説明

放射性廃棄物処理用の耐火物形成体およびその製造方法

【課題】耐火物の表面にコーティング層を形成することにより、高い耐食性を有する放射性廃棄物処理用の耐火物形成体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】放射性廃棄物処理用の耐火物形成体10は、少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有してなる耐火物本体20と、この耐火物本体20の表面に形成され、酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%含有してなるコーティング層30とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物処理用の耐火物形成体に関し、特に原子力発電所等から発生する低レベル放射性雑固体廃棄物(金属類、フィルタ類、保温材、ガラス、コンクリート及び焼却灰等)を高周波誘導加熱により溶融して固化する際に使用される放射性廃棄物処理用の耐火物形成体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再処理施設等から発生する高線量、高汚染の不燃性廃棄物の処理において、廃棄物をルツボ中に投入し、高周波加熱処理を施すことにより廃棄物を溶融して固化させ、ルツボとともに地中に埋めることが計画されている。ここで使用されるルツボは、溶融した廃棄物との反応により溶融物の漏れが生じないこと、加熱の際の昇温時、または冷却時に熱スポーリング損傷によるき裂や割れが発生しないこと等の特性を有することが要求されている。また、廃棄物を溶融して固化させた後に、ルツボを埋める場所まで搬送する必要があるため、その際、ルツボが一定の機械的強度を備えていることが要求される。さらに、大型のルツボを大量に使用する関係上、低コストであることも重要な条件の1つである。
【0003】
高周波加熱処理を施す際、溶融物の温度は1600℃以上に達するため、上記した要求の中でも、特に溶融廃棄物に対する耐食性を向上させることが重要となる。従来のルツボを構成する耐火物材料では、耐食性が不十分であるため、溶融物との反応による減肉、さらには貫通による溶融物の漏れが発生することがあり、この問題を改善する必要があった。
【0004】
これらの問題に対して従来、ルツボを構成する耐火物材料である、例えばアルミナ、炭化ケイ素、炭素からなる組成を最適化することにより、耐食性を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ルツボを構成する耐火物材料である、アルミナ、アルミナ・マグネシア系スピネル、炭素からなる組成を最適化することにより、耐食性を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平7−267721号公報
【特許文献2】特開2004−307277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来のようなルツボでは、耐食性、耐熱スポーリング性、機械的強度を同時に満足することは難しく、特に耐食性に関して、放射性廃棄物の溶融処理に用いるのに満足な特性を有するものは得られていない。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐火物の表面にコーティング層を形成することにより、高い耐食性を有する放射性廃棄物処理用の耐火物形成体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有してなる耐火物本体と、前記耐火物本体の表面に形成され、酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%含有してなるコーティング層とを具備することを特徴とする放射性廃棄物処理用の耐火物形成体が提供される。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%含有してなる原料を配合し、混練して混練物を形成する混練物形成工程と、少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有し、見かけ気孔率が5〜30%である耐火物本体の表面に、前記混練物を塗布し、熱処理してコーティング層を形成するコーティング層形成工程とを具備することを特徴とする放射性廃棄物処理用の耐火物形成体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る放射性廃棄物処理用の耐火物形成体およびその製造方法によれば、耐火物の表面にコーティング層を形成することにより、高い耐食性を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る一実施の形態の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体10の断面を模式的に示す図である。
【0012】
図1に示すように、本発明に係る一実施の形態の耐火物形成体10は、耐火物本体20と、この耐火物本体20の表面に形成されたコーティング層30とを備える。
【0013】
耐火物本体20は、酸化アルミニウム(Al)を主成分として構成され、少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有してなる。ここで、酸化アルミニウムの含有立を60重量%以上とすることが好ましいのは、酸化アルミニウムの含有率が60重量%より少ない場合、耐火物本体20の耐火性が不十分となるからである。また、耐火物本体20は、ムライト成分を含有してもよい。このムライト成分を含有することで、耐火性の向上、あるいは耐熱スポーリング性の向上が可能となる。また、耐食性向上などの観点から酸化クロムなどを含有してもよい。
【0014】
なお、酸化アルミニウム(Al)に添加される物質は、上記したものに限られるものではなく、前述したように、耐火物形成体10は、放射性廃棄物を高周波加熱処理する際に使用されるルツボとして用いられるため、高周波加熱処理における溶融物の温度である1600℃〜1700℃においても耐熱性、機械的強度等を有する耐火物形成体10を構成する物質であればよい。このような耐火物本体20を構成する材料の組成として、例えば、Al―SiO系、Al―Cr系、Al―SiO―Cr系等が挙げられる。なお、耐火物本体20を構成する材料の組成には、例えば、Fe、TiO、CaO、MgO等の不可避不純物が含まれることがあるが、この不可避不純物を含有する割合をできる限り「0」に近づけることが好ましい。
【0015】
また、耐火物本体20の見かけ気孔率は、5〜30%であることが好ましい。ここで、見かけ気孔率Poは、次に示す式(1)によって定義される。
Po=(W−W)/(W−W) …式(1)
【0016】
ここで、Wは、乾燥重量であり、耐火物本体20の気孔に水を含浸しない状態の重量である。Wは、水中重量であり、耐火物本体20の浮力分が減じられた水中における耐火物本体20の重量である。Wは、飽水重量であり、気孔に水を含浸した状態の耐火物本体20の大気中における重量である。
【0017】
耐火物本体20の見かけ気孔率を5〜30%とすることが好ましいのは、見かけ気孔率が5%より低い場合には、コーティング層30と十分な密着強度が得られないとともに、耐火物形成体自身の耐熱スポーリング性が低下し、実用性に欠けるからである。一方、見かけ気孔率が30%より高い場合には、コーティング層30が必要以上に耐火物本体20の内部に浸透し、好適なコーティング層30を形成することが難しくなるとともに、耐火物形成体自身の機械的強度が低下し、実用性に欠けるからである。また、耐火物本体20の見かけ気孔率のより好ましい範囲は10〜20%である。
【0018】
耐火物本体20は、少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有する材料を用いて、従来におけるルツボ等の耐火物の製造方法と同様に作製される。耐火物本体20は、例えば、少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有する材料に、必要に応じて結合材を添加して混練し、この混練された混練物を用いて所定の形状に成形し、焼成して作製される。なお、気孔率を上記した範囲に形成するのは、組成、成形体密度、焼成温度、焼成雰囲気等を制御することによって可能となる。
【0019】
次に、コーティング層30について説明する。
【0020】
図1に示すように、コーティング層30は、耐火物本体20の表面に形成されている。このコーティング層30は、酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%含有してなる。ここで、酸化ジルコニウムの含有率を70〜96重量%とすることが好ましいのは、含有率が70重量%よりも小さい場合および含有率が96重量%よりも大きい場合ともに、耐食性が不十分となるからである。また、シリコン化合物の含有率を30〜4重量%とすることが好ましいのは、含有率が4重量%よりも小さい場合および含有率が30重量%よりも大きい場合ともに、耐食性が不十分となるからである。
【0021】
シリコン化合物は、主にコーティング層30の主成分である酸化ジルコニウムと耐火物本体20の反応を促進する機能を有し、シリコン化合物として、具体的には、例えば酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素などを用いる。
【0022】
また、コーティング層30を構成する材料の組成として、酸化ジルコニウムを80〜96重量%、シリコン化合物を20〜4重量%含有する場合がより好ましく、酸化ジルコニウムを90〜95重量%、シリコン化合物を10〜5重量%含有する場合がさらに好ましい。
【0023】
なお、コーティング層30を構成する材料の組成には、例えば、炭素、酸化ハフニウム等の不可避不純物が含まれることがあるが、この不可避不純物を含有する割合をできる限り「0」に近づけることが好ましい。
【0024】
また、コーティング層30の厚さは、5μm〜100μmであることが好ましい。コーティング層30の厚さを5μm〜100μmとするのが好ましいのは、5μmよりも薄い場合には、耐食性が不十分であり、100μmよりも厚い場合には、コーティング層30が耐火物本体20から剥がれ、これにより耐食性が不十分となるからである。また、コーティング層30の厚さのより好ましい範囲は、10μm〜50μmである。なお、コーティング層30の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)による耐火物形成体10の断面の画像から測定される。
【0025】
また、コーティング層30を構成する酸化ジルコニウムの平均粒径は、0.01μm〜1μmであることが好ましく、最大粒径が3μm以下であることが好ましい。また、シリコン化合物として、酸化ケイ素を用いる場合には、酸化ケイ素の平均粒径は、0.01μm〜1μmであることが好ましく、最大粒径が5μm以下であることが好ましい。また、シリコン化合物として、炭化ケイ素を用いる場合には、炭化ケイ素の平均粒径は、0.01μm〜1μmであることが好ましく、最大粒径が4μm以下であることが好ましい。上記した各平均粒径の範囲が好ましいのは、各下限値よりも平均粒径が小さい場合には、粒子の凝集が顕著で安定したコーティング剤が得られないためであり、各上限値よりも平均粒径が大きい場合には、コーティング層30の主成分である酸化ジルコニウムと耐火物本体20の反応を促進することが難しくなるからである。また、最大粒径が上記した各値を超えると、同様にコーティング層30の主成分である酸化ジルコニウムと耐火物本体20の反応を促進することが難しくなる。
【0026】
ここで、平均粒径は、その粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたときに、その累積カーブが50%となる点の粒子径であり、いわゆるメディアン粒径である。また、平均粒径は、例えば、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)などによって測定される。
【0027】
次に、コーティング層30の形成方法について説明する。
【0028】
まず、酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%含有してなる原料を配合し、該配合された原料に必要に応じて適量の結合材を添加して混練して、混練物を形成する。ここで、結合材としては、例えば、アクリル系バインダ、PVA(ポリビニルアルコール)などが用いられる。これらの結合材は、後述する熱処理、すなわち焼成によって消失する。
【0029】
続いて、前述した耐火物本体20の表面に、混練物を塗布し、熱処理してコーティング層を形成する。混練物の塗布の方法は、公知な皮膜形成の手法により行えばよく、特に限定されるものではない。混練物の塗布の方法として、例えば、ディップコーティング、スプレーコーティング、刷毛塗り、ローラ等の湿式コーティングなどが挙げられる。また、熱処理後のコーティング層30の厚さを、前述した5μm〜100μmとするのは、例えば、塗布回数や混練物における原料と結合材の混合比などを調整することで可能となる。熱処理、すなわち焼成は、混練物が塗布された耐火物本体20を、例えば酸化アルミニウムの容器などに入れ、所定温度で所定時間加熱することで行われる。熱処理して得られた耐火物形成体10は、自然冷却される。なお、得られた耐火物形成体10は、例えば、再処理施設等から発生した廃棄物を高周波加熱処理する際に使用される収容容器、いわゆるルツボとして適用することができる。
【0030】
上記したように、本発明に係る耐火物形成体10によれば、酸化アルミニウムを主成分とする耐火物本体20の表面に、酸化ジルコニウムを主成分とし、さらにシリコン化合物を含有するコーティング層30を形成することで耐食性を向上させることができる。すなわち、耐火物形成体10内に、再処理施設等から発生した廃棄物を投入し、高周波加熱処理を施すことにより廃棄物を溶融させたときであっても、溶融した廃棄物との反応が抑制される。また、コーティング層30を形成することで、高周波加熱処理等の際に生じる熱スポーリング損傷によるき裂や割れの発生を防止することができる。これによって、耐火物形成体10からの溶融物の漏れなどが生じない、高い信頼性を有する放射性廃棄物処理用の耐火物形成体10を提供することができる。
【0031】
また、本発明の実施形態は、本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0032】
次に、本発明に係る耐火物形成体10が、優れた耐食性を有することを実施例および比較例に基づいて説明する。
【0033】
(実施例1)
実施例1では、Alを93重量%、SiOを4.7重量%含有し、残部がFe、TiO、CaO、MgO等からなる不可避不純物からなる耐火物本体を使用した。この耐火物本体の形状は、一端側が開口し他端が閉鎖された円筒体とし、外径を60mm、内径を40mm、高さを50mm、厚さを均一(10mm)とした。また、耐火物本体20の見かけ気孔率は20%であった。
【0034】
また、酸化ジルコニウム91重量%、酸化ケイ素9重量%を含有する原料に、微量の水酸化ナトリウム(NaOH)を含む結合材を添加して混練し、水系スラリーを作製した。また、酸化ジルコニウムの平均粒径は0.1μmで最大粒径が1μmであり、酸化ケイ素の平均粒径は0.2μmで最大粒径が0.5μmであった。
【0035】
この混練物である水系スラリーを耐火物本体の表面に、刷毛塗りにより塗布した。続いて、水系スラリーが塗布された耐火物本体を常温で2時間乾燥させた後、大気中において1000℃の温度で30分間熱処理してコーティング層を形成し、耐火物形成体を得た。なお、熱処理後、この耐火物形成体を大気中で自然冷却した。形成されたコーティング層の厚さは30μmであった。
【0036】
上記した耐火物形成体に、炭素鋼および同重量比のSiOとCaOとからなるスラグを150g投入し、1700℃に設定された高周波誘導炉に30分間保持して、炭素鋼およびスラグを溶融させ、侵食試験を行った。侵食試験後、耐火物形成体を冷却し、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0037】
(実施例2)
実施例2では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0038】
また、酸化ジルコニウム91重量%、炭化ケイ素9重量%を含有する原料に、微量の結合材を添加して混練し、水系スラリーを作製した。また、酸化ジルコニウムの平均粒径は0.1μmで最大粒径が1μmであり、炭化ケイ素の平均粒径は0.4μmで最大粒径が1μmであった。
【0039】
この混練物である水系スラリーを耐火物本体の表面に、刷毛塗りにより塗布した。続いて、水系スラリーが塗布された耐火物本体を常温で2時間乾燥させた後、大気中において1300℃の温度で30分間熱処理してコーティング層を形成し、耐火物形成体を得た。なお、熱処理後、この耐火物形成体を大気中で自然冷却した。形成されたコーティング層の厚さは30μmであった。
【0040】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0041】
(実施例3)
実施例3では、Alを70重量%、ムライトを30重量%含有してなる耐火物本体を使用した。耐火物本体の形状および見かけ気孔率は、実施例1で使用した耐火物本体のそれらと同じとした。また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0042】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0043】
(実施例4)
実施例4では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0044】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、酸化ジルコニウム80重量%、酸化ケイ素20重量%を含有する原料を用いた以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0045】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0046】
(実施例5)
実施例5では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0047】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、酸化ジルコニウム70重量%、酸化ケイ素30重量%を含有する原料を用いた以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0048】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0049】
(実施例6)
実施例6では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0050】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、酸化ジルコニウム96重量%、酸化ケイ素4重量%を含有する原料を用いた以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0051】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0052】
(比較例1)
比較例1では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0053】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、酸化ジルコニウム65重量%、酸化ケイ素35重量%を含有する原料を用いた以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0054】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層が深く浸食しており、耐食性が十分でないことが確認された。
【0055】
(比較例2)
比較例2では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0056】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、酸化ジルコニウム98重量%、酸化ケイ素2重量%を含有する原料を用いた以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0057】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層が深く浸食しており、耐食性が十分でないことが確認された。
【0058】
(実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例2のまとめ)
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例2における侵食試験の結果から、コーティング層において、酸化ジルコニウムとシリコン化合物の含有率を本発明の範囲(酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%)とすることで良好な耐食性が得られることがわかった。
【0059】
(実施例7)
実施例7では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0060】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、コーティング層の厚さが5μmである以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0061】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0062】
(実施例8)
実施例8では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0063】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、コーティング層の厚さが100μmである以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0064】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0065】
(比較例3)
比較例3では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0066】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、コーティング層の厚さが2μmである以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0067】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層が深く浸食しており、耐食性が十分でないことが確認された。
【0068】
(比較例4)
比較例4では、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成、形状および見かけ気孔率を有する耐火物本体を使用した。
【0069】
また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、コーティング層の厚さが120μmである以外は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0070】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、耐火物本体からコーティング層が剥がれている部分が観察された。さらに、コーティング層が剥がれている部分では、炭素鋼およびスラグとの反応層が深く浸食しており、耐食性が十分でないことが確認された。
【0071】
(実施例1、実施例7〜実施例8および比較例3〜比較例4のまとめ)
実施例1、実施例7〜実施例8および比較例3〜比較例4における侵食試験の結果から、コーティング層の厚さを本発明の範囲(5μm〜100μm)とすることで良好な耐食性が得られることがわかった。
【0072】
(実施例9)
実施例9では、見かけ気孔率を5%とした以外は、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成および形状を有する耐火物本体を使用した。また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0073】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0074】
(実施例10)
実施例10では、見かけ気孔率を30%とした以外は、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成および形状を有する耐火物本体を使用した。また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0075】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層の形成は極わずかであり、良好な耐食性を示すことが確認された。
【0076】
(比較例5)
比較例5では、見かけ気孔率を3%とした以外は、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成および形状を有する耐火物本体を使用した。また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0077】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、耐火物本体からコーティング層が剥がれている部分が観察された。さらに、コーティング層が剥がれている部分では、炭素鋼およびスラグとの反応層が深く浸食しており、耐食性が十分でないことが確認された。
【0078】
(比較例6)
比較例6では、見かけ気孔率を35%とした以外は、実施例1で使用した耐火物本体と同じ、組成および形状を有する耐火物本体を使用した。また、この耐火物本体の表面に形成されるコーティング層は、実施例1におけるコーティング層と同じであり、形成方法も同じである。
【0079】
この耐火物形成体を用いて、実施例1と同じ条件で侵食試験を行い、耐火物形成体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した結果、炭素鋼およびスラグと接触する耐火物形成体の接触面において、炭素鋼およびスラグとの反応層が深く浸食しており、耐食性が十分でないことが確認された。
【0080】
(実施例1、実施例9〜実施例10および比較例5〜比較例6のまとめ)
実施例1、実施例9〜実施例10および比較例5〜比較例6における侵食試験の結果から、耐火物本体の見かけ気孔率を本発明の範囲(5〜30%)とすることで、侵食試験後においても、耐火物本体からコーティング層が剥がれることなく、十分な密着強度を有していることがわかった。これによって、良好な耐食性が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る一実施の形態の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体の断面を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0082】
10…耐火物形成体、20…耐火物本体、30…コーティング層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有してなる耐火物本体と、
前記耐火物本体の表面に形成され、酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%含有してなるコーティング層と
を具備することを特徴とする放射性廃棄物処理用の耐火物形成体。
【請求項2】
前記シリコン化合物が、酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体。
【請求項3】
前記シリコン化合物が、炭化ケイ素であることを特徴とする請求項1記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体。
【請求項4】
前記コーティング層の厚さが、5μm〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体。
【請求項5】
前記耐火物本体の見かけ気孔率が、5〜30%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体。
【請求項6】
前記耐火物本体が、ムライト成分を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体。
【請求項7】
酸化ジルコニウムを70〜96重量%およびシリコン化合物を30〜4重量%含有してなる原料を配合し、混練して混練物を形成する混練物形成工程と、
少なくとも酸化アルミニウムを60重量%以上含有し、見かけ気孔率が5〜30%である耐火物本体の表面に、前記混練物を塗布し、熱処理してコーティング層を形成するコーティング層形成工程と
を具備することを特徴とする放射性廃棄物処理用の耐火物形成体の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン化合物が、酸化ケイ素であることを特徴とする請求項7記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体の製造方法。
【請求項9】
前記シリコン化合物が、炭化ケイ素であることを特徴とする請求項7記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体の製造方法。
【請求項10】
前記耐火物本体が、ムライト成分を含有することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項記載の放射性廃棄物処理用の耐火物形成体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155124(P2009−155124A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332037(P2007−332037)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】