説明

断熱材

【課題】成形欠陥の発生を抑制することができ、かつ熱伝導率の小さい断熱材を提供すること。
【解決手段】本発明の断熱材は、シリカを含む第一の無機化合物からなり、比重がCである複数の小粒子Sと、第二の無機化合物からなり、比重がCであり、小粒子Sよりも粒子径が大きい球状の複数の大粒子Lと、を備え、複数の大粒子L中に含まれる、粒子径が100nm以上の粒子が球状であり、複数の小粒子Sの質量の合計値Mと複数の大粒子Lの質量の合計値Mとの比率M/Mが0.035C/C以上3以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
室温での空気分子の平均自由行程は約100nmである。したがって、直径100nm以下の空隙を有する多孔質体内では、空気による対流や伝導による伝熱が抑制されるため、このような多孔質体は優れた断熱作用を示す。
【0003】
この断熱作用の原理に従い、超微粒子を断熱材に用いることで、熱伝導率の極めて低い断熱材が得られることが知られている。例えば、下記特許文献1には、リング内径が0.1μm以下となるようにリング状又はらせん状に会合した超微粒子によって輻射吸収散乱材料等からなる粒子を被覆して多孔体被覆粒子を形成し、これを無機繊維又は多孔体被覆粒子と同様に形成された多孔体被覆繊維と混合して、断熱材前駆体の粉体とし、この前駆体を加圧成形して断熱材を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4367612号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、平成17年度〜18年度成果報告書 エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー使用合理化技術実用化開発 「ナノ多孔・複合構造を持つ超低熱伝導材料の実用化開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されているように、特許文献1の断熱材には、加圧成形時にプレス面に対して垂直な面に亀裂状の成形欠陥が発生する。
【0007】
このような成形欠陥が断熱材に存在すると、断熱材が破損する恐れがあるばかりか、断熱性能も低下するため、好ましくない。
【0008】
この成形欠陥が発生する理由は、上記非特許文献1に記されているように、超微粒子を主成分とする断熱材前駆体を加圧成形すると、加圧後圧力を開放した時に、成形体が大きく膨張するためである。この膨張はスプリングバックと呼ばれている。
【0009】
このため、成形時の成形欠陥の発生を抑制するためには、断熱体前駆体中の超微粒子の量を減らし、スプリングバックを小さくすればよい。しかし、単純に超微粒子量を減らすだけでは、得られる断熱材の断熱性能の低下は避けられない。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、成形欠陥の発生を抑制することができ、かつ熱伝導率の小さい断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、下記の特徴を有する断熱材は、成形欠陥の発生が抑制されており、かつ熱伝導率が小さいことを見出し、下記の本発明をなすに至った。
【0012】
本発明の断熱材は、シリカを含む第一の無機化合物からなり、比重がCである複数の小粒子と、第二の無機化合物からなり、比重がCであり、小粒子よりも粒子径が大きい複数の大粒子と、を備え、複数の大粒子中に含まれる、粒子径が100nm以上の粒子が球状であり、複数の小粒子の質量の合計値Mと複数の大粒子の質量の合計値Mとの比率M/Mが0.035C/C以上3以下である。本発明によれば、成形欠陥の発生を抑制することができ、成形欠陥に起因する断熱材の破損や断熱性能の低下が抑制される。また、本発明の断熱材は熱伝導率が低く、断熱性能が良好である。
【0013】
上記本発明では、小粒子の平均粒子径Dが5nm以上50nm未満であり、大粒子の平均粒子径Dが50nm以上100μm以下であることが好ましい。これらの小粒子及び大粒子を用いた場合、成形欠陥の発生が抑制されるのみならず、断熱性能が安定し、かつ断熱性能も向上し易い。
【0014】
上記本発明の断熱材は、大粒子が小粒子により囲まれたコア−シェル構造を有することが好ましい。この場合、断熱材の熱伝導率が低下し、断熱性能が向上し易い。
【0015】
上記本発明では、小粒子及び大粒子以外に、赤外線不透明化粒子や無機繊維を含んでも、効果を発現することは可能である。この場合、小粒子および大粒子の含有率の合計値が、断熱材の全質量を基準として、30質量%以上100質量%以下であり、平均粒子径が0.5μm以上30μm以下である赤外線不透明化粒子の含有率が、断熱材の全質量を基準として、0質量%以上50質量%以下であり、平均太さが1μm以上10μm以下である無機繊維の含有率が、断熱材の全質量を基準として、0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。赤外線不透明化粒子を含有する断熱材では、輻射による伝熱が抑制されるため、特に高い温度での断熱性能を必要とする場合に好ましい。また、無機繊維を含有する断熱材では、小粒子、大粒子及び赤外線不透明化粒子の断熱材からの脱落が抑制されるなど、取り扱いが良くなる効果がある。
【0016】
上記本発明では、無機繊維は生体溶解性を有することが好ましい。生体溶解性の無機繊維を用いた断熱材は、生体に対して非溶解性の無機繊維(セラミック繊維等)を用いた断熱材に比べて、人体にとって安全である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形欠陥の発生を抑制することができ、かつ熱伝導率の小さい断熱材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る断熱材が含有する小粒子及び大粒子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。なお、図面において、同一の要素については同一の符号を付し、同一の要素の符号の一部は省略する。各粒子の位置関係及び寸法比は図面に示すものに限定されない。
【0020】
(断熱材)
図1は、本発明の一実施形態に係る断熱材の断面模式図である。本実施形態の断熱材は、複数の小粒子Sと、小粒子Sよりも平均粒子径が大きい複数の大粒子Lとを含有する。断熱材内において、小粒子S及び大粒子Lは混合しており、図1に示すように小粒子Sが大粒子Lを取り囲むように大粒子Lの表面に付着している。小粒子Sは、シリカを含む第一の無機化合物からなる。小粒子Sの比重はCである。大粒子Lは、第二の無機化合物からなる。大粒子Lの比重はCである。
【0021】
小粒子の比重C及び大粒子の比重Cは、ピクノメーター法により求められる真比重を指す。成形欠陥の抑制効果及び断熱性向上の観点から、Cの値は、好ましくは2.0以上4.0以下である。2.0以上3.0以下であると、断熱材のかさ密度が小さくなるため、より好ましい。2.0以上2.5以下であると、小粒子のかさ密度が小さいため、大粒子との混合時において、より小さな動力で混合が可能となるため、生産性が向上し、さらに好ましい。
【0022】
大粒子の比重Cは、2.0以上3.0以下であると、断熱材のかさ密度が小さくなるため、好ましい。Cは2.0以上2.9以下であると、小粒子との比重差が小さく、小粒子との均一混合が容易となるため、好ましい。Cは、2.1以上2.8以下であると、小粒子との比重差がさらに小さくなり、貯蔵や輸送において小粒子と大粒子の分離が起こりにくくなるため、より好ましい。
【0023】
小粒子及び大粒子の含有量の合計値は、断熱材の全質量を基準として、30質量%以上100質量%以下であることが好ましい。小粒子及び大粒子の含有量の合計値は、30質量%以上97.5質量%以下であると、無機繊維や赤外線不透明化粒子を添加した際、断熱材からの粒子の脱落の減少や高い温度での断熱性能の向上といった効果がより好適にあらわれ、より好ましい。小粒子及び大粒子の含有量の合計値は、40質量%以上97.5質量%以下であると、断熱材のかさ密度が小さくなるため、さらに好ましい。
【0024】
小粒子の平均粒子径Dは5nm以上50nm未満であることが好ましい。平均粒子径Dは、小粒子1000個を電界放射型透過型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察し、その等面積円相当径を求めることにより、確認することができる。
【0025】
小粒子の平均粒子径Dが5nmよりも小さいと、Dが上記の数値範囲内である場合に比べて、小粒子が化学的に不安定である傾向があり、断熱性能が安定し難い傾向がある。Dが50nm以上であると、Dが上記の数値範囲内である場合に比べて、小粒子同士の接触面積が大きくなり、断熱材の固体伝導による伝熱が増し、断熱性能が不十分となる傾向がある。
【0026】
小粒子の平均粒子径Dは、5nm以上40nm以下であると、小粒子と大粒子の粒径の差が大きくなり、大粒子の小粒子に対する分散が容易となり、より好ましい。Dが5nm以上30nm以下であると、粒子の付着力が増して、断熱材からの粒子の脱落が減少し、さらに好ましい。
【0027】
小粒子を構成する第一の無機化合物はシリカを含有する。第一の無機化合物におけるシリカの含有率は、50質量%以上であると、断熱材の固体伝導による伝熱が小さくなるため、好ましい。第一の無機化合物は、シリカを75質量%以上含むと、粒子の付着力が増して、断熱材からの粒子の脱落が減少するため、より好ましい。なお、本発明においてシリカとは、組成式SiOで表される成分を指す。第一の無機化合物は、純粋な二酸化ケイ素であってもよく、Si及び種々の他元素との塩や複合酸化物であってもよく、水酸化物のような含水酸化物であってもよい。第一の無機化合物が、シラノール基を有していてもよい。第一の無機化合物は、結晶質であっても、非晶質であっても、それらの混合体であってもよいが、非晶質であると、断熱材中の固体伝導による伝熱が小さくなり、断熱性能が向上するため、好ましい。
【0028】
シリカを含む第一の無機化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
シリカや石英と呼ばれるケイ素の酸化物。
ケイ素の部分酸化物。
シリカアルミナやゼオライトのようなケイ素の複合酸化物。
Na,Ca,K,Mg,Ba,Ce,B,Fe及びAl等のいずれかのケイ酸塩(ガラス)。
ケイ素以外の元素の酸化物,部分酸化物,塩又は複合酸化物(アルミナやチタニア等)と、ケイ素の酸化物,部分酸化物,塩又は複合酸化物との混合体。
SiCやSiNの酸化物。
【0029】
小粒子がシリカを含有することは、例えば、小粒子を断熱材より分級して固体Si−NMR測定を行い、Q4構造を検出することで、確認することができる。小粒子におけるシリカの含有量は、例えば、電界放射型走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(FE−SEM EDX)により、求めることができる。
【0030】
第一の無機化合物は、断熱材の使用される温度において、熱的に安定であることが好ましい。具体的には、断熱材の使用最高温度において1時間保持したときに、第一の無機化合物の重量が10%以上減少しないことが好ましい。また、第一の無機化合物は耐水性を有することが好ましい。具体的には、25℃の水100gに対する第一の無機化合物の溶解量が0.1g未満であることが好ましく、0.01g未満であることがより好ましい。
【0031】
大粒子の平均粒子径Dは50nm以上100μm以下であることが好ましい。Dは、前述のDと同じ方法により求められる。Dが50nmより小さいと、Dが上記の数値範囲内である場合に比べて、断熱材におけるスプリングバックが大きくなる傾向がある。Dが100μmより大きいと、断熱性能が不十分となる傾向がある。
【0032】
大粒子の平均粒子径Dは、60nm以上30μm以下であると、無機繊維や赤外線不透明化粒子との均一な混合が容易となるため、より好ましい。Dは、60nm以上10μm以下であると、粒子の付着力が増し、断熱材からの粒子の脱落が減少するため、さらに好ましい。
【0033】
はDの2倍以上であることが、スプリングバックが小さくなるため、好ましい。DはDの3倍以上であると、小粒子と大粒子の混合粉体のかさ比重が大きくなり、粉体体積が小さくなるため作業性が向上するので、より好ましい。DはDの4倍以上であると、小粒子と大粒子の粒径の差が大きくなり、大粒子の小粒子に対する分散が容易となり、さらに好ましい。
【0034】
本発明者らは、大粒子中に含まれる、粒子径が100nm以上の粒子が球状であると、熱伝導率が小さいことを見出した。つまり、複数の大粒子のうち粒子径が100nm以上である大粒子は球状である。なお、「複数の大粒子」とは、粒子径が100nm以上の大粒子だけでなく、小粒子よりも粒子径が大きい全ての大粒子を意味する。この理由は明らかではないが、粒子径が100nm以上の粒子が球状であれば、粒子の接触抵抗が大きくなるため、断熱材の熱伝導率が小さくなるためであると推測される。
【0035】
本実施形態において、大粒子中に含まれる、「粒子径が100nm以上の粒子が球状」であるか否かは、以下のようにして判断される。すなわち、大粒子同士が重ならないように撮影、画像処理した大粒子のFE−SEM画像から、例えば、画像解析ソフトのA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング株式会社製)を使用して、粒子径が100nm以上の1000個の大粒子の最大径及び面積を求める。そして、下記式(1)に基づき、個々の粒子の丸さの度合いを求め、その平均値を求める。このとき、丸さの度合いの平均値が、1以上1.3以下である場合に、大粒子中に含まれる、粒子径が100nm以上の粒子が球状であるものとする。
丸さの度合い={π×(最大径/2)/面積} (1)
【0036】
丸さの度合いの平均値が1以上1.28以下であると、大粒子の付着性が低下し、ハンドリングが容易となるため、好ましい。丸さの度合いの平均値が1以上1.26以下であると、大粒子と小粒子の混合が容易となるため、さらに好ましい。丸さの度合いの平均値が1以上1.24以下であると、大粒子の単分散が容易となり、混合粉体を成形すると均質な断熱材を得ることが容易となるため、生産性が向上し、最も好ましい。
【0037】
大粒子を構成する第二の無機化合物としては、特に限定されないが、第一の無機化合物同様、断熱材の使用される温度において熱的に安定であり、耐水性がある化合物が好ましい。第二の無機化合物は、第一の無機化合物と同一でもよく、異なっていてもよい。例えば、第二の無機化合物は、3〜11族、12族のZn、13族のAl,Ga,In、14族のSi,Ge,Sn,Pb及び15族のBiのいずれかの単体,合金,酸化物,複合酸化物,窒化物,炭化物及び難溶性の塩でもよい。第二の無機化合物は2族の難溶性の塩でもよい。第二の無機化合物は、これらの混合物でもよい。第二の無機化合物は、結晶質であっても、非晶質であっても、それらの混合体であってもよい。
【0038】
好ましい第二の無機化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
上記の第一の無機化合物と同様のもの。
アルミナ。
【0039】
第二の無機化合物は、第一の無機化合物と同様のものであることがより好ましい。さらに好ましいのは、シリカ、シリカアルミナまたはガラスである。
【0040】
大粒子の組成は、小粒子の場合と同様に、FE−SEM EDXにより求められる。
【0041】
断熱材に含まれる全小粒子の質量の合計値Mと断熱材に含まれる全大粒子の質量の合計値Mとの比率M/Mは、0.035C/C以上3以下である。本発明者は、M/Mが0.035C/C以上3以下である断熱材は、そのスプリングバックが小さく、十分な断熱性能を有するが、M/Mが3より大きい場合、スプリングバックが大きいため成形欠陥が発生しやすく、また、M/Mが0.035C/C未満の場合、成形体が脆くなり成形後金型から取り出す際に、極めて破損しやすいことを見出した。M/Mが0.035C/C未満の場合、成形体が脆くなる理由は明らかではないが、小粒子の含有量が小さくなると、小粒子が有する付着力に起因する、成形体の粒子間の付着力が小さくなるためであると考えられる。なお、M/Mは、例えば、断熱材に含まれる小粒子及び大粒子を分級して、それぞれの質量を測定し、小粒子の質量を大粒子の質量で除することにより、求められる。
【0042】
/Mは、0.035C/C以上0.9以下であることが、小粒子の体積が減少し、混合が容易となるため、より好ましい。M/Mは、0.035C/C以上0.5以下であると、小粒子と大粒子の混合粉体を加圧成形する際に、混合粉体と成形体の体積差が小さくなり、加圧成形が容易となるため、さらに好ましい。
【0043】
本発明者らは、小粒子及び球状の大粒子の混合体を用いて断熱材を作成し、その熱伝導率とM/Mの関係を詳細に調べた。その結果、M/Mが0.035C/C以上3以下の範囲では、断熱材の熱伝導率は十分小さく、かつM/Mの減少量に対する熱伝導率の増加量(熱伝導率の増加率)も小さいことを本発明者らは発見した。さらに、本発明者らは、M/Mが閾値の0.035C/C未満の範囲では、驚くべきことに不連続な変化が現れ、M/Mの減少に従い熱伝導率が急激に増加することを見出した。この理由は明らかではないが、M/Mが0.035C/C以上の領域では、断熱材が、気体伝導と固体伝導の伝熱に対するボトルネックを有する構造をとるためであると考えられる。
【0044】
以下に、M/Mが0.035C/C以上のとき、断熱材中に伝熱に対するボトルネックが発生する構造となる原理を説明する。
【0045】
仮に、すべての大粒子が球状で同一の粒子径Dを有し、粒子間力が無いため大粒子は凝集せずに単分散すると仮定する。
【0046】
一定の空間に大粒子を充填し、断熱材を形成すると、空間における大粒子の充填率は、最大で面心立方格子に占める大粒子の体積百分率の理論値である74体積%になる。この空間とは、断熱材全体において大粒子及び小粒子が占める全体積に相当する。大粒子間に生じた26体積%のすべての空隙が、内部の細孔サイズが100nm以下の小粒子凝集体により充填される場合、この小粒子凝集体が気体伝導による伝熱に対するボトルネックとなり、断熱材全体において気体伝導による伝熱が小さくなる。加えて、小粒子の数をわずかに増やして、大粒子同士の各接点に、2個分の小粒子を直列に挿入すれば、大粒子同士が直接接触しない構造となる。このような構造においては、大粒子から大粒子への固体伝導による伝熱経路は、必ず伝熱抵抗が大きな小粒子の点接合部を通ることとなる。この小粒子の点接合部が、固体伝導による伝熱に対するボトルネックとなるため、断熱材全体において固体伝導による伝熱は小さくなる。
【0047】
つまり、上記空間内に存在する小粒子凝集体の体積の合計値が上記空間内に存在する全大粒子の体積の理論値26体積%よりもわずかに大きい場合、断熱材は、気体伝導及び固体伝導の伝熱に対するボトルネックを有する構造となる。
【0048】
小粒子凝集体のかさ比重は、小粒子のみを加圧成形した断熱材のかさ比重とほぼ等しいと考えることができる。このような小粒子のみを加圧成形した断熱材の空隙率は、概ね90%程度であり、かさ比重は真比重Cの10分の1程度であることが知られている。
【0049】
以上の前提に基づけば、上記空間内に存在する全大粒子の体積の理論値(下限)と、上記空間内に存在する小粒子凝集体の体積の合計値(上限)との比74:26は、下記数式(2)で表される。
74:26=(M/C):(M/0.1C) (2)
【0050】
大粒子間に生じた全空隙を充填するために必要な小粒子凝集体の質量の合計値Mの下限は、上記式(2)に基づく下記数式(3)で表される。換言すれば、気体伝導及び固体伝導の伝熱に対するボトルネックを有する構造を断熱材内に形成するために必要なMの下限は下記数式(3)で表される。
=(M/C)×(26/74)×0.1C=M×0.035(C/C) (3)
【0051】
上記数式(3)から明らかなように、M/Mが0.035C/C以上であれば、大粒子間に生じた全空隙を充填するために充分な小粒子が断熱材に含有される。断熱材内で大粒子が凝集している場合、大粒子が単分散している場合と同様に、M/Mを0.035C/C以上とすることにより、すべての大粒子凝集体の間の空隙を、小粒子凝集体により充填することが可能である。この時、大粒子同士の接触が起こるが、粒子が球状であるため、粒子同士の接触面積が小さく、大粒子間の固体伝導伝熱は低く抑えられる。
【0052】
また、大粒子に粒径分布がある場合には、空間における大粒子の充填率は、最大で74%以上となり、同一の大粒子が単分散している場合と同様に、少なくともM/Mを0.035C/C以上とすることにより、すべての大粒子凝集体の間の空隙を、小粒子凝集体により充填することが可能である。大粒子に粒径100nm以下の粒子が含まれる場合、仮にこれらの粒子同士の接触が起こったとしても、粒径が小さいため、粒子同士の接触面積が小さく、大粒子間の固体伝熱は低く抑えられる。
【0053】
なお、M/Mが0.035C/C以上のとき、断熱材が伝熱に対するボトルネックを有する構造となる原理は、以上のものに限定されない。
【0054】
断熱材は、大粒子が小粒子により囲まれたコア−シェル構造を有することが好ましい。つまり、大粒子は小粒子により囲まれており、断熱材の端から端まで大粒子が直接連結している構造が存在しないことが好ましい。この場合、大粒子間に小粒子が介在するため、大粒子間に生じた空隙が小粒子で充填され易く、大粒子同士が直接接触し難い。そのため、断熱材中に固体伝導の大きい伝熱経路が存在せず、断熱材全体の熱伝導率が低くなり易い。
【0055】
断熱材が、コア−シェル構造を有することは、断熱材断面をFE−SEMで観察することにより、確かめることができる。
【0056】
断熱材中の大粒子は、分散性が良いほど断熱性能が向上する傾向となるため、単分散していることが好ましい。
【0057】
断熱材には、赤外線不透明化粒子が混合されていることが、高い温度での断熱性能を発現させることから、好ましい。赤外線不透明化粒子とは、赤外線を反射、散乱又は吸収するような材料からなる粒子を指す。断熱材に赤外線不透明化粒子が混合されていると、輻射による伝熱が抑制されるため、特に200℃以上の高い温度領域での断熱性能が向上する。
【0058】
赤外線不透明化粒子として例を示すと、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、二酸化チタン、鉄チタン酸化物、酸化鉄、酸化銅、炭化ケイ素、金鉱石、二酸化クロム、二酸化マンガン、グラファイトなどの炭素質物質、炭素繊維、スピネル顔料、アルミニウムの粒子、ステンレス鋼の粒子、青銅の粒子、銅/亜鉛合金の粒子、銅/クロム合金の粒子を挙げることができる。従来から赤外線不透明物質として知られる上記の金属粒子又は非金属粒子を、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0059】
赤外線不透明化粒子としては、特に、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、二酸化チタン又は炭化ケイ素を用いることが好ましい。
【0060】
赤外線不透明化粒子の組成は、小粒子の場合と同様に、FE−SEM EDXにより求められる。
【0061】
赤外線不透明化粒子の平均粒子径は、0.5μm以上30μm以下であることが好ましい。赤外線不透明化粒子の平均粒子径が0.5μm以上である場合、200℃以上での十分な断熱性能を達成し易い。赤外線不透明化粒子の平均粒子径が30μm以下である場合、断熱材における固体伝導が抑制され、200℃未満での十分な断熱性能を達成し易い。なお、赤外線不透明化粒子の平均粒子径は、小粒子と同じ方法により求められる。
【0062】
赤外線不透明化粒子の平均粒子径は、0.5μm以上10μm以下であることが、無機繊維や小粒子、大粒子との混合が容易となるため、より好ましい。
【0063】
断熱材中の赤外線不透明化粒子の含有率は、0質量%以上50質量%以下であることが好ましい。赤外線不透明化粒子の含有率が50質量%より大きいと、固体伝導による伝熱が増すため、200℃未満での断熱性能が低下する傾向がある。200℃以上での断熱性能を向上させるためには、赤外線不透明化粒子の含有量は、2質量%以上であることが好ましい。
【0064】
赤外線不透明化粒子の含有率は、2質量%以上40質量%以下であると、無機繊維や大粒子、小粒子との混合が容易となり、さらに好ましい。
【0065】
赤外線不透明化粒子の含有率は、例えば、赤外線不透明化粒子のみが含有する元素を、蛍光X線分析法により定量することで、求めることができる。
【0066】
断熱材には、使用する形態によって、無機繊維が混合されていることが好ましい場合もある。無機繊維を用いると、断熱材からの粒子の脱落が減少する。なお、ここで言う無機繊維とは、無機化合物からなる繊維状のもののことを指す。
【0067】
無機繊維として例を示すと、ガラス長繊維(フィラメント)(SiO−Al−B−CaO)、グラスウール(SiO−Al−CaO−NaO)、耐アルカリガラス繊維(SiO−ZrO−CaO−NaO)、ロックウール(バサルトウール)(SiO−Al−Fe−MgO−CaO)、スラグウール(SiO−Al−MgO−CaO)、セラミックファイバー(ムライト繊維)(Al−SiO)、シリカ繊維(SiO)、アルミナ繊維(Al−SiO)、チタン酸カリウム繊維、アルミナウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー(セッコウ繊維)、酸化亜鉛ウィスカー、ジルコニア繊維、炭素繊維、黒鉛ウィスカー、フォスフェート繊維、AES(Alkaline Earth Silicate)ファイバー(SiO−CaO−MgO)、 天然鉱物のウォラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ブルーサイトなど、従来から知られる無機繊維を挙げることができる。
【0068】
無機繊維の中でも、特に人体にとって安全である生体溶解性のAESファイバー(Alkaline Earth Silicate Fiber)を用いることが好ましい。AESファイバーとしては、例えば、SiO−CaO−MgO系の無機質のガラス(無機高分子)が挙げられる。
【0069】
無機繊維の平均太さは1μm以上10μm以下であることが好ましい。平均太さが1μm未満であると、無機繊維は飛散しやすいため、作業性が悪くなる。平均太さが10μmより大きいと、固体伝導による伝熱が大きくなり、断熱性能が不十分となる傾向がある。
【0070】
無機繊維の平均太さは、FE−SEMにより、無機繊維1000本の太さを求めて、これを平均して求めることができる。
【0071】
無機繊維の平均太さに対する無機繊維の平均長さの比(アスペクト比)は10以上であることが好ましい。無機繊維のアスペクト比は、FE−SEMにより測定した無機繊維1000本の太さ及び長さの平均値から求めることができる。
【0072】
断熱材中の無機繊維の含有率は、断熱材全体の質量に対して0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。無機繊維の含有率が20質量%より大きいと、固体伝導による伝熱が大きくなり、断熱性能を低下させる傾向がある。
【0073】
断熱材からの粉体の脱離を抑制する効果の観点から、無機繊維の含有率は0.5質量%以上であることが好ましい。
【0074】
小粒子や大粒子、赤外線不透明化粒子との混合を容易にする観点から、無機繊維の含有率は0.5質量%以上20質量%以下であることが、より好ましい。
【0075】
無機繊維の含有率は、例えば、無機繊維を断熱材から分級することにより、求めることができる。
【0076】
(断熱材の製造方法)
小粒子及び大粒子としては、従来知られる製法で製造されるシリカ成分を有する粒子を使用することができる。例えば、小粒子及び大粒子は、酸性又はアルカリ性の条件下での湿式法により、ケイ酸イオンを縮合して製造された粒子でもよい。小粒子及び大粒子は、湿式法でアルコキシシランを加水分解・縮合して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、湿式法で製造されたシリカ成分を焼成して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、塩化物などケイ素の化合物を気相で燃焼して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、ケイ素金属やケイ素を含む原料を加熱して得られたケイ素ガスを酸化・燃焼して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、ケイ石などを溶融して製造されたものでもよい。また、大粒子としては、粒子径が100nm以上である粒子が球状であるものを予め調製すればよい。小粒子及び大粒子の配合比は、M/Mが0.035C/C以上3以下となるように調整すればよい。
【0077】
小粒子や大粒子に含まれるシリカ成分以外の成分としては、上記の製法において原料中に不純物として存在しているものを利用してもよい。シリカ成分以外の成分を、製造プロセス中に意図的に原料に添加してもよい。
【0078】
大粒子や小粒子として用いるシリカとしては、従来から知られる製法で製造された下記のシリカが好適に使用される。
【0079】
<湿式法で合成されるシリカ>
ケイ酸ナトリウムを原料に酸性で作られるゲル法シリカ。
ケイ酸ナトリウムを原料にアルカリ性で作られる沈降法シリカ。
アルコキシシランの加水分解・縮合で合成されるシリカ。
【0080】
<乾式法で合成されるシリカ>
ケイ素の塩化物を燃焼して作られるヒュームドシリカ。
ケイ素金属ガスを燃焼して作られるシリカ。
フェロシリコン製造時などに副生するシリカヒューム。
アーク法やプラズマ法で製造されるシリカ。
粉砕したシリカ粉末を火炎中で溶融・球状化する溶融シリカ。
【0081】
上記のシリカのうち、小粒子としては、ヒュームドシリカを用いることがより好ましい。大粒子しては、ヒュームドシリカ、ケイ素金属ガスを燃焼して作られるシリカ、シリカヒューム、溶融シリカを用いることがより好ましい。
【0082】
断熱材は、小粒子と大粒子を混合することにより製造される。さらに使用状況に応じて、この混合体に赤外線不透明化粒子や無機繊維を添加して形成した粉体を断熱材として用いてもよい。この粉体を加圧成形したものを断熱材として用いてもよい。
【0083】
大粒子としては、前述のシリカの他に、ガラスカレットなどの原料となる無機粉粒体を火炎中に投入して球状に球状化させた、ガラスビーズを使用することも、好ましい。
【0084】
小粒子、大粒子、赤外線不透明化粒子及び無機繊維は、従来から粉体の混合に用いられる各種の混合機を使用して混合することができる。従来から知られる混合機としては、例えば、容器回転型(容器自体が回転、振動、揺動する)として水平円筒型、V型(攪拌羽根が付いていてもよい)、ダブルコーン型、立方体型及び揺動回転型、機械撹拌型(容器は固定され、羽根などで撹拌する)として、単軸リボン型、複軸パドル型、回転鋤型、二軸遊星攪拌型、円錐スクリュー型、高速撹拌型、回転円盤型、ローラー付き回転容器型、撹拌付き回転容器型、高速楕円ローター型、流動撹拌型(空気、ガスによって撹拌する)として、気流撹拌型、重力による無撹拌型が挙げられる。これらの混合機を組み合わせて使用してもよい。
【0085】
小粒子、大粒子、赤外線不透明化粒子及び無機繊維の混合は、大粒子が破砕され丸さの度合いを損なわない限りにおいて、従来から粉体の粉砕に用いられる各種の粉砕機を使用して、無機繊維を裁断したり、粒子や無機繊維の分散性を向上させながら行ってもよい。従来から知られる粉砕機としては、ロールミル(高圧圧縮ロールミル、ロール回転ミル)、スタンプミル、エッジランナー(フレットミル、チリアンミル)、切断・せん断ミル(カッターミルなど)、ロッドミル、自生粉砕機(エロフォールミル、カスケードミルなど)、竪型ローラーミル(リングローラーミル、ローラーレスミル、ボールレースミル)、高速回転ミル(ハンマーミル、ケージミル、ディスインテグレーター、スクリーンミル、ディスクピンミル)、分級機内蔵型高速回転ミル(固定衝撃板型ミル、ターボ型ミル、遠心分級型ミル、アニュラー型ミル)、容器駆動媒体ミル(転動ボールミル(ポットミル、チューブミル、コニカルミル)、振動ボールミル(円形振動ミル、旋動振動ミル、遠心ミル)、遊星ミル、遠心流動化ミル)、媒体撹拌式ミル(塔式粉砕機、撹拌槽式ミル、横型流通槽式ミル、竪型流通槽式ミル、アニュラーミル)、気流式粉砕機(気流吸込型、ノズル内通過型、衝突型、流動層ジェット吹込型)、圧密せん断ミル(高速遠心ローラーミル、インナーピース式)、乳鉢、石臼などが挙げられる。これらの粉砕機を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
これらの混合機と粉砕機のうち、高速回転ミル、分級機内蔵型高速回転ミル、容器駆動媒体ミル、圧密せん断ミルが、粒子や無機繊維の分散性が向上するため、好ましい。
【0087】
断熱材は、金型プレス成形法(ラム式加圧成形法)、ラバープレス法(静水圧成形法)、押出成形法など、従来から知られるセラミックス加圧成形法によって成形することができる。生産性の観点から、金型プレス成形法が好ましい。
【0088】
金型プレス成形法やラバープレス法において粉末状の断熱材を型に充填するときには、粉末状の断熱材に振動を与えるなどして、均一に充填することが、断熱材成形体の厚みが均一となるため、好ましい。
【0089】
型内を減圧・脱気しながら粉末状の断熱材を型に充填すると、粉体を短時間で充填できるため、生産性の観点から好ましい。
【0090】
加圧成形中又は加圧成形後の断熱材を、断熱材の耐熱性が十分である温度や時間の条件の範囲内で、断熱材が構造変化しないように加熱乾燥し、断熱材中の吸着水を除去した後、実用に供すると、熱伝導率が低くなるため、好ましい。
【0091】
このようにして得られた断熱材は、熱伝導率が0.040W・m−1・K−1以下であり、既存の産業用断熱材であるケイカル板や住宅用断熱材であるグラスウール等の高性能品と同等以上の断熱性能を有するため、幅広い分野において実用に供することができる。なお、好ましくは、断熱材の熱伝導率は0.035W・m−1・K−1以下である。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
実施例1では、大粒子として、シリカヒュームEFACO(商品名、巴工業株式会社製)を用いた。小粒子として、ヒュームドシリカHDK−N20(商品名、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)を用いた。
【0094】
各粒子の平均粒子径を、FE−SEM装置S−4700(商品名、日立ハイテクフィールディング製)を使用して求めた。シリカヒュームEFACOの平均粒子径は150nmであった。ヒュームドシリカHDK−N20の平均粒子径は14nmであった。
【0095】
FE−SEMを用いて、シリカヒュームEFACOに含まれる、粒子径が100nm以上の1000個の粒子のFE−SEM画像を得た。このFE−SEM画像を画像処理して、A像くん(商品名、旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いて個々の粒子の最大径及び面積を求めた。そして、下記式(1)に基づき、個々の粒子の丸さの度合いを求め、その平均値を求めたところ、丸さの度合いの平均値は1.15であった。したがって、シリカヒュームEFACOのうち粒子径が100nm以上である粒子は球状であった。
丸さの度合い={π×(最大径/2)/面積} (1)
【0096】
自動湿式真密度測定器オートトゥルーデンサーMAT−7000(商品名、セイシン企業製)を使用し、各粒子の真比重を求めた。シリカヒュームEFACOの真比重Cは2.2であり、ヒュームドシリカHDK−N20の真比重Cは2.2であった。これより、実施例1における0.035C/Cは0.035であった。
【0097】
450gのシリカヒュームEFACOと、150gのヒュームドシリカHDK−N20を、ボールミルにより均一に混合して、実施例1の混合粉末(粉末状の断熱材)を調製した。ヒュームドシリカHDK−N20の質量の合計値Mは150gであり、シリカヒュームEFACOの質量の合計値Mは450gであることから、比率M/Mは0.33であった。
【0098】
上記の混合粉末328gを、内寸が縦20cm、横20cmの金型を使用して加圧成形を行い、縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。成形体のかさ密度は、0.41g・cm−3だった。
【0099】
実施例1の成形体には、成形欠陥は見られなかった。この成形体の25℃での熱伝導率を、熱伝導率測定装置オートΛ HC−074 200(商品名、英弘精機株式会社製)を利用して測定した。実施例1の成形体の熱伝導率は、0.027W・m−1・K−1であった。
【0100】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、シリカヒュームEFACOの粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0101】
[実施例2]
457.5gのシリカヒュームEFACOと、42.5gのヒュームドシリカHDK−N20を、実施例1と同様にして混合して、実施例2の混合粉末を調製した。実施例2における比率M/Mは0.092であった。
【0102】
実施例2の混合粉末467gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.58g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した実施例2の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0103】
実施例2の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。実施例2の成形体の熱伝導率は、0.036W・m−1・K−1であった。
【0104】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、シリカヒュームEFACOの粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0105】
[実施例3]
55.0gのシリカヒュームEFACOと、165gのヒュームドシリカHDK−N20を、実施例1と同様にして混合して、実施例3の混合粉末を調製した。実施例3における比率M/Mは3.0であった。
【0106】
実施例3の混合粉末148gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.19g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した実施例3の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0107】
実施例3の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。実施例3の成形体の熱伝導率は、0.020W・m−1・K−1であった。
【0108】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、シリカヒュームEFACOの粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0109】
[実施例4]
シリカヒュームEFACOの代わりに、384gのシリカヒュームSF−ST(商品名、巴工業株式会社製)と、128gのヒュームドシリカHDK−N20とを、M20汎用ミル(商品名、IKAジャパン株式会社製)を使用して均一に混合した後、32gの無機繊維であるセラミックファイバーのSCバルク1260(商品名、新日本サーマルセラミックス株式会社製)と、64gの赤外不透明化粒子であるケイ酸ジルコニウムのミクロパックスS(商品名、ハクスイテック株式会社製)を添加して、M20汎用ミルを使用して均一に混合し、実施例4の混合粉末(粉末状の断熱材)を調製した。実施例4における比率M/Mは0.33であった。
【0110】
実施例1と同様にしてシリカヒュームSF−STの平均粒子径、粒子径100nm以上の粒子の丸さの度合いの平均値及び真比重Cを求めたところ、それぞれ80nm、1.24及び2.2であった。したがって、シリカヒュームSF−STのうち粒子径が100nm以上である粒子は球状であった。また、実施例4における0.035C/Cは0.035であった。
【0111】
実施例4の混合粉末300gずつを、内径が直径30cmの円筒型の金型を使用して加圧成形を行い、直径30cm、厚み20mmの円板状の成形体を2枚得た。成形体のかさ密度は、共に0.21g・cm−3であった。実施例4の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0112】
この2枚の成形体を用いて、400℃での熱伝導率を、保護熱板法熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製)を利用して測定した。円板状の成形体の熱伝導率は、0.040W・m−1・K−1であった。
【0113】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、シリカヒュームSF−STの粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0114】
[実施例5]
シリカヒュームEFACOの代わりに、SF−シリカヒューム25ksppBAG(商品名、巴工業株式会社製)を使用した他は、実施例1と同様にして、実施例5の混合粉末を調製した。
【0115】
実施例1と同様にしてSF−シリカヒューム25ksppBAGの平均粒子径、粒子径100nm以上の粒子の丸さの度合いの平均値及び真比重Cを求めたところ、それぞれ320nm、1.15及び2.2であった。したがって、シリカヒューム25ksppBAGのうち粒子径が100nm以上である粒子は球状であった。また、実施例5における0.035C/Cは0.035であった。
【0116】
実施例5の混合粉末384gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.48g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した実施例5の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0117】
実施例5の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。実施例5の成形体の熱伝導率は、0.024W・m−1・K−1であった。
【0118】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、シリカヒューム25ksppBAGの粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0119】
[実施例6]
シリカヒュームEFACOの代わりに、ハイプレシカFQ N2N 5μm(商品名、宇部日東化成株式会社製)を使用した他は、実施例1と同様にして、実施例6の混合粉末を調製した。
【0120】
実施例1と同様にしてハイプレシカFQ N2N 5μmの平均粒子径、粒子径100nm以上の粒子の丸さの度合いの平均値及び真比重Cを求めたところ、それぞれ5μm、1.17及び2.2であった。したがって、ハイプレシカFQ N2Nのうち粒子径が100nm以上である粒子は球状であった。また、実施例6における0.035C/Cは0.035であった。
【0121】
実施例6の混合粉末400gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.50g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した実施例6の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0122】
実施例6の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。実施例6の成形体の熱伝導率は、0.028W・m−1・K−1であった。
【0123】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、ハイプレシカFQ N2N 5μmの粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0124】
[実施例7]
実施例1において、シリカヒュームEFACOの代わりに、ガラスビーズGBL−60(商品名、株式会社ユニオン製)を使用した他は、実施例1と同様にして、実施例7の混合粉末を調製した。
【0125】
実施例1と同様にしてガラスビーズGBL−60の平均粒子径、粒子径100nm以上の粒子の丸さの度合いの平均値及び真比重Cを求めたところ、それぞれ59μm、1.08及び2.3であった。したがって、ガラスビーズGBL−60のうち粒子径が100nm以上である粒子は球状であった。また、実施例7における0.035C/Cは0.033であった。
【0126】
実施例7の混合粉末456gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.57g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した実施例7の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0127】
実施例7の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。実施例7の成形体の熱伝導率は、0.032W・m−1・K−1であった。
【0128】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、ガラスビーズGBL−60の粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0129】
[実施例8]
450gのガラスビーズGBL−100(商品名、株式会社ユニオン製)と、150gのヒュームドシリカHDK−N20を、ロータリークラッシャーNR−08(商品名、三庄インダストリー株式会社製)を使用して、短時間で均一に混合し、実施例8の混合粉末を調製した。実施例8における比率M/Mは0.33であった。
【0130】
実施例1と同様にしてガラスビーズGBL−100の平均粒子径、粒子径100nm以上の粒子の丸さの度合いの平均値及び真比重Cを求めたところ、それぞれ100μm、1.07及び2.3であった。したがって、ガラスビーズGBL−100のうち粒子径が100nm以上である粒子は球状であった。また、実施例8における0.035C/Cは0.033であった。
【0131】
実施例8の混合粉末520gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.65g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した実施例8の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0132】
実施例8の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。実施例8の成形体の熱伝導率は、0.032W・m−1・K−1であった。
【0133】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、ガラスビーズGBL−100の粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0134】
[実施例9]
483gのシリカヒュームSF−STと、17.0gのヒュームドシリカHDK−N20を、実施例8と同様にして混合して、実施例9の混合粉末を調製した。実施例9における比率M/Mは0.035であった。
【0135】
実施例9の混合粉末482gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.60g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した実施例9の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0136】
実施例9の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。実施例9の成形体の熱伝導率は、0.030W・m−1・K−1であった。
【0137】
成形体中の球状粒子をFE−SEMにより観察した結果、シリカヒュームSF−STの粒子の破砕は起こっておらず、丸さの度合いに変化は無かった。
【0138】
[比較例1]
122gのヒュームドシリカHDK−N20を、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。
【0139】
実施例1と同様にして金型から取り出したヒュームドシリカHDK−N20の成形体には、成形欠陥が見られ、取り出す際に成形体の一部が破損した。そのため、比較例1の成形体の熱伝導率の評価をすることができなかった。
【0140】
[比較例2]
シリカヒュームEFACOの代わりに、シリカパウダーA−3(商品名、竹折砿業所株式会社製)を使用した他は、実施例1と同様にして、比較例2の混合粉末を調製した。
【0141】
実施例1と同様にしてシリカパウダーA−3の平均粒子径、粒子径100nm以上の粒子の丸さの度合いの平均値及び真比重Cを求めたところ、それぞれ50μm、2.6及び2.6であった。したがって、シリカパウダーA−3のうち粒子径が100nm以上である粒子が球状ではなかった。また、比較例2における0.035C/Cは0.029であった。
【0142】
比較例2の混合粉末440gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.55g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した比較例2の成形体に成形欠陥は見られなかった。
【0143】
比較例2の成形体の25℃での熱伝導率を、実施例1と同様にして測定した。比較例2の成形体の熱伝導率は、0.083W・m−1・K−1であった。
【0144】
[比較例3]
509.6gのシリカヒュームSF−STと、10.4gのヒュームドシリカHDK−N20を、実施例9と同様にして混合して、比較例3の混合粉末を調製した。比較例3における比率M/Mは0.020であった。
【0145】
比較例3の混合粉末504gを、実施例1と同様にして加圧成形したところ、成形体は極めて脆く、金型から取り出す際に破損した。そのため、比較例3の成形体の熱伝導率の評価をすることができなかった。
【0146】
[比較例4]
32gのシリカヒュームEFACOと、128gのヒュームドシリカHDK−N20を、実施例1と同様にして混合して、比較例4の混合粉末を調製した。比較例4における比率M/Mは4.0であった。
【0147】
比較例4の混合粉末141gを、実施例1と同様にして加圧成形して成形体を得た。成形体のかさ密度は0.18g・cm−3であった。実施例1と同様にして金型から取り出した比較例4の成形体には、成形欠陥が見られ、取り出す際に成形体の一部が破損した。そのため、比較例4の成形体の熱伝導率の評価をすることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、成形後のスプリングバックが小さく、成形欠陥の発生が抑制されるため、破損や断熱性能の低下の恐れがなく、かつ優れた断熱性能を有するため、断熱材として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0149】
S・・・小粒子、L・・・大粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含む第一の無機化合物からなり、比重がCである複数の小粒子と、
第二の無機化合物からなり、比重がCであり、前記小粒子よりも粒子径が大きい複数の大粒子と、
を備え、
前記複数の大粒子中に含まれる、粒子径が100nm以上の粒子が球状であり、
前記複数の小粒子の質量の合計値Mと前記複数の大粒子の質量の合計値Mとの比率M/Mが0.035C/C以上3以下である、
断熱材。
【請求項2】
前記小粒子の平均粒子径Dが5nm以上50nm未満であり、
前記大粒子の平均粒子径Dが50nm以上100μm以下である、
請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記大粒子が前記小粒子により囲まれたコア−シェル構造を有する、
請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記小粒子及び前記大粒子の含有率の合計値が30質量%以上100質量%以下であり、
平均粒子径が0.5μm以上30μm以下である赤外線不透明化粒子の含有率が0質量%以上50質量%以下であり、
平均太さが1μm以上10μm以下である無機繊維の含有率が0質量%以上20質量%以下である、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の断熱材。
【請求項5】
前記無機繊維が生体溶解性を有する、
請求項4に記載の断熱材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−97883(P2012−97883A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248487(P2010−248487)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】