説明

断続的に着色された糸を製造するシステムおよびその方法

染料の間隔のパターンが断続的で不規則である断続的に着色された糸、およびそれを製造するためのシステムおよび方法が記載されている。このような断続的に着色された糸は公知の断続的に着色された糸に比べ高い品質を示し、製造コストが低い。断続的な着色は糸がカタピラーの形をしている間に行われる。このような断続的に着色された糸からつくられた絨毯は公知の断続的に着色された糸からつくられた絨毯に比べ優れた美的感覚を示す。別法として、次に染色を行う前に、防染剤、無色の塩基性染料、または漂白剤を同じ断続的で不規則な間隔をもったパターンで断続的に着色された糸に被覆することができる。これによって得られる糸には鏡像に似た色の効果が与えられる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は2009年6月5日出願の米国暫定特許願第61/184434号に対する優先権を請求する。
【技術分野】
【0002】
本発明は織物産業に関し、特定的には絨毯および繊維布に使用される断続的に着色された糸に関する。断続的に着色された糸の製造法も記載されている。糸は、キャタピラーの形をしている間に断続的に着色され、これによって不規則で断続的な染料のパターンがえられる。
【背景技術】
【0003】
絨毯のような種々の製品に使用される糸は通常染色されている。このような製品を製造する際、或る場合には糸は断続的に着色された部分をもっていることが望ましい。
【0004】
断続的に着色した糸を製造する公知の方法では、染色されていない糸を編んで筒状にし、この筒状の編物の上に多数の染料を被覆し(例えばプリント法により)、水蒸気で処理して染料を硬化させ、洗滌して過剰の染料を除去し、管状の編物をほどいて断続的に着色された最終的な糸をつくる過程が含まれている。この方法は非常に労力と費用がかかる方法であり、そのため断続的に着色された糸が市場に出回ることが著しく制限されている。
【0005】
断続的に着色された糸を製造する幾分コストの低い他の方法は、染色されていない36〜48本の糸を縦糸として一緒に処理する連続過程を含んで成っている。多種類の染料を縦糸に噴射した後、水蒸気処理、洗滌および乾燥を行い、次いで巻取って36〜48本の個々の糸のパッケージをつくる。この方法は主として高度のインターレースをもちクリンプの少ない、嵩性をもった連続フィラメント(BCF)糸について行われる。この方法は、通常のレベルのクリンプおよびインターレースをもった大部分の正規のBCF糸に対してはうまくゆかない。何故ならこのような糸では、クリンプが存在するために隣り合った糸が互いにくっつく傾向をもっているから、巻取り工程の際頻繁に縺れ合いを起こす傾向があるからである。公知の噴射染色法に必要とされるこのような高度のインターレースをもちクリンプの低い糸からつくられた絨毯は低品質であると考えられ、高級な商品にはならない。
【0006】
背景となっている技術のかなり初期の例には、糸を圧縮するかまたはかたくクリンプし、緊密に閉じ込められた空間の中においてジェットまたはテープを介し染料を被覆する種々の装置が含まれている。特許文献1〜6に記載されているようなこれらの方法はいずれも共通した二つの欠点をもっている。これらの方法は操作速度が遅いために生産性が低く、また染料が被覆される拘束された空間の表面によって染料が過度に、また意図せずに糸の方へ移動させられるために、断続的な色の外観を正確に再現することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,135,039号明細書。
【特許文献2】米国特許第3,644,969号明細書。
【特許文献3】米国特許第3,751,778号明細書。
【特許文献4】米国特許第4,068,502号明細書。
【特許文献5】米国特許第4,177,037号明細書。
【特許文献6】米国特許第4,742,699号明細書。
【本発明の概要】
【0008】
色の選択および模様に関する消費者の要求は絶えず増加しているから、織物産業においてはコスト効率の良い断続的に着色された糸に対する要望がますます増大している。
【0009】
現在まで、断続的に着色された糸からつくられた絨毯および繊維布は品質が悪いかまたは価格が高く、そのため広く市場に出回るに至っていない。
【0010】
従って、背景となっている技術の工程に必要とされるほど多くの時間および/または経費をかけることなく、高いクリンプと中程度に低いインターレースをもった断続的に着色された糸を製造できることが望まれている。
【0011】
本発明の一態様においては、合成重合体を押出してフィラメントにし;該フィラメントを空気中で急冷し;該フィラメントを一緒にして糸をつくり;該糸を嵩性組織化加工(bulk texture)し;該糸をスクリーンまたは板に衝突させてカタピラー(caterpillar)の形にし;糸がカタピラーの形をしている間に染料を糸に被覆する過程を含んで成る染色された合成糸の製造法が提供される。染料はカタピラーの形をした糸が回転中のドラムまたは移動中のベルトの表面の上に載せられている間に被覆することができる。
【0012】
他の態様においては、フィラメントを押出し;フィラメントを一緒にして多フィラメント糸をつくり;糸を延伸し;糸を高温にし;高温において嵩性化ジェットから糸を排出させ;糸を衝突させて糸のカタピラーをつくり;該糸のカタピラーに染料を被覆し;染色されたカタピラーを冷却する過程を含んで成る糸を紡糸する方法が記載されている。染料はカタピラーの形の糸が嵩性化ドラムまたは移動中のベルトの表面の上に載せられている間に被覆することができる。
【0013】
さらに他の態様においては、高温および高速において糸を排出させるような形につくられた嵩性化ジェット(或いは別法として糸のプラグ(plug)を排出するような形につくられた嵩性化ジェット);外側の表面を有し、排出された糸を受け(或いは別法として糸のプラグを受け)不意に糸の進行を妨げて該外側の表面の上で糸が束になって糸のカタピラーが形成されるような形につくられた嵩性化装置;および該嵩性化装置の外側の表面に隣接して配置された噴射ノズルを具備している糸を紡糸するシステムが記載されている。嵩性化装置は回転ドラムまたは移動ベルトであることができる。さらに噴射ノズルは酸性染料、防染剤(stain resist),無色の塩基性染料または漂白剤を噴射することができる。
【0014】
さらに他の態様においては、或る一定の長さをもち、該長さに沿って配置された断続的に着色された区域を含んで成り、該着色された区域は、糸の嵩性化過程の際、糸がカタピラーの形に束ねられている間に糸に染料を被覆することによってつくられる断続的に着色された糸が記載されている。この断続的に着色された糸は絨毯を製造することができる。
【0015】
さらに他の態様においては、合成重合体を押出してフィラメントにし;該フィラメントを空気中で急冷し;該フィラメントを一緒にして糸をつくり;該糸を嵩性組織化加工し;該糸を衝突させてカタピラーの形にし;糸がカタピラーの形をしている間に防染剤、無色の塩基性染料、および漂白剤から成る群から選ばれる染料阻止剤(dye preventing agent)を被覆し;次いで随時糸を染色する過程を含んで成る鏡像をなすように染色された合成糸の製造法が記載されている。防染剤、無色の塩基性染料、および漂白剤から成る群から選ばれる染料阻止剤は、カタピラーの形をした糸が回転中のドラムまたは移動中のベルトの表面に載っている間に被覆することができる。さらに以後行われ
る染色は、糸がカタピラーの形をしている間において染料阻止剤を被覆した直後に行うか、或いは糸をカタピラーの形から引き延ばした後に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本明細書記載のシステムおよび方法は添付図面を参照することによりさらに良く理解することができる。添付図面の各機素は必ずしも正確な尺度の割合で示されているものではない。
【図1】回転ドラムを使用した断続的に糸を着色するシステムの一態様のブロック図。
【図2】断続的に着色された外観を有する糸をつくるために例示的な糸に染料を被覆するための図1のシステムのノズルの模式図。
【図3a−3c】本発明記載の方法の一態様を使用して染色した断続的に着色された糸の一態様の図式的表現。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述のように、特有の美的感覚をもつか、或いは間隔を置いて染色された従来法の糸と同様な美的感覚を有する断続的に着色された糸を、現在公知方法を使用した場合よりも短時間でおよび/または経済的に製造できることが望ましい。 本明細書においては、
迅速な且つ費用効果の良い方法で染色して、従来法の断続的に着色された糸に似てはいるが一般的にみて区別できる新規にして有用な美的感覚をもつ製品をつくることができるシステムおよび方法が記載されている。これらのシステムおよび方法を用いる場合、糸は製造中に、即ち糸の紡糸工程の一部として効果的に染色される。
【0018】
糸は、嵩性化工程を行った直後に染色することができる。一態様においては、合成糸を染色する方法は、糸を嵩性化ジェットから回転ドラムの上に排出させ、糸がドラムの表面上で束になり「カタピラー」の形をとるようにする過程を含んで成っている。次に糸がカタピラーの形をしている間に例えばドラムおよび空気ジェットに隣接した一つまたはそれ以上のノズルを用い、嵩性化した糸に染料を被覆することができる。染料を被覆する間糸は束ねられてカタピラーの形になっているから、糸が再び引き延ばされて真っすぐになると、糸は断続的に着色された区域をもつに至るであろう。そのパターンは一般に従来法の断続的に着色された糸に似ているが、糸の上の染料のパターン、およびこのような糸から後でつくられた絨毯および繊維布の中の染料のパターンは寸法が小さく且つその間隔が比較的不規則である点で区別することができる。別法として、嵩性化過程は糸を嵩性化ジェットから移動中のベルトの上に排出させ、糸がベルトの表面の上で束ねられて「カタピラー」の形をとるようにする過程を含んで成っている。嵩性化ドラムと共に使用した場合と同じ方法で染料を被覆することができる。さらに染料は連続的なまたは断続的な方法で被覆することができ、また所望の色のパターンに依存して多重噴射ノズルおよび着色剤を用いることができる。さらに回転ドラムまたは可動ベルトの内部を真空に引き、糸の中への染料の浸透および/または糸の冷却および乾燥を助けることができる。
【0019】
他の態様においては、鏡像をなすパターンをもった合成糸を染色する方法は、糸を嵩性化ジェットから回転ドラムの上に排出させ、ドラムの表面上で糸が束ねられて「カタピラー」の形をとるようにする過程を含んで成っている。次に糸がカタピラーの形をしている間に、例えばドラムおよび空気ジェットに隣接した一つまたはそれ以上のノズルを用い、防染剤、無色の塩基性染料、または漂白剤を嵩性化した糸に被覆することができる。糸は束ねられてカタピラーの形になっているから、このような被覆を行う間、糸は後で行われる染料の被覆に対して抵抗性をもった若干の区域をもち、同時にそうではない他の区域をもつであろう。後で行われる染料の被覆は、糸がカタピラーの形をしている間において防染剤/無色の塩基性染料を被覆した直後に行うことができるか、或いは糸をカタピラーの形から引き延ばして染色を行うことができる。その結果上記の断続的に着色された糸に類
似した鏡像のパターンの効果が得られる。別法として、嵩性化工程は嵩性化ジェットから移動中のベルトの上へ糸を排出させ、糸がベルトの表面上で束ねられ「カタピラー」の形をとるようにする過程を含んで成っている。嵩性化ドラムと共に使用した場合と同じ方法で防染剤、無色の塩基性の染料、または漂白剤を被覆することができる。さらに防染剤、無色の塩基性の染料、または漂白剤は連続的なまたは断続的な方法で被覆することができ、また所望の色のパターンに依存して多重噴射ノズルおよび着色剤を用いることができる。また回転ドラムまたは可動ベルトの内部を真空に引き、防染剤または無色の塩基性染料の糸の中への浸透および/または糸の冷却を助けることができる。
【0020】
さらに他の態様においては、糸を紡糸して断続的に着色するシステムおよび方法が記載されている。このようなシステム10は図1および2に例示されている。
【0021】
ここで重合体(例えばナイロン6,6またはナイロン6)または重合体の混合物を、例えば約245〜295℃の高温において紡糸口金12を通して押出し、連続フィラメント14をつくる。適当な流体に浸漬してフィラメント14を冷却する。フィラメント14を急冷塔(図示せず)に通し、この中で約5〜20℃の温度において加湿した空気のようなガスを約0.2〜0.8m/秒(m/s)の速度で半径方向または交叉方向に流すことができる。
【0022】
供給ロール18によりフィラメント14を引き出す。このロールは紡糸口金12に比べて著しく低い物理的な高さの位置に配置することができる。供給ロール18に到達する前に、例えば仕上げロール16を用いて潤滑仕上げ剤をフィラメントに被覆することができる。加熱して延伸を行うために、供給ロール18をフィラメントのガラス転移温度と約200℃との間の温度に加熱することができる。しかし別法として供給ロール18は室温であることができる。供給ロール18を加熱するか否かに拘わらず、比較的低速度で供給ロールを回転させる。例えば供給ロール18は、フィラメント14が約500〜1,500ヤード/分(ypm)で移動するような速度で回転させることができる。
【0023】
供給ロール18を離れた後(或る場合には供給ロールに到達する前に)、フィラメント14を一緒にして連続フィラメント糸20をつくる。容器の中に含まれる延伸ロール22および24によって糸20を延伸する。例えば延伸ロール22および24を約150〜220℃の温度に加熱し、糸を加熱して糸の嵩性化を行なう。延伸ロール22および24は供給ロール18の数倍(例えば2〜3倍)の速度で回転させることができる。例えば延伸ロール22および24は糸20が約800〜3,500ypmの速度で移動するように回転させることができる。
【0024】
延伸ロール22および24は糸20を例えば米国特許第3,525,134号明細書(該明細書の記載事項は引用により本明細書に包含される)記載のような嵩性化ジェット26へと移動させる。嵩性化ジェットにより高温の嵩性化用の流体、例えば空気または水蒸気を吹き込み、これを用いて糸20のフィラメント14を多数の方向へ向かって変形させる。例えば嵩性化用の流体は約180〜240℃の温度および約80〜140ポンド/平方インチ(psi)の圧力をもっている。嵩性化用の流体の高い圧力のために、糸20は高度にクリンプされた形で嵩性化ジェット26から排出され、隣接した嵩性化ドラム30の表面に衝突する。従って糸20はドラムの表面30に衝突し、これによって糸は折り畳まれ且つ圧縮され、嵩性化ジェット26によって賦与された糸のフィラメントのクリンプが保持され、嵩性化ドラム上において弛緩した形で糸を冷却することにより糸の組織および嵩性が保たれる。別法として、スタッファー・ジェット(stuffer jet)型の嵩性化ジェットを用い、スタッファー・ジェットの内部に糸のプラグをつくり、この糸のプラグを冷却用ドラムとの摩擦によるかまたはニップ・ロールのような他の手段によって冷却用ドラムの上を前進させ、回転する冷却用ドラムの上に糸のカタピラーをつくるこ
とができる。嵩性化用または冷却用のドラム28は比較的遅い速度(例えば15〜60回転/分(rpm))で回転しているから、糸20はドラムの表面30の上で束ねられた形を保持し、一般的に嵩性化ジェットの出口から延び出したカタピラーに似た形をしている。この理由のために、ドラム28の表面30上にある嵩性化した連続フィラメント(BCF)の糸32はしばしば「カタピラー」の形であると云われる。嵩性化ドラム28の表面30は穿孔することができ(例えばスクリーンまたは穿孔された板の形にする)、BCF糸32を冷却し新しくつくられた組織および嵩性の程度を固定するために空気をドラムの中に引き込みまた排気し得るようにすることができる。別法として嵩性化ドラム28の代わりに可動ベルトを用いることができる。
【0025】
本発明の断続的な着色法は、BCFの糸32に対し該糸が嵩性化ドラム28の表面30上でカタピラーの形をしている間に行うことができる。例えばBCF糸がなお高温(例えば約80〜200℃)にある間において、延伸し嵩性化した糸(即ち延伸ロール22および24の下手にあり且つ嵩性化ドラム28の上手にある糸)が嵩性化ドラムに衝突した直後に断続的な着色が行われる。この目的に対しては、連続的にまたは断続的に染料を噴射し得る一つまたはそれ以上の染料噴射ノズル34を、ドラムの表面30および嵩性化ジェット26の両方の近傍に配置する。BCF糸32は噴射ノズル34が染料を被覆する場所においてカタピラーの形をとっているから、糸は断続的に着色した区域を含んでいるであろう。
【0026】
図2に断続的に着色された区域を示す。図2はBCF糸のカタピラー36が嵩性化ドラム28(これは下向きの矢印の方向に回転している)の表面30の上に載っている際の模式的平面図である。カタピラー36は繰り返しパターンをなして(即ち束をなして)配置されているように描かれているが、このようなパターンは単に議論を簡単にする目的で示されたものである。大部分の場合、BCF糸32はドラムの表面30に衝突した後は不規則なパターンをもっているであろう。
【0027】
ここに与えられた例では、カタピラーの上に異なった色の染料を噴射する二つの染料ノズル34がカタピラー36の上方に配置されている。図2から分かるように、ノズル34によりカタピラー36の上に染料が噴射される際、染料が連続的に噴射される場合でも、染料はBCF糸32の長さ方向に関し不連続な分離した区域しか被覆せずまた浸透しない。その結果、BCF糸32はそれが嵩性化ドラム28から引き出され時には、その長さに沿って断続的に着色された区域をもっている。また染料は、所望の着色パターンに依存して、連続的なまたは断続的な方法で被覆することができる。
【0028】
カタピラー36に被覆する染料は、比較的迅速に固定する低pH染料(例えばpHが5より低い)であることができ、これには約3〜5のpHをもつ染料が含まれる。例示的な染料としては酸性染料、反応性染料、および含金属染料(pre−metalized dyes)が含まれる。染料溶液を約50〜100℃の範囲を含む約25〜100℃の範囲に加熱する。特に嵩性化ドラム28の速度が比較的遅い場合、染料の吸収および固定が容易になる。別法として上記のシステムにおける染料の代わりに防染剤または無色の塩基性染料を用いることができる。防染剤または無色の塩基性染料を用いる場合、これらの染料で処理された区域はその後で被覆されたいずれの染料も吸収しないから、鏡像をなした着色パターンを得ることができる。糸がカタピラーの形をしている間、または糸をカタピラーの状態から引き出した後に、上記の方法を用い糸に二次的な染料を被覆することができる。
【0029】
図1に戻ると、上記のようにして断続的に着色されたBCF糸40を、取り出しロール42を用いて嵩性化ドラム28から引き出す。例えば典型的には糸が約500〜3,000ypmで走行するような速度で取り出しロールを回転させるが、これよりも速い速度も
容易に使用することができる。断続的に着色されたBCF糸40は巻取り器44によりロールに巻取られる。巻取り器は取り出しロール42とほぼ同じ速度で回転させることができる。次いで行われる熱固定処理、例えばSuperba法により染料を完全に固定することができる。
【0030】
上記の説明から分かるように、断続的に着色された糸は紡糸工程中において糸を染色することによりつくることができる。このような染色は、カタピラーの上に染料を噴射すること以外、紡糸工程を変更せずに行うことができる。従って、糸を断続的に着色しない場合に用いられるのと同じ速度で紡糸を行うことができる。そのため断続的に着色された美的感覚を得るのに余分の時間を必要としない。さらに、染色工程を紡糸工程に組み込むことができるから、染色、水蒸気処理、濯ぎ、および乾燥のようなコストのかかるオフライン工程を必要とせず、従って製造コストを減少させることができる。
【0031】
上述の方法により、自然に生じる周期をもった連続的に着色された区域が得られるが、この周期は糸の長さ全体に亙って変化させることができる。染色された区域の長さは約0.1〜約3cmであるが、この範囲には約0.1〜約2cm、約0.1〜約1cm、約0.5〜約1cm、約0.5〜約2cm、約0.5〜約3cm、約1〜約2cm、および約1〜約3cmの範囲が含まれる。染色された区域の間隔(即ち染色されていない区域)は染色された区域と同じ長さであるか、それよりも大きいことができる。また糸の向きは従来公知の方法によっては再現できない自然にできる不規則性をもっている結果、染色間隔は不規則になる傾向がある。さらに染料は糸の全直径に亙って、或いは直径の一部分だけに浸透することができる。染料が浸透する糸の直径の割合は約10〜約90%、約30〜約90%、約50〜約90%、約70〜約90%、約10〜約50%、約30%〜約80%, および約30%〜約70%を含んでいることができる。染料が浸透する深さは変化し得るために、染色の深さおよび強さが変化するが、これは従来公知の方法を用いては再現できない。
【0032】
図3には上記の染色された区域の間隔および染料が消えている様子がはっきりと示されている。図3aは赤色および黒色の染料で染色した後の糸のカタピラーを示しているが、カタピラーの形をした状態から取り出す前の糸を示している。図3bは染色した後の糸のカタピラーの断面図を示す。図3cは厚紙の板の上に巻き付けた同じ糸を示す。この場合、色がついた区域の長さの変動、色がついた区域の間隔、および染料の浸透の変動(即ち色の消失)を容易に見ることができる。
【0033】
驚くべきことには、閉じ込められていない空間においてカタピラーの上に染料を直接注入し、カタピラーの面を通して真空をかけて引き出した場合、カタピラーを通り或いはその周囲を経てドラムの表面へ移動する染料の量は実質的にゼロである。その結果意図しない染料の移動が避けられ、染料を被覆する間隔は容易にコントロールされる。
【0034】
実施例
【実施例1】
【0035】
この実施例に使用した重合体は中程度の酸性をもつ染料で白色に染色し得るナイロン66重合体であり、1000g当たり42ミリ当量のアミン末端基をもち、粘度は67RVであり、0.15%のTiOを含んでいた。紡糸パックの前方の重合体の温度を286±1℃にコントロールし、紡糸処理量は毎時78ポンドであった。紡糸口金を通して重合体を押出し、100本のフィラメントから成る二つの部分に分割した。次に熔融した繊維を急冷塔の中で迅速に急冷した。この場合急冷区域を通し約10℃の冷却用の空気を300立法フィート/分(fpm)の速度でフィラメントに吹付け、次いで延伸およびクリンプを行うために潤滑剤を繊維に被覆した。一対の加熱した延伸ロール(195℃)を用い
、被覆された糸を約2,400ypmの速度(延伸比の2.2倍)で延伸した。次に糸を二重衝突型嵩性化ジェット(225℃、125psiの高温の空気)の中へと前進させた。嵩性化ジェットによりクリンプを行い、穿孔された孔をもつ回転ドラム(45rpm)の上に糸の束を配置して二つの動いているカタピラーをつくった。
【0036】
各カタピラーの上方には直径0.20mmの2個のノズルが装着されている。容積式ポンプを用いてノズルを通し液体の染料溶液を吸入し、動いているカタピラーの上に噴射した。カタピラーの上に添加する前に染料溶液を約90℃に加熱した。この実施例に対しては2種の染料溶液を用いた。第1の溶液は黒色であり、pH2の水の中に4%のLanacron Black N−BGL(Huntsman International,
LLC製)を混合してつくった。第2の溶液は赤錆び色であり、pHが2の水の中に8%のLanacron染料(95%のLanacron Yellow N−2GL KWLおよび5%のLanacron Red N−B KWL)を混合してつくった。カタピラーに噴射した染料溶液の量は固体の染料の重量に関し黒色染料0.25%、赤錆び色染料0.5%であった。
【0037】
カタピラーは幅が約1cm、高さが0.6cm であった。カタピラーのほんの一部分だけが染料溶液を受けるようになっている。色をつけた後、カタピラーを約400ミリ秒(ms)の間回転ドラムと共に前進させ、取出しロールにより2,200ypmで取出し、巻取り器の上に巻取って断続的に黒色および赤錆び色をもつ二つの1,200デニール、10デニール/フィラメント(dpf)のBCF糸をつくった。同じ色をもつ区域の間隔は約2〜10cm、各着色区域の長さは約0.15〜2cmであった。
【実施例2】
【0038】
この実施例は実施例1と同様であるが、カタピラーの上方に水蒸気室を装着した点が異なっていた。加圧した水蒸気(35psi、260℃)をカタピラーに吹付け、色の固定を改善した。水蒸気室の内部におけるBCF糸の滞在時間は約160msであった。
【実施例3】
【0039】
この実施例は実施例1と同様であるが、染料溶液の流量を半分に減少させた点、即ち糸の上における黒色染料溶液を0.13%、赤錆び色染料溶液を0.25%にした点が異なっていた。
【実施例4】
【0040】
(対照例)
この実施例は実施例1と同様であるが、カタピラーの上に染料溶液を全く噴射しなかった点が異なっていた。カタピラーは典型的な白色のナイロンBCF糸から成っていた。
【実施例5】
【0041】
実施例1の糸1本をVolkman撚糸機で6,500rpmにおいて実施例4の糸1本と組み合わせ、撚りが1インチ当り6.25個のケーブル用撚糸をつくり、次いでこれをSuperba熱固定機で130℃において熱固定した。
【実施例6】
【0042】
実施例2の糸1本をVolkman撚糸機で6,500rpmにおいて実施例4の糸1本と組み合わせ、撚りが1インチ当り6.25個のケーブル用撚糸をつくり、次いでこれをSuperba熱固定機で130℃において熱固定した。
【実施例7】
【0043】
実施例3の糸1本をVolkman撚糸機で6,500rpmにおいて実施例4の糸1
本と組み合わせ、撚りが1インチ当り6.25個のケーブル用撚糸をつくり、次いでこれをSuperba熱固定機で130℃において熱固定した。
【実施例8】
【0044】
実施例4の糸1本をVolkman撚糸機で6,500rpmにおいて実施例4の糸1本と組み合わせ、撚りが1インチ当り6.25個のケーブル用撚糸をつくり、次いでこれをSuperba熱固定機で130℃において熱固定した。
【実施例9】
【0045】
実施例8の糸1本をVolkman撚糸機で実施例5の糸1本と組み合わせ、撚りが1インチ当り1.25個のケーブル用撚糸をつくった。
【実施例10】
【0046】
実施例8の糸1本をVolkman撚糸機で実施例6の糸1本と組み合わせ、撚りが1インチ当り1.25個のケーブル用撚糸をつくった。
【実施例11】
【0047】
実施例8の糸1本をVolkman撚糸機で実施例7の糸1本と組み合わせ、撚りが1インチ当り1.25個のケーブル用撚糸をつくった。
【実施例12】
【0048】
3/16ゲージのタフティングマシン(tufting machine)で実施例9、10および11の糸を用いてタフトを付け、パイルの高さが1.5インチ、坪量60オンス/平方ヤードのFriezeスタイルの絨毯をつくった。この絨毯は実施例9、10および11の糸から成る三つの等幅のバンドをもっていた。この絨毯を連続範囲染色機でウール・ベージュ色に染色した。この仕上げられた絨毯は断続的に黒色および赤錆び色に着色した区域を有する魅力的な美的感覚を有していた。
【実施例13】
【0049】
この実施例は実施例12と同様であるが、パイルの高さが1インチ、坪量が32オンスのFriezeスタイルの絨毯をつくった点が異なっていた。このものは魅力的な美的感覚および優れた価値をもっていた。
【0050】
以上、特定の具体化例と組み合わせて本発明を説明したが、当業界の専門家にとっては上記の説明を参照して多くの代替、修正および変更を行い得ることは明らかである。従って本発明は下記特許請求の範囲の精神および範囲内に入るこのようなすべての代替、修正および変形を包含するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色された合成糸を製造する方法であって、該方法は合成重合体を押出してフィラメントにし;該フィラメントを空気中で急冷し;該フィラメントを一緒にして糸をつくり;該糸の嵩性組織化加工を行い;該糸をスクリーンまたは板に衝突させてカタピラーの形にし;糸がカタピラーの形をしている間に該糸に染料を被覆する過程を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
染料を被覆する過程は該糸がカタピラーの形で回転ドラムの表面の上に載っている間に染料を被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
回転するドラムの内部に真空をかける過程をさらに含んで成ることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
糸に染料を被覆する過程は嵩性化ドラムの表面および嵩性化ジェットに隣接して配置された噴射ノズルを用いてカタピラーの形をした糸に染料を噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
カタピラーの形をした糸に染料を噴射する過程はカタピラーの上に染料を連続的に噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
カタピラーの形をした糸に染料を噴射する過程はカタピラーの上に染料を断続的に噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
カタピラーの形をした糸に染料を噴射する過程は多数の噴射ノズルを用い糸の上に多数の色の染料を噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項8】
染料を被覆する過程はpH約3〜約5の範囲で染料を糸に被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
染料を被覆する過程は1種またはそれ以上の酸性、反応性、または含金属染料を糸に被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
染料を被覆する過程は糸が移動中のベルトの表面にカタピラーの形をして載せられている間に染料を糸に被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
糸を紡糸する方法であって、該方法は
フィラメントを押出し;
該フィラメントを一緒にして多フィラメント糸をつくり;
該糸を延伸し;
該糸を高温にし;
高温において嵩性化ジェットから糸を排出させ;
糸を衝突させて糸のカタピラーをつくり;
該糸のカタピラーに染料を被覆し;
染色された糸のカタピラーを冷却する
過程を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項12】
糸のカタピラーが嵩性化ドラムの表面に載っている間に染料を被覆することを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
嵩性化ドラムの表面に載っている間に染色された糸のカタピラーを冷却することを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
糸のカタピラーに染料を被覆する過程は、糸のカタピラーが約80〜200℃の温度にある間にそれに染料を被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項15】
糸に染料を被覆する過程は嵩性化ドラムの表面および嵩性化ジェットに隣接して配置された噴射ノズルを用い、糸のカタピラーの上に染料を噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項16】
糸のカタピラーに染料を噴射する過程は、嵩性化ドラムの表面および嵩性化ジェットに隣接して配置された多数の噴射ノズルを用い、糸のカタピラーの上に多数の色の染料を噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項17】
糸のカタピラーに染料を噴射する過程は、糸のカタピラーに連続的に染料を噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項18】
糸のカタピラーに染料を噴射する過程は、糸のカタピラーに断続的に染料を噴射する過程を含んで成ることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項19】
糸のカタピラーに染料を被覆する過程は、pH約3〜約5の範囲で染料を糸に被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項20】
糸のカタピラーに染料を被覆する過程は、1種またはそれ以上の酸性、反応性、または含金属染料を糸に被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項21】
糸のカタピラーが移動中のベルトの表面に載せられている間に染料を被覆することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項22】
糸を紡糸するシステムであって、該システムは
高温および高速において糸を排出するようにつくられた嵩性化ジェット;
外側の表面をもち、排出された糸を受け取って突然その進行を阻害しその結果該外側の表面の上で糸が束になって糸のカタピラーを生じるようにつくられた嵩性化装置;および
該嵩性化装置の外側の表面に隣接して配置された噴射ノズル
を具備していることを特徴とするシステム。
【請求項23】
糸を紡糸するシステムであって、該システムは
糸のプラグを生じるような形につくられた嵩性化ジェット;
外側の表面をもち、糸のプラグを受け取って該外側の表面の上に載せられた糸のカタピラーをつくるような形につくられた嵩性化装置;および
該嵩性化装置の外側の表面に隣接して配置された噴射ノズル
を具備していることを特徴とするシステム。
【請求項24】
該嵩性化装置は嵩性化ドラムであることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項25】
嵩性化ジェットは約180〜240℃の温度で流体を排出することを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項26】
嵩性化ドラムの外側の表面は穿孔されており、カタピラーを通してドラムの中へと冷却用の空気を引き込むことができることを特徴とする請求項24記載のシステム。
【請求項27】
嵩性化ジェットに隣接してさらに噴射ノズルが配置されていることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項28】
該システムは嵩性化装置の外側の表面に隣接して配置された多数の噴射ノズルを含んでいることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項29】
糸が嵩性化ジェットに入る前に該糸の温度を上昇させる加熱された延伸ロールを具備していることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項30】
該嵩性化装置は移動ベルトであることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項31】
噴射ノズルは糸のカタピラーの上に染料を噴射するような形につくられていることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項32】
噴射ノズルは防染剤、無色の塩基性染料、および漂白剤から成る群から選ばれる染料阻止剤を糸のカタピラーの上に噴射するような形につくられていることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項33】
或る一定の長さをもち;
該長さに沿って配置された断続的に且つ不規則に着色された区域を含んで成り、該断続的且つ不規則に着色された区域は糸を嵩性化する過程において糸がカタピラーの形に束ねられている間に該糸に染料を被覆することによりつくられることを特徴とする断続的に着色された糸。
【請求項34】
該断続的に且つ不規則に着色された区域は、カタピラーが載せられている嵩性化ドラムに隣接して配置された噴射ノズルを用いカタピラーの上に染料を噴射することによりつくられることを特徴とする請求項33記載の糸。
【請求項35】
カタピラーに水蒸気をかけて色の固定を改善する過程をさらに含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項36】
カタピラーに水蒸気をかけて色の固定を改善するような形につくられた嵩性化装置に隣接した水蒸気室をさらに具備していることを特徴とする請求項22または23記載のシステム。
【請求項37】
請求項33〜34の一つに記載された糸を含んで成ることを特徴とする絨毯。
【請求項38】
鏡像をつくるように染色された合成糸の製造法であって、該方法は合成重合体を押出してフィラメントにし;該フィラメントを空気中で急冷し;該フィラメントを一緒にして糸をつくり;該糸を嵩性組織化加工し;該糸を衝突させてカタピラーの形にし;糸がカタピラーの形をしている間に防染剤、無色の塩基性染料、および漂白剤から成る群から選ばれる染料阻止剤を被覆し;次いで随時該糸を染色する過程を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項39】
染料阻止剤を被覆する過程は、糸がカタピラーの形をして回転中のドラムの表面上に載っている間に該糸に該染料阻止剤を被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項3
8記載の方法。
【請求項40】
染料阻止剤を被覆する過程は、糸がカタピラーの形をして移動中のベルトの表面上に載っている間に該糸に該染料阻止剤を被覆する過程を含んで成ることを特徴とする請求項38記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate


【公表番号】特表2012−528958(P2012−528958A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514186(P2012−514186)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/037461
【国際公開番号】WO2010/141856
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(309028329)インビスタ テクノロジーズ エス エイ アール エル (80)
【Fターム(参考)】