説明

故障検知機能付きATS−P地上子

【課題】電文記憶部43ばかりか送信部21,22や選択手段42まで故障を検知しうる故障検知機能付きATS−P地上子を簡便に改良して、一時的な現示リレーの動作重複時にも速度照査パターンの上位更新ができるようにする。
【解決手段】列車停止制御用の情報を含んだ送信用電文Maを軌道11上へ電波で送出する送信手段21,22と、その電波を受信して受信電文Mbを生成する受信手段23,24と、送信用電文Maと非送信用電文Mcとの複数組を電文記憶部43に保持していて送信用電文Maを送信手段21,22へ送る電文選択手段41と、受信電文Mbと非送信用電文Mcとを比較して一致していれば正常とし不一致であれば異常とする照合手段45とを備え、電文Ma,Mbの組には、正常電文同士の組と、正常電文と照合成立阻止用電文との組と、照合成立阻止用電文同士の組を含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道保安設備におけるトランスポンダ形のATS(自動列車停止装置)のうち鉄道線路の軌道に設置されるATS−P地上子に関し、詳しくは、信号機器具箱から信号機現示の情報を直接的に取り込むATS−P(N)地上子を改良して自装置内の回路等の故障を検知するようにした故障検知機能付きATS−P地上子に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来例1] 鉄道各社で、運転保安度の向上のため、ATS−Pシステムの導入が多くなっている。例えば東日本旅客鉄道株式会社の場合、首都圏の高密度線区には符号処理器(EC)と中継器(RP)と有電源地上子を組み合わせたシステムを設備している。このシステムでは符号処理器(EC)にフェールセーフコンピュータを用いており、符号処理器(EC)自体の故障診断の他に情報回線を介したFSK信号での電文の送受信で中継器(RP)や有電源地上子の故障検知ができる。この故障情報は保全区所等に出力されている。本システムは設備費の高いのが難点であるが、列車から列車番号や減速度などの情報を3.0MHzの情報波で受信できるため、運行管理や踏切制御にも利用されている(例えば非特許文献1,2参照)。ここでは、そのようなシステムATS−PI〜ATS−PIV(N)を中継器故障検出機能付きATS−Pシステムと呼ぶことにする。
【0003】
図11は、従来の中継器故障検出機能付きATS−Pシステムの構造を示し、(a)が地上設備の概要ブロック図、(b)が中継器故障検出機能付きATS−P地上装置のブロック図、(c)が電文フレーム構成図である。中継器は地上子と一体化されることもあるが、ここでは別体とする。
中継器故障検出機能付きATS−Pシステムは(図11(a)参照)、鉄道線路の軌道11を走行する列車12に搭載されている車上装置と、地上側に設置されている中継器故障検出機能付きATS−P地上装置とからなる。地上装置は、信号機13及び器具箱14(信号機器具箱)に対応して設けられ、軌道11に沿って設置されている。
【0004】
このATS−P地上装置は、一台の符号処理器と、一組または複数組の中継器および地上子とからなり、符号処理器は、中継器に電力DC135Vを供給するとともに、FSK(周波数シフトキーイング)方式の通信で中継器と交信するようになっている。中継器と地上子は、一対一で組にされ、信号機13から適宜な離隔位置に設置されている。
そして、符号処理器が器具箱14から信号機現示リレーGR,YRを入力してその現示情報や信号機13までの距離情報などを中継器へ送り、その情報を中継器が地上子を介して1.7MHzの電波で送信するので、そこへ走行して来た列車12の車上装置が速度照査パターンPの発生に役立つ情報を受信して列車停止制御を行う。なお、その車上装置から地上装置への情報伝達は3.0MHzの電波で行われるが、これ以降の説明では3.0MHz電波の受信と情報伝達については省略する。
【0005】
地上装置の内部構成について(図11(b)参照)、車上装置からの受信系を省略して、本願発明の説明に役立つ車上装置への送信系と故障検知系とを述べる。
符号処理器は、信号機現示リレーGR,YRに基づき信号機13の現示がG現示かY現示かR現示かを判別して対応する送信用電文Ma(図11(c)参照)を生成する電文生成手段と、送信用電文Maを中継器へ送信する変調手段と、中継器から返送されて来た受信電文Mbを取得する復調手段と、その送信用電文Maと受信電文Mbとを比較して一致しているか否かを調べる照合手段と、その照合結果が不一致であれば中継器か地上子が故障しているとして給電部に中継器への電力供給を絶たせる故障処理手段とを具えている。
【0006】
また、地上子は、1.7MHzの電波の送受信に適合したアンテナとして、地上から車上への情報伝達を担う送信コイル22(情報波アンテナ)と、送信コイル22から発した電波を照合に備えて受信する受信コイル23(送信確認用アンテナ)とを具えている。
さらに、中継器は、符号処理器に対して電文Ma,Mbを送受信するモデムと、送信用電文Maを1.7MHzの搬送波に乗せるとともに適度に信号増幅してから送信コイル22に送信させる変調回路21と、受信コイル23の受信信号から電文を復元して受信電文Mbを生成する復調回路24と、モデムと変調回路21及び復調回路24との間でタイミング調整用の電文蓄積などを行う論理部とを具えている。
【0007】
このような中継器故障検出機能付きATS−P地上装置では、符号処理器で生成された送信用電文Maが中継器の変調回路21等と地上子の送信コイル22を介して軌道11上へ電波で発信されるとともに、その電波から地上子の受信コイル23と中継器の復調回路24とで復元された受信電文Mbが中継器から符号処理器に返信され、符号処理器において送信用電文Maと受信電文Mbとが照合される。そして、送信用電文Maと受信電文Mbとが一致すれば電文伝達経路が総て正常であることが判るのに対し、両電文Ma,Mbが一致しないときには電文伝達経路の何処かが故障していることが判明する。
【0008】
しかも、故障検出に基づく安全性に関しては、符号処理器にフェールセーフコンピュータを採用して符号処理器の安全性を確保するとともに、そのような符号処理器にて送信用電文Maと受信電文Mbとの照合を行うことで中継器と地上子の安全性も高めていることから、中継器の論理部に一重系電子計算機を採用した場合でも、その故障検知が的確になされるので、地上装置は全体が安全でフェールセーフなものとなっている。なお、フェールセーフコンピュータは、例えば公知の多重系電子計算機(例えば特許文献1参照)で良く、そこでは、二系統のCPUの出力をフェールセーフ比較回路(FS比較回路)にて随時比較することで照合が実行されるようになっている。また、FS比較回路としては、いわゆる振り子回路を具有していて、一致状態の継続している間は、一定周期で交互に値の変化する交番信号を出力し、比較結果に不一致が検出されると、値の変化しない一定信号を出力する、というものが実績のあるFS比較回路として挙げられる。
【0009】
[従来例2] 一方、首都圏の高密度線区以外の線区では、符号処理器や中継器が不要で経済性が高いATS−P地上子であるATS−P(N)地上子を用いたシステムが設備されている。ATS−P(N)地上子は、列車から245kHzの電力波を受信したときのみ、信号機の現示に対応した電文を列車に送信する、という無電源地上子である(例えば非特許文献3,特許文献2参照)。電文照査に基づいて地上子自体の要部の故障検知を行うようになった電文照査機能付地上子もあるが(例えば特許文献3参照)、電力波を受信したときのみ動作する機器であるため、検知結果の保全区所などへの出力はない。上述した符号処理器や有電源地上子を具備する中継器故障検出機能付きATS−P地上装置に比べて、ATS−P(N)地上子は設備費用が半分以下である。ここでは、そのような電文照査機能付地上子を電文照査機能付きATS−P(N)地上子と呼ぶことにする。
【0010】
図12は、従来の電文照査機能付きATS−P(N)地上子30の構造を示し、(a)がATS−P(N)システムの地上設備の概要ブロック図、(b)が電文照査機能付きATS−P(N)地上子30のブロック図、(c)が電文フレーム構成図である。
ATS−P(N)システムも(図12(a)参照)、鉄道線路の軌道11を走行する列車12に搭載されている車上装置と、地上側に設置されているATS−P(N)地上装置とからなるが、地上装置には符号処理器や中継器が無く、器具箱14とケーブルで接続されてリレー信号伝送可能になっているATS−P(N)地上子が軌道11に沿って地上側に設置されている。
【0011】
ATS−P(N)地上子も、信号機13に対応して一台か複数台が設けられ、複数台の場合は信号機13から適宜な離隔位置に分散配置されて(図12(a)では地上子30,30a,30bを例示)、器具箱14から直接に信号機現示リレーGR,YRを入力し、その現示情報や信号機13までの距離情報などを1.7MHzの電波で送信するようになっている。また、ATS−P(N)地上子は無電源地上子になっており、そこへ走行して来た列車12の車上装置から245kHzの電力波が届くと、それを受信して動作電力を発生するようになっている。そして、列車12が軌道11を走行して例えば地上子30に接近すると、地上子30は、245kHzの電力波から電力を得て、信号機現示リレーGR,YRの入力と情報の電波送信とを行う。そのため、車上装置から地上装置への情報伝達が不要な路線では、ATS−S地上子と同じ感覚で使用されている。
【0012】
電文照査機能付きATS−P(N)地上子30は、そのような基本構成のATS−P(N)地上子に故障検知機能を付加したものであり、具体的には(図12(b)参照)、信号機現示リレーGR,YRに基づき信号機13の現示がG現示かY現示かR現示かを判別して対応する送信用電文Ma(図12(c)参照)を電文ROMから読み出して生成するとともに同一内容の非送信用電文Mcを別の電文ROMから読み出して生成する電文選択手段31と、それら複数の電文ROMから出力される2つの同一の電文同士Ma,Mcを照合する照合回路35と、1.7MHzの電波に適合した上述の変調回路21及び送信コイル22と、照合一致時には送信用電文Maを変調回路21にて車上へ送出するのを許容するが、照合不一致時には電文送出を変調回路21に禁止させる故障処理回路36とを具えている。
【0013】
また、地上子30は、無電源化のために、245kHzの電波の受信に適合した電力取得用電磁波アンテナである受信コイル38と、受信コイル38の受信信号から整流等で動作電力を発生させて各部21,31〜36へ供給する電源回路37も、具えている。
さらに、電文選択手段31は、送信用電文Maと非送信用電文Mcとを記憶保持した三つの第1〜第3電文ROMを具備した電文記憶部33と、各ROMに適宜なアドレスを送出して送信用電文Maと非送信用電文Mcとを三つずつ出力させる読出回路34と、器具箱14から出力された信号機現示リレーGR,YRのうちG現示リレーGRを中継リレーGPRで受けるとともにY現示リレーYRを中継リレーYPRで受けてリレーGPRの第1接点GPR1と第2接点GPR2とリレーYPRの第1接点YPR1と第2接点YPR2とのリレー回路にて三つの送信用電文Maから一つを選出して変調回路21に送出する選択回路32とを具えている。
【0014】
電文記憶部33の第1ROMには、G現示の情報を含んだG電文と、Y現示の情報を含んだY電文とが保持されており、第2ROMには、上述したY電文と、R現示の情報を含んだR電文とが保持されており、第3ROMには、上述したR電文とG電文とが保持されている。そして、G現示の場合、第1ROMのG電文が送信用電文Maとして読み出されるとともに、第3ROMのG電文が非送信用電文Mcとして読み出されて、両電文Ma,Mcが照合回路35で比較される。また、Y現示の場合、第2ROMのY電文が送信用電文Maとして読み出されるとともに、第1ROMのY電文が非送信用電文Mcとして読み出されて、両電文Ma,Mcが照合回路35で比較される。さらに、R現示の場合、第3ROMのR電文が送信用電文Maとして読み出されるとともに、第2ROMのR電文が非送信用電文Mcとして読み出されて、両電文Ma,Mcが照合回路35で比較される。
【0015】
このような電文照査機能付きATS−P(N)地上子30にあっては、複数の電文ROMから同一内容の電文を多重に生成して、一方は送信の対象になる送信用電文Maにするが他方は送信の対象にならない非送信用電文Mcとしたうえで、それらの送信用電文Maと非送信用電文Mcとの照合を行うことにより、自装置の故障とりわけ電文記憶部33の故障を検知することができるようになっている。
そのため、コストの嵩むフェールセーフコンピュータを用いないでも、自装置の故障を検知する機能が実現できるので、簡便かつ安価に安全性が確保される。
【0016】
ここで(図13参照)、器具箱14から出力される信号機現示リレーGR,YRが、最下位(危険状態・停止指示)のR現示から、中間の位(注意状態・徐行指示)のY現示を経て、最上位(安全状態・進行指示)のG現示へ、変化する場合について、信号波形を参照して説明する。この場合、理想的には(図13(a)参照)、G現示のリレーGRとY現示のリレーYRが共に落下状態から始まり、現示リレーYRだけが動作状態になって、その後で現示リレーGRが動作状態になると同時に現示リレーYRが落下状態になるのが望ましい。しかし、リレーの切替タイミングには無視できない不確定性・バラツキがあるため(図13(b)の破線部分を参照)、現示リレーYRの落下が早まるとともに現示リレーGRの動作が遅れたときには(図13(c)参照)、瞬時とは言え不所望なR電文(R現示対応の電文)が選択されてしまう。
【0017】
そこで(図13(d)参照)、そのような不都合を回避するために、現実の信号機現示リレーGR,YRのうち相対的に下位の方のY現示リレーYRについては、例えば落下時素の付いた緩放リレーの採用などによって、YRリレー落下延伸の機能が付加されており、現示リレーYRの落下タイミングが数百msほど遅れるようになっている。そのため、Y現示からG現示への状態遷移時に数百ms程度の一瞬ではあるが現示リレーGR,YRが共に動作状態になる時期が存在し、そのように複数の現示リレーGR,YRの動作が重複したときに地上子30で電文の読出が行われると、電文記憶部33からG電文とY電文が同時に読み出されて、それら両電文をビット毎に論理和演算したものが送信用電文Maになる。もっとも、このような送信用電文Maは、有効でなく、公知慣用の冗長符号チェック、具体的にはCRC検定にてエラーとされる無効なX電文なので(図13(d)では★印の付いた所を参照)、車上装置で受理されることなく無視される。そのため、一時的な現示リレーGR,YRの動作重複時はもちろんのこと、例えケーブル混触などでリレーGPR,YPRが共に動作状態になり続けたとしても、十分な安全性が確保されている(例えば非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2006−338094号公報
【特許文献2】特開平8−2414号公報(特許第3345179号)
【特許文献3】特開2001−199335号公報
【特許文献4】特願2011−008299号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】鉄道電気技術者のための信号概論「ATS・ATC」51−73頁 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成17年6月28日 改訂版2刷発行
【非特許文献2】宮地正和著「トランスポンダを用いたATS−Pシステムの安全性技術」鉄道総研報告、Vol.2、No.1、P.11〜17(1988)
【非特許文献3】鉄道電気技術者のための信号概論「ATS・ATC」73−74頁 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成17年6月28日 改訂版2刷発行
【非特許文献4】宮地正和著「ケーブル混触時のATS−Psの安全性」4−390〜4−391頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述したように、従来のATS−Pシステムでは、中継器故障検出機能付きATS−Pシステムの場合(上記従来例1参照)、変調回路を持つ中継器と送信コイルを持つ地上子とを纏めて符号処理器で診断するため信頼性が高いが、符号処理器にフェールセーフコンピュータが使用されるため設備費が嵩む。
これに対し、電文照査機能付きATS−P(N)地上子を用いるシステムの場合(上記従来例2参照)、符号処理器や中継器が不要で経済性が高いうえ、電文記憶部の故障検知を行うので安全性も高い。
【0021】
もっとも、従来の電文照査機能付きATS−P(N)地上子では、変調回路や送信コイルといった送信部についてまで故障を検知するようにはなっていない。このため、送信部の故障検知機能を追加すれば安全性が更に高まると期待される。
そして、その実現には、中継器故障検出機能付きATS−P地上装置の符号処理器による故障検知手法も取り込んで、その故障検知の結果と既存の電文記憶部の故障検知の結果とのうち何れか一方が故障であれば最終的な検知結果も故障として二つの故障検知結果を一つに統合するのが、近道と思われる。
【0022】
具体的には、変調回路21及び送信コイル22へ送られる送信用電文Maを生成する電文選択手段と、受信コイル23の受信信号から受信電文Mbを生成する復調手段と、両電文Ma,Mbを比較する第1照合手段とを中継器故障検出機能付きATS−P地上装置から引き継ぐとともに、送信対象の送信用電文Maに加えて送信対象外の非送信用電文Mcも生成する多重電文選択手段と、両電文Ma,Mcを比較する第2照合手段とを電文照査機能付きATS−P(N)地上子から引き継いだうえで、第1,第2照合手段の結果を一つに纏める統合手段を付加するのが、直截的で簡便な解決策と考えられる。
【0023】
しかしながら、このような直截的な構成では、フェールセーフコンピュータを用いないで比較的安価に実現できるとは言え、まだ煩雑であることから、更に工夫がなされ、その結果、電文記憶部ばかりか送信部や選択手段まで故障を検知しうる故障検知機能付きATS−P地上子であって、より簡素な構成のものが案出されている。
これは(特許文献4参照)、列車停止制御用の情報を含んだ送信用電文を軌道上へ電波で送出する送信手段と、前記電波を受信して受信電文を生成する受信手段と、前記送信用電文およびそれと同一内容の非送信用電文を電文記憶部の異なる記憶領域に保持していて前記電文記憶部から前記送信用電文を読み出して前記送信手段へ送るとともにそのとき前記非送信用電文の読出も行う電文選択手段と、前記受信電文と前記非送信用電文とを比較して一致していれば正常とし不一致であれば異常とする照合手段とを備えている。
【0024】
しかも、この故障検知機能付きATS−P地上子にあっては、前記電文記憶部が前記送信用電文と前記非送信用電文との組を複数保持しており、その複数組の電文は組内同士では同一内容であるが組間では信号機の現示の種類に対応して情報が異なっており、その複数組の電文のうちから前記信号機の現在の現示に対応したものを前記電文選択手段の読出対象にする選択手段が前記電文選択手段に組み込んで又は付加して設けられており、更に前記電文記憶部が組内同士で内容の異なる照合成立阻止用電文の組も保持しており、前記選択手段が前記信号機の現示の種類に対応しないものを読出対象にしたときには前記電文記憶部から前記送信用電文と前記非送信用電文との組に代えて前記の照合成立阻止用電文の組が読み出されるようになっている。
【0025】
そして、このような故障検知機能付きATS−P地上子にあっては、照合対象を受信電文と非送信用電文にしたことにより、上述の直截的構成より照合手段や統合手段が減って、簡素なものになっている。それでいて、電文記憶部に不具合が生じて送信用電文か非送信用電文の内容が損なわれたときばかりか、送信手段や受信手段に不具合が生じて送信用電文さらには受信電文の内容が損なわれたときも、受信電文と非送信用電文とが一致しなくなるので、何れの不具合も検知される。
【0026】
また、既述した従来例2と同様に情報源の信号機の現示が複数存在しているのに対応して送信用電文と非送信用電文との組が複数化されるとともに選択手段が設けられているが、それにとどまらず、組内同士で内容の異なる照合成立阻止用電文の組も電文記憶部に保持されるとともに、選択手段に不具合が生じて信号機の現示の種類に対応しないものが読出対象になったときには、照合成立阻止用電文の組が読み出され、それに対して送信用電文と非送信用電文とに係る処理が行われるようになっているので、受信電文と非送信用電文も一致しなくなって異常との照合結果が出るので、選択手段の不具合まで検出されることとなる。
【0027】
もっとも、このような改良によって故障検出能力が向上したとしても、Y現示からG現示へ信号の現示がアップする際にYRリレー落下延伸に起因して信号機現示リレーGR,YRが共に動作状態になったとき地上子が無効な電文(図13(d)において★印の付いたX電文を参照)を送信することまで防止されるようになったわけではない。そのような無効電文は車上装置に無視され安全性の確保を損なうものでないことは上述したところであるが、Y現示からG現示といった上位変化時に、地上子と車上子とが結合する所まで列車が進行しているにもかかわらず、例え短時間であっても信号機現示情報の伝達が遅れると、その分だけ車上装置における速度照査パターンPの上位更新も遅れ、それに起因して稀にではあるが、速度照査パターンPの速度を自列車速度Vが超過してブレーキが作動することがある。
【0028】
詳述すると(図14参照)、信号機13がR現示のときには(図14(a)参照)、車上装置の速度照査パターンPが確実な停止を確保しうる規制のものP(R)であり、R現示を目視確認した運転士が列車速度Vを下げて列車12を停止させる。それから、信号機13がY現示に上位変化すると(図14(b)参照,なお、信号機13aは信号機13の一つ先の信号機である)、Y現示を目視確認した運転士が列車速度Vを上げて列車12を信号機13に向けて進行させ始めるので、同時に速度照査パターンPが注意進行を課すY現示対応のP(Y)に上位更新されるのが望ましいが、未だ地上子30と列車12の車上子とが結合する所まで列車が進行していない場合、速度照査パターンPはR現示対応のP(R)のままであり、列車速度Vが小さいうちは速度照査パターンPに規制されることなく列車12が加速しながら信号機13に向かって進行する。
【0029】
そして(図14(c)参照)、地上子30と列車12の車上子とが結合する所まで列車が進行したときに、たまたま、信号機13がY現示からG現示へ上位変化して、YRリレー落下延伸の期間に入ってしまうと、地上子30から車上子へ向けて送信される電文が無効なX電文になるため、速度照査パターンPは全く更新されずR現示対応のP(R)のままであり続ける。これに対し、G現示を目視確認した運転士は列車速度Vを速やかに上げる操作を行うので、列車速度VがR現示対応の速度照査パターンP(R)に規制されて、列車12に自動ブレーキが掛けられることがある(図14(d)参照,なお、信号機13bは信号機13の二つ先の信号機である)。この場合、運転士は、目視で確認したG現示に反する規制が掛けられるので、違和感を感じる。
【0030】
上述した三現示より現示数の多い四現示や五現示などでは、上述したYRリレー落下延伸と同様のリレー落下延伸が、現示リレーの割り当ての無い最下位のR現示から上位現示への変化を除き、相対的に下位の現示から相対的に上位の現示へ変化するときには、下位の方のリレー信号について適用されるようになっている。そして、信号機の現示が下位から上位へ上がったときに地上子と車上子とが未だ結合せず、更に信号機の現示がより上位へ上がったときに地上子と車上子とが結合して、その結合開始タイミングがリレー落下延伸の期間に入り、速度照査パターン更新無しのまま加速して、速度照査パターンの規制を受けたときだけ、運転士が想定外の違和感を感じることになるのであるが、信号機の現示が下位から上位へ二段階以上も上がっているだけに違和感が大きい。そこで、複数の現示リレーについて動作状態が重複したときに、何れか一の現示を優先的に採用してでも、無効にならない有効な電文を送信させるようにして、速度照査パターンを速やかに更新させることが考えられる。
【0031】
例えば、電文記憶部から読出対象を選択する手段をリレー回路にて論理演算する構成として、現示リレーGR,YRが共に動作状態になったときにはG現示に対応したG電文が選択されるようにすることで、信号現示の遷移状態・過渡状態で複数の現示GR,YRが同時に動作状態になったときに地上子からの送信電文が車上で破棄されるという事態を簡便に回避することができる(例えば特許文献2段落0020及び図2参照)。
しかしながら、この手法は、電文読出以前に対象を絞り込むので、信号機現示に係るリレー状態の場合分けの数が少なくなるため、故障態様の切り分けが粗くなって、ケーブル等の混触や電文記憶部周りの選択手段の不具合まで含めた故障について不所望な検知能力の低下を招来しやすいので、故障検知機能付きATS−P地上子には採用しづらい。
【0032】
そこで、電文記憶部ばかりか送信部や選択手段まで故障を検知しうる上述の故障検知機能付きATS−P地上子(特許文献4参照)を前提として、簡素な構成を損なうことなく簡便に、一時的な現示リレーの動作重複時にも車上装置で速度照査パターンの上位更新ができるように地上子を改良することが、技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、列車停止制御用の情報を含んだ送信用電文を軌道上へ電波で送出する送信手段と、前記電波を受信して受信電文を生成する受信手段と、前記送信用電文およびそれと同一内容の非送信用電文を電文記憶部の異なる記憶領域に保持していて前記電文記憶部から前記送信用電文を読み出して前記送信手段へ送るとともにそのとき前記非送信用電文の読出も行う電文選択手段と、読み出した前記受信電文と前記非送信用電文とを比較して一致していれば正常とし不一致であれば異常とする照合手段とを備えた故障検知機能付きATS−P地上子であって、前記電文記憶部が前記送信用電文と前記非送信用電文との組を複数保持しており、その複数組の電文には,組内同士では同一内容であるが組間では信号機の現示の種類に対応して情報が異なっている正常電文同士の組と,一時的な現示リレーの動作重複に含まれる複数の現示のうち相対的に下位の現示に対応した情報を含んだ正常電文とそれとは内容の異なる照合成立阻止用電文との組とが含まれており、その複数組の電文のうちから前記信号機の現在の現示に対応したものを前記電文選択手段の読出対象にする選択手段が前記電文選択手段に組み込んで又は付加して設けられていることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の故障検知機能付きATS−P地上子は(解決手段2)、上記解決手段1の故障検知機能付きATS−P地上子であって、組内同士で内容が異なるうえ何れの電文も前記信号機の現示に対応しない照合成立阻止用電文同士の組も前記電文記憶部が保持しており、前記選択手段が前記信号機の現示の種類に対応しないものを読出対象にしたときには前記電文記憶部から前記の照合成立阻止用電文同士の組が読み出されるようになっていることを特徴とする。
【0035】
さらに、本発明の故障検知機能付きATS−P地上子は(解決手段3)、上記解決手段1,2の故障検知機能付きATS−P地上子であって、前記記憶領域に保持されている同一組内の前記送信用電文と前記非送信用電文とが、ビットレベルでは完全同一でなく、各ビットを反転させると完全同一になるものであり、前記照合手段が、比較しようとしている前記受信電文と前記非送信用電文との何れか一方をビット反転させてから電文比較を行うようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
このような本発明の故障検知機能付きATS−P地上子にあっては(解決手段1〜3)、解決課題の欄で述べた前提の故障検知機能付きATS−P地上子を改良して、一時的な現示リレーの動作重複時には、車上装置に無視される無効電文でなく、車上装置が受理する有効な正常電文が、地上子から車上子へ送信されるので、速度照査パターンの更新が遅れることなく迅速に行われる。しかも、その改良は、電文記憶部の保持内容を改変することで具現化されているので、構成の複雑化や回路規模の増大とは無縁である。
【0037】
また、一時的な現示リレーの動作重複時に送信される送信用電文は正常電文であってもそれと照合手段で比較される非送信電文は照合成立阻止用電文で両者は一致しないので、故障の検出能力が低下する訳ではない。このような一時的な現示リレーの動作重複に起因する不一致と、ケーブル混触などに起因する継続的な不一致は、不一致の連続の長短等にて簡便に切り分けられるからである。例えば既述した緩放リレーでの落下延伸手法の援用などで簡便に故障状態とそうでない過渡状態・遷移状態とが切り分けられる。
したがって、本発明によれば、電文記憶部ばかりか送信部や選択手段まで故障を検知しうる前提の故障検知機能付きATS−P地上子の特徴である簡素な構成を損なうことなく簡便に、一時的な現示リレーの動作重複時にも速度照査パターンの上位更新ができる故障検知機能付きATS−P地上子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例1について、三現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子の構造を示し、(a)が地上設備の概要ブロック図、(b)が故障検知機能付きATS−P地上子のブロック図、(c)が電文フレーム構成図である。
【図2】照合回路と出力回路の詳細ブロック図である。
【図3】電文選択手段の詳細ブロック図である。
【図4】選択回路の判別表と電文記憶部の記憶領域の割付表である。
【図5】(a),(b)何れも信号波形のタイムチャートであり、(a)が正常時の動作例を示し、(b)が混触故障時の動作例を示している。
【図6】(a)〜(d)何れも列車走行状態の模式図であり、正常時の列車走行状態を時系列で示している。
【図7】本発明の実施例2について、三現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子における選択回路の判別表と電文記憶部の記憶領域の割付表である。
【図8】本発明の実施例3について、四現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子における選択回路の判別表と電文記憶部の記憶領域の割付表である。
【図9】本発明の実施例4について、四現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子における選択回路の判別表と電文記憶部の記憶領域の割付表である。
【図10】本発明の実施例5について、五現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子における選択回路の判別表と電文記憶部の記憶領域の割付表である。
【図11】従来の中継器故障検出機能付きATS−Pシステムの構造を示し、(a)が地上設備の概要ブロック図、(b)がATS−P地上装置のブロック図、(c)が電文フレーム構成図である。
【図12】従来の電文照査機能付きATS−P(N)地上子の構造を示し、(a)が地上設備の概要ブロック図、(b)がATS−P(N)地上子のブロック図、(c)が電文フレーム構成図である。
【図13】(a)〜(d)何れも信号波形のタイムチャートである。
【図14】(a)〜(d)何れも列車走行状態の模式図であり、課題の生じる列車走行状態を時系列で示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
このような本発明の故障検知機能付きATS−P地上子について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜5により説明する。
図1〜6に示した実施例1は、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を総て具現化したものであり、図7に示した実施例2は、上述した解決手段1(出願当初の請求項1)を具現化したものであり、図8に示した実施例3や、図9に示した実施例4、図10に示した実施例5は、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものであり、上述した解決手段3(出願当初の請求項3)については[その他]欄で具体的に述べている。
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、機械的構造や,電気回路の詳細,電子回路の詳細などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心にブロック図で示した。
【実施例1】
【0040】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子の実施例1(三現示G,Y,R情報切替形)について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)が複数の故障検知機能付きATS−P地上子40,40a,40bを設置した地上設備の概要ブロック図、(b)がそのうちの一台の地上子40のブロック図、(c)が送信される電文フレームの構成図である。また、図2は、照合回路45と出力回路46の詳細ブロック図であり、図3は、電文選択手段41の詳細ブロック図であり、図4は、選択回路42の判別表と電文記憶部43の記憶領域の割付表である。
【0041】
故障検知機能付きATS−P地上子40は(図1(a)参照)、使い易い従来例2の電文照査機能付きATS−P(N)地上子30をベースにして、安全性の高い従来例1の中継器故障検出機能付きATS−P地上装置と同等のレベルまで故障検知機能を向上させたもので、しかも地上子30と同じく三現示情報切替形のもので、地上子30と同様、信号機13までの距離や信号機13の現示といった情報を車上装置へ提供する情報提供対象の信号機13と同じ軌道11に単独で又は同一構成の他の地上子40a,40b等と適宜離れて設置され、信号機13の器具箱14から信号機現示リレーGR,YRを入力して、その現示に対応した適宜な情報を含んだ電文を軌道11上へ1.7MHzの電波で送出するが、地上子30と異なり、器具箱14から直流電力DC135Vの給電を受けて常時動作する有電源地上子になっているので、列車12の車上装置から245kHzの電波を受けなくても良く、さらに正常か異常かの照合結果・故障検知結果をリレーNRM1(地上子40a,40bではNRM2,NRM3)の動作/落下状態として器具箱14へ常時出力するようになっている。
【0042】
内部構造を述べると(図1(b)参照)、地上子40は、列車停止制御用の情報を含んだ送信用電文Maを軌道11上へ電波で送出する送信手段21,22としての変調回路21及び送信コイル22と、その電波を受信して受信電文Mbを生成する受信手段23,24としての受信コイル23及び復調回路24とを、既述した中継器故障検出機能付きATS−P地上装置から引き継いでいる。また、既述した電文照査機能付きATS−P(N)地上子30からは電文選択手段31や照合回路35等の基本構成を踏襲しているが、そのまま引き継ぐのでなく、故障検知機能の強化と構成の簡素化のために改造しており、地上子40は、以下に詳述する構成のものとなった電文選択手段41と照合回路45と出力回路46とを具えている。有電源化のため電源回路47も具えている。
【0043】
電文選択手段41は(図1(b)参照)、リレー回路からなり信号機13の現示リレーGR,YRの接点出力を中継リレーGPR,YPRで受けてその現示G,Y,Rに対応した送信用電文Maを選出する選択回路42と、例えばEEPROMからなり送信用電文Maおよびそれと同一内容の非送信用電文Mcを異なる記憶領域に保持している電文記憶部43と、例えばカウンタ主体の回路からなりそのカウント値を送信用電文Maの変調タイミングに合わせてインクリメントする等のことで電文記憶部43の読出アドレスを生成する読出回路44とを具備していて、電文記憶部43から送信用電文Maを読み出して送信手段21,22の変調回路21へ送るとともに、その送信用電文Maの読出と並行して同一内容の非送信用電文Mcの読出も行うようになっている。なお、電文記憶部43からの両電文Ma,Mcの読出がビット単位であればラッチ等でタイミング調整を行うが(図3参照)、バイトやワード等の複数単位であればシフトレジスタ等でパラレル−シリアル変換を行うようにもなっている。
【0044】
選択回路42は(図4の左半分を参照)、リレーGPRの第1接点GPR1とリレーGPRの第2接点GPR2とリレーYPRの第1接点YPR1とリレーYPRの第2接点YPR2とがそれぞれ動作状態(↑)なのか落下状態(↓)なのかに応じて“1”か“0”かの一ビットを各接点に対応させることで、16進数で一桁分の部分アドレスを生成するようになっている。具体的には、信号機13がG現示のときには、各接点GPR1,GPR2,YPR1,YPR2が正常であれば、その接点状態が↑↑↓↓になるので、部分アドレス“C”を生成する。また、信号機13がY現示のときには、各接点GPR1,GPR2,YPR1,YPR2が正常であれば、その接点状態が↓↓↑↑になるので、部分アドレス“3”を生成する。
【0045】
さらに、信号機13がR現示のときには、各接点GPR1,GPR2,YPR1,YPR2が正常であれば、その接点状態が↓↓↓↓になるので、部分アドレス“0”を生成する。また、既述したYRリレー落下延伸による一時的な現示リレーGR,YRの動作重複時と、それら両リレー信号の伝送線が混触したときのような継続的な故障が発生したときには、各接点GPR1,GPR2,YPR1,YPR2が正常であれば、その接点状態が↑↑↑↑になるので、部分アドレス“F”を生成する(図では★印の付いた所を参照)。そして、それ以外の接点状態は、接点不良その他の故障時に発現する継続的な異常状態と考えられるので、部分アドレスとして他の値を生成するようになっている。
【0046】
電文記憶部43は(図4の右半分を参照)、そのような選択回路42の部分アドレス生成に対応して、16進数のアドレス表示で記憶領域“0C0”〜“0CF”及び記憶領域“1C0”〜“1CF”のそれぞれにG現示に対応した正常電文であるG電文を保持し、記憶領域“030”〜“03F”及び記憶領域“130”〜“13F”のそれぞれにY現示に対応した正常電文であるY電文を保持し、記憶領域“000”〜“00F”及び記憶領域“100”〜“10F”のそれぞれにR現示に対応した正常電文であるR電文を保持している。また、記憶領域“0F0”〜“0FF”にはG現示とY現示とのうち相対的に下位のY現示に対応した正常電文であるY電文を保持するが、記憶領域“1F0”〜“1FF”には照合成立阻止用電文“0…0”を保持している(図では★印の付いた所を参照)。
【0047】
さらに、電文記憶部43は、他のアドレスの記憶領域については、アドレス“0**”の所には照合成立阻止用電文“1…1”を保持し、アドレス“1**”の所には照合成立阻止用電文“0…0”を保持している。
G電文とY電文とR電文は、軌道11上へ送信されて車上装置が正常受信すると受理されて列車停止制御に供される有効電文であり、照合成立阻止用電文“1…1”は、軌道11上へ送信されて車上装置が受信してもCRCエラーで受理されない無効電文であり、照合成立阻止用電文“0…0”は、Y電文その他の正常電文と一致しないばかりか無効電文の照合成立阻止用電文“1…1”とも一致しない不一致電文である。
【0048】
また、電文選択手段41では、上記の電文記憶部43に対する16進数で三桁のアドレスのうち上位の一桁と下位の一桁を読出回路44が生成するとともに中間の一桁に選択回路42の生成した部分アドレスを嵌め込むことで、一方の記憶領域たとえば“000”〜“0FF”からは送信用電文Maが読み出され、他方の記憶領域たとえば“100”〜“1FF”からは非送信用電文Mcが読み出されるので、電文記憶部43は、送信用電文Maと非送信用電文Mcとの組を複数保持したものとなっている。
しかも、その送信用電文Maと非送信用電文Mcとの複数組の電文のうち、地上子40が正常なときには継続的に読出対象となりうる正常電文同士の組については、組内同士では同一内容であるが、組間では信号機13の現示の種類すなわちG現示かY現示かR現示かに対応して情報が異なるものとなっている。
【0049】
さらに、上記の送信用電文Maと非送信用電文Mcとの複数組の電文のうち、地上子40が正常なときには一時的な読出対象となりうる電文組であって混触等の故障時には継続的な読出対象となりうる正常電文と照合成立阻止用電文との組については(図では★印の付いた所を参照)、正常電文の方は、一時的な現示リレーGR,YRの動作重複に含まれる複数の現示G,Yのうち相対的に下位のY現示に対応した情報を含んだY電文となっており、照合成立阻止用電文の方は、Y電文と内容の異なる不一致電文となっている。また、選択回路42は、送信用電文Maと非送信用電文Mcとの複数組の電文のうちから信号機13の現在の現示に対応したものを電文選択手段41の読出対象にするものとなっている。なお、この地上子40では選択回路42が電文選択手段41に組み込まれた形になっているが、選択回路42を電文選択手段41の前段や後段に付加した形になっていても良い。
【0050】
さらに、電文記憶部43は、その記憶領域であって読出対象となりうる記憶領域のうち、継続的であれ一時的であれ正常時に読出対象となりうる送信用電文Maと非送信用電文Mcとの組を保持している記憶領域は別として、それ以外の記憶領域には、各ビット毎に反転した値を持つことで組内同士で内容の異なるものとなっている照合成立阻止用電文同士の組“1…1”,“0…0”を記憶保持している。また、選択回路42が信号機13の現示の種類に対応しないものを電文選択手段41の読出対象に選出したときには、電文記憶部43から上記の照合成立阻止用電文同士の組“1…1”,“0…0”が読み出されるようになっている。そして、全ビット“1”の照合成立阻止用電文“1…1”は送信用電文Maと同じく変調回路21へ送出され、,全ビット“0”の照合成立阻止用電文“0…0”は非送信用電文Mcと同じく照合回路45へ送出されるようになっている。
【0051】
照合回路45は(図2参照)、復調回路24から受信電文Mbを受けるとともに電文記憶部43から非送信用電文Mcを受けて、適宜な同期回路等で両電文Mb,Mcのタイミングをビットレベルまで同期させてから、両電文Mb,Mcを比較して、一致していれば照合結果を正常とし、不一致であれば照合結果を異常とするようになっている。しかも、照合回路45は、既述した公知で実績のある振り子回路を具備したフェールセーフな比較回路(FS比較回路)を主体に構成されていて、比較回路での比較結果が一致している状態が継続している間は、一定周期で交互に値の変化する交番信号を出力するが、比較結果に不一致が検出されると、値の変化しない一定信号を出力するものとなっている。
【0052】
出力回路46は(図2参照)、やはり公知で実績のあるフェールセーフなリレードライバからなり、照合回路45の照合結果を交番信号から直流信号のリレー駆動信号Bに変換してリレーNRM1を駆動するようになっている。また、出力回路46の出力するリレー駆動信号Bが照合回路45での短時間不一致に起因して一時的に落下状態(0)になっただけでリレーNRM1が感応するような不都合を回避するため、リレー落下延伸用のCR充放電回路14aがリレーNRM1の電磁コイルに並列接続されて、リレーNRM1が故障状態と過渡状態・遷移状態とを切り分ける緩放リレーになっている(図1(b),図2参照)。充放電回路14aの時定数は、リレーNRM1の感度を例えば数百ms程度まで緩和させるように設定されており、少なくとも、既述したYRリレー落下延伸に起因して生じる一時的な現示リレーの動作重複によるリレー駆動信号Bの一時落下にはリレーNRM1が感応しないようになっている。このような状態切り分けは出力回路46で行うようにしても良いが、本例は、慣用されている緩放リレーにて状態切り分け機能を簡便に具現化したものとなっている。
【0053】
電源回路47は(図1(b)参照)、器具箱14から直流電力DC135Vの給電を受けて各部21〜24,41〜46の動作電力を常時発生するようになっている。例えば、電文選択手段41や照合回路45にはDC5Vの直流電力を継続して供給し、出力回路46のトランジスタにはDC48Vの直流電力を継続して供給し、出力回路46の最終段がDC24Vの直流電力を継続して供給できるようにしている。
【0054】
なお(図1(c)参照)、G現示かY現示かR現示の情報を含んだ送信用電文Maのフレーム構成は、基本的に既述の従来例と同じHDLCフォーマットであるが、受信電文Mbと非送信用電文Mcとの同期採りが容易かつ確実に行えるよう、例えば二進数で“11111111”のアボートコード(ABT)が付加されている。また、送信用電文Maの代わりに送信手段21,22を介して軌道11上へ送信される可能性のある照合成立阻止用電文“1…1”は、上述したように、例え列車12の車上装置が受信したとしても不所望に受理されることがないよう、サイクリックリダンダンシーチェックコードCRCが不正な無効電文になっている。
【0055】
この実施例1の故障検知機能付きATS−P地上子40について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図1は、(a)が複数の故障検知機能付きATS−P地上子40,40a,40bの設置状況図、(b)が地上子40のブロック図、(c)が送信用電文MaとなりうるG電文とY電文とR電文と無効電文“1…1”のフレーム構成図である。また、図3は、電文選択手段41の詳細ブロック図であり、図4は、選択回路42の判別表と電文記憶部43の記憶領域の割付表である。
【0056】
さらに、図5は、(a),(b)何れも信号波形のタイムチャートであり、図6は、(a)〜(d)何れも列車走行状態の模式図である。そのうち、図5(a)と図6は、正常時の地上子40の動作例と列車12の走行状態を示しており、図5(b)は、混触故障時の地上子40の動作例を示している。
地上子40は、情報提供対象の信号機13と同じ軌道11に沿って同一構成の他の地上子40a,40bと適宜離れて設置され(図1(a)参照)、信号機13の器具箱14とケーブルで接続され、器具箱14からDC135Vの直流電力を受けて常時動作する。
【0057】
そして、随時、器具箱14から信号機現示リレーGR,YRの信号がケーブルを介して地上子40に送られ、地上子40に異常が無ければ現示リレーGR,YRの動作/落下状態に基づいて信号機13の現示に対応した適宜な情報を含んだ送信用電文Ma(図1(c)参照)が地上子40によって生成され(図1(b)参照)、更にその電文が軌道11上へ1.7MHzの電波で送出される(図1(a)参照)。そのため、軌道11を走行する列車12が地上子40に接近して、列車12の車上装置が上記電波を受信すると、受信電文から信号機13までの距離や信号機13の現示といった情報が車上装置に取得されて、その信号機現示がG現示なのかY現示なのかR現示なのかに応じて適切な速度照査パターンPが車上装置で生成され、それに基づいて列車12の列車停止制御が行われる。
【0058】
先ず、地上子40における送信用電文Maの生成や送信などについて詳述すると(図1(b),図3参照)、電文選択手段41に入力された信号機現示リレーGRの信号は選択回路42のリレーGPRの第1接点GPR1と第2接点GPR2にて二ビットの部分アドレスにされて電文記憶部43のアドレス指定に組み入れられ、信号機現示リレーYRの信号は選択回路42のリレーYPRの第1接点YPR1と第2接点YPR2にてやはり二ビットの部分アドレスにされて電文記憶部43のアドレス指定に組み入れられ、電文記憶部43のアドレス指定のうち残ビットの部分が読出回路44によって補われて、電文記憶部43の記憶領域のうちから読出対象が選出される。そして、異なる記憶領域の一方“000”〜“0FF”から送信用電文Maが読み出され他方“100”〜“1FF”から非送信用電文Mcが読み出される(図4参照)。
【0059】
このとき、信号機13がG現示であって、その信号に選択回路42が正しく応じれば、電文記憶部43の異なる記憶領域から送信用電文Maと非送信用電文Mcが読み出され、両電文Ma,Mcの内容は同じG電文(正常電文)になる。Y現示やR現示の場合も同様に同じY電文や同じR電文になる。また、YRリレー落下延伸にて一時的に現示リレーGR,YRの動作が重複したときには(図では★印の付いた所を参照)、送信用電文Maの内容が、下位の正常電文であるY電文になる一方、それと組をなす非送信電文Mcの内容は、不一致電文の照合成立阻止用電文“0…0”になる。さらに、リレーGPR,YPRに接点不良などの継続的な不具合がある場合には、送信用電文Maの内容が無効電文の照合成立阻止用電文“1…1”になるとともに、その電文とはビット反転状態で異なっている不一致電文の照合成立阻止用電文“0…0”が非送信用電文Mcの内容になる。何れの場合も(図1(a),(b)参照)、送信用電文Maは送信手段21,22によって軌道11上の列車12へ向けて送信され、それと同時に受信手段23,24によって受信電文Mbにされる。
【0060】
こうして送信用電文Maの生成に伴って非送信用電文Mcが生成されるとともに送信用電文Maの送信に応じて受信電文Mbが生成されると、両電文Mb,Mcは(図2参照)、照合回路45によって、ビット単位で同期が採られ、対応ビット毎に比較されて、総てが一致していれば照合結果が正常とされ、そうでなく不一致があれば照合結果が異常とされる。また、その照合結果は、出力回路46によってリレー駆動信号Bに変換されてから、ケーブルを介して器具箱14へ送出される。地上子40はケーブル接続先の器具箱14から供給されるDC135Vの直流電力を電源回路47で受けて常時動作することから、送信用電文Maの送信も、受信電文Mbと非送信用電文Mcとの照合による故障検知も、その照合結果の出力も、随時行われるので、故障が発生した時点で故障検知と外部通知ができるため、安全のためのバックアップ措置や地上子の取り替えが迅速にできる。
【0061】
また、信号機13の現示に対応したリレーGPR,YPRの動作/落下で送信する電文を切り替える点は従来のP(N)地上子の機能を踏襲しているが、送信用電文Maの候補がG電文とY電文とR電文だけでなく無効電文の照合成立阻止用電文“1…1”にも拡張され、非送信用電文Mcの候補が同一内容で正常時のG電文とY電文とR電文だけでなく反転内容で選択異常時の照合成立阻止用電文“0…0”にも拡張されている。そのため、選択回路42にリレー接点の不具合などが生じると、照合成立阻止用電文同士の組“1…1”,“0…0”が照合されて、異常の照合結果が出るので、故障が検出される。
【0062】
さらに、選択回路42が正常でも、電文記憶部43に不具合が生じて電文データが損なわれたときには、その電文が送信用電文Maや非送信用電文Mcとして読み出されるが、両電文Ma,Mcの記憶領域が異なるため、両電文Ma,Mcが同時に同一態様で損傷する確率は片方損傷や不同損傷に比べて無視できるほど小さいことから、両電文Ma,Mcが一致しない故障状態を考慮すれば足りるので、そうすると、受信信号から送信用電文Maを復元した受信電文Mbも非送信用電文Mcと一致しなくなって、異常の照合結果が出るので、電文記憶部43の不具合についても、故障が検出される。
【0063】
また、電文選択手段41が総て正常であっても、送信手段21,22や受信手段23,24に不具合が生じれば、送信用電文Maから受信電文Mbを得る過程で電文内容が損なわれて、受信電文Mbが送信用電文Maと同じでなくなり、送信用電文Maと同一内容の非送信用電文Mcとも受信電文Mbが同じでなくなるため、照合回路45から異常の照合結果が出されるので、送信手段21,22や受信手段23,24の不具合についても、故障があればそのことが検出される。
【0064】
さらに、照合回路45には電文比較用にフェールセーフな比較回路が採用されているが、その電文比較回路は、俗に振り子回路と呼ばれ、電子連動装置のバス・データ比較回路などで実績もあり、自身の回路故障で誤って交番信号を出す確率はゼロ(0)と言える。
しかも、出力回路46にはフェールセーフなリレードライバが採用されているので、出力回路46が自身の回路故障で誤って所定電圧を出力する確率もゼロ(0)と言える。
そのため、この故障検知機能付きATS−P地上子40は地上子全体がフェールセーフなものと言える。
【0065】
以上で信号機現示リレーGR,YRに応じたその時々の地上子40の動作を詳述したので、次に、信号機現示が、最下位(危険状態・停止指示)のR現示から、中間の位(注意状態・徐行指示)のY現示を経て、最上位(安全状態・進行指示)のG現示へ、変化した場合について説明する。地上子40も器具箱14も両者間のケーブルも総て正常な場合(図5(a)参照)と、ケーブルに混触が発生していて現示リレーGRと現示リレーYRのうち何れか一方でも動作状態になると中継リレーGPR,YPRが共に動作状態になってしまう継続的な故障の場合(図5(b)参照)について、以下、詳述する。
【0066】
地上子40等が正常な場合、信号機13がR現示のときには、現示リレーGR及び中継リレーGPRも現示リレーYR及び中継リレーGYRも落下状態であり(図5(a)の左側部分を参照)、地上子40では送信用電文MaがR電文で非送信電文McもR電文なのでリレー駆動信号Bが動作状態(1)になってリレーNRM1が動作状態を維持して正常であることを示し、列車12の車上装置では速度照査パターンPが確実な停止を確保しうるP(R)であり(図6(a)参照)、列車12ではR現示を目視確認した運転士が列車速度Vを下げて列車12を停止させる。
【0067】
それから、信号機13がY現示に上位変化すると(図6(b)参照)、現示リレーGR及び中継リレーGPRは落下状態を維持するが現示リレーYR及び中継リレーGYRが動作状態になり(図5(a)の中央部分を参照)、地上子40では送信用電文Maも非送信電文Mcも内容が切り替わるが何れもY電文になるのでリレー駆動信号Bは動作状態のままでリレーNRM1が動作状態を維持して正常であることを示し、列車12ではY現示を目視確認した運転士が列車速度Vを上げて列車12を信号機13に向けて進行させ始めるが(図6(b)参照,なお、信号機13aは信号機13の一つ先の信号機である)、未だ地上子40と列車12の車上子とが結合する所まで列車12が進行していない場合、速度照査パターンPがY現示対応のP(Y)に上位更新されないでR現示対応のP(R)のままであるが、列車速度Vが小さいうちは速度照査パターンPに規制されることなく列車12が加速しながら信号機13に向かって進行する。
【0068】
そして、列車12が進行してその車上子が地上子40と結合すると、車上装置の速度照査パターンPがY現示対応のP(Y)に上位更新される(図6(c)参照,なお、信号機13bは信号機13の二つ先の信号機である)。解決課題の欄で既述したのと同様、地上子40と列車12の車上子とが結合する所まで列車が進行したときに、たまたま、信号機13がY現示からG現示へ上位変化して、YRリレー落下延伸の期間に入ってしまった場合でも(図5(a)において★印の付いた所を参照)、地上子40から車上子へ向けて送信される電文Maは有効に受信されるY電文になるため、速度照査パターンPはR現示対応のP(R)からY現示対応のP(Y)に上位更新される(図6(c)参照)。このように速やかに速度照査パターンPが上位更新されるので、G現示を目視確認した運転士が列車速度Vを速やかに上げる操作を行ったとしても、直ちに列車速度Vが速度照査パターンP(R)に規制される可能性はほとんどない。
【0069】
また、YRリレー落下延伸時に地上子40では(図5(a)において★印の付いた所を参照)、現示リレーGR及び中継リレーGPRも現示リレーYR及び中継リレーGYRも動作状態になって、送信用電文Maの内容が上述したように正常電文のY電文になるのに対し、非送信電文Mcの内容は不一致電文の照合成立阻止用電文“0…0”になるので、リレー駆動信号Bが数百msほどの短時間だけ落下状態になるが、リレーNRM1はそれに応動しない緩放リレーなので動作状態を維持して正常であることを示し続ける。
【0070】
そして、瞬く間にYRリレー落下延伸の期間が過ぎると(図5(a)の右側部分参照)、現示リレーGR及び中継リレーGPRは動作状態を維持するのに対し現示リレーYR及び中継リレーGYRが落下状態になり、地上子40では送信用電文Maも非送信電文Mcも内容が切り替わるが何れもG電文になるのでリレー駆動信号Bは動作状態に戻りリレーNRM1が動作状態を維持して正常であることを示す。
【0071】
一方、ケーブル等に混触が発生していて現示リレーGRと現示リレーYRのうち何れか一方でも動作状態になると中継リレーGPR,YPRが共に動作状態になってしまう継続的な故障の場合(図5(b)参照)、信号機13がR現示のときには、現示リレーGR及び中継リレーGPRも現示リレーYR及び中継リレーGYRも落下状態であり(図5(b)の左側部分を参照)、地上子40では送信用電文MaがR電文で非送信電文McもR電文なのでリレー駆動信号Bが動作状態になってリレーNRM1が動作状態を維持して正常であることを示すので、この現示状態では未だ混触故障が潜在化しているが、地上子40から軌道11上へ送信される電文がR電文なので列車運行の安全性は維持されている。
【0072】
そして、信号機13がR現示からY現示に上位変化すると(図5(b)の左側から中央寄りの部分を参照)、現示リレーGRが落下状態を維持したまま現示リレーYRが動作状態になるが、混触のため地上子40の中継リレーGPR,YPRはリレーYPRばかりかリレーGPRまで動作状態になる。そして、地上子40では、送信用電文Maも非送信電文Mcも内容が切り替わり、送信用電文Maの内容は有効電文のY電文になるが、非送信電文Mcの内容は不一致電文の照合成立阻止用電文“0…0”になるので、リレー駆動信号Bが落下状態になる。この落下状態は、リレー落下延伸時のような一時的なものでなく、Y現示がなされている間さらにはG現示になっても維持されるので、大抵、CR充放電回路14aで決まるリレーNRM1の落下時素より長く維持され、その落下時素の経過後にリレーNRM1が落下するので、故障状態が顕在化する。
【実施例2】
【0073】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子の実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図7は、選択回路42の判別表と電文記憶部43の記憶領域の割付表である。
この故障検知機能付きATS−P地上子が上述した実施例1のものと相違するのは、選択回路42及び電文記憶部43に係る場合分けに関し中継リレーGPR,YPRから採用される接点が二つずつから一つずつに減って場合の数が16から4になった点である。
【0074】
具体的には、選択回路42では、現示リレーGR,YRのとりうる状態↑↓,↓↑,↓↓,↑↑に応じて、部分アドレス“2”,“1”,“0”,“3”を生成することで、G現示,Y現示,R現示,重複/故障の四つに場合分けする。そのうち最初から三つは、継続的に正常な場合であり、最後の一つは(図では★印の付いた所を参照)、一時的な現示リレーGR,YRの動作重複時か混触等の故障の場合である。また、そのような部分アドレス生成に対応して、電文記憶部43には、送信用電文Maと非送信電文Mcとの組データとして、G電文とG電文との組,Y電文とY電文との組,R電文とR電文との組,Y電文と不一致電文との組が記憶保持される。そのうち最初から三つは正常電文同士の組であり、最後の一つは(図では★印の付いた所を参照)、正常電文と照合成立阻止用電文との組であり、正常電文のY電文は、G現示より下位のY現示に対応している。
【0075】
この場合、場合分けに中継リレーGPR,YPRから用いる接点の数が少なくなった分だけ、選択回路42のリレーの不具合に対する検出能が弱くはなるが、他の故障検出能や動作等は、上述した実施例1の地上子40と同様である。
【実施例3】
【0076】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子の実施例3について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図8は、選択回路42の判別表と電文記憶部43の記憶領域の割付表である。
【0077】
この故障検知機能付きATS−P地上子は、四現示(G,YG,Y,R)に適合したものであり、選択回路42では、現示リレーGR,YGR,YRのとりうる状態↑↓↓,↓↑↓,↓↓↑,↓↓↓,↑↑↓,↑↓↑,↓↑↑,↑↑↑に応じて、部分アドレス“4”,“2”,“1”,“0”,“6”,“5”,“3”,“7”を生成することで、G現示,YG現示,Y現示,R現示,重複/故障,重複/故障,重複/故障,故障の八つに場合分けするようになっている。そのうち最初から四つは、継続的に正常な場合であり、それに続く中間の三つは(図では★印の付いた所を参照)、一時的な現示リレーGR,YGR,YRの動作重複時か或いは混触等の故障の場合であり、最後の一つは故障の場合である。
【0078】
また、そのような部分アドレス生成に対応して、電文記憶部43には、送信用電文Maと非送信電文Mcとの組データとして、G電文とG電文との組,YG電文とYG電文との組,Y電文とY電文との組,R電文とR電文との組,YG電文と不一致電文との組,Y電文と不一致電文との組,Y電文と不一致電文との組,無効電文と不一致電文との組が記憶保持される。そのうち最初から四つは正常電文同士の組であり、それに続く中間の三つは(図では★印の付いた所を参照)、正常電文と照合成立阻止用電文との組であり、正常電文について、YG電文はG現示より下位のYG現示に対応しており、Y電文はG現示やYG現示より下位のY現示に対応している。最後の一つは、照合成立阻止用電文同士の組である。
【実施例4】
【0079】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子の実施例4について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図9は、選択回路42の判別表と電文記憶部43の記憶領域の割付表である。
【0080】
この故障検知機能付きATS−P地上子は、四現示(G,Y,YY,R)に適合したものであり、選択回路42では、現示リレーGR,YR,YYRのとりうる状態↑↓↓,↓↑↓,↓↓↑,↓↓↓,↑↑↓,↑↓↑,↓↑↑,↑↑↑に応じて、部分アドレス“4”,“2”,“1”,“0”,“6”,“5”,“3”,“7”を生成することで、G現示,Y現示,YY現示,R現示,重複/故障,重複/故障,重複/故障,故障の八つに場合分けするようになっている。そのうち最初から四つは、継続的に正常な場合であり、それに続く中間の三つは(図では★印の付いた所を参照)、一時的なGR,YR,YYRの動作重複時か或いは混触等の故障の場合であり、最後の一つは故障の場合である。
【0081】
また、そのような部分アドレス生成に対応して、電文記憶部43には、送信用電文Maと非送信電文Mcとの組データとして、G電文とG電文との組,Y電文とY電文との組,YY電文とYY電文との組,R電文とR電文との組,Y電文と不一致電文との組,YY電文と不一致電文との組,YY電文と不一致電文との組,無効電文と不一致電文との組が記憶保持されている。そのうち最初から四つは正常電文同士の組であり、それに続く中間の三つは(図では★印の付いた所を参照)、正常電文と照合成立阻止用電文との組であり、正常電文について、Y電文はG現示より下位のY現示に対応しており、YY電文はG現示やY現示より下位のYY現示に対応している。最後の一つは、照合成立阻止用電文同士の組である。
【実施例5】
【0082】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子の実施例5について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図10は、選択回路42の判別表と電文記憶部43の記憶領域の割付表である。
【0083】
この故障検知機能付きATS−P地上子は、五現示(G,YG,Y,YY,R)に適合したものであり、選択回路42では、現示リレーGR,YGR,YR,YYRのとりうる状態↑↓↓↓,↓↑↓↓,↓↓↑↓,↓↓↓↑,↓↓↓↓,↑↑↓↓,↓↑↑↓,↓↓↑↑,↑↓↑↓,↑↓↓↑,↓↑↓↑,↑↑↑↓,↑↑↓↑,↑↓↑↑,↓↑↑↑,↑↑↑↑に応じて、部分アドレス“8”,“4”,“2”,“1”,“0”,“C”,“6”,“3”,“A”,“9”,“5”,“E”,“D”,“B”,“7”,“F”を生成することで、G現示,YG現示,Y現示,YY現示,R現示,重複/故障,重複/故障,重複/故障,重複/故障,重複/故障,重複/故障,故障,故障,故障,故障,故障の十六に場合分けするようになっている。そのうち最初から五つは、継続的に正常な場合であり、それに続く中間の六つは(図では★印の付いた所を参照)、一時的なGR,YGR,YR,YYRの動作重複時か或いは混触等の故障の場合であり、最後の五つは故障の場合である。
【0084】
また、そのような部分アドレス生成に対応して、電文記憶部43には、送信用電文Maと非送信電文Mcとの組データとして、G電文とG電文との組,YG電文とYG電文との組,Y電文とY電文との組,YY電文とYY電文との組,R電文とR電文との組,YG電文と不一致電文との組,Y電文と不一致電文との組,YY電文と不一致電文との組,Y電文と不一致電文との組,YY電文と不一致電文との組,YY電文と不一致電文との組,無効電文と不一致電文との組,無効電文と不一致電文との組,無効電文と不一致電文との組,無効電文と不一致電文との組,無効電文と不一致電文との組が記憶保持されている。そのうち最初から五つは正常電文同士の組であり、それに続く中間の六つは(図では★印の付いた所を参照)、正常電文と照合成立阻止用電文との組であり、正常電文について、YG電文はG現示より下位のYG現示に対応しており、Y電文はG現示やYG現示より下位のY現示に対応しており、YY電文はG現示やYG現示さらにはY現示より下位のYY現示に対応している。最後の一つは、照合成立阻止用電文同士の組である。
【0085】
[その他]
なお、上記実施例では、電文記憶部43,53に保持されている同一組内の送信用電文Maと非送信用電文Mcとがビットレベルまで完全に同一であったが、同一組内の送信用電文Maと非送信用電文Mcは、ビットレベルまで完全に同一でなくても良く、具体的には、各ビットを反転させると完全同一になるものであっても良い。その場合、照合回路45に対して、復調回路24から受けた受信電文Mbについて各ビットを反転させるビット反転回路を前置するか、電文記憶部53から読み出された非送信用電文Mcについて各ビットを反転させるビット反転回路を前置するか、何れかの改造を施しておけば良い。
【0086】
また、上記実施例3〜5では、選択回路42及び電文記憶部43に係る場合分けに関して、各中継リレーから採用される接点が一つずつであったが、上記実施例1に準じて各中継リレーから二つずつ接点を採用しても良い。さらに、上記実施例1〜5について、各中継リレーから三つ以上の接点を場合分けに用いるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の故障検知機能付きATS−P地上子は、列車から列車番号や減速度などの情報を受信するのを排除するものでなく、そのような情報を受信する回路を併存させても良い。
【符号の説明】
【0088】
11…軌道(鉄道線路)、12…列車(車上装置)、13…信号機、
14…器具箱、14a…CR充放電回路(落下時素,リレー落下延伸回路)
21…変調回路(増幅回路)、22…送信コイル(情報波アンテナ)、
23…受信コイル(送信確認用アンテナ)、24…復調回路、
30,30a,30b…地上子、
31…電文選択手段(多重)、32…選択回路、33…電文記憶部(ROM)、
34…読出回路、35…照合回路、36…故障処理回路、
37…電源回路、38…受信コイル(電力取得用電磁波アンテナ)、
40,40a,40b…地上子、
41…電文選択手段(多重)、42…選択回路、43…電文記憶部(ROM)、
44…読出回路、45…照合回路(FS比較回路)、
46…出力回路(FSリレードライバ)、47…電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車停止制御用の情報を含んだ送信用電文を軌道上へ電波で送出する送信手段と、前記電波を受信して受信電文を生成する受信手段と、前記送信用電文およびそれと同一内容の非送信用電文を電文記憶部の異なる記憶領域に保持していて前記電文記憶部から前記送信用電文を読み出して前記送信手段へ送るとともにそのとき前記非送信用電文の読出も行う電文選択手段と、読み出した前記受信電文と前記非送信用電文とを比較して一致していれば正常とし不一致であれば異常とする照合手段とを備えた故障検知機能付きATS−P地上子であって、前記電文記憶部が前記送信用電文と前記非送信用電文との組を複数保持しており、その複数組の電文には,組内同士では同一内容であるが組間では信号機の現示の種類に対応して情報が異なっている正常電文同士の組と,一時的な現示リレーの動作重複に含まれる複数の現示のうち相対的に下位の現示に対応した情報を含んだ正常電文とそれとは内容の異なる照合成立阻止用電文との組とが含まれており、その複数組の電文のうちから前記信号機の現在の現示に対応したものを前記電文選択手段の読出対象にする選択手段が前記電文選択手段に組み込んで又は付加して設けられていることを特徴とする故障検知機能付きATS−P地上子。
【請求項2】
組内同士で内容が異なるうえ何れの電文も前記信号機の現示に対応しない照合成立阻止用電文同士の組も前記電文記憶部が保持しており、前記選択手段が前記信号機の現示の種類に対応しないものを読出対象にしたときには前記電文記憶部から前記の照合成立阻止用電文同士の組が読み出されるようになっていることを特徴とする請求項1記載の故障検知機能付きATS−P地上子。
【請求項3】
前記記憶領域に保持されている同一組内の前記送信用電文と前記非送信用電文とが、ビットレベルでは完全同一でなく、各ビットを反転させると完全同一になるものであり、前記照合手段が、比較しようとしている前記受信電文と前記非送信用電文との何れか一方をビット反転させてから電文比較を行うようになっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された故障検知機能付きATS−P地上子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate