説明

新燃岳噴火降灰を使用した骨材とその製造方法並びにこれを用いた建築材

【課題】火山降灰の廃棄物処理上の問題を解決するばかりでなく、異なる炉内雰囲気で焼成することによって赤系と黒系の異なる発色顔料機能を有する焼成物を用いることで色彩豊富な煉瓦や瓦等の建材を得ることができる新燃岳噴火降灰を使用した焼成物とその製造方法を提供する。
【解決手段】新燃岳噴火降灰を異なる窯炉内雰囲気で焼成することによって赤色系と黒色系の色を発現させて建築骨材とする。また、新燃岳噴火降灰を骨材を兼ねた発色顔料として、山之口粘土と混合させ火山灰の組成を焼成雰囲気、酸化炎と還元炎によって赤色系と黒色系の概ね二色の色彩の異なる建築材、煉瓦、瓦、ブロック及びタイルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火山灰を原料とする煉瓦や瓦用の骨材に関し、特に南九州地方霧島山系火山である新燃岳からの噴火降灰を再利用する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火山の噴火により極めて大量に発生する火山灰は、資源活用や産業廃棄物としての処分も困難である。2011年1月から大規模に噴火し続けている霧島山系新燃岳からの降灰も、現状での有効な利用方法はない。本発明は、かかる憂慮する状況に対応するために提案されたものであり、路面等に堆積した新燃岳降灰を建築・土木資材として再利用することを主たる目的とする。路面に堆積した火山灰は交通の妨げになり、田畑に堆積した火山灰は路地農作物等に多大な被害を与えるとともに、人体にも悪影響を及ぼして環境破壊を引き起こし、大きな社会問題となっている。かかる状況下において、自治体が所有する廃棄物処分場の許容量や新たな最終処分場の建設は、地域への保障問題等を抱え、迅速には対応できないのが現状である。
【0003】
従来、建築資材等に火山灰を再利用する技術として、有珠山の火山灰とスラグ、砂利及びセメントを混合して形成したブロック(特許文献1及び特許文献2参照)。千歳、苫小牧方面で採取された火山灰と、粘土、頁(けつ)岩を原料とした軽量骨材、タイル、ブロック、レンガ等の窯業製品の製造方法(特許文献3参照。)。火山灰を原料成分とする焼成体(特許文献4参照。)。火山灰を原料成分とするいぶし瓦(特許文献5参照。)。火山礫や火山灰を陶磁器原料で固めて焼成したタイル(特許文献6参照。)。国内の火山帯に無尽蔵に堆積している活性の火山灰を利用した人造栗石や人造ブロック(特許文献7参照。)。雲仙普賢岳の火山灰を高温焼成した人工建材(特許文献8参照。)等が提案されている。
【0004】
また、例えば、SiO 、Al 、CaOなどを主成分とする人工ガラス原料を用いて高温焼成した結晶化ガラス質の人工建材が市販されている。この人工建材は天然大理石と異なり耐酸性(耐酸性雨)が良いため野外での使用が可能であり、耐酸性の点で安定な御影石と同じく、内、外塗料材として広く利用されている。この人工建材の特徴として顔料を選択することによって所望する色彩を得られる点がある。とくに、淡い色合いのものに対して適応性が大きい。ところが、色調を濃くしようとすると、顔料の添加割合を増加させる必要があり、例えば、御影石調のものを得ようとするとコストが嵩む。このような焼成後の色彩について言及したものとして、特許文献9に示すように、鉄、クロム、コバルト、ニッケル等の金属化合物が含有された粘土を還元焼成して黒色の窯業製品を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−201055号公報
【特許文献2】特開2002−242107号公報
【特許文献3】特公平3−4619号公報
【特許文献4】特公平2−1792号公報
【特許文献5】特開平11−130514号公報
【特許文献6】実開昭61−59646号公報
【特許文献7】特開平7−149551号公報
【特許文献8】特開平6−183818号公報
【特許文献9】特許第3554693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術文献は、火山灰を建築資材として、そのままの状態での骨材等として再利用することに留まり、火山灰自体の物性に由来する発色素材としての利用方法、それを用いて製造されたブロックや瓦における防水性や強度についてまでは言及されていない。本発明は上記従来技術の課題に鑑み、火山降灰の廃棄物処理上の問題を解決するばかりでなく、異なる炉内雰囲気で焼成することによって赤色系と黒色系の概ね二色の色彩の異なる発色顔料の機能を有する焼成物を得ることができ、これを用いることで色彩豊富な煉瓦や瓦あるいはブロック、タイル等の建築材を得ることができる新燃岳噴火降灰を使用した骨材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る骨材は、火山灰を異なる窯炉内雰囲気で焼成することによって赤色系と黒色系の色を発現させることを第1の特徴とする。また、火山灰を骨材を兼ねた発色顔料として、焼成炎を、酸化炎又は中性炎又は還元炎のいずれかの窯炉内雰囲気で焼成することによって色彩を異ならせて製造することを第2の特徴する。そして、得られた赤色系又は黒色系の色彩を有する骨材を、山之口粘土又はコンクリート又はアルミナセメントと水を混合して固化成形したことを第3の特徴とする。さらに、建築材、煉瓦、瓦、ブロック及びタイルは、火山灰の配合比率が5〜50重量%、山之口粘土又はコンクリート又はアルミナセメントの配合比率が5〜50重量%の材料を混練して成形されたことを第4の特徴とする。そして、骨材、建築材、煉瓦、瓦、ブロック及びタイルの製造に使用する火山灰が新燃岳からの噴出物であることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下記の優れた効果を有する。
(1)SiO、Alの含有率が高い新燃岳噴火降灰が素材の強度を高める骨材となり、1000℃以上の高温焼成によって堅牢さが増す。
(2)火山灰の組成から、炉の雰囲気(酸化炎、中性炎、還元炎)によって、色彩幅の広い豊富なバリエーションの焼成物を得られる。
(3)煉瓦、瓦、ブロック等の二次製品として有効利用することができるため、新たな市場開拓が可能であり、経済浮揚の効果が大きい。
(4)廃棄物としての火山灰を有効活用でき、資源リサイクルの一助となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】山之口粘土のX線回析データを示すグラフである。
【図2】新燃岳噴出物の全岩組成のSiOの変化を示すグラフである。
【図3】新燃岳噴出物の石基ガラスのSiOの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る新燃岳火山灰を用いた煉瓦とその製造方法を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0011】
本発明によって製造される煉瓦や瓦は、宮崎県都城市山之口町周辺地域から産出される粘土(以下、山之口粘土という)を主成分とし、新燃岳噴火降灰を45重量%程度混合させる。火山灰の組成はSiO、Alを主成分とするが、その中でもAlが多量に含まれる。したがって、1000℃以上の高温で焼くと堅牢な瓦や煉瓦が得られる。さらに含有率の高いFeO、MgOなどの金属酸化物が炉中の雰囲気に応じて様々な色に発色する。こうして製造された瓦(以下、宮崎瓦という)は、瓦が良く焼き締められ、防水性や強度に優れている。JIS規格では、瓦の防水性及び強度を示す尺度として、それぞれ「吸水率」及び「曲げ強度」が定められているが、宮崎瓦の吸水率と曲げ強度は、後記する表3及び表4に示すように、いずれもJIS基準をクリアしており、水分凍結による瓦の損傷が抑制され、耐寒性に優れた効果が生まれる。山之口粘土の化学組成を表1に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
ここで、本発明に用いる新燃岳噴出火山灰(以下、単に火山灰という)について説明する。この火山灰について化学分析、図1のグラフに示すX線回析結果から、粘土に類似した性質であることが判った。しかし、粒度については、粘土に比較して粗いことが判った。参考としては、化学分析結果を表2に示した。火山灰はSiO分が多く、酸性で強度も低いので、塩基度(CaO重量%/SiO重量%)の高いセメントと混合することにより、強度の高い材料とすることができる。
【0014】
以下、この発明の一実施例について説明する。但し、この実施例で使用した原料は、標準組成が後記表2のような新燃岳の火山灰で、粒径が0.5mm以下の粉状原料である。この原料を以下の方法で焼成した。すなわち、火山灰を再焼成してガラス化するものである。再焼成するに際しては、焼却火山灰、あるいはこれに火山性体積物を混合した混合物に、水と、山之口粘土又はコンクリート又はアルミナセメントからなる硬化材とを混合したスラリーを、例えば平板状に固化した成形し、その成形物を、1000℃前後、好ましくは1000℃以上の温度で焼成する。
【0015】
火山灰中の酸化第一鉄は、高温下で空気中の酸素と接触すると酸化されて酸化第二鉄になり赤色化する。また、窯炉内に酸化防止剤を注入しながら、炉内雰囲気中の酸素による酸化反応が起こらない温度域まで冷却すると、酸化第一鉄は酸化されず黒色となる。
【0016】
[新燃岳噴火のマグマ物質の岩石学的検討]
平成23年(2011)年1月26日の新燃岳の噴火で噴出したマグマ物質(軽石)には、数cm大の軽石、火山灰を構成する軽石粒子の両方で、色彩の多様性がある。白色軽石は、全岩組成、石基組成のいずれでも茶色、灰色軽石に比べてSiOに富む。この組成多様性は、温度の異なる少なくとも2種類のマグマの、おそらく噴火直前の混合でもたらされ、白色軽石が低温マグマそのものである可能性が高い。これら端成分マグマの貯蔵深度の特定が、地球物理学的に観測される圧力源の解釈に必要とされる。1月26日噴火の噴出物の全岩組成は、図2及び図3に示すように、過去の新燃岳噴出物の形成する組成範囲にあり、SiOに乏しいもの(茶色・灰色軽石)は、享保の噴火(1716年−1717年)と似た組成を持つ。
【0017】
[試料]
全岩化学組成分析には数cm大の軽石ブロックを、石基ガラスや斑晶鉱物組成の分析には、多数の粒子をマウントした研磨片の迅速な作成のため、火山灰中の軽石粒子を使用した。試料採取者は、試料1、2共に、平林順一東工大名誉教授。
(試料1:軽石ブロック)
採取日時:2011年1月27日(木曜日)朝
採取場所:都城市立 御池小学校
試料選別:採取された十数個の軽石から、色彩の多様性を網羅するように、4試料を選別した。
(試料2:火山灰)
採取日時:2011年1月27日(木曜日)夜
採取場所:都城インターチェンジから国道10号線を宮崎方面へ3km進んだ地点。
火山灰処理と試料選別:火山灰構成粒子の最大径は5mm。
この火山灰を純水にて超音波洗浄した後、上澄液を流し、残った粒子を篩いにかけ、1mm以上の部分から新鮮な軽石(マグマ物質)を選別。軽石には、白色、茶色、灰色の色彩の多様性があり、白色と茶色、灰色の混在した縞状軽石も認められる。
【0018】
[全岩組成分析結果]
表2に、各主要元素含有量の合計が100重量%になるよう再計算した値と、再計算前の分析値トータル(最下段)を合わせて示す。白い軽石のSiO含有量は、残りの軽石に比べて3重量%程度高い。
【0019】
【表2】

【0020】
[石基ガラス組成]
全岩組成の違いが、マグマのメルト部分組成の違いによるものか調べるため、メルト部分に相当する石基の分析を試みた。軽石の白色部では、単一粒子で色彩が均一か否か(縞状軽石)に関わらず、石基はガラスのみからなる。一方、灰色・茶色部では、石基に微細結晶(マイクロライト)も存在する。これはマイクロライトの分、メルトが結晶化したことを示す。図3のグラフに示すように、この結晶化の分にも関わらず、灰色・茶色部のメルトは、白色部よりも未分化で、SiOに乏しくMgOに富む。
【0021】
曲げ強度試験:(JIS A 5371;推奨仕様B−3)におけるインターロッキングブロックの曲げ強度は、区分3で3.0N/mm以上であり、区分5で5.0N/mm以上であった。よって、本実施例の新燃岳火山灰入り煉瓦は、区分5を十分満足するものであった。その結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
圧縮強度試験:(JIS R 1250)に規定される煉瓦の圧縮強度は、2種で15.0N/mm以上、3種で20.0N/mm以上、4種で30.0N/mm以上である。よって、今回試験を行った新燃岳火山灰入り煉瓦は、4種の品質を十分満足するものであると言える。その結果を表4に示す。
【0024】
【表4】

【0025】
尚、図3のグラフは、石基ガラスのSi変化図であり、単一プロットは1軽石粒子の平均。粒子毎に白色部では10ポイント、灰色・茶色部では5ポイントを分析。茶色部は母地部に比べてFe、Tiがやや多く、逆に白色部はFe、Tiがやや少ない組成となっている。
【0026】
SiO、Alの含有量が多い新燃岳噴火降灰が焼成物の強度を高める骨材となり、1000℃以上の高温焼成において堅牢さが増加する。これは曲げ強度試験JISA5371推奨仕様等の試験結果から十分証明された。色彩の特徴として組成からは、窯炉の雰囲気(酸化炎、中性炎、還元炎)によって、幅のある豊富なバリエーションを焼くことができる。すなわち、骨材となる火山灰による特徴は、強度と豊富な色彩が得られることである。
【0027】
尚、還元焼成時の温度域は、温度が高過ぎると、酸化第二鉄等の還元反応が過度に進行し、還元生成された酸化第一鉄が更に還元されてしまって濃く黒色化されず、温度が低すぎると、還元反応が進行不足で黒色に変化しないため、酸化第二鉄を酸化第一鉄に還元させるのに適した温度域を維持するように制御しなければならない。
【0028】
また、窯炉での煉瓦の焼成条件は、窯の操業方式、大きさ、焼成時間、使用燃料の種類、被焼成物の重量、その他諸条件により大きくことなるため、本発明を応用する際は、使用する窯、被焼成物の条件を考慮し、酸化焼成温度、還元時間、炭化水素ガス量、空気量、窒素ガス量を所望する製品の色彩に応じて調整する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火山灰を異なる窯炉内雰囲気で焼成することによって赤色系と黒色系の色を発現させることを特徴とする骨材。
【請求項2】
火山灰を骨材を兼ねた発色顔料として、焼成炎を、酸化炎又は中性炎又は還元炎のいずれかの窯炉内雰囲気で焼成することによって色彩を異ならせることを特徴する骨材の製造方法。
【請求項3】
請求項1で得られた赤色系又は黒色系の色彩を有する骨材を、山之口粘土又はコンクリート又はアルミナセメントと水を混合して固化成形したことを特徴とする建築材。
【請求項4】
火山灰の配合比率が5〜50重量%、山之口粘土又はコンクリート又はアルミナセメントの配合比率が5〜50重量%の材料を混練して成形されたことを特徴とする建築材、煉瓦、瓦、ブロック及びタイル。
【請求項5】
火山灰が新燃岳からの噴出物であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の骨材、建築材、煉瓦、瓦、ブロック及びタイル及びその製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−218990(P2012−218990A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87688(P2011−87688)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【特許番号】特許第5013232号(P5013232)
【特許公報発行日】平成24年8月29日(2012.8.29)
【出願人】(594166085)宮崎▲高▼砂工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】