数値解析システム
【課題】指定操作の手間を低減し、シミュレーションを手軽にする。
【解決手段】有限要素からなる解析モデルを用いて対象物の物理特性を解析する数値解析システム100において、対象物から抽出された形状、テクスチャ、物理量の測定値などの物体情報DZ,DG,D8に基づいて、より好ましい解析モデルの生成および演算パラメータの設定を行う機能1を設ける。
【解決手段】有限要素からなる解析モデルを用いて対象物の物理特性を解析する数値解析システム100において、対象物から抽出された形状、テクスチャ、物理量の測定値などの物体情報DZ,DG,D8に基づいて、より好ましい解析モデルの生成および演算パラメータの設定を行う機能1を設ける。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有限要素法または境界要素法による解析を行う数値解析システムに関する。
【0002】
【従来の技術】対象物の物理特性を評価するため、コンピュータを用いたシミュレーションが行われている。有限要素法または境界要素法によるシミュレーションでは、CADまたは3次元デジタイザにより得られた形状モデルを微小な要素の集合に置き換えるメッシングを行う。そして、各要素に材料定数を与えることにより得られる解析モデルに対して、境界条件を設定して所定の方程式を解く。
【0003】従来、ソフトウェアを主体として構成される解析システムにおいて、予め指定された条件(要素サイズ、節点間の分割数など)で形状モデルを分割する自動メッシング機能が実現されている。オペレータは、指定条件を変更することにより、細かいまたは粗いメッシングを指定したり、自動メッシングの結果を部分的に手動修正したりすることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】メッシングでは、メッシュを細かくするほど精密な解析結果が得られる。反面、メッシュを細かくするほど計算の所要時間が長くなる。このことから、対象物のうちの重要部分は細かく、他の部分は粗いという“粗密のあるメッシング”が望ましい場合が多い。しかし、従来において粗密のあるメッシングを実現するには、オペレータが粗とすべき部分と密とすべき部分とを判断しなければならず指定に熟練が要するとともに、指定作業に時間と労力がかかるという問題があった。また、様々な材質の部品で構成される対象物に対する解析では、メッシュの各要素の材質を指定する物性値入力作業が面倒であり、指定を間違えてしまうおそれがあった。境界条件の指定にも熟練を要した。
【0005】本発明は、指定操作の手間を低減し、シミュレーションを手軽にすることを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明においては、実在する対象物またはモデラーにより仮想的に生成された対象物に対する解析に際して、対象物から抽出された物体情報に基づいて、メッシング、物性値の入力、および境界条件の設定の少なくとも1つを自動的に行う。物体情報には、形状、テクスチャ、および他の物理量(重量、温度分布など)が含まれる。例えば、形状に基づいて、凹凸や屈曲といった特徴を認識し、メッシュの粗密を設定する。必要に応じて小さな穴や突起を省略する。また、テクスチャに基づいて予め定められたマーキングの有無および種別を判定し、マークに応じてメッシング・材質の設定・境界条件の設定を行う。
【0007】対象物が実在する場合には、3次元入力、外観撮影、または物理量測定で得られた物体情報を利用することができる。例えば、物性値として密度を演算式に代入しなければならない場合に、3次元形状データから体積を求め、重量測定の結果と合わせて密度を算出する。これにより、オペレータが材質と密度との対応表を見て密度を入力する操作を省略することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係る数値解析システムの構成図である。数値解析システム100は、メインユニット1、操作入力デバイス5、ディスプレイ6、3次元デジタイザ7、および測定器8から構成されるシミュレーションシステムであり、実在する対象物Qの特性評価に好適である。
【0009】メインユニット1は、解析モデルの生成および解析結果の表示を担うプリホストプロセッサ10、方程式を解く演算を担うソルバー20、および演算に必要なデータ(物性値、境界条件、自動設定を支援するCAEデータベース情報)を記憶するデータテーブル30からなる。データテーブル30には、CAE(Computer Aided Enginneering )で培われた判断の基準やアルゴリズムを含むデータが登録されている。メインユニット1の機能は、ソウトウェアとそのうちのプログラムの実行が可能なコンピュータとで実現される。プリホストプロセッサ10は、対象物Qのテクスチャ情報(画像情報)に基づいて、マーキングの位置や種類を認識するマーク判別部11を有する。ソルバー20は、応力解析、振動解析、熱解析、流体解析などのシミュレーション種目のそれぞれに対応したモジュールからなる。モジュールの種類および数は、数値解析システム100の用途に応じて選択される。プリホストプロセッサ10およびソルバー20は、適宜にデータテーブル30を参照して必要なデータを取り込む。
【0010】3次元デジタイザ7は、対象物Qから形状情報DZを抽出する測定機能とともに、画像情報DGを抽出する撮影機能を有している。形状の測定方法に限定はないが、測定と撮影とで光学部品を共通化できることから、光切断法やステレオ視法に代表される光学式測定法が測定方法として好ましい。
【0011】測定器8は、シミュレーション項目に応じて所定の測定情報D8をメインユニット1に提供する。例えば、熱伝導のシミュレーションでは、測定器8として温度計が設けられ、物体表面の温度分布が物性量として測定される。そして、この温度分布に基づいて、温度変化の激しい熱源近傍を他より細かく分割するメッシングが自動的に行われる。
【0012】なお、3次元デジタイザ7および測定器8とメインユニット1とのデータの受渡しは、有線(SCSI、USB、IEEE1394など)または無線(IrDAなど)のデータ通信によって行ってもよいし、可搬性の記録メディア(スマートメディア、コンパクトフラッシュ(登録商標)カードなど)を介して行ってもよい。
【0013】以上の構成の数値解析システム100においては、表1に示す複数の種目のシミュレーションが可能である。シミュレーション動作は、どの種目についてもモデリング、メッシング、物性値設定、境界条件設定、計算、および計算結果出力(表示)の6つの処理に大別される。これら処理のうち、境界条件設定は、形状情報を取り込んで解析モデルの原型を生成する“モデリング”から方程式を解く“計算”までのどの段階で行ってもよい。
【0014】
【表1】
【0015】上述のメインユニット1は、シミュレーションに係るモデリング・メッシング・物性値設定・境界条件設定の各処理において、表2、表3、表4および表5にまとめて示すとおり、対象物から抽出した情報およびデータテーブル30のデータを適用して対象物に適した設定を自動的に行う。例えば、表2のように応力解析に係るモデリングでは、応力の測定情報に基づいて応力集中部以外の形状を簡略化する。また、表3のように応力解析に係るメッシングでは、応力の測定情報に基づいて応力集中部を他より細かい要素に分割する。
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
【表4】
【0019】
【表5】
【0020】図2は解析モデル生成の手順を示すフローチャートである。プリホストプロセッサ10は、形状情報DZ、画像情報DG、および測定情報D8を取り込むとともに、操作入力デバイス5からの指定入力情報を取り込んで解析種目を認識する(#1〜#3)。画像情報DGに基づいて、形状情報DZで表される対象物の一部に注目してマーキングの有無を調べる(#4)。予めマークの色および形について取り決めがなされているので、一般的なマッチング手法によるマークの探索が可能である。
【0021】マークがあれば、マークに応じた処理を行い(#5、#9)、ステップ#4に戻って以前と異なる部位に注目してマーキングの有無を調べる(#9、#4)。マークがなければ、注目部位についてのメッシュ条件および物性値をデフォルト値とする(#5〜#7)。その後、対象物の全ての部分に対してメッシュ条件および物性値が定義されると、定義に従ってメッシングを行う(#8)。
【0022】図3はマークに応じた処理のフローチャートである。このルーチンでは、最初にマークの属性(色や反射率など)からマークの種類およびマーキングの適用範囲を認識する(#90)。
【0023】物性値マーキングの場合には、測定情報D8およびデータベース情報を含む関連データを参照し、適切な物性値についての判断を行う(#91、#92)。そして、判断結果に従ってマーキング適用範囲を定義する(#93)。同様に、境界条件マーキングの場合およびメッシングマーキングの場合にも、所定の関連データを参照して境界条件またはメッシングについて判断し、判断結果に従ってマーキング適用範囲を定義する(#94〜#99)。他のマーキングの場合にはそのマーキングに応じた処理を行う(#100)。
【0024】以下、自動設定の具体例を列挙する。図4は振動解析におけるメッシングの例を示す図である。同図(A)(B)の対象物Qは切欠きを有し、(C)の対象物Qは穴を有する。(D)の対象物Qはネジ止め部分を有し、(E)の対象物Qは溶接部分を有する。(F)対象物Qは円筒状の突起を有する。これらの対象物Qに対する解析モデルMQの生成に際しては、切欠き・穴・ネジ止め部分・溶接部分・突起などの特異点の近傍を細かく分割するとともに、外形に応じて要素形状を選択するメッシングが行われる。
【0025】図5は振動解析におけるマーキングによる境界条件設定の概念図である。図5の例において、対象物Qは板状部品と柱状部品とをネジ止めで結合した机である。3次元デジタイザ7から取り込んだ形状情報(形状モデル)DZに解析に必要な境界条件を与えるにあたって、対象物Qを組立てる以前の部品の画像情報DGを利用する。画像情報DGから形状モデルのネジ止め位置を検知し、部品どうしをネジ止め用の境界条件で結合した解析モデルMQを定義する。例示では、マーキングの属性が一致する結合相手を選び、面を合わせて結合している。
【0026】図6は振動解析における実測による物性値設定の概念図である。図6の例において、測定器8は加振質量計であり、測定情報D8は対象物Qの質量と加振周波数とを示す。メインユニット1は、3次元デジタイザ7から取り込んだ形状情報DZに基づいて、対象物Qの体積を計算するとともに、振動を加えたときの注目点の位置変化量(振幅)を検出して伝達関数を求める(実験モーダル解析)。そして、加振質量計から取り込んだ質量と計算で求めた体積とから対象物Qの密度を算出し、伝達特性のシミュレーションを行って実際の剛性Kを計算する。実際の剛性Kは次式で表される。
K=(A/B)2 ×(M/M’)×K’A :実験モーダル解析の結果B :シミュレーションの結果M :測定情報により得られた実際の密度M’:シミュレーションに用いた仮想の密度K’:シミュレーションに用いた仮想の剛性図7は電磁場解析におけるメッシングの例を示す図である。
【0027】図7(A)における対象物Qはイグニッションプラグであり、図7(B)における対象物Qはモーターである。数値解析システム100のユーザーは、これら対象物Qに対して、取り決めに従って所定属性のマークを付けておく。メインユニット1は、マーキングに基づいて放電ギャップ・磁石・コイルなどの電磁場変化の激しい箇所を判断するとともに、評価対象範囲を判断する。そして、評価対象範囲のみに対応しかつ粗密のあるメッシングを施した解析モデルMQを生成する。
【0028】図8は電磁場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。図8(A)では、対象物Q(イグニッションプラグ)における電極ギャップの近傍に、陽極と陰極とを区別するマーキングがなされている。図8(B)では、対象物Q(モーター)における磁石に、N極とS極とを区別するマーキングがなされている。コイルについても電流の方向を示すマーキングを施すのが望ましい。
【0029】図9は電磁場解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。メインユニット1は、マークの属性(ここでは色)をキーとしてデータテーブル30の材料データベースを検索し、マークに応じた材料を設定する。
【0030】図10は音場解析におけるメッシングの例を示す図である。図10において対象物Qは、穴のあいた中空の箱の内部または外面近傍の媒質(通常は空気)である。箱の外側における音の伝播特性を評価するための境界要素法による解析では、箱の振動特性を内面の音の伝播特性と連成させることによって、箱内の音が箱を揺らして外に放出されるときの伝播特性を評価する場合がある。この場合には、箱の穴を形状情報またはマークによって認識し、穴を除いた部分をメッシングする。一方、箱の内部の音響モードを評価するための有限要素法による解析では、箱の内部から外部への波の漏れが無視できるような大きさの穴を考慮する必要がない。メインユニット1は、穴の大きさを判断し、無視できるような穴であれば、その穴を含むメッシングを行う。箱の外または内のどちらを評価するかは、ユーザーが指定する。メインユニット1は、指定に応じて解析法およびメッシング形態を選択する。
【0031】図11は音場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。対象物Qは図10の例と同様である。メインユニット1はユーザーによる指定に応じて解析法を選択し、境界要素法による解析では穴の周囲の節点に圧力差=0の条件を設定し、有限要素法による解析では穴を構成する要素に圧力差=0の条件を設定する。
【0032】図12は熱解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。対象物Qは、樹脂からなる部品とアルミニウムからなる部品とで構成される。ユーザーは、対象物Qに材質を表すマークを付けておく。メインユニット1はマークから材質を認識し、材質に応じて粗密のあるメッシングを行う。樹脂と比べて熱伝導率の大きい金属からなる部分については粗いメッシングを行う。樹脂からなる部分については、温度変化が激しいと予想されるので、細かいメッシングを行う。
【0033】図13は熱解析における境界条件設定の例を示す図である。この例での対象物Qは加熱ローラーであり、測定器8は放射温度計である。メインユニット1は、放射温度計からの測定情報D8である温度分布を取り込み、温度分布を境界条件として加熱ローラーの内部温度を計算する。
【0034】
【発明の効果】請求項1乃至請求項4の発明によれば、指定操作の手間を低減し、シミュレーションを手軽にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る数値解析システムの構成図である。
【図2】解析モデル生成の手順を示すフローチャートである。
【図3】マークに応じた処理のフローチャートである。
【図4】振動解析におけるメッシングの例を示す図である。
【図5】振動解析におけるマーキングによる境界条件設定の概念図である。
【図6】振動解析における実測による物性値設定の概念図である。
【図7】電磁場解析におけるメッシングの例を示す図である。
【図8】電磁場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。
【図9】電磁場解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。
【図10】音場解析におけるメッシングの例を示す図である。
【図11】音場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。
【図12】熱解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。
【図13】熱解析における境界条件設定の例を示す図である。
【符号の説明】
100 数値解析システム
Q 対象物
MQ 解析モデル
DZ 形状情報(物体情報)
DG 画像情報(テクスチャ情報、物体情報)
D8 測定情報(物体情報)
30 データテーブル(支援データテーブル)
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有限要素法または境界要素法による解析を行う数値解析システムに関する。
【0002】
【従来の技術】対象物の物理特性を評価するため、コンピュータを用いたシミュレーションが行われている。有限要素法または境界要素法によるシミュレーションでは、CADまたは3次元デジタイザにより得られた形状モデルを微小な要素の集合に置き換えるメッシングを行う。そして、各要素に材料定数を与えることにより得られる解析モデルに対して、境界条件を設定して所定の方程式を解く。
【0003】従来、ソフトウェアを主体として構成される解析システムにおいて、予め指定された条件(要素サイズ、節点間の分割数など)で形状モデルを分割する自動メッシング機能が実現されている。オペレータは、指定条件を変更することにより、細かいまたは粗いメッシングを指定したり、自動メッシングの結果を部分的に手動修正したりすることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】メッシングでは、メッシュを細かくするほど精密な解析結果が得られる。反面、メッシュを細かくするほど計算の所要時間が長くなる。このことから、対象物のうちの重要部分は細かく、他の部分は粗いという“粗密のあるメッシング”が望ましい場合が多い。しかし、従来において粗密のあるメッシングを実現するには、オペレータが粗とすべき部分と密とすべき部分とを判断しなければならず指定に熟練が要するとともに、指定作業に時間と労力がかかるという問題があった。また、様々な材質の部品で構成される対象物に対する解析では、メッシュの各要素の材質を指定する物性値入力作業が面倒であり、指定を間違えてしまうおそれがあった。境界条件の指定にも熟練を要した。
【0005】本発明は、指定操作の手間を低減し、シミュレーションを手軽にすることを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明においては、実在する対象物またはモデラーにより仮想的に生成された対象物に対する解析に際して、対象物から抽出された物体情報に基づいて、メッシング、物性値の入力、および境界条件の設定の少なくとも1つを自動的に行う。物体情報には、形状、テクスチャ、および他の物理量(重量、温度分布など)が含まれる。例えば、形状に基づいて、凹凸や屈曲といった特徴を認識し、メッシュの粗密を設定する。必要に応じて小さな穴や突起を省略する。また、テクスチャに基づいて予め定められたマーキングの有無および種別を判定し、マークに応じてメッシング・材質の設定・境界条件の設定を行う。
【0007】対象物が実在する場合には、3次元入力、外観撮影、または物理量測定で得られた物体情報を利用することができる。例えば、物性値として密度を演算式に代入しなければならない場合に、3次元形状データから体積を求め、重量測定の結果と合わせて密度を算出する。これにより、オペレータが材質と密度との対応表を見て密度を入力する操作を省略することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係る数値解析システムの構成図である。数値解析システム100は、メインユニット1、操作入力デバイス5、ディスプレイ6、3次元デジタイザ7、および測定器8から構成されるシミュレーションシステムであり、実在する対象物Qの特性評価に好適である。
【0009】メインユニット1は、解析モデルの生成および解析結果の表示を担うプリホストプロセッサ10、方程式を解く演算を担うソルバー20、および演算に必要なデータ(物性値、境界条件、自動設定を支援するCAEデータベース情報)を記憶するデータテーブル30からなる。データテーブル30には、CAE(Computer Aided Enginneering )で培われた判断の基準やアルゴリズムを含むデータが登録されている。メインユニット1の機能は、ソウトウェアとそのうちのプログラムの実行が可能なコンピュータとで実現される。プリホストプロセッサ10は、対象物Qのテクスチャ情報(画像情報)に基づいて、マーキングの位置や種類を認識するマーク判別部11を有する。ソルバー20は、応力解析、振動解析、熱解析、流体解析などのシミュレーション種目のそれぞれに対応したモジュールからなる。モジュールの種類および数は、数値解析システム100の用途に応じて選択される。プリホストプロセッサ10およびソルバー20は、適宜にデータテーブル30を参照して必要なデータを取り込む。
【0010】3次元デジタイザ7は、対象物Qから形状情報DZを抽出する測定機能とともに、画像情報DGを抽出する撮影機能を有している。形状の測定方法に限定はないが、測定と撮影とで光学部品を共通化できることから、光切断法やステレオ視法に代表される光学式測定法が測定方法として好ましい。
【0011】測定器8は、シミュレーション項目に応じて所定の測定情報D8をメインユニット1に提供する。例えば、熱伝導のシミュレーションでは、測定器8として温度計が設けられ、物体表面の温度分布が物性量として測定される。そして、この温度分布に基づいて、温度変化の激しい熱源近傍を他より細かく分割するメッシングが自動的に行われる。
【0012】なお、3次元デジタイザ7および測定器8とメインユニット1とのデータの受渡しは、有線(SCSI、USB、IEEE1394など)または無線(IrDAなど)のデータ通信によって行ってもよいし、可搬性の記録メディア(スマートメディア、コンパクトフラッシュ(登録商標)カードなど)を介して行ってもよい。
【0013】以上の構成の数値解析システム100においては、表1に示す複数の種目のシミュレーションが可能である。シミュレーション動作は、どの種目についてもモデリング、メッシング、物性値設定、境界条件設定、計算、および計算結果出力(表示)の6つの処理に大別される。これら処理のうち、境界条件設定は、形状情報を取り込んで解析モデルの原型を生成する“モデリング”から方程式を解く“計算”までのどの段階で行ってもよい。
【0014】
【表1】
【0015】上述のメインユニット1は、シミュレーションに係るモデリング・メッシング・物性値設定・境界条件設定の各処理において、表2、表3、表4および表5にまとめて示すとおり、対象物から抽出した情報およびデータテーブル30のデータを適用して対象物に適した設定を自動的に行う。例えば、表2のように応力解析に係るモデリングでは、応力の測定情報に基づいて応力集中部以外の形状を簡略化する。また、表3のように応力解析に係るメッシングでは、応力の測定情報に基づいて応力集中部を他より細かい要素に分割する。
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
【表4】
【0019】
【表5】
【0020】図2は解析モデル生成の手順を示すフローチャートである。プリホストプロセッサ10は、形状情報DZ、画像情報DG、および測定情報D8を取り込むとともに、操作入力デバイス5からの指定入力情報を取り込んで解析種目を認識する(#1〜#3)。画像情報DGに基づいて、形状情報DZで表される対象物の一部に注目してマーキングの有無を調べる(#4)。予めマークの色および形について取り決めがなされているので、一般的なマッチング手法によるマークの探索が可能である。
【0021】マークがあれば、マークに応じた処理を行い(#5、#9)、ステップ#4に戻って以前と異なる部位に注目してマーキングの有無を調べる(#9、#4)。マークがなければ、注目部位についてのメッシュ条件および物性値をデフォルト値とする(#5〜#7)。その後、対象物の全ての部分に対してメッシュ条件および物性値が定義されると、定義に従ってメッシングを行う(#8)。
【0022】図3はマークに応じた処理のフローチャートである。このルーチンでは、最初にマークの属性(色や反射率など)からマークの種類およびマーキングの適用範囲を認識する(#90)。
【0023】物性値マーキングの場合には、測定情報D8およびデータベース情報を含む関連データを参照し、適切な物性値についての判断を行う(#91、#92)。そして、判断結果に従ってマーキング適用範囲を定義する(#93)。同様に、境界条件マーキングの場合およびメッシングマーキングの場合にも、所定の関連データを参照して境界条件またはメッシングについて判断し、判断結果に従ってマーキング適用範囲を定義する(#94〜#99)。他のマーキングの場合にはそのマーキングに応じた処理を行う(#100)。
【0024】以下、自動設定の具体例を列挙する。図4は振動解析におけるメッシングの例を示す図である。同図(A)(B)の対象物Qは切欠きを有し、(C)の対象物Qは穴を有する。(D)の対象物Qはネジ止め部分を有し、(E)の対象物Qは溶接部分を有する。(F)対象物Qは円筒状の突起を有する。これらの対象物Qに対する解析モデルMQの生成に際しては、切欠き・穴・ネジ止め部分・溶接部分・突起などの特異点の近傍を細かく分割するとともに、外形に応じて要素形状を選択するメッシングが行われる。
【0025】図5は振動解析におけるマーキングによる境界条件設定の概念図である。図5の例において、対象物Qは板状部品と柱状部品とをネジ止めで結合した机である。3次元デジタイザ7から取り込んだ形状情報(形状モデル)DZに解析に必要な境界条件を与えるにあたって、対象物Qを組立てる以前の部品の画像情報DGを利用する。画像情報DGから形状モデルのネジ止め位置を検知し、部品どうしをネジ止め用の境界条件で結合した解析モデルMQを定義する。例示では、マーキングの属性が一致する結合相手を選び、面を合わせて結合している。
【0026】図6は振動解析における実測による物性値設定の概念図である。図6の例において、測定器8は加振質量計であり、測定情報D8は対象物Qの質量と加振周波数とを示す。メインユニット1は、3次元デジタイザ7から取り込んだ形状情報DZに基づいて、対象物Qの体積を計算するとともに、振動を加えたときの注目点の位置変化量(振幅)を検出して伝達関数を求める(実験モーダル解析)。そして、加振質量計から取り込んだ質量と計算で求めた体積とから対象物Qの密度を算出し、伝達特性のシミュレーションを行って実際の剛性Kを計算する。実際の剛性Kは次式で表される。
K=(A/B)2 ×(M/M’)×K’A :実験モーダル解析の結果B :シミュレーションの結果M :測定情報により得られた実際の密度M’:シミュレーションに用いた仮想の密度K’:シミュレーションに用いた仮想の剛性図7は電磁場解析におけるメッシングの例を示す図である。
【0027】図7(A)における対象物Qはイグニッションプラグであり、図7(B)における対象物Qはモーターである。数値解析システム100のユーザーは、これら対象物Qに対して、取り決めに従って所定属性のマークを付けておく。メインユニット1は、マーキングに基づいて放電ギャップ・磁石・コイルなどの電磁場変化の激しい箇所を判断するとともに、評価対象範囲を判断する。そして、評価対象範囲のみに対応しかつ粗密のあるメッシングを施した解析モデルMQを生成する。
【0028】図8は電磁場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。図8(A)では、対象物Q(イグニッションプラグ)における電極ギャップの近傍に、陽極と陰極とを区別するマーキングがなされている。図8(B)では、対象物Q(モーター)における磁石に、N極とS極とを区別するマーキングがなされている。コイルについても電流の方向を示すマーキングを施すのが望ましい。
【0029】図9は電磁場解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。メインユニット1は、マークの属性(ここでは色)をキーとしてデータテーブル30の材料データベースを検索し、マークに応じた材料を設定する。
【0030】図10は音場解析におけるメッシングの例を示す図である。図10において対象物Qは、穴のあいた中空の箱の内部または外面近傍の媒質(通常は空気)である。箱の外側における音の伝播特性を評価するための境界要素法による解析では、箱の振動特性を内面の音の伝播特性と連成させることによって、箱内の音が箱を揺らして外に放出されるときの伝播特性を評価する場合がある。この場合には、箱の穴を形状情報またはマークによって認識し、穴を除いた部分をメッシングする。一方、箱の内部の音響モードを評価するための有限要素法による解析では、箱の内部から外部への波の漏れが無視できるような大きさの穴を考慮する必要がない。メインユニット1は、穴の大きさを判断し、無視できるような穴であれば、その穴を含むメッシングを行う。箱の外または内のどちらを評価するかは、ユーザーが指定する。メインユニット1は、指定に応じて解析法およびメッシング形態を選択する。
【0031】図11は音場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。対象物Qは図10の例と同様である。メインユニット1はユーザーによる指定に応じて解析法を選択し、境界要素法による解析では穴の周囲の節点に圧力差=0の条件を設定し、有限要素法による解析では穴を構成する要素に圧力差=0の条件を設定する。
【0032】図12は熱解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。対象物Qは、樹脂からなる部品とアルミニウムからなる部品とで構成される。ユーザーは、対象物Qに材質を表すマークを付けておく。メインユニット1はマークから材質を認識し、材質に応じて粗密のあるメッシングを行う。樹脂と比べて熱伝導率の大きい金属からなる部分については粗いメッシングを行う。樹脂からなる部分については、温度変化が激しいと予想されるので、細かいメッシングを行う。
【0033】図13は熱解析における境界条件設定の例を示す図である。この例での対象物Qは加熱ローラーであり、測定器8は放射温度計である。メインユニット1は、放射温度計からの測定情報D8である温度分布を取り込み、温度分布を境界条件として加熱ローラーの内部温度を計算する。
【0034】
【発明の効果】請求項1乃至請求項4の発明によれば、指定操作の手間を低減し、シミュレーションを手軽にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る数値解析システムの構成図である。
【図2】解析モデル生成の手順を示すフローチャートである。
【図3】マークに応じた処理のフローチャートである。
【図4】振動解析におけるメッシングの例を示す図である。
【図5】振動解析におけるマーキングによる境界条件設定の概念図である。
【図6】振動解析における実測による物性値設定の概念図である。
【図7】電磁場解析におけるメッシングの例を示す図である。
【図8】電磁場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。
【図9】電磁場解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。
【図10】音場解析におけるメッシングの例を示す図である。
【図11】音場解析におけるマーキングによる境界条件設定の説明図である。
【図12】熱解析におけるマーキングによる物性値設定の説明図である。
【図13】熱解析における境界条件設定の例を示す図である。
【符号の説明】
100 数値解析システム
Q 対象物
MQ 解析モデル
DZ 形状情報(物体情報)
DG 画像情報(テクスチャ情報、物体情報)
D8 測定情報(物体情報)
30 データテーブル(支援データテーブル)
【特許請求の範囲】
【請求項1】有限要素からなる解析モデルを用いて対象物の物理的な特性を解析する数値解析システムであって、対象物から抽出された物体情報に基づいて、解析モデルの生成および演算パラメータの設定を行うことを特徴とする数値解析システム。
【請求項2】対象物の形状情報に基づいて形状判断を行い、その結果に応じて前記解析モデルを生成するためのメッシングおよび境界条件設定の少なくとも一方を行う請求項1記載の数値解析システム。
【請求項3】測定により対象物から抽出された物理量情報に基づいて、解析に係わる物性値を算出して演算パラメータの設定を行う請求項1記載の数値解析システム。
【請求項4】対象物のテクスチャ情報に基づいてマーキング判別を行い、その結果に応じて支援データテーブルを参照して演算パラメータの設定を行う請求項1記載の数値解析システム。
【請求項1】有限要素からなる解析モデルを用いて対象物の物理的な特性を解析する数値解析システムであって、対象物から抽出された物体情報に基づいて、解析モデルの生成および演算パラメータの設定を行うことを特徴とする数値解析システム。
【請求項2】対象物の形状情報に基づいて形状判断を行い、その結果に応じて前記解析モデルを生成するためのメッシングおよび境界条件設定の少なくとも一方を行う請求項1記載の数値解析システム。
【請求項3】測定により対象物から抽出された物理量情報に基づいて、解析に係わる物性値を算出して演算パラメータの設定を行う請求項1記載の数値解析システム。
【請求項4】対象物のテクスチャ情報に基づいてマーキング判別を行い、その結果に応じて支援データテーブルを参照して演算パラメータの設定を行う請求項1記載の数値解析システム。
【図9】
【図1】
【図2】
【図3】
【図8】
【図4】
【図5】
【図7】
【図10】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図8】
【図4】
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【図10】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2002−108952(P2002−108952A)
【公開日】平成14年4月12日(2002.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−298234(P2000−298234)
【出願日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【出願人】(000006079)ミノルタ株式会社 (155)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成14年4月12日(2002.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【出願人】(000006079)ミノルタ株式会社 (155)
【Fターム(参考)】
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