説明

放射による温度測定方法及び温度測定装置

【課題】測定対象物の表面が振動していたりしたとしても、精確な遠隔温度測定を可能とする。
【解決部】本発明に係る放射による温度測定方法は、被測定物Wから放射される電磁波の異なる2つの偏光成分を用いて被測定物Wの温度を計測する温度測定方法であって、2つの偏光成分を測定すると共に、被測定物Wの振動状況を測定すべく設けられた振動測定部4の出力を検出して、2つの偏光成分のそれぞれについて、振動測定部4の出力を基に当該偏光成分に含まれる振動による外乱を除去し、外乱が除去された後の2つの偏光成分を基に、被測定物Wの温度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射による温度測定方法及びこの方法を用いた温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧延工程や熱処理工程において、走行する圧延材の表面温度の測定を行うに際しては、圧延材から放射される電磁波を利用した放射温度計が用いられることが多い。放射温度計は、圧延材に非接触でその表面温度を計測可能であり、非常に有益な温度計である。
ところが、被測定物である圧延材の放射率が未知であったり、材質、熱処理温度、酸化、表面粗さ等の影響を受けて放射強度が変動したりするため、圧延材の温度測定に放射温度計の適用が困難であったり、又はその測定精度が低いという問題があった。
【0003】
この課題を解決するものとして、放射電磁波の2つ偏光成分を利用した放射温度測定法が開発されている(特許文献1,特許文献2を参照)。
特許文献1は、放射温度計による鋼板の温度測定方法おいて、異なる2つの偏光成分について測定される鋼板の2つの分光放射輝度と、オフラインで背光を受けない状態で測定した鋼板の前記異なる2つの偏光成分での放射率とを用いて背光の影響を補償し、走行する鋼板の温度を求める鋼板の温度測定方法を開示する。
特許文献2は、表面に薄膜を有する鋼板の温度測定方法において、測定対象鋼板からの放射光のうち測定対象鋼板上の薄膜固有の偏光角方向へ放射される放射光であって測定面の法線に平行な偏光成分(P偏光)を測定する温度測定方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107939号公報
【特許文献2】特開平2−208527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧延ラインを走行する圧延材の表面は必ずしも平坦ではなく、プロセス変動等により板そり(凹凸)が発生したり、搬送ラインで圧延材が波打ったり上下に振動したりし、表面からの放射強度が様々な要因により変動し、その結果、計測される放射強度が必ずしも圧延材の表面温度の変動と関連しているとは言い難い状況が発生している。
このような状況下においては、特許文献1に開示される「異なる2つの偏光成分について測定される圧延材の2つ偏光成分の輝度から鋼板の温度を測定する方法」であっても、特許文献2に開示される「P偏光を利用した放射温度測定方法」であっても精確な温度計測を行うことはできない。それどころか、P偏光、S偏光は放射率の角度依存性があり、圧延材の法線方向からの角度をθとした場合、P偏光の放射率はθ=80°あたりに極大値を持ち、S偏光はθが減少すると共にその放射率も緩やかに減少する(後述する図13を参照)。
【0006】
つまり、P偏光、S偏光を用いた特許文献1や特許文献2の温度計測方法は、圧延材が波打ったり上下に振動したりし、表面からの放射輝度が様々な要因により変動する状況下では、その精度は極端に低下する可能性が大であり、温度測定の信頼性が著しく低下するという問題がある。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、被測定物から放射される電磁波の異なる2つの偏光成分を用いて被測定物の温度を計測する温度測定方法において、測定対象物の表面が振動していたりしたとしても精確な温度測定が可能な、放射による温度測定方法およびこの方法を用いた温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係る放射による温度測定方法は、被測定物から放射される放射波の異なる2つの偏光成分を用いて前記被測定物の温度を計測する温度測定方法であって、前記2つの偏光成分を測定すると共に、前記被測定物の振動を測定すべく設けられた振動測定部の出力を検出して、前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記振動測定部の出力を基に、当該偏光成分に含まれる前記被測定物の振動による外乱成分を除去し、外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を基に、被測定物の温度を算出することを特徴とする。
【0008】
本願発明者らは、被測定物に反りが発生したり、被測定物がバタついていたり(波打ったり上下に振動したり)している状況を考察してみた。
図12(a)は、被測定物(圧延材)が平坦な状態における、被測定物と放射計測部との光学的な位置関係を示したものである。被測定物が平坦でバタつきがなければ、測定角度θiは一定である。ところが、図12(b)に示すように被測定物がバタついている場合、被測定物と放射計測部との光学的な位置関係はバタつきに応じて変化することになる。被測定物の表面の傾きをθmとすれば、測定角度は、θ=(θi−θm)と変化する。
【0009】
ここで、2つの偏光成分(P偏光とS偏光)の測定角度θと放射率との関係について考えてみる。
図13(a)は、異なる2つの偏光成分(P偏光とS偏光)の測定角度θに対するアルミ板材の放射率の理論値を示したものである。この図から明らかなように、P偏光成分の放射率は、測定角度θと共に増大し、80°近傍で極大値を持つ。また、S偏光成分の放射率は、測定角度θと共に減少する。
以上のことから判るように、被測定物が振動しバタつくことで、被測定物と放射計測部との光学的な位置関係が変化した場合、S偏光強度Vsはあまり変化しないものの、P偏光強度Vpに関しては、被測定物の傾き(振動に起因する被測定物の傾き)に起因する外乱を含むこととなり、その値Vpは大きく変化する。その結果、計測される放射輝度が必ずしも圧延材の表面温度の変動と関連しているとは言い難い状況が発生する。
【0010】
そこで、本願発明者らは、被測定物の振動状況を測定すべく別途設けられた振動測定部の出力を検出し、2つの偏光成分のそれぞれについて、振動測定部の出力を基に当該偏光成分に含まれる振動の影響(バタつきの影響)を除去する処理に想到するに至った。そして、外乱が除去された後の2つの偏光成分を基に、被測定物の温度を算出することとした。
この温度測定方法を用いることで、測定対象物の表面が振動していたりしたとしても精確な温度測定が可能となる。
【0011】
好ましくは、前記振動測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去し、外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を用いて、被測定物の温度を算出するとよい。
さらに好ましくは、前記被測定物が配備される空間に発生する音波を測定すべく音波測定部を配備しておき、前記音波測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去し、外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を用いて、被測定物の温度を算出するとよい。
【0012】
前記2つの偏光成分の比率を求め、前記比率の時間変動量が、所定の閾値を越えた場合は、算出された被測定物の温度の信頼性が低いものとし、所定の閾値を越えない場合は、算出された被測定物の温度の信頼性が高いものとするとよい。
本発明に係る放射による温度測定装置は、被測定物から放射される放射波の2つの偏光成分を計測する放射計測部と、前記被測定物の振動を測定すべく設けられた振動測定部と、前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記振動測定部の出力を基に、当該偏光成分に含まれる前記被測定物の振動による外乱成分を除去する外乱除去部と、外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を基に、被測定物の温度を算出する測温部と、を有することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記外乱除去部は、前記振動測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去するように構成されているとよい。
また、前記被測定物が配備される空間に発生する音波を測定する音波測定部が設けられ、前記外乱除去部は、前記音波測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去するように構成されているとよい。
【0014】
前記外乱除去部が出力した2つの偏光成分に関し、その比率を求める比率算出部を備え、前記比率算出部は、前記比率の時間変動量が所定の閾値を越えた場合は、前記測温部で算出された被測定物の温度の信頼性が低いものと判定し、所定の閾値を越えない場合は、測温部で算出された被測定物の温度の信頼性が高いものと判定するように構成されていることは、非常に好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射による温度測定方法及び温度測定装置によれば、測定対象物の表面が振動していたりしたとしても、精確な温度測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】温度測定装置の設置状況を示した図である。
【図2】放射計測部の構造を示した図である。
【図3】第1実施形態に係る温度測定装置の構造を示した図である。
【図4】振動計測部(ロックインアンプ)を示した図である。
【図5】第1実施形態に係る温度測定方法のブロック図である。
【図6】第1実施形態に係る温度測定方法のフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る温度測定装置の構造を示した図である。
【図8】第3実施形態に係る温度測定装置の構造を示した図である。
【図9】P偏光及びS偏光の時系列データ、及び「P偏光強度/S偏光強度」の時系列データを示した図である。
【図10】第3実施形態に係る温度測定方法のブロック図である。
【図11】第3実施形態に係る温度測定方法のフローチャートである。
【図12】被測定物と放射計測部との光学的な位置関係を示したものである
【図13】P偏光・S偏光のそれぞれに関し、入射角と放射率との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る放射による温度測定方法及び温度測定装置の実施の形態を、図をもとに説明する。
[第1実施形態]
図1,図3は、本実施形態にかかる温度測定装置1を示した図である。
温度測定装置1は、被測定物から放射される電磁波(放射光)に含まれる2つの偏光成分を測定し、その後2つの偏光成分のそれぞれについて、被測定物の振動による外乱を除去して、外乱が除去された後の2つの偏光成分を基に、被測定物の表面温度を算出するものである。
【0018】
なお、被測定物としては、圧延工程や熱処理工程における圧延材W、特に帯状のアルミ箔材などを念頭におき説明を進める。
温度測定装置1は、圧延材Wから放射される電磁波の2つの偏光成分を計測する放射計測部2と、圧延材Wの温度を算出する測温部3とを有している。
さらに、温度測定装置1は、圧延材Wの振動状況を測定すべく設けられた振動測定部4と、放射計測部2が計測した2つの偏光成分のそれぞれについて、振動測定部4の出力を基に当該偏光成分に含まれる振動による外乱を除去する外乱除去部5と、を有している。
【0019】
測温部3は、外乱除去部5により外乱が除去された後の2つの偏光成分を基に圧延材Wの温度を算出する。
測温部3、外乱除去部5は信号処理装置6の中に設けられており、信号処理装置6はパソコンや電子回路などで構成されている。この信号処理装置6には、計測結果を表示する表示装置7が外部入出力部8を介して繋がっていると共に、計測結果などをネットワークを通じ外部に転送可能となっている。
図2には、放射計測部2の内部構造が示されている。
【0020】
本実施形態の放射計測部2は、走行する圧延材Wに対して、その表面の法線となす角度θの位置に配備されており、圧延材Wから放射される電磁波(放射光)に含まれる異なる2つの偏光成分の強度を計測する。
放射計測部2は、圧延材Wの表面を向き、圧延材W上の計測点からの放射光を取り込むレンズ10と、取り込まれた放射光から2つの偏光成分(P偏光、S偏光)を取り出すコリメートレンズ11及びプリズム等で構成された偏光分離素子12とを有している。
偏光分離素子12で分離されたP偏光、S偏光は、CCD等で構成された光検出素子13に取り込まれ、アンプ14で増幅され電圧出力Vp,Vsとして外部に出力される。
【0021】
なお、本明細書において、P偏光は、圧延材Wの表面すなわち被測定物表面法線と測定光軸とが作る平面に平行な方向に電界成分をもつ偏光のこととし、S偏光は、圧延材Wの表面すなわち被測定物表面法線と測定光軸とが作る平面に垂直な方向に電界成分をもつ偏光とする。
振動測定部4は、圧延材Wの下側に配備されたレーザ変位計から構成される。レーザ変位計は、レーザ変位計〜圧延材Wの下面側の距離を数nm〜数十μmオーダで検出できるものであり、圧延材Wの板反り(凹凸)状況や搬送ラインでのバタつき(圧延材Wが波打ったり上下に振動することをいう)を検出可能である。ゆえに、振動測定部4の出力が変動したり、周期的に変化している場合には、圧延材Wに板反りやバタつきが発生していることになる。
【0022】
図3に示す如く、放射計測部2から出力されるP偏光強度VpとS偏光強度Vsとは、信号処理装置6内に設けられた外乱除去部5へ入力される。
外乱除去部5では、振動測定部4の出力から圧延材Wの振動周波数を推定し、推定された振動周波数に対応する2つの偏光成分の変動成分(外乱成分)を、各偏光成分から除去する。
圧延材Wが振動しバタついていた場合、振動測定部4の出力のある周波数帯(例えば5〜10Hz)に振動のピークが発生する。圧延材Wの温度変動は数秒オーダー(例えば0.1〜1Hz)より大きなレンジで変わることが実績として知られており、周波数空間におけるVp,Vsにおいて、10Hz程度の変動ピークがあった場合、その変動ピークは、外乱すなわち圧延材Wのバタつきに起因するものと思われる。
【0023】
そこで、外乱除去部5における処理としては、例えば、P偏光強度VpとS偏光強度Vsをフーリエ変換し周波数空間へ移行する。同様に、振動測定部4の出力もフーリエ変換し周波数空間へ移行する。その後、周波数空間におけるVp,Vsから、外乱に対応する周波数ピークを取り除き、取り除いた後のVp,Vsを逆フーリエ変換して実空間に戻し、それを出力値として出力することが考えられる。
この外乱除去部5の処理は、処理時間がかかりリアルタイムの処理に不向きであるため、本実施形態の外乱除去部5では、ロックインアンプ15等のフィルタリング回路を採用し、外乱の周波数部分を除去し、圧延材Wの板温度変動に起因する周波数のみを出力するようにしている。
【0024】
図4にロックインアンプ15の概略を示している。
ロックインアンプ15とは、参照信号と測定信号とを乗算器にかけ、ローパスフィルタを通すことにより、特定の周波数成分の信号を除去する回路である。乗算器により参照信号と等しい成分のみが直流となり、ローパスフィルタを通過するようになる。
このロックインアンプ15で、測定信号を放射計測部2から出力されたVp,Vsとし、参照信号を振動測定部4から得られた圧延材Wの振動周波数より低い周波数帯、又は、過去の実績より判っている「圧延材Wの温度変動」の周波数帯とする。こうすることで、振動測定部4からの信号の周波数成分を参照しVp,Vsそれぞれの温度変動周波数成分の帯域のみフィルタリング処理し、それ以外の成分を除去することにより、圧延材Wの振動による外乱を除去した精度の高い放射強度信号Vp’,Vs’が得られる。
【0025】
外乱除去部5からの出力、すなわち外乱が除去されたP偏光強度Vp’とS偏光強度Vs’は、測温部3へ入力される。
測温部3では、式(1)に示すプランクの法則を基にして、圧延材Wの表面温度が算出される。
【0026】
【数1】

【0027】
なお、式(1)に基づく計算をリアルタイムで行うと処理時間が長くなる可能性があるため、本実施形態では、式(1)をテーブル化し記憶部16内に記憶させている。このテーブルを用いて、Vp’及びVs’から圧延材Wの表面温度を算出する。
以上述べた、温度測定装置1内での処理(放射による温度測定方法)を、図5に示すブロック図、図6に示すフローチャートを基に説明する。
まず、圧延材W上のある測定点を放射計測部2で一定時間測定し、P偏光、S偏光の強度を計測する。(S101)。
【0028】
その一方で、振動測定部4(レーザ変位計)により、圧延材Wの振動状況を計測する。(S102)
振動測定部4で測定した振動信号に関し、予め設定した周波数以上か否かを判断し、一定以上であれば(S103でYes)、振動測定部4の出力信号における振動信号範囲(圧延材Wの振動周波数範囲)を読み出し信号処理装置6へ送信する。(S104,S105)
S103でNoであれば、圧延材Wにバタつきが無いものとし、後述するS108,S110へと進む。(S109)
信号処理装置6では、振動測定部4から入力された振動信号範囲より低い周波数帯、又は、過去の実績より判っている「圧延材Wの温度変動」の周波数帯を、外乱処理部(ロックインアンプ15)へ送信し、外乱処理部で外乱を除去する。(S106)
外乱処理部の出力Vp’,Vs’は測温部3へ送られ、Vp’,Vs’とから、記憶部16にある放射率温度対応データより温度データを読み出し圧延材Wの温度を推定する。(S107,S108)
その後、推定された圧延材Wの温度、すなわち読み出した温度データを記憶部16へ保存する。(S110)
この温度測定方法によれば、例えば、圧延材Wに角度5°の板形状変動成分があり、その周波数が振動測定部4からの信号で5Hz〜10Hz程度あると計測され、一方で、過去の実績より、圧延材Wの温度変動成分が1Hzであると判明していたとすると、外乱処理部(ロックインアンプ15)によるフィルタリングで遮断周波数成分を5Hz〜10Hzにすることにより、0Hz〜5Hzの周波数を持つ温度変動を有する放射強度信号を検出できる。
【0029】
圧延材Wを対象とした510℃近辺の温度測定で、傾き5°の板形状変動があると、(Vp/Vs)の値は約8%変動するが、このことは、傾き5°の板形状変動で約4℃の温度変動を生じることになる。しかしフィルタリング処理によりこの成分を90%除去できる場合、板形状の変動によるノイズは8%から0.8%と半減し温度変動誤差も4℃から0.4℃に低減することができる。
つまり、振動測定部4により検出した振動周波数成分が5Hz〜10Hzのバンドパスフィルタで除去することにより、8%の変動が無くなることにより、温度変動による放射輝度変化のみを抽出し正確な放射温度測定ができる。
【0030】
また、偏光成分の外乱は、板のバタつき成分以外に、工場内照明・外部太陽光・散乱光反射源の機械的振動などのさまざまな雑音もあるため、測定成分除去にこれらの周波数の信号成分をフィルタ処理することにより、より高精度な遠隔非接触温度計測ができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について述べる。
図7に示す如く、第2実施形態が第1実施形態と大きく異なる点は、温度測定装置1に、圧延材Wが配備される空間に発生する音波(雑音)を測定すべく設けられた音波測定部20が設けられていることである。
【0031】
圧延材Wが薄箔の場合、例えば、圧延ローラを回転させるモータの回転音に呼応して、圧延材Wが振動することが考えられる。本実施形態では、かかる雑音に起因する圧延材Wの振動を検出し、温度測定の精度を上げるものである。
詳しくは、音波測定部20は、例えば、集音マイクと音声アンプとから構成され、その出力は、圧延材Wが配備されている空間に発生する雑音の強度、周波数に対応した信号である。音波測定部20の出力は外乱除去部5に入力される。
外乱除去部5では、音波測定部20の出力から圧延材Wの振動周波数を推定し、推定された振動周波数に対応する2つの偏光成分の変動成分を各偏光成分から除去する処理が行われる。
【0032】
具体的には、第1実施形態と同じ処理を行えばよく、例えば、外乱除去部5を図4のようなロックインアンプ15で構成する。その上で、ロックインアンプ15の測定信号を放射計測部2から出力されたVp,Vsとし、参照信号を、音波測定部20から得られた雑音の周波数より低い周波数帯とする。こうすることで、Vp,Vsそれぞれの温度変動信号の周波数成分の帯域のみフィルタリング処理し、それ以外の成分を除去することにより圧延材W振動による外乱を除去した精度の高い放射輝度信号を得られる。
他の構成やその作動態様は、第1実施形態と略同様であるため、説明は省略する。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について述べる。
【0033】
第3実施形態が第1実施形態又は第2実施形態と大きく異なる点は、温度測定装置1に、外乱除去部5が出力した2つの偏光成分に関しその比率を求める比率算出部30を備えている点にある。
この比率算出部30は、2つの偏光成分の比率の時間変動量が所定の閾値を越えた場合は、測温部3で算出された圧延材Wの温度の信頼性が低いものと判定し、所定の閾値を越えない場合は、測温部3で算出された圧延材Wの温度の信頼性が高いものと判定するように構成されている。
【0034】
まずここで、比率算出部30で行われる処理の考え方となっている事象について説明する。
図13は、異なる2つの偏光成分(P偏光とS偏光)の測定角度θに対するアルミ板材の放射率の理論値(図13(a))及び実験値(図13(b))を示したものである。実験条件は、放射温度計の観測波長:λ=960nm、圧延材W(アルミ材)の温度:tm=510℃である。
これらの図から明らかなように、P偏光成分の放射率は、測定角度θと共に増大し、80°近傍で極大値を持つ。また、S偏光成分の放射率は、測定角度θと共に減少もしくはθ=0°の時の値とほぼ一定(実験値)となっている。
【0035】
ゆえに、図12に示すように、圧延材Wがバタついたりして圧延材Wと放射測定部との光学的な位置関係が変化した場合、S偏光強度Vsはあまり変化しないものの、P偏光強度Vpは大きく変化し、Vp/Vsの値が大きく変化するようになる。つまり、測定対象である圧延材Wが大きくバタついたりした場合には、Vp/Vsの値が時系列的に大きく変動することとなる。なお、圧延材Wに温度変動がある場合、VpとVsに温度変化に対する放射輝度の検出感度に違いがあるが、信号レベルの増減割合は、同位相で変化するため、Vp/Vsの時系列変化への寄与はほとんどないと考えられる。
【0036】
詳しくは、図9(a)〜図9(d)に示すような時系列変化をとることとなる。
図9(a)の左図は、温度変動がなく、板形状変動がない場合のVp、Vsの時系列信号波形であり、その場合のVp/Vsは、図9(a)の右図のようになる。
図9(b)の左図は、温度変動があり、板形状変動がない場合のVp、Vsの時系列信号波形であり、その場合のVp/Vsは、図9(b)の右図のようになる。
図9(c)の左図は、温度変動がなく、板形状変動がある場合のVp、Vsの時系列信号波形を示しており、その場合のVp/Vsは、図9(c)の右図のようになる。
【0037】
図9(d)の左図は、温度変動があり、板形状変動がある場合の(Vp/Vs)の時系列信号波形であり、その場合のVp/Vsは、図9(d)の右図のようになる。
すなわち、温度変動がある場合、VpとVsに検出感度(ゲイン〉の違いはあるが、信号レベルの増減は同位相で変化する(図9(b))。板変動がある場合(温度変動があってもなくても)、Vsは測定角度の依存性が小さい(無視できる)ことから、Vsには板形状変動の影響がほとんど出てこない(図9(c))。その一方で、Vp信号には板形状変動の影響が重畳されて出てくる(図9(c)(d))。
【0038】
以上の結果が2信号の比(Vp/Vs)の出力に反映される。つまり、圧延材Wの振動がある場合は、(Vp/Vs)が所定の値で変動するようになり、2つの偏光成分の比率の時間変動量が所定の閾値を越えた場合は、測温部3で算出された圧延材Wの温度の信頼性が低いものと判定し、所定の閾値を越えない場合は、測温部3で算出された圧延材Wの温度の信頼性が高いものと判定するのが妥当である。
本実施形態の信号処理装置6内に設けられる比率算出部30は、上記考えに基づき、2つの偏光成分の比率を求め、それに基づき、測定温度の信頼性を判定する処理を行う。処理結果は、表示装置7などに表示されオペレータに通達される。
【0039】
前述の如く、圧延材Wを対象とした510℃近辺の温度測定で、傾き5°の板形状変動があると、(Vp/Vs)の値は約8%変動するが、このことは、傾き5°の板形状変動で約4℃の温度変動を生じることになる。
この温度誤差4℃が無視できない量と考えると、温度測定の信頼度の評価指標として、(Vp/Vs)の値の変動量をモニタし、その変動量が4%(許容値8%の半分)を超えると板形状変動の影響があり、温度測定の信頼度に欠けると推定し、温度測定中にアラームを発するなり、その間の温度測定データは無効にするなどの温度制御に反映することで、温度測定の信頼性を高めた温度測定が可能となる。
【0040】
以上述べた、放射を基にした圧延材Wの温度計測を、図10に示すブロック図、図11に示すフローチャートを基に説明する。
まず、圧延材W上のある測定点を放射測定部で一定時間測定し、P偏光、S偏光の強度を計測する。(S201)。
その一方で、振動測定部4(レーザ変位計)により、圧延材Wの振動状況を計測する。(S202)
振動測定部4で測定した振動信号に関し、予め設定した周波数以上か否かを判断し、一定以上であれば(S203でYes)、振動測定部4の出力信号における振動信号範囲(圧延材Wの振動周波数範囲)を読み出し信号処理装置6へ送信する。(S204,S205)
S203でNoであれば、圧延材Wにバタつきが無いものとし、後述するS211へと進む。(S209)
信号処理装置6では、振動測定部4から入力された振動信号範囲より低い周波数帯、又は、過去の実績より判っている「圧延材Wの温度変動」の周波数帯を、外乱処理部(ロックインアンプ15)へ送信し、外乱処理部で外乱を除去する。(S206)
次に外乱処理部の出力信号を比率算出部30へ送り、外乱が除去されたP偏光強度、S偏光強度の比(Vp’/Vs’)を算出する。(S207,S208)
S208の処理後は、信号比(Vp’/Vs’)が一定値以下かを判断し、一定値以下なら、S211へと進む。(S210でYes)
S211では、Vp’,Vs’とから、記憶部16にある放射率温度対応データより温度データを読み出し圧延材Wの温度を推定する。その後、推定された圧延材Wの温度、すなわち読み出した温度データを記憶部16へ保存する。(S212)
信号比(Vp’/Vs’)が一定値以上なら(S210でNo)、測定温度の信頼性が低いとして外部入力装置を介して表示装置7、またはネットワークへ情報を送信する(S213)。
【0041】
以上述べたように、比率算出部30で2つの偏光成分に関しその比率を求め、比率の時間変動量が所定の閾値を越えた場合は、測温部3で算出された圧延材Wの温度の信頼性が低いものと判定し、所定の閾値を越えない場合は、測温部3で算出された圧延材Wの温度の信頼性が高いするようにすることで、第1実施形態の温度測定方法よりも更に高精度な非接触温度計測が可能となる。
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
1 温度測定装置
2 放射計測部
3 測温部
4 振動測定部
5 外乱除去部
6 信号処理装置
7 表示装置
8 外部入出力部
10 レンズ
11 コリメートレンズ
12 偏光分離素子
13 光検出素子
14 アンプ
15 ロックインアンプ
16 記憶部
20 音波測定部
30 比率算出部
W 圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物から放射される放射波の異なる2つの偏光成分を用いて前記被測定物の温度を計測する温度測定方法であって、
前記2つの偏光成分を測定すると共に、前記被測定物の振動を測定すべく設けられた振動測定部の出力を検出して、
前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記振動測定部の出力を基に、当該偏光成分に含まれる前記被測定物の振動による外乱成分を除去し、
外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を基に、被測定物の温度を算出することを特徴とする放射による温度測定方法。
【請求項2】
前記振動測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、
前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去し、
外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を用いて、被測定物の温度を算出することを特徴とする請求項1に記載の放射による温度測定方法。
【請求項3】
前記被測定物が配備される空間に発生する音波を測定すべく音波測定部を配備しておき、
前記音波測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、
前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去し、
外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を用いて、被測定物の温度を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射による温度測定方法。
【請求項4】
前記2つの偏光成分の比率を求め、
前記比率の時間変動量が、所定の閾値を越えた場合は、算出された被測定物の温度の信頼性が低いものとし、所定の閾値を越えない場合は、算出された被測定物の温度の信頼性が高いものとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の放射による温度測定方法。
【請求項5】
被測定物から放射される放射波の2つの偏光成分を計測する放射計測部と、
前記被測定物の振動を測定すべく設けられた振動測定部と、
前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記振動測定部の出力を基に、当該偏光成分に含まれる前記被測定物の振動による外乱成分を除去する外乱除去部と、
外乱成分が除去された後の2つの偏光成分を基に、被測定物の温度を算出する測温部と、
を有することを特徴とする放射による温度測定装置。
【請求項6】
前記外乱除去部は、
前記振動測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、
前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の放射による温度測定装置。
【請求項7】
前記被測定物が配備される空間に発生する音波を測定する音波測定部が設けられ、
前記外乱除去部は、前記音波測定部の出力から被測定物の振動周波数を推定し、前記2つの偏光成分のそれぞれについて、前記推定された振動周波数に対応する外乱成分を各偏光成分から除去するように構成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射による温度測定装置。
【請求項8】
前記外乱除去部が出力した2つの偏光成分に関し、その比率を求める比率算出部を備え、
前記比率算出部は、前記比率の時間変動量が所定の閾値を越えた場合は、前記測温部で算出された被測定物の温度の信頼性が低いものと判定し、所定の閾値を越えない場合は、測温部で算出された被測定物の温度の信頼性が高いものと判定するように構成されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の放射による温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−7730(P2011−7730A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153721(P2009−153721)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】