説明

放射性ハロゲン標識有機化合物の製造方法

【課題】放射性ハロゲン置換基を有する芳香族化合物にアミンまたはホスフィンを結合させた化合物を、実用に耐えうる収率で製造し得る方法を提供する。
【解決手段】芳香族化合物における1以上の水素が放射性ハロゲンで置換され、かつ、該化合物に水酸基がアルキレン基を介して結合されている構造を有した放射性ハロゲン含有アルコール体に対し、酸性条件下にて種々のアミン又はホスフィンを直接反応させる。この方法を用いることにより、放射性ハロゲン標識後の工程数を減らすことができ、目的化合物の収率を向上させることが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性ハロゲン標識有機化合物の製造方法に関する。より詳しくは、ミトコンドリア機能不全を伴う疾患群の、陽電子放出型断層撮像(Positron Emission Tomography)(以下、PETと称す)又は単光子放出型断層撮像(Single Photon Emission Computed Tomography)(以下、SPECTと称す)を用いた診断に使用し得る、放射性ハロゲン標識有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PET及びSPECTに代表される核医学検査は、心臓疾患や癌をはじめとする種々の疾患の診断に有効である。これらの方法は、特定の放射性同位元素でラベルされた薬剤(以下、「放射性医薬品」と称す)を投与し、該薬剤の投与により直接的または間接的に放出されたγ線を検出する方法である。核医学検査は、疾患に対する特異度や感度が高いという優れた性質を有しているばかりでなく、病変部の機能に関する情報を得ることができるという、他の検査方法にはない特徴を有している。
例えば、PET検査に用いられる放射性医薬品の一つである、[18F]2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースは、糖代謝の盛んな部位に集積する性質があるため、糖代謝が盛んな腫瘍を特異的に検出することが可能となる。
【0003】
核医学検査は、投与した放射性医薬品の分布を追跡することによりなされる方法であるため、得られる情報は、放射性医薬品の性質に応じて変化する。そのため、種々の疾患を対象とした放射性医薬品が開発されており、一部については臨床応用されている。例えば、種々の腫瘍診断剤、血流診断剤、レセプターマッピング剤等が開発されている。
近年、新規放射性医薬品として、[18F]4-フルオロベンジルトリフェニルホスフォニウム塩(以下、18F-FBnTPと称す)化合物が提案され、臨床応用に向けて研究が行われている(例えば、特許文献1参照)。この化合物は、ミトコンドリア膜電位を反映した集積を示すことから、ミトコンドリアの機能不全によりおこる疾患群、特に心疾患、腫瘍の診断剤として期待されている。
18F-FBnTPの合成方法としては、前駆体に放射性フッ素を導入する工程、還元する工程、ブロム化する工程、トリフェニルホスフォニウム塩に変換する工程を順次行う方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、18Fを有する別のホスフォニウム塩化合物の合成法として、予めホスフォニウム塩を有する標識前駆体を用いて18F標識反応を行う方法が開示されている(非特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】国際公開03/065882号パンフレット
【非特許文献1】Shoup, T. M. et al., Fluorine-18 and Iodine-125 Labeled Tetraphenylphosphonium Ions as Potential PET and SPECT Imaging Agents for NCS Tumors., Supplement to The Journal of Nuclear Medicine, USA, The Official Publication of the Society of Nuclear Medicine, Inc., Volume45, Abstract Book Supplement, May 2004, p447, No.1391
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、18F-FBnTPは新たな放射性医薬品として期待されている。しかし、上述の国際公開03/065882号パンフレット(特許文献1)に開示されている製造方法では、18F標識後に還元、ブロム化、ホスフィンの付加といった3段階の反応を行う必要がある。製造収率は、各反応工程の収率を乗じた値となるので、一般に、反応工程数が多いことは、医薬品の製造において好ましくない。
また別の側面からみると、放射性医薬品に用いる放射性同位元素は半減期が短いため、早期に崩壊してその寿命を終えてしまう。上述の国際公開03/065882号パンフレット(特許文献1)に開示されている製造方法では、18F標識体の精製工程に水を用いており、その後の反応においてこの水を除去する必要がある。一般に、水の除去工程は、有機溶媒の除去と比較してより長い時間を要する。一方、放射性同位元素の崩壊は、放射性医薬品の製造工程においても起こり、これは、製造した放射性医薬品の放射能量、すなわち、放射性医薬品として薬効を発揮する化合物そのものの収量を低下させる原因になる。
上記のような影響は、半減期が約110分と短い18F標識化合物においては、より重大である。従って、放射性医薬品の製造においては、18F標識後の工程数が多いことは好ましくない。実際に、上述の国際公開03/065882号パンフレット(特許文献1)には18F-FBnTPの製造収率として約15%という値が開示されている。
一方、Shoup等により開示された方法(非特許文献1)によれば、18F標識後の反応工程数を減らすことが可能である。しかし、この方法では、18Fの標識収率自体が低く、最終的に得られる化合物の収率も約3%と低いため、実用的ではない。
【0007】
18F-FBnTPを初めとする放射性ハロゲン置換基を有する芳香族化合物の放射性医薬品としての実用化に際しては、該化合物を収率良く合成し得る方法を用いる必要があるが、これまでにそのような方法は知られていなかった。本発明は上述のごとき状況に鑑みなされたものであり、18F-FBnTPを初めとする、放射性ハロゲン置換基を有する芳香族化合物を製造するにあたり、当該化合物が実用に耐えうる収率で製造される方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、放射性ハロゲンで標識されたアルコール体に対し、酸性条件下にてアミン又はホスフィンを反応させることにより、収率良く放射性ハロゲン置換基を有する芳香族化合物を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(2)
【0010】
【化9】

(式中、nは1から6の整数、R1は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたアリル基又は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたヘテロアリル基である)で示される放射性ハロゲン含有アルコール体を酸性条件下で下記式(3)
【0011】
【化10】

(式中、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする、下記式(1)
【0012】
【化11】

(式中、nは1から6の整数、R1は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたアリル基又は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたヘテロアリル基、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される放射性ハロゲン含有有機化合物を製造する方法を提供する。
【0013】
好ましい実施形態によれば、本発明は、下記式(5)
【0014】
【化12】

(式中、nは1から6の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である)で示される放射性ハロゲン含有アルコール体を酸性条件下で下記式(3)
【0015】
【化13】

(式中、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする下記式(4)
【0016】
【化14】

【0017】
(式中、nは1から6の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される放射性ハロゲン含有有機化合物を製造する方法を提供する。
【0018】
前記式中、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である限り特に限定する必要はないが、炭素数6から18のアリレン基、又は、窒素、酸素若しくは硫黄を任意に含む炭素数3から18のヘテロアリレン基を用いることが好ましく、フェニレン、ナフタレニレン、アントラセニレン、フェナントレニレン、ナフタセニレン、ピリジニレン、キノリニレン、フリレン及びチオフェニレンからなる群より選ばれたものを用いることがより好ましい。
【0019】
Xは、放射性ハロゲンである限り特に限定する必要はないが、放射性フッ素、放射性臭素、放射性ヨウ素及び放射性アスタチンからなる群より選ばれたものを好ましく用いることができ、より好ましくは、18F、75Br、76Br、77Br、80Br、82Br、123I、124I、125I、131I、132I及び211Atからなる群より選ばれたものを用いることができる。特に、PET検査用の薬剤に用いる場合には、陽電子放出核種である18F、76Br、131Iを好ましく用いることができる。
【0020】
R2、R3及びR4は、同じでも異なっていても良く、それぞれ独立に、水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基及びヘテロアリル基からなる群より選ばれたものである。好ましくは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数7から12のアラルキル基、炭素数6から18のアリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含む、炭素数3から18のヘテロアリル基からなる群より選ばれたものを用いることができ、より好ましくは、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ナフタセニル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基及びチエニル基からなる群より選ばれたものを用いることができる。
【0021】
本発明に係る方法において、合成反応条件である酸性条件は種々の方法によって与えることができ、好ましくは、前記放射性ハロゲン含有アルコール体を含む反応溶液に、酸を含有させることにより与えられる。添加する酸としては種々のものを用いることができ、塩酸、臭酸、硫酸、ギ酸、酢酸、臭化水素酢酸、プロピオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化カルシウム、臭化カルシウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素が例示されるが、好ましくは、臭酸、酢酸、臭化水素酢酸及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選ばれたものを用いることができる。または、放射性ハロゲン含有アルコール体と反応させるアミン又はホスフィンをこれらの酸性塩として添加することにより酸性条件を与えることもできる。添加する酸性塩としては種々のものを用いることができ、トリフェニルホスフィン・臭酸塩、トリメチルアミン・塩酸塩、トリエチルアミン・塩酸塩が例示される。酸の添加量は、十分な酸性条件を与えることができる限りにおいて特に限定する必要はないが、例えば、前記アルコール体に対するモル比にして1×109程度添加すれば十分である。
【0022】
なお、放射性ハロゲンで標識されたアルコール体は、種々の方法で得ることができる。例えば、下記式(7)
【0023】
【化15】

(式中、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基、R5はニトロ基、トリアルキルアンモニウム基などから選ばれる)で示される化合物のR5を、公知の方法により放射性ハロゲンで置換することにより、下記式(8):
【0024】
【化16】

(Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である)で示される放射性ハロゲン含有アルデヒド体を合成し、このアルデヒド体を種々の方法により還元することにより、アルコール体を得ることができる。
放射性ハロゲン含有アルデヒド体をアルコール体に還元する方法としては、例えば、該アルデヒド体を含む反応液を還元剤と接触させる方法を用いることができる。還元剤としては、公知のものを用いることができ、例えば種々のホウ素化合物や種々のアルミニウム化合物を好ましく用いることができる。ホウ素化合物としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリ−sec−ブチルホウ素リチウム、水素化トリ−sec−ブチルホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、及び、水素化トリエチルホウ素リチウムからなる群より選ばれたものを好ましく用いることができ、より好ましくは水素化ホウ素ナトリウムを用いることができる。アルミニウム化合物としては、水素化アルミニウムリチウム、トリイソプロポキシアルミニウム、水素化トリ−t−ブトキシアルミニウムリチウム、及び、水素化ジ(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムからなる群より選ばれるものを好ましく用いることができる。
また、好ましい実施形態によれば、下記式(6)
【化17】

(式中、nは0から5の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である)で示される放射性ハロゲン含有アルデヒド体を含む反応液を還元剤と接触させることにより下記式(5)
【化18】

(式中、nは1から6の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である)で示される放射性ハロゲン含有アルコール体を得ることができる。かかる工程により得られた放射性ハロゲン含有アルコール体は、上記本発明の放射性ハロゲン標識有機化合物の製造方法の原料として使用することができる。なお、上記式(6)〜(8)において、Ar及びXの具体例は、式(4)及び(5)に関して上記したものと同様である。
また、本発明の製造法で使用する放射性ハロゲンの製造法は、それ自体公知の製造法により行う。例えば、放射性18-フッ素(18F)の場合、サイクロトロンにおいて18O-濃縮水(H218O)から核反応[18O(p、 n)→18F]によって18Fを生成させることにより得る。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、放射性ハロゲン含有アルコール体を直接アミン又はホスフィンと反応させることができるので、工程数を減らすことができるだけでなく、放射性ハロゲン置換基を有する芳香族化合物、特に、1以上の水素が放射性ハロゲンで置換された芳香族化合物を有したホスフォニウム塩又はアンモニウム塩化合物を、収率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、18F-FBnTPを例にとり、本発明をさらに詳しく説明する。本発明に係る18F-FBnTPの合成方法は、[18F]4-フルオロベンジルアルコールとトリフェニルホスフィンを酸性条件下で反応させることにより行う方法である。
【0027】
用いられる放射性ハロゲン含有アルコール体である[18F]4-フルオロベンジルアルコールは、公知の方法、例えば、文献(特許文献1:国際公開03/065882号パンフレット)記載の方法に基づき合成することができる。具体的には、下記式(9)及び(10)に記載された反応スキームの要領で合成することができる。
まず、炭酸カリウム溶液及び相関移動触媒(例えば、クリプトフィックス222、製品名、メルク社製)のアセトニトリル溶液を反応容器に加え、この反応容器に18F含有18O−濃縮水を添加する。その後、反応容器内の液を蒸発乾固させて18Fを活性化させる。このとき、炭酸カリウムの量は、標識前駆体である4-トリメチルアンモニウムベンズアルデヒド塩の使用予定量に対してモル比にして0.50から1.0好ましくは0.55から0.80とし、相関移動触媒の量は、炭酸カリウムに対してモル比にして2.0から4.0の間とする。18Fを活性化後、4-トリメチルアンモニウムベンズアルデヒド塩のN,N-ジメチルホルムアルデヒド(DMF)溶液を上記反応容器に入れ、80から160℃、好ましくは110から130℃で、3から20分間、好ましくは5から10分間加熱することで[18F]4-フルオロベンズアルデヒドを得る。
【0028】
【化19】

【0029】
次に、[18F]4-フルオロベンズアルデヒドの反応液を精製し、未反応の標識前駆体及び18F、炭酸カリウム、相間移動触媒の除去を行う。精製工程は、上記反応液にジエチルエーテルを加え、本溶液を順相カラム(例えば、Sep-Pak Plus、Silica Cartridges、製品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、未反応の標識前駆体及び18F、炭酸カリウム、相間移動触媒をカラムに保持させ、[18F]4-フルオロベンズアルデヒドをジエチルエーテル溶液として得る方法を用いることができる。このとき、反応溶液に添加するジエチルエーテルの量は、用いる順相カラムから目的物である[18F]4-フルオロベンズアルデヒドを溶出させるのに十分な量であればよい。例えば、0.4 mLの反応液を容量1 mLの順相カラムを用いて精製を行う場合は、2 mLのジエチルエーテルを添加すれば十分である。
また、別の精製方法として、上記[18F]4-フルオロベンズアルデヒドの反応液に水を加えた溶液を逆相カラム(例えば、Sep-Pak Plus C18 Cartridges、製品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、未反応の標識前駆体及び18F、炭酸カリウム、相間移動触媒を除去させ、次いでこのカラムを乾燥後、ジエチルエーテル溶液を通液して該カラムに保持された[18F]4-フルオロベンズアルデヒドを溶出させる方法を用いることができる。
【0030】
得られた[18F]4-フルオロベンズアルデヒドのジエチルエーテル溶液を水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を含有するアルミナカラムに通液し、容器に集める。この捕集した液を濃縮乾固することにより、放射性ハロゲン含有アルコール体である、[18F]4-フルオロベンジルアルコールが得られる(式(10))。ここで、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)は、標識前駆体1モル当量に対して1から100モル当量となるように、アルミナカラムに含有させることが好ましい。
【0031】
【化20】

【0032】
ここで、上記合成に用いた4-トリメチルアンモニウムベンズアルデヒド塩は、公知の方法、例えば、文献(例えば、Alan A. et al., Reductive Amination of [18F]Fluorobenzaldehydes: Radiosyntheses of [2-18F]- and [4-18F]Fluorodexetimides, Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,vol.XXVIII,No.10,1990, p.1189)に従って合成することができ、具体的には、以下の方法を用いることができる。
まず、アルゴン気流下、4-N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒドの塩化メチレン溶液にトリフルオロメタンスルホン酸メチルを加え、6時間加熱還流する。加熱終了後、溶媒を濃縮乾固し、得られた残渣に水を加え、酢酸エチル及びクロロホルムで洗浄し、洗浄終了後の水を濃縮乾固する。残渣にジエチルエーテルを加え、析出した結晶をろ過することで得る。
【0033】
上記方法にて得られた[18F]4-フルオロベンジルアルコールに、反応に用いた標識前駆体に対するモル比にして1〜50、好ましくは5から20のトリフェニルホスフィンを加え、酸性条件下で加熱し反応させることにより、18F-FBnTPを含む反応液が得られる。この18F-FBnTP含有反応液にジエチルエーテルを加えた液を、順相カラム(例えば、Sep-Pak Plus、Silica Cartridges、製品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、次いで、該カラムにクロロホルム/メタノール(8/1)混液を通液、さらに、捕集した溶液を濃縮乾固することにより18F-FBnTPが得られる。
【0034】
酸性条件は、反応液中に酸を含有させることにより与えることができる。酸を含有させる方法は特に限定する必要はなく、上記放射性ハロゲン含有アルコール体を含む溶液に酸を添加する方法や、予め酸を含有させた反応容器に、放射性ハロゲン含有アルコール体を含む溶液を添加する方法を用いることができる。また、放射性ハロゲン含有アルコール体に付加させる化合物中に酸を有するものを使用することで酸性条件とすることもできる。例えば、付加物としてトリフェニルホスフィンを用いる場合であって、反応溶液に含有させる酸が臭化水素である場合は、トリフェニルホスフィン・臭酸塩として反応容器に導入することにより、放射性ハロゲン含有アルコール体に付加物と酸を同時に導入することが可能となる。反応溶液に含有させる酸の量は、用いる放射性ハロゲン含有アルコール体の量によって決定されるが,十分な酸性条件を与えることができる限りにおいて特に限定する必要はない。例えば、標識前駆体である4-トリメチルアンモニウムベンズアルデヒド塩を40μmol用いて18F標識後、還元反応を行った[18F]4-フルオロベンジルアルコールに対して、400μmolのトリフェニルホスフィンを用いて反応させる場合、25%臭化水素酢酸を0.5mL添加すればよい(式(11))。このとき、加熱条件は、通常80から200℃の間の温度、好ましくは120から180℃の温度を用い、加熱時間は1から30分間とするのが好ましい。
【0035】
【化21】

【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、放射能量は、CAPINTEC社製ラジオアイソトープ・ドース・キャリブレーター(形式:CRC-15R)で測定した。
【0037】
18F]4-フルオロベンジルトリフェニルホスフォニウム塩(18F-FBnTP)の合成
4-N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド(6.39g、42.83mmol)を塩化メチレン(450mL)に溶解させた液に、アルゴン気流下でトリフルオロメタンスルホン酸メチル(10g、60.94mmol)を加え、6時間加熱還流した。加熱終了後、溶媒を濃縮乾固した。得られた残渣に水300mLを加え、酢酸エチルで2回、クロロホルムで2回洗浄した。洗浄終了後の水を濃縮し、残渣にジエチルエーテルを加え、析出した結晶をろ過し、目的の4-トリメチルアンモニウムベンズアルデヒド塩(4.27g)を茶色結晶として得た。収率は31.8%であった。
【0038】
得られた茶色結晶につき、1H-NMR(1H共鳴周波数:500 MHz、日本電子株式会社製、形式:JNM-ECP-500、内部標準物質:テトラメチルシラン)を用いて構造解析を行い、4-トリメチルアンモニウムベンズアルデヒド塩が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl3、500MHz):δ10.1(s、1H)、8.23-8.15(m、4H)、3.66(s、9H)。
【0039】
別に、5mLのガラス容器にて、炭酸カリウム水溶液(110μmol/mL、0.2mL)と、クリプトフィックス222(製品名、メルク社製)の脱水アセトニトリル溶液(44μmol/mL、1.5mL)を混合した。ここに、18Fフッ化物イオン含有18O濃縮水(135.5MBq)を加え、アルゴンガス気流下、溶媒を130℃で加熱蒸散させた。蒸散後、前記ガラス容器に脱水アセトニトリル溶液(1mL)を加え、アルゴンガス気流下、溶媒を130℃で加熱蒸散させた(2回)。蒸散後、上記工程にて合成した4-トリメチルアンモニウムベンズアルデヒド塩(12.5mg、40μmol)をN,N-ジメチルホルムアルデヒド(0.4mL)に溶解し、前記ガラス容器に加え、さらに120℃で10分間加熱した。ガラス容器を放冷後、ジエチルエーテル(2mL)を加えて順相カラム(Sep-Pak(登録商標)Plus、Silica Cartridges、製品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液する操作を2回繰り返し、溶出した液を捕集した。カラムから溶出した液を、水素化ホウ素ナトリウム10%含有アルミナ(400mg)を充填したカラムに通液して、トリフェニルホスフィン(104.9mg、400μmol)を加えておいたガラス容器に捕集した。このガラス容器につき加熱濃縮を行い、ジエチルエーテルを蒸散後、25%臭化水素酢酸(0.5mL)を加え、160℃で5分間加熱した。その後反応液を放冷し、ジエチルエーテル(2 mL)を加えて順相カラム(Sep-Pak(登録商標)Plus、Silica Cartridges、製品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、再度ジエチルエーテル(4mL)を該カラムに加え不純物を除去し、目的物をカラムに吸着捕集した。次いで、前記順相カラムにクロロホルム/メタノール=8/1混液(6mL)を通液し、ガラス容器に目的物分画を捕集した。捕集した溶液は、130℃で加熱蒸散させ、18F-FBnTPを得た(38.3MBq、18F添加時刻換算90.8MBq)。
得られた18F-FBnTPにつき、下記の条件にてTLC分析を行い、18F-FBnTPピーク(Rf=0.2)の面積%として、放射化学的純度を求めた。得られた放射化学的純度は99%であった。これにより、本発明によって、18F-FBnTPが合成し得ることが確認された。
【0040】
TLC条件:
TLCプレート:kieselgel 60 F254Art. 5715(製品名、Merck社製)。
展開相:クロロホルム/メタノール=8/1。
展開長:10 cm。
検出器: Rita Star(製品名、raytesy社製)。
【0041】
さらに、得られた18F-FBnTPにつき、下記式(I)にて放射化学的収率を求めた。その結果、放射化学的収率は67%であった。
【0042】
【数1】

【0043】
以上に示した通り、本発明に係る製造法を用いることにより、18F-FBnTPの放射化学的収率が、これまでに報告されている約15%(国際公開03/065882号パンフレット)から67%に向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の方法で得られる放射性ハロゲン標識有機化合物は、ミトコンドリア機能不全を伴う疾患群などのPET又はSPECTによる診断において使用する放射性医薬品として有用であり、核医学の分野において利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、nは1から6の整数、R1は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたアリル基又は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたヘテロアリル基、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される放射性ハロゲン標識有機化合物の製造方法であって、下記式(2)
【化2】

(式中、nは1から6の整数、R1は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたアリル基又は1以上の水素が放射性ハロゲンで置換されたヘテロアリル基である)で示される放射性ハロゲン含有アルコール体を酸性条件下で下記式(3)
【化3】

(式中、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
下記式(4)
【化4】

(式中、nは1から6の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される放射性ハロゲン標識有機化合物の製造方法であって、
下記式(5)
【化5】

(式中、nは1から6の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である)で示される放射性ハロゲン含有アルコール体を酸性条件下で下記式(3)
【化6】

(式中、Eはリン又は窒素、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アラルキル基、アリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含むヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである)で示される化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記放射性ハロゲン含有アルコール体を得る工程として、下記式(6)
【化7】

(式中、nは0から5の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である)で示される放射性ハロゲン含有アルデヒド体を含む反応液を還元剤と接触させることにより下記式(5)
【化8】

(式中、nは1から6の整数、Xは放射性ハロゲン、Arはアリレン基又はヘテロアリレン基である)で示される放射性ハロゲン含有アルコール体を得る工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Arが、炭素数6から18のアリレン基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含む炭素数3から18のヘテロアリレン基からなる群より選ばれるものである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記Arが、フェニレン、ナフタレニレン、アントラセニレン、フェナントレニレン、ナフタセニレン、ピリジニレン、キノリニレン、フリレン及びチオフェニレンからなる群より選ばれるものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記R2、R3及びR4が、それぞれ独立に、水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数7から12のアラルキル基、炭素数6から18のアリル基、及び、窒素、酸素又は硫黄を任意に含む炭素数3から18のヘテロアリル基からなる群より選ばれるものである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記R2、R3及びR4が、それぞれ独立に、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ナフタセニル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基及びチエニル基からなる群より選ばれるものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
放射性ハロゲンが、放射性フッ素、放射性臭素、放射性ヨウ素及び放射性アスタチンからなる群より選ばれるものである、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
放射性ハロゲンが、18F、75Br、76Br、77Br、80Br、82Br、123I、124I、125I、131I、132I及び211Atからなる群より選ばれるものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酸性条件が、前記放射性ハロゲン含有アルコール体を含む反応溶液に、酸を含有させることにより与えられるものである、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
添加する酸が、臭化水素酢酸、塩酸、臭酸、硫酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化カルシウム、臭化カルシウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素及び三臭化ホウ素からなる群より選ばれるものである、請求項10に記載の方法。



【公開番号】特開2006−315958(P2006−315958A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136976(P2005−136976)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】