説明

放射性ダストモニタ

【課題】放射性ダストモニタにおいて、サンプリング空気中に含まれる放射性ダストの放射線量の検出と共に、サンプリング空気中に含まれるガス状の放射性物質の放射線量の検出も行い得るようにする。
【解決手段】サンプリング容器1内に、サンプリング空気が通過することによりサンプリング空気中のダストを捕獲する濾紙4と、サンプリング空気が通過することによりサンプリング空気中の放射性ガスを吸着するガス吸着剤8を設け、それぞれに捕獲、吸着されたダストと放射性ガスの放射線量を検出する放射線検出器2を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気中の放射性物質の濃度を連続的に測定監視して、放射性物質による空気汚染のモニタリングを行う放射性ダストモニタに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、原子燃料取扱施設、あるいは病院などの放射性物質取扱施設においては、作業者の放射線防護の目的で、または施設内での放射性物質の漏洩の監視を行うために作業環境の放射線量を測定し、その結果を判定して放射線防護上の処置に結びつけるために各種の放射線モニタリング装置が設けられている。
【0003】
この放射線モニタリング装置の中でも、濾紙を装着し、この濾紙によって空気中を浮遊するダストを捕獲し、このダストの放射線量を計測することにより放射性物質による空気汚染のモニタリングを行う放射性ダストモニタが従来より使用されている。
【0004】
図6に従来の放射性ダストモニタの構造を示す。図6において、1は密封容器で形成されたサンプリング容器、2はサンプリング容器1内に支持部材3により支持固定された放射線検出器、
4は放射線検出器2の検出面2aと適宜間隔を置いて対向するように設けられた濾紙で、サンプリング容器1内で上、下縁部を濾紙ホルダ5a、5bにはさまれるように押さえられ、支持固定されている。
【0005】
6a、6bはサンプリング空気の導入、排出管で、濾紙4の検出器側においてサンプリング容器1内と連通するように導入管6aが設けられ、濾紙4の他方の側においてサンプリング容器1内と連通するように排出管6bが設けられ、図示しない循環ポンプの作用により、周囲作業環境を浮遊するダストを含んだサンプリング空気を導入管6aを通してサンプリング容器1内に導入する。
【0006】
7はケーブルで、放射線検出器2と図示しない外部に設けられた制御装置とを接続し、放射線検出器2の検出信号を制御装置に伝送するとともに、制御装置から放射線検出器2に電力を供給する。
【0007】
次に、このように構成された放射性ダストモニタの作用について説明する。
図示しない循環ポンプで作業環境中のサンプリング空気を導入管6aを通してサンプリング容器1内に引き込み、矢印Xに示すようにサンプリング容器1内を流して強制的に濾紙4を通過させる。
【0008】
サンプリング空気が濾紙4を通過する際、サンプリング空気に含まれるダストは濾紙4によって捕獲される。
濾紙4を通過したサンプリング空気は排出管6bを通って再びサンプリング容器1外の作業環境中に排出される。
【0009】
濾紙4に捕獲されたダストは、濾紙4に対向して設けられた放射線検出器2によりその放射性物質の濃度が測定され、その検出信号はケーブル7を介して外部の制御回路に送られ、必要な信号処理が行なわれる。
処理された信号は、その検出結果と放射線量限度の値とを比較するなどして安全性を評価し、施設作業方法の改善など放射線防護のための必要な処置に結びつける。
【0010】
以上のように、従来の放射性ダストモニタは、サンプリング空気中のダストを捕獲し、放射線量を測定し、放射線業務従事者の呼吸による放射性物質の取り込みを防止する目的に使用されている。
【0011】
一方、原子力発電施設などにおいては、所内の配管及び継ぎ目からの微小な蒸気の漏洩などが起こる可能性があり、この漏洩蒸気に含まれる放射性ガス(ナトリウム13など)を高感度でモニタする要求がある。
【0012】
ダストモニタで、放射性ガス(ナトリウム13など)を測定する方式としては、用途としてホスウッチ検出器であげられているものの(例えば特許文献1参照)、具体的なガスの測定方法については触れられている発明は見られない。
【0013】
ナトリウム13に関連した測定については、例えば特許文献2のように除去する手法についてはあるものの、積極的に測定する手法は見られない。
また、ナトリウム13の放出する陽電子による511keVの対消滅γ線を同時計数することも考えられるが、例えば特許文献3のようにラドン抑制のためのβ・γ弁別や、例えば特許文献4のような放射線測定装置と別の装置との出力のコインシデンスなどの発明しか見られず、ナトリウム13の陽電子による対消滅ガンマ線を積極的に利用する手法は見られない。
【特許文献1】特開平5−341047号公報
【特許文献2】特開平11−311676号公報
【特許文献3】特開平11−64529号公報
【特許文献4】特開平7−333349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、従来の放射性ダストモニタでは、ダストをサンプリング容器1内に導入し、濾紙4を使用して捕獲するようにしているので、サンプリング空気中に含まれるダストの捕獲は高感度で効率よく行え、ダストの放射性物質の放射線量の測定は確実に行えるが、サンプリング空気中に含まれるガス状の放射性物質に対しては感度よく検出することが難しかった。
【0015】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、空気中に含まれるダスト状の放射性物質のみならず、空気中に含まれるガス状の放射性物質も高感度で、効率よく検出できる放射性ダストモニタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の目的を達成するために本発明の放射性ダストモニタは、サンプリング空気が導入されるサンプリング容器と、前記サンプリング容器内に設けられ、前記サンプリング容器内に導入されたサンプリング空気が通過することによりサンプリング空気中のダストを捕獲する濾紙と、前記サンプリング容器内に設けられ、前記サンプリング容器内に導入されたサンプリング空気が通過することによりサンプリング空気中の放射性ガスを吸着するガス吸着材と、前記サンプリング容器内に設けられ、前記濾紙および前記ガス吸着材に捕獲、吸着されたダストと放射性ガスの放射線量を検出する放射線検出器とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の放射性ダストモニタによれば、空気中に含まれるダスト状の放射性物質のみならず、空気中に含まれるガス状の放射性物質も高感度で、効率よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態の説明において、図6に示す従来の放射性ダストモニタと同一部分には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0019】
図1は本発明の第1の実施の形態を示す図で、図1において、1はサンプリング容器、2は放射線検出器、4は濾紙、6aは導入管、6bは排出管である。
8は活性炭を使用したガス吸着材で、板状を成し、サンプリング容器1内で、濾紙4のサンプリング空気の流れの下流側に、濾紙4と適宜間隔を置いて支持部材9a、9bにより支持固定されている。
【0020】
このような構成の放射性ダストモニタであると、導入管6aからサンプリング容器1内に引き込まれたサンプリング空気は矢印Xに示すようにサンプリング容器1内を流れ、強制的に濾紙4とガス吸着材8を通過し、排出管6bから再び作業環境中に排出される。
【0021】
サンプリング空気中に含まれる放射性ダストは濾紙4の表面に高確率で捕獲され、そこから放出される放射線は放射線検出器2により検出される。
この際、放射線検出器2と、濾紙4との間の距離を短くすることで、透過力の弱い放射能、例えばα線、β線についても減衰を充分に抑えた形で、放射線検出器2で検出することができる。
【0022】
一方、ガス状の放射性物質は濾紙4では捕獲されにくいが、濾紙4を通過した後、濾紙4の下流側に設けられたガス吸着材8により吸着、捕獲され、放射線検出器2により放射性物質を検出される。
【0023】
特にナトリウム13の漏洩検知では、ナトリウム13から放出される陽電子の対消滅による511keVのγ線を測定することになるが、この放射線は先に述べたα線、β線などと比べて透過力が強く、放射線検出器2までの空間の気体や濾紙4による減衰、さらにガス吸着材8自身による自己遮蔽などによる減衰は大きなものではなく、こうした濾紙4の下流側に配置されているにもかかわらず放射線検出器2で確率良く検出することができる。
このように本実施の形態による放射性ダストモニタによれば、通常の空気中の放射性ダストの検出のみならず、空気中の放射性ガスの検出も高感度で行い得る。
【0024】
次に本発明の第2の実施の形態について図2を参照して説明する。図2において、8は前記第1の実施の形態で説明したのと同様のガス吸着材で、濾紙4のサンプリング空気の流れの下流側に向いた面に塗布されている。
【0025】
本実施の形態によれば、ガス吸着材の板を支持部材を用いてサンプリング容器1内に支持固定する必要がなくなるので構造が簡単となり、組み立てが容易となる。
また、あらかじめガス吸着剤8を濾紙4に塗布しておけば組み立てがより一層容易となる。
【0026】
さらに、ガス吸着材8を濾紙4のサンプリング空気の流れの上流側に向いた面側に塗った場合だと、吸着した放射性ダストが塗布した活性炭の下に移行することで活性炭により透過力の弱い放射線が遮蔽される放射性ダストの検出感度が低下するが、濾紙4の下流側の面に活性炭を塗布することで検出感度の低下を防ぐことができる。
【0027】
次に本発明の第3の実施の形態について図3を参照して説明する。図3において、10はペレット状に形成された複数枚のガス吸着材で、2枚の濾紙4a、4bの間に相互に間隔を置いてサンドイッチ状に挟み込まれ、濾紙ホルダ5a、5bによりサンプリング容器1内に支持固定されている。
【0028】
本実施の形態によれば、ガス吸着材8がペレット状に形成され、相互に間隔を置いて2枚の濾紙4a、4bの間に挟み込まれているので、ガス吸着材でサンプリング空気の流路を全て塞ぐことがなく、ガス吸着材8による圧力損失を低減することができ、サンプリング空気吸引用の循環ポンプの容量を低減することができる。
【0029】
次に本発明の第4の実施の形態について図4を参照して説明する。図4において、10はペレット状に形成された複数枚のガス吸着材で、濾紙ホルダ5a、5bによりサンプリング容器1内に支持固定された濾紙4のサンプリング空気の流れの下流側に向いた面に相互に間隔を置いて貼り付けられている。
【0030】
本実施の形態によれば、ガス吸着材の板を支持部材を用いてサンプリング容器1内に支持固定する必要がなくなるので構造が簡単となり、組み立てが容易となる。
また、ガス吸着材8がペレット状に形成され、相互に間隔を置いて取り付けられているので、ガス吸着材でサンプリング空気の流路を全てを塞ぐことがなく、ガス吸着材8による圧力損失を低減することができ、サンプリング空気吸引用の循環ポンプの容量を低減することができる。
【0031】
次に本発明の第5の実施の形態について図5を参照して説明する。図5において、11はサンプリング容器1内に設けられたγ線検出器で、前記第1の実施の形態におけるガス吸着材8のサンプリング空気の流れの下流側に設けられている。
12は放射線検出器2とγ線検出器11の出力の同時性を判定する同時性判定装置、13は同時性判定装置12の出力を計数する同時性計数装置である。
【0032】
一般に、ナトリウム13のような陽電子放出核種は陽電子を放出し、その陽電子が対消滅することで、511keVのγ線を2本、それぞれ反対方向に放出する。
そのため、陽電子の対消滅の位置からの立体角が放射線検出器2とγ線検出器11とで同一であればγ線の入射にいたるまでの空気や物体による遮蔽の効果を無視すれば放射線検出器2において対消滅によるγ線が入射する際には、対向したγ線検出器11にも対消滅によるもう一本のγ線が入射するため、この両者の同時計数は陽電子放出核種の存在量に強い相関を有する。
【0033】
もし、立体角が両者の間で異なり、その間の遮蔽の効果を考えても、両方の検出器に放射線が入射し同時計数を起こす確率と陽電子核種の存在量とは強い相関を有している。
一方、外部から入射するバックグラウンドのγ線は両方の検出器に同時に入射する可能性は低い。
【0034】
本実施の形態によれば、外部のバックグラウンドによる影響を低減して、陽電子放出核種である放射性ガスの測定を行うことができる。
また、従来の構成では、通常の放射性ダストの半減期は長く、ナトリウム13の場合半減期は9.96分と短いので、半減期補正が難しかったが、本実施例によれば各々の計数値が分離測定できるので正確な半減期補正が可能となる。
【0035】
次に本発明の第6の実施の形態について説明する。前記第1から第5の実施の形態で説明した放射線検出器2として、入射した放射線の線種を弁別することができる放射線検出器を用いることができる。
【0036】
こうした検出器としては、例えば入射面側にZnS(Ag)層を、その奥にプラスチックシンチレータを張り合わせて光センサにカップリングしたフォスイッチ型の検出器等が挙げられる。
【0037】
例えば、こうしたフォスイッチ型のセンサでは、ZnS(Ag)に放射線が相互作用したことによる出力波形と、プラスチックシンチレータに放射線が相互作用したことによる出力波形が異なることで、α線などの透過力の弱い放射線の入射がZnS(Ag)による出力波形成分をもち、β線などの若干透過力のある放射線やγ線などの透過力の大きい放射線の入射が主にプラスチックシンチレータによる出力波形成分を持つことになる。
この場合、濾紙4上に捕獲される放射性ダストのα線の成分は他の成分と分けることができる。
【0038】
さらに、プラスチックシンチレータの厚さを適切に調整し、さらに光センサとの間に別の出力波形成分をもつ充分な厚さのシンチレータを置くことで、γ線の入射による波形が主にこの第3のシンチレータの出力波形成分をもつようにすることができる。
【0039】
こうすれば、濾紙4上に捕獲される放射性ダストのα線成分、濾紙4上に補修される放射性ダストのβ線成分、濾紙4上に捕獲される放射性ダスト及び活性炭ガス吸着材8に捕獲される放射性ガスのγ線成分とを弁別することができる。
【0040】
さらに、第5の実施の形態の同時計数において、このγ線成分とγ線検出器11との同時性を取得することで、γ線成分のうち、ナトリウム13といった陽電子放出核種の量を弁別することができる。
【0041】
本実施の形態によれば、、捕獲された放射性ダスト及び放射性ガスの放射線の弁別を行い、放射線の線種ごとの空気中の放射性ダスト及び放射性ガスの濃度を求めることができる。
【0042】
次に本発明の第7の実施の形態について説明する。
前記第5の実施の形態において、放射線検出器2及びγ線検出器11として放射線のエネルギー情報を求めることができる放射線検出器を用いることができる。
このような構成をとることで、入射した放射線のエネルギースペクトルを得ることができる。
【0043】
このような構成のもと、放射線検出器2と、γ線検出器5の、511keVのγ線の入射に相当する範囲のみの出力同士の同時性判定を行うことで、陽電子放出核種である放射性ガスの測定を行うことができる高性能型ダストモニタを求めることができる。
なお、前記実施の形態の説明において、ガス吸着材として活性炭吸着剤を用いているが、活性炭吸着剤以外の他の吸着剤を使用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施の形態による放射性ダストモニタを示す断面図。
【図2】本発明の第2の実施の形態による放射性ダストモニタを示す断面図。
【図3】本発明の第3の実施の形態による放射性ダストモニタを示す断面図。
【図4】本発明の第4の実施の形態による放射性ダストモニタを示す断面図。
【図5】本発明の第5の実施の形態による放射性ダストモニタを示す断面図。
【図6】従来の放射性ダストモニタを示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
1…サンプリング容器、2…放射線検出器、3…支持部材、4…濾紙、5a,5b…濾紙ホルダ、6a…導入管、6b…排出管、7…ケーブル、8…ガス吸着材、9a,9b…支持部材、10…ガス吸着材のペレット、11…γ線検出器、12…同時性判定装置、13…同時性計数装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリング空気が導入されるサンプリング容器と、前記サンプリング容器内に設けられ、前記サンプリング容器内に導入されたサンプリング空気が通過することによりサンプリング空気中のダストを捕獲する濾紙と、前記サンプリング容器内に設けられ、前記サンプリング容器内に導入されたサンプリング空気が通過することによりサンプリング空気中の放射性ガスを吸着するガス吸着材と、前記サンプリング容器内に設けられ、前記濾紙および前記ガス吸着材に捕獲、吸着されたダストと放射性ガスの放射線量を検出する放射線検出器とからなることを特徴とする放射性ダストモニタ。
【請求項2】
前記ガス吸着材が、前記濾紙のサンプリング空気の流れの下流側に配置されたことを特徴とする請求項1記載の放射性ダストモニタ。
【請求項3】
前記濾紙のサンプリング空気の流れの下流側に向いた面にガス吸着材を塗布したことを特徴とする請求項1記載の放射性ダストモニタ。
【請求項4】
ガス吸着材を2枚の濾紙の間に挟み込んだことを特徴とする請求項1記載の放射性ダストモニタ。
【請求項5】
前記濾紙のサンプリング空気の流れの下流側に向いた面にガス吸着材を貼り付けたことを特徴とする請求項1記載の放射性ダストモニタ。
【請求項6】
放射線検出器として、入射線種の弁別が可能な放射線検出器を用いたことを特徴とする請求項1〜5記載の放射性ダストモニタ。
【請求項7】
ガス吸着剤のサンプリング空気の流れの下流側にγ線検出器を配置したことを特徴とする請求項1〜6記載の放射性ダストモニタ。
【請求項8】
γ線検出器として、入射放射線のエネルギー弁別が可能な検出器を用いたことを特徴とする請求項7記載の放射性ダストモニタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−90963(P2006−90963A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279784(P2004−279784)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】