説明

放射線照射後防護のための組成物および使用の方法

本開示は、放射線被曝後24時間を超えた後にRLIP76またはその活性断片を投与する方法を対象とし、ここで投与は放射線に被曝した哺乳類の防護および処置に有効である。さらに、RLIP76および他の放射線防護剤、例えば酸化防止剤を含む組成物が開示される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は概して、放射線への被曝に関し、より具体的には、RLIP76タンパク質成分を含む組成物、および哺乳類の放射線照射後防護におけるそのような組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
放射線損傷はいくつかの機序から生じ、各機序の相対的な寄与は被曝量に依存する。非常に高い線量では、放射線は、DNAの二重らせん鎖の完全な切断(二本鎖切断、DSB)をもたらす直接的なDNA損傷から細胞死を引き起こす。しかしながら、被曝レベルが減少するにつれて、他の影響が顕著になる。これらの中には、元素酸素に特に関連している非常に反応性に富んだフリーラジカル(活性酸素種; ROS)を生成する放射線の電離エネルギーに起因した過酸化過程があり、これは核が直接的な攻撃から免れた細胞においても起こる。活性酸素種は、タンパク質、脂質および核酸を含む、その行く手のほぼ何にでも結合してそれを改変するその性向のため、有毒である。時間とともに、顕著なレベルのROSを有する細胞は、DNAに直接的影響を受けた細胞と同じくらい等しく損傷を受けうる。ROS損傷はまた、ゲノム不安定性に起因して最終的には致死性の、DNA異常をもたらしうる。したがって、細胞が耐えることのできる傷害の量は、受ける放射線の線量に依るものと考えられ、直接的なDNA損傷、ROS損傷、およびROSの作用による間接的なDNA損傷の混在を反映するものと考えられる。生物に対する全体的な損傷のタイミングおよび程度は、受ける放射線の線量に大きく依存し、生存率と被曝との間の漸進的で非直線的な関係を生ずる。
【0003】
放射能中毒の処置の候補は、多くの場合、ROSの作用に対する正常な細胞防御の増強を目的とする作用物質であった。例としては、フリーラジカル捕捉剤(エダラボン(3メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン)、ビタミンEなど)、スーパーオキシドジスムターゼ類似体(テンポール(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンイルオキシ))、およびROSの細胞内濃度を低減するための他の作用物質が挙げられる。候補となるこれらの処置は、放射線被曝の前にまたはその直後に行われるように設計されている。これらの作用物質からの何らかの利点の評価は、通常、被曝から1ヶ月後の生存率の改善を目的として設計されている。というのは、その時までには、すべての毒性が上記の間接的な過程の結果となるからである。
【0004】
一般的なベンチマーク測定は、マウスを候補作用物質で処置する場合に被曝から30日後に50%の死亡率をもたらす放射線の線量と、処置が行われない(または対照処置が行われる)場合にこのLD50/30を達成する放射線の線量との比と定義される、線量減少係数(DRF)である。この測定値は直線的ではないため、DRFのわずかな増加が放射線抵抗性のいくぶん大きな変化を示唆する。米国国防総省によるさらなる評価に向けて十分に有望だと考えられる候補作用物質の場合、1.2またはそれ以上のDRFが通常必要とされる。この要件は大きなハードルでありうる。エダラボンもテンポールもともにインビトロの系では顕著な効果を有するが、動物実験では、報告されている1.3のDRFしか達成できない。この限界は、細胞が、ROSが他の構成成分と結び付く前にROSに結合しうる種々のタンパク質などといったフリーラジカルに対する防御を既に有しているために起こりえる。しかし、そのような結合は、複合体化されたタンパク質それ自体が細胞にとって有毒であるという点で完全な防護を与えるものではない。それゆえ、さらなる犠牲的捕捉剤は、有益であるものの、ラジカルが一旦「フリー」でなくなると、それ以後のいずれの作用も防ぐことができないので、細胞防御カスケードにおける「律速」段階とはならない。
【0005】
さらに、現在利用できる放射線防護剤は放射線被曝の前に、または放射線被曝の直後に、例えば放射線被曝後4時間以内に投与されなければならない。Landauer et al., 「Genistein treatment protects mice from ionizing radiation injury.」 J APPL TOXICOL 23(6):379-85 (2003) (非特許文献1); Vijay-Kumar et al., 「Flagellin treatment protects against chemicals, bacteria, viruses, and radiation.」 J IMMUNOL 180(12):8280-5 (2008) (非特許文献2)。しかし残念ながら、被曝から4時間以内に放射線被曝に対する処置を行うことは不可能な場合もある。それゆえ、有効な放射線防護剤、具体的には、放射線被曝後24時間を超えた後に投与される場合に有効である放射線照射後防護剤が当技術分野において大いに必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Landauer et al., 「Genistein treatment protects mice from ionizing radiation injury.」 J APPL TOXICOL 23(6):379-85 (2003)
【非特許文献2】Vijay-Kumar et al., 「Flagellin treatment protects against chemicals, bacteria, viruses, and radiation.」 J IMMUNOL 180(12):8280-5 (2008)
【発明の概要】
【0007】
本開示は概して、生物が放射線に被曝してからずいぶん後になって、例えば生物が放射線に被曝してから24時間を超えた後になって、対象すなわち生物、例えばヒトなどの哺乳類における放射線への被曝の影響を処置または管理する方法を対象にする。これらの方法は、放射線への被曝後、すなわち放射線照射後の生物へのRLIP76タンパク質またはRLIP76タンパク質の有効部分の治療的有効量の投与を伴う。驚いたことには、本明細書において開示されるように、生物は放射線への被曝後24時間を超えた後にRLIP76タンパク質またはその有効部分の投与から恩恵を受け続ける。本明細書において用いられる場合、「RLIP76タンパク質の有効部分」または「その有効部分」または「活性断片」は、細胞または生物における放射線への被曝の影響の処置を促進する任意のRLIP76タンパク質断片、タンパク質部分、またはそれらの組み合わせである。RLIP76タンパク質は組み換えRLIP76タンパク質またはその断片もしくは部分でありうる。本明細書において開示される方法は、放射線への被曝の前にまたは放射線への被曝に先立ち、RLIP76タンパク質またはその有効部分を生物に投与することを含まない。
【0008】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその有効部分は、放射線被曝後24時間を超えた後に1回または複数回、生物に投与される。RLIP76タンパク質またはその有効部分は、放射線被曝のおよそ25時間後、26時間後、27時間後、28時間後、29時間後、30時間後、31時間後、32時間後、33時間後、34時間後、35時間後、36時間後、42時間後、48時間後、60時間後、72時間後、84時間後、96時間後、4.5日後、5日後、5.5日後、6日後、6.5日後、7日後、7.5日後、8日後、8.5日後、9日後、9.5日後、10日後、10.5日後、11日後、11.5日後、12日後、12.5日後、13日後、13.5日後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、7週間後、8週間後またはそれ以上の後に、1回または複数回投与することができる。
【0009】
他の態様において、RLIP76タンパク質またはその有効部分は、放射線被曝後2回またはそれ以上の回数、生物に投与される: 1回目は、放射線被曝後24時間以内に少なくとも1回、2回目は、放射線被曝後24時間を超えた後に少なくとも1回投与される。RLIP76タンパク質またはその有効部分の第一の用量を放射線被曝後およそ1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間または24時間の時点で生物に投与することができる。1回または複数回のそのような用量を放射線被曝後24時間以内に投与することができる。RLIP76タンパク質またはその有効部分の第二の用量を放射線被曝後およそ30時間、36時間、42時間、48時間、60時間、3日、3.5日、4日、4.5日、5日、5.5日、6日、6.5日、7日、7.5日、8日、8.5日、9日、9.5日、10日、10.5日、11日、11.5日、12日、12.5日、13日、13.5日、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週またはそれ以上の時点で生物に投与することができる。1回または複数回のそのような用量を放射線被曝後24時間を超えた後に投与することができる。放射線被曝後24時間以内および24時間を超えた後に投与される用量は、ほぼ同じ量のRLIP76タンパク質もしくはその活性断片を有してもよく、または異なる量を有してもよい。さらに、2回またはそれ以上の用量がこれらの各時間枠のそれぞれの中で与えられる場合に、各用量は、ほぼ同じ量のRLIP76タンパク質もしくはその活性断片を有してもよく、または異なる量を有してもよい。
【0010】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射の24時間後に1回から10回投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射の24時間後に1回から5回投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射の24時間後に3回から10回投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射の24時間後に2回から8回投与することができる。
【0011】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射の24時間後に少なくとも3回投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射の24時間後に少なくとも5回投与することができる。
【0012】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後24時間以内に1回もしくは複数回および/または放射線照射の24時間後に1回もしくは複数回投与される。いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後24時間以内に1回および放射線照射の24時間後に1回または複数回投与される。いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後24時間以内に1回または複数回投与され、放射線照射の24時間後にさらなる投与はされない。いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後の25時間から3ヶ月間に1回または複数回投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後の25時間から1ヶ月間に1回または複数回投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後の2ヶ月から3ヶ月間に1回または複数回投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後の48時間から2ヶ月間に1回または複数回投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、放射線照射後の1週間から1ヶ月間に投与することができる。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、先に投与されたRLIP76タンパク質またはその活性断片の薬動力学を延長する目的で放射線照射の24時間後に投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、先に投与されたRLIP76タンパク質またはその活性断片の薬学的効果を延長する目的で放射線照射の24時間後に投与される。
【0013】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片はリポソームの中に含まれ、これをプロテオリポソームまたはプロテオリポソーム組成物ということもできる。いくつかの態様において、RLIPプロテオリポソームは薬学的に許容される担体中で送達される。
【0014】
本開示のいくつかの態様は、放射線被曝後24時間を超えた後にRLIP76タンパク質またはその有効部分の有効量を生物に投与する段階を含む、そのような処置を必要とする生物において放射線被曝の影響を処置する方法を対象にする。他の態様は、(a) 放射線被曝後24時間以内にRLIP76タンパク質またはその有効部分の有効量の少なくとも第一の用量を生物に投与する段階、および(b) 放射線被曝後24時間を超えた後にRLIP76タンパク質またはその有効部分の有効量の少なくとも第二の用量を生物に投与する段階を含む、そのような処置を必要とする生物において放射線被曝の影響を処置する方法を対象にする。いくつかの態様において、生物は哺乳類、例えばヒトである。生物が被曝する放射線は、X放射線、γ放射線、エネルギー電子放射線、紫外放射線、熱放射線、宇宙放射線、電磁放射線、核放射線またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、電離放射線でありうる。他の態様において、エネルギー電子放射線はβ粒子放射線であり、または放射線は陽子放射線または重イオン放射線である。
【0015】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその有効部分は、放射線への被曝後24時間を超えた後に投与される。他の態様において、RLIP76タンパク質またはその有効部分は、放射線への被曝後24時間以内に、例えば放射線への被曝とほぼ同時に、および放射線への被曝後24時間を超えた後に投与される。本明細書において開示されるRLIP76タンパク質またはその有効部分は、当該期間の一方または両方で、すなわち、放射線への被曝後24時間以内におよび/または放射線への被曝後24時間を超えた後に、哺乳類に1回または複数回の用量で投与することができる。例えば、これらの態様のいずれも、RLIP76タンパク質が、限定されるものではないが、放射線への被曝後24時間を超えた後に、または放射線への被曝後24時間以内におよび放射線への被曝後24時間を超えた後になど、さまざまな組み合わせで哺乳類に複数回投与されるようなものでありうる。関連する上記の態様のそれぞれにおいて、用量にはほぼ同じ量のRLIP76タンパク質もしくはその有効部分が含まれてもよく、または異なる量のRLIP76タンパク質もしくはその有効部分が含まれてもよい。
【0016】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその有効部分は、放射線被曝後24時間を超えた後に、36時間を超えた後に、48時間を超えた後に、60時間を超えた後に、72時間を超えた後に、84時間を超えた後に、および/または96時間を超えた後に生物に投与される。例えば、いくつかの態様において、用量は、放射線被曝後、それぞれ、+24時間、+48時間、+72時間および+96時間の時点で投与することができる。他の態様において、用量は、放射線被曝後48時間および96時間の時点で、放射線被曝後24時間および72時間の時点で、放射線被曝後0時間、48時間および96時間の時点で、放射線被曝後14時間および48時間の時点で、放射線被曝後16時間および64時間の時点で、または放射線被曝後1時間、24時間および48時間の時点で投与することができる。
【0017】
RLIP76タンパク質またはその有効部分は、本明細書において開示されるようにそれを必要とする哺乳類に約0.5 mg/kg体重〜約14.0 mg/kg体重、例えば約1.0 mg/kg体重、約1.5 mg/kg体重、約2.0 mg/kg体重、約2.5 mg/kg体重、約3.0 mg/kg体重、約3.5 mg/kg体重、約4.0 mg/kg体重、約4.5 mg/kg体重、約5.0 mg/kg体重、約5.5 mg/kg体重、約6.0 mg/kg体重、約6.5 mg/kg体重、約7.0 mg/kg体重、約7.5 mg/kg体重、約8.0 mg/kg体重、約8.5 mg/kg体重、約9.0 mg/kg体重、約9.5 mg/kg体重、約10.0 mg/kg体重、約10.5 mg/kg体重、約11.0 mg/kg体重、約11.5 mg/kg体重、約12.0 mg/kg体重、約12.5 mg/kg体重、約13.0 mg/kg体重または約13.5 mg/kg体重の投与量で投与することができる。
【0018】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、少なくとも0.01 μg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、少なくとも0.1 μg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、少なくとも1 μg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、少なくとも5 μg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、少なくとも0.1 mg/kg体重の投与量で投与される。
【0019】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、約0.01 μg/kg体重〜約100 mg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質は、約0.1 μg/kg体重〜約50 mg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質は、約1 μg/kg体重〜約40 mg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質は、約5 μg/kg体重〜約25 mg/kg体重の投与量で投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質は、約0.1 mg/kg体重〜約10 mg/kg体重の投与量で投与される。
【0020】
いくつかの態様において、RLIP76タンパク質またはその活性断片は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与および経口投与からなる群より選択される投与経路を介して投与される。さらなる態様において、RLIP76タンパク質は、静脈内(iv)投与、皮下(sc)投与および経口投与(po)からなる群より選択される投与経路を介して投与される。
【0021】
いくつかの態様において、放射線被曝または放射線への被曝は少なくとも2 Gyまたは200 cGyである。さらなる態様において、放射線被曝または放射線への被曝は少なくとも5 Gyまたは500 cGyである。さらなる態様において、放射線被曝または放射線への被曝は少なくとも7.5 Gyまたは750 cGyである。さらなる態様において、放射線被曝または放射線への被曝は少なくとも10 Gyまたは1000 cGyである。さらなる態様において、放射線被曝または放射線への被曝は少なくとも20 Gyまたは2000 cGyである。さらなる態様において、放射線被曝または放射線への被曝は約200 cGy〜約5000 cGyである。さらなる態様において、放射線被曝または放射線への被曝は約2 Gy〜約100 Gyである。さらなる態様において、放射線被曝または放射線への被曝は約3 Gy〜約50 Gyである。
【0022】
いくつかの態様において、放射線被曝または放射線への被曝は少なくとも0.2 Gyの長期間の放射線被曝である。いくつかの態様において、放射線被曝または放射線への被曝は少なくとも0.5 Gyの長期間の放射線被曝である。いくつかの態様において、放射線被曝または放射線への被曝は約0.5 Gy〜約2.0 Gyの長期間の放射線被曝である。さらなる態様において、長期間の放射線被曝は少なくとも2時間である。さらなる態様において、長期間の放射線被曝は少なくとも12時間である。さらなる態様において、長期間の放射線被曝は約2時間〜48時間である。
【0023】
いくつかの態様において、投与されたRLIP76タンパク質またはその有効部分の薬学的効果は、放射線損傷のバイオマーカーを用いてモニタリングされる。さらなる態様において、放射線損傷のバイオマーカーはDNA異常を含む。さらなる態様において、放射線損傷のバイオマーカーは末梢網状赤血球におけるマイクロサテライト体(microsatellite bodies)を含む。さらなる態様において、放射線損傷のバイオマーカーはDNA異常または末梢網状赤血球におけるマイクロサテライト体を含む。さらなる態様において、放射線損傷のバイオマーカーはDNA異常および末梢網状赤血球におけるマイクロサテライト体を含む。他の態様において、投与されたRLIP76タンパク質またはその有効部分の薬学的効果は、被検対象の死亡率を用いてモニタリングされる。
【0024】
上記の態様のいずれにおいても、第二の放射線防護剤は、RLIP76タンパク質またはその有効部分と同時に、または組み合わせて生物に投与されてもよい。いくつかの態様において、第二の放射線防護剤は、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤またはスーパーオキシドジスムターゼ類似体であってよい。本明細書において開示されるRLIP76タンパク質またはその有効部分は、薬学的組成物またはプロテオリポソーム組成物中で投与されてもよい。他の態様において、薬学的組成物またはプロテオリポソーム組成物は、レクチン、糖脂質、リン脂質またはそれらの組み合わせをさらに含む。他の態様において、RLIP76タンパク質またはその有効部分は、組み換えタンパク質またはその一部分である。本開示の薬学的組成物またはプロテオリポソーム組成物は、皮下に、静脈内に、局部に、経口的に、非経口的に、またはそれらの組み合わせで投与されてもよい。
【0025】
本開示を通じて、文脈上そうでない場合を除き、「含む(comprise)」という単語または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」のような変化形は、明言されていない他の要素も含まれうるような「含むが、限定されることはない(includes, but is not limited to)」を意味するものと理解される。さらに、文脈上そうでない場合を除き、「1つの(a)」という用語の使用は、単数の対象または要素を意味してよく、あるいはそれは多数の、または1つもしくは複数のそのような対象または要素を意味してもよい。さらに、「または」の使用は本明細書において、特に記載のない限り、「および/または」を意味する。また、「要素」または「成分」などの用語は、特に記載のない限り、1つの単位を含む要素および成分も、2つ以上の単位を含む要素または成分もともに包含する。
【0026】
上記の一般的な説明も下記の詳細な説明もともに、例示および説明するだけのものであって、特許請求されている本発明を限定するものではないことが理解されるべきである。本明細書で用いられている節の見出しは、単に構成上の目的のためであり、記載されている主題を限定するものと解釈されるべきではない。特許、特許出願、論文、書物および専門書を含むがこれらに限定されない、本出願において引用されている全ての書類または書類の一部は、あらゆる目的においてその全体が参照により本明細書に明示的に組み入れられる。1つまたは複数の組み入れられている文献および同様の資料が、ある用語を、本出願におけるその用語の定義と矛盾するように定義している場合には、本出願を優先する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明のいくつかの局面をさらに実証するために含まれる。本明細書において示される具体的な態様の詳細な説明と併せてこれらの図面の1つまたは複数を参照することで、本発明をよりよく理解することができる。
【0028】
【図1】さまざまな毒性的傷害(toxic insult)による細胞死の機序。
【図2】RLIP76の生理学的意義の例。
【図3】さまざまな被曝量のX放射線で処置されたマウスのベースラインの生存曲線。図3A: 対照処置マウスにおける異なる放射線量での生存率。図3B: 死亡までの平均時間 vs 放射線量。
【図4】放射線感受性に及ぼすRLIP76の効果。示した三群は、リポソームによる処置なし(丸); RLIP76を含まないリポソームによる処置(四角); およびRLIP76を含むリポソームによる処置(三角)である。
【図5】より高線量のX線照射後の生存率に及ぼすRLIP76の効果。4匹の野生型(+/+) RIP1マウスおよび4匹のホモ接合性(-/-)マウスをそれぞれ、750 cGyのX線照射に曝露し、被曝から12時間後に腹腔内注射によって対照リポソーム(三角、ホモ接合性RIP1マウス; 菱形、野生型RIPマウス)、または腹腔内注射によって投与されるRLIP76リポソーム400 μg (四角、ホモ接合性RIP1マウス; 丸、野生型RIP1マウス)を投与することにより処置した。
【図6】500 cGy被曝後の生存率に及ぼすRLIP76の用量反応: 菱形、対照(非処置)マウス; 四角、被曝から14時間および48時間後にRLIP76リポソーム25 μgで処置されたマウス; 三角、被曝から14時間および48時間後にRLIP76リポソーム50 μgで処置されたマウス; X、被曝から14時間および48時間後にRLIP76リポソーム100 μgで処置されたマウス; 星、被曝から24時間および72時間後にRLIP76リポソーム100 μgで処置されたマウス; 丸、被曝から48時間および96時間後にRLIP76リポソーム100 μgで処置されたマウス。
【図7】未処置マウスおよびRLIP76処置マウスの50%生存率 vs 放射線量を測定する線量減少係数グラフ。
【図8】500 cGy被曝後の生存率に及ぼすRLIP76の投与時間の効果: 菱形、対照(非処置)マウス; 四角、被曝から14時間および48時間後にRLIP76リポソーム25 μgで処置されたマウス; 三角、被曝から0時間、48時間および96時間後にRLIP76リポソーム25 μgで処置されたマウス。
【図9】より高い放射線量でのRLIP76の効果: 菱形、750 cGyの対照(非処置); 四角、750 cGy、被曝から0時間、48時間および96時間後にRLIP76リポソーム100 μgで処置; 三角、1000 cGyの対照(非処置); X、1000 cGy、被曝から16時間および64時間後にRLIP76リポソーム100 μgで処置。
【図10】γ線照射後のマウスの全生存率を示す。14週齢のCD2FI雄性マウスを各16匹の個々のコホートに分け、コバルト60放射源を介して0.6 Gy/分で送達される9.25 Gyの全身γ線照射に曝露した。図のように腹腔内注射によって複数用量のリポソーム、RLIP76タンパク質および酸化防止剤(BHT)のさまざまな調製物でマウスを処置した。RLIP76タンパク質、リポソーム、および酸化防止剤BHTの複合体はTO-80Cxと表されており(80は80 nmのリポソームの平均サイズを意味し、これによって、それらは中間サイズのビヒクルと分類される); TO-80LAは、BHTを含むがRLIP76タンパク質を含まない緩衝液中で構成されたリポソームを意味する。時間は放射線被曝の前または後の時間に関連しており、50 μgの用量は、各用量で送達されるTO-80Cxの全用量中に含まれるRLIP76タンパク質の量である。この量は各マウスの体重1キログラムあたり1.67 mgのRLIP76タンパク質の用量に相当する。x軸は放射線被曝後の日数の尺度であり、y軸は各コホートにおけるその日に生存していた割合である。
【図11】γ線照射後30日の時点で依然として生存していた各コホート由来のマウスの割合の別の図である。
【図12】記述したのと同じ条件の下で処置されたCD2F1マウスのさらなるコホートの全生存率を示し、ここで処置は、被曝後の規定時間に送達された各種の送達ビヒクルおよび対照である。凡例中、5 AEDは5-アンドレステンジオールを意味する。
【図13】4 Gy/分の速度で6-MeVの光子線を介して送達される、γ線照射5 Gyの全身被曝での低被曝後のC57/B16マウスの全生存率を示す。この実験では、強制経口投与により送達され、被曝から14および48時間後に投与される2用量のTO-80Cxでマウスを処置した。示されている用量レベルは、送達されるTO-80Cxの用量中に含まれるRLIP76タンパク質の量であり、全体重あたりのタンパク質の量として表される。x軸は放射線被曝後の日数の尺度であり、y軸は各コホートにおけるその日に生存していた割合である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本開示は、少なくとも一つには、RLIP76タンパク質およびその有効部分(例えば、活性断片) (本明細書においてRLIP76ともいわれる)が放射線被曝からかなり後に投与される場合であっても、放射線被曝の毒性効果から生物を防護するうえで驚くほど効果的であるという本発明者による発見に起因する。したがって、他の放射線防護候補とは異なり、RLIP76は放射線被曝後24時間を超えた後に放射線被曝の毒性効果から生物を防護し続ける。放射線被曝を処置するためにRLIP76を用いることは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第11/741,447号、米国特許出願公開第20080279919号に開示されているが、放射線被曝からかなり後に生物に治療的防護または有用性を与え続けるRLIP76の能力は、著しい放射線被曝をもたらす事象の後に多数の人を処置することが論理的に難しいことを考えれば、驚きでもあり、重要な利点でもある。RLIP76の別の有意な利益は、予備動物実験によって裏付けられているように、例えばRLIP76プロテオリポソーム組成物を用いて、RLIP76を経口投与できるということである。とはいえ、舌下送達、口腔送達、腹腔内送達、吸入送達、静脈内送達、筋肉内送達、経粘膜送達または経皮送達を含むがこれらに限定されない、当技術分野において公知の他の投与経路によって送達を達成してもよいことが理解されよう。RLIP76の送達に加え、本明細書において開示されるRLIP76プロテオリポソームは、生物への他の放射線防護剤の送達にも有効であるものと考えられる。
【0030】
RLIP76
RLIP76 (RALBP1またはRIP1としても公知)は、細胞生理において複数の役割を果たす、ショウジョウバエ(Drosophila)からヒトにまで見出される遍在性のタンパク質である。膜結合時には、このタンパク質は、一般的な抗がん薬であるビンカアルカロイドおよびアントラサイクリンなどの両親媒性低分子を含む種々の化合物に対する多特異的排出ポンプとして機能する。しかしながら、RLIP76輸送は、活性酸素種(ROS)から形成される内因性グルタチオン求電子結合体(glutathione electrophile conjugate; GS-E)の細胞からの移動も伴う。ROSは、放射線および過剰な有機化学物質などの種々の傷害の原因によって産生され、多様なレベルで細胞に有毒である。その名が示すように、ROSは極めて反応性であり、タンパク質、脂質および核酸を含む、その行く手にあるほぼ何にでも結合し、これらの各々を、その接触と同時に改変してしまう。ROSによって脂質が受ける損傷(脂質過酸化反応)は、生じる過酸化生成物がそれ自体で有毒なため、特に有害である。これらの中には4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)などのアポトーシス促進性の反応アルケナールがあり、これらは長寿命であり、細胞内に蓄積して、最終的にはさらなる損傷および細胞死を導きうる。このように、RLIP76は、培養細胞におけるストレス応答の重要な構成要素であり、熱、化学酸化剤、化学療法剤、UV線照射およびX線照射を含むストレス因子からの防御をもたらす。
【0031】
正常細胞は、これらのROS関連毒素を結び付ける(結合する)ように設計された防御機構、主としてグルタチオンを有する。グルタチオンは求電子化合物を結合して、反応性電子を隔離する。しかしながら、結果として生じる結合体(GS-E)は、蓄積されると、細胞にとって有害または致命的であり、そのため細胞によって除去されなければならない。いずれかの特定の理論に拘束されることを望むわけではないが、これらの毒性中間体に由来するGS-Eの能動的排出は、RLIP76が酸化剤および放射ストレス因子(radiant stressor)に対する抵抗性をもたらす主な機序であると考えられる(図1)。
【0032】
RLIP76の防護効果は、潜在的に有毒な化学置換基およびその副産物の防護をしのぐ。例えば、放射線照射中に生成される活性酸素種によって引き起こされる脂質ペルオキシダーゼ(LPO)の求電子生成物は、放射線照射による細胞死滅の主な原因の一つとなりうる。本明細書において詳述されるように、これらの求電子剤のGSH結合体のRLIP76媒介輸送は放射線からの防護をもたらす。そのような防護は、遠距離または短距離電子のいずれかが関わる、電離放射線、電磁放射線、熱放射線およびレーザー放射線を含む有害な放射線から哺乳類を防護するために、用意に大規模に移入されうる。
【0033】
それゆえ、RLIP76は、内因的に生成された化学物質、代謝産物、その副産物、ならびに外因的に投与された薬物または放射線およびその副産物の輸送を媒介する。RLIP76は、大部分の化学物質およびGS-Eにも関連する副産物(例えば、4-HNEの結合体)の輸送を媒介する。例えば、RLIP76に富んだ細胞は化学毒性(有機毒性もしくは無機毒性)の形態の毒性、または損傷由来の(例えば、ストレス、酸化、アルキル化、放射線由来の)毒性に抵抗性である。ATP依存的な生体異物(例えば、GS-Eならびに外因性および内因性求電子剤)の排出を介したRLIP76の機能が図2に示されている。ここで、生体異物、放射線、その代謝物質、ミトコンドリア電子伝達および金属イオンはROSを作出し、これが膜脂質過酸化および4-ヒドロキシノネナール(脂質過酸化の毒性最終生成物)をもたらす可能性があり、これはストレスを介したシグナル伝達経路を調節しうるだけでなく、突然変異生成、発がんおよびアポトーシスにつながるDNA損傷も引き起こしうる。RLIP76は、真核細胞からの、ATP依存的な多種多様の代謝副産物、ストレス副産物および薬学的副産物、例えば両親媒性薬物、生体異物と生体内物の両方のGSH結合体(GS-E)、GS-HNEならびにロイコトリエンの排出を媒介する。GS-Eの輸送は、GSTおよびグルタチオン還元酵素(GR)の機能性を維持するために重要である。というのは、これらの酵素はGS-Eによって阻害されるからである。RLIP76は、細胞GSTと協調した機序により4-HNEの細胞内濃度を調節する。
【0034】
RLIP76の構造
RLIP76の一次構造からいくつかの興味深い特徴が明らかである。このタンパク質は4つの領域に分けることができ、そのうちの2つの中央ドメインはRac1/CDC42 GAP活性およびRal結合ドメインを保有する。2つの隣接ドメインの機能は依然として不明である。代表的な、ヒトRLIP76のヌクレオチド配列(GenBankアクセッション番号NM_006788)およびマウスRLIP76のヌクレオチド配列(NM_009067)、ならびにヒトRLIP76のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号NP_006779)およびマウスRLIP76のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号NP_033093)が報告されている。ヒトRLIP76のアミノ酸配列は、N-グリコシル化(アミノ酸番号341-344)、cAMP (アミノ酸番号113-116)、cGMP依存性のタンパク質キナーゼリン酸化(アミノ酸番号650-653)、チロシンキナーゼリン酸化(アミノ酸番号308-315)、N-ミリストイル化(myristolation) (アミノ酸番号21-26、40-45および191-196)、ロイシンジッパーパターン(アミノ酸番号547-578)およびいくつかのタンパク質キナーゼCリン酸化、カゼインキナーゼIIリン酸化のための部位、トリプシンおよびキモトリプシン切断部位を含む。RLIP76の一次構造におけるそのようなモチーフの存在、およびその容易なタンパク質分解は、RLIP76がいくつかの細胞内および細胞外過程(例えば、タンパク質プロセッシング、細胞内シグナル伝達、タンパク質分解、認識、タグ付けなど)に関与していることを示しており、RLIP76のタンパク質分解プロセッシングが複数の機能に必要であることを示している。RLIP76のペプチド断片は個別にまたは他の断片と共同してこれらのさまざまな機能を触媒することができる。例えば、RLIP76のN末端およびC末端断片、つまりATP依存性の輸送を個別に媒介できない断片は、プロテオリポソーム内で一緒に再構成されると、電荷を帯びた薬物(例えば、DOX、コルヒチン)の輸送を触媒することができる。
【0035】
いくつかの態様において、本発明のRLIP76タンパク質は、GenBankアクセッション番号NP_006779に記載されている655アミノ酸の配列を含む。いくつかの態様において、本発明のRLIP76タンパク質は、米国特許第2005/0123594号、米国特許第2006/0182749号、米国特許第2008/0279919号、米国特許第2010/0124566号、または国際公開公報第2009/100446A1号に開示されている配列を含み、それらの内容は参照によりその全体が組み入れられる。
【0036】
ABC輸送体とは異なり、RLIP76配列では膜貫通α-ヘリックスが明らかでない。しかし、特異的抗体を用いた免疫組織化学的研究により、RLIP76と膜との結合が実証されている(Awasthi, et al., Proceedings of the American Association for Cancer Research, 43:Abst. 4717, 2002; 参照により本明細書に組み入れられる)。細胞溶解物からのRLIP76の抽出には界面活性剤が必要であり、膜結合、つまり輸送にとって重要な特徴を示唆している。これらの所見は、ATP結合および膜挿入様式を規定する構造要素という観点で、現在受け入れられているよりも幅広い、この輸送体の多様性を示す。さらに、中性または陽イオン性基質に対する陰イオンの輸送体の区別は鈍化される。というのは、RLIP76は、MRP1とは対照的に、GSHを共輸送することなく、どちらの輸送も触媒するからである。
【0037】
培養細胞中または大腸菌(E. coli)中で発現されたRLIP76は、精製中に容易にタンパク質分解を起こす。RLIP76のN末端およびC末端からそれぞれ生じる2つの最も顕著なペプチドN-RLIP761-367およびC-RLIP76410-655は、SDSゲル内に49 kDaおよび38 kDaのバンドとして現れる。これらのペプチドのどちらも、RLIP76により輸送される陰イオン性または陽イオン性リガンドの存在下において刺激されうる構成的ATPase活性を示す。どちらのペプチドも、ATP結合部位における反応中間体の捕捉を示唆する、バナジウム酸塩の存在下において増加した光親和性標識から明らかなように、ATPを結合する。これら2つの断片のどちらも、プロテオリポソーム内で単独で再構成されると、輸送を触媒しない。しかしながら、一緒に再構成されると、荷電した化学物質(例えば、DNP-SG、DOX)のATP依存性の輸送が、RLIP76のものと似た反応速度パラメータで観察される。N-RLIP761-367およびC-RLIP76410-655におけるATP結合部位は、それぞれ、アミノ酸番号69〜74およびアミノ酸番号418〜425であることが同定された。N末端およびC末端ペプチドにおけるK74およびK425の変異は、それぞれ、ATPase活性、ATP結合能および輸送機能を抑止する。これらのATP結合部位の配列は、P-ループ(Walkerモチーフ)のコンセンサス配列と同一ではない。
【0038】
上記のヒトRLIP76核酸配列に加え、当技術分野において、いくつかの単一ヌクレオチド多型(SNPs)がヒトRLIP76遺伝子内で報告されており、これらのうちの3つ(コード配列のヌクレオチド番号660位のAからGへの変異、コード配列のヌクレオチド番号838位のGからAへの変異、およびコード配列のヌクレオチド番号2065位のCからTへの変異)は、RLIP76コード配列の中に含まれる。これらのヌクレオチドの変化は、それぞれ、アミノ酸位置149のリジンからグルタミン酸への、アミノ酸位置208のアルギニンからグルタミン酸への、およびアミノ酸位置617のアラニンからバリンへのアミノ酸配列の変化を引き起こす。これらのSNPsは、ヒトRLIP76遺伝子のイントロンに生じるSNPs、ならびにヒトRLIP76遺伝子の5'および3'非翻訳領域に生じるSNPsとともに、米国国立生物工学情報センターのウェブサイトの単一ヌクレオチド多型(SNP)データベースの中に記載されている。
【0039】
本開示のいくつかの局面において、「RLIP76タンパク質」とは、GenBankアクセッション番号NP_006779に示される完全長のヒトRLIP76アミノ酸配列、単独でもしくは組み合わせでRLIP76輸送活性を保持したヒトRLIP76アミノ酸配列の1つもしくは複数の断片、またはRLIP76輸送活性を保持したヒトRLIP76アミノ酸配列の変異を意味することができる。いくつかの態様において、RLIP76は、GenBankアクセッション番号NP_006779に示されるヒトRLIP76アミノ酸配列と約99%の同一性もしくは相同性、GenBankアクセッション番号NP_006779に示されるヒトRLIP76アミノ酸配列に対して約98%の同一性もしくは相同性、約95%の同一性もしくは相同性、約90%の同一性もしくは相同性、約85%の同一性もしくは相同性、または約80%の同一性もしくは相同性を有するアミノ酸配列を意味することができる。配列同一性または相同性の割合は、配列に対するいくつかの付加、欠失、置換、サイレント変異または保存的変異を反映しうる。
【0040】
リポソーム
リポソームは1つまたは複数の同心性二重層の形に配置された両親媒性脂質からなる小胞である。脂質が水性媒体中に入れられる際に、脂質頭部基と水との親水性相互作用が生体膜に似た多層状および単層状の系または小胞の形成を球殻の形で引き起こす。リポソームは小型(0.025〜0.05 μm)から大型(0.05〜10 μm)の多層小胞であることができる。リポソームを調製するために用いられる脂質はリン脂質、スフィンゴ脂質、スフィンゴ糖脂質、飽和グリセリド、ステロイド(例えば、コレステロール)および合成リン脂質を含むことができるが、これらに限定されることはない。リポソームは、通例、水性溶媒中でPOEなどの乳化剤と一緒に脂質を溶かすことによって調製される。次いで作用物質を加え、混合または超音波処理によってリポソームを生成させる。作用物質は、通常、小胞構造中に取り込まれる。これらの基本的なリポソームは「従来のリポソーム」といわれることもある。以下を含むいくつかの他の種のリポソーム調製物が存在する: (1) ポリエチレングリコールなどの、不活性な親水性重合体で表面コーティングされている立体的に安定化されたリポソーム; (2) 抗体もしくはその断片、レクチン、オリゴ糖またはペプチド(例えば、リポソームを胃腸上皮に標的化するためにコレラ毒素B (CTB)が用いられる)などの、標的化リガンドが付着されている標的リポソーム; ならびに(3) 特定の相互作用に応じて相および構造を変える、反応性または「多型性」リポソーム(この群には、いくつかある刺激の中で特に、イオン(pH、陽イオン)、熱および光に感受性のあるリポソームが含まれる)。
【0041】
いくつかの態様において、本組成物はプロテオリポソームを含む。本明細書において用いられる場合、「プロテオリポソーム」は、一般に、球状のミセル様または小胞構造を形成するタンパク質とレクチンまたは糖脂質もしくはリン脂質との組み合わせである。その構造は自発的にまたは化学的もしくは機械的操作、またはそれらの組み合わせにより生じることができる。プロテオリポソームは、溶液状態では、(a) 尾部が内向きの球状ミセル; または(b) 疎水性尾部が親水性頭部基の間に挟まれた二重層である二分子のシートを含むいくつかの形状のうちの少なくとも1つを生ずる二層を形成させる脂質(またはレクチン)の両親媒性を活用する。一般に、プロテオリポソームは、裂けたり破れたりしても、自らを再び密封することができる。プロテオリポソームは、レクチンもしくは脂質を1つだけ含有してもよく、またはそれらのさまざまなものおよび各々の組み合わせを含有してもよい。リン脂質の例としては、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン、イノシトールリン脂質、およびホスファチジルエタノールアミンが挙げられる。使用時に、プロテオリポソームは、荷電していてもまたは電気的に中性でもよく、生理的pHで一般に用いられる。それらは界面活性剤と混ざり合った構造(例えば、界面活性剤/脂質/タンパク質、界面活性剤/レクチン/タンパク質)であってもよい。規定の脂質-タンパク質またはレクチン-タンパク質の比率およびサイズのプロテオリポソームを調製するための方法は、分子生物学およびタンパク質/脂質生化学の分野における当業者に周知である。本開示のプロテオリポソームは、米国特許第2005/0123594 A1号として公開されている、米国特許出願第10/713,578号に開示され記載されている方法を含む、当技術分野において公知の任意の方法によって作出することができ、この開示はあらゆる目的において参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0042】
さらなる放射線防護剤
本開示のいくつかの局面において、RLIP76を含む組成物、例えばRLIP76プロテオリポソームは、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤およびスーパーオキシドジスムターゼ類似体を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数のさらなる放射線防護剤と組み合わせて用いることができる。非保護RLIP76は、タンパク質分解の影響を受けやすいため、裸のタンパク質の投与は困難である。タンパク質の安定性を促進するために、RLIP76は脂質被包性プロテオリポソームの形態で投与されてもよい。さらに、RLIP76タンパク質は、タンパク質の安定性を促進するために、1つまたは複数の放射線防護剤、例えば酸化防止剤、フリーラジカル捕捉剤またはスーパーオキシドジスムターゼ類似体とともに投与されてもよい。
【0043】
RLIP76と組み合わせて使用できるさらなるフリーラジカル捕捉剤または酸化防止剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BTH)、N-アセチルシステイン、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオンエチルエステル、グルタチオン、D-メチオニン、システアミン、シスタミン、アミノプロピルメチルイソチオ尿素、Ethyol、ビタミンE、エダラボン(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン)、メラトニン、ポリニトロキシルアルブミン、イデベノン、一酸化窒素、カルベジロール、アルファリポ酸、アロプリノール、2 O オクタデシルアスコルビン酸、N-2-メルカプトプロピオニルグリシン、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、組み換えヒトCuZn-SOD、グルタチオンペルオキシダーゼ、カタラーゼ、一酸化窒素シンターゼ、アスコルビン酸(ビタミンC)、セレニウム、アセチルシステイン、セレギリン(Deprenyl(登録商標))、ピクノジェノール、コエンザイムQ10、ベータカロチン、PC 01、SC-55858、鉄(III)ポルフィリン、ミトラマイシン、クロモマイシン、ダウノマイン、オリボマイシンおよびWP-631、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。
【0044】
RLIP76と組み合わせて使用できるさらなる放射線防護剤は、フラーレンDF-1、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、カーボンナノチューブ、自己骨髄および同種骨髄由来の幹細胞、CD34陽性細胞、Rad51またはRad52および関連遺伝子に対するタンパク質および/またはcDNAおよび/またはmRNA、TGFβII型受容体遺伝子および/または産物、ならびにp53遺伝子および/または産物、あるいはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。
【0045】
薬学的組成物および投与経路
RLIP76を含む治療的調製物は、患者または対象への全身投与、局部投与または局所投与用の薬学的調製物として本明細書において提供される。本明細書において用いられる「患者」または「対象」という用語は、ヒト対象または動物(特定の組成物の臨床的有効性に関するモデルとして特に有用である動物)対象を意味する。適切な薬学的調製物の選択は、選ばれる投与の方法に依り、医薬品化学者に周知のプロトコルにしたがって行うことができる。
【0046】
いくつかの態様において、本明細書において開示される組成物はまた、薬学的に許容される担体を含む。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。そのような薬学的に許容される担体を薬学的に活性な作用物質とともに用いることは、当技術分野において周知である。任意の慣用の媒体または作用物質が活性な作用物質と不適合でない限り、本明細書において開示される組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性成分を組成物に組み入れることもできる。
【0047】
本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される塩」は、親化合物がその酸塩または塩基塩の作出によって修飾されている、RLIP76または本明細書において開示される他の化合物の誘導体を意味する。薬学的に許容される塩の例としては、アミンなどの塩基性残基の無機酸塩または有機酸塩; カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩などが挙げられるが、これらに限定されることはない。したがって、「酸付加塩」という用語は、酸の付加によって調製された、親化合物の対応する塩誘導体を意味する。薬学的に許容される塩は、例えば、無機酸または有機酸から形成された親化合物の従来型の塩または第四級アンモニウム塩を含むが、これらに限定されることはない。例えば、そのような従来型の塩は、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などから誘導されるもの、および有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸などから調製される塩を含むが、これらに限定されることはない。特定の酸性または塩基性化合物は、両性イオンとして存在することができる。遊離酸、遊離塩基および両性イオンを含む活性な作用物質の全ての形態が本開示の範囲内であるものと考えられる。
【0048】
タンパク質は中性または塩の形態で組成物へと調製することができる。薬学的に許容される塩は酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)を含むが、これらに限定されることはなく、これは例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される。遊離カルボキシル基と形成される塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することもできる。
【0049】
RLIP76組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)、金属イオンと複合体化されるか、あるいはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル、デキストランなどの高分子化合物に組み入れられるか、あるいはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層小胞もしくは多層小胞、赤血球ゴーストまたはスフェロプラストに組み入れられてもよい。そのような組成物は、物理的状態、溶解性、安定性、インビボでの放出の速度、および/またはインビボでの排出の速度に影響を及ぼすものであり、かくして、意図した用途にしたがって選択される。
【0050】
さらに、RLIP76、または1つもしくは複数のその活性断片は、リポソーム、プロテオリポソーム、小胞、ナノ粒子、ノイソソーム(noisosome)、担体タンパク質、金粒子、キチン、高分子、有機「かご(cage)」、ウイルスおよび細菌を含むがこれらに限定されない、多数の異なる送達ビヒクルと、例えば共有結合、非共有結合、イオン結合または疎水結合によって結合されてもよい。さらに、RLIP76または上記の送達ビヒクルのいずれかとともに1つまたは複数の特異的な標的化部分を含めることによって、1つまたは複数の特異的な臓器、組織、または細胞種による上記のRLIP76組成物のいずれかの選択的な取り込みが達成されてもよい。そのような標的化部分は、抗体またはその断片、ペプチド、脂質、化学物質、荷電粒子、受容体、タンパク質、ウイルスプロモーター、転写因子、DNAプロモーター、および特定の二次元または三次元構造を有する核酸を含むが、これらに限定されることはない。
【0051】
本開示の化合物は、例えば、不活性希釈剤とともにもしくは同化可能な食用担体とともに経口的に投与されてもよく、またはそれらは硬殻もしくは軟殻ゼラチンカプセル中に封入されてもよく、またはそれらは食事療法の食物に直接組み入れられてもよい。経口治療投与の場合、活性化合物は、賦形剤とともに組み入れられ、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、オブラートなどの形態で使用されてもよい。そのような組成物および調製物は、活性な作用物質を少なくとも0.1%含有すべきである。組成物および調製物の割合は、当然変更してもよく、好都合には、単位重量の約2%〜約60%であってもよい。そのような治療的に有用な組成物中の活性な作用物質の量は、適切な投与量が得られる量である。
【0052】
錠剤、トローチ、丸剤、カプセルなどは以下を含有してもよい: トラガカントガム、アラビヤゴム、コーンスターチもしくはゼラチンなどの結合剤; リン酸二カルシウムなどの賦形剤; コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸などの崩壊剤; ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤; および添加可能なスクロース、ラクトースもしくはサッカリンなどの甘味剤、またはペパーミント、冬緑油もしくはチェリーフレーバーなどの着香剤。組成物がカプセルである場合、それは上記種類の材料に加えて、液体担体を含有してもよい。さまざまな他の材料がコーティングとして、または組成物の物理的形態を他の方法で改変するために存在してもよい。例えば、錠剤、丸剤またはカプセルは、シェラック、糖またはその両方でコーティングされてもよい。エリキシルのシロップは、甘味剤としてスクロースを含有してもよく、保存剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベンを含有してもよく、色素を含有してもよく、ならびにチェリーフレーバーまたはオレンジフレーバーなどの着香料を含有してもよい。もちろん、いかなる組成物を調製する際に使用されるいかなる材料も、薬学的に純粋で、利用される量において実質的に無毒であらねばならない。さらに、活性な作用物質は徐放性の調製物または製剤に組み入れられてもよい。
【0053】
活性な作用物質は非経口的にまたは腹腔内に投与されてもよい。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性な作用物質の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水の中で調製することができる。分散液をグリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびその混合物中で、ならびに油中で調製することもできる。保存および使用の通常の条件下で、これらの調製物は微生物の増殖を阻止するよう保存剤を含有する。
【0054】
水溶液中での非経口投与の場合、例えば、溶液は必要なら適切に緩衝化されるべきであり、最初に、液体希釈剤が十分な生理食塩水またはグルコースで等張にされるべきである。これらの特定の水溶液はとりわけ、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与および腹腔内投与に適している。これに関連して、利用できる無菌の水性媒体は、本開示に照らせば当業者には公知であろう。例えば、一投与量をNaCl等張溶液1 mLに溶解し、皮下注入流体1000 mLに加えるか、注入予定部位に注射するかできる(例えば「Remington's Pharmaceutical Sciences」15th Edition, 1035-1038頁および1570-1580頁を参照のこと)。処置される対象の状態に応じて、ある程度の投与量の変動が必然的に起こると考えられる。いずれにしても、投与責任者が個々の対象に適した用量を決定する。
【0055】
注射用途に適した薬学的形態は、無菌水溶液または分散液、および無菌注射溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末を含む。いかなる場合でも、その形態は無菌でなければならず、適切に流動性でなければならない。それは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の阻止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいと考えられる。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物中での使用によってもたらすことができる。
【0056】
無菌注射液は、活性な作用物質の必要量を適切な溶媒に、必要に応じて、上に列挙したいくつかの他の成分とともに組み入れた後にろ過滅菌を行うことによって調製される。一般に、分散液は、種々の無菌化された活性な作用物質を、基礎となる分散媒および上に列挙したうちの必要な他の成分を含有する無菌ビヒクル中に組み入れることによって調製される。無菌注射溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加えて任意のさらなる所望の成分の粉末が、予め滅菌ろ過されたその溶液から得られる、真空乾燥法および凍結乾燥法である。
【0057】
いくつかの態様において、本開示の組成物は、皮膚パッチ、または経皮送達システムの使用によって投与されるように調製されてもよい。経皮投与は、当技術分野において公知のいくつかのシステムのいずれかによって達成することができる。本明細書において記載される組成物で用いるのに適合できるシステムの例としては、米国特許第4,816,252号、同第5,122,382号、同第5,198,223号、同第5,023,084号、同第4,906,169号、同第5,145,682号、同第4,624,665号、同第4,687,481号、同第4,834,978号、および同第4,810,499号に記載されている経皮投与のシステムが挙げられる。
【0058】
これらの方法は、典型的には、接着性マトリックスまたは薬物貯蔵システムを含み、皮膚浸透増強剤、例えばエタノール、ポリエチレングリコール200ジラウレート、ミリスチン酸イソプロピル、グリセロールトリオレエート、リノレン酸飽和エタノール、グリセロールモノオレエート、グリセロールモノラウレート、n-デシルアルコール、カプリン酸、いくつかの飽和および不飽和脂肪酸、ならびにそれらのエステル、アルコール、モノグリセリド、アセテート、ジエタノールアミドおよびN,N-ジメチルアミド(例えば、米国特許第4,906,169号を参照のこと)を含みうる。
【0059】
有効用量
いくつかの局面において、本開示は、例えば放射線被曝から生ずる疾患または障害を処置または管理する方法を包含し、これらの方法はそのような処置または管理を必要とする患者または対象に、RLIP76、またはRLIP76と別の活性な作用物質、例えば別の放射線防護剤との治療的組み合わせの治療的有効量を投与する段階を含む。いくつかの態様において、そのような化合物またはRLIP76を含む投与量単位は活性な作用物質と呼ばれる。疾患または障害を処置または管理するための医薬の製造における本開示の組成物の使用も企図される。本開示は、疾患または障害の処置または管理に用いる医薬の調製において用いられる1種類または複数種類の積荷分子の生物学的または治療的有効量を含む組成物も包含する。
【0060】
本明細書において用いられる場合、および他に指定のない限り、「処置する」、「処置すること」および「処置」という用語は、患者が疾患または障害に罹患している間に、疾患もしくは障害、または関連する疾患もしくは障害の1つまたは複数の症状または影響の重症度を低減する作用が生じることを企図する。本明細書において用いられる場合、および他に指定のない限り、「管理する」、「管理すること」および「管理」という用語は、疾患または障害に既に罹患している患者においてその疾患もしくは障害の再発の程度を予防すること、遅延すること、または低減することを包含する。この用語は、疾患もしくは障害の閾値、発現および/もしくは継続期間を調節すること、または患者の疾患もしくは障害に対する応答の仕方を変化させることを包含する。
【0061】
本明細書において用いられる場合、および他に規定のない限り、化合物の「治療的有効量」は、疾患もしくは障害の処置もしくは管理において何らかの治療的有用性を提供するのに、または疾患もしくは障害に関連する1つもしくは複数の症状を遅延もしくは最小化するのに十分な量である。化合物の治療的有効量は、単独でまたは1つもしくは複数の他の治療法および/もしくは治療剤との組み合わせで、疾患もしくは障害、または関連する疾患もしくは障害の処置または管理において何らかの治療的有用性を提供する、化合物の量を意味する。「治療的有効量」という用語は、疾患もしくは障害を治癒する、疾患もしくは障害を改善するもしくは低減する、疾患もしくは障害の症状もしくは原因を低減するもしくは回避する、治療法全体を改善する、または別の治療剤の治療的効力を増強する量を包含することができる。
【0062】
記載される化合物および組成物の毒性および治療的効力は、細胞培養物または実験動物で、例えば、LD50 (集団の50%に対する致死用量)およびED50 (集団の50%で治療的に有効な用量)を決定するための標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、これはLD50/ED50比として表される。高い治療指数を示す化合物が好ましい。いくつかの態様において、有毒な副作用を示す化合物が使用されてもよいが、非感染細胞に対する潜在的損傷を最小限にし、それによって、副作用を小さくするために、そのような化合物を罹患組織の部位に選択的に標的化する送達系を設計するように通常は注意を払うべきである。
【0063】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られるデータを、ヒトで用いる投与量の範囲を定める際に用いることができる。本開示のいくつかの局面において、そのような化合物の投与量は、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む血中濃度の範囲内にある。この投与量は、採用される投与量形態および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変化しうる。本開示の方法において用いられるいずれかの化合物の場合、治療的に有効な用量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。ある用量を動物モデルにおいて調製して、細胞培養物で決定されたIC50 (すなわち、症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度の範囲を達成することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高性能液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0064】
治療的処置が企図される場合、適切な投与量は、試験対象の体重1キログラム当たりの生物活性剤の最大耐用量すなわちMTDを決定するための動物実験を用いて決定することもできる。一般には、試験される動物種の少なくとも1種類は哺乳類である。通例、ヒトを含むその他の種に対して有効性がありかつ毒性が回避される用量が、当業者によって推定される。有効性に関するヒトでの研究が行われる前に、第I相臨床試験は安全な用量を確立する助けとなる。さらに、例えば、生物活性剤の安定性を増強する、あるいはその薬理学的特性を増強する(例えば、インビボでの半減期を増大する、毒性を低減するなど)、種々の十分に確立された化合物または構造物と生物活性剤とを複合体化させることもできる。
【0065】
本開示のいくつかの態様において、組成物または投与量単位の有効用量は、約14 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約14 mg/kg〜約0.025 mg/kg、約14 mg/kg〜約0.05 mg/kg、約14 mg/kg〜約0.1 mg/kg、約14 mg/kg〜約0.25 mg/kg、約14 mg/kg〜約0.5 mg/kg、約14 mg/kg〜約1 mg/kg、約14 mg/kg〜約2.5 mg/kg、約14 mg/kg〜約5 mg/kg、約5 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約2.5 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約1 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約0.5 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約0.25 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約0.1 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約0.05 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約0.025 mg/kg〜約0.01 mg/kg、約5 mg/kg〜約0.025 mg/kg、約2.5 mg/kg〜約0.05 mg/kg、約1 mg/kg〜約0.1 mg/kg、約0.5 mg/kg〜約0.25 mg/kg、または約3 mg/kg〜約0.1 mg/kgの範囲内でありうる。したがって、特定の態様において、組成物または投与量単位の有効用量は、約0.01 mg/kg、約0.025 mg/kg、約0.05 mg/kg、約0.075 mg/kg、約0.1 mg/kg、約0.25 mg/kg、約0.5 mg/kg、約0.75 mg/kg、約1 mg/kg、約2.5 mg/kg、約3 mg/kg、約5 mg/kg、約7.5 mg/kg、約10 mg/kg、約11 mg/kg、約12 mg/kg、約13 mg/kg、または約14 mg/kgである。
【0066】
キット
典型的なキットは、RLIP76を含む組成物、または薬学的に許容されるその塩、プロドラッグ、溶媒和物、水和物もしくは立体異性体の1つまたは複数の投与量単位を含む。いくつかの態様において、別の作用物質、例えば放射線防護剤の単一の投与量単位形態を本開示の化合物と組み合わせて使用することができる。本開示のキットは、活性成分を投与するために使用される装置をさらに含むことができる。このような装置の例としては、シリンジ、ドリップバッグ、パッチおよび吸入器が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0067】
本開示のキットは、1種類または複数種の本開示の組成物を投与するのに使用できる、薬学的に許容されるビヒクルをさらに含むことができる。例えば、本開示の組成物が非経口投与のために再構成される固体形態として提供される場合には、キットは、本開示の組成物を溶解して、粒子を含まない非経口投与に適した無菌溶液を形成できる、適切なビヒクルの密封容器を備えることができる。薬学的に許容されるビヒクルの例としては、USP注射用水; 限定されるものではないが、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、ならびに乳酸加リンゲル注射液などの水性ビヒクル; 限定されるものではないが、エチルアルコール、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコールなどの水混和性ビヒクル; ならびに限定されるものではないが、トウモロコシ油、綿実油、落花生油、ゴマ油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、および安息香酸ベンジルなどの非水性ビヒクルが挙げられるが、これらに限定されることはない。しかしながら、具体的な態様において、本開示の調製物は、アルコールまたは他の共溶媒、油もしくはタンパク質を全く含有しない。
【0068】
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。以下の実施例の中で本開示の技術は、本発明の実践において十分に機能することが本発明者らによって発見された技術に相当し、したがって、その実践のための好ましい様式を構成するものと見なせることを当業者は理解するはずである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示された特定の態様において多数の変更を行うことができ、それでもなお、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく同様のまたは類似の結果を得ることができるものと理解するはずである。本発明の範囲は本明細書において記載される特定の態様に限定されるものではなく、これらは本発明の個々の局面の単なる例示として意図されており、機能的に等価な方法および構成要素が本発明の範囲内である。実際に、本明細書において示され記載されたものの他に、前記の説明から、本発明の各種の改変が当業者には明らかになるであろう。そのような改変は添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【実施例】
【0069】
実施例1
RLIP76による放射線防護
どの動物モデルでも、放射線被曝と生存時間との関係は、実験パラメータに依って変わるものと考えられ、そのため、特定のモデルごとに処置なし(対照)と共に測定する必要がある。マウスの生存時間に及ぼすX線照射の影響を示すために、研究を行った。X線照射の被曝量を変化させながら処置を行ったC57/B16系統由来のマウスについて、ベースラインの生存曲線を得た。図3Aは対照処置マウスにおける異なる放射線量での生存率を示し、一方で図3Bは死亡までの平均時間 vs 放射線量を描く。明らかに、生存時間はX線照射量の増加とともに減少する。
【0070】
驚いたことに、野生型マウスへのRLIP76の投与はその生存時間を改善する。4匹の野生型マウスを1000 cGyに曝露し、+3日目に腹腔内注射によって対照リポソームを投与し(図4、菱形)または腹腔内注射によってRLIP76リポソーム400 μgを投与し(図4、四角)処置を行った。図のように、RLIP76リポソームの投与は野生型マウスの生存時間を増加させた。
【0071】
実施例2
ノックアウトマウスを用いたRLIP76および放射線感受性
正常レベルを上回るRLIP76レベルの補充が放射線の毒性効果に対するマウスの抵抗性を高められるという所見から、この防護過程においてはRLIP76が「律速」段階として機能することが示唆される。それゆえ、RLIP76含量の増加は用量および時間応答的な形で、正常な生理的機能を用いて、防護を高めることができる。この確認は、種々の条件の下で放射線照射マウスの生存率に及ぼすRLIP76投与の影響を調べる研究において行われた。
【0072】
米国特許出願第11/741,447号に開示されるように、遺伝子を選択的に抑制できるCre-Lox技術(Lexicon Genetics, Incorporated, The Woodlands, TX)を用いて、RIP1 (マウス型のRLIP76)遺伝子の両方のコピーを保有するC57Bマウス(野生型; +/+)、RIP1遺伝子の片方のコピーを保有するC57Bマウス(ヘテロ接合性; +/-)、またはRIP1遺伝子のコピーを保有しないC57Bマウス(ホモ接合性; -/-)を作出した。RLIP76-リポソームの腹腔内注射後に、ホモ接合性RIP1ノックアウトマウス由来の組織のウエスタンブロット分析を行った。放射線に対する感受性に及ぼすRIP1発現の減少の効果を、野生型(+/+)、ヘテロ接合性(+/-)およびホモ接合性(-/-) RIP1マウス(マウス6匹/群)を500 cGy、750 cGyおよび1000 cGyで全身X線照射し、その後、生存率のモニタリングを行うことで調べた。表1に見られるように、野生型(+/+) RIP1マウスはヘテロ接合性(+/-) RIP1マウスと比べて、試験した全ての放射線量で生存時間の増大を有し、ヘテロ接合性(+/-) RIP1マウスはホモ接合性(-/-) RIP1マウスと比べて、試験した全ての放射線量で生存時間の増大を有していた。このように、RIP1発現の減少によって放射線感受性の増大が認められた。
【0073】
【表1】

【0074】
RIP1の喪失が、獲得されたこの放射線感受性における主な決定要因であったなら、この欠損を補えば放射線抵抗性に転じるはずである。それゆえ、組み換えヒトRLIP76をノックアウト動物の組織に提供するためのリポソーム送達系を用いた。大腸菌において組み換えヒトRLIP76を発現し、発現されたタンパク質を高純度、すなわちアミノ酸組成分析で>96%まで精製し、かつ人工リポソーム中でその輸送機能を再構成するための方法は、当技術分野において記述されているものと同じであった(Awasthi, et al., Biochemistry 39:9327-9334, 2000; 参照により本明細書に組み入れられる)。リポソームを十分な量で調製し、腹腔内(i.p.)注射を介してホモ接合性RIP1マウスに投与した。
【0075】
この効果は、より高い放射線被曝で見られる(図5)。4匹の野生型RIP1マウスを750 cGyに曝露し、腹腔内注射によって投与される対照リポソーム(図5、菱形)または腹腔内注射によって投与されるRLIP76リポソーム400 μg (図5、四角)を被曝から12時間後に与えることで処置し、4匹のRIP -/-マウスを750 cGyに曝露し、腹腔内注射によって投与される対照リポソーム(図5、三角)または腹腔内注射によって投与されるRLIP76リポソーム400 μg (図5、丸)を被曝から12時間後に与えることで処置した。明らかに、RLIP76リポソームの投与はRIP1 /マウスの生存時間を増大したが、それは野生型RIP1マウスの生存時間も劇的に増大した。注目すべきことに、RLIP76を補充したRIP1-/-マウスはRIP1+/+マウスと比べてさえも生存時間を顕著に改善していた。これらの所見は、RLIP76の放射線防護効果を決定的に実証している。
【0076】
実施例3
用量反応試験
放射線被曝後24時間を超えた後に送達された場合にRLIP76が有効でありうるかどうかについて調べるために、一連の試験を行って、さまざまな用量、被曝レベルおよび被曝後の時間で与えたときのRLIP76の防護利益を調査した。マウスは全て、放射線影響モデルに最もよく使われる系統であるC57BL6/アルビノ系統であった。被曝はTexas Cancer Center (Arlington, Texas)にてVarian Clinac Linear加速器(2100C)での全身X線照射により行われた。6-MeVの光子線を400 cGy/分の速度で用いた。マウスを檻の片側、1.5 cmのsuperflabボーラス上に隔離し、処置域をその中心に置いた。加速器ガントリを180度回転させることにより、全線量を前方と後方に2分割した。特に記載のない限り、全ての実験は1群あたりマウス6匹にて行われた。特に、効率的なタンパク質送達はRLIP76プロテオリポソームの経口投与を通じて行われた; それゆえ、全ての実験はこの投与経路で行われた。
【0077】
放射線被曝の範囲にわたって用量および時間依存性を調べた。最初に、6群の野生型マウスを500 cGyの照射に曝露し、その後、放射線被曝後のさまざまな時点でRLIP76なしのプロテオリポソーム(対照)またはさまざまな投与量のRLIP76プロテオリポソームを与えることで処置した。図6は、RLIP76を投与されなかった対照マウス(菱形)と比べて、放射線被曝から14および48時間後に与えたRLIP76プロテオリポソーム25 μg 投与 (四角)、放射線被曝から14および48時間後に与えたRLIP76プロテオリポソーム50 μg 投与 (三角)、放射線被曝から14および48時間後に与えたRLIP76プロテオリポソーム100 μg 投与 (X)、放射線被曝から24および72時間後に与えたRLIP76プロテオリポソーム100 μg 投与 ()、または放射線被曝から48および96時間後に与えたRLIP76プロテオリポソーム100 μg 投与 (丸)の用量反応を示す。意義深いことには、RLIP76タンパク質の通常の補完を伴うマウスでさえも、さらなるRLIP76タンパク質が供与されれば、大幅に増加した放射線抵抗性が付与される。実際に、30日目までに完全な致死を通常もたらす放射線の線量に曝露された野生型マウスは、経口投与によってRLIP76タンパク質100マイクログラムの2用量が与えられた場合に、生存率の200%増加を示す(図6)。驚いたことには、非処置マウスおよびRLIP76プロテオリポソーム処置マウスの50%生存率 vs 放射線量を評価する線量減少係数グラフ(図7)は、放射線被曝から完全に24時間後まで待ってから初回用量が与えられる場合であっても、注目に値する線量減少係数(「DRF」) 1.7〜1.8を依然としてもたらすことを示す。放射線被曝後24時間を超えてもRLIP76を投与することができ、それでもなお、治療的有用性を得ることができることは、意義深い。
【0078】
3群の野生型マウスを500 cGyの照射に曝露し、その後、1群をRLIP76なしのプロテオリポソーム(対照; 菱形)で処置し、1群を放射線被曝から14および48時間後に投与されるRLIP76プロテオリポソーム25 μg (四角)で処置し、そして1群を放射線被曝から0、48および96時間後に投与されるRLIP76プロテオリポソーム25 μg (三角)で処置した。これらの結果は、図8に示されており、RLIP76プロテオリポソームの一層早期かつ頻回の投与によってRLIP76プロテオリポソームの放射線防護効果が向上することを明示している。
【0079】
RLIP76プロテオリポソームの放射線防護効果は、より高い放射線量でも実証された。2群の野生型マウスを750 cGyの照射に曝露し、その後、1群をRLIP76なしのプロテオリポソーム(対照; 菱形)で処置し、1群を放射線被曝から0、48および96時間後に投与されるRLIP76プロテオリポソーム100 μg (四角)で処置した。さらに、2群の野生型マウスを1000 cGyの照射に曝露し、その後、1群をRLIP76なしのプロテオリポソーム(対照; 三角)で処置し、1群を放射線被曝から16および64時間後に投与されるRLIP76プロテオリポソーム100 μg (X)で処置した。これらの結果は、図9に示されており、RLIP76プロテオリポソームが750 cGyで優れた放射線防護をもたらし、さらには、1000 cGyでもある程度の防護をもたらすことを示す。要約すれば、RLIP76は、その著しい生存利益、および経口で被曝後のかなり遅れた時点で送達できることを考えれば、既存の放射線防護候補に比べて大きな利点を提供する。
【0080】
実施例4
RLIP76リポソームおよび酸化防止剤による放射線防護
非保護RLIP76タンパク質はタンパク質分解の影響を受けやすいため、裸のタンパク質の投与は困難である。この試験では、RLIP76を脂質被包性プロテオリポソームの形態で投与した。投与までの期間の酸化的分解を低減または阻止するため、RLIP76をリポソームへ再構成させる緩衝液には、酸化防止剤、例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BTH)を含めた。RLIP76を含む脂質被包性プロテオリポソームに、1つまたは複数の他の酸化防止剤を添加することも可能であった。注目すべきことに、BHTは科学文献の中で、それだけで放射線防護効果を有すると報告されている。リポソームはまた、候補の放射線対抗薬(radiation countermeasure drug)を送達するために使われているが、防護をもたらすリポソームそれ自体の能力は、文献から明らかではない。
【0081】
脂質に基づくRLIP76の送達が薬学的製剤中のタンパク質の安定性を改善できることを考慮して、RLIP76タンパク質、リポソーム、および酸化防止剤(BHTなど)の複合体を作出し、TO-80Cx (80は80 nmのリポソームの平均サイズを意味し、これによって、それらは中間サイズのビヒクルと分類される)と命名した。さらなる命名としては、酸化防止剤(BHT)を含む緩衝液中で構成されたリポソームを意味するTO-80LA、および酸化防止剤またはRLIP76タンパク質を含まない緩衝液中のリポソームを意味するTO-80Lが挙げられる。次に、BHTなどの酸化防止剤とRLIP76プロテオリポソームとのこれらの複合体を、それらがリポソームだけおよびBHTだけでのまたは組み合わせでの効果を超えて照射の毒性に対する防護および/または治療効果を与えうるかどうか判定するために試験した。
【0082】
0.60 Gy/分の線量率でコバルト60源からの9.25 Gyのγ放射線への被曝後に、体重平均30.0 gの14週齢CD2F1雄性マウスの全生存率を測定した。マウスをマウス16匹/コホートのコホートに分け、それらに複数回の投与計画を用いて、TO-80Cx 50 μg (RLIP76タンパク質の重量)/マウス、または同じ用量/濃度の個々の薬物成分を腹腔内投与により複数用量投与し、対照と比較した。マウスの生存率を30日間調べた。
【0083】
図10に示される通り、被曝の24時間前に与えた完全なTO-80Cx複合体で、最大の利益が達成された。他の実験では、たとえ投与が数時間遅れても、大きな効果が見出されたが、この実験では被曝時前後まで投与が遅れたら、生存率の利益はさらに小さくなると分かった。このデータはまた、図11に示されている。この実験では、BHTを含有する緩衝液だけでは、生じる効果は小さく(緩衝液 + BHT)、リポソームおよびBHTの組み合わせではより大きな効果を生じた(TO-80LA)。この実験では、TO-80LAは被曝前後に与えられたTO-80Cxと同様の効果を有していた。しかしながら、先の一連の実験では、TO-80LAは図13に示されるように、より低い全放射線被曝線量において、完全なTO-80Cxよりも顕著に効果が低かった。興味深いことに、図12に示されるように、RLIP76なしの異なる送達ビヒクルの比較から、TO-80LAはBHTを含有する緩衝液だけと比べて、一定の防護効果を有することが示され、このことは、該リポソームそれ自体が一定の放射線防護効果を持ちうることを示唆している。
【0084】
このように、TO-80Cxの各活性成分は、放射線防護体として一定の効果を有する。しかしながら、最大の効果は、完全な複合体で見られた。リポソームの、またはリポソームとBHTの量的に特異的な寄与は、可変的なままであり、放射線被曝のレベルに依存しうる。
【0085】
実施例5
宇宙放射線対抗策としてのRLIP76
宇宙探査の本質が、一時的な任務から長期的なプロジェクト(国際宇宙ステーションなど)へと変化していることから、これらの探査のリスクも、純粋に機械的な問題から宇宙それ自体の固有の危険に関する関心へと変化している。これらのうちの主たるものは、放射線に対する長期被曝に関する懸念である。宇宙は、電磁放射線(X線およびγ線)ならびに地球の表面で通常は遮断または減弱される宇宙線(陽子または重イオン)を含む放射線で満たされている。また、粒子放射線は、物質と相互作用すると、中性子およびγ線などの二次放射線を生ずる。このことは、宇宙船およびその在中物のシールドという問題に関連している; シールドが困難であるだけでなく、それがさらに危険な放射線を生ずる可能性もある。
【0086】
地上の典型的な人は、1年間に5×10-3 Gy未満を受ける。宇宙空間では、太陽フレアが3 Gyまでの被曝レベルをもたらしうるが、ほとんどの場合、被曝はずっと少ない。しかしながら、X線、γ線およびエネルギー電子(β粒子を含む)以外の電離放射線は、吸収される単位エネルギーあたりに引き起こされる生物学的損傷がこれらの放射線よりも大きく、このため、測定結果は相対的生物学的効果比(RBE)と呼ばれる因子によって補正される。RBEの概念は、特に、人が地球の大気圏の外側にいる間中の持続的被曝によって損傷が蓄積されることから、宇宙放射線医学において重要である。これらの放射線が宇宙旅行者に与えるリスクには、慢性的な陽子および宇宙線への被曝によるがん、高線量の太陽陽子嵐による免疫不全、ならびに神経組織において単線の宇宙線重原子核により引き起こされる可能性のある神経学的影響が含まれる。これらの影響には、認知機能障害および網膜閃光が含まれる(アポロ宇宙飛行士の1人で既述されている)。
【0087】
RLIP76の効力の証拠は先に詳述されているように、実験データによって裏付けられている。RLIP76タンパク質が遺伝的に欠損しているマウスは、広範囲の放射線被曝レベルに対して感受性が非常に高く、この感受性は静脈内投与または経口投与のいずれかによるRLIP76タンパク質の補完で転換させることができる。意義深いことには、RLIP76タンパク質の通常の補完を伴うマウスでさえも、さらなるRLIP76タンパク質が供与されれば、大幅に増加した放射線抵抗性が付与される。実際に、通常30日目までに完全な致死をもたらす放射線量に曝露された野生型マウスは、経口投与によってRLIP76タンパク質100マイクログラムが2用量与えられると、生存率の200%増加を示す。予想通り、RLIP76が早く投与されるほど、それだけ効果も大きいが、放射線被曝から完全に24時間後またはそれ以上後まで待ってから初回用量が与えられる場合であっても、依然として顕著な救出をもたらす。
【0088】
とは言え、おそらく最も意義深いのは、プロテオリポソームの中に被包されたRLIP76が経口投与であっても脳血管関門を通過するという知見である。したがって、RLIP76の防護効果は、重イオンの衝撃を受けたラットにおいて見られる神経学的損傷の多くの部位として局在する、海馬などの中枢神経系組織にまで及ぶと考えられる。したがって、作用機序、投与の簡便性および解剖学的送達の組み合わせにより、RLIP76は宇宙放射線対抗策として魅力的な候補となる。
【0089】
本明細書において開示および主張される組成物および/または方法は全て、本開示に照らして過度の実験をせずとも実行および遂行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様という観点で記載してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、その組成物および/または方法に、ならびに本明細書において記載される方法の段階にまたはその段階の順序に変更を加えることができることが当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的にも生理学的にもともに関連するいくつかの作用物質を本明細書において記載される作用物質に代えて用いても、同様のまたは類似の結果を達成できることが明らかであろう。当業者には明らかなそのような類似の置換および修正は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内であるものと見なされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線被曝後24時間を超えた後にRLIP76タンパク質またはその活性断片の有効量を生物に投与する段階を含む、そのような処置を必要とする対象において放射線被曝の影響を処置する方法。
【請求項2】
対象が哺乳類対象である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
放射線が電離放射線である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
電離放射線が、X放射線、γ放射線、エネルギー電子放射線、紫外放射線、熱放射線、宇宙放射線、電磁放射線、核放射線またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、放射線被曝後36時間を超えた後に対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、放射線被曝後48時間、60時間、72時間、84時間または96時間を超えた後に対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、リポソームまたはプロテオリポソームにより投与される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、1回または複数回の用量で対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
エネルギー電子放射線がβ粒子放射線である、請求項4記載の方法。
【請求項10】
放射線が陽子放射線または重イオン放射線である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
第二の放射線防護剤を対象に投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
第二の放射線防護剤が、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤またはスーパーオキシドジスムターゼ類似体である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
(a) 放射線被曝後24時間以内にRLIP76タンパク質またはその活性断片の有効量の少なくとも第一の用量を対象に投与する段階、および(b) 放射線被曝後24時間を超えた後にRLIP76タンパク質またはその有効部分の有効量の少なくとも第二の用量を対象に投与する段階を含む、そのような処置を必要とする対象において放射線への被曝の影響を処置する方法。
【請求項14】
対象がヒトである、請求項1または13記載の方法。
【請求項15】
放射線が電離放射線である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
電離放射線が、X放射線、γ放射線、エネルギー電子放射線、紫外放射線、熱放射線、宇宙放射線、電磁放射線、核放射線またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
第一の用量が、電離放射線への被曝とほぼ同時に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項18】
RLIP76タンパク質またはその有効部分が、リポソームまたはプロテオリポソームにより投与される、請求項13記載の方法。
【請求項19】
放射線被曝後24時間以内に、放射線被曝後24時間を超えた後に、またはその両方に、RLIP76タンパク質またはその有効部分の有効量の1回または複数回のさらなる用量を対象に投与する段階をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項20】
第一の用量および第二の用量が、ほぼ同じ量のRLIP76タンパク質またはその活性断片を含む、請求項13記載の方法。
【請求項21】
第一の用量および第二の用量が、異なる量のRLIP76タンパク質またはその活性断片を含む、請求項13記載の方法。
【請求項22】
RLIP76タンパク質またはその活性断片と第二の放射線防護剤とを含む、組成物。
【請求項23】
第二の放射線防護剤が、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤またはスーパーオキシドジスムターゼ類似体である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
リポソームまたはプロテオリポソームにより投与される、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
酸化防止剤がブチル化ヒドロキシトルエン(BTH)である、請求項23記載の組成物。
【請求項26】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、放射線照射の24時間後に1回から10回投与される、請求項1または13記載の方法。
【請求項27】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、放射線照射の24時間後に少なくとも3回投与される、請求項1または13記載の方法。
【請求項28】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、放射線照射後24時間以内に1回および放射線照射の24時間後に1回または複数回投与される、請求項1または13記載の方法。
【請求項29】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、放射線照射後25時間から3ヶ月間に1回または複数回投与される、請求項1または13記載の方法。
【請求項30】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、少なくとも0.01 μg/kg体重の投与量で投与される、請求項1または13記載の方法。
【請求項31】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、約0.01 μg/kg体重〜約100 mg/kg体重の投与量で投与される、請求項1または13記載の方法。
【請求項32】
RLIP76タンパク質またはその活性断片が、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与および経口投与からなる群より選択される投与経路を介して投与される、請求項1または13記載の方法。
【請求項33】
放射線被曝が少なくとも2 Gyである、請求項1または13記載の方法。
【請求項34】
放射線被曝が約2 Gy〜約100 Gyである、請求項1または13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−500264(P2013−500264A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521840(P2012−521840)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/043098
【国際公開番号】WO2011/011713
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(510215411)テラピオ コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】