説明

断面観察方法

【課題】フィルムや紙等の基材上に形成されている有機物からなる有機膜の断面状態を走査電子顕微鏡により明瞭に観察できるようにし、有機膜の膜厚や形状等の情報が正確に得られるようにしたことを特徴とする、走査電子顕微鏡を用いた有機膜の断面観察方法の提供を目的とする。
【解決手段】最表面に位置する有機物からなる有機膜の断面状態を観察する方法であって、有機膜表面に有機膜を構成する有機物よりも電子線照射時に電子線の放出量が多い金属からなる金属膜を形成してから樹脂により包埋し、しかる後に断面出しを行い、その断面を走査電子顕微鏡で観察することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡を用いた試料断面の観察方法に係り、フィルムや紙等の基材上に形成されている有機物からなる有機膜の断面状態を正確に観察するための断面観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に形成されている有機膜の断面状態の走査電子顕微鏡による観察は、最表面に有機膜が位置する被観察対象全体を包埋樹脂で包埋してから断面切削装置を用いて断面出しを行ってから行っている。しかし、このような断面観察方法では、有機膜と包埋に使用している樹脂の電子線放出量がほぼ同じであって、走査電子顕微鏡による観察では有機膜と包埋樹脂の境界が不明瞭となり、有機膜の膜厚の測定や形状の確認等が困難となっている。
【0003】
そこで、特許文献1では、薄膜表面に薄膜の構成材料よりも電子線放出量の少ない金属または金属酸化物で薄膜を形成した後、それらの断面部分を走査電子顕微鏡で観察することにより、上述のような問題点を解消し、薄膜の断面構造を鮮明に観察できるようにしている。しかし、このような方法を有機物からなる有機膜の断面部分の観察に応用した場合、すなわち、有機膜表面に電子線放出量の少ない金属または金属酸化物からなる薄膜を形成してから走査電子顕微鏡により有機膜の状態を観察すると、金属膜または金属酸化膜と有機膜との境界が不鮮明になり、薄膜の断面状態を正確に観察することができなくなり、有機膜の膜厚や粒子形状などを確認できなくなってしまう。
【特許文献1】特開平5−3012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、フィルムや紙等の基材上に形成されている有機物からなる有機膜の断面状態を走査電子顕微鏡により明瞭に観察できるようにし、有機膜の膜厚や形状等の情報が正確に得られるようにしたことを特徴とする、走査電子顕微鏡を用いた有機膜の断面観察方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上のような課題を解決するためになされ、請求項1に記載の発明は、最表面に位置する有機物からなる有機膜の断面状態を観察する方法であって、有機膜表面に有機膜を構成する有機物よりも電子線照射時に電子線の放出量が多い金属からなる金属膜を形成してから樹脂により包埋し、しかる後に断面出しを行い、その断面を走査電子顕微鏡で観察することを特徴とする断面観察方法である。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の断面観察方法において、前記金属膜の厚さが1〜15nmの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィルムや紙等の基材上に形成されている有機膜の断面部分の走査電子顕微鏡による断面観察像が明瞭に観察できるようになるため、その像に基づいて有機膜の膜厚や形状等を正確かつ迅速に読み取ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の断面観察方法を、図1を参照して説明する。
【0009】
図1は本発明の断面観察方法の概略を示す説明図である。図1の(A)には、断面状態を観察しようとする観察対象の断面構成が示してある。この観察対象は、断面状態を観察しようとする有機物からなる有機膜2がフィルムや紙等からなる基材1の上に形成されてなるものである。この最上層に位置する有機膜2はアクリル、ポリエステル、ウレタン、メラミン等の有機物からなる薄膜である。
【0010】
このような構成の観察対象の有機膜2の断面状態を走査電子顕微鏡により観察するに当たっては、まず、図1の(B)に示すように、有機物からなる有機膜2の上に、有機膜2を構成する有機物よりも電子線照射時における電子線の放出量が多い金属により金属膜3を形成する。そして、包埋樹脂4により包埋処理を行い、しかる後に断面切削装置等により断面出しを行い(図1(C)参照)、走査電子顕微鏡でその断面を観察する。
【0011】
走査電子顕微鏡は、観察対象に電子線を照射した時に観察対象から発生する二次電子や反射電子を検出して観察部分を画像化できるようにした装置であり、得られた画像から凹凸情報や組成情報等が得られる。この際、画像からの諸情報の抽出に当たっては観察対象となる有機膜とそれに隣接する部分における組成情報の違いが観察精度に大きく影響してくる。例えば、有機物からなる有機膜が設けられている観察対象を樹脂で包埋し、しかる後に断面だしを行い、それによって得られた断面を観察するような場合には、有機膜の有機物も包埋に用いる包埋樹脂も炭素が主成分であるため、それらの組成情報には大きな差はなく、それらの断面観察像はコントラストが同様となり、有機膜と包埋樹脂の境界が不明瞭となり、両者の区別がし難くなってしまう。
【0012】
そこで、本発明においては、有機膜2の表面には有機膜2を構成する有機物よりも電子線の放出量が多い金属により金属膜3を設けることにより、これを挟む有機膜2と包埋樹脂4との境界が明瞭に観察できるようにし、その観察画像を基に有機膜2の膜厚や形状等を正確に得られるようにした。
【0013】
この時、金属膜3を1〜15nmの範囲程度の薄膜とし、有機膜2の膜厚と較べて薄くなるように設定しておくと、金属膜3は走査電子顕微鏡では線状の薄い層として認識され、それに隣接する幅広の有機膜2との違いが明瞭となり、延いては有機膜2の断面部分における膜厚や形状が正確に観察されるようになる。金属膜3の膜厚は、観察倍率が低い場合は厚くし、観察倍率が高い場合には薄くすることが好ましい。
【0014】
金属膜3を構成する金属としては、白金、金、白金パラジウム、金パラジウム等が挙げられる。また、金属膜3の形成方法としては、蒸着法やスパッタ法等の薄膜形成方法が挙げられる。金属膜3の構成材料や金属膜3の形成方法はこれらに限られるものではなく、他の汎用の金属材料や薄膜形成方法が採用できる。
【0015】
また、本発明において樹脂包埋に用いる包埋樹脂としては、エポキシ樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
【0016】
さらに、本発明における断面出しは、観察対象に樹脂による包埋処理を施した後、例えば、ミクロトームやウルトラミクロトーム等の断面切削装置を用い、滑走式あるいは回転式のいずれかの方式により行えばよい。
【0017】
以下、本発明の実施例を述べる。
【実施例1】
【0018】
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材上にアクリル樹脂からなる有機膜
が形成されている2個の積層体を用意し、一方の積層体の有機膜上には膜厚が10nmの白金の蒸着膜を形成し、他方の積層体の有機膜上には10nmの白金の蒸着膜を形成した。続いて、それぞれの観察対象に対してメタクリル酸樹脂からなる包埋樹脂による樹脂包埋を行ってから、断面切削装置を用いて断面出しを行った。そして、得られた断面部分を走査電子顕微鏡で観察した。
【0019】
図2には、膜厚10nmの白金の蒸着膜が形成されている観察対象を走査電子顕微鏡により2,000倍で観察した時の断面観察像が、図3には、膜厚2nmの白金の蒸着膜が形成されている観察対象を走査電子顕微鏡により20,000倍で観察した時の断面観察像がそれぞれ示してある。
【実施例2】
【0020】
本発明と従来法との違いを比較するため、実施例1で用いたPETからなる基材上にアクリル樹脂からなる有機膜が形成されている積層体に対し、実施例1と同様に、メタクリル酸樹脂からなる包埋樹脂による樹脂包埋を行ってから、断面切削装置を用いて断面出しを行った。そして、得られた断面部分を走査電子顕微鏡で観察した。図4には、走査電子顕微鏡により2,000倍で観察した時の断面観察像が、図5には、走査電子顕微鏡により20,000倍で観察した時の断面観察像がそれぞれ示してある。
【0021】
図2乃至図5に示す観察像からも明らかなように、本発明の断面観察方法によって得られる走査電子顕微鏡の断面観察像は、有機膜と包埋樹脂は、それらの間に薄い金属膜が介在しているため、それぞれが境界が明瞭となり、有機膜の膜厚や形状が正確に観察できた。一方、従来法では、有機膜と包埋樹脂との境界が不明瞭であり、有機膜の正確な膜厚や形状が分からなかった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の断面観察方法の概略を示す説明図である。
【図2】実施例1に係る観察対象の断面部分を走査電子顕微鏡で観察した時の断面観察像(2,000倍)を示す説明図である。
【図3】実施例1に係る他の観察対象の断面部分を走査電子顕微鏡で観察した時の断面観察像(20,000倍)を示す説明図である。
【図4】基材上の有機膜を従来の断面観察方法で走査電子顕微鏡により観察した時の断面観察像(2,000倍)を示す説明図である。
【図5】基材上の有機膜を従来の断面観察方法で走査電子顕微鏡により観察した時の断面観察像(20,000倍)を示す説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 基材
2 有機膜
3 金属膜
4 包埋樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面に位置する有機物からなる有機膜の断面状態を観察する方法であって、有機膜表面に有機膜を構成する有機物よりも電子線照射時に電子線の放出量が多い金属からなる金属膜を形成してから樹脂により包埋し、しかる後に断面出しを行い、その断面を走査電子顕微鏡で観察することを特徴とする断面観察方法。
【請求項2】
前記金属膜の厚さが1〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の断面観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−139058(P2008−139058A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323176(P2006−323176)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】