説明

改質天然ゴムの製造方法

【課題】天然ゴム本来の特性を損なうことなく、官能基等を導入することができる改質天然ゴムの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】天然ゴムラテックス中で、ハロゲン化水素により天然ゴムのイソプレン単位における二重結合の一部をハロゲン化して式(1)及び(2)で表される構成単位の少なくとも一方を有するハロゲン化天然ゴムであり、該ハロゲン化天然ゴムのハロゲン基の少なくとも一部をアミノ基等の他の置換基に置換した改質天然ゴム。


(式中、Xはハロゲンである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質天然ゴムの製造方法に関し、また、該製造方法により得られた改質天然ゴム及びこれを用いたゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソプレン骨格を有するゴムの物性において、特に天然ゴムでは、一般に、引っ張り物性や摩耗物性などの良物性を持つが、耐熱劣化性などにおいては弱い性質があるとされている。また、ゴム組成物の特性向上等のため、天然ゴム本来の良特性を保ちながら、ガラス転移温度を変化させて粘弾性特性を変化させたり、極性を変化させることで充填剤との相溶性を改善させたりすることが望まれることがある。
【0003】
そのため、従来、天然ゴムを変性、即ち改質することが行われており、例えば、天然ゴムの二重結合の一部をエポキシ化したエポキシ化天然ゴムをゴム組成物に配合することが知られている。また、天然ゴム又はエポキシ化天然ゴムを有機溶媒に溶解させた後、酸触媒及び水を加えて反応させることにより、天然ゴム又はエポキシ化天然ゴムの主鎖に水酸基を導入した改質天然ゴムも知られている(下記特許文献1,2参照)。
【0004】
一方、天然ゴムの二重結合にハロゲンを付加することも知られており、例えば、下記非特許文献1には、有機溶媒系で天然ゴムを塩素化することが開示され、天然ゴムの二重結合にHClを付加させることも記載されている。しかしながら、一般に、有機溶媒系でのハロゲン化の場合、極端な分子量の低下や、分子鎖の絡み合いの低下、得られた改質天然ゴムの取り出しに手間がかかる等の問題があり、天然ゴム本来の特性を保持することは難しい。
【0005】
なお、天然ゴムを塩素化したものとして塩化ゴムがあるが(例えば下記特許文献3,4参照)、一般に塩化ゴムは天然ゴムの二重結合が実質的に全て2モルの塩素で塩素化されてなる樹脂であり、ジエン系ゴムとしての天然ゴム本来の特性を具備するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−106250号公報
【特許文献2】特許第4538533号公報
【特許文献3】特開平6−234884号公報
【特許文献4】特開平7−102018号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Chlorination of natural rubber. I. Preparation and properties of chlorinated rubber」van Amerongen, G. J.; Koningsberger, C.; Salomon, G著, Journal of Polymer Science, vol. 5, issue 6, pp. 639-652, 1950年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように従来、天然ゴムをハロゲン化することは知られていたが、水系のラテックス中で天然ゴムの二重結合の一部をハロゲン化した後、導入したハロゲン基を利用してこれを他の置換基に置き換えることにより、改質天然ゴムを得ることは知られていなかった。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、改質天然ゴムの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る改質天然ゴムの製造方法は、天然ゴムラテックス中で、ハロゲン化水素により天然ゴムのイソプレン単位における二重結合の一部をハロゲン化して下記式(1)及び(2)で表される構成単位の少なくとも一方を有するハロゲン化天然ゴムを得て、得られたハロゲン化天然ゴムラテックス中で該ハロゲン化天然ゴムのハロゲン基の少なくとも一部を他の置換基に置換して改質天然ゴムを得ることを特徴とする。
【化1】

【0011】
(式中、Xはハロゲンである。)
【0012】
本発明はまた、上記製造方法により得られた改質天然ゴムを提供するものであり、また、該改質天然ゴム及び硫黄を含有するゴム組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ラテックス中で、天然ゴムの二重結合の一部を一旦ハロゲン化した後、そのハロゲン基の少なくとも一部を他の置換基で置換することにより、改質天然ゴムを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係る改質天然ゴムの製造方法では、第1段階において、天然ゴムラテックス中で、ハロゲン化水素により天然ゴムのイソプレン単位における二重結合(C=C)の一部をハロゲン化する。このようにラテックス中でハロゲン化することにより、有機溶媒系の場合における極端な分子量の低下や、分子鎖の絡み合いの低下、改質天然ゴムの取り出しに手間がかかる等の問題を回避して、天然ゴム本来の物性を保持することが容易となる。また、水系のラテックス中でハロゲン化の反応を行うことにより、その後の置換反応をラテックス中でそのまま行うことができ、反応制御を簡易に行うことができる。
【0016】
天然ゴムの二重結合にハロゲン化水素を付加させてハロゲン化する反応は、ラテックス中では本来反応性に乏しいので、予め酸化剤で処理した天然ゴムラテックスを用いてハロゲン化することが好ましい。予め酸化剤で処理することにより、その高い酸化力によって、天然ゴムラテックス中でイソプレン単位内の二重結合を解離させることができ、天然ゴムの分子量を調節することができる。これにより、上記ハロゲン化をラテックス中で効率良く行うことができる。
【0017】
ここで用いる天然ゴムとしては、ラテックス状であればその濃度は特に限定されず、また、内包しているタンパク質等の副成分が存在していても、予め除去されていてもよい。具体的には、フィールドラテックス、濃縮ラテックス、アンモニア処理ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白ラテックス等、各種の天然ゴムラテックスを用いることができる。
【0018】
上記酸化剤としては、触媒の有無に関わらず、天然ゴムの主鎖の二重結合を切断することができるものであれば、特に限定されず、例えば、過ヨウ素酸(オルト過ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸等)及びその塩(過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム等)の他、オゾン、過酸化水素等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも過ヨウ素酸及びその塩から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。なお、分子鎖を切断する方法として、上記酸化剤による場合の他に、素練り、熱分解、紫外線や電子線等の光分解があり、これらを用いてもよい。しかしながら、ラテックス中で行うものとしては、溶液中であるため素練りはできない。また水溶媒であることから、高温条件が必要な熱分解は圧力条件などが必要となり、さらに高温下での反応となると再結合や末端以外で3次元架橋をしてしまうことから、ゲル化を起こしやすくなり、分子量や分子量分布の制御が困難である。また、紫外線や電子線は、ラテックスの吸光度や、水への吸収の影響があり、またラジカル等の発生により結合分解反応が連鎖的に進むため、シス構造がトランス構造に転移したり、分子量及びその分布の制御が困難になったりする。そのため、上記の酸化剤による手法が好ましい。
【0019】
このように酸化剤で処理することにより天然ゴムの分子量を調整する場合、天然ゴムの粘度平均分子量を処理前の70〜95%とした天然ゴムラテックスを得て、該天然ゴムラテックスを用いて上記ハロゲン化水素によるハロゲン化を行うことが好ましい。すなわち、元の天然ゴムの粘度平均分子量を100として、酸化剤による処理後の粘度平均分子量が70〜95となるように処理を行う。処理後の粘度平均分子量が元の95%超では、その後のハロゲン化の反応性を高める効果が不十分である。逆に、処理後の粘度平均分子量が元の70%未満では、分子量の低下が大きくなり、天然ゴム本来の物性を保持することが困難となるおそれがある。処理後の粘度平均分子量は元の分子量の75〜85%であることがより好ましい。
【0020】
ここで、粘度平均分子量は、下記実施例では、次のようにして求めた。すなわち、粘度測定はLAUDA社製「粘度測定器PVS1」により行った。標準試料として1,4−ポリイソプレン(分子量:600、1500、7500、21000、80000、210000、750000、1000000の8種類)を用い、粘度法による[η]=KMαの係数K、αを算出し、その係数を用いて、式から各試料の粘度平均分子量Mを求めた。
【0021】
天然ゴムラテックスをハロゲン化する方法は、天然ゴムのイソプレン単位における二重結合部にハロゲンと水素を付加させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、上記のように酸化剤による処理により反応性を改善した天然ゴムラテックスに、ハロゲン化水素を加えて、攪拌することにより、ハロゲン化することができる。特に限定するものではないが、反応系中のハロゲン化水素(例えば、塩化水素)の濃度は、0.05〜10モル/Lであることが好ましく、また、反応系の温度は50〜80℃であることが好ましい。また、ハロゲン化水素は、天然ゴムのイソプレン単位に対して1〜30モル%となるように添加することが好ましい。
【0022】
これにより、上記式(1)及び(2)で表される構成単位の少なくとも一方を有するハロゲン化天然ゴムが得られる。その場合、通常はマルコウニコフ則に従い、式(1)で表される構成単位が生成されるが、式(2)で表される構成単位でもよく、両構成単位を含むものであってもよい。より詳細には、例えば、下記式(3)〜(5)で表されるハロゲン化天然ゴムのいずれかが得られる。
【化2】

【0023】
式中、Xはハロゲンであり、n,m,lは、それぞれ1以上の整数である。
【0024】
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられるが、好ましくは、塩素又は臭素であり、より好ましくは塩素である。
【0025】
得られたハロゲン化天然ゴムにおいて、ハロゲンの含有量は、特に限定されないが、イソプレン単位に対して0.5〜30モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜10モル%であり、更に好ましくは3〜10モル%である。ここで、ハロゲンの含有量は、全イソプレン単位のモル数に対する、ハロゲンが導入された構成単位(即ち、上記式(1)及び(2)で表されるハロゲン化されたイソプレン単位)のモル数の比率であり、従って、上記式(3)〜(5)の場合、n、m及びlの合計(即ち、n+m+l)に対するm及びl(即ち、m+l)の比率(即ち、(m+l)/(n+m+l)×100)である。
【0026】
本実施形態に係る改質天然ゴムの製造方法では、第2段階において、上記で得られたハロゲン化天然ゴムラテックス中で、ハロゲン化天然ゴムのハロゲン基の少なくとも一部を他の置換基に置換する。このように一旦ハロゲン化してから、そのハロゲン基を他の置換基で置換することにより、天然ゴムの主鎖に直接結合したアミノ基等の官能基を持つ改質天然ゴムを効率良く製造することができる。
【0027】
上記置換基としては、天然ゴムのイソプレン構造上に結合して性質を変化させたり、イソプレン構造上に他分子との反応点を与えたりすることで、天然ゴムを改質することができる各種の特性基、官能基及び有機基が挙げられ、特に限定されない。好ましくは、ハロゲン基に対する置換反応が容易という点で、アミノ基、ヒドロキシル基、アシル基、アルコキシル基、アシルオキシ基及びアルキル基等が挙げられ、これらは1分子中に複数種組み合わせて導入してもよい。これらの置換基を導入することにより、天然ゴム本来の良特性を保ちつつ、ガラス転移温度を変化させて粘弾性特性を変化させたり、極性を変化させることで充填剤との相溶性を改善したり、更には、置換基を反応基点として多分子間の反応性の改良を行うことができる。
【0028】
上記アミノ基としては、1級アミノ基でも、2級アミノ基でも、3級アミノ基でもよい。2級又は3級アミノ基の場合、窒素原子に結合するアルキル基の炭素数は1〜10であることが好ましい。アミノ基の導入方法としては、例えば、塩素化した天然ゴムラテックスのpHを塩基性に保ち、アンモニアを反応させることで、ハロゲンをアミノ基に置換する置換反応を行うことができる。アミノ基を導入することにより、シリカやカーボンブラック等の充填剤の表面の官能基との相互作用により、充填剤との相溶性を向上させて、分散性を向上させることができる。
【0029】
上記ヒドロキシル基の導入方法としては、例えば、メタノールなどのアルコール類や、水酸化ナトリウムや炭酸水素ナトリウム等の塩基を加えることで求核反応によりハロゲンが水酸基に置換される方法等が挙げられる。ヒドロキシル基を導入することにより、シリカ等の充填剤との相溶性を向上させて、分散性を向上することができる。
【0030】
上記アシル基(RCO−)において、カルボニル基に結合したアルキル基Rの炭素数は1〜10であることが好ましい。アシル基の導入方法としては、例えば、アルデヒド化合物や脱離基をもったアシル化合物のアシルアニオン求核反応を用い、ハロゲンをアシル基に置換する方法等が挙げられる。アシル基を導入することにより、末端水酸基への還元も可能であり、またそのままでも表面OHなど官能基の付いた充填剤と結合性が高くなり(アルキルの置換による共有結合やカルボニル酸素の水素結合性により)、分散性も向上する。
【0031】
上記アルコキシル基(RO−)において、エーテル結合を形成するアルキル基Rの炭素数は1〜10であることが好ましい。アルコキシル基の導入方法としては、例えば、塩素化した天然ゴムラテックスにアルコキシドを反応させてエーテルを生成することで、ハロゲンをアルコキシル基に置換させることができる。アルコキシル基を導入することにより、末端水酸基への還元も可能であり、またそのままでも表面OHなど官能基の付いた充填剤と結合性が高くなり、分散性も向上する。
【0032】
上記アシルオキシ基(R−CO−O−)において、エステルを形成するアルキル基Rの炭素数は1〜10であることが好ましい。アシルオキシ基の導入方法としては、例えば、塩素化した天然ゴムラテックスに脂肪酸のアルカリ金属塩を反応させてエステルを生成することで、ハロゲンをアシルオキシ基に置換することができる。アシルオキシ基を導入することにより、エステルの分解により、水酸基に転換することも可能であり、アミンによりアミド結合、さらに還元によりアミンにすることができる。エステルのカルボニル基は水素結合をするので、表面OHなどの官能基をもった充填剤と結合力が働き、分散性が向上する。
【0033】
上記アルキル基は、特に限定するものではないが、炭素数が1〜10であることが好ましい。アルキル基の導入方法としては、例えば、アシル基を導入したものを還元することでアルキル基となる方法や、アルキル末端ハロゲン化有機金属(グリニャール試薬)を銅塩触媒下で反応させることでアルキル基に置換する方法が挙げられる。アルキル基を導入することにより、耐摩耗性を向上することができる。
【0034】
上記のように置換反応を行うことにより、下記式(6)及び(7)で表される構成単位の少なくとも一方を有する改質天然ゴムが得られる。
【化3】

【0035】
式中、Yは上記置換基である。
【0036】
より詳細には、例えば、上記式(3)〜 (5)のハロゲン化天然ゴムに対して、全てのハロゲンを他の置換基に置換させた場合、下記式(8)〜(10)で表される改質天然ゴムのいずれかが得られる。
【化4】

【0037】
式中、Yは上記置換基であり、n,m,lは、それぞれ1以上の整数である。
【0038】
得られた改質天然ゴムにおいて、置換基の含有量は、特に限定されないが、イソプレン単位に対して0.5〜30モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜10モル%であり、更に好ましくは3〜10モル%である。ここで、置換基の含有量の定義は上記ハロゲンの含有量と同じである。
【0039】
該改質天然ゴムにおいては、上記式(6)及び/又は(7)の構成単位とともに、上記式(1)及び/又は(2)で表されるハロゲン化された構成単位を有してもよい。すなわち、上記第1段階で導入した全てのハロゲンを置換基で置換させる場合には限定されず、ハロゲンの一部を置換基で置換するようにしてもよい。改質天然ゴムが、ハロゲン化された構成単位を含む場合、ゴム組成物を加硫する際に、加硫が2段階に進むことで、耐スコーチ性を改善することができる。その場合、改質天然ゴム中におけるハロゲンの含有量は、イソプレン単位に対して0.5〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜5モル%である。
【0040】
このようにして得られた改質天然ゴムのラテックスは、その後、常法に従い、例えば、アルコールや酸を用いて凝固し、乾燥させることにより、本実施形態に係る改質天然ゴムが得られる。
【0041】
得られた改質天然ゴムにおいて、その粘度平均分子量は特に限定されないが、800,000〜1,500,000であることが天然ゴム本来の良物性をより良く維持する上で好ましく、より好ましくは1,000,000〜1,400,000である。
【0042】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記改質天然ゴムをゴム成分として含有するものである。ゴム成分としては、該改質天然ゴム単独でもよく、また他のジエン系ゴムとブレンドして用いてもよい。ブレンドする他のジエン系ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、通常の天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM)などが挙げられ、これらはいずれか1種、又は2種以上組み合わせてもよい。他のジエン系ゴムとブレンドする場合、ゴム成分は、上記改質天然ゴムを5質量%以上含むことが好ましく、従って、ゴム成分100質量部は、上記改質天然ゴムを5〜100質量部含有するものであることが好ましい。より好ましくは、ゴム成分は、上記改質天然ゴムを30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上含むことである。
【0043】
本実施形態に係るゴム組成物には、加硫剤として硫黄が配合される。硫黄としては、粉末硫黄や油処理硫黄など、従来公知のものを用いることができ、特に限定されない。硫黄の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0044】
本実施形態に係るゴム組成物には、カーボンブラックやシリカ等の充填剤を配合することができる。シリカの配合量は特に限定されないが、上記ゴム成分100質量部に対して10〜120質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜100質量部である。また、カーボンブラックを配合する場合、その配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましい。なお、シリカを配合する場合、更にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランなどが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜12質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。
【0045】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。なお、加硫促進剤の配合量としては、特に限定されないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0046】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。このようにして得られるゴム組成物は、例えば、トレッドやサイドウォール、ベルトやプライのトッピングゴム、ビードフィラー、リムストリップ等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種用途に用いることができる。好ましくは、空気入りタイヤに用いることである。例えば、空気入りタイヤのトレッドゴムに用いられる場合、常法に従い、140〜200℃で加硫成形することにより、トレッド部を形成することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、ハロゲン(塩素)及び置換基(アミノ基)の含有量の測定は、以下の方法により行った。
【0048】
・ハロゲン(塩素)及び置換基(アミノ基)の含有量:合成して得られたゴムをCDCl(重クロロホルム)に溶解させ、H−NMR(BRUKER社製「400ULTRASHIELD」)のスペクトルより、イソプレン単位の二重結合部のプロトンピークと、ハロゲン基結合部のプロトンピークと、アミノ基結合部のプロトンピークの各面積強度から、ハロゲンとアミノ基の含有量の比率を算出した。ここで、二重結合部のプロトンピークは、メチル基が結合した炭素とは反対側の炭素に結合したHのピーク5.2ppmである。ハロゲン基結合部のプロトンピークは、式(1)の場合ではメチル基のプロトンピーク1.6ppm付近であり、式(2)の場合では該ハロゲンが付加した炭素上のプロトンピーク3.7ppm付近である。アミノ基結合部のプロトンピークは、式(6)の場合ではメチル基のプロトンピーク1.1ppm付近であり、式(7)の場合ではアミノ基が付加した炭素上のプロトンピーク3.0ppm付近である。
【0049】
[改質天然ゴムの合成]
(実施例1〜8)
天然ゴムラテックス(株式会社レジテックス製「濃縮ラテックス」、DRC(Dry Rubber Content)=60質量%)に、過ヨウ素酸(HIO)を、下記表1に示すように、[過ヨウ素酸]/[イソプレン単位]=0.00001〜0.001モル/モルの割合で加え、室温で3時間撹拌して、天然ゴムの分子量を調節した。天然ゴムの粘度平均分子量を反応前後で測定したところ、下記表1に示す通りであった。
【0050】
分子量を調節した天然ゴムラテックスをDRCが10質量%になるように調節し、6規定塩化水素を、表1に示すように、イソプレン単位に対する塩化水素量を5〜15モル%にて加えて、50℃で24時間撹拌することにより、塩素化した天然ゴムラテックス(上記式(1)及び/又は(2)において、X=塩素である構成単位を含む天然ゴムのラテックス)を得た。得られたラテックスにおける塩素化された天然ゴムについて、塩素の含有量を測定したところ、下記表1に示す通りであった。
【0051】
塩素化した天然ゴムラテックスを塩基性(pH9〜10)に保ち、1モル/Lのアンモニア水を使用し、天然ゴムの主鎖に付加している塩素量の1.2倍モル加えるよう量調整を行い、室温で30分撹拌することで塩素をアミノ基(−NH)に置換し、アミノ基が天然ゴムの主鎖に直接付加した改質天然ゴムのラテックスを得た。得られたラテックスをエタノールにより凝固させ、更に乾燥して、改質天然ゴムを得た。得られた改質天然ゴムについて、アミノ基及び塩素の含有量と、粘度平均分子量を測定したところ、下記表1に示す通りであった。
【0052】
(実施例9,10)
上記塩素化した天然ゴムラテックスの塩素をアミノ基に置換する際に、1モル/Lのアンモニア水を、天然ゴムの主鎖に付加している塩素量に対し、実施例9では0.6倍モル、実施例10では0.2倍モル加えるよう量調整を行うことで、塩素の一部をアミノ基で置換するようにし、その他は、実施例1〜8と同様にして、改質天然ゴムを得た。得られた改質天然ゴムについて、アミノ基及び塩素の含有量と、粘度平均分子量を測定したところ、下記表1に示す通りであった。
【0053】
(比較例1,2)
分子量の調節を行っていない天然ゴムラテックスを用いて天然ゴムの塩素化を行うようにし、その他は実施例1〜8と同様にして、改質天然ゴムを得た。得られた改質天然ゴムについて、アミノ基及び塩素の含有量と、粘度平均分子量を測定したところ、下記表1に示す通りであった。
【0054】
(比較例3)
上記非特許文献1に記載された手法に従い、乾燥させた天然ゴムを四塩化炭素に3質量%になるよう溶解し、SOClを1.5g加え、室温で撹拌させた。塩基量は実施例4と同等になるように調節した。但し、構造は二重結合の両側にClが付加した構造となる。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、実施例1〜4及び9,10であると、天然ゴムの分子量の大幅な低下を伴うことなく、従って、天然ゴム本来の良特性を維持しながら、天然ゴムの主鎖にアミノ基を効率的に導入することができた。実施例5〜8では分子量の低下は大きかったが、アミノ基を効率的に付加することができた。
【0057】
これに対し、比較例1,2では、酸化剤で分子量を調節していない天然ゴムラテックスを用いてハロゲン化したため、上記ハロゲン化反応条件ではハロゲン化が十分になされておらず、アミノ基を効率的に導入することはできなかった。また、有機溶剤系でハロゲン化した比較例3では、分子量の低下が大きく、また、有機溶剤系であったため、有機溶剤からの改質ゴムの分離も手間がかかり効率的に改質することはできなかった。
【0058】
[ゴム組成物の調製]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、常法に従いゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。表2中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0059】
・天然ゴム:RSS3号
・改質天然ゴムA:上記実施例1で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムB:上記実施例2で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムC:上記実施例3で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムD:上記実施例4で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムE:上記実施例9で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムF:上記実施例10で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムG:上記比較例1で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムH:上記比較例2で得られた改質天然ゴム
・改質天然ゴムI:上記比較例3で得られた改質天然ゴム
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET=200m/g)
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
【0060】
各ゴム組成物について、耐スコーチ性と耐リバージョン性を評価するとともに、160℃×30分間で加硫して所定形状の試験サンプルを作製し、該サンプルを用いて低燃費性とウェットスキッド性と耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。なお、評価方法は以下の通りである。
【0061】
・低燃費性:株式会社上島製作所製「粘弾性試験機VR−7110」を用いて、静歪み2%、動歪み5%、周波数10Hzにて、60℃でのtanδを測定し、測定値の逆数について、比較例7の値を100とした指数で表示した。指数の大きいほど、tanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低燃費性に優れることを意味する。
【0062】
・ウェット性能:株式会社上島製作所製「粘弾性試験機VR−7110」を用いて、静歪み2%、動歪み5%、周波数10Hzにて、0℃でのtanδを測定し、比較例7の値を100とした指数で表示した。指数の大きいほど、tanδが大きく、ウェット性能に優れることを意味する。
【0063】
・耐摩耗性:株式会社上島製作所製の「FPS磨耗試験機AB−2010」を用いて、磨耗量を測定し、測定値の逆数について、比較例7の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを意味する。
【0064】
・耐スコーチ性、耐リバージョン性:ALPHA TECHNOLOGIES社製「RHEOMETER RPA2000」により、未加硫ゴムを用いて160℃2時間で測定した。耐スコーチ性は、比較例7を100としたときにスコーチが遅いほど大きな数値となるように指数表示した。耐リバージョン性は、ピークトップのMAXトルクから1時間で下がった数値を、比較例7を100として数値が大きいほど下がりが小さい指数として表した。
【0065】
【表2】

【0066】
結果は表2に示す通りであり、実施例11〜16では、コントロールである比較例7に対して、耐摩耗性を損なうことなく、むしろ向上しながら、低燃費性とウェットスキッド性が顕著に改善されていた。これに対し、比較例4,5では、実質的にアミノ基で変性されていなかったため、低燃費性とウェット性の改善効果は得られなかった。比較例6では、天然ゴムの分子量の低下が大きく、そのため、耐摩耗性に劣っており、また低燃費性とウェットスキッド性の効果も、アミノ基含有量が同等の実施例14に対して、小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物等、各種ゴム組成物に配合して用いられる改質天然ゴムを製造するのに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックス中で、ハロゲン化水素により天然ゴムのイソプレン単位における二重結合の一部をハロゲン化して下記式(1)及び(2)で表される構成単位の少なくとも一方を有するハロゲン化天然ゴムを得て、得られたハロゲン化天然ゴムラテックス中で該ハロゲン化天然ゴムのハロゲン基の少なくとも一部を他の置換基に置換して改質天然ゴムを得ることを特徴とする改質天然ゴムの製造方法。
【化1】

(式中、Xはハロゲンである。)
【請求項2】
前記置換基が、アミノ基、ヒドロキシル基、アシル基、アルコキシル基、アシルオキシ基及びアルキル基よりなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項3】
予め酸化剤で処理した天然ゴムラテックスを用いて前記ハロゲン化水素によるハロゲン化を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項4】
酸化剤で処理することにより天然ゴムの粘度平均分子量を処理前の70〜95%とした天然ゴムラテックスを得て、該天然ゴムラテックスを用いて前記ハロゲン化水素によるハロゲン化を行うことを特徴とする請求項3記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項5】
前記置換基の含有量がイソプレン単位に対して0.5〜10モル%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で得られた改質天然ゴム。
【請求項7】
請求項6記載の改質天然ゴム及び硫黄を含有するゴム組成物。

【公開番号】特開2013−10873(P2013−10873A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144738(P2011−144738)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】