説明

改質プラスチックフィルム

【課題】多くの硬化膜は固い反面、もろいので、硬さが十分で且つ傷つきにくいものはクラックが入りやすく、クラックが入りにくければ硬さが不足し傷つきやすくなるという二律背反性をもっている。
そこで、傷つきにくさとクラックの入りにくさが両立する改質プラスチックフィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】プラスチックフィルムの一方の面に設けた硬化膜の動摩擦係数を0.32以下とし、鉛筆硬度を2B以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓ガラスに貼合するときに貼りやすく、傷つきにくい表面を持つ、窓貼り用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の窓ガラス面に貼合する窓貼り用フィルムが多く利用されている。それらは、紫外線・赤外線等の不必要な光の進入を防ぐ、ガラスに着色・装飾を施す、ガラスが割れたときの飛散を防止する、侵入者がガラスを割ることができないようにする、などの目的で貼られることが多い。
【0003】
通常、この窓貼り用フィルムは、そのガラス側になる面に粘着層が設けられ、この粘着層がガラスに密着し貼合される。このフィルムの素材であるプラスチックの表面はガラス面に比較して硬度が不足しているので、傷つきやすい。特に、フィルムをガラス面に貼る際、貼合用のヘラ(スキージー)での擦りで傷つくことが多く、改良が望まれている。
【0004】
そこで、フィルム表面を傷つきにくくする場合は、表面に高硬度の硬化膜を設けることが行なわれている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−232730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、多くの硬化膜は固い反面もろいので、硬さが十分で傷つきにくいものはクラックが入りやすく、クラックが入りにくければ硬さが不足し傷つきやすくなるという二律背反性をもっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、この硬化膜表面の動摩擦係数を調整し、鉛筆硬度を調整することにより、傷つきにくさとクラックの入りにくさが両立することを見出した。そして、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の改質プラスチックフィルムはプラスチックフィルムの一方の面に硬化膜を有し、該硬化膜表面の動摩擦係数が0.32以下であり、鉛筆硬度が2B以下であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の改質プラスチックフィルムは、前記プラスチックフィルムの硬化膜を有する面とは反対側の面に、接着層を形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面の硬化膜は傷つきにくさが十分であるとともに、クラックが入りにくい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各構成要素の実施の形態について説明する。
【0012】
本発明の改質プラスチックフィルムは、プラスチックフィルムの一方の面に硬化膜を有した構成となっている。
【0013】
プラスチックフィルムとしては、各種透明プラスチックフィルムを用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、フッ素系樹脂などからなるプラスチックフィルムを用いることができる。これらプラスチックフィルムの中でも、強度と寸法安定性が良好である点で、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。
【0014】
これらプラスチックフィルムの厚みは特に制限されないが、6μm〜2mm程度とすることが好ましく、さらには12μm〜200μm程度とすることが好ましい。
【0015】
また、これらプラスチックフィルムは全光線透過率が90%以上のものが好ましい。紫外線吸収剤や光安定剤を含有しているものでも良い。
【0016】
硬化膜を構成する樹脂としては、透明性の良い熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などの硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0017】
熱硬化性樹脂および電離放射線硬化性樹脂は、例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などで構成される。
【0018】
また、これら硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合しても良い。熱可塑性樹脂を加えることにより、硬化膜の硬度を調整することができる。
【0019】
熱可塑性樹脂としてはアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などがあげられる。これらの樹脂の中から、単独または混合して使用できる。
【0020】
本発明では、硬化膜の鉛筆硬度を2B以下とする。鉛筆硬度を2B以下とすることにより、クラック発生が抑えられる。硬化膜の鉛筆硬度の下限は4Bとする。4B以上とすることにより、安定した傷つき防止性が得られる。
【0021】
改質プラスチックフィルムの硬化膜の表面の鉛筆硬度を2B以下とするには、以下の方法がある。
【0022】
本発明の改質プラスチックフィルムはプラスチックフィルム、硬化膜、必要により設ける接着層より構成され、各層の硬さが互いに影響し合い硬化膜表面の硬度を決定しているので、各層の材質や厚みを調整することにより硬化膜表面の鉛筆硬度を2B以下とすることができる。
【0023】
プラスチックフィルムにおいては、同種のもので市販品であれば、硬度と可とう性に関してはほとんど差がないので、そのレベルを考慮するには及ばない。
【0024】
次に、硬化膜を構成する樹脂においては、硬度、可とう性に関しては幅が広い。硬化性樹脂では、樹脂の種類とその架橋密度が硬度と可とう性に影響し、熱可塑性樹脂ではそのガラス転位温度が硬度と可とう性を決める因子となる。前述したように、硬度と可とう性は二律背反性があり、硬さが十分で傷つきにくいものはクラックが入りやすく、クラックが入りにくければ硬さが不足する。
【0025】
さらに、接着層においても上記同様であり、硬いものから柔らかいものまで比較的幅が広い。接着剤を構成する樹脂の凝集力が高いものは硬い材質となり、凝集力が低いものは柔らかい材質となる傾向がある。硬い接着層を用いた改質プラスチックフィルムは鉛筆硬度の測定値が比較的高くなり、柔らかい接着層を用いた改質プラスチックフィルムは鉛筆硬度の測定値が低いものとなる。
【0026】
硬化膜、プラスチックフィルム、接着層の三層構造で、プラスチックフィルムを固定して考えた場合、硬化膜を硬め、接着層を柔らかめにして、接着層の柔らかさを硬化膜に反映させることにより、硬化膜の表面の鉛筆硬度を2B以下に調整することが好ましい。このようにすることにより、傷つき防止性とクラック防止性を両立しやすくできる。
【0027】
例えば、厚み50〜200μmのプラスチックフィルムを用いた場合、硬化膜を構成する樹脂としては、ポリエステルフィルム上に硬化膜のみを設けた際の鉛筆硬度がH〜HB程度となるような比較的固めの樹脂を選定する。一方、接着層としては、接着層の柔らかさを硬化膜に反映することにより、硬化膜表面の鉛筆硬度を2B以下にできるような柔らかい樹脂を選定する。
【0028】
なお、上述してきた鉛筆硬度は、JIS−K5600−5−4(1999)に準拠した方法で測定した値である。
【0029】
また、硬化膜表面の動摩擦係数を0.32以下とする。鉛筆硬度2B以下のようなやわらかい素材は通常傷つきやすいが、その動摩擦係数を0.32以下とすることにより表面がすべり、柔らかいにもかかわらず傷つきにくくできる。
【0030】
硬化膜表面の動摩擦係数を0.32以下とする手段としては、硬化膜に易滑性を付与するための添加剤を加える等の手段があげられる。
【0031】
このための添加剤としては、硬化膜表面に易滑性を与える添加剤であれば使用することができる。この添加剤には、シリコーン系添加剤、フッ素系添加剤、ワックス系添加剤等がある。少量添加で良好な結果が得られることからこれらの中でもシリコーン系添加剤が好ましい。
【0032】
添加剤の添加量は、それぞれの添加剤により異なるが、好ましく使用されるシリコーン系添加剤の場合は、硬化膜の固形分100に対し、0.01〜0.1%が好ましい。添加量を0.01%以上であることにより、滑り性を付与することができ、耐スチールウール性を与える。またその添加量を0.1%以下とすることにより硬化膜表面がべたつくことを防ぐことができる。
【0033】
この他に硬化膜表面の動摩擦係数を0.32以下とするには、硬化膜を構成する樹脂にフッ素樹脂を使用したり、シリコーンが樹脂鎖にグラフトされたアクリル樹脂等を用いても良い。
【0034】
硬化膜の厚みは、1〜4μmであることが好ましい。1μm以上であることにより、傷つきにくくすることができる。4μm以下とすることによりクラックが入りにくくすることができる。
【0035】
なお、硬化膜には、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤を添加しても良い。そうすることによって、改質プラスチックフィルムを貼合した被着体の内側にある物の紫外線劣化を防ぐことができる。
【0036】
プラスチックフィルムの硬化膜とは反対側の面には、被着体に貼り合せるための接着層を設けることが好ましい。接着層としては、アクリル系感圧接着剤、ゴム系感圧接着剤などの感圧接着剤、ホットメルト接着剤などの接着剤の他、熱圧着可能な熱可塑性樹脂フィルムなどを用いることができる。接着層を設けることにより、接着層の硬さを硬化膜に反映させて硬化膜表面の鉛筆硬度を調整できる。
【0037】
なお、接着層の硬さを示す貯蔵弾性率は、20℃において3.5×10Pa〜5.0×10Paであることが好ましい。接着層の貯蔵弾性率を20℃において3.5×10Pa〜5.0×10Paにすることにより、硬化膜表面の鉛筆硬度を調整しやすくできる。
【0038】
感圧接着剤を用いる場合、接着層上には、改質プラスチックフィルムの取り扱い性を損なわないようにセパレータを貼り合わせておくことが好ましい。セパレータとしては、各種合成樹脂フィルムに離型処理を施したものなどを使用することができる。
【0039】
以上のような硬化膜、接着層を設ける方法としては、各層を構成する材料を、適宜必要に応じて添加剤や希釈溶剤等を加えて塗布液として調整して、当該塗布液を従来公知のコーティング方法により塗布、乾燥する方法があげられる。
【0040】
以上説明した本発明の改質プラスチックフィルムは、主として、窓ガラスなどの内側に貼り付けて使用される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例により本発明を更に説明する。なお「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0042】
[実施例1]
厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーT60:東レ社)の一方の面に、下記の組成の硬化膜塗布液を乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布乾燥後、紫外線照射して硬化膜を形成した。そして、裏面には接着層として下記の粘着層塗布液を塗布乾燥し、離型フィルム(ダイアホイルMRF、厚み50μm:三菱化学ポリエステルフィルム社)を貼りあわせて粘着層を保護して粘着層付き改質プラスチックフィルムを得た。
【0043】
<硬化膜塗布液>
電離放射線硬化性樹脂 10部
(ビームセット575:荒川化学工業社)
光重合開始剤 0.5部
(イルガキュア651:チバスペシャルケミカルズ社)
添加剤 0.2部
(Mアディティブ:東レ・ダウコーニング社)
有機溶剤 22部
【0044】
<粘着層塗布液>
・アクリル系粘着剤(アロンタックM-300:東亜合成社) 10部
・有機溶剤 20部
【0045】
[比較例1]
窓貼り用フィルム市販品RIVEX・SS50T‐N(リケンテクノス社)を準備し、比較例1の粘着層付き改質プラスチックフィルムとした。
【0046】
[比較例2]
窓貼り用フィルム市販品スコッチティント・ウィンドウフィルムSH2CLAR(住友スリーエム社)を準備し、比較例2の粘着層付き改質プラスチックフィルムとした。
【0047】
実施例1および比較例1、2で得られた粘着層付き改質プラスチックフィルムをガラス表面に貼った後、スチールウールでの耐傷つき性を評価し、マンドレル屈曲試験での耐クラック性を評価した。さらにそれらの動摩擦係数と鉛筆硬度を測定した。その結果を表1に示す。
【0048】
1.耐傷つき性
硬化膜表面に300gの荷重でスチールウール#0000で50往復擦った後、その表面の傷の有無を目視で観察した。その結果、傷が付かなかったものを「○」傷が付いたものを「×」として評価した。
【0049】
2.耐クラック性
JIS K5600−5−1:1990に準拠した耐屈曲性(円筒形マンドレル法)に基づき、直径2mmの鉄棒に硬化膜が外側になるように巻きつけ、その巻きつけた部分の硬化膜にクラックが生じるか否かを目視で観察した。クラックが確認できなかったものを「○」、クラックが確認できたものを「×」として評価した。
【0050】
3.動摩擦係数測定
ASTM D1894−78の方法に準じて硬化膜面の動摩擦係数を測定した。被摩擦面はポリエステルフィルム(ルミラーT60、厚み50μm:東レ社)の表面とした。
【0051】
4.鉛筆硬度測定
JIS K5600−5−4:1999に準拠して、鉛筆引っかき値を測定した。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1の改質プラスチックフィルムは、鉛筆硬度が2B以下のため、マンドレル試験によるクラックは発生しなかった。また、動摩擦係数は0.32以下であるので、耐スチールウール性も良好である。したがって、傷つきにくさとクラックの入りにくさの二律背反性に反し、両性能を満足している。
【0054】
比較例1の改質プラスチックフィルムは、動摩擦係数が0.32以下のため耐スチールウール性は良好であるものの、鉛筆硬度が2B以上であるのでマンドレル試験ではクラックが入ってしまい、耐クラック性で劣ったものとなった。
【0055】
比較例2の改質プラスチックフィルムは、鉛筆硬度は2B以下のためマンドレル試験によるクラックは発生しなかったものの、動摩擦係数が0.32以上であるので耐スチールウール性に劣ったものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの一方の面に硬化膜を有し、該硬化膜の動摩擦係数が0.32以下であり、鉛筆硬度が2B以下であることを特徴とする改質プラスチックフィルム。
【請求項2】
前記プラスチックフィルムの硬化膜を有する面とは反対側の面に、接着層を有することを特徴とする請求項1記載の改質プラスチックフィルム。

【公開番号】特開2012−214036(P2012−214036A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−66833(P2012−66833)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】