説明

断熱構造体

【課題】基材に軽量モルタルが積層された建築物外壁の下地に対する塗装仕上面において、塗膜のひび割れ防止を図り、下地への追従性を長期にわたり安定して発揮させる。
【解決手段】本発明の断熱構造体は、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、基材層(A)、セメント及び軽量骨材を必須成分とする軽量モルタルにより形成される無機質断熱層(B)、ガラス転移温度が−60〜40℃である合成樹脂と、光安定剤及び/または紫外線吸収剤とが複合化された樹脂成分、並びに無機質粉粒体を含み、当該無機質粉粒体の顔料容積濃度が30〜80%である下塗材により形成される下塗材層(C)、透明被膜が形成可能な樹脂成分100重量部に対し、粒状骨材を100〜2000重量部含む仕上塗材により形成される仕上材層(D)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物外壁面を構成する断熱構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅、店舗、工場等の建築物においては、高断熱化・高気密化によって、冷暖房費の節約を図り、省エネルギーを実現しようとする動きが盛んである。一般に、断熱設計を施していない建築物では、冬期の暖房時には屋根、床、窓、壁等の部位から室内の熱が逃げ、夏期の冷房時にはこれら部位から屋外の熱が侵入してしまうが、このような熱損失の約3分の1は壁面に起因すると言われている。そのため、建築物の省エネルギー化を実現するには、室内と屋外を隔てる外壁の高断熱化が不可欠であり、壁面を構成する基材に断熱材料を積層して断熱性を高める手法が多く提案されている。
【0003】
このような断熱材料の一つとして、軽量モルタルが挙げられる。軽量モルタルは、セメント、軽量骨材等を主成分とする材料であり、断熱性に優れるとともに、近隣の火災からの延焼を防止する性能も有していることから、住宅等の外壁において汎用的に使用されている。また、軽量モルタルでは、シームレスな外観仕上げを得ることができ、さらにその美観性向上等を図るため、仕上塗材によって塗装仕上げを施すこともできる(例えば特許文献1等)。
【0004】
ところが、軽量モルタルは、その材料の特性上、経時的にひび割れを生じるおそれがある。このようなひび割れは、仕上材層にも波及し、仕上外観を損うこととなってしまう。
【0005】
特許文献2には、仕上材層のひび割れを抑制する技術として、基材上に微弾性下塗塗膜を設け、その上に石材調塗膜を設けることが記載されている。
しかしながら、特許文献2の方法で得られた塗膜では、石材調塗膜を構成する骨材の間隙を縫って微弾性下塗塗膜にまで太陽光が届いてしまう。そのため、当該下塗塗膜が経時的に劣化し、微弾性の性能も低下しやすくなる。このように劣化した下塗塗膜では、基材の変位に追従することができずにひび割れが生じやすくなり、その悪影響は上層の石材調塗膜にまで及ぶおそれがある。このようなひび割れが生じると、基材層や無機質断熱層への水の浸入を防ぐことができず、これら各層の劣化を引き起こすこととなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2567021号公報
【特許文献2】特開2000−265088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、基材に軽量モルタルが積層された建築物外壁の下地に対する塗装仕上面において、塗膜のひび割れ防止を図り、下地への追従性を長期にわたり安定して発揮させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため本発明者らは鋭意検討を行った結果、軽量モルタルにより形成される無機質断熱層の上に、それぞれ特定の下塗材、仕上塗材によって塗膜を形成することが有効であることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.建築物外壁面を構成する断熱構造体であって、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、
基材層(A)、
セメント及び軽量骨材を必須成分とする軽量モルタルにより形成される無機質断熱層(B)、
ガラス転移温度が−60〜40℃である合成樹脂と、光安定剤及び/または紫外線吸収剤とが複合化された樹脂成分、並びに無機質粉粒体を含み、当該無機質粉粒体の顔料容積濃度が30〜80%である下塗材により形成される下塗材層(C)、
透明被膜が形成可能な樹脂成分100重量部に対し、粒状骨材を100〜2000重量部含む仕上塗材により形成される仕上材層(D)
を有することを特徴とする断熱構造体。
2.前記仕上材層(D)が、
透明被膜が形成可能な樹脂成分100重量部に対し、粒状骨材を100〜2000重量部、平均厚みに対する平均粒子径の比(平均粒子径/平均厚み)が2/1以上である鱗片状粒子を3〜500重量部含む仕上塗材により形成される仕上材層(D)
であることを特徴とする1.記載の断熱構造体。
3.前記仕上塗材における樹脂成分が、
合成樹脂と、光安定剤及び/または紫外線吸収剤とが複合化された樹脂成分であることを特徴とする1.または2.に記載の断熱構造体。
4.前記仕上塗材が、粒子径1〜200nmの水分散性シリカ、及び/または、ポリフルオロアルキル基とノニオン性または両性の親水基を有する含フッ素化合物を含むことを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の断熱構造体。
5.前記仕上塗材が、繊維長0.1〜10mmの繊維を含むことを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の断熱構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軽量モルタルを用いた建築物外壁の塗装仕上面において、長期にわたって、塗膜のひび割れ発生を十分に抑制することができ、基材層、無機質断熱層への水の浸入防止を図ることができる。したがって、本発明では断熱構造体全体の耐久性を高めることができ、しかもその性能を長期にわたり保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[基材層]
本発明における基材層(A)としては、建築物外壁面を構成するものである限り特に限定されないが、例えば、コンクリート、モルタル、セメントボード、押出成形板、スレート板、PC板、ALC板、繊維強化セメント板、金属ボード、磁器タイル、金属系サイディングボード、窯業系サイディングボード、セラミック板、石膏ボード、プラスチックボード、硬質木片セメント板、塩ビ押出サイディングボード、合板等、あるいはこれらの複合体等があげられる。このような基材層は、何らかの表面処理層(例えば、シーラー層、サーフェーサー層等)を有するものであってもよい。
【0012】
[無機質断熱層]
無機質断熱層(B)は、無機質結合材としてのセメントと、軽量骨材とを必須成分とする軽量モルタルにより形成されるものである。具体的には、セメント、軽量骨材、及び水を含む混練物を硬化させることによって得られる。
【0013】
このうち、セメントとしては、例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、膨張セメント、酸性リン酸塩セメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、キーンスセメント等が挙げられる。
【0014】
軽量骨材は、断熱性、防火性、軽量化等の性能を付与する成分である。このような軽量骨材としては、例えばパーライト、膨張バーミキュライト、軽石、ALC粉砕物、スチレン樹脂発泡体、エチレン酢酸ビニル樹脂発泡体、塩化ビニル樹脂発泡体等が挙げられる。軽量モルタルは、上記成分の他に細骨材、凝結促進剤、減水剤、増粘剤、繊維材料、分散剤、有機樹脂等を含むものであってもよい。
このような軽量モルタルは、比重が普通モルタルの約1/2程度であるため、下地への負荷が少ない等の利点を有する。また、熱伝導率は普通モルタルの約1/5程度であり、断熱性にも優れるものである。具体的に、このような軽量モルタルとしては、例えばJASS15 M−102「ラス系下地用既調合軽量セメントモルタル」、JASS15 M−104「下地調整用軽量セメントモルタル」等に規定の材料が挙げられる。
【0015】
[下塗材層]
本発明では、上記無機質断熱層(B)の上(屋外側)に、下塗材層(C)を設ける。この下塗材層は、特定ガラス転移温度の合成樹脂と、光安定剤及び/または紫外線吸収剤とが複合化された樹脂成分、並びに無機質粉粒体を必須成分とする下塗材によって形成される。
【0016】
下塗材における合成樹脂としては、ガラス転移温度(以下「Tg」とも言う)が−60〜40℃(好ましくは−40〜30℃、より好ましくは−20〜20℃)であるものを用いる。合成樹脂のTgがこのような範囲内であることにより、下地に対する追従性を確保しつつ、仕上材層におけるひび割れ発生を抑制することができる。
合成樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合物等が挙げられる。このうち、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる1種または2種以上は、本発明の効果発現の点で好適である。また、合成樹脂の形態としては、水分散型樹脂(合成樹脂エマルション)が好適である。なお、本発明におけるガラス転移温度は、FOXの計算式より求められる値である。
【0017】
本発明における下塗材では、樹脂成分として、上記合成樹脂と光安定剤及び/または紫外線吸収剤とが複合化されたものを用いる。本発明では、このような樹脂成分を用いることにより、ひび割れ防止効果を長期にわたり保持することが可能となる。
光安定剤及び/または紫外線吸収剤が合成樹脂に複合化された形態としては、合成樹脂中に分散した形態、合成樹脂中に化学的に結合した形態、のいずれか一方または両方が挙げられる。本発明では、少なくとも、光安定剤及び/または紫外線吸収剤が合成樹脂に化学的に結合した状態を含むことによっていっそう高い効果が得られる。光安定剤及び/または紫外線吸収剤は、樹脂成分中、固形分換算で通常0.01〜20重量%(好ましくは0.1〜10重量部)含まれることが望ましい。
【0018】
具体的に、光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。
【0019】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2,2−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン−5,5’−ジスルホン酸等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;
2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−フェニルベンズイミダゾール−5−スルホン酸、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコ−ルとの反応生成物等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;
フェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレ−ト、p−オクチルフェニルサリシレート等のサリチル酸系紫外線吸収剤;
その他、トリアジン系紫外線吸収剤、蓚酸アニリド系紫外線吸収剤、アミノ安息香酸系紫外線吸収剤、ケイ皮酸系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0020】
本発明では、光安定剤及び/または紫外線吸収剤が合成樹脂に化学的に結合した状態とするため、重合性光安定剤及び/または重合性紫外線吸収剤を用いることができる。具体的には、例えば4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン等の重合性光安定剤、2−ヒドロキシ−4−アクリロキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等の重合性紫外線吸収剤が使用できる。このような重合性光安定剤及び/または重合性紫外線吸収剤は、合成樹脂の製造時(重合時)に他の単量体と共重合することにより、化学的に結合させることができる。
【0021】
下塗材における無機質粉粒体としては、各種無機質粉体を使用することができる。具体的には、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、陶土、チャイナクレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪砂、珪石、珪藻土、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。無機質粉粒体の平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μmである。
【0022】
下塗材では、上記無機質粉粒体の顔料容積濃度が30〜80%、好ましくは40〜70%となるように調製を行う。このような顔料容積濃度であれば、伸び性と強度を兼ね備えた厚膜の下塗材層が形成でき、塗膜のひび割れ抑制の点で好適である。顔料容積濃度が30%より小さい場合は、厚膜の塗膜が形成し難く、また塗膜の強度が不十分となるため、下地の変位を緩和する効果が得られ難くなり、仕上材層にひび割れが生じやすくなる。顔料容積濃度が80%より大きい場合は、下地への追従性が不十分となり、また仕上材層の仕上り性、密着性等が低下するおそれもある。
【0023】
下塗材は、上述の成分以外に、例えば、触媒、顔料、染料、骨材、艶消し剤、繊維、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、防腐剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤等を含むものであってもよい。
下塗材は、前述の各成分に加え、必要に応じこれら成分を常法により均一に混合することで製造できる。
【0024】
[仕上材層]
本発明では、上記下塗材層(C)の上(屋外側)に仕上材層(D)を設ける。この仕上材層(D)は、透明被膜が形成可能な樹脂成分、及び粒状骨材を含む仕上塗材により形成されるものである。
【0025】
仕上塗材における樹脂成分としては、透明被膜が形成可能なものであれば各種合成樹脂を使用することができる。合成樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合物等が挙げられる。このうち、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、及びフッ素樹脂から選ばれる1種または2種以上が好適である。合成樹脂の形態としては、水分散型樹脂(合成樹脂エマルション)が好適である。なお、樹脂成分の透明性は、仕上材層において粒状骨材が視認可能な程度であればよい。
仕上塗材における合成樹脂としては、Tgが−30〜60℃(好ましくは−20〜50℃、より好ましくは−10〜40℃)であるものが好適である。
【0026】
仕上塗材においては、樹脂成分として、合成樹脂と光安定剤及び/または紫外線吸収剤とが複合化されたものを使用することができる。本発明では、このような樹脂成分を用いることにより、下塗材層の劣化が抑制され、長期にわたるひび割れ防止効果を一層高めることができる。
光安定剤及び/または紫外線吸収剤が合成樹脂に複合化された形態としては、合成樹脂中に分散した形態、合成樹脂中に化学的に結合した形態、のいずれか一方または両方が挙げられる。光安定剤、紫外線吸収剤としては、下塗材と同様のものが使用できる。光安定剤及び/または紫外線吸収剤は、樹脂成分中、固形分換算で通常0.01〜20重量%(好ましくは0.1〜10重量部)含まれることが望ましい。
【0027】
仕上塗材における粒状骨材としては、自然石、自然石の粉砕物等の天然骨材、及び着色骨材等の人工骨材から選ばれる少なくとも1種以上を好適に使用することができる。具体的には、例えば、大理石、御影石、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、珪石、珪砂、及びこれらの粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、ガラスビーズ、樹脂粉砕物、樹脂ビーズ、金属粒等が挙げられる。さらに、これらの表面を着色コーティングしたもの等も使用できる。このような粒状骨材の2種以上を適宜組み合せて使用することにより、種々の色彩を表出することができる。なお、本発明における粒状骨材は、後述の鱗片状粒子とは異なる形状を有するものである。
【0028】
粒状骨材の平均粒子径は、通常0.01〜2mm(好ましくは0.02〜1mm)である。粒状骨材の平均粒子径は、JIS Z8801−1:2000に規定される金属製網ふるいを用いてふるい分けを行い、その重量分布の平均値を算出することによって得られる。
【0029】
粒状骨材は、上記樹脂成分の固形分100重量部に対し、通常100〜2000重量部(好ましくは200〜1500重量部、より好ましくは300〜1000重量部)の比率で混合する。粒状骨材の混合比率がこのような範囲内であれば、塗膜の意匠性、割れ防止性等の点において好適である。
【0030】
仕上塗材としては、上述の成分に加えさらに、平均厚みに対する平均粒子径の比(平均粒子径/平均厚み)が2/1以上である鱗片状粒子を含むものが使用できる。仕上塗材にこのような鱗片状粒子が含まれることにより、本発明の効果を高めることができる。その理由は明確ではないが、仕上材層中にこのような形状の鱗片状粒子が散在することによって、仕上材層中で太陽光が反射されやすくなり、太陽光による下塗材層の劣化を抑制する作用がはたらくものと考えられる。
【0031】
このような鱗片状粒子としては、例えば雲母、タルク、板状カオリン、硫酸バリウムフレーク、アルミナフレーク、ガラスフレーク、貝殻片、金属片等の無機質片、あるいはゴム片、プラスチック片、木片等を使用することができる。これらは、着色コーティング等が施されたものであってもよい。
【0032】
鱗片状粒子の平均厚みに対する平均粒子径の比は2/1以上であり、好ましくは3/1以上、より好ましくは4/1以上である。鱗片状粒子の平均粒子径は、通常0.05〜20mm(好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは0.5〜5mm)である。また、鱗片状粒子の平均厚みは、通常0.001〜5mm(好ましくは0.05〜3mm、より好ましくは0.01〜2mm)である。
なお、鱗片状粒子の平均粒子径は、JIS Z8801−1:2000に規定される金属製網ふるいを用いてふるい分けを行い、その重量分布の平均値を算出することによって得られる値である。また、平均厚みは、マイクロメーターにより測定される値の平均値である。
【0033】
鱗片状粒子は、上記樹脂成分の固形分100重量部に対し、通常3〜500重量部(好ましくは5〜200重量部)比率で混合する。鱗片状粒子の混合比率がこのような範囲内であれば、本発明の効果向上の点において好適である。
【0034】
仕上塗材としては、粒子径1〜200nmの水分散性シリカ(f)(以下「(f)成分」という)、及び/または、ポリフルオロアルキル基とノニオン性または両性の親水基を有する含フッ素化合物(g)(以下「(g)成分」という)を含むものが使用できる。本発明では、このような成分を含む仕上塗材を使用することにより、耐汚染性が高まり、長期にわたり美観性を保持することが可能となる。
【0035】
(f)成分を構成する粒子は、シリカを主成分とするため硬度が高く、かつその粒子表面にシラノール基を有する化合物である。このような(f)成分は、耐汚染性の向上効果に大きく寄与するものである。
【0036】
(f)成分の粒子径は、1次粒子径として通常1〜200nm、好ましくは5〜100nm、より好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは20〜40nmである。(f)成分の粒子径がこのような範囲内であれば、被膜の透明性、耐汚染性等の点で好適である。なお、(f)成分の粒子径は、光散乱法によって測定される値である。
【0037】
(f)成分のpHは、好ましくはpH5以上12以下、より好ましくは6以上10以下、さらに好ましくは6以上9以下である。このようなpHに調製された(f)成分は、その粒子表面の豊富なシラノール基によって、親水性を発揮することができ、耐汚染性向上に大きく寄与するものである。
【0038】
(f)成分は、例えば、珪酸ソーダ、シリケート化合物を原料として製造することができる。このうち、シリケート化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等、あるいはこれらの縮合物等が挙げられる。この他、上記シリケート化合物以外のアルコキシシラン化合物や、アルコール類、グリコール類、グルコールエーテル類、フッ素アルコール、シランカップリング剤、ポリオキシアルキレン基含有化合物等を併せて使用することもできる。製造時には触媒等を使用することもできる。また、製造過程ないし製造後に、触媒等に含まれる金属をイオン交換処理等によって除去することもできる。
【0039】
(f)成分の媒体としては、水及び/または水溶性溶剤が使用できる。水溶性溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0040】
(f)成分の混合比率は、上記樹脂成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは1〜40重量部、さらに好ましくは3〜30重量部である。このような混合比率であれば、耐汚染性、ひび割れ防止性等の点で好適である。
【0041】
(g)成分は、ポリフルオロアルキル基とノニオン性または両性の親水基を有する含フッ素化合物である。この(g)成分のポリフルオロアルキル基は、直鎖状、分岐状または環状骨格を有するアルキル基内の炭素原子に結合する水素原子の全部または一部がフッ素原子に置換された基である。このポリフルオロアルキル基は、ポリフルオロアルキル基中の炭素原子間に、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子等を有するものであってもよい。また、ポリフルオロアルキル基は、フッ素原子以外の他のハロゲン原子を含んでいてもよい。ポリフルオロアルキル基における炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは6以上である。ポリフルオロアルキル基における炭素数の上限は、好ましくは40以下、より好ましくは20以下である。(g)成分のポリフルオロアルキル基としては、特にパーフルオロアルキル基が好適である。
【0042】
ノニオン性の親水基としては、ポリアルキレンオキサイド基、アミンオキサイド基等が挙げられる。このうちポリアルキレンオキサイド基としては、例えばポリエチレンオキサイド基、ポリプロピレンオキサイド基等が挙げられ、エチレンオキサイド基とプロピレンオキサイド基が混在するものも使用できる。アルキレンオキサイドの繰返し数は、好ましくは2〜100である。
両性の親水基としては、4級アンモニウムのハロゲン塩、ベタイン等の含窒素両性親水基が挙げられる。このうち、4級アンモニウムのハロゲン塩中のハロゲンとしては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ベタインは、4級アンモニウムと酸の陰イオンを有するものであり、酸としてはカルボン酸等が挙げられる。
【0043】
本発明における(g)成分としては、上記官能基を併有するものが使用できる。このような(g)成分は、例えば、電解フッ素化法、テロメリゼーション法、オリゴメリゼーション法等により、中間体となるポリフルオロアルキル基含有化合物を合成した後、その中間体に親水基を導入することにより製造することができる。
(g)成分としては、その0.01%水溶液の25℃における表面張力が20mN/m以下(さらには18mN/m以下)であるものが好適である。
【0044】
(g)成分は、上記樹脂成分の固形分100重量部に対し0.01〜10重量部(より好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部)の比率で混合することが望ましい。
【0045】
本発明では、上記(f)成分及び(g)成分を併せて用いることにより、優れた耐汚染性を発揮することができる。さらに、塗膜の乾燥性を高めることができ、造膜初期段階における汚染物質の付着抑制等にも効果的である。このような効果が奏される具体的な作用機構は明らかではないが、塗膜形成時に(f)成分、(g)成分が塗膜表面に配向し、塗膜表面の硬度、親水性等が効果的に高まっているものと推測される。
【0046】
仕上塗材としては、繊維長0.1〜10mmの繊維(h)(以下「(h)成分」という)を含むものが使用できる。この(h)成分は、仕上塗材の塗装作業性を向上させるとともに、塗膜形状を安定化させる効果を奏する。さらに、(h)成分は、ひび割れ防止性等の点においても有効である。特に(f)成分、(g)成分と(h)成分を組み合わせた場合は、汚染防止と塗膜形状安定化を両立させることができ、好適である。
【0047】
(h)成分としては、例えば、パルプ繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維)、ビスコースレーヨン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、セルロース繊維等の合成繊維、ケナフ、ヤシ、コルク、竹、麻、藤、パイナップル、バナナ、わら等の天然繊維、ロックウール、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ−アルミナ繊維、カーボン繊維、炭化珪素繊維等の無機繊維等が挙げられ、本発明では特に、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、麻、わら、ガラス繊維等が好ましい。
【0048】
(h)成分の混合比率は、上記樹脂成分の固形分100重量部に対し、好ましくは0.01〜30重量部、より好ましくは0.1〜25重量部、さらに好ましくは1〜20重量部である。
【0049】
仕上塗材には、上記成分以外に、必要に応じ、着色顔料、体質顔料、造膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、pH調整剤、吸着剤、触媒、架橋剤等を混合することができる。仕上塗材は、前述の各成分に加え、必要に応じこれら成分を常法により均一に混合することで製造できる。(f)成分と(g)成分を予め複合化する等の処理は必要ではない。
【0050】
[断熱構造体の形成方法]
本発明の断熱構造体は、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、基材層(A)、無機質断熱層(B)、下塗材層(C)、仕上材層(D)を有するものである。このような断熱構造体は、基材層(A)に対して無機質断熱層(B)を形成し、その表面に下塗材(C)を塗付して下塗材層(C)を形成した後、仕上塗材を塗付して仕上材層(D)を形成することにより得ることができる。各材料の施工、乾燥養生等は、通常常温で行う。
【0051】
このうち無機質断熱層(B)は、セメント、軽量骨材等の混合物に適宜水を加えて得られる混練物を、基材層(A)の上に塗付し硬化させることで形成できる。この混練物は、2回以上塗り重ねることができる。また、防水紙、ラス、メッシュ等を張り付けながら塗付することもできる。塗付具としては、通常鏝を用いる。
無機質断熱層(B)の厚みは、所望の断熱性能等に応じて適宜設定すればよいが、通常は5〜50mm程度である。
【0052】
本発明では、無機質断熱層(B)の表面に、下塗材を塗装して下塗材層(C)を形成する。下塗材の塗装では、スプレー、ローラー、刷毛、鏝等を用いることができる。下塗材層の厚みは、通常0.1〜2mm(好ましくは0.2〜1.5mm)程度である。
【0053】
仕上材層(D)は、上記下塗材の乾燥後、各種仕上塗材を塗装することによって形成すればよい。塗装においては、スプレー、ローラー、刷毛、鏝等の塗装器具を使用することができる。仕上材層(D)の厚みは、通常0.5〜10mm程度である。
仕上材層(D)の表面には、耐候性、防汚性等を高める目的で、別途クリヤー塗料等を塗付することもできる。
【0054】
本発明では、下塗材(C)の塗装前に、無機質断熱層(B)の表面に処理液を塗付して、無機質断熱層(B)を処理することができる。このような処理液としては、
(i)単量体成分としてカルボキシル基含有単量体を単量体総重量に対して5〜50重量%含有し、重量平均分子量が1000〜100000である水性樹脂(m)、及びエポキシ基を有する反応性化合物(n)を必須成分とする処理液(以下「処理液(i)」という)、または、
(ii)エポキシ基含有合成樹脂エマルション(p)と、水溶性珪酸塩(q)とを含み、前記合成樹脂エマルション(m)と前記水溶性珪酸塩(n)の固形分重量比率が90:10〜10:90である処理液(以下「処理液(ii)」という)、
が好適である。このような処理液は、無機質断熱層(B)の表層に含浸するとともに、無機質断熱層(B)の表面に薄膜を形成する。これにより、本発明では、付着性、ひび割れ防止性等をいっそう高めることができる。このような効果は、上記処理液が、無機質断熱層(B)の表層の強度を高める作用、下塗材層(C)との接着力を高める作用、さらには、無機質断熱層(B)から下塗材層(C)へのアルカリ滲出を遮断して、下塗材層(C)の経時劣化を抑制する作用等を有することにより奏されるものと考えられる。
【0055】
処理液を塗付する際には、スプレー、ローラー、刷毛等を用いればよい。処理液の塗付け量は、通常0.05〜0.5kg/m程度(好ましくは0.1〜0.3kg/m程度)である。
処理液を塗付するタイミングは、無機質断熱層(B)の硬化前ないし硬化後であればよい。具体的には施工時の環境条件等にもよるが、無機質断熱層(B)を形成する軽量モルタルの塗付後、通常7〜30日程度経過した後に塗付すればよい。
基材となる壁面にシーリング材等が打設されている場合は、処理液として、可塑剤移行防止プライマー等を併せて使用することも可能である。
【0056】
このような工程を介すことにより、無機質断熱層(B)は、少なくともその屋外側表面が上記処理液によって処理されたものとなる。以下、各処理液について詳述する。
【0057】
[処理液(i)]
処理液(i)は、単量体成分としてカルボキシル基含有単量体を単量体総重量に対して5〜50重量%含有し、重量平均分子量が1000〜100000である水性樹脂(m)、及びエポキシ基を有する反応性化合物(n)を必須成分とするものである。
このうち、水性樹脂(m)(以下「(m)成分」という)は、単量体成分としてカルボキシル基含有単量体と、当該単量体と共重合可能なその他の単量体を含む単量体群を共重合することによって得られる、水溶性及び/または水分散性の樹脂である。
【0058】
カルボキシル基含有単量体は、(m)成分に水溶性及び/または水分散性を付与するとともに、反応性化合物(n)との架橋反応性に寄与する成分である。カルボキシル基含有単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができ、特に(メタ)アクリル酸等が好適である。
カルボキシル基含有単量体の比率は、単量体総重量に対し5〜50重量%であり、好ましくは10〜40重量%である。カルボキシル基含有単量体の比率がこのような範囲内であれば、反応性化合物(n)との反応により、十分な付着性向上効果を得ることができる。
【0059】
カルボキシル基含有単量体と共重合可能なその他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有単量体の他、アルコキシシリル基含有単量体、アミノ基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、ニトリル基含有単量体、エポキシ基含有単量体、カルボニル基含有単量体、芳香族単量体等が挙げられる。
【0060】
(m)成分の重量平均分子量は、通常1000〜100000、好ましくは1500〜50000、より好ましくは2000〜20000である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定を行い、ポリスチレン換算で算出される値である。このような(m)成分の形態は水溶性樹脂であることが望ましい。
【0061】
処理液(i)における(n)成分は、エポキシ基を有する反応性化合物(n)(以下「(n)成分」という)である。
(n)成分としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。この他、エポキシ基含有単量体の重合体(ホモポリマーまたはコポリマー)からなる水溶性樹脂やエマルションを使用することもできる。このような化合物は、1分子中に2以上のエポキシ基を有するものである。また、エポキシ基とその他の官能基を有する化合物も使用でき、例えば、エポキシ基と加水分解性シリル基を併有する化合物等が使用できる。このような化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロぺニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロぺニルオキシシランとグリシドールとの付加物等が挙げられる。
【0062】
(m)成分と(n)成分の混合比率は、カルボキシル基/エポキシ基の当量比率で、通常100/20〜100/500(好ましくは100/30〜100/300、より好ましくは100/50〜100/200、さらに好ましくは100/102〜100/200)である。
【0063】
処理液(i)は、媒体として少なくとも水を含むものであるが、媒体として水及び水溶性溶剤を含むこともできる。処理液(i)の媒体に水及び水溶性溶剤を含む場合は、無機質断熱層(B)への浸透性が高まり、本発明効果の向上を図ることができる。
このような水溶性溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。水溶性溶剤の水への溶解度は、通常10g/100g以上であればよいが、好ましくは20g/100g以上、より好ましくは∞である。
【0064】
処理液(i)には、必要に応じ消泡剤、造膜助剤、凍結防止剤、増粘剤、防黴剤、界面活性剤等の添加剤を混合することもできる。処理液(i)における有効成分((m)成分及び(n)成分の総固形分)の濃度は5〜50重量%(好ましくは10〜40重量%)程度とすることが望ましい。
【0065】
[処理液(ii)]
処理液(ii)は、エポキシ基含有合成樹脂エマルション(p)(以下「(p)成分」という)と、水溶性珪酸塩(q)(以下「(q)成分」という)を必須成分とするものである。
【0066】
(p)成分としては、エマルション粒子内にエポキシ基を有する合成樹脂エマルションが使用できる。このような(p)成分は、エポキシ基含有単量体を含む単量体群を共重合することにより得ることができる。
エポキシ基含有単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルフマレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、ε−カプロラクトン変性グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。単量体群におけるエポキシ基含有単量体の重量比率は、通常1〜25重量%、好ましくは3〜20重量%である。
【0067】
(p)成分としては、上記エポキシ基に加え、ニトリル基、アミド基、及びカルボニル基から選ばれる1種以上の極性基を含有するものが好適である。このような極性基は、本発明の効果向上の点で望ましいものである。さらに、本発明では、このような極性基が含まれることにより、(p)成分と(q)成分を混合した際の安定性を高めることができるため、処理液(ii)を1液型として取り扱うことも可能となる。これにより、処理作業の効率化等を図ることができる。
【0068】
上記極性基を含む(p)成分は、エポキシ基含有単量体に加え、ニトリル基含有単量体、アミド基含有単量体、及びカルボニル基含有単量体から選ばれる1種以上の極性単量体を含む単量体群を共重合することにより得ることができる。
このうち、ニトリル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α−シアノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミド基含有単量体としては、例えば、マレイン酸アミド、(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタクリレート)、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、ビニルアミド等が挙げられる。
カルボニル基含有単量体としては、例えば、アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等が挙げられる。
単量体群における極性単量体の重量比率は、通常0.1〜15重量%、好ましくは0.2〜10重量%である。
【0069】
(p)成分としては、上記単量体、並びに(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/または芳香族単量体を含む単量体群の重合体を樹脂成分とするものが好適である。このうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。芳香族単量体は、芳香環と重合性不飽和二重結合を有する化合物であり、その具体例としては、例えばスチレン、ビニルトルエン、フェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら単量体((メタ)アクリル酸アルキルエステル及び芳香族単量体)の総量は、その重量比率が単量体群中60〜99重量%(好ましくは70〜97重量%)となる範囲内で設定すればよい。(p)成分では、このような(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族単量体の両方を使用することにより、付着性等の性能を高めることもできる。
(p)成分においては、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の単量体を使用することもできる。
【0070】
上記単量体のうち、カルボキシル基含有単量体については、単量体群における重量比率を3重量%以下(好ましくは1重量%以下)とすることが望ましい。カルボキシル基含有単量体を含まない態様も好適である。アミノ基含有単量体についても、単量体群における重量比率を3重量%以下(好ましくは1重量%以下)とすることが望ましく、アミノ基含有単量体を含まない態様も好適である。このような単量体の使用を抑えることにより、エポキシ基の極性が活かされ、優れた付着性等を発揮することができる。
【0071】
(p)成分は、上記単量体を適宜混合した単量体群を公知の方法で乳化重合することにより製造することができる。
(p)成分としては、乳化剤において、少なくともアニオン性界面活性剤を用いたものが好適である。これにより、(p)成分の平均粒子径を比較的小さくすることができ、含浸補強性等を高めることができる。具体的な態様としては、アニオン性界面活性剤を単独で用いる場合、またはアニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を併用する場合が挙げられる。
【0072】
(p)成分の平均粒子径は、通常300nm以下(好ましくは20〜120nm、より好ましくは30〜100nm)である。また、(p)成分のTgは、通常−50〜80℃(好ましくは−40〜60℃)である。
【0073】
処理液(ii)における水溶性珪酸塩(q)(以下「(q)成分」という)としては、具体的に、MO・nSiO(Mはアルカリ金属を示す。nは2〜10。)で示されるものが使用できる。アルカリ金属Mとしては、Li、Na、Kから選ばれる1種以上が好適である。このような(q)成分としては、水溶性珪酸リチウム、水溶性珪酸ナトリウム、水溶性珪酸カリウム等が挙げられ、この中でも特に珪酸リチウムが好適である。上記式中のnは、通常2〜10であり、好ましくは3〜8である。nがこのような範囲内であれば、上記効果に加え、耐白華性、耐水性等においても有利な効果を得ることができる。また、このような(q)成分は、完全に水溶性の状態であるものが好適である。
【0074】
(p)成分と(q)成分の固形分重量比率は、通常90:10〜10:90、好ましくは80:20〜30:70、より好ましくは75:25〜50:50とする。(p)成分と(q)成分の固形分重量比率がこのような範囲内であれば、本発明の効果発現の点で好適である。
【0075】
処理液(ii)では、上記成分に加え、HLB12以上のノニオン性界面活性剤(r)(以下「(r)成分」という)を含むことが望ましい。(r)成分を混合することにより、含浸補強性等をいっそう高めることができる。さらに、(p)成分と(q)成分の混合安定性も高めることができる。
(r)成分の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、これらのうちHLBが12以上のものが使用できる。(r)成分のHLBは、好ましくは12〜17、より好ましくは13〜15である。なお、HLBとは、親水性−親油性バランスの略称で、両親媒性物質の親水性と親油性の強度比を数値化して表したものである。
上記(r)成分は、(p)成分の固形分100重量部に対し、通常1〜30重量部、好ましくは2〜20重量部となる重量比率で混合すればよい。
【0076】
処理液(ii)には、必要に応じ消泡剤、造膜助剤、凍結防止剤、増粘剤、防黴剤、水溶性溶剤等の添加剤を混合することもできる。処理液(ii)における有効成分((p)成分及び(q)成分の総固形分)の濃度は5〜50重量%(好ましくは10〜40重量%)程度とすることが望ましい。
【実施例】
【0077】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0078】
(1)下塗材の製造
下塗材の製造においては下記の原料を使用した。
・樹脂1:光安定剤複合アクリル樹脂エマルション(ガラス転移温度:−10℃、樹脂固形分:50重量%、光安定剤:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(樹脂成分中0.5重量%))
・樹脂2:光安定剤複合アクリルシリコン樹脂エマルション(ガラス転移温度:−12℃、樹脂固形分:50重量%、光安定剤:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(樹脂成分中0.5重量%))
・樹脂3:光安定剤複合アクリルシリコン樹脂エマルション(ガラス転移温度:6℃、樹脂固形分:50重量%、光安定剤:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(樹脂成分中0.5重量%))
・樹脂4:光安定剤複合アクリルシリコン樹脂エマルション(ガラス転移温度:−18℃、樹脂固形分:50重量%、光安定剤:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(樹脂成分中0.5重量%))
・樹脂5:アクリル樹脂エマルション(ガラス転移温度:−10℃、樹脂固形分:50重量%)
・無機質粉体1:重質炭酸カルシウム(平均粒子径4μm、比重2.6)
・無機質粉体2:酸化チタン(平均粒子径0.3μm、比重4.2)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・増粘剤:セルロース系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0079】
(下塗材1)
容器内に樹脂1を200重量部仕込み、これに無機質粉体1を280重量部、無機質粉体2を16重量部、造膜助剤を20重量部、増粘剤を8重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって下塗材1(顔料容積濃度53%)を製造した。
【0080】
(下塗材2)
容器内に樹脂2を200重量部仕込み、これに無機質粉体1を280重量部、無機質粉体2を16重量部、造膜助剤を20重量部、増粘剤を8重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって下塗材2(顔料容積濃度53%)を製造した。
【0081】
(下塗材3)
容器内に樹脂3を200重量部仕込み、これに無機質粉体1を178重量部、無機質粉体2を16重量部、造膜助剤を20重量部、増粘剤を10重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって下塗材3(顔料容積濃度42%)を製造した。
【0082】
(下塗材4)
容器内に樹脂4を200重量部仕込み、これに無機質粉体1を450重量部、無機質粉体2を16重量部、造膜助剤を20重量部、増粘剤を6重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって下塗材4(顔料容積濃度64%)を製造した。
【0083】
(下塗材5)
容器内に樹脂2を200重量部仕込み、これに無機質粉体1を1100重量部、無機質粉体2を16重量部、造膜助剤を24重量部、増粘剤を4重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって下塗材5(顔料容積濃度81%)を製造した。
【0084】
(下塗材6)
容器内に樹脂5を200重量部仕込み、これに無機質粉体1を280重量部、無機質粉体2を16重量部、造膜助剤を20重量部、増粘剤を8重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって下塗材6(顔料容積濃度53%)を製造した。
【0085】
(下塗材7)
容器内に樹脂5を200重量部仕込み、これに無機質粉体1を1100重量部、無機質粉体2を16重量部、造膜助剤を24重量部、増粘剤を4重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって下塗材7(顔料容積濃度81%)を製造した。
【0086】
(2)仕上塗材の製造
仕上塗材の製造においては下記の原料を使用した。
・樹脂6:アクリルシリコン樹脂エマルション(ガラス転移温度:16℃、樹脂固形分:50重量%)
・樹脂7:光安定剤複合アクリルシリコン樹脂エマルション(ガラス転移温度:14℃、樹脂固形分:50重量%、光安定剤:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(樹脂成分中0.8重量%))
・樹脂8:光安定剤複合アクリルシリコン樹脂エマルション(ガラス転移温度:−6℃、樹脂固形分:50重量%、光安定剤:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(樹脂成分中0.8重量%))
・樹脂9:光安定剤複合アクリルシリコン樹脂エマルション(ガラス転移温度:28℃、樹脂固形分:50重量%、光安定剤:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(樹脂成分中0.8重量%))
・粒状骨材:着色珪砂(茶色珪砂と赤色珪砂と淡黄色珪砂の混合物、平均粒子径0.08〜0.2mm)
・鱗片状粒子:雲母系粒子(平均粒子径1.0mm、平均厚み40μm)
・水分散性シリカ:シリカゾル(pH7.6、固形分20重量%、平均1次粒子径27nm)
・含フッ素化合物1:パーフルオロアルキルベタイン(0.01%水溶液の表面張力16.0mN/m(25℃))
・含フッ素化合物2:パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(0.01%水溶液の表面張力17.5mN/m(25℃))
・繊維:繊維長0.8mmのビニロン繊維
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・増粘剤:セルロース系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0087】
(仕上塗材1)
容器内に樹脂6を200重量部仕込み、これに粒状骨材420重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を24重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材1を製造した。
【0088】
(仕上塗材2)
容器内に樹脂6を200重量部仕込み、これに粒状骨材を420重量部、鱗片状粒子を65重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を24重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材2を製造した。
【0089】
(仕上塗材3)
容器内に樹脂8を200重量部仕込み、これに粒状骨材を760重量部、鱗片状粒子を32重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を18重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材3を製造した。
【0090】
(仕上塗材4)
容器内に樹脂9を200重量部仕込み、これに粒状骨材を310重量部、鱗片状粒子を150重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を30重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材4を製造した。
【0091】
(仕上塗材5)
容器内に樹脂7を200重量部仕込み、これに粒状骨材を420重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を24重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材5を製造した。
【0092】
(仕上塗材6)
容器内に樹脂7を200重量部仕込み、これに粒状骨材を420重量部、水分散性シリカを10重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を28重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材6を製造した。
【0093】
(仕上塗材7)
容器内に樹脂7を200重量部仕込み、これに粒状骨材を420重量部、含フッ素化合物1を0.5重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を24重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材7を製造した。
【0094】
(仕上塗材8)
容器内に樹脂7を200重量部仕込み、これに粒状骨材を420重量部、水分散性シリカを10重量部、含フッ素化合物1を0.5重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を28重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材8を製造した。
【0095】
(仕上塗材9)
容器内に樹脂7を200重量部仕込み、これに粒状骨材を420重量部、水分散性シリカを10重量部、含フッ素化合物2を0.5重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を28重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材9を製造した。
【0096】
(仕上塗材10)
容器内に樹脂7を200重量部仕込み、これに粒状骨材を420重量部、水分散性シリカを10重量部、含フッ素化合物2を0.5重量部、繊維9重量部、造膜助剤を9重量部、増粘剤を28重量部、消泡剤を2重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって仕上塗材10を製造した。
【0097】
(3)処理液の製造
処理液の製造においては下記の原料を使用した。
・樹脂10:水溶性アクリル樹脂(固形分:50重量%、重量平均分子量:5000、カルボキシル基含有単量体:メタクリル酸(樹脂成分中の比率:25重量%))
・樹脂11:合成樹脂エマルション(スチレン−(2−エチルヘキシルアクリレート)−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合物(重量比=55:28:14:3)、固形分:40重量%、平均粒子径83nm)
・水溶性溶剤:エチレングリコールモノアルキルエーテル(水への溶解度:∞)
・水溶性珪酸塩:珪酸リチウム水溶液(LiOとSiOのモル比1:3.5、固形分24重量%)
・界面活性剤:ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HLB14.0)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・化合物1:ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル
・化合物2:γ−グリシドキシプロピルトリメキシシラン
【0098】
(処理液1)
容器内に樹脂10を仕込み、これに水及び水溶性溶剤を加えて、水と水溶性溶剤の重量比率が70:30となるように調製した。この調製液と化合物1とを、カルボキシル基とエポキシ基の当量比率(カルボキシル基/エポキシ基)が100/110となるように塗装時に混合したものを処理液1(有効成分の濃度:25重量%)とした。
【0099】
(処理液2)
容器内に樹脂10を仕込み、これに水及び水溶性溶剤を加えて、水と水溶性溶剤の重量比率が70:30となるように調製した。この調製液と化合物2とを、カルボキシル基とエポキシ基の当量比率(カルボキシル基/エポキシ基)が100/100となるように塗装時に混合したものを処理液2(有効成分の濃度:25重量%)とした。
【0100】
(処理液3)
容器内に樹脂10を仕込み、これに水を加えて濃度を調製した(水と水溶性溶剤の重量比率=100:0)。この調製液と化合物1とを、カルボキシル基とエポキシ基の当量比率(カルボキシル基/エポキシ基)が100/110となるように塗装時に混合したものを処理液3(有効成分の濃度:25重量%)とした。
【0101】
(処理液4)
容器内に樹脂11を250重量部仕込み、これに水溶性珪酸塩を180重量部、界面活性剤を10重量部、造膜助剤を28重量部、水を460重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって処理液4(合成樹脂エマルションと水溶性珪酸塩の固形分重量比率=70:30)を製造した。
【0102】
(処理液5)
容器内に樹脂11を250重量部仕込み、これに水溶性珪酸塩を180重量部、造膜助剤を28重量部、水を460重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって処理液5(合成樹脂エマルションと水溶性珪酸塩の固形分重量比率=70:30)を製造した。
【0103】
(処理液6)
容器内に樹脂11を293重量部仕込み、これに水溶性珪酸塩を107重量部、界面活性剤を10重量部、造膜助剤を28重量部、水を490重量部混合し、常法で均一に攪拌することによって処理液6(合成樹脂エマルションと水溶性珪酸塩の固形分重量比率=82:18)を製造した。
【0104】
(試験例1)
・追従性試験
セメント系無機成型板(縦150×横70×厚さ6mm)の横中央部に切り目を入れたものを試験基材として用いた。この試験基材に対し、ウールローラーを用いて処理液1を塗付け量0.15kg/mで塗付した。24時間経過後、下塗材1を乾燥厚みが約0.5mmとなるようにスプレー塗装し、次いで24時間経過後、仕上塗材2を乾燥厚みが約2mmとなるようにスプレー塗装し、14日間養生した。なお、試験板の作製・養生はすべて標準状態(気温23℃・相対湿度50%)で行った。また、上下の各端部20mmは無塗装の状態とした。
以上の方法で得られた試験板について、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機株式会社製)を用いて、5000時間の促進曝露を行った後、引張試験機を用いて追従性を評価した。評価は、試験基材を1mm引張ったときに異常が認められなかったものを「A」、試験基材を0.5mm引張ったときに異常が認められなかったものを「B」、試験基材を0.5mm引張ったときにひび割れが認められたものを「C」、促進曝露後にひび割れが認められたものを「D」として行った。試験結果を表1に示す。
【0105】
・付着性試験
スレート板(厚さ6mm)の片面に、ポルトランドセメント及びパーライトを主成分とする軽量モルタルに水を混練して得られるスラリーを鏝塗りし、厚さ20mmの軽量モルタル層を形成させた。
軽量モルタルを塗付して28日経過後、軽量モルタル層の表面に、処理液1をウールローラーを用いて塗付け量0.15kg/mで塗付した。24時間経過後、下塗材1を乾燥厚みが約0.5mmとなるようにスプレー塗装し、次いで24時間経過後、仕上塗材2を乾燥厚みが約2mmとなるようにスプレー塗装し、14日間養生した。なお、試験板の作製・養生はすべて標準状態(気温23℃・相対湿度50%)で行った。
上記方法で得られた試験板を、水酸化カルシウム飽和水溶液(23℃)に10日間浸漬した後、引張試験機を用いて付着強さを測定した。この試験では、処理液を用いずに仕上塗材を塗装した試験板(試験例9)における付着強さの値を基準値とした。
付着性試験の評価は、基準値に対する試験板の付着強さの倍率を算出することにより行い、基準値の2.0倍以上を「A」、1.5倍以上2.0倍未満を「B」、1.1倍以上1.5倍未満を「C」、1.1倍未満を「D」とした。試験結果を表1に示す。
【0106】
(試験例2〜22)
処理液、下塗材、仕上塗材として、表1に示す材料を使用した以外は、試験例1と同様の方法で試験体を作製し、各試験を実施した。試験結果を表1に示す。
試験例1〜19では、追従性試験において良好な結果が得られた。試験例1〜18については、付着性試験においても良好な結果を示した。
【0107】
【表1】

【0108】
試験例2、試験例11〜16については、以下の試験を行った。
【0109】
・耐汚染性試験
上記「付着性試験」と同様の方法で試験板を作製し、得られた試験板を、プラスチック製波板の庇の下に設置して1ヶ月間屋外曝露を行い、耐汚染性を確認した。評価は、汚染の程度が最も軽微であるものを「A」とする4段階(A>B>C>D)で行った。試験結果を表2に示す。
【0110】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物外壁面を構成する断熱構造体であって、壁面の屋内側から屋外側へ向かって、
基材層(A)、
セメント及び軽量骨材を必須成分とする軽量モルタルにより形成される無機質断熱層(B)、
ガラス転移温度が−60〜40℃である合成樹脂と、光安定剤及び/または紫外線吸収剤とが複合化された樹脂成分、並びに無機質粉粒体を含み、当該無機質粉粒体の顔料容積濃度が30〜80%である下塗材により形成される下塗材層(C)、
透明被膜が形成可能な樹脂成分100重量部に対し、粒状骨材を100〜2000重量部含む仕上塗材により形成される仕上材層(D)
を有することを特徴とする断熱構造体。
【請求項2】
前記仕上材層(D)が、
透明被膜が形成可能な樹脂成分100重量部に対し、粒状骨材を100〜2000重量部、平均厚みに対する平均粒子径の比(平均粒子径/平均厚み)が2/1以上である鱗片状粒子を3〜500重量部含む仕上塗材により形成される仕上材層(D)
であることを特徴とする請求項1記載の断熱構造体。

【公開番号】特開2010−216223(P2010−216223A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184991(P2009−184991)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(599071496)ベック株式会社 (98)
【Fターム(参考)】