説明

放射能測定装置および放射能測定方法

【課題】測定対象の放射能を精度よく測定する。
【解決手段】測定対象1の放射能を測定する放射能測定装置は、気体容器11と、その内部を測定対象1が収納される第1の空間6、並びに、第2および第3の空間に仕切る容器仕切手段3,7を有する。容器仕切手段3,7によって仕切られた第1ないし第3の空間6,10,14の内部の気体は、それぞれイオン計測手段15,16,17に送られて、測定対象1から放出される放射線によって電離されて生成したイオンの量が計測される。予め、既知の放射能の試料を第1の空間6に配置して、測定の目的とする放射線ごとの放射能とイオンの量との関係を測定しておき、この関係と、測定対象1から放出される放射能によって第1ないし第3の空間6,10,14で生成されたイオンの量に基づいて、測定対象1の測定の目的とする放射線ごとの放射能が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の放射能を測定する放射能測定装置および放射能測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射能を測定する場合、測定対象から、たとえばα線、β線、γ線の3種類が放出されている場合には、それぞれの種類の放射線を測定する必要がある。α線はSi半導体検出器やZnSシンチレーション検出器、β線はプラスチック・シンチレーション検出器、γ線はNaI(Tl)シンチレーション検出器やGe半導体検出器などが一般的に使用される。したがって、たとえば3種類の放射線を測定する場合には、上述のような3種類の検出器が必要となる。
【0003】
また、測定対象を測定室に収納して、その測定室の内部の気体が放射線で電離した空気を吸引してイオン電流を測定する装置が、たとえば特許文献1および特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2004−85497号公報
【特許文献2】特開2004−239762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測定対象から放出されるα線、β線およびγ線の放射能強度を測定する場合、3種類の検出器、および、それらに対応した別々の測定システムが必要となり、測定装置の規模が増大する。また、筒状などの形状の測定対象を測定装置の測定室に収納して、その測定室の内部の気体が放射線で電離した空気を吸引してイオン電流を測定する方法を用いる場合には、生成されたイオンは、測定室の内部を流れる気体の速度が遅いためにイオン消滅率が高く、放射能の測定精度が低下する。イオンの再結合や壁への付着もイオン消滅率を大きくするため、測定精度が低下する。
【0005】
そこで、本発明は、測定対象の放射能を精度よく測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明は、測定対象の放射能を測定する放射能測定装置において、気体容器と、前記気体容器の内部に、前記測定対象を収納する収納空間、および、少なくとも1つの前記収納空間の外部の空間を形成させる仕切手段と、前記仕切手段によって仕切られた空間ごとに、その空間の内部の気体が前記測定対象から放出される放射線によって電離されて生成したイオンの量を計測するイオン計測手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、両端が開いた筒状の測定対象の放射能を測定する放射能測定装置において、前記測定対象を収納する気体容器と、前記気体容器の内部であって、前記測定対象の外部を流れる気体の平均流速よりも大きい流速でその測定対象の内部を流れる気体を供給する手段と、前記気体容器の内部の気体が前記測定対象から放出される放射線によって電離されて生成したイオンの量を計測するイオン計測手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、測定対象の放射能を測定する放射能測定方法において、前記測定対象から放出された放射線によって、その測定対象が収納された空間の内部の気体が電離されて生成したイオンの量を計測する第1のイオン計測工程と、前記測定対象から放出された放射線によって、その測定対象が収納された空間の外部の気体が電離されて生成したイオンの量を計測する第2のイオン計測工程と、測定の目的とする放射線ごとの放射能と前記第1および第2のイオン計測工程で計測されるイオンの量との関係を求める予備工程と、前記第1および第2のイオン計測工程で計測されたイオンの量、および、前記予備工程で求めた関係から、前記測定対象の測定の目的とする放射線ごとの放射能を算出する工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、両端が開いた筒状の測定対象の放射能を測定する放射能測定方法において、前記測定対象の外部を流れる気体の平均流速よりも大きい流速でその測定対象の内部を流れる気体を供給する工程と、前記測定対象から放出される放射線によって電離されて生成したイオンの量を計測する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定対象の放射能を精度よく測定できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る放射能測定装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る第1の実施の形態における放射能測定装置の断面図である。
【0013】
この放射能測定装置は、第1ないし第3のイオン計測手段15,16,17と気体容器11を有している。気体容器11は、たとえば軸方向の全長が2mの角管である。
【0014】
気体容器11の内部には、第1の容器仕切手段3が配置されている。また、気体容器11の内部には、第1の容器仕切手段3を取り囲む第2の容器仕切手段7が配置されている。気体容器11の内部には、第1の容器仕切手段3で仕切られた第1の空間6と、第1の容器仕切手段3と第2の容器仕切手段7で囲まれた第2の空間10と、第2の容器仕切手段7と気体容器11で囲まれた第3の空間14が形成されている。
【0015】
第1の容器仕切手段3には、第1の空間6を気体容器11の外部に連絡させる第1の気体取入経路4が取り付けられている。また、第1の容器仕切手段3には、第1の空間6を第1のイオン計測手段15に連絡させる第1の気体取出経路5が取り付けられている。
【0016】
第2の容器仕切手段7には、第2の空間10を気体容器11の外部に連絡させる第2の気体取入経路8が取り付けられている。また、第2の容器仕切手段7には、第2の空間10を第2のイオン計測手段16に連絡させる第2の気体取出経路9が取り付けられている。
【0017】
また、気体容器11には、第3の空間14を気体容器11の外部に連絡させる第3の気体取入経路12が形成されている。また、気体容器11には、第3の空間14を第3のイオン計測手段17に連絡させる第3の気体取出経路13が取り付けられている。
【0018】
なお、図1では、第1ないし第3の気体取入経路4,8,12および第1ないし第3の気体取出経路5,9,13は、全て同じ断面に配置されているが、異なる断面に配置されていてもかまわない。
【0019】
第1の空間6に配置された測定対象1の放射線源2からα線、β線、γ線などの放射線が放出されると、第1ないし第3の空間6,10,14の内部の気体は、放射線によって電離されてイオンになる。
【0020】
気体容器11の外部の空気などの気体は、たとえば対流によって第1の気体取入経路4から第1の空間6に流れ込み、さらに、第1の気体取出経路5を通って第1のイオン計測手段15に流れる。同様に、気体容器11の外部の気体は、対流によって第2の気体取入経路8から第2の空間10に流れ込み、さらに、第2の気体取出経路9を通って第2のイオン計測手段16に流れる。また、気体容器11の外部の気体は、対流によって第3の気体取入経路12から第3の空間14に流れ込み、さらに、第3の気体取出経路13を通って第3のイオン計測手段17に流れる。
【0021】
第1ないし第3の空間6,10,14の形状およびその間の仕切手段3,7の材質および板厚は、第1の空間6に生成されるイオンはα線、β線およびγ線によって電離されたもの、第2の空間10に生成されるイオンはβ線およびγ線によって電離されたもの、第3の空間14に生成されるイオンはγ線によって電離されたものとなるように決定する。たとえば、第1の容器仕切手段3の内幅は20cm、第1の容器仕切手段3と第2の容器仕切手段7との間隔は10cm、第2の容器仕切手段7と気体容器11との間隔は80cmである。
【0022】
なお、第1ないし第3の気体取入経路4,8,12から、第1ないし第3の空間6,10,14を通って、第1ないし第3の気体取出経路5,9,13に流れる気体の流れは、たとえば送風機などを用いて、強制的に作ってもよい。
【0023】
次に、この放射線計測器を用いて、測定対象1の放射線源2から放出される放射線を測定する方法を説明する。
【0024】
測定対象1の放射線源2から放出される放射線の測定の前に、既知の放射能を有する基準試料を第1の空間6に配置しておいて、第1ないし第3のイオン計測手段15,16,17で電流を測定しておく。
【0025】
まず、既知のα線放射能aのα線基準試料を第1の空間6に配置する。これにより、第1の空間6の内部の気体は、α線によって電離されてイオンになる。そこで、第1のイオン計測手段15で電流I1a0を計測する。この計測によって、第1の空間6に配置された未知の物質のα線の放射能aと第1のイオン計測手段15で計測される電流I1aとの関係を求めることができる。この関係は、たとえばa=A×I1a0を満たす換算係数Aを用いて、a=A×I1aと表される。
【0026】
なお、このとき、第2および第3のイオン計測手段16,17で電流が計測されないことを、併せて確認しておいてもよい。
【0027】
次に、既知のβ線放射能bのβ線基準試料を第1の空間6に配置する。これにより、第1および第2の空間6,10の内部の気体は、β線によって電離されてイオンになる。そこで、第2のイオン計測手段16で電流I2b0を計測する。この計測によって、第1の空間6に配置された未知の物質のβ線の放射能bと第2のイオン計測手段16で計測される電流I2bとの関係を求めることができる。この関係は、たとえばb=B×I2b0を満たす換算係数Bを用いて、b=B×I2bと表される。
【0028】
また、第1のイオン計測手段15で電流I1b0を計測する。第1の空間に配置された未知の物質のβ線の放射能bと第1のイオン計測手段15で計測される電流I1bとの関係を求めることができる。この関係は、たとえばb=B×I1b0を満たす換算係数Bを用いて、b=B×I1bと表される。
【0029】
なお、このとき、第3のイオン計測手段17で電流が計測されないことを、併せて確認しておいてもよい。
【0030】
さらに、既知のγ線放射能cのγ線基準試料を第1の空間に配置する。これにより、第1ないし第3の空間6,10,14の内部の気体は、放射線によって電離されてイオンになる。そこで、第3のイオン計測手段17で電流I3c0を計測する。この計測によって、第1の空間6に配置された未知の物質のγ線の放射能cと第3のイオン計測手段17で計測される電流との関係を求めることができる。この関係は、たとえばc=C×I3c0を満たす換算係数Cを用いて、c=C×I3cと表される。
【0031】
また、第2のイオン計測手段16で電流I2c0を計測する。この計測によって、第1の空間6に配置された未知の物質のγ線の放射能cと第2のイオン計測手段16で計測される電流I2cとの関係を求めることができる。この関係は、たとえばc=C×I2c0を満たす換算係数Cを用いて、c=C×I2cと表される。
【0032】
同様に、第1のイオン計測手段15で電流I1c0を計測する。この計測によって、第1の空間に配置された物質のγ線の放射能cと第1のイオン計測手段15で計測される電流I1cとの関係を求めることができる。この関係は、たとえばc=C×I1c0を満たす換算係数Cを用いて、c=C×I1cと表される。
【0033】
このようにして、第1の空間に配置された物体からα線、β線またはγ線が放出されたときの、第1ないし第3のイオン計測手段15,16,17で計測される電流の関係が求められる。これらの関係から、次のように、未知の放射能の測定対象1の放射能を求めることができる。
【0034】
まず、測定対象1を第1の空間6に配置する。測定対象1に放射線源2が付着している場合には、その放射線源2の種類に対応して、α線、β線、γ線などの放射線が放出される。第1ないし第3の空間6,10,14の内部の気体は、放射線によって電離されてイオンになる。これらのイオンは、第1ないし第3のイオン計測手段15,16,17によって計測される。第1ないし第3のイオン計測手段15,16,17によって計測される電流を、それぞれ、I、I、Iとする。
【0035】
このとき、第3のイオン計測手段17によって計測される電流Iは、γ線にのみ起因していることから、測定対象1のγ線の放射能cは、c=C×Iによって求められる。
【0036】
第2のイオン計測手段16によって計測される電流Iは、β線およびγ線に起因している。このIのうち、γ線に起因する分は、上で求めたγ線の放射能cを用いて、c/Cと表されることから、測定対象1のβ線の放射能bは、b=B×(I−c/C)と求めることができる。
【0037】
第1のイオン計測手段15によって測定される電流Iは、α線、β線およびγ線に起因している。このIのうち、γ線に起因する分は、上で求めたγ線の放射能cを用いてc/Cと表される。また、β線に起因する分は、上で求めたβ線の放射能bを用いて、b/Bと表される。したがって、測定対象1のα線の放射能aは、a=A×(I−b/B−c/C)と求めることができる。
【0038】
このように、第1ないし第3のイオン計測手段15,16,17で計測される電流I、I、Iから、測定対象1のα線、β線およびγ線のそれぞれの放射能を求めることができる。
【0039】
なお、以上の説明は測定対象の放射線をα線、β線、γ線としたが、β線、低エネルギーγ線、高エネルギーγ線など、あるいは低、中、高エネルギ−γ線などの異なるエネルギーの放射線としてもよい。測定対象の放射線が2種類の場合には、第1の空間6と第2の空間10の2種類を利用してもよい。
【0040】
また、測定対象1は、図示しない昇降する回転テーブルに積載し、連続回転あるいはステップ状に回転しながら測定を実施してもよい。
【0041】
このように、α線、β線およびγ線を放出する測定対象1に対しても、3種類の空間のイオンを収集し、測定した電流値を演算処理してα線、β線およびγ線の放射能を求めることができるので、種々の放射線が混在した測定対象1でも、簡便な測定装置で精度よく放射線を測定することができる。
【0042】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明に係る第2の実施の形態における放射能測定装置の断面図である。
【0043】
本実施の形態の放射能測定装置は、第1の実施の形態の放射能測定装置に、経路切替手段18を導入してイオン計測手段を1つにするとともに、気体浄化手段21を導入したものである。
【0044】
この放射能測定装置では、第1ないし第3の空間6,10,14から延びる第1ないし第3の気体取出経路5,9,13は、経路切替手段18に接続されている。経路切替手段18は、気体経路19を介してイオン計測手段20に接続されている。
【0045】
イオン計測手段20には、第1ないし第3の空間6,10,14のうち一つの空間を流れる気体のみが到達するように、経路切替手段18によって切り替えられるようになっている。この経路切替手段18によって、第1ないし第3の空間6,10,14のそれぞれの空間で発生したイオンによる電流は、独立してイオン計測手段20で測定できる。このため、第1の実施の形態の放射能測定装置と同様の計測を行うためのイオン計測手段の数を、低減することができる。
【0046】
また、第1ないし第3の気体取入経路4,8,12には、気体浄化手段21が取り付けられている。第1ないし第3の気体取入経路4,8,12に流入する大気などの気体に含まれるイオンは、気体浄化手段21により吸着される。このため、測定精度に影響する気体容器11の外部のイオンの影響を低減でき、測定精度よく放射能を測定することができる。
【0047】
[第3の実施の形態]
図3は、本発明に係る第3の実施の形態における放射能測定装置の断面図である。
【0048】
本実施の形態の放射能測定装置は、第2の実施の形態の放射能測定装置におけるイオン計測手段20を、イオン収集手段22などに代えたものである。
【0049】
本実施の形態の放射能測定装置において、経路切替手段18は、イオン収集手段22に接続されている。また、イオン収集手段22は、気体容器11の内部の気体をイオン収集手段22に輸送する気体輸送手段27に気体排出経路61を介して接続されている。気体輸送手段27は、気体を浄化する気体浄化手段28に接続されている。気体浄化手段28には、たとえばHEPAフィルタを用いることができる。
【0050】
イオン収集手段22には、イオン収集手段の電極に電圧を印加する電源23と、収集したイオンを電流として測定する電流測定手段24が接続されている。電流測定手段24としては、たとえばエレクトロメータを用いることができる。電流測定手段24には、データ処理手段25が接続されている。
【0051】
この放射能測定装置でも、第2の実施の形態の放射能測定装置と同様に、経路切替手段18によって、第1ないし第3の空間6,10,14の気体は、独立してイオン収集手段22に送られる。第1ないし第3の空間6,10,14において、測定対象1から放出される放射線の電離作用によって生成されたイオンの量は、イオン収集手段22で収集され、電流測定手段24によって電流として測定される。
【0052】
第1の実施の形態において説明したように、第1ないし第3の空間6,10,14で発生したイオンの量を測定することにより、第1の空間6に配置された測定対象1の放射能を求めることができる。本実施の形態では、測定対象1の放射能は、電流測定手段24によって測定された電流に基づいてデータ処理手段25によって算出される。
【0053】
さらに、第1ないし第3の空間6,10,14のいずれかに放射線センサを配置して測定対象1から放出される、たとえばγ線などの特定の放射線を直接測定し、データ処理手段25は、イオン計測手段20で測定されたイオンの量に基づいて算出した測定対象1の放射能を補正するようにしてもよい。
【0054】
このように、この放射能測定装置では、第1ないし第3の空間6,10,14の気体を気体輸送手段27により輸送するので、気体輸送速度が向上し、イオン減衰率が低下する。このため、高効率でイオンを収集することができ、精度よく放射能を測定することができる。
【0055】
[第4の実施の形態]
図4は、本発明に係る第4の実施の形態における放射能測定装置の断面図である。
【0056】
本実施の形態の放射能測定装置は、放射線源52,53が付着し、両端が開口している筒状測定対象51から放出される放射線を測定するものである。
【0057】
この放射能測定装置は、筒状測定対象51を収納できる筒状の気体容器11を有している。気体容器11の一端には、可変開口部30が取り付けらる。可変開口部30には開口部切替手段31が取り付けられている。可変開口部30は、筒状測定対象51の内部の気体が透過する開口、外部の気体が透過する開口、および、内部と外部の気体の気体が透過する開口を有している。開口部切替手段31は、可変開口部30を、これらの開口のうちの目的とする開口に切り替えることができる。
【0058】
また、可変開口部30には気流収束手段33を介してイオン収集手段22が取り付けられている。イオン収集手段22は、気体容器11の内部の気体をイオン収集手段22に輸送する気体輸送手段27に気体排出経路61を介して接続されている。気体輸送手段27は、たとえばファンである。気体輸送手段27は、気体浄化手段28に接続されている。気体浄化手段28は、気体容器11の可変開口部30が取り付けられた端部と反対側の端部に気体導入経路62を介して接続されている。気体容器11の可変開口部30が取り付けられた端部と反対側の端部の近傍には、筒状測定対象51の内部および外部に気体を導くようにした分流手段32が配設されている。
【0059】
気体容器11の内部の気体は、気体輸送用手段27によって、可変開口部30、イオン収集手段22および気体排出経路61を通って、気体浄化手段28に送られる。気体浄化手段28で浄化された気体は、気体導入経路62を通って、再び気体容器11に導入される。
【0060】
イオン収集手段22には、電圧を平滑化する電源バッファ29を介して電源23が接続されている。また、イオン収集手段22には、収集したイオンを電流として測定する電流測定手段24が接続されている。電流測定手段24には、データ処理手段25が接続されている。
【0061】
この放射能測定装置では、次のようにして、筒状測定対象51の内部および外部に付着した放射線源52,53の放射能をそれぞれ測定することができる。
【0062】
たとえば、放射線源52,53は、α線を放出するウランであるとする。
【0063】
分流手段32により気体容器11に供給される気体は、分流手段32により、筒状測定対象51の一端から、その外部と内部に気体が輸送される。そこで、可変開口部30を、筒状測定対象51の外部の気体を輸送するように切り替えると、内部の気体は可変開口部30により他の端が閉鎖されているので、筒状測定対象51の外部を流れる気体のみが可変開口部30を経て、イオン収集手段22に輸送される。
【0064】
つまり、筒状測定対象51の外部に付着した放射線源53の放出する放射線により気体が電離された結果、生成したイオンが空気とともに可変開口部30を通過してイオン収集手段22に到達して収集されて、電流測定手段24により電流として測定される。
【0065】
次に、可変開口部30を筒状測定対象51の内部の気体を通すように開口部切替手段31で開口部を設定する。この場合には、筒状測定対象51の内部に付着した放射線源52の放出する放射線により生成したイオンが、筒状測定対象51の内部を流れる空気とともに可変開口部30を経て、イオン収集手段22に輸送され電流として測定される。
【0066】
以上のように、筒状測定対象51の外部に付着した放射線源53による電流と、筒状測定対象51の内部に付着した放射線源52による電流が、それぞれ独立して測定できる。これらの電流値と、予め求めた筒状測定対象51の外部および内部を流れる気体に含まれるイオンに起因する電流から放射能への換算定数を使用して、筒状測定対象51の外部と内部の放射能を、それぞれ求めることができる。また、これら外部と内部の放射能を加算すれば、筒状測定対象51の総放射能が求められる。
【0067】
また、可変開口部30を、筒状測定対象51の外部と内部の両方を通る気体を通過させる開口に設定した場合には、筒状測定対象51の外部に付着した放射線源53と内部に付着した放射線源52の放射線の電離作用により生成したイオンを同時に収集して測定することになる。このため、筒状測定対象51の総放射能を1回の測定操作で求めることもできる。
【0068】
なお、筒状測定対象51の外部および内部に付着した放射線源52,53としてα線を放出するウランを例に説明したが、放射線源52,53が放出する放射線は、β線でもよい。また、筒状測定対象51の内部と外部の放射線透過率が小さい場合には、γ線でもよい。γ線の透過率が大きい場合には、内部に付着した放射線源52の放射能の算出では、外部に付着した放射線源53の影響の補正、および、外部に付着した放射線源53の放射能の算出では、内部に付着した放射線源52の影響の補正を行えばよい。
【0069】
また、データ処理手段25に、イオン収集手段22に電源バッファ29を介して電圧を供給した場合の電圧の印加停止後の電流の変動幅と、イオン収集手段22に電源バッファ29を介さずに電圧を供給した場合の電圧の印加停止後の電流の変動幅とを比較して、電源のノイズを検知させてもよい。
【0070】
このように、この放射能測定装置では、筒状の測定対象の内部および外部に付着した放射線源の放射能をそれぞれ独立して測定することができる。また、測定対象に接した気体は、外部に排出されることなく、この放射能測定装置を循環しているため、放射線源が外部に拡散するおそれは低減される。
【0071】
[第5の実施の形態]
図5は、本発明に係る第5の実施の形態における放射能測定装置の断面図である。
【0072】
本実施の形態の放射能測定装置は、第4の実施の形態の放射能測定装置から可変開口部、開口部切替手段および分流手段を削除して、筒状測定対象51の内部に気流を供給する気流吹付手段を追加したものである。
【0073】
気流吹付手段は、吹付口34、吹付経路35、吹付用送風手段36および気体浄化手段37を有している。吹付口34は、気体容器11の気体導入経路62と接続する部分の近傍に配置され、筒状測定対象51の端部に向かって気流を吹付けることができるように構成されている。この吹付口34からは、筒状測定対象51の外部72を流れる平均流速よりも速い速度で流れる気流が、筒状測定対象51の内部71に供給される。
【0074】
筒状測定対象51の内部71の断面積が狭い場合には、気体の速度が小さく、イオン収集手段22に到達する前にイオンが消滅する率が高くなる場合がある。本実施の形態の放射能測定装置では、吹付口34から供給される気流によって、気体を輸送することにより、筒状測定対象51の内部71で生成されたイオンの消滅率を低減させることができる。
【0075】
また、吹付口34から供給される気流が、筒状測定対象51の内部71の断面の中心にのみに供給されると、その気流に内面の表面の空気が巻き込まれることによって、内面に平均的に同じ流れを設けるよりも測定効率を向上させることができる。
【0076】
このように、気流吹付手段によって、筒状測定対象51の外部72を流れる気体の平均速度よりも速い速度の気流を、筒状測定対象51の内部71に吹付ければ、イオン消滅率を改善し、精度よく放射能を測定することができる。
【0077】
[第6の実施の形態]
図6は、本発明に係る第6の実施の形態の放射能測定装置に用いるイオン収集手段22の断面図である。
【0078】
このイオン収集手段22は、両端が開いた筒状の外筒43を有している。外筒43の一方の端部91の近傍には、電極38が、絶縁材39とガードリング40と絶縁材41と支持棒42を介して外筒43に固定されている。また、外筒43の他方の端部92の近傍には、電極自由端保持解放手段82が取り付けられている。電極自由端保持解放手段82は、絶縁材44と固定棒45と固定棒調整手段46を有している。電極38は外筒43の軸方向に延びており、電極38の固定されていない自由端81は、電極自由端保持解放手段82の絶縁材44の近傍に位置している。
【0079】
電極38の自由端81に固定棒調整手段46によって絶縁材44を接触させ、保持した状態で、イオン収集手段22の内部を流れる気体中のイオンを収集し、イオン電流を測定する。
【0080】
また、固定棒調整手段46を調整して電極38の自由端81から絶縁材44を離して、自由端81を解放すると、電極38の自由端81は、気体の流速に応じて振動する。このため、電極38の自由端81が解放されているときには、イオン電流に、気体の流速に応じた時間変化が生じる。
【0081】
そこで、予めイオン電流の振動幅と気体の流速との関係を求めておくことにより、イオン収集手段22の内部を流れる気体の流速を求めることができる。この気体の流速に基づいて、イオン電流を補正することによって、気体の流速が変化した場合であっても、精度よくイオン電流を測定することができるため、測定対象に付着した放射線源の放射能を精度よく測定することができる。
【0082】
[第7の実施の形態]
図7は、本発明に係る第7の実施の形態の放射能測定装置に用いるイオン収集手段22の断面図である。
【0083】
このイオン収集手段22は、両端が開いた筒状の外筒43を有している。外筒43の一方の端部91の近傍には、電極38が、絶縁材39とガードリング40と絶縁材41と支持棒42を介して外筒43に固定されている。また、外筒43の他方の端部92の近傍には、固定棒48で外筒43に固定された整流手段47が取り付けられている。整流手段47は、外筒43の端部92に向かって凸の、たとえば半球状をしたものであって、外筒43の中心軸付近に配置されている。電極38は外筒43の軸方向に、整流手段47の近傍まで延びている。
【0084】
このイオン収集手段22において、気体は、外筒43の整流手段47が配置された近傍の端部92から流入する。整流手段47によって、電極38の近傍の気流を乱すことなく、気体は輸送されるため、電極38に捕捉されるイオン量のゆらぎを小さくすることができる。このため、測定されるイオン電流のゆらぎを小さくすることができ、精度よく測定対象の放射能を測定することができる。
【0085】
[第8の実施の形態]
図8は、本発明に係る第8の実施の形態の放射能測定装置に用いるイオン収集手段22の断面図である。
【0086】
本実施の形態のイオン収集手段22は、第7の実施の形態のイオン収集手段22と整流手段の形状が異なるものである。この整流手段49は、電極38の自由端81の上流側に設置されていて、外筒43の中心軸付近以外に、外筒43の軸方向に延びる複数の気体通過経路93を有する。この整流手段49は、その下流の気体を整流し、また、電極38の自由端81に直接気体がぶつかることを抑制する。このため、電極38の近傍の気流を乱すことなく、気体を輸送することができ、測定されるイオン電流のゆらぎを小さくして、精度よく測定対象の放射能を測定することができる。
【0087】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施の形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図2】本発明に係る第2の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図3】本発明に係る第3の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図4】本発明に係る第4の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図5】本発明に係る第5の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図6】本発明に係る第6の実施の形態の放射能測定装置に用いるイオン収集手段の縦断面図である。
【図7】本発明に係る第7の実施の形態の放射能測定装置に用いるイオン収集手段の縦断面図である。
【図8】本発明に係る第8の実施の形態の放射能測定装置に用いるイオン収集手段の縦断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1…測定対象、2…放射線源、3…第1の容器仕切手段、4…第1の気体取入経路、5…第1の気体取出経路、6…第1の空間、7…第2の容器仕切手段、8…第2の気体取入経路、9…第2の気体取出経路、10…第2の空間、11…気体容器、12…第3の気体取入経路、13…第3の気体取出経路、14…第3の空間、15…第1のイオン計測手段、16…第2のイオン計測手段、17…第3のイオン計測手段、18…経路切替手段、19…気体経路、20…イオン計測手段、21…気体浄化手段、22…イオン収集手段、23…電源、24…電流測定手段、25…データ処理手段、27…気体輸送手段、28…気体浄化手段、29…電源バッファ、30…可変開口部、31…開口部切替手段、32…分流手段、33…気流収束手段、34…吹付口、35…吹付経路、36…吹付用送風手段、37…気体浄化手段、38…電極、39…絶縁材、40…ガードリング、41…絶縁材、42…支持棒、43…外筒、44…絶縁材、45…固定棒、46…固定棒調整手段、47…整流手段、48…固定棒、49…整流手段、61…気体排出経路、62…気体導入経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の放射能を測定する放射能測定装置において、
気体容器と、
前記気体容器の内部に、前記測定対象を収納する収納空間、および、少なくとも1つの前記収納空間の外部の空間を形成させる仕切手段と、
前記仕切手段によって仕切られた空間ごとに、その空間の内部の気体が前記測定対象から放出される放射線によって電離されて生成したイオンの量を計測するイオン計測手段と、
を有することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項2】
前記仕切手段によって仕切られた空間ごとに、その空間に前記気体容器の外部の気体を取り入れる気体取入経路と、
前記仕切手段によって仕切られた空間ごとに、その空間から気体を取り出して前記イオン計測手段に輸送する気体取出経路と、
を有することを特徴とする請求項1記載の放射能測定装置。
【請求項3】
前記気体取入経路に取り付けられた気体を浄化する気体浄化手段、を有することを特徴とする請求項2記載の放射能測定装置。
【請求項4】
前記気体取出経路に接続し、前記仕切手段によって仕切られた空間ごとに、その内部の気体のみが前記イオン計測手段に輸送されるように切り替える切替手段、
を有することを特徴とする請求項2または請求項3記載の放射能測定装置。
【請求項5】
測定の目的とする放射線ごとの放射能と前記イオン計測手段によって計測される前記仕切手段によって仕切られた空間ごとのイオンの量との関係、および、前記イオン計測手段によって計測された前記仕切手段によって仕切られた空間ごとのイオンの量に基づいて、前記測定対象の測定の目的とする放射線ごとの放射能を算出するデータ処理手段、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の放射能測定装置。
【請求項6】
前記気体容器の内部に配置された放射線センサと、
前記放射線センサによって測定された放射線の強さに基づいて、前記データ処理手段で算出した放射能を補正する補正手段と、
を有することを特徴とする請求項4記載の放射能測定装置。
【請求項7】
前記測定対象は両端が開いた筒状であって、
前記測定対象の一端に取り付けられ、その測定対象の内部および外部の少なくとも一方の気体が前記イオン計測手段に輸送されるように切り替える可変開口部、
を有することを特徴とする請求項1記載の放射能測定装置。
【請求項8】
前記気体容器に取り付けられて、前記測定対象の内部および外部に気体を導く分流手段を有することを特徴とする請求項7記載の放射能測定装置。
【請求項9】
両端が開いた筒状の測定対象の放射能を測定する放射能測定装置において、
前記測定対象を収納する気体容器と、
前記気体容器の内部であって、前記測定対象の外部を流れる気体の平均流速よりも大きい流速でその測定対象の内部を流れる気体を供給する手段と、
前記気体容器の内部の気体が前記測定対象から放出される放射線によって電離されて生成したイオンの量を計測するイオン計測手段と、
を有することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項10】
前記イオン計測手段は、
両端が開いた外筒と、
前記外筒の軸方向に延びる電極と、
前記電極の一方の端部である固定端の近傍を電気的に絶縁して前記外筒に固定する固定手段と、
前記外筒の内部を流れる気体によって振動するように開放された状態の前記電極を振動しないように、その電極の固定端の反対側の端部である自由端を保持できる電極自由端保持解法手段と、
前記電極の自由端を開放した状態で計測されたイオン電流の振幅に基づいて前記外筒の内部を流れる気体の流速を求めて、その流速に基づいて前記電極の自由端を保持した状態で計測されたイオン電流を補正する流速補正手段と、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の放射能測定装置。
【請求項11】
前記イオン計測手段は、
両端が開いた外筒と、
前記外筒の内部の気体の流れを整流する整流手段と、
前記整流手段に対して気体の流れの下流側に、前記外筒の軸の近傍で前記外筒の軸方向に延びる電極と、
前記整流手段に遠い側の前記電極の端部の近傍を電気的に絶縁して前記外筒に固定する固定手段と、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の放射能測定装置。
【請求項12】
前記整流手段は、前記外筒の軸方向に延びる複数の空気通過口を有するものであることを特徴とする請求項11記載の放射能測定装置。
【請求項13】
前記イオン計測手段に電圧を印加する電源と、
前記イオン計測手段に印加される電圧を平滑化する平滑手段と、
前記イオン計測手段に前記平滑手段を介して電圧を供給した場合の電圧の印加停止後の電流の変動幅と、前記イオン収集手段に前記平滑手段を介さずに電圧を供給した場合の電圧の印加停止後の電流の変動幅とを比較して電源のノイズを検知する手段と、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項11記載の放射能測定装置。
【請求項14】
測定対象の放射能を測定する放射能測定方法において、
前記測定対象から放出された放射線によって、その測定対象が収納された空間の内部の気体が電離されて生成したイオンの量を計測する第1のイオン計測工程と、
前記測定対象から放出された放射線によって、その測定対象が収納された空間の外部の気体が電離されて生成したイオンの量を計測する第2のイオン計測工程と、
測定の目的とする放射線ごとの放射能と前記第1および第2のイオン計測工程で計測されるイオンの量との関係を求める予備工程と、
前記第1および第2のイオン計測工程で計測されたイオンの量、および、前記予備工程で求めた関係から、前記測定対象の測定の目的とする放射線ごとの放射能を算出する工程と、
を有することを特徴とする放射能測定方法。
【請求項15】
両端が開いた筒状の測定対象の放射能を測定する放射能測定方法において、
前記測定対象の外部を流れる気体の平均流速よりも大きい流速でその測定対象の内部を流れる気体を供給する工程と、
前記測定対象から放出される放射線によって電離されて生成したイオンの量を計測する工程と、
を有することを特徴とする放射能測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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