説明

新規なヘパリン体とその利用法

本発明は、操作後に大きな生物活性を保持している固定化された生物活性体に関する。本発明には、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合したヘパリン体を備えていて、結合したそのヘパリン体がヘパリナーゼ感受性である医療用基板も含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌後に生物活性を維持している固定化された生物活性体を有する医療用基板に関する。本発明は特に、新規なヘパリン体とその利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
体内または体表にあって血管代替物、合成レンズと眼内レンズ、電極、カテーテルなどとして機能したり、手術や透析を補助するために身体に接続されることになる体外装置として機能したりする医療装置がよく知られている。しかし医療装置内で生体適合材料を使用すると、急速な血栓形成作用など、身体の応答に悪い刺激を与える可能性がある。さまざまな血漿タンパク質が、血小板とフィブリンを生体適合材料の表面に堆積させ始める役割を担っている。こうした作用が血管の狭窄につながって血流を妨げ、その後に起こる炎症反応が医療装置の機能低下をもたらす可能性がある。生体適合材料および/または被覆材料の表面に血栓が形成されるのを少なくするか抑制する生物活性体が、血液と接触する装置にとって特に興味深い。グリコサミノグリカンが一般に好ましい抗血栓剤であり、ヘパリン、ヘパリン類似体、ヘパリン誘導体が特に好ましい。
【0003】
生体適合材料へのグリコサミノグリカン(例えばヘパリン)の固定化が、生体適合性と血液適合性を改善するために広く研究されてきた。ヘパリン化された材料の血栓形成を減らす上で重要なメカニズムは、ヘパリンがアンチトロンビンIII(ATIII)によってセリンプロテアーゼ(血液凝固酵素)の不活化を促進する能力にあると考えられている。このプロセスでは、ATIIIがヘパリン中のよくわかっている五糖配列と複合体を形成してコンホメーションの変化を引き起こすため、ATIIIがセリンプロテアーゼ(例えばトロンビン)の活性部位と共有結合を形成する能力が増大する。すると形成されたセリンプロテアーゼ-ATIII複合体がヘパリンから解放されるため、ヘパリンが残されて触媒プロセスを通じた不活化がその後に起こる。
【0004】
生物活性な形態の生体適合材料の表面への生物活性体(例えばヘパリン)の固定化には、その生物活性体と生体適合材料のそれぞれの化学的性質の評価が関係する。医療装置の分野では、セラミック材料、および/またポリマー材料、および/また金属材料が一般的な生体適合材料である。これらの材料は、埋め込み可能な装置、診断装置、体外装置で使用できる。生体適合材料の表面に生物活性体を固定化するには、その生体適合材料の化学組成を改変せねばならないことがしばしばある。この改変は、通常、適切なプロトコルを利用して生体適合材料の表面を処理することで化学反応性のある部分または基の集団を生成させた後、生物活性体を固定化することによって実現される。別の生体適合材料では、反応性のある化学基が内部に組み込まれた材料を用いて生体適合材料の表面を覆うか被覆する。次に、被覆材料の反応性化学基を通じて生物活性体を生体適合材料の表面に固定化する。生体適合材料を覆うか被覆するためのさまざまなスキームが、これまでに報告されている。カバーまたは被覆を有する生体適合材料に固定化された生物活性体の代表例が、アメリカ合衆国特許第4,810,784号、第5,213,898号、第5,897,955号、第5,914,182号、第5,916,585号、第6,461,665号に記載されている。
【0005】
生物活性化合物、生物活性組成物、生物活性体が固定化されるとき、これら“生物製剤”の生物活性は、固定化プロセスによってマイナスの影響を受ける可能性がある。多くの生物製剤の生物活性は、固定化された状態の生物製剤のコンホメーションおよび構造(すなわち一次構造、二次構造、三次構造など)とは独立である。予定した機能を発揮させるために生物製剤に十分な生物活性を与えるようなコンホメーションと構造を持つ被覆材料の内部にその生物製剤を組み込むには、固定化プロセスを注意深く選択することに加え、その生物製剤を化学的に改変せねばならない可能性がある。
【0006】
最適な被覆と固定化のスキームにもかかわらず、固定化された生物製剤の生物活性が追加の処理(例えば殺菌)によって低下する可能性がある。埋め込み可能な医療装置では、使用前に殺菌が必要とされる。殺菌は、汚染物質に対する感受性を持つ試験管内診断装置でも必要とされる可能性がある。このような装置を殺菌するには装置を高温、高圧、高湿度に曝露せねばならないことがしばしばあり、それを数サイクル繰り返すことがしばしばある。いくつかの場合には、抗菌殺菌剤(例えばエチレンオキシド・ガス(EtO)または過酸化水素蒸気)が殺菌プロセスに含まれる。殺菌に加え、固定化された生物製剤の力学的な圧縮と伸張や長期にわたる保管によってその生物製剤の活性が低下する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
殺菌、および/または力学的な圧縮と伸張、および/または保管がなされる可能性があるが生物活性の有意な低下がない生物活性体を表面に固定化した医療装置が必要とされている。このような医療装置は、固定化された生物活性体とともに、殺菌中、および/または力学的な圧縮中と伸張中、および/または保管中のその生物活性体の生物活性の低下を最少にするのに役立つ生体適合性組成物または生体適合性化合物を備えることができよう。いくつかの場合には、追加の生体適合性組成物または生体適合性化合物が、殺菌手続き後のいくつかの生物活性体の生物活性を増大させることができよう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明には、基板の表面に固定化されたヘパリン体を備える医療用基板が含まれる。本発明のヘパリン体は、被覆された他の医療用基板と比べると、固定化、および/または殺菌、および/または力学的な圧縮と伸張、および/または保管の後に大きな生物活性を保持している。
【0009】
本発明の一実施態様には、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合したヘパリン体を備えていて、結合したそのヘパリン体がヘパリナーゼ感受性である医療用基板が含まれる。別の一実施態様では、基板の選択は、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、フルオロポリマー、ポリオレフィン、セラミック、生体適合性金属からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、基板は延伸ポリテトラフルオロエチレンである。別の一実施態様では、生体適合性金属はニッケル-チタン合金(例えばニチノール)である。別の一実施態様では、基板は医療装置の一部品である。別の一実施態様では、医療装置の選択は、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓ペースメーカー用リード線、バルーン、留置血管フィルタからなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ処理の後、ヘパリンまたはその断片が基板上で検出されない。
【0010】
本発明の別の一実施態様には、少なくとも1個のヘパリン分子と少なくとも1個のコア分子を含むヘパリン体であって、そのヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合しており、そのヘパリン体がヘパリナーゼ感受性であるヘパリン体が含まれる。一実施態様では、コア分子の選択は、タンパク質(ポリペプチドを含む)、炭水化物、アミノグリコシド、多糖、ポリマーからなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、ヘパリン体は少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子は端点付着を通じてその基板に付着している。別の一実施態様では、ヘパリン体は少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子はループ付着を通じてその基板に付着している。
【0011】
本発明の別の一実施態様には、コア分子と、そのコア分子に付着した少なくとも1つの多糖鎖と、その多糖鎖上の少なくとも1つの自由端アルデヒド部分とを含むATIII結合体が含まれる。一実施態様では、多糖鎖はヘパリンまたはヘパリン断片である。別の一実施態様では、コア分子の選択は、タンパク質(ポリペプチドを含む)、炭水化物、アミノグリコシド、多糖、ポリマーからなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、基板の選択は、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、フルオロポリマー、ポリオレフィン、セラミック、生体適合性金属からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、ATIII結合体は、端点付着またはループ付着を通じて基板の表面に結合する。別の一実施態様では、基板は医療装置の一部品である。
【0012】
本発明の別の一実施態様には、基板に結合したヘパリン体の構造を明らかにする方法であって、ヘパリン体を備える基板を用意するステップと、ヘパリン体を解重合して可溶性ヘパリン断片の混合物を生成させるステップと、カラム・クロマトグラフィを利用してその混合物中の各ヘパリン断片を検出するステップと、前のステップで検出された各ヘパリン断片を同定するステップと、検出されて同定されたヘパリン断片からヘパリン体の構造を求めるステップを含む方法が含まれる。一実施態様では、解重合はヘパリナーゼ解重合による。別の一実施態様では、カラム・クロマトグラフィは、強陰イオン交換高性能液体クロマトグラフィ(SAX-HPLC)である。
【0013】
本発明の別の一実施態様には、基板に結合したヘパリン体の構造を明らかにするシステムであって、解重合溶液と、標識試薬溶液と、検出器とを備えるシステムが含まれる。別の一実施態様では、解重合溶液はヘパリナーゼを含んでいる。別の一実施態様では、標識試薬溶液はトルイジンブルーとトリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウムを含んでいる。別の一実施態様では、検出器は、SAX-HPLCと、落射蛍光顕微鏡と、吸収分光器とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のいくつかのヘパリン体と、基板にそのヘパリン体が付着するタイプを示している。
【図2】延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の表面に共役したさまざまなアルデヒド含有ヘパリン体がEtOによる多数回の殺菌を経た後にATIIIに結合する能力を示している。アルデヒド含有ヘパリン体は、そのヘパリン体の合成に用いるコア分子に従って分類される。例えばコアとしての硫酸コリスチンは実施例1に、ネオマイシンは実施例2に、ポリ-L-リシンは実施例4に、カプレオマイシンは実施例3に、ポリエチレンイミン(PEI)は実施例5に、エチレンジアミン(EDA)は実施例6に関係する。どの棒も、全サンプルの平均値を表わし、エラー・バーは標準偏差である。
【図3A−B】自由端アルデヒドを含むヘパリン体を単端点付着法によってePTFE基板の表面に固定化したものをヘパリナーゼ-1で処理する前(図3A)とヘパリナーゼ-1で処理した後(図3B)にトルイジンブルーで染色した光学顕微鏡写真を示している。図3Aと比べて図3Bには色がない。これは、単一端点付着法によってePTFE基板の表面に固定化された自由端アルデヒドを含むヘパリン体が、ヘパリナーゼ-1で処理した後に表面から実質的に解重合されていることを示している。
【図3C】端点アルデヒドによって端点付着と多点付着を通じて固定化されたヘパリンと、少なくとも1個のヘパリン分子によって端点付着と多点付着を通じて固定化されたネオマイシン・コア含有ヘパリン体と、多点付着を通じて固定化されたUSPヘパリンについて、ヘパリナーゼ-1で処理する前とヘパリナーゼ-1で処理した後の輝度の変化を規格化して示している。ヘパリン端点アルデヒドと、ヘパリンとネオマイシン・コアを含んでいて端点アルデヒドを備えるヘパリン体と、USPヘパリンに関し、多数の点で基板に付着させた場合にはどれも規格化した輝度変化の値が小さいことは、表面がヘパリナーゼ-1感受性ではなくて表面上にまだヘパリンが実質的に残っていたことを示している。
【図4A−C】ヘパリンとEDAコアを含むヘパリン体を単一端点付着法によってePTFE基板の表面に固定化したものをヘパリナーゼ-1で処理する前(図4Aと図4B)とヘパリナーゼ-1で処理した後(図4C)にトルイジンブルーで染色した光学顕微鏡写真を示している。染色されたサンプルはヘパリン体の存在を示している。サンプル4Bと4Cに対しては1回殺菌を行なった後に脱イオン水だけで洗浄した。殺菌してヘパリナーゼ-1で処理した後に図4Cで着色されているのは、ヘパリナーゼ-1が表面上のヘパリン体を認識しなかったことを示している。
【図4D−E】ヘパリンとEDAコアを含むヘパリン体を単一端点付着法によってePTFE基板の表面に固定化したものをヘパリナーゼ-1で処理する前(図4D)とヘパリナーゼ-1で処理した後(図4E)にトルイジンブルーで染色した光学顕微鏡写真を示している。これらのサンプルに対しては1回殺菌を行なった後に脱イオン水とホウ酸で洗浄した。殺菌後に図4Eに色がないのは、ヘパリナーゼ-1が表面上のヘパリン体を確かに認識し、そのヘパリン体を解重合したことを示している。
【図5A】(A)USPヘパリンと、(B)ヘパリンと硫酸コリスチンで構成したヘパリン体と、(C)ヘパリンと硫酸ネオマイシンで構成したヘパリン体をヘパリナーゼ-1で解重合したSAX-HPLCクロマトグラムを示している。
【図5B】(A)USPヘパリンと、(B)ヘパリンと硫酸コリスチンで構成したヘパリン体と、(C)ヘパリンと硫酸ネオマイシンで構成したヘパリン体をヘパリナーゼ-1で解重合したSAX-HPLCクロマトグラムを示している。
【図5C】(A)USPヘパリンと、(B)ヘパリンと硫酸コリスチンで構成したヘパリン体と、(C)ヘパリンと硫酸ネオマイシンで構成したヘパリン体をヘパリナーゼ-1で解重合したSAX-HPLCクロマトグラムを示している。
【図6A】(a)自由端アルデヒドによって結合したUSPヘパリンと、(b)自由端アルデヒドによって結合したヘパリンと硫酸コリスチンから構成したヘパリン体が固定化されたePTFE表面をヘパリナーゼ-1で解重合したSAX-HPLCクロマトグラムを示している。
【図6B】(a)自由端アルデヒドによって結合したUSPヘパリンと、(b)自由端アルデヒドによって結合したヘパリンと硫酸コリスチンから構成したヘパリン体が固定化されたePTFE表面をヘパリナーゼ-1で解重合したSAX-HPLCクロマトグラムを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明には、基板の表面に固定化されたヘパリン体を備える医療用基板が含まれる。本発明のヘパリン体は、被覆された他の医療用基板と比べると、固定化と殺菌の後に大きな生物活性を保持している。
【0016】
この明細書では多くの用語を使用する。以下の定義を提示する。この明細書と添付の請求項では、特に断わらない限り、単数形の不定冠詞と定冠詞には複数形が含まれる。
【0017】
この明細書では、“ヘパリン体”という用語は、コア分子に共有結合したヘパリン分子を意味する。そのヘパリン分子は、端点付着(以下に記載。さらにアメリカ合衆国特許第4,613,665号にも要点が記載されている(その内容は参考としてこの明細書に事実上組み込まれている))または公知の他の方法(例えばG.T. Hermanson、『バイオコンジュゲート技術』、アカデミック出版社、1996年;H.G. Garg他、『ヘパリンと硫酸ヘパランの化学と生物学』、エルゼヴィア社、2005年を参照)によってコア分子に付着させることができる。
【0018】
この明細書では、“コア分子”という用語は、ヘパリンが付着する多機能分子を意味する。本発明の目的では、そのコア分子と基板は同じではないが、コア分子と基板は同じ材料から製造することができる。
【0019】
この明細書では、“実質的に純粋な”という用語は、対象とする化学種が存在する優勢な化学種であり(すなわちモル・ベースで組成物中に他の個々のどの化学種よりも豊富に含まれる)、好ましくは、実質的に精製された画分が、中に存在する全巨大分子種の(モル・ベースで)少なくとも約50%を対象とする化学種が占めている組成物であることを意味する。一般に、実質的に純粋な組成物では、その組成物中に存在する全巨大分子種の約80〜約90%を超える割合を対象とする化学種が占める。最も好ましいのは、対象とする化学種が実質的に一様になるまで精製されて(汚染化学種は通常の検出法では組成物中に検出できない)、組成物が実質的に単一の巨大分子種からなることである。
【0020】
この明細書では、“ヘパリナーゼ”という用語は、ヘパリンを解重合する(例えば消化する)あらゆる酵素反応を意味する。ヘパリナーゼの例として、ヘパリンを解重合できるヘパリナーゼ-1、ヘパリナーゼ-2、ヘパリナーゼ-3、エキソスルファターゼ、細菌の細胞外酵素、グリコシダーゼなどがある。
【0021】
この明細書では、“ヘパリナーゼ感受性”という用語は、ヘパリン体を含む基板をヘパリナーゼで処理した後にその基板をトルイジンブルーで染色すると、(本質的に図3Bと図4Eに示されているように)その基板が目視では染色されていないことを意味する。この用語は、わずかな量のトルイジンブルーしか残留ヘパリンまたはその断片と結合しないため、基板上のトルイジンブルー(または他の標識)の量を測定できる検出器(例えば分光測光器、輝度計、写真濃度計、液体シンチレーション・カウンタ、ガンマ・カウンタなど)からの読みが、ほぼバックグラウンド・レベルであるか、ヘパリン体なしの基板をトルイジンブルーで染色した場合と比べてバックグラウンド・レベルと有意差がないか、ヘパリン体を備える基板をヘパリナーゼ処理せずにトルイジンブルーで染色した場合と比べて検出器の感度よりも低いことも意味する。この用語は、ヘパリンまたはその断片と結合する標識が、ヘパリン体を備える基板をヘパリナーゼで処理した後に多くの量のヘパリンまたはその断片を検出しないことも意味する。
【0022】
この明細書では、“結合した”、“付着した”、“共役した”という用語とこれらから派生した表現は、ヘパリン体および/またはヘパリンに言及するとき、特に断わらない限り、共有結合していることを意味する。
【0023】
図1A〜図1Cを参照すると、本発明の一実施態様は、少なくとも1個のヘパリン分子104を通じて基板106の表面に結合したヘパリン体100を備えていて、結合したそのヘパリン体がヘパリナーゼ感受性である医療用基板を含んでいる。ヘパリン体の固定化または結合に適した基板材料として、ポリマーである例えばポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ(エーテルウレタン)、ポリ塩化ビニル、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン(アメリカ合衆国特許第4,187,390号に記載されているようなePTFE)などがある。一実施態様では、延伸または多孔性のポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)が基板である。
【0024】
別の基板として、疎水性基板である例えばポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ラバー、シリコーンラバー、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミノ酸、再生セルロース、タンパク質(例えば絹、羊毛、皮革)などがある。多孔性ポリテトラフルオロエチレン材料の製造法は、アメリカ合衆国特許第3,953,566号、第4,187,390号に記載されている(それぞれ、参考としてその内容はこの明細書に組み込まれている)。別の一実施態様では、生物活性反応を引き起こすことが知られている少なくとも1種類の化合物をePTFEに含浸させること、または充填すること、または吸収させること、または被覆することができる。生物活性反応を引き起こす化合物には、抗微生物剤(例えば抗菌剤、抗ウイルス剤)、抗炎症剤(例えばデキサメタゾン、プレドニゾン)、抗増殖剤(例えばタキソール、パクリタキセル、ドセタキセル)、抗凝固剤(例えばアブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィブラン)がある。一実施態様では、抗炎症剤はステロイドである。別の一実施態様では、ステロイドはデキサメタゾンである。基板を被覆する方法はよく知られている。別の一実施態様では、基板は、本発明のヘパリン体と、生物活性反応を引き起こす化合物を含むコーティングとを含んでいる。基板は、上記と下記の材料を含んでいる。一実施態様では、基板はePTFEである。
【0025】
別の適切な基板として、セルロース化合物、寒天、アルギン酸塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリアリルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸などがある。
【0026】
それに加え、ある種の金属とセラミックを本発明の基板として使用してもよい。適切な金属として、例えばチタン、ステンレス鋼、金、銀、ロジウム、亜鉛、白金、ルビジウム、銅などがある。適切な合金として、コバルト-クロム合金(L-605、MP35N、エルジロイなど)、ニッケル-クロム合金(ニチノールなど)、ニオブ合金(Nb-1%Zrなど)などがある。
【0027】
セラミック基板に適した材料として、シリコーン酸化物、アルミニウム酸化物、アルミナ、シリカ、ヒドロキシアパタイト、ガラス、カルシウム酸化物、ポリシラノール、リン酸化物などがある。別の一実施態様では、タンパク質(例えばコラーゲン)をベースとした基板を使用できる。別の一実施態様では、多糖(例えばセルロース)をベースとした基板を使用できる。
【0028】
いくつかの基板は、本発明のヘパリン体が結合できる表面の少なくとも一部に多数の反応性化学基を備えていてもよい。本発明のヘパリン体は、その反応性化学基を通じて基板材料に共有結合する。その基板の表面は、滑らかにすること、粗くすること、多孔性にすること、湾曲させること、平坦にすること、角を持たせること、不規則にすることや、これらの組み合わせにすることができる。いくつかの実施態様では、表面に孔のある基板は、その材料の多孔性表面からその材料の内部に延びる内部空間を有する。このような多孔性基板は、孔を互いに結合する内部基板材料を含んでいて、その材料が、生物活性体を固定化しやすい表面を提供することがしばしばある。多孔性であれ非多孔性であれ、基板は、フィラメント、フィルム、シート、チューブ、メッシュ、織布、不織布の形態や、これらを組み合わせた形態にできる。
【0029】
表面に反応性化学基がない(または適切な反応性化学基がない)基板は、表面に多数の反応性化学基を備えていてそこにヘパリン体が結合できるポリマー被覆材料で少なくとも一部を覆うことができる。ポリマー基板は、さまざまな方法(例えば加水分解、アミノ分解、光分解、エッチング、プラズマ改変、プラズマ重合、カルベン挿入、ニトレン挿入など)を利用し、その表面またはポリマー骨格に沿って改変することもできる。ヘパリン体は、被覆材料の反応性化学基を通じてポリマー被覆材料に共有結合するか、改変された基板に直接に共有結合する。ポリマー被覆材料は、基板の少なくとも一部の上に少なくとも1つの層を形成することができる。
【0030】
アメリカ合衆国特許第4,600,652号、第6,642,242号に記載されているように、他の多くの表面改変法がある。これらの方法は、亜硝酸または過ヨウ素酸塩を用いた酸化を通じてアルデヒド基を含むように改変したヘパリンを共有結合によって結合させることのできるポリウレタン尿素層を有する基板をベースとしている。同様の技術がアメリカ合衆国特許第5,032,666号に記載されており、ここでは基板表面が、アミンが豊富なフッ素化ポリウレタン尿素で覆われた後、抗血栓剤(例えばアルデヒドで活性化されたヘパリン)が固定化される。抗血栓表面への改変法として挙られる別の方法は、公開公報WO 87/07156に記載されている。装置の表面が、ヘパリンが接着するリゾチーム層またはその誘導体を有する被覆を通じて改変される。抗血栓製品を製造するためのさらに別の表面改変法は、アメリカ合衆国特許第4,326,532号に記載されている。この場合には、層状抗血栓表面は、ポリマー基板と、そのポリマー基板に結合したキトサンと、そのキトサン被覆に結合した抗血栓剤を備えている。ヘパリンを結合させるためのキトサン層をやはり用いた抗血栓性血液濾過器が報告されている。抗血栓表面を用意する別の方法がWO 97/07834に記載されている。ここでは、ヘパリンを十分な過ヨウ素酸塩と混合し、ヘパリン分子1個につき3個以上の糖単位が反応しないようにする。医療装置のアミノ基を含む表面改変基板にこの混合物を付加する。反応基を基板に付加するための上に列挙した方法は、いかにしてそれを実現できるかのほんのわずかな例である。上記のリストは決して完全なものではない。さらに、反応性化学基を基板に付加するのにどの方法を用いるかは、当業者が基板の特性をどのように認識するかに依存することは明らかである。
【0031】
本発明の別の一実施態様では、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて結合したヘパリン体を備える医療用基板は、医療装置の一部品である。医療装置には、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、ヘルニア用パッチ、ヘルニア用栓子、歯周グラフト、外科用ファブリック、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線、バルーン、留置フィルタなどが含まれる。一実施態様では、ステントは、心臓、末梢、神経の用途に使用することができる。別の一実施態様では、ステント-グラフトは、心臓、末梢、神経の用途に使用することができる。
【0032】
本発明の別の一実施態様には、少なくとも1個のヘパリン分子と少なくとも1個のコア分子を含むヘパリン体が含まれる。図1に示したように、コア分子102はヘパリン体100の“骨格”であり、その骨格にヘパリン分子104が結合する。コア分子102は、Freudenberg, U.、Biomaterials、第30巻、5049〜5060ページ、2009年とYamaguchi, N.、Biomacromolecules、第6巻、1921〜1930ページ、2005年に記載されているように、環形(102a、図1Aと図1C)、直線形(102b、図1B)、分岐形、樹枝形、“Y字”形、“T字”形、“星”形のいずれかが可能である。一実施態様では、コア分子の選択は、タンパク質(ポリペプチドを含む)、炭水化物、脂質、アミノグリコシド、多糖、ポリマーからなるグループの中からなされる。タンパク質として、抗体、酵素、受容体、増殖因子、ホルモン、セルピン、あらゆる血球タンパク質などがある。具体的なタンパク質およびポリペプチドとして、アルブミン、コリスチン、コラーゲン、ポリリシン、アンチトロンビンIII、フィブリン、フィブリノーゲン、トロンビン、ラミニン、ケラチンなどがある。別の一実施態様では、コア分子としてポリペプチドが可能である。そのポリペプチドは非常に長い必要はなく、アミノ酸の1回以上の繰り返しを含むことができる。例として、セリン残基、グリシン残基、リシン残基、オルニチン残基の繰り返しがある(例えばSer-Gly-Gly-Ser-Gly)。あるいは他のアミノ酸配列を使用することもできる(例えばコリスチン、ポリリシン、ポリミクシン)。
【0033】
多糖の例として、中性多糖(例えばセルロース、デンプン、寒天、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、デキストラン)、アニオン性多糖(例えばアルギン酸塩、ヘパリン、硫酸ヘパリン、硫酸デキストラン、キサンタン、ヒアルロン酸、カラギーナン、アラビアゴム、トラガカントゴム、アラビノガラクタン、ペクチン)、大環状多糖(例えばシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン)、ポリカチオン性多糖(例えばキチン、キトサン)などがある。
【0034】
合成ポリマーの例として、ポリエチレングリコール(PEG)200、300、400、600、1000、1450、3350、4000、6000、8000、20000、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)、ポリエチレングリコールのコポリマー、ポリプロピレングリコールのコポリマー、テトラフルオロエチレンと酢酸ビニルおよびビニルアルコールとのコポリマー、エチレンと酢酸ビニルおよびビニルアルコールとのコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリオール(例えばポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール)、ポリアニオン(例えばアクリル酸、ポリ(メタクリル酸))などがある。ポリカチオンポリマーとして、ポリ(アリルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(グアニジン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリエチレングリコールジアミン、エチレンジアミン、ポリ(第四級アミン)、ポリアクリロニトリル(例えば加水分解されたポリアクリロニトリル、ポリ(アクリルアミド-コ-アクリロニトリル)、これらのコポリマー)などがある。他のポリマーとして、フッ素化コポリマー(例えばテトラフルオロエチレンと、ビニルアルコール、酢酸ビニル、ビニルホルムアミド、アクリルアミド、ビニルアミンとのコポリマー)がある。別の一実施態様では、コア分子としてアミノグリコシドが可能である(例えばアミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルミシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アプラマイシンなど)。
【0035】
ヘパリンはブタの腸またはウシの肺から単離されたムコ多糖であり、分子サイズと化学構造に関して不均一である。ヘパリンはグルクロン酸単位とグルコサミン単位が交互になって作られている。グルクロン酸単位は、D-グルクロン酸とL-イズロン酸からなる。これらはそれぞれ、D-グルコサミン単位へのD-(1,4)結合とL-(1,4)結合である。L-イズロン酸残基の大半は2位が硫酸化されている。D-グルコサミン単位はN-硫酸化されていて6位が硫酸化され、ウロン酸残基にα-(1,4)結合している。いくつかのD-グルコサミン単位も3位が硫酸化されている。ヘパリンは、分子量が約6,000ダルトン〜約30,000ダルトンの範囲の材料を含んでいる。ヒドロキシル基とアミノ基は、硫酸化とアセチル化によってさまざまな程度に誘導体化されている。ヘパリン中で抗凝固特性にとって重要な活性配列は、リガンドであるアンチトロンビンIII(ATIII)に結合するユニークな五糖配列である。この配列は、3個のD-グルコサミン残基と2個のウロン酸残基からなる。ヘパリン分子は、その中に含まれる五糖の含有量に基づいて分類することもできる。ヘパリンの約1/3は、ATIIIに対する親和性が大きいユニークな五糖配列を1コピー有する鎖を含んでいる(Choay、Seminars in Thrombosis and Hemostasis、第11巻、81〜85ページ、1985年を参照(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれている))のに対し、はるかに少ない割合(全ヘパリンの約1%と見積もられる)は、親和性の大きい2コピー以上の五糖を含む鎖からなる(Rosenberg他、Biochem. Biophys. Res. Comm.、第86巻、1319〜1324ページ、1979年を参照(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれている))。ヘパリンの残り(約66%)は五糖配列を含んでいない。したがっていわゆる“標準的なヘパリン”は、3つの化学種の混合物で構成される。“高親和性の”ヘパリンは、少なくとも1コピーの五糖を含む化学種が豊富であり、“非常に高親和性の”ヘパリンは、2コピー以上の五糖配列を含む約1%の分子を意味する。これら3つの化学種は、定型的なクロマトグラフィ法を利用して互いに分離できる。クロマトグラフィ法として、例えばアンチトロンビン・アフィニティ・カラム上でのクロマトグラフィがある(例えばセファロース-AT;例えばLam他、Biochem. Biophys. Res. Comm.、第69巻、570〜577ページ、1976年と、Horner、Biochem. J.、第262巻、953〜958ページ、1989年を参照(参考としてこれらの内容はこの明細書に組み込まれている))。
【0036】
一実施態様では、ヘパリンは動物由来である。別の一実施態様では、ヘパリンはウシまたはブタに由来する。別の一実施態様では、ヘパリンは合成ヘパリンである。すなわち動物由来ではない(例えばフォンダパリヌクスまたはエノキサパリン)。別の一実施態様では、本発明のヘパリン体は、豊富化されていて実質的に純粋な“高親和性の”ヘパリンを含んでいる。別の一実施態様では、本発明のヘパリン体は、豊富化されていて実質的に純粋な“非常に高親和性の”ヘパリンを含んでいる。別の一実施態様では、本発明のヘパリン体は、豊富化されていて実質的に純粋な“高親和性の”ヘパリンと“非常に高親和性の”ヘパリンの組み合わせを含んでいる。
【0037】
本発明の別の一実施態様には、少なくとも1個のヘパリン分子を通じた医療用基板へのヘパリン体の結合が含まれる。図1に示してあるように、本発明のヘパリン体は、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板に結合する。例えば一実施態様では、結合したヘパリン分子は、端点付着を通じて基板に付着する(図1Aと図1Bに図示)。別の一実施態様では、結合したヘパリン分子は、端点アルデヒドを通じて基板に付着する。これは、本質的にアメリカ合衆国特許第4,613,665号(その全体が参考としてこの明細書に組み込まれている)に記載されているようにして実現できる。
【0038】
別の一実施態様では、ヘパリン体は、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合する。そのとき結合したヘパリン分子は、“ループ付着”を通じて基板に付着する。図1Cに示したループ付着は、少なくとも1個のヘパリンを通じたヘパリン体の付着であり、ヘパリンは少数の場所で基板にゆるく付着しているため、(ヘパリンを多数の場所でしっかりと付着させるより一般的な方法とは異なり)結合したヘパリンのかなりの割合がヘパリナーゼに曝露される。ヘパリンを基板にカップリングさせるそのより一般的な方法は、ヘパリン分子の長さに沿ってランダムに位置する大半の官能基を(例えばカルボジイミド、エポキシド、ポリアルデヒドなどのカップリング剤を用いて)反応させる操作を含んでいる。これらの方法では活性配列(上記のユニークな五糖配列)が基板と結合するため、活性の低下および/または喪失に至る確率が大きくなる。ヘパリンのループ付着では、ヘパリン上の数個の官能基だけが反応して基板に結合する。したがって付着したヘパリンの活性配列は基板に結合しないため、その活性配列は対応するリガンドに結合することができる。別の一実施態様では、本発明に、基板に対する多数の付着点を有するヘパリン体が含まれていて、活性配列は基板に結合しない。別の一実施態様では、結合したヘパリン体分子はループ付着を通じて基板に付着する。
【0039】
上述のように、端点付着とループ付着により、(ヘパリン体中の)少なくとも1個のヘパリン分子のかなりの割合が基板に結合しないようにできる。この明細書では、“かなりの割合”という用語は、ヘパリン分子の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%が基板に結合していないことを意味する。別の一実施態様では、この用語は、活性配列を介することなく基板に結合する(ヘパリン体中の)少なくとも1個のヘパリン分子も意味する。したがって活性配列は基板の表面に結合しないため、その活性配列は対応するリガンドと相互作用する確率がより大きい。言い換えるならば、活性配列が基板の表面に結合する場合には、ヘパリンが対応するリガンドに結合する機会は少ない。
【0040】
しかしヘパリン体は端点付着および/またはループ付着を通じて付着しているため、ヘパリンはヘパリナーゼに対する感受性がある。したがってヘパリナーゼ処理の後、(上記のようにヘパリン分子の長さに沿って多数の結合を含む)基板の表面上のヘパリンまたはその断片は、存在するとしても非常に少なくなろう。逆に、ヘパリンを基板の表面に付着させるより一般的な方法のいくつかでは、ヘパリナーゼ処理の後、多くの量のヘパリンまたはその断片が基板の表面に相変わらず付着している。したがってヘパリナーゼ処理の後、ヘパリンまたはその断片を基板の表面上で検出することができる。本発明の発明者は、いかなる特定の理論に囚われることもなく、結合したヘパリンまたはヘパリン体のヘパリナーゼに対する感度が大きいほど、その結合したヘパリンまたはヘパリン体はより大きな生物活性を示すことを発見した。それは、結合したヘパリンまたはヘパリン体の活性配列が基板の表面に付着していないため、その結合したヘパリンまたはヘパリン体が対応するリガンドと結合する機会がより多いからであろう。
【0041】
ヘパリンは、ATIIIによって認識されるためにはコンホメーションと構造が完全でなければならない。そのコンホメーションと構造が失われると、ヘパリンは小さな活性を示すことになろう。それに加え、そのコンホメーションと構造が失われると、他のタンパク質(例えばヘパリナーゼ-1)による認識が悪くなり、ヘパリンが解重合しにくくなる。例えば可溶性ヘパリンをカルボジイミドを用いて改変すると、その可溶性ヘパリンの構造が変化し、もはやヘパリナーゼ-1によって認識されなくなり、改変された可溶性ヘパリンは全血抗凝固活性が低下する(Olivera, G.B.、Biomaterials、第24巻、4777〜4783ページ、2003年)。本発明の発明者は、付着したヘパリンまたはヘパリン体のヘパリナーゼ活性が、その付着したヘパリンまたはヘパリン体のATIII結合活性を予測していることを発見した。いかなる特定の理論に囚われることも望んでいないが、付着したヘパリンまたはヘパリン体が特定の酵素(例えばヘパリナーゼ-1)に対する特異性を保持している場合には、その付着したヘパリンまたはヘパリン体は、実質的に十分な一次/二次/三次構造を保持し、ATIIIに対する特異性も有する。したがって本発明の発明者は、付着したヘパリンまたはヘパリン体がヘパリナーゼ-1によって認識される場合には、その付着したヘパリンまたはヘパリン体は、大きな結合活性によって例示されるようにATIIIによっても認識されることを発見した。
【0042】
本発明の発明者は、ホウ酸による洗浄により、付着している不活化されたヘパリンまたはヘパリン体(例えば殺菌、力学的な圧縮と伸張、長期の保管による不活化)に対するヘパリナーゼの感受性が回復することも示した。したがって本発明の別の一実施態様には、基板の表面に結合したヘパリンまたはヘパリン体に対するヘパリナーゼの感受性を回復させるため、その基板をホウ酸溶液中で洗浄する操作を含む方法が含まれる。一実施態様では、基板を殺菌サイクルに曝露した。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ-1活性を低下させる力学的処理を基板に対して実施した。
【0043】
本発明の別の一実施態様では、本発明の結合したヘパリン体を有する医療用基板をヘパリナーゼで処理した後、ヘパリンまたはその断片は、その基板上で検出されない。別の一実施態様では、本発明の結合したヘパリン体を有する医療用基板をヘパリナーゼで処理した後、ヘパリンまたはその断片は、ヘパリナーゼで処理する前よりも実質的に低いレベルで検出される。有意に低い検出レベルには、ヘパリンの染色および/または標識の後に非常にわずかにしか検出されないことが含まれる。
【0044】
別の一実施態様では、ヘパリンまたはその断片は、染色または標識の後に目視で(巨視的には)検出されない。ヘパリンまたはその断片は、ヘパリンまたはその断片に直接または間接に結合する標識によって検出することができる。一実施態様では、ヘパリンまたはその断片に結合する標識は、染料、抗体、タンパク質からなるグループの中から選択される。標識の例として、タンパク質(例えば抗ヘパリン抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)、ATIII);異染性染料(例えばトルイジンブルー、アズールA、アルシアンブルー、ビクトリアブルー4R、ナイトブルー、メチレンブルー);放射性ヨウ素化標識(例えば放射性ヨウ素化トルイジンブルー、放射性ヨウ素化メチレンブルー、放射性ヨウ素化ヘパリン抗体、放射性ヨウ素化ATIII);トリチウム化標識(例えばトリチウム化トルイジンブルー、トリチウム化アズールA、トリチウム化アルシアンブルー、トリチウム化ビクトリアブルー4R、トリチウム化ナイトブルー、トリチウム化メチレンブルー);炭素14標識(例えば14C-トルイジンブルー、14C-アズールA、14C-アルシアンブルー、14C-ビクトリアブルー4R、14C-ナイトブルー、14C-メチレンブルー);蛍光標識(例えばローダミン標識ヘパリン抗体、フルオレセイン標識ヘパリン抗体、ローダミン標識ATIII、フルオレセイン標識ATIII)などがある。別の一実施態様では、染料はトルイジンブルーである。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーがヘパリンまたはその断片に結合するが、基板上で目視によっては検出されない(本質的に図3Bと図4Eに図示)。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーしか残留したヘパリンまたはその断片に結合しないため、基板上のトルイジンブルー(または上記の他の標識)の量を検出できる検出器(例えば分光測光器、輝度計、写真濃度計、液体シンチレーション・カウンタ、ガンマ・カウンタなど)からの読みは、ほぼバックグラウンド・レベルであるか、ヘパリン体なしの基板と比べたときにバックグラウンド・レベルと有意差がない。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ処理の後、基板上のトルイジンブルー(または上記の他の標識)の量を検出できる検出器からの読みは、ヘパリン体を備える基板をヘパリナーゼ処理せずにトルイジンブルー(または上記の他の標識)で染色した場合と比べて有意に異なっている。
【0045】
本発明の別の一実施態様には、コア分子に付着した少なくとも1個のヘパリン分子を含むヘパリン体であって、そのヘパリン体が1個のヘパリン分子を通じて基板に結合し、ヘパリナーゼとトルイジンブルーに曝露した後に基板の表面にはトルイジンブルーの巨視的な痕跡が実質的に残らないヘパリン体が含まれる(図3Bと図4Eに図示)。
【0046】
本発明の別の一実施態様には、少なくとも1個のヘパリン分子と少なくとも1個のコア分子を含むヘパリン体であって、そのヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板と結合するときそのヘパリン体がヘパリナーゼ感受性であるヘパリン体が含まれる。一実施態様では、基板の選択は、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、生体適合性金属、セラミック、タンパク質、多糖、上記の任意の基板からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、基板は延伸ポリテトラフルオロエチレンである。別の一実施態様では、基板は医療装置の一部品である。別の一実施態様では、医療装置の選択は、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、ステントは、心臓、末梢、神経の用途に使用することができる。別の一実施態様では、ステント-グラフトは、心臓、末梢、神経の用途に使用することができる。別の一実施態様では、医療装置は、整形外科、皮膚科、婦人科の用途に使用することができる。別の一実施態様では、コア分子は、環形、直線形、分岐形、樹枝形、“Y字”形、“T字”形、星形いずれかの分子構造である。別の一実施態様では、コア分子の選択は、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、多糖、アミノグリコシド、ポリマー、フルオロポリマーからなるグループの中からなされる。
【0047】
別の一実施態様では、ヘパリンまたはその断片は、ヘパリンまたはその断片に結合する標識によって検出される。別の一実施態様では、ヘパリンまたはその断片に結合する標識は、染料、ポリクローナル抗体、タンパク質からなるグループの中から選択される。別の一実施態様では、染料はトルイジンブルーである。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーしか残留したヘパリンまたはその断片と結合しないため、基板上で目視によっては検出されない。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーしか残留したヘパリンまたはその断片に結合しないため、基板上のトルイジンブルー(または上記の他の標識)の量を検出できる検出器(例えば分光測光器、輝度計、写真濃度計、液体シンチレーション・カウンタ、ガンマ・カウンタなど)からの読みは、ほぼバックグラウンド・レベルであるか、ヘパリン体なしの基板と比べたときにバックグラウンド・レベルと有意差がない。別の一実施態様では、ヘパリナーゼ処理の後、基板上のトルイジンブルー(または上記の他の標識)の量を検出できる検出器からの読みは、ヘパリン体を備える基板をヘパリナーゼ処理せずにトルイジンブルー(または上記の他の標識)で染色した場合と比べて有意に異なっている。別の一実施態様では、ヘパリン体は少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子は端点付着を通じてその基板に付着している。別の一実施態様では、ヘパリン体は少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子は端点アルデヒドを通じてその基板に付着している。別の一実施態様では、ヘパリン体は少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子はループ付着を通じてその基板に付着している。別の一実施態様では、ヘパリン体は少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子はそのヘパリン分子の長さに沿ってアルデヒドを通じて基板に結合している。
【0048】
別の一実施態様には、コア分子と、そのコア分子に付着した多糖鎖と、その多糖鎖上の自由端アルデヒド部分とを含むATIII結合体が含まれる。次に、このATIII結合体は、端部アルデヒドを通じて基板に端点付着させることができる。本発明の別の一実施態様には、コア分子と、そのコア分子に付着した多糖鎖と、その多糖鎖の長さに沿った自由端アルデヒド部分とを含むATIII結合体が含まれる。次に、このATIII結合体は、多糖鎖の長さに沿ったアルデヒドを通じて基板にループ付着させることができる。別の一実施態様では、多糖鎖はヘパリンである。別の一実施態様では、コア分子の選択は、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、アミノグリコシド、多糖、ポリマー、フルオロポリマー、この明細書に記載した任意のコア分子からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、ヘパリンは端点付着を通じてコア分子の表面に結合する。別の一実施態様では、基板の選択は、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、生体適合性金属、この明細書に記載した任意の基板からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、生体適合性金属はニチノールである。別の一実施態様では、基板は延伸ポリテトラフルオロエチレンである。別の一実施態様では、基板は医療装置の一部品である。別の一実施態様では、医療装置の選択は、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、医療装置は、心臓、末梢、神経、整形外科、婦人科、皮膚科の用途に使用することができる。
【0049】
本発明の別の一実施態様には、医療用基板を備えていて、その医療用基板が、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合したヘパリン体を含んでおり、結合したそのヘパリン体がヘパリナーゼ感受性である埋め込み可能な医療装置が含まれる。一実施態様では、医療装置の選択は、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線からなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、ステントは、心臓、末梢、神経の用途に使用することができる。別の一実施態様では、ステントとして、拡張可能なバルーンおよび/または自己拡張型ステントが可能である。ステントは、任意の生体適合性材料(例えば上記の任意のポリマーまたは金属)から製造することができる。別の一実施態様では、ステントはニチノールおよび/またはステンレス鋼から製造される。別の一実施態様では、ステントはグラフトを含んでいる。別の一実施態様では、グラフトおよび/またはステントは本発明のヘパリン体を含んでいる。
【0050】
本発明のヘパリン体は、固定化と殺菌の後、被覆された他の医療用基板と比べて大きな生物活性を保持している。例えば一実施態様では、医療用基板は、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合したヘパリン体を含んでおり、結合したそのヘパリン体はヘパリナーゼ感受性であってATIII活性が約300ピコモル/cm2である。別の一実施態様では、ATIII活性は、約250ピコモル/cm2、約200ピコモル/cm2、約150ピコモル/cm2、約100ピコモル/cm2、約50ピコモル/cm2、約40ピコモル/cm2、約30ピコモル/cm2、約20ピコモル/cm2、約10ピコモル/cm2、約5ピコモル/cm2のいずれかである。別の一実施態様では、最初の殺菌の後、医療用基板のATIII活性は、約250ピコモル/cm2、約200ピコモル/cm2、約150ピコモル/cm2、約100ピコモル/cm2、約50ピコモル/cm2、約40ピコモル/cm2、約30ピコモル/cm2、約20ピコモル/cm2、約10ピコモル/cm2、約5ピコモル/cm2のいずれかである。別の一実施態様では、2回目の殺菌の後、医療用基板のATIII活性は、約100ピコモル/cm2、約90ピコモル/cm2、約80ピコモル/cm2、約70ピコモル/cm2、約60ピコモル/cm2、約50ピコモル/cm2、約40ピコモル/cm2、約30ピコモル/cm2、約20ピコモル/cm2、約10ピコモル/cm2、約5ピコモル/cm2のいずれかである。別の一実施態様では、3回目の殺菌の後、医療用基板のATIII活性は、約80ピコモル/cm2、約70ピコモル/cm2、約60ピコモル/cm2、約50ピコモル/cm2、約40ピコモル/cm2、約30ピコモル/cm2、約20ピコモル/cm2、約10ピコモル/cm2、約5ピコモル/cm2のいずれかである。ATIII活性アッセイはよく知られており、そのうちの少なくとも1つを以下に説明する。別の一実施態様では、本発明のヘパリン体は、医療装置の圧縮と伸張の後に大きな生物活性を保持している。別の一実施態様では、本発明のヘパリン体は、圧縮状態および/または伸張状態で医療装置を保管する条件の後に大きな生物活性を保持している。
【0051】
本発明の別の一実施態様には、基板に結合したヘパリン体の構造を明らかにする方法が含まれる。基板に結合したヘパリン体の構造を明らかにする1つの方法は、ヘパリン体を備える基板を用意するステップと、ヘパリン体を解重合して可溶性ヘパリン断片の混合物を生成させるステップと、カラム・クロマトグラフィを利用してその混合物中の各可溶性ヘパリン断片を検出するステップと、前のステップで検出された各可溶性ヘパリン断片を同定するステップと、検出されて同定された可溶性ヘパリン断片からヘパリン体の構造を求めるステップを含んでいる。一実施態様では、解重合はヘパリナーゼ-1による。別の一実施態様では、カラム・クロマトグラフィは、強陰イオン交換高性能液体クロマトグラフィ、すなわちSAX-HPLCである。
【0052】
本発明の別の一実施態様には、医療用基板を備えていて、その医療用基板が、少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合したヘパリン体を含んでおり、結合したそのヘパリン体がヘパリナーゼ感受性である埋め込み可能な医療装置が含まれる。一実施態様では、医療装置の選択は、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線、バルーン、留置フィルタからなるグループの中からなされる。別の一実施態様では、ステントは、心臓、末梢、神経の用途に使用することができる。別の一実施態様では、ステントとして、拡張可能なバルーンおよび/または自己拡張型ステントが可能である。ステントは、任意の生体適合性材料(例えば上記の任意のポリマーまたは金属)から製造することができる。別の一実施態様では、ステントはニチノールおよび/またはステンレス鋼から製造される。別の一実施態様では、ステントはグラフトを含んでいる。別の一実施態様では、グラフトおよび/またはステントは本発明のヘパリン体を含んでいる。
【0053】
本発明の別の一実施態様には、基板に結合したヘパリン体の空間分布を明らかにする方法が含まれる。基板に結合したヘパリン体の空間分布を明らかにする1つの方法は、ヘパリン体を備える基板を用意するステップと、ヘパリン体を解重合し、表面に結合した不飽和なヘパリン断片を含む表面を生成させるステップと、その表面を、表面に結合した不飽和なそのヘパリン断片に検出可能な成分を導入する標識試薬と反応させるステップと、表面に結合した不飽和なそのヘパリン断片を検出可能なその成分を通じて検出するステップと、表面に結合した不飽和なそのヘパリン断片の存在からヘパリン体の空間分布を求めるステップを含んでいる。一実施態様では、解重合はヘパリナーゼ-1による。別の一実施態様では、標識試薬は、ランタノイド系マイケル様付加有機錯体である。別の一実施態様では、標識試薬は、トリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウムである。別の一実施態様では、有機錯体は、化学吸着させた金ナノ粒子を含んでいる。別の一実施態様では、検出は、落射蛍光顕微鏡法または透過電子顕微鏡法による。
【0054】
本発明の別の一実施態様には、基板に結合したヘパリン体の構造を明らかにするシステムとして、解重合溶液と、標識試薬溶液と、検出器とを備えるシステムが含まれる。システムとは、基板に対するヘパリン体の結合の構造とタイプを検出するのに用いられる試薬と装置の集合体である。一実施態様では、解重合溶液はヘパリナーゼ-1を含んでいる。別の一実施態様では、標識試薬溶液は、トルイジンブルーとトリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウムを含んでいる。別の一実施態様では、検出器は、SAX-HPLC、落射蛍光顕微鏡、吸収分光器を含んでいる。別の一実施態様では、試薬の集合体はキットにすることができる。
【0055】
端点付着させたヘパリンおよび/またはヘパリン体を酵素ヘパリナーゼ-1で解重合した後、不飽和なヘパリン断片が表面上に残る。すなわちそのヘパリン断片は、炭素-炭素二重結合(“節”)を含んでいる。酵素ヘパリナーゼによる解重合には、非還元性の末端ウロン酸残基が開裂して4,5-不飽和誘導体になることが含まれる。そうなることで、表面に結合していて炭素-炭素二重結合を含む不飽和なヘパリン断片が基板に結合した状態で残る。したがって残っている表面に結合したヘパリン断片の構造は不飽和であるため、さまざまな検出分子と反応させることができる。検出分子として、チオール含有化合物やチオール含有蛍光化合物などのマイケル様付加錯体を含むもの(例えばトリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウム)がある。したがって本発明の別の一実施態様では、端点付着したヘパリン体を酵素ヘパリナーゼ-1で解重合した後、表面に結合していて炭素-炭素二重結合を含む不飽和なヘパリン断片が基板に結合して残された状態で検出される。この方法により、ヘパリンおよび/またはヘパリン体が基板に端点付着していたかどうかを明らかにすることができる。別の一実施態様では、節の検出に、上記の任意の検出法および/またはキャラクテリゼーション法を組み合わせる。
【0056】
以下の実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明がこれら実施例に限定されると考えてはならない。あらゆる図面と参考文献の内容は、参考としてこの明細書に組み込まれている。
【実施例】
【0057】
実施例1
この実施例では、ヘパリンと、コアとしての硫酸コリスチンとを含むヘパリン体の構成を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0058】
硫酸コリスチン(0.10g、アルファルマ社)を、MES緩衝液(pH4.7、BupH(登録商標)、サーモ・サイエンティフィク社)を含む300mlの脱イオン(DI)水に溶かした。そこに10gのUSPヘパリンと、4gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS、サーモ・サイエンティフィク社)と、4gの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCヒドロクロリド、シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)を添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた後、50,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて一晩透析した。保持液(500mlのうちの約350ml)をビーカーに移し、0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム(10mg)と酢酸(2ml)を添加し、0℃にて1時間にわたって反応を進行させた。1gのNaClを透析液に添加し、50,000MWCO膜を用いて一晩透析した。保持液の凍結乾燥によって細かい粉末が生成した。
【0059】
実施例2
この実施例では、ヘパリンと、コアとしての硫酸ネオマイシンとを含むヘパリン体の構成を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0060】
硫酸ネオマイシン(0.0646g、スペクトラム・ケミカル社)を、MES緩衝液(pH4.7、BupH(登録商標)、サーモ・サイエンティフィク社)を含む300mlのDI水に溶かした。そこに10gのUSPヘパリンと、4gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)と、4gのEDCヒドロクロリドを添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた後、50,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて一晩透析した。保持液(505mlのうちの約400ml)をビーカーに移し、0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム(10mg)と酢酸(2ml)を添加し、0℃にて1時間にわたって反応を進行させた。1gのNaClを透析液に添加し、50,000MWCO膜を用いて一晩透析した。透析した保持液を、20ミクロンで0.00079インチのU.S.A.標準試験篩(A.S.T.M.-11仕様第635番)を用いて2回濾過して小さな粒子を除去した。濾液の凍結乾燥によって細かい粉末が生成した。
【0061】
実施例3
この実施例では、ヘパリンと、コアとしての硫酸カプレオマイシンとを含むヘパリン体の構成を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0062】
硫酸カプレオマイシン(0.0501g、シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)を、MES緩衝液(pH4.7、BupH(登録商標)、サーモ・サイエンティフィク社)を含む300mlのDI水に溶かした。そこに10gのUSPヘパリンと、4gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)と、4gのEDCヒドロクロリドを添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた。この反応混合物を、20ミクロンで0.00079インチのU.S.A.標準試験篩(A.S.T.M.-11仕様第635番)を用いて1回濾過して小さな粒子を除去した後、50,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて濾液を一晩透析した。保持液(515mlのうちの約400ml)をビーカーに移し、0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム(10mg)と酢酸(2ml)を添加し、0℃にて1時間にわたって反応を進行させた。1gのNaClを透析液に添加し、50,000MWCO膜を用いて一晩透析した。保持液を、20ミクロンで0.00079インチのU.S.A.標準試験篩(A.S.T.M.-11仕様第635番)を用いて2回濾過して小さな粒子を除去した。濾液の凍結乾燥によって細かい粉末が生成した。
【0063】
実施例4
この実施例では、ヘパリンと、コアとしてのポリ-L-リシンとを含むヘパリン体の構成を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0064】
ポリ-L-リシン(0.1776g、シグマ-オールドリッチ社、分子量1,000〜5,000g/モル)を、MES緩衝液(pH4.7、BupH(登録商標)、サーモ・サイエンティフィク社)を含む300mlのDI水に溶かした。そこに10gのUSPヘパリンと、4gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)と、4gのEDCヒドロクロリドを添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた後、50,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて一晩透析した。保持液(505mlのうちの約400ml)をビーカーに移し、0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム(10mg)と酢酸(2ml)を添加し、0℃にて1時間にわたって反応を進行させた。1gのNaClを透析液に添加し、50,000MWCO膜を用いて一晩透析した。保持液の凍結乾燥によって細かい粉末が生成した。
【0065】
実施例5
この実施例では、ヘパリンと、コアとしてのポリエチレンイミン(PEI)とを含むヘパリン体の構成を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0066】
PEI(Lupasol、BASF社、1.7756g)を、MES緩衝液(pH4.7、BupH(登録商標)、サーモ・サイエンティフィク社)を含む300mlのDI水に溶かした。そこに10gのUSPヘパリンと、4gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)と、4gのEDCヒドロクロリドを添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた後、50,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて一晩透析した。保持液(505mlのうちの約400ml)をビーカーに移し、0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム(10mg)と酢酸(2ml)を添加し、0℃にて1時間にわたって反応を進行させた。1gのNaClを透析液に添加し、50,000MWCO膜を用いて一晩透析した。保持液の凍結乾燥によって細かい粉末が生成した。
【0067】
実施例6
この実施例では、ヘパリンと、コアとしてのエチレンジアミン(EDA)とを含むヘパリン体の構成を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0068】
氷浴を用いてEDA(0.0043g、シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)をHClとDI水からなる同体積の希釈液で中和してpHを4.7にした後、MES緩衝液(pH4.7、BupH(登録商標)、サーモ・サイエンティフィク社)を含む300mlのDI水に溶かした。そこに10gのUSPヘパリンと、4gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)と、4gのEDCヒドロクロリドを添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた後、50,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて一晩透析した。保持液(505mlのうちの約400ml)をビーカーに移し、0℃に冷却した。亜硝酸ナトリウム(10mg)と酢酸(2ml)を添加し、0℃にて1時間にわたって反応を進行させた。1gのNaClを透析液に添加し、50,000MWCO膜を用いて一晩透析した。保持液の凍結乾燥によって細かい粉末が生成した。
【0069】
実施例7
実施例1〜6の自由端アルデヒドを含むヘパリン体をePTFE基板の表面に固定化し、ATIII活性を試験した。
【0070】
シートの形態になったePTFE基板材料を、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)ミクロフィルトレーション・メディア(GMM-406)という商品名で入手した。直径10cmのプラスチック製刺繍枠にePTFE材料を取り付け、支持されたそのePTFE材料を最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間浸し、次いでポリエチレンイミン(PEI、Lupasol、BASF社)とIPAが1:1の割合になった溶液に浸すことにより、基礎被覆の形態の被覆材料をePTFE材料に付着させた。Lupasol(登録商標)無水PEIをBASF社から入手し、約4%の濃度に希釈し、pH9.6に調節した。ePTFE材料をその溶液に約15分間にわたって浸した後に取り出し、pH9.6のDI水の中で15分間にわたって洗浄した。pH9.6の0.05%グルタルアルデヒド水溶液(アムレスコ社)を使用し、ePTFE材料の表面に残っているPEIを15分間にわたって架橋させた。この構造体をpH9.6の0.05%PEI水溶液の中に15分間入れ、pH9.6のDI水の中で15分間にわたって再び洗浄することにより、その構造体に追加のPEIを付加した。グルタルアルデヒドとPEI層の間で反応が起こった結果として形成されたイミンをシアンホウ水素化ナトリウム(NaCNBH3)溶液(1リットルのDI水に5gを溶かしたもの、pH9.6)を15分間使用して還元し、DI水の中で30分間にわたって洗浄した。
【0071】
構造体をpH9.6の0.05%グルタルアルデヒド水溶液に15分間にわたって浸した後、0.5%PEI水溶液(pH9.6)に15分間にわたって浸すことにより、追加のPEI層をその構造体に付加した。次にこの構造体をpH9.6のDI水の中で15分間にわたって洗浄した。この構造体をNaCNBH3溶液(1リットルのDI水に5gを溶かしたもの、pH9.6)に15分間にわたって浸した後、DI水の中で30分間にわたって洗浄することにより、得られたイミンを還元した。これらのステップを繰り返して構造体に第3の層を付着させた。結果は、多孔性疎水性フルオロポリマー基礎材料(円板)が、その基礎材料の露出面と中間面の実質的にすべてを覆う親水性架橋ポリマー基礎被覆を備えるものになった。
【0072】
構造体の表面に別のPEI層を配置するため、中間化学層をポリマーの基礎被覆に付着させた。この中間イオン電荷層は、構造体を硫酸デキストラン(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社)と塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かしたもの、pH3)の中で60℃にて90分間にわたってインキュベートした後、DI水の中で15分間にわたって洗浄することによって作った。
【0073】
構造体を0.3%PEI水溶液(pH9)の中に約45分間にわたって入れた後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かしたもの)の中で20分間にわたって洗浄することにより、PEI層(この明細書では“キャップ層”と呼ぶ)を中間層に付着させた。DI水を用いた最後の洗浄を20分間にわたって実施した。
【0074】
構造体をヘパリン体含有塩化ナトリウム塩溶液(自由端アルデヒドを含む約0.9gのヘパリン体と、5.88gのNaClを200mlのDI水に溶かしたもの、pH3.9)の中に入れ、10分間にわたって60℃に維持することにより、実施例1〜6の自由端アルデヒドを含むヘパリン体をPEI層に付着または共役させた。572μlの体積の2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を(200ml)のヘパリン体溶液に添加した。サンプルをさらに110分間にわたって上記の温度に維持した。
【0075】
次にサンプルをDI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かしたもの、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたって洗浄した後、構造物全体を凍結乾燥させることで、ePTFE基板材料の表面に結合したヘパリン体を含む乾燥した構造体を生成させた。ヘパリンの巨大分子構造体の存在と一様性を、この構造体の両面をトルイジンブルーで染色することによって調べた。染色によって均一に染色された表面が生じた。これは、ヘパリンが存在していて、ePTFE材料に一様に結合していることを示している。
【0076】
公称サイズが約1cm2のサンプルを構造体から切断し、ePTFE基板の表面に端点付着させた自由端アルデヒド含有ヘパリン体のATIII結合能力を測定することにより、ヘパリン活性を調べた。このアッセイは、Larsen M.L.らが「トロンビンと発色基板H-D-Phe-Pip-Arg-pNA(S-2238)を用いた血漿ヘパリンのアッセイ」(Thromb. Res.、第13巻、285〜288ページ、1978年)の中に記載するとともに、Pasche B.らが「さまざまな流動条件化における、固定化されたヘパリンに対するアンチトロンビンの結合」(Artif. Organs、第15巻、281〜491ページ、1991年)の中に記載している(両方とも、参考としてこの明細書に事実上組み込まれている)。結果は、単位面積の基板材料に結合したATIIIの量をピコモル/cm2を単位として表わした。どのサンプルもアッセイ中を通じて湿潤条件に維持した。約1cm2のサンプルのそれぞれは、材料の両面を考慮すると2cm2の合計表面積を持つが、サンプルの一方の面だけ(すなわち1cm2)を用いてATIIIヘパリン体結合活性をピコモル/cm2を単位として計算したことに注意することが重要である。
【0077】
実施例1〜6で製造されてそれぞれ共役した構造体となった凍結乾燥サンプルを個別のタワーDUALPEEL(登録商標)自己密封パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マグロー・パーク、イリノイ州)の中に入れ、EtO殺菌のために密封した。コンディショニングを1時間、EtOガス滞在時間を1時間、設定温度55℃、通気時間を12時間という条件下にて、エチレンオキシドを用いた殺菌を実施した。EtOを用いた殺菌を3回まで繰り返した。そのとき、EtOで1回殺菌するごとにサンプルを取り出した。
【0078】
図2は、実施例1〜6からの自由端アルデヒド含有ヘパリン体をePTFEの表面に固定化し、3回までのEtO殺菌サイクルを経験させたもののATIII結合能力を示す棒グラフである。アンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1cm2当たりに結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数として表わしてある。この結果からわかるように、自由端アルデヒドを含むどの共役したヘパリン体も、殺菌前と3回までのEtO殺菌の後に大きなアンチトロンビンIII結合活性であった。どの棒も、全サンプルの平均値を表わしており、エラー・バーは標準偏差である。
【0079】
実施例8
実施例2、3、4、6で製造した自由端アルデヒド含有ヘパリン体を分析して絶対分子量を調べた。
【0080】
ワイアット社のASTRA 5.3.4.10ソフトウエアと組み合わせたウォーターズ社の2414 RI検出器を用い、0.02%のNaN3を含む100mMのNaNO3の中でレーザーの波長を660nmにしてUSPヘパリンのdn/dcを調べた。USPヘパリンのdn/dc(屈折率の変化を濃度の変化で割った値)は、ヘパリンの既知の濃度に対してRI検出器の応答をプロットし、勾配を計算することによって求めた。
【0081】
絶対分子量を測定するため、ワイアット-ドーン・ヘレオス-II 18-アングル光散乱検出器(ワイアット・テクノロジー社)を用いてヘパリン体を分析した。検出器1、2、3、4、17、18は使用しなかった。0.02%のNaN3移動相を含む100mMのNaNO3の中でヘパリン体の貯蔵溶液を調製した。実施例3と4のヘパリン体については、この貯蔵溶液から以下の濃度にした:0.5mg/ml、1.0mg/ml、1.5mg/ml、2.0mg/ml、2.5mg/ml。実施例2と6のヘパリン体については、0.25mg/ml、0.5mg/ml、1.0mg/ml、1.5mg/ml、2.0mg/mlにした。5mlの注射器を用いて各サンプルを0.02ミクロンのシリンジ・フィルタで濾過した後、光散乱検出器の中に注入した。ジム・プロットとUSPヘパリン(0.126リットル/g)のdn/dcを利用して全サンプルでバッチ・データ分析を実施した。表1に絶対分子量を示す。
【0082】
【表1】

【0083】
絶対分子量を分析したどのヘパリン体も、USPヘパリン(14,810g/モル)よりも大きな値を示し、その値は、ヘパリンと、コアとしてのカプレオマイシンとを含むヘパリン体での17,710g/モルから、ヘパリンと、コアとしてのEDAとを含むヘパリン体での21,850g/モルまでの範囲であった。
【0084】
実施例9
この実施例では、基板表面へのヘパリンまたはヘパリン体の付着法を識別する検出法を示す。この実施例では特に、自由端アルデヒドを含む単点付着とカルボジイミド共役を含む多点付着を利用したePTFE基板の表面への固定化を通じたヘパリンとヘパリン体の付着を見る。
【0085】
ヘパリン端点アルデヒドをアメリカ合衆国特許第4,613,665号に従って製造し、実施例7に記載してあるようにしてPEI-ePTFE基板の表面に固定化した。こうすることで、ヘパリンが端点付着によって固定化された表面になった。ヘパリンが付着したことは、サンプルをトルイジンブルーで染色し、図3Aに示したように着色に注目することによって明らかになった。
【0086】
ヘパリン端点アルデヒドが自由端アルデヒドによってではなく、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を用いてヘパリン鎖の長さに沿った多数のカルボン酸残基によって付着した表面も作った。表面へのヘパリンのEDC共役は、多数の部位を通じてヘパリンを結合させることが知られている。実施例7のPEI含有円板を300mlの0.1MES緩衝液(pH4.7)に浸した。この溶液に、端点アルデヒドを有するヘパリンを1gと、EDCヒドロクロリドを4g添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた。固定化されたヘパリン円板をDI水とホウ酸塩緩衝液で洗浄し、最後にDI水で洗浄した。
【0087】
自由端アルデヒドを含まないUSPヘパリンを、表面上の多数の結合部位を通じてEDCによって付着させた表面も作った。実施例7のPEI含有円板を300mlの0.1MES緩衝液(pH4.7)に浸した。この溶液に、USPヘパリンを1gと、EDCヒドロクロリドを4g添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた。固定化されたヘパリン円板をDI水とホウ酸塩緩衝液で洗浄し、最後にDI水で洗浄した。
【0088】
実施例7に記載したようにしてePTFE/PEIの表面に固定化された実施例2のヘパリン体も製造した。あるいは実施例2のヘパリン体をカルボジイミド共役を利用してePTFE/PEIの表面に固定化した。実施例7のPEI含有円板を300mlの0.1MES緩衝液(pH4.7)に浸した。この溶液に、実施例2のヘパリン体を1gと、EDCヒドロクロリドを4g添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた。固定化されたヘパリン体円板をDI水とホウ酸塩緩衝液で洗浄し、最後にDI水で洗浄した。
【0089】
ヘパリンとヘパリン体が上記の各方法で固定化されたことを確認するため、約1×1cmのサンプルをトルイジンブルーで染色した。トルイジンブルーで染色したどのサンプルも(端点付着によって固定化されたUSPヘパリン端点アルデヒドを示す)図3Aと同様であったことに注意されたい。
【0090】
ヘパリンおよびヘパリン体と共役したさまざまなePTFE-PEI円板のそれぞれについて、2×2cmの正方形を切断し、1.5mlのバイアルの中に入れた。これに、20mMのトリス-HCl(pH7.5)と、50mMのNaClと、4mMのCaCl2と、0.01%BSAからなる緩衝液の中で1mg/mlに希釈したヘパリナーゼ-1(フラヴォバクテリウム・ヘパリヌム、E.C. 4.2.2.7からのもの、シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)を1ml添加した。このサンプルを室温にて30分間にわたってインキュベートし、DI水で洗浄し、トルイジンブルーで染色した。端点付着していて多点付着はしていないサンプルは、端点付着によって固定化されたUSPヘパリン端点アルデヒドについて図3Bに示してあるように、実質的に染色が少なく見えた。多点固定化されたヘパリン体は染色を保持していた。
【0091】
各サンプルの輝度測定を利用して染色を定量した。サンプルをガラス・スライドの表面に取り付け、1本だけの接着テープで固定した。DPコントローラ3.1.1.267ソフトウエアで制御されるオリンパスDP71ディジタル・カメラを取り付けたオリンパスSZX12顕微鏡(オリンパス・アメリカ社)を用いてディジタル画像を撮影した。頭上からリング光で照明し、1倍レンズを用いて7倍の倍率で露出を1/350秒に設定して画像を撮影した。最終画像を撮影する前に画像を調べ、飽和が過剰でないことを確認した。染色されたサンプル、すなわち実質的にトルイジンブルーで染色されたサンプルは、輝度の値が小さかったのに対し、実質的に染色されなかったサンプルは輝度の値が大きかった(この実施例の輝度スケールは0〜255の範囲であった)。
【0092】
アドビー・フォトショップ・エレメンツ2.0(アドビー・システム社、サンノゼ、カリフォルニア州)を利用し、撮影した各ディジタル画像の輝度を評価した。アドビー・フォトショップ・エレメンツ2.0に画像を取り込み(144画素/インチの解像度)、長方形区画ツールを用いてサンプルの代表的な1つの長方形領域を選択した。画像を選択した後、上部のツール・バーからヒストグラムを選択した。チャネルを輝度に設定してヒストグラム・ウインドウを開いた。平均値を平均輝度として記録する。
【0093】
ヘパリンおよびヘパリン体と共役したどのサンプル(表2に輝度の値を表示)もトルイジンブルーで実質的に染色された。これは、付着したヘパリンとヘパリン体が基板を密に覆っていることを示している。固定化して染色した後の輝度の値は、端点付着によって固定化されたヘパリン端点アルデヒドの27.3から、EDCを用いた多点付着によって固定化されたUSPヘパリンの139.1までの範囲であった。ヘパリナーゼ-1処理と染色の後、輝度の値はすべてのサンプルで増大した。これは、ヘパリンが失われ、その結果として染色と着色が減少したことを示している。ヘパリナーゼ-1に対する感受性がより大きいサンプルでは、変化がより大きい。この変化は、規格化した輝度変化のグラフで証明される。“規格化した輝度変化”という用語は、ヘパリナーゼ-1処理後の輝度の値から固定化後の輝度の値を差し引いた後に固定化後の輝度の値で割って100を掛けた値として定義される。すなわち{[(輝度(ヘパリナーゼ後)−輝度(ヘパリナーゼ前))]÷輝度(ヘパリナーゼ前)}×100である。表2にある各サンプルの規格化した輝度変化は、ヘパリン体のタイプと固定化付着法の関数として示した図3Cに示してある。ヘパリン端点アルデヒドの規格化した輝度変化は固定化付着法に依存しており、端点付着では603という値であり、多点付着では66という値であった。この依存性は、ヘパリンとネオマイシンからなるヘパリン体において、端点付着での値が231、多点付着での値が16として観察された。多点付着のUSPヘパリンも規格化した輝度変化が小さく、14という値であった。規格化した輝度変化が小さいというのは、表面がヘパリナーゼ-1抵抗性であり、したがって除去されたヘパリンが少ないことを示している。
【0094】
ヘパリナーゼ-1は、ヘパリンまたはヘパリン体を表面から除去するのに有効であった。それは、トルイジンブルーによる実質的な染色がなく、その結果として着色がなく、規格化した輝度変化が大きいことからわかる。ヘパリナーゼ-1を用い、ヘパリンまたはヘパリン体が、自由端アルデヒドを通じて付着しているか、カルボジイミド共役を利用した多点付着を通じて付着しているかを識別した。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例10
この実施例では、殺菌後の基板表面へのヘパリン体の付着法を識別する検出法示す。この実施例では特に、自由端アルデヒドを含む単点付着を利用してePTFE基板の表面に固定化させることを通じてヘパリン体を付着させた後に殺菌してホウ酸で洗浄する場合を見る。
【0097】
実施例6のヘパリン体を実施例7に記載したようにしてePTFEの表面に固定化した。サンプルは、トルイジンブルー染色からわかるように、ヘパリンでよく覆われている(図4Aに図示)。他の端点付着サンプルを、実施例7に記載したようにしてEtOで3回殺菌した。実施例9に記載したように、殺菌の後、トルイジンブルーで染色して輝度を測定する前に、これらサンプルの一部をDI水で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かしたもの、pH9.0)で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたって洗浄した。
【0098】
殺菌したがホウ酸での洗浄はしていないサンプルのトルイジンブルーによる染色を、ヘパリナーゼ-1処理の前(図4B)とヘパリナーゼ-1処理の後(図4C)に実施した。着色と小さな輝度値(それぞれ31.7と85.6)から、どちらのサンプルでもヘパリンが存在していることがわかる。殺菌しなかったヘパリン体と比べると、殺菌により、自由端アルデヒドによって結合したヘパリン体をヘパリナーゼ-1が解重合させる能力が低下するように見えた。
【0099】
殺菌してホウ酸で洗浄したサンプルのトルイジンブルーによる染色を、ヘパリナーゼ-1処理の前(図4D)とヘパリナーゼ-1処理の後(図4E)に実施した。ヘパリナーゼ-1処理の前にはトルイジンブルーで染色されていて輝度の値が54.4であることからヘパリン体が密に覆っていることが示されたのに対し、ホウ酸での洗浄とヘパリナーゼ-1処理を受けたサンプルは、実質的にトルイジンブルーの染色がなくて輝度の値は186.3であることから、付着したヘパリン体のヘパリナーゼ感受性が大きいことが示された。
【0100】
この実施例は、付着したヘパリン体のヘパリンのコンホメーションをホウ酸が回復させたことを示している。それは、大きなATIII特異性とヘパリナーゼ感受性によって例示される。理論に囚われることを望んでいないため、固定化されたヘパリン体層のコンホメーションが殺菌によって変化し、ATIIIに対する特異性が低下し(小さな活性が証拠となる)、ヘパリナーゼ感受性が低下した(トルイジンブルーによる大きな染色が証拠となる)と考えられる。さらに、ホウ酸を用いた洗浄により、殺菌によって変化した付着したヘパリン体層のコンホメーションが回復したと考えられる。図4Eでは染色されていないことからわかるように、コンホメーションの回復により、付着したヘパリン体はヘパリナーゼ-1による解重合に対する感受性を持つようになった。さらに、ヘパリナーゼ-1が認識するコンホメーションを付着したヘパリン体が持つならば、ATIIIは付着したヘパリン体を認識するであろうし、逆も正しいと考えられる。
【0101】
実施例11
この実施例では、ヘパリナーゼ-1で解重合したヘパリン体を強陰イオン交換高性能液体クロマトグラフィ(SAX-HPLC)でオリゴ糖マッピングすることを利用してヘパリン体の組成を明らかにする検出法を示す。
【0102】
USPヘパリンと実施例1と2のヘパリン体を、2.5ミリモルの酢酸カルシウムを含む50mMの酢酸塩緩衝液(pH7.3)100μlの中に0.1mg溶かした。6ミリ単位のヘパリナーゼ-1を30℃にて15時間にわたって添加してUSPヘパリンと実施例1と2のヘパリン体を解重合することにより構成要素のオリゴ糖にし、-85℃で週間凍結させた。
【0103】
各サンプルからのオリゴ糖をSAX-HPLCによって分析し、5ミクロンSAXカラム(150×4.6mm;Spherisorb、ウォーターズ社)を用いて232nmで定量した。0〜5分の間は50mMのNaCl(pH4.0)を用いて無勾配分離を実施し、5〜90分の間は、100%の50mM NaCl(pH4.0)から100%の1.2M NaCl(pH4.0)まで1.2ml/分の流量にして直線勾配分離を実施した。
【0104】
図5は、(A)解重合されたUSPヘパリンと、(B)ヘパリンと、硫酸コリスチンを含むコアとを有する実施例1のヘパリン体が解重合されたものと、(C)ヘパリンと、硫酸ネオマイシンを含むコアとを有する実施例2のヘパリン体が解重合されたものの定性マップを示している。USPヘパリンのクロマトグラムはベース・ラインのケースであり、実施例1と2のヘパリン体のための参照基準として使用した。図5Aの各ピークは、USPヘパリンに特徴的なユニークな解重合オリゴ糖断片を表わしている。図5Bと図5Cに鉛直方向の矢印で示した新たなピークは、USPヘパリンとは異なる新たなオリゴ糖単位を表わしているため、署名となるこれらの異なったピークを通じてヘパリン体を同定できた。
【0105】
ヘパリンと、硫酸コリスチンを含むコアとを有する実施例1のヘパリン体については、図5Bのクロマトグラムに、USPヘパリンのクロマトグラムとは異なる少なくとも3つのピークが、15.581分、24.699分、35.023分の位置に見られる(鉛直方向の矢印で示す)。構造上は、これらの新たなピークは、ヘパリン体を構成するのに用いたコア分子である硫酸コリスチンと関係している。ヘパリナーゼ-1を用いてヘパリン体を解重合するとき、コア分子である硫酸コリスチンを含んでいて構造が異なる新たな多糖単位が生じた。
【0106】
ヘパリンと、硫酸ネオマイシンを含むコアとを有する実施例2のヘパリン体については、図5Cのクロマトグラムに、USPヘパリンのクロマトグラムとは異なる少なくとも3つのピークが、9.276分、25.386分、34.867分の位置に見られる(鉛直方向の矢印で示す)。構造上は、これらの新たなピークは、ヘパリン体を構成するのに用いたコア分子である硫酸ネオマイシンと関係している。ヘパリナーゼ-1を用いてヘパリン体を解重合するとき、コア分子である硫酸ネオマイシンを含んでいて構造が異なる新たな多糖単位が生じた。
【0107】
実施例12
この実施例では、ヘパリナーゼ-1で解重合したヘパリン体を強陰イオン交換高性能液体クロマトグラフィ(SAX-HPLC)でオリゴ糖マッピングすることを利用して、表面に固定化されたヘパリン体の組成を明らかにする検出法を示す。
【0108】
実施例9に従い、自由端アルデヒドを含むヘパリンをePTFE/PEI円板の表面に固定化した。実施例7に従い、実施例1のヘパリン体をePTFE/PEI円板の表面に固定化した。約4cm2の各円板からなるサンプルを個別の試験管の中に入れた。1mlの酢酸塩緩衝液(50mMの酢酸ナトリウムと2.5mMの酢酸カルシウム、pH7.3からなる)を60μlのヘパリナーゼ-1溶液とともに各試験管に添加することにより、これらサンプルを解重合して構成要素であるオリゴ糖にした。ヘパリナーゼ-1溶液は、酢酸塩緩衝液(50mMの酢酸ナトリウムと2.5mMの酢酸カルシウム、pH7.3)と、1.67 IU/mlの濃度のヘパリナーゼ-1(EC 4.2.2.7、シグマ-オールドリッチ社)を含んでいた。試験管を30℃で18時間にわたってインキュベートし、約0.5mlの液体サンプルを採取して-85℃で瞬間凍結させ、実施例11に記載したようにしてSAX-HPLC分析を実施した。
【0109】
図6は、(A)ePTFEの表面に固定化した自由端アルデヒド含有ヘパリンと、(B)ヘパリンと、硫酸コリスチンからなるコアとで構成されていてePTFEの表面に固定化されたヘパリン体について、解重合した表面の定性的SAX-HPLCマップを示している。ePTFEの表面に固定化された自由端アルデヒド含有ヘパリンのクロマトグラムはベース・ラインのケースであり、実施例1のヘパリン体のための参照基準として使用した。図6Aの各ピークは、ePTFEの表面に固定化された自由端アルデヒド含有ヘパリンに特徴的なユニークな解重合オリゴ糖を表わしている。図6Bと図6Cに鉛直方向の矢印で示した新たなピークは、ePTFEの表面に固定化された自由端アルデヒド含有ヘパリンとは異なる追加のオリゴ糖を表わしているため、ヘパリンと、硫酸コリスチンからなるコアとで構成されていてePTFEの表面に固定化されたヘパリン体が同定される。
【0110】
実施例13
この実施例では、ヘパリンと、ポリ-L-リシンを含むコアとを含むヘパリン体の構造を記載する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいない。このヘパリン体は、イオン結合を通じて基板の表面に付着させるのに使用できる。
【0111】
分子量が1,000〜5,000のポリ-L-リシンヒドロブロミド(0.1776g、シグマ-オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)を、MES緩衝液(pH4.7、BupH(登録商標)、サーモ・サイエンティフィク社)を含む300mlのDI水に溶かし、pHを4.7に調節した。そこに10gのUSPヘパリンと、4gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)と、4gのEDCヒドロクロリドを添加した。室温で4時間にわたって放置して反応を進行させた後、50,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて一晩透析した。保持液を50mlの試験管に移し、瞬間凍結させ、凍結乾燥させると細かい粉末が生成した。その後、この粉末生成物を使用し、ヘパリンと、ポリ-L-リシンからなるコアとからなる構造体を、イオン結合を通じてePTFEシート材料の表面に固定化した。
【0112】
実施例14
実施例13のヘパリン体をイオン結合を通じてePTFE基板の表面に固定化した。
【0113】
ePTFE/PEI円板を実施例7に従って用意した。構造体に関する1×1cmの正方形のePTFEサンプル5個を、ヘパリン体を含む塩化ナトリウム塩溶液(アルデヒドを含まず、ポリ-L-リシンからなるコアを含む約0.247gのヘパリンと、0.16gのクエン酸ナトリウム三塩基性二水和物と、1.607gのNaClとを55mlのDI水に溶かしたもの、pH3.9)の中に入れ、120分間にわたって60℃に維持することで、ポリ-L-リシンからなるコアを含むが自由端アルデヒドは含まない実施例13のヘパリン体をイオン結合を通じてPEI層に付着させた。
【0114】
次に、これらのサンプルをDI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝液(0.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かしたもの、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたって洗浄した後、構造体全体を凍結乾燥させることで、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを製造した。ポリ-L-リシンからなるコアを含むヘパリンの存在と一様性を、この構造体の両面をトルイジンブルーで染色することによって調べた。染色によって均一に染色された表面が生じた。これは、ヘパリンが存在していて、ePTFE材料に一様に結合していることを示している。
【0115】
実施例15
この実施例では、ヘパリンとヘパリン体を表面に固定化するための共役法をあきらかにするための検出法を示す。この実施例では特に、ヘパリナーゼ-1で解重合した後に、固定化されたヘパリンまたはヘパリン体の表面にある表面結合不飽和ヘパリン断片または“節”の検出を見る。ヘパリナーゼ-1によるヘパリンの解重合には、ヘパリンの非還元性末端ウロン酸が酵素によって開裂し、さまざまな検出分子(例えばチオール-テルビウム蛍光分子)と反応させることができる4,5-不飽和誘導体になることが含まれる。イオン結合したヘパリンの負の対照(実施例14)が含まれる。
【0116】
チオール-テルビウムをベースとした蛍光分子を使用した。5gのヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを50mlのDI水に溶かし、0.03894gのトリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウム[Tb(4MTB3)]を10mlのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶かした。次に、このTb(4MTB3)溶液を一滴ずつヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン溶液に添加すると、透明な無色の溶液になった。その後、この溶液を使用前に0.22μmのステリクス・フィルタ・カートリッジを通過させて濾過した。
【0117】
ePTFEで被覆した実施例14の1cm×1cmの基板からなるサンプルと、ヘパリンと、硫酸コリスチンを含むコアとを含む実施例1の1cm×1cmのヘパリン体サンプルを、実施例7に従って固定化し、ヘパリナーゼ-1で解重合させた後、チオール-テルビウムと反応させた。比較のため、実施例7に従ってePTFE基板の表面に固定化した(アメリカ合衆国特許第4,613,665号に従って製造した)ヘパリン端点アルデヒドも使用した。こうすることで、ヘパリンが端点付着によって固定化されたヘパリンが得られた。
【0118】
1mlの緩衝液(20mMのトリス、50mMのNaCl、10mMのCaCl2、0.01%のBSA、pH7.5)に希釈した100単位のヘパリナーゼ-1(EC 4.2.2.7、シグマ-オールドリッチ社)をシェーカーの上で室温にて35分間にわたって用いてサンプルを解重合させた。するとePTFE基板の表面に結合した表面結合不飽和ヘパリン断片の小さな断片(“節”)が得られた。次にサンプルをDI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かしたもの、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最終分析に使用するまでDI水の中で保管した。ePTFE基板の表面に結合した不飽和なヘパリン断片にチオール-テルビウム化合物をマイケル様付加することを通じてサンプルを蛍光標識した。この蛍光標識では、Tb(4MTB3)/ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン溶液を収容したバイアルに各サンプルを入れ、窒素を1分間パージし、キャップをし、70℃にて一晩にわたってインキュベートした。サンプルをバイアルから取り出し、10重量%のヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンを含むDI水で洗浄し、イメージングのためにガラス製顕微鏡用スライドの上に配置した。
【0119】
オーシャン・オプティクス重水素短波長励起源を斜めの角度で利用し、ニコンE-6000顕微鏡を用いてサンプルのイメージングを実施した。FITCフィルタ・キューブを利用し、白色光とUV光の両方で励起した蛍光画像を取得した。イメージング中はすべてのサンプルを湿潤状態に維持してバックグラウンド散乱を最少にし、白黒カメラで画像を得た。UV光で励起したサンプルを画像化し、視覚化の目的で画像に緑色を人工的に着色した。
【0120】
明確なUV蛍光、したがってePTFE基板の表面に結合した表面結合不飽和ヘパリン断片(“節”)の検出が、端点アルデヒドヘパリンのサンプルにおいてと、ヘパリンと、硫酸コリスチンを含むコアとを含むヘパリン体のサンプルにおいて記録された。UV蛍光の不在が、イオン結合したヘパリンとポリ-L-リシンを含むがアルデヒドは含まない巨大分子構造体において記録された。
【0121】
実施例16
この実施例では、ヘパリンとアンチトロンビンIII(ATIII)の結合が多い、ヘパリンと、アミン含有フルオロポリマーを含むコアとを含むヘパリン体に関する本発明の一実施態様の構成と利用法を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0122】
以下の条件を利用してアミン含有フルオロポリマーを調製した。モル比20:80のテトラフルオロエチレンと酢酸ビニルを含むコポリマーを調製した。窒素でパージした1リットルの圧力反応装置に、500gのDI水と、2gの20%ペルフルオロオクタン酸アンモニウム水溶液と、蒸溜した30mlの酢酸ビニルと、10gのn-ブタノールと、0.2gの過硫酸アンモニウムを真空下で添加した。次に、テトラフルオロエチレン・モノマーを反応装置の中に、反応装置の圧力が1500kPaに達するまで供給した。この混合物を撹拌し、50℃に加熱した。圧力低下が観察されたとき、25mlの酢酸ビニルを反応装置の中にゆっくりと供給した。酢酸ビニルの添加後に圧力がさらに150kPa低下したとき、反応を停止させた。コポリマーは、ラテックス・エマルジョンの凍結-解凍凝固から得られ、メタノール/水を用いた抽出でクリーンにした。次にコポリマーを加水分解した。50mlの丸底フラスコに、0.5gのコポリマーと、10mlのメタノールと、0.46gのNaOHとを含む2mlのDI水を添加した。この混合物を撹拌し、5時間にわたって60℃に加熱した。次にこの反応混合物を酸性化してpH4にし、DI水の中で沈殿させた。次に、加水分解されたコポリマーをアセタール化した。加水分解されたコポリマーを2.5%w/vでメタノールに溶かした。この溶液50gを撹拌している中に33mlのDI水を添加し、均一な溶液にした。この溶液に0.153gのアミノブチルアルデヒドジメチルアセタールと、0.120mlの37%HCl溶液を添加した。この溶液を窒素下で撹拌しながら80℃にて48時間にわたって反応させた。水酸化ナトリウムを1M溶液から一滴ずつ添加してpHを約9.0にした。得られたポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール-コ-ビニル[アミノブチルアルデヒドアセタール])(TFE-VOH-AcAm)のコポリマーは、大量のDI水の中に沈殿させることによって回収した。沈殿物を濾過し、再びメタノールに溶かし、大量のDI水の中に再び沈殿させる操作をさらに2回実施した。最終生成物を真空下で60℃にて3時間にわたって乾燥させた。FTIRと炭素NMRによってポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ビニルアルコール-コ-ビニル[アミノブチルアルデヒドアセタール])の構造を確認した。
【0123】
(アメリカ合衆国特許第4,613,665号に従って製造した)48mgのアルデヒド改変ヘパリンを30mlのDI水に溶かした。この溶液に86μlの2.5%シアノホウ水素化ナトリウム溶液(オールドリッチ社)を添加し、HClを用いてpHを3.8に調節した。それとは別に、TFE-VOH-AcAmコポリマーを過熱したメタノールに2.5%w/vとなるように溶かした後、室温まで冷却した。20mlのTFE-VOH-AcAm溶液に13mlのヘパリン溶液を一滴ずつ添加するとわずかにミルク状になったエマルジョンが得られた。このエマルジョンを2.5時間にわたって60℃に維持した後、さらに2時間にわたって室温に維持した。50kDaの膜(SpectraPor)を用いてこのエマルジョンをDI水に対して18時間にわたって透析し、-80℃で瞬間凍結させた後、凍結乾燥させて粉末にした。この粉末10mgを0.1mgの亜硝酸ナトリウム(シグマ社)および20μlの酢酸(ベーカー社)とともに2.5mlの氷冷DI水の中に懸濁させた。0℃にて2時間にわたって反応させた後、10kDaの膜(SpectraPor)を用いて懸濁液をDI水に対して18時間にわたって透析し、-80℃で瞬間凍結させた後、凍結乾燥させた。
【0124】
実施例17
この実施例では、ヘパリンとアンチトロンビンIIIの結合が多い、ヘパリンと、アミン含有フルオロポリマーを含むコアとを含むヘパリン体に関する本発明の一実施態様の構成と利用法を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる、ヘパリン成分の長さに沿ったアルデヒドを含んでいる。
【0125】
(アメリカ合衆国特許第4,613,665号に従って製造した)48mgのアルデヒド改変ヘパリンを30mlのDI水に溶かした。この溶液に86μlの2.5%シアノホウ水素化ナトリウム溶液(オールドリッチ社)を添加し、HClを用いてpHを3.8に調節した。それとは別に、実施例16のTFE-VOH-AcAmコポリマーを過熱したメタノールに2.5%w/vとなるように溶かした後、室温まで冷却した。20mlのTFE-VOH-AcAm溶液に13mlのヘパリン溶液を一滴ずつ添加するとわずかにミルク状になったエマルジョンが得られた。このエマルジョンを2.5時間にわたって60℃に維持した後、さらに2時間にわたって室温に維持した。50kDaの膜(SpectraPor)を用いてこのエマルジョンをDI水に対して18時間にわたって透析し、-80℃で瞬間凍結させた後、凍結乾燥させて粉末にした。
【0126】
100mlのDI水と、0.82gの酢酸ナトリウムと、0.128gの過ヨウ素酸ナトリウム(ICN)とを含む溶液を調製した。この溶液12mlに12mgの粉末を懸濁させた。暗所で30分間にわたって反応させた後、1.2mlのグリセロールを添加して反応を停止させ、10kDaの膜(SpectraPor)を用いて懸濁液をDI水に対して18時間にわたって透析し、-80℃で瞬間凍結させた後、凍結乾燥させた。
【0127】
実施例18
実施例7に記載した方法に従い、ヘパリンと、アミン含有フルオロポリマーを含むコアとを含む実施例16と17のヘパリン体をePTFE/PEI基板の表面に固定化したが、サンプルをEtOに曝露しなかった点が異なっている。実施例7に記載した方法に従ってATIII結合活性を測定した。
【0128】
【表3】

【0129】
実施例19
この実施例では、ヘパリンとアンチトロンビンIIIの結合が多い、ヘパリンと、アミン含有フルオロポリマーを含むコアとを含むヘパリン体に関する本発明の一実施態様の構成と利用法を説明する。このヘパリン体は、基板の表面に付着させるのに使用できる自由端アルデヒドを含んでいる。
【0130】
以下の条件を利用してアミン含有フルオロポリマーを調製した。4リットルの反応装置に2リットルのt-ブタノールを装填した。50gのテトラフルオロエチレン(TFE)と、200gのペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)と、100gのN-ビニルホルムアミド(NFA)を、開始剤としての0.4gのペルオキシジ炭酸ジイソプロピルとともに添加した。この溶液を70℃にて3時間にわたって800rpmの速度で撹拌した。沈殿物を反応装置から取り出し、2時間にわたって空気乾燥させ、真空下で40℃にて24時間にわたって乾燥させた。プロトンとフッ素のNMR分析によってTFE-PMVE-NFAポリマーの組成が、46重量%のNFAと、27重量%のPTFEと、27重量%のPMVEであることが確認された。このポリマーはメタノールに溶け、水中で膨張した。
【0131】
25gのTFE-PMVE-NFAポリマーを100mlのDI水に分散させた。この混合物を70℃に加熱し、30mlの37%HClをゆっくりと添加した。この溶液を4時間にわたって90℃に維持した。加水分解されたポリマーをアセトン沈殿から回収し、2時間にわたって空気乾燥させ、真空下で40℃にて24時間にわたって乾燥させた。FTIR分析により、ビニルホルムアミド基が加水分解されてビニルアミン(VA)基になったことが確認された。TFE-PMVE-VAポリマーは水溶性であった。
【0132】
バイアルの中で、0.8gのEDCと0.8gのスルホ-NHSを含む50mlの0.1M MES緩衝液に2gのUSPヘパリンを溶かした。第2のバイアルの中で、1gのTFE-PMVE-VAポリマーと30mlの0.1M MES緩衝液からなる第2の溶液を調製した。そのヘパリン溶液を室温にて上記のポリマー溶液の中に一滴ずつ4時間かけて添加し、0.1NのNaOHを用いてpHを4.7に維持した。室温で一晩にわたって反応を維持した。DI水の中で10,000MWCO膜(Spectra/Por(登録商標))を用いて2日間にわたってその溶液を透析した。保持液を回転蒸発によって濃縮した。
【0133】
0.01gのNaNO2と、100mlのDI水と、2mlの酢酸を保持液に添加した。0℃にて2時間にわたって反応させた後、DI水に対して2日間にわたって透析させ、-80℃で瞬間凍結させ、次いで凍結乾燥させた。
【0134】
当業者には、本発明の精神または範囲を逸脱することなくさまざまな改変やバリエーションが可能であることは明らかであろう。したがって本発明のそのような改変やバリエーションとその等価物が添付の請求項の範囲内にある限り、そのような改変やバリエーションは本発明によってカバーされると考えられる。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合したヘパリン体を備えていて、該結合したヘパリン体がヘパリナーゼ感受性である医療用基板。
【請求項2】
ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、生体適合性金属からなるグループの中から選択される、請求項1に記載の医療用基板。
【請求項3】
延伸ポリテトラフルオロエチレンである、請求項2に記載の医療用基板。
【請求項4】
前記生体適合性金属がニチノールである、請求項2に記載の医療用基板。
【請求項5】
医療装置の一部品である、請求項1に記載の医療用基板。
【請求項6】
前記医療装置の選択が、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線、バルーン、留置フィルタからなるグループの中からなされる、請求項5に記載の医療用基板。
【請求項7】
前記ステントを心臓、末梢、神経の用途に使用できる、請求項6に記載の医療用基板。
【請求項8】
前記ステント-グラフトを心臓、末梢、神経の用途に使用できる、請求項6に記載の医療用基板。
【請求項9】
前記ヘパリン体が、少なくとも1個のヘパリン分子と少なくとも1個のコア分子を含む、請求項1に記載の医療用基板。
【請求項10】
前記コア分子が、環形、直線形、分岐形、樹枝形、Y字形、T字形、星形のいずれかである、請求項9に記載の医療用基板。
【請求項11】
前記コア分子の選択が、タンパク質、炭水化物、アミノグリコシド、多糖、ポリマーからなるグループの中からなされる、請求項9に記載の医療用基板。
【請求項12】
前記タンパク質の選択が、アルブミン、コリスチン、ポリリシンからなるグループの中からなされる、請求項11に記載の医療用基板。
【請求項13】
前記多糖の選択が、シクロデキストリン、セルロース、キトサンからなるグループの中からなされる、請求項11に記載の医療用基板。
【請求項14】
前記ポリマーの選択が、ポリエチレングリコール(PEG)、テトラフルオロエチレンのコポリマーからなるグループの中からなされる、請求項11に記載の医療用基板。
【請求項15】
前記ヘパリンがウシまたはブタに由来する、請求項1に記載の医療用基板。
【請求項16】
請求項1に記載の医療用基板において、ヘパリナーゼ処理の後、ヘパリンまたはその断片が前記基板上で検出されない医療用基板。
【請求項17】
請求項1に記載の医療用基板において、ヘパリナーゼ処理の後、ヘパリンまたはその断片が、ヘパリナーゼ処理の前よりも有意に低いレベルでその医療用基板上で検出される医療用基板。
【請求項18】
ヘパリンまたはその断片が、そのヘパリンまたはその断片に結合する標識によって検出される、請求項16に記載の医療用基板。
【請求項19】
ヘパリンまたはその断片に結合する前記標識の選択が、染料、ポリクローナル抗体、タンパク質からなるグループの中からなされる、請求項18に記載の医療用基板。
【請求項20】
前記染料がトルイジンブルーである、請求項19に記載の医療用基板。
【請求項21】
請求項1に記載の医療用基板において、ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーが残留ヘパリンまたはその断片に結合するが、その基板上では目視によって検出されない、医療用基板。
【請求項22】
ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーが残留ヘパリンまたはその断片に結合し、検出器の読みが、ほぼバックグラウンドのレベルであるか、ヘパリン体なしの基板と比較してバックグラウンドと有意差がない、請求項1に記載の医療用基板。
【請求項23】
請求項1に記載の医療用基板において、前記ヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じてその基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子が端点付着を通じてその基板に付着している医療用基板。
【請求項24】
請求項1に記載の医療用基板において、前記ヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じてその基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子がループ付着を通じてその基板に付着している医療用基板。
【請求項25】
請求項1に記載の医療用基板において、前記ヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じてその基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子が端点アルデヒドを通じてその基板に付着している医療用基板。
【請求項26】
請求項1に記載の医療用基板において、前記ヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じてその基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子が、そのヘパリンの長さに沿ったアルデヒドを通じてその基板に付着している医療用基板。
【請求項27】
少なくとも1個のヘパリン分子と少なくとも1個のコア分子を含むヘパリン体であって、該ヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合しており、該ヘパリン体がヘパリナーゼ感受性である、ヘパリン体。
【請求項28】
前記基板の選択が、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、生体適合性金属からなるグループの中からなされる、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項29】
前記基板が延伸ポリテトラフルオロエチレンである、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項30】
前記生体適合性金属がニチノールである、請求項28に記載のヘパリン体。
【請求項31】
前記基板が医療装置の一部品である、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項32】
前記医療装置の選択が、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線、バルーン、留置フィルタからなるグループの中からなされる、請求項31に記載のヘパリン体。
【請求項33】
前記ステントを心臓、末梢、神経の用途に使用できる、請求項32に記載のヘパリン体。
【請求項34】
前記ステント-グラフトを心臓、末梢、神経の用途に使用できる、請求項32に記載のヘパリン体。
【請求項35】
前記コア分子が、環形、直線形、分岐形、樹枝形、Y字形、T字形、星形のいずれかである、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項36】
前記コア分子の選択が、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、多糖、アミノグリコシド、ポリマーからなるグループの中からなされる、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項37】
前記タンパク質の選択が、アルブミン、コリスチン、ポリリシンからなるグループの中からなされる、請求項36に記載のヘパリン体。
【請求項38】
前記多糖の選択が、シクロデキストリン、セルロース、キトサンからなるグループの中からなされる、請求項36に記載のヘパリン体。
【請求項39】
前記ポリマーの選択が、ポリエチレングリコール(PEG)、テトラフルオロエチレンのコポリマーからなるグループの中からなされる、請求項36に記載のヘパリン体。
【請求項40】
前記ヘパリンがウシまたはブタに由来する、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項41】
ヘパリナーゼ処理の後、ヘパリンまたはその断片が前記基板上で検出されない、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項42】
ヘパリナーゼ処理の後、ヘパリンまたはその断片が、ヘパリナーゼ処理の前よりも有意に低いレベルで検出される、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項43】
ヘパリンまたはその断片が、そのヘパリンまたはその断片に結合する標識によって検出される、請求項41に記載のヘパリン体。
【請求項44】
ヘパリンまたはその断片に結合する前記標識の選択が、染料、抗体、タンパク質からなるグループの中からなされる、請求項43に記載のヘパリン体。
【請求項45】
前記染料がトルイジンブルーである、請求項44に記載のヘパリン体。
【請求項46】
ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーが残留ヘパリンまたはその断片に結合するが、前記基板上では目視によって検出されない、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項47】
ヘパリナーゼ処理の後、わずかな量のトルイジンブルーが残留ヘパリンまたはその断片に結合し、検出器の読みが、ほぼバックグラウンドのレベルであるか、ヘパリン体なしの基板と比較してバックグラウンド・レベルと有意差がない、請求項27に記載のヘパリン体。
【請求項48】
請求項27に記載のヘパリン体において、そのヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子が端点付着を通じてその基板に付着しているヘパリン体。
【請求項49】
請求項27に記載のヘパリン体において、そのヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子がループ付着を通じてその基板に付着しているヘパリン体。
【請求項50】
請求項27に記載のヘパリン体において、そのヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子が端点アルデヒドを通じてその基板に付着しているヘパリン体。
【請求項51】
請求項27に記載のヘパリン体において、そのヘパリン体が少なくとも1個のヘパリン分子を通じて基板の表面に結合していて、結合したそのヘパリン分子が、そのヘパリン分子の長さに沿ったアルデヒドを通じてその基板に付着しているヘパリン体。
【請求項52】
コア分子と、
該コア分子に付着した多糖鎖と、
その多糖鎖上の自由端アルデヒド部分と、
を含む、ATIII結合体。
【請求項53】
前記多糖鎖がヘパリンである、請求項52に記載のATIII結合体。
【請求項54】
前記コア分子の選択が、タンパク質、炭水化物、アミノグリコシド、多糖、ポリマーからなるグループの中からなされる、請求項52に記載のATIII結合体。
【請求項55】
前記タンパク質の選択が、アルブミン、コリスチン、ポリリシンからなるグループの中からなされる、請求項54に記載のATIII結合体。
【請求項56】
前記多糖の選択が、シクロデキストリン、セルロース、キトサンからなるグループの中からなされる、請求項54に記載のATIII結合体。
【請求項57】
前記ポリマーの選択が、ポリエチレングリコール(PEG)、テトラフルオロエチレンのコポリマーからなるグループの中からなされる、請求項54に記載のATIII結合体。
【請求項58】
前記ヘパリンがウシまたはブタに由来する、請求項53に記載のATIII結合体。
【請求項59】
前記ヘパリンが前記コア分子に端点付着を通じて結合している、請求項53に記載のATIII結合体。
【請求項60】
前記ヘパリンが基板に端点付着を通じて結合している、請求項53に記載のATIII結合体。
【請求項61】
前記基板の選択が、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、生体適合性金属からなるグループの中からなされる、請求項60に記載のATIII結合体。
【請求項62】
前記基板が延伸ポリテトラフルオロエチレンである、請求項61に記載のATIII結合体。
【請求項63】
前記生体適合性金属がニチノールである、請求項61に記載のATIII結合体。
【請求項64】
前記基板が医療装置の一部品である、請求項60に記載のATIII結合体。
【請求項65】
前記医療装置の選択が、グラフト、血管グラフト、ステント、ステント-グラフト、分岐グラフト、分岐ステント、分岐ステント-グラフト、パッチ、栓子、薬剤送達装置、カテーテル、心臓用リード線からなるグループの中からなされる、請求項64に記載のATIII結合体。
【請求項66】
前記ステントを心臓、末梢、神経の用途に使用できる、請求項65に記載のATIII結合体。
【請求項67】
基板に結合するヘパリン体の構造を決定する方法であって、
a)該ヘパリン体を備える該基板を用意するステップと、
b)該ヘパリン体を解重合して可溶性ヘパリン断片の混合物を生成させるステップと、
c)カラム・クロマトグラフィを利用して、該混合物中の各の該ヘパリン断片を検出するステップと、
d)該ステップ(c)で検出された各の該ヘパリン断片を同定するステップと、
e)検出されて同定された該ヘパリン断片から該ヘパリン体の構造を求めるステップと、を含む方法。
【請求項68】
前記解重合がヘパリナーゼ-1を用いた解重合による、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記カラム・クロマトグラフィがSAX-HPLCである、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
基板に結合するヘパリン体の構造を決定する方法であって、
a)該ヘパリン体を備える該基板を用意するステップと、
b)該ヘパリン体を解重合し、表面に結合したヘパリン断片を含む表面を生成させるステップと、
c)該表面を、表面に結合した該ヘパリン断片に検出可能な成分を導入する標識試薬と反応させるステップと、
d)表面に結合した該ヘパリン断片を検出可能な前記成分を通じて検出するステップと、
e)表面に結合した該ヘパリン断片の存在から該ヘパリン体の構造を求めるステップと、を含む方法。
【請求項71】
前記解重合がヘパリナーゼ-1を用いた解重合による、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記標識試薬がランタノイド系マイケル様付加有機錯体である、請求項70に記載の方法。
【請求項73】
前記有機錯体がトリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウムである、請求項70に記載の方法。
【請求項74】
前記標識試薬が異染性染料である、請求項70に記載の方法。
【請求項75】
前記異染性染料がトルイジンブルーである、請求項70に記載の方法。
【請求項76】
前記検出が、落射蛍光、吸光分光、目視によってなされる、請求項70に記載の方法。
【請求項77】
基板に結合するヘパリン体の空間分布を決定する方法であって、
a)該ヘパリン体を備える該基板を用意するステップと、
b)該ヘパリン体を解重合し、表面に結合したヘパリン断片を含む表面を生成させるステップと、
c)該表面を、表面に結合した該ヘパリン断片に検出可能な成分を導入する標識試薬と反応させるステップと、
d)該表面に結合した該ヘパリン断片を検出可能な該成分を通じて検出するステップと、
e)該表面に結合した該ヘパリン断片の存在から該ヘパリン体の空間分布を求めるステップと、
を含む方法。
【請求項78】
前記解重合がヘパリナーゼ-1を用いた解重合による、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記標識試薬がランタノイド系マイケル様付加有機錯体である、請求項77に記載の方法。
【請求項80】
前記標識試薬がトリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウムである、請求項77に記載の方法。
【請求項81】
前記有機錯体が化学吸着した金ナノ粒子を含む、請求項77に記載の方法。
【請求項82】
前記検出が、落射蛍光顕微鏡法または透過電子顕微鏡法による、請求項77に記載の方法。
【請求項83】
基板に結合するヘパリン体の構造を決定するシステムであって、
a)解重合溶液と、
b)標識試薬溶液と、
c)検出器と、
を備えるシステム。
【請求項84】
前記解重合溶液がヘパリナーゼ-1を含む、請求項83に記載のシステム。
【請求項85】
前記標識試薬溶液が、トルイジンブルーとトリス(4-メチルチオ)安息香酸テルビウムを含む、請求項83に記載のシステム。
【請求項86】
前記検出器が、SAX-HPLCと、落射蛍光顕微鏡と、吸収分光器とを備える、請求項83に記載のシステム。

【図2】
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【図3A−B】
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【図3C】
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【図4A−C】
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【図4D−E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2013−505070(P2013−505070A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529895(P2012−529895)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/049078
【国際公開番号】WO2011/035001
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】