説明

放電灯点灯装置および照明器具

【課題】蛍光ランプの長寿命化を図った放電灯点灯装置を提供する。
【解決手段】タングステンコイルおよびタングステンコイルに塗布したエミッタを有する一対のフィラメントFLa,FLbを封装したバルブを有する蛍光ランプFLに流れるランプ電流をフィラメントFLa,FLbの常温での抵抗値とフィラメントFLa,FLbに補助加熱電流を流して昇温させたときの抵抗値との比が4.75となるときのフィラメントFLa,FLbの固有電流値の50%以下とする。相対ゼロ電界熱電子放出比が90%以上となるように補助加熱電流を流す。フィラメントFLa,FLbの温度分布をより平坦化でき、蛍光ランプFLの長寿命化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電ランプの長寿命化を図った放電灯点灯装置およびこれを備えた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タングステンコイルにエミッタが塗布された一対の電極が封装されたバルブを備えた放電ランプを、高周波点灯させる点灯手段を備えた放電灯点灯装置が知られている。そして、このような放電灯点灯装置を長寿命化するに当たり、放電ランプの定格点灯時の電極の抵抗値を、25℃での電極の抵抗値の3〜5倍とし、1A以下となる予熱電流の実効値を放電電流の実効値の3倍以上とすることで、電極の温度分布を平坦化してエミッタの蒸発量を抑制した構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−133089号公報(第5−6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の放電灯点灯装置は、電極の温度分布の平坦化により長寿命化に対して一定の効果を有するものの、近年の放電灯点灯装置では、より一層の長寿命化が望まれている。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、放電ランプの長寿命化を図った放電灯点灯装置およびこれを備えた照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の放電灯点灯装置は、タングステンコイルおよびこのタングステンコイルに塗布されたエミッタを有する一対の電極が封装されたバルブを備えた放電ランプと;この放電ランプに流れる放電電流を、前記電極の冷抵抗値(Rc)と前記電極に補助加熱電流を流して昇温させたときの抵抗値(Rh)との比(Rh/Rc)が4.75となるときの固有電流値の50%以下とするとともに、放電電流に対する補助加熱電流の割合である相対ゼロ電界熱電子放出比が90%以上となるように補助加熱電流を流して、放電ランプを高周波点灯させる点灯手段と;を具備しているものである。
【0006】
タングステンコイルは、例えば二重コイル構造を有するメインワイヤの周囲にサブワイヤを巻いた、いわゆるトリプルコイルのものなどが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0007】
放電ランプは、例えば直管型のバルブを有する蛍光ランプなどが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0008】
点灯手段は、例えば直流電圧を高周波電圧に変換するインバータなどが用いられる。
【0009】
電極の固有電流値とは、タングステンコイルの冷抵抗値と、補助加熱電流を流して昇温させたときの抵抗値との比が4.75となるときの補助加熱電流値をいう。
【0010】
相対ゼロ電界熱電子放出比とは、放電電流に対する、電極における補助加熱電流の割合をいう。
【0011】
そして、放電ランプを高周波点灯させる点灯手段が、放電ランプに流れる放電電流を、電極の冷抵抗値(Rc)と電極に補助加熱電流を流して昇温させたときの抵抗値(Rh)との比(Rh/Rc)が4.75となるときの電極の固有電流値の50%以下とするとともに、放電電流に対する補助加熱電流の割合である相対ゼロ電解熱電子放出比が90%以上となるように補助加熱電流を流すことで、電極の温度分布がより平坦化され、放電ランプの長寿命化が図られる。
【0012】
請求項2記載の放電灯点灯装置は、請求項1記載の放電灯点灯装置において、エミッタは、アルカリ土類金属酸化物、および、全エミッタ量に対して0.1〜20質量%の金属窒化物を有しているものである。
【0013】
0.1〜20質量%の金属酸化物とは、全エミッタの重量に対して、金属窒化物が0.1〜20%の重量を占めることをいう。
【0014】
そして、エミッタが、アルカリ土類金属酸化物に加えて、全エミッタ量に対して0.1〜20質量%の金属窒化物を有することにより、熱電子の放出能力を確保しつつ電極の熱伝導率が向上され、電極の温度分布がより平坦化される。
【0015】
請求項3記載の放電灯点灯装置は、請求項2記載の放電灯点灯装置において、金属窒化物は、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ゲルマニウム、窒化ガリウムの少なくともいずれかであるものである。
【0016】
そして、金属窒化物を、比較的熱伝導率が高い窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ゲルマニウム、窒化ガリウムの少なくともいずれかとすることで、電極の熱伝導率がより向上され、電極の温度分布がより平坦化される。
【0017】
請求項4記載の放電灯点灯装置は、請求項1ないし3いずれか一記載の放電灯点灯装置において、点灯手段は、放電ランプの定常点灯状態ではエミッタ表面温度が950℃以下となるように放電ランプへの入力を制御するとともに、所定のタイミングではエミッタ表面温度が所定時間1000〜1300℃の範囲となるように放電ランプへの入力を制御するものである。
【0018】
エミッタ表面温度とは、輝度温度計によって測定される輝度温度である。
【0019】
所定のタイミングとしては、例えばエミッタが不活性になるタイミング、すなわちエミッタのスパッタリングが所定以上となったタイミングなどとする。
【0020】
そして、放電ランプの定常点灯状態ではエミッタ表面温度が950℃以下となるように放電ランプへの入力を制御することで、エミッタの蒸発が抑制されて長寿命化が図られるとともに、所定のタイミングではエミッタ表面温度が所定時間1000〜1300℃の範囲となるように放電ランプへの入力を制御することで、エミッタの不活性が防止される。
【0021】
請求項5記載の照明器具は、放電ランプが取り付けられる器具本体と;放電ランプを点灯制御する請求項1ないし4いずれか一記載の放電灯点灯装置と;を具備しているものである。
【0022】
照明器具は、屋外照明用、室内照明用、一般照明用、表示用などのいずれでもよいし、その形状もどのようなものでもよい。また、放電灯点灯装置は、器具本体と一体または別体のいずれでもよい。
【0023】
そして、請求項1ないし4いずれか一記載の放電灯点灯装置を備えることで、放電ランプの長寿命化が図られる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の放電灯点灯装置によれば、放電ランプを高周波点灯させる点灯手段が、放電ランプに流れる放電電流を、電極の冷抵抗値(Rc)と電極に補助加熱電流を流して昇温させたときの抵抗値(Rh)との比(Rh/Rc)が4.75となるときの電極の固有電流値の50%以下とするとともに、放電電流に対する補助加熱電流の割合である相対ゼロ電解熱電子放出比が90%以上となるように補助加熱電流を流すことで、電極の温度分布がより平坦化され、放電ランプの長寿命化を図ることができる。
【0025】
請求項2記載の放電灯点灯装置によれば、請求項1記載の放電灯点灯装置の効果に加えて、エミッタが、アルカリ土類金属酸化物に加えて、全エミッタ量に対して0.1〜20質量%の金属窒化物を有することにより、熱電子の放出能力を確保しつつ電極の熱伝導率を向上でき、電極の温度分布をより平坦化できる。
【0026】
請求項3記載の放電灯点灯装置によれば、請求項2記載の放電灯点灯装置の効果に加えて、金属窒化物を、比較的熱伝導率が高い窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ゲルマニウム、窒化ガリウムの少なくともいずれかとすることで、電極の熱伝導率をより向上でき、電極の温度分布をより平坦化できる。
【0027】
請求項4記載の放電灯点灯装置によれば、請求項1ないし3いずれか一記載の放電灯点灯装置の効果に加えて、放電ランプの定常点灯状態ではエミッタ表面温度が950℃以下となるように放電ランプへの入力を制御することで、エミッタの蒸発を抑制して長寿命化を図ることができとともに、所定のタイミングではエミッタ表面温度が1000〜1300℃の範囲となるように放電ランプへの入力を制御することで、エミッタの不活性を防止できる。
【0028】
請求項5記載の照明器具によれば、請求項1ないし4いずれか一記載の放電灯点灯装置を備えることで、放電ランプの長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の一実施の形態を図1ないし図6を参照して説明する。
【0030】
図1は放電灯点灯装置の回路ブロック図、図2は放電灯点灯装置の電極を示す正面図、図3は放電灯点灯装置の放電ランプを示す斜視図、図4は放電灯点灯装置を備えた照明器具の斜視図、図5は放電灯点灯装置の放電ランプを50kHzの正弦波で点灯したときの放電電流、電極電圧降下、および、電極近傍における混合ガスの一部の発光波形を示すグラフ、図6(a)は放電灯点灯装置の実施例の電極位置と温度との関係を示すグラフ、図6(b)は放電灯点灯装置の比較例の電極位置と温度との関係を示すグラフである。
【0031】
図4に示すように、照明器具11は器具本体12を有しており、この器具本体12の下面には反射面13が形成され、この反射面13の長手方向の両端にはランプソケット14,14が装着され、これらランプソケット14,14間には、放電ランプとしての直管型の蛍光ランプFLが電気的かつ機械的に取り付けられている。また、この器具本体12内には、図1に示す放電灯点灯装置16が収納されている。
【0032】
蛍光ランプFLは、図3に示すように、直管状のバルブBの両端部に電極であるフィラメントFLa,FLbが封装されている。
【0033】
バルブBは、管外径が例えば16mm、全長が1200mm程度のガラス管であり、内面に、3波長発光形の図示しない蛍光体が塗布されている。また、このバルブB内には、放電ガスとして、約5mgの水銀と、600Paの封入圧力の希ガス、例えばアルゴンとクリプトンとの混合ガスが封入されている。
【0034】
フィラメントFLa,FLbは、図2および図3に示すように、それぞれ図示しないエミッタが塗布されたタングステンコイル20を一対のインナリード21,21間に架橋して形成され、これらインナリード21,21と電気的に接続された接続ピン22,22を有する口金23,23によりバルブBの端部にそれぞれ取り付けられている。
【0035】
エミッタは、アルカリ土類金属酸化物と、全エミッタ量に対して0.1〜20質量%の金属窒化物とを有し、例えば約5mgがタングステンコイル20に塗布されている。
【0036】
アルカリ土類金属酸化物は、例えば酸化バリウムなどを含んでいる。
【0037】
金属窒化物は、金属と略同等の熱伝導率を有し、かつ、他の熱電子放出物の能力を妨げない、例えば窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ゲルマニウム、あるいは窒化ガリウムであり、本実施の形態では、窒化ケイ素とする。
【0038】
タングステンコイル20は、この種の蛍光ランプFLに一般的に用いられる、いわゆるトリプルコイル形状に形成されている。すなわち、タングステンコイル20は、タングステンコイルであるメインワイヤが2重コイルを形成し、このメインワイヤよりも細いタングステンワイヤであるサブワイヤを、メインワイヤの周囲に巻いた構造を有している。
【0039】
具体的に、タングステンコイル20は、例えばメインワイヤの直径寸法が0.07mm、MG単位で14.5MGである。なお、MG単位とは、タングステンワイヤやモリブデンワイヤなどの線の太さを表す単位として一般的に用いられており、長さ200mmの線の質量をmgで表した数値である。すなわち、MG単位で表した線の直径寸法をDMG、mm単位で表した線の直径寸法をDとすると、DMG=3016×Dで表される。
【0040】
また、室温におけるタングステンコイル20の両端間の抵抗値は、例えば1.48Ωであり、タングステンコイル20のエミッタが塗布される部分であるメインコイルの長さは、22.1mmに設定されている。
【0041】
そして、図1に示すように、放電灯点灯装置16は、直流電圧を出力する直流電源部25と、この直流電源部25から出力された直流電圧を数kHz〜数百kHz程度の高周波交流電圧に変換する点灯制御手段としての点灯回路26と、フィラメントFLa,FLbを補助加熱する補助加熱手段としての加熱回路27と、これら点灯回路26および加熱回路27を制御する制御回路28とを有しており、点灯回路26と加熱回路27とにより、点灯手段29が構成されている。
【0042】
直流電源部25は、例えば商用交流電源を、ブリッジダイオードおよびコンデンサなどを備えた図示しない整流平滑手段である整流平滑部により整流平滑した直流電圧を出力する。なお、この直流電源部25としては、直流電源を用いたり、チョッパ電源を用いたりするなど、直流電圧を出力する任意の構成とすることができる。
【0043】
点灯回路26は、例えば対をなす図示しないスイッチング素子である電界効果トランジスタを接続したフルブリッジ型、あるいはハーフブリッジ型などのインバータ回路である。各電界効果トランジスタのゲート端子は、制御回路28に接続され、それらのスイッチングが制御回路28によって制御される。
【0044】
加熱回路27は、蛍光ランプFLの始動時および点灯中において、蛍光ランプFLの両端を補助的に加熱して、フィラメントFLa,FLbに塗布されたエミッタから熱電子放出を行なわせるもので、本実施の形態では点灯回路26の出力によって付勢されるようになっている。また、加熱回路27には、この加熱回路27への入力を制御するためのスイッチング素子31が直列に設けられている。
【0045】
蛍光ランプFLのフィラメントFLaには、フィラメントFLa(フィラメントFLb)の予熱量、例えばフィラメント電流を検出する加熱量検出手段33が設けられている。詳細には、放電電流であるランプ電流ILおよび補助加熱電流Ithの和(IL+Ith)の2乗と補助加熱電流Ithの2乗との和を求めるようにしている。
【0046】
蛍光ランプFLには、ランプ電流ILを検出する電流検出手段35が直列に設けられている。この電流検出手段35は、例えば蛍光ランプFLの点灯検出手段としても用いることが可能である。
【0047】
そして、制御回路28は、点灯回路26の出力の制御およびスイッチング素子31のオンオフを制御するものであり、例えばIC、マイコン、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)などによって構成することができ、その機能として、演算制御部(CPU)、メインメモリ、プログラムメモリ、不揮発性メモリ、アナログ/デジタル変換器(A/D変換器)、インターフェース回路(I/F回路)などを備えている。
【0048】
また、制御回路28は、蛍光ランプFLの調光度合に応じたフィラメント加熱量を記憶している。この記憶内容としては、例えば、ランプ電流ILと、(IL+Ith)の2乗および補助加熱電流Ithの2乗の和との対応関係など、蛍光ランプFLの調光度合に応じて変化するランプ電流ILに対する適正なフィラメント加熱量を、フィラメント加熱状態を示す信号と放電ランプの調光点灯状態を示す信号との関係で規定するものであればよい。記憶する形態としては、データテーブルでも演算式でもよい。
【0049】
そして、この制御回路28は、必要に応じて、蛍光ランプFLの始動時の制御シーケンス、電流検出手段35からの検出信号に応じた制御を記憶しているとともに、制御を実行するようにしてもよい。
【0050】
この制御回路28は、加熱量検出手段33および電流検出手段35から入力された検出信号により蛍光ランプFLの点灯状態を監視しながら、入力された調光信号に応じて、蛍光ランプFLが所定の調光度合になるように点灯回路26の出力を変化させるとともに、電流検出手段35により検出したランプ電流ILに対応したフィラメント加熱量になるようにスイッチ素子31のオン期間を制御(オンデューティ制御)する。
【0051】
具体的に、制御回路28は、蛍光ランプFLに流れるランプ電流ILをフィラメントFLa,FLbの固有電流値(Itest)の50%以下とするとともに、相対ゼロ電界熱電子放出比(%ZFTE)が90%以上となるように補助加熱電流Ithを流して、蛍光ランプFLを高周波点灯させる。
【0052】
ここで、フィラメントFLa,FLbの固有電流値とは、タングステンコイル20の冷抵抗値、すなわち常温での抵抗値Rcと、補助加熱電流Ithを流して昇温させたときの抵抗値Rhとの比、すなわちRh/Rcが4.75となるときの補助加熱電流値を指し、タングステンコイル20の平均温度が約800℃となる補助加熱電流値をいう。この温度は、エミッタが塗布されたタングステンコイル20を有するフィラメントFLa,FLbから、充分な熱電子放出を得るために必要な温度である。当業者においては、この固有電流値は、フィラメントFLa,FLbの特性を表す指標として頻繁に用いられる。
【0053】
上記固有電流値は、室温(25℃)におけるタングステンコイル20の両端部間の抵抗値Rcを測定し、この測定した抵抗値Rcに対して、補助加熱電流Ithを流した状態でのタングステンコイル20の抵抗値Rhの比がRh/Rc=4.75となるときのその補助加熱電流値として求められる。なお、タングステンコイル20およびエミッタは熱容量が大きいため、補助加熱電流Ithを変化させた直後数秒間、抵抗値Rhが変動するものの、上述の測定における抵抗値Rhは安定値を指す。
【0054】
なお、上記フィラメントFLa,FLbの固有電流値は、例えば480mAである。
【0055】
また、相対ゼロ電界熱放出電流とは、ランプ電流ILに対する、フィラメントFLa,FLb前面における補助加熱電流Ithの割合(Ith/IL)をいう。フィラメントFLa,FLb前面における電流は、補助加熱電流Ith、2次電子電流Iγ、および、イオン電流Iionに分解することができ、それらの和はランプ電流ILに等しい。相対ゼロ電界熱放出電流が90%であるとは、Ith/IL=0.9であることを表す。
【0056】
蛍光ランプFLを高周波点灯したときの相対ゼロ電界熱放出電流は、例えば図5に示すように、陰極サイクルにおいてフィラメントFLa,FLbの降下電圧VEが急激に上昇する位相に対応したランプ電流をIZFTE、ランプ電流ILのピーク値をIPとすると、相対ゼロ電界熱放出電流=IZFTE/IPで求められる。なお、図5において、FはフィラメントFLa,FLbの近傍における混合ガス中のアルゴンの発光波形を示すグラフである。
【0057】
また、図1に戻って、制御回路28は、蛍光ランプFLの定常点灯状態では、エミッタ表面温度が950℃以下、好適には800〜950℃となるように蛍光ランプFLへの入力を制御しているとともに、所定のタイミング、例えばエミッタが不活性になるタイミング、すなわちエミッタのスパッタリングが所定以上となったタイミングなどでは、エミッタ表面温度が1000〜1300℃の範囲、好適には1000〜1100℃となるように蛍光ランプFLへの入力を制御している。このタイミングは、例えば蛍光ランプFLの始動からの点灯積算時間を記憶して、この点灯積算時間が所定の時間、例えば5時間となる毎に所定時間、例えば5秒間切り換えてもよい。なお、この切り換えの後、蛍光ランプFLの点灯積算時間がリセットされることはいうまでもない。
【0058】
また、制御回路28は、必要に応じて、電流検出手段35から検出したランプ電流ILが調光信号で設定された調光度合から外れた場合に点灯回路26の出力を制御して所定のランプ電流ILになるよう制御するようにしてもよい。
【0059】
次に、上記一実施の形態の作用を説明する。
【0060】
蛍光ランプFLの始動時には、制御回路28の始動シーケンス制御により、点灯回路26がフィラメント予熱出力をし、この出力により付勢された加熱回路27がタングステンコイル20に電流を流してフィラメントFLa,FLbを予熱し、適切な温度となったタイミングで点灯回路26がフィラメントFLa,FLb間に高電圧を印加することで、蛍光ランプFLを点灯始動させる。
【0061】
具体的に、フィラメントFLa,FLbは、高温になると、アルカリ土類金属酸化物中の酸化バリウムとタングステンコイル20との間に、次の式(1)のような化学反応が生じる。
【0062】
6BaO+W → Ba3WO6+3Ba ……(1)
【0063】
この結果生成された遊離バリウムが、フィラメントFLa,FLbの仕事関数を低下させることで、フィラメントFLa,FLbが良好な熱電子放出源となる。
【0064】
エミッタ内には、上記予熱状態で比較的多量の遊離バリウムが生成される。
【0065】
電流検出手段35の検出信号により蛍光ランプFLの点灯が検出されると、制御回路28は全点灯または設定された調光度合で点灯するよう点灯回路26の出力を制御する。
【0066】
この状態において、ランプ電流ILが電流検出手段35によって検出されることで、制御回路28は、この検出したランプ電流ILに対応したフィラメント加熱量を記憶しているデータまたは演算により、適切なフィラメント加熱量を検出し、このフィラメント加熱量と、加熱量検出手段33によって検出したフィラメントFLa,FLbの加熱量との対比に基づいて、例えば、検出したフィラメント加熱量が予め設定された所定の範囲外であるときには、範囲内になるようスイッチング素子31のオンデューティを制御する。すなわち、フィラメント加熱量が不足と判定された場合にはスイッチング素子31のオンデューティを大きくし、フィラメント加熱量が過剰と判定された場合にはスイッチング素子31のオンデューティを小さくする。
【0067】
これにより、フィラメントFLa,FLbの加熱量は所定の範囲内となり、加熱不足による蛍光ランプFLの短寿命化や、加熱過剰に伴うエミッタ飛散によるバルブBの黒化や電力損失を解消できる。
【0068】
同時に、制御回路28は、蛍光ランプFLに流れるランプ電流ILを、上記抵抗値Rcと抵抗値Rhとの比Rh/Rcが4.75となるときのフィラメントFLa,FLbの固有電流値の50%以下とするとともに、ランプ電流ILに対する補助加熱電流Ithの割合である相対ゼロ電界熱電子放出比(%ZFTE)が90%以上となるように補助加熱電流Ithを流すことで、蛍光ランプFLの定常点灯状態でエミッタ表面温度が950℃以下となるようにして、フィラメントFLa,FLbの温度分布を平坦化する。
【0069】
具体的に、ランプ電流ILを例えば150mA、補助加熱電流Ithを380mAとした本実施の形態の実施例では、相対ゼロ電界熱電子放出比は、略100%となった。また、フィラメントFLa,FLbの輝度温度(波長650nmにおける輝度温度)は、図6(a)のグラフに示すようになり、最高でも900℃未満となった。このとき、エミッタの消耗速さを見積もると、エミッタが枯渇するまでの時間は約10万時間となった。
【0070】
一方、比較例として、定格ランプ電流が150mA程度の放電ランプに一般的に使用されるもの、例えば上記実施例と同様に構成したバルブを備え、タングステンコイルのメインワイヤの直径を、0.031mm(2.9MG)としたものを用いて、相対ゼロ電界熱電子放出比やフィラメントの温度を測定した。したがって、比較例のタングステンコイルは、上記実施例のタングステンコイルに比べて、メインワイヤの直径が細い。そして、この比較例の室温におけるタングステンコイル両端の抵抗値は7.06Ω、メインコイルの長さは20.4mm、固有電流値は、200mAである。
【0071】
この比較例に対して、放電ランプに150mAのランプ電流を供給し、補助加熱電流を殆ど0として、上記実施例と同様に測定すると、相対ゼロ電界熱電子放出比が約80%となり、このとき、フィラメントの温度(波長650nmにおける輝度温度)は、図6(b)のグラフに示すように、最高で1000℃を超えるピーク部分が発生した。エミッタの消耗速さを見積もると、エミッタが枯渇するまでの時間は約1万時間となった。
【0072】
一般的に、温度が高いと上記式(1)の反応が促進されて、フィラメントFLa,FLbの仕事関数が低くなる。ところが、温度が高すぎると、遊離バリウム量が多くなりすぎるので、電極寿命が短くなる。一方、温度が低すぎると、仕事関数が高くなるので、スパッタリングによるエミッタの損耗が激しくなり、電極寿命が短くなる。
【0073】
従って、本実施の形態では、上述のように、フィラメントFLa,FLb(エミッタ)の温度分布を平坦化し、スポット状の高温部分を形成させないことで、エミッタの蒸発を最小限としつつ、必要最低限の熱電子放出が得られるためにエミッタのスパッタリングも軽減できるので、蛍光ランプFLの長寿命化を図ることができる。
【0074】
また、蛍光ランプFLの点灯中のフィラメントFLa,FLbの温度を比較的低くしたことで、遊離バリウムの生成速度は遅いが、必要最低限の熱電子放出が得られるものの、蛍光ランプFLや点灯回路26の特性のばらつきなどにより、フィラメントFLa,FLbの温度が許容範囲以下に低下する場合には、予熱時に生成された遊離バリウムがあることで、急速にフィラメントFLa,FLbの物質の損耗が増加することはないものの、この状態が長時間、例えば10時間以上継続すると、遊離バリウム量が不足して仕事関数が上昇しフィラメントFLa,FLbの損耗が激しくなるおそれがある。
【0075】
このため、蛍光ランプFLの定常点灯状態ではエミッタ表面温度が950℃以下、好適には800〜950℃となるように蛍光ランプFLへの入力を制御するとともに、エミッタのスパッタリングが所定以上となったなどの所定のタイミングではエミッタ表面温度が1000〜1300℃、好適には1000〜1100℃の範囲となるように、補助加熱電流Ithを所定の電流値、例えば550mAに増加させ、所定時間、例えば5秒程度維持した後、補助加熱電流Ithを元の電流値である380mAに戻すように蛍光ランプFLへの入力を制御することで、エミッタの不活性を防止でき、長寿命化を図ることができる。
【0076】
すなわち、エミッタの表面温度が950℃よりも高くなると、エミッタの蒸発が過剰となるので、エミッタの表面温度を950℃以下とすることで、エミッタの蒸発を最小限に抑制して寿命を確保できるとともに、エミッタの表面温度が800℃よりも低くなると、エミッタが不活性となりやすいので、エミッタの表面温度を800℃以上とすることで、エミッタの不活性を防止できる。
【0077】
また、エミッタの表面温度が1300℃よりも高くなると、エミッタの蒸発が過剰となり、エミッタの表面温度が1000℃よりも低くなると、充分な活性化ができないので、所定のタイミングではエミッタの表面温度を1000〜1300℃とすることで、エミッタの蒸発を抑制しつつ充分に活性化できる。
【0078】
さらに、エミッタが、アルカリ土類金属酸化物に加えて全エミッタ量に対して0.1〜20質量%の金属窒化物を備えることで、熱電子放出能力を確保しつつフィラメントFLa,FLbの熱伝導率を向上でき、フィラメントFLa,FLbの温度分布を、より平坦化できる。
【0079】
すなわち、エミッタの金属窒化物が、全エミッタ量に対して20%の分量よりも多いと、フィラメントFLa,FLbのエミッタが減少して熱電子放出能力が低下し、全エミッタ量に対して0.1%の分量より少ないと、フィラメントFLa,FLbの熱伝導率を充分に向上できないので、全エミッタ量に対して0.1〜20質量%の金属窒化物をエミッタに混入することで、熱電子放出能力を低下させることなく熱伝導率を確保できる。
【0080】
しかも、フィラメントFLa,FLbの熱伝導率を向上させるために通常の金属や金属酸化物などをエミッタに混入する場合には、これらの物質が反応によってフィラメントFLa,FLbを劣化させる水を生成する酸素などの物質を放出してしまい、製造面で好ましくないのに対して、金属窒化物、他の熱電子放出物の能力を妨げず、かつ、反応によってフィラメントFLa,FLbを劣化させる物質を放出したりすることもないので、フィラメントFLa,FLbに塗布するエミッタに混入する物質として好適である。
【0081】
また、金属窒化物を、金属と略同等の比較的高い熱伝導率を有する窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ゲルマニウム、窒化ガリウムの少なくともいずれかとすることで、フィラメントFLa,FLbの熱伝導率をより向上でき、フィラメントFLa,FLbの温度分布を、より平坦化できる。
【0082】
そして、このような放電灯点灯装置16を備えることで、上記照明器具11は、約10万時間の寿命を有するように長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施の形態を示す放電灯点灯装置の回路ブロック図である。
【図2】同上放電灯点灯装置の電極を示す正面図である。
【図3】同上放電灯点灯装置の放電ランプを示す斜視図である。
【図4】同上放電灯点灯装置を備えた照明器具の斜視図である。
【図5】一般的な放電灯点灯装置の放電ランプを50kHzの正弦波で点灯したときの放電電流、電極電圧降下、および、電極近傍における混合ガスの一部の発光波形を示すグラフである。
【図6】(a)は同上放電灯点灯装置の実施例の電極位置と温度との関係を示すグラフ、(b)は同上放電灯点灯装置の比較例の電極位置と温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0084】
11 照明器具
12 器具本体
16 放電灯点灯装置
20 タングステンコイル
29 点灯手段
B バルブ
FL 放電ランプとしての蛍光ランプ
FLa,FLb 電極であるフィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンコイルおよびこのタングステンコイルに塗布されたエミッタを有する一対の電極が封装されたバルブを備えた放電ランプと;
この放電ランプに流れる放電電流を、前記電極の冷抵抗値(Rc)と前記電極に補助加熱電流を流して昇温させたときの抵抗値(Rh)との比(Rh/Rc)が4.75となるときの固有電流値の50%以下とするとともに、放電電流に対する補助加熱電流の割合である相対ゼロ電界熱電子放出比が90%以上となるように補助加熱電流を流して、放電ランプを高周波点灯させる点灯手段と;
を具備していることを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項2】
エミッタは、アルカリ土類金属酸化物、および、全エミッタ量に対して0.1〜20質量%の金属窒化物を有している
ことを特徴とする請求項1記載の放電灯点灯装置。
【請求項3】
金属窒化物は、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ゲルマニウム、窒化ガリウムの少なくともいずれかである
ことを特徴とする請求項2記載の放電灯点灯装置。
【請求項4】
点灯手段は、放電ランプの定常点灯状態ではエミッタ表面温度が950℃以下となるように放電ランプへの入力を制御するとともに、所定のタイミングではエミッタ表面温度が所定時間1000〜1300℃の範囲となるように放電ランプへの入力を制御する
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の放電灯点灯装置。
【請求項5】
放電ランプが取り付けられる器具本体と;
放電ランプを点灯制御する請求項1ないし4いずれか一記載の放電灯点灯装置と;
を具備していることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−135035(P2009−135035A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311304(P2007−311304)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】