説明

新規なベーキングパウダー組成物及びそれを用いた加工品

【課題】
本発明は、アルミニウム塩及びリン酸塩を含まないが、従来のアルミニウム塩やリン酸塩を含むベーキングパウダーと同等な特性を有する中間性〜遅効性のベーキングパウダー組成物を提供する。
【解決手段】
本発明は、重曹を基剤とし、助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を用い、この酸性剤の表面を融点55℃〜70℃の硬化油脂でコーティングしてその平均膜厚が5〜50μmとなるようにしたコーティング物からなるベーキングパウダー組成物、及びそれを用いて製造された食品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重曹を基剤とし、助剤にアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を用い、当該酸性剤の表面を特定の融点を有する硬化油脂でコーティングして特定の平均膜厚となるようにしたコーティング物からなる、新規な中間性〜遅効性ベーキングパウダー組成物及びそれを用いて製造された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーキングパウダーは、膨張剤の一種で炭酸ガスを発生する重曹を基剤とし、この重曹の分解を助けるための助剤として、酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、酒石酸、焼ミョウバン、フマル酸、リン酸ナトリウム等のような酸性剤からなっている食品添加物である。膨張剤には、低い温度で大量のガスを発生させる速効性(即効性)のもの、高い温度になってから大量のガスを発生させる遅効性のもの、即効性と遅効性の中間に位置する中間性のもの、じっくりと焼き上げるために長い加熱時間に耐えられる持続性のものがあることが知られている。例えば、高温で短時間の加熱による加熱調理には速効性の膨張剤を用い、中〜長時間の加熱調理には中間性〜遅効性のものが用いられている。ベーキングパウダーにおける炭酸ガスの発生のタイミングは助剤として用いる酸性剤によって異なることが知られており、この性質を利用して所望の加工食品が製造されている。例えばスポンジケーキのように内相に細かな気泡を有する食品はガス発生のタイミングが早い速
効性ベーキングパウダーが用いられ、蒸しパンのように内相に比較的大きな気泡を有し、表面を大きく割れた状態にする食品は遅効性ベーキングパウダーが用いられることが多い。
ところで、ベーキングパウダーに用いられる酸性剤としては前記したようにアルミニウム塩(ミョウバン)やリン酸塩が用いられることが多いが、最近の市場では種々の理由からアルミニウム塩やリン酸塩を含まない中間性〜遅効性ベーキングパウダーのニーズが高まっている。
【0003】
一方、ベーキングパウダーは、水分との接触により炭酸ガスを発生させる反応を引き起こし、しかも、加熱されることによって、炭酸ガスが膨張して食品に膨らみを持たせることができるものであり、予期せぬ水分との接触(例えば空気中の湿気など)にあうと中に含まれる酸性剤とアルカリ剤が反応を開始してしまい炭酸ガスが発生してしまうことがあった。このために、酸性剤やアルカリ剤を予期せぬ水分との接触(例えば空気中の湿気など)から防止するために、ベーキングパウダーを油脂又はショ糖脂肪酸エステルなどのコーティング剤でコーティングする方法(特許文献1参照)や、ベーキングパウダーに油脂粉末を含有させる方法(特許文献2参照)や、重曹及び酸性剤を、セルロースエーテル、エチルセルロース及びそれらの溶媒からなる被覆組成物で被覆したベーキングパウダー(特許文献3参照)などが提案されてきた。
また、重曹を水不溶性又は難溶性のコーティング剤、すなわち硬化油脂、ワックス、セルロースエステル、シェラックなどのコーティング剤でコーティングする方法(特許文献4参照)も提案されてきた。
しかしこれらの技術は、いずれも、アルミニウム塩やリン酸塩からなる酸性剤、特にミョウバンやリン酸塩の使用に代わるアルミニウム塩フリー、リン酸塩フリーのベーキングパウダーの開発を意図するものではなく、水分接触によるガスの発生を防止するためのものであった。
【0004】
また、有機酸や有機酸塩は、食品のpHを調整して食品の保存性を向上させる目的で多くの食品で使用されている。しかし、有機酸やその塩を直接添加すると食品の物性が損なわれるばかりでなく、水との接触により分解や酸化が起こることもあって、その多くは被覆製剤として使用されており、その被覆性能は非常に重要とされていた。被覆により、食品の安定性が増すだけでなく、水との接触を防止することができ、さらに、有機酸やその塩自体が異臭を有していても、被覆によりこれをマスキングすることができるからである。
このような目的で使用する有機酸又はその塩類の被覆方法としては、融点50〜70℃の固形油脂と65〜85℃の食用ワックスで有機酸等をコーティングする方法(特許文献5参照)、ショ糖脂肪酸エステル及び融点40℃以上の油脂を用いてフマル酸をコーティングする方法(特許文献6参照)、フマル酸を油脂(融点60℃の牛脂硬化油脂)でコーティングして粒径500μm以下の被覆フマル酸とする方法(特許文献7参照)、有機酸又はその塩の粉状体に、被覆剤として牛脂、牛脂硬化油、魚油硬化油、大豆硬化油、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸塩及びこれらの混合物からなる群より選択される融点40℃以上の動植物粉状体を接触・衝突させ、上記有機酸又はその塩の粉状体の全周囲表面に上記被覆剤を付着・被覆させる方法(特許文献8参照)、フマル酸やソルビン酸などの有機酸を融点40〜90℃の被覆剤で被覆して得られた粒子状の被覆物を相互に衝突接触させて被覆物の被覆性能を向上させる方法(特許文献9参照)などが提案されている。
しかし、これらの方法は、いずれもベーキングパウダーにおける酸性剤のコーティングを開示するものではなく、食品の保存性を向上させるために食品などへ直接配合するための添加剤に関するものであった。また、ベーキングパウダー組成物において、アルミニウム塩フリー、リン酸塩フリーの中間性〜遅効性ベーキングパウダーを何ら示唆するものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−33591号公報
【特許文献2】特開2001−45961号公報
【特許文献3】米国特許第3,930,032号明細書
【特許文献4】特開2004−313185号公報
【特許文献5】特公平7−12300号公報
【特許文献6】特開昭62−18153号公報
【特許文献7】特公昭48−4536号公報
【特許文献8】特公平8−2248号公報
【特許文献9】特公昭58−31903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を用いることにより、アルミニウム塩及びリン酸塩を含まない新規な中間性〜遅効性のベーキングパウダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アルミニウム塩やリン酸塩の摂取を防ぐために、アルミニウム塩及びリン酸塩を含まないベーキングパウダー組成物の開発を検討してきたが、ミョウバンやリン酸塩を用いたベーキングパウダーと同等なガス発生特性を得ることは非常に困難であった。しかし、本発明者らは、鋭意検討の結果、重曹を基剤とし、助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を用い、この酸性剤の表面を特定の融点を有する硬化油脂でコーティングして特定の平均膜厚となるようにしたコーティング物からなる、新規な中間性〜遅効性ベーキングパウダー組成物が、従来のアルミニウム塩やリン酸塩を含むベーキングパウダー組成物とほぼ同等なガス発生特性を有することを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、基剤としての重曹、並びにアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤の表面を融点55℃〜70℃の硬化油脂で平均膜厚が5〜50μmとなるようにコーティングしたコーティング物からなる助剤を含有してなるベーキングパウダー組成物に関する。
また、本発明は、前記した本発明のベーキングパウダー組成物を用いて製造された食品に関する。
【0009】
より詳細には、本発明は、次のとおりである。
(1)重曹を基剤とし、助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を用い、当該酸性剤の表面を融点55℃〜70℃の硬化油脂で平均膜厚が5〜50μmとなるようにコーティングしたコーティング物を含有してなるベーキングパウダー組成物。
(2)酸性剤のコーティングが、流動層コーティング法によりコーティングしたものである前記(1)に記載のベーキングパウダー組成物。
(3)酸性剤が、コハク酸、フマル酸、酒石酸、及びその塩からなる群から選択される前記(1)又は(2)に記載のベーキングパウダー組成物。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のベーキングパウダー組成物を用いて製造された食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、助剤としてアルミニウム塩やリン酸塩を含む従来のベーキングパウダーと同等な特性を有し、且つ、さらにアルミニウム塩及びリン酸塩を含まない中間性〜遅効性のベーキングパウダー組成物を提供することが可能となる。
本発明のベーキングパウダー組成物は、アルミニウム塩及びリン酸塩を含まないので、本発明のベーキングパウダー組成物を用いることにより、ベーキングパウダーに起因するアルミニウム塩やリン酸塩の摂取を防ぐことができる食品を提供することが可能となる。また、本発明のベーキングパウダー組成物は、従来のアルミニウム塩やリン酸塩を含むベーキングパウダー組成物と同等な特性を有するので、従来のアルミニウム塩やリン酸塩を含むベーキングパウダー組成物と同様に中間性〜遅効性のベーキングパウダーとして使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、アルミニウム塩及びリン酸塩を含まないとは、アルミニウム塩やリン酸塩を含む酸性剤を使用しないということであり、実質的にアルミニウム塩及びリン酸塩を含まないということである。
本発明のベーキングパウダー組成物における基剤としては、重曹(炭酸水素ナトリウム)を用いる。
本発明のベーキングパウダー組成物において助剤として用いる酸性剤としては食品に配合しうる有機酸又は酸性を示すその塩であれば使用可能であるが、好ましいものとしてはコハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、乳酸などの有機酸又はそれらの塩が挙げられ、なかでもコハク酸、フマル酸、酒石酸、及びその塩が好ましく、特にフマル酸、酒石酸及びその塩が好ましい。これらの有機酸の塩としては酸性塩が好ましく、例えば、フマル酸一ナトリウム、酒石酸水素カリウムなどが挙げられる。有機酸又はその塩の粒径は特に制限はなく、通常の粉体状のものを使用することができる。食品に添加しうる常温で個体の酸又はその塩が挙げられる。
【0012】
本発明において助剤として使用する酸性剤の表面のコーティングに用いる硬化油脂としては、不飽和脂肪酸を含む液状の油脂に水素添加処理を行って飽和脂肪酸量を増やし固形化したものであって、その融点が55℃〜70℃のものが挙げられる。また、油脂の種類としては、水素添加処理が可能なものであれば特に制限はなく、菜種油、パーム油、大豆油、綿実油、コーン油、牛脂、ラード等が挙げられるが、菜種油、パーム油、大豆油が好ましい。
【0013】
本発明における酸性剤の硬化油脂によるコーティング方法としては、所望のコーティング平均膜厚を得られる方法であれば特に限定されないが、流動層コーティング法が好ましい。この流動層コーティング法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。
(1)流動層造粒コーティング装置を用いて浮遊運動させた酸性剤に、上方より例えばスプレーガンなどで溶融した硬化油脂を連続噴霧し、必要に応じて乾燥・冷却する方法。
(2)遠心流動層コーティング造粒装置を用いてローターの回転による遠心力とスリットエアーにより遊星運動させた酸性剤に、溶融した硬化油脂を液滴下法などにより添加し、必要に応じて乾燥・冷却する方法。
(3)複合型流動層造粒コーティング装置を用いて浮遊流動、遠心転動、旋回流動させた酸性剤に、上方又は側方より例えばスプレーガンなどで溶融した硬化油脂を噴霧し、必要に応じて乾燥・冷却する方法。
(4)ボールミル、電気乳鉢、高能率粉体混合装置、高速気流の対流により粉体を接触させる装置等を用いて、酸性剤と硬化油脂とを接触・衝突させ、上記酸性剤の全周囲表面に上記硬化油脂を付着・被覆する方法。
これらの方法のなかでは、(3)又は(4)の方法が好ましく、特に(4)の方法が好ましい。
【0014】
本発明のベーキングパウダー組成物の好ましい製造方法としては、(a)アルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を、融点55℃〜70℃の硬化油脂で流動層コーティング法でコーティングして、当該酸性剤の表面を平均膜厚が5〜50μmとなるようにコーティングしたコーティング物を製造する工程、及び(b)前記(a)工程で製造したコーティング物と、基剤としての重曹を混合する工程を有してなる助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩を実質的に含有しないベーキングパウダー組成物の製造方法が挙げられる。
当該流動層コーティング法としては、前記した(1)〜(4)のいずれかの方法、好ましくは前記(3)又は(4)の方法、より好ましくは前記(4)の方法が挙げられる。
【0015】
コーティングの膜厚としては、平均膜厚が5〜50μmとなるようにすればよく、好ましくは8〜45μm、さらに好ましくは8〜20μmとすればよい。
本発明におけるコーティングの平均膜厚の測定は、例えば粉体粒度分布測定装置マイクロトラック(日機装株式会社製)を用いて、粒子の粒度分布を測定することにより行うことができる。本発明における平均膜厚は、まず、コーティング前の酸性剤の粒度分布を測定し、平均粒径を算出する。次に、コーティング後の酸性剤の粒度分布を同様に測定し、同じく平均粒径を算出する。この数値を用いて以下の式により平均膜厚を算出する。
平均膜厚=(コーティング後の酸性剤の平均粒径−コーティング前の酸性剤の平均 粒径)/2
コーティングの平均膜厚の調整は、コーティングされる酸性剤の粒径とその量、コーティング材である硬化油脂の供給量を調整することにより行うことができる。
硬化油脂でコーティングされた酸性剤は、平均粒径が10〜300μmの範囲であることが好ましく、さらに50〜200μmであることが好ましい。また、前記平均粒径の範囲で、且つ粒径が10〜300μmの粒子が80質量%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、酸性剤の表面を融点55℃〜70℃の硬化油脂を用いてコーティングし、その平均膜厚が5〜50μmとすることが重要であり、この組合せにより本発明の目的である、酸性剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩を用いなくてもそれらと同等の特性を有するとともに、中間性〜遅効性のベーキングパウダーを得ることができるのである。
用いる硬化油脂の融点が前記範囲以外であったり、コーティングの平均膜厚が前記以外であると、本発明の目的は達成することができない。
【0017】
本発明のベーキングパウダー組成物における基剤である重曹とコーティングされた酸性剤の混合割合としては、基剤である重曹の中和30〜200%相当量の範囲であり、中和50〜150%相当量の範囲が好ましく、具体的には、基剤である重曹100質量部に対して、コーティングされた酸性剤が20〜150質量部、好ましくは35〜100質量部の範囲である。
【0018】
本発明のベーキングパウダー組成物においては、酸性剤にコーティングする硬化油脂は融点が55℃〜70℃の範囲で硬化油脂を適宜選択することができ、また、異なる融点の油脂でコーティングされた有機酸又はその塩の2種以上の混合物を使用することが好ましい。種々の融点の硬化油脂を適宜選択することにより、また、これらの混合物を使用することにより、従来のアルミニウム塩やリン酸塩を用いたベーキングパウダーと同様な作用を有し、アルミニウム塩やリン酸塩を含まない中間性〜遅効性のベーキングパウダー組成物を得ることができる。
即ち、本発明は、基剤として重曹を含有してなるベーキングパウダー組成物において、助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩を実質的に含有していない助剤、より詳細には、助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤の表面を融点55℃〜70℃の硬化油脂で平均膜厚が5〜50μmとなるようにコーティングしたコーティング物からなる助剤を用いることを特徴とするベーキングパウダー組成物、より詳細には中間性〜遅効性のベーキングパウダー組成物を提供する。
【0019】
本発明のベーキングパウダー組成物は、通常、中間性〜遅効性のベーキングパウダーが用いられる種々の食品であれば特に限定されることなく使用することができるが、例えば、;ドーナツ類などの揚げ菓子類;蒸しパン類;マフィン、パウンドケーキ、スポンジケーキなどのケーキ類;シュー菓子類;クッキー類;今川焼き、どら焼きなどの和菓子類;天ぷら等の揚げ物類;さらに、お好み焼き、たこ焼きなどの食品を製造するのに好適なものである。
また、本発明のベーキングパウダー組成物は、上述のミックス粉の原料・素材として用いて、上記の種々のミックス粉を製造することができる。
したがって、本発明は、前記した本発明のベーキングパウダー組成物を含有してなるミックス粉を提供するものである。さらに本発明は、前記した本発明のベーキングパウダー組成物を用いて製造された食品を提供するものである。
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
実施例1
流動層コーティング用装置として高速撹拌機(パウレック社製 VG−05)用い、これにフマル酸450gと硬化菜種油(融点:68.2℃)50gを混合したものを投入し、ブレード回転数500rpm、クロススクリュー回転数2000rpmの条件下にて25℃で40分間混合した。次いで、45℃の恒温槽にて5時間のテンパリングを行って、平均膜厚17.4μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.37g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例1のベーキングパウダー組成物を製造した。
なお、本明細書において、有機酸(フマル酸)又は重曹の油脂コーティング物のコーティング膜厚の測定は、粉体粒度分布測定装置マイクロトラック(日機装株式会社製)を用いて次のように行った。まず、コーティングしていない原料の粒度分布を測定し、平均粒径を算出し、さらにコーティング後の原料の粒度分布を同様に測定し、同じく平均粒径を算出した。この数値を用いて以下の式により平均膜厚を算出した。
平均膜厚=(コーティング後の原料の平均粒径−原料の平均粒径)/2
【0022】
比較例1
フマル酸として、実施例1で使用したフマル酸のコーティング物に代えて、コーティングしていないフマル酸を用いた以外は実施例1と同様にして比較例1のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0023】
比較例2
硬化油脂コーティングするものとして重曹を用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚19.7μmの重曹の硬化油脂コーティング物を得た。次いで、得られた重曹の硬化油脂コーティング物0.83gと実施例1で製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.37gを混合して、比較例1のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0024】
比較例3
フマル酸として、コーティングしていないフマル酸0.33gと、比較例2で製造した重曹の硬化油脂コーティング物0.83gを混合して比較例3のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0025】
試験例1
実施例1のベーキングパウダー組成物及び比較例1〜3のベーキングパウダー組成物について、下記のとおり、ガス発生量及び生地安定性を測定・評価するとともに、これらベーキングパウダー組成物を用いてどら焼きを製造し、その効果について評価を行った。なお、酸性剤としてミョウバンを用いたベーキングパウダー組成物を対照例とした。
【0026】
(1)ガス発生量の測定
ガス発生量の測定は、ATTOのファーモグラフIIを用いて行った。
具体的には、水24gに水飴6gと蜂蜜3gを加えてよく溶かし、卵液16gを加えて更に混ぜる。これに、小麦粉30g、砂糖21g及び重曹1gを含有する相当量の各ベーキングパウダー組成物をあらかじめ混合したものを添加した後、混合してバッター状生地を調製する。このバッター状生地を25〜30℃の室温において10分静置後、80℃の湯煎(撹拌あり)に容器ごと浸漬して該生地を加熱・昇温させ、その間のガス発生量を測定する。なお、ガス発生量は、加温開始後の全ガス発生量、加温開始後〜45℃まで(未満)のガス発生量、及び45℃以上におけるガス発生量を測定した。
【0027】
(2)生地安定性の評価
生地安定性(生地中のベーキングパウダーの安定性)は、上記(1)で用いたバッター状の生地100gを10分静置後又は30分静置後、上記(1)のガス発生量測定法に従ってそれぞれの生地について、45℃以上におけるガス発生量を測定した。次いで、得られた45℃以上でのガス発生量の測定結果から、生地安定性を以下の式で算出した。
生地安定性(%)=(30分静置後の45℃以上ガス発生量(ml)/10分静 置後の45℃以上ガス発生量(ml))×100
【0028】
(3)二次加工試験(どら焼き試験)
実施例1のベーキングパウダー組成物、比較例1〜3のベーキングパウダー組成物を用いてどら焼を製造した。
具体的には、水120gに水飴30g、蜂蜜15gを加えてよく溶かし、卵液78gを加えて更に混ぜる。小麦粉150g、砂糖105g及び重曹0.75gを含有する相当量の各ベーキングパウダー組成物をあらかじめ混合したものを添加した後、混合してどら焼用生地を得た。得られたどら焼き生地を185℃に加熱した鉄板上に25gずつ分注した後、185℃にて片面2分−反転30秒の条件で焼成し、室温まで冷却することによりどら焼きを製造した。
【0029】
製造したどら焼について、以下の評価基準に従って評点1(劣)〜5(優)のスコアとした。得られた結果を下記の表1に示す。
評価基準:
評点1:速効性酸性剤を用いたベーキングパウダーと同等の製品。断面中央部の盛り上 がりに欠け、内相は丸目。歯切れは悪い。
評点2:断面中央部の盛り上がりがやや大きいが、体積は足りず、内相は丸目。歯切れ はやや悪い。
評点3:断面中央部の盛り上がりは大きいが、体積はあまり出ず、内相は丸目と縦目の 混合。
評点4:断面中央部の盛り上がりが大きく、体積が出て、内相は縦目。歯切れもやや良 い。
評点5:ミョウバンを用いたベーキングパウダーと同等の製品。断面中央部の盛り上が りが非常に大きく、しっとり感やボリュームがあり、内相は縦目で歯切れ良い。
【0030】
【表1】

【0031】
比較例1のように重曹、酸性剤ともにコーティングを行わない場合、ガス発生のピーク温度は低く、焼成中も生地温度が低いうちに約半分のガスが発生してしまう。また生地の寝かし時間中にもガスが発生するためか、生地安定性は低く、また、全ガス発生量も少なく、ベーキングパウダーとして劣るものであり、これを用いて得られたどら焼きの評価も非常に低いものであった。
比較例2のように重曹、酸性剤ともにコーティングした場合、生地安定性は高いものの、ガス発生のピーク温度は高く、また全ガス発生量も少なく、ベーキングパウダーとして劣るものであり、これを用いて得られたどら焼きの評価も非常に低いものであった。これは、生地温度が上昇してコーティング材が融解する時には生地粘度が増加しているので、重曹と酸性剤の接触機会が抑制され反応が十分に行われないためと考えられる。
比較例3のように重曹のみをコーティングした場合、ガス発生のピーク温度がやや低く、また前ガス発生量もやや少なく、ベーキングパウダーとしてやや劣るものでり、これを用いて得られたどら焼きの評価も低いものであった
これに対して、実施例1のように酸性剤のみにコーティングした場合、対照例と同様に、ベーキングパウダーとしてガス発生量及び生地安定性に優れ、また、これを用いて得られたどら焼きの評価も高いものであった。
【0032】
実施例2
原料として、フマル酸475gと硬化菜種油(融点:68.2℃)25gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚8.5μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
重曹0.75gに、上記で製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.35g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例2のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0033】
実施例3
実施例1と同様にして、平均膜厚17.4μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化コーティング物0.37g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例3のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0034】
実施例4
原料として、フマル酸400gと硬化菜種油(融点:68.2℃)100gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚42.7μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.42g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例4のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0035】
比較例4
原料として、フマル酸495gと硬化菜種油(融点:68.2℃)5gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚2.0μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.34g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、比較例4のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0036】
比較例5
原料として、フマル酸300gと硬化菜種油(融点:68.2℃)200gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚106.2μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.56g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、比較例5のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0037】
試験例2
実施例2〜4のベーキングパウダー組成物、比較例4及び5のベーキングパウダー組成物について、試験例1と同様にして、ガス発生量及び生地安定性を測定・評価するとともに、これらベーキングパウダー組成物を用いてどら焼きを製造し、その効果について試験例1と同様に評価を行った。なお、酸性剤としてミョウバンを用いたベーキングパウダー組成物を対照とした。
これらの結果を次の表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
比較例4のように、硬化油脂でフマル酸をコーティングしていても、そのコーティングの平均膜厚が5μm未満である場合には、全ガス発生量が少なく、生地安定性が低くなっており、また、これを用いて得られたどら焼きの評価も低いものであった。
また、比較例5のように、フマル酸のコーティングの平均膜厚が50μmを超える場合には、生地安定性が良いものの、全ガス発生量が少なく、また、これを用いて得られたどら焼きの評価もやや低いものであった。
一方、実施例2〜4のように、フマル酸の硬化油脂のコーティング膜厚が本発明の範囲であるものは、対照例と同様に、45℃以上でのガス発生量及び全ガス発生量が多く、生地安定性にも優れ、また、このベーキングパウダー組成物を用いて得られたどら焼きの評価も高いものであった。
【0040】
実施例5
原料として、フマル酸450gと硬化パーム油脂(融点:55.4℃)50gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚12.6μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.37g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例5のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0041】
比較例6
原料として、フマル酸450gとパーム油脂(融点:43.0℃)50gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚14.8μmのフマル酸の油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.37g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、比較例6のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0042】
試験例3
実施例5及び実施例3のベーキングパウダー組成物、比較例6のベーキングパウダー組成物について、試験例1と同様にして、ガス発生量及び生地安定性を測定・評価するとともに、これらベーキングパウダー組成物を用いてどら焼きを製造し、その効果について試験例1と同様に評価を行った。なお、酸性剤としてミョウバンを用いたベーキングパウダー組成物を対照とした。
これらの結果を次の表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
比較例6のように、油脂でコーティングし、その平均膜厚が14.8μmと本発明の範囲であっても、当該油脂の融点が55℃未満である場合には、全ガス発生量がやや少なく、また、生地安定性が低いものであった。また、このベーキングパウダー組成物を用いて得られたどら焼きの評価も低いものであった。
一方、実施例5のように、フマル酸を融点が55.4℃の硬化パーム油でコーティングしたベーキングパウダー組成物の場合には、対照例と同様に、45℃以上でのガス発生量及び全ガス発生量が多く、生地安定性にも優れ、また、このベーキングパウダー組成物を用いて得られたどら焼きの評価も高いものであった。
【0045】
実施例6
原料として、フマル酸一ナトリウム450gと硬化大豆油脂(融点:67.0℃)50gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚16.7μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造したフマル酸の硬化油脂コーティング物0.88g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例6のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0046】
実施例7
原料として、酒石酸450gと硬化大豆油(融点:67.0℃)50gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚17.2μmのフマル酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造した酒石酸の硬化油脂コーティング物0.37g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例8のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0047】
実施例8
原料として、酒石酸400gと硬化大豆油脂(融点:67.0℃)100gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚41.4μmの酒石酸の硬化油脂コーティング物を製造した。
次いで、重曹0.75gに、上記製造した酒石酸の硬化油脂コーティング物0.42g(中和65%相当量の酸性剤)を混合して、実施例7のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0048】
比較例7
酒石酸として、実施例7で使用した酒石酸のコーティング物に代えて、コーティングしていない酒石酸を用いた以外は実施例7と同様にして、比較例7のベーキングパウダー組成物を製造した。
【0049】
試験例4
実施例6〜8のベーキングパウダー組成物、比較例7のベーキングパウダー組成物について、試験例1と同様にして、ガス発生量及び生地安定性を測定・評価するとともに、これらベーキングパウダー組成物を用いてどら焼きを製造し、その効果について試験例1と同様に評価を行った。なお、酸性剤としてミョウバンを用いたベーキングパウダー組成物を対照とした。
これらの結果を次の表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
実施例6のように、フマル酸一ナトリウムを融点が67.0℃の硬化大豆油でコーティングしたベーキングパウダー組成物の場合には、対照例と同様に、45℃以上でのガス発生量及び全ガス発生量が多く、生地安定性にも優れ、このベーキングパウダー組成物を用いて得られたどら焼きの評価も高いものであった。また、実施例7及び8のように、酸性剤として、フマル酸の代わりに酒石酸を用いたベーキングパウダー組成物の場合においても、対照例と同様に、45℃以上でのガス発生量及び全ガス発生量が多く、生地安定性にも優れ、このベーキングパウダー組成物を用いて得られたどら焼きの評価も高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、従来のアルミニウム塩やリン酸塩を含むベーキングパウダー組成物と同等な特性を有しながら、アルミニウム塩及びリン酸塩を含まないベーキングパウダー組成物を提供するものであり、本発明のベーキングパウダー組成物を用いることにより、ベーキングパウダーに起因するアルミニウム塩やリン酸塩の摂取を防ぐことができる食品を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重曹を基剤とし、助剤としてアルミニウム塩及びリン酸塩以外の酸性剤を用い、当該酸性剤の表面を融点55℃〜70℃の硬化油脂で平均膜厚が5〜50μmとなるようにコーティングしたコーティング物を含有してなるベーキングパウダー組成物。
【請求項2】
酸性剤のコーティングが、流動層コーティング法によりコーティングしたものである請求項1に記載のベーキングパウダー組成物。
【請求項3】
酸性剤が、コハク酸、フマル酸、酒石酸、及びその塩からなる群から選択される請求項1又は2に記載のベーキングパウダー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のベーキングパウダー組成物を用いて製造された食品。

【公開番号】特開2011−67195(P2011−67195A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137382(P2010−137382)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】