説明

放電プラズマ形成用電極

【課題】放電プラズマの均一性が高い放電プラズマ形成用電極、およびそれを用いたプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】1ターン以上の螺旋溝を形成した棒またはパイプを巻芯として、電極となる金属チューブを前記螺旋溝に巻きつけて作製することで形状精度を高めた螺旋状電極を作製し、得られた螺旋状電極を二本用いて一組の二重螺旋状に嵌合した、二重螺旋状のプラズマ形成用電極を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電プラズマ処理に用いられる放電プラズマ形成用電極に関し、特に二重螺旋状の放電プラズマ形成用電極、およびそれを用いた放電プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低圧下でグロー放電プラズマを発生させて行う表面改質処理が実用化されている。しかし低圧化で行う処理は、工業規模で行うには大掛かりな設備を必要とし処理コストがかさむので、電子部品等に用いる高価な部品・素材にしか適用されていない。
そのため、大規模な設備や高額な処理コストを必要としない、大気圧近傍の圧力下で放電プラズマを発生させる方法がいくつか提案されている。その一つに、プラスチックチューブの内面に放電プラズマを形成し、チューブの内面を表面改質する方法がある。
【0003】
特開平8−57038号公報(特許文献1)では、プラスチックチューブを連続的に搬送しながら大気圧近傍の圧力下において、グロー放電を安定して発生させる雰囲気中、交流電圧を印加してグロー放電プラズマ処理を行う方法が提案されている。大気圧グロー放電プラズマ処理装置として、絶縁管に一対のリボン状の電極を二重螺旋状に巻き、一方を高圧側電極とし他方を設置側電極とし、プラスチックチューブにグロー放電を安定に発生させるガスを流しながら絶縁管の中にプラスチックチューブを連続的に搬送し、高圧側と接地側の電極間に交流電圧を印加した例が挙げられている。
特開2003−313336号公報(特許文献2)では、電極本体に絶縁管を用いない例が提案されている。金属製のパイプまたは棒を巻芯として、二本の銅チューブを間隔をあけて螺旋状に巻き、その外周を絶縁体で固定した後巻芯を抜き取り、二重螺旋状の空芯電極とし、銅チューブの一方を高圧側電極とし、他方を接地側電極とする。空芯電極の中にプラスチックチューブを通し、プラスチックチューブ内にヘリウムまたはヘリウムとアルゴンの混合ガスを導入し、高圧側電極と接地側電極との間に交流電圧を印加することで、プラスチックチューブ内にグロー放電を形成する。電極とプラスチックチューブとの間に絶縁管が無いため、低い電圧で放電が起こるとしている。
【0004】
一方、金属の棒を螺旋状に成形加工する技術としてはコイルバネの成形技術が知られており、その成形方法としては芯金成形とコイリング成形とがある。芯金成形は、芯金と呼ばれる円柱状の心棒にバネ材料を巻きつけて成形する方法であり、コイリング成形はバネ材料をコイリングピンと呼ばれる突き当てに押し当ててカールさせ、ピッチツールと呼ばれるものでコイル部の隙間量分を押し上げてピッチを作る成形方法である(非特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−57038号公報
【特許文献2】特開2003−313336号公報
【非特許文献1】柴野:「マイクロマシン技術総覧」第3編2章3節「ばね」(産業技術サービスセンター)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2003−313336号公報に開示されている二重螺旋状の空芯電極の作製方法では、得られる電極の螺旋のピッチが大きくばらつくという問題がある。螺旋のピッチにばらつきがあるとプラスチックチューブ内の放電プラズマの密度が不均一となり、プラスチックチューブ内面のプラズマ処理の均一性が悪くなるという欠点を有する。また螺旋のピッチにばらつきがあると、必然的に高圧側電極と接地側電極との距離にもばらつきが生じ、その最短部において異常放電が発生し易く、ばらつきの無い電極に比べ投入電力を上げられず、プラズマ処理の効率が低下するという問題がある。
【0006】
一方、螺旋状に加工する技術としては先に述べた芯金成形とコイリング成形とが、螺旋の内径に比べ螺旋のピッチが小さいコイルの成形方法として産業上広く実施されているが、プラズマ発生用の電極の様に螺旋の内径に比べ螺旋のピッチが大きい形状のものを精度良く成形することは出来ない、という問題がある。本発明者は、螺旋の内径より螺旋のピッチが大きい同一の形状となるように個別にコイリング成形した2本の金属チューブを、二重螺旋状に嵌合させようと種々検討したが、ピッチのばらつきが大きいために嵌合することが出来なかった。
更に、芯金成形・コイリング成形のいずれの場合でも、螺旋状に加工される際に、金属チューブの断面形状が大きく潰れてしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に着目してなされたものであり、グロー放電プラズマ処理装置に用いられる放電プラズマ形成用電極を改良し、放電プラズマの均一性が高い放電プラズマ形成用電極、およびそれを用いた放電プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、作製方法を工夫することで、螺旋状電極の寸法精度を著しく改善することが出来、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、1ターン以上の螺旋溝を形成した棒またはパイプを巻芯として、金属チューブを螺旋溝に沿って巻きつけて作製されたことを特徴とする、放電プラズマ形成用電極、およびそれを用いたプラズマ処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、螺旋ピッチのばらつきが小さい螺旋状の電極を再現良く作製することができる。また金属チューブの潰れを防ぎその断面形状が大きく変形することなく螺旋状の電極を作製することが可能である。本発明により初めて螺旋のピッチのばらつきが3%以下の寸法精度のよい電極を作製することが可能となり、本発明の電極を用いた放電プラズマ処理装置を用いることで均一性の高いプラズマ処理が可能となる。そのため従来技術で行われていたプラズマの不均一性を補償するための、例えば特開平8−57038号公報(特許文献1)の図14に示されるチューブ回転装置のような特別の工夫の必要は無くなる。また、より高周波および/または高投入電力でのプラズマ処理が可能となり、プラズマ処理効率が向上し、同じ程度のプラズマ処理を実施する場合には放電プラズマ処理装置を小型化できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(螺旋状の放電プラズマ形成用電極)
本発明では、螺旋状の放電プラズマ形成用電極が、1ターン以上の螺旋溝を形成した棒またはパイプを巻芯として、金属チューブを螺旋溝に巻きつけて作製されたことを特徴とする。
本発明で用いる巻芯の一例として、螺旋溝を形成した金属棒を図1に示す。
図1は中央部に螺旋溝の内径がd、螺旋溝の巾がw、螺旋のピッチがpの螺旋溝を形成した例である。図1では螺旋溝が3ターンの場合を例示した。螺旋ピッチのばらつきが小さい螺旋形の電極を得るには、巻芯に2ターン以上の螺旋溝を形成することが好ましい。
ここで、螺旋ピッチのばらつき(δp)とは、螺旋ピッチの最大値(pmax)と最小値(pmin)の差の、平均値(pav)に対する比、即ち、
δp=(pmax―pmin)/pav
で表す。螺旋ピッチは、金尺、ノギス等を用いて容易に測定できる。
【0011】
溝の断面形状は、溝に巻いた時に金属チューブの位置が一意に決まる形状であることが好ましい。金属チューブの位置が一意に決まるという意味を図2を用いて説明する。図2は、溝に金属チューブを巻いた時の断面を幾つかの組合せについて図示したものであるが、これらに限定されるものではない。(1)〜(5)は金属チューブの位置が一意に決まる場合、(6)〜(8)は金属チューブの位置が一意に決まらない場合である。(6)〜(8)の点線は、溝の中で金属チューブの位置がずれた例を示している。(1)〜(5)のように、螺旋溝に巻きつける際に螺旋溝の中の唯一の位置に金属チューブが固定されるような断面形状の場合に一意に決まると言うことが出来る。このように溝の断面形状をチューブの位置が一意に決まる形状とすると、金属チューブを巻き易くするために、溝の幅を多少大きめにとっても螺旋のピッチのばらつきを小さく抑えることが出来る。
ここで例示した(1)〜(8)の溝の断面形状は全て左右対称であるが、左右非対称の断面形状であっても良い。例えば、一方の傾斜が急で他方の傾斜が緩やかな左右非対称なV字型の溝に断面が円形の金属チューブを巻く場合は、V字型の頂角の二等分線上に金属チューブの中心が位置するが、金属チューブの位置は一意に決まるので本発明の技術範囲に含まれる。
【0012】
溝への金属チューブの進入深さ(h)は、深さ方向における金属チューブの外径をaとして、
h/a ≧ 0.3
であることが望ましい。金属チューブの進入深さ(h)と深さ方向における金属チューブの外径(a)の定義例を図2の(1)〜(5)中に示した。金属チューブの進入深さ(h)が、深さ方向における金属チューブの外径(a)の0.3倍より小さくなると巻くことが難しくなるが、この値はチューブの材質や断面形状に依存しており臨界的な意味を有するものではない。金属チューブの断面形状の変形を防止するという観点から、h/aは0.5以上であることがより好ましい。金属チューブの進入深さ(h)の上限は特に限定されないが、螺旋状に巻いた金属チューブを一時的に外周側から固定する場合等は螺旋溝の外側に金属チューブの一部が露出していると好都合である。
溝の断面形状は、巻きつける金属チューブの断面形状と実質的に同じであることが、巻きつける際に金属チューブが大きく潰れることを防止する上で好ましい。例えば、断面が円形の金属チューブを用いる場合には螺旋溝の断面形状も円形であることが好ましい。
【0013】
ところで、螺旋溝に巻きつける際に金属チューブの断面形状は僅かに潰れる。溝の断面形状がV字型や台形の場合は、断面形状の潰れに応じて金属チューブの溝への進入深さが変化するので、クリアランスを設けなくても巻芯から螺旋状に巻いた金属チューブを比較的容易に外すことが出来る。溝と、巻きつける金属チューブの断面形状が共に円形の場合は若干のクリアランスを設けることで、螺旋状に巻いた金属チューブを容易に巻芯から取り外すことが可能となる。
溝の中で金属チューブが横方向に変位するほどクリアランスを設けると、結果として螺旋のピッチがばらつくので、螺旋のピッチがばらつかない程度すなわち金属チューブの位置が一意に決まる範囲でクリアランスを設けることが重要である。
作業性を総合的に判断すると、円形の断面を有する金属チューブをわずかなクリアランスを設けた円形断面の螺旋溝に巻きつける組合せが好ましい。
【0014】
そこで、金属チューブおよび螺旋溝の断面形状が共に円形の場合について、図3を用いて詳細に説明する。図3中の、溝形状に接する点線で示した仮想的な円を考える。金属チューブの直径をaとし、前記の仮想的な円の直径をF・aとすると、Fは螺旋溝のクリアランスの程度を示す、金属チューブの直径に対する前記の仮想的な円の直径の比を示す係数であり、F>1.0である。このとき、図1に示した螺旋溝の幅(w)は、Fと金属チューブの進入深さ(h)とから自動的に決まる。螺旋溝の幅(w)は、h≦F・a/2のとき、
w=F・a・cos[sin−1{(F・a―2h)/(F・a)}]
h>F・a/2のとき、
w=F・a
と計算される。
【0015】
螺旋溝の断面形状が円形の場合は、図1に示した巻芯における螺旋溝の内径(d)は、巻芯の外径(D)と金属チューブが溝に進入できる深さ(h)を用いて次式で表される。
d=D−2・h
一方、螺旋溝の断面形状がV字型や台形等で、巻きつける金属チューブの断面形状が円形の場合は、溝の最奥部に金属チューブが接しないので次式となる。
d<D−2・h
【0016】
さらに本発明では、一方を高圧側電極、他方を接地側電極として一対の金属チューブを二重螺旋状に嵌合した放電プラズマ形成用電極において、高圧側電極と設置側電極との最短距離(Δ)が、螺旋状電極の内径をd´として、
0.5 < Δ/d´ ≦ 2.0
の範囲となるように、螺旋溝のピッチ(p)が調整されることが好ましい。
ここで、高圧側電極と接地側電極との最短距離(Δ)は、計算上、金属チューブの外径をa、螺旋状電極の内径をd´として、
Δ=p/2・sin[tan−1{2(d´+a)/p}]−a
で表される。この範囲に螺旋溝のピッチ(p)を調整することで、高圧側電極と接地側電極の間の異常放電を無くし、均一な放電プラズマを形成することが出来る。
また、作製した螺旋状電極の螺旋の内径(d´)は、螺旋溝および金属チューブの断面が共に円形の場合でもスプリングバック現象のため、巻芯に設けた螺旋溝の内径(d)よりも若干大きくなる。そのため、スプリングバック現象を勘案して巻芯に設ける螺旋溝の内径(d)を決定する必要がある。
【0017】
巻いた金属チューブは、金属チューブあるいは巻芯を回転させて、螺旋溝から外す。金属チューブを巻く作業と外す作業を繰り返すことで、巻芯に形成した螺旋溝のターン数以上のターン数を有する螺旋状電極を作製することが出来る。
本発明では機械を用いて金属チューブを巻くことも出来るが、加工の容易な材質であれば人の手で金属チューブを巻いても形状精度の高い螺旋状電極を再現良く作製することが出来る。
【0018】
ここまで巻き芯として棒またはパイプに1本の螺旋溝を形成した場合を想定して説明したが、二重螺旋状に溝を形成した巻芯を用いて、一対の二重螺旋状の電極を同時に作製することも出来る。更に3本以上の溝を形成した巻芯を用いれば同時に3本以上の螺旋電極を作製することが出来る。
また、後に説明するように電極を冷却するために金属チューブを用いる場合を説明してきたが、放電プラズマ処理装置の出力が低く電極の冷却が必要ない場合は、金属チューブに換えて金属ワイヤまたは金属棒を用いて螺旋状電極を作製しても良い。
【0019】
(金属チューブの材質)
螺旋状電極に用いられる金属チューブの材質としては、導電性を有した材質のものが選ばれる。具体的には銅、アルミニウム等の金属や、ステンレス、真鍮等の合金や金属間化合物等から選ばれる。特に銅やアルミニウム合金等が導電性が高く加工が容易なので好ましく用いられる。金属チューブの替わりに金属ワイヤあるいは金属棒を用いる場合も同様の材質が好ましく用いられる。
【0020】
(巻芯の材質)
巻芯として用いる螺旋溝を形成する棒またはパイプの材質としては、電極に用いる金属チューブの材質よりも硬い材質のものが好ましい。例えば金属チューブとして銅やアルミニウム合金を用いる場合は、巻芯の材質としてはステンレス等を用いることが出来る。
【0021】
(放電プラズマ処理装置)
本発明の放電プラズマ形成用電極は、従来技術に比べ発生するプラズマの均一性が格段に向上しているので二重螺旋状の電極を用いる如何なるプラズマ処理装置に用いてもそのプラズマ処理の均一性が向上する効果を有する。好適に使用されるプラズマ処理装置の一例として、プラスチックチューブの内面処理用の装置について以下に詳細に説明するが、本発明の放電プラズマ処理装置としてはチューブ類の内面処理用の装置に限定されるものではない。
例えば、一方を高圧側電極、他方を接地側電極とした同じ形状をした一対の螺旋状の金属チューブを二重螺旋状に嵌合して絶縁性の固定手段で外周を固定し、プラスチックチューブをその内側に連続的に通過させる搬送手段と、プラスチックチューブにガスを導入する手段と、高圧側電極と接地側電極との間に電力を印加する手段とを備える、大気圧近傍の圧力下で放電プラズマを形成することのできる、プラスチックチューブの内面プラズマ処理装置である。
【0022】
(大気圧近傍の定義)
ここで「大気圧近傍」とは、放電プラズマを形成するガスの流路の一端を大気に開放した状態で作動できる範囲を意味するが、その他に密閉容器の中で使用し大気圧に比べて僅かに減圧する場合や加圧する場合も含む。具体的には100〜800Torr(0.013〜0.105MPa)の圧力を指す。
【0023】
(電力の印加手段および電極の冷却方法)
前記の電力を印加する手段としては、例えば交流電源装置を、必要に応じて整合器を介して高圧側電極と接地側電極に接続する構成とする。
周波数が高い電源装置、例えば0.1MHz以上の高周波電源装置を使用すると、周波数の増加に伴いプラズマ密度を高くすることが出来る。一方で、高周波化に伴う放電プラズマの不均一化や、プラスチックチューブおよび/または電極の温度上昇が問題となるために、前記の電力を印加する手段が高圧側電極と接地側電極のそれぞれに二箇所以上から給電するように接続されること、および電極をなす金属チューブに電気絶縁性の冷媒を0.01m/s以上の流速で流す手段を備えること、ならびに高周波電力をパルス変調する機能を備えている高周波電源装置を使用することが望ましい。
【0024】
例えば電極への給電点が二箇所の場合は、高圧側電極と接地側電極それぞれの両端から給電することが好ましい。それぞれの電極への給電点を三箇所以上とする場合には、両端の給電点の他にそれぞれの電極を等分割した位置に給電することが好ましい。また給電するための配線材料はできるだけ抵抗値の小さいものを使用することが好ましい。例えば銅板や銀メッキした銅板等が用いられる。短絡・異常放電等を回避するために配線材料により高圧側電極と接地側電極との間の最短距離が短くならないように留意する必要がある。
【0025】
冷媒を流す手段としては、電極を形成する金属チューブに循環冷却装置を接続した構成とする。ここで循環冷却装置に用いる循環用の冷媒としては、電気絶縁性の液体が好ましい。例えば、エチレングリコール、シリコーンオイル、フッ素系の有機液体等を使うことができる。
【0026】
印加する高周波電力にパルス変調を加えることで時間平均の投入電力を制御してプラスチックチューブおよび/または電極の温度上昇を制御することも可能である。ここでパルス変調とは、図4に示す様に、ある一定の周期で電力を印加したり遮断したりする機能のことを言う。
パルス変調を行う周波数は100Hz〜50kHzが選ばれ、さらに好ましくは500Hz〜30kHzの範囲である。100Hz以下では放電プラズマが安定に形成されにくく、50kHz以上では整合器によるインピーダンス整合がとりにくい。またある変調周期の中で高周波電力が印加されている期間の割合(デューティ比)は、概ね1〜90%の範囲で選ばれる。整合器によるインピーダンス整合の取りやすさから5〜70%の範囲が好ましい。
【0027】
(ガスの導入手段およびガス)
ガスの導入手段としては例えば、バルブ、チューブ、継手等の配管部材、マスフローコントローラ、気化器等から構成される。さらにプラスチックチューブを巻くリールにガス導入機構を付加してもよい。これにより、リール・トゥ・リールの内面プラズマ処理も可能となる。
プラスチックチューブに導入するガスとしては、放電プラズマ形成に必須な不活性ガス単独の場合と、必要に応じて選択される少量の反応性ガスを不活性ガスに加えた混合ガスが用いられる場合とがある。ここで不活性ガスとは、ヘリウム、アルゴン等の希ガスおよび窒素ガスの中から選ばれる1種類以上の単独あるいは混合ガスを指す。放電の形成されやすさからヘリウムおよび/またはアルゴンが主体となることが望ましい。また必要に応じて反応性ガスを少量添加する場合、その添加量としては不活性ガスに対して0.001〜5.0体積%が好ましい。反応性ガスとしては例えば、メタン、四フッ化メタン、エチレン、プロピレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、二酸化炭素、酸素、亜酸化窒素、三フッ化窒素、シラン、ジシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、アンモニア等が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
(プラスチックチューブの搬送手段)
プラスチックチューブの搬送手段としては、例えば幾つかのガイドを設けプラスチックチューブを二重螺旋状電極内に通し、巻取り用リールを回転させてプラスチックチューブを巻取りながら連続的に該プラスチックチューブの内面をプラズマ処理する方法や、送出し用と巻取り用のリールを用意しガイドローラーや送りローラーを組み合わせてプラスチックチューブを搬送し連続的に内面をプラズマ処理する方法等が挙げられる。
【0029】
(プラスチックチューブの内面処理)
プラスチックチューブの内面プラズマ処理は、様々なプラスチックの内面処理を提供することができる。例えば(イ)プラスチックチューブの内面に親水性基を形成して親水性を付与する処理、(ロ)プラスチックチューブの内面に疎水性基を形成して疎水性を付与する処理、(ハ)モノマーを含有したガスを用いてプラスチックチューブの内面に重合膜を形成する処理、(ニ)モノマー溶液をプラスチックチューブの内面にコーティングしその後該プラスチックチューブの内面にプラズマ処理を行うことで重合膜を形成する処理、(ホ)プラスチックチューブの内面にプラズマ処理を行った後該プラスチックチューブの内面に重合性モノマーを供給して重合膜を形成する処理、(ヘ)金属水素化合物等の金属成分を含んだ化合物を含有したガスを用いてプラスチックチューブの内面に金属酸化物などのセラミックス膜を形成する処理、(ト)プラスチックチューブ内面の表面をエッチングする処理等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
(プラスチックチューブの材質)
上記の処理を行うプラスチックチューブの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、シリコン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
以下に図面を参照して発明の実施形態を具体的に説明する。
(実施例1) 金属チューブを用いて人手で螺旋状電極を作製するための巻芯として、螺旋溝を形成した棒の例を図1に示す。螺旋溝を形成した部分の両側に万力などに巻芯を固定するための部分を示したが、片方のみに設けても良く、または一方を短く他方を長くしても良い。この部分は固定しやすいように断面形状を角柱状等にすることが好ましい。
外径1/8インチ、肉厚0.5mmの断面形状が円の銅チューブを巻くことを想定し、d=6mm、D=12mm、h=3mm、w=3.4mm、p=20mm、L=400mm、M=100mm、溝の断面形状を円形とした螺旋溝を、機械加工でステンレス製の棒に形成した。螺旋溝は両端とも貫通させている。この場合、銅チューブに対する溝形状を含む円の直径比(F)は1.07である。
図1の螺旋溝を形成した巻芯に上記の銅チューブを巻き、螺旋部分の長さが300mm(ターン数は15)、両端にストレート部分を80mmずつ設けた螺旋状電極を2体作製し、二重螺旋状となるように嵌合して螺旋部分の外側からアクリル製の固定具で固定して二重螺旋状電極とした。最後に、両端に残したストレート部分は、適当に折り曲げ、電極の端子や冷媒を流すための継手を取り付けた。
上記した各々の螺旋状電極について、金尺を用いて螺旋のピッチを14箇所測定した、その結果、平均値20.0mm、螺旋のピッチのばらつきは0%と、ピッチが一定していることを確認した。そして、2つの螺旋状電極は、容易に二重螺旋状に嵌合することが出来、高圧側電極と接地側電極との距離のばらつきも見られなかった。
【0032】
(比較例1)
外径1/8インチ、肉厚0.5mmの銅チューブ2本を、外径6mm、長さが500mmの一端を万力に固定したステンレス棒に、螺旋のピッチが20mmとなるように人手で巻きつけて二重螺旋状電極を作製した。2本の銅チューブを6ターン巻いたが螺旋のピッチを一定にするのが難しくペンチ等の工具を用いて螺旋のピッチが一定となるよう矯正する必要があった。実施例1と同様に両端部にそれぞれ80mmのストレート部を設けアクリル製の固定具で螺旋部の外側から固定して二重螺旋型電極とした。両端に残したストレート部分は、実施例1と同様に適当に折り曲げ、電極の端子や冷媒を流すための継手を取り付けた。
上記した各々の螺旋状電極について、金尺を用いて螺旋のピッチを5箇所測定した。その結果、平均値19.9mm、ピッチの最大値と最小値の差は3mm程あり、螺旋のピッチのばらつきは15%だった。また、作製した二重螺旋状電極は、高圧側電極と接地側電極の距離が一定しておらず、実施例1に比べ明らかにばらつきが大きかった。また銅チューブの断面形状が若干潰れ扁平になっていた。
【0033】
(比較例2)
コイリング装置を用いて外径1/8インチ、肉厚0.5mmの銅チューブを、実施例1と同様に螺旋の内径が6.0mm、螺旋のピッチが20mm、螺旋部の長さが300mmとなるように機械的に巻いてみた。該コイリング装置で通常作製しているコイルバネに比べ比較例2として作製を試みた螺旋形状のピッチが大きかったため、得られた螺旋電極のピッチは当初の意図より小さく、且つ非常にばらついていた。また螺旋電極部の銅チューブの断面形状は大きく潰れていた。
上記した螺旋状電極について、金尺を用いて螺旋のピッチを25箇所測定した。その結果、平均値11.4mm、ピッチの最大値と最小値との差は3mm程あり、螺旋のピッチのばらつきは26%だった。
同じ操作を2回行って2本の螺旋状電極を作製し、二重螺旋状に嵌合しようとしたが螺旋のピッチのばらつきが大きいため嵌合することはできなかった。
【0034】
(実施例2)
実施例1で作製した二重螺旋状電極を用い、プラスチックチューブの内面プラズマ処理装置を構成して、プラスチックチューブ内のプラズマ放電の様子を観察した。
用いたプラスチックチューブの内面プラズマ処理装置の構成を図5に示した。電源はパルス変調可能な13.56MHzの高周波電源装置を用い、整合器を介して二重螺旋状電極と接続した。二重螺旋状電極との接続は高圧側電極、接地側電極ともに、それぞれのストレート部となる両端の二箇所から行った。
二重螺旋状電極の銅チューブには冷媒として20℃のエチレングリコールをおおよそ0.2m/sの流速で循環して冷却した。
ガスは調圧バルブ、図示しないマスフローコントローラを経由してプラスチックチューブに導入されている。プラスチックチューブは二重螺旋状電極内部を通過した後ステッピングモータで駆動される巻取りリールに巻き取られ、新たな部分が電極内部に挿入され続けることで、プラスチックチューブの内面が連続的にプラズマ処理される。
【0035】
外径が6mm、内径が4mmのポリ塩化ビニル製のチューブを実施例1で作成した二重螺旋状電極内に挿入し静置した後、流量1.0l/min.のヘリウムと流量0.01l/min.の酸素との混合ガスを導入した。
投入時の高周波電力が50W、デューティ比0.2、変調周波数10kHzの高周波電力を印加して該ポリ塩化ビニル製のチューブ内に放電プラズマを形成し、放電プラズマ密度に比例するプラズマの発光挙動を観察した。その結果二重螺旋状電極部の全体にわたり均一な強度の発光が観察された。
【0036】
(比較例3)
比較例1で作製した二重螺旋状電極を用いた以外は実施例2と同様にして上記ポリ塩化ビニル製チューブ内のプラズマ発光の挙動を観察した。但し比較例1で作製した二重螺旋状電極は電極部の長さが120mmと短いため、投入電力密度が実施例2と同じになるように投入時に30Wとなるように高周波電力を投入した。デューティ比、変調周波数は実施例2と同じである。プラズマの発光強度には明るい領域と暗い領域が不規則に生じており、放電プラズマの密度が不均一であることが確認された。
【0037】
(実施例3)
実施例2に示したプラスチックチューブの内面処理装置を用いて連続的にプラスチックチューブの内面に放電プラズマ処理を行い、処理直後のプラスチックチューブ内面の親水性を評価するために水滴接触角の測定を行った。
外径が6mm、内径が4mmのポリ塩化ビニルチューブを二重螺旋型電極内に挿入し、実施例2と同じ流量のヘリウムと酸素との混合ガスを導入した。実施例2と同様にパルス変調された高周波電力を印加し、同時にステッピングモータで巻取りリールを8秒/cmの巻取り速度で駆動し、連続的にポリ塩化ビニルチューブの内面を放電プラズマ処理した。
【0038】
放電プラズマ処理を行ったポリ塩化ビニルチューブは、約8mm程度の長さに切り分けた後軸方向に切開し、ガラス板の上に両面テープを用いて内面が上面となる様に固定して、水滴接触角測定に供した。
水滴接触角の測定は、マイクロディスペンサを用いて約2μlの純水を測定試料上に滴下し、水滴と測定試料との接触状態をカメラで撮影し、撮影映像を画像解析して接触角を算出した。水滴接触角のばらつきを評価するためにポリ塩化ビニルチューブ試料の測定位置をチューブの周方向に換えて5点測定した。
その結果、水滴接触角は42〜44°で平均値は43°であった。未処理のポリ塩化ビニルチューブを同様にして測定すると、水滴接触角は89〜91°で、平均値は90°であった。これにより実施例3の放電プラズマ処理によりポリ塩化ビニルチューブの内面が均一に親水性化されたことが確認できた。
【0039】
(比較例4)
比較例3のプラスチックチューブの内面処理装置を用いて、実施例3と同様に連続的にプラスチックチューブの内面の放電プラズマ処理を行い、処理直後のプラスチックチューブ内面の水滴接触角を評価した。ただし投入時の高周波電力は、投入電力密度を同じくするために、比較例3と同様に30Wとなるように印加した。
その結果、水滴接触角は51〜65で平均値は59であった。これにより比較例4では実施例3と同様に未処理のポリ塩化ビニルチューブに対して親水化処理を施すことができたが、その親水性のばらつきが大きく、放電プラズマ密度が不均一であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、これまでに説明したプラスチックチューブだけでなく、ガラスやセラミックスといった誘電体チューブの内部に放電プラズマを均一に形成させることができる。そのためプラスチックチューブをはじめガラスやセラミックス等の誘電体チューブの内面に対する種々の表面処理に利用できる。また誘電体チューブ内に放電プラズマを形成できることから、放電プラズマの非平衡性を利用した物質変換や新規材料の創生に応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の、金属チューブを用いて螺旋状電極を作製するための巻芯の一例を、螺旋溝を形成した棒として例示した側面図である。
【図2】本発明の、金属チューブの位置が一意に決まる螺旋溝の断面形状を説明する、螺旋溝を含む巻芯と金属チューブとを含む部分断面図である。
【図3】本発明の放電プラズマ処理装置の一例として、プラスチックチューブの内面 処理装置を説明するための模式図である。
【図4】本発明の放電プラズマ処理装置において、電極に電力を印加する際のパルス変調の様式を説明するための概念図である。
【図5】本発明の放電プラズマ処理装置の一例として、プラスチックチューブの内面 処理装置を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0042】
d 螺旋溝の内径
D 螺旋溝を形成した巻芯の外径
w 螺旋溝の幅
p 螺旋溝のピッチ
h 螺旋溝の深さ
L 巻芯の螺旋溝を形成した部分の長さ
M 巻芯の固定部の長さ
1 プラスチックチューブ
2a 螺旋状電極(高圧側電極)
2b 螺旋状電極(接地側電極)
3 整合器
4 電源
5a、5b 冷却用の配管
6a ガス導入配管
6b 調圧バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電プラズマ発生装置に用いる、一対の金属チューブを用いた二重螺旋状の電極であって、螺旋のピッチが螺旋の内径よりも長くかつ螺旋のピッチのばらつきが3%以下である、均一なプラズマを発生させることができる二重螺旋状電極。
【請求項2】
1ターン以上の螺旋溝を形成した棒もしくはパイプからなる巻芯に、金属チューブを螺旋溝に巻きつけ、次いで巻芯、または螺旋溝に巻きつけた金属チューブを回転させて、金属チューブを巻心から外して、作製された螺旋状の金属チューブを2本用意し、二重螺旋状に嵌合して螺旋の外側から絶縁体で固定することを特徴とする、二重螺旋状電極の作製方法。
【請求項3】
溝の断面形状が、溝に金属チューブを巻いたときに金属チューブの位置が一意に決まる形状を有することを特徴とする、請求項2に記載の二重螺旋電極の作製方法。
【請求項4】
金属チューブの螺旋溝への進入深さ(h)が、金属チューブの深さ方向の外径をaとしたときに、 h/a ≧ 0.3 であることを特徴とする請求項3に記載の二重螺旋電極の作製方法。
【請求項5】
螺旋溝の断面形状が巻きつける金属チューブの断面形状と実質的に同じであることを特徴とする、請求項3〜4に記載の二重螺旋電極の作製方法。
【請求項6】
請求項2〜5に記載の二重螺旋状電極の作製方法において用いられる、1ターン以上の螺旋溝を形成した棒またはパイプからなる巻芯。
【請求項7】
1ターン以上の螺旋溝を形成した巻芯に巻きつけて作製した2本の金属チューブを二重螺旋状に嵌合して螺旋の外側から絶縁体で固定した、螺旋のピッチが螺旋の内径よりも長くかつ螺旋のピッチのばらつきが3%以下である均一なプラズマを発生させることができる二重螺旋状電極を用いたことを特徴とする、放電プラズマ処理装置。
【請求項8】
1ターン以上の螺旋溝を形成した巻芯に巻きつけて作製した2本の金属チューブを二重螺旋状に嵌合して螺旋の外側から絶縁体で固定した、螺旋のピッチが螺旋の内径よりも長くかつ螺旋のピッチのばらつきが3%以下である均一なプラズマを発生させることができる二重螺旋状電極を用いた放電プラズマ処理装置を用いることを特徴とする、放電プラズマ処理方法。
【請求項9】
1ターン以上の螺旋溝を形成した巻芯に巻きつけて作製した2本の金属チューブを二重螺旋状に嵌合して螺旋の外側から絶縁体で固定した、螺旋のピッチが螺旋の内径よりも長くかつ螺旋のピッチのばらつきが3%以下である均一なプラズマを発生させることができる二重螺旋状電極を用いた放電プラズマ処理装置を用いることを特徴とする、内面を放電プラズマ処理されたプラスチックチューブ。

































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−236697(P2006−236697A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47580(P2005−47580)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】