説明

改質再生ポリエステル樹脂及びそれを用いた成形品

【課題】安定した成形性を有する改質再生PET樹脂が得られると共に、改質の際にゲル化物の副生等が少なく安定した架橋反応をおこなうことが可能であり、また再切断等のおそれのない、改質再生PET樹脂及びそれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】再生PET樹脂のカルボキシル基末端が、エポキシ基及びオキサゾリン基を有する改質剤により改質されており、前記改質剤のオキサゾリン基と前記エポキシ基のモル比がオキサゾリン基:エポキシ基=100:90〜100:0.01の範囲内であり、前記改質剤の添加量が再生PET樹脂100質量部に対し0.001〜15質量部として改質再生PET樹脂を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みのPETボトル等のように、例えば一度成形したポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PET樹脂ということもある)を回収して原料として用いた再生ポリエステル樹脂を改質した改質再生ポリエステル樹脂、及び該改質再生ポリエステル樹脂を所定の形状に成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET樹脂は、優れた物性を有し、生産量が安定していることから、比較的安価であり、PETボトル等の飲食品用容器として広く利用されている。使用済みPETボトル等は、分別回収されて、再生ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、再生PET樹脂ということもある)として再利用されている。再生PET樹脂は、PETボトル等のリサイクル技術が確立されており、安定した原料として利用可能である。
【0003】
再生PET樹脂は、再生時に加熱溶融される等の熱履歴を持っているので、分子鎖が切断され重合度が低下している。そのため再生PET樹脂は、信頼性が必要な成形品等には利用されていないのが現状である。また重合度の低下したPET樹脂は、溶融粘度が低いため、押出し成形には不向きであり、結晶化が遅いため延伸が十分でなければ、低温で球晶を生じ脆くなる。そのため、再生PET樹脂に様々な異種ポリマーを混合して、物性を改良する試みがなされている(例えば特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−143988号公報
【特許文献2】特開2005−343971号公報
【特許文献3】特開2005−41964号公報
【特許文献4】特開2003−342458号公報
【特許文献5】特開2003−335931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜5等に記載の再生PET樹脂は、全ての物性について未だ満足なものではないという問題があった。また再生PET樹脂にブレンドポリマーを大量に添加すると、再生PET樹脂のコストが上昇してしまうという問題があった。再生PET樹脂の改質は、できるだけ少量の改質剤の添加により行うことが望ましい。
【0006】
少量の改質剤で再生PET樹脂を改質するには、架橋効果を持つ改質剤を用いて、熱履歴により切断された分子鎖を再び繋ぎ合わせるという方法が考えられる。PET樹脂の分子鎖が熱により切断すると、エステル結合が分解し、分子末端にカルボキシル基と水酸基が同量出現する。カルボキシル基又は水酸基と反応する官能基を有する化合物を加えて、再生PET樹脂のカルボキシル基及び水酸基と反応させれば、分断した分子を繋ぎ合わせることができるはずである。
【0007】
ところが、再生PET樹脂の再生工程で、水酸基末端を持つ分解物は揮発する傾向にあり、再生PET樹脂中には相対的にカルボキシル基を持つ分解物が多く含有していることが判った。そのため、水酸基と反応する化合物を加えて反応させようとしても、再生PET樹脂中では水酸基末端を持つ分解物の量が一定ではないことにより、反応不足や、過剰反応によるアグリゲーションを生じさせ、物性の低下を引き起こしてしまう。そこで、再生PET樹脂の改質剤としては、相対含量の高いカルボキシル基と反応するものを選択する必要があることが判明した。
【0008】
PET樹脂のカルボキシル基と反応性を有する官能基として、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基等があり、特にエポキシ基、カルボジイミド基等を分子内に複数有する化合物は、PET樹脂の架橋剤として古くから検討されている。そこで、これらの官能基を有する化合物を用いて再生PET樹脂を改質することを試みた。
【0009】
エポキシ基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する化合物を再生PET樹脂に加えて反応させると、反応速度が遅く、それに伴い必要以上に高分子に架橋したゲル化物が大量に副生し、分子量分布が広くなってしまうという問題があった。反応後の再生PET樹脂にゲル化物の副生があると、成形の際に成形不良が発生し、物性安定性を低下させることになる。
【0010】
一方、オキサゾリン基を有する化合物を再生PET樹脂に加えて反応させると、反応速度が速いため、反応後の再生PET樹脂は、分子量分布が広がることなく、ゲル化物の副生も少なく、安定した反応を行うことができることが判った。しかしながら、オキサゾリン基を有する化合物を添加した場合、エポキシ基を有する化合物を用いた場合と比較すると、反応後の再生PET樹脂に対する増粘効果が小さいという問題があった。またオキサゾリン基を有する化合物は分子内に窒素原子を持つため、反応副生物として塩基性のアミンが生じてしまう虞がある。再生PET樹脂中にアミンが存在すると、再生PET樹脂を再び切断してしまい、架橋効果があまり得られないことになる。
【0011】
このように、カルボキシル基と反応する官能基を有する化合物を単に再生PET樹脂に改質剤として添加して反応させただけでは、再生PET樹脂の改質が不十分であるということが判った。本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明は、安定した成形性を有する改質再生PET樹脂が得られると共に、改質の際にゲル化物の副生等が少なく安定した架橋反応をおこなうことが可能であり、また再切断等のおそれのない、改質再生PET樹脂及びそれを用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明の改質再生PET樹脂は、再生PET樹脂のカルボキシル基末端が、エポキシ基及びオキサゾリン基を有する改質剤により改質されており、前記改質剤のオキサゾリン基と前記エポキシ基のモル比がオキサゾリン基:エポキシ基=100:90〜100:0.1の範囲内であり、前記改質剤の添加量が再生PET樹脂100質量部に対し0.01〜15質量部の範囲内であることを要旨とするものである。
【0013】
本発明の改質再生PET樹脂は、前記改質剤として、分子内にエポキシ基を有する化合物及び分子内にオキサゾリン基を有する化合物、分子内にエポキシ基及びオキサゾリン基を有する化合物を用いることができる。
【0014】
本発明の改質再生PET樹脂において、前記分子内にエポキシ基を有する化合物が、高分子化合物又はオリゴマーに2つ以上のエポキシ基が導入された化合物であることや、前記分子内にオキサゾリン基を有する化合物が、高分子化合物又はオリゴマーに2つ以上のオキサゾリン基が導入された化合物であることや、前記分子内にエポキシ基及びオキサゾリン基を有する化合物が、高分子化合物又はオリゴマーにエポキシ基及びオキサゾリン基が導入された化合物であることが好ましい。
【0015】
前記高分子化合物又はオリゴマーが、分子内に1つ以上の芳香環構造を有することが好ましい。
本発明の再生PET樹脂成形品は、上記の改質再生ポリエステル樹脂が所定の形状に成形されたものであることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再生PET樹脂のカルボキシル基が、エポキシ基及びオキサゾリン基を有する改質剤により改質され、前記改質剤のオキサゾリン基と前記エポキシ基のモル比がオキサゾリン基:エポキシ基=100:90から100:0.1の範囲内とし、改質剤を特定の添加量としたことにより、エポキシ基がオキサゾリン基よりも少ないことにより、基本的な架橋はオキサゾリン基により行い、更にエポキシ基による増粘効果が得られ、ゲル化すること無しに安定した架橋反応を行う事が可能である。すなわち、両者を併用し、上記特定の範囲で組み合わせたことにより、それぞれ単独で使用した場合の欠点を解消することができた。その結果、再生PET樹脂の改質の際に、エポキシ基により十分な増粘効果が得られ、オキサゾリン基によりゲル化を防止して、安定した架橋反応を行うことにより、良好な特性の改質再生PET樹脂が得られる。
【0017】
また、エポキシ基が、オキサゾリン基から副生される塩基性アミンをトラップする事が可能であり、再生PET樹脂中に存在するアミンが再生PET樹脂を再び切断してしまい、架橋効果が不十分となることを防止して、再生PET樹脂から良好な成形品を安定して成形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の改質再生ポリエステル樹脂は、再生PET樹脂を原料として用い、改質剤として、例えば分子内に複数のオキサゾリン基を有する化合物と、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物を添加して、加熱し、混練することで、再生ポリエステル樹脂の末端のカルボキシル基と改質剤のカルボキシル基反応性官能基であるエポキシ基及びオキサゾリン基反応させることで、切断した分子を再結合して架橋させて改質することで得られる。
【0019】
原料となる再生PET樹脂は、使用済みのPET容器(PETボトル)等の廃棄PET製品を回収して粉砕して得られるPET樹脂粉砕品を用いることができる。
【0020】
改質剤として用いられるオキサゾリン基を有する化合物(オキサゾリン基含有化合物と言うこともある)は、1,4−ビス(4,5−ジヒドロ−2−オキサゾリル)ベンゼン、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)のようなビスオキサゾリン(低分子型オキサゾリン基含有化合物)や、ポリオレフィンを骨格構造としてオキサゾリン変性してオキサゾリン基を導入したものや、ポリスチレンを骨格構造としてオキサゾリン基を導入したもの等の高分子型オキサゾリン基含有含有化合物等が挙げられる。尚、本発明では、高分子型オキサゾリン基含有化合物という場合、オリゴマー型のオキサゾリン基含有化合物も含まれる。
【0021】
上記オキサゾリン基含有化合物のうち、芳香環構造を有する高分子型オキサゾリン化合物は、市販品としてとして、例えば日本触媒社製の商品名「エポクロス」シリーズ等がある。またオキサゾリン基含有化合物は、特開2001−348442号公報や「Journal of Applied Polymer Science」1997年、第63巻、第7号、p.883−894等に記載されている方法により、リシノール酸オキサゾリン誘導体等とポリマーをグラフトさせて作成した高分子型オキサゾリン基含有化合物を用いても良い。
【0022】
上記オキサゾリン基含有化合物として、骨格が芳香環を持たない化合物を用いた場合、再生PETを改質する際に添加量を調整してもアグリゲーションを引き起こし、良好な物性を得ることができないことがある。そのため、オキサゾリン基含有化合物は、分子内に1つ以上の芳香環構造を有する化合物であることが好ましい。また低分子型オキサゾリン基含有化合物と高分子型オキサゾリン基含有化合物を比べると、高分子型の方が低分子型よりもアグリゲーションを起こしにくい。このような理由から、分子内に1つ以上の芳香環構造を有する高分子化合物にオキサゾリン基が導入された高分子型オキサゾリン基含有化合物が更に好ましい。このような改質剤を用いた場合、改質の際にアグリゲーションを引き起こしにくく、安定した改質を行うことが可能であり、良好な物性の改質再生PET樹脂を確実に得ることができるという効果が最大に得られる。
【0023】
改質剤として用いられるエポキシ基を有する化合物(エポキシ基含有化合物ということもある)としては、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、グリセロールプロポキシレートトリグリシジルエーテル等の低分子型エポキシ基含有化合物、分子量が1,000〜300,000の骨格樹脂を用い分子内に7〜100個のエポキシ基を含有する高分子型エポキシ化合物(オリゴマー型エポキシ化合物も含む)等が挙げられる。エポキシ基含有化合物は、骨格構造として分子内に1つ以上の芳香環構造を有する化合物が好ましい。またエポキシ基含有化合物は、高分子型エポキシ基含有化合物が好ましい。エポキシ基含有化合物は特に分子内に1つ以上の芳香環構造を有する高分子型エポキシ基含有化合物が好ましい。
【0024】
骨格樹脂が芳香環を持つ高分子型エポキシ基含有化合物として、例えば市販品では、日油社の商品名「モディパー」、「ノフアロイ」、「ブレンマー」、「ファルバック」、「マープルーフ」シリーズ等が挙げられる。これらはポリスチレン等を骨格樹脂としてエポキシ基が導入されている。
【0025】
また骨格樹脂がポリオレフィン系の高分子型エポキシ基含有化合物として、例えば市販品では、ダイセル化学工業社の商品名「エポフレンド」、住友化学工業社の商品名「ボンドファースト」シリーズ等が挙げられる。
【0026】
本発明では、改質剤としてオキサゾリン含有化合物とエポキシ含有化合物とを別々に添加する以外に、添加する改質剤を一種類とすることもできる。その場合、一分子中にオキサゾリン基とエポキシ基が一定の比で含まれる化合物を予め合成して改質剤として用いることができる。この化合物は、低分子型でも高分子型でもいずれでもよい。このような一分子中にオキサゾリン基とエポキシ基を含有する化合物は、例えば少量のジカルボン酸存在下で、オキサゾリン基含有化合物とエポキシ基含有化合物をカップリングさせる方法、またビニル基を持つエポキシ化合物(1,3−ブタジエンモノエポキシド等)を過酸化物存在下で、オキサゾリン変性高分子にグラフトさせる方法等により得ることができる。
【0027】
改質剤としてオキサゾリン基含有化合物とエポキシ基含有化合物を併用する場合、または一分子中にオキサゾリン基とエポキシ基を含有する化合物を使用する場合のいずれも、オキサゾリン基とエポキシ基の比率は、モル比でオキサゾリン基:エポキシ基=100:90〜100:0.1の範囲が好ましく、より好ましくは100:80〜100:0.1の範囲である。
【0028】
改質剤の再生PET樹脂に対する添加量は、オキサゾリン基含有化合物及びエポキシ基含有化合物の合計の質量、或いはオキサゾリン基及びエポキシ基含有化合物の質量で、再生PET樹脂100質量部に対し0.001〜15質量部であり、好ましくは0.01〜10質量部である。改質剤の添加量が少ないと、架橋効果が小さくなり、添加量が多すぎるとPET樹脂自体の物性を失ってしまうためである。
【0029】
改質剤として用いるオキサゾリン基含有化合物及びエポキシ基含有化合物或いはオキサゾリン基及びエポキシ基含有化合物は、いずれも、改質剤のカルボン酸反応性基の量が再生PET樹脂に含まれるカルボキシル基に対し、0.01〜1.0モル等量の範囲内になるように、再生PET樹脂に対する添加量を調整して、改質を行うことが好ましい。改質する再生PET樹脂中のカルボキシル基の含有量は、再生PET樹脂の数平均分子量(Mn)から換算する事ができる。
【0030】
再生PET樹脂を改質する際の再生PET樹脂と改質剤の混合方法は、特に限定されるものではなく、破砕状、粉砕状、ペレット状その他の形状の再生PET樹脂と改質剤をドライ状態で混合するようにしても、溶融混合機にて溶融混合するようにしても、また成形機のホッパーに直接投入して溶融混合するなどしてもいずれでもよい。
【0031】
また上記の改質の際に、再生PET樹脂の用途等に応じて一般的な酸化防止剤や安定剤、滑剤、ゴム成分等の改質剤以外の添加剤を必要に応じ添加することができる。
【0032】
本発明の改質再生ポリエステル樹脂を用いた成形品は、上記の改質再生PET樹脂が所定の形状に成形されたものである。成形方法としては、特に限定されず、各種の成形方法を用いることができる。特に本発明は、従来の再生PET樹脂が不向きであった押出成形や射出成形等の成形品にも好適に利用することができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例、比較例である。
表1(実施例1〜13)又は表2(比較例1〜16)に記載の成分組成(質量部)となるように、再生PET樹脂と改質剤とを、二軸混練機を用いて任意の温度で混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して改質再生PET樹脂のペレットを得た。得られたペレットのMFR及びゲル化度を測定した。また上記ペレットをプレス成形(プレス成形機:東洋精機製作所社製)して、JIS K−7113に準拠した2号試験片を作製して引張特性を測定した。上記プレス成形の条件は、プレス温度:255℃、10MPaで1分間加圧後、20MPaで2分間加圧した後、冷却プレスにて3分間冷却した。
【0035】
表1及び表2に略号で示した材料の詳細は、以下の通りである。
[再生PET(樹脂)]
・R−PET:「R−PET」ウツミリサイクルシステムズ社製(極限粘度(IV):0.67±0.03)
[オキサゾリン基含有改質剤]
・DHOB:「1,4−ビス(4,5−ジヒドロ−2−オキサゾリル)ベンゼン」 東京化成社製
・ERPS:「エポクロスRPS」 日本触媒株式会社製 オキサゾリン基含有ポリスチレン
・化合物A:エポキシ基導入オキサゾリン変性ポリスチレンであり、下記の方法により合成した。
【0036】
[化合物A(エポキシ基導入オキサゾリン変性ポリスチレン)の合成]
エポクロスRPS(日本触媒社製)50g(オキサゾリン基:13mmol)と1,3−ブタジエンモノエポキシド(東京化成社製)210mg(エポキシ基:3mol)を200℃に設定したラボプラストミルに投入して1分間混練した。その後ジクミルパーオキシド(キシダ化学社製)3mgを1mgずつ3回に分けて3分毎に添加した。最終添加後、更に2分間混練し、オキサゾリン基:エポキシ基=5:1の化合物aを得た。
【0037】
[エポキシ基含有改質剤]
・0115S:「マープルーフ0115S」 日油社製 エポキシ基含有ポリスチレン
・0130S:「マープルーフ0130S」 日油社製 エポキシ基含有ポリスチレン
・E-GMA:「ボンドファースト2C」 住友化学社製 エチレングリシジルメタクリレート共重合体
[その他の改質剤]
・PMDA:「ピロメリト酸二無水物」 和光純薬社製
【0038】
表1及び表2に示した改質再生PET樹脂の物性の測定方法及び評価は、以下の通りである。
[引張強度]
得られた各試験片につき、JIS K−7113 に準じて引張強度(MPa) を測定した。(チャック間距離:115mm、引張速度:50mm/分、測定雰囲気:温度23℃、相対湿度50%。)合否判定の評価は無改質の再生PET樹脂の強度を上回り、且つ一般的な新品のPET樹脂と同等な強度の値として50MPaをしきい値としそれ以上の場合を合格(○)とし、それ未満の場合を不合格(×)とした。
【0039】
[MFR]
得られたペレットにつき、温度を255℃に設定した他はJIS K−7210に準じてMFRを測定した。255℃としたのは、再生PET樹脂の成形性を評価する上で、この温度におけるフローレートの変化が最も顕著に現われるとの予備試験に基づくものである。合否判定の評価は、この条件で30g/10min以上であると、粘性不足で押出し成形等が困難であるという知見を得ているため、30g/10min未満を合格(○)とし、その以上を不合格(×)とした。
【0040】
[ゲル化度]
PET樹脂の架橋がゲル生成のレベルまで進むと、本来PET樹脂の良溶媒であるヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させた際にゲル部の白濁が起こる.得られたペレットを0.1wt%になるように25℃のHFIPに加え、温度を保ったまま24時間緩やかに攪拌し、その白濁を目視で確認した。合否判定の評価は、白濁が見られたものを不合格(×)とし、澄明のものを合格(○)とした。
【0041】
表1の実施例1〜13に示すように、本発明に係る改質再生PET樹脂は、ゲル化を起こす事無く、改質前の再生PET樹脂(比較例1)と比較して引張強度が格段に向上し、且つMFRも良好な値を示すものであることが確認できた。
【0042】
また表2の比較例から以下の事が確認できた。比較例2〜4に示すように、オキサゾリン基含有化合物のみの添加では強度は向上するものの、粘度向上効果が不十分である。比較例5〜7に示すように、エポキシ基含有化合物のみの添加では、ゲル化を起こしてしまう。また比較例8、9に示すように、水酸基反応性のピロメリト酸二無水物や、エチレングリシジルメタクリレート共重合体等の添加では、引張り強度及びゲル化度において良好な物性を得ることができない。また比較例10〜14に示すように、改質剤中のエポキシ基のモル比がオキサゾリン基100に対して0.1を下回ると粘度の向上が見られず、また反対に90を超えると、ゲル化を起こしてしまう。また比較例15、16に示すように、改質剤の添加量がP−PET100質量部に対し15質量部を超えると物性の低下を引き起こす。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生PET樹脂のカルボキシル基末端が、エポキシ基及びオキサゾリン基を有する改質剤により改質されており、前記改質剤のオキサゾリン基と前記エポキシ基のモル比がオキサゾリン基:エポキシ基=100:90〜100:0.01の範囲内であり、前記改質剤の添加量が再生PET樹脂100質量部に対し0.001〜15質量部であることを特徴とする改質再生ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記改質剤が、分子内にエポキシ基を有する化合物及び分子内にオキサゾリン基を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の改質再生ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記改質剤が、分子内にエポキシ基及びオキサゾリン基を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の改質再生ポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記分子内にエポキシ基を有する化合物が、高分子化合物又はオリゴマーに2つ以上のエポキシ基が導入された化合物であることを特徴とする請求項2記載の改質再生ポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記分子内にオキサゾリン基を有する化合物が、高分子化合物又はオリゴマーに2つ以上のオキサゾリン基が導入された化合物であることを特徴とする請求項2又は4記載の改質再生ポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記分子内にエポキシ基及びオキサゾリン基を有する化合物が、高分子化合物又はオリゴマーにエポキシ基及びオキサゾリン基が導入された化合物であることを特徴とする請求項3記載の改質再生ポリエステル樹脂。
【請求項7】
前記高分子化合物又はオリゴマーが、分子内に1つ以上の芳香環構造を有することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の改質再生ポリエステル樹脂。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の改質再生ポリエステル樹脂が所定の形状に成形されたものであることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−84616(P2011−84616A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237267(P2009−237267)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】