説明

放射性廃棄物溶融炉の運転方法及び煙道閉塞防止装置

【課題】酸化亜鉛によるセラミックフィルタの目詰まりや、セラミックフィルタに達する前の煙道における酸化亜鉛による閉塞を抑制し、放射性廃棄物溶融炉の停止時間を短縮することができる放射性廃棄物溶融炉の運転方法及びそのための煙道閉塞防止装置を提供する。
【解決手段】亜鉛成分を含有する放射性廃棄物が溶融される放射性廃棄物溶融炉1の煙道を、溶融炉の出口部分で2直線が交差する形状に屈曲させて滞留部7を形成し、亜鉛成分を含有する灰をこの滞留部7に堆積させることにより、煙道の後段に設置されたフィルタの目詰まりを防止する。滞留部7に堆積させた灰は、シリンダ駆動式の灰押し出し部材21、22によって定期的に放射性廃棄物溶融炉1に返送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所などに設置される放射性廃棄物溶融炉の運転方法及び放射性廃棄物溶融炉の煙道閉塞防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などの原子力施設においては、発生した金属、ガラス、コンクリート等の不燃性の放射性廃棄物を減容処理するために、放射性廃棄物溶融炉が使用されている。特許文献1に示すように、放射性廃棄物溶融炉の排ガスは煙道を経由してセラミックフィルタに送られ、さらにHEPAフィルタで微細な粒子状物質を除去したうえで大気中に放出されている。
【0003】
放射性廃棄物中には亜鉛成分が含まれていることが多く、これを溶融する放射性廃棄物溶融炉の排ガス中には亜鉛蒸気が含まれる。しかし煙道中を流れる間に温度が低下するため、セラミックフィルタに到達する際には亜鉛蒸気は酸化亜鉛粒子となってセラミックフィルタを目詰まりさせることがある。このために短期間でセラミックフィルタを交換しなければならないという問題があった。
【0004】
またセラミックフィルタに達する前の煙道の内部においても、酸化亜鉛粒子となって灰中に混入し、煙道に付着して成長すると煙道を閉塞することがあった。このために定期的に煙道の清掃が必要となるが、煙道を開放して人手で清掃するために冷却する必要があり、長時間の炉停止を必要とするうえ、清掃作業中に放射性ダストが飛散するおそれがあるため作業員が被曝する可能性もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−19985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、酸化亜鉛によるセラミックフィルタの目詰まりや、セラミックフィルタに達する前の煙道における酸化亜鉛による閉塞を抑制し、放射性廃棄物溶融炉の停止時間を短縮することができる放射性廃棄物溶融炉の運転方法及びそのための煙道閉塞防止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の放射性廃棄物溶融炉の運転方法は、亜鉛成分を含有する放射性廃棄物が溶融される放射性廃棄物溶融炉の煙道を、溶融炉の出口部分で2直線が交差する形状に屈曲させて滞留部を形成し、亜鉛成分を含有する灰をこの滞留部に堆積させることにより、煙道の後段に設置されたフィルタの目詰まりを防止することを特徴とするものである。なお請求項2のように、滞留部に堆積させた灰を、シリンダ駆動式の灰押し出し部材によって定期的に放射性廃棄物溶融炉に返送することが好ましい。
【0008】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の放射性廃棄物溶融炉の煙道閉塞防止装置は、亜鉛成分を含有する放射性廃棄物が溶融される放射性廃棄物溶融炉の煙道を、溶融炉の出口部分で2直線が交差する形状に屈曲させ滞留部を形成するとともに、各直線部にシリンダ駆動式の灰押し出し部材をそれぞれ配置したことを特徴とするものである。なお請求項4のように、灰押し出し部材が、金属製の筒の内部に耐火物を充填した構造であることが好ましく、また請求項5のように、滞留部を、排ガス温度が亜鉛蒸気の凝結点となる位置に配置することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融炉の出口部分に滞留部を形成し、亜鉛成分を含有する灰をこの滞留部に堆積させるようにしたので、後段のセラミックフィルタに到達する亜鉛蒸気量が減少し、セラミックフィルタの目詰まりを防止することができる。また煙道の途中における亜鉛成分の凝結量も減少するため、煙道の閉塞も防止される。なお、滞留部を2直線が交差する形状にし、各直線部にシリンダ駆動式の灰押し出し部材をそれぞれ配置しておけば、堆積した酸化亜鉛を含有する灰を確実に押し返して放射性廃棄物溶融炉に戻すことができ、作業員による作業を行わなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示す全体図である。
【図2】要部の平面図である。
【図3】第2の実施形態の説明図である。
【図4】第2の実施形態の説明図である。
【図5】第2の実施形態の説明図である。
【図6】灰押し出し部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を示す。
図1において、1は放射性廃棄物溶融炉である。この放射性廃棄物溶融炉1は、セラミック製のキャニスタ2の内部に放射性雑固体廃棄物上方から投入し、周囲に設置された高周波コイル3により誘導加熱して溶融させる構造であり、その全体が気密室4の内部に収納されている。5は放射性廃棄物溶融炉1において発生した排ガスを後段のセラミックフィルタ6に導く煙道であり、放射性雑固体廃棄物に亜鉛成分が含有されている場合には、亜鉛ガスを含む排ガスが流れる。煙道入口における排ガス温度は1000℃前後であるため亜鉛はガス状態であるが、煙道5を流れる間に温度が低下して900℃以下になると亜鉛ガスは亜鉛となり、直ちに酸化されて酸化亜鉛となって排ガス中の灰と混合された状態で凝結する。
【0012】
従来はこれらの灰や酸化亜鉛粒子はセラミックフィルタ6によって除去されていたのであるが、粒子径が非常に細かいためにセラミックフィルタ6が短期間の運転により目詰まりし、交換を余儀なくされていたことは前述の通りである。この問題を解決するために、本発明では放射性廃棄物溶融炉1の出口部分で煙道を屈曲させ、滞留部7を形成することによりこの部分で酸化亜鉛粒子を積極的に生成させる。この位置は、排ガス温度が亜鉛蒸気の凝結点となる位置、すなわち900℃前後の位置とすることが好ましい。
【0013】
図2はその部分の平面図であり、放射性廃棄物溶融炉1の上方から排ガスを吸引する煙道5を、第1煙道11と第2煙道12と第3煙道13とから構成されるように屈曲させてある。各煙道11〜13は直線状であり、第1煙道11と第2煙道12とは直角に交差しており、第2煙道12と第3煙道13とは45度の角度で交差している。放射性廃棄物溶融炉1から吸引された排ガスは第1煙道11から第2煙道12に流入するが、第1煙道11の端部に滞留部7が形成されるため、この部分で滞留する間に酸化亜鉛粒子が生成する。また第2煙道12から第3煙道13に流入する部分にも滞留部7が形成されるため、この部分でも酸化亜鉛粒子が生成する。
【0014】
生成された酸化亜鉛粒子は放置すると煙道5を閉塞する。そこで各直線部にシリンダ駆動式の灰押し出し部材21、22がそれぞれ配置されている。灰押し出し部材21は第1煙道11の端部に設けられたシリンダ23によって第1煙道11の内部を往復するものであり、第2煙道12との接続部よりも後退した位置から、第1煙道11の先端まで前進することができる。また灰押し出し部材22は第2煙道12の端部に設けられたシリンダ24によって第2煙道12の内部を往復するものであり、第3煙道13との接続部よりも後退した位置から、第2煙道12の先端まで前進することができる。なお第3煙道13はセラミックフィルタ6に至るものである。
【0015】
シリンダ23、24は、耐熱性の観点からエアシリンダを用いることが好ましい。また灰押し出し部材21、22は、煙道内周に付着した酸化亜鉛を掻き落とすことができるように、図6に示すとおりステンレス等の金属製の筒14の内部に耐火物15と断熱ボード16とを充填した構造、あるいは筒14の内部全体に耐火物15を充填した構造とすることが好ましい。
【0016】
これらのシリンダ23、24は常時は図2に実線で示す後退位置にあり、例えば毎日1回程度の頻度で作動させて堆積物を掻き落とす。先ず第2煙道12の端部に設けられたシリンダ24によって灰押し出し部材22を前進させ、第2煙道12の内部の堆積物を第1煙道11に押し出す。次にシリンダ23によって灰押し出し部材21を前進させ、第1煙道11の内部の堆積物を放射性廃棄物溶融炉1に返送する。
【0017】
このようにして、煙道5の前部で酸化亜鉛を生成させて除去すれば、セラミックフィルタ6に到達する酸化亜鉛粒子は減少し、その目詰まりを抑制することができる。また滞留部7には灰押し出し部材21、22を設けたので、滞留部7が閉塞するおそれもない。
【0018】
図3から図5は本発明の他の実施形態を示す断面図である。第1煙道11に設置される灰押し出し部材21のストロークは、第2煙道12との接続部よりも後退した位置から、第1煙道11の先端までとする必要があり、実際には1mを超える。このためシリンダもストロークの大きいものが必要となるが、放射性廃棄物溶融炉1が設置された部屋の天井30が低い場合には、後退したピストンロッドが天井30と干渉するおそれがある。
【0019】
この実施形態は上記の問題を解決するために、シリンダを2段構成とし、1段目のシリンダ31のピストンロッド32の先端にブラケット33を介して2段目のシリンダ34を逆向きに取り付け、この2段目のシリンダ34のピストンロッド35の先端に灰押し出し部材21を取り付けた構造を採用した。1段目のシリンダ31は炉体に固定されている。
【0020】
図3は、1段目のシリンダ31のピストンロッド32を後退させ、2段目のシリンダ34のピストンロッド35を伸ばした状態を示している。このとき灰押し出し部材21は放射性廃棄物溶融炉1の直上に達している。
【0021】
図4は2段目のシリンダ34のピストンロッド35を伸ばしたまま、1段目のシリンダ31のピストンロッド32を伸ばした状態を示している。このとき灰押し出し部材21は1段目のシリンダ31のストローク分だけ第1煙道11内を後退する。
【0022】
図5は1段目のシリンダ31のピストンロッド32を伸ばしたまま、2段目のシリンダ34のピストンロッド35を後退させた状態を示している。このとき灰押し出し部材21は2段目のシリンダ34のストローク分だけ第1煙道11内を更に後退する後退する。
【0023】
このように、シリンダ23を2段構成とすれば、1段目のシリンダ31と2段目のシリンダ34のストロークの合計に相当するストロークで灰押し出し部材21を動かすことができるので、各シリンダのストロークは小さくすることができる。このため天井30等の障害物がある場合にも、干渉を回避することができる。
【0024】
以上に説明した本発明によれば、酸化亜鉛によるセラミックフィルタの目詰まりや煙道の閉塞を抑制し、放射性廃棄物溶融炉の停止時間を短縮することができ、また作業員による閉塞物の除去作業も不要となるので、被曝のおそれもなくなる利点がある。
【符号の説明】
【0025】
1 放射性廃棄物溶融炉
2 キャニスタ
3 高周波コイル
4 気密室
5 煙道
6 セラミックフィルタ
7 滞留部
11 第1煙道
12 第2煙道
13 第3煙道
14 金属製の筒
15 耐火物
16 断熱ボード
21 灰押し出し部材
22 灰押し出し部材
23 シリンダ
24 シリンダ
30 天井
31 1段目のシリンダ
32 ピストンロッド
33 ブラケット
34 2段目のシリンダ
35 ピストンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛成分を含有する放射性廃棄物が溶融される放射性廃棄物溶融炉の煙道を、溶融炉の出口部分で2直線が交差する形状に屈曲させて滞留部を形成し、亜鉛成分を含有する灰をこの滞留部に堆積させることにより、煙道の後段に設置されたセラミックフィルタの目詰まりを防止することを特徴とする放射性廃棄物溶融炉の運転方法。
【請求項2】
滞留部に堆積させた灰を、シリンダ駆動式の灰押し出し部材によって定期的に放射性廃棄物溶融炉に返送することを特徴とする放射性廃棄物溶融炉の運転方法。
【請求項3】
亜鉛成分を含有する放射性廃棄物が溶融される放射性廃棄物溶融炉の煙道を、溶融炉の出口部分で2直線が交差する形状に屈曲させ滞留部を形成するとともに、各直線部にシリンダ駆動式の灰押し出し部材をそれぞれ配置したことを特徴とする放射性廃棄物溶融炉の煙道閉塞防止装置。
【請求項4】
灰押し出し部材が、金属製の筒の内部に耐火物を充填した構造であることを特徴とする請求項3に記載の放射性廃棄物溶融炉の煙道閉塞防止装置。
【請求項5】
滞留部を、排ガス温度が亜鉛蒸気の凝結点となる位置に配置したことを特徴とする請求項3に記載の放射性廃棄物溶融炉の煙道閉塞防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−2773(P2012−2773A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140426(P2010−140426)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】