説明

新規なキノンイミン硫化染料組成物、その製造、及びセルロース系材料を染色するためのその使用

【課題】 新規なロイコ硫化染料組成物、その製造、及びセルロース系材料を染色するためのその使用を提供する。
【解決手段】 50mA/cm〜500mA/cmの間の電流密度及び0.1m/s〜2m/sの範囲内、好ましくは0.1〜0.4m/sの範囲内の流速で、電気化学的に還元することより取得可能である、新規なロイコ硫化染料組成物、その製造、及びセルロース系材料を染色するためのその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノンイミン硫化染料類の新規なロイコ硫化染料組成物に関し、さらには利用する電気化学的処理条件を制御下で変化させる電気化学的還元によるその製造に関する。
【背景技術】
【0002】
キノンイミン硫化染料には、水性又はアルコール性の媒体中でポリニトロ化フェノール類、ハロベンゼン類、インドフェノール類、又はインドアニリン類を硫黄、アルカリ金属硫化物、又はアルカリ金属多硫化物と反応させるなどにより形成される一群の染料が包含される。特に、菫色、青色、緑色、赤褐色、及び黒色の硫化染料は、この一群の染料に包含される。得られるオリゴマー生成物又はポリマー生成物は、ジスルフィド架橋を介して連結一体化された有機構造反復要素(例えば、フェノチアゾン、チアゾン、チアントレン、及びフェノキサゾンを部分構造とする)を含有する。非特許文献1には、これらの構造が記載されている。
【0003】
これらの硫化染料で染色するために、それらは種々の還元方法により即染色可能なロイコ形に変換される。その際、一方ではキノンイミン官能基が還元を受け、他方ではジスルフィド架橋が還元的開裂を受ける。得られるロイコ化合物は、一般的には低モル質量を有し、広範にわたる分子種を含む。それらは水性アルカリ性媒体に可溶であり、セルロース系材料を染色するために使用することができる。
【0004】
空気中の酸素、過酸化物、又は臭素酸塩のような好適な酸化剤の存在下で、染料は、以下に示される式〔式中、Rは、フェノチアゾン、チアゾン、チアントレン、又はフェノキサゾンを部分構造とするような有機反復構造要素を表す〕に従って、多かれ少なかれ、完全酸化を受けて元に戻る。
【化1】

【0005】
有機又は無機の還元剤を添加することにより実際の染色操作の過程で即染色可能なロイコ形に単に変換すればよい完全酸化型硫化染料だけでなく、カッスルホン(Cassulfon)(登録商標)カーボンCMR(Carbon CMR)のように多かれ少なかれ即染色可能な前還元型ロイコ硫化染料銘柄もまた市販されている。これらは、好ましくは、アルカリ性媒体中で水硫化ソーダ又はグルコースのような無機又は有機の還元剤を添加することにより工業的に大規模に製造される。
【0006】
これらの既存の方法は、使用する還元剤に起因した非常に高濃度の廃棄物及び塩負荷が存在して染色工場の廃水の高いCOD負荷及びTOC負荷を招くという欠点を有する。これらの副生物は、かなりの技術的取組みを行って膜技術などのコストのかかる面倒な対策を施すことにより廃水処理段階の上流で除去できるにすぎない。
【0007】
他の環境にやさしい還元方法は、例えば特許文献1及び特許文献2から公知である。特許文献1では、5mA/cm〜50mA/cmの電流密度において水溶液中でカソード還元を行うことによる染料還元が推奨されている。しかしながら、この方法は、染色溶液中で典型的にはさらなる安定化用還元剤と混合される市販の前還元型硫化染料の場合、還元時に激しく水素が発生するので利用できない。特許文献2には、0.5mA/cm〜5mA/cmの範囲内の電流密度で硫化染料を還元する方法が記載されている。
【0008】
【特許文献1】DE1906083
【特許文献2】EP10122210
【非特許文献1】応用化学(Angewandte Chemie)、第60巻(1948年)、p.141−147
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
この度、驚くべきことに、50mA/cm〜500mA/cmの間の電流密度を0.1m/s〜0.4m/sの範囲内の流速と併用することにより、有機又は無機の還元剤を用いる従来の還元では調製しえない新規なロイコ硫化染料組成物が取得可能になることを見いだした。
【0010】
従って、本発明は、50mA/cm〜500mA/cmの間、好ましくは50mA/cm〜150mA/cmの間の電流密度及び0.1m/s〜2m/sの範囲内、好ましくは0.1〜0.4m/sの範囲内の流速で電気化学的に還元することにより取得可能である新規なロイコ硫化染料組成物を提供する。
【0011】
本発明のロイコ硫化染料組成物を製造する方法は、新規であるとともに本発明要素の一部を形成する。これらの高電流密度における水素の発生を回避するために、電気化学的還元は、80g/lの濃度及び0.5mA/cmの初期電流密度で開始して500g/lの濃度まで及び500mA/cmの電流密度まで連続的に増大させる、かなり高い染料濃度の存在下で行われる。本発明の方法では、染料濃度を500g/lまで減少させることが可能である。
【0012】
本発明のロイコ硫化染料組成物は、アルカリ性媒体(好ましくはpH>9.5)中で製造される。アルカリ性媒体は、アルカリ金属塩のアルカリ性溶液、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は炭酸ナトリウムのアルカリ性溶液を導電性電解液として利用することが好ましい。希水酸化ナトリウム水溶液を利用することが特に好ましい。添加される導電性塩の濃度は、0.1mol/l〜5mol/lの間、好ましくは0.1mol/l〜1.5mol/lの間である。
【0013】
他の選択肢として、水素の発生は、一般式
R−S−SONa、
〔式中、Rは、フェノチアゾン、チアゾン、チアントレン、若しくはフェノキサゾンを部分構造とするような有機反復構造要素を表す〕
で示されるブンテ塩の触媒量添加により、又は亜二チオン酸ナトリウム、有機スルフィン酸、及び/若しくは有機糖質のような化学還元剤の触媒的添加により、防止することができる。使用量は、還元される硫化染料の反応開始使用量の5重量%まで可能である。この場合にも、ブンテ塩又は還元剤を添加した後、80g/lの濃度及び0.5mA/cmの初期電流密度で開始して、濃度を500g/lまで連続的に増大させる。
【0014】
本質的にすべての分割型フロースルーセルが、本発明のロイコ硫化染料組成物の製造に好適である。使用するカソードは、大型平板電極だけでなく三次元カソードであってもよい。
【0015】
本発明のロイコ硫化染料組成物は、好ましくは20〜135℃で、より好ましくは20〜95℃で製造される。
【0016】
所望により、リグニンスルホネートのような市販の湿潤剤の存在下で還元を行うこともできる。
【0017】
本発明の方法は、好ましくはC.I.ロイコサルファーブラック1又はC.I.バットブルー43の還元に利用される。原理的には、さまざまな硫化染料の混合物を本発明の方法により還元することもできる。
【0018】
C.I.ロイコサルファーブラック1を本発明により還元する場合に記録される還元当量濃度は、1kgの乾燥固体染料を基準にして150Ah/kg〜534Ah/kgの間である。
【0019】
C.I.バットブルー43を本発明により還元する場合に記録される還元当量濃度は、1kgの乾燥固体染料を基準にして75Ah/kg〜225Ah/kgの間である。
【0020】
それぞれのロイコ硫化染料混合物の組成は、文献DE10120821などに記載されているような一般的なHPLC法及び材料を用いて測定される。
【0021】
表1は、さまざまな電流密度で電気化学的に還元されたサンプル1〜4と比較して硫化物還元されたC.I.サルファーブラック1のHPLCスペクトルの結果を示している。サンプル1及び4は、本発明の方法により還元されたものであり、サンプル2は、文献DE1906083に記載されているように還元されたものであり、サンプル3は、EP10122210に記載されているように還元されたものである。
【0022】
【表1】

【0023】
驚くべきことに、高電流密度>50mA/cmと電極への最適染料輸送を可能にする高流速とを併用すると、C.I.サルファーブラック1は、より狭い種分布つまりより狭い分子分布をもつようになる。
【0024】
表2は、さまざまな電流密度で電気化学的に還元されたサンプル6及び7と比較して硫化物還元されたC.I.バットブルー43のHPLCスペクトルの結果を示している。サンプル6は、本発明の方法により還元されたものであり、サンプル7は、文献EP10122210に記載されているように還元されたものである。
【0025】
【表2】

【0026】
本発明のロイコ硫化染料溶液は、大過剰の水硫化物(NaHS)を利用する典型的な染色方法だけでなく、公開公報DE10234825A1に記載されているような保護ガス下における最適化染色方法又は電気化学的方法によっても、繊維に適用することができる。還元条件は、染色液に導入される大気中の酸素を相殺する目的に適うだけでよい。これにより、塩、COD、及びTOCの少ない廃水を得ることが可能になる。従って、本発明のロイコ硫化染料組成物を用いれば、相当な生態上の及び経済的な利益が得られる。
【0027】
他の選択肢として、本発明の電気化学的還元による染料組成物の製造を染浴中で直接行うことも可能である。
【0028】
陽イオン交換膜で分割されており、ステンレス鋼カソードとアノードとしてのステンレス鋼混合酸化物被覆チタン電極とを含むセル中などにおける電解は、導電性電解質の存在下で、50mA/cm〜500mA/cm、好ましくは50mA/cm〜150mA/cmの範囲内の電流密度及び0.1m/s〜2m/sの範囲内、好ましくは0.1〜0.4m/sの範囲内の流速で、行われる。この際、カソード液との交換により染浴が連続的に再生されるように、染浴を染色される材料に通して循環させ、カソードスペースを通過するブリードストリームとしてポンプ移送する。カソード液は、還元される硫化染料、例えばC.I.サルファーブラック1又はC.I.バットブルー43と、所望により湿潤剤と、導電性電解液(好ましくはアルカリ金属塩のアルカリ性溶液、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は炭酸ナトリウムのアルカリ性溶液、より好ましくは希水酸化ナトリウム水溶液)、及びさらに導電性塩と、を含有する。添加される導電性塩の濃度は、0.1mol/l〜5mol/lの間、好ましくは0.1mol/l〜1.5mol/lの間である。
【0029】
染色の準備の整ったセルロース系材料は、染浴中に入れる。
【0030】
染色手順は、複数の段階、すなわち、
還元及び加熱の段階、
染色及び冷却の段階、
硫化染料の酸化による染色の終了、すすぎ、及び乾燥の段階、
よりなる。
【0031】
本発明のロイコ硫化染料を用いて得られる染色物の色の評価を行うことにより、それらは、化学還元剤を用いて慣例的に製造されるロイコ硫化染料を用いた場合と比較して、繊維に対して親和性をもたない廃棄物の割合が際立って少ないことが注目すべき点であることがわかる。これは、電気化学的に製造されるロイコ硫化染料組成物では、色相のシフトが起こると同時に、より純粋な色相へ至らしめる。C.I.サルファーブラック1では、より青色、より赤色、より純粋な方向に色相の明瞭なシフトが起こることが観察された。必要な変更を加えて、これらの現象は、C.I.バットブルー43の電気化学的還元でも観察される。
【0032】
染色物は、DIN6174及びDIN5033に準拠した色座標測定により測色的に評価される。
【0033】
表3のL値からわかるように、本発明の方法に従って増大された電流密度で電気化学的還元を行うと、より少量の染料で同一の色強度が達成される。
【0034】
【表3】

【0035】
色濃度及び色相は、吸尽染色において染色物(10%硫化物染色)の色座標測定のために使用した染料濃度及び電流密度の関数として記述可能である。C.I.バットブルー43の場合にも、表4に示されるように、使用した電流密度の関数として色相の明瞭なシフトが得られる(電流密度が高い場合ほど赤みを帯びる)。
【0036】
【表4】

【0037】
色相面に加えて、同等の色強度を得るために必要な本発明の硫化染料は、化学的に作製されるロイコ硫化染料溶液よりも10%まで少ない硫化染料ペースト、つまり10%まで少ない原材料でよいことは特筆すべき点である。本発明の電気化学的に還元されたロイコキノンイミン硫化染料組成物は、固体材料として単離することにより、安定化させることができる。従って、本発明はまた、電気化学的に還元されたロイコキノンイミン硫化染料溶液をpH<9に低下させ、得られた沈殿を乾燥するか、又は該ロイコキノンイミン硫化染料溶液を乾燥させることによる、本発明の還元型キノンイミン硫化染料を固体形態で製造する方法を提供する。本発明に係る固体材料としての単離の一形態は、還元された溶液をpH<9に低下させることである。これは、還元された溶液に有機酸、鉱酸、及び二酸化炭素を添加することにより行うことができる。さらに、水を添加して、還元された硫化染料溶液をpH<9に調整することにより、染料を沈殿させることができる。次に、濾過及びそれに続く乾燥を行うと、本発明の生成物が得られる。この方法では、塩及び繊維親和性をもたない有機成分は溶液中に残存する。得られた濾液を酸化処理に付すことにより、COD負荷を著しく減少させることができる。こうして得られる乾燥硫化染料は、全質量を基準にして10重量%以下の残留塩含有率である。
【0038】
固体ロイコキノンイミン硫化染料を単離する第2の方法は、還元されたままの状態の溶液を完全に乾燥させることである。乾燥は、通常の乾燥システム及び装置(蒸発器など)を用いて、例えば、噴霧乾燥又は薄膜乾燥により行うことができる。そして乾燥させた生成物を所望の粒子サイズにさらに粉砕して、乾燥させた還元型アルカリ可溶性生成物をペレット、粉末、又は小片のような形態に変換することが可能である。好適な助剤を用いて混合により配合を行うことも可能である。凍結乾燥は他の実施可能な方法である。
【0039】
こうして得られた乾燥ロイコ硫化染料は、1kgの乾燥固体染料を基準にして、C.I.ロイコサルファーブラック1の場合は150Ah/kg〜534Ah/kgの間及びC.I.バットブルー43の場合は75Ah/kg〜225Ah/kgの間の還元当量濃度を有しうる。ロイコ硫化染料は、その水含有率が全生成物を基準にして5重量%以下、好ましくは2重量%以下のとき、乾燥生成物であるとみなされる。記載の方法は、実質的に硫化物を含まず且つ比較的低pH値で沈殿により単離したときには塩や繊維親和性をもたない有機成分を含まない非常に高濃度の安定化された(さらなる硫化物及び他の助剤を添加することなく)ロイコ硫化染料組成物の形態で本発明のロイコ硫化染料を得る非常に簡単な方法を提供する。依然として存在する含有物は、全生成物を基準にして1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下である。生成される染料は、大気による酸化に対して安定であることが注目すべき点である。
【0040】
本発明の生成物を単離するために使用されるロイコ硫化染料溶液は、使用する染料に関して20〜600g/lの範囲内の濃度を有しうる。本発明の生成物は、水に溶解させた後、適切であればアルカリと混合して、セルロース系材料又は皮革の染色に使用することができる。本発明の乾燥ロイコ硫化染料組成物は、溶解後、過剰の化学還元剤を用いて操作される典型的な染色方法だけでなく、公開公報DE10234825A1に記載されているような保護ガス下において最適化された染色方法又は電気化学的方法によっても、繊維に適用することができる。還元条件は、染色液に導入される大気中の酸素を相殺する目的に適うだけでよい。従って、本発明のロイコ硫化染料組成物を用いれば、相当な生態上の及び経済的な利益が得られる。生成物の色特性は、出願DE102004040601.4に記載されているサンプルの色特性に対応する。
【0041】
以下の実施例により本発明について具体的に説明する。
【実施例】
【0042】
製造例1(サンプル1)
陽イオン交換膜(ナフィオン424(Nafion 424))で分割されたフロースルーセルを用いて、製造されたままの状態のC.I.サルファーブラック1プレスケーキの水性サスペンションを電解する。最初に少量の染料を使用し、電解の過程で徐々に増量する。8mLの50%水酸化ナトリウム水溶液と4mlのプリマゾルNF(Primasol NF)湿潤剤とを含む2Lの水中において、乾燥換算156.9gのC.I.サルファーブラック1を用いて反応を開始して、5.815Lの全体積中において、乾燥換算で2271gの量のC.I.サルファーブラック1になるまで継続する。使用するアノード液は水酸化ナトリウム水溶液(1mol/l)である。電解は、100mA/cmの電流密度を0.2m/sの流速と併用して3510分間行う。電解後に確認可能な還元当量レベルは4.2であり、これは染料1kgあたり378Ahの電荷量に対応する。こうして製造された溶液は、還元剤のさらなる添加を行うことなく又は最小限の還元剤を添加して、染色目的に使用することができる。
【0043】
反応生成物のHPLCスペクトルを図1に再現する。
【0044】
製造例2(サンプル2)
陽イオン交換膜(ナフィオン424(Nafion 424))で分割されたフロースルーセルを用いて、DE1906083に記載されているように20mA/cmの電流密度でC.I.サルファーブラック1サスペンションを電解する。
【0045】
反応生成物のHPLCスペクトルを図2に再現する。
【0046】
製造例3(サンプル3)
陽イオン交換膜(ナフィオン424(Nafion 424))で分割されたフロースルーを用いて、EP10122210に記載されているように0.48mA/cmの電流密度でC.I.サルファーブラック1サスペンションを電解する。
【0047】
反応生成物のHPLCスペクトルを図3に再現する。
【0048】
製造例4(サンプル4)
陽イオン交換膜(ナフィオン(登録商標)424(Nafion(登録商標)424))で分割されたフロースルーセルを用いて、製造されたままの状態のC.I.サルファーブラック1プレスケーキの水性サスペンションを電解する。16mLの50%水酸化ナトリウム水溶液を含む4Lの水中において、乾燥換算で337gのC.I.サルファーブラック1を用いて反応を開始して、6.8Lの全体積中において、乾燥換算で1740gの量のC.I.サルファーブラック1になるまで乾燥換算126g〜253gずつのC.I.サルファーブラック1を添加しながら1320分間にわたり継続する。0.83mA/cmの電流密度で電解を開始し、0.2m/sの流速を用いて、ロイコ染料濃度を増大させながら100mA/cmまで継続する。
【0049】
電解後に確認可能な還元当量レベルは5.67であり、これは染料1kgあたり504Ahの電荷量に対応する。こうして得られた溶液は、製造例1で生成された染料溶液と同一の分子組成を有する。
【0050】
反応生成物のHPLCスペクトルを図4に再現する。
【0051】
次のようにして、反応生成物を固体材料として単離することができる。
【0052】
変形例1:
染料溶液を130℃に加熱し、乾燥残渣が存在するようになるまで130℃で12時間保持する。34gの乾燥黒色生成物を単離する。これは、水に容易に且つ完全に可溶であり、染色に使用することができる。
【0053】
変形例2:
pH<9になって、染料が完全に沈殿するまで、60℃で100gのロイコ染料溶液を二酸化炭素と混合する。沈澱した染料をアルゴン下で濾別して、減圧下、80℃で乾燥させる。22gの乾燥黒色生成物を単離する。これは、希水酸化ナトリウム水溶液に容易に且つ完全に可溶であり、染色に使用することができる。
【0054】
製造例5(サンプル5)
陽イオン交換膜(ナフィオン424(Nafion 424))で分割されたフロースルーセルを用いて、製造されたままの状態のC.I.バットブルー43プレスケーキの水性サスペンションを電解する。8mLの50%水酸化ナトリウム水溶液と4mLのプリマゾルNF(Primasol NF)湿潤剤とを含む3Lの水中において乾燥換算50.0gのC.I.バットブルー43を用いて反応を開始する。4.6Lの全体積中において乾燥換算400gのC.I.バットブルー43になるまで、この量を徐々に増加させる。使用するアノード液は水酸化ナトリウム水溶液(1mol/l)である。電解は、100mA/cmの電流密度を0.2m/sの流速と併用して650分間行う。電解後に確認可能な還元当量レベルは3であり、これは染料1kgあたり221.5Ahの電荷量に対応する。こうして製造された溶液は、還元剤のさらなる添加を行うことなく又は最小限の還元剤を添加して、染色目的に使用することができる。
【0055】
反応生成物のHPLCスペクトルを図6に再現する。
【0056】
固体材料としての単離:
pH<9になって染料が完全に沈殿するまで、60℃で100gの染料溶液を二酸化炭素と混合する。沈澱した染料をアルゴン下で濾別して、減圧下、80℃で乾燥させる。15gの乾燥濃青色生成物を単離する。これは、希水酸化ナトリウム水溶液に容易に且つ完全に可溶であり、染色に使用することができる。
【0057】
製造例6(サンプル6)
陽イオン交換膜(ナフィオン424(Nafion 424))で分割されたフロースルーセルを用いて、EP101222104に記載されているように10mA/cmの電流密度でC.I.バットブルー43サスペンションを電解する。
【0058】
反応生成物のHPLCスペクトルを図7に再現する。
【0059】
製造例7
330g/Lの染料濃度を有する100gのロイコサルファーブラック1溶液(DE102004040601.4出願の製造例4に従って調製した溶液)を130℃に加熱し、乾燥残渣が存在するようになるまで130℃で12時間保持する。34gの乾燥黒色生成物を単離する。これは、水に容易に且つ完全に可溶であり、染色に使用することができる。
【0060】
製造例8:
330g/Lの染料濃度を有する100gのロイコサルファーブラック1溶液(DE102004040601.4出願の製造例4に従って調製した溶液)を、pHが<9になって染料が完全に沈殿するまで60℃で二酸化炭素と混合する。沈澱した染料をアルゴン下で濾別して、減圧下、80℃で乾燥させる。22gの乾燥黒色生成物を単離する。これは、希水酸化ナトリウム水溶液に容易に且つ完全に可溶であり、染色に使用することができる。
【0061】
製造例9:
250g/Lの染料濃度を有する100gの還元型C.I.バットブルー43溶液(DE102004040601.4出願の製造例5に従って調製した溶液)を、pHが<9になって染料が完全に沈殿するまで60℃で二酸化炭素と混合する。沈澱した染料をアルゴン下で濾別して、減圧下、80℃で乾燥させる。15gの乾燥濃青色生成物を単離する。これは、希水酸化ナトリウム水溶液に容易に且つ完全に可溶であり、染色に使用することができる。
【0062】
染色
従来の吸尽法による染色
全液が100mlになるように、製造例1〜5に従って生成させたロイコ染料溶液をC.I.サルファーブラック1の場合には16%及びC.I.バットブルー43の場合には10%と、2g/lの陰イオン性湿潤剤と、2ml/lの38°Be苛性ソーダと、10ml/lの水硫化ソーダ(Sodium hydrogen Sulphide)と、5ml/lのスタビリサルS(Stabilisal S)液と、30g/lの硫酸ナトリウムと、約50mlの完全無イオン水と、を含む染色液を用いて、10:1の浴比で、50℃の初期温度から開始して、2°/分で95℃に加熱し、次に、95℃で45分間染色し、その後、3℃/分で60℃に冷却することにより、ループ形成編綿布などの綿布を吸尽法によりブリーチングする。後処理として、布を低温完全無イオン水で約5分間すすぎ、次に、再酸化する。この目的のために、染色布を10:1の浴比で、1%の過酸化水素及び2%の酢酸により、4.5のpHで、70℃で、15分間処理する。固体硫化染料への酸化は、他の選択肢として、60℃の空気を2時間吹き付けることにより行うこともできる。続いて、染色布を高温完全無イオン水で3〜5分間すすぎ、次に、低温完全無イオン水で5分間まですすぎ、圧搾脱水(スキージング)して脱水し、そして乾燥させる。
【0063】
電気化学的染色
2mの全表面積を有する3プライ円筒状ステンレス鋼カソードと、ステンレス鋼混合酸化物被覆チタン電極と、さらにはアノード液として0.1M NaOHと、33%の湿潤ペーストとして540gのC.I.サルファーブラック1、52mlの湿潤剤、210mlの50%水酸化ナトリウム水溶液、及びさらに1.56kgのNaClを含むカソード液と、を備える、陽イオン交換膜で分割された25mlの容量を有するセルを用いて電解を行う。ここで、上記電解は、初期段階が、25Aのセル電流、25Aで約8ボルトのセル電圧、125mA/cmの電流密度における還元を含む。この方法では、カソード液との交換により染浴が連続的に再生されるように、染色される材料(2700gの質量を有する染色可能な状態に前処理されたメートル番手69の綿糸パッケージ)を通して染浴を約35l/kgで循環させ、カソードスペースを通過するブリードストリームとしてポンプ移送する。
【0064】
染色手順は、以下の複数の段階よりなる。
1.還元及び加熱の段階:この段階では、染浴を必要な染色温度に設定すると同時に、染料還元に必要な電流密度を印加する。
2.染色及び冷却の段階:実際の染色方法は80℃で行われる。
3.終了段階:過酸化水素による酸化、すすぎ、及び乾燥。
このようにして得られる染色物は、27.11のL値、+0.66のs値、−1.95のb値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】製造例1の反応生成物のHPLCスペクトル。
【図2】製造例2の反応生成物のHPLCスペクトル。
【図3】製造例3の反応生成物のHPLCスペクトル。
【図4】製造例4の反応生成物のHPLCスペクトル。
【図5】硫化物還元されたC.I.サルファーブラック1のHPLCスペクトル。
【図6】製造例5の反応生成物のHPLCスペクトル。
【図7】製造例6の反応生成物のHPLCスペクトル。
【図8】硫化物還元されたC.I.バットブルー43のHPLCスペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50mA/cm〜500mA/cmの間の電流密度及び0.1m/s〜2m/sの範囲内、好ましくは0.1〜0.4m/sの範囲内の流速で、電気化学的に還元することにより取得可能である、ロイコ硫化染料組成物。
【請求項2】
50mA/cm〜150mA/cmの間の電流密度及び0.1〜0.4m/sの範囲内の流速で取得可能である、請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の異なるロイコ硫化染料組成物の混合物。
【請求項4】
20g/lの濃度及び0.5mA/cmの初期電流密度から開始して600g/lの濃度まで及び500mA/cmの電流密度まで連続的に増大させることを含む、請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物の製造方法。
【請求項5】
触媒量の一般式R−S−SONa〔式中、Rは、フェノチアゾン、チアゾン、チアントレン、若しくはフェノキサゾンを部分構造とするような有機反復構造要素を表す〕で示されるブンテ塩を添加することをさらに含むか、或いは亜二チオン酸ナトリウム又は有機スルフィン酸及び/若しくは有機糖質のような化学還元剤の触媒量添加による、請求項4に記載のロイコ硫化染料組成物の製造方法。
【請求項6】
大型平板電極又は三次元電極が分割電解セル中で利用される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ金属塩のアルカリ性溶液が導電性電解質として使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
電解が20〜135℃の範囲内の温度で行われる、請求項4に記載のロイコ硫化染料組成物の製造方法。
【請求項9】
電解が20〜95℃の範囲内の温度で行われる、請求項4に記載のロイコ硫化染料組成物の製造方法。
【請求項10】
C.I.サルファーブラック1を染料原材料として使用する場合、1kgの乾燥固体硫化染料を基準にして150Ah/kg〜534Ah/kgの間の還元当量濃度が存在する、請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物。
【請求項11】
電気化学的に還元されたロイコキノンイミン硫化染料溶液をpH<9に低下させるか及び/又はそれを乾燥させることにより本発明の還元型キノンイミン硫化染料をその固体形態で製造する方法。
【請求項12】
C.I.バットブルー43を染料原材料として使用する場合、1kgの乾燥固体硫化染料を基準にして75Ah/kg〜225Ah/kgの間の還元当量濃度が存在する、請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物。
【請求項13】
請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物を含む染料調製物。
【請求項14】
全生成物を基準にして水含有率が5重量%以下、好ましくは2重量%以下であるロイコ硫化染料組成物を含む固体染料調製物。
【請求項15】
請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物を利用することを含む、セルロース系材料の染色及び捺染方法。
【請求項16】
電気化学的還元を行って請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物を染浴中で直接製造することを含む、セルロース系材料の染色方法。
【請求項17】
セルロース系材料を染色及び捺染するための、請求項1に記載のロイコ硫化染料組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−57094(P2006−57094A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239055(P2005−239055)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(503249463)ダイスター・テクスティルファルベン・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・ドイッチュラント・コマンデイトゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】