説明

放射性ヨウ化メチル追跡子の製造方法およびその装置

【課題】ASTM D 3803検査の際に添着活性炭の放射性有機ヨード吸着性能検査のために使用される放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子を簡単かつ安全に常温で直接合成する製造方法およびその装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば、常温、減圧の下で放射性ヨウ化ナトリウム(Na131I)とヨウ化メチル(CHI)とを混合して直接合成することにより、過多な合成所要時間を減らし、蒸留過程で揮発物質の漏洩による放射線被爆可能性を減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造方法およびその装置に係り、さらに詳しくは、ASTM D 3803(Standard Test Method for Nuclear-Grade Activated Carbon)検査の際に添着活性炭の放射性有機ヨード吸着性能検査のために使用される放射性ヨウ化メチル追跡子を製造する方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設に使用される添着活性炭は、激しい性能検査が要求されており、添着活性炭の放射性有機ヨードの除去性能を検査するために高湿度の空気条件の下で放射性ヨウ化メチル(CH131I)の追跡子が用いられる。
【0003】
既存の放射性ヨウ化メチルは、図1の装置を用いて無水メタノール溶液と濃硫酸(c−HSO)溶液とを混合した後、攪拌冷却し、ヨウ化ナトリウム(無水メタノール溶液5.2mL、濃硫酸溶液1.2mLのときに6.0g)粉末を添加してさらに攪拌させた後、40℃で還流させ、加熱蒸留して分離した2次反応生成物に5%チオ硫酸ナトリウム(Na)水溶液を添加混合して、遊離したヨウ化メチルを分離し、2次反応生成物からチオ硫酸ナトリウム溶液層を分離し、蒸留水を添加して洗浄操作することにより、収率40%程度の放射性ヨウ化メチル溶液を製造した。既存の放射性ヨウ化メチルは、合計5段階の反応を経て製造される。

1段階:ヨウ化メチルの合成(10℃、30分)
2CHOH+HSO→(CHO)SO+2HO、
(CHO)SO+2Na127I→2CH127I+NaSO ……(1)

2段階:ヨウ化メチルと放射性ヨードの置換(40℃、30分)
2CH127I+2Na131
←→CH127I+CH131I+Na127I+Na131I ……(2)

3段階:ヨウ化メチルの蒸留(60℃、7時間)
CHOH+CH127I+CH131I+2HO+127+(Na127I+Na131I+NaSO)↓
→CHOH+CH127I+CH131I+2HO+127 ……(3)

4段階:ヨード除去(30℃、5分)
CH127I+CH131I+CHOH+HO+(127+Na)↓
→CH127I+CH131I+CHOH+HO ……(4)

5段階:メチルアルコールおよび水分除去(30℃、5分)
CH127I+CH131I+CHOH+(HO+CaCl)↓→CH127I+CH131I ……(5)

言い換えれば、従来の放射性ヨード(CH131I)追跡子の合成メカニズムは、水溶液状態の合成1〜2段階で(CHO)SO中間化合物に131Iを置換させてCH131Iを合成する方法である。
【0004】
前述したような方法で合成された追跡子は、各種試薬と混在するため、各種混合物から揮発性のHO、CHOH、CH127I、CH131Iなどを蒸留した後、CH127,131Iのみを精製しなければならなかった。この際、還流および蒸留過程としての3段階のみで7時間以上がかかり、最終段階としての5段階まで済ませると、1mL程度の放射性ヨード追跡子(CH131I)を得ることができた。
【0005】
このように従来の放射性ヨウ化メチル追跡子の製造方法は、放射性物質としてのヨウ化ナトリウム(Na131I)を相当時間(約10時間)取り扱わなければならない。よって、作業者は、蒸留過程で揮発物質の漏洩による放射性ヨウ化ナトリウムからの体外被爆および放射性ヨウ化メチル(CH131I)からの体内、体外被曝を受ける可能性が大きかった。
【0006】
また、従来の方法は、放射能物質たるヨウ化ナトリウム(Na131I)や無水メチルアルコール、濃硫酸、チオ硫酸ナトリウム、塩化カルシウムなどの化学薬品、温湯器、低温冷却器、蒸留装置などを用いて製造することにより、非常に複雑であった。
【0007】
そこで、本発明者は、合成所要時間を減らし且つ蒸留過程で揮発物質の漏洩による放射線被爆可能性を最小化するために鋭意努力した結果、簡単な放射性ヨウ化メチル(CH131I)合成装置を考案し、本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決するために案出されたもので、その主な目的は、簡単且つ安全に放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子を製造する方法およびその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、常温、減圧の下で放射性ヨウ化ナトリウム(Na131I)とヨウ化メチル(CHI)とを混合する直接合成法によって放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、常温、減圧の下で放射性ヨウ化ナトリウム(Na131I)とヨウ化メチル(CHI)とを混合して直接合成することにより、過多な合成所要時間を減らし、蒸留過程で揮発物質の漏洩による放射線被爆可能性を減らすことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子合成装置を示す。
【図2】本発明に係る放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子合成装置の設置写真である。
【図3】本発明に係る放射性ヨウ化メチル(CH131I)合成装置を示す。
【図4】本発明に係る放射性ヨウ化メチル(CH131I)合成装置におけるヨウ化メチルの凝縮器および捕集装置を示す。
【図5】本発明に係る放射性ヨウ化メチル(CH131I)合成装置におけるヨウ化メチルと水蒸気の分別装置および凝縮液分離装置を示す。
【図6】本発明によって製造された放射性ヨウ化メチル(CH131I)の比放射能変化推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、直接合成法による放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造方法を提供する。
【0014】
図2は本発明の直接合成法による放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子合成装置の設置写真である。具体的に、本発明の製造方法は、(a)ヨウ化メチル(CHI)と放射性ヨード(131I)の置換段階と、(b)放射性ヨウ化メチル(CH131I)の抽出段階とを含んでなる。
【0015】
本発明に係る製造方法では、水溶性物質(NaI)と非水溶性有機化合物(CHI)が互いに溶解しないため、所望の同位元素追跡子を得ることが可能な置換反応は起こらないが、水溶性物質(NaI)が放射能を帯びた場合、自体の放射線エネルギーによって両混合物の境界でヨード元素のラジカル生成による置換反応が活発に起こる。
【0016】
このような放射性物質の自体の放射線ベータ(β)、ガンマ(γ)エネルギー(βmax=0.606MeV、γ=0.364MeV)によって簡便に追跡子として用いることが可能な同位元素置換方法は、次のように表現できる。
CH127I(solv)+Na131I+β、γエネルギー←→CH・(ラジカル)+127I・(ラジカル)
127I・+Na131←→127+Na131I・
123+Na131I・+CH・←→CH127I(solv)+Na127
次に、本発明の直接合成法による放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造方法をより詳細に説明する。

1段階:ヨウ化メチルと放射性ヨードの置換(20℃、5分)
2CH127I(Org.solv)+Na131I(aqua)←→
CH127I+131I)(Org.solv)+Na(127I+131I)(aqua)
……(6)

2段階:放射性ヨウ化メチルの抽出(20℃、5分)
CH127I+131I)+Na(127I+131I)+H
→CH127I+CH131I ……(7)

本発明は、互いに混合されない放射性ヨウ化ナトリウム(Na131I)と有機溶媒としての非放射性ヨウ化メチル(CH127I)とを常温で直接混合して合成された放射性ヨウ化メチル(CH131I)と残留物を蒸留法で分離する直接合成法によって、放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子を上記の2段階反応を介して製造することが可能である。
【0017】
【表1】

【0018】
また、本発明は、単純化された放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置を提供する。
【0019】
図3は本発明に係る放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置を示す。図3に示すように、本発明に係る放射性ヨウ化メチル追跡子の製造装置は、放射性ヨウ化メチル合成フラスコ101、減圧用バルブ102、ヨウ化メチルおよび水蒸気分別装置103、ヨウ化メチルおよび水蒸気凝縮液分離装置104、並びに気体性ヨウ化メチル凝縮器およびヨウ化メチル凝縮液捕集装置105から構成される。
【0020】
本発明の製造装置は、動力源を使用せず、水または氷を用いた低温蒸留法を使用して、装置内で気化したヨウ化メチルを凝縮して回収することが可能であり、気体性ヨウ化メチル凝縮器およびヨウ化メチル凝縮液捕集装置105には、凝縮水が垂直に落ちないようにする鉤型の誘導装置を含む。
【0021】
次に、本発明の製造装置について、図2を参照して各構成装置の役割および特性をより詳細に説明する。
【0022】
本発明は、ヨウ化メチルと放射性ヨードの置換反応および放射性ヨウ化メチルの抽出反応により行われるが、放射性ヨウ化メチル合成フラスコ101は、ヨウ化メチルと放射性Na131Iとが置換反応できる反応空間を提供する。
【0023】
また、装置内部減圧用バルブ102は、有機溶媒(Organic Solvent)としてのヨウ化メチル(CH127I)の蒸発を誘導してNa131Iの水分と分別して蒸留することができるように内部の圧力を低める役目をし、ヨウ化メチルおよび水蒸気分別装置103は、気化したCH127I+131I)が上部に移動し、沸点100℃の水蒸気は下部に移動するように誘導管の役目をしてヨウ化メチルと水蒸気の分離機能を高める。よって、本発明では、水分を取り除くための別途の加湿剤(HO+CaCl)の使用が不要になる。
【0024】
また、ヨウ化メチルおよび水蒸気凝縮液分離装置104にはヨウ化メチルが捕集されるが、もし水分が存在すると、両溶液の比重差によって、高比重のヨウ化メチルは残留し、低比重の水は溢れる(overflow)役目をして、純粋なヨウ化メチルを得ることを可能にする。
【0025】
また、気体性ヨウ化メチル凝縮器およびヨウ化メチル凝縮液捕集装置105は、沸点約42℃のヨウ化メチルの凝縮を助けるために、上部の凹んだ部位に水または氷で冷却させて気体ヨウ化メチルの凝縮を助け、下部の鉤型ガラス管は、凝縮したヨウ化メチルが流下するときに製造装置の壁面に沿って流れるように助けることを特徴とする。
【0026】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
実施例1.
互いに混合されないNa131I溶液と有機溶媒としてのCH127I溶液は、図2に示した合成装置の放射性ヨウ化メチル合成フラスコ101で混合し、0.1時間から16時間まで各時間別にCHI試料を10,000倍希釈(10μLを採取して添着活性炭100mLに吸収)させてHPGeガンマ核種分析器(Gennie 2000、Canberra、USA)によって200秒間分析することにより、131Iの比放射能値を得た(表2参照)。
【0028】
この際、核種分析では131Iの比放射能を2回ずつ測定して平均を求めた。主カンマエネルギーピーク0.3645MeVと副ガンマエネルギーピーク0.6370MeVの比放射能変化推移は図6に示した。
【0029】
本発明に係る製造方法は、放射性同位元素たるNa131I水溶液と揮発性有機溶媒たるCH127Iとを混合して生じる両溶液の境界面で131Iのベータ線およびガンマ線エネルギー(βmax=0.606MeV(P=89%)、γ=0.364MeV(P=81%))により生ずる活性化I・ラジカル反応である。
【0030】
したがって、CH127I+Na131I+HOの反応で2I・→Iが生成されないが、Na131Iとの反応の際にはIの生成を確認することができる。放射性置換反応は体積ではなく面積でのみ反応するため、比放射能は、図5に示すように、6時間1次関数で増加し、6時間後から16時間経過したときに約3%増加した(453.5→465.8Bq/mL)。よって、6時間の反応は平衡状態に近接するものと判断される。
【0031】
蒸発法では、直接合成法と類似の472.2Bq/mLを得た。両合成法で得る追跡子の放射能強さはASTM D3803の要件(10〜10cpm)を充足した(実際分析値は2.5×10cpm)。
【0032】
放射線防御の面で重要なことは、実際実験期間と実験過程における揮発性物質の漏洩有無であるが、従来の蒸発合成法は、5mCiのRI(放射性同位元素)を100分以上取り扱わなければならなかったが、本発明に係る直接合成法は、混合および分離に10分程度がかかって実験時間が1/10倍に減少した。また、本発明の直接合成法は、蒸発過程が不要なので、追跡子の漏洩可能性を最小化した。
【0033】
【表2】

【0034】
以上、本発明の内容の特定部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者であれば、このような具体的な技術は好適な実施様態に過ぎないもので、本発明の範囲を制限するものではないことは明白であろう。よって、本発明の実質的な範囲は添付された請求の範囲およびその等価物によって定められるべきである。
【符号の説明】
【0035】
101 放射性ヨウ化メチル合成フラスコ
102 装置内部減圧用バルブ
103 ヨウ化メチルおよび水蒸気分別装置
104 ヨウ化メチルおよび水蒸気凝縮液分離装置
105 気体性ヨウ化メチル凝縮器およびヨウ化メチル凝縮液捕集装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ヨウ化メチル(CHI)と放射性ヨード(131I)の置換段階と、
(2)放射性ヨウ化メチル(CH131I)の抽出段階とを含んでなることを特徴とする、直接合成法による放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造方法。
【請求項2】
前記(1)段階のヨウ化メチルと放射性ヨードの置換は20℃で5分間行われることを特徴とする、請求項1に記載の直接合成法による放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造方法。
【請求項3】
前記(2)段階の放射性ヨウ化メチルの抽出は20℃で5分間行われることを特徴とする、請求項1に記載の直接合成法による放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造方法。
【請求項4】
放射性ヨウ化メチル合成フラスコ、減圧用バルブ、ヨウ化メチルおよび水蒸気分別装置、ヨウ化メチルおよび水蒸気凝縮液分離装置、並びに気体性ヨウ化メチル凝縮器およびヨウ化メチル凝縮液捕集装置とを含んでなることを特徴とする、放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。
【請求項5】
前記放射性ヨウ化メチル合成フラスコは、ヨウ化メチルと放射性ヨードの置換反応が行われることを特徴とする、請求項4に記載の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。
【請求項6】
前記減圧用バルブは、有機溶媒たるCH127Iの蒸発を誘導してNa131Iの水分と分別して蒸留することができるように内部の圧力を低める役目をすることを特徴とする、請求項4に記載の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。
【請求項7】
前記ヨウ化メチルおよび水蒸気分別装置は、気化したCH127I+131I)が上部に移動し、水蒸気は下部に移動するように誘導管の役目をしてヨウ化メチルおよび水蒸気の分離機能を高めることを特徴とする、請求項4に記載の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。
【請求項8】
前記ヨウ化メチルおよび水蒸気凝縮液分離装置は、比重差によって高比重のヨウ化メチルを残留させて純粋なヨウ化メチルを捕集することを特徴とする、請求項4に記載の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。
【請求項9】
前記気体性ヨウ化メチル凝縮器およびヨウ化メチル凝縮液捕集装置は、ヨウ化メチルの凝縮を助けるための凝縮器、および凝縮したヨウ化メチルを捕集する捕集装置から構成されることを特徴とする、請求項4に記載の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。
【請求項10】
前記凝縮器は、上位の凹んだ部位に、水または氷で冷却させて気体ヨウ化メチルを凝縮させることを特徴とする、請求項9に記載の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。
【請求項11】
前記捕集装置は、下部に鉤型のガラス管を含み、凝縮したヨウ化メチルが流下するときに製造装置の壁面に沿って流れるようにすることを特徴とする、請求項9に記載の放射性ヨウ化メチル(CH131I)追跡子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167078(P2012−167078A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124392(P2011−124392)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(511134540)韓国水力原子力株式会社 (1)
【Fターム(参考)】