説明

放射線計測に用いられる応力発光体、及び当該応力発光体を備えた放射線計測システム

【課題】放射線の被曝量の計測及び被曝強度分布、並びに被曝積算量を簡易に計測することができる応力発光体を提供する。
【解決手段】本発明によれば、放射線被曝量に応じた発光強度で発光する応力発光体を用いる。被曝により応力発光体に形成される格子欠陥が長期間保持されるため、当該格子欠陥を用いれば被曝量の積算についても記憶装置等の構成を別途用いることなく簡易に計測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線計測に用いられる応力発光体、及び当該応力発光体を備えた放射線計測システムに関し、より具体的には、放射線の照射量及び強度の空間分布をリアルタイムでモニタリングすることができるとともに、イメージングプレートとして照射の積算量を併せて計測することができる応力発光体、及び当該応力発光体を備えた放射線計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線を取り扱う施設には、施設内の放射線を管理するため及び放射線取扱者の放射線被曝量を管理するために線量計が使用されている。この線量計は、蛍光ガラス線量計、熱ルミネセンス線量計(以下、TLDという)、フィルムバッジや電子線量計などである。
【0003】
このうち蛍光ガラス線量計、TLD、フィルムバッジは、例えば、放射線サービス機関などの第三者によりレーザの照射、熱処理、現像といった工程を経て被曝線量が測定され、その測定結果が施設管理者及び放射線取扱者に報告されている。
【0004】
これに対して電子線量計は、内部に組み込まれた半導体を用いた検出器で被曝線量を測定し表示部から測定値を表示させる構成であるため、放射線取扱者本人がその場で被曝線量を確認することが可能である。
【0005】
図3は、即答性を有している電子線量計の一例の構成である。この電子線量計301は、一般的に、一端を閉塞した筒状の本体ケース302と、この本体ケース302の開口と嵌合するキャップ303とから構成されている。この本体ケース302の一側面には被曝線量を表示する表示部304と、被曝線量の測定開始・終了及び前記表示部304を作動させるスイッチ305が形成されており、表示部304の裏面には衣服に電子線量計301を取り付けるホルダ306が形成されている。本体ケース302の中空部には被曝線量を検出し測定する半導体を用いた検出器(図示せず)が組み込まれ、本体ケース302の開口付近には電子線量計301の駆動源となるバッテリー307が着脱自在に取り付けられている。この電子線量計301での被曝線量の測定は、スイッチ305を押圧することによって検出器が作動し、その測定値は表示部304に刻一刻と変化し表示される。
【0006】
しかしながら、スイッチ305を押圧することによって、表示部304の表示が消えるとともに検出器が停止するため、測定した被曝線量が記憶されずに消滅してしまう。測定した被曝線量を記憶又は記録するためには、電子線量計301の内部に記憶機能を追加する又は外部記録装置に被曝線量を記録するなどして被曝線量の積算値を管理しなければならなかった。また、こうした線量計は、物理実験において放射線照射量の計測にも用いられている。むしろ、放射線被爆量は、物理的に計測される放射線照射量から生体での被曝線量に換算される量であり、以下、放射線照射量を中心に扱う。
【0007】
ところで近年では、特許文献1にあるように、誘導加速方式のシンクロトロンで陽子からクラスターイオンまでの重イオンをGeV域まで加速することができる技術が開発されている。そのため、これらの広範囲のビームのプロファイル(空間的、時間的な分布)を計測することができる計測器(計測システム)が特に渇望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3896420号(登録日:平成19年1月5日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、これまでは、放射線の照射量をその場でモニターできるだけでなく、照射および被曝の強度分布についても視覚的にモニターでき、且つ、照射および被曝の積算量を計測することができる簡易な構成の放射線計測系は知られていない。
【0010】
また、イオン加速器のビームプロファイル測定用に、また宇宙や高エネルギー物理分野において、重イオンを検出することができ、同時に積算されたビームの空間分布を記録できるイメージングプレートの特性を兼ね備えた計測器が渇望されている。
【0011】
そこで、本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、放射線の照射および被曝量の計測(モニター)を簡易に実現することができるとともに、被曝積算量についても簡易に計測することができる放射線計測系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、応力発光体が放射線を受けて発光し、照射被曝量及びその積算量に応じた発光強度を呈することを見出し、本願発明を完成するに至った。また、積算量は、放射線照射後、紫外線で励起した蛍光の残光強度、或いは熱ルミネッセンスからも確認できる。
【0013】
すなわち、本発明に係る応力発光体は、上述した問題を解決するために、放射線照射量及び放射線照射積算量を計測する放射線計測に用いられることを特徴としている。
【0014】
また、上記の構成において、放射線照射量と、応力発光強度とは、比例関係にあることが好ましい。
【0015】
また、上記の構成において、放射線照射積算量と、応力発光体を紫外線励起して得られる蛍光の残光強度とは、比例関係にあることが好ましい。
【0016】
更に、上記の構成において、放射線の入射粒子数に対して発光強度が線形性を示すことが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る放射線計測システムは、上記の構成を備えた放射線計測に用いられる応力発光体と、上記応力発光体の発光を検出し、発光量を測定する発光量測定手段と、上記発光量測定手段の測定結果に基づいて、放射線量を算出する算出手段と、を備えていることを特徴としている。
【0018】
また、本発明に係る放射線計測システムは、上記の構成に加えて、更に、上記算出手段には、上記発光量測定手段の測定結果を処理して放射線被曝の強度分布を生成する処理手段が設けられていることが好ましい。
【0019】
また、本発明には、上記の構成を備えた放射線計測に用いられる応力発光体を有する物品も含まれる。また、本発明には、上記の構成を備えた放射線計測に用いられる応力発光体を、繊維材料と混合して得られる衣料品も含まれる。また、本発明には、上記の構成を備えた放射線計測に用いられる応力発光体を含有する塗料も含まれる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る応力発光体は、放射線照射量及び放射線照射積算量を計測する放射線計測および放射線分布計測に用いられることを特徴としている。また、本発明に係る放射線計測システムは、以上のように、上記の構成を備えた放射線計測に用いられる応力発光体と、上記応力発光体の発光を検出し、発光量を測定する発光量測定手段と、上記発光量測定手段の測定結果に基づいて、放射線被曝量を算出する算出手段と、を備えていることを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、放射線の照射量の計測及び照射強度の空間分布を視覚的に簡易に実現することができるとともに、普通のイメージングプレートに代わって被曝積算量についても簡易に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る、放射線計測に用いられる応力発光体を用いて、放射線照射による発光の様子を示した図である。
【図2】本発明に係る、放射線計測に用いられる応力発光体を用いて、放射線照射後、紫外線励起した蛍光の30分の残光強度と、放射線照射相対量との関係を示したグラフである。
【図3】従来構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る放射線計測に用いられる応力発光体の一実施形態を説明する。
【0024】
本願発明者らは、応力発光体に放射線を照射することによって、被曝量に応じた発光強度を呈し、被曝分布を簡易に、すなわち視覚的に計測することが可能であり、且つ、被曝積算量についても併せて計測することができることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0025】
〔放射線計測に用いられる応力発光体〕
本実施形態における、放射線計測に用いられる応力発光体は、発光粒子を含有する。
【0026】
上記発光粒子は、母体材料に発光中心を添加させたものである。母体材料に発光中心を添加させることによって、発光強度を飛躍的に向上させることができる。
【0027】
上記母体材料としては、例えば、スタフドトリジマイト構造、三次元ネットワーク構造、長石構造、格子欠陥制御をした結晶構造、ウルツ構造、スピネル構造、コランダム構造又はβ−アルミナ構造を有する酸化物、硫化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭化物又は窒化物が挙げられる。
【0028】
上記発光中心としては、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの希土類イオン、及び、Ti,Zr,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Nb,Mo,Ta,Wの遷移金属イオンが挙げられる。
【0029】
発光強度は、母体材料と発光中心との組み合わせによって異なる。そのため、母体材料として、例えばストロンチウム及びアルミニウム含有複合酸化物を用いる場合、発光粒子として、xSrO・yAl・zMO(Mは二価金属、Mg,Ca,Ba,x,y,zは整数である。すなわち、Mは二価金属であれば限定されるものではないが、Mg、Ca、Baが好ましい。またx,y,zは1以上の整数を表す。)、xSrO・yAl・zSiO(x,y,zは整数である)を用いると、応力に対して敏感な応力発光体となるため好ましい。中でも、SrMgAl1017:Eu、(SrBa1−x)Al:Eu(0<x<1)、BaAlSi:Eu等であれば、応力に対して特に敏感な応力発光体となるため良い。
【0030】
ここで、応力発光体の製造方法の一形態を説明する。
【0031】
母体材料に添加する発光中心となる材料としては、例えば希土類金属や遷移金属、これらの化合物などが用いられ、希土類金属や遷移金属の化合物としては、例えば酸化物、硝酸塩などが挙げられる。また、原料として母体材料を形成しうる化合物を用いる場合、該原料化合物としては、酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化ケイ素、酸化バリウム、酸化マグネシウムなど)や、炭酸塩(例えば炭酸バリウム、炭酸マグネシウムなど)や、ハロゲン化物(例えば塩化ケイ素、塩化イットリウム、塩化マグネシウムなど)や、有機ケイ素化合物(例えばテトラエトキシシリコン)のようなアルコキシ置換化合物などが挙げられる。
【0032】
また、本実施形態における応力発光体は、このような原料化合物を用いる場合、ゾルゲル法や共沈法などで製造することもできる。例えば共沈法としては、所定母体材料形成に所要の原料化合物を組み合わせ、これらの粉末を適当な溶媒に溶解して溶液を調製したのち、pH調整等の適当な手段で共沈させる方法などが用いられる。
【0033】
発光中心となる材料の添加量は0.01〜20モル%の範囲で選ばれる。この添加量が0.01モル%に満たない場合には、発光強度の向上が不十分であり、一方、20モル%を超えると発光効率が低下して実用に適さない。
【0034】
また、本実施形態における応力発光体は、以下に示す方法によって、効率よく製造することができる。まず、上記母体材料の粉末に対し、希土類金属及び遷移金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物の粉末を、金属原子換算で0.02〜1.0モル%の割合で添加し、十分に混合する。この希土類金属や遷移金属の酸化物粉末の添加量が上記範囲を逸脱すると十分な発光効率が得られにくくなる。
【0035】
次に、この混合粉末を、窒素ガスやアルゴンガス中、あるいは真空中などの不活性雰囲気中、900〜1100℃の範囲の温度まで徐々に昇温して仮焼して、この仮焼粉末を所望形状に加圧成形したのち、これを水素ガス中などの還元雰囲気中、1200〜1600℃の範囲の温度にて、30〜400分間程度焼成するか、あるいは該混合粉末を水素ガス中などの還元雰囲気中、1200〜1600℃の範囲の温度にて、30〜400分間程度焼成することにより、所望の応力発光体を得ることができる。
【0036】
〔発光のメカニズム〕
上記応力発光体の放射線照射による発光のメカニズムは、次の通りである。
【0037】
上記応力発光体に放射線が照射されると、結晶構造に格子欠陥が形成される。応力発光体の発光は、当該応力発光体のキャリア捕獲準位に起因しており、形成された格子欠陥が、新たなキャリア捕獲準位として働き、その後、室温の熱エネルギーによって時間の経過とともに捕獲されたキャリアが開放され、発光中心のところで結合することにより光が生ずる。つまり、放射線によって応力発光体内に構造欠陥が形成されることにより、その欠陥が一次又は二次のキャリア捕獲中心として働くことにより発光が維持される。
【0038】
また、イオンによる電離に伴う励起によって発光が起こる。これは、応力発光材が欠陥による励起状態からの発光特性が強いという性質を有するため、イオンビーム(重イオンビーム)が入射すると電離相互作用が起こって応力以上に励起状態が形成され、より一層強く発光するものと考えられる。
【0039】
励起エネルギーが高いと原子は結晶格子点を飛び出す、あるいは、熱エネルギーとして周りに伝えられて結晶全体がざわつき、やがて緩和過程に入る。ある原子は空孔に収まりビームが飛び込んだ時よりは回復した状態の結晶ができることもある。残された欠陥は、結晶における原子配位ポテンシャル的に安定したものであり、永久的な跡として見えるため、こうした欠陥が照射の都度増えることになる。また、積算量は、放射線被爆後、紫外線で励起した蛍光の残光強度、或いは熱ルミネッセンスからも確認できる。
【0040】
すなわち、配位ポテンシャルの関係で、緩和過程で結晶格子の空孔に戻れなかった格子間原子と空孔が欠陥としてある割合で残り、照射回数とともに欠陥数が増える。そのため、欠陥数と照射積算量との間に比例関係が生じることになる。一方、紫外線励起によって発光させて蛍光の残光強度は欠陥数に比例しているため、残光強度から照射量の積算を実現することができる。
【0041】
特に本実施形態における応力発光体は、重イオンビームを照射したときに形成される格子欠陥が非常に安定で、室温で長時間経過しても全く変化しない(本願の出願時点で半年経過後のもので確認済み)。また、600℃までの高温で処理してもなくならない。すなわち、本実施形態における応力発光体は、重イオンビームによる被曝量及び被曝積算量を測定することが可能である。残光強度による積算量の計測は放射線照射後半年でも実証された。
【0042】
また、重イオンビームの直接測定は、入射時の発光量を測定することにより実現できる。また、応力発光材の発光の即応性から時々刻々変化するビームプロファイルの測定も可能である。
【0043】
ここで重イオンビームとは、ヘリウムより重い原子より電子をはぎとった原子核(イオン、荷電粒子)を加速した粒子線のことを指す。重イオンビームとしては、Arイオンビーム、Feイオンビーム、Xe, La, Dy, Euイオンビームなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0044】
〔放射線計測システム〕
本実施形態における放射線計測システムについて説明する。
【0045】
本実施形態における放射線計測システムは、上記応力発光体と、応力発光体の発光を検出し、発光量を測定するカメラ(発光量測定手段)と、当該カメラによって測定された発光量に基づいて発光量を測定する発光量測定部(発光量測定手段)と、当該発光量測定部の測定結果に基づいて放射線量を算出する算出部(算出手段)とを備えている。
【0046】
上記カメラには、集光レンズ及び撮像素子が設けられている。応力発光体からの光は、集光レンズで集光され、撮像素子で受光される。撮像素子では光電変換が行われ、その出力信号が上記発光量測定部に出力される。尚、カメラは、光電子倍増管で光を電気に変換し、電気信号の増幅はCMOSなどの高性能の電子回路を用いるように構成されていてもよい。
【0047】
上記発光量測定部では、上記出力信号を入力して、当該出力信号に基づいて発光強度を測定する。
【0048】
上記算出部では、上記発光強度を入力し、当該発光強度に基づいて放射線による被曝量を算出するよう構成されている。ここで、被曝量(Sv)は、物理的に測定できる照射線量(Gray:エネルギー吸収線量)に対して生物学的な効果を示す計数を乗じて与える量であるため、照射線量から被曝量に換算することができる。
【0049】
これらの構成により、応力発光体の発光から放射線被曝量を計測することができ、また、放射線被曝積算量も計測することができる。
【0050】
また、上記算出部には、上記発光量測定部の測定結果を処理して放射線被曝の強度分布を生成する処理部(処理手段)が設けられているので、或る範囲内での放射線被曝の強度分布も確認することができる。
【0051】
従来のシンチレータで構成された計測系は、発光量が低いために光電子増倍管との組合せが必要であり、また、発光スペクトルが光ファイバーでの伝送に適した赤外領域から離れているために波長シフタを搭載した複雑な構成からなっているし、測定系によってビームが破壊されてしまうため常時ビーム軌道に入れることができない。また、例えばタングステン線を十字状格子に組んで、その線にビームが衝突した際の2次電子を測定してビーム分布を測定するワイアーモニターがあるが、得られる分布が粗いという欠点がある。一方、本実施形態のシステムは、極めて薄いシートをベースにしていて、簡素化することができる。また、発光特性も優れているので望遠システムとも組み合わせて撮像部分をシートから放すことも可能で、放射線による測定系の損傷を避けることが可能である。さらに薄いシートであり、ビームへの影響が少ないので、長時間ビームに曝すことも可能で積算量の計測が可能である。
【0052】
また、上述した照射の積算量を求めるために、本実施形態における放射線計測システムには、本実施形態における応力発光体を励起させるための励起手段が更に設けられていてもよい。励起手段としては、応力発光体に応力を生じさせる手段を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0053】
尚、本実施形態における応力発光体は、被曝量に応じて発光強度が異なっており、発光の強弱を視覚的に確認することができる。この場合、上記カメラに接続された表示装置を介して確認することも可能である。
【0054】
また、システムには上記した構成以外にも搭載することが可能である。例えば、計測結果を保存しておくことができる記憶装置を搭載してもよい。
【0055】
〔応力発光体を有する物品〕
例えば、本実施形態の応力発光体は、繊維材料と混合することによって放射線被曝箇所が発光する布材を提供することができる。これにより、放射線を取り扱う者が、当該布材で作られた衣服を着用することにより、万が一、被曝をした場合であっても、被曝箇所をタイムリー且つ容易に確認することが可能となる。
【0056】
また、本実施形態の応力発光体は、支持板上に形成することによって、従来のフィルムバッチのようなタイプの放射線計測計(線量計)として提供することができる。この場合、支持板上への形成方法は、特に限定されるものではないが、応力発光体自体を薄膜に形成し、これを支持板上に貼り付ける方法であってもよく、あるいは、応力発光体を塗料と混合して、これを支持板上に塗布することによって形成してもよい。
【0057】
また、本実施形態の応力発光体をバインダー等と混合することによって塗料の形態として用いるも可能である。この塗料は、例えば、漏洩放射線の検出に使用することが可能である。
【0058】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
また、本発明は、以下の点を特徴としていると換言することができる。すなわち、本発明は、応力発光体を有し、当該応力発光体の発光に基づいて放射線の被曝量及び/または被曝積算量を計測することができる線量計にあると換言することもできる。
【0060】
以下、実施例に基づいて、放射線計測に用いられる応力発光体をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例】
【0061】
本発明に係る、放射線計測に用いられる応力発光体に、放射線を照射して、発光強度を測定した。図1〜図3はその結果を示している。
【0062】
本実施例で用いた応力発光体、及び照射条件は以下の通りである。
【0063】
試料:Sr0.95Eu0.01Al応力発光体
照射条件:鉄イオン(エネルギー500MeV/u)
鉄イオン束:1×10−6×10pps範囲で様々の強度で実施した
照射温度 :25℃
発光測定:300〜800nmの蛍光スペクトル(蛍光分光度計、日本分光製)。
【0064】
図1は、異なる照射量で応力発光体に生じる発光を確認した写真である。図1に示すように、照射量が多くなるにつれて、発光強度が高くなっていることが分かる。
【0065】
次に、本実施例の応力発光体が、照射を終えた後でも残光を確認できる点を確認した。図2は、照射終了後、紫外線励起した応力発光体の蛍光の30分後の残光の様子を、残光強度と照射量相対値との関係から示したグラフである。図2から、照射を終えた後でも残光を確認することができ、更に、残光強度と照射量とがおおよそ比例関係にあることが示された。これにより、残光強度から照射量を逆算することができることがわかる。尚、この残光強度と放射線照射積算量の関係は、放射線照射3日後の測定結果であるが、照射1週間後でも、1ヶ月でも、さらに6ヶ月後で同様な関係があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る応力発光体は、放射線被曝量及び被爆積算量を計測する線量計(フィルムバッチ等)に利用することができる他、繊維材料と混合することにより、衣服自体に放射線計測を実現することができる。また本発明に係る応力発光体は塗料として用いることができ、イオンビーム照射場の漏洩放射線やアルファー線放出放射性アイソトープの検知に使うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線照射量及び放射線照射積算量を計測する放射線計測に用いられる応力発光体。
【請求項2】
放射線照射量と、応力発光強度とは、比例関係にある請求項1に記載の、放射線計測に用いられる応力発光体。
【請求項3】
放射線照射積算量と、応力発光体を紫外線励起して得られる蛍光の残光強度とは、比例関係にある請求項1に記載の、放射線計測に用いられる応力発光体。
【請求項4】
放射線の入射粒子数に対して発光強度が線形性を示す請求項1から3までの何れか1項に記載の、放射線計測に用いられる応力発光体。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか1項に記載の放射線計測に用いられる応力発光体と、
上記応力発光体の発光を検出し、発光量を測定する発光量測定手段と、
上記発光量測定手段の測定結果に基づいて、放射線量を算出する算出手段と、を備えていることを特徴とする放射線計測システム。
【請求項6】
更に、上記算出手段には、上記発光量測定手段の測定結果を処理して放射線被曝の強度分布を生成する処理手段が設けられている請求項5に記載の放射線計測システム。
【請求項7】
請求項1から4までの何れか1項に記載の放射線計測に用いられる応力発光体を有する物品。
【請求項8】
請求項1から4までの何れか1項に記載の応力発光体を、繊維材料と混合して得られる衣料品。
【請求項9】
請求項1から4までの何れか1項に記載の応力発光体を含有する塗料。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−235837(P2010−235837A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86748(P2009−86748)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】