故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラム
【課題】ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる故障点標定システムを提供する。
【解決手段】ノイズレベル最大値検出部によって、差分絶対値データのノイズレベル最大値検出区間Tnのノイズレベル最大値Vnを求める。次に、サージ波形ピーク点検出部によって、サージ波形ピーク点検出区間Tpの最初の極大点であるピーク点P1を検出する。次に、サージ波形到達時刻演算部によって、サージ波形ピーク点検出区間Tpの始点である点PV2から400個目まで逆方向(時間を遡る方向)にVnを最初に下回る点P2を検出する。そして、サージ波形到達時刻演算部によって、ピーク点P1と点P2を結ぶ直線のゼロクロス点P0をサージ波形の立ち上がり点とする。
【解決手段】ノイズレベル最大値検出部によって、差分絶対値データのノイズレベル最大値検出区間Tnのノイズレベル最大値Vnを求める。次に、サージ波形ピーク点検出部によって、サージ波形ピーク点検出区間Tpの最初の極大点であるピーク点P1を検出する。次に、サージ波形到達時刻演算部によって、サージ波形ピーク点検出区間Tpの始点である点PV2から400個目まで逆方向(時間を遡る方向)にVnを最初に下回る点P2を検出する。そして、サージ波形到達時刻演算部によって、ピーク点P1と点P2を結ぶ直線のゼロクロス点P0をサージ波形の立ち上がり点とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムに関し、詳しくは、サージ到達時間差に基づいて故障点を標定する故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
サージ到達時間差型の故障点標定システムにおいて、サージ到達時刻を正確に求めることは故障点標定精度を向上させる上で重要である。
【0003】
従来の第1の故障点標定システムとしては、サージ検出時点を故障時点とするのではなく、サージ検出時点から波形を遡ってサージ開始認定時点を過ぎるサンプル点まで戻り、そこをサージ発生時点としてその時刻を用いることにより、故障点を標定するものがある(例えば、特許第3527432号(特許文献1))。
【0004】
また、従来の第2の故障点標定システムとしては、ノイズ成分によるサージ検出時点の推定誤差を避けるためにサブバンドフィルタを用い、線路の両端で観測された波形の同じ周波数帯の波形成分のみで立ち上がり時点を判定するものがある(例えば、特許第3844757号(特許文献2))。
【0005】
しかしながら、上記第1,第2の故障点標定システムでは、ノイズ成分のレベルは一定ではなく、また、サージ開始判定時点においては既にサージが到達してからいくらかの時間が経過しているので、サージ波形の立ち上がりが緩やかな場合は、実際のサージ立ち上がり時点とサージ立ち上がり判定時点との間に無視できない時間差が発生していた。また、故障時に発生するサージよりも振幅が小さいノイズ成分にも、ほぼ同じ周波数帯のノイズが含まれている場合があり、それらは標定結果の誤差要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3527432号
【特許文献2】特許第3844757号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明の課題は、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の故障点標定システムは、
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第1波形記録装置と、
上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第2波形記録装置と、
上記第1,第2波形記録装置に記録された上記サージ波形データに基づいて、上記サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置と
を備え、
上記第1,第2波形記録装置は、
上記サージ波形の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出する起動点検出部と、
上記起動点検出部が上記起動点を検出すると、上記起動点の前後の上記サージ波形データを記憶する記憶部とを夫々有し、
上記故障点標定装置は、
上記第1,第2波形記録装置の上記記憶部に記憶された上記サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Taと上記第2波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部と
を有することを特徴とする。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0009】
ここで「送電線」とは、電気鉄道のき電系統または高圧配電系統の電線や、電力の送電系統または配電系統の電線などを含む。
【0010】
上記構成によれば、第1,第2波形記録装置の記憶部に記憶されたサージ波形データの夫々に対して、故障点標定装置は、移動平均演算(積分効果)と差分演算(微分効果)によるフィルタリング処理を行うことにより、ノイズ成分を低減すると共に商用周波数の交流成分を除去した後に、起動点前のサージ波形データにノイズレベル最大値検出区間を設けてノイズレベル最大値Vnの検出を行う。これによって検出されたノイズレベル最大値Vn以下のノイズ領域では、サージ波形の立ち上がり点が存在したとしてもそれを直接検出することは困難である。そこで、故障点標定装置では、第1,第2波形記録装置のフィルタリング処理がされたサージ波形データの夫々に対して、ノイズ領域を脱する直前の点P2(サージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点)と、ノイズ領域を脱して最初の極大点に至ったピーク点P1(起動点側に最も近い極大点であるサージ波形のピーク点)とを通る直線のゼロクロス点を求め、そのゼロクロス点の時間軸上の時刻をサージ波形到達時刻(サージ波形の立ち上がり点の時刻)とする。そうして求めた第1波形記録装置側のサージ波形到達時刻Taと第2波形記録装置側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、上記式により送電線の一端または送電線の予め定められた区間の一端からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する。
【0011】
これによって、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【0012】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記第1,第2波形記録装置は、
GPS(Global Positioning Satellite:全地球測位システム)衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する時計部を有し、
上記時計部からの時刻情報に基づいて、上記サージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形データを上記記憶部に記憶する。
【0013】
上記実施形態によれば、第1,第2波形記録装置の夫々の時計部は、GPS衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する。そして、第1,第2波形記録装置の夫々において、時計部からの正確な時刻情報に基づいて、サージ波形が到達した到達時刻に対応づけてサージ波形データを記憶部に記憶する。これにより、第1,第2波形記録装置の夫々において、サージ波形の正確な到達時刻をサージ波形データに対応づけることができるので、より高精度な故障点の標定が故障点標定装置において可能となる。
【0014】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記第1,第2波形記録装置の上記起動点検出部は、入力されたオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出する。
【0015】
上記実施形態によれば、例えば、第1,第2波形記録装置に送電線の保護リレーの動作信号であるオンオフ信号が入力され、送電線の事故時にオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を起動点検出部により検出する。これによって、上記サージ波形の変化による起動点の検出とオンオフ信号の変化による起動点の検出を組み合わせて起動点の検出が可能になるので、対象となる送電線の構成などに応じて起動点検出部の起動点検出機能を選択することが可能となり、設置の自由度が高くなる。
【0016】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記故障点標定装置は、
上記移動平均演算部の移動平均演算に用いられる上記N個または上記差分データ演算部の差分データの演算に用いる上記M個の少なくとも一方を設定する演算条件設定部を有する。
【0017】
上記実施形態によれば、故障点標定装置の演算条件設定部により、移動平均演算部の移動平均演算に用いられるN個を設定することによって、移動平均演算(積分効果)によるローパスフィルタの特性を調整でき、サージ波形よりも周波数の高いノイズ成分をカットする帯域を適宜調整できる。また、上記故障点標定装置の演算条件設定部により、差分データ演算部の差分データの演算に用いるM個を設定することによって、差分演算(微分効果)によるハイパスフィルタの特性を調整でき、直流成分や商用周波数の交流成分(高調波を含む)をカットする帯域を適宜調整できる。
【0018】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記故障点標定装置は、
上記ノイズレベル最大値検出部の上記ノイズレベル最大値検出区間または上記サージ波形ピーク点検出部の上記サージ波形ピーク点検出区間の少なくとも一方の区間を設定する検出区間設定部を有する。
【0019】
上記実施形態によれば、故障点標定装置の検出区間設定部により、ノイズレベル最大値検出部のノイズレベル最大値検出区間を設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なノイズレベル最大値検出区間を適宜設定することが可能となる。また、上記故障点標定装置の検出区間設定部により、サージ波形ピーク点検出部のサージ波形ピーク点検出区間を設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なサージ波形ピーク点検出区間を適宜設定することが可能となる。
【0020】
また、この発明の故障点標定装置では、
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部とを有することを特徴とする。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0021】
上記構成によれば、第1,第2サージ波形データの夫々に対して、故障点標定装置は、移動平均演算(積分効果)と差分演算(微分効果)によるフィルタリング処理を行うことにより、ノイズ成分を低減させると共に商用周波数の交流成分などを除去した後に、起動点前のサージ波形データにノイズレベル最大値検出区間を設けてノイズレベル最大値Vnの検出を行う。このノイズレベル最大値Vn以下のノイズ領域では、サージ波形の立ち上がり点が存在したとしてもそれを直接検出することは困難である。そこで、故障点標定装置では、フィルタリング処理が行われた第1,第2サージ波形データの夫々に対して、ノイズ領域を脱する直前の点P2(サージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点)と、ノイズ領域を脱して最初の極大点に至った点P1(起動点側に最も近い極大点であるサージ波形のピーク点)とを通る直線のゼロクロス点を求め、そのゼロクロス点の時間軸上の時刻をサージ波形到達時刻(サージ波形の立ち上がり点の時刻)とする。そうして、第1サージ波形データのサージ波形到達時刻Taと第2サージ波形データ側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、上記式により送電線の一端または送電線の予め定められた区間の一端からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する。
【0022】
これによって、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【0023】
また、この発明の故障点標定方法では、
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定方法であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算ステップと、
上記移動平均演算ステップにより移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算ステップと、
上記差分データ演算ステップにより演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記サージ波形ピーク点検出ステップにより検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算ステップと、
上記サージ波形到達時刻演算ステップにより演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定ステップとを有することを特徴とする。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0024】
上記構成によれば、第1,第2サージ波形データの夫々に対して、故障点標定装置は、移動平均演算(積分効果)と差分演算(微分効果)によるフィルタリング処理を行うことにより、ノイズ成分を低減させると共に商用周波数の交流成分などを除去した後に、起動点前のサージ波形データにノイズレベル最大値検出区間を設けてノイズレベル最大値Vnの検出を行う。このノイズレベル最大値Vn以下のノイズ領域では、サージ波形の立ち上がり点が存在したとしてもそれを直接検出することは困難である。そこで、故障点標定装置では、フィルタリング処理が行われた第1,第2サージ波形データの夫々に対して、ノイズ領域を脱する直前の点P2(サージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点)と、ノイズ領域を脱して最初の極大点に至った点P1(起動点側に最も近い極大点であるサージ波形のピーク点)とを通る直線のゼロクロス点を求め、そのゼロクロス点の時間軸上の時刻をサージ波形到達時刻(サージ波形の立ち上がり点の時刻)とする。そうして、第1サージ波形データのサージ波形到達時刻Taと第2サージ波形データ側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、上記式により送電線の一端または送電線の予め定められた区間の一端からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する。
【0025】
これによって、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【0026】
また、この発明の故障点標定プログラムでは、
故障点標定方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【発明の効果】
【0028】
以上より明らかなように、この発明の故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムによれば、ノイズレベルが変動したり、サージの立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1はこの発明の実施の一形態の故障点標定システムの設置例を示す図である。
【図2】図2は上記故障点標定システムの波形記録装置のブロック図である。
【図3】図3は上記故障点標定システムの故障点標定装置のブロック図である。
【図4】図4は上記故障点標定装置の故障点標定方法においてサージ波形の立ち上がり点を求める処理を説明するフローチャートである。
【図5】図5は上記故障点標定装置の故障点標定方法を説明するためのサージ波形を示す図である。
【図6】図6は上記故障点標定装置に入力されたサージ波形データの波形の一例を示す図である。
【図7】図7は図6に示すサージ波形データを移動平均演算した後のサージ波形の移動平均データの波形を示す図である。
【図8】図8は図7に示すサージ波形の移動平均データに対して差分データ演算した後のサージ波形の差分データの波形を示す図である。
【図9】図9は図8に示すサージ波形の差分データを絶対値化したサージ波形の差分絶対値データの波形を示す図である。
【図10】図10は上記波形記録装置の正面図である。
【図11】図11は上記波形記録装置の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムを図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0031】
図1は、この発明の実施の一形態の故障点標定システムの設置例を示している。
【0032】
この実施の形態の故障点標定システムは、図1に示すように、BTき電方式のき電線路に設置されている。BTき電方式のき電線路は、トロリ線TFと、負き電線NFと、トロリ線TFに設けられた吸上変圧器BTを備え、このき電線路の所定の区間の一方にき電変電所ST1が接続され、その区間の他方にき電区分所ST2が接続されている。
【0033】
上記故障点標定システムは、トロリ線TFのき電変電所ST1側(A端)のサージ電圧を検出するサージ電圧センサSAと、トロリ線TFのき電区分所ST2側(B端)のサージ電圧を検出するサージ電圧センサSBと、サージ電圧センサSAからのサージ電圧の波形データを記録する第1波形記録装置の一例としての波形記録装置RAと、サージ電圧センサSBからのサージ電圧の波形データを記録する第2波形記録装置の一例としての波形記録装置RBと、波形記録装置RA,RBに記録されたサージ電圧の波形データに基づいて、サージ波形の到達時刻の時間差からサージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置FLとを備えている。
【0034】
ここで、サージ電圧センサSA,SBとしてPT(Potential Transformer)や抵抗分圧器などが用いられるが、サージ電流を検出するCT(Current Transformer)などのセンサを用いてもよい。屋外に設置されたサージ電圧センサまたはサージ電流センサの信号は、光ファイバー等を介して屋内に設置された波形記録装置RAと波形記録装置RBに入力される。
【0035】
また、上記波形記録装置RA,RBは、通信回線L1を介して互いに接続されている。た、上記波形記録装置RAと故障点標定装置FLは、通信回線L2を介して接続されている。ここで、通信回線L1,L2は、LAN(Local Area Network:ローカル・エリア・ネットワーク)を用いているが、光ファイバーなどを用いた他の通信回線であってもよい。
【0036】
図2は上記故障点標定システムの波形記録装置RAとのブロック図を示している。なお、波形記録装置RBも波形記録装置RAと同一の構成をしている。
【0037】
上記波形記録装置RAは、図2に示すように、4CHの電圧が入力される電圧入力ユニット11と、16CHの接点が入力されると共に4CHの接点が出力される接点入出力ユニット15と、上記電圧入力ユニット11と接点入出力ユニット15とを制御する制御ユニット16と、制御ユニット16により制御される表示操作部17と、DC110VまたはAC100Vの電源電圧が入力される電源ユニット18とを備えている。
【0038】
上記電圧入力ユニット11は、入力された4CHの電圧信号のレベルを変換する入力変換回路12と、上記入力変換器12によりレベル変換された電圧信号が入力される起動点検出部の一例としての起動検出回路13と、上記入力変換回路12によりレベル変換された信号が入力されるA/D変換回路14とを有する。
【0039】
起動検出回路13は、入力変換回路12からの電圧信号を5KHzのサンプリング周波数でサンプリングするA/D変換回路(図示せず)と、そのA/D変換回路からのサンプリング波形データの実効値電圧の変動による起動検出を行うDSP回路(図示せず)とを有する。
【0040】
また、A/D変換回路14は、入力変換回路12からの電圧信号を10MHzのサンプリング周波数でサンプリングして、起動検出回路13は、A/D変換回路14からのサンプリング波形データに基づいてサージ電圧の起動検出を行う。
【0041】
また、制御ユニット16は、起動検出回路13が起動検出すると、起動点の前後の上記サージ波形データを記憶する記憶部16aと、LANを介して他の機器と通信を行う通信部16bと、GPSアンテナからのGPS信号を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する時計部16cとを有する。
【0042】
上記電圧入力ユニット11のA/D変換回路14は、入力された電圧信号に対して、GPS衛星からのGPS信号に同期したサンプリングタイミングによりA/D(アナログ/デジタル)変換を行う。
【0043】
このA/D変換回路14では、運転中は常時サンプリングが行われ、現時点よりも前の一定時間分の波形データが常にメモリに記憶されている。そして、起動検出回路13が起動を検出(設定可能な一定のレベルを超える)すると、記憶されている一定時間分の起動前のデータおよびそれに引き続いてサンプリングされた起動後のデータからなるサージ波形データが制御ユニット16の記憶部16aに転送されて記憶される。
【0044】
波形記録装置には、マスター側とスレーブ側があり、この実施の形態では、波形記録装置RAがマスターとなり、波形記録装置RBがスレーブとなる。そして、マスター側の波形記録装置RAは、スレーブ側の波形記録装置RBからサージ波形データの転送を受けて、双方のサージ波形データを保存し、故障点標定装置FLからのデータ転送要求をしたがって、故障点標定装置FLにサージ波形データを転送する。
【0045】
図3は上記故障点標定装置FLのブロック図を示している。
【0046】
上記故障点標定装置FLは、図3に示すように、波形記録装置RA,RBからのサージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部21と、上記移動平均演算部21により移動平均演算されたサージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとってサージ波形の差分データを演算する差分データ演算部22と、上記差分データ演算部22により演算されたサージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部23と、上記絶対値化部23により絶対値化されたサージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間Tnにおけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部24と、上記絶対値化部23により絶対値化されたサージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間Tpにおいて、起動点側に最も近い極大点をサージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部25と、上記絶対値化部23により絶対値化されたサージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、サージ波形ピーク点検出部25により検出されたサージ波形のピーク点P1から時間を遡ってサージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、サージ波形のピーク点P1と点P2を通る直線のゼロクロス点P0をサージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部26と、上記サージ波形到達時刻演算部26により演算された波形記録装置RA側のサージ波形到達時刻Taと波形記録装置RB側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、き電変電所ST1(図1に示す)側(A端)からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を次式により標定する故障点標定部27とを備えている。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:区間の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0047】
また、上記故障点標定装置FLは、移動平均演算部11の移動平均演算に用いられるN個および差分データ演算部12の差分データの演算に用いるM個を設定するための演算条件設定部28と、ノイズレベル最大値検出部24のノイズレベル最大値検出区間Tnとサージ波形ピーク点検出部25のサージ波形ピーク点検出区間Tpを設定するための検出区間設定部29とを備えている。この演算条件設定部28および検出区間設定部29は、図示しない表示部とスイッチ操作部などにより構成されている。ここで、移動平均演算に用いられるN個および差分データの演算に用いるM個は、固定値であってもよく、起動点前の記録長や起動点後の記録長に応じて決定された固定値でもよい。
【0048】
なお、上記故障点標定装置FLは、専用の装置を用いてもよいが、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録させたこの発明の故障点標定プログラムをパーソナルコンピュータに読み込ませて実現してもよい。
【0049】
図4は上記故障点標定装置FLの故障点標定方法においてサージ波形の立ち上がり点を求める処理を説明するフローチャートを示し、図5は上記故障点標定装置の故障点標定方法を説明するためのサージ波形を示している。なお、図4のステップS1〜S8では、波形記録装置RA,RBからのサージ波形データの夫々に対して処理を行う。この実施の形態では、波形記録装置RA,RBのサージ波形データは、起動前が0.5ms、起動後が3.5msとしており、サンプリング間隔が0.1μs、起動前のサンプリング数が5000個、起動後のサンプリング数が35000個となる。
【0050】
まず、処理がスタートすると、図4に示すステップS1で、波形記録装置RA,RBからのサージ波形データの夫々に対して、移動平均演算部21によりN個(例えばN=8)のデータ毎に移動平均した後、差分データ演算部22によりM個間隔(例えばM=4)で差分して差分データを作る。
【0051】
次に、ステップS2に進み、絶対値化部23により差分データを絶対値化する。図5にサージ波形の差分絶対値データの要部(起動点前後)を示している。
【0052】
次に、ステップS3に進み、ノイズレベル最大値検出部24によって、絶対値化部23により求めた差分絶対値データの1000個目から4000個目までの区間(ノイズレベル最大値検出区間Tn)の最大値Vn(ノイズレベル最大値)を求める。
【0053】
次に、ステップS4に進み、解析上の起動検出レベルをV1とし、V1のX倍(設定値)の値をV2とする。このV2は、サージ波形のピーク点P1(極大点)を検出するときの最低レベルを表し、ピーク点P1(極大点)はV2よりも大きいレベルのデータから検出される。
【0054】
次に、ステップS5に進み、差分絶対値データの4000個目から7000個目まででV2を最初に越える点PV2を検出する。
【0055】
次に、ステップS6に進み、サージ波形ピーク点検出部25によって、点PV2から7000個目までの区間(サージ波形ピーク点検出区間Tp)の最初の極大点であるピーク点P1を検出する。
【0056】
次に、ステップS7に進み、サージ波形到達時刻演算部26によって、点PV2から400個目まで逆方向(時間を遡る方向)にVnを最初に下回る点P2を検出する。ここで、点PV2から逆方向にVnを最初に下回る点P2を探したが、ピーク点P1から逆方向にVnを最初に下回る点P2を探してもよい。
【0057】
そして、ステップS8に進み、サージ波形到達時刻演算部26によって、ピーク点P1と点P2を結ぶ直線のゼロクロス点P0をサージ波形の立ち上がり点とする(図5参照)。
【0058】
ここで、V1は解析上の設定値であり、XはV1の倍数値であるV2を決定するための設定値である。また、ノイズレベル最大値検出区間Tnの始点と終点の夫々は設定値であり、サージ波形ピーク点検出区間Tpの始点は、サージ波形の差分絶対値データがV2を超えた点PV2であり、サージ波形ピーク点検出区間Tpの終点は設定値である。
【0059】
図4では、8個のデータ毎に移動平均した後、差分データ演算部22により4個間隔で差分して差分データを作ったが、移動平均演算部21による移動平均演算に関わる設定値Nと、差分データ演算部22による差分演算に関わる設定値M個はこれに限らず、標定の対象となるき電回路に応じて適宜設定すればよい。
【0060】
また、この実施形態では、波形記録装置RA,RBのサンプリング周波数とサージ波形データの起動前の記録長および起動後の記録長を、10MHz、0.5ms、3.5msとしたが、サンプリング周波数とサージ波形データの起動前の記録長および起動後の記録長はこれに限らない。
【0061】
図6は上記故障点標定装置に入力されたサージ波形データの波形の一例を示しており、図7は図6に示すサージ波形データを移動平均演算した後のサージ波形の移動平均データの波形を示しており、図8は図7に示すサージ波形の移動平均データに対して差分データ演算した後のサージ波形の差分データの波形を示しており、図9は図8に示すサージ波形の差分データを絶対値化したサージ波形の差分絶対値データの波形を示している。図6〜図9において、横軸はサンプリング数を表し、縦軸は電圧値(または電流値)を表す。
【0062】
図10は上記波形記録装置RAの正面図を示しており、図11は波形記録装置RAの裏面図を示している(波形記録装置RBも同様)。
【0063】
この波形記録装置RAは、図10に示すように、正面パネル30の上側に液晶表示部31を配置し、正面パネル30の下側に操作スイッチ部32を配置し、その操作スイッチ部32の右側に縦方向に複数のLEDが1列に並んだLED表示部33を配置している。上記液晶表示部31と操作スイッチ部32とLED表示部33で表示操作部17(図2に示す)を構成している。
【0064】
また、図11に示すように、波形記録装置RAの裏面の左側に、電源端子台41と電源スイッチ42とを有する電源ユニットU1を配置し、左下側にLANコネクタ43とGPSアンテナコネクタ44とを有するユニットU2を配置している。さらに、波形記録装置RAの裏面の中央側に、接点出力部45と接点入力部46とを有する接点入出力ユニットU3を配置し、波形記録装置RAの裏面の右側に、電圧入力コネクタCN1〜CN3(入力電圧範囲±1V)と電圧入力コネクタCN4(入力電圧範囲±200V)とを有する電圧入力ユニットU4を配置している。
【0065】
上記波形記録装置RAの主な入力仕様を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
上記波形記録装置RAにおいて、入力電圧範囲±1Vの電圧入力コネクタCN1〜CN3には、例えば屋外のサージ電圧センサの電圧信号を、電気/光変換器、光ファイバーケーブル、光/電気変換器を介して入力すると共に、入力電圧範囲±200Vの電圧入力コネクタCN4には、PT等からの計測信号を入力する。
【0068】
表2にこの発明の故障点標定方法を適用してサージ波形の立ち上がり点を求め、標定した場合の標定結果と従来の故障点標定方法(起動点をサージの立ち上がり点とする方法)を適用して標定した場合の標定結果を示す。ここで、き電回路の区間の全長は18.843km、A端から故障点までの距離は12.671kmである。
【0069】
【表2】
【0070】
上記表2の比較から明らかなように、この発明の故障点標定方法を適用することで、標定精度が平均誤差率(全長比)において、従来方式の0.46%から実施形態の0.14%に改善された。
【0071】
このような故障点標定システムの故障点標定方法は、鉄道き電線のように電車の走行時に架線とパンダグラフとの間で発生するサージ波形が観測されるような環境では、送電停止に至る電気事故時のサージと、走行する電車からのサージを分離することが必要である。このような両方のサージの振幅には差があるが、電気事故時も走行する電車からのサージは発生しており、一定レベル以下のサージをノイズとして処理し、一定レベル以上のサージ波形の大まかな傾きからサージ発生時点を推定する方法は極めて有効な手段である。
【0072】
上記構成の故障点標定システムおよび故障点標定装置FLおよび故障点標定方法によれば、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定することができる。
【0073】
また、波形記録装置RA,RBの夫々の時計部16cは、GPS衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時して、波形記録装置RA,RBの夫々において、時計部16cからの正確な時刻情報に基づいて、サージ波形が到達した到達時刻に対応づけてサージ波形データを記憶部16aに記憶するので、波形記録装置RA,RBの夫々において、サージ波形の正確な到達時刻をサージ波形データに対応づけることができるので、より高精度な故障点の標定が故障点標定装置FLにおいて可能となる。
【0074】
また、波形記録装置RA,RBに、例えばき電線路の保護リレーの動作信号であるオンオフ信号が入力され、事故時にオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を起動検出回路13により検出することによって、サージ波形の変化による起動点の検出とオンオフ信号の変化による起動点の検出を組み合わせて起動点の検出が可能になるので、対象となるき電線路の構成などに応じて起動検出回路13の起動点検出機能を選択することが可能となり、設置の自由度が高くなる。
【0075】
また、上記故障点標定装置FLの演算条件設定部28により、移動平均演算部11の移動平均演算に用いられるN個を設定することによって、移動平均演算(積分効果)によるローパスフィルタの特性を調整でき、サージ波形よりも周波の高いノイズ成分をカットする帯域を適宜調整することができる。また、上記故障点標定装置FLの演算条件設定部28により、差分データ演算部12の差分データの演算に用いるM個を設定することによって、差分演算(微分効果)によるハイパスフィルタの特性を調整でき、直流成分や商用周波数の交流成分(高調波を含む)をカットする帯域を適宜調整することができる。
【0076】
ここで、波形記録装置RA,RBのサンプリング周波数が10MHzと高速なので、通常のサージ波形において例えば1サンプルだけがその前後と異なる離れた値になることは通常の送電線やき電線路上の現象ではありえず、インピーダンスが高いPTといった計測回路や波形記録装置内で発生するノイズがサージ波形に含まれている可能性が高く、このような高周波ノイズ成分を移動平均演算(積分効果)によるローパスフィルタにより除去する。一方、波形記録装置の入力部のアンプのオフセット、交流送電線やき電線路の場合の交流成分のように、観測したいサージ以外の成分(直流成分、商用周波の交流成分やその高調波成分(概ね数十kHz程度以下))を差分演算(微分効果)によるハイパスフィルタにより除去する。
【0077】
また、上記故障点標定装置FLの検出区間設定部29により、ノイズレベル最大値検出部24のノイズレベル最大値検出区間Tnを設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なノイズレベル最大値検出区間Tnを適宜設定することが可能となる。また、上記故障点標定装置の検出区間設定部29により、サージ波形ピーク点検出部25のサージ波形ピーク点検出区間Tpを設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なサージ波形ピーク点検出区間Tpを適宜設定することが可能となる。
【0078】
上記実施の形態では、BTき電方式のき電回路における故障点標定システム,故障点標定装置および故障点標定方法について説明したが、この発明の故障点標定システム,故障点標定装置および故障点標定方法これに限らず、他のき電方式のき電系統または高圧配電線における故障点標定に適用してもよいし、電力の送電系統または配電系統の故障点標定に適用してもよい。
【0079】
上記実施の形態の故障点標定装置FLの機能は、プログラム記録媒体に記録された故障点標定プログラムによってパーソナルコンピュータ等により実現される。そこで、このような故障点標定プログラムを、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録させて提供したり、インターネット等を含む通信手段を用いて提供したりすることもできる。
【0080】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
11…電圧入力ユニット
12…入力変換回路
13…起動検出回路
14…A/D変換回路
15…接点入出力ユニット
16…制御ユニット
16a…記憶部
16b…通信部
16c…時計部
17…表示操作部
18…電源ユニット
21…移動平均演算部
22…差分データ演算部
23…絶対値化部
24…ノイズレベル最大値検出部
25…サージ波形ピーク点検出部
26…サージ波形到達時刻演算部
27…故障点標定部
28…演算条件設定部
29…検出区間設定部
ST1…き電変電所
ST2…き電区分所
TF…トロリ線
NF…負き電線
SA,SB…サージ電圧センサ
RA,RB…波形記録装置
FL…故障点標定装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムに関し、詳しくは、サージ到達時間差に基づいて故障点を標定する故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
サージ到達時間差型の故障点標定システムにおいて、サージ到達時刻を正確に求めることは故障点標定精度を向上させる上で重要である。
【0003】
従来の第1の故障点標定システムとしては、サージ検出時点を故障時点とするのではなく、サージ検出時点から波形を遡ってサージ開始認定時点を過ぎるサンプル点まで戻り、そこをサージ発生時点としてその時刻を用いることにより、故障点を標定するものがある(例えば、特許第3527432号(特許文献1))。
【0004】
また、従来の第2の故障点標定システムとしては、ノイズ成分によるサージ検出時点の推定誤差を避けるためにサブバンドフィルタを用い、線路の両端で観測された波形の同じ周波数帯の波形成分のみで立ち上がり時点を判定するものがある(例えば、特許第3844757号(特許文献2))。
【0005】
しかしながら、上記第1,第2の故障点標定システムでは、ノイズ成分のレベルは一定ではなく、また、サージ開始判定時点においては既にサージが到達してからいくらかの時間が経過しているので、サージ波形の立ち上がりが緩やかな場合は、実際のサージ立ち上がり時点とサージ立ち上がり判定時点との間に無視できない時間差が発生していた。また、故障時に発生するサージよりも振幅が小さいノイズ成分にも、ほぼ同じ周波数帯のノイズが含まれている場合があり、それらは標定結果の誤差要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3527432号
【特許文献2】特許第3844757号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明の課題は、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の故障点標定システムは、
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第1波形記録装置と、
上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第2波形記録装置と、
上記第1,第2波形記録装置に記録された上記サージ波形データに基づいて、上記サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置と
を備え、
上記第1,第2波形記録装置は、
上記サージ波形の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出する起動点検出部と、
上記起動点検出部が上記起動点を検出すると、上記起動点の前後の上記サージ波形データを記憶する記憶部とを夫々有し、
上記故障点標定装置は、
上記第1,第2波形記録装置の上記記憶部に記憶された上記サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Taと上記第2波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部と
を有することを特徴とする。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0009】
ここで「送電線」とは、電気鉄道のき電系統または高圧配電系統の電線や、電力の送電系統または配電系統の電線などを含む。
【0010】
上記構成によれば、第1,第2波形記録装置の記憶部に記憶されたサージ波形データの夫々に対して、故障点標定装置は、移動平均演算(積分効果)と差分演算(微分効果)によるフィルタリング処理を行うことにより、ノイズ成分を低減すると共に商用周波数の交流成分を除去した後に、起動点前のサージ波形データにノイズレベル最大値検出区間を設けてノイズレベル最大値Vnの検出を行う。これによって検出されたノイズレベル最大値Vn以下のノイズ領域では、サージ波形の立ち上がり点が存在したとしてもそれを直接検出することは困難である。そこで、故障点標定装置では、第1,第2波形記録装置のフィルタリング処理がされたサージ波形データの夫々に対して、ノイズ領域を脱する直前の点P2(サージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点)と、ノイズ領域を脱して最初の極大点に至ったピーク点P1(起動点側に最も近い極大点であるサージ波形のピーク点)とを通る直線のゼロクロス点を求め、そのゼロクロス点の時間軸上の時刻をサージ波形到達時刻(サージ波形の立ち上がり点の時刻)とする。そうして求めた第1波形記録装置側のサージ波形到達時刻Taと第2波形記録装置側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、上記式により送電線の一端または送電線の予め定められた区間の一端からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する。
【0011】
これによって、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【0012】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記第1,第2波形記録装置は、
GPS(Global Positioning Satellite:全地球測位システム)衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する時計部を有し、
上記時計部からの時刻情報に基づいて、上記サージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形データを上記記憶部に記憶する。
【0013】
上記実施形態によれば、第1,第2波形記録装置の夫々の時計部は、GPS衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する。そして、第1,第2波形記録装置の夫々において、時計部からの正確な時刻情報に基づいて、サージ波形が到達した到達時刻に対応づけてサージ波形データを記憶部に記憶する。これにより、第1,第2波形記録装置の夫々において、サージ波形の正確な到達時刻をサージ波形データに対応づけることができるので、より高精度な故障点の標定が故障点標定装置において可能となる。
【0014】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記第1,第2波形記録装置の上記起動点検出部は、入力されたオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出する。
【0015】
上記実施形態によれば、例えば、第1,第2波形記録装置に送電線の保護リレーの動作信号であるオンオフ信号が入力され、送電線の事故時にオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を起動点検出部により検出する。これによって、上記サージ波形の変化による起動点の検出とオンオフ信号の変化による起動点の検出を組み合わせて起動点の検出が可能になるので、対象となる送電線の構成などに応じて起動点検出部の起動点検出機能を選択することが可能となり、設置の自由度が高くなる。
【0016】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記故障点標定装置は、
上記移動平均演算部の移動平均演算に用いられる上記N個または上記差分データ演算部の差分データの演算に用いる上記M個の少なくとも一方を設定する演算条件設定部を有する。
【0017】
上記実施形態によれば、故障点標定装置の演算条件設定部により、移動平均演算部の移動平均演算に用いられるN個を設定することによって、移動平均演算(積分効果)によるローパスフィルタの特性を調整でき、サージ波形よりも周波数の高いノイズ成分をカットする帯域を適宜調整できる。また、上記故障点標定装置の演算条件設定部により、差分データ演算部の差分データの演算に用いるM個を設定することによって、差分演算(微分効果)によるハイパスフィルタの特性を調整でき、直流成分や商用周波数の交流成分(高調波を含む)をカットする帯域を適宜調整できる。
【0018】
また、一実施形態の故障点標定システムでは、
上記故障点標定装置は、
上記ノイズレベル最大値検出部の上記ノイズレベル最大値検出区間または上記サージ波形ピーク点検出部の上記サージ波形ピーク点検出区間の少なくとも一方の区間を設定する検出区間設定部を有する。
【0019】
上記実施形態によれば、故障点標定装置の検出区間設定部により、ノイズレベル最大値検出部のノイズレベル最大値検出区間を設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なノイズレベル最大値検出区間を適宜設定することが可能となる。また、上記故障点標定装置の検出区間設定部により、サージ波形ピーク点検出部のサージ波形ピーク点検出区間を設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なサージ波形ピーク点検出区間を適宜設定することが可能となる。
【0020】
また、この発明の故障点標定装置では、
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部とを有することを特徴とする。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0021】
上記構成によれば、第1,第2サージ波形データの夫々に対して、故障点標定装置は、移動平均演算(積分効果)と差分演算(微分効果)によるフィルタリング処理を行うことにより、ノイズ成分を低減させると共に商用周波数の交流成分などを除去した後に、起動点前のサージ波形データにノイズレベル最大値検出区間を設けてノイズレベル最大値Vnの検出を行う。このノイズレベル最大値Vn以下のノイズ領域では、サージ波形の立ち上がり点が存在したとしてもそれを直接検出することは困難である。そこで、故障点標定装置では、フィルタリング処理が行われた第1,第2サージ波形データの夫々に対して、ノイズ領域を脱する直前の点P2(サージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点)と、ノイズ領域を脱して最初の極大点に至った点P1(起動点側に最も近い極大点であるサージ波形のピーク点)とを通る直線のゼロクロス点を求め、そのゼロクロス点の時間軸上の時刻をサージ波形到達時刻(サージ波形の立ち上がり点の時刻)とする。そうして、第1サージ波形データのサージ波形到達時刻Taと第2サージ波形データ側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、上記式により送電線の一端または送電線の予め定められた区間の一端からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する。
【0022】
これによって、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【0023】
また、この発明の故障点標定方法では、
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定方法であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算ステップと、
上記移動平均演算ステップにより移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算ステップと、
上記差分データ演算ステップにより演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記サージ波形ピーク点検出ステップにより検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算ステップと、
上記サージ波形到達時刻演算ステップにより演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定ステップとを有することを特徴とする。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0024】
上記構成によれば、第1,第2サージ波形データの夫々に対して、故障点標定装置は、移動平均演算(積分効果)と差分演算(微分効果)によるフィルタリング処理を行うことにより、ノイズ成分を低減させると共に商用周波数の交流成分などを除去した後に、起動点前のサージ波形データにノイズレベル最大値検出区間を設けてノイズレベル最大値Vnの検出を行う。このノイズレベル最大値Vn以下のノイズ領域では、サージ波形の立ち上がり点が存在したとしてもそれを直接検出することは困難である。そこで、故障点標定装置では、フィルタリング処理が行われた第1,第2サージ波形データの夫々に対して、ノイズ領域を脱する直前の点P2(サージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点)と、ノイズ領域を脱して最初の極大点に至った点P1(起動点側に最も近い極大点であるサージ波形のピーク点)とを通る直線のゼロクロス点を求め、そのゼロクロス点の時間軸上の時刻をサージ波形到達時刻(サージ波形の立ち上がり点の時刻)とする。そうして、第1サージ波形データのサージ波形到達時刻Taと第2サージ波形データ側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、上記式により送電線の一端または送電線の予め定められた区間の一端からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する。
【0025】
これによって、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【0026】
また、この発明の故障点標定プログラムでは、
故障点標定方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定できる。
【発明の効果】
【0028】
以上より明らかなように、この発明の故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムによれば、ノイズレベルが変動したり、サージの立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1はこの発明の実施の一形態の故障点標定システムの設置例を示す図である。
【図2】図2は上記故障点標定システムの波形記録装置のブロック図である。
【図3】図3は上記故障点標定システムの故障点標定装置のブロック図である。
【図4】図4は上記故障点標定装置の故障点標定方法においてサージ波形の立ち上がり点を求める処理を説明するフローチャートである。
【図5】図5は上記故障点標定装置の故障点標定方法を説明するためのサージ波形を示す図である。
【図6】図6は上記故障点標定装置に入力されたサージ波形データの波形の一例を示す図である。
【図7】図7は図6に示すサージ波形データを移動平均演算した後のサージ波形の移動平均データの波形を示す図である。
【図8】図8は図7に示すサージ波形の移動平均データに対して差分データ演算した後のサージ波形の差分データの波形を示す図である。
【図9】図9は図8に示すサージ波形の差分データを絶対値化したサージ波形の差分絶対値データの波形を示す図である。
【図10】図10は上記波形記録装置の正面図である。
【図11】図11は上記波形記録装置の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明の故障点標定システム、故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムを図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0031】
図1は、この発明の実施の一形態の故障点標定システムの設置例を示している。
【0032】
この実施の形態の故障点標定システムは、図1に示すように、BTき電方式のき電線路に設置されている。BTき電方式のき電線路は、トロリ線TFと、負き電線NFと、トロリ線TFに設けられた吸上変圧器BTを備え、このき電線路の所定の区間の一方にき電変電所ST1が接続され、その区間の他方にき電区分所ST2が接続されている。
【0033】
上記故障点標定システムは、トロリ線TFのき電変電所ST1側(A端)のサージ電圧を検出するサージ電圧センサSAと、トロリ線TFのき電区分所ST2側(B端)のサージ電圧を検出するサージ電圧センサSBと、サージ電圧センサSAからのサージ電圧の波形データを記録する第1波形記録装置の一例としての波形記録装置RAと、サージ電圧センサSBからのサージ電圧の波形データを記録する第2波形記録装置の一例としての波形記録装置RBと、波形記録装置RA,RBに記録されたサージ電圧の波形データに基づいて、サージ波形の到達時刻の時間差からサージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置FLとを備えている。
【0034】
ここで、サージ電圧センサSA,SBとしてPT(Potential Transformer)や抵抗分圧器などが用いられるが、サージ電流を検出するCT(Current Transformer)などのセンサを用いてもよい。屋外に設置されたサージ電圧センサまたはサージ電流センサの信号は、光ファイバー等を介して屋内に設置された波形記録装置RAと波形記録装置RBに入力される。
【0035】
また、上記波形記録装置RA,RBは、通信回線L1を介して互いに接続されている。た、上記波形記録装置RAと故障点標定装置FLは、通信回線L2を介して接続されている。ここで、通信回線L1,L2は、LAN(Local Area Network:ローカル・エリア・ネットワーク)を用いているが、光ファイバーなどを用いた他の通信回線であってもよい。
【0036】
図2は上記故障点標定システムの波形記録装置RAとのブロック図を示している。なお、波形記録装置RBも波形記録装置RAと同一の構成をしている。
【0037】
上記波形記録装置RAは、図2に示すように、4CHの電圧が入力される電圧入力ユニット11と、16CHの接点が入力されると共に4CHの接点が出力される接点入出力ユニット15と、上記電圧入力ユニット11と接点入出力ユニット15とを制御する制御ユニット16と、制御ユニット16により制御される表示操作部17と、DC110VまたはAC100Vの電源電圧が入力される電源ユニット18とを備えている。
【0038】
上記電圧入力ユニット11は、入力された4CHの電圧信号のレベルを変換する入力変換回路12と、上記入力変換器12によりレベル変換された電圧信号が入力される起動点検出部の一例としての起動検出回路13と、上記入力変換回路12によりレベル変換された信号が入力されるA/D変換回路14とを有する。
【0039】
起動検出回路13は、入力変換回路12からの電圧信号を5KHzのサンプリング周波数でサンプリングするA/D変換回路(図示せず)と、そのA/D変換回路からのサンプリング波形データの実効値電圧の変動による起動検出を行うDSP回路(図示せず)とを有する。
【0040】
また、A/D変換回路14は、入力変換回路12からの電圧信号を10MHzのサンプリング周波数でサンプリングして、起動検出回路13は、A/D変換回路14からのサンプリング波形データに基づいてサージ電圧の起動検出を行う。
【0041】
また、制御ユニット16は、起動検出回路13が起動検出すると、起動点の前後の上記サージ波形データを記憶する記憶部16aと、LANを介して他の機器と通信を行う通信部16bと、GPSアンテナからのGPS信号を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する時計部16cとを有する。
【0042】
上記電圧入力ユニット11のA/D変換回路14は、入力された電圧信号に対して、GPS衛星からのGPS信号に同期したサンプリングタイミングによりA/D(アナログ/デジタル)変換を行う。
【0043】
このA/D変換回路14では、運転中は常時サンプリングが行われ、現時点よりも前の一定時間分の波形データが常にメモリに記憶されている。そして、起動検出回路13が起動を検出(設定可能な一定のレベルを超える)すると、記憶されている一定時間分の起動前のデータおよびそれに引き続いてサンプリングされた起動後のデータからなるサージ波形データが制御ユニット16の記憶部16aに転送されて記憶される。
【0044】
波形記録装置には、マスター側とスレーブ側があり、この実施の形態では、波形記録装置RAがマスターとなり、波形記録装置RBがスレーブとなる。そして、マスター側の波形記録装置RAは、スレーブ側の波形記録装置RBからサージ波形データの転送を受けて、双方のサージ波形データを保存し、故障点標定装置FLからのデータ転送要求をしたがって、故障点標定装置FLにサージ波形データを転送する。
【0045】
図3は上記故障点標定装置FLのブロック図を示している。
【0046】
上記故障点標定装置FLは、図3に示すように、波形記録装置RA,RBからのサージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部21と、上記移動平均演算部21により移動平均演算されたサージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとってサージ波形の差分データを演算する差分データ演算部22と、上記差分データ演算部22により演算されたサージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部23と、上記絶対値化部23により絶対値化されたサージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間Tnにおけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部24と、上記絶対値化部23により絶対値化されたサージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間Tpにおいて、起動点側に最も近い極大点をサージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部25と、上記絶対値化部23により絶対値化されたサージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、サージ波形ピーク点検出部25により検出されたサージ波形のピーク点P1から時間を遡ってサージ波形の差分絶対値データが最初にノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、サージ波形のピーク点P1と点P2を通る直線のゼロクロス点P0をサージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部26と、上記サージ波形到達時刻演算部26により演算された波形記録装置RA側のサージ波形到達時刻Taと波形記録装置RB側のサージ波形到達時刻Tbに基づいて、き電変電所ST1(図1に示す)側(A端)からサージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を次式により標定する故障点標定部27とを備えている。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:区間の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【0047】
また、上記故障点標定装置FLは、移動平均演算部11の移動平均演算に用いられるN個および差分データ演算部12の差分データの演算に用いるM個を設定するための演算条件設定部28と、ノイズレベル最大値検出部24のノイズレベル最大値検出区間Tnとサージ波形ピーク点検出部25のサージ波形ピーク点検出区間Tpを設定するための検出区間設定部29とを備えている。この演算条件設定部28および検出区間設定部29は、図示しない表示部とスイッチ操作部などにより構成されている。ここで、移動平均演算に用いられるN個および差分データの演算に用いるM個は、固定値であってもよく、起動点前の記録長や起動点後の記録長に応じて決定された固定値でもよい。
【0048】
なお、上記故障点標定装置FLは、専用の装置を用いてもよいが、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録させたこの発明の故障点標定プログラムをパーソナルコンピュータに読み込ませて実現してもよい。
【0049】
図4は上記故障点標定装置FLの故障点標定方法においてサージ波形の立ち上がり点を求める処理を説明するフローチャートを示し、図5は上記故障点標定装置の故障点標定方法を説明するためのサージ波形を示している。なお、図4のステップS1〜S8では、波形記録装置RA,RBからのサージ波形データの夫々に対して処理を行う。この実施の形態では、波形記録装置RA,RBのサージ波形データは、起動前が0.5ms、起動後が3.5msとしており、サンプリング間隔が0.1μs、起動前のサンプリング数が5000個、起動後のサンプリング数が35000個となる。
【0050】
まず、処理がスタートすると、図4に示すステップS1で、波形記録装置RA,RBからのサージ波形データの夫々に対して、移動平均演算部21によりN個(例えばN=8)のデータ毎に移動平均した後、差分データ演算部22によりM個間隔(例えばM=4)で差分して差分データを作る。
【0051】
次に、ステップS2に進み、絶対値化部23により差分データを絶対値化する。図5にサージ波形の差分絶対値データの要部(起動点前後)を示している。
【0052】
次に、ステップS3に進み、ノイズレベル最大値検出部24によって、絶対値化部23により求めた差分絶対値データの1000個目から4000個目までの区間(ノイズレベル最大値検出区間Tn)の最大値Vn(ノイズレベル最大値)を求める。
【0053】
次に、ステップS4に進み、解析上の起動検出レベルをV1とし、V1のX倍(設定値)の値をV2とする。このV2は、サージ波形のピーク点P1(極大点)を検出するときの最低レベルを表し、ピーク点P1(極大点)はV2よりも大きいレベルのデータから検出される。
【0054】
次に、ステップS5に進み、差分絶対値データの4000個目から7000個目まででV2を最初に越える点PV2を検出する。
【0055】
次に、ステップS6に進み、サージ波形ピーク点検出部25によって、点PV2から7000個目までの区間(サージ波形ピーク点検出区間Tp)の最初の極大点であるピーク点P1を検出する。
【0056】
次に、ステップS7に進み、サージ波形到達時刻演算部26によって、点PV2から400個目まで逆方向(時間を遡る方向)にVnを最初に下回る点P2を検出する。ここで、点PV2から逆方向にVnを最初に下回る点P2を探したが、ピーク点P1から逆方向にVnを最初に下回る点P2を探してもよい。
【0057】
そして、ステップS8に進み、サージ波形到達時刻演算部26によって、ピーク点P1と点P2を結ぶ直線のゼロクロス点P0をサージ波形の立ち上がり点とする(図5参照)。
【0058】
ここで、V1は解析上の設定値であり、XはV1の倍数値であるV2を決定するための設定値である。また、ノイズレベル最大値検出区間Tnの始点と終点の夫々は設定値であり、サージ波形ピーク点検出区間Tpの始点は、サージ波形の差分絶対値データがV2を超えた点PV2であり、サージ波形ピーク点検出区間Tpの終点は設定値である。
【0059】
図4では、8個のデータ毎に移動平均した後、差分データ演算部22により4個間隔で差分して差分データを作ったが、移動平均演算部21による移動平均演算に関わる設定値Nと、差分データ演算部22による差分演算に関わる設定値M個はこれに限らず、標定の対象となるき電回路に応じて適宜設定すればよい。
【0060】
また、この実施形態では、波形記録装置RA,RBのサンプリング周波数とサージ波形データの起動前の記録長および起動後の記録長を、10MHz、0.5ms、3.5msとしたが、サンプリング周波数とサージ波形データの起動前の記録長および起動後の記録長はこれに限らない。
【0061】
図6は上記故障点標定装置に入力されたサージ波形データの波形の一例を示しており、図7は図6に示すサージ波形データを移動平均演算した後のサージ波形の移動平均データの波形を示しており、図8は図7に示すサージ波形の移動平均データに対して差分データ演算した後のサージ波形の差分データの波形を示しており、図9は図8に示すサージ波形の差分データを絶対値化したサージ波形の差分絶対値データの波形を示している。図6〜図9において、横軸はサンプリング数を表し、縦軸は電圧値(または電流値)を表す。
【0062】
図10は上記波形記録装置RAの正面図を示しており、図11は波形記録装置RAの裏面図を示している(波形記録装置RBも同様)。
【0063】
この波形記録装置RAは、図10に示すように、正面パネル30の上側に液晶表示部31を配置し、正面パネル30の下側に操作スイッチ部32を配置し、その操作スイッチ部32の右側に縦方向に複数のLEDが1列に並んだLED表示部33を配置している。上記液晶表示部31と操作スイッチ部32とLED表示部33で表示操作部17(図2に示す)を構成している。
【0064】
また、図11に示すように、波形記録装置RAの裏面の左側に、電源端子台41と電源スイッチ42とを有する電源ユニットU1を配置し、左下側にLANコネクタ43とGPSアンテナコネクタ44とを有するユニットU2を配置している。さらに、波形記録装置RAの裏面の中央側に、接点出力部45と接点入力部46とを有する接点入出力ユニットU3を配置し、波形記録装置RAの裏面の右側に、電圧入力コネクタCN1〜CN3(入力電圧範囲±1V)と電圧入力コネクタCN4(入力電圧範囲±200V)とを有する電圧入力ユニットU4を配置している。
【0065】
上記波形記録装置RAの主な入力仕様を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
上記波形記録装置RAにおいて、入力電圧範囲±1Vの電圧入力コネクタCN1〜CN3には、例えば屋外のサージ電圧センサの電圧信号を、電気/光変換器、光ファイバーケーブル、光/電気変換器を介して入力すると共に、入力電圧範囲±200Vの電圧入力コネクタCN4には、PT等からの計測信号を入力する。
【0068】
表2にこの発明の故障点標定方法を適用してサージ波形の立ち上がり点を求め、標定した場合の標定結果と従来の故障点標定方法(起動点をサージの立ち上がり点とする方法)を適用して標定した場合の標定結果を示す。ここで、き電回路の区間の全長は18.843km、A端から故障点までの距離は12.671kmである。
【0069】
【表2】
【0070】
上記表2の比較から明らかなように、この発明の故障点標定方法を適用することで、標定精度が平均誤差率(全長比)において、従来方式の0.46%から実施形態の0.14%に改善された。
【0071】
このような故障点標定システムの故障点標定方法は、鉄道き電線のように電車の走行時に架線とパンダグラフとの間で発生するサージ波形が観測されるような環境では、送電停止に至る電気事故時のサージと、走行する電車からのサージを分離することが必要である。このような両方のサージの振幅には差があるが、電気事故時も走行する電車からのサージは発生しており、一定レベル以下のサージをノイズとして処理し、一定レベル以上のサージ波形の大まかな傾きからサージ発生時点を推定する方法は極めて有効な手段である。
【0072】
上記構成の故障点標定システムおよび故障点標定装置FLおよび故障点標定方法によれば、ノイズレベルが変動したり、サージ波形の立ち上がりが緩やかであったりしても、サージ波形の立ち上がり点をより正確に推定することにより、簡単でかつ高精度に故障点を標定することができる。
【0073】
また、波形記録装置RA,RBの夫々の時計部16cは、GPS衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時して、波形記録装置RA,RBの夫々において、時計部16cからの正確な時刻情報に基づいて、サージ波形が到達した到達時刻に対応づけてサージ波形データを記憶部16aに記憶するので、波形記録装置RA,RBの夫々において、サージ波形の正確な到達時刻をサージ波形データに対応づけることができるので、より高精度な故障点の標定が故障点標定装置FLにおいて可能となる。
【0074】
また、波形記録装置RA,RBに、例えばき電線路の保護リレーの動作信号であるオンオフ信号が入力され、事故時にオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を起動検出回路13により検出することによって、サージ波形の変化による起動点の検出とオンオフ信号の変化による起動点の検出を組み合わせて起動点の検出が可能になるので、対象となるき電線路の構成などに応じて起動検出回路13の起動点検出機能を選択することが可能となり、設置の自由度が高くなる。
【0075】
また、上記故障点標定装置FLの演算条件設定部28により、移動平均演算部11の移動平均演算に用いられるN個を設定することによって、移動平均演算(積分効果)によるローパスフィルタの特性を調整でき、サージ波形よりも周波の高いノイズ成分をカットする帯域を適宜調整することができる。また、上記故障点標定装置FLの演算条件設定部28により、差分データ演算部12の差分データの演算に用いるM個を設定することによって、差分演算(微分効果)によるハイパスフィルタの特性を調整でき、直流成分や商用周波数の交流成分(高調波を含む)をカットする帯域を適宜調整することができる。
【0076】
ここで、波形記録装置RA,RBのサンプリング周波数が10MHzと高速なので、通常のサージ波形において例えば1サンプルだけがその前後と異なる離れた値になることは通常の送電線やき電線路上の現象ではありえず、インピーダンスが高いPTといった計測回路や波形記録装置内で発生するノイズがサージ波形に含まれている可能性が高く、このような高周波ノイズ成分を移動平均演算(積分効果)によるローパスフィルタにより除去する。一方、波形記録装置の入力部のアンプのオフセット、交流送電線やき電線路の場合の交流成分のように、観測したいサージ以外の成分(直流成分、商用周波の交流成分やその高調波成分(概ね数十kHz程度以下))を差分演算(微分効果)によるハイパスフィルタにより除去する。
【0077】
また、上記故障点標定装置FLの検出区間設定部29により、ノイズレベル最大値検出部24のノイズレベル最大値検出区間Tnを設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なノイズレベル最大値検出区間Tnを適宜設定することが可能となる。また、上記故障点標定装置の検出区間設定部29により、サージ波形ピーク点検出部25のサージ波形ピーク点検出区間Tpを設定することによって、対象となる送電線毎に異なるノイズ状況に応じて最適なサージ波形ピーク点検出区間Tpを適宜設定することが可能となる。
【0078】
上記実施の形態では、BTき電方式のき電回路における故障点標定システム,故障点標定装置および故障点標定方法について説明したが、この発明の故障点標定システム,故障点標定装置および故障点標定方法これに限らず、他のき電方式のき電系統または高圧配電線における故障点標定に適用してもよいし、電力の送電系統または配電系統の故障点標定に適用してもよい。
【0079】
上記実施の形態の故障点標定装置FLの機能は、プログラム記録媒体に記録された故障点標定プログラムによってパーソナルコンピュータ等により実現される。そこで、このような故障点標定プログラムを、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録させて提供したり、インターネット等を含む通信手段を用いて提供したりすることもできる。
【0080】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
11…電圧入力ユニット
12…入力変換回路
13…起動検出回路
14…A/D変換回路
15…接点入出力ユニット
16…制御ユニット
16a…記憶部
16b…通信部
16c…時計部
17…表示操作部
18…電源ユニット
21…移動平均演算部
22…差分データ演算部
23…絶対値化部
24…ノイズレベル最大値検出部
25…サージ波形ピーク点検出部
26…サージ波形到達時刻演算部
27…故障点標定部
28…演算条件設定部
29…検出区間設定部
ST1…き電変電所
ST2…き電区分所
TF…トロリ線
NF…負き電線
SA,SB…サージ電圧センサ
RA,RB…波形記録装置
FL…故障点標定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第1波形記録装置と、
上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第2波形記録装置と、
上記第1,第2波形記録装置に記録された上記サージ波形データに基づいて、上記サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置と
を備え、
上記第1,第2波形記録装置は、
上記サージ波形の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出する起動点検出部と、
上記起動点検出部が上記起動点を検出すると、上記起動点の前後の上記サージ波形データを記憶する記憶部とを夫々有し、
上記故障点標定装置は、
上記第1,第2波形記録装置の上記記憶部に記憶された上記サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Taと上記第2波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部と
を有することを特徴とする故障点標定システム。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【請求項2】
請求項1に記載の故障点標定システムにおいて、
上記第1,第2波形記録装置は、
GPS衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する時計部を有し、
上記時計部からの時刻情報に基づいて、上記サージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形データを上記記憶部に記憶することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の故障点標定システムにおいて、
上記第1,第2波形記録装置の上記起動点検出部は、入力されたオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載の故障点標定システムにおいて、
上記故障点標定装置は、
上記移動平均演算部の移動平均演算に用いられる上記N個または上記差分データ演算部の差分データの演算に用いる上記M個の少なくとも一方を設定する演算条件設定部を有することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項5】
請求項1から4までの少なくとも1つに記載の故障点標定システムにおいて、
上記故障点標定装置は、
上記ノイズレベル最大値検出部の上記ノイズレベル最大値検出区間または上記サージ波形ピーク点検出部の上記サージ波形ピーク点検出区間の少なくとも一方の区間を設定する検出区間設定部を有することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項6】
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部とを有することを特徴とする故障点標定装置。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【請求項7】
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定方法であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算ステップと、
上記移動平均演算ステップにより移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算ステップと、
上記差分データ演算ステップにより演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記サージ波形ピーク点検出ステップにより検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算ステップと、
上記サージ波形到達時刻演算ステップにより演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定ステップとを有することを特徴とする故障点標定方法。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【請求項8】
請求項7に記載の故障点標定方法をコンピュータに実行させることを特徴とする故障点標定プログラム。
【請求項1】
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第1波形記録装置と、
上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端に設けられ、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングしたサージ波形データを記録する第2波形記録装置と、
上記第1,第2波形記録装置に記録された上記サージ波形データに基づいて、上記サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置と
を備え、
上記第1,第2波形記録装置は、
上記サージ波形の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出する起動点検出部と、
上記起動点検出部が上記起動点を検出すると、上記起動点の前後の上記サージ波形データを記憶する記憶部とを夫々有し、
上記故障点標定装置は、
上記第1,第2波形記録装置の上記記憶部に記憶された上記サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Taと上記第2波形記録装置側の上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部と
を有することを特徴とする故障点標定システム。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【請求項2】
請求項1に記載の故障点標定システムにおいて、
上記第1,第2波形記録装置は、
GPS衛星からの電波を受信して、協定世界時(UTC)に同期した基準時刻信号に基づいて時刻を計時する時計部を有し、
上記時計部からの時刻情報に基づいて、上記サージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形データを上記記憶部に記憶することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の故障点標定システムにおいて、
上記第1,第2波形記録装置の上記起動点検出部は、入力されたオンオフ信号の変化が予め設定された起動条件を満たしたときの起動点を検出することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載の故障点標定システムにおいて、
上記故障点標定装置は、
上記移動平均演算部の移動平均演算に用いられる上記N個または上記差分データ演算部の差分データの演算に用いる上記M個の少なくとも一方を設定する演算条件設定部を有することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項5】
請求項1から4までの少なくとも1つに記載の故障点標定システムにおいて、
上記故障点標定装置は、
上記ノイズレベル最大値検出部の上記ノイズレベル最大値検出区間または上記サージ波形ピーク点検出部の上記サージ波形ピーク点検出区間の少なくとも一方の区間を設定する検出区間設定部を有することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項6】
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定装置であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算部と、
上記移動平均演算部により移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算部と、
上記差分データ演算部により演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出部と、
上記絶対値化部により絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記サージ波形ピーク点検出部により検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算部と、
上記サージ波形到達時刻演算部により演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定部とを有することを特徴とする故障点標定装置。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【請求項7】
送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第1サージ波形データと、上記送電線の他端または上記送電線の予め定められた区間の他端において、上記送電線に発生したサージ波形が到達した到達時刻に対応づけて上記サージ波形をサンプリングした第2サージ波形データとに基づいて、上記第1,第2サージ波形の到達時刻の時間差から上記サージ波形の発生点である故障点を標定する故障点標定方法であって、
上記第1サージ波形データと上記第2サージ波形データの夫々に対して、N個(Nは2以上の整数)のデータ毎の移動平均演算を行う移動平均演算ステップと、
上記移動平均演算ステップにより移動平均演算された上記サージ波形データの夫々に対して、M個(Nは2以上の整数)間隔で順次差分をとって上記サージ波形の差分データを演算する差分データ演算ステップと、
上記差分データ演算ステップにより演算された上記サージ波形の差分データの夫々を絶対値化する絶対値化ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々に対して、上記起動点よりも前の予め設定されたノイズレベル最大値検出区間におけるノイズレベル最大値Vnを検出するノイズレベル最大値検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記起動点よりも後の予め設定されたサージ波形ピーク点検出区間において、上記起動点側に最も近い極大点を上記サージ波形のピーク点P1として検出するサージ波形ピーク点検出ステップと、
上記絶対値化ステップにより絶対値化された上記サージ波形の差分絶対値データの夫々対して、上記サージ波形ピーク点検出ステップにより検出された上記サージ波形のピーク点P1または上記サージ波形ピーク点検出区間の始点から時間を遡って上記サージ波形の差分絶対値データが最初に上記ノイズレベル最大値Vnを下回る点P2を検出して、上記サージ波形のピーク点P1と上記点P2を通る直線のゼロクロス点を上記サージ波形の立ち上がり点とし、そのサージ波形の立ち上がり点の時刻をサージ波形到達時刻とするサージ波形到達時刻演算ステップと、
上記サージ波形到達時刻演算ステップにより演算された上記第1サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Taと上記第2サージ波形データの上記サージ波形到達時刻Tbに基づいて、次式により上記送電線の一端または上記送電線の予め定められた区間の一端から上記サージ波形の発生点である故障点までの距離X[km]を標定する故障点標定ステップとを有することを特徴とする故障点標定方法。
X=(L+(Ta−Tb)・V)/2
ただし、L:送電線(または送電線の予め定められた区間)の線路長[km]
V:サージ伝播速度[km/秒]
【請求項8】
請求項7に記載の故障点標定方法をコンピュータに実行させることを特徴とする故障点標定プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−196819(P2011−196819A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63879(P2010−63879)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(592061599)株式会社近計システム (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(592061599)株式会社近計システム (14)
【Fターム(参考)】
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