説明

改質触媒

【課題】 改質反応を十分に促進することができるとともに、炭素析出を良好に抑制することができる改質触媒を提供すること。
【解決手段】 本発明の好適な実施形態の改質触媒は、担体と、この担体に付着した触媒と、から構成され、触媒として、Ni、並びに、Ru、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の金属を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、石油精製、アンモニア合成、メタノール合成等に使用される化学工業の基幹原料である。また、近年では、水素を燃料とする燃料電池が、エネルギーの利用効率が高く、しかも有害物質を殆ど排出しない点で、省エネルギーや環境保護の観点から注目されている。そのため、水素の需要は年々大きくなっており、このような要求に応えるべく、水素を効率よく製造するための方法が検討されている。
【0003】
水素の製造方法としては、燃料である天然ガス中の炭化水素(例えば、メタン)を酸素、炭酸ガス、水蒸気等と反応させることにより水素を発生させる、いわゆる改質反応による方法が知られている。これらの改質反応は、金属等の触媒(改質触媒)の存在下で効率よく進行する。例えば、メタンの炭酸ガスによる改質(リフォーミング)に好適な触媒としては、二元細孔シリカにNiを担持させたNi/SiO触媒が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、上述した改質反応による水素の製造方法の一つとして、酸素により、燃料(メタン等)の酸化を部分的に生じさせて水素を発生させる部分酸化改質反応がある。この方法は、発熱反応であるためエネルギー効率が良く、起動時間も短いといった利点を有することから、水素の生成に関しては効率の良い方法であると言える。部分酸化改質反応においては、高濃度の水素を得るために、純度の高い酸素を用いる必要がある。
【0005】
そこで、下記特許文献2には、酸素イオン伝導(導電)相がガドリニウム添加セリウム酸化物からなり、電子伝導相がスピネル型Fe複合酸化物からなる複合体型混合伝導体が開示されている。この複合型混合伝導体は、酸素イオンと電子を同時に移動させることによって空気から酸素を分離する酸素透過膜として機能するため、これを用いることで部分酸化改質反応に用いる高純度の酸素を比較的容易に製造することが可能となる。
【特許文献1】特開2005−254091号公報
【特許文献2】国際公開第2003/084894号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料の改質反応は、上記特許文献1のように、Niを主成分とする触媒を用いることによって促進されることが知られている。この場合、Niは還元状態にある方がより高い活性を示すことができるため、Niとともに少量の貴金属を用いることによって、Niを還元状態にしてその高活性を維持することが行われている。
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、Niを貴金属と組み合わせた場合、改質反応が促進されるとともに、例えば、炭化水素の脱水素縮合等の副反応による炭素の析出も生じ易くなる場合があることが確認された。析出した炭素は、触媒の表面を覆ってその活性低下させる要因となるため、炭素析出が生じると、改質反応の効率が徐々に低下してしまう結果となる。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、改質反応を十分に促進することができるとともに、炭素析出を良好に抑制することができる改質触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、Niとともに用いる貴金属として特定の組み合わせを用いることで、改質反応を促進しながら、炭素析出は十分に抑制できるようになることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の改質触媒は、担体と、この担体に付着した触媒とから構成され、触媒として、Ni、並びに、Ru、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の金属を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の改質触媒は、Niと、Ru、Ir又はPdという貴金属とを組み合わせた触媒を有していることから、貴金属によりNiが高い活性を維持し易く、改質反応を良好に促進することができる。また、Niに、Ru、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の金属という特定の貴金属を組み合わせることで、従来、Niと組み合わせて用いられることが多かったRhやPt等の貴金属に比べて、炭素析出を大幅に低減することもできる。
【0012】
上記本発明の改質触媒において、触媒は、担体に付着したセリウム酸化物(例えばCe)、プラセオジム酸化物(例えばPr)及びランタン酸化物(例えばLa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を更に含有すると好ましい。これらの酸化物は、Niや貴金属の触媒の助触媒として機能し、改質反応を一層促進することができる。また、これらの酸化物を助触媒として併用すると、炭素析出をより低減することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の改質触媒における担体は、シリカ(SiO)からなるものであると好ましい。シリカからなる担体に上記の触媒を組み合わせると、上述した炭素析出が一層良好に抑制されるようになる。
【0014】
さらにまた、本発明の改質触媒は、Niに対し、Ru、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の金属を0.1〜100質量%含有するものであるとより好適である。このような割合でNiとRu等の貴金属を含有することで、改質反応の促進、及び、炭素析出の低減の効果が更に優れるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、改質反応を十分に促進することができるとともに、炭素析出を良好に抑制することができる改質触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
好適な実施形態に係る改質触媒は、担体と、この担体に付着した触媒とから構成される。担体としては、多孔性を有するものが好ましく、メソ多孔性を有するものがより好ましい。例えば、メソ多孔性のアルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物や、これらを組み合わせた複合酸化物からなるものが挙げられる。なかでも、担体は、固体酸性を有するメソ多孔性のシリカから構成されると、より良好に改質反応の促進及び炭素析出の低減が可能となる傾向にある。担体の表面積は、好ましくは5〜1000m/gであり、より好ましくは50〜500m/gである。
【0018】
また、担体は、上述したメソ多孔性の担体が、マクロ多孔性の支持体と組み合わせられたものであってもよい。例えば、メソ多孔性の担体がマクロ多孔性の支持体を被覆した態様とすることが好ましい。マクロ多孔性の支持体は、例えば、ハニカム状の構造を有していると好ましい。このようなマクロ多孔性の支持体としては、セラミックファイバーから構成されるものが挙げられる。その空隙率は、5〜95%であると好ましく、30〜90%であるとより好ましい。
【0019】
なお、担体は、必ずしもメソ多孔性の担体とマクロ多孔性の支持体とが組み合わされたものでなくてもよく、いずれか一方のみで十分に触媒を担持できる場合は、これらのうちの一方のみを担体として用いてもよい。ただし、触媒をより良好に担持する観点からは、上記のようにマクロ多孔性の支持体をメソ多孔性の担体が被覆した構造を有していることが好ましい。
【0020】
触媒は、主としてNiから構成され、副成分としてRu、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の貴金属を含有するものである。副成分である貴金属としては、Ru、Ir及びPdのうちの2種以上を組み合わせてもよい。なお、触媒は、上記以外の貴金属(具体的には、Au、Ag、Rh、Os、Pt)を含むと、炭素析出を促進してしまうおそれがあるため、これらの貴金属は含まないことが好ましい。
【0021】
触媒において、主成分であるNiは、触媒全体の0.1〜90質量%、好ましくは1〜30質量%、更に好ましくは5〜15質量%程度含まれている。また、貴金属(Ru、Ir又はPd)は、Niに対して0.1〜100質量%含まれていると好ましく、1〜50質量%含まれているとより好ましい。Niに対する貴金属(Ru、Ir又はPd)の割合がこのような範囲であると、Niの高活性を良好に維持しながら十分に炭素析出を抑制することが特に容易となる。
【0022】
また、貴金属(Ru、Ir又はPd)は、触媒全体に対して0.01〜10質量%程度含まれていると好ましく、0.1〜5質量%含まれているとより好ましい。貴金属の含有量が0.01質量%未満であると、Niによる部分酸化改質反応の触媒効果が充分に促進されなくなるおそれがある。一方、10質量%を超える場合、高価な貴金属を多く含むため、不都合にコストが増大してしまう傾向にある。
【0023】
触媒を構成しているNiや貴金属(Ru、Ir又はPd)は、これらの金属ごとに別々に存在していることが好ましく、合金等を構成していないことが好ましい。また、これらの各金属は、金属単体で含まれていることが好ましいが、一部が金属塩等の化合物の状態で含まれていてもよい。さらに、これらの金属は、例えば、それぞれ粒子状の形態で担体に付着することができる。この場合、Niの粒子径は、5〜50nm程度であると好ましく、貴金属の粒子径は1〜10nm程度であるとより好ましい。
【0024】
改質触媒において、触媒は、担体の表面に付着していてもよく、多孔性を有する担体の孔内に付着していてもよい。また、担体が、メソ多孔性の担体及びマクロ多孔性の支持体の両方から構成される場合は、これらのいずれかに付着していてもよく、両方に付着していてもよい。
【0025】
また、改質触媒は、上述したNiや貴金属(Ru、Ir又はPd)に加え、希土類元素(Ce、La、Pr等)の化合物等が担体に更に付着していると好ましい。これらは、助触媒として機能するものであり、触媒による改質反応の促進効果を一層高めることができる。また、改質反応による炭素析出を良好に抑制することができる。助触媒として希土類元素の化合物を含む場合は、希土類元素/Niが、モル比で0.01〜10となると好ましく、0.1〜1となるとより好ましい。
【0026】
なかでも、助触媒としてはセリウム酸化物(具体的にはCe)、プラセオジム酸化物(具体的にはPr)及びランタン酸化物(具体的にはLa)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含有していると好ましい。触媒に加えてこれらの酸化物を更に含有することで、改質反応の際の炭素析出を低減する効果が一層優れるようになる。特に、プラセオジム酸化物又はランタン酸化物は炭素析出を低減する効果に優れる傾向にある。
【0027】
上述した構成を有する改質触媒は、担体にNiや貴金属(Ru、Ir又はPd)を担持させることにより製造することができる。例えば、触媒の主成分であるNiは、含浸法、スラリー法、スプレー法、塗布法、固相混合法等により担体(メソ多孔性担体やマクロ多孔性支持体)に担持することができる。なかでも、Niを溶液の状態で含浸させる含浸法は、均一な分散が可能であり、担持量の調整も容易であることから好ましい。Niの原料としては、例えば溶解度の高い硝酸塩、塩酸塩、酢酸塩等が好適である。含浸法においては、これらのNiの塩を含む溶液を含浸させた後、例えばアンモニア蒸気により水酸化し、更に熱分解や水素還元を行うことによって高活性な金属Niとすることで、担体にNiを担持することができる。
【0028】
また、触媒のうちの貴金属(Ru、Ir又はPd)は、Niと同様に含浸法によって担体に担持させることが好ましい。具体的には、Ru、Ir又はPdの硝酸塩や塩酸塩を溶解して溶液とし、これを担体に含浸させた後、例えばアンモニア蒸気により水酸化し、更に熱分解や水素還元を行うことによって、高活性な貴金属の担持させることができる。
【0029】
なお、触媒の担持においては、Ni及び貴金属のどちらを先に担持させてもよいが、貴金属を先に担持することが好ましい。こうすると、貴金属が広く均一に分散した状態となるため、貴金属のNiに対する還元作用がより良好に生じるようになり、その結果、改質反応が一層良好に促進されるようになる。
【0030】
Niや貴金属に加えて上述したセリウム酸化物等の助触媒を更に担持させる場合は、これらの助触媒も上記と同様の方法で担持することができる。助触媒の原料としては、各助触媒の構成金属の硝酸塩、塩酸塩、酢酸塩等が好適である。助触媒の原料は、Niと同時に含浸してもよく、Niとは別に含浸させてもよいが、助触媒の効果を良好に得るためには、Niと同時に含浸して担持させることが好ましい。
【0031】
上記構成を有する改質触媒は、燃料の改質反応を良好に生じさせる触媒として機能する。ここで、燃料としては、炭化水素構造を有する燃料化合物が挙げられる。具体的には、天然ガス、LPGガス、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油等の炭化水素系燃料や、メタノール、エタノール等のアルコール系燃料、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル系燃料等が挙げられる。
【0032】
そして、本実施形態の改質触媒は、上述した燃料の部分酸化改質反応、水蒸気改質反応、炭酸ガス改質反応やこれらを組み合わせた複合改質反応等、種々の改質反応において優れた特性を発揮することができる。
【0033】
以下、好適な実施形態の改質触媒を適用した水素発生装置について説明する。ここでは、一例として、改質触媒による部分酸化改質反応を行う水素発生装置の例を説明する。
【0034】
図1は、好適な実施形態の水素発生装置の構成を模式的に示す図である。図1に示す水素発生装置100は、水素発生部20と、水素分離部30とから構成されている。水素発生部20は、酸素透過膜10によって区画された反応室22及び供給室24を有している。また、水素分離部30は、水素分離膜32によって区画された混合気導入室36と水素排出室38とを有している。水素発生部20における反応室22と、水素分離部30における混合気導入室36とは、連結管40によってつながれている。これによって、反応室22内の気体が混合気導入室36内に移動できるようになっている。
【0035】
この水素発生装置100においては、反応室22には炭化水素構造を有する燃料化合物を含む気体が供給され、供給室24には酸素を含む気体が供給される。以下、燃料化合物としてメタンを、酸素を含む気体として空気をそれぞれ適用した場合を例に挙げて説明を行うこととする。
【0036】
水素発生部20においては、供給室24に供給された空気のうち、酸素だけが酸素透過膜10を通って反応室22に移動する。空気中の酸素以外の成分(図中、一例としてNを示す)は、酸素透過膜10を通らずに供給室24の外部に排出される。ここで、酸素透過膜10は、酸素透過層1及びこの上に積層された触媒層2を有している。酸素透過膜10は、触媒層2が反応室22側となるように配置されている。この酸素透過膜10における触媒層2が、本発明の改質触媒から構成されている。酸素透過膜10の詳細な構成については後述する。
【0037】
反応室22においては、酸素透過膜10を透過した酸素と、外部から供給されたメタンとによって部分酸化改質反応が生じ、水素を含む混合気が発生する。なお、メタンの部分酸化改質反応とは、例えば下記化学式(1)によって表される反応である。このように、部分酸化改質反応では、水素のほか、例えば一酸化炭素が発生する。
CH+1/2O→CO+2H …(1)
【0038】
反応室22で発生した水素を含む混合気は、連結管40を通って水素分離部30における混合気導入室36に導入される。ここで、水素分離部30は、混合気から水素のみを分離できる装置であり、いわゆる水素ポンプの1種である。この水素分離部30は、水素分離膜32に接続された電源から電流を流すことで、電気化学セルとして機能する。水素分離膜32は、プロトン伝導性を有するプロトン伝導体であり、例えば、ペロブスカイト構造を有する酸化物等、高温でプロトン伝導性を示すセラミックスからなるものが挙げられる。この水素分離膜32は、混合気導入室36に供給された水蒸気(図中のHO)が、当該膜の空孔等に取り込まれることによってプロトン伝導性を発現し得る状態となっている。
【0039】
このような水素分離部30における混合気導入室36に、水素を含む混合気が導入されると、水素分離膜32の混合気導入室36側(アノード側)において混合気中の水素が電子を放出してプロトン化する。このプロトンは、プロトン伝導膜である水素分離膜32を伝導して水素排出室38側(カソード側)に移動し、電子を受容して再び水素となる。混合気中の水素以外の成分(CO等)は、緻密なセラミック等によって構成される水素分離膜32を透過することができず、水蒸気等によって酸化されたCO等の形態で混合気導入室36から外部に排出される。
【0040】
このようにして、水素分離部30においては、混合気導入室36に導入された気体のうち、水素だけがプロトンの形態で水素分離膜32を通って水素排出室38に移動することができる。そして、水素排出室38に移動した水素は、適宜設けられた排出口から水素発生装置100の外部に排出される。このようにして、水素発生装置100によって水素が製造される。
【0041】
上記構成を有する水素発生装置100において、酸素透過膜10は、以下に示すような構成を有するものである。以下、図2を参照して酸素透過膜10の好適な構成について具体的に説明する。
【0042】
図2は、酸素透過膜10における触媒層2の表面付近の断面構成を模式的に示す図である。図2に示す酸素透過膜10では、酸素透過層1上に触媒層2が形成されており、また、触媒層2においては、酸素透過層1側から順に支持層4及び担体層6が積層され、更に担体層6の表面に触媒8が付着した形態となっている。この触媒層2においては、支持層4及び担体層6の両方が、触媒8を担持するための担体として機能している。
【0043】
酸素透過層1は、酸素イオン及び電子のみを伝導できる混合伝導体であり、例えば、単相型のペロブスカイト型構造酸化物や、酸素イオン伝導体と電子伝導体との混合組成から構成される複合体型の混合伝導体が挙げられる。これらのうち、後者の複合体型混合伝導体が、酸素イオン伝導体と電子伝導体を個々に選択して構成し得るため、材料選択の幅が広く、混合伝導性を容易に制御することもできることから好ましい。好適な複合体型混合伝導体の一例としては、酸素イオン伝導体としてCeO−Smを有し、電子伝導体としてMnFeを有する混合伝導体が挙げられる。
【0044】
酸素透過層1の厚さは、1000μm以下であると好ましく、200μm以下であるとより好ましい。酸素透過層1の厚さを適度の厚さとすることで、部分酸化改質反応による炭素析出を良好に低減できる傾向にある。ただし、酸素透過層1に十分な強度を持たし、且つ優れた酸素透過性を確保する観点からは、酸素透過層1の厚さは、少なくとも1μm以上であることが望ましい。特に、後述する触媒8として、主成分であるNiに貴金属であるIrを組み合わせた場合は、酸素透過層1の厚さは、140μm以下であることが好ましい。こうすることで、炭素析出を大幅に抑制できるようになり、これによって酸素透過膜10による酸素透過性を一層良好に維持することが可能となる。
【0045】
また、触媒層2における支持層4は、上述したマクロ多孔性の支持体からなり、担体層6は、上述したメソ多孔性の担体からなる。さらに、触媒8は、上述した触媒であるNi及び貴金属(Ru、Ir又はPd)から構成される。本実施形態では、これらの支持層4、担体層6及び触媒8からなる触媒層2が、改質触媒に該当する。なお、図示しないが、触媒層2が、セリウム酸化物等を助触媒として有する場合は、これらの助触媒は、触媒8と同様に担体(支持層4や担体層6)に付着した状態で含まれることとなる。
【0046】
触媒層2の厚さは、酸素透過層1の0.1%〜1000倍程度であると好ましく、1%〜100倍程度であるとより好ましい。酸素透過層1に対して触媒層2が薄すぎると、この触媒層2による部分酸化改質反応の促進効果が十分に発揮されなくなるおそれがある。一方、酸素透過層1に比して厚すぎても、副反応が生じる割合が増え、部分酸化改質反応の選択性が低くなるおそれがある。なお、触媒層2は、金属等の微小な粒子からなる触媒8が支持層4や担体層6に付着したものであるから、この触媒層2全体の厚さは、支持層4と担体層6との合計厚さ(一方の層のみを有する場合は当該層のみの厚さ)と同じであると見なしてもよい。
【0047】
また、上述の如く、触媒層2は、酸素透過層1の表面を被覆するように形成されたものであるが、この触媒層2は、酸素透過層1の全表面の1%以上を被覆していると好ましく、10%以上を被覆しているとより好ましく、ほぼ全領域を被覆していることが特に好ましい。触媒層2は、酸素透過層1のできるだけ多くの領域を被覆することで、これらの接触が密となり、高い酸素透過性が得られ易くなる傾向にある。
【0048】
このような構成を有する酸素透過膜10は、例えば、支持層4の表面を担体層6で被覆した担体に、触媒8であるNi、並びに、Ru、Ir及びPdのうちの少なくとも1種を担持させて触媒層2を形成し、この触媒層2と酸素透過膜1とを積層することによって得ることができる。
【0049】
上述した実施形態の水素発生装置100は、本発明の改質触媒により構成される触媒層2、すなわち、主成分であるNiにRu、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の貴金属を組み合わせた触媒8を有する触媒層2を有していることから、Niが貴金属によって高活性の状態を維持することができ、部分酸化改質反応を良好に生じさせることができる。この際、触媒8は、NiとRu、Ir又はPdという特定の貴金属とを組み合わせたものであるため、部分酸化改質反応による炭素析出も大幅に生じ難く、触媒であるNiの活性をより長期にわたって良好に維持することができる。
【0050】
なお、上述したような構成の水素発生装置においては、酸素透過膜が、改質反応によって生じる高濃度の水素によって強い還元雰囲気に曝されることになる。しかし、従来、酸素透過膜を構成している複合型混合伝導体は、部分酸化改質反応による強い還元雰囲気下では還元され易いものであった。そして、このような還元が生じると、酸素イオンや電子の伝導が円滑に進行しなくなる。そのため、従来の酸素透過膜は、空気から酸素を分離して取り出す性質(酸素透過性)が低下し易い傾向にあった。つまり、従来の酸素透過膜は、部分酸化改質反応に用いた場合、酸素透過性が経時的に低下してしまうという不都合を有していた。
【0051】
これに対し、上述した実施形態の水素発生装置100では、酸素透過膜10に接して本発明の改質触媒(触媒層2)を有している。この触媒層2は、部分酸化改質反応の促進、及び、炭素析出の抑制だけでなく、酸素透過膜10の還元をも抑制することができる。したがって、このような改質触媒(触媒層2)を有する水素発生装置100によれば、酸素透過膜10による酸素透過性の低下も大幅に抑制することができ、その結果、長時間駆動させた場合であっても安定して水素を製造することが可能となる。このように、本発明の改質触媒は、酸素透過膜とともに用いて部分酸化改質反応を行う際に極めて有効である。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態に係る改質触媒、及びこの改質触媒を用いた水素発生装置の例について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。
【0053】
すなわち、まず、本発明の改質触媒は、上述の如く、部分酸化改質反応だけでなく、水蒸気改質、炭酸ガス改質、またはこれらを組み合わせた複合改質反応等の種々の改質反応に適用することができる。例えば、本発明の改質触媒を水蒸気ガス改質や炭酸ガス改質に適用する場合は、改質触媒を配置し、これに燃料及び炭酸ガス又は水蒸気を供給して改質反応を生じさせ、これにより得られた水素を含む混合ガスから水素を取り出すことで水素を製造することができる。これらのいずれの改質反応に適用した場合であっても、本発明の改質触媒によれば、優れた改質反応の促進及び炭素析出の低減の効果を奏することができる。
【0054】
また、上述した部分酸化改質反応に用いる水素発生装置や酸素透過膜も、上記の実施形態のものに限定されず、適宜変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、水素分離部30としてプロトン伝導膜である水素分離膜32を用いた例を示したが、これに限定されず、水素を含む混合気から水素のみを分離できる装置等であれば特に制限無く適用できる。
【0055】
また、酸素透過膜は、上述したような酸素透過層と触媒層とを最低限備える構成を有する限り、他の層を更に有していてもよい。ただし、酸素透過膜を透過した酸素を効率よく部分酸化改質反応に用いる観点からは、酸素透過層と触媒層とは接している必要がある。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[1]実施例A:改質触媒単独の評価
【0057】
まず、各種の改質触媒を準備し、それらの触媒を単独で部分酸化改質反応に用いた場合の評価を行った。
[改質触媒の作製]
【0058】
(担体1の準備)
厚み1mmのセラミックファイバー(株式会社ITM製、ペーパー320、空隙率約80%)を550℃で空気中に焼成し、有機バインダーを除去して、マクロ多孔性を有する支持体を準備した。この支持体に、コロイダルシリカ(30重量%SiO含有、触媒化成工業株式会社製)を含浸した後、アンモニア処理、乾燥、焼成を順次行うことで、メソ多孔性シリカからなる(20重量%SiO)担体を形成した。こうして、支持体上に担体をコートした担体1を得た。
【0059】
(調製例1)
上記担体1に、塩化イリジウム(IV)水溶液を含浸し、これに続いてアンモニア処理、乾燥、水素を含む還元性気流での焼成を順次行って、1.1重量%のIrを担持させた。続いて、これに硝酸ニッケルと硝酸セリウムの混合水溶液を含浸し、更にアンモニア処理、乾燥、水素を含む還元性気流での焼成を順次行って、10重量%Ni、5.6重量%Ceを更に担持させた。このようにして、調製例1の改質触媒(Ir−Ni−Ce/SiOと表す)を得た。
【0060】
(調製例2)
塩化イリジウム水溶液に代えて、塩化パラジウム(II)水溶液を用いたこと以外は、調製例1と同様にして、0.6重量%のPd、10重量%のNi、5.6重量%のCeを担持させた調製例2の改質触媒(Pd−Ni−Ce/SiOと表す)を得た。
【0061】
(比較調製例1)
上記担体1に、硝酸ニッケルと硝酸セリウムの混合水溶液を含浸し、これに続いてアンモニア処理、乾燥、水素を含む還元性気流での焼成を順次行って、10重量%のNi、5.6重量%のCeを担持させた。こうして、比較調製例1の改質触媒(Ni−Ce/SiOと表す)を得た。
【0062】
(比較調製例2)
塩化イリジウム水溶液に代えて、ヘキサクロロ白金(IV)酸水溶液を用いたこと以外は、調製例1と同様にして、1.0重量%のPt、10重量%のNi、5.6重量%のCeを担持させた比較調製例3の改質触媒(Pt−Ni−Ce/SiOと表す)を得た。
【0063】
(比較調製例3)
比較調製例4の改質触媒として、3重量%のNiがアルミナ(Al)に担持された触媒(Ni/Al、ズードケミー触媒株式会社製、FCR−4−02)を準備した。
[評価]
【0064】
(触媒サンプルの作製:実施例1〜2、比較例1〜3)
まず、上述した調製例1〜2及び比較調製例1〜3の改質触媒を、それぞれ内径10mmの石英管に充填して、内部に高さ1mmの触媒層が形成された実施例1〜2及び比較例1〜3の触媒サンプルを形成した。なお、調製例1〜2の改質触媒を用いた場合が実施例1〜2に、比較調製例1〜3の改質触媒を用いた場合が比較例1〜3にそれぞれ該当する。
【0065】
(部分酸化改質反応によるメタンの転化率、及び、炭素析出量の測定)
各触媒サンプルに、水素を含むH−Ar混合気流中、400℃で1時間の還元処理を施した後、50体積%CH、25体積%O、25体積%Arを含む反応ガスを導入し、触媒層を通すことにより部分酸化改質反応を生じさせた。なお、この部分酸化改質反応は、850℃の温度で行った。そして、部分酸化改質反応により得られた混合気の組成分析を行い、その結果から燃料として用いたメタン(CH)の転化率(%)を算出した。
【0066】
また、上記の部分酸化反応後の各触媒サンプルからそれぞれ改質触媒を回収し、これらのそれぞれについて、熱重量分析計(MAC Science社製、TG2000S)を用いて空気気流中、10℃/分の昇温速度で800℃まで昇温させる処理を行った。この処理による各改質触媒の重量減少から炭素析出量(重量%)を求めた。得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0067】
表1より、Niに貴金属としてIr及びPdをそれぞれ加えた改質触媒を用いた実施例1及び2の触媒サンプルは、貴金属を加えなかった、又は上記以外の貴金属を加えた比較例1〜3と比べて、十分な転化率が得られており、炭素析出が少ないことが確認された。
[2]実施例B:改質触媒単独の評価
[改質触媒の作製]
【0068】
(調製例3〜5)
硝酸ニッケルと硝酸セリウムの混合水溶液に代えて、硝酸ニッケルと塩化酸化ジルコニウムの混合水溶液(調製例3)、硝酸ニッケルと硝酸ランタンの混合水溶液(調製例4)、及び、硝酸ニッケルと硝酸プラセオジムの混合水溶液(調製例5)をそれぞれ用いたこと以外は、上述した調製例1と同様にして、助触媒としてCeに代えて、ZrO(調製例3)、La(調製例4)、Pr(調製例5)をそれぞれ有する各種の改質触媒を作製した。なお、調製例3の改質触媒を、Ir−Ni−ZrO/SiO、調製例4の改質触媒を、Ir−Ni−La/SiO、調製例5の改質触媒を、Ir−Ni−Pr/SiOとそれぞれ表す。
[評価]
【0069】
(触媒サンプルの作製:実施例3〜5)
上述した調製例3〜5の改質触媒をそれぞれ用い、上述した方法と同様にして、実施例3〜5の触媒サンプルを形成した。なお、調製例3〜5の改質触媒を用いた場合が実施例3〜5にそれぞれ該当する。
【0070】
(部分酸化改質反応によるメタンの転化率、及び、炭素析出量の測定)
実施例1、3、4及び5の各触媒サンプルに、水素を含むH−Ar混合気流中、400℃で1時間の還元処理を施した後、50体積%CH、25体積%O、25体積%Arを含む反応ガスを導入し、これを触媒層を通すことにより部分酸化改質反応を生じさせた。なお、この部分酸化改質反応は、850℃の温度で行った。そして、部分酸化改質反応により得られた混合気の組成分析を行い、その結果から燃料として用いたメタン(CH)の転化率(%)を算出した。
【0071】
また、上記の部分酸化反応後の各触媒サンプルからそれぞれ改質触媒を回収し、これらについて、上記と同様の方法によって炭素析出量を測定した。この炭素析出は、全て燃料であるメタンに起因するものとみなし、得られた炭素析出量から、燃料として用いたメタンのうちの炭素に転化した量(単位:ppm)を算出した。得られた結果を表2に示す。
【表2】

【0072】
(炭酸ガス改質反応によるメタンの転化率、及び、炭素析出量の測定)
実施例1、3、4及び5の各触媒サンプルに、水素を含むH−Ar混合気流中、400℃で1時間の還元処理を施した後、40体積%CH、40体積%CO、20体積%Arを含む反応ガスを導入し、これを触媒層を通すことにより炭酸ガス改質反応を生じさせた。なお、この炭酸ガス改質反応は、850℃の温度で行った。そして、炭酸ガス改質反応により得られた混合気の組成分析を行い、その結果から燃料として用いたメタン(CH)の転化率(%)を算出した。
【0073】
また、上記の炭酸ガス反応後の各触媒サンプルからそれぞれ改質触媒を回収し、これらについて、上記と同様の方法によって炭素析出量を測定し、燃料として用いたメタンのうちの炭素に転化した量(単位:ppm)を算出した。得られた結果を表3に示す。
【表3】

【0074】
表2及び3より、部分酸化改質反応及び炭酸ガス改質反応のいずれであっても、本発明の改質触媒を用いることにより、優れた燃料ガスの転化率が得られ、また炭素析出も抑制できることが確認された。なお、炭素析出の観点からは、助触媒としてLa又はPrを用いることが好ましいことが判明した。
[3]実施例C:酸素透過膜の場合の評価
【0075】
以下、各種の改質触媒について、これらを酸素透過層と組み合わせて酸素透過膜を作製し、これを用いて部分酸化改質反応を行った場合の評価を行った。
[酸素透過膜の作製]
【0076】
(実施例6〜7、比較例4〜5)
CeO(85モル%)−Sm(15モル%)の酸素イオン伝導体と、MnFeの電子伝導体の混合物からなる酸素透過層(膜厚150μm)に、上述した調製例1〜2及び比較調製例1〜2の触媒を、これらのマクロ多孔性の支持体が接するようにそれぞれ積層した後、ガラスシール材を用いてシール化した。これにより、酸素透過層上に、各調製例又は比較調製例の改質触媒からなる触媒層をそれぞれ備える実施例6〜7、比較例4〜5の酸素透過膜を得た。なお、調製例1〜2の改質触媒を用いた場合が実施例6〜7に、比較調製例1〜2の改質触媒を用いた場合が比較例4〜5にそれぞれ該当する。
[評価]
【0077】
(部分酸化改質反応による酸素透過速度、及び、炭素析出量の測定)
実施例6〜7及び比較例4〜5の酸素透過膜による酸素透過速度の評価は、以下のようにして行った。すなわち、まず、各酸素透過膜の触媒層側にCH(メタン)−Arの混合ガスを、酸素透過層側に空気をそれぞれ流通させた。それから、各酸素透過膜の触媒層側で、酸素透過膜によって空気から分離された酸素と、メタンとの部分酸化改質反応を生じさせ、これにより水素を含む混合気を発生させた。
【0078】
そして、酸素透過速度(jO、単位:μmol/sec/cm)は、得られた混合気中の組成分析により求めたメタンの転化率から、部分酸化反応に供された酸素の量を求め、これに基づいて算出した。なお、部分酸化改質反応の温度条件は950℃とした。得られた結果を表4に示す。
【0079】
また、部分酸化改質反応後の各実施例又は比較例の酸素透過膜を用い、上述した方法と同様の方法により、各酸素透過膜での炭素析出量(重量%)を測定した。得られた結果を表4に示す。
【表4】

【0080】
表4より、Niに貴金属としてIr及びPdをそれぞれ加えた触媒を用いた実施例6及び7の酸素透過膜は、貴金属を加えなかった、又は上記以外の貴金属を加えた比較例4及び5と比べて、より優れた酸素透過速度が得られており、また炭素析出も少ないことが確認された。
[4]実施例D:酸素透過膜の場合の評価
[改質触媒の作製]
【0081】
(担体2の作製)
厚み1mmのセラミックファイバー(株式会社ITM製、ペーパー320、空隙率約80%)を550℃で空気中に焼成し、有機バインダーを除去して、マクロ多孔性を有する支持層を準備した。この支持層に、硝酸アルミニウム水溶液を含浸した後、アンモニア処理、乾燥、焼成を順次行うことで、メソ多孔性アルミナからなる(20重量%Al)担体層を形成した。こうして、支持層上に担体層をコートした担体2を得た。
【0082】
(調製例6)
上記担体2に、塩化ルテニウム(III)水溶液を含浸し、これに続いてアンモニア処理、乾燥、水素を含む還元性気流での焼成を順次行って、0.6重量%のRuを担持させた。続いて、これに硝酸ニッケルと硝酸セリウムの混合水溶液を含浸し、更にアンモニア処理、乾燥、水素を含む還元性気流での焼成を順次行って、10重量%のNi、及び、5.6重量%のCeを更に担持させた。このようにして、調製例6の触媒(Ru−Ni−Ce/Alと表す)を得た。
【0083】
(比較調製例4)
上記担体2に、硝酸ニッケルと硝酸セリウムの混合水溶液を含浸し、これに続いてアンモニア処理、乾燥、水素を含む還元性気流での焼成を順次行って、10重量%のNi、及び、5.6重量%のCeが担持された比較調製例4の触媒(Ni−Ce/Alと表す)を得た。
【0084】
(比較調製例5)
塩化ルテニウム水溶液に代えて、硝酸ロジウム(III)とヘキサクロロ白金(IV)酸の混合水溶液を用いたこと以外は、調製例6と同様にして、0.2重量%のRh、1.0重量%のPt、10重量%のNi、5.6重量%のCeが担持された比較調製例5の触媒(Rh−Pt−Ni−Ce/Alと表す)を得た。
[酸素透過膜の作製]
【0085】
(実施例8、比較例6及び7)
調製例6、比較調製例4及び比較調製例5の改質触媒をそれぞれ用い、上述した方法と同様にして、実施例8、比較例6及び比較例7の酸素透過膜を作製した。なお、調製例6の改質触媒を用いた場合が実施例8に、比較調製例4及び5の改質触媒を用いた場合が比較例6及び7にそれぞれ該当する。
【0086】
(参考例1)
CeO(85モル%)−Sm(15モル%)の酸素イオン伝導体と、MnFeの電子伝導体の混合物からなる酸素透過膜を、そのまま参考例1の酸素透過膜とした。
[酸素透過速度の評価]
【0087】
実施例8、比較例6及び7、並びに、参考例1の酸素透過膜による酸素透過速度を上記と同様の方法により行った。なお、測定に際して、参考例1の酸素透過膜については、任意の一方の面側を触媒層側に、これと他方の面側を酸素透過層側にそれぞれ設定した。また、部分酸化改質反応の温度条件は800℃〜1000℃の温度範囲内で変化させて行い、各条件での酸素透過速度をそれぞれ求めた。得られた結果を図3に示す。
【0088】
図3は、実施例8、比較例6及び7、並びに、参考例1の各酸素透過膜を用いて得られた部分酸化改質反応の温度に対する酸素透過速度の変化を示すグラフである。図3中、L11が実施例8、L12が比較例6、L13が比較例7、L14が参考例1の酸素透過膜を用いた場合にそれぞれ該当する。
【0089】
図3に示すように、Niに貴金属としてRuを組み合わせた触媒を含有する触媒層を有する実施例8の酸素透過膜によれば、貴金属を用いなかった場合(比較例6)及び貴金属としてRhを用いた場合(比較例7)に比して、高い酸素透過速度が得られることが判明した。
【0090】
また、実施例8では、貴金属を用いなかった場合の比較例6と比べて全温度域でほぼ一様に酸素透過速度が向上しており、この結果から、Ruによって酸素透過膜の酸素透過性が高められていることが確認された。これに対し、Rhを用いた比較例7では、高温となるにつれて酸素透過速度が比較例6に近づき、1000℃では比較例6よりも低くなるという結果が得られた。このことから、Rhは、部分酸化改質反応を促進する一方、酸素透過膜の還元も促進してその酸素透過性を低下させてしまっていることが示唆される。なお、触媒層を有しない酸素透過膜(参考例1)では、酸素透過速度が極めて小さくなることが確認された。
[酸素透過膜の還元状態の評価]
【0091】
部分酸化改質反応後の実施例8、比較例6及び比較例7の酸素透過膜の表面状態をそれぞれ観察した。図4は、実施例8の酸素透過膜の表面を示す写真であり、図5は、比較例6の酸素透過膜の表面を示す写真であり、図6は、比較例7の酸素透過膜の表面を示す写真である。全図において、「CH側」((a)の図)が触媒層側、「空気側」((b)の図)が酸素透過層側の表面をそれぞれ示している。
【0092】
図4に示すように、実施例8の酸素透過膜は両面とも変色がなく、部分酸化改質反応による変化が殆ど見られないのに対し、図5及び6に示すように、比較例6及び7の酸素透過膜は、触媒層側(CH側)に変色がみられ、部分酸化改質反応によって還元が生じていることが確認された。
[5]実施例E:酸素透過膜の場合の評価(酸素透過膜の膜厚と炭素析出との関係)
[酸素透過膜の作製]
【0093】
(所定の厚さを有する酸素透過層の調製)
CeO(85モル%)−Sm(15モル%)の酸素イオン伝導体と、MnFeの電子伝導体の混合物を調製した。この混合物を、有機バインダー及び有機溶媒中に分散させ、得られた分散液を用いて、テープキャスティング法により厚さ20〜30μmのグリーンシートを作製した。このグリーンシートを、所望の酸素透過膜の厚さが得られるように複数枚積層し、空気中でこれを焼成して有機バインダーや有機溶媒を除去した後、1000〜1600℃で更に焼結させた。これにより95〜225μmの範囲で厚さが異なる複数の酸素透過層を形成した。
【0094】
(酸素透過膜の作製)
触媒として上記調製例1で得られたもの(Ir−Ni−Ce/SiO)を用い、また、酸素透過層として上記の厚さが異なる複数の酸素透過層をそれぞれ用い、上述の酸素透過膜の作製方法と同様にして、厚さが異なる酸素透過層をそれぞれ有する複数の酸素透過膜を作製した。
[炭素析出量の測定]
【0095】
酸素透過層の厚さが異なる複数の酸素透過膜をそれぞれ用い、上述した「酸素透過速度の評価」と同様にして、反応温度950℃、反応時間5時間の条件で部分酸化改質反応を行った後、反応後の各酸素透過膜を回収した。これらをそれぞれ10℃/分の昇温速度で800℃まで昇温させたときの重量減少を、熱重量分析計(MAC Science社製、TG2000S)を用いて測定した。そして、各酸素透過膜で得られた重量減少の値から、部分酸化改質反応による炭素析出量(重量%)を求めた。得られた結果を図7に示す。
【0096】
図7は、酸素透過層の厚さに対する炭素析出量の変化を示すグラフである。図7に示すように、140μmを超えると炭素析出量が大幅に多くなることが確認された。このことから、Ir−Ni−Ce/SiOを触媒層として有する酸素透過膜は、140μm以下の酸素透過層を有することで、炭素析出量を大幅に低減して酸素透過性の低下を抑止できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】好適な実施形態に係る水素発生装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】酸素透過膜10における触媒層2の表面付近の断面構成を模式的に示す図である。
【図3】各酸素透過膜を用いた場合の部分酸化改質反応の温度に対する酸素透過速度の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1の酸素透過膜の表面を示す写真である。
【図5】比較例1の酸素透過膜の表面を示す写真である。
【図6】比較例2の酸素透過膜の表面を示す写真である。
【図7】酸素透過層の厚さに対する炭素析出量の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0098】
1…酸素透過層、2…触媒層、4…支持層、6…担体層、8…触媒、10…酸素透過膜、20…水素発生部、22…反応室、24…供給室、30…水素分離部、32…水素分離膜、36…混合気導入室、38…水素排出室、40…連結管、100…水素発生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、この担体に付着した触媒と、から構成され、
前記触媒として、Ni、並びに、Ru、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の金属を含有する、改質触媒。
【請求項2】
前記担体に付着したセリウム酸化物、プラセオジム酸化物及びランタン酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を更に含有する、請求項1記載の改質触媒。
【請求項3】
前記担体は、シリカからなるものである、請求項1又は2記載の改質触媒。
【請求項4】
Niに対して、Ru、Ir及びPdのうちの少なくとも1種の金属を0.1〜100質量%含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の改質触媒。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−188587(P2008−188587A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210943(P2007−210943)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】