンは、それらのサイズが最も小さい場合に、チャンネルを通って最も速く拡散するはずであり、このことは、アイソコム温度における本発明者らの拡散結果を説明する。拡散の活性化エネルギーは、カチオンとNBOとの間のクーロン相互作用による静電気的条件と隣接するサイトへの出入口を開く弾性要素との合計である。本発明のガラスでは、最も小さいアルカリ土類イオンが、チャンネルを通って最も容易に移動するために、最も低いEdを有するので、後者の条件が、活性化エネルギーを支配している。チャンネルは、[SiO4]四面体によって構成されており、すなわち、必要となる酸素の置換は、小さなアルカリ土類イオンに対しては比較的少ない。
【0181】
イオンの拡散と脆性との間の関係を調べるために、図15においてmに対してEdをプロットする。mは、Edに比例していることが見出され、これは、ガラス中のアルカリ土類イオンの拡散が、液体脆性に関係していることを意味している。これは次のように説明することができる。硬いガラス系は、脆いガラス系よりも小さな配位エントロピー(Sc)を有する。Scは、温度Tにおいて得ることができる、可能な充填状態の存在量によって決まる純液体のエントロピーの一部である。したがって、脆性は、状態の多様性(局所的ポテンシャルエネルギーの最小値)に依存しており、すなわち、硬い系は、脆い系よりも利用できる状態がより少ない構造を有するであろう。したがって、アルカリおよびアルカリ土類イオンは、硬い系における単純な拡散経路により、脆い系よりも硬い系において、より速く拡散するはずである。
【0182】
ガラス中のアルカリ土類イオンの拡散が、網目構造の粘性流動に関連しているかどうかを調べるために、以下の関係を考慮する。
Eη=mTgRln10=(12−logη∞)FTgRln10
式中、Eηは、Tgでの粘性流動の活性化エネルギーであり、Rは気体定数である。図15において、EdをEηに対してプロットしており、明かな直線関係が観察されるが、Ed/Eη比は1より小さい。Stoke−Einstein式により、粘度の増加に伴って、拡散の活性化エネルギーは増加する。しかしながら、イオンは、活性化エネルギーの最も低い輸送経路を使用するので、すなわち、イオンは、構造単位の協調的な再配列よりも速く流れるので、該式は、イオン移動を予測するためには使用できない。言い換えれば、アルカリイオンおよびアルカリ土類イオンの拡散は、網目構造の変化から切り離されている。
【0183】
拡散プロセスにおけるNa+の役割は、複雑なように見える。アルカリイオンは、ガラス中で最も移動の速いイオンであると通常考えられるが、Na+の拡散深度は、概して、アルカリ土類イオンの拡散深度よりも小さく、これは、本発明者らの以前の研究と一致している。加えて、(周囲のNa+濃度と比較して)Na+の豊富なピークは、R=Ca、Sr、およびBaの熱処理された試料の表面付近に見出せるが、R=Mgでは見出されない(記載されず)。このピークの高さと幅は、Taおよびtaの減少に伴って減少する。これらの結果は、Na+が、初期の内方拡散の後に、表面へ戻るように拡散していることを意味している。このことは、デカップリング比の値により示されるような、アルカリ土類イオンおよびナトリウムイオンの相互拡散メカニズムの存在に適合する。これらの問題は、68SiO2−23CaO−8R2O(R=Na、K、Rb、Cs)−1Fe2O3ガラスにおける、還元により誘発された拡散を調査することによって、今後の研究においてより詳細に取り組まれるであろう。
【0184】
カチオンの内方拡散プロセスの他の特徴について、以下において説明する。拡散プロフィール(記載せず)は、Ca2+、Sr2+、およびBa2+の拡散が様々な段階で生じ、その一方で、Mg2+の場合はそうでないことを示している。Mg含有ガラスでは、深さによる濃度変化は、およそ直線的である。Ca2+、Sr2+、およびBa2+の内方拡散は、これらの比較的大きいイオンの蓄積のために、より深いところでは減速するかもしれない。このことは、濃度対深さ曲線の傾きが突然変わる深さが、rの増加に伴って減少するように見える理由を説明するであろう。
【0185】
内方拡散プロセスは、Fe3+からFe2+への還元によって駆動されるが、Fe2+は、それ自身が拡散することができる。6配位でのFe2+のイオン半径は、高いスピン状態に対して0.78Åである。鉄の拡散データから、2つの一般的な特徴が明らかとなる。第1に、Fe2+の拡散深度は、rの増加に伴って減少する。第2に、rの増加に伴って、Fe2+の拡散深度とアルカリ土類イオンの拡散深度との間の比率(ΔξFe/ΔξR)は減少する(平均で、R=Mgでは0.9、R=Baでは0.4)。これらの観察結果は、より大きいアルカリ土類イオンによって生じる、Fe2+の拡散に対する立体障害によって説明される。
【0186】
結論
鉄の還元によって駆動される内方拡散プロセスにより、ケイ酸塩ガラスにおけるガラス転移領域でのアルカリ土類イオンの拡散、および液体脆性との関係について調べた。脆性は、アルカリ土類イオンのイオン半径の増加に伴って増加することが見出される。ガラスをTg付近の温度で熱処理することにより、Fe3+からFe2+への還元による移動性カチオンの内方拡散が生じるので、該熱処理によって拡散を調べる。決定した拡散の活性化エネルギー(Ed)により、小さいアルカリ土類イオンは最も移動可能であること、および脆性の増加に伴ってEdが増加することが明かとなる。本明細書において、修正ランダムネットワークモデルに基づいて結果を説明したが、該結果は、調べたガラスにおけるパーコレーションチャンネルの形成を予測するものである。小さいイオンは、[SiO4]四面体によって構成されるこれらのチャンネルを通って、最も容易に移動する。この結果は、ガラス系の脆性を低くすることによって、カチオンの内方拡散が増強されることを示唆している。拡散メカニズムに従って、アルカリ土類イオンが最も低い活性化エネルギーの移動経路を使用することによって、ガラスの網目構造のゆっくりとした協調的再配列を回避するため、Ed<Eηが見出される。カチオンの内方拡散プロセスを使用して、ガラス表面上にシリカリッチなナノ層を形成することが可能であり、この研究において得られた結果は、Mg2+イオンが、アイソコム温度において最も効率的にこの層を形成することを示している。
【0187】
SiO2リッチな表面層の形成に対する還元性ガスの影響
大気中において、より高い圧力で、H2よりも大きい還元性分子のガスを使用して、シリカリッチな層の形成を誘発できるか否かについて調べるために、鉄含有ケイ酸塩ガラスのTgにおける熱処理のための還元剤として、CO/CO2(98/2 v/v)雰囲気を適用する。その後、CO/CO2で処理されたガラスの表面層の濃度プロフィールと、H2/N2(1/99)で処理されたガラスの表面層の濃度プロフィールとを比較する。シリカリッチな表面層の形成の、ガラスのタイプへの依存性に関する情報は、内方拡散プロセスのメカニズムを明確にするために、ならびに表面改質技術の適用のために重要である。
【0188】
鉄含有ケイ酸塩ガラスが、CO/CO2(98/2 v/v)またはH2/N2(1/99 v/v)ガス中において、ガラス転移温度付近の温度で熱処理された場合に、網目修飾カチオンの内方拡散が、該ガラスにおいて生じ得ることが見出される。第二鉄から第一鉄イオンへの還元によって内方拡散が生じ、この拡散によって、厚さ200〜600nmの、シリカリッチな表面層が形成される。網目修飾二価カチオンの拡散係数を算出し、それらは、COガス中およびH2ガス中で処理されたガラスでは異なっている。COおよびH2の、適用された分圧では、H2含有ガスは、CO含有ガスよりも効果的にシリカリッチな層を形成する。該層は、表面層中のシリカ網目構造により、ガラスの硬度および化学的耐性を増加させる。
【0189】
実験
大気下で1500℃で分析用試薬グレードの原料の混合物を溶融させ、6wtFeおよび3wtFeと名付けた2種のガラスを調製した。6wtFeガラスの組成(重量%)は、SiO2:69.4、CaO:10.8、MgO:9.3、Na2O:4.4、およびFe2O3:6.1であり、一方で、3wtFeガラスの組成(重量%)は、SiO2:71.0、CaO:11.1、MgO:9.6、Na2O:4.5、およびFe2O3:3.2である。なお、すべての鉄(Fe2+およびFe3+)は、Fe2O3として示されている。NaOおよびCaOは、それぞれの炭酸塩を使用してバッチ中に導入した。SiO2は、石英として、Fe2O3はFe2O3として、およびMgOはMg(OH)2・(MgCO3)4・(H2O)5として導入した。
【0190】
粉末状試料に対して、従来の透過型57Feメスバウアー分光分析測定を使用して、未処理の鉄含有ガラスの鉄酸化還元状態を決定した。ロジウム中に57Coの線源を有する等加速度分光計を使用した。分光計は、室温でα−Feの薄片を使用して較正した。[Fe3+]/[Fetot]比(式中、[Fetot]=[Fe2+]+[Fe3+])は、両方のガラスについて約0.7であることが見出された。6wtFeおよび3wtFeのTg値は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定し、それぞれ、926Kおよび921Kであることが見出された。
【0191】
得られたガラスは、円筒状に切断し、次いで、エタノール下で6段階の手順によりSiCペーパーで研磨し、続いて1μmのダイヤモンド懸濁液で磨いた。H2/N2(1/99)雰囲気中で、電気炉において1気圧で実施した。ガラス試料を冷たい加熱炉に挿入し、ガス流を流した。加熱炉の加熱および冷却は、10K/分で実施した。CO/CO2(98/2)での処理も同様に実施したが、加熱および冷却速度は5K/分であった。酸素の分圧は、Fe3O4/Fe2O3酸化還元緩衝剤を使用することによって、H2/N2(1/99)雰囲気において既知の値に維持した。Fe2O3およびFe3O4粉末を3:2のモル比で混合し、該試料と一緒に加熱炉内に入れた。CO/CO2(98/2)雰囲気において、酸素分圧は、CO−CO2−O2平衡よって制御した。
【0192】
フーリエ変換赤外(FT−IR)および紫外−可視−近赤外(UV−VIS−NIR)吸収スペクトルは、二重に研摩した0.2mm厚のガラススライドを使用して、それぞれ、Bruker Vertex 70 FT−IRおよびAnalytik Jena UV−VIS−NIR Specord 200スペクトル光度計により測定した。組み込まれたOH基およびCO3基はIRスペクトルにおいて検出可能なので、FT−IRスペクトルから、ガラス中へのH2およびCOの浸透を調べることができる。UV−VIS−NIRスペクトルを記録し、鉄酸化還元状態の変化を、熱処理条件の関数として決定した。Fe2+イオンは、1050nm付近に最大吸収ピークを有するが、その位置および強度は、ガラス組成によって変わる。本発明のガラスにおける吸光係数はわかっておらず、したがって、以下のLambert−Beer式の吸光係数を算出した。A = c・ε・t、式中、Aは吸光度であり、cは濃度であり、εは吸光係数であり、並びにtは試料の厚さである。[Fe3+]/[Fetot]比および鉄の総含有量を使用することによって、未処理の6wtFeガラス中の第一鉄の濃度を算出した。1050nm付近の吸光度を試料の厚さ(0.12、0.20、0.40、および0.8mm)に対してプロットすることにより、直線関係を得た(R2=0.997)。このプロットの傾き(c・ε)から算出した吸光係数は、3.90Lmol-1mm-1であった。
【0193】
カチオンの拡散プロセスを調べるために、INA 3(Leybold AG社)機器により、電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)を使用して、ガラス表面の組成分析を実施した。分析したエリアは、5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の10の異なる位置において、クレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0194】
熱処理されたガラスの2つの特性を試験した。ビッカース硬度は、Struers Duramin 5 微小硬度計を使用し、0.25Nの負荷と最大負荷における5秒の保持時間とにより、各試料に対して25回測定した。押し込みの対角線の長さは、光学顕微鏡(反射法)を使用して測定した。化学的耐性は、0.25MのHClおよびKOH溶液中での溶解の後の、Na+およびMg2+イオンの浸出量を測定することによって試験した。試料を、ガラスの表面領域1cm2に対して20cm3の試験溶液が入ったプラスチック容器中に浸漬した。該容器を、90℃でサーモスタット振盪装置に取り付け(100ppmで撹拌し)、12時間後、前記試料を前記溶液から取り出した。原子吸光分析(AAnalyst 100、Perkin Elmer社)を用いて、試験溶液中のNa+およびMg2+の濃度を測定した。
【0195】
結果および説明
図16は、それぞれH2/N2(1/99)またはCO/CO2(98/2)中で、Tgにおいて16時間熱処理したガラスのUV−VIS−NIRスペクトルを示している。最大吸収ピークは、1050nm付近に見られ、これは、Fe2+イオンの存在によるものと考えられる。ガラスを、H2/N2(1/99)またはCO/CO2(98/2)中で所定の期間の間処理すると、Fe2+バンドの強度が増加し、これは、Fe3+がFe2+へと還元されていることを示している。Fe2+濃度の変化(Δ(Fe2+))は、熱処理の期間の平方根(ta0.5)に対しておよそ直線的に増加しており、これは、拡散律速動態が生じていることを意味している(図16の差し込み図を参照のこと)。ガラスの熱処理の効果をIRによって測定した(記載せず)。3550cm-1および2850cm-1のバンドは、それぞれ、弱く水素結合したOH種および強く水素結合したOH種のO−H伸縮振動によるものである。1860cm-1および1630cm-1付近のバンドは、シリカガラスマトリックスのコンビネーションモード(combination mode)および倍振動に起因し得る。1510cm-1および1425cm-1に位置するバンドは、化学的に溶解している炭酸塩種の振動に起因する。炭酸塩の酸素の1つは、非架橋酸素(NBO)を介して四面体サイトに取り付けられている。この複合体は、Ca2+に連結されている。以下の反応は、H2/N2(1/99)およびCO/CO2(98/2)での処理の結果として観察されるバンドを説明する。
H2+2NaFe3+O2+4SiOSi→4SiO(Fe2+)0.5+2SiOH+2SiONa
CO+2NaFe3+O2+SiOCa0.5+3SiOSi→4SiO(Fe2+)0.5+SiCO3Ca0.5+2SiONa
【0196】
前記の表記法において、前記式は、酸素アニオンの結合環境を表している。NaFe3+O2は、Fe3+を表しており、これは、酸素が四面体状に配位し、Na+によって電荷的にバランスが取られている。SiOSiは、2つのシリカ四面体を接続している架橋酸素に対応している。SiOHは、ヒドロキシル基を含有するシリカ四面体である。SiCO3Ca0.5は、NBOおよびCa2+に結合している炭酸塩種である。SiO(Fe2+)0.5、SiONa、およびSiOCa0.5は、それぞれ、Fe2+(八面体配位)、Na+、およびCa2+が、NBOに結合していることを表す。要約すれば、前記結果は、H2およびCOの両方が、ガラスに浸透することができることを示している。COの分圧は、H2の分圧よりかなり高いにもかかわらず、Fe3+の還元度は、CO/CO2(98/2)中よりもH2/N2(1/99)中の方が高い。これは、H2分子のより小さなサイズに起因する、該分子のより速い浸透速度によって説明される。H、C(sp)、およびOの共有結合半径に基づいて、H2およびCO分子の長さは、それぞれ1.2Åおよび2.7Åと算出された。
【0197】
CO/CO2(98/2)中でそのTgにおいて16時間熱処理された6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールは記載していない。しかしながら、表面方向に向かって、Mg2+、Ca2+、およびFe2+の濃度の著しい減少が観察される(厚さ:300〜350nm)。Na+も、内部方向に向かって拡散する。アルカリイオンは、自身のより低い電荷によって、ガラス中において、通常アルカリ土類イオンよりも速く移動することが見出されるが、Na+の拡散深度は、Mg2+、Ca2+、およびFe2+の拡散深度より小さく、これは、上記の研究と一致する。正孔が外方へ向かう流れに対して電荷的にバランスを取るように内方拡散が生じ、電荷は二価のカチオンによって最も効果的に輸送され得る。
【0198】
100〜150nmの範囲の深さにおいてNa+が高濃度であるのが観察されることに注目されたい。これは、Mg2+、Ca2+、およびFe2+イオンの減少により比較的高いNa+イオン濃度が生じるため、この範囲におけるそれらの減少が原因と思われる。網目修飾カチオンの表面減少が、2つの理由から、研磨手順によるものではないことに注目されたい。第一に、ガラスは、SiCペーパーを使用してエタノール下において研磨され、ダイヤモンドペーストを使用して磨かれたので、すなわち、カチオンの浸出は生じるはずがない。第二に、未処理のガラスのSNMSプロフィールは、いかなるカチオンの内方拡散も示していない。
【0199】
CO/CO2中で処理されたガラスのSNMSプロフィール(図17)は、CO/CO2(98/2)中でのFe3+還元のメカニズムが、H2/N2(1/99)中でのそれと同じであることを示している。Fe3+の内部還元により、正孔(h・)が生成される。反応領域における酸素活性の勾配によって駆動される、h・の外方向への流れが生じる。h・は表面において、イオン性酸素によって放出された電子により埋められ、酸素は、CO2として還元性雰囲気中に放出される。h・の外方向への流束は、電荷的バランスを維持するために、網目修飾カチオンの内方向への流束を伴う。したがって、カチオンの内方拡散は、多価カチオンの、高い原子価状態から低い原子価状態への還元によって駆動される。反応が、二価のカチオンの拡散によって律速されるか否かを調べるためには、二価カチオンの拡散係数を計算し、同様に重合されたガラスにおける二価のカチオンの拡散係数の既知の値と比較すべきである。二価のカチオンの拡散係数
は、以下の式を使用して算出することができる。
式中、Δξは、網目修飾体層の厚さであり、
は、二価のカチオンM2+のカチオンモル分率であり、Δtは反応は時間であり、
は自由表面での酸素の分圧(すなわち、活性)であり、ならびに
は、内部反応フロントでの酸素分圧である。
は、CO−CO2−O2平衡によって一定に保たれており、Tg=653℃において5・10-27barに等しい。
は、初期の鉄の酸化還元比に依存しており、Tg=653℃においておよそ5・10-3barであると算出される。これらの値を上記の式に代入すると、CO/CO2(98/2)中におけるFe2+カチオンの拡散係数として約1・10-18m2/sが得られる。この値は、同様の重合ガラスにおける二価の網目修飾カチオンによる拡散の測定値に良く一致する。これは、前記メカニズムを明確に証明するものである。したがって、COの浸透および正孔の外方向への流れの両方が、Fe3+の還元に寄与している。
【0200】
要約すれば、カチオンの内方拡散により、鉄含有ガラスにおいてシリカリッチな表面層の形成が生じる。CO/CO2(98/2)中で、そのTgにおいて16時間処理した3wtFeガラスでは、層の厚さは約200nmである。このことは、Fe3+イオンの濃度を下げると、二価のイオンの拡散度が減少し、したがって、層がより薄くなることを意味している。6wtFeガラスをH2/N2(1/99)中で熱処理する場合も、層が形成される。しかしながら、この場合、その厚さは、Tgにおいて16時間で約600nmであり、これは、約5・10-18m2/sの
の値を与える。このことは、926K(Tg)での酸化ポテンシャルは、COの方がH2より大きいが、シリカリッチな表面の形成には、COよりもH2の方がより効果的であることを示唆している。この層の厚さの違いは、2つの気体分子のサイズの差によるものであるに違いない。表面において正孔を中和するために、H2分子およびCO分子は、最初に、最上表面層中に浸透し、続いて、構造内に溶解し、同時にガラス構造中の第二鉄イオンに接触して還元するに違いない。浸透プロセス、したがって還元プロセスは、分子が小さい場合に、より容易である。
【0201】
未処理の試料および熱処理した試料の硬度および耐化学薬品性を表10に示す。構造的見地から、アルカリ土類カチオンおよびアルカリカチオンは、連続するSi−Oランダムネットワークを崩壊させ、それによって、NBOがガラスに導入される。表面からそれらを除去することにより、ガラスの硬度および耐化学薬品性が明らかに増加する。H2雰囲気中において処理することによって、最も厚いシリカリッチな層が形成されるので、前記増加は、H2処理の結果で最も顕著である。
【0202】
(表10)6wtFeガラスのビッカース硬度(Hv)および化学的耐性に対する、熱処理の雰囲気の効果。処理済の試料はすべて、Tg=926Kにおいて16時間加熱してある。ガラスの化学的耐性は、0.25MのHCl溶液中で12時間後のNa+の浸出した量(C(Na+)酸)および0.25MのKOH水溶液中で12時間後のMg2+の浸出した量(C(Mg2+)アルカリ)によって表される。
【0203】
結論
鉄含有ガラスをCO含有雰囲気およびH2含有雰囲気の両方においてそのTgで熱処理することによって、シリカリッチな表面層を形成することができる。該層は、網目修飾カチオンの内方拡散により形成される。二価のカチオンの拡散係数を算出することによって、内方拡散のメカニズムが明確になった。ガラス表面は、表面からの網目修飾カチオンの除去により、さらに構造的に重合されるようになる。その結果、ガラスの硬度および化学的耐性が増強される。さらに、内方拡散度は、CO処理の場合よりもH2処理の方が、結果としてより大きい。これは、H2が、COよりも小さいサイズを有するという事実によるものと考えられ、そのために、表面構造内において、前者の方が後者よりも、より容易に第二鉄イオンを還元する。
【0204】
継続中の実験作業
継続中の実験作業では、実験的および/または理論的手法および方法によって、以下観点についてさらに詳細に調査してもよい、または調査している。
・シリカのナノ層を実現するための、様々なガラス組成についてのさらなる解明。これには以下のものが挙げられる。
−本発明を可能にするための、特に実用的実装のための、ガラス中における多価イオンの濃度の最も低い限界についての見極め。
−標準的医療用ガラス(ホウケイ酸塩ガラス、重量%; SiO2:75〜80、B2O3:10〜13、Al2O3:2〜5、Na2O:4〜7、CaO:0〜2)において、または窓用ガラスにおいて、多価元素を添加することによるSiO2リッチな表面ナノ層の形成。
・ナノ層の形成に影響を及ぼす、混合気体中のH2濃度に対する影響についてのさらなる解明。
−ガラス組成に依存して、H2は多少可溶性であろう。したがって、H2の様々な濃度は、結果として内方拡散を生じる(おそらく、H2がより可溶性の場合、内方拡散を得るためには、より低いH2濃度を必要とする)。
・ガラスにおける内方拡散のメカニズムを説明するための物理的および数学的モデルのさらなる解明。
・ナノ構造層のより正確なキャラクタリゼーション。
−表面層(未処理のペリクレース層、およびシリカリッチな層)のTEM画像から、これらの層の構造に関する洞察が得られる。
−XPS:最上(数nm)層のキャラクタリゼーション
−系統的なCEMS(転換電子メスバウアー分光分析)調査
・様々なタイプのガラス上にナノ層を実現するための、熱処理における最適な温度および期間の見極め。
・形成されたナノ層による、ガラスの特性に対する影響についてのさらなる解明。
−(ナノインデンテーションによる)硬度
−様々な溶液における化学的耐性
−光学:反反射(antireflection)、IR吸収(熱)、屈折率など
−表面層のTg
−高温安定性:改質された表面を高温で空気中で加熱し、加熱の前後の粗さを測定する
・複合材料中に使用されるグラスファイバー上にシリカリッチなナノ層を形成することができるか否かの分析。
【0205】
本発明の局面の1つに関係して説明される態様および特徴は、本発明の他の局面にも適用されることに留意されたい。
【0206】
本出願において引用された全ての特許および非特許の参考文献は、参照によりその全体が本明細書中に組み入れられるものとする。
【0207】
参考文献
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、改質された表面領域を有するケイ酸塩ガラス物品、例えば、ガラス容器などに関する。改質された表面は、いくつかある有利な特性の中でも特に、改善された化学的耐性、増強された硬度、および/または増強された熱安定性、例えば熱衝撃抵抗などを、有する。特に、本発明は、ケイ酸塩ガラス物品の表面領域を改質するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
表面特性が、ガラスの物理的および化学的特性に対して、したがってそれらの用途に対して、強い影響を有することは周知である。これらの特性は、表面改質技術、例えば、金属酸化物またはポリマーによるコーティング、ガラスと塩溶融物との間のイオン交換、ファイヤーポリッシュなどを用いることによって、目的に合わせて変更することができる。表面を改質することによって、新しい状況に対してまたは既存の材料の著しい改善に対して適用することができる新しい機能的表面を作り出すことができる。
【0003】
今までの研究により、酸化還元反応を用いることによって、Fe2+を含有するケイ酸塩ガラス物品の表面を改質することができることが示されている。新規な表面は、前述のガラス物品を、大気中にて、ガラス転移温度(Tg)付近の温度で好適な期間の間熱処理することによって得ることができる。熱処理により、第一鉄(Fe2+)が第二鉄(Fe3+)へと酸化され、これにより、二価のカチオン(主に、Mg2+)のガラス内部から表面に向けての拡散(いわゆる外方拡散)が生じる。驚いたことに、当該酸化プロセスにおいては、電子種(正孔)とFe2+との間の反応によりFe3+が形成されるような著しい程には、酸素は前述のガラス物品中へ拡散されない。二価のカチオンがガラス物品の表面で酸素と反応するために、該表面上に結晶層が形成される。この表面層は、優れた熱特性を示し、すなわち、この知見は、工業的に適用される可能性を有している。しかしながら、ガラス材料の物理的および化学的特性(機械的特性、化学的耐性、不活性、光学特性など)に対する表面層の効果は、依然として知られていない。
【0004】
別の研究では、シリカがガラス構造の結合性を向上させるために、ガラス物品の物理的および化学的特性が、シリカの表面含有量によって影響を受け得ることが示されている[Derianoら、2004]。例えば、ガラスの化学的耐性の増強が予想される。したがって、それらの表面改質法は、例えば、薬品および化学物質に対するガラス容器の耐化学薬品性の改善などにおける、工業的適用の可能性を有している。液体が腐食性の場合には、ガラスの劣化が生じる場合がある。
【0005】
さらに別の研究では、PindおよびSorensen(2004)が、SiO2−Al2O3−MgO−CaO−FeO/Fe2O3ガラス系における酸化還元および拡散プロセスについて研究し、およそ80%というFe3+/Fetot比を有する試料を調製した。これらの試料の1つは、還元性雰囲気(10/90 H2/N2)において加熱された。この場合、酸化メカニズムの鏡像として、Mg2+が、表面から内部方向へと拡散した(内方拡散と呼ばれる)。ケイ素イオン(Si4+)は拡散しないので、表面付近のケイ素濃度が増加し、すなわち、シリカリッチなナノ層が表面上に形成される。H2雰囲気での第二鉄イオン含有ガラスの還元について取り扱った他の研究では、ガス状H2の浸透(溶解および拡散)が、支配的な還元プロセスであること、すなわち、二価のカチオンの内方拡散は生じないことが示されている[Gaillardら、2003]。
【0006】
Rigatoら(1994)による研究では、アルカリ−鉛−ケイ酸塩ガラスの熱化学的還元は、表面における著しい水素の取り込みは生じないが、表面を水の化学的および物理的な吸着に対して非常に高感度にすることが示されている。吸着に起因する水素濃度が不可逆的である場合のPb減少のために、該処理により、組成的に改変された、おそらく微孔質で、シリカリッチなガラスの薄い(25nm)層が表面に形成される。熱化学的処理の時間および温度は、吸着の初期動態に影響を及ぼす。これらの観察は、湿潤環境に晒されている電子増倍器およびマイクロチャンネルプレートデバイスの挙動に対して実用上重要である。
【0007】
Derianoら(2004)による研究では、N2およびNH3ガス中での熱処理によって、ソーダ−石灰−シリカガラスの機械的特性を改善できることが記載されている。彼らは、観察された強度改善は、水およびアンモニアとガラスとの反応に起因し得ると主張している。これは、網目修飾カチオンとプロトンとの交換プロセスをもたらす。これにより、ソーダ−石灰−シリカガラスは、水の拡散によって律速されるプロセスにより、高いシリカ含有量のガラスへと変えられる。
【0008】
米国特許第3,460,927号には、多価元素含有ガラスを水素雰囲気中で還元することによって、それらの曲げ強度(荷重変形に抵抗する能力)を改善する熱処理法について記載されている。該処理は、ガラス転移温度よりもはるかに低い温度において実施される。
【0009】
還元性雰囲気中における鉄含有ケイ酸塩ガラスの表面付近での、酸化還元反応と拡散プロセスとの間の関係に対する理解は、異なる方向性を指し示す結果のために、現在のところ非常に限定的である。
【0010】
高いシリカ含有量の表面を形成することができるなら、それは、溶融および形成のために非常に高い温度(最高2400℃まで)を必要とするバルクシリカ(SiO2)を製造するよりも、経済的に好都合であるだろう。
【0011】
したがって、高いシリカ含有量の比較的厚い表面を有するケイ酸塩ガラス生成物を作製するための改善された方法は、製造において高価なバルクシリカを使用するよりも経済的に好都合な選択肢として、あるいは金属酸化物またはポリマーのコーティング、ガラスと塩溶融物との間のイオン交換、ファイヤーポリッシュなどの使用に対して好都合な選択肢として、有利であるだろう。
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の目的は、ケイ酸塩ガラス物品の特性の改善に関する。
【0013】
特に、本発明の目的は、上記において言及した先行技術の問題を、改善された表面特性によって解決する改善されたケイ酸塩ガラス物品を提供することである。
【0014】
したがって、本発明の1つの局面は、バルク部分および表面領域を有し、網目修飾カチオン(NMC)を含むケイ酸塩ガラス物品であって、表面領域中の網目修飾カチオンの濃度が、バルク部分中よりも低く、網目修飾カチオンの表面領域における組成が内方拡散の結果である、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0015】
本発明は、特に、しかし非限定的に、改善された化学的耐性、増強された硬度、および/または増強された熱安定性を有する改良されたケイ酸塩ガラス物品を得るのに有利である。任意の特定の理論に束縛されるわけではないが、網目修飾カチオン(NMC)は、網目構造内の隙間の位置を占め、したがって、非架橋酸素をもたらすことが意図される。表面領域における網目修飾カチオン(NMC)の濃度を下げることによって、表面上に、より結合された網目構造が生じ、それによって、イオンがガラスを通って拡散することが困難となり、したがって、化学的耐性、例えば、酸およびアルカリ耐性が改善される。
【0016】
同様に、表面層の結合性が高められることにより、結果として該表面層における有効なシリカ濃度が増加し、それにより、機械的特性、例えば硬度などが増大する。
【0017】
表面領域の結合性を高めることに加えて、該表面領域の厚さを増加させることは、化学的耐性をさらに改善するため、硬度を高めるため、および/または熱安定性を高めるために、有利であり得る。表面領域においてシリカの比較的高い濃度を得るためには、ガラスのタイプが、比較的大きい重量パーセントのシリカ、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%などのシリカを含むことが意図され得る。
【0018】
したがって、一態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも10〜35重量%、好ましくは少なくとも30〜49重量%、さらにより好ましくは少なくとも50重量%のシリカを有する。ケイ酸塩以外の他の成分、例えば、アルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物、または多価金属酸化物などが、ケイ酸塩ガラス物品中に含まれ得る。別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも0〜90重量%、例えば0.5〜85重量%など、好ましくは少なくとも1〜80重量%、例えば3〜75重量%など、好ましくは少なくとも5〜50重量%、例えば7〜30重量%など、好ましくは少なくとも10〜20重量%の、アルカリ酸化物を有する。さらに別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも0〜90重量%、例えば0.5〜85重量%など、好ましくは少なくとも1〜80重量%、例えば3〜75重量%など、好ましくは少なくとも5〜50重量%、例えば7〜30重量%など、好ましくは少なくとも10〜20重量%の、アルカリ土類酸化物を有する。
【0019】
さらに別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、少なくとも0.001〜90重量%、例えば0.5〜85重量%など、好ましくは少なくとも1〜80重量%、例えば3〜75重量%など、好ましくは少なくとも5〜50重量%、例えば7〜30重量%など、好ましくは少なくとも10〜20重量%の、多価金属酸化物を有する。
【0020】
シリカがガラスの結合性を高めるため、表面層は、表面特性に対して強い影響を及ぼす。特に、(酸溶液およびアルカリ溶液の両方における)化学的耐性およびガラスの硬度が非常に高められる。
【0021】
したがって、別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、表面領域において、バルク領域よりも実質的に高いケイ酸塩架橋酸素の含有量を有し、すなわち、表面領域の網目構造の結合性は、バルク領域よりも高い。
【0022】
特に、本発明の一態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、表面領域の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%において、四面体あたりの非架橋酸素原子の数であるNBO/Tが減少している。
【0023】
さらに別の態様において、本発明によるケイ酸塩ガラス物品は、表面領域において、バルク部分よりも実質的に高いSiO2濃度を有する。
【0024】
大気中での熱処理による鉄含有ガラスの酸化により、Mg2+、Ca2+、およびFe2+イオンの、(外方拡散と呼ばれる)内側から表面方向への拡散が生じる。この観察は、玄武岩質ガラス系に基づく以前の研究の結果と一致している。Mg2+の拡散は、拡散プロセス全体において支配的であり、ならびに表面では、Mg2+イオンが外部酸素と反応してペリクレース(MgO)結晶を形成する。表面へと拡散するFe2+イオンは、表面においてFe3+へと酸化される。表面領域または表面層は、ガラスの硬度を高め、酸溶液の攻撃からガラスを保護するが、アルカリ溶液に対しては、より脆弱となる。
【0025】
周囲条件において、二価のカチオンの外方拡散が、熱処理の酸化性雰囲気下だけでなく、N2雰囲気下においても、さらにはH2/N2(10/90 v/v)のような還元性雰囲気下においても生じるという、重要な現象が観察された。空気中でガラスを加熱した場合に生じる結晶層とは異なるモルホロジーおよび濃度プロフィールを有する酸化物のナノ層が、外方拡散によりガラス表面上に形成される。カチオンの拡散度は、熱処理の温度および期間に応じて変わる。N2およびH2/N2(10/90)における外方拡散は、熱窒化(窒素の組み込み)に関連していること、すなわち、外方拡散のメカニズムは、熱処理に使用されるガスのタイプに依存するということが提唱されている。H2/N2(10/90)中でのFe3+からFe2+への還元、またはV5+からV4+への還元は、ガラス中へのH2の浸透によって起こる。これにより、ヒドロキシル基が形成されて、ガラス構造体中に組み入れられる。Fe3+の還元は、H2/N2(10/90)中では拡散をもたらさないにもかかわらず、ヒドロキシル基が組み入れられることにより、カチオンの拡散の速度が増加する。その上、生成されたOH基は、結晶化に対するガラスの安定性およびガラスの機械的特性を低下させる。
【0026】
驚いたことに、ガラスをH2/N2(1/99)中で加熱する場合、H2の浸透と正孔の外方拡散の両方が、Fe3+からFe2+への還元、またはV5+からV4+への還元に寄与するということが本発明の発明者たちによって見出された。正孔の拡散は、移動可能な網目修飾カチオン(主に、Mg2+、Ca2+、およびFe2+)の内方拡散によって電荷的に補われる。その結果、Si4+イオンは拡散しないのでシリカリッチなナノ層がガラスの表面上に形成される。したがって、本発明によるさらなる態様において、内方拡散は、還元性ガスおよび/または還元性液体による還元によって引き起こされる。
【0027】
シリカリッチな層の厚さは、多価元素の含有量によって制御することができる。したがって、本発明による別の態様において、表面領域の深さは、内方拡散プロセスの関数である。本発明によるさらに別の態様において、網目修飾カチオンの表面領域における組成は、内方拡散の結果であり、ここで、該内方拡散は、多価元素の還元によって引き起こされる。
【0028】
これは、ガラス網目構造中において、還元された元素がアルカリ土類イオンよりも低い移動度を有する場合に有利であり得る。
【0029】
シリカリッチな層の厚さは、加熱の温度および期間を調整することによっても制御することができる。したがって、本発明によるさらに別の態様において、表面領域の深さは、時間、温度、拡散イオンの電界強度、還元性ガスの分圧、多価元素の濃度および酸化還元比、ならびに/またはガラスのタイプの、関数である。したがって、層の厚さは、特定の要件に従って調整することができる。
【0030】
速度論的解析により、化学拡散によって特徴付けられるような本発明の拡散メカニズムを検証し、二価のカチオンの拡散係数を算出した。したがって、本発明によるさらに別の態様において、拡散は化学拡散によって特徴付けられる。したがって、拡散が時間に対して放物線型であるような様式で、拡散は還元動態によって律速される。
【0031】
ガラス物品の製造における多価元素の選択には、様々な基準が存在し得る。
【0032】
多価元素は、本発明のある特定の態様において、弱い還元性雰囲気、例えば、約0.001、0.01、0.02、0.03、0.07、または0.09barのH2中で比較的容易に還元される酸化還元状態を有するべきである。
【0033】
いくつかのガラス物品では、元素および酸化還元状態により、ガラス用途に応じたガラス物品の色、例えば、ガラスの透明度、特定の用途の工芸ガラスのための特定の色、薬品、ビール、ワイン、および他の液体、または化学薬品などを劣化から保護するための特定のUV吸収性などが、決定され得る。
【0034】
さらに別の態様において、本発明は、化学薬品の貯蔵のためのガラス容器、グラスファイバー、工芸ガラス、ビール、ワイン、および他の液体の貯蔵のためのガラス容器であるケイ酸塩ガラス物品に関する。特に、本発明は、刺激の強い化学薬品または侵食性の化学薬品の貯蔵、あるいは機械に有害な環境における使用に有利である。
【0035】
したがって、本発明によるさらなる態様において、ケイ酸塩ガラスは、10〜1200nmの光学領域、好ましくは380〜750nmの可視領域において透明である。
【0036】
本発明のさらなる態様において、ケイ酸塩ガラスは、400〜10nm、400〜315nm、315〜280nm、または280〜100nmの範囲の、好ましくは400〜100nmの範囲のUV光を、吸収することができる。
【0037】
材料の硬度を測定する方法として、ビッカース硬度(Hv)試験が開発されている。本発明において、ビッカース硬度測定により、熱処理されたガラスが本来のガラスより硬いことが明らかである。硬度は、熱処理の期間および温度に伴って増加し、すなわち、改質層の厚さが増加すると硬度が増加する。
【0038】
したがって、本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、当該表面領域の方が、対応する未処理のガラスの表面領域よりも実質的に高いケイ酸塩ガラス硬度、例えば、少なくとも+10%、+20%、+30%、+40%、+50%、+100%、+200%、+300%、+1000%高いHvを有する。
【0039】
シリカによってガラスの結合性が高められるため、前述のナノ層は、表面特性に対して強い影響を及ぼす。特に、それは、酸溶液およびアルカリ溶液の両方における化学的耐性を非常に高め得る。酸溶液では、ガラスからのアルカリイオンの浸出が、支配的な溶解メカニズムである。本発明の一実施例(図6B)において、ガラス物品からHCl溶液へ浸出したナトリウムは、未処理のガラスと比較した場合、5分の1未満に減少している。
【0040】
したがって、本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、前述の表面領域の方が、未処理のガラスの対応する表面領域よりも実質的に高い化学的耐性、例えば、未処理のガラスの対応する表面領域よりも少なくとも1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、5、10、30、50、100、1000倍良好な化学的耐性を有する。
【0041】
改質された表面は、いくつかある有利な特性の中でも特に、増強された熱安定性、例えば、熱衝撃抵抗を有する。
【0042】
したがって、本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、対応する未処理のガラスの熱衝撃抵抗よりも、実質的に高い熱衝撃抵抗、例えば、対応する未処理のガラスの熱衝撃抵抗よりも少なくとも1.5、2、3、5、10、30、50、100、1000倍良好な熱衝撃抵抗を有する。
【0043】
シリカリッチな層の厚さは、多価元素の含有量および還元によって制御され得る。
【0044】
本発明の好ましい態様において、ケイ酸塩ガラス物品は、遷移金属カチオンを含む。
【0045】
さらに好ましい態様において、本発明は、少なくとも一部の遷移金属カチオンが網目修飾カチオン(NMC)である、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0046】
別の態様において、本発明は、少なくとも一部の網目修飾カチオン(NMC)が、周期表のIIa族に由来する、例えば、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、およびRa2+である、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0047】
さらに別の態様において、本発明は、多価元素が、Au、Ir、Pt、Pd、Ni、Rh、Co、Mn、Ag、Se、Ce、Cr、Sb、Cu、U、Fe、As、Te、V、Bi、Eu、Ti、Sn、Zn、およびCdからなる群より選択される、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0048】
別の態様において、本発明は、遷移金属カチオンが、Ti4+、Ti3+、V5+、V4+、V3+、Cr6+、Cr5+、Cr3+、Mn7+、Mn6+、Mn5+、Mn4+、Mn3+、Fe5+、Fe4+、Fe3+、Co4+、Co3+、およびNi3+からなる群より選択される、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0049】
さらに別の態様において、本発明は、遷移金属カチオンが、Ti2+、V2+、Cr2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Zr2+、Nb2+、Mo2+、Ru2+、Rh2+、Pd2+、Ag2+、Cd2+、Ta2+、W2+、Re2+、Os2+、Ir2+、Pt2+、Hg2+、およびRa2+からなる群より選択される、ケイ酸塩ガラス物品に関する。
【0050】
本発明の方法により、高いシリカ含有量の表面を有するケイ酸塩ガラス物品が得られ、したがって、バルクシリカガラスによるガラス物品を製造する必要性を避けることができる。後者は、溶融および形成のために非常に高い温度(最高2400℃まで)を必要とする。したがって、本発明は、バルクシリカガラスの製造よりも、経済的に、より好ましい。
【0051】
本発明により、さらなる高価な原料を必要とする付帯的なコーティング技術を使用せずに、改善された化学的耐性、増強された硬度、および/または増強された熱安定性を有する、改良されたケイ酸塩ガラス物品が得られる。
【0052】
したがって、本発明の別の局面は、還元性ガスを含む雰囲気においてケイ酸塩ガラス物品を熱処理する工程を含む、ケイ酸塩ガラス物品の表面領域を改質する方法であって、該ケイ酸塩ガラス物品のより深い領域への網目修飾カチオン(NMC)の内方拡散をもたらし、それによって表面領域における網目修飾カチオンの濃度が下げられる、方法に関する。
【0053】
本発明のさらに別の局面は、還元性ガスが1種以上の還元性ガスの混合物である、前述の方法に関する。
【0054】
本発明のさらに別の局面は、還元性ガスがさらに1種以上の不活性ガスと混合されている、前述の方法に関する。
【0055】
本発明の好ましい局面は、前記雰囲気が窒素ガスと水素ガスとの混合物を含む、前述の方法に関する。
【0056】
本発明の別の好ましい局面は、前記雰囲気が一酸化炭素ガスと二酸化炭素ガスとの混合物を含む、前述の方法に関する。
【0057】
本発明のさらに好ましい局面は、前記雰囲気が、SbH3、AsH3、B2H6、CH4、PH3、SeH2、SiH4、SH2、SnH4、Cl2、NO、N2O、CO、H2、N2O4、SO2、C2H4、およびNH3からなる群より選択されるガスの混合物を含む、前述の方法に関する。
【0058】
多価元素の還元によって引き起こされる、ガラス物品における内方拡散を得るためには、還元性ガスの浸透が該還元を支配していないことが、不可欠であると現在のところ見なされている。
【0059】
本発明の好ましい局面は、還元性ガスが、未処理のケイ酸塩ガラスにおいて実質的に不浸透性である、前述の方法に関する。
【0060】
表面領域または表面層の結合性を高めることに加えて、該表面領域の厚さを増すことも、化学的耐性をさらに改善するため、硬度を高めるため、および/または熱安定性を増加させるために有利であり得る。
【0061】
したがって、本発明の好ましい局面は、少なくとも100nm、200nm、400nm、500nm、600nm、700nm、1000nm、1500nm、または3000nmの表面領域の厚さが得られるように熱処理が実施される、前述の方法に関する。
【0062】
シリカリッチな層の厚さは、熱処理の温度および期間を調整することによって制御することができる。
【0063】
したがって、本発明の好ましい局面は、熱処理が、ケイ酸塩ガラスのガラス転移温度(Tg)の、例えば、0.1〜3.0倍、0.5〜3.0倍、0.6〜3.0倍、0.7〜3.0倍、0.8〜2.0倍、または0.9〜2.0倍において実施される、前述の方法に関する。
【0064】
本発明の別の局面は、熱処理が、0.001〜36時間、0.01〜36時間、0.1〜36時間、0.1〜30時間、0.1〜24時間、0.2〜36時間、0.2〜34時間、0.2〜20時間、0.3〜36時間、0.3〜25時間、0.3〜18時間、0.4〜36時間、0.4〜27時間、0.4〜12時間、0.5〜36時間、0.5〜15時間、1〜5時間、1〜4時間、または1〜3時間の間実施される、前述の方法に関する。さらに短い時間または長い時間も、本発明の教示の範囲内である。
【0065】
前述の方法において、周囲雰囲気の圧力を調整することは、熱処理の温度および/または期間に重要な影響を与える。
【0066】
本発明のさらに別の局面は、前記雰囲気の圧力が、0.001〜20気圧、0.001〜10気圧、0.01〜10気圧、0.01〜5気圧、0.1〜5気圧、または1〜10気圧である、前述の方法に関する。前述の範囲の下限は、いずれも最小値でもあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0067】
ここで、本発明を、以下の非限定的な例においてさらに詳細に説明する。
【0068】
【図1】提案される様々な表面改質メカニズムの概略図を示す。図1Aは、MgO/CaO層の形成を示す。図1Bは、シリカリッチな層の形成を示す。
【図2A】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2Aは本来の6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図2B】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2BはTgにおいて2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図2C】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2CはTgにおいて16時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図2D】図2A〜Dは様々な条件においてH2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールの概略図を示す。図2DはTgの1.05倍において2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示す。
【図3A】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3AはH2/N2(10/90)中にて、Tgで様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図3B】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3BはH2/N2(10/90)中にて、様々な温度で2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図3C】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3CはH2/N2(1/99)中にて、Tgで様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図3D】図3A〜Dは様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示す。図3DはH2/N2(1/99)中にて、様々な温度で2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示す。
【図4A】H2/N2(1/99)中でのTgにおける6wtFeガラス試料の熱処理の時間(ta)に対する、二価のカチオンの減少領域の厚さ(Δξ)の二乗のプロットを示す。
【図4B】処理前後のFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、ガラスの初期の鉄含有量および熱処理条件への依存性を記載する表を示す。
【図4C】6wtFeガラス(未処理、空気中でTgにおいて16時間加熱、H2/N2(1/99)中でTgにおいて16時間加熱)のCEMSスペクトルを示す。
【図5A】H2/N2(1/99)中にて、Tgで様々な期間の間加熱した、厚さ0.20mmの6wtFeガラス試料のUV−VIS−NIRスペクトルを示す。
【図5B】処理前後のFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、熱処理時間(ta)への依存性として表される、対応するFe2+濃度を示す。
【図6】図6Aは、様々な温度および期間において熱処理された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのビッカース硬度および水接触角のデータの表を示す。図6Bは、様々な温度および期間において熱処理された6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスの化学的耐性のデータの表を示す。
【図7】実験戦略および使用した分析技術の概略図を示す。
【図8】A=Na、K、Rb、CsであるSiO2−CaO−Fe2O3−A2Oガラスについて、温度の関数として粘度を示す。
【図9】H2/N2(1/99)中で様々な温度において2時間熱処理されたSiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)ガラスの、絶対温度の逆数の関数としての、ln k'のアレニウスプロットを示しており、差し込み図は、アルカリイオンのイオン半径rA(白丸)および脆性インデックス(fragility index)m(黒丸)の両方の関数としての、カルシウム拡散の活性化エネルギーEdを示す。
【図10】温度Tの関数としての、7種の調製されたままのガラスの正規化された質量変化Δm/m0を示しており、ここで、Δmおよびm0は、それぞれ試料の質量変化および初期質量であり、質量変化は、空気中で10℃/分のアップスキャン(upscan)速度で測定しており、空気中でTg=633℃における時間tの関数として、Cr含有ガラスの正規化された質量変化Δm/m0を示す。
【図11】Δnrel,dynの関数としての、結晶化開始温度Tcを示しており、Δnrel,dynは、空気中において10℃/分で975℃まで動的に加熱している間に酸化された多価元素の正規化されたモル数であり、Tcは、空気中において10℃/分で実施されたDSC実験から特定した。
【図12】Δnrel,isoの関数としての、空気中でそれぞれのTgにおいて6時間熱処理された7種のガラスのCa2+のSNMSピーク面積を示しており、面積は、Ca2+のSNMS濃度曲線とc=cバルクを通る水平線との間を計算しており、Δnrel,isoは、空気中でTgにおいて6時間、等温熱処理している間に酸化された多価元素の正規化されたモル数であり、点線は、回帰直線(linear fit)を表す。
【図13】イオン半径rの関数としての、アルカリ土類イオンの拡散深度(Δξ)を示しており、ガラスは、H2/N2(1/99)中で様々な期間(ta)の間それぞれのTgで熱処理されており、黒四角はta=16時間を示しており、白四角はta=2時間を示しており、差し込み図は、Mg含有ガラスにおけるTa=Tgでのta(0.5、2、8、および16時間)に対する(Δξ)2のプロットを示している。
【図14】様々な条件において、H2/N2(1/99)中で熱処理された、R=Mg、Ca、Sr、BaであるSiO2−Na2O−Fe2O3−ROガラスについての、絶対温度の逆数の関数としての、ln k'のアレニウスプロットを示しており、黒四角:R=Mg、白四角:R=Ca、黒三角はR = Srを示し、白三角はR=Baを示しており、差し込み図は、アルカリ土類イオンのイオン半径(r)の関数としての、対応する拡散の活性化エネルギー(Ed)を示している。
【図15】脆性インデックスmおよびTgでの粘性流動の活性化エネルギー(Eη)に対する、Tg付近での拡散の活性化エネルギー(Ed)を示す。
【図16】未処理、ならびにH2/N2(1/99)およびCO/CO2(98/2)中でTg=926Kにおいて16時間加熱した厚さ0.20mmの6wtFeガラス試料のUV−VIS−NIRスペクトルを示す。
【図17】CO/CO2(98/2)中でTg=926Kにおいて16時間熱処理した6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールを示しており、曲線は、ガラスのバルクにおける同一元素の濃度で除した、所定の深さにおける元素の濃度(C/Cバルク)としてプロットしている。
【発明を実施するための形態】
【0069】
ここで、本発明を、以下においてより詳細に説明する。
【0070】
本発明の詳細な説明
定義
本発明をさらに詳細に説明する前に、以下の用語および慣例について最初に定義する。
【0071】
多価元素:
「多価元素」という用語は、ガラス科学およびガラス技術の分野における数多くの論文中に見出すことができる。本明細書の文脈において、この用語は、様々な酸化還元状態で存在し得る元素を意味する。最も良い直接的な定義の1つは、Pyeら(2005)p.28に見出され得る。:「本章においては、極度な酸化条件または還元条件が必要であるとしても、少なくとも2つの異なる酸化状態でガラス溶融物中に生じ得る全ての元素を、多価であると見なす。」
【0072】
網目修飾カチオン:
以下の定義が、Shelby(2005)p.10に見出される。:「最後に、電気陰性度が非常に低く、そのため酸素と強固なイオン結合を形成するカチオン(第III族)は、網目形成体としては全く作用しない。これらのイオンは網目形成酸化物によって形成された網目構造を修飾するためにのみ機能するので、これらのイオンは修飾体と呼ばれる。」
【0073】
ガラス転移温度(Tg):
ガラス転移温度(Tg)は、Shelby(2005)によって定義されたように、ガラスを加熱したときにガラス転移により熱容量が変化する開始点として定義される。
【0074】
本発明の好ましい目的は、上記において言及した先行技術の問題を、改善された表面特性により解決する、改良されたケイ酸塩ガラス物品を提供することにある。
【0075】
溶融物を冷却することにより、冷却速度に応じてガラスまたは結晶のいずれかの形成が生じ得る[Shelby、2005]。結晶性物質またはガラス状物質は同じ組成を有し得るが、結晶はガラスよりも、より秩序だった構造を有するので、それらの物質は構造において異なっている。ガラス形成の理論について説明するために、2つの用語:短距離秩序(SRO)および長距離秩序(LRO)について定義する必要がある。SROは、局所的な原子結合の単位(最近接原子の構成)が、固体全体において一様である場合に存在する。LROは、空間における原子の配置が周期的である場合に存在する[GerstenおよびSmith、2001]。現在のところ、ガラスの理想的な定義は存在しない。可能な定義は、完全にLROを欠いた、ガラス転移の挙動の範囲を示す無定形固体、である。所定のガラスに存在するSROは、理想的には、対応する結晶中に見出されるものと同一である。結晶は、原子配列の完全な周期性を意味する完全なLROを備えた固体として定義される。
【0076】
酸化物ガラスの構造に関して様々な理論が存在するが、ランダムネットワーク理論は、最も一般的に使用されるモデルである[Shelby、2005]。ガラス中の原子は、SROが存在する連続するランダムな網目構造を形成する。連続する三次元網目構造形成のための条件[Zachariasen、1932]は、以下である。
1)酸素原子が、2つ以下のカチオンと結合している。
2)網目構造カチオンの酸素配位数が小さくなければならない。
3)酸素多面体が、お互いに、辺または面ではなく、角を共有している。
4)三次元網目構造を形成するために、各酸素多面体の少なくとも3つの角が共有されていなければならない。
これらの法則は、網目構造のLROの程度については何も指し示していないので、ガラスおよび多くの結晶性固体の両方の構造を説明している。したがって、ガラス形成のみを説明するように、Zachariasenによってさらなる要件が加えられた。網目構造は、LROを破壊するように歪められていなければならない。この歪みは、結合の長さおよび角度のばらつき、ならびにそれらの軸の周囲における構造単位の回転によって達成することができる。
【0077】
酸化物ガラス中の化学的成分は、ガラスの構造配列におけるそれらの役割に従って、異なるカテゴリに分けることができる。Stanworth(1971)は、カチオンの電気陰性度に基づいて、酸化物を3つの群に分類している。すなわち、酸化物は、すべての場合においてアニオンが酸素であるカチオン−アニオン結合の部分イオン性に従って分類される。カチオンが、50%付近または50%未満の部分イオン性で酸素と結合を形成する場合、当該カチオンは、網目形成体として機能するであろう[Shelby、2005]。すべてのガラスは、それが構造体の主な源であるような少なくとも1種の網目形成体を含有する。
【0078】
ケイ酸塩ガラスにおいて、ケイ素は、網目形成体として機能し、架橋酸素(BO)原子によって結合されたケイ素−酸素四面体として存在する。四面体は、それ自体が非常に秩序立っている。必要なLRO欠如は、Si−O−Si角のばらつき、四面体に結合している酸素原子が占める位置の周りでの隣接する四面体の回転、および結合性酸素をケイ素原子の1つに接続している直線の周りでの四面体の回転によって導入される[Shelby、2005]。酸素と強いイオン結合を形成するカチオンは、主要な網目構造の一部を形成することなく、網目構造を修飾/干渉するためだけに機能するので、網目修飾体と呼ばれる[Shelby、2005]。網目修飾体は、酸化物として導入され、配位数≧6を有するので、非架橋酸素(NBO)原子に負の電荷を提供する。カチオンは、局所的電荷中性を維持するように、網目構造の隙間のサイトに存在する。アルカリイオン(例えば、Na+およびK+)ならびにアルカリ土類イオン(例えば、Ca2+およびMg2+)の両方は、網目修飾体として機能し得る。すべてのアルカリイオンは、1つの隣接するNBOを有するが、一方で、すべてのアルカリ土類イオンは、2つの隣接するNBOを有する。網目構造の強度は、網目形成体および網目修飾体の量に依存している。網目修飾体の量の増加により、結果として、結合性(または重合度)を減少させるNBOの量も増加する。これは、ガラスの融点およびいくつかの他の特性を下げる[Shelby、2005]。
【0079】
図1A〜Bは、本発明を説明するための、表面改質についての2つの提案されたメカニズムの概略図を示す。
【0080】
図1Aは、Mg2+、Ca2+、およびFe3+を含むケイ酸塩ガラス試料または物品1上での結晶性MgO/CaO層2の形成についての公知のメカニズムを示している。ガラス試料1は、表面6、表面領域3、バルク部分4、および、いわゆる酸化還元フロント5を有しているとして示されている。熱処理により、第一鉄(Fe2+)が第二鉄(Fe3+)へと酸化され、それによって、ガラス内部から表面に向かって二価のカチオン(主に、Mg2+)の外方拡散が生じる。二価のカチオンが表面においてイオン性酸素と反応して、表面6上に結晶層2が形成される。この表面層2は、優れた熱特性を示す。
【0081】
図1Bは、表面領域3におけるシリカリッチな層の形成についての、本発明によるメカニズムを示している。当該概略図は、動的プロセスのある時点での図である。酸化還元フロント5において、Fe3+イオンは、Fe2+イオンおよび正孔(h・)に変換される。大気圧における酸素分圧が非常に低いために、ガラス物品1から酸素を取り出すための大きな駆動力が生じる。表面では、酸素アニオンが、h・を埋めるために2つの電子を提供し、続いてH2と反応してH2Oを形成することにより、自由表面6から放出される。表面方向へのh・の拡散は、酸化メカニズムの鏡像として二価のカチオン(Fe2+を含む)が内部方向へ移動することによって、電荷的にバランスが取られる。したがって、内方拡散は、多価元素が高原子価状態から低原子価状態へと還元されることによって駆動される。網目修飾カチオン(この実施例では、Mg2+、Ca2+、およびFe3+)が、Si4+イオンの拡散を伴わずに表面から移動するため、シリカリッチな表面層3が形成される。酸素アニオンが表面においてh・に電子を提供しているが、最終的な電子の供給源は、周囲大気中のH2分子である。
【0082】
したがって、本発明の1つの局面は、バルク部分4と表面領域3とを有するケイ酸塩ガラス物品1であって、網目修飾カチオン(NMC)、例えば、図1Bにおいて示されるようなMg2+、Ca2+、およびFe2+などを含むケイ酸塩ガラス物品1に関する。表面領域3における網目修飾カチオン(NMC)の濃度は、バルク部分4よりも低く、概して、網目修飾カチオンの表面領域における組成は、下記において詳細に説明されるような、上述の内方拡散の結果である。
【0083】
図2A〜Dは、様々な条件において、H2/N2(1/99)中で加熱された6wtFeガラスおよび本来の6wtFeガラスの二次中性粒子質量分析(SNMS)の深さプロフィールの概略図を示している。各元素の深さプロフィールは、バルク濃度に対して正規化されている。ガス浸透の速度を減少させることによってシリカリッチな表面を形成するために、H2の分圧を0.01barまで下げている。SNMS深さプロフィールは、この取り組みが成功していることを示している。ガラスの化学組成および他の様々な関連データを、下記の表1に示す。
【0084】
(表1)出発物質の化学組成、鉄酸化還元比、密度、ガラス転移温度(Tg)、およびNBO/T。NBO/Tの計算については、以下の本文において説明する。
*すべて鉄は、Fe2O3として示されている。
【0085】
ガラスの網目構造の結合性を特徴付けるため、四面体あたりの非架橋酸素原子の数(NBO/T)を、化学組成から算出する。そのために、以下の式を使用する[Zotovら、1992]。
式中、角括弧付の数は、それぞれの酸化物のモル数を意味する。1wtFeおよび3wtFeに関しては、言及された鉄酸化還元比の範囲の中心値を計算に使用した。バナジウム含有ガラスに関しては、V5+を網目形成体と見なし、V4+を網目修飾体と見なす。しかしながら、初期のバナジウム酸化還元比が明らかになっていないので、NBO/Tの計算は実施できない。鉄含有ガラスに関しては、予想されるように、ガラスの結合性の増加(NBO/Tの減少)に伴ってTgも高くなっている。1wtVの比較的高いTgは、バナジウムの大部分が、V5+の状態で存在していることを示している。
【0086】
表面層におけるNBO/Tの算出
未処理の6wtFeガラスのNBO/Tは、表1に記載されているように0.81である。SNMS(元素の濃度)データ、CEMS(鉄の酸化還元状態)データ、およびFT−IR(OH基の濃度)データを使用することにより、本発明者たちは、H2/N2(1/99 v/v)中でTgにおいて16時間処理したガラスの200nmの表面層におけるNBO/T比を算出した。この表面層は、約0.45のNBO/Tを有する。これは、現在のところ、本発明者たちがNBO/Tを算出した唯一の試料である。
【0087】
図2Aは、本来の6wtFeガラスのプロフィールを示している。未処理のガラスの深さプロフィールから、深さによってイオン濃度が変わらないことが明らかである。
【0088】
図2Bは、Tgにおいて2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示している。H2/N2(1/99)ガス下において、Tgで2時間にわたる6wtFeガラスの熱処理により、二価のカチオンの内部方向への移動および表面付近でのシリカ濃度の著しい増加が生じる。
【0089】
図2Cは、Tgにおいて16時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示している。このように、図2Bとの比較から明らかであるように、熱処理の期間を長くすることによって、改質された表面層の厚さを増加させることが可能である。
【0090】
図2Dは、Tgの1.05倍において2時間加熱した6wtFeガラスのプロフィールを示している。図2Bと比較すると、熱処理の温度を高くすることにより、結果として、改質された表面層の厚さが増加することがわかる。すなわち、本発明に従って加熱と還元とを組み合わせることによって、より厚い深さが得られる。
【0091】
図3A〜Dは、様々な条件において熱処理した6wtFeガラスと未処理の6wtFeガラスのFT−IR反射スペクトルの概略図を示している。熱処理された試料のIR反射スペクトルを示す場合は、900〜1200cm-1の範囲におけるデータのみを示しているが、これは、より低い波数では変化が生じないためである。これは、480cm-1におけるピークの位置および強度はガラス組成によってあまり変わらないという以前の研究と一致している。
【0092】
図3Aは、H2/N2(10/90)中で、Tgにおいて様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示しており、図3Bは、H2/N2(10/90)中で、様々な温度において2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示している。未処理の6wtFeガラスでは、FT−IR反射スペクトルは、480cm-1および1100cm-1付近に、それぞれSi−O−Si結合振動およびSi−O−Si逆対称伸縮振動に起因する主要なピークを示す。熱処理の期間(図3A)および温度(図3B)の増加に伴って、以下のスペクトルの特徴が観察される。第1に、1100cm-1のピークは、より低い波数へとシフトし、その強度は減少する。第2に、940cm-1におけるピークの形成と成長が観察される。第3に、970cm-1付近に低強度のピークの形成および成長が観察される。Si−O−Si逆対称伸縮ピークの変化は、表面においてシリカが減少していることを示している。これは、本明細書には記載されていない、対応するSNMSの結果を裏付けている。940cm-1におけるピークは、Si−OHの振動に起因し、これは、OH基が形成されているとするFT−IR吸収分光分析の結果に一致する。970cm-1付近の弱いピークは、Si−N結合の振動に起因する。
【0093】
図3Cは、H2/N2(1/99)中で、Tgにおいて様々な期間の間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示しており、図3Dは、H2/N2(1/99)中で、様々な温度において2時間加熱した6wtFeガラスのスペクトルを示している。Si−OHおよびSi−N結合の振動に起因するピークも、これらのIRスペクトルに存在しているが、ピークの強度は、H2/N2(10/90)中で加熱されたガラスに対して観察されるピークの強度よりも低い。IR吸収の測定結果は、水素圧が低下すると、あまりOH基が形成されないことを示している。このことは、Si−OHピークの強度が低いことを説明する。Si−O−Si逆対称伸縮の波数およびピーク強度は、taおよびTaの増加と共に増加している。これらの変化は、以前にケイ酸塩ガラスについて、表面における網目修飾体の総含有量が減少する場合に、観察されている[Derianoら、2004]。これは、シリカリッチな表面層が形成されているとするSNMSの結果と一致する。
【0094】
図4Aは、H2/N2(1/99)中でのTgにおける6wtFeガラス試料の熱処理の時間(ta)に対する、改質された表面領域の厚さ(Δξ)の二乗のプロットによる速度論的解析を示している。図1Bに提示されている還元メカニズムが妥当な場合、二価のカチオンの化学拡散が、還元動態を律速するはずであり、すなわち、拡散は、時間に対して放物線型のはずである。放物線型の動態は、Δξ2=2k'tのように統合された形式で表現することができ、この場合、tは時間であり、k'は放物線型の反応速度定数である。したがって、図4Aに見られる直線関係は、動態の特性が、実際に放物線型であること、すなわち、還元反応の自由エネルギーの消失に対して律速しているのが網目修飾カチオン(NMC;例えば、Mg2+、Ca2+、およびFe2+)の拡散であることを証明している。前述において予測したメカニズム(図1B)に対する明確な証拠が、これにより達成された。Mg2+は、最も速く拡散する種であると思われ、これは、Mg2+の電界強度が、Ca2+およびFe2+と比べて高いことと一致している。
【0095】
図4Bは、処理の前後におけるFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、ガラスの初期鉄含有量および熱処理条件への依存性を記載する表を示している。未処理のガラスは、鉄の総含有量の増加に伴って、より多くのFe3+イオンを含有している。予想されるように、図4Bは、ガラスの鉄の総含有量が増加するのに伴って、Δc(Fe2+)が増加することを明らかにしている。
【0096】
図4Cは、6wtFeガラス(未処理、空気中でTgにおいて16時間加熱、H2/N2(1/99)中でTgにおいて16時間加熱)の転換電子メスバウアー分光分析(CEMS)スペクトルを示しており、Fe3+およびFe2+についてのフィットさせた二重線が示されている。CEMSは、試料の表面領域(約200nm)における鉄の酸化還元状態を調べるために使用することができ、すなわち、それは、バルクにおける酸化還元状態を特定する従来のメスバウアー分光分析とは異なっている。従来のメスバウアー分光分析では、共鳴吸収γ線の吸収ピークが記録される。CEMSでは、試料中の励起された(準安定の)鉄の核から放出されるエネルギーを調べる。試料中の励起された鉄の核は、3つのプロセスにより、それらの基底状態へと戻る。吸収されたエネルギーのおよそ90%は、いわゆる内部転換によって放出され、およそ10%は、γ線として放出される。内部転換は、X線またはいわゆる転換電子を介するエネルギーの伝達を含む。励起核は、当該核内において特定の存在確率を有する電子に、そのエネルギーを渡すことができるために、転換電子が放出される。CEMSでは、励起核から放出された転換電子を記録する。これらの電子は、試料を通る際に強く減衰し、すなわち、信号は、試料の最上層(およそ200nm)からのみ得られる。
【0097】
Fe3+およびFe2+のアイソマーシフトは、それぞれ0.27±0.06および1.07±0.09mm/sと決定される。四極子分裂は、Fe3+およびFe2+に対して、それぞれ1.13±0.09および1.7±0.2mm/sである。これらの値は、文献データと良く一致している。Fe3+/Fetot比は、2つの二重線の相対的な面積を測定し、ガラス中に金属鉄が存在しないと仮定することにより、各試料に対して評価する。算出された比率を、図4Cに記載する。比率の誤差が比較的高いのは、i)弱い供給源の使用、およびii)試料の表面積が小さいためである。Fe3+/Fetotは、未処理の6wtFeガラスでは、68±7%に等しい。これは、従来のメスバウアー分光分析による、粉末状試料の酸化還元比を測定した結果と一致している。予想されるように、空気中でのガラスの熱処理では、表面付近におけるFe3+イオンの量は、Fe2+イオンの量と比較して増加するが、一方で、H2/N2(1/99)中での処理では、その反対である。
【0098】
図5Aは、H2/N2(1/99)中で、Tgにおいて様々な期間の間加熱した厚さ0.20mmの6wtFeガラス試料のUV−VIS−NIRスペクトルを示している。様々な熱処理条件の関数として、鉄酸化還元状態を調べている。UV−VIS−NIR分光分析は、そのために使用される主要な方法である。定量的にこの方法を使用するために、Fe2+のモル吸光係数を事前に決定しておく。
【0099】
図5Bは、処理の前後におけるFe2+濃度の差(Δc(Fe2+))の、熱処理時間(ta)への依存性として表された、対応するFe2+濃度を示している。taの増加に伴うFe2+ピークの強度の増加は、H2/N2(10/90)中で加熱されたガラスにおいて観察される増加よりも少ない(記載せず)。したがって、鉄の酸化還元比は、処理雰囲気中の水素分圧が増加すると共に、より還元された状態へとシフトする。このことは、より高い圧力において、ガラス中へのH2の溶解性(SH2)が増加することによって説明される。
【0100】
図6Aは、様々な温度および期間において熱処理された6wtFeガラスおよび未処理の6wtFeガラスのビッカース硬度(Hv)および水接触角のデータを記載した表を示している。ビッカース硬度は、微小押し込み法によって測定する。各試料に対して、0.25Nの負荷と最大負荷での5秒間の保持時間とにより、遠く離れた位置で25回の押し込みを実施した。ビッカース硬度の測定により、処理前のガラスよりも熱処理されたガラスの方が硬いということが明らかである。硬度は、熱処理の期間および温度に伴って増加しており、すなわち、改質層の厚さが増加すると硬度も増加している。接触角の測定は、熱処理の結果として、表面がより疎水性になっていることを示している。硬度の測定は、±0.3GPaよりも優れた精度で実施した。
【0101】
図6Bは、様々な温度および期間において(H2/N2(1/99)中で)熱処理された6wtFeガラスおよび未処理の6wtFeガラスの化学的耐性のデータを記載した表を示している。試料の耐薬品性は、0.25MのHClおよび0.25MのKOH水溶液において試験した。試料をプラスチック容器中で試験溶液(ガラスの表面領域1cm2に対して20cm3)に浸漬した後、該容器を、90℃でサーモスタット振盪装置に取り付けた(100rpmで撹拌した)。12時間後、前記試料を溶液から取り出した。浸出したNa+イオンおよびMg2+イオンの濃度を、原子吸光分析(AAnalyst 100、Perkin Elmer社)を用いて、試験溶液中で測定した。ガラスの溶解は、酸溶液およびアルカリ溶液の両方において試験した。酸性溶液では、主に一価のアルカリイオンがガラスから浸出し、H+および/またはH3O+と交換される。アルカリ溶液では、ヒドロキシルイオンがSi−O結合を切断し、それによってシラノール基が形成され得るので、溶液が網目構造の結合を直接攻撃するために、ガラスが連続的に溶解する。熱処理されたガラスは、未処理のガラスよりも、酸およびアルカリ溶液の両方に対して高い耐性を有する(図6Bを参照のこと)。耐アルカリ性の増加は、処理されたガラスにおける網目構造の高い結合性に起因する。網目修飾カチオンNMCは、網目構造内において隙間の位置を占め、非架橋酸素(NBO)を生成する。処理されたガラスの表面上の結合された網目構造は、イオンがガラスを通って拡散することを困難にし、OH-およびH+などのイオンが網目構造に浸透してガラス種と反応することを妨げる。したがって、熱処理されたガラスにおけるOH-の拡散は困難であり、それらの耐アルカリ性を増強する。H+の拡散が妨げられることによって耐酸性が増加し、処理された試料の表面付近におけるナトリウムの減少はわずかな程度となる。
【0102】
要約すれば、ガラス中に存在する多価元素を還元することによって、シリカリッチなガラス表面を作り出すことが可能である。ガラスの硬度と化学的耐性は、本発明による加熱および還元の組み合わせから得られる表面改質の結果として増強される。この安価で効果的な表面改質法は、還元可能な網目修飾カチオン(NMC)を含有するような、例えば、遷移金属を有するような、任意の酸化物ガラスを強化するために使用することができ、すなわち、通常、シリカリッチなガラスのために必要となるような高温でのガラスの溶融を必要とせずに、SiO2の特性に迫る特性を有するガラスを作り出すことが可能である。
【0103】
Taおよびtaの調査された範囲において、Taまたはtaの変化は、好ましくは、表面改質の程度を変化させるために使用することができる。熱処理の雰囲気は、組成、モルホロジー、および/または酸化還元状態に関して、表面がどのように改質されるかを主に決定する。調査したガラス特性に対する熱処理の雰囲気の効果を以下の表2にまとめる。
【0104】
(表2)熱処理雰囲気の関数としての、Tgにおいて16時間処理した6wtFeガラスに関する調査されたガラス特性における変化。++:5%超の特性の増加;+:5%未満の特性の増加;0:特性は変化せず(または誤差範囲内);−:5%未満の特性の減少;−−:5%超の特性の減少。すべての変化は、未処理の6wtFeガラスに対する割合である。
【0105】
表2は、いくつかの所望の特性を達成するために、適切な表面改質法を選択する際に使用され得る。ガラスのほとんどの用途において、H2/N2(1/99)中での処理の効果は、最も好都合である。
【0106】
図7は、実験戦略および使用した分析技術の概略図を示している。
【実施例】
【0107】
SiO2リッチな表面層の形成に対するアルカリイオンの影響
カチオンの内方拡散プロセスにおけるアルカリイオンの役割は、以下の疑問に答えることによって解明される。:
−アルカリ土類イオンの拡散率に対するアルカリイオンの影響とは何か?
−アルカリイオンがアルカリ土類イオンより遅いのは何故か?
−どのアルカリイオンが最も効果的に、SiO2リッチな表面層を作り出せるか?
【0108】
これらの疑問に答えるために、3つのタイプの拡散実験を行う。
第1に、SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズのガラスを、還元性H2/N2(1/99 v/v)雰囲気中で、所望の期間の間様々な温度で熱処理して、アルカリイオンの種類の関数としての、Ca2+拡散の活性化エネルギーを決定する。
第2に、拡散プロセスの初期段階を調べるために、短い期間で熱処理を実施する。
第3に、アルカリイオンおよびアルカリ土類イオンを有するガラスおよび有しないガラスを、それらの拡散プロフィールの観点から比較する。さらに、鉄含有ケイ酸塩ガラスの還元反応、密度、ガラス転移温度、および脆性に対するアルカリイオンの影響も調査する。
【0109】
これらの結果は、観察された拡散現象についての洞察を得るために使用される。
【0110】
これらの条件下において、Ca2+イオンはアルカリイオンより速く拡散すること、ならびにアルカリイオンの存在がCa2+の拡散率を減少させるということが見出された。SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、またはCs)ガラスシリーズにおいて、Ca2+拡散の活性化エネルギーは、Na+、K+、Rb+、およびCs+の順番に、アルカリのサイズに伴って減少する。この傾向は、液体脆性(liquid fragility)の減少に一致する。
【0111】
試料調製
6種のガラス(表3を参照のこと)を、分析用試薬グレードのSiO2、CaCO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、およびFe2O3の粉末から調製した。バッチを混合し、電気炉(SF6/17、Entech社)において、Pt90Rh10のるつぼ中で、1500℃で3時間溶融させた。その後、当該ガラス溶融物を真鍮のプレート上で冷却し、プレスして、直径7〜10cmおよび高さ約5mmの円筒状のガラスを得た。調製したガラスは、それぞれのガラス転移温度より約10K高い温度で10分間アニール処理し、その後、室温まで自然冷却させた。さらに、SiO2−CaO−Fe2O3−A2Oシリーズのリチウム含有ガラスの調製も試みたが、相分離のために不可能であった。
【0112】
(表3)化学組成、アルカリイオンの半径rA、密度、モル体積、ガラス転移温度Tg、および調製したガラスの脆性インデックス(fragility index)m a
arAは、配位数6の場合である8。Tgおよびmは、それぞれDSCおよび粘性測定によって決定した。bすべての鉄は、Fe2O3として示されている。cn.d.:調べられていない。
【0113】
円筒状のガラス試料(直径約8〜10mm;厚さ3mm)を調製した。拡散実験のための試料は、エタノール下においてSiCぺーパーを用いて、6段階の手順により、約2mmの厚さまで一方の表面を平たく研磨した。その後、3μmのダイヤモンドペーストで表面を注意深く磨き、最後にアセトンで洗浄した。還元反応を調べるために、紫外−可視−近赤外(UV−VIS−NIR)の分光測定を実施した。これらの実験のための試料は、均一な厚さを達成するために、同一の平面を研磨し、次いで、上述の手順を用いて0.2mmの厚さまで研磨した。
【0114】
試料のキャラクタリゼーション
ガラスの化学組成を、表3に記載する。それらは、S4−Pioneer分光計(Bruker−AXS社)において、蛍光X線(XRF)によって分析した。ガラス中の主な不純物は、Al2O3(約0.2モル%)であった。ガラスの密度は、He比重計(Porotech社)により測定した。それについても表3に示してある。
【0115】
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)機器(STA 449C Jupiter、Netzsch社)を使用して測定した。各計測に関する定圧熱容量(Cp)曲線は、空のるつぼで実施した補正を除した後に、サファイア参照試料のCp曲線に対して算出した。測定は、パージされたAr雰囲気中で実施した。Tgを決定するために、次の加熱手順を実施した。最初に、試料を、各試料のそれぞれのTg(K)の約1.11倍の温度まで、10K/分で加熱した。続いて、当該試料を、10K/分で室温まで冷却した。次いで、ガラスの熱履歴を確実に一様にするために、温度10K/分での二次アップスキャンによってTgを測定した。Tgは、転移領域の前のガラスCp曲線を外挿した直線と、転移領域内のCpの急上昇する曲線の変曲点における接線との間の交点として定義される。
【0116】
粘度は、ビーム曲げ(T>Tg)実験および共軸円筒(T>T液相線)実験によって測定した。ビーム曲げ実験では、長さ45mmおよび断面積3×5mm2のバーをバルクガラスから切り出した。当該バーを、40mm間隔の非対称3点荷重曲げモード(VIS401、Bahr社)において屈曲させた。300gの重りを使用して、10K/分の定加熱速度において、およそ1012〜109.5Pa・sの粘度範囲を調べた。粘度は、DIN ISO7884−4に従って算出した。低粘度(<103Pa・s)は、共軸円筒式粘度計を使用して測定した。粘度計は、加熱炉、粘度計ヘッド、スピンドル、および試料るつぼから成る。粘度計ヘッド(Physica Rheolab MC1、Paar Physica社)は、高温炉(HT7、Scandiaovnen A/S社)の頂部に取り付けた。スピンドルおよびるつぼは、Pt80Rh20製であった。粘度計は、米国規格基準局(NBS)710A標準ガラスを使用して較正した。
【0117】
熱処理
還元反応および拡散プロセスを誘導するために、磨いたガラスを、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下、1気圧において電気炉で熱処理した。ガラス試料を冷たい加熱炉に挿入し、ガス流を流した。次いで、加熱炉を、10K/分で予め決められた熱処理温度まで加熱し、所定の期間、この温度に維持した。その後、加熱炉を、10K/分で室温まで冷却した。
【0118】
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズのガラスを、それらのそれぞれのTg(K)の0.95倍、1.00倍、1.025倍、および1.05倍で2時間、それらのそれぞれのTgで60時間、ならびにSi−Ca−Fe−NaガラスのTg(892K)で60時間、処理した。さらに、Si−Ca−Fe−Naガラスを、そのTgにおいて、それぞれ0.2、1、8、および16時間処理した。三元Si−Ca−FeおよびSi−Na−Feガラスを、それらのそれぞれのTgにおいて2時間処理した。
【0119】
UV−VIS−NIR分光分析
通常、ガラス中の鉄は、Fe2+およびFe3+の状態で存在している。本作業においては、UV−VIS−NIR吸収分光分析を使用して、SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズの厚さ0.20mmの試料の中の鉄の原子価状態における変化を測定した。UV−VIS−NIRスペクトルは、UV−VIS−NIR Specord 200分光測定器(Analytik Jena AG社)を使用して、1nmの解像度で、300〜1100nmの波長範囲にわたって記録した。スペクトルは、参照として空気を用いて記録した。
【0120】
第一鉄(Fe2+)イオンは、1050〜1100nmに最大吸収を有する幅広い吸収ピークを有する。このピークの位置および最大吸収は、ガラス組成によって変わる。また、本発明のガラスの吸光係数はわかっていなかった。したがって、Si−Ca−Fe−Naガラスに対するランベルト・ベール式の吸光係数を算出した:A =c・ε・x、式中、Aは吸光度であり、cは濃度であり、εは吸光係数であり、かつxは試料の厚さである。別の研究において、メスバウアー分光分析により、このガラスの酸化還元状態[Fe3+]/[Fetot](ただし、[Fetot]=[Fe2+]+[Fe3+])が77±2%であることが見出された。[Fe3+]/[Fetot]比および鉄の総含有量を使用することによって、未処理のSi−Ca−Fe−Naガラス中の第一鉄の濃度を算出した。1075nm付近の吸光度を、試料の厚さ(0.12、0.20、0.40、および0.80mm)に対してプロットすることにより、直線関係を得た(R2=0.995)。このプロットの傾き(c・ε)から算出した吸光係数は、3.82L mol-1mm-1であった。
【0121】
二次中性粒子質量分析法
拡散プロセスを調べるために、電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)を使用して、表面の組成分析を実施した。測定は、Balzers QMH511四重極質量分析計およびPhotonics SEM XP1600/14増幅器を備えたINA3(Leybold AG社)機器において実施した。分析したエリアは5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の12の異なる方向において、スパッタされたクレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0122】
結果
図8は、A=Na、K、Rb、CsであるSiO2−CaO−Fe2O3−A2Oガラスにおける、粘度ηの、温度Tへの依存性を示している。所定の温度における、アルカリイオンのイオン半径rAの増加による粘度の増加は、低温データおよび高温データの両方に観察される。液体脆性インデックスを決定するために、粘度データを以下のMauro−Yue−Ellison−Gupta−Allan(MYEGA)式にフィットさせる。
式中、η∞、Tg、およびmは、フィッティングパラメータであり、η∞は、無限温度における粘度であり、mは、ガラス形成液体の脆性インデックスである。該脆性インデックスは、以下の式のように、Tgにおけるlogη対Tg/T曲線の傾きとして定義される。
【0123】
モデルでは、Tgにおける粘度は、酸化物ガラスに対して熱量測定されたTg値と同等であるように示されているので、1012Pa・sに等しいと設定される。MYEGA式では、Vogel−Fulcher−Tammann(VFT)およびAvramov−Milchev(AM)式と比較して、低温外挿の実施における精度が改善される。粘度データのフィッティングにおいて上記の式を適用する。フィッティングは、Levenberg−Marquardtアルゴリズムを使用して行う。フィットしたmの値は、rAの関数として、図8の差し込み図に示される。A=Na、K、Rb、CsであるSiO2−CaO−Fe2O3−A2Oシリーズのガラス溶融物では、アルカリイオンのサイズが増加すると共に、脆性が減少している。対照的に、ガラス転移温度は、rAと共に高くなる。
【0124】
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズの未処理のガラスおよび熱処理されたガラスのUV−VIS−NIRスペクトルは記載していない。しかしながら、最大吸収ピークがおよそ1075nmに見られ、これは、Fe2+イオンの存在によるものである。Fe2+ピークの最大吸収度および位置は、すべてのガラスにおいて同じである(±5%以内)。これは、初期[Fe3+]/[Fetot]比が、すべてのガラスにおいて、およそ同じであることを示している。このことは、ガラスに対して熱重量測定を実施することによって、さらに確認されている。酸素の組み込みによる質量増加は、6種すべてのガラスにおいて同じであった(±6%以内)。メスバウアー分光分析を使用することによって、未処理のSi−Ca−Fe−Naガラスが、Feイオンの77±2%をFe3+として含有していることが見出された。
【0125】
還元反応の動態を調べるために、Si−Ca−Fe−Naガラスを、そのTgである892Kにおいて2、8、16、および60時間熱処理した。処理時間taの増加に伴い、Fe3+がFe2+に還元されることによりFe2+バンドの吸光度も増加する。Fe2+濃度の変化は、処理時間の平方根に対してだいたい直線的に増加しており、これは、拡散律速動態が生じていることを意味している。それぞれのTgにおいて60時間、およびSi−Ca−Fe−NaガラスのTg(892K)において60時間熱処理されたSiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)ガラスのUV−VIS−NIRスペクトルは記載していない。ガラスを同じ温度で処理した場合、アルカリイオンの半径の増加に伴って、Fe2+ピークの吸光度における変化も増加している。ガラスがそれぞれそのTgにおいて処理される場合、その傾向は定性的には同じであるが、ガラス間の違いはさらに顕著となる。これは、Si−Ca−Fe−Csガラスが最も高いTgを有するためであり、したがって、該ガラスが最も高い温度で処理されるためである。
【0126】
6種のガラスにおいて還元により誘起された拡散プロセスを研究するために、SNMS技術を使用した。該方法は、深さの関数としてのガラスの表面組成についての情報を提供する。深さプロフィールは記載していない。しかしながら、H2/N2(1/99)中において1.05Tg=1010Kで2時間熱処理されたSi−Ca−Fe−Kガラスの深さプロフィールが見出される。カルシウム、カリウム、および鉄の減少が、表面付近において観察される。カルシウムの減少の程度は、カリウムおよび鉄の減少よりも大きい。定性的には、6種すべてのガラスは、それらのそれぞれのTg付近の温度での2時間の熱処理の結果として、同じタイプの、表面の網目修飾カチオンの減少を示す。該表面での減少は、Fe3+からFe2+への還元によって誘起されたこれらのイオンの内方拡散によって引き起こされる。内方拡散の結果として重要なのは、シリカリッチな表面層の形成である。H2/N2(1/99)中での熱処理の前は、ガラスは、深さの関数としての組成においては何の変化も示していない。拡散プロセスの初期段階を研究するために、Si−Ca−Fe−Naガラスを、そのTgにおいて1時間および0.2時間熱処理した。0.2時間処理されたガラスは、約50nmの層においてカルシウムおよび鉄が減少しているが、一方で、ケイ素およびナトリウムの濃度は、バルクよりもこの層においてより高いことを示している。処理時間が1時間まで延びると、カルシウムおよび鉄が減少した層の厚さが増加し、ナトリウムの内方拡散が生じる。その上、およそ50〜100nmの範囲の深さにおいて、ナトリウムが豊富であることが観察される。三元Si−Ca−FeおよびSi−Na−Feガラスを、それらのそれぞれのTgにおいて2時間熱処理した。Ca2+およびNa+のそれそれの内方拡散が、これらのガラスにおいても観察される。
【0127】
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)ガラスシリーズにおいて、カルシウム拡散の温度依存性を系統的に調査した。Ca2+の拡散に対するアルカリイオンの効果を定量的に分析するために、Ca2+の拡散深度(Δξ)を、連続した3回の測定に対してc/cバルク≧1である最初の深さとして算出する。アルカリ土類イオンのカチオン性内方拡散は、時間に対して放物線型であり、したがって、以下の式によりカルシウム拡散の速度定数k'を算出する。
式中、tdは拡散時間(2時間)である。k'は、律速種(二価のカチオン)の拡散係数と熱力学的駆動力(酸素活性における勾配)の積に比例する。したがって、k'の温度感応性から、アレニウス座標にデータをプロットすることによってカルシウムの拡散の活性化エネルギー(Ed)を得ることができる(図9)。各ガラスの拡散データにより、調べた温度範囲の温度に対するアレニウス型の依存性が明らかである。Edを各直線の傾きから算出し、アルカリイオンのイオン半径に対してプロットする。Edは、アルカリイオンのサイズの増加に伴って減少する。
【0128】
酸化還元−拡散プロセスに対するアルカリイオンの効果
SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズのガラスを、Si−Ca−Fe−NaガラスのTg(すなわち、同じ温度)で熱処理する場合、還元度の順は、これらのガラスのモル体積と同じ傾向に従う(表3)。網目修飾体イオンは、網目構造における隙間のサイトを占めると考えられるため、それらは、小さなH2分子の通路を遮断する。したがって、ガラス構造が比較的隙間の空いている場合、H2分子がガラスに浸透することは、より容易である。それに対して、拡散データは、Ca2+の等温内方拡散が、Si−Ca−Fe−Naガラス、すなわち、最も小さいモル体積のガラスにおいて、最も速いことを示している。これは、2つの同時に起こるプロセス、すなわち、H2の浸透および正孔の外側方向への流れが、Fe3+からFe2への還元に寄与しているためである。前者のプロセスは、0.01barのH2での還元反応を支配している。したがって、(SNMSによって測定されるような)改質された表面層の厚さは、(UV−VIS−NIR分光分析によって測定されるような)還元度に、直接関連付けることはできない。換言すれば、2つのプロセスがFe3+の還元に寄与しているため、Fe3+の大きな還元度は、必ずしもSiO2リッチな厚い表面層をもたらすわけではない。
【0129】
したがって、大きいアルカリイオンが、ガラスにおいて最も遅いCa2+の等温拡散をもたらす別の理由があるはずである。Si−Ca−Fe−Csガラスは、当該ガラスの中で最も高いTgを有し、酸化還元により誘発されるこのタイプの拡散は、約0.8Tg(K)付近の温度で開始することがわかっている。アルカリ土類イオンの動きは、網目構造の粘性軟化とは切り離されているが、一見したところ、当該プロセスは、ある程度の粘性軟化を必要とする。したがって、ガラスが同じ温度で熱処理される場合、最も低いTgを有するガラスのCa2+拡散が最も速いであろう。
【0130】
Ca2+拡散の温度感応性は、rAの増加に伴って拡散活性化エネルギー(Ed)が減少することを示している。別の研究において、Greavesの修正ランダムネットワーク(MRN)モデルに基づき、ガラス網目構造内の相互接続チャンネル(interconnected channel)の存在が予測された。液体脆性を下げることによって、硬い系内のより単純な拡散経路により、アルカリ土類の拡散を高めることができることが見出された。SiO2−CaO−Fe2O3−A2O(A=Na、K、Rb、Cs)シリーズにおいて、Edとmとの間に正の相関が存在するので、このことにより、この研究における結果を説明できるかもしれない。
【0131】
内方拡散に関連して、この研究で得られた結果は、アルカリイオンの拡散が、二価のカルシウムイオンより遅いことをはっきりと示している。プロセスの初期において、アルカリイオンは、有効な程度までには拡散を開始しておらず、Ca2+およびFe2+の拡散が支配的である。これらのガラスの表面層におけるナトリウムの高濃度は、カルシウムおよび鉄の内方拡散に起因する。Si−Ca−Fe−NaガラスにおけるCa2+の拡散度は、三元Si−Na−FeガラスにおけるNa+の拡散度より大きいので、Ca2+拡散は、Na+の拡散より速い。該2種類のガラスはおよそ同じTgを有するので、該2種類のガラスは比較可能である。さらに、Si−Ca−Fe−CsガラスにおけるCa2+の拡散度が、三元Si−Ca−FeガラスにおけるCa2+の拡散度よりも小さいことから、アルカリイオンの存在が、アルカリ土類イオンの拡散率を減少させる。これらの2種のガラスも、ほとんど同じTgを有する。したがって、比較的遅いアルカリイオンの存在は、相互接続チャンネルにおける、より速いアルカリ土類イオンの拡散を遮断し得る。すなわち、遅いアルカリイオンが隙間を占め、それによって、充填密度が増加する。これらの隙間は、もはやアルカリ土類の移動のために使用することができない。
【0132】
アルカリ土類イオンがアルカリイオンより速い理由は、二価のアルカリ土類イオンが、正孔の外方向への流れに対して電荷的にバランスを取るために正の電荷を輸送するものとして最も好適であるから、ということのはずである。1つのアルカリ土類イオンが2つの正孔を中和するのに対し、1つのアルカリイオンが中和するのは、正孔1つだけである。さらに、アルカリ土類イオンは、三価の網目修飾体イオン(例えば、Al3+)よりも移動しやすく、これは、後者のイオンが、より強く酸素アニオンに結合するためである。アルカリイオンの拡散係数は、文献に見出されるものと比較して、内方拡散プロセスにおいての方がより小さいが、これは、後者の結果が、主に放射性トレーサーの使用によって得られたためである。
【0133】
結論
鉄含有ケイ酸塩ガラス中のガラス転移域におけるカルシウムイオンの拡散に対する、アルカリイオンの影響について研究した。拡散は、Tg付近の温度において還元性雰囲気中でガラスを熱処理することによって誘起される。移動性カチオンの内方拡散を必要とする、Fe3+からFe2+への還元が、この処理により生じる。Ca2+の移動度はガラス中に存在するアルカリイオンのタイプに強く依存し、ならびにCa2+の拡散がアルカリイオンの拡散よりも速いということが見出された。アルカリイオンの存在は、Ca2+の移動度を減少させ、ならびにアルカリイオンの半径の増加に伴って、Ca2+の拡散の活性化エネルギーが減少する。後者の傾向は、液体脆性の低下およびガラス転移温度の上昇と一致する。
【0134】
SiO2リッチな表面層の形成に対する多価元素の影響
この作業では、7種の異なる多価元素(Fe、Mn、Cu、Ce、Ti、V、およびCr)について、シリカリッチな表面層の形成に対するそれらの影響に関して調べる。これは、内方拡散のメカニズムを理解するためであり、ならびに本方法の幅広く最適な適用のために行われる。この作業の結果として、どの元素が、それぞれ結晶性酸化物層およびシリカリッチな層を得るためのガラス成分として最も好適であるかを見極めることができる。
【0135】
それぞれが次の多価金属:Fe、Mn、Cu、Ce、Ti、V、およびCrのうちの1種を含有する、7種のソーダ−石灰ケイ酸塩ガラスを、それぞれのガラス転移温度において所定の期間の間、空気中で酸化、およびH2/N2(1/99)中で還元した。酸化性条件下では、金属イオンがより低い原子価状態からより高い原子価状態へと酸化され、その結果、カルシウムイオンが外側方向へ拡散し、酸素イオンと反応するため、結晶性酸化物の表面層がガラス上に形成される(バナジウム含有ガラス除く)。対照的に、還元性条件下では、ナトリウムおよびカルシウムイオンが内部方向に拡散するので、シリカリッチな表面層がガラス上に形成される。外方拡散および内方拡散の両方の拡散度は、同じ条件の熱処理では、多価イオンのタイプに強く依存することが見出される。この作業において調べた7種の多価金属のうち、銅は、内方拡散および外方拡散の両方において最も高い拡散度の拡散を誘起し、したがって、無定形シリカおよび結晶性アルカリ土類酸化物の両方において最も厚い表面層を誘導した。酸化物層は、一次結晶化の開始温度を下げる。また、シリカリッチな表面層は、熱塩基性溶液中でのガラスの耐化学薬品性を高める。
【0136】
試料調製
7種のガラスを、3種の主要な分析用試薬グレードの化学薬品(SiO2、Na2CO3、およびCaCO3)および1種の少量の分析用試薬グレードの多価金属酸化物(Cr2O3、MnO2、CeO2、V2O5、CuO、Fe2O3、またはTiO2)から調製した。バッチ材料を、電気炉(SF6/17、Entech社)で、Pt90Rh10のるつぼ中で、1500℃で3時間溶融させた。次いで、該溶融物を真鍮のプレート上にキャストし、プレスして、直径7〜10cmおよび高さ約5mmの円筒状のガラスを得た。調製したガラスは、すぐに640℃で10分間アニール処理し、その後、密閉した電気炉において室温まで自然冷却した。ガラスの化学組成は、蛍光X線(S4−Pioneer、Bruker−AXS社)によって分析した。結果を表4に記載する。主な不純物は、Al2O3(<0.1モル%)であった。
【0137】
(表4)様々な多価酸化物(AxOy)を含有する、調製されたガラスの化学組成およびガラス転移温度(Tg)
【0138】
熱量分析
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定した。DSC測定は、同時熱分析装置(STA)(449C Jupiter、Netzsch社)おいて実施した。すべてのガラスについて、10℃/分でのアップスキャンおよびダウンスキャン(downscan)を2回実施した。二回目のアップスキャンの際の吸熱Cp(定圧熱容量)の急上昇の開始温度をTgと見なした。
【0139】
STA機器は、等温(すなわち、一定の温度での)加熱および動的(すなわち、一定の加熱速度で温度を上げながらの)加熱の両方の間に、DSCおよび熱重量(TG)信号の両方を記録するためにも使用し、ここから、多価イオンの酸化度を決定した。測定は、ガラス試料を粉砕し篩別した粉末状の試料において実施した。各ガラスについて、45〜63μmのサイズの分級物を収集した。ガラス試料を入れた白金るつぼおよび空の白金るつぼを、室温でSTAの試料担持部に置いた。試料から水を蒸発除去するために、最初に、るつぼを10℃/分の速度で300℃まで加熱し、15分間そのまま維持し、その後、室温まで冷却した。等温加熱実験では、両方のるつぼを60℃の初期温度で5分間維持し、10℃/分の速度でそれぞれのガラスのTgまで加熱し、その温度で6時間または12時間維持した。動的加熱実験では、るつぼを60℃の初期温度で5分間維持し、次いで10℃/分の速度で975℃まで加熱した。両方のタイプの加熱スケジュールの終了後、るつぼを10℃/分の速度で250℃まで冷却し、最終的に、自然な速度で室温まで降温した。モレキュラーシーブによって乾燥させた空気を、パージガスとして使用した。
【0140】
多価元素の酸化還元状態の決定
紫外−可視−近赤外(UV−VIS−NIR)Specord 200分光測定器(Analytik Jena AG社)を使用し、1nmの解像度で、UV−VIS−NIRスペクトルを300〜1100nmの波長範囲にわたって記録した。SiCペーパーを用いて6段階の手順によって研磨し、続いて3μmのダイヤモンド懸濁液を用いて磨いた、厚さ2.0mmの試料において測定を実施した。UV−VIS−NIRスペクトルを使用して、未処理のガラスに存在する多価元素の酸化還元状態を定性的に特定した。
【0141】
後処理およびキャラクタリゼーション
バルクガラスを、直径10mmおよび高さ2〜3mmの円筒状に切断した。次いで、各試料の一方の表面を、SiCペーパーを用いて6段階の手順により研磨し、続いて3μmのダイヤモンド懸濁液を用いて磨いた。カチオンの内方拡散を誘起するために、磨かれたガラスを、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下、電気炉で1気圧において熱処理した。ガラス試料を、冷たい加熱炉に挿入し、ガス流を流した。次に、加熱炉を、10℃/分でそれぞれのガラスのTgまで加熱し、その温度で6時間維持した。加熱炉を10℃/分で室温まで冷却して、拡散プロセスを終わらせた。カチオンの外方拡散を誘起するために、磨いたガラスを、大気条件下において同じ加熱手順を適用して熱処理した。
【0142】
電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)により、拡散プロフィールを決定した。SNMSを使用して、ガラス内の深さの関数として元素濃度を決定する。測定は、Balzers QMH511四重極質量分析計およびPhotonics SEM XP1600/14増幅器を備えたINA3(Leybold AG社)機器を使用することによって実施した。分析したエリアは、5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の12の異なる位置において、クレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0143】
化学的耐性試験
ガラス特性に対する内方拡散の影響を観察するために、熱塩基性溶液中における未処理の試料および熱処理された試料の両方の化学的耐性を測定した。試料の化学的耐性を、0.25MのKOH水溶液中(pH=13.2)で調べた。試験溶液(ガラスの表面領域1cm2に対して20cm3)を含むプラスチック容器中に試料を浸漬した後、該容器を、90℃でサーモスタット振盪装置に取り付けた(100rpmで撹拌した)。6時間後、試料を溶液から取り出した。浸出したCa2+イオンの濃度を、原子吸光分析(AAnalyst 100、Perkin Elmer社)を用いて、前記試験溶液中で測定した。
【0144】
結果および考察
未処理のCr含有ガラスおよびTi含有ガラスのUV−VIS−NIRスペクトルを測定した(記載せず)。Crは、ケイ酸塩ガラス中においてCr2+、Cr3+、およびCr6+として存在し得る。Cr2+による吸収バンドは全く観察されないが、一方で、Cr3+(445、640、660、および690nmにおいて)およびCr6+(360nmにおいて)の両方は観察される。Tiは、Ti4+およびTi3+として存在し得る。Ti4+は、UV範囲において電荷移動遷移のみが生じるd0電子配置を有する。したがって、Ti4+は無色であり、スペクトルにおいて、吸収バンドは全く観察できない。Ti3+は、570nmを中心とする単一のバンドを有し得ることが報告されているが、これは、この作業においては観察されていない。FeおよびMnは、それぞれ、Fe2+およびFe3+ならびにMn2+およびMn3+として存在し得る。二価状態および三価状態が、両方のガラスにおいて検出される。Vは、V3+、V4+、およびV5+として存在し得るが、V4+のみが検出される。V5+は、空気中で溶融されたケイ酸塩ガラス中に存在することが予想されるが、強い電荷移動バンドはUV範囲に見出され、これが、急なUV吸収端をもたらす。Cuは、Cu0、Cu+、およびCu2+として存在し得、Cu2+は、未処理のガラスのスペクトルにおいて観察され、一方で、Cu+は無色である。最後に、Ceは、Ce3+およびCe4+として存在し得る。両方の酸化還元状態が、UV範囲で吸収ピークをもたらし、したがって、それらは、急なUV吸収端のために観察することができない。表4には、この作業において調べた7種のガラスの化学的組成およびTgが示されている。予想されるように、より強い電界強度の多価金属イオン(Ti、Ce、Cr、V)を有するガラスは、その他のものよりも高いTg値を有する。例えば、Ti4+は、網目形成体として機能し、V5+は、ケイ酸塩網目構造の重合度を増加させるために役立ち得ることが知られている。
【0145】
製造されたままのガラスについての酸化プロセスおよび結晶化挙動に対する多価元素の影響を調べるために、粉末状試料に対して、空気中で10℃/分の加熱速度において、DSCおよびTG測定の両方を実施した。動的加熱に対する試料のエネルギー応答、および加熱の際のガラスの質量変化を、それぞれDSCおよびTGを使用して測定する。550℃を超える温度において、0.20%の質量の増加が観察された。質量の増加は、Cr2+からCr3+への酸化および/またはCr3+からCr6+への酸化が原因である。しかしながら、Cr2+は、酸化性溶融条件下において調製されたケイ酸塩ガラス中に非常に少量しか存在せず、かつUV−VIS−NIRスペクトルでは観察されないため、Cr2+からCr3+への酸化は無視することができる。鉄の酸化メカニズムによると、酸化反応により、金属表面酸化物の形成によるガラス中への酸素の組み込みが生じる。Cr3+からCr6+への酸化は、ガラス転移温度(Tg=633℃)と結晶化の開始温度(Tc=855℃)の間の約705℃において最大値を有するDSC曲線における弱い発熱ピークと関連付けられる。TG曲線(記載せず)の変曲点は、酸化ピークの最高点に対応している。
【0146】
空気中で10℃/分で加熱された7種のガラスのTGトレースを図10に示す。すべてのガラスは、Cr含有ガラスと同様の質量増加を示し、すなわち、調べたすべての多価元素は、酸化可能なイオンを有する。しかしながら、質量増加の程度は、ガラスによって異なる。酸化されたそれぞれの多価元素のモル数Δnを算出するためには、酸化反応の化学量論がわからなければならない。表4により、Cr含有ガラスおよびMn含有ガラスは、Tgを超えて加熱される場合、以下の反応を生じる。
4Cr3++3O2−>4Cr6++6O2-
4Mn2++O2−>4Mn3++2O2-
【0147】
第2の反応の化学量論も、Ti3+からTi4+へ、V4+からV5+へ、Fe2+からFe3+へ、Cu+からCu2+へ、およびCe3+からCe4+への酸化に対して有効である。加熱の際の試料の質量増加は、酸素が組み入れられたことのみに起因すると思われる。メスバウアー分光分析実験は、空気中で鉄含有アルミノケイ酸塩グラスファイバーを加熱している間に、Fe2+がFe3+へと酸化されるというこの仮定を確認するものである。以下の式によって、酸化されたモル数の正規化された値(Δnrel)を算出することができる。
式中、m0は、試料の初期質量であり、Δmは、最大の質量増加であり、かつ
は、酸素のモル質量である。xは、酸化される多価元素のモル数と酸化プロセスで消費されるO2のモル数との間の比であり、すなわち、xは、Cr3+からCr6+への酸化の場合、4/3であり、他方の酸化反応では、xは4である。動的加熱手法に対して式を使用して計算された値(Δnrel,dyn)を、表5に記載する。Cu+は、最大限に酸化されるが、一方で、Ti3+およびV4+は非常に限られた量が酸化される。
【0148】
(表5)製造されたままのガラスのΔnrel,iso、Δnrel,dyn、Tc、およびTp。Δnrel,isoおよびΔnrel,dynは、それぞれ、空気中においてTgで6時間等温加熱している間、および空気中において10℃/分で975℃まで動的に加熱している間に酸化された、多価元素の正規化されたモル数である。特性温度は、空気中で10℃/分のアップスキャン速度で実施したDSC測定から決定した。
【0149】
表5は、ガラスのTc(結晶化の開始温度)およびTp(結晶化のピーク温度)の値を示す。概して、結晶化は、大きな質量増加が生じる場合、すなわち、動的加熱の際の酸化度が高い場合に、より低い温度で生じる(図11)。空気中でのDSCアップスキャンの際に、低原子価状態のイオンの酸化が生じ、それによって酸化物表面層が形成される。X線回折(XRD)、原子間力顕微鏡法(AFM)、および二次中性粒子質量分析法(SNMS)を使用することによって、酸化物層がナノ結晶質であることが証明された。この研究で得られた結果は、ナノ結晶質層が、結晶化のための活性化エネルギーを下げることを示しており、これは、結晶が、表面で既に形成される核から成長し得るためである。これは、ナノ結晶質表面層が存在する場合、結晶化が表面において始まることがDSC実験によって示されている以前の研究の結果とも一致する。
【0150】
粉末状試料を、空気中でそれぞれのTgにおいて6時間等温加熱した際の質量増加も、TGによって測定した。図10の差し込み図に、Cr含有ガラスの質量変化が示されている。等温加熱手順の間に酸化されたモル数を正規化した値(Δnrel,iso)を、前述において言及した式を使用して算出し、表5に記載する。Δnrel,isoおよびΔnrel,dynの間には正の相関があり、すなわち、動的加熱の結果として大きな酸化度が生じる場合には、等温加熱の結果としても大きな酸化度が生じる。
【0151】
酸化および還元反応に関連する拡散プロセスを調べるために、測定の前に、それぞれのTgにおいて6時間、空気中で酸化するかまたはH2/N2(1/99)中で還元した7種のガラスの濃度の深度プロフィールを、SNMSを使用して測定する。未処理のガラスは、深さの関数としての組成において変化を示さないことに注目されたい。空気中で酸化されたCu含有ガラスのSi、O、Ca、およびNaの、濃度の正規化された深度プロフィールは記載していない。カルシウムの高い表面濃度が見出されるが、これは、Ca2+の外方拡散のためである。ナトリウムおよびケイ素の表面濃度が低いのは、表面付近においてカルシウムおよび酸素が豊富であるためである。H2/N2(1/99)中での熱処理の結果としての、Cu含有ガラスの濃度プロフィールは記載していない。ナトリウムおよびカルシウムの減少が、表面付近において見出されるが、これにより、表面層においてシリカの高濃度が生じる。SNMSによる多価元素の検出における不確実性は、比較的高いが、これは多価元素の濃度が低いためである。したがって、これらの元素が、熱処理の結果として拡散したかどうかを評価することは不可能である。
【0152】
空気中およびH2/N2(1/99)中で加熱される場合、すべてのガラスにおいて、それぞれCa2+の外方拡散および内方拡散が生じる。唯一の例外はV含有ガラスであり、該ガラスにおいては、空気中で熱処理しても、外方拡散が観察されない。これは、V4+の酸化が非常に制限されているためであるに違いない(表5)。様々なガラスにおけるCa2+の拡散度を定量的に比較するために、Ca2+曲線のピーク面積(ACa)およびCa2+の拡散深度(DCa)を算出する。該面積については、Ca2+のSNMS濃度曲線とc=cバルクを通る水平線との間を計算する。連続した3回の測定に対して、それぞれc/cバルク≦1およびc/cバルク≧1である最初の深度として、DCa,oxおよびDCa,redを算出する。算出値を表6に記載する。AとDとの間に正の相関が認められる。
【0153】
(表6)酸化性(空気)および還元性(H2/N2 1/99)雰囲気下で、それぞれのTgにおいて6時間熱処理された7種のガラスにおける、Ca2+のSNMSピーク面積および拡散深度。該面積については、Ca2+のSNMS濃度曲線とc=cバルクを通る水平線との間を計算する。
【0154】
所定の多価元素の酸化度が、拡散度と関係があるかどうかを調べるために、Δnrel,isoの関数として、ACa,oxをプロットする(図12)。ACa,oxおよびΔnrel,isoの両方が、等温加熱手順によって得られるが、ACa,oxは、バルク試料を使用することによって決定され、その一方で、Δnrel,isoは、粉末試料を使用して決定されたことに注目されたい。バルク試料を使用することによって質量変化を得た場合、表面積が小さいために、質量増加は、装置の検出限界を下回るであろう。図12は、Ca2+の拡散度が、多価元素の酸化度の増加に伴って、だいたい直線的に増加することを示している。これは、外方拡散が多価元素の酸化によって駆動されることを明確に示している。同様の傾向が、内方拡散度と多価元素の還元度との間において予想される。しかしながら、これは、白金のるつぼおよび試料ホルダーを使用するために、還元性のH2/N2雰囲気においてTG測定を行うことができないので、調べることができなかった。
【0155】
表6に表された結果に基づき、同じ熱処理条件下では、Cuが、最も厚い層を形成する元素であると結論づけられる。熱処理前に高度に還元または酸化されている元素は、最も薄い改質された表面層を形成する。これは次のように説明することができる。例えば、元素が、H2/N2(1/99)中での熱処理の前に完全に還元されている場合、還元され得るイオンの濃度は低く、したがって、形成される層も薄いであろう。他方で、元素がほぼ完全に酸化されている場合、還元可能なイオンの濃度は高いが、還元反応は熱力学的に不利であり、このことからも、結果として薄層が生じるであろう。
【0156】
ガラス特性に対する表面改質の影響は、未処理のガラスと熱処理されたガラスの両方について、0.25MのKOH溶液中(pH=13.2)での化学的耐性を決定することによって調べる。90℃で6時間後の浸出液中のCa2+の濃度を表7に示す。
【0157】
(表7)製造されたままのガラス、ならびに空気中およびH2/N2(1/99)中で、それぞれのTgで6時間熱処理されたガラスの化学的耐性。化学的耐性は、0.25MのKOH溶液中で90℃で6時間後のCa2+イオンの浸出量(c(Ca2+))によって表される。濃度測定は、±0.2mg/Lよりも良い精度で実施された。
【0158】
浸出実験の間、ヒドロキシルイオンが、Si−O網目結合を直接攻撃し、結果として、シラノール基(−Si−OH)が形成される。
表面からのガラスの連続した溶解は、このプロセスの結果である。未処理のガラスは、それほど異なった化学的耐性を有してはいない。空気中で酸化されているガラスの中には、対応する未処理のガラスよりも、塩基性溶液に対する耐性が低いものもある。これは、ケイ素の表面濃度が低いことによって説明されるが、それは、比較的多量のCa2+イオンを溶解するために、切断される必要のあるSi−O結合がほとんど無いためである。H2/N2(1/99)中で還元されたガラスの耐塩基性の増加は、処理されたガラスの網目構造の、Ca2+の内方拡散による高い結合性に起因する。空気中およびH2/N2(1/99)中で加熱された試料の両方において、化学的耐性は、改質された表面層の厚さに依存しているようである。
【0159】
結論
ケイ酸塩ガラスにおける7種の多価元素の酸化および還元は、表面付近の拡散プロセスをもたらす。酸化プロセスにより、結晶性酸化物の表面層が形成され、一方で、還元プロセスにより、シリカリッチな層が形成される。結晶性の表面層は、一次結晶化プロセスの開始温度を下げ、一方で、シリカリッチな表面層は、熱塩基性溶液中での化学的耐性を高める。網目修飾イオンの拡散メカニズムは、Tg付近の温度において多価元素を含有するすべてのガラスにおいて普遍的であるように思われる。最も厚い、改質された表面層を形成するためには、多価元素が、酸化および還元されたイオンの混合物としてガラス中に存在しなければならない。調べた元素の中で、同一酸化還元処理条件下において、Cuが最も厚い表面層を形成するのに最適の成分である。
【0160】
SiO2リッチな表面層の形成に対するアルカリ土類イオンの影響
ここで、SiO2−Na2O−Fe2O3−RO(R=Mg、Ca、Sr、Ba)ガラスシリーズにおける内方拡散プロセスに対するアルカリ土類イオンのタイプによる影響を調査する。さらに、カチオンの内方拡散が、ガラス転移域におけるガラスの粘性流動挙動、すなわち液体脆性と、相関があるか否か、およびどのような相関があるかを見出すことを試みた。後者は、一般的に受け入れられている、非アレニウス型流動度について説明する概念である。液体脆性は、ガラスの組成および構造に関連しており、ガラス構造は、正孔および網目修飾イオンの拡散のエネルギー障壁に強い影響を及ぼす。本作業において、速度論的脆性インデックスm(すなわち、Tgにおける、粘性の対数対Tg/Tの曲線の勾配)および熱力学インデックスCpl/Cpg(すなわち、Tgにおける、液状とガラス質の定圧熱容量の比)の両方を、液体脆性の測定値として決定する。最後に、カチオンの内方拡散プロセスは初期Fe3+濃度によって影響を受けるので、メスバウアー分光分析を使用して、鉄の酸化還元状態に対するアルカリ土類イオンの影響についても調べる。
【0161】
SiO2−Na2O−Fe2O3−RO(R=Mg、Ca、Sr、Ba)ガラスシリーズにおける、液体脆性とアルカリ土類イオンの(表面から内部方向への)内方拡散との相関関係を調べた。内方拡散は、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下における、ガラス転移温度(Tg)付近の温度での、Fe3+からFe2+への還元によって引き起こされる。このような拡散の結果、シリカリッチなナノ層が形成される。還元プロセスの際、拡散度(深さ)は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、およびBa2+の順に減少し、その一方で、脆性は、同じ順で増加する。Tgでの粘性流動のための活性化エネルギーEηに対するTg付近での内方拡散の活性化エネルギーEdの比率は、液体脆性の増加と共に増加することが見出される。カチオンの内方拡散は、化学組成を変えることによってガラス系の脆性を低くすることにより、高められる。
【0162】
試料調製
4種の鉄含有アルカリ−アルカリ土類ケイ酸塩ガラス(表8を参照のこと)を、分析用試薬グレードのSiO2、Na2CO3、MgO、CaCO3,SrCO3、BaCO3、およびFe2O3の粉末から調製した。混合したバッチ材料を、電気炉(SF6/17、Entech社)で、Pt90Rh10のるつぼ中で、1500℃で3時間溶融させた。次いで、該溶融物を真鍮のプレート上にキャストし、プレスして、直径7〜10cmおよび高さ約5mmの円筒状のガラスを得た。調製したガラスは、それぞれのガラス転移温度より10K高い温度で10分間アニール処理し、その後、20時間以内に室温まで冷ました。
【0163】
(表8)調製したガラスの化学組成、密度、モル体積(=モル質量/密度)、および鉄の酸化還元比。アルカリ土類イオンの半径rは、配位数6の場合である。
*すべての鉄は、Fe2O3として示されている。
【0164】
試料のキャラクタリゼーション
ガラスの化学組成は、蛍光X線(S4−Pioneer、Bruker−AXS社)によって分析した。結果を表8に記載する。主な不純物は、Al2O3(約0.2モル%)であった。ガラスの密度は、He比重計(Porotech社)により測定した。それについても表8に示してある。粉末状試料において透過型57Feメスバウアー分光分析を用いて、Feイオンの酸化還元状態に対するアルカリ土類イオンの影響を調べた。ロジウム中に57Coの線源を有する等加速度分光計を使用し、α−Feを用いて較正した。測定は室温で実施し、データは、各試料について1週間かけて収集した。アイソマーシフトは、較正スペクトルとの比較により得られる。
【0165】
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)機器(STA 449C Jupiter、Netzsch社)を使用して測定した。各計測についてのCp曲線は、空のるつぼを用いて実施した補正を除した後に、サファイア参照試料のCp曲線に対して算出した。測定は、パージされたAr雰囲気中で実施した。Tgを決定するために、以下の加熱手順を実施した。最初に、試料を、各試料のそれぞれのTg(K)の1.11倍の温度まで、10K/分で加熱した。続いて、該試料を、10K/分で室温まで冷却した。次いで、4種のガラスの熱履歴を確実に一様にするために、温度10K/分での二次アップスキャンによって、Tgを決定した。Cpl/Cpg比も、このスキャンによって決定した。液体脆性を決定するために、ビーム曲げ(T>Tg)実験および共軸円筒(T>T液相線)実験によって粘度を測定した。ビーム曲げ実験では、長さ45mmおよび断面積3×5mm2のバーをバルクガラスから切断した。該バーを、40mm間隔の非対称3点荷重曲げモード(VIS401、Bahr社)において屈曲させた。300gの重りを使用して、10K/分の定加熱速度において、およそ1012〜1010Pa・sの粘度範囲を調べた。粘度は、DIN ISO7884−4に従って算出した。低粘度(<102Pa・s)は、共軸円筒式粘度計を使用して測定した。粘度計は、4つの部分:加熱炉、粘度計ヘッド、スピンドル、および試料るつぼから成っていた。粘度計ヘッド(Physica Rheolab MC1、Paar Physica社)は、高温炉(HT7、Scandiaovnen A/S社)の頂部に取り付けた。スピンドルおよびるつぼは、Pt80Rh20製であった。粘度計は、米国規格基準局(NBS)710A標準ガラスを使用して較正した。
【0166】
拡散実験
上記の研究に基づくと、1μm未満の拡散深度が予想されるので、慎重に試料表面を調製した。最初に、バルクガラスを、直径10mmおよび高さ2〜3mmの円筒状に切断した。次いで、各試料の一表面を、SiCペーパーを用いて6段階の手順により研磨し、続いて1μmのダイヤモンド懸濁液を用いて磨いた。
【0167】
カチオンの内方拡散を誘発するために、磨いたガラスを、H2/N2(1/99 v/v)ガス流の下、1気圧において電気炉で熱処理した。加熱炉中の酸素の存在は、完全に回避することはできない。しかし、Fe3O4/Fe2O3酸化還元緩衝剤を使用することによって、その分圧を既知の値に維持することが可能である。Fe2O3およびFe3O4粉末を、3:2のモル比で混合し、該試料と一緒に加熱炉内に入れた。ガラス試料および酸化還元緩衝剤を冷たい加熱炉内に挿入し、ガス流を流した。次いで、加熱炉を、10K/分で予定された熱処理温度Taまで加熱し、期間taの間、この温度に維持した。加熱炉を10K/分で室温まで冷却して、拡散プロセスを終わらせた。ガラスは、それぞれのTg(K)の0.95倍、1.00倍、1.025倍、および1.05倍において2時間、ならびにそれらのTgで16時間処理した。さらに、Mg含有ガラスを、そのTgにおいて0.5時間および8時間処理した。
【0168】
電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)により、拡散プロフィールを決定した。SNMSは、ガラス内の深さの関数として元素の濃度を決定するために使用される。測定は、Balzers QMH511四重極質量分析計およびPhotonics SEM XP1600/14増幅器を備えたINA3(Leybold AG社)機器を使用することによって実施した。分析したエリアは5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の12の異なる位置において、クレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0169】
結果
295Kにおける未処理のCa含有ガラスの透過型57Feメスバウアースペクトルは記載していない。スペクトルに見られる2つの二重線は、常磁性のFe3+(0.28mm/sのアイソマーシフトおよび1.07mm/sの四極子分裂)およびFe2+(1.00mm/sのアイソマーシフトおよび1.86mm/sの四極子分裂)によるものである。Fe3+による六重線も、該スペクトルに見られる。これは、クエンチングの際に形成され得るクラスタの存在に起因し得る。六重線および2つの二重線は、4種すべてのガラスのメスバウアースペクトルに見られ、ピークの面積のみが異なっている。Fe3+(二重線および六重線)およびFe2+(二重線)の相対スペクトル面積を使用して、未処理のガラスのそれぞれに対して、Fe3+/Fetot比を算出する(表8)。
【0170】
4種のガラス組成についての、DSCアップスキャンの際に記録された定圧熱容量(Cp)曲線は記載していない。Tgは、転移ゾーンの前のガラスのCp曲線を外挿した直線と、転移ゾーン内のCpが急上昇する曲線の変曲点における接線との間の交差点において決定する。±3K内の精度のTg値を、表9に示す。Tgを、アルカリ土類イオンのイオン半径(r)の関数としてプロットする(記載せず)。配位数6の場合のアルカリ土類イオンの半径を、表8に記載する。Tgは、rの増加に伴って減少することが見出せる。
【0171】
(表9)DSCおよび粘度測定によって決定された、R=Mg、Ca、Sr、BaであるSiO2−Na2O−Fe2O3−ROガラスの特徴パラメータ。Fおよびmの誤差は、95%信頼限界内である。
【0172】
ビーム曲げおよび共軸円筒式粘度計から得られる、4種の組成物についての粘度データは記載していない。しかしながら、低温および高温のデータの両方に対して、rの増加に伴って粘度(η)の減少が観察される。ガラス形成液体の粘度の温度依存性について説明するために、以下のAvramov−Milchev(AM)式を適用する。
式中、A、B、F、Tgは定数であり、これらは、粘度データを式に対してフィットさせることによって得られる。Aは、logη∞であり、この場合、η∞は、無限温度における粘度である。Fは、ガラス形成液体の脆性インデックスであり、これは、周囲圧力における化学組成の関数である。F値が高くなれば、液体脆性は増す。Tgにおける酸化物ガラスの粘度は1012Pa・sに等しいので、当該式は、以下の数式のように簡素化され得る。
この式には、パラメータが3つしかない。Levenberg−Marquardtアルゴリズムを使用することにより、この修正AM式にデータをフィットさせる。この式は、Vogel−Fulcher−Tammann(VFT)式およびAdam−Gibbs(AG)式の両方よりも、より良くデータをフィットさせることがわかる。4種の組成物についてのF値を表8に示す。脆性は、インデックスmによっても説明され得るが、これは、Tgでのlogη対Tg/Tの曲線の傾きとして定義される。
Fは、以下の関係により、mに変換することができる。
mの算出値を表9に記載する。調べたガラス溶融物は、アルカリ土類イオンのサイズの増加に伴って、より脆くなっている。ここで説明する脆さは、いわゆる速度論的脆性である。速度論的脆性を、Tgにおける熱力学的特性変化と関連付けるいくつかの試みがなされてきた。熱力学的脆性の尺度として、液体の熱容量とTgでのガラスの熱容量との比(Cpl/Cpg)を使用することが提案されている。DSC測定値に基づいて、4つの組成物に対してCpl/Cpgを算出し、その値を表9に示す。Cplは、ガラス転移域を超えている超過したCpのオフセット値である。Cpgを決定するために、Tgより下の温度におけるCp値に対して一次関数をフィットさせる。Tgでのこの関数の値が、Cpgとして示される。表9の結果は、rの増加に伴って、Cpl/Cpgが増加することを示している。比較のため、ガラス転移時の熱容量の段階的変化(Cpl−Cpg)も算出して、表9に一覧する。Cpl/CpgとCpl−Cpgに、同様の傾向が観察される。
【0173】
H2/N2(1/99)下で、それぞれのTgにおいて16時間熱処理した4種のガラスにおける拡散プロフィールは記載していない。しかしながら、すべてのガラスが、表面付近においてナトリウム、鉄、およびそれぞれのアルカリ土類イオンの減少を示す。この内方拡散が、シリカの高い表面濃度をもたらす。未処理のガラスは、深さの関数としての組成においては変化を示さないことに注目されたい。データを定量的に分析するために、Ta=Tgに対して、アルカリ土類イオンの拡散深度(Δξ)を決定する(図12)。Δξは、連続する3回の測定に対してc/cバルク≧1である最初の深さとして算出される。図12は、アイソコム(isokom)温度でのアルカリ土類イオンの移動度の順は、Mg2+>Ca2+>Sr2+>Ba2+であることを示している。
【0174】
還元メカニズムが妥当な場合、アルカリ土類イオンの化学拡散が生じるはずであり、すなわち、拡散は、時間に対して放物線型のはずである。放物線型の動態は、以下のような統合された形式で表すことができる。
(Δξ)2=k't
式中、tは時間であり、かつk'は定数である。k'は、律速種の拡散係数と、(室温に対して)正規化された熱力学的駆動力の積に比例する。速度論的解析は、Mg含有ガラスにおいて、Ta=Tgでの加熱処理の期間(0.5、2、8、および16時間)に対して(Δξ)2をプロットすることによって実施する。決定係数(R2)0.999を有する直線関係が見出される(図13の差し込み図を参照のこと)。これは、速度論的特性が実際に放物線型であることを証明している。
【0175】
アルカリ土類の拡散の温度依存性を調べるために、一定の拡散時間での温度によるΔξの変化から、k'の温度感度を算出する。図14は、結果として得られるアレニウスプロットを示している。各ガラスに対する拡散データにより、温度に対するアレニウス型の依存性が明らかとなる(図14の実線を参照のこと)。各直線の傾きから、Tg付近での拡散の活性化エネルギー(Ed)を算出し、図14の差し込み図においてrの関数として示す。Edは、rの増加に伴って増加しており、したがって、アルカリ土類イオンの電界強度の減少に伴って増加している。
【0176】
アルカリ土類イオンの性質のみが変わり、その濃度は変わっていないので、ガラスの組成における小さな差異(表8)を無視すれば、非架橋酸素(NBO)の数は、すべてのガラスにおいて同じである。公知であるように、ケイ酸塩溶融物の脆性の差異は、ヒドロキシル含有量の小さな変化から生じ得る。しかしながら、ヒドロキシル含有量における違いは、主には溶融状態の差異に起因し、これは、この研究のケイ酸塩ガラスでは変更されていない。したがって、未処理のガラスのヒドロキシル濃度におけるごくわずかな変化のみが想定される。さらに、鉄の酸化還元比は、データの誤差範囲を考慮する場合、試料間で異なっておらず(表8を参照のこと)、これは、以前の研究の結果と一致している。したがって、Tg、脆性、および拡散において観察される変化は、NBOまたはFe3+の濃度では説明できない。該変化は、アルカリ土類イオンのサイズ(したがって、それらの電界強度)、イオンの充填密度、および結合角分布における違いに起因するはずである。
【0177】
アルカリ土類イオン(R2+)のrの減少に伴うTgの上昇は、網目構造全体の強化の結果と考えられるが、rの減少が、それらの電界強度の増加をも引き起こし、したがって、R2+イオンを囲んでいる[SiO4]四面体の構造グループに対するR2+イオンの誘引も高めるためである。Mg2+イオンは、近くの[SiO4]四面体を最も強く誘引し、したがって、ガラス転移を開始するためには、より高いポテンシャルエネルギー障壁を乗り越えなければならない。同様に、粘度は、rの増加に伴って、高温および低温の両方において減少する。アルカリ土類の電界強度に従って、ガラスのモル体積も、Ba>Sr>Ca>Mgの順に減少し、高い電界強度のカチオンに対して、構造にあまり隙間がないことを示している(表8)。
【0178】
(Fまたはmによって定量化された)速度論的脆性は、(Cpl/CpgまたはCpl−Cpgによって定量化された)熱力学的脆性と正の相関を示す。しかしながら、この相関関係は、小有機物液体およびポリマー性液体には当てはまらず、一方で、無機ガラス形成液体に対しては該相関が存在する。本作業において調べたガラスシリーズにおいて、脆性は、アルカリ土類イオンのrの増加に伴って増加することが見出される。これは以下のように説明することができる。より脆弱な液体では、より脆弱でない液体よりも温度による液体の構造の変化が大きい。Mg2+の高い電界強度は、高度の短距離秩序をもたらし、これが、温度の上昇によって構造が急速に崩壊することを防ぐ。
【0179】
拡散実験では、Mg2+イオンが、アイソコム温度において最も速く、ならびに最も低いEdを有することが示された。アルカリおよびアルカリ土類イオンの半径が同じであれば、アルカリ土類イオンが、アルカリ−アルカリ土類ケイ酸塩ガラス内において最も移動性を有していることが、以前に報告されている。1つの八面体サイトから別の八面体サイトへのアルカリ土類イオンのジャンプは、電気双極子モーメントを誘起する高い負電荷密度を残す。このモーメントが、アルカリ土類イオンの後方へのジャンプをもたらし得る。しかしながら、アルカリイオンとアルカリ土類イオンが同じ半径を有する場合、高い移動性を有するアルカリイオンは、容易に、アルカリ土類イオンのサイトに入ることができ、したがって、後方ジャンプの確率が減少する。本発明のナトリウムアルカリ土類ケイ酸塩ガラスでは、Na+の半径(1.02Å)がCa2+の半径(1.00Å)と非常に似ているので、Ca2+イオンは、最も移動が速く、ならびに最も低いEdを有しているはずである。加えて、鉄の還元が、アルカリイオンの拡散を引き起こす(拡散プロセスにおけるNa+の役割については、後述において説明する)。これらの要因が、空のアルカリ土類イオンのサイトにジャンプするNa+の能力を制限する。このことは、Ca2+が本発明のガラスにおいて最も移動の速いイオンであると見出されない理由を説明し得る。
【0180】
MRNモデルにより、網目修飾酸化物は、相互接続されたチャンネル(すなわち、パーコレーションネットワーク(percolative network))を非常に高い濃度で形成する。パーコレーションの閾値は、16体積%の修飾酸化物において生じるが、本作業において調べたガラス組成は、これを超えている。アルカリ土類イオンは、それらのサイズが最も小さい場合に、チャンネルを通って最も速く拡散するはずであり、このことは、アイソコム温度における本発明者らの拡散結果を説明する。拡散の活性化エネルギーは、カチオンとNBOとの間のクーロン相互作用による静電気的条件と隣接するサイトへの出入口を開く弾性要素との合計である。本発明のガラスでは、最も小さいアルカリ土類イオンが、チャンネルを通って最も容易に移動するために、最も低いEdを有するので、後者の条件が、活性化エネルギーを支配している。チャンネルは、[SiO4]四面体によって構成されており、すなわち、必要となる酸素の置換は、小さなアルカリ土類イオンに対しては比較的少ない。
【0181】
イオンの拡散と脆性との間の関係を調べるために、図15においてmに対してEdをプロットする。mは、Edに比例していることが見出され、これは、ガラス中のアルカリ土類イオンの拡散が、液体脆性に関係していることを意味している。これは次のように説明することができる。硬いガラス系は、脆いガラス系よりも小さな配位エントロピー(Sc)を有する。Scは、温度Tにおいて得ることができる、可能な充填状態の存在量によって決まる純液体のエントロピーの一部である。したがって、脆性は、状態の多様性(局所的ポテンシャルエネルギーの最小値)に依存しており、すなわち、硬い系は、脆い系よりも利用できる状態がより少ない構造を有するであろう。したがって、アルカリおよびアルカリ土類イオンは、硬い系における単純な拡散経路により、脆い系よりも硬い系において、より速く拡散するはずである。
【0182】
ガラス中のアルカリ土類イオンの拡散が、網目構造の粘性流動に関連しているかどうかを調べるために、以下の関係を考慮する。
Eη=mTgRln10=(12−logη∞)FTgRln10
式中、Eηは、Tgでの粘性流動の活性化エネルギーであり、Rは気体定数である。図15において、EdをEηに対してプロットしており、明かな直線関係が観察されるが、Ed/Eη比は1より小さい。Stoke−Einstein式により、粘度の増加に伴って、拡散の活性化エネルギーは増加する。しかしながら、イオンは、活性化エネルギーの最も低い輸送経路を使用するので、すなわち、イオンは、構造単位の協調的な再配列よりも速く流れるので、該式は、イオン移動を予測するためには使用できない。言い換えれば、アルカリイオンおよびアルカリ土類イオンの拡散は、網目構造の変化から切り離されている。
【0183】
拡散プロセスにおけるNa+の役割は、複雑なように見える。アルカリイオンは、ガラス中で最も移動の速いイオンであると通常考えられるが、Na+の拡散深度は、概して、アルカリ土類イオンの拡散深度よりも小さく、これは、本発明者らの以前の研究と一致している。加えて、(周囲のNa+濃度と比較して)Na+の豊富なピークは、R=Ca、Sr、およびBaの熱処理された試料の表面付近に見出せるが、R=Mgでは見出されない(記載されず)。このピークの高さと幅は、Taおよびtaの減少に伴って減少する。これらの結果は、Na+が、初期の内方拡散の後に、表面へ戻るように拡散していることを意味している。このことは、デカップリング比の値により示されるような、アルカリ土類イオンおよびナトリウムイオンの相互拡散メカニズムの存在に適合する。これらの問題は、68SiO2−23CaO−8R2O(R=Na、K、Rb、Cs)−1Fe2O3ガラスにおける、還元により誘発された拡散を調査することによって、今後の研究においてより詳細に取り組まれるであろう。
【0184】
カチオンの内方拡散プロセスの他の特徴について、以下において説明する。拡散プロフィール(記載せず)は、Ca2+、Sr2+、およびBa2+の拡散が様々な段階で生じ、その一方で、Mg2+の場合はそうでないことを示している。Mg含有ガラスでは、深さによる濃度変化は、およそ直線的である。Ca2+、Sr2+、およびBa2+の内方拡散は、これらの比較的大きいイオンの蓄積のために、より深いところでは減速するかもしれない。このことは、濃度対深さ曲線の傾きが突然変わる深さが、rの増加に伴って減少するように見える理由を説明するであろう。
【0185】
内方拡散プロセスは、Fe3+からFe2+への還元によって駆動されるが、Fe2+は、それ自身が拡散することができる。6配位でのFe2+のイオン半径は、高いスピン状態に対して0.78Åである。鉄の拡散データから、2つの一般的な特徴が明らかとなる。第1に、Fe2+の拡散深度は、rの増加に伴って減少する。第2に、rの増加に伴って、Fe2+の拡散深度とアルカリ土類イオンの拡散深度との間の比率(ΔξFe/ΔξR)は減少する(平均で、R=Mgでは0.9、R=Baでは0.4)。これらの観察結果は、より大きいアルカリ土類イオンによって生じる、Fe2+の拡散に対する立体障害によって説明される。
【0186】
結論
鉄の還元によって駆動される内方拡散プロセスにより、ケイ酸塩ガラスにおけるガラス転移領域でのアルカリ土類イオンの拡散、および液体脆性との関係について調べた。脆性は、アルカリ土類イオンのイオン半径の増加に伴って増加することが見出される。ガラスをTg付近の温度で熱処理することにより、Fe3+からFe2+への還元による移動性カチオンの内方拡散が生じるので、該熱処理によって拡散を調べる。決定した拡散の活性化エネルギー(Ed)により、小さいアルカリ土類イオンは最も移動可能であること、および脆性の増加に伴ってEdが増加することが明かとなる。本明細書において、修正ランダムネットワークモデルに基づいて結果を説明したが、該結果は、調べたガラスにおけるパーコレーションチャンネルの形成を予測するものである。小さいイオンは、[SiO4]四面体によって構成されるこれらのチャンネルを通って、最も容易に移動する。この結果は、ガラス系の脆性を低くすることによって、カチオンの内方拡散が増強されることを示唆している。拡散メカニズムに従って、アルカリ土類イオンが最も低い活性化エネルギーの移動経路を使用することによって、ガラスの網目構造のゆっくりとした協調的再配列を回避するため、Ed<Eηが見出される。カチオンの内方拡散プロセスを使用して、ガラス表面上にシリカリッチなナノ層を形成することが可能であり、この研究において得られた結果は、Mg2+イオンが、アイソコム温度において最も効率的にこの層を形成することを示している。
【0187】
SiO2リッチな表面層の形成に対する還元性ガスの影響
大気中において、より高い圧力で、H2よりも大きい還元性分子のガスを使用して、シリカリッチな層の形成を誘発できるか否かについて調べるために、鉄含有ケイ酸塩ガラスのTgにおける熱処理のための還元剤として、CO/CO2(98/2 v/v)雰囲気を適用する。その後、CO/CO2で処理されたガラスの表面層の濃度プロフィールと、H2/N2(1/99)で処理されたガラスの表面層の濃度プロフィールとを比較する。シリカリッチな表面層の形成の、ガラスのタイプへの依存性に関する情報は、内方拡散プロセスのメカニズムを明確にするために、ならびに表面改質技術の適用のために重要である。
【0188】
鉄含有ケイ酸塩ガラスが、CO/CO2(98/2 v/v)またはH2/N2(1/99 v/v)ガス中において、ガラス転移温度付近の温度で熱処理された場合に、網目修飾カチオンの内方拡散が、該ガラスにおいて生じ得ることが見出される。第二鉄から第一鉄イオンへの還元によって内方拡散が生じ、この拡散によって、厚さ200〜600nmの、シリカリッチな表面層が形成される。網目修飾二価カチオンの拡散係数を算出し、それらは、COガス中およびH2ガス中で処理されたガラスでは異なっている。COおよびH2の、適用された分圧では、H2含有ガスは、CO含有ガスよりも効果的にシリカリッチな層を形成する。該層は、表面層中のシリカ網目構造により、ガラスの硬度および化学的耐性を増加させる。
【0189】
実験
大気下で1500℃で分析用試薬グレードの原料の混合物を溶融させ、6wtFeおよび3wtFeと名付けた2種のガラスを調製した。6wtFeガラスの組成(重量%)は、SiO2:69.4、CaO:10.8、MgO:9.3、Na2O:4.4、およびFe2O3:6.1であり、一方で、3wtFeガラスの組成(重量%)は、SiO2:71.0、CaO:11.1、MgO:9.6、Na2O:4.5、およびFe2O3:3.2である。なお、すべての鉄(Fe2+およびFe3+)は、Fe2O3として示されている。NaOおよびCaOは、それぞれの炭酸塩を使用してバッチ中に導入した。SiO2は、石英として、Fe2O3はFe2O3として、およびMgOはMg(OH)2・(MgCO3)4・(H2O)5として導入した。
【0190】
粉末状試料に対して、従来の透過型57Feメスバウアー分光分析測定を使用して、未処理の鉄含有ガラスの鉄酸化還元状態を決定した。ロジウム中に57Coの線源を有する等加速度分光計を使用した。分光計は、室温でα−Feの薄片を使用して較正した。[Fe3+]/[Fetot]比(式中、[Fetot]=[Fe2+]+[Fe3+])は、両方のガラスについて約0.7であることが見出された。6wtFeおよび3wtFeのTg値は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定し、それぞれ、926Kおよび921Kであることが見出された。
【0191】
得られたガラスは、円筒状に切断し、次いで、エタノール下で6段階の手順によりSiCペーパーで研磨し、続いて1μmのダイヤモンド懸濁液で磨いた。H2/N2(1/99)雰囲気中で、電気炉において1気圧で実施した。ガラス試料を冷たい加熱炉に挿入し、ガス流を流した。加熱炉の加熱および冷却は、10K/分で実施した。CO/CO2(98/2)での処理も同様に実施したが、加熱および冷却速度は5K/分であった。酸素の分圧は、Fe3O4/Fe2O3酸化還元緩衝剤を使用することによって、H2/N2(1/99)雰囲気において既知の値に維持した。Fe2O3およびFe3O4粉末を3:2のモル比で混合し、該試料と一緒に加熱炉内に入れた。CO/CO2(98/2)雰囲気において、酸素分圧は、CO−CO2−O2平衡よって制御した。
【0192】
フーリエ変換赤外(FT−IR)および紫外−可視−近赤外(UV−VIS−NIR)吸収スペクトルは、二重に研摩した0.2mm厚のガラススライドを使用して、それぞれ、Bruker Vertex 70 FT−IRおよびAnalytik Jena UV−VIS−NIR Specord 200スペクトル光度計により測定した。組み込まれたOH基およびCO3基はIRスペクトルにおいて検出可能なので、FT−IRスペクトルから、ガラス中へのH2およびCOの浸透を調べることができる。UV−VIS−NIRスペクトルを記録し、鉄酸化還元状態の変化を、熱処理条件の関数として決定した。Fe2+イオンは、1050nm付近に最大吸収ピークを有するが、その位置および強度は、ガラス組成によって変わる。本発明のガラスにおける吸光係数はわかっておらず、したがって、以下のLambert−Beer式の吸光係数を算出した。A = c・ε・t、式中、Aは吸光度であり、cは濃度であり、εは吸光係数であり、並びにtは試料の厚さである。[Fe3+]/[Fetot]比および鉄の総含有量を使用することによって、未処理の6wtFeガラス中の第一鉄の濃度を算出した。1050nm付近の吸光度を試料の厚さ(0.12、0.20、0.40、および0.8mm)に対してプロットすることにより、直線関係を得た(R2=0.997)。このプロットの傾き(c・ε)から算出した吸光係数は、3.90Lmol-1mm-1であった。
【0193】
カチオンの拡散プロセスを調べるために、INA 3(Leybold AG社)機器により、電子ガス二次中性粒子質量分析法(SNMS)を使用して、ガラス表面の組成分析を実施した。分析したエリアは、5mmの直径を有しており、約500eVのエネルギーを有するKrプラズマを使用してスパッタを行った。スパッタプロフィールの時間依存性を、Tencor P1表面形状測定装置を用いて、同一試料上の10の異なる位置において、クレーターの深さを測定することによって、深さ依存性へと変換した。
【0194】
熱処理されたガラスの2つの特性を試験した。ビッカース硬度は、Struers Duramin 5 微小硬度計を使用し、0.25Nの負荷と最大負荷における5秒の保持時間とにより、各試料に対して25回測定した。押し込みの対角線の長さは、光学顕微鏡(反射法)を使用して測定した。化学的耐性は、0.25MのHClおよびKOH溶液中での溶解の後の、Na+およびMg2+イオンの浸出量を測定することによって試験した。試料を、ガラスの表面領域1cm2に対して20cm3の試験溶液が入ったプラスチック容器中に浸漬した。該容器を、90℃でサーモスタット振盪装置に取り付け(100ppmで撹拌し)、12時間後、前記試料を前記溶液から取り出した。原子吸光分析(AAnalyst 100、Perkin Elmer社)を用いて、試験溶液中のNa+およびMg2+の濃度を測定した。
【0195】
結果および説明
図16は、それぞれH2/N2(1/99)またはCO/CO2(98/2)中で、Tgにおいて16時間熱処理したガラスのUV−VIS−NIRスペクトルを示している。最大吸収ピークは、1050nm付近に見られ、これは、Fe2+イオンの存在によるものと考えられる。ガラスを、H2/N2(1/99)またはCO/CO2(98/2)中で所定の期間の間処理すると、Fe2+バンドの強度が増加し、これは、Fe3+がFe2+へと還元されていることを示している。Fe2+濃度の変化(Δ(Fe2+))は、熱処理の期間の平方根(ta0.5)に対しておよそ直線的に増加しており、これは、拡散律速動態が生じていることを意味している(図16の差し込み図を参照のこと)。ガラスの熱処理の効果をIRによって測定した(記載せず)。3550cm-1および2850cm-1のバンドは、それぞれ、弱く水素結合したOH種および強く水素結合したOH種のO−H伸縮振動によるものである。1860cm-1および1630cm-1付近のバンドは、シリカガラスマトリックスのコンビネーションモード(combination mode)および倍振動に起因し得る。1510cm-1および1425cm-1に位置するバンドは、化学的に溶解している炭酸塩種の振動に起因する。炭酸塩の酸素の1つは、非架橋酸素(NBO)を介して四面体サイトに取り付けられている。この複合体は、Ca2+に連結されている。以下の反応は、H2/N2(1/99)およびCO/CO2(98/2)での処理の結果として観察されるバンドを説明する。
H2+2NaFe3+O2+4SiOSi→4SiO(Fe2+)0.5+2SiOH+2SiONa
CO+2NaFe3+O2+SiOCa0.5+3SiOSi→4SiO(Fe2+)0.5+SiCO3Ca0.5+2SiONa
【0196】
前記の表記法において、前記式は、酸素アニオンの結合環境を表している。NaFe3+O2は、Fe3+を表しており、これは、酸素が四面体状に配位し、Na+によって電荷的にバランスが取られている。SiOSiは、2つのシリカ四面体を接続している架橋酸素に対応している。SiOHは、ヒドロキシル基を含有するシリカ四面体である。SiCO3Ca0.5は、NBOおよびCa2+に結合している炭酸塩種である。SiO(Fe2+)0.5、SiONa、およびSiOCa0.5は、それぞれ、Fe2+(八面体配位)、Na+、およびCa2+が、NBOに結合していることを表す。要約すれば、前記結果は、H2およびCOの両方が、ガラスに浸透することができることを示している。COの分圧は、H2の分圧よりかなり高いにもかかわらず、Fe3+の還元度は、CO/CO2(98/2)中よりもH2/N2(1/99)中の方が高い。これは、H2分子のより小さなサイズに起因する、該分子のより速い浸透速度によって説明される。H、C(sp)、およびOの共有結合半径に基づいて、H2およびCO分子の長さは、それぞれ1.2Åおよび2.7Åと算出された。
【0197】
CO/CO2(98/2)中でそのTgにおいて16時間熱処理された6wtFeガラスのSNMS深さプロフィールは記載していない。しかしながら、表面方向に向かって、Mg2+、Ca2+、およびFe2+の濃度の著しい減少が観察される(厚さ:300〜350nm)。Na+も、内部方向に向かって拡散する。アルカリイオンは、自身のより低い電荷によって、ガラス中において、通常アルカリ土類イオンよりも速く移動することが見出されるが、Na+の拡散深度は、Mg2+、Ca2+、およびFe2+の拡散深度より小さく、これは、上記の研究と一致する。正孔が外方へ向かう流れに対して電荷的にバランスを取るように内方拡散が生じ、電荷は二価のカチオンによって最も効果的に輸送され得る。
【0198】
100〜150nmの範囲の深さにおいてNa+が高濃度であるのが観察されることに注目されたい。これは、Mg2+、Ca2+、およびFe2+イオンの減少により比較的高いNa+イオン濃度が生じるため、この範囲におけるそれらの減少が原因と思われる。網目修飾カチオンの表面減少が、2つの理由から、研磨手順によるものではないことに注目されたい。第一に、ガラスは、SiCペーパーを使用してエタノール下において研磨され、ダイヤモンドペーストを使用して磨かれたので、すなわち、カチオンの浸出は生じるはずがない。第二に、未処理のガラスのSNMSプロフィールは、いかなるカチオンの内方拡散も示していない。
【0199】
CO/CO2中で処理されたガラスのSNMSプロフィール(図17)は、CO/CO2(98/2)中でのFe3+還元のメカニズムが、H2/N2(1/99)中でのそれと同じであることを示している。Fe3+の内部還元により、正孔(h・)が生成される。反応領域における酸素活性の勾配によって駆動される、h・の外方向への流れが生じる。h・は表面において、イオン性酸素によって放出された電子により埋められ、酸素は、CO2として還元性雰囲気中に放出される。h・の外方向への流束は、電荷的バランスを維持するために、網目修飾カチオンの内方向への流束を伴う。したがって、カチオンの内方拡散は、多価カチオンの、高い原子価状態から低い原子価状態への還元によって駆動される。反応が、二価のカチオンの拡散によって律速されるか否かを調べるためには、二価カチオンの拡散係数を計算し、同様に重合されたガラスにおける二価のカチオンの拡散係数の既知の値と比較すべきである。二価のカチオンの拡散係数
は、以下の式を使用して算出することができる。
式中、Δξは、網目修飾体層の厚さであり、
は、二価のカチオンM2+のカチオンモル分率であり、Δtは反応は時間であり、
は自由表面での酸素の分圧(すなわち、活性)であり、ならびに
は、内部反応フロントでの酸素分圧である。
は、CO−CO2−O2平衡によって一定に保たれており、Tg=653℃において5・10-27barに等しい。
は、初期の鉄の酸化還元比に依存しており、Tg=653℃においておよそ5・10-3barであると算出される。これらの値を上記の式に代入すると、CO/CO2(98/2)中におけるFe2+カチオンの拡散係数として約1・10-18m2/sが得られる。この値は、同様の重合ガラスにおける二価の網目修飾カチオンによる拡散の測定値に良く一致する。これは、前記メカニズムを明確に証明するものである。したがって、COの浸透および正孔の外方向への流れの両方が、Fe3+の還元に寄与している。
【0200】
要約すれば、カチオンの内方拡散により、鉄含有ガラスにおいてシリカリッチな表面層の形成が生じる。CO/CO2(98/2)中で、そのTgにおいて16時間処理した3wtFeガラスでは、層の厚さは約200nmである。このことは、Fe3+イオンの濃度を下げると、二価のイオンの拡散度が減少し、したがって、層がより薄くなることを意味している。6wtFeガラスをH2/N2(1/99)中で熱処理する場合も、層が形成される。しかしながら、この場合、その厚さは、Tgにおいて16時間で約600nmであり、これは、約5・10-18m2/sの
の値を与える。このことは、926K(Tg)での酸化ポテンシャルは、COの方がH2より大きいが、シリカリッチな表面の形成には、COよりもH2の方がより効果的であることを示唆している。この層の厚さの違いは、2つの気体分子のサイズの差によるものであるに違いない。表面において正孔を中和するために、H2分子およびCO分子は、最初に、最上表面層中に浸透し、続いて、構造内に溶解し、同時にガラス構造中の第二鉄イオンに接触して還元するに違いない。浸透プロセス、したがって還元プロセスは、分子が小さい場合に、より容易である。
【0201】
未処理の試料および熱処理した試料の硬度および耐化学薬品性を表10に示す。構造的見地から、アルカリ土類カチオンおよびアルカリカチオンは、連続するSi−Oランダムネットワークを崩壊させ、それによって、NBOがガラスに導入される。表面からそれらを除去することにより、ガラスの硬度および耐化学薬品性が明らかに増加する。H2雰囲気中において処理することによって、最も厚いシリカリッチな層が形成されるので、前記増加は、H2処理の結果で最も顕著である。
【0202】
(表10)6wtFeガラスのビッカース硬度(Hv)および化学的耐性に対する、熱処理の雰囲気の効果。処理済の試料はすべて、Tg=926Kにおいて16時間加熱してある。ガラスの化学的耐性は、0.25MのHCl溶液中で12時間後のNa+の浸出した量(C(Na+)酸)および0.25MのKOH水溶液中で12時間後のMg2+の浸出した量(C(Mg2+)アルカリ)によって表される。
【0203】
結論
鉄含有ガラスをCO含有雰囲気およびH2含有雰囲気の両方においてそのTgで熱処理することによって、シリカリッチな表面層を形成することができる。該層は、網目修飾カチオンの内方拡散により形成される。二価のカチオンの拡散係数を算出することによって、内方拡散のメカニズムが明確になった。ガラス表面は、表面からの網目修飾カチオンの除去により、さらに構造的に重合されるようになる。その結果、ガラスの硬度および化学的耐性が増強される。さらに、内方拡散度は、CO処理の場合よりもH2処理の方が、結果としてより大きい。これは、H2が、COよりも小さいサイズを有するという事実によるものと考えられ、そのために、表面構造内において、前者の方が後者よりも、より容易に第二鉄イオンを還元する。
【0204】
継続中の実験作業
継続中の実験作業では、実験的および/または理論的手法および方法によって、以下観点についてさらに詳細に調査してもよい、または調査している。
・シリカのナノ層を実現するための、様々なガラス組成についてのさらなる解明。これには以下のものが挙げられる。
−本発明を可能にするための、特に実用的実装のための、ガラス中における多価イオンの濃度の最も低い限界についての見極め。
−標準的医療用ガラス(ホウケイ酸塩ガラス、重量%; SiO2:75〜80、B2O3:10〜13、Al2O3:2〜5、Na2O:4〜7、CaO:0〜2)において、または窓用ガラスにおいて、多価元素を添加することによるSiO2リッチな表面ナノ層の形成。
・ナノ層の形成に影響を及ぼす、混合気体中のH2濃度に対する影響についてのさらなる解明。
−ガラス組成に依存して、H2は多少可溶性であろう。したがって、H2の様々な濃度は、結果として内方拡散を生じる(おそらく、H2がより可溶性の場合、内方拡散を得るためには、より低いH2濃度を必要とする)。
・ガラスにおける内方拡散のメカニズムを説明するための物理的および数学的モデルのさらなる解明。
・ナノ構造層のより正確なキャラクタリゼーション。
−表面層(未処理のペリクレース層、およびシリカリッチな層)のTEM画像から、これらの層の構造に関する洞察が得られる。
−XPS:最上(数nm)層のキャラクタリゼーション
−系統的なCEMS(転換電子メスバウアー分光分析)調査
・様々なタイプのガラス上にナノ層を実現するための、熱処理における最適な温度および期間の見極め。
・形成されたナノ層による、ガラスの特性に対する影響についてのさらなる解明。
−(ナノインデンテーションによる)硬度
−様々な溶液における化学的耐性
−光学:反反射(antireflection)、IR吸収(熱)、屈折率など
−表面層のTg
−高温安定性:改質された表面を高温で空気中で加熱し、加熱の前後の粗さを測定する
・複合材料中に使用されるグラスファイバー上にシリカリッチなナノ層を形成することができるか否かの分析。
【0205】
本発明の局面の1つに関係して説明される態様および特徴は、本発明の他の局面にも適用されることに留意されたい。
【0206】
本出願において引用された全ての特許および非特許の参考文献は、参照によりその全体が本明細書中に組み入れられるものとする。
【0207】
参考文献
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク部分と表面領域とを含み、網目修飾カチオン(NMC)を含むケイ酸塩ガラス物品であって、該表面領域中の該網目修飾カチオンの濃度が、該バルク部分中よりも低く、該網目修飾カチオンの該表面領域における組成が内方拡散(inward diffusion)の結果である、ケイ酸塩ガラス物品。
【請求項2】
シリカの重量%が少なくとも50%である、請求項1記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項3】
ケイ酸塩の架橋酸素の含有量が、バルク領域よりも表面領域において実質的に高い、請求項1〜2のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項4】
表面領域におけるSiO2の濃度が、バルク部分よりも実質的に高い、請求項1〜3のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項5】
内方拡散が、多価元素の還元によって生じる、請求項1〜4のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項6】
内方拡散が、還元性ガスおよび/または還元性液体による還元によって生じる、請求項5記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項7】
表面領域の深さが、内方拡散プロセスの関数である、請求項1〜2のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項8】
表面領域の深さが、時間、温度、拡散しているイオンの電界強度、還元性ガスの分圧、多価元素の濃度および酸化還元比、ならびに/またはガラスのタイプの、関数である、請求項7記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項9】
拡散が、化学拡散によって特徴付けられる、請求項1〜8のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項10】
ケイ酸塩ガラスが、光学領域において透明である、請求項1〜9のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項11】
表面領域におけるケイ酸塩ガラスの硬度が、未処理のガラスの対応する表面領域よりも実質的に高い、請求項1〜10のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項12】
表面領域におけるケイ酸塩ガラスの化学的耐性が、未処理のガラスの対応する表面領域よりも実質的に高い、請求項1〜10のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項13】
ケイ酸塩ガラスの熱衝撃抵抗が、対応する未処理のガラスより実質的に高い、請求項1〜12のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項14】
ケイ酸塩ガラスが遷移金属カチオンを含む、請求項1〜13のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項15】
少なくともいくつかの遷移金属カチオンが網目修飾カチオン(NMC)である、請求項14記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項16】
遷移金属カチオンが、Ti4+、Ti3+、V5+、V4+、V3+、Cr6+、Cr5+、Cr3+、Mn7+、Mn6+、Mn5+、Mn4+、Mn3+、Fe5+、Fe4+、Fe3+、Co4+、Co3+、およびNi3+からなる群より選択される、請求項14または15記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項17】
遷移金属カチオンが、Ti2+、V2+、Cr2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Zr2+、Nb2+、Mo2+、Ru2+、Rh2+、Pd2+、Ag2+、Cd2+、Ta2+、W2+、Re2+、Os2+、Ir2+、Pt2+、Hg2+、およびRa2+からなる群より選択される、請求項14または15記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項18】
少なくともいくつかの網目修飾カチオン(NMC)が、周期表の第IIa族由来である、請求項1〜17のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項19】
化学薬品の貯蔵のためのガラス容器、グラスファイバー、工芸ガラス、ならびにビール、ワイン、および他の液体の貯蔵のためのガラス容器である、上記請求項のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項20】
還元性ガスを含む雰囲気においてケイ酸塩ガラス物品を熱処理する工程を含む、ケイ酸塩ガラス物品の表面領域を改質するための方法であって、該ケイ酸塩ガラス物品のより深い領域への網目修飾カチオン(NMC)の内方拡散をもたらし、それによって該表面領域における該網目修飾カチオンの濃度が下げられる、方法。
【請求項21】
還元性ガスが、1種以上の還元性ガスの混合物である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
還元性ガスが、さらに1種以上の不活性ガスと混合されている、請求項20または21記載の方法。
【請求項23】
前記雰囲気が、窒素ガスと水素ガスとの混合物を含む、請求項20〜22のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記雰囲気が、一酸化炭素ガスと二酸化炭素ガスとの混合物を含む、請求項20〜23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記雰囲気が、SbH3、AsH3、B2H6、CH4、PH3、SeH2、SiH4、SH2、SnH4、Cl2、NO、N2O、CO、H2、N2O4、SO2、C2H4、およびNH3からなる群より選択されるガスの混合物を含む、請求項20〜24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
還元性ガスが、未処理のケイ酸塩ガラス内に実質的に不浸透性である、請求項20〜26のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
熱処理が、少なくとも100nm、200nm、400nm、500nm、600nm、または700nmの表面領域の厚さが得られるように実施される、請求項20〜26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
熱処理が、ケイ酸塩ガラスのガラス転移温度(Tg)の0.1〜3.0倍において実施される、請求項20〜27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
熱処理の期間が、0.01〜36時間で実施される、請求項20〜28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記雰囲気の圧力が、0.001〜20気圧である、請求項20〜29のいずれか1項記載の方法。
【請求項1】
バルク部分と表面領域とを含み、網目修飾カチオン(NMC)を含むケイ酸塩ガラス物品であって、該表面領域中の該網目修飾カチオンの濃度が、該バルク部分中よりも低く、該網目修飾カチオンの該表面領域における組成が内方拡散(inward diffusion)の結果である、ケイ酸塩ガラス物品。
【請求項2】
シリカの重量%が少なくとも50%である、請求項1記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項3】
ケイ酸塩の架橋酸素の含有量が、バルク領域よりも表面領域において実質的に高い、請求項1〜2のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項4】
表面領域におけるSiO2の濃度が、バルク部分よりも実質的に高い、請求項1〜3のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項5】
内方拡散が、多価元素の還元によって生じる、請求項1〜4のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項6】
内方拡散が、還元性ガスおよび/または還元性液体による還元によって生じる、請求項5記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項7】
表面領域の深さが、内方拡散プロセスの関数である、請求項1〜2のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項8】
表面領域の深さが、時間、温度、拡散しているイオンの電界強度、還元性ガスの分圧、多価元素の濃度および酸化還元比、ならびに/またはガラスのタイプの、関数である、請求項7記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項9】
拡散が、化学拡散によって特徴付けられる、請求項1〜8のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項10】
ケイ酸塩ガラスが、光学領域において透明である、請求項1〜9のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項11】
表面領域におけるケイ酸塩ガラスの硬度が、未処理のガラスの対応する表面領域よりも実質的に高い、請求項1〜10のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項12】
表面領域におけるケイ酸塩ガラスの化学的耐性が、未処理のガラスの対応する表面領域よりも実質的に高い、請求項1〜10のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項13】
ケイ酸塩ガラスの熱衝撃抵抗が、対応する未処理のガラスより実質的に高い、請求項1〜12のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項14】
ケイ酸塩ガラスが遷移金属カチオンを含む、請求項1〜13のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項15】
少なくともいくつかの遷移金属カチオンが網目修飾カチオン(NMC)である、請求項14記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項16】
遷移金属カチオンが、Ti4+、Ti3+、V5+、V4+、V3+、Cr6+、Cr5+、Cr3+、Mn7+、Mn6+、Mn5+、Mn4+、Mn3+、Fe5+、Fe4+、Fe3+、Co4+、Co3+、およびNi3+からなる群より選択される、請求項14または15記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項17】
遷移金属カチオンが、Ti2+、V2+、Cr2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Zr2+、Nb2+、Mo2+、Ru2+、Rh2+、Pd2+、Ag2+、Cd2+、Ta2+、W2+、Re2+、Os2+、Ir2+、Pt2+、Hg2+、およびRa2+からなる群より選択される、請求項14または15記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項18】
少なくともいくつかの網目修飾カチオン(NMC)が、周期表の第IIa族由来である、請求項1〜17のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項19】
化学薬品の貯蔵のためのガラス容器、グラスファイバー、工芸ガラス、ならびにビール、ワイン、および他の液体の貯蔵のためのガラス容器である、上記請求項のいずれか1項記載のケイ酸塩ガラス物品。
【請求項20】
還元性ガスを含む雰囲気においてケイ酸塩ガラス物品を熱処理する工程を含む、ケイ酸塩ガラス物品の表面領域を改質するための方法であって、該ケイ酸塩ガラス物品のより深い領域への網目修飾カチオン(NMC)の内方拡散をもたらし、それによって該表面領域における該網目修飾カチオンの濃度が下げられる、方法。
【請求項21】
還元性ガスが、1種以上の還元性ガスの混合物である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
還元性ガスが、さらに1種以上の不活性ガスと混合されている、請求項20または21記載の方法。
【請求項23】
前記雰囲気が、窒素ガスと水素ガスとの混合物を含む、請求項20〜22のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記雰囲気が、一酸化炭素ガスと二酸化炭素ガスとの混合物を含む、請求項20〜23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記雰囲気が、SbH3、AsH3、B2H6、CH4、PH3、SeH2、SiH4、SH2、SnH4、Cl2、NO、N2O、CO、H2、N2O4、SO2、C2H4、およびNH3からなる群より選択されるガスの混合物を含む、請求項20〜24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
還元性ガスが、未処理のケイ酸塩ガラス内に実質的に不浸透性である、請求項20〜26のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
熱処理が、少なくとも100nm、200nm、400nm、500nm、600nm、または700nmの表面領域の厚さが得られるように実施される、請求項20〜26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
熱処理が、ケイ酸塩ガラスのガラス転移温度(Tg)の0.1〜3.0倍において実施される、請求項20〜27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
熱処理の期間が、0.01〜36時間で実施される、請求項20〜28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記雰囲気の圧力が、0.001〜20気圧である、請求項20〜29のいずれか1項記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2012−501940(P2012−501940A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525407(P2011−525407)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/DK2009/050224
【国際公開番号】WO2010/025735
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511057940)オールボー ユニバーシテ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/DK2009/050224
【国際公開番号】WO2010/025735
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511057940)オールボー ユニバーシテ (1)
【Fターム(参考)】
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