説明

断層撮像方法および断層撮像装置

【課題】 装置には様々な公差があり、複数点が所望の条件で測定できないことがある。
【解決手段】 複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光の合成光により、前記被検査物の断層画像を取得する断層撮像方法であって、
予め記憶されている前記複数の測定光に関する情報を反映させて前記複数の測定光を前記被検査物に照射することにより、それぞれの合成光を取得する第一の工程と、
前記それぞれの合成光に基づき、各断層画像を生成する第二の工程と、有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断層撮像装置及び断層撮像方法に関し、特に眼科診療等に用いられる断層撮像方法及び断層撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光学機器を用いた眼科用機器として、様々なものが使用されている。例えば、眼を観察する光学機器として、前眼部撮影機、眼底カメラ、共焦点レーザー走査検眼鏡(SLO:Scanning Laser Ophthalmoscope)等である。中でも、低コヒーレンス光を利用した光コヒーレンストモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)による光断層撮像装置は、被検査物の断層画像を高解像度に得ることができる装置であり、眼科用機器として網膜の専門外来では必要不可欠な装置になりつつある。以下、これをOCT装置と記す。
【0003】
OCT装置は、低コヒーレント光を、参照光と測定光に分け、測定光を被検査物に照射し、その被検査物からの戻り光と参照光を干渉させることによって被検査物の断層を測定することができる。つまり、測定光を被検査物上でスキャンすることで2次元や3次元の断層画像を得ることができる。ただし、被検査物が眼のような生体である場合、眼の動きによる画像の歪みが問題となる。そこで、高速で高感度に測定することが求められている。
【0004】
その方法の一つとして、被検査物の複数点を同時に測定する方法が特許文献1に公開されている。それによると、一つの光源からの光をスリットで分割することによって複数の光を作り出す。そしてそれらの光を、ビームスプリッタにより、複数の測定光と参照光にそれぞれ分ける。測定光は被検査物に照射され、被検査物からの戻り光と参照光をビームスプリッタで合成する。そして、複数の合成光はグレーティングに入射されて、2次元センサで同時に検出される。このように特許文献1は、複数の測定光による同時測定で高速化を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国公開特許2008/0284981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数点を同時に測定する場合、装置構成によっては光学系の初期状態をあらかじめ計測しておく必要がある。つまり装置には様々な公差があり、複数点が所望の条件で測定できないことがある。例えば、光軸に対して垂直な面で各ビームの計測領域がずれている場合、あるいは、光軸方向(深さ)に対して各ビームの計測領域がずれている場合がある。これらを考慮しないで測定する場合、所望の領域を測定できないことになる。
【0007】
本発明は、この課題を解決するためのものであり、光学系の初期状態を測定し、それらを被検査物の測定に反映させることによって所望の測定ができるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る被検査物の断層撮像方法は、複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光の合成光により、被検査物の断層画像を取得する断層撮像方法であって、予め記憶されている複数の測定光に関する情報に基づいて、複数の測定光各々から得られるそれぞれの断層画像の各々のズレ量が所定のレベル以下となるように装置状態を補正して、複数の測定光を被検査物に照射することにより、それぞれの合成光を取得する工程と、それぞれの合成光に基づき、対応するそれぞれの断層画像を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る断層撮像装置は、複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光の合成光により、被検査物の断層画像を取得する断層撮像装置であって、複数の測定光に関する情報を記憶する手段と、情報に基づいて、複数の測定光各々から得られるそれぞれの断層画像の各々のズレ量が所定のレベル以下となるように装置状態を補正する手段と、複数の測定光を被検査物に照射することにより、それぞれの合成光を取得する手段と、それぞれの合成光を基に、対応するそれぞれの断層画像を生成する手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学系の初期状態をあらかじめ測定し、それらを被検査物の測定に反映させることで、所望の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を説明する図である。
【図2】本発明の実施例1における装置構成を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1における分光器を説明する図である。
【図4】本発明の実施例1における模型眼の(a)眼底像、(b)2次元強度像、(c)領域をまたぐ断層画像を各々示す図である。
【図5】本発明の実施例2における信号処理工程を説明する図である。
【図6】本発明の実施例2における断層画像の(a)3次元配置、(b)再配置後の断層画像データを各々示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る断層撮像装置では、測定光路を介して複数の測定光を被検査物に照射し、その戻り光も該測定光路を介して検出位置に導かれる。該測定光は、各々スキャナによって被検査物上を走査することができる。また、参照光は、参照光用の参照光路を介して検出位置に導かれる。そして、検出位置に導かれた戻り光と参照光とは合波された合波光としてセンサによって検出される。参照光路にはミラーが配置されており、ステージの操作によってミラーの位置を調整することができる。
【0013】
また、本発明の一実施形態に係る断層撮像方法では、予め記憶されている複数の測定光に関する情報を基に、測定光各々の照射条件を調整してこれらを被検査物に照射することによって各々の合成光、或いは合波光を取得する第一の工程と、各々の合波光に基づいて各断層画像を生成する第二の工程と、を有する。また、先の情報を基に、生成した各々の断層画像の補正を行う第三の工程を更に有することができる。
【0014】
[実施例1]
以下、本発明の実施例1について、図面を用いて詳細に説明する。本実施例は、被検査物の動きが無視できるような場合に特に有効である。
【0015】
図2は、本実施例における光を用いた断層撮像装置の構成を示す図である。OCT装置200は、図2に示されるように、全体としてマイケルソン干渉系を構成している。
【0016】
(光学系)
光源201から出射した光である出射光204はシングルモードファイバ210に導かれて光カプラ256に入射し、光カプラ256にて第1の光路と第2の光路と第3の光路の3つの光路を通る出射光204−1〜3に分割される。さらに、この3つの出射光204−1〜3のそれぞれは、偏光コントローラ253−1を通過し、光カプラ231−1〜3にて参照光205−1〜3と測定光206−1〜3とに分割される。このように分割された3つの測定光206−1〜3は、観察対象である被検眼207における網膜227等のそれぞれの測定個所によって反射あるいは散乱された戻り光208−1〜3となって戻される。そして、光カプラ231−1〜3によって、参照光路を経由してきた参照光205−1〜3と合波され合成光242−1〜3となる。合成光242−1〜3は、透過型回折格子241によって波長毎にそれぞれ分光され、ラインセンサ239の異なる領域に入射される。ラインセンサ239はセンサ素子毎に各波長の光強度を電圧に変換し、その信号を用いて、被検眼207の断層画像が構成される。
【0017】
ここで、光源201の周辺について説明する。光源201は代表的な低コヒーレント光源であるSLD(Super Luminescent Diode)からなる。測定光の波長は眼を測定することを鑑みると、近赤外光の領域にあることが適する。さらに波長は、得られる断層画像の横方向の分解能に影響するため、なるべく短波長であることが望ましく、本実施例では中心波長840nm、波長幅50nmとする。観察対象の測定部位によっては、他の波長を選んでも良い。光源の種類は、ここではSLDを選択したが、低コヒーレント光が出射できればよく、ASE(Amplified Spontaneous Emission)等も用いることができる。当然、測定光の数に対応する光源を用いても良い。
【0018】
次に、参照光205の参照光路について説明する。光カプラ231−1〜3によって分割された3つの参照光205−1〜3のそれぞれは、偏光コントローラ253−2を通過し、レンズ235−1にて略平行光となって、出射される。次に、参照光205−1〜3は分散補償用ガラス215を通過し、レンズ235−2にて、ミラー214に集光される。そして、参照光205−1〜3はミラー214にて方向を変え、再び光カプラ231−1〜3に向かう。参照光205−1〜3は光カプラ231−1〜3を通過し、ラインセンサ239に導かれる。なお、分散補償用ガラス215は被検眼207および走査光学系を測定光206が往復した時の分散を、参照光205に対して補償するものである。なお、日本人の平均的な眼球の直径として代表的な値を想定し23mmとする。
【0019】
さらに、217−1は電動ステージであり、矢印で図示している方向に移動することができ、参照光205の光路長を、調整・制御することができる。そして、電動ステージ217−1はコンピュータ225により制御される。ところで測定光路において、参照光路と光学距離が一致する位置をコヒーレンスゲートと言う。電動ステージの制御によってこのコヒーレンスゲートの調整ができ、深さ方向の計測範囲を設定することができる。なお、本実施例においては、ミラー214や電動ステージ217−1および分散補償用ガラス215を、3つの光路で同じのものを使用したが、それぞれ別々の構成としても良い。
【0020】
次に、測定光206の測定光路について説明する。光カプラ231−1〜3によって分割された測定光206−1〜3のそれぞれは、偏光コントローラ253−4を通過し、フファイバ端面218−1〜3から出射され、レンズ220−3にて略平行光となり、走査光学系を構成するXYスキャナ219のミラーに入射される。ここでは、簡単のため、XYスキャナ219は一つのミラーとして記したが、実際にはXスキャン用ミラーとYスキャン用ミラーとの2枚のミラーが近接して配置され、網膜227上を光軸に垂直な方向にラスタースキャンするものである。また、測定光206−1〜3のそれぞれの中心はXYスキャナ219のミラーの回転中心とほぼ一致するようにレンズ220−1、3等が調整されている。レンズ220−1、220−2は測定光206−1〜3が網膜227を走査するための光学系であり、測定光206を角膜226の付近を支点として、網膜227をスキャンする役割がある。測定光206−1〜3はそれぞれ網膜上の任意の位置に結像するように構成されている。
【0021】
また、217−2は電動ステージであり、矢印で図示している方向に移動することができ、付随するレンズ220−2の位置を、調整・制御することができる。レンズ220−2の位置を調整することで、被検眼207の網膜227の所望の層に測定光206−1〜3のそれぞれを集光し、観察することができる。測定光206−1〜3は被検眼207に入射すると、網膜227からの反射や散乱により戻り光208−1〜3となり、光カプラ231−1〜3を通過し、ラインセンサ239に導かれる。なお、電動ステージ217−2はコンピュータ225により制御される。以上の構成をとることにより、3つの測定光を同時にスキャンすることができる。
【0022】
次に、検出系の構成について説明する。網膜227にて反射や散乱された戻り光208−1〜3と参照光205−1〜3とは光カプラ231−1〜3により合波される。そして、合波された合成光242−1〜3は分光器に入射し、スペクトルが得られる。これらのスペクトルに対し、コンピュータ225が信号処理を行う。
【0023】
(分光器)
ここで、分光器について具体的に説明する。この構成では、複数の合成光を一個のラインセンサで処理するため、2次元センサに比べて低コストを実現することができる。
【0024】
図3に、図2に示した分光器の部分を詳細に説明するために、3つの合成光(242−1〜3)が分光器に入射した場合の構成を示す。ファイバ端260−1〜3がお互いに離れて配置してあり、ファイバ端260−1〜3からそれぞれ合成光242−1〜3が出射する。この際、合成光242−1〜3がレンズ235の主面に垂直に入射するように、即ちテレセントリックになるようにファイバ端260−1〜3の向きが予め調整されている。レンズ235で3つの合成光242−1〜3はそれぞれ略平行光になり、3つの合成光242−1〜3はともに透過型回折格子241に入射する。
【0025】
光量の損失を低減するために、透過型回折格子241の位置は光学系の瞳近傍に配置し、透過型回折格子241の表面に絞りを設ける必要がある。また透過型回折格子241はレンズ235の主面に対して傾いて配置されるため、透過型回折格子241の表面で光束は楕円形となる。そのため透過型回折格子241の表面に設けた絞りは楕円形にする必要がある。透過型回折格子241で回折された合成光242−1〜3は、それぞれレンズ243に入射する。ここで図2における回折した合成光は、中心波長のみの光束を示しており、その他の波長の回折した合成光は簡単のため主光線のみを記載している。レンズ243に入射したそれぞれの回折した合成光242−1〜3は、ラインセンサ239上に結像され、矢印261−1〜3で示した位置にそれぞれ分光スペクトルが観察される。
【0026】
【表1】

【0027】
表1は、本実施例で使用する測定光の波長の上限と下限および中心波長の840nmについてまとめたものである。透過型回折格子への入射角の違いにより合成光242−1〜3はそれぞれ回折角が異なり、その結果結像位置が合成光によって異なることがわかる。さらに1画素あたり12μmのセンサ素子で検出するときの画素数がそれぞれの合成光によって変わることとなる。
【0028】
(装置の校正)
次に、装置の基本的な情報を取得し、校正することについて説明する。校正を行うことにより、複数の計測光を使った場合であっても、1本の計測光で取得したデータと同等に扱えるようにすることができる。あるいは被検査物の形状、例えば湾曲などに合わせて、コヒーレンスゲートの位置を必要量ずらして計測することが可能になる。これらは1本の計測光による断層装置では発生しない課題である。
【0029】
ここでさらに詳しく校正の必要性について説明する。光路系には機械的な公差があり設計値と必ずしも一致しない場合がある。または、様々な制約によって最初から校正することを前提にして設計する場合がある。例えばファイバ端面218−1〜3のそれぞれの配置に公差があり、それぞれの測定光の眼底における撮像領域(xy平面)の位置が設計と異なる場合がある。さらには、計測光の通る光路が異なるために、撮像領域の大きさが異なる場合がある。ファイバ端面の調整では、マイクロメートルの精度の調整が必要なため、調整することは困難である。これらの理由により、xy平面の範囲を測定時に補正することによって所望の領域の測定が可能になる。なお、本実施例では、xy平面のファイバ間の位置調整ができないため、画像を取得した後にさらに補正することが必要になる。
【0030】
次に別の例で説明する。z方向においては、ファイバの長さ、レンズや分散補償ガラスなどの光学部品、ミラーやスキャナなどのメカ部品の公差などにより、コヒーレンスゲートの位置が設計値と異なる場合がある。コヒーレンスゲートとは、測定光路において、参照光路と光学距離が一致する位置のことであり、ミラー214の位置を移動させることによって動かすことができる。測定時に補正をすることによって所望の測定ができるようになる。なお、本実施例では、分光器の特性が測定光によって異なるため計測可能な深さ、Roll−Offによる減衰特性、深さ分解能などが異なる。これらは画像を取得した後に補正を行う必要がある。
【0031】
ここでは校正のために模型眼を使用する。模型眼とは、生体眼同様の光学特性、大きさ、容量を持つガラス球である。今回の模型眼の眼底部には、同心円および放射状の模様が配置されている。3本の測定光206−1〜3をXYスキャナ219で走査することにより得られる信号をラインセンサ239で検出し、検出したデータをコンピュータ225が取得する。
【0032】
複数の測定光による模型眼の測定例を図4に示す。模型眼は実際の被検眼が配置される位置に固定して測定を行う。図4(a)眼底観察機構(不図示)による眼底画像、図4(b)2次元強度像、図4(c)3本の測定領域をまたぐ1ライン目の断層画像である。3本の測定光それぞれに対して白抜きの矢印で示される測定光206−1で走査される第1の領域401、測定光206−2で走査される第2の領域402、測定光206−3で走査される第3の領域403がある。そして、それらの境界に点線で囲まれた第1の重なり領域404、第2の重なり領域405が存在する。これら重なり領域は、本発明では個々の断層画像の境界領域として扱われる。測定中、模型眼は動かないためこれらの重なり部分が一致し、それを除去することにより2次元強度像および断層画像が違和感なく接続できるようになる。なお、本実施形態では各々の断層画像は重なり領域を有するように配置することとしているが、これら重なり領域を有さないように断層画像各々を配置することも可能である。この場合、2次元強度像および断層画像が違和感無く接続できるように、個々の画像の接続部分を構成するデータとして補間用のデータを生成し且つ該データに基づいて各々の画像の接続を行うこととしても良い。或いは該補間用のデータを用いて該データを中心として該データを挟む像を移動させて画像の接続を行うこととしても良い。
【0033】
模型眼の測定データを解析すると、xy平面に対してはそれぞれの測定光の間で、x方向およびy方向に対してそれぞれ、設計値に対して数十μメートルずれているが、倍率はほぼ設計通りであることがわかる。すなわち、ずれている分に相当する範囲を追加してスキャナを走査することによって所望の範囲の測定ができることになる。z方向に対してはコヒーレンスゲートの位置が設計値に対して数百μメートルずれていることがわかる。
【0034】
このずれはOCTにおいて重大である。つまり、深さ分解能が6μmで、分光器の画素数が1000画素だとすると、計測できる深さは6μm×500=3mmである。数百μmずれていると所望の領域が測定できなくなる可能性がある。これらのずれを無くすようにコヒーレンスゲートの位置を調整すれば、1本の計測光で測定したのと同様にデータを扱うことができる。なお、深さ分解能の校正は、コヒーレンスゲートを同じ量動かした時に、断層画像において同じピクセル数動くように調整する。断層画像における深さ分解能の調整は、分光器のデータにゼロを追加するゼロパッティングなどで行う。
【0035】
コヒーレンスゲートの位置を合せるには、重なり領域を使って合せる。別の方法として、スキャン方向を図4(c)の画像が1回の測定でとれる向きに走査して、断層画像が違和感なく接続できるようにしてもよい。この測定データから得られるずれ等を補正するために必要な情報(補正値)は、装置毎に、コンピュータ225の記憶部に保存される。なお、ここで述べた必要な情報には、測定光に垂直な面における各測定光の照射位置、撮像倍率、各測定光の光軸方向でのズレ、断層画像の分解能の何れかの内の一つを少なくとも含む。
【0036】
このような情報を初期情報として装置に反映し、最後に補正することによって、所望の測定が可能になる。即ち、該初期情報に基づいて、少なくともコヒーレンスゲートの位置、または撮像領域の位置に関する装置状態を補正して測定を行うこととし、且つ得られたデータに対して再度該データの連続性を担保するための補正を行うこととしている。また、装置状態の補正は、上述した複数の測定光各々に対応した複数の断層画像および2次元強度像に関して、個々の画像のズレ量が所定のレベル以下とすることを目的として行われる。装置状態は、本実施形態ではコヒーレンスゲートの位置および撮像領域の位置の少なくとも何れか変更する装置上の構成物の個々の状態を指すが、上述したズレ量を変化可能な構成物の状態をすべて含むと解釈されることが好ましい。例えば、一本の計測光で測定したのと同等にする場合は、図4(b)、図4(c)の模型眼の輪郭は連続的なものになる。逆に、3本の計測光の特徴を生かし、コヒーレンスゲートを独立して動かして測定することもできる。すなわち、図4(c)で、模型眼の湾曲が大きい場合、全領域を測定できないことがある。このような場合、401、403における模型眼の位置がこの図で右側になるようにコヒーレンスゲートを配置することによってより広い領域の測定が可能になる。なお図4(c)は、初期値の校正前のデータなので、401、403の模型眼の輪郭ははじめから非対称で右側に寄っている。ここでは、意図的に制御することを意味する。そして、最後に補正値に基づき補正することによって連続的な画像を得ることができる。以上述べたように、上述した所定のレベルとは、測定光の走査範囲における検査対象となる領域の複数の画像を単一の画面上に表示した場合に、各々の画像を接続することが可能となり、且つ検査対象領域を単一の画像として表示可能とする予め定められたズレ量の大きさを示す。
【0037】
即ち、本実施形態では、複数の測定光と参照光から得られる合成光に基づいて複数の断層画像を得る際に、各々の断層画像において重なり合った領域が存在する構成としている。例えば上述した模型眼を用いて複数の第1の断層画像を生成し、これら第1の断層画像の重ね合わさる領域において個々のズレ量を調べている。このズレは実際の検査眼、被検査物の断層画像を生成する際に問題となる。そこで、個々の断層画像を同一画面に表示させた際に、重なり合った領域での個々のズレ量が後の信号処理にて補正可能となる所定のレベル以下となるように、上述したコヒーレンスゲートの位置、分解能等の装置状態を調整する。なお、この調整の際に用いる断層画像については、予め記憶されてあったものでも良く、直前に撮像し且つ記憶することで得られたものであっても良い。装置状態或いはズレ量の調整若しくは補正が終了した後、被検査物に対する測定光の照射と、合成光による複数の第2の断層画像の生成を行う。この段階で得られる複数の第2の断層画像では、重なり合った領域での個々の第2の断層画像のズレ量は例えば図4(c)に示される如く、一画面において個々のズレが把握できる状態となっている。これら複数の第2の断層画像に対して後述する信号処理等を施して、重なり合った領域で第2の断層画像各々についての連続性を担保する補正を行う。以上の工程により、連続的な一枚の断層画像を得ることが可能となる。
【0038】
(信号処理)
図1を用いて実施例1における信号処理工程を示す。なお、各工程は、コンピュータ225の制御の下に各部が動作するものである。
【0039】
工程A1で、測定を開始する。この状態は、OCT装置が起動されていて、被検眼が配置されている。さらに測定に必要な調整が操作者によって行われている状態である。
【0040】
工程A2で、先に得られている装置情報を反映させて測定を行う。まず、所望の測定条件になるように、コヒーレンスゲートを配置する。ここでは、3本の計測光が1本の計測光で測定した場合と同様に扱えるようにする。つまり、図4(c)のz=0の位置が互いに同じになるように配置する。
【0041】
測定を行い、複数の合波光の信号を取得する。x方向には例えば512ライン、y方向には例えば200ライン走査するものとする。ラインセンサ239には3本の測定光による合成光242−1〜3が入射し、一次元配列のA−Scanデータ(4096画素)が取得される。そしてx方向の連続する512ライン分を、2次元配列のB−Scanデータを単位として保存する(4096×512画素、12ビット)。走査が終了すればこのデータが1測定につき200個保存されることになる。
【0042】
工程A3で、各断層画像を生成する。まず、固定ノイズを除去する。次に、各測定光のA−Scanデータは波長に対して等間隔なデータであるため、波長波数変換を行い、波数に対して等間隔なデータにする。そして、このデータに離散フーリエ変換を施し、深さに対する強度データを得ることができる。
【0043】
工程A4で、装置の初期情報(補正値)、例えば測定光各々について記憶されている情報を基に、得られている各断層画像を補正する。この分光器においては、各検出光のラインセンサに結像する領域が異なるため、一画素あたりの数値的な深さ方向の分解能および深さ方向の減衰特性(Roll−OFF)が異なる。装置情報を基に、z方向にリサンプリングを行って深さ方向の分解能を揃える。ここでは、一画素あたりの基準となる距離は第二の測定光(測定領域が中央部の測定光)の分解能とする。さらに、深さ方向の減衰特性をあわせるための補正を行う。さらに、保存されている補正値を基に、各断層画像のxy位置およびz位置を決め、倍率の補正を行う。これにより、断層画像個々の撮像範囲の調整或いは制御が為される。
【0044】
工程A5で、各断層画像でコントラスト調整を行う。各測定領域において、ノイズや透過率が異なることによる画像のダイナミックレンジが同じようになるように調整する。つまり、境界領域404、405において異なる測定光で測定した同じ位置のB−Scanの断層画像が同じコントラストになるように、各測定領域全体の画像を調整する。
【0045】
工程A6で、3次元データを生成する。工程A5で得られた結果を3次元配列のデータとして保存する。
【0046】
なお、複数の測定光のコヒーレンスゲートを独立に制御する場合は、工程A2でコヒーレンスゲートを所望の位置に制御し、工程A4で補正を行う。
【0047】
以上のように複数の測定光で測定する場合であっても、装置の初期情報を利用することによって所望の測定を行うことができる。
【0048】
[実施例2]
本実施例は、測定中に動く被検査物を測定する場合に特に有効である。各測定領域の断層画像において、各測定領域内の隣接するB−Scan像は、略連続的になっている。一方、境界領域のB−Scan像は大きく移動していることがある。このような状況で2次元強度像やSlow Scan像を作成すると、装置の補正を行った場合でも連続的に接続した画像を得ることは難しいことがある。ここでは、実施例1との差分について特に説明する。
【0049】
(信号処理)
図5を用いて実施例2における信号処理工程を示す。
【0050】
工程A1で測定を開始する。
【0051】
工程A2で装置情報を基に測定を開始する。当然、装置情報に加えて、被検査物の特性を踏まえて、測定領域を決めてもよい。ここでは、x方向には例えば10mm範囲を500ライン測定する。y方向には例えば192ライン走査し、各測定光で20%の重なり領域がある。重なり領域を省けば10mmを500ライン測定するように設定している。50kHzのラインレートで500ライン取得する場合、一枚当たりの測定時間は、スキャナの戻り時間を考えて12msecである。被検査物が人眼で、測定中に1secあたりXY方向に最大0.1mm動くモデルを仮定すると、192×12msecなので、最大230μm動くことになる。これらの動きを加味して測定領域を決めることになる。
【0052】
工程A3で各断層画像を生成する。
【0053】
工程A4で装置の初期情報(補正値)を基に補正する
工程B1で境界領域の検索を行う。これについて図6を用いて説明する。図6(a)は各測定光で取得した断層画像の3次元配置を示す。第1の領域401、第2の領域402、第3の領域403の断層画像にそれぞれ0−191番の画像がある。そして、第1の領域401の154−191番目と第2の領域402の0−37番目がそれぞれ順番に一致するように設計されている。同様に第2の領域402の154−191番目と第3の領域403の0−37番目がそれぞれ一致するように設計されている。ここでは、重なり領域がある場合、第2の領域の断層画像を使う。当然、第1および第3の領域を使ってもよいし、コントラストなどを比較して良い方を選んでもよい。なお、この重なり領域は後述する境界領域に対応する。
【0054】
検索は、第2の領域の0番目の画像に最も近い画像を第1の領域の154番目の画像から順に検索して抽出する。この範囲は一枚の画像の計測時間および被検査物の一般的な動きから決めればよい。被検査物が人眼で、測定中に1secに最大230μm動くモデルの場合を考える。10mmの範囲を500分割する場合、分解能は20μmであるため、154番目を基準に前後12枚程度検索すればよい。同様に第2の領域の191番目の画像に最も近い画像を第3の領域の37番目の画像から順に検索して抽出する。当然、モデルが正しければ20%(38枚)の重なり領域は過剰で、12枚で十分である。
【0055】
検索の方法は一般的な方法でよく、例えばそれぞれの断層画像の特徴点をいくつか抜き出し、それらの特徴点の誤差が最小となるものを一致する画像として決める。また、別の例として断層画像同士の類似度が最大となるものを一致する断層画像として決める。類似度を評価する関数としては正規化相互相関関数などがある。なお、被検査物が大きく動く場合、瞬きなどによって画像がない場合、などの理由により検索できない場合もある。このような場合は設計値によりつなぎ合わせる。
【0056】
ここでは、Y方向に関しては設計通り第1の領域の154番と第2の領域の0番目が一致し、第2の領域の191番目と第3の領域の37番目が一致するとして話を進める。また、それぞれの一致する画像から第2の領域に対する第1の領域の位置ずれ、および第2の領域に対する第3の領域の位置ずれを計算する。なお、図6において、第1の領域の154番目と第2の領域の0番目の画像の関係が、ベクトルで第一のずれ量601としてあらわされている。同様に、第2の領域の191番目と第3の領域の37番目の画像の関係が、ベクトルで第二のずれ量602としてあらわされている。
【0057】
工程B2で再位置調整を行う。即ち、断層画像のズレの補正を行う。前記工程で得られたベクトルを第1の領域および第3の領域に初期値として与えて、3次元座標の中にそれぞれの断層画像の位置を配置する。すなわち図6(a)の位置関係になる。そして、画像は第1の領域の0−153、第2の領域の0−191、第3の領域の38−191の計500枚を連続的に配置することになる。
【0058】
工程A5で境界領域のコントラストの調整を行う。具体的には第1の領域の154番目と第2の領域の0番目、第2の領域の191番目と第3の領域の37番目のコントラストが一致するように第1および第3の領域のコントラストを調整する。そして、それらの調整を第1の領域の断層画像、第3の領域の断層画像にそれぞれ適応する。
【0059】
工程A6で3次元データを生成する。工程A5で得られた結果を3次元のデータとして保存する。図6(b)に断層画像を模式的に示してある。測定領域603は、第3の領域の37番目の画像を示している。位置ずれがあることから追加データ604を入れて新たなデータとしている。この追加データはゼロ、または603のバックグラウンドのノイズレベルである。この結果図6(a)にデータが追加されて、図6(b)のような立方体の3次元データが得られる。断層画像を表示するときには、任意の断面を連続的に表示しても、被検査物の構造を違和感なく連続的に表示することが可能になる。なお、追加データでなく、不連続部分のデータを削除して3次元データを作成してもよい。
【0060】
被検査物が動く場合には眼の動きを追尾する機能などを追加することにより、被検査物の動きを低減することができる。また、瞬きを検知する機能を設けて、瞬きをした場合は撮像し直す処理を行うことにより、データの抜けを防止することができる。さらには眼底画像と2次元強度像を比較することによって画像の位置合わせの精度を向上させることができる。
【0061】
以上のように異なる測定光で測定中に動く場合がある被検査物であっても、所望の3次元データを得ることができる。
【0062】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光の合成光により、前記被検査物の断層画像を取得する断層撮像方法であって、
予め記憶されている前記複数の測定光に関する情報に基づいて、前記複数の測定光各々から得られるそれぞれの断層画像の各々のズレ量が所定のレベル以下となるように装置状態を補正して、前記複数の測定光を前記被検査物に照射することにより、それぞれの合成光を取得する工程と
前記それぞれの合成光に基づき、対応するそれぞれの前記断層画像を生成する工程と、
を有することを特徴とする断層撮像方法。
【請求項2】
前記情報を基に、生成した前記それぞれの断層画像の補正を行う工程を更に有することを特徴とする請求項1記載の断層撮像方法。
【請求項3】
複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光の合成光により、前記被検査物の断層画像を取得する断層撮像方法であって、
前記それぞれの合成光に基づき、対応するそれぞれの断層画像を生成する工程と、
予め記憶されている前記複数の測定光に関する情報を基に、生成した前記それぞれの断層画像の補正を行う工程と、を有すること
を特徴とする断層撮像方法。
【請求項4】
前記情報に基づき、前記被検査物を前記複数の測定光を走査することにより前記合成光を取得することを特徴とする請求項3記載の断層撮像方法。
【請求項5】
前記情報が、測定光に対して垂直な面における各測定光の位置、倍率、測定光の軸方向のズレ、分解能の内の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の断層撮像方法。
【請求項6】
前記情報を、模型眼を用いて取得することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の断層撮像方法。
【請求項7】
前記断層像の補正を行う工程の後に、前記それぞれの断層画像が重なる領域である境界領域の検索を行う工程と、前記境界領域における前記断層画像のズレの補正を行う工程と、を有することを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の断層撮像方法。
【請求項8】
複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光とを合成して得られる合成光により、前記被検査物の断層画像を取得する断層撮像方法であって、
重なり合う領域を有する複数の第1の断層画像を生成するための各々の前記第1の断層画像に応じた前記複数の測定光を用いて複数の前記第1の断層画像を生成して記憶する工程と、
記憶された複数の前記第1の断層画像に基づいて、装置状態を補正して、前記重なり合う領域における複数の前記第1の断層画像の各々のズレ量を所定のレベル以下とする工程と、
前記装置状態の補正を行った後に、前記複数の測定光を前記被検査物に照射することにより、前記複数の測定光各々に応じた複数の合成光を取得する工程と、
複数の前記合成光の各々に基づき、前記重なり合う領域を有し且つ前記合成光に対応する複数の第2の断層画像を生成する工程と、
複数の前記第2の断層画像における前記重なり合う領域において複数の前記第2の断層画像各々についての連続性を担保する補正を行う工程と、
を有することを特徴とする断層撮像方法。
【請求項9】
前記装置状態の補正は、前記複数の測定光にそれぞれ対応するコヒーレンスゲートの位置および撮像領域の位置の少なくとも何れかを変更して行われることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の断層撮像方法。
【請求項10】
複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光の合成光により、前記被検査物の断層画像を取得する断層撮像装置であって、
前記複数の測定光に関する情報を記憶する手段と、
前記情報に基づいて、前記複数の測定光各々から得られるそれぞれの断層画像の各々のズレ量が所定のレベル以下となるように装置状態を補正する手段と、
前記複数の測定光を前記被検査物に照射することにより、それぞれの合成光を取得する手段と、
前記それぞれの合成光を基に、対応するそれぞれの断層画像を生成する手段と、
を有することを特徴とする断層撮像装置。
【請求項11】
複数の測定光を被検査物に照射することで得られるそれぞれの戻り光と参照光の合成光により、前記被検査物の断層画像を取得する断層撮像装置であって、
前記複数の測定光に関する情報を記憶する手段と、
前記それぞれの合成光に基づき、対応するそれぞれの断層画像を生成する手段と、
前記情報を基に、生成した前記それぞれの断層画像の補正を行う手段と、
を有することを特徴とする断層撮像装置。
【請求項12】
前記装置状態を補正する手段が、複数の前記参照光の光路長を制御する制御手段を有し、前記制御手段は前記それぞれの前記測定光の深さ方向の前記被検査物における撮像範囲がそれぞれ同じになるように制御することを特徴とする請求項10或いは11の何れかに記載の断層撮像装置
【請求項13】
前記装置状態を補正する手段が、複数の前記参照光の光路長を制御する制御手段を有し、前記制御手段はそれぞれの前記測定光の深さ方向の前記被検査物における撮像範囲の少なくとも一つを他と異なるように制御することを特徴とする請求項10或いは11の何れかに記載の断層撮像装置
【請求項14】
前記装置状態の補正は、前記複数の測定光にそれぞれ対応するコヒーレンスゲートの位置および撮像領域の位置の少なくとも何れかを変更して行われることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか一項に記載の断層撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−110575(P2012−110575A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263694(P2010−263694)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】