放射線防護α,β−不飽和アリールスルホンの製剤
対象における放射線の毒性作用を減少させる、放射線被曝前後に投与するための医薬組成物が提供される。有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンならびに、a)約0.5%から約90%w/vの量の少なくとも1種の水溶性ポリマー、b)約20%から約60%w/vの量の少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、およびc)約10%から約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む、有効量の医薬組成物が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および組織の放射線の毒性からの/の保護および/または治療のための細胞保護剤、例えば、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンの薬理学的な送達のための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗-放射線防護服または他の防護具は、放射線被曝を低減させるのに有効であり得るが、このような用具は高価で、扱いにくく、一般の人々が普通に利用できない。さらに、放射線防護具は、放射線治療の間、外れた放射線の被曝から腫瘍に隣接する正常組織を保護しない。放射線防護医薬は、コスト効率が高く、有効で、容易に利用できる、放射線防護具に対する代替を提供する。しかし、医薬組成物を用いた正常細胞の放射線防護における以前の試みは、完全に満足いくものではなかった。例えば、末梢血前駆細胞を動員することを目的とするサイトカインは、放射線前に投与すると骨髄保護作用を与えるが(Netaら、Semin.Radiat.Oncol. 6:306〜320頁、1996年)、全身保護は与えない。単独または生体応答変更物質と併用して投与する他の化学的放射線防護剤は、マウスにおいてわずかな保護作用を示したが、大型哺乳動物にこれらの化合物を適用することはあまり成功しておらず、化学的放射線防護が何らかの価値があるかどうかは疑問視されている(Maisin,J.R.、BacqおよびAlexander受賞講演「Chemical radioprotection: past, present, and future prospects」、Int J. Radiat Biol. 73:443〜50頁、1998年)。癌組織で放射線作用を優先的に高めることが知られる放射線増感医薬は、放射線への被曝から正常細胞を全身的に保護するには適さないことが明らかである。
【特許文献1】米国特許第6656973号
【特許文献2】米国特許第6667346号
【特許文献3】米国特許第4727064号
【特許文献4】米国特許第4764604号
【非特許文献1】Netaら、Semin.Radiat.Oncol. 6:306〜320頁、1996年
【非特許文献2】Maisin,J.R.、BacqおよびAlexander受賞講演「Chemical radioprotection: past, present, and future prospects」、Int J. Radiat Biol. 73:443〜50頁、1998年
【非特許文献3】Reddyら、Acta. Chim. Hung. 115:269〜71頁(1984年)
【非特許文献4】Reddyら、Sulfur Letters 13:83〜90頁(1991年)
【非特許文献5】Reddyら、Synthesis No.4、322〜23頁(1984年)
【非特許文献6】Reddyら、Sulfur Letters 7:43〜48頁(1987年)
【非特許文献7】Volume 3(cyclodextrins) of the 11 Volume Collection「Comprehensive Supramolecular Chemistry」、Elsevier Science Inc.、660 White Plains road、Tarrytown、 N.Y.、10591-5153USA
【非特許文献8】Yoshida, A.ら、(1988)Int. Pharm.、Vol.46、217頁:Pharmaceutical Evaluation Of Hydroxy Alkyl Ethers Of B-Cyclodextrins
【非特許文献9】Muller, B.W.、(1986)、J.Pharm Sci. 75、No 6、June 1986: Hydroxypropyl-B-Cyclodextrin Derivatives: Influence Of Average Degree Of Substitution On Complexing Ability And Surface Activity
【非特許文献10】Irie, Tら、(1988) Pharm Res.、No 11、713頁: Amorphous Water-Soluble Cyclodextrin Derivatives: 2-hydroxyethyl, 3-hydroxypropyl, 2-hydroxyisobutyl, and carboxamidomethyl derivatives of B-cyclodextrin
【非特許文献11】Pitha, Josefら、(1988)Life Sciences.43、No.6、493〜502頁: Drug Solubilizers To Aid Pharmacologists: Amorphous Cyclodextrin Derivatives
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、必要なことは、対象が放射線に対する被曝を受けることが予定されるか、または受ける危険性があるか、または受けたかのいずれかである対象を、放射線の毒性から保護する実際的な手段である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、対象における放射線の毒性作用を減少させるための投与用の医薬組成物であって、有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン、ならびに、a)約0.5%から約90%w/vの量の少なくとも1種の水溶性ポリマー、b)約20%から約60%w/vの量の少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、およびc)約10%から約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む、医薬組成物に関する。
【0005】
本明細書に記載の医薬組成物の特定の実施形態には、約20mg/mlから約60mg/mlの少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンと、a)約20%から約60%w/vの量の2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシエチル-ベータ-シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、b)約0.5%から約20%w/vの量のポビドンおよび約25%から約90%w/vの量のPEGからなる群から選択される水溶性ポリマー、ならびにc)約10%w/vから約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分とを含み、該組成物は約7.5から約9.2の範囲内のpHを有する。
【0006】
本発明の好ましい例示の医薬組成物は、約30mg/mlから約50mg/mlの化合物ON.1210.Na((E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(C16H12ClNaO4S))を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
別段に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する当該技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において言及される刊行物および特許は全て参照により組み込まれる。米国特許第6656973号および同第6667346号の開示の全体は、参照により本明細書に特に組み込まれる。
【0008】
放射線被曝の主要な生物学的作用は、骨髄細胞の破壊、胃腸(GI)損傷、肺の肺臓炎、および中枢神経系(CNS)損傷である。放射線被曝の長期作用としては、癌発生率の増加などがある。100レム(人体レントゲン当量:有害な生物学的作用を生じる放射線の量を定量化するために使用される測定量)の被曝は、ARS症状を生じると推定されている。300レムを超える被曝レベルは、被曝集団のほぼ50%の死をもたらす。
【0009】
α,β-不飽和アリールスルホン、特にベンジルスチリルスルホンは、動物における放射線誘発損傷から正常細胞の顕著で、選択的な全身性保護を与える。放射線療法技術に使用される場合、これらの化合物は癌細胞に対して独立した毒性も示す。本明細書に記載のα,β-不飽和アリールスルホンの組成物および製剤は、放射線への急性および慢性被曝から正常細胞および組織を保護する。このα,β-不飽和アリールスルホンはまた、腫瘍細胞において細胞毒性として実用可能でもある。本明細書に記載される組成物は、例えば、X線またはガンマ線の生死にかかわるレベルへの被曝の差し迫った危険にある作業者の生存を高めるため、および/またはX線またはガンマ線の生死にかかわるレベルをまさに受けた作業者の生存を高めるための予防的使用について意図される。動物の有効性試験において、例えば、静脈内、皮下または腹腔内経路によるON.01210.Naを用いた前処置は、致死量の放射線からマウスを保護した。
【0010】
増殖性疾患の治療のために治療的照射を受ける場合、対象を放射線に曝されることがある。このような疾患としては、癌性および非癌の増殖性疾患などがある。本明細書に記載の製剤は、限定されないが、以下:乳房、前立腺、卵巣、肺、結腸直腸、脳(すなわち、神経膠腫)および直腸を含む広範な腫瘍タイプの治療的照射の間に正常細胞を保護するのに有効である。この組成物はまた、例えば、白血病細胞に対しても有効である。この組成物は、非癌増殖性疾患、例えば、限定されないが、新生児の血管腫症、二次進行性多発性硬化症、慢性進行性骨髄変性疾患、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨のパジェット病、乳房線維嚢胞症、ペロニンおよびデュピュイトラン線維症、再狭窄および肝硬変症などにおける異常組織の治療的照射の間に正常細胞を保護するのに有用である。
【0011】
α,β-不飽和アリールスルホン放射線防護剤化合物を照射前に投与する限り、治療的放射線を、処方された治療のコースと一致する任意のスケジュールおよび任意の線量で対象に施してもよい。治療のコースは対象によって異なり、当業者であれば所与の臨床状況において適切な治療用放射線の量およびスケジュールを容易に決定することができる。本明細書に記載のα,β-不飽和アリールスルホンの組成物は、正常細胞に対して放射線防護効果を発揮するために十分な濃度で対象の正常細胞に到達できるように、放射線治療の十分前に投与すべきである。放射線治療の実施の約24時間前まで、好ましくは約18時間以下前に、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを投与してもよい。1つの実施形態において、α,β-不飽和アリールスルホン製剤を放射線治療の実施の少なくとも約6〜12時間前に投与する。最も好ましくは、α,β-不飽和アリールスルホンを放射線被曝の約18時間前に1回投与し、約6時間前に再度投与する。1種または複数のα,β-不飽和アリールスルホンを治療期間中、同時に投与してもよいし、異なるα,β-不飽和アリールスルホンを異なる時間に投与してもよい。
【0012】
好ましくは、α,β-不飽和アリールスルホンの投与と放射線治療の実施は、約24時間離す。より好ましくは、α,β-不飽和アリールスルホンの投与と放射線治療の実施は、約6〜18時間離す。この方策により、放射線治療の抗癌作用に影響を及ぼすことなく放射線誘発副作用の著しい減少をもたらす。
【0013】
治療可能な放射線障害を引き起こし得る放射線の急性線量には、局所または全身線量、例えば、24時間以内に約10,000ミリレム(0.1Gy)から約1,000,000ミリレム(10Gy)、好ましくは24時間以内に約25,000ミリレム(0.25Gy)から約200,000(2Gy)、より好ましくは24時間以内に約100,000ミリレム(1Gy)から約150,000ミリレム(1.5Gy)などがある。
【0014】
治療可能な放射線障害を引き起こし得る放射線の慢性線量には、約100ミリレム(0.001Gy)から約10,000ミリレム(0.1Gy)の全身線量、好ましくは24時間を超える期間にわたって約1000ミリレム(0.01Gy)から約5000ミリレム(0.05Gy)の全身線量、または24時間を超える期間をわたって15,000ミリレム(0.15Gy)から50,000ミリレム(0.5Gy)の局所線量などがある。
【0015】
致死量の放射線をもたらすテロリストの攻撃がもたらされた場合、本明細書に記載の放射線防護組成物は、例えば、被曝後約4時間までの被曝直後に投与すると、保護を与えるはずである。
【0016】
(I. 例示の構造の属)
本明細書において使用する「α,β-不飽和アリールスルホン」は、1種または複数のα,β-不飽和アリールスルホン基:
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、Q2は、置換または非置換アリールであり、αおよびβ炭素に結合している水素原子は、他の化学基によって場合によって置換されている)
を含む化合物を意味する。
【0019】
「置換(substituted)」は、原子または原子の群が、環状原子に結合している置換基としての水素を置換したことを意味する。環状系における置換度は、モノ、ジ、トリまたはより高度の置換であってもよい。
【0020】
単独または他の用語と組み合わせて用いられる用語「アリール」は、別段の記載がない限り、環がぶら下がった様式で一緒に結合していてもよく、または縮合していてもよい1つまたは複数の環(通常、1、2、または3環)を含む炭素環式芳香族系を意味する。例としては、フェニル;アントラシル;およびナフチル、特に1-ナフチルおよび2-ナフチルなどがある。アリール部分の前述の列挙は代表的であることを意図し、これに限定するものではない。この用語「アリール」は、6員環系に限定されないことが理解される。
【0021】
それ自体または別の置換基の部分として用語「ヘテロアリール」は、別段の記載がない限り、炭素原子ならびにN、O、およびS(ここで、窒素および硫黄ヘテロ原子は、場合によって酸化されていてもよく、この窒素原子は、場合によって4級化されていてもよい)からなる群から選択される1から4個のヘテロ原子からなる非置換もしくは置換の、安定した単環または多環ヘテロ芳香族環系を意味する。ヘテロ環系は、別段の記載がない限り、安定構造を与える任意のヘテロ原子または炭素原子に結合し得る。
【0022】
このようなヘテロアリールの例としては、ベンズイミダゾリル、特に2-ベンズイミダゾリル;ベンゾフリル、特に3-、4-、5-、6-および7-ベンゾフリル;2-ベンゾチアゾリルおよび5-ベンゾチアゾリル;ベンゾチエニル、特に3-、4-、5-、6-および7-ベンゾチエニル;4-(2-ベンジルオキサゾリル);フリル、特に2-および3-フリル;イソキノリル、特に1-および5-イソキノリル;イソオキサゾリル、特に3-、4-および5-イソオキサゾリル;イミダゾリル、特に2-、4-および5-イミダゾリル;インドリル、特に3-、4-、5-、6-および7-インドリル;オキサゾリル、特に2-、4-および5-オキサゾリル;プリニル;ピロリル、特に2-ピロリル、3-ピロリル;ピラゾリル、特に3-および5-ピラゾリル;ピラジニル、特に2-ピラジニル;ピリダジニル、特に3-および4-ピリダジニル;ピリジル、特に2-、3-および4-ピリジニル;ピリミジニル、特に2-および4-ピリミジニル;キノキサリニル、特に2-および5-キノキサリニル;キノリニル、特に2-および3-キノリニル;5-テトラゾリル;2-チアゾリル、特に2-チアゾリル、4-チアゾリルおよび5-チアゾリル;チエニル、特に2-および3-チエニル;ならびに3-(1,2,4-チアゾリル)などがある。ヘテロアリール部分の前述の列挙は、代表的であることを意図し、限定するものではない。
【0023】
1つの実施形態によれば、α,β-不飽和アリールスルホン基は、スチリルスルホン基:
【0024】
【化2】
【0025】
(式中、α炭素およびβ炭素に結合している水素原子は、他の化学基によって場合によって置換されており、フェニル環は、場合によって置換されている)
である。
【0026】
本明細書において使用される「スチリルスルホン」または「スチリルスルホン化合物」または「スチリルスルホン治療剤」は、1種または複数のこのようなスチリルスルホン基を含む化合物を意味する。
【0027】
該α,β-不飽和アリールスルホン放射線防護化合物は、二重結合の存在に起因するシス-トランス異性を特徴とする。二重結合のまわりの立体関係は、「Z」または「E」として指定される。両配置が、「α,β-不飽和アリールスルホン」の範囲に包含される。
【0028】
【化3】
【0029】
1つの実施形態によれば、該α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式I:
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、
nは、1または0であり;
Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである)
の化合物である。
【0032】
好ましくは、式Iのnは、1であり、すなわち、該化合物は、α,β-不飽和ベンジルスルホン、例えば、スチリルベンジルスルホンを含む。
【0033】
式Iによる1つの好ましい実施形態において、Q1および/またはQ2は、置換および非置換のヘテロアリールから選択され、例えば、(E)-3-フランエテニル-2,4-ジクロロベンジルスルホンである。
【0034】
式Iによるもう1つの好ましい実施形態において、Q1およびQ2は、置換および非置換のフェニルから選択される。
【0035】
Q1およびQ2が置換および非置換のフェニルから選択される好ましい化合物は、式II:
【0036】
【化5】
【0037】
(式中、Q1aおよびQ2aは、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
の化合物を含む。
【0038】
1つの実施形態において、式IIの化合物は、少なくとも1つの環上で少なくとも2置換であり、すなわち、少なくとも1つの環上の少なくとも2個の置換基が、水素以外である。もう1つの実施形態において、式IIの化合物は、少なくとも1つの環上で少なくとも3置換され、すなわち、少なくとも1の環上の少なくとも3置換基が水素以外である。
【0039】
1つの実施形態において、放射線防護化合物は、式III:
【0040】
【化6】
【0041】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
を有する。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、該放射線防護化合物は、式IIIに従うものであり、R1およびR2は、水素、ハロゲン、シアノ、およびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択され;R3およびR4は、水素およびハロゲンからなる群から独立して選択される。
【0043】
式IIIの1つの下位の実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式IIIaの化合物:
【0044】
【化7】
【0045】
(式中、R2およびR4は、水素以外である)
である。
【0046】
E配置を有する式IIIaによる好ましい化合物としては、限定されないが、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-2-クロロ-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-3,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン;(E)-2,4-ジクロロ-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロフェニルスルホンおよび(E)-4-クロロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホンが挙げられる。
【0047】
もう1つの実施形態によれば、式IIIaの化合物はZ配置を有し、ここで、R1およびR3は、水素であり、R2およびR4は、4-ハロゲンからなる群から選択される。このような化合物としては、例えば、(Z)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-クロロスチリル-4-フルオロベンジルスルホン;(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;および(Z)-4-ブロモスチリル-4-フルオロベンジルスルホンが挙げられる。
【0048】
もう1つの実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式IV:
【0049】
【化8】
【0050】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜8アルキル、C1〜8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、およびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
の化合物である。
【0051】
1つの実施形態において、式IVのR1は、水素、塩素、フッ素および臭素からなる群から選択され、R2およびR4は、水素である。式IVの好ましい化合物は、(Z)-スチリル-(E)-2-メトキシ-4-エトキシスチリルスルホンである。
【0052】
なおもう1つの実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式V:
【0053】
【化9】
【0054】
(式中、Q3、Q4およびQ5は、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラ、およびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から選択される)
の化合物である。
【0055】
式Vの1つの下位の実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式Va:
【0056】
【化10】
【0057】
(式中、R1およびR2は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシル、およびトリフルオロメチルからなる群から選択され;
R3は、非置換フェニル、モノ置換フェニルおよびジ置換フェニルからなる群から選択され、フェニル環上の該置換基は、ハロゲンおよびC1〜C8アルキルからなる群から独立して選択される)
の化合物である。
【0058】
好ましくは、式VaのR1は、フッ素および臭素からなる群から選択され;R2は、水素であり;R3は、2-クロロフェニル、4-クロロフェニル、4-フルオロフェニル、および2-ニトロフェニルからなる群から選択される。
【0059】
式Vaによる好ましい放射線防護スチリルスルホンは、R1がフッ素、R2が水素、R3がフェニルであり、すなわち、化合物2-(フェニルスルホニル)-1-フェニル-3-(4-フルオロフェニル)-2-プロペン-1-オンである。
【0060】
「ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)」は、(CH3)2N(CH2)nO-を意味し、ここで、nは2から6である。好ましくは、nは2または3である。最も好ましくは、nは2であり、すなわち、該基は、ジメチルアミノエトキシ基、すなわち、(CH3)2NCH2CH2O-である。
【0061】
「ホスホナト」は、基-PO(OH)2を意味する。
【0062】
「スルファミル」は、基-SO2NH2を意味する。
【0063】
アリール核上の置換基がアルコキシ基である場合、炭素鎖は、分岐または直鎖であってよいが、直鎖が好ましい。好ましくは、アルコキシ基は、C1〜C6アルコキシ、より好ましくはC1〜C4アルコキシ、最も好ましくはメトキシを含む。
【0064】
(E)-α,β-不飽和アリールスルホンは、芳香族アルデヒドとベンジルスルホニル酢酸またはアリールスルホニル酢酸とのクネベナーゲル縮合によって調製し得る。その手順は、Reddyら、Acta. Chim. Hung. 115:269〜71頁(1984年);Reddyら、Sulfur Letters 13:83〜90頁(1991年);Reddyら、Synthesis No.4、322〜23頁(1984年);Reddyら、Sulfur Letters 7:43〜48頁(1987年)によって記載され、その開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。特に、米国特許第6656973号および同第6667346号の開示全体を参照のこと。
【0065】
該α,β-不飽和アリールスルホンは、医薬的に許容される塩の形態を取り得る。「医薬的に許容される塩」という用語は、アルカリ金属塩を形成するため、および遊離酸または遊離塩基の付加塩を形成するために一般に使用される塩を包含する。この塩の性質は、医薬的に許容されることを条件に、重要ではない。
【0066】
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【0067】
1つの例示的な実施形態において、α,β-不飽和アリールスルホンは、式1aの化合物:
【0068】
【化11】
【0069】
(式中、Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、以下表2に記載される置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のヘテロアリールである)
である。
【0070】
【表2A】
【表2B】
【0071】
【表3】
【0072】
本明細書において開示および企図した全ての化合物の多形体は、本明細書に添付した請求項の範囲内であることを意図する。
【0073】
(II. 例示的な種)
放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンの典型的な種は、ON.1210.Na.である。ON.1210.Naは、クロロベンジルスルホンの誘導体である。この誘導体および関連化合物は、生死にかかわるレベルの照射への偶発的および意図的な被曝の作用を緩和する有益な予防的特性を示すとして本明細書に記載される。したがって、この誘導体および関連化合物の系統的な開発は、貯蔵安定性製剤を開発する目的を有して記載される。
【0074】
表4は、ON.1210.Naの一般的な物理的特性について記載する。この例示化合物は、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンのナトリウム塩である。
【0075】
【表4】
【0076】
化合物ON.1210.Naは、少なくとも1つの多形体を形成するように思われる。例えば、沈殿ON.1210.NaのX線回折パターンは、当初合成された化合物のものと異なる。ON.1210.Naの多形体は、本明細書に添付した請求項の範囲内であると意図する。
【0077】
例えば、細胞毒性レベルの放射線への被曝前に正常ヒト線維芽細胞をON.1210.Naで処置すると、線量依存性の放射線防護が得られる。
【0078】
例示的な原薬としてのON.1210.Naの物理化学的特性を、これら化合物の安全で、信頼性があり、有効な非経口製剤の開発のための適切な製剤手法を評価するために測定した。これには、顕微鏡的試験、分配係数、pKa、pH溶解度試験、加速条件下のpH安定性試験、原薬の固体の特徴付け、および加速条件下の原薬の固体安定性などがある。後のIV節を参照のこと。この化合物例は、オクタノール:水分配定数(1.28〜2.87)が低い。該薬剤の平衡溶解度は、pH4.0、5.0、6.0、7.4、8.0、9.0で、それぞれ、0.000154、0.0379、0.715、11.09、16.81、23.3mg/mLであった。pH-溶解度試験から計算したpKaは、2.85±0.6であった。該薬剤のpH-安定性プロファイルは、中性および生物学的pHでより安定性を示したが、酸性条件下で分解が急速であった。この分解は、擬一次速度に従った。原薬バルクの固体加速安定性試験は、分解の証拠を示さなかった。この薬剤は、生物学的pHで水性環境において極めて安定である。したがって、貯蔵安定性非経口製剤として製剤することができる。遊離酸としての薬剤の水溶解度は低く、pH、共溶媒および複合体形成の増加によって著しく向上させることができる。
【0079】
(III. 放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンの製剤)
本明細書において記載され、企図された組成物は限定されないが、例えば、投与後の該化合物の経口での生物利用能の理由から、本明細書に記載の該化合物の好ましい投与経路としては、例えば、非経口投与などがある。非経口投与には、静脈内、筋内、動脈内、腹腔内、膣内、膀胱内(例えば、膀胱の中に)、皮内、局所または皮下投与などがある。α,β-不飽和アリールスルホンは、医薬的に許容される担体と組み合わせた1種または複数のα,β-不飽和アリールスルホンを含む医薬組成物の形態で投与することもできる。このような製剤中のα,β-不飽和アリールスルホンは、0.1から99.99重量%であってよい。「医薬的に許容される担体」は、製剤の他の成分と混合可能であり、対象に対して有害ではない任意の担体、希釈剤または賦形剤を意味する。
【0080】
もちろん、放射線防護の恩恵を得るためのα,β-不飽和アリールスルホンの具体的用量およびスケジュールは、個々の患者の特定の状況、例えば、患者の大きさ、体重、年齢および性、治療する疾患の性質および段階、疾患の攻撃性、投与経路、および放射線の特異的毒性などによって決定される。例えば、約0.01から約150mg/kg/日、より好ましくは約0.05から約50mg/kg/日の1日量を用いることができる。約1.0から約10.0mg/kg/日の用量、例えば約0.7mg/kg/日の用量が、特に好ましい。この用量は、多回投与、例えば、3.5mg/kgの2回投与にわたって投与してもよい。より高いまたは低い用量もまた企図される。
【0081】
非経口投与について、該α,β-不飽和アリールスルホンを、水、油、食塩水、水性デキストロース(グリコース)および関連糖溶液、シクロデキストリンまたは下記されるようなプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールなどの好適な担体または希釈剤と一緒に混合してもよい。非経口投与のための溶液は、該α,β-不飽和アリールスルホンの医薬的に許容され、水溶性の塩を含むことが好ましい。例えば、分解防止剤、抗酸化剤、キレート剤、および防腐剤もまた加えてもよい。好適な抗酸化剤には、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸およびその塩などがあり、キレート剤として、例えばEDTAナトリウムなどがある。好適な防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、メチル-またはプロピル-パラベン、およびクロルブタノールなどがある。
【0082】
有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物を含む貯蔵安定性医薬組成物が本明細書に記載される。本明細書において使用される、例えば、少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物の「有効量」という用語は、対象の正常細胞において放射線に伴う毒性を緩和し、低減し、またはなくすため、および/または対象の異常増殖細胞に直接的な細胞毒性作用を与えるために有効な、下記のような希釈後の化合物の量について言う。骨髄浄化に関して使用される、「有効量の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物」は、対象から取り出した骨髄の放射線に伴う毒性を低減し、またはなくすため、および/または対象から取り出した骨髄の悪性細胞への直接的細胞毒性作用を与えるために有効な少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンの量について言う。各α,β-不飽和アリールスルホンは、例えば、約0.25から約100ミクロモル;好ましくは、約1.0から約50ミクロモル;より好ましくは、約2.0から約25ミクロモルの濃度で投与する。投与のための特に好ましい濃度は、例えば、約0.5、1.0および2.5ミクロモル、ならびに約5、10および20ミクロモルである。より高いまたはより低い濃度も、当該技術分野でよく知られた要因に依存して使用することができる。
【0083】
本明細書において記載され、および請求された製剤は、一般に希釈およびその後の非経口投与について意図される。本発明の組成物は、一般に、輸液前に好適な非経口希釈剤を用いて希釈する前に貯蔵および取り扱いするための濃縮形態で、活性成分、例えば、本明細書に記載の1種または複数の化合物を用いて製剤される。投与前に希釈する本発明の好ましい貯蔵安定性組成物は、一般に、約10mg/mlから約90mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを含む。本発明の好ましい組成物は、約20mg/mlから約80mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを含む。本発明の組成物例には、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン(例えば、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(ON.1210.Na))を約30mg/mlから約50mg/ml含み;ここで、該組成物は、約7.2から約9.2の範囲のpHを示す。
【0084】
1回用量は、一般に、本明細書に記載の任意の組成物約1mlから約5mlの範囲内である。例えば、本明細書に記載の組成物の個々の3ml用量が企図される。この用量は、例えば、5mlバイアルに入れてもよい。本発明の組成物は、例えば、投与前に約7部の希釈剤で希釈(7:1)してもよい。しかし、希釈係数および使用する希釈剤は、製剤中の薬剤の濃度に依存する。しかし、本発明の組成物は、例えば、輸液前の好適な非経口希釈剤約2容量から輸液前の好適な非経口希釈剤約12容量の範囲内で任意の場所で希釈してもよい。本発明の組成物の非経口投与のための最終希釈製品は、約6.5から約10.0の範囲内のpHを有するべきである。好ましくは、非経口投与のための最終希釈製品は、約7.0から約9.5の範囲内のpHを有するべきである。約7.0から約8.0の希釈製品pHが好ましい。
【0085】
投与のための希釈製剤の容積モル浸透圧濃度は、おおよそ約200から約400mOsm/kgの範囲内であるべきである。投与のための希釈製剤の好ましい容積モル浸透圧濃度は、おおよそ約270から約330mOsm/kgの範囲内であるべきである。投与のための希釈製剤の好ましい容積モル浸透圧濃度は、おおよそ300mOsm/kgであるべきである。
【0086】
別段の記載がない限り、本明細書に記載の組成物は、好ましくは水性であるが;例えば、エタノールもまた、本明細書に記載される製剤の好ましい基剤成分である。
【0087】
DMA(N,N-ジメチルアセトアミド)は、本明細書に記載の製剤の好ましい成分例である。下記でさらに検討する本明細書において別に記載される組成物は、約15から約40重量%のDMAを含むことが特に企図される。有効量の本明細書に記載の化合物および約20から約35重量%のDMAを含む非経口投与のための組成物は、好ましい実施形態の例である。本発明の組成物例は、製剤中に有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物を含み、ここで、成分DMA:水:エタノールは、例えば、約1:1:1の比で存在する。しかし、この例の比は、該化合物の溶解度が、薬剤送達のための有効量を依然として与える限り、簡単で容易な実験を用いて当業者によって大きく変更することができる。本発明のもう1つの組成物例は、製剤中に有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物を含み、ここで、成分DMA:水:およびPEG400[少なくとも1種の水溶性ポリマー(WSP)]は、例えば、約1:2:2の比で存在する。しかし、この実施例(DMA:水:WSP)において、「水溶性ポリマー」成分は、もっと大きい値、例えば、下記されるように、多くの実施形態において少なくとも1種の水溶性ポリマー少なくとも約40重量%とすることができる。一般に、該組成物の好ましい薬剤濃度およびpH値にも関係する本明細書における専門用語は、本明細書において企図されるDMA製剤に同様に適用される。
【0088】
有効量の本明細書に記載の化合物および少なくとも約0.5重量%の少なくとも1種の水溶性ポリマーを含む非経口投与のための組成物が提供される。本発明の製剤は、約6.8から約9.6の範囲内のpHを有するのが好ましい。本明細書に記載の製剤は、約7.5から約9.2の範囲内、例えば約8.5の高pHを有するのが好ましい。組成物は、少なくとも1種の水溶性ポリマーを約5%から約90%、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、および少なくとも約85%含むのが好ましい。本明細書において使用される用語「水溶性ポリマー」としては、限定されないが、当該技術分野で知られた水溶性ポリマー賦形剤などがあり、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリグリセロール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)(Povidone(N-ビニル-2-ピロリドンの可溶性ホモポリマー))、ポリビニルピリジンN-オキシド、ビニルピリジンN-オキシドおよびビニルピリジンのコポリマーなど、およびその誘導体、ならびにその組合せなどがある。
【0089】
ポリオキシエチレンおよび/またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマーは、本発明の製剤における使用のための水溶性ポリマー例である。例えば、Poloxamer407(例えば、Pluronic F127、Lutrol(登録商標)micro127)、および/またはPoloxamer188(例えば、Pluronic F68、Lutrol(登録商標)micro68)は、本明細書の製剤において独立して、または組み合わせて使用することができるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマーである(BASF社、Mount Olive、NJ)。
【0090】
ポリエチレングリコール(PEG)は、好ましい水溶性ポリマーである。例えば、低分子量液体ポリエチレングリコールPEG300、PEG400、PEG600、およびPEG800は、例えば、本発明の製剤において独立して、または互いに組み合わせて使用することができる好ましい水溶性ポリマーである。PEG300、PEG400、およびPEG600は、特に好ましい。例えば、Lutrol(登録商標)E300、Lutrol(登録商標)E400およびLutrol(登録商標)E600は、BASF社、Mount Olive、NJから市販されている。PEG400(ポリエチレングリコール400)、Macrogol400、PEG400、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、アルファ-ヒドロ-オメガ-ヒドロキシ-(CAS No:25322-68-3))、例えば、Lutrol(登録商標)E400が、好ましい。PEG300、PEG400、PEG600およびPEG800から主としてなる群から選択される水溶性ポリマー例が好ましい。本明細書に具体的に列挙されないが、その他の点でPEG本質のこの特徴的範囲内の、実質的に同じPEG製品を本発明の組成物において用いることができる。
【0091】
低分子量ポビドングレード(CAS No:9003-39-8)、例えば、Kollidon(登録商標)12PFおよびKollidon(登録商標)17PFは、本化合物とポビドンとの間に溶解性複合体を形成する。両製品は、注射物質の使用に好適な、発熱物質なし粉末として、BASF社、Mount Olive、NJから市販されている。Kollidon(登録商標)12PF、Kollidon(登録商標)17PF、Kollidon(登録商標)25、Kollidon(登録商標)30、およびKollidon(登録商標)90Fは、ポビドンの好ましい例である。本発明の組成物は、例えば、水中約1%から約5%の濃度でPovidone K90を含むことが本明細書において例証される。これらの組成物は、例えば、Povidone K90を、例えば、水に約0.5%から約10%の濃度で含むことがさらに企図される。例えば、低分子量Povidoneを本発明の組成物においてはるかに高い濃度、例えば、約5重量%から約40重量%で用いることができる。好ましい範囲は、製剤の粘度に依存して、約5重量%から約20重量%である。
【0092】
化学変性シクロデキストリンは、本明細書に記載の組成物の好ましい成分である。本明細書に記載のシクロデキストリン薬剤組成物は、容易に希釈され、例えば、手の込んだ混合操作の必要をなくす。化学変性シクロデキストリン、例えば、ヒドロキシプロピル-b-シクロデキストリンの製剤は、本明細書に記載の化合物を溶解させ、安定化するシクロデキストリンの能力、ならびに化学変性シクロデキストリンによって示される優れた安全プロファイルのために、非経口投与に好ましい。本明細書において言及するシクロデキストリンの使用によって、投薬用量および、高pH、例えば、他の溶媒に起因する体内炎症、または本明細書において別に記載される化合物に起因する任意の直接的な化学的炎症を減少させることができる。
【0093】
多くの異なる化学的部分を、円錐曲線回転面の上部および下部の隆線の内側を覆うヒドロキシル基と反応させてシクロデキストリン分子中へ導入することもでき;例えば、ヒドロキシプロピル、カルボキシメチル、およびアセチルなどがある。各シクロデキストリンのヒドロキシル基は、その化学反応性が異なるので、反応過程は、何千もの位置および光学異性体の不定形混合物を生成する。本発明の製剤の成分として化学変性シクロデキストリンの好ましい例としては、限定されないが、2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシエチル-ベータ-シクロデキストリンなどがある。シクロデキストリン分子(アルファ、ベータ、またはガンマ)は、3(n)個の置換基まで有することができ、ここで、nは、シクロデキストリン分子のグルコピラノース単位の数である。これは、置換度(DS)と称される。DSは、水素以外の置換基について言い;置換基は1種または混合の全てであってよい。加重平均を置換の変化性を表すために使用する場合、非整数の置換度が生じる。例えば、Elsevier Science Inc.、660 White Plains road、Tarrytown、 N.Y.、10591-5153USAから入手可能なVolume 3(cyclodextrins) of the 11 Volume Collection「Comprehensive Supramolecular Chemistry」を参照のこと。また、Pitha,Josefの米国特許第4727064号「Pharmaceutical Preparations Containing Cyclodextrin Derivatives」; Muller,B.W.の米国特許第4764604号「Derivatives of Gamma Cyclodextrins」;Yoshida, A.ら、(1988)Int. Pharm.、Vol.46、217頁:Pharmaceutical Evaluation Of Hydroxy Alkyl Ethers Of B-Cyclodextrins; Muller, B.W.、(1986)、J.Pharm Sci. 75、No 6、June 1986: Hydroxypropyl-B-Cyclodextrin Derivatives: Influence Of Average Degree Of Substitution On Complexing Ability And Surface Activity; Irie, Tら、(1988) Pharm Res.、No 11、713頁: Amorphous Water-Soluble Cyclodextrin Derivatives: 2-hydroxyethyl, 3-hydroxypropyl, 2-hydroxyisobutyl, and carboxamidomethyl derivatives of B-cyclodextrinを参照のこと。
【0094】
ヒドロキシプロピル-B-シクロデキストリン(ヒドロキシプロピルシクロデキストリン)(HPCD)は、それ自体極めて水溶性である(室温で500mg/mlより大きい)。NIHのJoseph Pitha博士は、このシクロデキストリン誘導体の使用について多くを実験的に評価し、細胞培養および膜調製に都合よく利用できることを見出した。また、異なるげっ歯類にIPおよびIV投与後HPCDが非毒性であることが認められている。非経口で投与されるHPCDの最大ヒト用量は、1人当たり4日間5%水溶液として静脈内連続投与約500mg/kgであり;臨床逆効果は報告されなかった。Pitha, Josefら、(1988)Life Sciences.43、No.6、493〜502頁: Drug Solubilizers To Aid Pharmacologists: Amorphous Cyclodextrin Derivatives。
【0095】
本明細書に記載の化合物は、有効量の少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン、水、および少なくとも1種の化学変性シクロデキストリンを一般に含む組成物において効果的に製剤される。本発明の製剤の実施形態は、約5%から約90%w/vの化学変性シクロデキストリンを含み、約6.8から約9.6の範囲内のpHを有するのが好ましい。本明細書に記載の製剤は、約7.6から約9.2の範囲内のpHを有するのが好ましい。高いpH、例えば、約8から約9、またはより高いpHが好ましい。本発明のための特に好ましい組成物は、約20%から約60%w/vの化学変性シクロデキストリンを含む。本発明のための最も好ましい組成物は、約30%から約50%w/vの化学変性シクロデキストリンを含む。本発明の組成物の一例は、2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシ-ベータ-シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、好ましくは、約30%から約50%w/vの量、有効量の少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン、例えば、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(ON.1210.Na)、ならびに水を含む。2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、(Hydroxypropyl-B-Cyclodextrin)(hydroxypropyl cyclodextrin)(HPCD)は、本明細書の組成物の使用に好ましい化学変性シクロデキストリンである。放射線の毒性から正常細胞を保護するための非経口投与前に希釈するための、または生死にかかわるレベルの照射に対する偶発的/意図的被曝の作用を軽減するための本発明の貯蔵安定性水性組成物は、例えば、有効量の少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン、および約35%から約45%(例えば、約40%w/v)w/vの化学変性シクロデキストリンを含む。
【0096】
投与前に希釈するために、本発明の好ましい貯蔵安定性組成物は、約10mg/mlから約90mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンおよび少なくとも1種の化学変性シクロデキストリンを含む。本発明の特に好ましい組成物は、約20mg/mlから約80mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを含む。本発明の組成物の例は、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン(例えば、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(ON.1210.Na))約30mg/mlから約50mg/ml(例えば、約40mg/ml);および化学変性シクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン)約30%から約50%w/v(例えば、約40%)を含み;ここで、該組成物は、約7.6から約8.5(例えば、約7.9)の範囲内のpHを有する。
【0097】
本明細書において記載され、請求される好ましい製剤は、放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン、例えば、ON.1210.Naの溶解度を著しく増加させ、本発明の濃縮製剤を可能にし、ここで、希釈後、該薬剤は、少なくとも約24時間物理的に安定である。
【0098】
(IV.製剤試験)
クロロベンジルスルホンのナトリウム塩であるON.1210.Naは、有効な放射線防護薬の一例である。ON.1210.Naは、特に、生死にかかわるレベルの放射線被曝の間保護することが特に示される。患者への治療的投与のためのこの化合物および関連化合物の貯蔵安定性非経口製剤について本明細書に記載される。
【0099】
安定性を示すHPLCアッセイを、予備製剤試験の間に使用する。予備製剤試験には、顕微鏡的および肉眼的特性の測定、分配係数、pKa、pH-溶解度、pH-安定性、固体の特徴付けならびに固体安定性が包含される。XRDおよび熱分析は、固体および固体安定性を特徴付けするために使用する。薬剤の固体安定性ならびにpH安定性は、75℃で実施する。
【0100】
顕微鏡的およびXRDデータは、該薬剤が不規則平板様結晶を有する結晶性であることを示す。該薬剤は、オクタノール:水分配係数(1.28〜2.87)が低い。該薬剤の平衡溶解度は、pH4.0、5.0、6.0、7.4、8.0、9.0で、それぞれ、0.000154、0.0379、0.715、11.09、16.81、23.3mg/mLである。pH-溶解度試験から計算されるpKaは、2.85±0.6である。該薬剤のpH-安定性プロファイルは、中性および生物学的pHでより良い安定性を示すが、酸性条件下では急速に分解する。この分解は、一次反応速度に従った。原薬バルクの固体加速安定性試験は、分解の証拠を示さない。
【0101】
該薬剤の溶解度は、pHを増加させることにより著しく増加させることができる。また、該薬剤の安定性は、水溶液をpH7近くに緩衝することによって向上させることができる。該薬剤は、水性環境で極めて安定であり、それ自体の貯蔵安定性製剤の開発を可能とする。
【0102】
【表5A】
【表5B】
【0103】
【表6】
【0104】
予備製剤および製剤の開発のために、ON.1210.Naに対する安定性を示し、感度の良いHPLCアッセイを開発および実証するための試験を行った。イソクラティック系は、流速1mL/分で水中アセトニトリル: 0.1%トリフルオロ酢酸(60:40 v:v)からなる移動相を使用する。C-18ジェミニカラム(250×4.6mm)を使用し、流出液を254nmでモニターした。ON.1210.Naを0.1N HCl、0.1N NaOH、および3%(v/v)過酸化水素に曝して強制分解を行った。実証パラメータとしては、線形性、特異性、感度、精度および正確さなどが含まれる。
【0105】
標準曲線は、0〜500μg/mLの濃度範囲で線形である。該薬剤およびいくつかの分解生成物の保持時間は、7分以内に十分入った。日内および日々の精度についての相対標準偏差(RSD)値は、それぞれ、0.4から2.5%および2.2から4.4%の範囲であった。正確さ測定についてのRSDは、0.85から1.7%の範囲である。このアッセイの臨界レベル、検出レベルおよび測定レベルは、それぞれ、2.86±0.67μg/mL、5.69±0.67μg/mLおよび15.6±1.79μg/mLである。
【0106】
感度が良く、安定性を示すHPLC法を開発し、ON.1210.Naについて実証する。強制分解、予備製剤および製剤の試験によってこの方法の適切性を示す。
【0107】
この過程の第1のステップは、安定性を示すHPLCアッセイの開発である。次の段階は、このアッセイの実証である。このHPLCアッセイは、予備製剤、製剤の開発、ならびに、例えば、薬剤バルクおよび製剤されたON.1210.Naの安定性試験を支援することができる。
【0108】
安定性を示すアッセイの開発、およびその実証について本明細書において記載する。このアッセイの適切性を、固体の原薬バルクに対する強制分解試験を、酸性、アルカリ性、酸化およびオートクレーブ処理の条件下で行うことによって示す。
【0109】
HPLCアッセイ法の開発および実証
感度が良く高度に特異的で正確な安定性を示すHPLCアッセイを開発し、水性試料におけるON.1210.Naの分析について実証する。以下は、この方法の開発および実証を行うために使用する材料および装置のリストである。
【0110】
材料
トリフルオロ酢酸(Sigma、St. Louis、MO、USA);アセトニトリル、水(HPLCグレード)、(Fisher Scientific、NJ、USA)を受領したまま、使用した。
【0111】
【表7】
【0112】
ON.1210.Naの紫外線スキャン
ON.1210.Naの紫外線(UV)スキャンを、UV1700PHARMASPECモデル分光光度計(島津製作所、日本)を使用してON.1210.Na 10μg/mLの水溶液に対して得る。このUVスキャンを図8に示す。このUVスペクトルは、はっきり区別できる2つの極大を示す。この溶媒中のON.1210.Naのλmaxは281nmに認められ、第2の極大は216nmに生じる。
【0113】
HPLC法の開発
初期のHPLC法の開発過程では、以下の移動相組成を有するグラジエント系を用いる。
移動相A:0.1%TFA含有水
移動相B:100%HPLCグレードのアセトニトリル
【0114】
使用したグラジエントは、30分にわたる0%Bから100%Bのリニアーグラジエントである。溶出液をモニターするために3波長230、254および320nmでフォトダイオードアレー検出器(モデルSPD-M10AVP)を使用する。これら3波長は、類似のアナログON.1910に対する過去の経験の理由から選択する。使用カラムは、C-18ジェミニカラム(Phenomenex、CA)である。流速は1.0mL/分である。得られたON.1210.Naの保持時間は、約23分である。このデータに基づき、他の不純物が存在する親化合物の検出にこの系は好適であると考えられる。254nmで得られたON.1210.Naの代表的クロマトグラフを図9(a〜d)に示す。クロマトグラフは降順に示す。
【0115】
該薬剤の保持時間が20分を超えており、0.1N NaOHを用いた強制分解中の分解生成物は、逆相系を使用して、十分に分離し、検出できることをこのグラジエント系は示す。次いで、イソクラティック系の移動相組成の最適化に着手する。
【0116】
イソクラティック系の開発
本方法の開発過程の次の目的は、ON.1210.Naとその不純物/分解生成物との間の分解能を犠牲にすることなく運転時間を減少させることである。したがって、移動相としての酸性化水とアセトニトリルとのさまざまな組合せを用いてイソクラティック系を開発することに労力を集中する。3つの移動相組成を選択する。これらは、アセトニトリル: 0.1%TFA含有水20:80; 40:60および60:40(v/v)である。1mL/分の流速で、最初の2つの移動相組成のON.1210.Naの保持時間は8分を超えているが、60:40(ACN:水)組成に関して、保持時間は約5分である。ON.1210.Naとその3つの少量の不純物との間の分解能も良好である。代表的なクロマトグラフを図10に示す。ON.1210.Naの現行ロット(ON062604-1210Na)は、99%を超えるHPLC純度を示し、他の主な3つの不純物は、4.0、6.0および6.6分の保持時間で溶出する。したがって、この第3の移動相組成をさらなる評価に選択する。
【0117】
分析用波長の選択
既知濃度のON.1210.Na溶液(100μg/mL)を異なる3波長(230、254および320nm)で分析し、これらの波長における絶対ピーク面積を測定し、以下表8に報告する。
【0118】
【表8】
【0119】
上記結果は、254nmでのカラム流出液の分析が、他の2つの波長に比べてより感度が良いことを明らかに示す。しかし、分析を281nmで行う場合、この感度をさらに改善できる。最適波長を最終決定する前に、ON.1210.Naの2つの標準曲線を230nmおよび254nmで標準溶液を分析することによって作成する。直線性は、230nmよりも254nmで優れている。したがって、ON.1210.Naの今後の試料全てをモニターするための波長として254nmを選択する。
【0120】
強制分解試験
このアッセイ手順の特異性を確立するために、いくつかの強制分解試験を以下のように行った。
【0121】
水溶液のオートクレーブ処理
ON.1210.Na試料を、HPLCグレード水において200μg/mLの濃度で調製する。時間ゼロでクロマトグラフ中に検出されたピーク全てを、対応する保持時間および絶対ピーク面積とともに記録する。この溶液を5mLガラス製バイアル中にクリンプさせて、オートクレーブ処理する。オートクレーブ処理後、試料を0.1μフィルターを介してろ過し、ろ過された試料20μLを分析する。オートクレーブ処理後のピークの絶対ピーク面積および分解可能性に起因する任意のさらなるピークの出現を表9に示す。
【0122】
【表9】
【0123】
表9のデータは、オートクレーブ処理前後のON.1210.Naのピーク面積に変化がないことを示す。また、さらなるピークも検出されない。したがって、水溶液はオートクレーブ処理条件下で安定であると思われる。
【0124】
0.05N HClを用いた強制分解
500μg/mLの標準溶液1mlを0.1N HCl1mLと混合する。試料の外観は濁っており、HPLC分析前にろ過する。時間0でクロマトグラフ中に検出された全てのピークを、その対応する保持時間と絶対ピーク面積とともに記録する。この溶液を5mLガラス製バイアル中にクリンプさせて、オートクレーブ処理する。オートクレーブ処理後、試料を0.1μフィルターを介してろ過し、ろ過された試料20μLをHPLCによって分析する。オートクレーブ処理後のピークの絶対ピーク面積、および分解可能性による任意の他のピークの出現を記録する。結果を表10に示す。
【0125】
強酸存在下でON.1210.Naをオートクレーブ処理した後の分解は10%未満である。しかし、ON.1210.Naはやはり分解し、現行HPLC法はさらなる3ピークを検出することができる。
【0126】
【表10】
【0127】
0.05N NaOHを用いた強制分解
500μg/mLの標準溶液1mlを0.1N NaOH1mLと混合する。試料の外観は透明である。時間0でクロマトグラフ中に検出された全てのピークを、その対応する保持時間と絶対ピーク面積とともに記録する。この溶液を5mLガラス製バイアル中にクリンプさせて、オートクレーブ処理する。オートクレーブ処理後、試料を0.1μフィルターを介してろ過し、ろ過された試料20μLを分析する。オートクレーブ処理後のピークの絶対ピーク面積、および分解可能性による任意の他のピークの出現を記録する。結果を表11に示す。
【0128】
【表11】
【0129】
アルカリ条件下でより多くの分解がある。保持時間3.3分に溶出する主な分解生成物の形成が存在する。
【0130】
ON.1210.Na(固体)の安定性
クリンプさせたバイアル中でオートクレーブ処理後、固体薬剤試料(ON1210)もまた、開発したHPLC法を用いて任意の分解について評価する。オートクレーブ処理後の試料を使用し、400μg/mLの標準溶液を作製し、HPLCに注入する。結果は元のピークの曲線下面積(AUC)の減少を示さず、さらなるピークも検出されない。この観察結果に基づき、薬剤バルクON.1210.Naは、オートクレーブ処理条件下で安定であると思われる。
【0131】
1.5%(v/v)過酸化水素溶液を用いた強制分解
本試験において、30%過酸化水素を水で3%(v/v)に希釈する。500μg/mLの標準溶液1mlを3%過酸化水素1mLと混合し;次いで、50℃で2時間かけてインキュベートする。異なる時点でクロマトグラフ中に検出された全てのピークを、その対応する保持時間と絶対ピーク面積とともに記録する。クロマトグラフを30分間実施する。結果を表12に示す。
【0132】
【表12】
【0133】
上記強制分解試験の全てによって、ON.1210.Naのために開発されたHPLC法が安定性を示すことが示された。ON.1210.Naのピークは、単一成分に由来し、分解生成物は全く共溶出しない。
【0134】
HPLC法実証
標準溶液および試料調製
ACN:水(TFAを含有しない)60:40(v/v)100ml中にON.1210.Na 0.10gを溶解して標準原液(100 0μg/ml)を調製する。薬剤添加前のこの溶液の見掛けのpHは7.52である。次いで、上記原液をTFAを有しない移動相で希釈し、以下の表中に示されるような10〜500μg/mlの範囲にわたる名目濃度を得ることによって、さまざまな標準溶液(20〜500μg/ml)を調製する。
【0135】
【表13】
【0136】
以下の表に示されるような正確さ測定のために、3つの品質管理試料も、同じ原液(1000μg/ml)から調製する。
【0137】
【表14】
【0138】
分析する標準溶液または試料(200μl)を自動注入器の試料バイアル中に入れ、アリコート(20μl)をHPLCによって分析する。
【0139】
アセトニトリル600mlと0.1%(v/v)TFA含有HPLC水400mlとを混合して、この移動相を調製する。この溶液を0.45μm MAGNA Nylon、47mmフィルター(MSI、MA、USA)を介してろ過する。次いで、ろ過された移動相を脱気のために1時間超音波分解する。
【0140】
アッセイ実証
直線性
ピーク面積を薬剤濃度に対してプロットすることによって標準曲線を作成する。ON.1210.Naの標準曲線は、10〜500μg/mlの濃度範囲にわたって直線である。この範囲においてピーク面積(PA)を薬剤濃度(μg/ml中C)に関係づける標準曲線の式は、PA=7372.3C+0.14556、R2>0.999である。
【0141】
精度
同日に6つの異なる濃度の複製(n-4)試料を分析することによってアッセイの日内精度を測定する。日間精度を測定するために、12日の期間中で異なる5日に同じ溶液を分析する。各濃度におけるピーク面積の変動を表15および表16に示す。ON.1210.Naアッセイの日内および日間のRSD値は、0.4から2.5%の範囲にわたる。この期間中、原液および標準溶液を室温(23℃)下に保存する。ON.1210.Naの日間精度RSD値は、2.2から4.4%である。
【0142】
正確さ
ON.1210.Naの3つの品質管理試料(QCs)を23℃の室温に15日の期間にわたって置いた。これらの試料をこの期間中に5回分析し、測定濃度をその名目値に対して比較することによってアッセイの正確さを測定する。本試験の結果を表16に示す。ON.1210.NaのRSDは、0.85から1.7%の範囲であった。
【0143】
感度
Oppenheimerら2により記載された信頼性アッセイ測定基準の下限を使用し、感度パラメータを決定する。異なる6つの標準曲線をこの計算に使用する。この臨界レベルを、それを超えると観測される応答が、検出可能として信頼性をもって認められるアッセイ応答として定義する。この値もまた、検出を定義する閾値と考えられる。測定値がこの値を超える場合、被分析物の存在が検出され、そうでない場合は、検出されない。この臨界レベルは、2.86±0.33μg/ml(平均±S.D.)である。検出レベルは、実際の正味の応答であり、これは演繹的に検出につながると予期され得る。これは、検出をもたらす測定値を生じるために「ほとんど確実」である真の濃度の最小のより良い値である。この検出レベルは、5.69±0.67μg/ml(平均±S.D.)である。測定レベルは、測定精度が定量測定にとって十分である濃度である。この測定レベルは、10%RSDの精度のレベルに対して15.6±1.79μg/ml(平均±S.D.)である。
【0144】
標準溶液の安定性
標準溶液は、室温で保存する場合、12日の期間にわたって非常に安定である。12日間の保存データに対する日間精度測定のための標準曲線の傾きのRDS(2.5%未満)は、この主張を支持する。室温で12日間にわたって保存する場合、標準溶液にさらなるピークは検出されない。
【0145】
【表15】
【0146】
【表16】
【0147】
オクタノール-水分配係数
該薬剤のオクタノール-水分配係数を25℃で測定する。n-オクタノールおよびHPLC水中のON.1210.Naの飽和溶液等容量(10ml)を、振とう水浴中25℃において48時間で平衡化する。水相のpHも測定する。所定の時間で、有機相および水相双方の既知容量をフィルターにかけたニードルを介して採集する。その後、適切に希釈した後、ON.1210.Naの濃度をHPLCによって測定する。
【0148】
pH溶解度試験
ON.1210.Na塩の溶解度を、0.1Mイオン強度を有するMcIlvaine緩衝液中で試験する。この緩衝液を表17に述べる処方を用いて調製する。pHが目標pHの±0.1pH単位内に入るまで0.1N水酸化ナトリウムまたは0.1N塩酸を使用して最終pHを調整する。この試験結果を表17に示す。pH-溶解度試験から計算した該薬剤のpKaを表19に示す。
【0149】
pH安定性試験
表20に述べたような異なるpH緩衝液に該薬剤を溶解する。各溶液100mLを定量フラスコに調製する。各溶液を0.22μmフィルターを介してろ過する。おおよそ、上記溶液4mLを5mlアンプルに入れ、プロパントーチで密封する。溶液のpHを時間0および各時間間隔で測定する。アンプル全てを75℃一定温度のオーブン中に入れる。試料採集の間、溶液の任意の色変化または沈殿を目視で観察する。該薬剤の濃度をHPLCによって時間0および他の時間間隔で測定する。安定性データの試料採取スケジュールを表21に示す。異なる時点での該薬剤の濃度を表22に示す。
【0150】
熱分析
示差走査熱量計(DSC)(モデルDSC-50、島津製作所、京都、日本)および熱重量分析計(TGA)(モデルTGA-50、島津製作所、京都、日本)を熱分析オペレーティングシステム(TA-50WS、島津製作所、京都、日本)に接続する。融解熱をインジウム(純度99.99%;融点156.4;ΔH 6.8mcal/mg)を用いて校正する。DSCによって分析する試料(5〜10mg)をアルミニウム製鍋に非密封でクリンプさせ、窒素気流(流速20mL/分)下10℃/分の速度で30から400℃に加熱する。熱重量分析(TGA)のために、試料約10mgをアルミニウム製鍋の中にはかりとり、窒素パージ下10℃/分の加熱速度で30から400℃に加熱する。
【0151】
粉末X線回折試験
ON.1210遊離酸、ナトリウム塩および冷蔵温度で保存したON.1210Naのろ過された飽和溶液からの沈殿物をXRPDによってその結晶性について分析する。使用装置は、シーメンスD5005である。試料を室温で5°から40°の走査範囲(2θ)で分析する(ステップ走査、ステップサイズ0.05°、ドウェル時間1秒)。試料ホルダーは、ゼロバックグラウンドホルダーである。
【0152】
結果
オクタノール-水分配係数
該薬剤のオクタノール-水分配係数を、n-オクタノールおよびHPLC水中ON.1210.Na飽和溶液の等容量(10ml)を用いて25℃で測定する。同様に、酵素を有しない擬似胃腸液を使用して分配係数を測定する。オクタノール-水分解係数を以下の式:
オクタノール-水分配係数=オクタノール相中薬剤濃度/水相中薬剤濃度
を用いて測定する。3重の試料において測定したオクタノール-水分配係数は、1.28から2.87となるよう測定される。水相のpHは、8.1である。
【0153】
擬似胃液を使用する分配係数は、pH8.1でON.1210.Naの溶解度が極めて低いため測定できない。擬似胃液のpHは、1.62である。擬似腸液を使用する分配係数は、0.74から2.1である。分配係数測定から得られたデータは、極めて変動性であることがわかる。したがって、この変動性を確認するためにさらなる試験が必要である。擬似腸液のpHは7.83である。
【0154】
pH溶解度試験
ON.1210.Na塩の溶解度を0.1Mイオン強度を有するMcIlvaine緩衝液中で試験する。0.15Mのクエン酸1水和物、および0.2Mの二塩基性リン酸ナトリウム・12水和物のさまざまな容量を用いて表16に述べた処方を使用してこの緩衝液を調製する。目標pHの±0.1pH単位内になるまで0.1N水酸化ナトリウムまたは0.1N塩酸を使用して最終pHを調整する。
【0155】
【表17】
【0156】
4mLバイアルにON.1210.Na 10〜20mgを添加することによってpH溶解度試験の試料を調製する。次いで、適切なpH緩衝液1mLを該バイアルに加える。溶液をvortex genie上で約30秒間混合する。溶液が透明に見える場合は、さらなる薬剤を添加する。さらなる薬剤は、50mg/mLを超える濃度で透明であるように見える溶液に添加しない。この試験を二重に行う。
【0157】
この溶液を調製すると直ちに、試料の初期pHを測定する。次いで、溶液を光から保護し、攪拌器上に置く。この溶液を周囲条件で24から96時間攪拌する。次いで、バイアルをオービタルシェイカーから取り外し、溶液の最終pHを各試料について測定する。次いで、溶液をろ過し、HPLCによって分析する。
【0158】
pH溶解度データを表18に示し、pH溶解度プロファイルを図11に示す。
【0159】
【表18】
【0160】
異なるpHにおける飽和溶解度試験からのpKaの決定
弱酸性薬剤のpKaを、下記に与えられる式を用いてpH-溶解度データから決定する。
【0161】
【数1】
【0162】
計算を表19に示す。
【0163】
【表19】
【0164】
該薬剤は弱酸性であるので、その固有溶解度は、イオン化による寄与が最小である極めて低いpH(pH=4)での溶解度であると考えられる。この場合、固有溶解度は0.000154mg/mLと考えられる。結果として、飽和溶解度試験によって決定したpKaは、2.85±0.59であった。
【0165】
pH安定性試験
該薬剤を表20に述べたような異なるpH緩衝液に溶解する。各溶液100mLを定量フラスコ中に調製する。各溶液を0.22μmフィルターを介してろ過する。おおよそ、上記溶液の4mLを5mlアンプルに入れ、プロパントーチで密封する。この溶液のpHを時間0と各時間間隔で測定する。アンプル全てを75℃一定温度のオーブンに入れる。試料採集の間、溶液中の任意の色変化または沈殿を目視で観察する。薬剤濃度をHPLCによって時間0および他の時間間隔で測定する。安定性データの試料採取スケジュールを表21に示す。各試料のpHおよび薬剤含量を測定する。各時点での濃度およびそのpHを表22に示す。
【0166】
【表20】
【0167】
【表21】
【0168】
【表22】
【0169】
pH安定性試験からのデータをLog(濃度)を時間に対してプロットして分析する。結果を図12に示す。
【0170】
ON.1210.Naの分解は、擬一次反応に従うように見える。分解の速度定数を、各個々のpHで直線回帰を用いて決定する。pHの関数としての見掛け一次速度定数を表23に掲げる。
【0171】
【表23】
【0172】
上記データはpHが中性pHに向けて増加するにつれて、水性緩衝液中のON.1210.Naの安定性が劇的に向上することを明らかに示す。しかし、pHがさらに増加するとその安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。また、上記データに基づいて、pH7.0付近に緩衝された水性製剤は室温で貯蔵安定である可能性があることが予想される。
【0173】
ON.1210.Naの固体安定性
ON.1210.Naを長時間にわたって75℃に曝すことによって、固体における該薬剤の安定性を測定する。試料を10mL注入バイアルにクリンプし、上記温度に保存する。試料を15日および1ヶ月後に採集し、希釈溶液で戻し、その濃度をHPLCによって測定する。クロマトグラフ中の任意のさらなるピークの出現も記録する。対照試料を75℃に曝さないON.1210.Naで代表させ、希釈溶液で既知の濃度に戻す。この試験の結果を表24に示す。
【0174】
【表24】
【0175】
75℃で時間の関数として該化合物の効力がわずかに増加することを、固体安定性データは示す。これは、おそらく試料中に存在する水分の減少のせいである。これは、バルクON.1210.Naの水分含量を測定して確認した。この結果は、試料中に、ON.1210.Na 1モル当たり水3モルに一致する水分約14.5%が存在することを示す。このクロマトグラフは、試料の分解の証拠を示さなかった。
【0176】
熱分析
示差走査熱量計(DSC)(モデルDSC-50、島津製作所、京都、日本)および熱重量分析計(TGA)(モデルTGA-50、島津製作所、京都、日本)を熱分析オペレーティングシステム(TA-50WS、島津製作所、京都、日本)に接続する。融解熱をインジウム(純度99.99%;融点156.4;ΔH 6.8mcal/mg)を用いて校正する。DSCによって分析する試料(5〜10mg)をアルミニウム製鍋に非密閉でクリンプし、窒素気流(流速20mL/分)下10℃/分の速度で30から400℃に加熱する。熱重量分析(TGA)のために、試料約10mgをアルミニウム製鍋の中にはかりとり、窒素パージ下10℃/分の加熱速度で30から400℃に加熱する。このDSCサーモグラフは、2つの熱事象を示す:(i)脱溶媒和または脱水のせいである可能性がある50℃での吸熱ピーク。これは、全く同じ温度範囲で減量も示すTGAサーモグラフによってさらに支持される。(ii)おそらくは分解を伴う薬剤の融解のせいである360℃での発熱ピーク。
【0177】
粉末X-線回折試験
遊離酸試料(ON.1210)、塩試料(ON.1210.Na)および冷蔵条件で保存されたろ過された飽和ON.1210.Na溶液からの沈殿試料を、周囲条件でシーメンス粉末X線回折計を使用して分析する。走査範囲(2θ)は、5°から40°である(ステップ走査、ステップサイズ0.05°、ドウェル時間1秒を有する)。結果を、ピークサーチレポートとともに図14〜15に示す。
【0178】
【表25】
【0179】
【表26】
【0180】
図15は、ON.1210のナトリウム塩が結晶性物質であることを明らかに示す。
【0181】
沈殿物の特徴付け
ナトリウム塩は、水中で過飽和溶液を形成する傾向があり、保存後、該溶液は一部の沈殿物を示し始める。沈殿物を、単離し、乾燥し、HPLC、DSC、TGAおよびXRPDによって特徴付けする。
【0182】
沈殿物をアセトニトリル水混合物に溶解し、HPLCによって分析する。ON.1210.Naの標準と同じ時間に沈殿物が溶出し、沈殿物がON.1210であることを示唆する。
【0183】
この沈殿物をDSCでさらに特徴付けする。沈殿物のサーモグラフは、ON.1210.Na標準にみられるような50℃付近の転移を示さない。しかし、360℃付近の同じ融解/分解を示す。
【0184】
沈殿物をXRPDによってさらに特徴付けする。回折図形は、8.815で観察される1つを除いてON.1210.Naに関して観察される大部分のピークを示す。
【0185】
【表27】
【0186】
結論として、この薬剤、例えば、ON.1210.Naは、水性環境において生物学的pHで極めて安定であることが驚くべきことに証明される。したがって、有効な貯蔵安定性非経口製剤として製剤することができる。該薬剤の水溶解度が低く、この水溶解度をpH増加、共溶媒、および包接錯体の形成によって向上させることができることを、本発明者らはさらに見出した。
【0187】
関連化合物としては、限定されないが、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-2-クロロ-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-3,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン;(E)-2,4-ジクロロ-4-クロロベンジルスルホン;および(E)-4-クロロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホンが挙げられる。
【0188】
関連化合物としては、限定されないが、(Z)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-クロロスチリル-4-フルオロベンジルスルホン;(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;および(Z)-4-ブロモスチリル-4-フルオロベンジルスルホンが挙げられる。
【0189】
限定されないが、合成実施例1〜219を含む米国特許第6656973号に開示、企図、または例証された関連化合物の全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0190】
(実施例I:ON.1210.Na塩の調製)
4-クロロベンジル-4-カルボキシスチリルスルホン(ON01210)(49g;0.145モル)を1リットル三角フラスコに取り、蒸留水500mlを加えた。水酸化ナトリウム溶液(16ml:10M原液)(0.150モル)を該三角フラスコに加えた。次いで、フラスコの内容物を、ON.01210が完全に溶解するまで攪拌しながら沸騰させた。次いで、この溶液を室温まで冷却し、分離した輝く結晶を溝付きろ紙を介してろ過した。結晶性物質を真空下で乾燥し、純粋なON.1210.Na(48g)(92%収率)を得た。
【0191】
(実施例II:培養正常細胞に対するα,β-不飽和アリールスルホンの放射線防護効果)
培養正常細胞に対する以下の表28中の化合物の放射線防護効果を次のように評価した。
【0192】
正常二倍体肺線維芽細胞であるHFL-1細胞を、10%胎児ウシ血清および抗生物質を補ったDMEM中10mm2当たり3000個の細胞の細胞密度で24ウェル皿中に植え付けた。表28に列挙した試験化合物を、溶媒としてDMSOを使用して、2.5から20ミクロモル(2.5および20ミクロモルを含む)の選択濃度で24時間後に該細胞に加えた。対照細胞はDMSO単独で処理した。細胞を試験化合物またはDMSOに24時間曝した。次いで、放射線源として137セシウムを備えたJ.L. Shepherd Mark I、モデル30-1照射器を使用して、放射線(IR)10Gy(グレイ)または15Gyのいずれかで細胞を照射した。
【0193】
照射後、試験細胞および対照細胞上の培地を取り除き、試験化合物またはDMSOを有しない新鮮増殖培地で置き換えた。照射された細胞を96時間インキュベートし、二重ウェルをトリプシン処理し、100mm2組織培養皿上に再度植え付けた。再度植え付けた細胞を、新鮮培地で1回交換し、標準状態下で3週間成長させた。各100mm2の培養皿の、生存細胞数を示すコロニー数を下記のように皿を染色することによって測定した。
【0194】
個々の放射線防護した細胞のクローン増殖由来のコロニーを可視化およびカウントするために、培地を取り除き、プレートを室温リン酸塩緩衝食塩水で1回洗浄した。細胞を、1:10に希釈した変性ギムザ染色液(Sigma)で20分間染色した。この染色を除去し、プレートを水道水で洗浄した。このプレートを風乾し、各プレートのコロニー数をカウントし、二重プレートの平均を決定した。
【0195】
結果を表28に示す。「+」は、試験濃度で2から4.5倍の間の放射線防護活性を示す。保護倍率は、試験プレートの平均コロニー数を対照プレート上の平均コロニー数で除することによって決定する。
【0196】
【表28】
【0197】
(実施例III:(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いた前処理による放射線毒性からのマウスの保護)
10〜12週齢のC57ブラック(black)マウス(Taconic)を各10匹のマウスの2つの処置群に分けた。「200x2」群と指定された1群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の18時間前および6時間前に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン200ミリグラム(20gマウスに基づいて、10mg/Kg用量)の腹腔内注射を受けた。「500x2」と指定された他の群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の18時間前および6時間前に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン500ミリグラム(20gマウスに基づいて、25mg /Kg用量)の腹腔内注射を受けた。対照群動物16匹は、8Gyガンマ放射線のみを受けた。対照群および実験群の死亡率を照射後40日間評価し、結果を図5に示す。
【0198】
照射後20日目までに、対照マウスは、最大死亡率80%を示し、したがって、ガンマ放射線8Gy線量は、LD80線量と考えられる。対照的に、「200x2」群の約50%および「500x2」マウスの約30%のみが、LD80放射線線量を受けた後20日目で死亡した。40日目までに、「200x2」群で最大死亡率約60%、「500x2」群で最大死亡率約50%に達した。これらのデータは、マウスにおける放射線毒性が、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いた前処置によって著しく減少することを示す。
【0199】
(実施例IV:放射線被曝後(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを与えた場合のマウスにおける該薬剤の放射線防護効果)
10〜12週齢のC57B6/Jマウス(Taconic)を、それぞれ、10および9匹のマウスの2つの処置群に分けた。「200x2」群と指定された1群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の18時間前および6時間前に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン200ミリグラム(20gマウスとして、10mg/Kg用量)の腹腔内注射を受けた。「200ポスト」と指定された他の群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の15分後に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン200ミリグラム(20gマウスに基づいて、10mg/Kg用量)の腹腔内注射を受けた。対照群動物16匹は、8Gyガンマ放射線のみを受けた。対照群および実験群の死亡率を照射後40日間評価し、結果を図6に示す。
【0200】
図6は、照射後(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いたマウスの処置は、対照動物に比べて放射線誘発死亡の著しい遅延をもたらしたことを示す。照射後処置によって与えられた放射線防護は、照射前処置に対してみられるほど大きくないが、それにもかかわらず、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンは、対象が放射線線量を受けた後の放射線毒性作用を軽減するのに有効である。
【0201】
本明細書において言及される刊行物および特許は全て、参照により組み込まれる。本発明の範囲および精神から逸脱することなく、記載した主題のさまざまな変更および変形が当業者に明らかである。本発明を特定の実施形態に関連して記載したが、請求されるような本発明は、これらの実施形態に過度に限定されるべきでないことが理解されるべきである。実際、本発明を実施するためのさまざまな変更は、当業者に明らかであり、添付の請求項の範囲内であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】図1AおよびBは、それぞれ、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホンの存在下または不存在下でDU145前立腺腫瘍細胞の生存可能性に対する放射線5Gyおよび10Gyの作用を示す図である。
【図2】図2AおよびBは、それぞれ、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンの存在下または不存在下でDU145前立腺腫瘍細胞の生存可能性に対する放射線5Gyおよび10Gyの作用を示す図である。
【図3】図3AおよびBは、それぞれ、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホンおよび(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いて照射後に処置したDU145前立腺腫瘍細胞の生存可能性に対する放射線10Gyの作用を示す図である。
【図4】4mg/kgの(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホンを1日おきに18日間与えたC57B6/Jマウスについて平均体重(グラム)対時間(日)のプロットの図である。
【図5】放射線8Gyを受ける前18時間および6時間に、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いて前処置したC57B6/Jマウスのカプランマイヤー生存プロットの図である。
【図6】放射線8Gyを受けた後に、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いて処置したC57B6/Jマウスのカプランマイヤー生存プロットの図である。
【図7】4-クロロベンジル-4-カルボキシスチリルスルホンのナトリウム塩(ON.1210.Na)の構造を示す図である。
【図8】水中ON.1210.Naの紫外線スキャンを示す図である。
【図9】ON.1210.Naのそれぞれのクロマトグラフ:(a)移動相、(b)標準溶液(250μg/mL)、(c)オートクレーブ処理前の0.1NNaOH中ON.1210.Na、および(d)オートクレーブ処理後の0.1NNaOH中ON.1210.Naを示す図である。
【図10】図10Aは、ON.1210.Naを有しない移動相を示す図である(ブランク)。図10Bは、イソクラティック系を使用するON.1210.Naの代表的クロマトグラフを示す図である。
【図11】周囲温度でのON.1210.NaのpH溶解度プロファイルを示す図である。
【図12】75℃でpHの関数としてのON.1210.Naの分解を示す図である。
【図13】75℃でpHの関数としてのON.1210.Naの分解についての擬一次速度定数を示す図である。
【図14】ON.1210遊離酸の粉末XRPDパターンを示す図である。
【図15】ON.1210.Naの粉末XRPDパターンを示す図である。
【図16】水溶液から沈殿したON.1210.Naの粉末XRPDパターンを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および組織の放射線の毒性からの/の保護および/または治療のための細胞保護剤、例えば、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンの薬理学的な送達のための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗-放射線防護服または他の防護具は、放射線被曝を低減させるのに有効であり得るが、このような用具は高価で、扱いにくく、一般の人々が普通に利用できない。さらに、放射線防護具は、放射線治療の間、外れた放射線の被曝から腫瘍に隣接する正常組織を保護しない。放射線防護医薬は、コスト効率が高く、有効で、容易に利用できる、放射線防護具に対する代替を提供する。しかし、医薬組成物を用いた正常細胞の放射線防護における以前の試みは、完全に満足いくものではなかった。例えば、末梢血前駆細胞を動員することを目的とするサイトカインは、放射線前に投与すると骨髄保護作用を与えるが(Netaら、Semin.Radiat.Oncol. 6:306〜320頁、1996年)、全身保護は与えない。単独または生体応答変更物質と併用して投与する他の化学的放射線防護剤は、マウスにおいてわずかな保護作用を示したが、大型哺乳動物にこれらの化合物を適用することはあまり成功しておらず、化学的放射線防護が何らかの価値があるかどうかは疑問視されている(Maisin,J.R.、BacqおよびAlexander受賞講演「Chemical radioprotection: past, present, and future prospects」、Int J. Radiat Biol. 73:443〜50頁、1998年)。癌組織で放射線作用を優先的に高めることが知られる放射線増感医薬は、放射線への被曝から正常細胞を全身的に保護するには適さないことが明らかである。
【特許文献1】米国特許第6656973号
【特許文献2】米国特許第6667346号
【特許文献3】米国特許第4727064号
【特許文献4】米国特許第4764604号
【非特許文献1】Netaら、Semin.Radiat.Oncol. 6:306〜320頁、1996年
【非特許文献2】Maisin,J.R.、BacqおよびAlexander受賞講演「Chemical radioprotection: past, present, and future prospects」、Int J. Radiat Biol. 73:443〜50頁、1998年
【非特許文献3】Reddyら、Acta. Chim. Hung. 115:269〜71頁(1984年)
【非特許文献4】Reddyら、Sulfur Letters 13:83〜90頁(1991年)
【非特許文献5】Reddyら、Synthesis No.4、322〜23頁(1984年)
【非特許文献6】Reddyら、Sulfur Letters 7:43〜48頁(1987年)
【非特許文献7】Volume 3(cyclodextrins) of the 11 Volume Collection「Comprehensive Supramolecular Chemistry」、Elsevier Science Inc.、660 White Plains road、Tarrytown、 N.Y.、10591-5153USA
【非特許文献8】Yoshida, A.ら、(1988)Int. Pharm.、Vol.46、217頁:Pharmaceutical Evaluation Of Hydroxy Alkyl Ethers Of B-Cyclodextrins
【非特許文献9】Muller, B.W.、(1986)、J.Pharm Sci. 75、No 6、June 1986: Hydroxypropyl-B-Cyclodextrin Derivatives: Influence Of Average Degree Of Substitution On Complexing Ability And Surface Activity
【非特許文献10】Irie, Tら、(1988) Pharm Res.、No 11、713頁: Amorphous Water-Soluble Cyclodextrin Derivatives: 2-hydroxyethyl, 3-hydroxypropyl, 2-hydroxyisobutyl, and carboxamidomethyl derivatives of B-cyclodextrin
【非特許文献11】Pitha, Josefら、(1988)Life Sciences.43、No.6、493〜502頁: Drug Solubilizers To Aid Pharmacologists: Amorphous Cyclodextrin Derivatives
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、必要なことは、対象が放射線に対する被曝を受けることが予定されるか、または受ける危険性があるか、または受けたかのいずれかである対象を、放射線の毒性から保護する実際的な手段である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、対象における放射線の毒性作用を減少させるための投与用の医薬組成物であって、有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン、ならびに、a)約0.5%から約90%w/vの量の少なくとも1種の水溶性ポリマー、b)約20%から約60%w/vの量の少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、およびc)約10%から約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む、医薬組成物に関する。
【0005】
本明細書に記載の医薬組成物の特定の実施形態には、約20mg/mlから約60mg/mlの少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンと、a)約20%から約60%w/vの量の2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシエチル-ベータ-シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、b)約0.5%から約20%w/vの量のポビドンおよび約25%から約90%w/vの量のPEGからなる群から選択される水溶性ポリマー、ならびにc)約10%w/vから約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分とを含み、該組成物は約7.5から約9.2の範囲内のpHを有する。
【0006】
本発明の好ましい例示の医薬組成物は、約30mg/mlから約50mg/mlの化合物ON.1210.Na((E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(C16H12ClNaO4S))を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
別段に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する当該技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において言及される刊行物および特許は全て参照により組み込まれる。米国特許第6656973号および同第6667346号の開示の全体は、参照により本明細書に特に組み込まれる。
【0008】
放射線被曝の主要な生物学的作用は、骨髄細胞の破壊、胃腸(GI)損傷、肺の肺臓炎、および中枢神経系(CNS)損傷である。放射線被曝の長期作用としては、癌発生率の増加などがある。100レム(人体レントゲン当量:有害な生物学的作用を生じる放射線の量を定量化するために使用される測定量)の被曝は、ARS症状を生じると推定されている。300レムを超える被曝レベルは、被曝集団のほぼ50%の死をもたらす。
【0009】
α,β-不飽和アリールスルホン、特にベンジルスチリルスルホンは、動物における放射線誘発損傷から正常細胞の顕著で、選択的な全身性保護を与える。放射線療法技術に使用される場合、これらの化合物は癌細胞に対して独立した毒性も示す。本明細書に記載のα,β-不飽和アリールスルホンの組成物および製剤は、放射線への急性および慢性被曝から正常細胞および組織を保護する。このα,β-不飽和アリールスルホンはまた、腫瘍細胞において細胞毒性として実用可能でもある。本明細書に記載される組成物は、例えば、X線またはガンマ線の生死にかかわるレベルへの被曝の差し迫った危険にある作業者の生存を高めるため、および/またはX線またはガンマ線の生死にかかわるレベルをまさに受けた作業者の生存を高めるための予防的使用について意図される。動物の有効性試験において、例えば、静脈内、皮下または腹腔内経路によるON.01210.Naを用いた前処置は、致死量の放射線からマウスを保護した。
【0010】
増殖性疾患の治療のために治療的照射を受ける場合、対象を放射線に曝されることがある。このような疾患としては、癌性および非癌の増殖性疾患などがある。本明細書に記載の製剤は、限定されないが、以下:乳房、前立腺、卵巣、肺、結腸直腸、脳(すなわち、神経膠腫)および直腸を含む広範な腫瘍タイプの治療的照射の間に正常細胞を保護するのに有効である。この組成物はまた、例えば、白血病細胞に対しても有効である。この組成物は、非癌増殖性疾患、例えば、限定されないが、新生児の血管腫症、二次進行性多発性硬化症、慢性進行性骨髄変性疾患、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨のパジェット病、乳房線維嚢胞症、ペロニンおよびデュピュイトラン線維症、再狭窄および肝硬変症などにおける異常組織の治療的照射の間に正常細胞を保護するのに有用である。
【0011】
α,β-不飽和アリールスルホン放射線防護剤化合物を照射前に投与する限り、治療的放射線を、処方された治療のコースと一致する任意のスケジュールおよび任意の線量で対象に施してもよい。治療のコースは対象によって異なり、当業者であれば所与の臨床状況において適切な治療用放射線の量およびスケジュールを容易に決定することができる。本明細書に記載のα,β-不飽和アリールスルホンの組成物は、正常細胞に対して放射線防護効果を発揮するために十分な濃度で対象の正常細胞に到達できるように、放射線治療の十分前に投与すべきである。放射線治療の実施の約24時間前まで、好ましくは約18時間以下前に、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを投与してもよい。1つの実施形態において、α,β-不飽和アリールスルホン製剤を放射線治療の実施の少なくとも約6〜12時間前に投与する。最も好ましくは、α,β-不飽和アリールスルホンを放射線被曝の約18時間前に1回投与し、約6時間前に再度投与する。1種または複数のα,β-不飽和アリールスルホンを治療期間中、同時に投与してもよいし、異なるα,β-不飽和アリールスルホンを異なる時間に投与してもよい。
【0012】
好ましくは、α,β-不飽和アリールスルホンの投与と放射線治療の実施は、約24時間離す。より好ましくは、α,β-不飽和アリールスルホンの投与と放射線治療の実施は、約6〜18時間離す。この方策により、放射線治療の抗癌作用に影響を及ぼすことなく放射線誘発副作用の著しい減少をもたらす。
【0013】
治療可能な放射線障害を引き起こし得る放射線の急性線量には、局所または全身線量、例えば、24時間以内に約10,000ミリレム(0.1Gy)から約1,000,000ミリレム(10Gy)、好ましくは24時間以内に約25,000ミリレム(0.25Gy)から約200,000(2Gy)、より好ましくは24時間以内に約100,000ミリレム(1Gy)から約150,000ミリレム(1.5Gy)などがある。
【0014】
治療可能な放射線障害を引き起こし得る放射線の慢性線量には、約100ミリレム(0.001Gy)から約10,000ミリレム(0.1Gy)の全身線量、好ましくは24時間を超える期間にわたって約1000ミリレム(0.01Gy)から約5000ミリレム(0.05Gy)の全身線量、または24時間を超える期間をわたって15,000ミリレム(0.15Gy)から50,000ミリレム(0.5Gy)の局所線量などがある。
【0015】
致死量の放射線をもたらすテロリストの攻撃がもたらされた場合、本明細書に記載の放射線防護組成物は、例えば、被曝後約4時間までの被曝直後に投与すると、保護を与えるはずである。
【0016】
(I. 例示の構造の属)
本明細書において使用する「α,β-不飽和アリールスルホン」は、1種または複数のα,β-不飽和アリールスルホン基:
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、Q2は、置換または非置換アリールであり、αおよびβ炭素に結合している水素原子は、他の化学基によって場合によって置換されている)
を含む化合物を意味する。
【0019】
「置換(substituted)」は、原子または原子の群が、環状原子に結合している置換基としての水素を置換したことを意味する。環状系における置換度は、モノ、ジ、トリまたはより高度の置換であってもよい。
【0020】
単独または他の用語と組み合わせて用いられる用語「アリール」は、別段の記載がない限り、環がぶら下がった様式で一緒に結合していてもよく、または縮合していてもよい1つまたは複数の環(通常、1、2、または3環)を含む炭素環式芳香族系を意味する。例としては、フェニル;アントラシル;およびナフチル、特に1-ナフチルおよび2-ナフチルなどがある。アリール部分の前述の列挙は代表的であることを意図し、これに限定するものではない。この用語「アリール」は、6員環系に限定されないことが理解される。
【0021】
それ自体または別の置換基の部分として用語「ヘテロアリール」は、別段の記載がない限り、炭素原子ならびにN、O、およびS(ここで、窒素および硫黄ヘテロ原子は、場合によって酸化されていてもよく、この窒素原子は、場合によって4級化されていてもよい)からなる群から選択される1から4個のヘテロ原子からなる非置換もしくは置換の、安定した単環または多環ヘテロ芳香族環系を意味する。ヘテロ環系は、別段の記載がない限り、安定構造を与える任意のヘテロ原子または炭素原子に結合し得る。
【0022】
このようなヘテロアリールの例としては、ベンズイミダゾリル、特に2-ベンズイミダゾリル;ベンゾフリル、特に3-、4-、5-、6-および7-ベンゾフリル;2-ベンゾチアゾリルおよび5-ベンゾチアゾリル;ベンゾチエニル、特に3-、4-、5-、6-および7-ベンゾチエニル;4-(2-ベンジルオキサゾリル);フリル、特に2-および3-フリル;イソキノリル、特に1-および5-イソキノリル;イソオキサゾリル、特に3-、4-および5-イソオキサゾリル;イミダゾリル、特に2-、4-および5-イミダゾリル;インドリル、特に3-、4-、5-、6-および7-インドリル;オキサゾリル、特に2-、4-および5-オキサゾリル;プリニル;ピロリル、特に2-ピロリル、3-ピロリル;ピラゾリル、特に3-および5-ピラゾリル;ピラジニル、特に2-ピラジニル;ピリダジニル、特に3-および4-ピリダジニル;ピリジル、特に2-、3-および4-ピリジニル;ピリミジニル、特に2-および4-ピリミジニル;キノキサリニル、特に2-および5-キノキサリニル;キノリニル、特に2-および3-キノリニル;5-テトラゾリル;2-チアゾリル、特に2-チアゾリル、4-チアゾリルおよび5-チアゾリル;チエニル、特に2-および3-チエニル;ならびに3-(1,2,4-チアゾリル)などがある。ヘテロアリール部分の前述の列挙は、代表的であることを意図し、限定するものではない。
【0023】
1つの実施形態によれば、α,β-不飽和アリールスルホン基は、スチリルスルホン基:
【0024】
【化2】
【0025】
(式中、α炭素およびβ炭素に結合している水素原子は、他の化学基によって場合によって置換されており、フェニル環は、場合によって置換されている)
である。
【0026】
本明細書において使用される「スチリルスルホン」または「スチリルスルホン化合物」または「スチリルスルホン治療剤」は、1種または複数のこのようなスチリルスルホン基を含む化合物を意味する。
【0027】
該α,β-不飽和アリールスルホン放射線防護化合物は、二重結合の存在に起因するシス-トランス異性を特徴とする。二重結合のまわりの立体関係は、「Z」または「E」として指定される。両配置が、「α,β-不飽和アリールスルホン」の範囲に包含される。
【0028】
【化3】
【0029】
1つの実施形態によれば、該α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式I:
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、
nは、1または0であり;
Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである)
の化合物である。
【0032】
好ましくは、式Iのnは、1であり、すなわち、該化合物は、α,β-不飽和ベンジルスルホン、例えば、スチリルベンジルスルホンを含む。
【0033】
式Iによる1つの好ましい実施形態において、Q1および/またはQ2は、置換および非置換のヘテロアリールから選択され、例えば、(E)-3-フランエテニル-2,4-ジクロロベンジルスルホンである。
【0034】
式Iによるもう1つの好ましい実施形態において、Q1およびQ2は、置換および非置換のフェニルから選択される。
【0035】
Q1およびQ2が置換および非置換のフェニルから選択される好ましい化合物は、式II:
【0036】
【化5】
【0037】
(式中、Q1aおよびQ2aは、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
の化合物を含む。
【0038】
1つの実施形態において、式IIの化合物は、少なくとも1つの環上で少なくとも2置換であり、すなわち、少なくとも1つの環上の少なくとも2個の置換基が、水素以外である。もう1つの実施形態において、式IIの化合物は、少なくとも1つの環上で少なくとも3置換され、すなわち、少なくとも1の環上の少なくとも3置換基が水素以外である。
【0039】
1つの実施形態において、放射線防護化合物は、式III:
【0040】
【化6】
【0041】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
を有する。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、該放射線防護化合物は、式IIIに従うものであり、R1およびR2は、水素、ハロゲン、シアノ、およびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択され;R3およびR4は、水素およびハロゲンからなる群から独立して選択される。
【0043】
式IIIの1つの下位の実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式IIIaの化合物:
【0044】
【化7】
【0045】
(式中、R2およびR4は、水素以外である)
である。
【0046】
E配置を有する式IIIaによる好ましい化合物としては、限定されないが、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-2-クロロ-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-3,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン;(E)-2,4-ジクロロ-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロフェニルスルホンおよび(E)-4-クロロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホンが挙げられる。
【0047】
もう1つの実施形態によれば、式IIIaの化合物はZ配置を有し、ここで、R1およびR3は、水素であり、R2およびR4は、4-ハロゲンからなる群から選択される。このような化合物としては、例えば、(Z)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-クロロスチリル-4-フルオロベンジルスルホン;(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;および(Z)-4-ブロモスチリル-4-フルオロベンジルスルホンが挙げられる。
【0048】
もう1つの実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式IV:
【0049】
【化8】
【0050】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜8アルキル、C1〜8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、およびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
の化合物である。
【0051】
1つの実施形態において、式IVのR1は、水素、塩素、フッ素および臭素からなる群から選択され、R2およびR4は、水素である。式IVの好ましい化合物は、(Z)-スチリル-(E)-2-メトキシ-4-エトキシスチリルスルホンである。
【0052】
なおもう1つの実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式V:
【0053】
【化9】
【0054】
(式中、Q3、Q4およびQ5は、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラ、およびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から選択される)
の化合物である。
【0055】
式Vの1つの下位の実施形態によれば、該放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物は、式Va:
【0056】
【化10】
【0057】
(式中、R1およびR2は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシル、およびトリフルオロメチルからなる群から選択され;
R3は、非置換フェニル、モノ置換フェニルおよびジ置換フェニルからなる群から選択され、フェニル環上の該置換基は、ハロゲンおよびC1〜C8アルキルからなる群から独立して選択される)
の化合物である。
【0058】
好ましくは、式VaのR1は、フッ素および臭素からなる群から選択され;R2は、水素であり;R3は、2-クロロフェニル、4-クロロフェニル、4-フルオロフェニル、および2-ニトロフェニルからなる群から選択される。
【0059】
式Vaによる好ましい放射線防護スチリルスルホンは、R1がフッ素、R2が水素、R3がフェニルであり、すなわち、化合物2-(フェニルスルホニル)-1-フェニル-3-(4-フルオロフェニル)-2-プロペン-1-オンである。
【0060】
「ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)」は、(CH3)2N(CH2)nO-を意味し、ここで、nは2から6である。好ましくは、nは2または3である。最も好ましくは、nは2であり、すなわち、該基は、ジメチルアミノエトキシ基、すなわち、(CH3)2NCH2CH2O-である。
【0061】
「ホスホナト」は、基-PO(OH)2を意味する。
【0062】
「スルファミル」は、基-SO2NH2を意味する。
【0063】
アリール核上の置換基がアルコキシ基である場合、炭素鎖は、分岐または直鎖であってよいが、直鎖が好ましい。好ましくは、アルコキシ基は、C1〜C6アルコキシ、より好ましくはC1〜C4アルコキシ、最も好ましくはメトキシを含む。
【0064】
(E)-α,β-不飽和アリールスルホンは、芳香族アルデヒドとベンジルスルホニル酢酸またはアリールスルホニル酢酸とのクネベナーゲル縮合によって調製し得る。その手順は、Reddyら、Acta. Chim. Hung. 115:269〜71頁(1984年);Reddyら、Sulfur Letters 13:83〜90頁(1991年);Reddyら、Synthesis No.4、322〜23頁(1984年);Reddyら、Sulfur Letters 7:43〜48頁(1987年)によって記載され、その開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。特に、米国特許第6656973号および同第6667346号の開示全体を参照のこと。
【0065】
該α,β-不飽和アリールスルホンは、医薬的に許容される塩の形態を取り得る。「医薬的に許容される塩」という用語は、アルカリ金属塩を形成するため、および遊離酸または遊離塩基の付加塩を形成するために一般に使用される塩を包含する。この塩の性質は、医薬的に許容されることを条件に、重要ではない。
【0066】
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【0067】
1つの例示的な実施形態において、α,β-不飽和アリールスルホンは、式1aの化合物:
【0068】
【化11】
【0069】
(式中、Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、以下表2に記載される置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のヘテロアリールである)
である。
【0070】
【表2A】
【表2B】
【0071】
【表3】
【0072】
本明細書において開示および企図した全ての化合物の多形体は、本明細書に添付した請求項の範囲内であることを意図する。
【0073】
(II. 例示的な種)
放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンの典型的な種は、ON.1210.Na.である。ON.1210.Naは、クロロベンジルスルホンの誘導体である。この誘導体および関連化合物は、生死にかかわるレベルの照射への偶発的および意図的な被曝の作用を緩和する有益な予防的特性を示すとして本明細書に記載される。したがって、この誘導体および関連化合物の系統的な開発は、貯蔵安定性製剤を開発する目的を有して記載される。
【0074】
表4は、ON.1210.Naの一般的な物理的特性について記載する。この例示化合物は、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンのナトリウム塩である。
【0075】
【表4】
【0076】
化合物ON.1210.Naは、少なくとも1つの多形体を形成するように思われる。例えば、沈殿ON.1210.NaのX線回折パターンは、当初合成された化合物のものと異なる。ON.1210.Naの多形体は、本明細書に添付した請求項の範囲内であると意図する。
【0077】
例えば、細胞毒性レベルの放射線への被曝前に正常ヒト線維芽細胞をON.1210.Naで処置すると、線量依存性の放射線防護が得られる。
【0078】
例示的な原薬としてのON.1210.Naの物理化学的特性を、これら化合物の安全で、信頼性があり、有効な非経口製剤の開発のための適切な製剤手法を評価するために測定した。これには、顕微鏡的試験、分配係数、pKa、pH溶解度試験、加速条件下のpH安定性試験、原薬の固体の特徴付け、および加速条件下の原薬の固体安定性などがある。後のIV節を参照のこと。この化合物例は、オクタノール:水分配定数(1.28〜2.87)が低い。該薬剤の平衡溶解度は、pH4.0、5.0、6.0、7.4、8.0、9.0で、それぞれ、0.000154、0.0379、0.715、11.09、16.81、23.3mg/mLであった。pH-溶解度試験から計算したpKaは、2.85±0.6であった。該薬剤のpH-安定性プロファイルは、中性および生物学的pHでより安定性を示したが、酸性条件下で分解が急速であった。この分解は、擬一次速度に従った。原薬バルクの固体加速安定性試験は、分解の証拠を示さなかった。この薬剤は、生物学的pHで水性環境において極めて安定である。したがって、貯蔵安定性非経口製剤として製剤することができる。遊離酸としての薬剤の水溶解度は低く、pH、共溶媒および複合体形成の増加によって著しく向上させることができる。
【0079】
(III. 放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンの製剤)
本明細書において記載され、企図された組成物は限定されないが、例えば、投与後の該化合物の経口での生物利用能の理由から、本明細書に記載の該化合物の好ましい投与経路としては、例えば、非経口投与などがある。非経口投与には、静脈内、筋内、動脈内、腹腔内、膣内、膀胱内(例えば、膀胱の中に)、皮内、局所または皮下投与などがある。α,β-不飽和アリールスルホンは、医薬的に許容される担体と組み合わせた1種または複数のα,β-不飽和アリールスルホンを含む医薬組成物の形態で投与することもできる。このような製剤中のα,β-不飽和アリールスルホンは、0.1から99.99重量%であってよい。「医薬的に許容される担体」は、製剤の他の成分と混合可能であり、対象に対して有害ではない任意の担体、希釈剤または賦形剤を意味する。
【0080】
もちろん、放射線防護の恩恵を得るためのα,β-不飽和アリールスルホンの具体的用量およびスケジュールは、個々の患者の特定の状況、例えば、患者の大きさ、体重、年齢および性、治療する疾患の性質および段階、疾患の攻撃性、投与経路、および放射線の特異的毒性などによって決定される。例えば、約0.01から約150mg/kg/日、より好ましくは約0.05から約50mg/kg/日の1日量を用いることができる。約1.0から約10.0mg/kg/日の用量、例えば約0.7mg/kg/日の用量が、特に好ましい。この用量は、多回投与、例えば、3.5mg/kgの2回投与にわたって投与してもよい。より高いまたは低い用量もまた企図される。
【0081】
非経口投与について、該α,β-不飽和アリールスルホンを、水、油、食塩水、水性デキストロース(グリコース)および関連糖溶液、シクロデキストリンまたは下記されるようなプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールなどの好適な担体または希釈剤と一緒に混合してもよい。非経口投与のための溶液は、該α,β-不飽和アリールスルホンの医薬的に許容され、水溶性の塩を含むことが好ましい。例えば、分解防止剤、抗酸化剤、キレート剤、および防腐剤もまた加えてもよい。好適な抗酸化剤には、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸およびその塩などがあり、キレート剤として、例えばEDTAナトリウムなどがある。好適な防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、メチル-またはプロピル-パラベン、およびクロルブタノールなどがある。
【0082】
有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物を含む貯蔵安定性医薬組成物が本明細書に記載される。本明細書において使用される、例えば、少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物の「有効量」という用語は、対象の正常細胞において放射線に伴う毒性を緩和し、低減し、またはなくすため、および/または対象の異常増殖細胞に直接的な細胞毒性作用を与えるために有効な、下記のような希釈後の化合物の量について言う。骨髄浄化に関して使用される、「有効量の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物」は、対象から取り出した骨髄の放射線に伴う毒性を低減し、またはなくすため、および/または対象から取り出した骨髄の悪性細胞への直接的細胞毒性作用を与えるために有効な少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンの量について言う。各α,β-不飽和アリールスルホンは、例えば、約0.25から約100ミクロモル;好ましくは、約1.0から約50ミクロモル;より好ましくは、約2.0から約25ミクロモルの濃度で投与する。投与のための特に好ましい濃度は、例えば、約0.5、1.0および2.5ミクロモル、ならびに約5、10および20ミクロモルである。より高いまたはより低い濃度も、当該技術分野でよく知られた要因に依存して使用することができる。
【0083】
本明細書において記載され、および請求された製剤は、一般に希釈およびその後の非経口投与について意図される。本発明の組成物は、一般に、輸液前に好適な非経口希釈剤を用いて希釈する前に貯蔵および取り扱いするための濃縮形態で、活性成分、例えば、本明細書に記載の1種または複数の化合物を用いて製剤される。投与前に希釈する本発明の好ましい貯蔵安定性組成物は、一般に、約10mg/mlから約90mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを含む。本発明の好ましい組成物は、約20mg/mlから約80mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを含む。本発明の組成物例には、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン(例えば、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(ON.1210.Na))を約30mg/mlから約50mg/ml含み;ここで、該組成物は、約7.2から約9.2の範囲のpHを示す。
【0084】
1回用量は、一般に、本明細書に記載の任意の組成物約1mlから約5mlの範囲内である。例えば、本明細書に記載の組成物の個々の3ml用量が企図される。この用量は、例えば、5mlバイアルに入れてもよい。本発明の組成物は、例えば、投与前に約7部の希釈剤で希釈(7:1)してもよい。しかし、希釈係数および使用する希釈剤は、製剤中の薬剤の濃度に依存する。しかし、本発明の組成物は、例えば、輸液前の好適な非経口希釈剤約2容量から輸液前の好適な非経口希釈剤約12容量の範囲内で任意の場所で希釈してもよい。本発明の組成物の非経口投与のための最終希釈製品は、約6.5から約10.0の範囲内のpHを有するべきである。好ましくは、非経口投与のための最終希釈製品は、約7.0から約9.5の範囲内のpHを有するべきである。約7.0から約8.0の希釈製品pHが好ましい。
【0085】
投与のための希釈製剤の容積モル浸透圧濃度は、おおよそ約200から約400mOsm/kgの範囲内であるべきである。投与のための希釈製剤の好ましい容積モル浸透圧濃度は、おおよそ約270から約330mOsm/kgの範囲内であるべきである。投与のための希釈製剤の好ましい容積モル浸透圧濃度は、おおよそ300mOsm/kgであるべきである。
【0086】
別段の記載がない限り、本明細書に記載の組成物は、好ましくは水性であるが;例えば、エタノールもまた、本明細書に記載される製剤の好ましい基剤成分である。
【0087】
DMA(N,N-ジメチルアセトアミド)は、本明細書に記載の製剤の好ましい成分例である。下記でさらに検討する本明細書において別に記載される組成物は、約15から約40重量%のDMAを含むことが特に企図される。有効量の本明細書に記載の化合物および約20から約35重量%のDMAを含む非経口投与のための組成物は、好ましい実施形態の例である。本発明の組成物例は、製剤中に有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物を含み、ここで、成分DMA:水:エタノールは、例えば、約1:1:1の比で存在する。しかし、この例の比は、該化合物の溶解度が、薬剤送達のための有効量を依然として与える限り、簡単で容易な実験を用いて当業者によって大きく変更することができる。本発明のもう1つの組成物例は、製剤中に有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン化合物を含み、ここで、成分DMA:水:およびPEG400[少なくとも1種の水溶性ポリマー(WSP)]は、例えば、約1:2:2の比で存在する。しかし、この実施例(DMA:水:WSP)において、「水溶性ポリマー」成分は、もっと大きい値、例えば、下記されるように、多くの実施形態において少なくとも1種の水溶性ポリマー少なくとも約40重量%とすることができる。一般に、該組成物の好ましい薬剤濃度およびpH値にも関係する本明細書における専門用語は、本明細書において企図されるDMA製剤に同様に適用される。
【0088】
有効量の本明細書に記載の化合物および少なくとも約0.5重量%の少なくとも1種の水溶性ポリマーを含む非経口投与のための組成物が提供される。本発明の製剤は、約6.8から約9.6の範囲内のpHを有するのが好ましい。本明細書に記載の製剤は、約7.5から約9.2の範囲内、例えば約8.5の高pHを有するのが好ましい。組成物は、少なくとも1種の水溶性ポリマーを約5%から約90%、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、および少なくとも約85%含むのが好ましい。本明細書において使用される用語「水溶性ポリマー」としては、限定されないが、当該技術分野で知られた水溶性ポリマー賦形剤などがあり、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリグリセロール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)(Povidone(N-ビニル-2-ピロリドンの可溶性ホモポリマー))、ポリビニルピリジンN-オキシド、ビニルピリジンN-オキシドおよびビニルピリジンのコポリマーなど、およびその誘導体、ならびにその組合せなどがある。
【0089】
ポリオキシエチレンおよび/またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマーは、本発明の製剤における使用のための水溶性ポリマー例である。例えば、Poloxamer407(例えば、Pluronic F127、Lutrol(登録商標)micro127)、および/またはPoloxamer188(例えば、Pluronic F68、Lutrol(登録商標)micro68)は、本明細書の製剤において独立して、または組み合わせて使用することができるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマーである(BASF社、Mount Olive、NJ)。
【0090】
ポリエチレングリコール(PEG)は、好ましい水溶性ポリマーである。例えば、低分子量液体ポリエチレングリコールPEG300、PEG400、PEG600、およびPEG800は、例えば、本発明の製剤において独立して、または互いに組み合わせて使用することができる好ましい水溶性ポリマーである。PEG300、PEG400、およびPEG600は、特に好ましい。例えば、Lutrol(登録商標)E300、Lutrol(登録商標)E400およびLutrol(登録商標)E600は、BASF社、Mount Olive、NJから市販されている。PEG400(ポリエチレングリコール400)、Macrogol400、PEG400、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、アルファ-ヒドロ-オメガ-ヒドロキシ-(CAS No:25322-68-3))、例えば、Lutrol(登録商標)E400が、好ましい。PEG300、PEG400、PEG600およびPEG800から主としてなる群から選択される水溶性ポリマー例が好ましい。本明細書に具体的に列挙されないが、その他の点でPEG本質のこの特徴的範囲内の、実質的に同じPEG製品を本発明の組成物において用いることができる。
【0091】
低分子量ポビドングレード(CAS No:9003-39-8)、例えば、Kollidon(登録商標)12PFおよびKollidon(登録商標)17PFは、本化合物とポビドンとの間に溶解性複合体を形成する。両製品は、注射物質の使用に好適な、発熱物質なし粉末として、BASF社、Mount Olive、NJから市販されている。Kollidon(登録商標)12PF、Kollidon(登録商標)17PF、Kollidon(登録商標)25、Kollidon(登録商標)30、およびKollidon(登録商標)90Fは、ポビドンの好ましい例である。本発明の組成物は、例えば、水中約1%から約5%の濃度でPovidone K90を含むことが本明細書において例証される。これらの組成物は、例えば、Povidone K90を、例えば、水に約0.5%から約10%の濃度で含むことがさらに企図される。例えば、低分子量Povidoneを本発明の組成物においてはるかに高い濃度、例えば、約5重量%から約40重量%で用いることができる。好ましい範囲は、製剤の粘度に依存して、約5重量%から約20重量%である。
【0092】
化学変性シクロデキストリンは、本明細書に記載の組成物の好ましい成分である。本明細書に記載のシクロデキストリン薬剤組成物は、容易に希釈され、例えば、手の込んだ混合操作の必要をなくす。化学変性シクロデキストリン、例えば、ヒドロキシプロピル-b-シクロデキストリンの製剤は、本明細書に記載の化合物を溶解させ、安定化するシクロデキストリンの能力、ならびに化学変性シクロデキストリンによって示される優れた安全プロファイルのために、非経口投与に好ましい。本明細書において言及するシクロデキストリンの使用によって、投薬用量および、高pH、例えば、他の溶媒に起因する体内炎症、または本明細書において別に記載される化合物に起因する任意の直接的な化学的炎症を減少させることができる。
【0093】
多くの異なる化学的部分を、円錐曲線回転面の上部および下部の隆線の内側を覆うヒドロキシル基と反応させてシクロデキストリン分子中へ導入することもでき;例えば、ヒドロキシプロピル、カルボキシメチル、およびアセチルなどがある。各シクロデキストリンのヒドロキシル基は、その化学反応性が異なるので、反応過程は、何千もの位置および光学異性体の不定形混合物を生成する。本発明の製剤の成分として化学変性シクロデキストリンの好ましい例としては、限定されないが、2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシエチル-ベータ-シクロデキストリンなどがある。シクロデキストリン分子(アルファ、ベータ、またはガンマ)は、3(n)個の置換基まで有することができ、ここで、nは、シクロデキストリン分子のグルコピラノース単位の数である。これは、置換度(DS)と称される。DSは、水素以外の置換基について言い;置換基は1種または混合の全てであってよい。加重平均を置換の変化性を表すために使用する場合、非整数の置換度が生じる。例えば、Elsevier Science Inc.、660 White Plains road、Tarrytown、 N.Y.、10591-5153USAから入手可能なVolume 3(cyclodextrins) of the 11 Volume Collection「Comprehensive Supramolecular Chemistry」を参照のこと。また、Pitha,Josefの米国特許第4727064号「Pharmaceutical Preparations Containing Cyclodextrin Derivatives」; Muller,B.W.の米国特許第4764604号「Derivatives of Gamma Cyclodextrins」;Yoshida, A.ら、(1988)Int. Pharm.、Vol.46、217頁:Pharmaceutical Evaluation Of Hydroxy Alkyl Ethers Of B-Cyclodextrins; Muller, B.W.、(1986)、J.Pharm Sci. 75、No 6、June 1986: Hydroxypropyl-B-Cyclodextrin Derivatives: Influence Of Average Degree Of Substitution On Complexing Ability And Surface Activity; Irie, Tら、(1988) Pharm Res.、No 11、713頁: Amorphous Water-Soluble Cyclodextrin Derivatives: 2-hydroxyethyl, 3-hydroxypropyl, 2-hydroxyisobutyl, and carboxamidomethyl derivatives of B-cyclodextrinを参照のこと。
【0094】
ヒドロキシプロピル-B-シクロデキストリン(ヒドロキシプロピルシクロデキストリン)(HPCD)は、それ自体極めて水溶性である(室温で500mg/mlより大きい)。NIHのJoseph Pitha博士は、このシクロデキストリン誘導体の使用について多くを実験的に評価し、細胞培養および膜調製に都合よく利用できることを見出した。また、異なるげっ歯類にIPおよびIV投与後HPCDが非毒性であることが認められている。非経口で投与されるHPCDの最大ヒト用量は、1人当たり4日間5%水溶液として静脈内連続投与約500mg/kgであり;臨床逆効果は報告されなかった。Pitha, Josefら、(1988)Life Sciences.43、No.6、493〜502頁: Drug Solubilizers To Aid Pharmacologists: Amorphous Cyclodextrin Derivatives。
【0095】
本明細書に記載の化合物は、有効量の少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン、水、および少なくとも1種の化学変性シクロデキストリンを一般に含む組成物において効果的に製剤される。本発明の製剤の実施形態は、約5%から約90%w/vの化学変性シクロデキストリンを含み、約6.8から約9.6の範囲内のpHを有するのが好ましい。本明細書に記載の製剤は、約7.6から約9.2の範囲内のpHを有するのが好ましい。高いpH、例えば、約8から約9、またはより高いpHが好ましい。本発明のための特に好ましい組成物は、約20%から約60%w/vの化学変性シクロデキストリンを含む。本発明のための最も好ましい組成物は、約30%から約50%w/vの化学変性シクロデキストリンを含む。本発明の組成物の一例は、2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシ-ベータ-シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、好ましくは、約30%から約50%w/vの量、有効量の少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン、例えば、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(ON.1210.Na)、ならびに水を含む。2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、(Hydroxypropyl-B-Cyclodextrin)(hydroxypropyl cyclodextrin)(HPCD)は、本明細書の組成物の使用に好ましい化学変性シクロデキストリンである。放射線の毒性から正常細胞を保護するための非経口投与前に希釈するための、または生死にかかわるレベルの照射に対する偶発的/意図的被曝の作用を軽減するための本発明の貯蔵安定性水性組成物は、例えば、有効量の少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン、および約35%から約45%(例えば、約40%w/v)w/vの化学変性シクロデキストリンを含む。
【0096】
投与前に希釈するために、本発明の好ましい貯蔵安定性組成物は、約10mg/mlから約90mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンおよび少なくとも1種の化学変性シクロデキストリンを含む。本発明の特に好ましい組成物は、約20mg/mlから約80mg/mlの少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホンを含む。本発明の組成物の例は、少なくとも1種のα,β-不飽和アリールスルホン(例えば、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンナトリウム塩(ON.1210.Na))約30mg/mlから約50mg/ml(例えば、約40mg/ml);および化学変性シクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン)約30%から約50%w/v(例えば、約40%)を含み;ここで、該組成物は、約7.6から約8.5(例えば、約7.9)の範囲内のpHを有する。
【0097】
本明細書において記載され、請求される好ましい製剤は、放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン、例えば、ON.1210.Naの溶解度を著しく増加させ、本発明の濃縮製剤を可能にし、ここで、希釈後、該薬剤は、少なくとも約24時間物理的に安定である。
【0098】
(IV.製剤試験)
クロロベンジルスルホンのナトリウム塩であるON.1210.Naは、有効な放射線防護薬の一例である。ON.1210.Naは、特に、生死にかかわるレベルの放射線被曝の間保護することが特に示される。患者への治療的投与のためのこの化合物および関連化合物の貯蔵安定性非経口製剤について本明細書に記載される。
【0099】
安定性を示すHPLCアッセイを、予備製剤試験の間に使用する。予備製剤試験には、顕微鏡的および肉眼的特性の測定、分配係数、pKa、pH-溶解度、pH-安定性、固体の特徴付けならびに固体安定性が包含される。XRDおよび熱分析は、固体および固体安定性を特徴付けするために使用する。薬剤の固体安定性ならびにpH安定性は、75℃で実施する。
【0100】
顕微鏡的およびXRDデータは、該薬剤が不規則平板様結晶を有する結晶性であることを示す。該薬剤は、オクタノール:水分配係数(1.28〜2.87)が低い。該薬剤の平衡溶解度は、pH4.0、5.0、6.0、7.4、8.0、9.0で、それぞれ、0.000154、0.0379、0.715、11.09、16.81、23.3mg/mLである。pH-溶解度試験から計算されるpKaは、2.85±0.6である。該薬剤のpH-安定性プロファイルは、中性および生物学的pHでより良い安定性を示すが、酸性条件下では急速に分解する。この分解は、一次反応速度に従った。原薬バルクの固体加速安定性試験は、分解の証拠を示さない。
【0101】
該薬剤の溶解度は、pHを増加させることにより著しく増加させることができる。また、該薬剤の安定性は、水溶液をpH7近くに緩衝することによって向上させることができる。該薬剤は、水性環境で極めて安定であり、それ自体の貯蔵安定性製剤の開発を可能とする。
【0102】
【表5A】
【表5B】
【0103】
【表6】
【0104】
予備製剤および製剤の開発のために、ON.1210.Naに対する安定性を示し、感度の良いHPLCアッセイを開発および実証するための試験を行った。イソクラティック系は、流速1mL/分で水中アセトニトリル: 0.1%トリフルオロ酢酸(60:40 v:v)からなる移動相を使用する。C-18ジェミニカラム(250×4.6mm)を使用し、流出液を254nmでモニターした。ON.1210.Naを0.1N HCl、0.1N NaOH、および3%(v/v)過酸化水素に曝して強制分解を行った。実証パラメータとしては、線形性、特異性、感度、精度および正確さなどが含まれる。
【0105】
標準曲線は、0〜500μg/mLの濃度範囲で線形である。該薬剤およびいくつかの分解生成物の保持時間は、7分以内に十分入った。日内および日々の精度についての相対標準偏差(RSD)値は、それぞれ、0.4から2.5%および2.2から4.4%の範囲であった。正確さ測定についてのRSDは、0.85から1.7%の範囲である。このアッセイの臨界レベル、検出レベルおよび測定レベルは、それぞれ、2.86±0.67μg/mL、5.69±0.67μg/mLおよび15.6±1.79μg/mLである。
【0106】
感度が良く、安定性を示すHPLC法を開発し、ON.1210.Naについて実証する。強制分解、予備製剤および製剤の試験によってこの方法の適切性を示す。
【0107】
この過程の第1のステップは、安定性を示すHPLCアッセイの開発である。次の段階は、このアッセイの実証である。このHPLCアッセイは、予備製剤、製剤の開発、ならびに、例えば、薬剤バルクおよび製剤されたON.1210.Naの安定性試験を支援することができる。
【0108】
安定性を示すアッセイの開発、およびその実証について本明細書において記載する。このアッセイの適切性を、固体の原薬バルクに対する強制分解試験を、酸性、アルカリ性、酸化およびオートクレーブ処理の条件下で行うことによって示す。
【0109】
HPLCアッセイ法の開発および実証
感度が良く高度に特異的で正確な安定性を示すHPLCアッセイを開発し、水性試料におけるON.1210.Naの分析について実証する。以下は、この方法の開発および実証を行うために使用する材料および装置のリストである。
【0110】
材料
トリフルオロ酢酸(Sigma、St. Louis、MO、USA);アセトニトリル、水(HPLCグレード)、(Fisher Scientific、NJ、USA)を受領したまま、使用した。
【0111】
【表7】
【0112】
ON.1210.Naの紫外線スキャン
ON.1210.Naの紫外線(UV)スキャンを、UV1700PHARMASPECモデル分光光度計(島津製作所、日本)を使用してON.1210.Na 10μg/mLの水溶液に対して得る。このUVスキャンを図8に示す。このUVスペクトルは、はっきり区別できる2つの極大を示す。この溶媒中のON.1210.Naのλmaxは281nmに認められ、第2の極大は216nmに生じる。
【0113】
HPLC法の開発
初期のHPLC法の開発過程では、以下の移動相組成を有するグラジエント系を用いる。
移動相A:0.1%TFA含有水
移動相B:100%HPLCグレードのアセトニトリル
【0114】
使用したグラジエントは、30分にわたる0%Bから100%Bのリニアーグラジエントである。溶出液をモニターするために3波長230、254および320nmでフォトダイオードアレー検出器(モデルSPD-M10AVP)を使用する。これら3波長は、類似のアナログON.1910に対する過去の経験の理由から選択する。使用カラムは、C-18ジェミニカラム(Phenomenex、CA)である。流速は1.0mL/分である。得られたON.1210.Naの保持時間は、約23分である。このデータに基づき、他の不純物が存在する親化合物の検出にこの系は好適であると考えられる。254nmで得られたON.1210.Naの代表的クロマトグラフを図9(a〜d)に示す。クロマトグラフは降順に示す。
【0115】
該薬剤の保持時間が20分を超えており、0.1N NaOHを用いた強制分解中の分解生成物は、逆相系を使用して、十分に分離し、検出できることをこのグラジエント系は示す。次いで、イソクラティック系の移動相組成の最適化に着手する。
【0116】
イソクラティック系の開発
本方法の開発過程の次の目的は、ON.1210.Naとその不純物/分解生成物との間の分解能を犠牲にすることなく運転時間を減少させることである。したがって、移動相としての酸性化水とアセトニトリルとのさまざまな組合せを用いてイソクラティック系を開発することに労力を集中する。3つの移動相組成を選択する。これらは、アセトニトリル: 0.1%TFA含有水20:80; 40:60および60:40(v/v)である。1mL/分の流速で、最初の2つの移動相組成のON.1210.Naの保持時間は8分を超えているが、60:40(ACN:水)組成に関して、保持時間は約5分である。ON.1210.Naとその3つの少量の不純物との間の分解能も良好である。代表的なクロマトグラフを図10に示す。ON.1210.Naの現行ロット(ON062604-1210Na)は、99%を超えるHPLC純度を示し、他の主な3つの不純物は、4.0、6.0および6.6分の保持時間で溶出する。したがって、この第3の移動相組成をさらなる評価に選択する。
【0117】
分析用波長の選択
既知濃度のON.1210.Na溶液(100μg/mL)を異なる3波長(230、254および320nm)で分析し、これらの波長における絶対ピーク面積を測定し、以下表8に報告する。
【0118】
【表8】
【0119】
上記結果は、254nmでのカラム流出液の分析が、他の2つの波長に比べてより感度が良いことを明らかに示す。しかし、分析を281nmで行う場合、この感度をさらに改善できる。最適波長を最終決定する前に、ON.1210.Naの2つの標準曲線を230nmおよび254nmで標準溶液を分析することによって作成する。直線性は、230nmよりも254nmで優れている。したがって、ON.1210.Naの今後の試料全てをモニターするための波長として254nmを選択する。
【0120】
強制分解試験
このアッセイ手順の特異性を確立するために、いくつかの強制分解試験を以下のように行った。
【0121】
水溶液のオートクレーブ処理
ON.1210.Na試料を、HPLCグレード水において200μg/mLの濃度で調製する。時間ゼロでクロマトグラフ中に検出されたピーク全てを、対応する保持時間および絶対ピーク面積とともに記録する。この溶液を5mLガラス製バイアル中にクリンプさせて、オートクレーブ処理する。オートクレーブ処理後、試料を0.1μフィルターを介してろ過し、ろ過された試料20μLを分析する。オートクレーブ処理後のピークの絶対ピーク面積および分解可能性に起因する任意のさらなるピークの出現を表9に示す。
【0122】
【表9】
【0123】
表9のデータは、オートクレーブ処理前後のON.1210.Naのピーク面積に変化がないことを示す。また、さらなるピークも検出されない。したがって、水溶液はオートクレーブ処理条件下で安定であると思われる。
【0124】
0.05N HClを用いた強制分解
500μg/mLの標準溶液1mlを0.1N HCl1mLと混合する。試料の外観は濁っており、HPLC分析前にろ過する。時間0でクロマトグラフ中に検出された全てのピークを、その対応する保持時間と絶対ピーク面積とともに記録する。この溶液を5mLガラス製バイアル中にクリンプさせて、オートクレーブ処理する。オートクレーブ処理後、試料を0.1μフィルターを介してろ過し、ろ過された試料20μLをHPLCによって分析する。オートクレーブ処理後のピークの絶対ピーク面積、および分解可能性による任意の他のピークの出現を記録する。結果を表10に示す。
【0125】
強酸存在下でON.1210.Naをオートクレーブ処理した後の分解は10%未満である。しかし、ON.1210.Naはやはり分解し、現行HPLC法はさらなる3ピークを検出することができる。
【0126】
【表10】
【0127】
0.05N NaOHを用いた強制分解
500μg/mLの標準溶液1mlを0.1N NaOH1mLと混合する。試料の外観は透明である。時間0でクロマトグラフ中に検出された全てのピークを、その対応する保持時間と絶対ピーク面積とともに記録する。この溶液を5mLガラス製バイアル中にクリンプさせて、オートクレーブ処理する。オートクレーブ処理後、試料を0.1μフィルターを介してろ過し、ろ過された試料20μLを分析する。オートクレーブ処理後のピークの絶対ピーク面積、および分解可能性による任意の他のピークの出現を記録する。結果を表11に示す。
【0128】
【表11】
【0129】
アルカリ条件下でより多くの分解がある。保持時間3.3分に溶出する主な分解生成物の形成が存在する。
【0130】
ON.1210.Na(固体)の安定性
クリンプさせたバイアル中でオートクレーブ処理後、固体薬剤試料(ON1210)もまた、開発したHPLC法を用いて任意の分解について評価する。オートクレーブ処理後の試料を使用し、400μg/mLの標準溶液を作製し、HPLCに注入する。結果は元のピークの曲線下面積(AUC)の減少を示さず、さらなるピークも検出されない。この観察結果に基づき、薬剤バルクON.1210.Naは、オートクレーブ処理条件下で安定であると思われる。
【0131】
1.5%(v/v)過酸化水素溶液を用いた強制分解
本試験において、30%過酸化水素を水で3%(v/v)に希釈する。500μg/mLの標準溶液1mlを3%過酸化水素1mLと混合し;次いで、50℃で2時間かけてインキュベートする。異なる時点でクロマトグラフ中に検出された全てのピークを、その対応する保持時間と絶対ピーク面積とともに記録する。クロマトグラフを30分間実施する。結果を表12に示す。
【0132】
【表12】
【0133】
上記強制分解試験の全てによって、ON.1210.Naのために開発されたHPLC法が安定性を示すことが示された。ON.1210.Naのピークは、単一成分に由来し、分解生成物は全く共溶出しない。
【0134】
HPLC法実証
標準溶液および試料調製
ACN:水(TFAを含有しない)60:40(v/v)100ml中にON.1210.Na 0.10gを溶解して標準原液(100 0μg/ml)を調製する。薬剤添加前のこの溶液の見掛けのpHは7.52である。次いで、上記原液をTFAを有しない移動相で希釈し、以下の表中に示されるような10〜500μg/mlの範囲にわたる名目濃度を得ることによって、さまざまな標準溶液(20〜500μg/ml)を調製する。
【0135】
【表13】
【0136】
以下の表に示されるような正確さ測定のために、3つの品質管理試料も、同じ原液(1000μg/ml)から調製する。
【0137】
【表14】
【0138】
分析する標準溶液または試料(200μl)を自動注入器の試料バイアル中に入れ、アリコート(20μl)をHPLCによって分析する。
【0139】
アセトニトリル600mlと0.1%(v/v)TFA含有HPLC水400mlとを混合して、この移動相を調製する。この溶液を0.45μm MAGNA Nylon、47mmフィルター(MSI、MA、USA)を介してろ過する。次いで、ろ過された移動相を脱気のために1時間超音波分解する。
【0140】
アッセイ実証
直線性
ピーク面積を薬剤濃度に対してプロットすることによって標準曲線を作成する。ON.1210.Naの標準曲線は、10〜500μg/mlの濃度範囲にわたって直線である。この範囲においてピーク面積(PA)を薬剤濃度(μg/ml中C)に関係づける標準曲線の式は、PA=7372.3C+0.14556、R2>0.999である。
【0141】
精度
同日に6つの異なる濃度の複製(n-4)試料を分析することによってアッセイの日内精度を測定する。日間精度を測定するために、12日の期間中で異なる5日に同じ溶液を分析する。各濃度におけるピーク面積の変動を表15および表16に示す。ON.1210.Naアッセイの日内および日間のRSD値は、0.4から2.5%の範囲にわたる。この期間中、原液および標準溶液を室温(23℃)下に保存する。ON.1210.Naの日間精度RSD値は、2.2から4.4%である。
【0142】
正確さ
ON.1210.Naの3つの品質管理試料(QCs)を23℃の室温に15日の期間にわたって置いた。これらの試料をこの期間中に5回分析し、測定濃度をその名目値に対して比較することによってアッセイの正確さを測定する。本試験の結果を表16に示す。ON.1210.NaのRSDは、0.85から1.7%の範囲であった。
【0143】
感度
Oppenheimerら2により記載された信頼性アッセイ測定基準の下限を使用し、感度パラメータを決定する。異なる6つの標準曲線をこの計算に使用する。この臨界レベルを、それを超えると観測される応答が、検出可能として信頼性をもって認められるアッセイ応答として定義する。この値もまた、検出を定義する閾値と考えられる。測定値がこの値を超える場合、被分析物の存在が検出され、そうでない場合は、検出されない。この臨界レベルは、2.86±0.33μg/ml(平均±S.D.)である。検出レベルは、実際の正味の応答であり、これは演繹的に検出につながると予期され得る。これは、検出をもたらす測定値を生じるために「ほとんど確実」である真の濃度の最小のより良い値である。この検出レベルは、5.69±0.67μg/ml(平均±S.D.)である。測定レベルは、測定精度が定量測定にとって十分である濃度である。この測定レベルは、10%RSDの精度のレベルに対して15.6±1.79μg/ml(平均±S.D.)である。
【0144】
標準溶液の安定性
標準溶液は、室温で保存する場合、12日の期間にわたって非常に安定である。12日間の保存データに対する日間精度測定のための標準曲線の傾きのRDS(2.5%未満)は、この主張を支持する。室温で12日間にわたって保存する場合、標準溶液にさらなるピークは検出されない。
【0145】
【表15】
【0146】
【表16】
【0147】
オクタノール-水分配係数
該薬剤のオクタノール-水分配係数を25℃で測定する。n-オクタノールおよびHPLC水中のON.1210.Naの飽和溶液等容量(10ml)を、振とう水浴中25℃において48時間で平衡化する。水相のpHも測定する。所定の時間で、有機相および水相双方の既知容量をフィルターにかけたニードルを介して採集する。その後、適切に希釈した後、ON.1210.Naの濃度をHPLCによって測定する。
【0148】
pH溶解度試験
ON.1210.Na塩の溶解度を、0.1Mイオン強度を有するMcIlvaine緩衝液中で試験する。この緩衝液を表17に述べる処方を用いて調製する。pHが目標pHの±0.1pH単位内に入るまで0.1N水酸化ナトリウムまたは0.1N塩酸を使用して最終pHを調整する。この試験結果を表17に示す。pH-溶解度試験から計算した該薬剤のpKaを表19に示す。
【0149】
pH安定性試験
表20に述べたような異なるpH緩衝液に該薬剤を溶解する。各溶液100mLを定量フラスコに調製する。各溶液を0.22μmフィルターを介してろ過する。おおよそ、上記溶液4mLを5mlアンプルに入れ、プロパントーチで密封する。溶液のpHを時間0および各時間間隔で測定する。アンプル全てを75℃一定温度のオーブン中に入れる。試料採集の間、溶液の任意の色変化または沈殿を目視で観察する。該薬剤の濃度をHPLCによって時間0および他の時間間隔で測定する。安定性データの試料採取スケジュールを表21に示す。異なる時点での該薬剤の濃度を表22に示す。
【0150】
熱分析
示差走査熱量計(DSC)(モデルDSC-50、島津製作所、京都、日本)および熱重量分析計(TGA)(モデルTGA-50、島津製作所、京都、日本)を熱分析オペレーティングシステム(TA-50WS、島津製作所、京都、日本)に接続する。融解熱をインジウム(純度99.99%;融点156.4;ΔH 6.8mcal/mg)を用いて校正する。DSCによって分析する試料(5〜10mg)をアルミニウム製鍋に非密封でクリンプさせ、窒素気流(流速20mL/分)下10℃/分の速度で30から400℃に加熱する。熱重量分析(TGA)のために、試料約10mgをアルミニウム製鍋の中にはかりとり、窒素パージ下10℃/分の加熱速度で30から400℃に加熱する。
【0151】
粉末X線回折試験
ON.1210遊離酸、ナトリウム塩および冷蔵温度で保存したON.1210Naのろ過された飽和溶液からの沈殿物をXRPDによってその結晶性について分析する。使用装置は、シーメンスD5005である。試料を室温で5°から40°の走査範囲(2θ)で分析する(ステップ走査、ステップサイズ0.05°、ドウェル時間1秒)。試料ホルダーは、ゼロバックグラウンドホルダーである。
【0152】
結果
オクタノール-水分配係数
該薬剤のオクタノール-水分配係数を、n-オクタノールおよびHPLC水中ON.1210.Na飽和溶液の等容量(10ml)を用いて25℃で測定する。同様に、酵素を有しない擬似胃腸液を使用して分配係数を測定する。オクタノール-水分解係数を以下の式:
オクタノール-水分配係数=オクタノール相中薬剤濃度/水相中薬剤濃度
を用いて測定する。3重の試料において測定したオクタノール-水分配係数は、1.28から2.87となるよう測定される。水相のpHは、8.1である。
【0153】
擬似胃液を使用する分配係数は、pH8.1でON.1210.Naの溶解度が極めて低いため測定できない。擬似胃液のpHは、1.62である。擬似腸液を使用する分配係数は、0.74から2.1である。分配係数測定から得られたデータは、極めて変動性であることがわかる。したがって、この変動性を確認するためにさらなる試験が必要である。擬似腸液のpHは7.83である。
【0154】
pH溶解度試験
ON.1210.Na塩の溶解度を0.1Mイオン強度を有するMcIlvaine緩衝液中で試験する。0.15Mのクエン酸1水和物、および0.2Mの二塩基性リン酸ナトリウム・12水和物のさまざまな容量を用いて表16に述べた処方を使用してこの緩衝液を調製する。目標pHの±0.1pH単位内になるまで0.1N水酸化ナトリウムまたは0.1N塩酸を使用して最終pHを調整する。
【0155】
【表17】
【0156】
4mLバイアルにON.1210.Na 10〜20mgを添加することによってpH溶解度試験の試料を調製する。次いで、適切なpH緩衝液1mLを該バイアルに加える。溶液をvortex genie上で約30秒間混合する。溶液が透明に見える場合は、さらなる薬剤を添加する。さらなる薬剤は、50mg/mLを超える濃度で透明であるように見える溶液に添加しない。この試験を二重に行う。
【0157】
この溶液を調製すると直ちに、試料の初期pHを測定する。次いで、溶液を光から保護し、攪拌器上に置く。この溶液を周囲条件で24から96時間攪拌する。次いで、バイアルをオービタルシェイカーから取り外し、溶液の最終pHを各試料について測定する。次いで、溶液をろ過し、HPLCによって分析する。
【0158】
pH溶解度データを表18に示し、pH溶解度プロファイルを図11に示す。
【0159】
【表18】
【0160】
異なるpHにおける飽和溶解度試験からのpKaの決定
弱酸性薬剤のpKaを、下記に与えられる式を用いてpH-溶解度データから決定する。
【0161】
【数1】
【0162】
計算を表19に示す。
【0163】
【表19】
【0164】
該薬剤は弱酸性であるので、その固有溶解度は、イオン化による寄与が最小である極めて低いpH(pH=4)での溶解度であると考えられる。この場合、固有溶解度は0.000154mg/mLと考えられる。結果として、飽和溶解度試験によって決定したpKaは、2.85±0.59であった。
【0165】
pH安定性試験
該薬剤を表20に述べたような異なるpH緩衝液に溶解する。各溶液100mLを定量フラスコ中に調製する。各溶液を0.22μmフィルターを介してろ過する。おおよそ、上記溶液の4mLを5mlアンプルに入れ、プロパントーチで密封する。この溶液のpHを時間0と各時間間隔で測定する。アンプル全てを75℃一定温度のオーブンに入れる。試料採集の間、溶液中の任意の色変化または沈殿を目視で観察する。薬剤濃度をHPLCによって時間0および他の時間間隔で測定する。安定性データの試料採取スケジュールを表21に示す。各試料のpHおよび薬剤含量を測定する。各時点での濃度およびそのpHを表22に示す。
【0166】
【表20】
【0167】
【表21】
【0168】
【表22】
【0169】
pH安定性試験からのデータをLog(濃度)を時間に対してプロットして分析する。結果を図12に示す。
【0170】
ON.1210.Naの分解は、擬一次反応に従うように見える。分解の速度定数を、各個々のpHで直線回帰を用いて決定する。pHの関数としての見掛け一次速度定数を表23に掲げる。
【0171】
【表23】
【0172】
上記データはpHが中性pHに向けて増加するにつれて、水性緩衝液中のON.1210.Naの安定性が劇的に向上することを明らかに示す。しかし、pHがさらに増加するとその安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。また、上記データに基づいて、pH7.0付近に緩衝された水性製剤は室温で貯蔵安定である可能性があることが予想される。
【0173】
ON.1210.Naの固体安定性
ON.1210.Naを長時間にわたって75℃に曝すことによって、固体における該薬剤の安定性を測定する。試料を10mL注入バイアルにクリンプし、上記温度に保存する。試料を15日および1ヶ月後に採集し、希釈溶液で戻し、その濃度をHPLCによって測定する。クロマトグラフ中の任意のさらなるピークの出現も記録する。対照試料を75℃に曝さないON.1210.Naで代表させ、希釈溶液で既知の濃度に戻す。この試験の結果を表24に示す。
【0174】
【表24】
【0175】
75℃で時間の関数として該化合物の効力がわずかに増加することを、固体安定性データは示す。これは、おそらく試料中に存在する水分の減少のせいである。これは、バルクON.1210.Naの水分含量を測定して確認した。この結果は、試料中に、ON.1210.Na 1モル当たり水3モルに一致する水分約14.5%が存在することを示す。このクロマトグラフは、試料の分解の証拠を示さなかった。
【0176】
熱分析
示差走査熱量計(DSC)(モデルDSC-50、島津製作所、京都、日本)および熱重量分析計(TGA)(モデルTGA-50、島津製作所、京都、日本)を熱分析オペレーティングシステム(TA-50WS、島津製作所、京都、日本)に接続する。融解熱をインジウム(純度99.99%;融点156.4;ΔH 6.8mcal/mg)を用いて校正する。DSCによって分析する試料(5〜10mg)をアルミニウム製鍋に非密閉でクリンプし、窒素気流(流速20mL/分)下10℃/分の速度で30から400℃に加熱する。熱重量分析(TGA)のために、試料約10mgをアルミニウム製鍋の中にはかりとり、窒素パージ下10℃/分の加熱速度で30から400℃に加熱する。このDSCサーモグラフは、2つの熱事象を示す:(i)脱溶媒和または脱水のせいである可能性がある50℃での吸熱ピーク。これは、全く同じ温度範囲で減量も示すTGAサーモグラフによってさらに支持される。(ii)おそらくは分解を伴う薬剤の融解のせいである360℃での発熱ピーク。
【0177】
粉末X-線回折試験
遊離酸試料(ON.1210)、塩試料(ON.1210.Na)および冷蔵条件で保存されたろ過された飽和ON.1210.Na溶液からの沈殿試料を、周囲条件でシーメンス粉末X線回折計を使用して分析する。走査範囲(2θ)は、5°から40°である(ステップ走査、ステップサイズ0.05°、ドウェル時間1秒を有する)。結果を、ピークサーチレポートとともに図14〜15に示す。
【0178】
【表25】
【0179】
【表26】
【0180】
図15は、ON.1210のナトリウム塩が結晶性物質であることを明らかに示す。
【0181】
沈殿物の特徴付け
ナトリウム塩は、水中で過飽和溶液を形成する傾向があり、保存後、該溶液は一部の沈殿物を示し始める。沈殿物を、単離し、乾燥し、HPLC、DSC、TGAおよびXRPDによって特徴付けする。
【0182】
沈殿物をアセトニトリル水混合物に溶解し、HPLCによって分析する。ON.1210.Naの標準と同じ時間に沈殿物が溶出し、沈殿物がON.1210であることを示唆する。
【0183】
この沈殿物をDSCでさらに特徴付けする。沈殿物のサーモグラフは、ON.1210.Na標準にみられるような50℃付近の転移を示さない。しかし、360℃付近の同じ融解/分解を示す。
【0184】
沈殿物をXRPDによってさらに特徴付けする。回折図形は、8.815で観察される1つを除いてON.1210.Naに関して観察される大部分のピークを示す。
【0185】
【表27】
【0186】
結論として、この薬剤、例えば、ON.1210.Naは、水性環境において生物学的pHで極めて安定であることが驚くべきことに証明される。したがって、有効な貯蔵安定性非経口製剤として製剤することができる。該薬剤の水溶解度が低く、この水溶解度をpH増加、共溶媒、および包接錯体の形成によって向上させることができることを、本発明者らはさらに見出した。
【0187】
関連化合物としては、限定されないが、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-2-クロロ-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-クロロスチリル-4-ブロモベンジルスルホン;(E)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-3,4-ジクロロベンジルスルホン;(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン;(E)-2,4-ジクロロ-4-クロロベンジルスルホン;および(E)-4-クロロスチリル-2,4-ジクロロベンジルスルホンが挙げられる。
【0188】
関連化合物としては、限定されないが、(Z)-4-クロロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-クロロスチリル-4-フルオロベンジルスルホン;(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン;(Z)-4-ブロモスチリル-4-クロロベンジルスルホン;および(Z)-4-ブロモスチリル-4-フルオロベンジルスルホンが挙げられる。
【0189】
限定されないが、合成実施例1〜219を含む米国特許第6656973号に開示、企図、または例証された関連化合物の全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0190】
(実施例I:ON.1210.Na塩の調製)
4-クロロベンジル-4-カルボキシスチリルスルホン(ON01210)(49g;0.145モル)を1リットル三角フラスコに取り、蒸留水500mlを加えた。水酸化ナトリウム溶液(16ml:10M原液)(0.150モル)を該三角フラスコに加えた。次いで、フラスコの内容物を、ON.01210が完全に溶解するまで攪拌しながら沸騰させた。次いで、この溶液を室温まで冷却し、分離した輝く結晶を溝付きろ紙を介してろ過した。結晶性物質を真空下で乾燥し、純粋なON.1210.Na(48g)(92%収率)を得た。
【0191】
(実施例II:培養正常細胞に対するα,β-不飽和アリールスルホンの放射線防護効果)
培養正常細胞に対する以下の表28中の化合物の放射線防護効果を次のように評価した。
【0192】
正常二倍体肺線維芽細胞であるHFL-1細胞を、10%胎児ウシ血清および抗生物質を補ったDMEM中10mm2当たり3000個の細胞の細胞密度で24ウェル皿中に植え付けた。表28に列挙した試験化合物を、溶媒としてDMSOを使用して、2.5から20ミクロモル(2.5および20ミクロモルを含む)の選択濃度で24時間後に該細胞に加えた。対照細胞はDMSO単独で処理した。細胞を試験化合物またはDMSOに24時間曝した。次いで、放射線源として137セシウムを備えたJ.L. Shepherd Mark I、モデル30-1照射器を使用して、放射線(IR)10Gy(グレイ)または15Gyのいずれかで細胞を照射した。
【0193】
照射後、試験細胞および対照細胞上の培地を取り除き、試験化合物またはDMSOを有しない新鮮増殖培地で置き換えた。照射された細胞を96時間インキュベートし、二重ウェルをトリプシン処理し、100mm2組織培養皿上に再度植え付けた。再度植え付けた細胞を、新鮮培地で1回交換し、標準状態下で3週間成長させた。各100mm2の培養皿の、生存細胞数を示すコロニー数を下記のように皿を染色することによって測定した。
【0194】
個々の放射線防護した細胞のクローン増殖由来のコロニーを可視化およびカウントするために、培地を取り除き、プレートを室温リン酸塩緩衝食塩水で1回洗浄した。細胞を、1:10に希釈した変性ギムザ染色液(Sigma)で20分間染色した。この染色を除去し、プレートを水道水で洗浄した。このプレートを風乾し、各プレートのコロニー数をカウントし、二重プレートの平均を決定した。
【0195】
結果を表28に示す。「+」は、試験濃度で2から4.5倍の間の放射線防護活性を示す。保護倍率は、試験プレートの平均コロニー数を対照プレート上の平均コロニー数で除することによって決定する。
【0196】
【表28】
【0197】
(実施例III:(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いた前処理による放射線毒性からのマウスの保護)
10〜12週齢のC57ブラック(black)マウス(Taconic)を各10匹のマウスの2つの処置群に分けた。「200x2」群と指定された1群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の18時間前および6時間前に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン200ミリグラム(20gマウスに基づいて、10mg/Kg用量)の腹腔内注射を受けた。「500x2」と指定された他の群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の18時間前および6時間前に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン500ミリグラム(20gマウスに基づいて、25mg /Kg用量)の腹腔内注射を受けた。対照群動物16匹は、8Gyガンマ放射線のみを受けた。対照群および実験群の死亡率を照射後40日間評価し、結果を図5に示す。
【0198】
照射後20日目までに、対照マウスは、最大死亡率80%を示し、したがって、ガンマ放射線8Gy線量は、LD80線量と考えられる。対照的に、「200x2」群の約50%および「500x2」マウスの約30%のみが、LD80放射線線量を受けた後20日目で死亡した。40日目までに、「200x2」群で最大死亡率約60%、「500x2」群で最大死亡率約50%に達した。これらのデータは、マウスにおける放射線毒性が、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いた前処置によって著しく減少することを示す。
【0199】
(実施例IV:放射線被曝後(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを与えた場合のマウスにおける該薬剤の放射線防護効果)
10〜12週齢のC57B6/Jマウス(Taconic)を、それぞれ、10および9匹のマウスの2つの処置群に分けた。「200x2」群と指定された1群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の18時間前および6時間前に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン200ミリグラム(20gマウスとして、10mg/Kg用量)の腹腔内注射を受けた。「200ポスト」と指定された他の群は、8Gyガンマ放射線を用いた照射の15分後に、DMSO中に溶解した(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホン200ミリグラム(20gマウスに基づいて、10mg/Kg用量)の腹腔内注射を受けた。対照群動物16匹は、8Gyガンマ放射線のみを受けた。対照群および実験群の死亡率を照射後40日間評価し、結果を図6に示す。
【0200】
図6は、照射後(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いたマウスの処置は、対照動物に比べて放射線誘発死亡の著しい遅延をもたらしたことを示す。照射後処置によって与えられた放射線防護は、照射前処置に対してみられるほど大きくないが、それにもかかわらず、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンは、対象が放射線線量を受けた後の放射線毒性作用を軽減するのに有効である。
【0201】
本明細書において言及される刊行物および特許は全て、参照により組み込まれる。本発明の範囲および精神から逸脱することなく、記載した主題のさまざまな変更および変形が当業者に明らかである。本発明を特定の実施形態に関連して記載したが、請求されるような本発明は、これらの実施形態に過度に限定されるべきでないことが理解されるべきである。実際、本発明を実施するためのさまざまな変更は、当業者に明らかであり、添付の請求項の範囲内であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】図1AおよびBは、それぞれ、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホンの存在下または不存在下でDU145前立腺腫瘍細胞の生存可能性に対する放射線5Gyおよび10Gyの作用を示す図である。
【図2】図2AおよびBは、それぞれ、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンの存在下または不存在下でDU145前立腺腫瘍細胞の生存可能性に対する放射線5Gyおよび10Gyの作用を示す図である。
【図3】図3AおよびBは、それぞれ、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホンおよび(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いて照射後に処置したDU145前立腺腫瘍細胞の生存可能性に対する放射線10Gyの作用を示す図である。
【図4】4mg/kgの(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホンを1日おきに18日間与えたC57B6/Jマウスについて平均体重(グラム)対時間(日)のプロットの図である。
【図5】放射線8Gyを受ける前18時間および6時間に、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いて前処置したC57B6/Jマウスのカプランマイヤー生存プロットの図である。
【図6】放射線8Gyを受けた後に、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンを用いて処置したC57B6/Jマウスのカプランマイヤー生存プロットの図である。
【図7】4-クロロベンジル-4-カルボキシスチリルスルホンのナトリウム塩(ON.1210.Na)の構造を示す図である。
【図8】水中ON.1210.Naの紫外線スキャンを示す図である。
【図9】ON.1210.Naのそれぞれのクロマトグラフ:(a)移動相、(b)標準溶液(250μg/mL)、(c)オートクレーブ処理前の0.1NNaOH中ON.1210.Na、および(d)オートクレーブ処理後の0.1NNaOH中ON.1210.Naを示す図である。
【図10】図10Aは、ON.1210.Naを有しない移動相を示す図である(ブランク)。図10Bは、イソクラティック系を使用するON.1210.Naの代表的クロマトグラフを示す図である。
【図11】周囲温度でのON.1210.NaのpH溶解度プロファイルを示す図である。
【図12】75℃でpHの関数としてのON.1210.Naの分解を示す図である。
【図13】75℃でpHの関数としてのON.1210.Naの分解についての擬一次速度定数を示す図である。
【図14】ON.1210遊離酸の粉末XRPDパターンを示す図である。
【図15】ON.1210.Naの粉末XRPDパターンを示す図である。
【図16】水溶液から沈殿したON.1210.Naの粉末XRPDパターンを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における放射線の毒性作用を減少させるための投与用の医薬組成物であって、有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン、ならびに、約0.5%から約90%w/vの量の少なくとも1種の水溶性ポリマー、約20%から約60%w/vの量の少なくとも1種のシクロデキストリン、および約10%から約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む、医薬組成物。
【請求項2】
放射線防護化合物が、式I:
【化1】
(式中、
nは、1または0であり;
Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のヘテロアリールである);あるいは
その医薬的に許容される塩または多形体を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
放射線防護化合物が、(E)-3-フランエテニル-2,4-ジクロロベンジルスルホンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
Q1およびQ2が、置換および非置換のフェニルから選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
放射線防護化合物が、式II:
【化2】
(式中、
Q1aおよびQ2aは、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
Q1aが、4-アルコキシフェニルであり、Q2aが、2,4,6-トリアルコキシフェニルである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
放射線防護化合物が、(E)-2,4,6-トリメトキシスチリル-4-メトキシベンジルスルホンである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
放射線防護化合物が、式III:
【化3】
(式中、
R1、R2、R3およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)、または
その医薬的に許容される塩を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
放射線防護化合物が、式IIIa:
【化4】
(式中、
R2およびR4は、水素以外である)
を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
放射線防護化合物が、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン、(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロフェニルスルホンおよび(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンからなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
化合物が、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンのナトリウム塩である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
約20mg/mlから約60mg/mlの少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンと、a)2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシエチル-ベータ-シクロデキストリンからなる群から選択される、約20%から約60%w/vの量の、少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、b)約0.5%から約20%w/vの量のポビドンおよび約25%から約90%w/vの量のPEGからなる群から選択される水溶性ポリマー、ならびにc)約10%から約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分とを含み、約7.5から約9.2の範囲内のpHを有する、医薬組成物。
【請求項13】
放射線防護化合物が、式I:
【化5】
(式中、
nは、1または0であり;
Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のヘテロアリールである);あるいは
その医薬的に許容される塩または多形体を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
放射線防護化合物が、(E)-3-フランエテニル-2,4-ジクロロベンジルスルホンである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
Q1およびQ2が、置換および非置換のフェニルから選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
放射線防護化合物が、式II:
【化6】
(式中、
Q1aおよびQ2aは、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
Q1aが、4-アルコキシフェニルであり、Q2aが、2,4,6-トリアルコキシフェニルである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
放射線防護化合物が、(E)-2,4,6-トリメトキシスチリル-4-メトキシベンジルスルホンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
放射線防護化合物が、式III:
【化7】
(式中、
R1、R2、R3およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)、または
その医薬的に許容される塩を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
放射線防護化合物が、式IIIa:
【化8】
(式中、
R2およびR4は、水素以外である)
を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
放射線防護化合物が、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン、(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロフェニルスルホンおよび(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンからなる群から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
化合物が、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンのナトリウム塩(ON.1210.Na)である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および約30%w/vから約50%w/vの2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および約15%w/vから約40%w/vのDMAを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および少なくとも約50%w/vのPEGを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および約1%w/vから約10%w/vのポビドンを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項1】
対象における放射線の毒性作用を減少させるための投与用の医薬組成物であって、有効量の少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホン、ならびに、約0.5%から約90%w/vの量の少なくとも1種の水溶性ポリマー、約20%から約60%w/vの量の少なくとも1種のシクロデキストリン、および約10%から約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む、医薬組成物。
【請求項2】
放射線防護化合物が、式I:
【化1】
(式中、
nは、1または0であり;
Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のヘテロアリールである);あるいは
その医薬的に許容される塩または多形体を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
放射線防護化合物が、(E)-3-フランエテニル-2,4-ジクロロベンジルスルホンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
Q1およびQ2が、置換および非置換のフェニルから選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
放射線防護化合物が、式II:
【化2】
(式中、
Q1aおよびQ2aは、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
Q1aが、4-アルコキシフェニルであり、Q2aが、2,4,6-トリアルコキシフェニルである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
放射線防護化合物が、(E)-2,4,6-トリメトキシスチリル-4-メトキシベンジルスルホンである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
放射線防護化合物が、式III:
【化3】
(式中、
R1、R2、R3およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)、または
その医薬的に許容される塩を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
放射線防護化合物が、式IIIa:
【化4】
(式中、
R2およびR4は、水素以外である)
を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
放射線防護化合物が、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン、(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロフェニルスルホンおよび(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンからなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
化合物が、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンのナトリウム塩である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
約20mg/mlから約60mg/mlの少なくとも1種の放射線防護α,β-不飽和アリールスルホンと、a)2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリン、およびヒドロキシエチル-ベータ-シクロデキストリンからなる群から選択される、約20%から約60%w/vの量の、少なくとも1種の化学変性シクロデキストリン、b)約0.5%から約20%w/vの量のポビドンおよび約25%から約90%w/vの量のPEGからなる群から選択される水溶性ポリマー、ならびにc)約10%から約50%w/vの量のDMAからなる群から選択される少なくとも1種の成分とを含み、約7.5から約9.2の範囲内のpHを有する、医薬組成物。
【請求項13】
放射線防護化合物が、式I:
【化5】
(式中、
nは、1または0であり;
Q1およびQ2は、同じまたは異なっており、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のヘテロアリールである);あるいは
その医薬的に許容される塩または多形体を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
放射線防護化合物が、(E)-3-フランエテニル-2,4-ジクロロベンジルスルホンである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
Q1およびQ2が、置換および非置換のフェニルから選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
放射線防護化合物が、式II:
【化6】
(式中、
Q1aおよびQ2aは、フェニルならびにモノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ置換のフェニルからなる群から独立して選択され、置換基は、同じまたは異なっていてもよく、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)
を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
Q1aが、4-アルコキシフェニルであり、Q2aが、2,4,6-トリアルコキシフェニルである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
放射線防護化合物が、(E)-2,4,6-トリメトキシスチリル-4-メトキシベンジルスルホンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
放射線防護化合物が、式III:
【化7】
(式中、
R1、R2、R3およびR4は、水素、ハロゲン、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、ホスホナト、アミノ、スルファミル、アセトキシ、ジメチルアミノ(C2〜C6アルコキシ)、C1〜C6トリフルオロアルコキシおよびトリフルオロメチルからなる群から独立して選択される)、または
その医薬的に許容される塩を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
放射線防護化合物が、式IIIa:
【化8】
(式中、
R2およびR4は、水素以外である)
を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
放射線防護化合物が、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-トリフルオロメチルベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-シアノベンジルスルホン、(Z)-4-フルオロスチリル-4-クロロベンジルスルホン、(E)-4-フルオロスチリル-4-クロロフェニルスルホンおよび(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンからなる群から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
化合物が、(E)-4-カルボキシスチリル-4-クロロベンジルスルホンのナトリウム塩(ON.1210.Na)である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および約30%w/vから約50%w/vの2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および約15%w/vから約40%w/vのDMAを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および少なくとも約50%w/vのPEGを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
約30mg/mlから約50mg/mlの化合物(ON.1210.Na)および約1%w/vから約10%w/vのポビドンを含む請求項22に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2009−502943(P2009−502943A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524129(P2008−524129)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/029109
【国際公開番号】WO2007/016201
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(504105184)オンコノバ・セラピューティックス・インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/029109
【国際公開番号】WO2007/016201
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(504105184)オンコノバ・セラピューティックス・インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】
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