説明

新規なポリイミド

【課題】特定の反復単位を有する新規なポリイミドを提供することを目的とするものである。本ポリイミドは、例えば、エタノールなどの有機化合物の蒸気を含む有機蒸気混合物を蒸気透過法により分離させるガス分離膜として好適に使用することができる。さらに、金属など他材料の層を張り合わせる基板フィルム、もしくは、異種材料を塗工または蒸着などで形成する基板フィルムとして好適に使用することが出来る。
【解決手段】例えば、ジアミン成分として少なくとも一部にジアミノジクロロジフェニルエーテルを含むことを特徴とする特定の反復単位を有する新規なポリイミドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の反復単位を有するポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応によって得ることが出来る。従来から知られているポリイミドは、この高分子特有の高耐熱性に加え、力学的強度、寸法安定性に優れ、難燃性、電気絶縁性等を併せて有している。そのため、これらのポリイミドは、電気・電子機器等の分野で使用されており、すでに、耐熱性が要求される分野に広く用いられ、今後益々、使用分野や量的拡大が期待されているものである。
【0003】
さらに、ポリイミドは他の樹脂と比較し各種気体透過選択性に優れているため、近年ポリイミド系樹脂を素材とした分離膜の研究が盛んに行われている。
【0004】
特許文献1には、ビフェニルテトラカルボン酸を主成分としたテトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られた可溶性の芳香族ポリイミドを用いた気体分離膜の製造方法が開示されている。しかしながら、ジクロロジアミノジフェニルエーテル類をジアミン成分としたポリイミドは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−126405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特定の反復単位を有するポリイミドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定の反復単位を有するポリイミドを提供することを達成したものである。
すなわち本発明は、下記一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドに関する。
【0008】
【化1】

〔式中、Aは、少なくとも一部が下記化学式(2)で示される化学構造からなる2価の基であり、Bは4価の基である。〕
【0009】
【化2】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の反復単位を有するポリイミドを提供することができる。このポリイミドは、金属など他材料の層を張り合わせる基板フィルム、もしくは、異種材料を塗工または蒸着などで形成する基板フィルムとして好適に使用することが出来る。また、このポリイミドは、例えば、ガス分離膜として好適に使用することができる。このポリイミドからなるガス分離膜は、例えば、有機蒸気と水蒸気とを主として含む有機蒸気混合物を接触させることにより、前記水蒸気を選択的に透過させて、有機蒸気混合物のガス分離を行うことに好適に使用することができる。また、このポリイミドは、金属など他材料の層を張り合わせる基板フィルム、もしくは、異種材料を塗工または蒸着などで形成する基板フィルムとして好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリイミドは、前記一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドである。
上記の反復単位を有するポリイミドは、公知な製造方法で容易に製造することができる。例えば、下記化学式(3)で示されるジアミンを含む下記一般式(4)で示されるジアミンと、下記一般式(5)で示されるテトラカルボン酸二無水物とを、フェノール系化合物、アミド系化合物などの有機溶媒中、重合、イミド化して製造することができる。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

〔式中、Aは2価の基である〕
【0014】
【化5】

〔式中、Bは4価の基である〕
【0015】
上記の製造方法において、一般式(1)中のAは、一般式(4)で示されるジアミンから2つのアミノ基を除いた2価の残基である。本発明において、前記ジアミンと同様に、一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドに2価の基Aを導入することができる成分を、ジアミン成分と呼ぶ。例えば、一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドは、下記一般式(6)で示されるジイソシアネートと、上記一般式(5)で示されるテトラカルボン酸二無水物とを重合、イミド化することによっても製造することができる。この場合には、前記ジイソシアネートをジアミン成分とする。
【0016】
【化6】

〔式中、Aは2価の基である〕
【0017】
上記の製造方法において、一般式(1)中のBは、上記一般式(5)で示されるテトラカルボン酸二無水物から、カルボキシル基に由来する基を除いた4価の残基である。本発明において、前記テトラカルボン酸と同様に、一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドに4価の基Bを導入することができる成分を、テトラカルボン酸成分と呼ぶ。例えば、下記一般式(7)で示されるテトラカルボン酸、下記一般式(8)で示されるテトラカルボン酸ジエステルなどもテトラカルボン酸成分として挙げることができる。
【0018】
【化7】

〔式中、Bは4価の基である〕
【0019】
【化8】

〔式中、Bは4価の基であり、Rは1価の有機基である〕
【0020】
以下の説明において、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを有機溶媒中で重合、イミド化することによる製造方法を例に挙げて説明する。
【0021】
本発明のジアミン成分の少なくとも一部は、前記化学式(3)で示される化学構造からなるジアミノジクロロジフェニルエーテル類である。本発明の全ジアミン成分のうち、好ましくは20モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは60モル%以上、特に好ましくは80モル%以上が、前記化学式(3)で示される化学構造からなるジアミノジクロロジフェニルエーテル類である。
【0022】
前記のジクロロジアミノジフェニルエーテル類(化学式(3))としては、例えば2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジクロロ−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,3’−ジクロロ−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロ−3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,5’−ジクロロ−3,3’−ジアミノジフェニルエーテルなどを挙げることができる。その中で、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが特に好ましい。
【0023】
本発明のジアミン成分は、前記化学式(3)で示されるジクロロジアミノジフェニルエーテル類以外のジアミンを含んでも良い。前記ジアミンは、例えば、前記一般式(4)のAが、脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋員により相互に連結した非縮合多環式芳香族基からなる群から選ばれる2価の基であるものが挙げられる。得られるポリイミドのガラス転移温度を高くするためには、芳香族ジアミンが好んで用いられる。芳香族ジアミンとしては特に限定されるものではないが、例えば、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2−(4−アミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)プロパン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、o−トリジン、o−トリジンスルホン、o−、m−又はp−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,6−ジアミノピリジンなどが挙げられる。
【0024】
本発明のテトラカルボン酸成分は、Bが、脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋員により相互に連結した非縮合多環式芳香族基などから選ばれる4価の基であるテトラカルボン酸類が挙げられる。得られるポリイミドガラス転移温度を高くするためには、芳香族テトラカルボン酸類が好んで用いられる。例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸類、ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸類、ビス(ジカルボキシフェニル)プロパン類、ビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン類、ビス〔(ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン類、ビス〔(ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン類などが挙げられる。
【0025】
前記のビフェニルテトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、あるいは、2,2,3’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、および、それらの酸二無水物、または、酸エステル化物などを挙げることができる。
【0026】
前記のビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン類としては、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、およびその酸二無水物を挙げることができる。
【0027】
本発明のポリイミドは、ジアミン成分と、テトラカルボン酸成分とから、従来公知のポリイミドの製造方法で製造することができる。具体的には、例えば、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを、略等モル、有機溶媒中に溶解させ、約100℃以下、特に60℃以下の温度で重合してポリアミック酸にし、このポリアミック酸溶液をドープ液として使用し、基材上に塗布または流延して薄膜を形成させ、加熱、昇温しながら溶媒を徐々に除去するとともに、アミド−酸結合をイミド化し、次いで150〜350℃の温度で乾燥・熱処理する方法、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを、略等モル、フェノール系溶媒中、約140℃以上の温度で重合およびイミド化して、フェノール系溶媒に溶解したポリイミド溶液を得、これをドープ液として使用し、基材上に塗布または流延して薄膜を形成させ、加熱、昇温しながら溶媒を徐々に除去し、150〜350℃の温度で乾燥・熱処理する方法、などによって製造することができる。
【0028】
ドープ液の調製に使用される有機溶媒としては、例えばN−メチル−2ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール、モノハロゲン化フェノール、モノハロゲン化アルキルフェノールなどのフェノール系化合物などを挙げることができる。
【0029】
化学式(2)で示される化学構造からなる2価の基を含む本発明のポリイミドは、異種材料に対する表面の吸着力を、化学式(2)で示される化学構造からなる2価の基を含まないポリイミドに比較して大きくすることが出来る。特にテトラカルボン酸成分がビフェニルテトラカルボン酸類やビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン類であるポリイミドについて、この効果が期待できる。
【0030】
ここで吸着力を次のように評価することができる。原子間力顕微鏡を用い、サンプル上方から先端にチップのついたカンチレバーをポリイミドの表面に近付けてチップをポリイミド表面に接触させ、次いで逆方向にカンチレバーを動かしてサンプル表面から引き離すとき、チップとサンプル表面との吸着力によってカンチレバーがサンプル表面方向に向かって撓む。更にカンチレバーをサンプル表面から引き離していくと、カンチレバーの撓みによる弾性力が、チップとサンプル表面との吸着力を超える時点でチップがサンプル表面から離れる。サンプル表面とチップの間の吸着力は、カンチレバーをサンプル表面から引き離していく際のカンチレバーのサンプル表面に向かっての最大撓み量から、カンチレバーの力定数を用いて見積もることができる。
【0031】
吸着力が大きいポリイミドは、金属など他材料の層を張り合わせる各種基板フィルムとして好適に用いられる。
【0032】
また本発明のポリイミドは臨界表面張力が大きいフィルムを得ることができる。
【0033】
ポリイミドフィルム表面を各種の用途に合わせて改質するために異種材料を塗工する場合がある。ポリイミドフィルムの臨界表面張力が大きく出来れば、その上に異種材料を含む溶液を流延したときに、溶液がポリイミドフィルムから脱濡れをしにくくなるため好適である。また異種材料層をポリイミド表面に真空蒸着やスパッタリングにより形成する場合も、ポリイミドフィルムの臨界表面張力が大きいと、表面拡散による不均一化が進みにくくなるため好適である。
【0034】
臨界表面張力とは、液体と固体の接触角(θ)が0になった時の液体の表面張力を示している。すなわち、臨界表面張力の値以上の表面張力をもつ液体を接したときに、固体の表面は液体で脱濡れを起こす。従ってフィルム表面の臨界表面張力が大きいフィルムは、脱濡れを起こしにくい。
【0035】
臨界表面張力(γc)はZismann法により算出することができる。ポリイミドフィルム表面に既知の表面張力をもつ数種の液体を滴下し、滴下直後のポリイミド表面とのなす角(接触角θ)を実測する。液体の表面張力をx軸にcosθをy軸にプロットすると右肩下がりの直線が得られる(Zismann Plot)。この直線がy=1(θ=0)となるときの表面張力が臨界表面張力γcであり、外挿により算出することが出来る。
【0036】
臨界表面張力は、23mN/m以上であることが好ましい。溶液として例えばアルコールを挙げると、20℃におけるメタノール、エタノールの表面張力が23mN/mであり、ポリイミドの臨界表面張力が上記の範囲であれば、良好な濡れ性が期待できる。
【0037】
本発明のポリイミドは臨界表面張力が大きいフィルムを得ることができることから、異種材料層をその上に塗工形成したり、蒸着等したりするための基板フィルムとして好適に用いられる。
【0038】
本発明のポリイミドは、例えば有機蒸気混合物を分離するガス分離膜として好適に使用できる。以下、有機蒸気混合物を分離するガス分離膜としての用途について説明する。
【0039】
本発明のガス分離膜は、水蒸気の透過係数PH2Oが、100Barrer〜10000Barrer(1Barrer=10-10cm3(STP)・cm/cm2 ・sec・cmHg)であることが好ましく、200Barrer以上であることがより好ましく、300Barrer以上であることがより好ましい。通常は、10000Barrer以下である。
【0040】
また、本発明のガス分離膜は、ガス分離性能、例えば、水蒸気とエタノール蒸気との分離度(PH2O/PEtOH)が50〜10000であることが好ましく、前記分離度が75以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、150以上であることが特に好ましい。分離度が前記の値を下回る場合には、有機物蒸気の透過損失が大きくなり、工業的に不利である。
【0041】
本発明のガス分離方法においては、本発明のガス分離膜の一方の側に、有機化合物を含む液体混合物を加熱蒸発させて生成した有機蒸気混合物(原料ガス)を、好ましくは70℃以上、より好ましくは80〜200℃、特に好ましくは100〜160℃の温度で接触させて、高透過成分を選択的に透過させ、ガス分離膜の透過側から高透過成分に富んだ有機蒸気を得、かつガス分離膜の非透過側(原料ガスの供給側)から高透過成分が実質的に除去された有機蒸気を得て、前記有機蒸気混合物のガス分離を行うのである。
【0042】
本発明のガス分離方法は、水を含むアルコール類溶液の脱水操作に好適に用いることができる。特に、エタノール、イソプロパノールの脱水に好適に用いることができる。
【0043】
本発明において、ガス分離膜の供給側と透過側との高透過成分の分圧差を確保するために、例えば、ガス分離膜の透過側を減圧に保持することが好ましい。より好ましくは、透過側の圧力を1〜500mmHgの減圧下に制御する。ガス分離膜の透過側を減圧に保持することによって、高透過成分を選択的にできるだけ速く透過させ、ガス分離膜の供給側に供給された原料ガスの有機蒸気混合物から、高透過成分を選択的に除去することが容易になる。その場合には、前記の減圧の程度が高いほど蒸気の透過速度が大きい。
【0044】
ガス分離膜の供給側と透過側との高透過成分の分圧差を確保するために、前記透過側を減圧に保持する手段のほかに、供給側の圧力を高圧に保持する、乾燥状態の気体をキャリアガスとして透過側に流通させるなどの手段が挙げられる。該手段は特に限定されるものではなく、2つ以上の手段を同時に用いても構わない。
【0045】
本発明のガス分離方法においては、ガス分離膜へ供給する有機蒸気混合物の圧力を、常圧または加圧下で行うことができる。特に好ましくは有機蒸気混合物の圧力を0.1〜2MPaG、さらに好ましくは0.15〜1MPaGの加圧下で行う。また、ガス分離膜の透過側の圧力は、加圧、常圧または減圧下で行うことができるが、特に減圧下で行われることが好ましい。
【0046】
また、本発明のガス分離方法においては、ガス分離膜の透過側に乾燥状態の気体をキャリアガスとして流通させながら、ガス分離を行うことにより、水蒸気を選択的に透過除去することが容易になるので好適である。前記キャリアガスは、高透過成分を含まないか、少なくとも高透過成分の分圧が非透過ガスより小さい濃度であるガスであれば特に制限はなく、例えば、窒素、空気などが使用できる。窒素はガス分離膜の透過側空間から供給側空間への逆浸透が起こりにくく、不活性であるために、防災上も好ましいキャリアガスである。そのほか、高透過成分を分離した非透過ガスの一部をキャリアガス導入口に循環し、キャリアガスとして使用することも好適である。
【0047】
原料ガスの有機蒸気混合物は、どのような方法で製造されたものであってもよいが、一般的には、有機化合物の水溶液を、該有機化合物の沸点または共沸温度より高い温度に加熱して、蒸発させることによって得ることができる。有機蒸気混合物は、前記の有機化合物の水溶液などの有機化合物を含む液体混合物を、蒸発(蒸留)装置などによって加熱蒸発させて、常圧状態乃至0.1〜2MPaG程度の加圧状態の有機蒸気混合物として、本発明のガス分離膜を用いた有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される。加圧状態の有機蒸気混合物は、加圧蒸発器で直接加圧状態の有機蒸気混合物を得ても良いし、常圧蒸留器で得られた常圧状態の有機蒸気混合物をベーパーコンプレッサーによって加圧することで得ても構わない。
【0048】
また、有機蒸気混合物は、有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給され中空糸内部を流通して非透過ガス排出口から排出されるまでの間で凝縮しない程度以上に十分高温に加熱された有機蒸気混合物として供給されることが好ましい。
【0049】
本発明のガス分離膜を用いた有機蒸気分離用ガス分離膜モジュールへ供給される有機蒸気混合物は、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上の温度のものである。
【0050】
前記の有機蒸気混合物は、その有機蒸気の濃度が特に限定されるものではないが、本発明では、有機蒸気の濃度が50重量%以上、特に70〜99.8重量%程度であることが好ましい。
【0051】
前記の有機蒸気となる有機化合物としては、沸点0℃以上200℃以下、前記の有機蒸気となる有機化合物としては、沸点0℃以上200℃以下、好ましくは常温(25℃)で液体で且つ沸点が150℃以下の有機化合物であればよい。該有機化合物の沸点が0℃以上200℃以下であるのは、中空糸膜の使用温度範囲、有機蒸気混合物を過熱蒸気化するための設備、精製分離成分を凝集し回収するための設備や取扱いの容易さを考慮したときに実用的だからである。
【0052】
このような有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコールなどの炭素数が1〜6の低級脂肪族アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機カルボン酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2−ペンタノン、3−ヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ピナコリンなどの炭素数が3〜6の脂肪族ケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル、および、ジブチルアミン、アニリンなどの有機アミン類を挙げることができる。
【0053】
本発明のガス分離方法は、特に、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール水溶液を蒸発して得られた、水蒸気とアルコール蒸気とからなる有機蒸気混合物を脱水して高純度のアルコール蒸気を得る場合に好適に採用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
以下の各例で用いた化学物質の略号は次のとおりである。
BPDA:3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(なお、この化合物は4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)−ビス(無水フタル酸)ともいう。)
PMDA:ピロメリット酸二無水物
ODCA:2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
44DADE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
PCP:4−クロロフェノール
【0056】
(ガラス転移点の測定)
厚みが約30μmのポリイミド膜を切削し、幅2mm、長さ4mmの試験片を作成した。前記試験片を、動的固体粘弾性測定装置(TA Instruments社製、RSAIII)を用いて、引っ張りモード(周波数10Hz)、最大歪0.2〜1.0%、窒素雰囲気下で測定した。tanδ(損失弾性率E’’/貯蔵弾性率E’)のピークトップをガラス転移温度(T)とした。
【0057】
(機械的特性の測定)
前記試験片を、引張り試験機を用いて、引張り速度2mm/min、チャック間距離20mmとして、引張り破断伸度、最大応力、ヤング率の測定を行った。測定は、温度23℃、湿度50%RHの調湿条件下にサンプルを10時間保持した後に行った。
【0058】
(臨界表面張力の測定)
臨界表面張力の測定はクルス自動接触角計DSA20装置を使用した。測定温度は23℃で行った。測定表面はフィルム形成時の空気に曝した表面とし、和光純薬工業株式会社製ぬれ張力試験用混合液(表面張力の異なる種々の混合液)を滴下し、各々の液滴の接触角を測定した。液滴の接触角評価方法として、静置した液滴の完全な輪郭を一般円錐曲線式でフィッティングすることによって、3相の接点での傾斜を基準線における曲線式の導関数として求め、これによって接触角を決定する方法を用いた。接触角は、まず試験用混合液を5μL乗せ30秒後に測定した。次いで試験用混合液をさらに5μL増やして接触角を測定し、これを繰り返し合計量30μLまで求めた。試験用混合液の液適量と接触角との関係から液適量が0μLの接触角を求め、これを試験フィルム表面におけるその試験用混合液の接触角(θ)とした。表面張力の異なる種々の液体を用いて、同様にフィルム表面における各々の接触角(θ)を求め、試験用混合液の表面張力とcosθとの関係、すなわちZismanプロットから試験フィルムの表面張力(臨界表面張力)を求めた。
【0059】
(吸着力の測定)
Veeco Instruments社製Nanoscope IIIa型原子間力顕微鏡を用い、サンプル上方から先端に単結晶シリコンチップ(先端径 10nm)のついたカンチレバー(日本ビーコ社NCH−10V)をポリイミドの表面に近付けてチップをポリイミド表面に接触させた。次いで逆方向にカンチレバーを動かしてチップをサンプル表面から引き離すとき、チップとサンプル表面との吸着力によってカンチレバーがサンプル表面方向に向かって撓む。更にカンチレバーをサンプル表面から引き離していくと、カンチレバーの撓みによる弾性力が、チップとサンプル表面との吸着力を超える時点でチップがサンプル表面から離れる。サンプル表面とチップの間の吸着力は、カンチレバーをサンプル表面から引き離していく際のカンチレバーのサンプル表面に向かっての最大撓み量から、カンチレバーの力定数を用いて求めた。測定はサンプル表面の互いに異なる5箇所で行い、それぞれの箇所で測定した吸着力の算術平均を用いた。
【0060】
(ガス透過性能の測定方法)
各例において、気体透過係数は、膜面積14.65cmのステンレス製のセルにポリイミド膜を設置し、80重量%濃度のエタノール水溶液を蒸発器で気化させ、エタノール蒸気と水蒸気とを含む有機蒸気混合物を製造し、さらに、ヒーターで加熱することにより130℃とした前記有機蒸気混合物を分離膜に接触させ、透過側を3mmHgの減圧に維持して、有機蒸気分離を行った。
【0061】
前述の有機蒸気分離において、透過ガス排出口から得られた水蒸気の濃度の高い透過ガスを、約−50℃の冷却トラップで凝縮して、凝縮物を捕集し、一方、中空糸膜の非透過ガス排出口(供給側)から得られた未透過ガス(水蒸気の除去された乾燥ガス)は、前記蒸発器に戻し、循環して使用しながら、有機蒸気混合物のガス分離を行った。尚、有機蒸気混合物の組成が測定値に影響を与えるほど変化しないように、サンプルの分離膜を透過する有機蒸気量に比べて大過剰量のエタノール水溶液を用いた。
【0062】
前記のトラップで捕集した凝縮物の重量を測定すると共に、水およびエタノールの濃度をガスクロマトグラフィー分析法により分析することにより透過した水蒸気およびエタノール蒸気の量を求めた。
【0063】
前述のようにして得た各成分蒸気の透過量から、水蒸気の透過係数PH2O、エタノール蒸気の透過係数PEtOHおよび、エタノールに対する水蒸気の分離度(α:PH2O/PEtOH)を算出し、気体分離性能を評価した。透過係数(P)の単位はBarrer(1Barrer=10−10cm3(STP)・cm / cm2・sec・cmHg)である。
【0064】
(実施例1)
PCP60.0gを、攪拌機、窒素ガス導入管の設けられたセパラブルフラスコに入れ、攪拌下、窒素ガスを導入しながら、BPDA5.9g及びODCA5.4gを加え、190℃で10時間保持して重合及びイミド化させた。得られたポリイミド溶液をガラス板上に流延し、200℃で3時間、次いで300℃で1時間熱処理を行ってポリイミド膜を形成させた後、ガラス板から、厚さ約30μmのポリイミド膜を取り出した。ここの膜のガラス転移点、各ガスの透過係数および分離度を第1表に、機械的特性、吸着力、および臨界表面張力を第2表に示す。
【0065】
(実施例2)
攪拌機、窒素ガス導入管の設けられたセパラブルフラスコに、NMP57.6gを入れ、6FDA6.7g及びODCA5.4gを加え、25℃で10時間保持して重合した。得られたポリアミック酸溶液をガラス板上に流延し、200℃で3時間イミド化を行い、次いで300℃で1時間熱処理を行ってポリイミド膜を形成させた後、ガラス板から、厚さ約30μmのポリイミド膜を取り出した。この膜のガラス転移点、各ガスの透過係数および分離度を第1表に、機械的特性、吸着力、および臨界表面張力を第2表に示す。
【0066】
(実施例3)
テトラカルボン酸としてPMDAを用いた以外は実施例2と同様にしてポリイミド膜を成膜した。この膜のガラス転移点、各ガスの透過係数および分離度を第1表に、機械的特性、および臨界表面張力を第2表に示す。
【0067】
(比較例1−2)
表1に示したテトラカルボン酸及びジアミンを用いた以外は実施例1と同様にしてポリイミド膜を成膜した。この膜のガラス転移点、各ガスの透過係数および分離度を第1表に、機械的特性、吸着力、および臨界表面張力を第2表に示す。
【0068】
(比較例3)
表1に示したテトラカルボン酸及びジアミンを用いた以外は実施例2と同様にしてポリイミド膜を成膜した。この膜のガラス転移点、各ガスの透過係数および分離度を第1表に、機械的特性、および臨界表面張力を第2表に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリイミドは、例えば、ガス分離膜として好適に使用することができる。このポリイミドからなるガス分離膜は、例えば有機蒸気と水蒸気とを主として含む有機蒸気混合物を接触させることにより、前記水蒸気を選択的に透過させて、有機蒸気混合物のガス分離を行うことに好適に使用することができる。また、本発明のポリイミドは、金属など他材料の層を張り合わせる基板フィルム、もしくは、異種材料を塗工または蒸着などで形成する基板フィルムとして好適に使用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミド。
【化1】

〔式中、Aは、少なくとも一部が下記化学式(2)で示される化学構造からなる2価の基であり、Bは4価の基である。〕
【化2】


【公開番号】特開2011−74257(P2011−74257A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228026(P2009−228026)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】