説明

放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置

【課題】電子線がろう材に直接照射されない構成とすることで、放射線発生管内部の真空度の低下を抑制し、安定して放射線量を発生させることができ、長時間連続使用可能とする放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置を提供する。
【解決手段】両端が開口した電子通過路8を有する放射線遮蔽部材7を備え、電子通過路8の一端から電子が入射し、電子通過路8の他端側に設けられたターゲット8に電子を照射して放射線を発生させる放射線発生装置であって、電子通過路8の他端側周囲の放射線遮蔽部材7に設けられたターゲット支持面7bに、ターゲット9の電子が照射される側の面の周縁がろう接され、電子通過路8の他端側の開口部における断面の径が、電子通過路8の一端における断面の径よりも大きいことを特徴とする放射線発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットに電子を照射することで放射線を発生させ、X線撮影等に適用できる放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線源として用いられる放射線発生装置では、真空維持された放射線発生管(放射線放出源)内部で、電子源から電子を放出させ、タングステン等の原子番号が大きい金属材料で構成されるターゲットに電子を衝突させることにより放射線を発生させている。
【0003】
ところで、電子源から電子を効率良く発生させ、放射線発生装置の長寿命化を図るためには、放射線発生管内部を長期間にわたって真空に維持する必要がある。特許文献1には、透過型ターゲットを用いた放射線発生装置において、ターゲットの周囲を放射線発生管(X線管)のターゲット保持リングにろう付けすることによって放射線発生管内部を真空に維持する技術が開示されている。
【0004】
また、放射線発生装置では、ターゲットで発生した放射線が全方向へ発せられるため、放射線遮蔽部材を設けることにより撮影に必要となる放射線以外の不要な放射線を遮蔽するのが一般的である。特許文献2には、放射線遮蔽部材を透過型のターゲットの電子入射側と放射線取り出し側に配置した構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−306533号公報
【特許文献2】特開2007−265981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線発生装置の真空維持と不要放射線遮蔽の実現方法として、ターゲット周囲に放射線遮蔽部材で電子通過路、放射線通過路を形成することで不要放射線を遮蔽し、放射線遮蔽部材にターゲットをろう接することで放射線発生管を真空封止する方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、放射線遮蔽部材にターゲットをろう付けによって接合し真空封止しようとすると、余分なろう材が流れ出し、放射線遮蔽部材に設けられた電子通過路の内壁面にまで流れ込むことがある。使用するろう材の量は、放射線遮蔽部材とターゲットの隙間の大きさに合わせて予め決めて用いるが、部品に寸法公差があると、余分なろう材が流れ出すことになる。ろう材が電子通過路の内壁面に流れ込むと、電子線がろう材に直接照射されてしまう可能性がある。ろう材はターゲットや周辺の放射線遮蔽部材に比べて融点が低いため、電子線が照射されると溶融し、放射線発生管内部の真空度が低下しやすい。また、放射線発生管内部の真空度が低下すると電子源から熱電子が発生しにくくなり、取り出せる放射線量が低下し、連続して使用することが難しくなるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、電子線がろう材に直接照射されない構成とすることで、放射線発生管内部の真空度の低下を抑制し、安定して放射線量を発生させることができ、長時間連続使用可能とする放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、両端が開口した電子通過路を有する放射線遮蔽部材を備え、
前記電子通過路の一端から電子が入射し、前記電子通過路の他端側に設けられたターゲットに該電子を照射して放射線を発生させる放射線発生装置であって、
前記電子通過路の前記他端側周囲の前記放射線遮蔽部材に設けられたターゲット支持面に、前記ターゲットの前記電子が照射される側の面の周縁がろう接され、
前記電子通過路の前記他端側の開口部における断面の径が、前記電子通過路の前記一端における断面の径よりも大きいことを特徴とする放射線発生装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、両端が開口した電子通過路を有する放射線遮蔽部材を備え、
前記電子通過路の一端から電子が入射し、前記電子通過路の他端側に設けられたターゲットに該電子を照射して放射線を発生させる放射線発生装置であって、
前記電子通過路の前記他端側周囲の前記放射線遮蔽部材に設けられたターゲット支持面に、前記ターゲットの前記電子が照射される側の面の周縁がろう接され、
前記ターゲット支持面に、該ターゲット支持面に沿って環状の溝が形成されていることを特徴とする放射線発生装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射線遮蔽部材に設けられた電子通過路の内壁面にろう材が流れ出て付着しても、流れ出たろう材に電子線が直接照射されることがない構成をとる。これにより、流れ出たろう材が、電子線が直接照射されることによって溶融することがないため、放射線発生管内部の真空度の低下を抑制でき、長時間連続使用した場合の放射線量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の放射線発生装置の構成図、及びアノードの一例を示す図である。
【図2】本発明の放射線発生装置に用いられるアノードの他の例を示す図である。
【図3】比較例のアノードを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の放射線発生装置について好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但し、下記実施形態に記載されている構成部材の材質、寸法、形状、相対配置等は、特に記載がない限り、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0014】
〔第1の実施形態〕
図1を用いて第1の実施形態の放射線発生装置の構成について説明する。図1(a)は本実施形態の放射線発生装置の構成例を示す断面図、図1(b)は図1(a)のアノードを拡大して表した断面図、図1(c)は図1(a)のアノードを放射線取り出し窓側から見たときの平面図である。
【0015】
放射線発生装置19は、放射線取り出し窓18を有する外囲器17内に、放射線放出源1、駆動電源16が配置され、外囲器17内の余空間を絶縁油15で満たして構成されている。
【0016】
放射線放出源1は、電子放出源3、アノード10、ゲッタ12、真空容器6からなる。
【0017】
電子放出源3は、電流導入端子4、電子放出部2からなる。電子放出源3の電子放出機構としては、真空容器6の外部から電子放出量を制御可能な電子放出源であれば良く、熱陰極型電子放出源、冷陰極型電子放出源等を適宜適用することが可能である。電子放出源3は、真空容器6を貫通するように配置した電流導入端子4を介して、電子放出量及び電子放出のオン・オフ状態を制御可能なように、真空容器6の外部に配置した駆動電源16に電気的に接続される。
【0018】
電子放出部2から放出された電子は、不図示の引き出しグリッド、不図示の加速電極により、10keV〜200keV程度のエネルギーを有する電子線5となり、電子放出部2に対向させて配置したターゲット9に、入射可能となっている。引き出しグリッド、加速電極は、熱陰極の電子銃管に内蔵することも可能である。また、電子線の照射スポット位置及び電子線の非点収差の調整の為の補正電極を電子放出源3に付加した上で、外部に配置した不図示の補正回路と接続することも可能である。
【0019】
アノード10は、放射線遮蔽部材7と、ターゲット基板9aとターゲット膜9bからなるターゲット9と、で構成される。
【0020】
ターゲット膜9bは、通常、原子番号26以上の金属材料を用いることができる。より好適には、熱伝導率が大きく融点が高いものほど良い。具体的には、タングステン、モリブデン、クロム、銅、コバルト、鉄、ロジウム、レニウム等の金属材料、又はこれらの合金材料を好適に用いることができる。ターゲット膜9bの厚さは、加速電圧によってターゲット膜9bへの電子線の浸入深さ即ち放射線の発生領域が異なるため、最適な値は異なるが、1μm〜15μmである。
【0021】
ターゲット基板9aへのターゲット膜9bの一体化は、スパッタ、蒸着等によって得ることができる。また、別の方法としては、別途、圧延や研磨により所定の厚さのターゲット膜9bの薄膜を作製し、ターゲット基板9aに高温、高圧下で、拡散接合することにより得ることができる。
【0022】
ターゲット基板9aは、放射線の透過性が高く、熱伝導が良く、真空封止に耐える必要がある。例えば、ダイヤモンド、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化アルミ、窒化アルミ、グラファイト、ベリリウム等を用いることができる。より好ましくは、放射線の透過率がアルミニウムよりも小さく熱伝導率がタングステンよりも大きい、ダイヤモンド、窒化アルミ、窒化ケイ素が望ましい。ターゲット基板9aの厚さは、上記の機能を満足すれば良く、材料によって異なるが、0.3mm以上2mm以下が好ましい。特に、ダイヤモンドは、他の材料に比べて、熱伝導性が極めて大きく、放射線の透過性も高く、真空を保持しやすいため、より優れている。しかし、これらの材料は、温度が上昇するにつれて、熱伝導率の低下が大きいため、ターゲット基板9aは、できるだけ温度上昇を抑制しておく必要がある。
【0023】
放射線遮蔽部材7は、両端が開口した電子通過路8を有している。電子通過路8の一端(電子放出源3側の端部の開口部)から電子が入射し、電子通過路8の他端側(電子放出源3と反対側)に設けられたターゲット9に電子が照射されて放射線が発生する。電子通過路8は、ターゲット9よりも電子放出源3側では、電子線5をターゲット膜9bの電子線照射領域(放射線発生領域)に導くための通過路になっており、ターゲット9よりも放射線取り出し窓18側では放射線を外部に放出するための通過路になっている。ターゲット膜9bから電子放出源3側へ向かって放射される放射線、ターゲット膜9bから放射線取り出し窓18側へ向かって放射される放射線のうち不要な放射線は、それぞれ電子通過路8の内壁で遮蔽される。電子通過路8は、図1(c)に示すように放射線取り出し窓18側から見た平面図では円形となっているが、四角や楕円形等適宜、選択することができる。また、放射線遮蔽部材7は、絶縁油15と接しているため、ターゲット9で発生した熱を絶縁油に伝達し放射線放出源1の外部へ逃がす機能も有している。
【0024】
放射線遮蔽部材7に用いることができる材料は、30kV〜150kVで発生する放射線を遮蔽できるものであれば良い。例えば、タングステン、タンタルの他、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ等、又はこれらの合金を用いることができる。
【0025】
放射線遮蔽部材7とターゲット9の接合は、ろう付け等により行うことができる。ろう付けによる接合は、真空容器6の内部を真空状態に維持することが重要である。ろう付けのろう材としては、放射線遮蔽部材7の材料や、耐熱温度等により適宜、選択することができる。例えば、ターゲット基板9aが特に高温になるような場合には、高融点金属用ろう材として、Cr−V系、Ti−Ta−Mo系、Ti−V−Cr−Al系、Ti−Cr系、Ti−Zr−Be系、Zr−Nb−Be系等を選択できる。真空気密をより重視する場合には、高真空機器用のろう材として、Au−Cuを主成分とするろう材を用いることができる。他に、ニッケルろう、黄銅ろう、銀ろう、パラジウムろう等を用いることができる。
【0026】
真空容器6はガラスやセラミックス等で構成することができ、真空容器6の内部は、真空排気(減圧)された内部空間13となっている。内部空間13は、電子の平均自由行程として、電子放出源3と放射線を放出するターゲット9b膜の間の距離を、少なくとも電子が飛翔可能なだけの真空度であれば良く、1×10-4Pa以下の真空度が適用可能である。使用する電子放出源や、動作する温度等を考慮して適宜選択することが可能であり、冷陰極型電子放出源等の場合は、1×10-6Pa以下の真空度とするのがより好ましい。真空度の維持の為に、ゲッタ12を内部空間13に配置するか、もしくは内部空間13に連通している不図示の補助スペースに設置することも可能である。
【0027】
以下、図1(b)を用いて、アノード10の構成を詳細に説明する。アノード10は、電子通過路8を有する放射線遮蔽部材7と、放射線透過窓を兼ねるターゲット基板9aと、ターゲット基板9aの電子放出源3側の表面に配置されたターゲット膜9bと、からなる。電子通過路8の他端側周囲(電子入射側の端部とは反対側周囲)の放射線遮蔽部材7にはターゲット支持面7bを有するターゲット支持部7aが設けられている。ターゲット支持面7bにターゲット9の電子が照射される側の面の周縁がろう接され、真空容器6の内部が真空維持される。また、本発明では、電子通過路8の電子入射側の端部とは反対側の開口部における断面の径d1が、電子通過路8の電子入射側の端部における断面の径d2よりも大きい構成をとる。図1(b)では、その一例として、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部に向かって1つの段差からなるろう材受け部7cを設けた構成としている。電子通過路8の断面の径(電子通過路8の内径)は、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部に向かって段差を伴って減少している。
【0028】
ターゲット9と放射線遮蔽部材7のろう付けにあたっては、予め、ターゲット9の周囲に不図示のメタライズ層を設ける。メタライズ層は、例えば、Ti、Zr、或いはHfから選ばれた少なくとも1種の元素を含んだ化合物を活性金属成分として含むメタライズ組成物粉末と、樹脂結合材や分散媒を添加してペーストを作製する。その後、メタライズする箇所に塗工し、所定の温度で焼成することにより得られる。
【0029】
次に、ターゲット9の周囲のメタライズした表面に、活性金属ろうを付着させる。例えば、Ti入り銀銅ろう材を用いることができる。この活性金属ろうを付着させたターゲット9を、予め所定の寸法に形成した放射線遮蔽部材7に設けられたターゲット支持部7aにセットし、所定の温度、時間で焼成する。この焼成条件は、金属活性ろうの種類によって異なる。前述のTi入り銀銅ろう材の場合、約850℃で約100秒間保持するのが好ましい。
【0030】
ターゲット9と放射線遮蔽部材7のろう付けによる接合では、真空容器6の内部の真空気密を保つ必要があるため、このろう付けが極めて重要である。このため、理想的にはろう材が焼成時に溶融し、ターゲット9と放射線遮蔽部材7の間に隙間が無く密着できるようになるのが好ましい。しかし、実際のターゲット9や放射線遮蔽部材7、メタライズ層やろう材の厚さにも一定のばらつきが発生してしまうため、少なくとも真空気密を保つためには、ろう材は想定される平均値よりも多く、ターゲット9の周囲に付けなければならない。このため、焼成時にろう材が放射線遮蔽部材7に設けられた電子通過路8の内壁面に沿って流れ出すことがある。
【0031】
本実施形態では、電子通過路8の電子入射側の端部とは反対側の開口部における断面の径d1を、電子通過路8の電子入射側の端部における断面の径d2よりも大きくしている。また、電子線の径はd2よりも小さくするのが一般的である。このため、ターゲット支持面7bからろう材が流れて電子通過路8の内壁面に付着したとしても、この付着したろう材に電子線が直接当たるのを抑制できる。
【0032】
図1(b)の構成では、d1>d2となるように、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部に向かって1つの段差を設けている。このため、ターゲット支持面7bからろう材が流れて段差に達したとしても、この段差にろう材が留まるため、電子通過路8の、この段差よりも電子入射側の内壁面にまで流れ込むのを抑制できる。よって、ろう材に直接電子線が当たるのを抑制でき、放射線11を発生させるために電子線5を照射させても、真空度の低下はわずかである。
【0033】
一方、図3のように、電子通過路8の電子入射側の端部とは反対側の開口部における断面の径d1が、電子通過路8の電子入射側の端部における断面の径d2と同じ場合、ろう材が流れ出すと電子通過路8の内壁面に達してしまう。電子通過路8の内壁面にろう材14aが付着すると、図1(b)の場合と異なり、流れ出したろう材14aに直接電子線が照射される。ろう材は融点がターゲットに比べて低いため、電子線が当たると溶融し、蒸気が発生しやすい。このため、真空度が低下し、電子源から電子の放出が少なくなり、発生する放射線量も減少してしまう。
【0034】
このように、本実施形態によれば、アノード10を図1(b)の構成とすることにより、真空度の低下や、それに起因する放射線量の低下を抑制できる。
【0035】
〔第2の実施形態〕
図2(a)を用いて第2の実施形態について説明する。図2(a)は本実施形態の放射線発生装置におけるアノードを拡大して表した断面図である。
【0036】
本実施形態の放射線発生装置は、ターゲット支持面7bに、ターゲット支持面7bに沿って環状の溝7dを設けた点が第1の実施形態と異なる。この点を除いては、第1の実施形態と同じ部材を用い、同じ構成としている。
【0037】
図2(a)の構成では、ターゲット支持面7bに、ターゲット支持面7bに沿って環状の溝7dを設けている。溝7dがろう材受け部7cを構成しており、溝7dの断面形状は矩形状になっている。このため、ターゲット支持面7bからろう材が流れたとしても、溝7dにろう材が留まるため、電子通過路8の内壁面にまで流れ込むのを抑制できる。よって、ろう材に直接電子線が当たるのを抑制できる。また、図2(a)の構成では、溝7dを設けることで電子通過路8の内壁面までの距離を長くできる点でより好ましい。
【0038】
このように、本実施形態によれば、アノード10を図2(a)の構成とすることにより、第1の実施形態と同様に、真空度の低下や、それに起因する放射線量の低下を抑制できる。
【0039】
〔第3の実施形態〕
図2(b)を用いて第3の実施形態について説明する。図2(b)は本実施形態の放射線発生装置におけるアノードを拡大して表した断面図である。
【0040】
本実施形態の放射線発生装置は、ターゲット支持面7bに、ターゲット支持面7bに沿って環状の溝7eを設けた点が第1の実施形態と異なる。この点を除いては、第1の実施形態と同じ部材を用い、同じ構成としている。
【0041】
図2(b)の構成では、ターゲット支持面7bに、ターゲット支持面7bに沿って環状の溝7eを設けている。溝7eがろう材受け部7cを構成しており、溝7eの断面形状は勾配を有する形状になっている。このため、ターゲット支持面7bからろう材が流れたとしても、溝7eにろう材が留まるため、電子通過路8の内壁面にまで流れ込むのを抑制できる。よって、ろう材に直接電子線が当たるのを抑制できる。また、図2(b)の構成では、溝7eを設けることで電子通過路8の内壁面までの距離を長くできる点でより好ましい。
【0042】
このように、本実施形態によれば、アノード10を図2(b)の構成とすることにより、第1の実施形態と同様に、真空度の低下や、それに起因する放射線量の低下を抑制できる。
【0043】
〔第4の実施形態〕
図2(c)を用いて第4の実施形態について説明する。図2(c)は本実施形態の放射線発生装置におけるアノードを拡大して表した断面図である。
【0044】
本実施形態の放射線発生装置は、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部に向かって2つの段差を設けた点が第1の実施形態と異なる。この点を除いては、第1の実施形態と同じ部材を用い、同じ構成としている。
【0045】
図2(c)の構成では、d1>d2となるように、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部に向かって2つの段差を設けている。第1の段差が第1のろう材受け部7cを構成し、第2の段差が第2のろう材受け部7fを構成しており、電子通過路8の第2のろう材受け部7fにおける断面の径をd3とすると、d1、d2、d3の関係は、d1>d3>d2である。電子通過路8の断面の径は、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部に向かって段差を伴って減少している。このため、ターゲット支持面7bからろう材が流れて第1の段差、第2の段差に達したとしても、これらの段差にろう材が留まるため、電子通過路8の、第2の段差よりも電子入射側の内壁面にまで流れ込むのを抑制できる。よって、ろう材に直接電子線が当たるのを抑制できる。
【0046】
このように、本実施形態によれば、図2(c)の構成とすることにより、第1の実施形態と同様に、真空度の低下や、それに起因する放射線量の低下を抑制できる。
【0047】
尚、電子通過路8の断面の径は、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部まで段差を伴って連続的に減少している構成としても良い。
【0048】
〔第5の実施形態〕
図2(d)を用いて第5の実施形態について説明する。図2(d)は本実施形態の放射線発生装置におけるアノードを拡大して表した断面図である。
【0049】
本実施形態の放射線発生装置は、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部まで傾斜部7gを設けた点が第1の実施形態と異なる。この点を除いては、第1の実施形態と同じ部材を用い、同じ構成としている。
【0050】
図2(d)の構成では、d1>d2となるように、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部まで傾斜部7gを設けている。傾斜部7gがろう材受け部の役割を果たす。電子通過路8の断面の径は、ターゲット支持面7bから電子通過路8の電子入射側の端部まで連続的に減少している。このため、ターゲット支持面7bからろう材が流れて電子通過路8の内壁面に付着したとしても、この付着したろう材に電子線が直接当たるのを抑制できる。
【0051】
このように、本実施形態によれば、図2(d)の構成とすることにより、第1の実施形態と同様に、真空度の低下や、それに起因する放射線量の低下を抑制できる。
【0052】
〔第6の実施形態〕
本発明の第6の実施形態は、放射線発生装置を用いた放射線撮影装置(不図示)である。本実施形態の放射線撮影装置は、放射線発生装置、放射線検出器、信号処理部、装置制御部及び表示部を備えている。放射線検出器は信号処理部を介して装置制御部に接続され、装置制御部は表示部及び電圧制御部に接続されている。放射線発生装置としては、第1〜第5の実施形態の放射線発生装置が好適に用いられる。
【0053】
放射線発生装置における処理は装置制御部によって統括制御される。例えば、装置制御部は放射線発生装置と放射線検出器による放射線撮影を制御する。放射線発生装置から放出された放射線は、被検体を介して放射線検出器で検出され、被検体の放射線透過画像が撮影される。撮影された放射線透過画像は表示部に表示される。また例えば、装置制御部は放射線発生装置の駆動を制御し、電圧制御部を介して放射線放出源に印加される電圧信号を制御する。
【0054】
本実施形態の放射線撮影装置によれば、第1〜第5の実施形態と同様に、真空度の低下や、それに起因する放射線量の低下を抑制できる。
【実施例】
【0055】
図1に基づいて、本発明の実施例を説明する。本実施例では、図1(a)〜(c)に示す放射線放出源を作製した。作製方法を以下に示す。
【0056】
高圧合成ダイヤモンドをターゲット基板9aとして用意した。高圧高温ダイヤモンドは、直径5mm、厚さ1mmのディスク状(円柱状)の形状である。予め、UV−オゾンアッシャにより、ダイヤモンドの表面にある有機物を除去した。
【0057】
このダイヤモンド基板の直径1mmの面の一方の面上に、スパッタ法により、Arをキャリアガスとして、予め、チタン層を形成し、その後、ターゲット膜9bとして8μmの厚さのタングステン層を形成した。このようにして、ターゲット9を得た。
【0058】
このターゲット9の周囲にチタンを活性金属成分としたメタライズ層を形成し、その上に、銀、銅、チタンからなるろう材を付けた。
【0059】
一方、放射線遮蔽部材7としてタングステンを用意し、図1(b)のように、ターゲット支持部7a、ターゲット支持面7b、ろう材受け部7c、及び電子通過路8を形成した。ターゲット支持部7aの直径は5.3mm、電子通過路8の電子入射側の端部とは反対側の開口部における断面の径d1は3.5mmとした。ろう材受け部7cの高さは2.0mm、電子通過路8の電子入射側の端部における断面の径d2は2.0mmとした。
【0060】
ろう材を付けたターゲット9を、上記のような形状に加工した放射線遮蔽部材7にセットして、850℃で焼成し、アノード10を作製した。
【0061】
次に、図1に示すように、ターゲット9と放射線遮蔽部材7を一体としたアノード10を、電子放出部2を有する含浸型の熱電子銃を電子放出源3と対向させて、電子線5が電子通過路8の中に入るように位置決めし、真空封止し、放射線放出源1とした。真空容器6内にはゲッタ12も配置した。この時、内部の真空度をモニターするために圧力計も設置した。
【0062】
このようにして、放射線放出源を5個作製し、それぞれ実施例No.1〜5の放射線放出源とした。
【0063】
[比較例]
比較例として、図3に示す放射線遮蔽部材7を用い、上記実施例と同様のターゲット9を作製した。この後、上記実施例と同様にアノード10を作製し、その他、同様に比較例のための放射線放出源を作製した。また、同様に、内部の真空度をモニターするために圧力計も設置した。この比較例の放射線放出源も5個作製し、それぞれ比較例No.1〜5の放射線放出源とした。
【0064】
<真空度及び放射線量の測定>
実施例の放射線放出源と比較例の放射線放出源を共に、内圧をモニターしながら、同時に、放射線量を半導体方式の線量計で測定した。駆動は、加速電圧が100kVで、電流が5mA、照射時間が10msec、休止時間が90msecで行った。別途測定した焦点径のサイズから、電子線の直径は1.7mmであった。
【0065】
表1に、実施例No.1〜5の放射線放出源と、比較例No.1〜5の放射線放出源のそれぞれの圧力と放射線量の変化を示す。
【0066】
実施例No.2、No.4、No.5では、内圧がわずかに上昇している。実施例No.1とNo.3では、実施例No.2、No.4、No.5に比べると内圧上昇は大きい。実施例No.1〜5の全てにおいて、線量は初期と同じで、パルス発生回数による線量の低下は見られなかった。
【0067】
一方、比較例No.2とNo.4では、内圧がわずかに上昇している。比較例No.1、No.3、No.5では、内圧上昇が大きい。比較例No.2、No.4では、パルス発生回数による線量の低下は見られなかったが、比較例No.1、No.3、No.5では、パルス発生回数の増加とともに線量が低下した。
【0068】
上記結果から、実施例No.2、No.4、No.5、及び比較例No.2とNo.4では、用いたろう材が放射線遮蔽部材7の電子通過路8の内壁面には、流れなかったものと推定される。一方、実施例No.1とNo.3、及び比較例No.1、No.3、No.5では、ろう材が流れ出したものと思われる。比較例No.1、No.3、No.5では、電子線が直接ろう材に当たったため、内圧が上昇し、熱電子の発生量が減少し、線量低下を招いたものと思われる。実施例No.1とNo.3では、電子線が直接当たらなかったため、内圧上昇はあったものの、線量低下を招くほどではなく効果が見られた。
【0069】
【表1】

【符号の説明】
【0070】
1:放射線放出源、2:電子放出部、3:電子放出源、4:電流導入端子、5:電子線、6:真空容器、7:放射線遮蔽部材、7a:ターゲット支持部、7b:ターゲット支持面、7c:ろう材受け部、7d:ターゲット支持面に設けられた溝、7e:ターゲット支持面に設けられた溝、7f:ろう材受け部、7g:放射線遮蔽部材に設けられた傾斜部、8:電子通過路、9:ターゲット、9a:ターゲット基板、9b:ターゲット膜、10:アノード、11:放射線、12:ゲッタ、13:内部空間、14:ろう材、14a:電子通過路の内壁面に付着したろう材、15:絶縁油、16:駆動電源、17:外囲器、18:放射線取り出し窓、19:放射線発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した電子通過路を有する放射線遮蔽部材を備え、
前記電子通過路の一端から電子が入射し、前記電子通過路の他端側に設けられたターゲットに該電子を照射して放射線を発生させる放射線発生装置であって、
前記電子通過路の前記他端側周囲の前記放射線遮蔽部材に設けられたターゲット支持面に、前記ターゲットの前記電子が照射される側の面の周縁がろう接され、
前記電子通過路の前記他端側の開口部における断面の径が、前記電子通過路の前記一端における断面の径よりも大きいことを特徴とする放射線発生装置。
【請求項2】
両端が開口した電子通過路を有する放射線遮蔽部材を備え、
前記電子通過路の一端から電子が入射し、前記電子通過路の他端側に設けられたターゲットに該電子を照射して放射線を発生させる放射線発生装置であって、
前記電子通過路の前記他端側周囲の前記放射線遮蔽部材に設けられたターゲット支持面に、前記ターゲットの前記電子が照射される側の面の周縁がろう接され、
前記ターゲット支持面に、該ターゲット支持面に沿って環状の溝が形成されていることを特徴とする放射線発生装置。
【請求項3】
前記電子通過路の断面の径が、前記ターゲット支持面から前記電子通過路の前記一端に向かって段差を伴って減少することを特徴とする請求項1に記載の放射線発生装置。
【請求項4】
前記電子通過路の断面の径が、前記ターゲット支持面から前記電子通過路の前記一端まで連続的に減少することを特徴とする請求項1に記載の放射線発生装置。
【請求項5】
前記電子通過路の断面の径が、前記ターゲット支持面から前記電子通過路の前記一端まで段差を伴って連続的に減少することを特徴とする請求項1に記載の放射線発生装置。
【請求項6】
前記ターゲット支持面に形成された前記環状の溝の断面形状が、矩形状又は勾配を有する形状であることを特徴とする請求項2に記載の放射線発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の放射線発生装置と、前記放射線発生装置から放出され被検体を透過した放射線を検出する放射線検出器と、を備えることを特徴とする放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−51153(P2013−51153A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189108(P2011−189108)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】