説明

放射性物質遮断マスク

【課題】ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクを提供する。
【解決手段】鼻口を覆うマスク本体1と、マスク本体1に配設された装着用部材とを備え、マスク本体1は、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、当該マイクロ繊維層10に積層された、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22を含むナノ繊維層20とを有し、ナノ繊維22がポリビニルアルコールからなる放射性物質遮断マスク。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、放射性物質遮断マスクに関する。
【0002】
従来、鼻口を覆うマスク本体と、当該マスク本体に配設された装着用部材とを備え、マスク本体が無機多孔質物質を含むマイクロ繊維層と当該マイクロ繊維層に積層されたナノ繊維層とを有するマスクが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来のマスクによれば、無機多孔質物質を含むマイクロ繊維層とナノ繊維層とを有するため、マイクロ繊維層で空気中の細菌、ウイルス、真菌等を吸着しこれらウイルス等を死滅・不活性化させる効果と、ナノ繊維層で空気中からこれらウイルス等を捕集・除去する効果とを併せ持つ。また、ナノ繊維層は撥水性が高く、大気圧下において、空気や水蒸気は通過させる一方、有機溶剤、消毒用アルコール液、血液、体液等の液体は浸透させないという効果を有する。
【0004】
従って、従来のマスクは、粉塵、ハウスダスト、SPMや花粉等の微小な有害粒子を除去し得るだけでなく、空気中に浮遊するウイルス等や、血液、吐瀉物等に含まれる各種の細菌、ウイルス、真菌などに起因する各種の感染症への罹患を防止できる。さらに、不織布を複数積層した従来のマスクに比べ、薄いナノ繊維不織布層を採用することで軽量化でき、しかも通気性が良好になるため、長時間作業しても蒸れが少なく、装着感が良好になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−188082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年特に、原子力事故、核実験、放射線医療行為等により各種の放射性物質が外部空間に漏れ出るリスクが高まっているため、普通の有害物質(粉塵、ハウスダスト、SPMや花粉等の微小な有害粒子、空気中に浮遊するウイルス等や、血液、吐瀉物等に含まれる各種の細菌、ウイルス、真菌など)を分離・除去し得るだけでなく、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、上記した課題に鑑みてなされたもので、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]放射性物質遮断マスクは、鼻口を覆うマスク本体と、当該マスク本体に配設された装着用部材とを備え、前記マスク本体は、平均繊維径が1μm〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維を含むマイクロ繊維層と、当該マイクロ繊維層に積層された、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維を含むナノ繊維層とを有し、前記ナノ繊維がポリビニルアルコール(PVA)からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の放射性物質遮断マスクによれば、マスク本体が、平均繊維径が1μm〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維を含むマイクロ繊維層と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維を含むナノ繊維層とを備えるため、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した塵又は埃を効率良く分離・捕集することが可能となる。
また、本発明の放射性物質遮断マスクによれば、ナノ繊維がヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気を分離・捕集することが可能となる。
【0010】
その結果、本発明の放射性物質遮断マスクは、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0011】
なお、本発明において、ナノ繊維の平均繊維径を10nm〜3000nmの範囲内にしたのは、当該平均繊維径が10nmより小さい場合にはナノ繊維の作製が困難となる場合があるためであり、当該平均繊維径が3000nmより大きい場合には表面積や細孔の観点から、放射性物質が付着した塵又は埃を分離・捕集することが困難となる場合があるためである。上記観点からは、ナノ繊維の平均繊維径は50nm〜500nmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0012】
また、本発明において、ナノ繊維層の層厚は300nm〜5000nmの範囲内であることが好ましい。これは、当該層厚が300nmより小さい場合にはヨウ素131を含むヨウ素の蒸気を十分に分離・捕集することが困難となる場合があるためであり、当該層厚が5000nmより大きい場合には製造コストを安価なものにすることが困難となる場合があるからである。上記観点からは、ナノ繊維層の層厚は800nm〜2000nmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0013】
なお、本発明の放射性物質遮断マスクにおいて、マイクロ繊維層としては、ある程度の強度があり、かつ、それ自体でマスクとしての役割を果たすもの(つまり、ナノ繊維層を有しない一般に流通しているマスク)を用いてもよい。
【0014】
また、本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、マイクロ繊維層とナノ繊維層との間の接合力が小さい場合には、マイクロ繊維層とナノ繊維層との間に接着材料(熱可塑性樹脂等)からなる接着層をさらに備えてもよい。
【0015】
[2]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記ナノ繊維層は、ヨウ素を吸着する物質をさらに含むことが好ましい。
【0016】
このような構成とすることにより、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0017】
[3]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記ヨウ素を吸着する物質は、ヨウ化カリウム(KI)であることが好ましい。
【0018】
このような構成とすることにより、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0019】
[4]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記ヨウ素を吸着する物質は、硼酸(HBO)であることが好ましい。
【0020】
このような構成とすることによっても、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0021】
[5]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記ヨウ素を吸着する物質は、銀微粒子であることが好ましい。
【0022】
このような構成とすることによっても、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0023】
本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、銀微粒子の平均粒径は、10nm〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
銀微粒子の平均粒径が10nmより小さい場合には銀微粒子の作製が困難となる場合があるためであり、当該平均粒径が10μmより大きい場合にはナノ繊維に対して銀微粒子が大きすぎるために銀微粒子の離脱が多くなってしまう場合があるためである。上記観点からは、銀微粒子の平均粒径は50nm〜2μmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0024】
[6]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記ナノ繊維層は、セシウムを吸着する物質をさらに含むことが好ましい。
【0025】
このような構成とすることにより、セシウム137を含む物質をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0026】
[7]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記セシウムを吸着する物質は、ゼオライト微粒子であることが好ましい。
【0027】
このような構成とすることにより、セシウム137を含む物質をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0028】
本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、ゼオライト微粒子の平均粒径は、10nm〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
ゼオライト微粒子の平均粒径が10nmより小さい場合にはゼオライト微粒子の作製が困難となる場合があるためであり、当該平均粒径が10μmより大きい場合にはナノ繊維に対してゼオライト微粒子が大きすぎるためにゼオライト微粒子の離脱が多くなってしまう場合があるためである。上記観点からは、ゼオライト微粒子の平均粒径は50nm〜2μmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0029】
[8]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記ナノ繊維層は、電界紡糸法により作製されたものであることが好ましい。
【0030】
このような構成とすることにより、均一な平均繊維径のナノ繊維を含むナノ繊維層を備え、性能の安定した放射性物質遮断マスクを構成することが可能となる。また、ポリビニルアルコールを含有するポリマー溶液に、ヨウ化カリウムや硼酸を溶解させたり、銀微粒子やゼオライト微粒子などを分散させることが可能であるため、これらの物質を含むポリマー溶液を用いて電界紡糸することにより、これらの物質を比較的容易にナノ繊維層に含ませることが可能となる。
【0031】
[9]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記マスク本体は、前記ナノ繊維層と、前記マイクロ繊維層としての、前記ナノ繊維層の両面に積層された2つのマイクロ繊維層との積層体からなることが好ましい。
【0032】
このような構成とすることにより、ナノ繊維層がマイクロ繊維層に挟まれた、いわゆるサンドイッチ構造の放射性物質遮断マスクを構成することが可能となる。このため、ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、これらの物質が直接人体に入ることを防止することが可能となり、安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0033】
[10]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記マスク本体は、前記ナノ繊維層と、当該ナノ繊維層の一方面に積層された前記マイクロ繊維層との積層体を一対備え、これら一対の積層体が前記ナノ繊維層が内側に位置するように配置されてなることも好ましい。
【0034】
このような構成とすることによっても、ナノ繊維層がマイクロ繊維層に挟まれた、いわゆるサンドイッチ構造の放射性物質遮断マスクを構成することが可能となる。このため、ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、これらの物質が直接人体に入ることを防止することが可能となり、安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0035】
[11]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記マスク本体は、前記ナノ繊維層と、当該ナノ繊維層の一方面に積層された前記マイクロ繊維層との積層体からなり、人体に装着したとき当該積層体が前記ナノ繊維層が外側に向くように構成されてなることも好ましい。
【0036】
ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、上記のような構成とすることにより、これらの物質が直接人体に入ることを防止することが可能となり、安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0037】
[12]本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、前記マスク本体は、人体に装着したとき、前記ナノ繊維層よりも鼻口側に位置するように配置される第2ナノ繊維層をさらに備えることが好ましい。
【0038】
このような構成とすることにより、ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、第2ナノ繊維層の存在によりこれらの物質が直接人体に入ることをより確実に防止することが可能となり、より一層安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0039】
第2ナノ繊維層は、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にある第2ナノ繊維を含むことが好ましい。第2ナノ繊維の平均繊維径が10nmより小さい場合には第2ナノ繊維の作製が困難となる場合があるためであり、当該平均繊維径が3000nmより大きい場合には表面積や細孔の観点から、ヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを分離・捕集することが困難となる場合があるためである。上記観点からは、ナノ繊維の平均繊維径は50nm〜500nmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0040】
なお、第2ナノ繊維を構成する材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)だけでなく、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、シルク、セルロース、キトサン等、各種のポリマーを目的に応じて用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態1に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図2】実施形態1におけるナノ繊維層製造装置100の正面図。
【図3】実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造工程を示すフローチャート。
【図4】実施形態2に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図5】実施形態3に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図6】実施形態4に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図7】実施形態5に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図8】実施形態6に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図9】実施形態7に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図10】実施形態8に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【図11】実施形態9に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の放射性物質遮断マスクについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0043】
[実施形態1]
1.放射性物質遮断マスクの構成
まず、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクの構成を説明する。
図1は、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図1(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1の素材段階での斜視図であり、図1(b)はマスク本体1の部分拡大断面図であり、図1(c)は図1(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
なお、構成等を示す図は全て模式図であり、実際の大きさ、厚さ等の関係と必ずしも一致するものではない。
【0044】
実施形態1に係る放射性物質遮断マスクは、鼻口を覆うマスク本体1と、当該マスク本体1に配設された装着用部材(図示せず。)とを備え、マスク本体1は、平均繊維径が1〜100μmの範囲内(例えば10nm)にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、当該マイクロ繊維層10に積層された、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内(例えば200nm)にあるナノ繊維22を含むナノ繊維層20とを有する(図1(a)〜図1(c)参照。)。そして、マスク本体1は、ナノ繊維層20と、マイクロ繊維層としての、ナノ繊維層20の両面に積層された2つのマイクロ繊維層10,30との積層体からなる。
【0045】
ナノ繊維層20の層厚は300nm〜5000nmの範囲内(例えば1000nm。)である。マイクロ繊維層10,30の層厚は目的に応じて任意の層厚とすることができる。
【0046】
ナノ繊維22の平均繊維径は上記したとおり10nm〜3000nmの範囲内(例えば200nm)にある。マイクロ繊維12の平均繊維径は上記したとおり1〜100μmの範囲内(例えば10μm)にある。
ナノ繊維22は、ポリビニルアルコール(PVA)からなる。
【0047】
ナノ繊維層20は、電界紡糸法により作製されたものである。
【0048】
2.ナノ繊維層製造装置100
次に、実施形態1におけるナノ繊維層製造装置100の構成を説明する。
図2は、実施形態1におけるナノ繊維層製造装置100の正面図である。図2においては、一部の部材は断面図として示している。
【0049】
ナノ繊維層製造装置100は、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクを製造するための装置である。つまり、実施形態1においては放射性物質遮断マスク製造装置であるともいえる。
ナノ繊維層製造装置100は、図2に示すように、搬送装置110と、1台の電界紡糸装置120とを備える。なお、2台以上の電界紡糸装置を備えるナノ繊維層製造装置としてもよい。
【0050】
搬送装置110は、マイクロ繊維層10を所定の搬送速度で搬送する。搬送装置110は、マイクロ繊維層10を繰り出す繰り出しローラー111、マイクロ繊維層10を巻き取る巻き取りローラー112、マイクロ繊維層10の張りを調整するテンションローラー113,118と、繰り出しローラー111と巻き取りローラー112との間に位置する補助ローラー114を備える。繰り出しローラー111及び巻き取りローラー112は、図示しない駆動モーターにより回転駆動される構造となっている。
電界紡糸装置120は、搬送装置110により搬送されているマイクロ繊維層10上にナノ繊維22を含むナノ繊維層20を形成する。
【0051】
電界紡糸装置120は、図2に示すように、筐体200と、ノズルユニット210と、ポリマー溶液供給部230と、コレクター250と、電源装置260と、補助ベルト装置270とを備える。電界紡糸装置120は、後述する複数の上向きノズル220の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら吐出して、ナノ繊維層20を形成する。
【0052】
筐体200は、導電体からなり、接地されている。
ノズルユニット210は、複数の上向きノズル220を有する。
本発明の放射性物質遮断マスクを製造するためのナノ繊維層製造装置には、様々な大きさ及び様々な形状を有するノズルユニットを用いることができるが、実施形態1におけるノズルユニット210は、上面から見たときに一辺が0.5m〜3mの長方形(正方形を含む)に見える大きさで、ブロック状の形状を有する。
【0053】
上向きノズル220は、ポリマー溶液供給部230から供給されるポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出するノズルである。上向きノズル220を構成する材料としては導電体を用いることができ、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム等を用いることができる。
【0054】
上向きノズル220は、例えば、1.5cm〜6.0cmのピッチで配列されている。上向きノズル220の数は、例えば、36個(縦横同数に配列した場合、6個×6個)〜21904個(縦横同数に配列した場合、148個×148個)とすることができる。
【0055】
なお、実施形態1においては、ノズルとして上向きノズル220を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。ノズルとして横向きノズルを用いてもよいし、下向きノズルを用いてもよい。
【0056】
ポリマー溶液供給部230は、原料タンク232及びポリマー溶液供給装置234を備える。
原料タンク232は、ナノ繊維層20の原料となるポリマー溶液を貯蔵する。原料タンク232は、ポリマー溶液の分離や凝固を防ぐための撹拌装置233を内部に有する。原料タンク232には、ポリマー溶液供給装置234のパイプ236が接続されている。
【0057】
ポリマー溶液供給装置234は、ポリマー溶液を通過させるパイプ236及び供給動作を制御するバルブ238からなり、原料タンク232に貯蔵されたポリマー溶液をノズルユニット210に供給する。なお、ポリマー溶液供給装置は1つのノズルユニットにつき最低1つあればよく、複数あってもよい。
【0058】
コレクター250は、ノズルユニット210の上方に配置されている。コレクター250は導電体からなり、図2に示すように、絶縁部材252を介して筐体200に取り付けられている。
電源装置260は、上向きノズル220と、コレクター250との間に高電圧を印加する。電源装置260の正極はコレクター250に接続され、電源装置260の負極は筐体200を介してノズルユニット210に接続されている。
【0059】
補助ベルト装置270は、長尺のマイクロ繊維層10の搬送速度に同期して回転する補助ベルト272と、補助ベルト272の回転を助ける5つの補助ベルト用ローラー274とを有する。5つの補助ベルト用ローラー274のうち1つ又は2つ以上の補助ベルト用ローラーが駆動ローラーであり、残りの補助ベルト用ローラーが従動ローラーである。コレクター250とマイクロ繊維層10との間に補助ベルト272が配設されているため、マイクロ繊維層10は、正の高電圧が印加されているコレクター250に引き寄せられることなくスムーズに搬送されるようになる。
【0060】
3.放射性物質遮断マスクの製造方法
次に、実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法を説明する。
図3は、実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法のフローチャートである。
【0061】
実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法は、図3に示すように、マイクロ繊維層準備工程S1と、ポリマー溶液作製工程S2と、電界紡糸工程S3と、積層工程S4とを含む。実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法は、上記したナノ繊維層製造装置100を用いて、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクを製造する方法である。
【0062】
S1.マイクロ繊維層準備工程
マイクロ繊維層準備工程S1は、マイクロ繊維層10を準備する工程である。実施形態1においては、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクを製造するため、平均繊維径10μmの不織布からなるマイクロ繊維層を準備する。
【0063】
S2.ポリマー溶液作製工程
ポリマー溶液作製工程S2は、ポリマー材料を含有するポリマー溶液を作製する工程である。実施形態1においては、ポリマー材料としてポリビニルアルコール(PVA)を用い、溶媒として水を用いる。ポリマー材料の分子量、濃度、温度は、製造する放射性物質遮断マスクの種類等に応じて適宜決定することができる。
【0064】
S3.電界紡糸工程
電界紡糸工程S3は、ポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層としてのマイクロ繊維層10上にナノ繊維層20を形成し、マイクロ繊維層10とナノ繊維層20とが積層した構造を有する積層体を製造する工程である。
【0065】
まず、作製したポリマー溶液を、ポリマー溶液供給部230を通じてノズルユニット210へ供給する。
次に、長尺シートであるマイクロ繊維層10を搬送装置110にセットし、その後、マイクロ繊維層10を繰り出しローラー111から巻き取りローラー112に向けて所定の搬送速度で搬送させながら、電界紡糸装置120においてマイクロ繊維層10にナノ繊維層20を形成し、マイクロ繊維層10とナノ繊維層20とが積層した構造を有する積層体を作製する。当該積層体は、巻き取りローラー112に巻き取られる。
【0066】
S4.積層工程
積層工程S4は、マイクロ繊維層10とナノ繊維層20とが積層した構造を有する積層体におけるナノ繊維層20が形成された面に、当該ナノ繊維層20を覆うように別のマイクロ繊維層30を形成する工程である。
【0067】
その後、上記のようにして製造された素材をマスク本体の形状に切断してマスク本体1を作製するとともに、当該マスク本体1に装着用部材を取り付けることにより、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクを製造することができる。
【0068】
以下に、実施形態1における紡糸条件を例示的に示す。
【0069】
ポリマー材料は、上述したようにポリビニルアルコールであり、溶媒は水である。溶媒は、水にアルコール等の別の溶媒を混合して用いても良い。ポリマー溶液には、導電性向上剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0070】
搬送速度は、例えば0.2m/分〜100m/分に設定することができる。コレクター250とノズルユニット210とに印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができ、50kV付近に設定することが好ましい。
【0071】
紡糸区域の温度は、例えば25℃に設定することができる。紡糸区域の湿度は、例えば30%に設定することができる。
【0072】
4.放射性物質遮断マスクの効果
実施形態1に係る放射性物質遮断マスクによれば、マスク本体1が、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22を含むナノ繊維層20とを備えるため、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した塵又は埃を効率良く分離・捕集することが可能となる。
また、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクによれば、ナノ繊維22がヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気を分離・捕集することが可能となる。
【0073】
その結果、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクは、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0074】
また、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクによれば、ナノ繊維層20が電界紡糸法により作製されたものであるため、均一な平均繊維径のナノ繊維22を含むナノ繊維層20を備え、性能の安定した放射性物質遮断マスクを構成することが可能となる。
【0075】
さらにまた、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクによれば、マスク本体1が、ナノ繊維層20と、当該ナノ繊維層20の両面に積層された2つのマイクロ繊維層10,30との積層体からなるため、ナノ繊維層がマイクロ繊維層に挟まれた、いわゆるサンドイッチ構造の放射性物質遮断マスクを構成することが可能となる。このため、ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、これらの物質が直接人体に入ることを防止することが可能となり、安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0076】
[実施形態2]
図4は、実施形態2に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図4(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1aの素材段階での斜視図であり、図4(b)はマスク本体1aの部分拡大断面図であり、図4(c)は図4(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0077】
実施形態2に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態1に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、ナノ繊維層の構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なる。すなわち、実施形態2に係る放射性物質遮断マスクにおいては、図4に示すように、ナノ繊維層20aが、ナノ繊維22aに加えて、ヨウ素を吸着する物質としてのヨウ化カリウムをさらに含む。
【0078】
このように、実施形態2に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20aの構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なるが、マスク本体1aが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22aを含むナノ繊維層20aとを備えるとともに、ナノ繊維22aがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0079】
また、実施形態2に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20aが、ナノ繊維22aに加えて、ヨウ素を吸着する物質としてのヨウ化カリウムをさらに含むため、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0080】
実施形態2に係る放射性物質遮断マスクは、ポリマー溶液作製工程S2において、溶媒としての水にポリビニルアルコール及びヨウ化カリウムを溶解させてポリマー溶液を作製すること以外は、実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。
【0081】
[実施形態3]
図5は、実施形態3に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図5(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1bの素材段階での斜視図であり、図5(b)はマスク本体1bの部分拡大断面図であり、図5(c)は図5(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0082】
実施形態3に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態2に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、ナノ繊維層の構成が実施形態2に係る放射性物質遮断マスクとは異なる。すなわち、実施形態3に係る放射性物質遮断マスクにおいては、図5に示すように、ナノ繊維層20bが、ナノ繊維22bに加えて、ヨウ素を吸着する物質としての硼酸(HBO)をさらに含む。
【0083】
このように、実施形態3に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20bの構成が実施形態2に係る放射性物質遮断マスクとは異なるが、マスク本体1bが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22bを含むナノ繊維層20bとを備えるとともに、ナノ繊維22bがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態2に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0084】
また、実施形態3に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20bが、ナノ繊維22bに加えて、ヨウ素を吸着する物質としてのヨウ化カリウムをさらに含むため、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0085】
実施形態3に係る放射性物質遮断マスクは、ポリマー溶液作製工程S2において、溶媒としての水にポリビニルアルコール及び硼酸(HBO)を溶解させてポリマー溶液を作製すること以外は、実施形態2における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。
【0086】
[実施形態4]
図6は、実施形態4に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図6(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1cの素材段階での斜視図であり、図6(b)はマスク本体1cの部分拡大断面図であり、図6(c)は図6(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0087】
実施形態4に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態1に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、ナノ繊維層の構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なる。すなわち、実施形態4に係る放射性物質遮断マスクにおいては、図6に示すように、ナノ繊維層20cが、ナノ繊維22cに加えて、ヨウ素を吸着する物質としての銀微粒子24cをさらに含む。銀微粒子24cの平均粒径は、10nm〜10μmの範囲内(例えば100nm)にある。
【0088】
このように、実施形態4に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20cの構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なるが、マスク本体1cが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22cを含むナノ繊維層20cとを備えるとともに、ナノ繊維22cがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0089】
また、実施形態4に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20cが、ナノ繊維22cに加えて、ヨウ素を吸着する物質としての銀微粒子24cをさらに含むため、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0090】
実施形態4に係る放射性物質遮断マスクは、ポリマー溶液作製工程S2において、溶媒としての水にポリビニルアルコールを溶解させるとともに銀微粒子24cを分散させてポリマー溶液を作製すること以外は、実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。
【0091】
[実施形態5]
図7は、実施形態5に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図7(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1dの素材段階での斜視図であり、図7(b)はマスク本体1dの部分拡大断面図であり、図7(c)は図7(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0092】
実施形態5に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態1に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、ナノ繊維層の構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なる。すなわち、実施形態5に係る放射性物質遮断マスクにおいては、図7に示すように、ナノ繊維層20dが、ナノ繊維22dに加えて、セシウムを吸着する物質としてのゼオライト微粒子24dをさらに含む。ゼオライト微粒子24dの平均粒径は、10nm〜10μmの範囲内(例えば100nm)にある。
【0093】
このように、実施形態5に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20dの構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なるが、マスク本体1dが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22dを含むナノ繊維層20dとを備えるとともに、ナノ繊維22dがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0094】
また、実施形態5に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20dが、ナノ繊維22dに加えて、セシウムを吸着する物質としてのゼオライト微粒子24dをさらに含むため、セシウム137を含む物質を高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0095】
実施形態5に係る放射性物質遮断マスクは、ポリマー溶液作製工程S2において、溶媒としての水にポリビニルアルコールを溶解させるとともにゼオライト微粒子24dを分散させてポリマー溶液を作製すること以外は、実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。
【0096】
[実施形態6]
図8は、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図8(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1eの素材段階での斜視図であり、図8(b)はマスク本体1eの部分拡大断面図であり、図8(c)は図8(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0097】
実施形態6に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態1に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、ナノ繊維層の構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なる。すなわち、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクにおいては、図8に示すように、ナノ繊維層20eが、ナノ繊維22eに加えて、ヨウ素を吸着する物質としての銀微粒子24e及びセシウムを吸着する物質としてのゼオライト微粒子26eをさらに含む。銀微粒子24eの平均粒径は、10nm〜10μmの範囲内(例えば100nm)にあり、ゼオライト微粒子26eの平均粒径は、10nm〜10μmの範囲内(例えば100nm)にある。
【0098】
このように、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20eの構成が実施形態1に係る放射性物質遮断マスクとは異なるが、マスク本体1eが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22eを含むナノ繊維層20eとを備えるとともに、ナノ繊維22eがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態1に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0099】
また、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクは、ナノ繊維層20eが、ナノ繊維22eに加えて、ヨウ素を吸着する物質としての銀微粒子24e及びセシウムを吸着する物質としてのゼオライト微粒子26eをさらに含むため、ヨウ素131が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素の蒸気をより一層高い効率で分離・捕集することが可能となり、セシウム137を含む物質を高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0100】
実施形態6に係る放射性物質遮断マスクは、ポリマー溶液作製工程S2において、溶媒としての水にポリビニルアルコールを溶解させるとともに銀粒子24e及びゼオライト微粒子26eを分散させてポリマー溶液を作製すること以外は、実施形態1における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。
【0101】
[実施形態7]
図9は、実施形態7に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図9(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1fの素材段階での斜視図であり、図9(b)はマスク本体1fの部分拡大断面図であり、図9(c)は図9(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0102】
実施形態7に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態6に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、マスク本体の積層構造が実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合とは異なる。すなわち、実施形態7に係る放射性物質遮断マスクにおいては、図9に示すように、マスク本体1fは、ナノ繊維層20fと、当該ナノ繊維層20fの一方面に積層されたマイクロ繊維層10との積層体を一対備え、これら一対の積層体がナノ繊維層20fが内側に位置するように配置されてなる。
【0103】
このように、実施形態7に係る放射性物質遮断マスクは、マスク本体の積層構造が実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合とは異なるが、マスク本体1fが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22fを含むナノ繊維層20fとを備えるとともに、ナノ繊維22fがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0104】
また、実施形態7に係る放射性物質遮断マスクは、マスク本体1fが、ナノ繊維層20fと、当該ナノ繊維層20fの一方面に積層されたマイクロ繊維層10との積層体を一対備え、これら一対の積層体がナノ繊維層20fが内側に位置するように配置されてなるため、ナノ繊維層がマイクロ繊維層に挟まれた、いわゆるサンドイッチ構造の放射性物質遮断マスクを構成することが可能となる。このため、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、これらの物質が直接人体に入ることを防止することが可能となり、安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0105】
実施形態7に係る放射性物質遮断マスクは、積層工程S4において、ナノ繊維層20fと、当該ナノ繊維層20fの一方面に積層されたマイクロ繊維層10との積層体を一対準備するとともに、これら一対の積層体がナノ繊維層20fが内側に位置するようにこれら一対の積層体を積層すること以外は、実施形態6における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。
【0106】
[実施形態8]
図10は、実施形態8に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図10(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1gの素材段階での斜視図であり、図10(b)はマスク本体1gの部分拡大断面図であり、図10(c)は図10(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0107】
実施形態8に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態6に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、マスク本体の積層構造が実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合とは異なる。すなわち、実施形態8に係る放射性物質遮断マスクにおいては、図10に示すように、マスク本体1gが、ナノ繊維層20gと、当該ナノ繊維層20gの一方面に積層されたマイクロ繊維層10との積層体からなり、人体に装着したとき当該積層体がナノ繊維層20gが外側に向くように構成されてなる。
【0108】
このように、実施形態8に係る放射性物質遮断マスクは、マスク本体の積層構造が実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合とは異なるが、マスク本体1gが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22gを含むナノ繊維層20gとを備えるとともに、ナノ繊維22gがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0109】
また、実施形態8に係る放射性物質遮断マスクは、マスク本体1gが、ナノ繊維層20gと、当該ナノ繊維層20gの一方面に積層されたマイクロ繊維層10との積層体からなり、人体に装着したとき当該積層体がナノ繊維層20gが外側に向くように構成されてなるため、ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、これらの物質が直接人体に入ることを防止することが可能となり、安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0110】
実施形態8に係る放射性物質遮断マスクは、積層工程S4を実施しないこと以外は、実施形態6における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。
【0111】
[実施形態9]
図11は、実施形態9に係る放射性物質遮断マスクを説明するために示す図である。図11(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態の放射性物質遮断マスクにおけるマスク本体1hの素材段階での斜視図であり、図11(b)はマスク本体1hの部分拡大断面図であり、図11(c)は図11(b)の符号Aで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0112】
実施形態9に係る放射性物質遮断マスクは、基本的には実施形態6に係る放射性物質遮断マスクと同様の構成を有するが、マスク本体の積層構造が実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合とは異なる。すなわち、実施形態9に係る放射性物質遮断マスクは、図11に示すように、マスク本体1hにおいて第2ナノ繊維層40をさらに備える。
【0113】
第2ナノ繊維層40は、図11(b)に示すように、人体に装着したとき、ナノ繊維層20hよりも鼻口側(内側)に位置するように、マイクロ繊維層30の鼻口側(内側)に配置されている。第2ナノ繊維層は、第2ナノ繊維からなる。
第2ナノ繊維は、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内(例えば200nm)にあり、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)からなる。なお、第2ナノ繊維はポリビニルアルコール(PVA)以外のポリマーからなるものであってもよい。
【0114】
このように、実施形態9に係る放射性物質遮断マスクは、マスク本体の積層構造が実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合とは異なるが、マスク本体1hが、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維12を含むマイクロ繊維層10と、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維22hを含むナノ繊維層20hとを備えるとともに、ナノ繊維22hがヨウ素捕集効果のあるポリビニルアルコール(PVA)からなるため、実施形態6に係る放射性物質遮断マスクの場合と同様に、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が付着した物質や、ヨウ素131を含むヨウ素のヨウ素蒸気を分離・捕集することが可能で、人体に入る放射性物質(特にヨウ素131)の量を大幅に低減することが可能な放射性物質遮断マスクとなる。
【0115】
また、実施形態9に係る放射性物質遮断マスクは、マスク本体1hが、人体に装着したとき、ナノ繊維層20hよりも鼻口側に位置するように配置される第2ナノ繊維層40をさらに備えるため、ナノ繊維層にヨウ化カリウム、硼酸、銀微粒子、ゼオライト微粒子などを含ませた場合であっても、第2ナノ繊維層40の存在によりこれらの物質が直接人体に入ることをより確実に防止することが可能となり、より一層安全な放射性物質遮断マスクとなる。
【0116】
実施形態9に係る放射性物質遮断マスクは、積層工程において、マイクロ繊維層30を形成した後に第2ナノ繊維層40をさらに形成すること以外は、実施形態6における放射性物質遮断マスクの製造方法と同様の工程を実施することにより、製造することができる。第2ナノ繊維層40の形成は、例えば、電界紡糸法により行うことができる。
【0117】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0118】
(1)上記各実施形態における各構成要素の数、位置関係、大きさは例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0119】
(2)本発明の放射性物質遮断マスクにおいては、マイクロ繊維層にヨウ素を吸着する物質を含ませてもよい。また、マイクロ繊維層にセシウムを吸着する物質を含ませてもよい。
【0120】
(3)上記実施形態9においては、第2ナノ繊維層40がマイクロ繊維層30の鼻口側(内側)に配置されているマスク本体1hを例にとって本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第2ナノ繊維層がナノ繊維層よりも鼻口側に位置するならば、どの位置に第2ナノ繊維層が配置されているマスク本体としてもよい。
【0121】
(4)上記実施形態1においては、上記のナノ繊維製造装置100を用いて放射性物質遮断マスクを製造したが、本発明はこれに限定されるものではない。上記のナノ繊維製造装置以外の製造装置を用いて放射性物質遮断マスクを製造することもできる。
【符号の説明】
【0122】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h…マスク本体、10,30…マイクロ繊維層、12…マイクロ繊維、20,20a,20b,20c,20d,20e,20f,20g,20h…ナノ繊維層、22、22a,22b,22c,22d,22e,22f,22g,22h…ナノ繊維、24c,24e,24f,24g,24h…銀微粒子、24d,26e,26f,26g,26h…ゼオライト微粒子、100…ナノ繊維層製造装置、110…搬送装置、111…繰り出しローラー、112…巻き取りローラー、113,118…テンションローラー、114…補助ローラー、120…電界紡糸装置、200…筐体、210…ノズルユニット、220…上向きノズル、230…ポリマー溶液供給部、232…原料タンク、233…撹拌装置、234…ポリマー溶液供給装置、236…パイプ、238…バルブ、250…コレクター、252…絶縁部材、260…電源装置、270…補助ベルト装置、272…補助ベルト、274…補助ベルト用ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻口を覆うマスク本体と、当該マスク本体に配設された装着用部材とを備え、
前記マスク本体は、平均繊維径が1〜100μmの範囲内にあるマイクロ繊維を含むマイクロ繊維層と、当該マイクロ繊維層に積層された、平均繊維径が10nm〜3000nmの範囲内にあるナノ繊維を含むナノ繊維層とを有し、
前記ナノ繊維がポリビニルアルコールからなることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記ナノ繊維層は、ヨウ素を吸着する物質をさらに含むことを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項3】
請求項2に記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記ヨウ素を吸着する物質は、ヨウ化カリウムであることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項4】
請求項3に記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記ヨウ素を吸着する物質は、硼酸(二酸化ホウ素)であることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項5】
請求項3に記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記ヨウ素を吸着する物質は、銀微粒子であることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記ナノ繊維層は、セシウムを吸着する物質をさらに含むことを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項7】
請求項6に記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記セシウムを吸着する物質は、ゼオライト微粒子であることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記ナノ繊維層は、電界紡糸法により作製されたものであることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記マスク本体は、前記ナノ繊維層と、前記マイクロ繊維層としての、前記ナノ繊維層の両面に積層された2つのマイクロ繊維層との積層体からなることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記マスク本体は、前記ナノ繊維層と、当該ナノ繊維層の一方面に積層された前記マイクロ繊維層との積層体を一対備え、これら一対の積層体が前記ナノ繊維層が内側に位置するように配置されてなることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記マスク本体は、前記ナノ繊維層と、当該ナノ繊維層の一方面に積層された前記マイクロ繊維層との積層体からなり、人体に装着したとき当該積層体が前記ナノ繊維層が外側に向くように構成されてなることを特徴とする放射性物質遮断マスク。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の放射性物質遮断マスクにおいて、
前記マスク本体は、人体に装着したとき、前記ナノ繊維層よりも鼻口側に位置するように配置される第2ナノ繊維層をさらに備えることを特徴とする放射性物質遮断マスク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−223254(P2012−223254A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91545(P2011−91545)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(508231821)トップテック・カンパニー・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】TOPTEC Co., Ltd.
【Fターム(参考)】