説明

放電パルスを用いた放電加工方法、装置

【課題】工具電極が放電によって消耗しても、工具電極を人手によって調整することなく、放電痕による微細凹部を安定して形成することできる放電加工技術を提供する。
【解決手段】工具電極16の相対的移動は、工具電極16を回転させて、振れ回り運動あるいは遠心力による旋回運動を生じさせて、工具電極16の先端部16aを工作物2に対して周回させながら、工作物2と工具電極16との間に放電パルスを所定間隔で印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作物表面の放電加工方法および放電加工装置に関し、更に詳細には、導電性材料からなる工作物、特に、自動車部品等の小型金属部品の内周面または外周面に多数の微細凹部からなる微細模様を加工形成するのに適した放電加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車部品等における金属製摺動部品においては、その摺動面の磨耗・発熱・疲労を発生させないよう摺動抵抗を低減するために、摺動面に多数の微細凹部からなる微細模様が加工(いわゆるテクスチャリング(texturing))されて、オイルポケットが形成されている。
【0003】
このような金属部品表面への微細凹部のテクスチャリング技術としては、例えば、工作物(以下ワークと称する。)の表面に加工ローラ形状を転写して微細凹部を塑性加工する方法があるが、この加工方法は、ワークの構成材料が超硬合金等の硬質金属である場合には微細凹部の形成が困難ないしは不可能であり、また上記加工ローラの形状寸法が構造上ある程度の大きさを必要とすることから、小型ワークの小径穴内面等にも微細凹部の形成が困難ないしは不可能であった。
【0004】
この点に関して、特許文献1に開示されるように、放電作用により、自動車用エンジンのシリンダブロックのシリンダボア等のワークの円筒内周面に微細凹部を形成する方法が開発され提案されている。
【0005】
この放電加工方法においては、図20(a)および(b)に示すように、電極ヘッドaが回転主軸bに同軸状にかつ一体的に装着されるとともに、その外周部に凸状電極cが設けられてなり、この電極ヘッドaがワークWの穴内に配置された状態で、電極ヘッドaが回転主軸bと一体に回転駆動されながら、電極ヘッドaの凸状電極cとワークWの穴内周面Waとの間に所定の電圧が印加されて、この時生じる放電作用により穴内周面Waに、例えば図20(c)に示すようなディンプル状の微細凹部pが加工形成される。
【0006】
この放電加工方法によれば、高硬度材料からなるシリンダブロック等のワークWの穴内周面Waでも微細凹部pが良好に形成され得る。また電極ヘッドaの構造を簡単で小型なものにして小径(例えば直径10mm以下)の穴内周面Waにも適用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−155293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような放電加工では、前工程でワークWの穴内周面Waを前工程の機械加工工程で高精度に仕上げた状態で放電加工することになるが、電極ヘッドaとワークWの穴内周面Waの電極間距離(放電間隙)を円周方向全周にわたって均一にする必要がある。
【0009】
そのためには、上記凸状電極cおよびワークWの配置を精度よく行う必要があった。また、上記電極間距離はとても狭いため、ワークWの穴内周面Waの内径寸法が穴径公差内でもワークW毎に電極間距離が変わるため、電極間距離または印加電圧等の調整が必要であり、しかも、凸状電極cが少しでも消耗すると安定した微細凹部pを形成することが困難ないしは不可能となるという問題があった。
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、工具電極が放電によって消耗しても、工具電極を人手によって調整することなく、放電痕による微細凹部を安定して形成することができる放電加工技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による放電加工方法は、工作物に対して工具電極を相対的に移動させながら、それらの間に放電パルスを印加させて、前記工作物の表面に単発放電痕またはその集積による所定の微細模様を形成する放電加工方法であって、前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極を回転させて、振れ回り運動あるいは遠心力による旋回運動を生じさせて、該工具電極の先端部を前記工作物に対して周回させるものであって、その相対的移動中に、前記工作物の被加工面と前記工具電極の先端部との間に放電パルスを所定間隔で印加することを特徴とする。
【0012】
前記工作物と工具電極との少なくとも一方を振動させて、前記工作物と前記工具電極の先端部との間の放電間隙を変化させる工程を更に備えてもよい。
【0013】
前記工具電極は、所定の可撓性を有する導電性線材であり、前記工具電極を、回転させることで、振れ回り運動を起こさせて、該工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って回転させてもよい。
【0014】
あるいは前記工具電極は、可撓性を有さない導電性の棒状体であり、前記工具電極を、その基端を揺動可能に枢支させた状態で回転させることで、遠心力による旋回運動を起こさせて、該工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って回転させてもよい。
【0015】
前記工具電極は、その先端部に、凸状電極部材を回転可能に設けてもよい。
【0016】
前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極を回転させて該工具電極の先端部が被加工面に沿って回転する運動と、前記工作物の軸線方向へ直線移動する動作とを組合わせてもよい。
【0017】
前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極が前記工作物の被加工面に対して螺旋状に移動してもよい。
【0018】
前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極の先端部が回転しながら、前記工作物の被加工面に沿って周回する相対的遊星運動であってもよい。
【0019】
放電パルスの印加時に工作物と工具電極との間の電圧または電流を検出する手段を備え、この手段によって検出した電圧または電流に基づいて、前記工具電極を回転制御してもよい。あるいは、電極の消耗を補正する信号などに基づいて回転制御してもよい。
【0020】
前記放電パルスの印加動作の電気的制御条件として、放電パルス印加電圧の大きさ、放電パルス印加電流の大きさ、放電パルス印加時間、放電パルス休止時間、放電加工時間および放電休止時間のうち、少なくとも1つと、前記工具電極の相対的移動動作とを相互に連動させてもよい。
【0021】
本発明による放電加工装置は、工作物の表面に多数の微細凹部からなる微細模様を形成する放電加工装置であって、放電作用により、工作物の被加工面に微細凹部を加工形成する工具電極と、電極回転手段を有し、前記工作物に対して前記工具電極を相対的に移動させる相対的移動手段と、前記工作物と前記工具電極との間に放電パルスを印加させる放電印加手段と、前記移動手段および前記放電印加手段を相互に連動して制御する制御手段とを備えてなり、前記工具電極は、前記電極回転手段の回転軸に支持させた導電性部材であり、前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して、前記工具電極を回転させて振れ回り運動あるいは遠心力による旋回運動を生じさせ、これによって前記工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って周回させながら、前記工作物の被加工面と前記工具電極の先端部との間に放電パルスを所定間隔で印加させることによって、該被加工面に放電痕を形成することを特徴とする。
【0022】
前記工作物と前記工具電極の少なくとも一方を振動させる振動手段を更に備え、この振動手段により、前記工作物と前記工具電極の少なくとも一方を振動させて、前記工作物と前記工具電極との間の放電間隙を変化させてもよい。
【0023】
前記工具電極は、所定の可撓性を有する導電性線材からなり、かつその基端が前記電極回転手段の回転軸に固定されており、前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して前記工具電極を回転させることで振れ回り運動を起こさせ、それによって前記工具電極の先端部を、前記工作物の被加工面に沿って回転させてもよい。
【0024】
前記工具電極は、可撓性を有さない導電性の棒状体であり、かつその基端が前記電極回転手段の回転軸に揺動可能に枢支されており、前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して前記工具電極を回転させることで、遠心力による旋回運動を起こさせ、それによって、前記工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って軸線まわりに回転させてもよい。
【0025】
前記工具電極は、その先端部に、凸状電極部材を回転可能に設けてもよい。
【0026】
前記相対的移動手段は、前記工具電極の先端部が、前記工作物の被加工面に対して回転させる運動と前記工作物の軸線方向へ直線移動する運動とを組合わせて実行してもよい。
【0027】
前記相対的移動手段は、前記工具電極の先端部が、前記工作物の被加工面に沿って螺旋状に運動してもよい。
【0028】
前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して、前記工具電極を前記振れ回り運動あるいは旋回運動させながら、前記工具電極を前記工作物の被加工面に沿って周回させることで、前記工具電極と前記工作物とを相対的に遊星運動させてもよい。
【0029】
前記制御手段は、放電パルスの印加時に前記工作物と前記工具電極との間の電圧または電流を検出し、検出した電圧または電流に基づいて、前記工具電極を回転制御してもよい。あるいは、電極の消耗を補正する信号などに基づいて回転制御してもよい。
【0030】
前記制御手段は、前記放電印加手段による前記放電パルスの印加動作を制御する電気的条件として、放電パルス印加電圧の大きさ、放電パルス印加電流の大きさ、放電パルス印加時間、放電パルス休止時間、放電加工時間および放電休止時間のうち、少なくとも1つと、前記工作物と工具電極の相対的移動動作を相互に連動させてもよい。
【0031】
なお仕上加工装置では、工作物の仕上加工装置に、前記放電加工装置を一体的に組合わせてもよい。
【0032】
仕上加工システムでは、工作物の仕上加工装置と、前記放電加工装置とが、工程順に配設されてもよい。
【0033】
前記放電加工方法によって、機械部品の被加工面に単発放電痕またはその集積による所定の微細模様が形成されてもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の放電加工方法及びその装置によれば、工具電極を回転制御することで、工具電極と工作物の被加工面との距離を調整して放電させて、工作物の被加工面に放電痕を形成するため、工具電極が消耗しても人手による調整の必要がない。
また、工具電極を棒状に形成したものでは、従来の放電加工方法では困難であった、小型サイズの工作物の内周面、特に小さい加工穴にも工具電極を挿入して放電加工ができる。
特に、本発明の放電加工装置によれば、本発明を実施するにおいて、放電状態を監視して工具電極の回転速度を制御することで工具電極を放電が可能な状態に維持して周回させることができるので、工具電極が放電によって消耗しても放電が維持されて、放電痕による微細模様を安定し、かつ効率よく形成することができる。
更に、工作物に機械加工するものと比べると、工作物に対する機械的な力の影響がほとんどなく、導電性材料であれば材料の硬さに関係なく、容易に加工を行うことができ、加工能率も高い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】放電加工装置の概略側面図である。
【図2】(a)は、回転源に基端が固定された工具電極の静止状態を示した側面図、(b)はその工具電極の回転状態を示した側面図である。
【図3】工具電極の回転速度と、撓みとの関係を示したグラフである。
【図4】(a)は、回転源に基端が揺動自在に枢支された工具電極の静止状態を示した側面図、(b)はその工具電極の回転状態を示した側面図である。
【図5】(a)〜(d)はそれぞれ放電パルス、極間電圧、極間電流、回転制御信号の時間変化を説明する波形図である。
【図6】(a)〜(c)はそれぞれ放電パルスと、極間電圧と、時間積分した極間電圧の時間変化を説明する波形図である。
【図7】ワークを振動させたときの、工具電極の周回軌道を示した平面面である。
【図8】放電パルス(a)と放電痕(b)との因果関係を示した図である。
【図9】(a)〜(d)はそれぞれ、放電痕よりなる微細模様の例である。
【図10】他の放電加工装置の概略側面図である。
【図10A】放電加工装置の回路ブロック図である。
【図10B】放電加工装置の電気的情報系統図である。
【図11】(a)、(b)はそれぞれ、工具電極の先端に設けられた凸状電極部材の形状を説明する斜視図である。
【図12】(a)〜(c)はそれぞれ、工具電極の先端に設けられた凸状電極部材の形状を説明する平面図である。
【図13】(a)、(b)はそれぞれ、工具電極の先端に設けられた凸状電極部材の形状を説明する側面図である。
【図14】(a)はランダムパターンの微細模様の例を示した斜視図、(b)は工具電極の径と、放電痕との関係を説明する斜視図、(c)は工具電極の周回軌道と放電位置との関係を説明する平面図である。
【図15】(a)、(b)はそれぞれ他の放電加工装置の原理図である。
【図16】内径仕上加工装置に一体的に組み合わされた放電加工装置を示した側面図である。
【図17】放電加工装置がトランスファー型の内径仕上加工装置に一体的に組み合わされた構成を示した図である。
【図18】放電加工装置がトランスファー型の内径仕上加工システムに組み合わされた構成を示した図である。
【図19】(a)〜(c)はそれぞれ、円筒内周面以外に放電加工する応用例を説明する図である。
【図20】(a)、(b)はそれぞれ従来技術による放電加工装置の工具電極を説明する平面図と側面図、(c)はその放電加工装置によって形成された微細模様の例である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
まず本発明の基本的な構成および作用を説明する。
【0037】
なお、放電加工の対象となるワーク2は、例えば内燃機関などを構成する機械部品で、金属材料等の導電性材料からなり、予めドリル加工によって円筒孔が貫通形成されている。被加工面2aは、前処理としてホーニング加工などによって平滑化されていると想定している。放電加工装置1は、この円筒孔の周面を放電加工すべき被加工面2aとする。円筒孔は必ずしも真円の横断面を有さなくともよい。つまり若干の歪などがあっても本発明では許容される。
【0038】
図1に示しているように、放電加工装置1はベース11から上方に延びるフレーム12を備える。フレーム12の上部には、垂直な昇降レール13aおよび、サーボモータなどによる昇降駆動部13bからなる昇降手段13が設けられている。そして、DCモータなどによる主軸回転駆動部15aが固定された加工ヘッド14が、昇降レール13aに沿って上下動できるようになっている。
【0039】
加工ヘッド14には、主軸回転駆動部15aが鉛直下向きに固定されている。この主軸回転駆動部15aには、鉛直方向に延びる回転主軸15bが絶縁体などを介して連結されている。回転主軸15bは加工ヘッド14に固定された軸受14a、14bによって回転自在に位置決めされている。回転主軸15bの下端側にはコレットチャックなどで構成されたチャック15cを設けている。これらは工具電極16を回転させる電極回転手段15を構成する。
【0040】
チャック15cには、工具電極16の基端(上端側)が着脱可能に把持される。工具電極16は、細棒形状で、その先端部16aより放電を生じさせる。主軸回転駆動部15a、回転主軸15b、及び後述する工具電極16の中心線は同一鉛直線上に配置されている。
【0041】
ベース11上には、工作物を平面上で位置決めする水平移動手段17を構成するXYテーブル17aが搭載されており、このXYテーブル17aには放電槽18が絶縁固定されている。放電槽18の内側にはワーク2(機械部品など金属工作物)が保持、固定されている。図示しないが、ワーク2は位置決め工具で回転主軸15b直下に位置決め配置される。なお、放電槽18には加工液が蓄液される。加工液はワーク2ごとに、複数のワーク2に対して定期的に、あるいは、加工液の汚れ状態を見て適宜交換、または循環される。
【0042】
放電加工装置1は、水平移動手段17によって、放電加工中のワーク2を、水平方向に振動させる振動手段24を備えてもよい。
【0043】
昇降手段13、電極回転手段15、水平移動手段17は、ワーク2と工具電極16とを相対移動させる相対移動手段40を構成する。相対移動手段40は、工具電極16とワーク2とを相対移動させて、本発明を実施できるものであれば、その目的に応じて、公知の装置や機構が適宜選択、採用可能なことはいうまでもない
【0044】
また放電加工装置1は、ワーク2と工具電極16との間に放電パルスを印加する電子回路で構成された放電印加部21を備える。放電印加部21は、工具電極16とワーク2との間の電圧、つまり極間電圧Vgapを検出する電圧検出手段22aや、工具電極16とワーク2との間の電流、つまり極間電流Igapを検出する電流検出手段22bを備えている。
【0045】
放電印加部21によって検出された極間電圧Vgapあるいは極間電流Igapは相対移動手段40に出力される。相対移動手段40は、極間電圧Vgapあるいは極間電流Igapに対して所定の演算処理を行い、その結果に基づいて主軸回転駆動部15aを制御する。また、工具電極16の消耗を補正する信号(補正信号)によって主軸回転駆動部15aを制御してもよい。補正信号は、事前テストの結果あるいは経験的に得られる工具電極消耗量の推定値に対して、所定の演算処理を行うことで得られる。また、被加工面2aとされる円筒孔(下孔)の径の測定結果に基づいて主軸回転駆動部15aを制御してもよい。
【0046】
装置制御部50には、放電加工を実行させるための加工プログラム等が組み込まれており、CPUなどで構成された主制御部51を備えている。
【0047】
主制御部51は、駆動部13b、15aの駆動に必要な種々の情報、例えば、工具電極16の基準回転速度、基準昇降速度および昇降量、ならびにワーク2と工具電極16との間に印加する放電パルスの印加タイミングおよび大きさ等が、NC(数値制御)データとして予め入力されており、これらのデータに従って、相対移動手段40や放電印加部21を制御する。
【0048】
以上、要するに、放電加工装置1は主な構成要素として、電極回転手段15の回転軸にその基端が垂下支持された工具電極16と、工具電極16と工作物2とを放電加工に伴って相対的に移動させる相対移動手段40と、工作物2と工具電極16の間に放電パルスを所定間隔で印加する放電印加部21と、相対移動手段40と放電印加部21とを相互に連動して制御する装置制御部50とを備えている。そして工具電極16の回転速度を制御することで回転させて、先端部16aを、後述するような態様で工作物2の被加工面2aに沿って周回させながら、先端部16aと被加工面2aとの距離を制御し、その周回時に放電パルスを所定間隔で印加する。これによって、工作物2の被加工面2aには、放電痕Sが連続して形成される。
【0049】
工具電極16については次のような構成が可能である。
【0050】
すなわち第1の構成として、所定の可撓性、つまり弾性を有した細棒形状の工具電極16の基端を、電極回転手段15に固定して使用する。例えばバネ材であるベリリウム銅などが好適である。
【0051】
なお、工具電極16は、その先端部16aに回転速度を予め調節しておくための分銅として、導電性の凸状電極部材16bを設けてもよい。凸状電極部材16bは、工具電極16に導通させ、かつ工具電極16の軸線方向に回動自在にしてもよい。また凸状電極部材16bは、例えば放電による消耗が少ない銅タングステンなどが好適である。本発明では、凸状電極部材16bを重くすれば、工具電極16の回転速度が遅くできる。
【0052】
図2(a)は、そのような工具電極16の静止状態を示し、図2(b)は回転状態を示している。図のように、工具電極16は静止時には真直ぐであるが、回転時には、回転中心から外側に撓んだ状態になる。これは振れ回りと呼ばれるもので、機械工学の分野ではよく知られた現象である。
【0053】
簡単に説明すると、どのような回転軸であっても、その重心は回転中心からズレている(重心の偏心)ため、両端あるいは一端を支持して回転させると、回転軸に対して遠心力が作用する。遠心力は回転中心線から重心を遠ざける、つまりは回転軸を撓ませるが、この撓みには元に戻そうとする回転軸に固有の弾性力も作用するため、定常状態では、遠心力と弾性力とが釣り合う軌道によって重心が周回運動する。また回転軸は形状や弾性によって定まる固有振動数を有するが、遠心力は回転速度を周波数とした振動力でもあるため、回転速度がその固有振動数に接近していくと、回転と撓みに共鳴現象が生じ、撓みが急激に増大する。そして回転速度と固有振動数とが完全に一致したときには、撓みは計算上では無限大となる。このような現象が振れ回りであり、固有振動数に一致した回転速度は危険速度と呼ばれる。
【0054】
機械分野では、回転軸の加工精度を上げたり、剛性を上げたりすることによって振れ回り現象を抑えるのが一般的であるが、本発明の第1の構成では、工具電極16の振れ回りを積極的に利用して、先端部16aを被加工面2aに沿って周回運動させる。
【0055】
なお、第1の構成では、工具電極16の回転速度は危険速度未満で制御される。望ましくは、回転速度の変化に対して軌道半径が敏感に変化するよう、回転速度は危険速度に近い範囲で制御する。危険速度は、工具電極16の剛性が高いほど速くなる、工具電極16が短いほど速くなる、工具電極16が軽いほど速くなるなどの性質を有するので、加工孔の径に応じて、工具電極16の剛性、長さ、重さを適宜選択すれば、回転速度を理想的な範囲で迅速に制御できる。
【0056】
図3は、工具電極16の回転速度と、撓みとの関係を示す図面である。図の例では、危険速度は2500rpmであり、回転速度は、2000〜2400rpmの範囲rで制御されている。
【0057】
第2の構成では、所定の剛性を有した細棒形状の工具電極16を電極回転手段15に揺動自在に枢支して使用する。具体的には、ユニバーサルジョイントの類からなる枢着部16cを工具電極16の上端に設け、工具電極16は、枢着部16cを介して回動主軸15bから吊下げた構成とする。
【0058】
この場合も、工具電極16は当然ながらその重心が中心線から偏心している。したがって、工具電極16を回転させると、重心に遠心力が作用するため、ジョイントを支点として重心側に傾斜する。一方、工具電極16を電極回転手段15の真下に戻すように常に重力が作用するので、定常状態では、遠心力と重力による復元力とが釣り合う軌道によって重心が周回運動する。つまり工具電極16は、ある角度で軌道の外側に傾斜したまま旋回することになる。この傾斜角度、すなわち工具電極16の長さに対する先端部16aの軌道半径の割合は、回転速度によって定まる。したがって第2の構成でも、回転制御によって工具電極16の先端部16aを被加工面2aに沿って周回運動させることができる。
【0059】
図4(a)は、そのような工具電極16の静止状態を示し、図4(b)は回転状態を示している。図のように、工具電極16は静止時には枢着部16cから真直ぐに吊下がっているが、回転時には、枢着部16cを支点として外側に傾斜した状態になる。
【0060】
なお第1の構成、第2の構成のいずれであっても、工具電極16の先端部16aの周回運動は、重心の偏心に起因したものである。工具電極16の重心を所望に偏心させるには、例えば凸状電極部材16bを非軸対称形にするとよい。
【0061】
加工工程では、水平移動手段17によって、工具電極16がワーク2の被加工面2aの中心にくるように、ワーク2を位置決めし、その後、相対移動手段40によって、工具電極16の先端部16aをワーク2の被加工面2aに沿って周回運動させ、その運動中に放電印加部21によって、放電パルスを所定間隔で印加する。その際、工具電極16とワーク2との間の極間電圧Vgap、極間電流Igapを検出すれば、両者間の距離に応じて、図5に示すような測定値が得られる。
【0062】
極間電圧Vgapによる回転制御では、放電加工中に、工具電極16の先端部16aが被加工面2aから離れ過ぎてしまうと、放電が生じなくなるので、極間電圧Vgapは最大電圧になる。これを検出して、回転加速すれば、周回運動の軌道半径が大きくなり、その結果、先端部16aが被加工面2aに近づくので、ある時点から放電が正常に行われるようになる。
【0063】
逆に工具電極16の先端部16aが被加工面2aに近づき過ぎてしまうと、短絡によって極間電圧Vgapはほぼゼロに近くなる。これを検出して回転減速すれば、周回運動の軌道半径が小さくなる。その結果、先端部16aは被加工面2aから遠ざかるので、ある時点から放電が正常に行われるようになる。
【0064】
このように極間電圧Vgapに基づいて、主軸回転駆動部15aを加速回転、減速回転させれば、工具電極16の先端部16aと、ワーク2の被加工面2aとの間の距離を調節できる。その結果、工具電極16の先端部16aは、被加工面2aに沿って、放電が維持される軌道半径で周回運動するので、所定間隔の放電パルスによって放電痕Sが連続的に形成できる。
【0065】
また極間電流Igapによる回転制御では、放電加工中に、工具電極16の先端部16aが被加工面2aから離れ過ぎてしまうと、放電が生じなくなるので、極間電流Igapはゼロになる。これを検出して、回転加速すれば、周回運動の軌道半径が大きくなり、先端部16aが被加工面2aに近づくので、ある時点から放電が正常に行われるようになる。
【0066】
逆に工具電極16の先端部16aが被加工面2aに近づき過ぎてしまうと、短絡によって極間電流Igapは最大電流になる。これを検出して回転減速すれば、周回運動の軌道半径が小さくなり、先端部16aは被加工面2aから遠ざかるので、ある時点から放電が正常に行われるようになる。
【0067】
このように極間電流Igapに基づいて、主軸回転駆動部15aを加速回転、減速回転させても、工具電極16の先端部16aは、被加工面2aに沿って、放電が維持される軌道半径で周回運動する。
【0068】
主軸回転駆動部15aを加速回転、あるいは減速回転させるために、相対移動手段40は回転制御信号として、オン、オフ信号のいずれかを出力してもよい。なおDCモータは、最大回転数未満では、通電によって回転加速し、非通電によって回転減速するので、オン、オフ信号だけで回転速度が調節できる。なお、回転制御信号は、オン、オフ信号に限られず、電圧信号、電流信号、周波数信号を用いてもよい。
【0069】
図5(a)〜(d)は、放電パルス、極間電圧Vgap、極間電流Igap、回転制御信号の時間変化を説明する波形図である。放電パルス1、2回目では工具電極16が被加工面2aから離れ過ぎており、3〜5回目では放電が生じており、6、7回目では工具電極16が被加工面2aに接触している。また放電パルス8回目では工具電極16が被加工面2aから離れ過ぎており、9、10回目では放電が生じており、11回目では工具電極16が被加工面2aに接触している。
【0070】
一方、放電パルス1〜5回目では、回転制御信号がオン信号、6、7回目ではオフ信号、8〜10回目ではオン信号、11回目ではオフ信号になっている。
【0071】
また、時間積分した極間電圧Vgapによる回転制御も可能である。すなわち、相対移動手段40は、電圧計22aが測定した極間電圧Vgapを時間積分して、回転制御信号として出力してもよい。時間積分した極間電圧Vgapは、その時点での平均極間電圧のようなものである。したがって工具電極16の先端部16aが被加工面2aから離れすぎて放電が生じなければ、時間積分された極間電圧Vgapは高い値となるはずなので、これをアナログ信号として出力すれば、主軸回転駆動部15aは加速回転する。一方先端部16aが被加工面2aに接触するような状態では、短絡によって極間電圧Vgapはほぼゼロとなるため、それを時間積分して出力すれば、主軸回転駆動部15aは減速回転する。
【0072】
図6(a)〜(c)は、放電パルスと、極間電圧Vgapと、時間積分した極間電圧Vgap(回転制御信号)の時間変化を説明する波形図である。放電パルス1、2回目では工具電極16が被加工面2aから離れ過ぎている。3〜5回目では放電が生じており、6、7回目では工具電極16が被加工面2aに接触している。また放電パルス8回目では工具電極16が被加工面2aから離れ過ぎている。9、10回目では放電が生じており、11回目では工具電極16が被加工面2aに接触している。
【0073】
一方、放電パルス1、2回目では回転制御信号が高い値になっており、3〜5回目では中間的な値になっており、6、7回目では低い値になっている。また放電パルス8回目では、回転制御信号が高い値になっており、9、10回目では中間的な値になっており、11回目では低い値になっている。
【0074】
放電印加部21は、放電パルスの電力を、工具電極16の先端部16aの速度に比例させ、かつ放電パルスの印加時間を、工具電極16の先端部16aの速度に反比例させるとよい。すると、放電中の放電エネルギーが一定になるので、放電痕Sが大きくなり過ぎたり、深くなり過ぎたりするような問題は生じない。
【0075】
工具電極16の周回運動中に、振動手段24によって、ワーク2と工具電極16との少なくとも一方を振動させてもよい。具体的には、工具電極16の先端部16aの周回運動の軌道半径が、ワーク2の被加工面2aの内径と同程度になるように、工具電極16を一定の回転速度で回転させればよい。そしてその回転運動中に、振動手段24によってXYテーブル17aを作動させて、被加工面2aの中心軸に交差する方向にワーク2を振動させると、工具電極16の先端部16aは、振動によって被加工面2aとの距離が変化するため、被加工面2aにぶつかりながら周回運動するようになる。そのぶつかりの前後には、工具電極16と被加工面2aとの間隔が放電に適した距離になる瞬間が存在するので、そのときに放電パルスが印加されれば、放電が発生する。
【0076】
図7は、ワーク2を振動させたときの、工具電極16の周回軌道を模式的に示す図面である。このように、工具電極16の先端部16aは、ワーク2の被加工面2aに何度もぶつかりながら周回運動する。
【0077】
放電加工装置1は、ワーク2の被加工面2aに単発の放電痕Sまたはその集積による所定の微細模様D、例えば放電痕Sが所定密度で一様に分布したランダムパターンなどを形成する。そのためには、相対移動手段40によって、工具電極16の先端部16aを被加工面2aの周方向に周回運動させるとともに、昇降制御部62によって工具電極16を被加工面2aの軸線方向に昇降運動させればよい。この周回運動と昇降運動とは同時であっても、交互であってもよい。同時の場合は、工具電極16の先端部16aは、合成によって螺旋運動することになる。一方、交互の場合は、工具電極16の先端部16aは、周回運動と昇降運動とを逐次繰り返す。先端部16aのこのような運動と、放電パルスの印加動作とをシーケンス制御することよって、放電痕Sによる微細模様Dが形成される。
【0078】
微細模様Dは、図8(a)の線図に例示されるような、放電印加手段21による放電パルスの印加動作と、相対移動手段40および昇降制御部62による工具電極16の被加工面2aに対する相対的移動とが同期的に制御されることにより、図8(b)に例示されるようなパターンに形成される。
【0079】
工具電極1の被加工面2aに対する相対的運動は、例えば被加工面2aの円周方向の周回運動、被加工面2aの軸線方向への昇降運動、それら周回運動と昇降運動とからなる協動運動などが可能であり、そのような運動と放電パルスの印加動作とをシーケンス制御することで、種々のパターンの微細模様Dが加工形成可能である。その微細模様Dのパターンの一例が図9(a)〜(d)に示されている。
【0080】
すなわち、図9(a)に示される微細模様Dは単発放電痕Sのみからなり、図9(b)に示される微細模様Dは単発放電痕Sの連続(3つ)からなり、図9(c)に示される微細模様Dは単発放電痕S、S、…の連続重畳(3つ連続の3列重畳)からなり、および図9(d)に示される微細模様Dは単発放電痕S、S、…の帯状連続重畳からなる。
【0081】
なお放電加工によって、放電痕Sの周縁部には微細なバリや盛り上がりが生じるが、後処理としてそれらを除去するとよい。すると、放電痕Sはバリなどがない微小な凹部になるので、摺動抵抗を抑えるためのオイルポケットなどとして役立つようになる。
【0082】
放電加工装置1では、上記のように工具電極16の回転速度を制御するので、工具電極16が放電によって消耗して短くなっても、放電が維持されるように回転速度が自動的に調節される。更に、放電パルスの電力を、工具電極16の先端部16aの速度に比例させ、かつ放電パルスの印加時間を、工具電極16の先端部16aの速度に反比例させれば、放電痕の大きさや深さは保たれる。したがって、安定して微細凹部を形成することが可能になる。
以下、本発明を適用した種々の実施例を説明する。
【実施例1】
【0083】
本実施例は図10〜14に示されている。なお図中、放電の発生は符号EDとして示している。
この実施例の放電加工装置1は、工具電極16、回転主軸15b、主軸回転駆動部15aおよび昇降駆動部13b、放電印加部21を主要部として備えている。相対移動手段40は、図10では主軸回転駆動部15aと昇降駆動部13bとを組み合わせた構成としている。なお図では、装置制御部50は省略されている。
【0084】
ここに、主軸回転駆動部15aは電極回転手段15を構成しており、外ケース14c内に回転主軸15bを収容した構造となっており、回転主軸15bは、外ケース14c内で上下一対に配設された軸受14a、14bによって回転可能に支持されている。回転主軸15bの上端は、ジョイント部材15fを介して主軸回転駆動部15aの回転軸に連結され、下端には、チャック15cを設けて、工具電極16の基端を着脱可能に把持固定している。
【0085】
回転主軸15bの下端部には絶縁体15gを介在させてチャック15cを設けており、チャック15cとワーク保持治具55は、それぞれに給電極21c、21cを通じて、放電印加部21に接続されている。
【0086】
回転主軸15bの直下には、ワーク2が配置されている。ワーク2は、被加工面2aとして円筒表面(図10では円筒の穴部を示している)を有した筒状体に形成され、ワーク保持具55上に載置されている。ワーク保持具55は、XYZテーブル13cによって、昇降および水平移動可能に保持されている。このXYZテーブル13cは、昇降駆動部13bによって昇降制御される。
【0087】
工具電極16は、所定の可撓性を有する導電性線材が使用され、その軸の基端16cがチャック15cで把持されている。放電加工装置1は、主軸回転駆動部15aを駆動して工具電極16を軸線まわりに回転させることで、振れ回り運動を生じさせ、これによって、工具電極16の先端部16aをワーク2の被加工面2a沿って周回させる構成とされている。なお工具電極16を消耗に応じて繰り出すための電極送り部を更に備えてもよい。
【0088】
放電加工中、ワーク2にはノズル30から加工液が注入されて、放電で生じた溶融クズが冷却除去されながら、放電間隙の絶縁が維持される。
【0089】
放電印加部21は、ワーク2と工具電極16との間に放電パルスを印加させるために、放電回路部21aおよび放電制御部21bを主要部として備え、主軸回転駆動部15aおよび昇降駆動部13bと、工具電極16とワーク2の被加工面2aとの間の放電間隙DCに関連して得られる各種電気的情報、つまり電極間電圧Vgapや電極間電流Igapなどを監視し、その監視結果から放電パルスの印加動作を、工具電極16のワーク2に対する相対移動に対応させて行う構成とされている。
【0090】
ここに、放電回路部21aは、ワーク2と工具電極16との間に後述するように放電パルスを直接印加する。放電パルスは、目的に応じて放電時のエネルギー配分等を考慮して設定されるが、図示の実施形態においては、工具電極16が陽極(プラス)とされ、ワーク2が陰極(マイナス)とされている。
【0091】
放電制御部21bは、放電回路部21aにおける放電パルスの印加動作を制御し、具体的には、後述するように、ワーク2と工具電極16との間に印加する放電パルスの印加タイミング(放電パルス休止時間、放電パルス印加時間、放電加工時間、放電休止時間)および放電パルスの大きさ(放電パルス印加電圧、放電パルス印加電流)を制御する。
【0092】
放電パルスの印加動作は、工具電極16のワーク2の被加工面2aに対する相対的移動に対応して制御される。
【0093】
図10Aは本発明の放電加工装置の概略的な回路ブロック図である。
【0094】
装置制御部50は、放電加工装置1の各部の動作を相互に連動して自動制御するもので、具体的には、CPU、ROM、RAMおよびI/Oポートなどからなるマイクロコンピュータを主要部として構成されている。この装置制御部50には、放電加工を実行させるための加工プログラム等が組み込まれており、主制御部51を備えている。
【0095】
主制御部51には、各駆動部の駆動部13b、15aの制御に必要な種々の情報、例えば、工具電極16の回転速度、昇降速度および昇降量、並びに、ワーク2と工具電極16との間に印加する放電パルスの印加タイミングおよび大きさ等が、NC(数値制御)データとして予めまたは操作盤のキーボード等により適宜選択的に入力設定されており、これらのデータに従ってまた上述した電気的情報を受け取って、主軸回転制御部61、昇降制御部62を制御して、放電加工を実行する。
【0096】
また、各制御部61、62は、駆動部13b、15aおよび、回転位置検出センサ70、昇降位置検出センサ71などが電気的に接続されており、これらから得られる各種電気的情報が、主制御部51により予め設定された各種設定値と比較演算され、その演算結果に基づき制御されている。
【0097】
主制御部51は、図10Bの電気的情報系統図に示すように、放電制御部21bを通じて、放電パルス印加電圧の大きさ、放電パルス印加電流の大きさ、放電パルス印加時間、放電パルス休止時間、放電加工時間および放電休止時間等の電気的情報を制御しており、これらは、放電加工の目的に応じて最適な値に設定される。
【0098】
図示の実施形態では、工具電極16の回転速度に、放電パルス印加電圧の大きさ、放電パルス印加電流の大きさ、放電パルス印加時間、放電パルス休止時間、放電加工時間および放電休止時間を対応させて制御する構成とされている。
【0099】
これら各種電気的情報は、そのすべてが常時放電パルス印加動作の制御因子として利用されるわけではなく、対象となるワーク2の材質、加工径等の形状寸法、工具電極16の仕様(構成材料、ワイヤ径、断面形状等)や相対的移動条件等に応じて適宜選択利用される。例えば、工具電極16のワーク2に対する相対移動に対応して可変されることもあれば、そのうちの少なくとも1つが上記相対的移動速度に対応して可変されることもある。また、ワーク2と工具電極16との放電間隙DCが大きくなれば、放電パルスの印加電圧も大きくさせる。この目的のため、上記各種電気的情報(図示の場合は上述の6種類)の中から、主制御部51で利用すべき電気的情報を選択し、可変設定するための電気的制御条件設定部75を備えている。
【0100】
実際の放電加工では、以上のように構成された放電加工装置1において、駆動部13b、15aなどが装置制御部50により相互に関連して自動制御され、ワーク保持治具55に支持されたワーク2の被加工面2aに対して、加工液供給からノズル30によって加工液が順次噴射供給されながら、工具電極16とワーク2の被加工面2aとの間に放電が発生して加工が行われる。
【0101】
この結果、工具電極16とワーク2の被加工面2aとの間には放電が発生して、ワーク2の被加工面2aには、上記のような単発放電痕Sまたはその集積S、S、…による所定の微細模様Dが加工形成される。
【0102】
周回運動を円滑かつ高精度に行う目的で、工具電極16の先端部16aには分銅(重り)を設けている。具体的には、図11(a)に示すように、工具電極16の先端部16aを屈曲させただけのものでもよい。あるいは図11(b)に示すように、工具電極16の先端部に、凸状電極部材16bを取付けてもよい。凸状電極部材16bは、工具電極16に対して回転自在としてもよい。
【0103】
凸状電極部材16bの形状寸法、重量は目的に応じて適宜選択され、図10および図11(b)では円錐台形状とされている。このほか、図12および図13に示されるものも目的に応じて選択的に採用可能である。
【0104】
つまり、図12には、凸状電極部材の平面形状の改変例が示されており、図12(a)は円形状、図12(b)は長楕円形状、および図12(c)は矩形状とされている。
【0105】
また、図13には、凸状電極部材の側面形状の改変例が示されており、図13(a)は軸心から半径方向に延びる薄板形状および図13(b)はブロック体形状とされている。
【0106】
被加工面2aと工具電極16の先端部16aとの距離(放電間隙)の制御は、工具電極16の回転速度を制御することにより行われる。具体的には、相対移動手段40が、ワーク2と工具電極16との間の極間電圧Vgapまたは極間電流Igapの処理信号を、電極回転手段15の制御信号に用いて行われる。
【0107】
また、この放電間隙DCの制御に関連して、具体的には図示しないが、工具電極16の先端部16aを構成する凸状電極部材16b(あるいは凸状電極部材16bがない場合の工具電極16)の外周部に多数の間隙保持粒が散点状に固着された構成も採用可能である。
【0108】
この間隙保持粒は非導電性の硬質材料が好適に採用され、間隙保持粒の粒径等の大きさ寸法は、放電間隙DCに対応した所定値が選択設定される。そして、少なくとも放電パルスの印加に際には、間隙保持粒が被加工面2aに接触することにより、放電間隙DCを所定値程度に保つ。放電は、間隙保持粒に覆われていない金属部分で行われる。間隙保持粒は硬質材料からなるので、工具電極16の被加工面2aへの接触による電極消耗を低減できる。
【0109】
振れ回り方式の放電加工による微細模様Dは、放電パルスの印加動作と、工具電極16の被加工面2aに対する相対的移動とを適宜組合わせることで、図9に示したように種々のパターンに加工成形可能である。またこのような規則的なパターンのほか、図14(a)に示すように不規則なランダムパターンの微細模様Dを加工成形するのにも有利である。
【0110】
ランダムパターンの微細模様Dは、図14(a)に示すような平面を例にとった場合に、微細模様Dの面積率(放電痕S、S、・・・の総面積/表面積)が所定の範囲内になればよいことを意図している。
【0111】
すなわち、規則的に放電痕Sまたはその集積S、S,・・・による所定の微細模様Dを加工成形する場合、工具電極16を小さくする必要がある。
【0112】
なぜならば、例えば工具電極16が図14(b)に示すような径寸法の場合、被加工面2a上の範囲R内のどこに放電するかわからない(図14(b)におけるrが1回の放電痕Sの大きさを示している)。このため、放電痕Sを等間隔で加工形成しようとする場合は、工具電極16の先端径を小さくする必要がある。
【0113】
これに対して、ランダムパターンの微細模様Dであれば、その面積率で考えるので、放電痕Sの数(=放電パルス数)が解かればよい(ちなみに、長い時間放電した場合、型彫り放電のように電極径部分(例えば、図14(b)の範囲Rで示されるような大きな放電痕となる))。
【0114】
また、図13(b)に示す工具電極16のように工具幅があると、ワーク2の被加工面2aまでの極間距離が近いところつまり放電間隙DCが小さい状態で放電するために、放電痕Sの位置はばらつくことになる(工具電極16および被加工面2aの状態も影響する。)。この場合は、回転主軸15bの1回転で被加工面2aの軸線方向に幅を持たせて微細模様Dを加工形成することができる。仮に、細い工具電極16で軸線方向10mmを放電するとして、0.5mm移動する毎に放電する場合は20周(回転)する必要があるが(10mm÷0.5mm=20)、工具電極16が10mm幅ならば、1周で放電可能である。つまり、工具電極16の幅があると、加工時間を優先する場合にも回転主軸15bの回転速度を高速にする必要がない。
【0115】
このように、ランダムパターンの微細模様Dであれば、工具電極16を大きくできるので、振れ回り方式による放電加工に好適に実現可能であり、放電痕Sはφ0.1程度になることが実験的に判明している。
【0116】
振れ回り方式の放電加工においては、回転主軸15bの回転速度に対して放電パルスの印加動作が著しく速ければ、工具電極16が被加工面2aに近づくときに数回と、離れるときに数回放電する。そのため、連なった形状の放電痕S、S、・・・になる(図14(c)の下段参照)。また、図13(b)に示す工具電極16のように工具幅があると、図9(c)、図9(d)のような形状となる(放電痕Sの周囲は盛り上がるので、次にその付近で放電すると、その盛り上がり部分に放電することもあるため、放電痕S、S、・・・が重なった(集合した)1つの大きな放電痕になる)。
【実施例2】
【0117】
この実施例の放電加工装置1は、具体的に図示しないが、工具電極16として、導電性材料からなる棒状電極が使用されている。
【0118】
具体的には、棒状電極の形態とされた工具電極16は、特に可撓性を有さない導電材からなり、回転主軸15bから、枢着部16cによって被加工面2aの方向へ揺動可能に吊下げ支持されている。
【0119】
このような構成では、工具電極16は、電極回転手段15によって回転されると、遠心力により、枢着部16cを支点として外側に傾斜した状態で、被加工面2aに沿って円周方向に旋回する。他の構成は、実施例1のものと同様である。
【実施例3】
【0120】
この実施例の放電加工装置1は、図15に示されている。基本的には、工具電極16の構成が実施例1から改変されたものである。
【0121】
すなわち、この実施例では、工具電極16が、電極回転手段15により、工具電極16の先端部16aが被加工面2aの周方向へ振れ回りながら、その振れ回りの軸が更に被加工面2aに沿って周回する遊星運動となるように構成されている。
【0122】
電極回転手段15によって遊星運動を行うための具体的構成は、図15(a)に示すように、電極回転手段15に、更に工具電極16の回転駆動構成が追加されている。
【0123】
つまり、回転主軸15bの下端に円盤基台15dが一体的に設けられ、この円盤基台15d上に、DCモータなどからなる電極回転駆動部15eが偏心して設置され、この電極回転駆動部15eの出力軸に、工具電極16が固定されている構成になっている。
【0124】
放電加工時には、電極回転駆動部15eの回転により、工具電極16が振れ回り、更に主軸回転駆動部15aによって円盤基台15dも回転するので、工具電極16の振れ回りの軸線が被加工面2aに沿って周回する。これにより工具電極16の先端部16aは、被加工面2aに沿って遊星運動することになる。なお電極回転駆動部15eの回転速度は、主軸回転駆動部15aの回転速度よりも大きく設定される。
【0125】
このような構成では、工具電極16の先端部16aの運動は、被加工面2aの周方向の遊星運動と、軸線方向の直線運動とが合成される。
【0126】
また、上記構成に代えて、図15(b)に示すような構成も採用可能である。つまり、工具電極16が振れ回る間に、先端部16aは、時々被加工面2aに接触して摩擦力により速度を与えられて小さな旋回運動を開始する。
【0127】
このような構成では、工具電極16の先端部16aが、接触による小さな旋回運動と、振れ回りによる大きな旋回との合成によって擬似遊星運動する。
【0128】
すなわち、被加工面2aが真円の円筒面でない場合は、工具電極16が単に振れ回るだけでは、被加工面2aの一部分では放電するが他の部分では放電しないという現象が生じる。しかしながら、この実施例のように、工具電極16の先端部16aが遊星運動すれば、被加工面2aが真円の円筒面ではなく、楕円あるいはひずんだ円の円筒面となっている場合等でも被加工面2aの各所に接触するので、その全体に放電痕Sを形成することが可能になる。
【0129】
また、凸状電極部材16bが回転することにより、その全周が放電加工に使用される結果、凸状電極部材16bの寿命が延長されるという効果も得られる。
【0130】
なお、図15に示される構成においては、主軸回転駆動部15aなどが模式的に図示され、昇降手段13などは省略されているが、上記以外の構成および作用は実施例1と同様である。
【実施例4】
【0131】
この実施例は図16に示されており、放電加工装置1が、内径仕上加工装置に一体的に組み合わされたものである。
【0132】
すなわち、各実施例の放電加工装置1のいずれかが、内径仕上加工装置であるホーニング盤の回転主軸15bに一体的に組み込まれ、回転主軸15bと、その駆動部である主軸回転駆動部15aなどは、ホーニング盤との共用とされている。4は、回転主軸15bの下端部に設けられたホーニングツールを示し、このホーニングツール4にはホーニング砥石41が拡縮可能に設けられている。
【0133】
しかして、以上のように構成されたホーニング盤においては、本来のホーニング加工機能に加えて、放電加工機能が兼備されてなる。その他の構成および作用は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0134】
この実施例は図17に示されており、各実施例の放電加工装置1のいずれかが、トランスファー型の内径仕上加工装置に一体的に組み合わされたものである。
【0135】
すなわち、本実施形態においては、搬送ライン140上に、荒加工用のホーニングヘッド141、仕上加工用のホーニングヘッド142、放電加工装置1の基本構成を備える放電ヘッド143、および放電加工による盛り上がり部分を除去する再仕上げ用のホーニングヘッド144が直列に連続して配置されてなる。
【0136】
しかして、以上のように構成されたホーニング盤において、ワーク2の被加工面2aは、荒加工用のホーニングヘッド141および仕上加工用のホーニングヘッド142により順次ホーニング加工されて、所望の粗さ精度に加工された後、放電ヘッド143により放電加工されて、所定の微細模様Dが加工形成され、最後に、再仕上げ用のホーニングヘッド144により、放電加工によってできた不要な盛り上がり部分が除去される。
【0137】
この構成では、ホーニング盤に、本来のホーニング加工機能に加えて、放電加工機能が兼備されてなり、また、トランスファー型のホーニング盤であるため、ワーク2を一連で加工するため高機能加工が可能である。
【実施例6】
【0138】
この実施例は図18に示されており、各実施例の放電加工装置1のいずれかがトランスファー型の内径仕上加工システムに組み合わされたものである。
【0139】
すなわち、内径仕上加工システムであるホーニング加工システムの加工工程順に、ワーク2の搬送構造150と組み合わされてユニット化された、荒加工用のホーニングヘッド(ホーニング盤)151、仕上加工用のホーニングヘッド(ホーニング盤)152、各実施の放電加工装置1のいずれかの基本構成を備える放電ヘッド153、および放電加工による盛り上がり部分を除去する再仕上げ用のホーニングヘッド154(ホーニング盤)が、加工工程順に少なくとも2台(図示例の場合は4台)が直列に連続して配設されてなる。
【0140】
しかして、以上のように構成されたホーニング加工システムにおいては、実施例5と同様な加工が連続して行われる。
【0141】
このように、本実施形態のホーニング盤においても、本来のホーニング加工機能に加えて、放電加工機能が兼備されてなり、また、組み込まれたホーニングヘッド151、152、154および放電ヘッド153がいずれもワーク2の搬送構造150と組み合わされてユニット化されることにより、ホーニング加工システムの構成の改変が容易であるという利点がある。
【0142】
なお、上述した実施例は、あくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれに限定されることなく、以下に例示列挙するように、その範囲において種々の設計変更が可能である。
【0143】
(1)各実施例の具体的な装置構成はいずれも、同様な機能を備える限りにおいて、目的に応じて適宜設計変更可能である。
【0144】
(2)各実施例はいずれも、円筒内周面を被加工面2aとしているが、円筒外周面、平面、テーパ内周面、テーパ外周面あるいは段付き孔の段付き内周面等の被加工面2aに微細凹部からなる微細模様Dを加工形成する場合にも適用可能である。
【0145】
一例として、振れ回り方式で円筒内周面以外の各種被加工面2aに放電加工する場合を図19(a)〜(c)に示す。
【0146】
図19(a)は、被加工面2aとして円筒外周面を放電加工する場合で、(i)(ii)に示すように、円柱状のワーク2の円筒外周面に対して、工具電極16を遠心力により振れ回り運動させながら、その先端部16aによって、円筒外周面に単発の放電痕Sからなる微細模様Dを加工形成する。
【0147】
(3)具体的には図示しないが、被加工面2aがテーパ外周面である場合には、工具電極16のワーク2の軸線方向への移動に同期させて、工具電極16の回転速度を制御することにより、先端部16aの軌道半径をテーパ外周面の傾斜具合に合わせて拡大・縮小することにより、テーパ外周面に微細模様Dが加工形成できる。
【0148】
また、図19(b)は、被加工面2aとして平面を放電加工する場合で、ワーク2の平坦面に対して、工具電極16を振れ回りさせながら、先端部16aを平坦面に近づけて放電させ、平坦面に単発の放電痕Sからなる微細模様Dが加工形成できる。
【0149】
更に図19(c)は、被加工面2aとして段付き円筒内周面を放電加工する場合で、工具電極16の昇降移動に同期させて、工具電極16の回転速度を制御することにより、先端部1a(111)の軌道半径を、段付き円筒内周面の段付き部位で段付き分(深さ分)だけ拡大・縮小する。このようにすれば、段付き円筒の内周面に微細模様Dが加工形成できる。
【0150】
なお図示しないが、被加工面2aがテーパ内周面である場合には、テーパ外周面の場合と同様に、工具電極16の昇降移動に同期させて、工具電極16の回転速度を制御することにより、その先端部16aの軌道半径をテーパ内周面のテーパに合わせて拡大・縮小する。このようにすれば、テーパ内周面に微細模様Dが加工形成できる。
【0151】
(4)各実施例では、放電加工時に、加工液供給ノズル30から放電加工位置に加工液を噴射供給する構成とされている。しかしながら加工液供給ノズル30に替えて、エア供給ノズル(図示省略)によりエアを噴射供給する構成(気中放電)、あるいは、ミスト供給ノズル(図示省略)により霧状の加工液を噴射供給する構成(ミスト放電)も可能である。
【0152】
(5)実施例4では、ホーニング盤の回転主軸15bに放電加工装置1が組み合わされる構成とされているが、他の内径仕上加工装置、例えばマシニングセンタの回転主軸15bに組み合わされる構成も可能である。
【符号の説明】
【0153】
1 放電加工装置
15 電極回転手段
16 工具電極
16a 先端部
16b 凸状電極部材
21 放電印加部
22a 電圧検出手段
22b 電流検出手段
40 相対移動手段
24 振動手段
D 微細模様
S 放電痕


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物に対して工具電極を相対的に移動させながら、それらの間に放電パルスを印加させて、前記工作物の表面に単発放電痕またはその集積による所定の微細模様を形成する放電加工方法であって、
前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極を回転させて、振れ回り運動あるいは遠心力による旋回運動を生じさせて、該工具電極の先端部を前記工作物に対して周回させるものであって、
その相対的移動中に、前記工作物と前記工具電極との間に放電パルスを所定間隔で印加することを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工作物と工具電極との少なくとも一方を振動させて、前記工作物と前記工具電極の先端部との間の放電間隙を変化させる工程を更に備えている工作物表面の放電加工方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記工具電極は、所定の可撓性を有する導電性線材であり、
前記工具電極を、回転させることで、振れ回り運動を起こさせて、該工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って回転させることを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記工具電極は、可撓性を有さない導電性の棒状体であり、
前記工具電極を、その基端を揺動可能に枢支させた状態で回転させることで、遠心力による旋回運動を起こさせて、該工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って回転させることを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記工具電極は、その先端部に、凸状電極部材を回転可能に設けていることを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極を回転させて該工具電極の先端部が被加工面に沿って回転する運動と、前記工作物の軸線方向へ直線移動する動作とを組合わせて構成されている工作物表面の放電加工方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極が前記工作物の被加工面に対して螺旋状に移動することを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記工具電極の相対的移動は、前記工具電極の先端部が回転しながら、前記工作物の被加工面に沿って周回する相対的遊星運動であることを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
放電パルスの印加時に工作物と工具電極との間の電圧または電流を検出する手段を備え、
この手段によって検出した電圧または電流に基づいて、前記工具電極を回転制御することを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記工具電極の消耗量を補正する信号に基づいて、前記工具電極を回転制御することを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかにおいて、
前記放電パルスの印加動作の電気的制御条件として、放電パルス印加電圧の大きさ、放電パルス印加電流の大きさ、放電パルス印加時間、放電パルス休止時間、放電加工時間および放電休止時間のうち、少なくとも1つと、前記工具電極の相対的移動動作とを相互に連動させることを特徴とする工作物表面の放電加工方法。
【請求項12】
工作物の表面に多数の微細凹部からなる微細模様を形成する放電加工装置であって、
放電作用により、工作物の被加工面に微細凹部を加工形成する工具電極と、
電極回転手段を有し、前記工作物に対して前記工具電極を相対的に移動させる相対的移動手段と、
前記工作物と前記工具電極との間に放電パルスを印加させる放電印加手段と、
前記移動手段および前記放電印加手段を相互に連動して制御する制御手段とを備えてなり、
前記工具電極は、前記電極回転手段の回転軸に支持させた導電性部材であり、
前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して、前記工具電極を回転させて振れ回り運動あるいは遠心力による旋回運動を生じさせ、これによって前記工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って周回させながら、前記工作物と前記工具電極との間に放電パルスを所定間隔で印加させることによって、該被加工面に放電痕を形成することを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記工作物と前記工具電極の少なくとも一方を振動させる振動手段を更に備え、
この振動手段により、前記工作物と前記工具電極の少なくとも一方を振動させて、前記工作物と前記工具電極との間の放電間隙を変化させることを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項14】
請求項12または13において、
前記工具電極は、所定の可撓性を有する導電性線材からなり、かつその基端が前記電極回転手段の回転軸に固定されており、
前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して前記工具電極を回転させることで振れ回り運動を起こさせ、それによって前記工具電極の先端部を、前記工作物の被加工面に沿って回転させることを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項15】
請求項12または13において、
前記工具電極は、可撓性を有さない導電性の棒状体であり、かつその基端が前記電極回転手段の回転軸に揺動可能に枢支されており、
前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して前記工具電極を回転させることで、遠心力による旋回運動を起こさせ、それによって、前記工具電極の先端部を前記工作物の被加工面に沿って軸線まわりに回転させることを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項16】
請求項12〜15のいずれかにおいて、
前記工具電極は、その先端部に、凸状電極部材を回転可能に設けていることを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれかにおいて、
前記相対的移動手段は、前記工具電極の先端部が、前記工作物の被加工面に対して回転させる運動と前記工作物の軸線方向へ直線移動する運動とを組合わせて実行することを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項18】
請求項12〜16のいずれかにおいて、
前記相対的移動手段は、前記工具電極の先端部が、前記工作物の被加工面に沿って螺旋状に運動することを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項19】
請求項12〜16のいずれかにおいて、
前記相対的移動手段は、前記電極回転手段を駆動して、前記工具電極を前記振れ回り運動あるいは旋回運動させながら、前記工具電極を前記工作物の被加工面に沿って周回させることで、前記工具電極と前記工作物とを相対的に遊星運動させることを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項20】
請求項12〜19のいずれかにおいて、
前記制御手段は、放電パルスの印加時に前記工作物と前記工具電極との間の電圧または電流を検出し、検出した電圧または電流に基づいて、前記工具電極を回転制御することを特徴とする、工作物表面の放電加工装置。
【請求項21】
請求項12〜19のいずれかにおいて、
前記制御手段は、工具電極の消耗を補正する信号に基づいて、前記工具電極を回転制御することを特徴とする、工作物表面の放電加工装置。
【請求項22】
請求項12〜21のいずれかにおいて、
前記制御手段は、前記放電印加手段による前記放電パルスの印加動作を制御する電気的条件として、放電パルス印加電圧の大きさ、放電パルス印加電流の大きさ、放電パルス印加時間、放電パルス休止時間、放電加工時間および放電休止時間のうち、少なくとも1つと、前記工作物と工具電極の相対的移動動作を相互に連動させるように構成されたことを特徴とする工作物表面の放電加工装置。
【請求項23】
工作物の仕上加工装置に、請求項12〜22のいずれかに記載の放電加工装置を一体的に組合わせたことを特徴とする、仕上加工装置。
【請求項24】
工作物の仕上加工装置と、請求項12〜22のいずれかに記載の放電加工装置とが、工程順に配設されていることを特徴とする、仕上加工システム。
【請求項25】
請求項1〜11のいずれかに記載の放電加工方法によって、その被加工面に単発放電痕またはその集積による所定の微細模様が形成されていることを特徴とする、機械部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−212834(P2011−212834A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57041(P2011−57041)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月 京都工芸繊維大学創造連携センター発行の「京都工芸繊維大学創造連携センター 平成21年度年報」に発表
【出願人】(390003665)株式会社日進製作所 (32)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】