説明

放電加工機の加工条件調整装置

【課題】加工状態の監視および加工中の加工条件を調整することで、最適な加工条件を決定する。
【解決手段】加工状態の良否を判断するため複数の信号または物理量を取得する加工状態情報取得部22と、信号または物理量の基準値を基準加工状態情報として記憶する要求加工状態記憶部18と、加工状態情報取得部22で取得した加工状態情報と基準加工状態情報とを比較して加工状態の良否および加工不良の種別を判定する加工状態判定部20と、加工不良を解消するために実行される加工条件の調整方法として、加工条件の調整が実行される加工不良の種別の優先度、加工不良の種別に応じて調整する加工条件の設定項目の優先度、設定項目の調整値を記憶した加工条件調整方法記憶部12と、加工状態判定部20が加工不良と判定された場合、前記加工条件調整方法に基づき前記加工条件の設定項目を調整する加工条件調整部14と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放電加工における加工条件調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用途で用いられる加工機は、例えば工具鋼からなる金属ワークに対し、物理的、電気的、化学的に作用を加えて形状を徐々に変化させることで所望する最終形状を得るという加工プロセスを有する。その加工プロセスにおいて、一般に、加工条件と呼ばれる制御パラメータを変更することで、加工プロセスの状態を変化させることができる。
ここで、適切な加工条件の選択が加工の成否を分けることになるが、加工要求仕様を満足させるような好条件を瞬時に選択することは実際問題として困難である。例えば、放電加工においては、加工速度が高くかつ異常な加工状態に陥らない加工条件を選択することが求められている。ここでいう加工条件は複数の制御パラメータから構成され、それぞれの制御パラメータは変化する値の中から一つ選択するように構成されている。
【0003】
通常、放電加工機における加工条件を決定する際には、加工中に人が機械の側について、加工中の電圧や電流、短絡や断線、加工速度などの加工状態を監視し、加工結果と加工中の加工状態をもとに使用した加工条件の調整を行い、調整した加工条件を使用して再び加工を行うという作業を何度も繰り返すことで最適な加工条件を得る。
図13のフローチャートは、従来の加工条件の決定プロセスを示す。要求加工情報として目標とする加工状態を表す情報(断線・短絡しないこと、目標加工速度等)を登録する(SA01)。試験加工に使用する加工条件を設定する(SA02)。ここで、加工条件とは、加工中の加工電圧、加工速度、電流、休止時間などの設定値の組み合わせである。SA02で設定した加工条件を使用して試験加工を開始する(SA03)。このとき、加工終了までの間、作業者が機械の側について、加工中の加工状態を監視・記録する、あるいは、放電制御装置から出力される加工中の加工状態を自動的に記録する(SA04)。試験加工終了(SA05)後、加工結果と作業者が記録した、あるいは、自動的に記録された加工中の加工状態から加工の良否を判定する(SA06)。SA06で加工が不良と判定された場合、試験加工に使用した加工条件を調整し、この調整した加工条件を試験加工に使用する加工条件とする(SA07)。SA02〜SA07を加工が良好な状態になるまで繰り返す。試験加工の加工形状としては、単純な直線および、図14に図示されるジグザグ形状を使用する。
【0004】
しかし、このような手法では、多大な労力がかかり、効率が悪い。これに対して、特許文献1に、加工中の加工状態を判別し、加工条件を変化させていくことで最適な加工を行う適応制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−153476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された方法では、加工条件を常に変化させるため、例えば同じ機械で同じ加工を複数回行う場合、各加工で最適な加工を行えたとしても、加工毎の最適な加工条件にはバラつきが発生することにより、加工結果にもバラつきが発生してしまうという問題がある。
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、自動的に加工状態の監視および加工中の加工状態をもとに加工条件の調整を行うことで、最適な加工条件を決定する加工条件調整装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、設定された加工条件に従って被加工物の加工を行う放電加工機の加工条件調整装置において、加工状態の良否を判断するため複数の信号または物理量を加工状態情報として所定周期毎に取得する加工状態情報取得部と、前記信号または物理量の基準値を基準加工状態情報として記憶する要求加工状態記憶部と、前記加工状態情報取得部で取得した加工状態情報と前記基準加工状態情報とを比較して加工状態の良否および加工不良の場合は加工不良の種別を判定する加工状態判定部と、前記加工状態判定部により加工状態が加工不良と判定された場合、加工不良を解消するために実行される加工条件の調整方法として、加工条件の調整が実行される加工不良の種別の優先度、加工不良の種別に応じて調整する加工条件の設定項目の優先度、設定項目の調整値を記憶した加工条件調整方法記憶部と、前記加工状態判定部が加工不良と判定した場合、前記加工条件調整方法に基づき前記加工条件の設定項目を調整する加工条件調整部と、を有し、前記調整後に加工を行い、再度、前記加工状態判定部が同じ加工不良と判定した場合には、前記設定項目の優先度に従って調整する設定項目を変更して加工条件を調整し、前記加工状態判定部が加工良好を示すまで、前記加工状態情報部による情報の取得、該加工状態判定部による判定、前記加工条件調整部による調整を繰り返し実行することを特徴とする放電加工機の加工条件調整装置である。
請求項2に係る発明は、前記加工条件調整方法記憶部は、加工不良の種別および調整される加工条件の設定項目を追加可能としたことを特徴とする請求項1に記載の放電加工機の加工条件調整装置である。
請求項3に係る発明は、前記加工条件調整方法記憶部は、加工不良を解消するために加工条件の調整を行う加工不良の種別の優先度、加工不良の種別に応じて調整する加工条件の設定項目の優先度、設定項目の調整値を変更可能としたことを特徴とする請求項1に記載の放電加工機の加工条件調整装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、試験加工中に加工機から得られた加工状態により、加工の良否を判定し、加工中の加工状態および加工の良否判定をもとに、加工が不良な状態ならば加工条件を調整し、調整した加工条件を使用して加工が良好な状態になるまで、試験加工を自動的に繰り返すことで最良の加工条件を決定することが可能な放電加工機の加工条件調整装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の加工条件の決定プロセスを説明する図である。
【図2】加工の良否判定方法を説明する図である。
【図3】試験加工条件の調整を説明する図である。
【図4】調整方法<1>を説明する図である。
【図5】調整方法<1>において加工条件の調整方法を反映して説明する図である。
【図6】調整方法<2>を説明する図である。
【図7】調整方法<2>において加工条件の調整方法を反映して説明する図である。
【図8】調整方法<3>を説明する図である。
【図9】調整方法<3>において加工条件の調整方法を反映して説明する図である。
【図10】調整方法<4>を説明する図である。
【図11】調整方法<4>において加工条件の調整方法を反映して説明する図である。
【図12】本発明の実施形態を説明するブロック図である。
【図13】従来の加工条件の決定プロセスを説明する図である。
【図14】試験加工の加工形状(ジグザグ形状)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<加工条件の決定プロセス>
図1は本発明の加工条件の決定プロセスを説明する図である。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB01]要求加工情報として目標とする加工状態を表す情報(断線、短絡がないこと、目標加工速度等)を登録する。
●[ステップSB02]試験加工に使用する加工条件を設定する。
●[ステップSB03]ステップSB02で設定した試験加工条件を使用して試験加工を開始する。
●[ステップSB04]加工終了までの間、加工中の加工状態を自動的に監視する。
●[ステップSB05]加工中の加工状態と要求加工情報の加工状態を比較・評価して加工の良否を判定する。
●[ステップSB06]ステップSB05で加工が不良と判定した場合、試験加工に使用した加工条件を自動的に調整する。
●[ステップSB07]放電用の電源をオフにするなどの試験加工の終了処理を行う。
【0011】
上述したように、本発明の加工条件の決定プロセスはステップSB02〜SB06を加工が良好な状態になるまで繰り返す。このようなプロセスを実行することで、加工が良好な状態になるまで、自動的に試験加工が繰り返され、最良の加工条件を得ることができる。
【0012】
<加工の良否判定>
図2のフローチャートの各ステップに従って、加工の良否判定方法について説明する。ここでは、加工不良を示す加工状態の種類を断線・短絡の有無、加工速度とした場合を説明する。
●[ステップSC01]加工が良好となるために要求される加工状態と加工中の加工状態を比べて、断線または短絡が発生した場合(YESの場合)、ステップSC02へ移行し、断線または短絡が発生しなかった場合(NOの場合)ステップSC03へ移行する。
●[ステップSC02]断線か否か判断し、断線の場合(YESの場合)にはステップSC04へ移行し、断線ではない場合(NOの場合)にステップSC05へ移行する。
●[ステップSC03]断線または短絡が発生しなかった場合、加工が良好となるために要求される加工状態に対する加工中の加工状態の変動を判断する。加工中の加工速度が要求される加工速度に対して一定の許容範囲を超えている場合(YESの場合)、ステップSC06へ移行し、一定の許容範囲を超えていない場合(NOの場合)、ステップSC07へ移行する。
●[ステップSC04]加工不良として判定値に「1」をセットし、終了する。
●[ステップSC05]加工不良として判定値に「2」をセットし、終了する。
●[ステップSC06]加工不良として判定値に「3」をセットし、終了する。
●[ステップSC07]加工良好として判定値に「0」をセットし、終了する。
【0013】
加工の良否判定において、判定値が加工不良を示す場合、試験加工に使用している加工条件の調整を行う。上述したフローチャートにおいて判定値1〜3は加工不良を示している。
【0014】
<加工条件の調整について>
図3のフローチャートの各ステップに従って、加工条件の調整について説明する。
加工の良否判定の説明と同様に、加工不良を示す加工状態の種類を断線・短絡の有無、加工速度の例として説明する。
●[ステップSD01]判定値が1または2(加工が断線または短絡によるもの)か否か判断し、判定値が1または2だった場合(YESの場合)にはステップSD02へ移行し、判定値が1でも2でもなかった場合(NOの場合)にはステップSD03へ移行する。
●[ステップSD02]判定値が1であるか否か判断し、1の場合(YESの場合)にはステップSD05へ移行し、1でない場合(NOの場合)にはステップSD07へ移行する。
●[ステップSD03]判定値が3であるか否か判断し、3の場合(YESの場合)にはステップSD04へ移行し、3でない場合(NOの場合)には処理を終了する。
●[ステップSD04]加工中の加工速度が要求される加工速度に対して大きいか否か判断し、大きい場合(YESの場合)にはステップSD09へ移行し、大きくない場合(NOの場合)にはステップSD11へ移行する。
●[ステップSD05]調整方法<1>を実行する。
●[ステップSD06]実行した調整方法を示す指標Aの値を1にし、処理を終了する。
●[ステップSD07]調整方法<2>を実行する。
●[ステップSD08]実行した調整方法を示す指標Aの値を2にし、処理を終了する。
●[ステップSD09]調整方法<3>を実行する。
●[ステップSD10]実行した調整方法を示す指標Aの値を3にし、処理を終了する。
●[ステップSD11]調整方法<4>を実行する。
●[ステップSD12]実行した調整方法を示す指標Aの値を4にし、処理を終了する。
【0015】
以上により、加工不良を示す加工状態の種類毎に対応する調整方法にもとづいて加工条件が調整される。
【0016】
<加工条件の調整方法について>
加工条件の調整方法は、表1のような構成で加工不良を示す加工状態の種類毎に調整する加工条件の設定項目毎に、優先度と調整値の増減および調整値が設定されている。この表に従って、加工条件の設定項目の調整が行われる。表1では加工不良が単独の加工状態情報で判断される場合の例のみを記載しているが、2つの情報を組合せて加工不良の状態と判断するようにしても良い。設定項目の優先度は[1],[2],[3],・・・のように表され、[1]の場合に優先度が最高となる。
調整値の増減および調整値は、+2、−1のように表され、調整値を増やす場合は「+」、減らす場合は「−」となる。
【0017】
【表1】

【0018】
ここで、加工条件の調整方法の具体例について説明する。
調整方法<1>は、加工不良を示す加工状態が「断線」であった場合の加工条件の調整方法である。調整方法<1>をフローチャートで示すと、図4のように表される。各ステップに従って説明する。
●[ステップSE01]実行した調整方法の指標Aの値が1か否か判断し、1の場合(YESの場合)にはステップSE02に移行し、1でない場合(NOの場合)にはステップSE03へ移行する。
●[ステップSE02]優先度[2]の設定項目の値を増やし、処理を終了する。
●[ステップSE03]優先度[1]の設定項目の値を減らし、処理を終了する。
ここで、断線が発生するということは、放電1パルスのパワーが大きすぎるためであり、これを下げる必要がある。よって、表1のように放電1パルスのパワーが優先度[1]、放電1パルスの長さが優先度[2]となり、フローチャートは図5のように表される。各ステップに従って説明する。
●[ステップSF01]実行した調整方法の指標Aの値が1か否か判断し、1の場合(YESの場合)にはステップSF02に移行し、1でない場合(NOの場合)にはステップSF03へ移行する。
●[ステップSF02]放電1パルスの長さを伸ばし、処理を終了する。
●[ステップSF03]放電1パルスのパワーを減らし、処理を終了する。
【0019】
調整方法<2>は、加工不良を示す加工状態が「短絡」であった場合の加工条件の調整方法である。調整方法<2>をフローチャートで示すと、以下の図6のようになる。
●[ステップSG01]優先度[1]の設定項目の値を増やす。
ここで、短絡が発生するということは、サーボ電圧が大きすぎるためなので、これを下げる必要がある。よって、表1のようにサーボ電圧が優先度[1]となり、フローチャートは図7のようになる。
●[ステップSH01]放電1パルスのパワーを減らす。
【0020】
調整方法<3>は、加工不良を示す加工状態が「加工速度(加工中)>加工速度(要求)」であった場合の加工条件の調整方法である。調整方法<3>をフローチャートで示すと、以下の図8のように表される。以下、図8に示されるフローチャートを各ステップに従って説明する。
●[ステップSJ01]条件1を満たすか否か判断し、満たす場合(YESの場合)にはステップSJ02に移行し、満たさない場合(NOの場合)にはステップSJ05へ移行する。
●[ステップSJ02]実行した調整方法の指標Aの値は3であるか否か判断し、指標Aの値が3の場合(YESの場合)にはステップSJ03へ移行し、Aの値が3ではない場合(NOの場合)にはステップSJ04へ移行する。
●[ステップSJ03]優先度[2]の設定項目の値を減らし、処理を終了する。
●[ステップSJ04]優先度[1]の設定項目の値を減らし、処理を終了する。
●[ステップSJ05]優先度[3]の設定項目の値を増やし、処理を終了する。
【0021】
ここで、断線・短絡が発生しない状況で、加工速度(加工中)が加工速度(要求)より大きくなるということは、放電1パルスのパワーが十分に下がりきっていないためなので、これをさらに下げる必要がある。しかし、これまでの断線・短絡が発生する場合と同様に、いきなり放電1パルスのパワーを下げてしまうと、加工中の加工速度が下がりすぎてしまう可能性があるので、先ずは送り速度ゲインを減らすことで微調整を行う。
【0022】
さらに、加工速度(加工中)が加工速度(要求)の1.5倍より小さくなったら、放電1パルスの長さを伸ばすことで調整を行う。
よって、表1のように送り速度ゲインが優先度[1]、放電1パルスのパワーが優先度[2]、放電1パルスの長さが優先度[3]となり、フローチャートは図9のようになる。各ステップに従って説明する。
●[ステップSK01]条件1を満たすか否か判断し、満たす場合(YESの場合)にはステップSK02に移行し、満たさない場合(NOの場合)にはステップSK05へ移行する。
●[ステップSK02]実行した調整方法の指標Aの値は3であるか否か判断し、指標Aの値が3の場合(YESの場合)にはステップSK03へ移行し、指標Aの値が3ではない場合(NOの場合)にはステップSK04へ移行する。
●[ステップSK03]放電1パルスのパワーを減らし、処理を終了する。
●[ステップSK04]送り速度ゲインを減らし、処理を終了する。
●[ステップSK05]放電1パルスの長さを伸ばし、処理を終了する。
【0023】
調整方法<4>は、加工不良を示す加工状態が「加工速度(加工中)<加工速度(要求)」であった場合の加工条件の調整方法である。調整方法<4>をフローチャートで示すと、以下の図10のようになる。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSL01]条件2を満たすか否か判断し、満たす場合(YESの場合)にはステップSL02に移行し、満たさない場合(NOの場合)にはステップSL05へ移行する。
●[ステップSL02]実行した調整方法の指標Aの値は4であるか否か判断し、指標Aの値が4の場合(YESの場合)にはステップSL03へ移行し、指標Aの値が4ではない場合(NOの場合)にはステップSL04へ移行する。
●[ステップSL03]優先度[2]の設定項目の値を増やし、処理を終了する。
●[ステップSL04]優先度[1]の設定項目の値を増やし、処理を終了する。
●[ステップSL05]優先度[3]の設定項目の値を減らし、処理を終了する。
【0024】
ここで、断線・短絡が発生しない状況で、加工速度(加工中)が加工速度(要求)より小さくなるということは、放電1パルスのパワーが十分に上がりきっていないためなので、これをさらに上げる必要がある。
しかし、これまでの断線・短絡が発生する場合と同様に、いきなり放電1パルスのパワーを上げてしまうと、加工中の加工速度が上がりすぎてしまう可能性があるため、先ずは送り速度ゲインを増やすことで微調整を行う。
さらに、加工速度(加工中)が加工速度(要求)の0.5倍より大きくなったら、放電1パルスの長さを縮めることで調整を行う。
よって、表1のように送り速度ゲインが優先度[1]、放電1パルスのパワーが優先度[2]、放電1パルスの長さが優先度[3]となり、フローチャートは図11のように表される。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSM01]条件2を満たすか否か判断し、満たす場合(YESの場合)にはステップSM02に移行し、満たさない場合(NOの場合)にはステップSM05へ移行する。
●[ステップSM02]実行した調整方法の指標Aの値は4であるか否か判断し、指標Aの値が4の場合(YESの場合)にはステップSM03へ移行し、指標Aの値が4ではない場合(NOの場合)にはステップSM04へ移行する。
●[ステップSM03]放電1パルスのパワーを増やし、処理を終了する。
●[ステップSM04]送り速度ゲインを増やし、処理を終了する。
●[ステップSM05]放電1パルスの長さを縮め、処理を終了する。
【0025】
ここまでの例では、加工不良の状態として、断線、短絡、加工速度(加工中)>加工速度(要求)、加工速度(加工中)<加工速度(要求)を説明してきたが、他にも前記の加工不良を示す状態の組み合わせや加工電圧等の前記以外の加工不良を判別するための加工状態を追加することができる。
また、加工不良を示す加工状態の種類毎に調整する加工条件の設定項目についても、ここまでの例で説明したサーボ電圧、放電1パルスの長さ、放電1パルスのパワー、送り速度ゲイン以外に、無負荷電圧、加工液量等の加工条件の設定項目を追加することができる。
【0026】
図12は本発明の実施形態を説明するブロック図である。
要求加工状態記憶部18は、試験加工において加工が良好となるために要求される加工状態を格納する。加工条件調整方法記憶部12は、試験加工中に加工不良が発生した場合の加工条件の調整方法を記憶する。加工状態情報取得部22は、加工状態の良否を判断するための複数の信号または物理量を試験加工中の加工状態情報として所定周期毎に取得する。加工状態判定部20は、加工状態情報取得部22で取得した加工中の加工状態と試験加工において加工が良好となるために要求される加工状態とを比較して試験加工の良否を判定する。加工条件調整部14は、加工状態判定部20が加工不良を示した場合、加工条件調整方法に基づいて、加工中の加工状態が試験加工において加工が良好となるために要求される加工状態に対して一致する、もしくは一定の許容範囲内に収まるように、試験加工用の加工条件を調整する。加工状態判定部が加工良好を示すまで、加工状態取得、加工状態判定、加工条件調整が繰り返し実行される。
【0027】
要求加工状態記憶部18には、あらかじめ作業者によって、断線・短絡の有無、目標加工速度等の試験加工において要求される加工状態が記憶されている。加工条件調整方法記憶部12にも、あらかじめ作業者によって、試験加工中に加工不良が発生した場合の加工条件の調整方法が記憶されている。加工条件の調整方法は、加工不良を示す加工状態の種類毎に調整する加工条件の設定項目の優先度で表される。また、優先度を任意に変更でき、加工不良を示す加工状態の種類および調整する加工条件の設定項目を任意に追加することができる。これにより、様々な加工が良好となるために要求される加工状態に対して、調整方法を変更することで対応できる。
【0028】
放電加工機16による試験加工が開始すると、加工状態情報取得部22は、加工中の加工状態を試験加工が終了する迄取得し続ける。加工状態判定部20は、試験加工において加工が良好となるために要求される加工状態に対して加工状態情報取得部22が取得した加工中の加工状態が一致する、もしくは一定の許容範囲内に収まる場合は加工良好、そうでない場合は加工不良と判定する。
【0029】
加工状態判定部20が試験加工について、加工不良を示した場合、加工条件調整方法に基づいて、加工中の加工状態が要求加工状態に対して一致する、もしくは一定の許容範囲内に収まるように加工条件の設定項目の値を調整する。調整された加工条件を使用して、試験加工を続ける。このように、加工条件の調整を繰り返すことで、最適な加工条件を得られる。
【0030】
なお、加工条件調整方法記憶部12は、加工不良の種別および調整される加工条件の設定項目を追加可能としてもよい。また、加工条件調整方法記憶部12は、加工不良を解消するために加工条件の調整を行う加工不良の種別の優先度、加工不良の種別に応じて調整する加工条件の設定項目の優先度、設定項目の調整値を変更可能としてもよい。
また、本実施形態では、放電装置から独立した外部装置として説明しているが、放電装置上に搭載することでも同様の効果を得られる。
【0031】
本発明の実施形態により、放電加工機において、試験加工中に加工機から得られた加工状態により、加工の良否を判定し、加工中の加工状態および加工の良否判定をもとに、加工が不良な状態ならば加工条件を調整し、調整した加工条件を使用して加工が良好な状態になるまで、試験加工を自動的に繰り返すことで最良の加工条件を決定することができる。
また、本発明の実施形態により、加工条件の調整を自動的に行うことができる。これにより、最適な加工条件が一つに決まるため、この加工条件を使用することで、加工結果に再現性のある最適な加工を行うことができる。また、加工条件の調整方法を変更することができるため、良好な加工を行うための新たな調整方法が分かった場合にも調整方法を容易に対応することができる。
【符号の説明】
【0032】
12 加工条件調整方法記憶部
14 加工条件調整部
16 放電加工機
18 要求加工状態記憶部
20 加工状態判定部
22 加工状態情報取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された加工条件に従って被加工物の加工を行う放電加工機の加工条件調整装置において、
加工状態の良否を判断するため複数の信号または物理量を加工状態情報として所定周期毎に取得する加工状態情報取得部と、
前記信号または物理量の基準値を基準加工状態情報として記憶する要求加工状態記憶部と、
前記加工状態情報取得部で取得した加工状態情報と前記基準加工状態情報とを比較して加工状態の良否および加工不良の場合は加工不良の種別を判定する加工状態判定部と、
前記加工状態判定部により加工状態が加工不良と判定された場合、加工不良を解消するために実行される加工条件の調整方法として、加工条件の調整が実行される加工不良の種別の優先度、加工不良の種別に応じて調整する加工条件の設定項目の優先度、設定項目の調整値を記憶した加工条件調整方法記憶部と、
前記加工状態判定部が加工不良と判定した場合、前記加工条件調整方法に基づき前記加工条件の設定項目を調整する加工条件調整部と、
を有し、
前記調整後に加工を行い、再度、前記加工状態判定部が同じ加工不良と判定した場合には、前記設定項目の優先度に従って調整する設定項目を変更して加工条件を調整し、前記加工状態判定部が加工良好を示すまで、前記加工状態情報部による情報の取得、該加工状態判定部による判定、前記加工条件調整部による調整を繰り返し実行することを特徴とする放電加工機の加工条件調整装置。
【請求項2】
前記加工条件調整方法記憶部は、加工不良の種別および調整される加工条件の設定項目を追加可能としたことを特徴とする請求項1に記載の放電加工機の加工条件調整装置。
【請求項3】
前記加工条件調整方法記憶部は、加工不良を解消するために加工条件の調整を行う加工不良の種別の優先度、加工不良の種別に応じて調整する加工条件の設定項目の優先度、設定項目の調整値を変更可能としたことを特徴とする請求項1に記載の放電加工機の加工条件調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−94940(P2013−94940A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242762(P2011−242762)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【特許番号】特許第5199440号(P5199440)
【特許公報発行日】平成25年5月15日(2013.5.15)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】