説明

新規なメタセシス触媒

本発明は、下記の式1の新規な化合物、その製造方法、該化合物を製造するための中間生成物、並びに式1の化合物の各種メタセシス反応における触媒としての使用に関する:
【化1】


上記の新規メタセシス触媒は、用意に入手可能な予備生成物から得られ、高活性を有し、全ての種類のメタセシス反応において使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、下記の式1の新規な化合物、その製造方法、該化合物を製造するための中間生成物、並びに式1の化合物の各種メタセシス反応における触媒としての使用に関する:
【化1】

【0002】
(背景技術)
下記の式Aのルテニウム複合体は、WO 02/14376 A2号から既知であり、活性で空気中で安定であり且つ回収可能なメタセシス触媒として説明されている。Aよりも幾分高い活性を有するこの種の触媒も知られるようになってきており(Angew. Chem. 2002, 114, No. 5, 832-834;Angew. Chem. 2002, 114, No. 13, 2509-2511;Angew. Chem. 2002, 114, No. 21, 4210-4212)、下記の式B、CおよびDによって示される:
【化2】

Aと比較してのB、CおよびDの活性の改良は、イソプロポキシ-フェニルメチレンリガンドのフェニル核における置換基の立体および電子効果に基づく。
【0003】
(発明の開示)
(発明が解決しようとする課題)
今回、驚くべきことに、タイプAのメタセシス触媒活性の大きな増大がエーテル基の脂肪族成分に特定の変更を加えることによって達成し得ることを見出した。
(課題を解決するための手段)
本発明は、下記の式1の新規なルテニウム複合体およびそのメタセシス触媒としての使用に関する:
【化3】

(式中、XおよびX'は、アニオンリガンド、好ましくはハロゲン、とりわけ好ましくはClまたはBrを示し;
Lは、中性リガンドを示し;
a、b、c、dは、互いに独立に、H、-NO2、C1-12-アルキル、C1-12-アルコキシまたはフェニルを示し、フェニルは、C1-6-アルキルおよびC1-6-アルコキシの中から選ばれた基によって必要に応じて置換し得;
R1は、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R2は、H、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R3は、H、C1-12-アルキル、C2-12-アルケニル、C2-12-アルキニル、アリールを示す)。
【0004】
(発明を実施するための最良の形態)
好ましい化合物は、
XおよびX'が、ハロゲンを示し;
Lが、中性リガンドを示し;
a、b、c、dが、互いに独立に、H、-NO2、C1-6-アルキル、C1-6-アルコキシまたはフェニルを示し、フェニルは、C1-4-アルキルおよびC1-4-アルコキシの中から選ばれた基によって必要に応じて置換し得;
R1が、C1-6-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-11-アラルキル、アリールを示し;
R2が、H、C1-6-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-11-アラルキル、アリールを示し;
R3が、H、C1-6-アルキル、C2-6-アルケニル、C2-6-アルキニル、アリールを示す;
式1の化合物である。
【0005】
とりわけ好ましい化合物は、
XおよびX'が、ClまたはBrを示し;
Lが、中性リガンドを示し;
a、b、c、dが、互いに独立に、H、-NO2、メチル、エチル、イソ-プロピル、メトキシまたはフェニルを示し、フェニルは、メチルおよびメトキシの中から選ばれた基によって必要に応じて置換し得;
R1が、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ヘプチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2-メチルシクロヘキシル、2,4-ジメチルシクロヘキシルベンジル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、フェニル、o-、m-、p-トリルおよび3,5-ジメチルフェニルを示し;
R2が、H、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ヘプチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2-メチルシクロヘキシル、2,4-ジメチルシクロヘキシルベンジル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、フェニル、o-、m-、p-トリルおよび3,5-ジメチルフェニルを示し;
R3が、H、メチル、エチル、フェニルを示す;
式1の化合物である。
【0006】
一般式1の上述した化合物のうちでとりわけ好ましい化合物は、R1、R2、R3、X、X' およびLが、上記特定の意味を有し得;a、b、cが、Hを示し;dが、C1-6-アルキルおよびC1-6-アルコキシの中から選ばれた基によって置換し得るフェニルを示し;或いは、a、c、dが、Hを示し;bが、-NO2を示す化合物である。
また、上述の一般式1の化合物のうちでとりわけ好ましいのは、R1、R2、R3、X、X'、a、b、cおよびdが上記特定の意味を有し;Lが、P(R4)3または下記の式 L1、L2、L3もしくはL4のリガンドを示す化合物である:
【化4】

(式中、R4は、C1-6-アルキル、シクロアルキルまたはアリールを示し;
R5およびR6は、互いに独立に、H、C1-6-アルキルまたはアリールを示し;
R7およびR8は、互いに独立に、H、C1-6-アルキル、C2-6-アルケニルまたはアリールを示し;或いは、R7およびR8は、一緒になって3または4員のアルキレンブリッジを形成し;
YおよびY'は、ハロゲン、好ましくはClまたはBrを示す)。
最も好ましいのは、XおよびX'が、Clを示し;Lが、L1を示し;a、b、c、dが、Hを示し;R1が、メチルを示し;R2が、メチルを示し;R3が、Hを示し;R5およびR6が、メシチルを示し;R7およびR8が、Hを示す一般式1の化合物である。
【0007】
式1の新規な化合物は、下記の式2のプレリガンドを下記の式3のルテニウム複合体と反応させることによって得られる:
【化5】

(式中、R3、a、b、cおよびdは、式1で示した意味を有し;
R1は、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリール;好ましくは、C1-6-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-11-アラルキル、アリールを示し;
R2は、H、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリール;好ましくは、C1-6-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-11-アラルキル、アリールを示し;
R11およびR12は、互いに独立に、H、必要に応じて1個以上のハロゲンで置換されたC1-6-アルキル、または必要に応じて1個以上のハロゲンもしくはC1-6-アルキルで置換されたアリール、好ましくはH、C1-6-アルキルまたはアリールを示し;そして、とりわけ、
Lは、中性リガンド;好ましくは、L1、L2、L3またはL4を示し;
R9およびR10は、互いに独立に、H、必要に応じて1個以上のハロゲンで置換されたC1-6-アルキル、または必要に応じて1個以上のハロゲンもしくはC1-6-アルキルで置換されたアリール;好ましくは、H、C1-6-アルキルまたはアリールである;
但し、R1およびR2は、同時にメチルを示し得ないことを条件とする)。
【0008】
従って、もう1つの局面においては、本発明は、下記の式2の化合物にも関する:
【化6】

(式中、R3、a、b、cおよびdは、請求項1で示した意味を有し;
R1は、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R2は、H、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R11およびR12は、互いに独立に、H、必要に応じて1個以上のハロゲンで置換されたC1-6-アルキル、または必要に応じて1個以上のハロゲンもしくはC1-6-アルキルで置換されたアリールを示す;
但し、R1およびR2は、同時にメチルを示し得ないことを条件とする)。
好ましい化合物は、
R1が、C1-6-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-11-アラルキル、アリールを示し;
R2が、H、C1-6-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-11-アラルキル、アリールを示し;
R11およびR12は、互いに独立に、H、必要に応じて1個以上のハロゲンで置換されたC1-4-アルキル、または必要に応じて1個以上のハロゲンもしくはメチルで置換されたアリールを示す;
式2の化合物であるが、R1およびR2は、同時にメチルを示し得ないことを条件とする。
とりわけ好ましいのは、
R1が、メチル、シクロヘキシル、ベンジル、フェニルを示し;
R2が、H、メチル、シクロヘキシル、ベンジル、フェニルを示し;
R11が、Hを示し;
R12が、Hまたはメチルを示す;
式2の化合物であるが、R1およびR2は、同時にメチルを示し得ないことを条件とする。
【0009】
上記で示したリガンドおよび複合体は、純粋な鏡像異性体または対の鏡像異性体として生じ得る。従って、本発明の範囲内には、触媒作用中に立体中心を介して基質に鏡像異性を転移させ得る、ある種のラセミ化合物に対する純粋な鏡像異性体も存在し得る。
さらなる局面においては、本発明は、各々が1個のオレフィン系二重結合を含有する、または一方が少なくとも2個のオレフィン系二重結合を含有する2つの化合物を反応させ、かつ、上述の式1の化合物の1つを触媒として使用するメタセシス反応の実施方法、或いは2個のオレフィン二重結合を含有する化合物が基質として、式1の化合物の1つが触媒として関与する閉環メタセシス(RCM)または交差メタセシス(CM)の実施方法に関する。
【0010】
使用する用語および定義
“アニオンリガンド”(XまたはX')とは、本発明の範囲においては、電子供与体特性を有する負荷電分子または原子を意味する。本明細書において挙げ得る例としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素のようなハロゲン類がある。
“中性リガンド”(L)とは、本発明の範囲においては、電子供与体特性を有する荷電していないまたは電荷中性の分子または原子を意味する。本明細書において挙げ得る例としては、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス-(2-メチルシクロヘキシル)ホスフィンおよびトリス-(o-トリル)ホスフィンのような、脂肪族、脂環式および芳香族炭化水素基を含有する第三級ホスフィン類がある。
とりわけ好ましい中性リガンドの例としては、例えば、下記の式 L1、L2、L3またはL4によって示される化合物のようなNHCリガンドがある:
【化7】

(式中、R5およびR6は、互いに独立に、H、C1-6-アルキルまたはアリールを示し;
R7およびR8は、互いに独立に、H、C1-6-アルキル、C1-6-アルケニルまたはアリールを示し、或いは、一緒になって3または4員のアルキレンブリッジを形成し;
YおよびY'は、ハロゲンを示す)。
【0011】
用語“C1-12-アルキル”(他の基の1部であるアルキルも含む)は、1〜12個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルキル基を意味し、従って、用語“C1-6-アルキル”は、1〜6個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルキル基を意味し、用語“C1-4-アルキル”は、1〜4個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルキル基を意味する。1〜6個の炭素原子を有するアルキル基が好ましいが、1〜4個の炭素原子を有するアルキルは、とりわけ好ましい。例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、ネオ-ペンチルまたはヘキシルがある。ある場合には、略号Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、 i-Bu、t-Bu等を上述の各基について使用し得る。特に断らない限り、定義プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルは、当該基の可能性ある異性体形のすべてを包含する。即ち、例えば、プロピルはn-プロピルおよびイソプロピルを含み、ブチルはイソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル等を含む。
用語“C2-12-アルケニル” (他の基の1部であるアルケニルも含む)は、2〜12個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルケニル基を意味するが、これらのアルケニル基は少なくとも1個の二重結合を有することを条件とする。従って、用語“C2-6-アルケニル”は、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基を意味し、用語“C2-4-アルケニル”は、2〜4個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルケニル基を意味する。2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基が好ましいが、2〜4個の炭素原子を有するアルケニルは、とりわけ好ましい。例としては、エテニルもしくはビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、またはヘキセニルがある。特に断らない限り、定義プロペニル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルは、当該基の可能性ある異性体形のすべてを包含する。即ち、例えば、プロペニルは1-プロペニルおよび2-プロペニルを含み、ブテニルは1,2-および3-ブテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル等を含む。
【0012】
用語“C2-12-アルキニル” (他の基の1部であるアルキニルも含む)は、2〜12個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルキニル基を意味するが、これらのアルキニル基は少なくとも1個の三重結合を有することを条件とする。従って、用語“C2-6-アルキニル”は、2〜6個の炭素原子を有するアルキニル基を意味し、用語“C2-4-アルキニル”は、2〜4個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルキニル基を意味する。2〜6個の炭素原子を有するアルキニル基が好ましいが、2〜4個の炭素原子を有するアルキニルは、とりわけ好ましい。以下が例として挙げられる:エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、またはヘキシニル。特に断らない限り、定義プロピニル、ブチニル、ペンチニルおよびヘキシニルは、当該基の可能性ある異性体形のすべてを包含する。即ち、例えば、プロピニルは1-プロピニルおよび2-プロピニルを含み、ブチニルは1,2-および3-ブチニル、1-メチル-1-プロピニル、1-メチル-2-プロピニル等を含む。
用語“C1-12-アルコキシ”(他の基の1部であるアルコキシも含む)は、1〜12個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルコキシ基を意味し、同様に、用語“C1-6-アルコキシ”は、1〜6個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルコキシ基を意味し、用語“C1-4-アルコキシ”は、1〜4個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルコキシ基を意味する。1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基が好ましいが、1〜4個の炭素原子を有するアルコキシは、とりわけ好ましい。以下が例としては挙げられる:メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシまたはペントキシ。略号MeO、EtO、PrO等も上述の各基についてある場合に使用し得る。特に断らない限り、定義プロポキシ、ブトキシ、およびペントキシは、当該基の可能性ある異性体形のすべてを包含する。即ち、例えば、プロポキシはn-プロポキシおよびイソ-プロポキシを含み、ブトキシはイソ-ブトキシ、sec-ブトキシおよびtert-ブトキシ等を含む。
【0013】
用語“C5-6-シクロアルキル”(他の基の1部であるシクロアルキルも含む)は、5個または6個の炭素原子を有する環状アルキル基を意味する。以下が例として挙げられる:シクロペンチルまたはシクロヘキシル。特に断らない限り、これらの環状アルキル基は、メチル、エチル、イソ-プロピル、tert-ブチル、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれた1個以上の基によって置換し得る。
用語“アリール” (他の基の1部であるアリールも含む)は、6個または10個の炭素原子を有する芳香族環系を意味する。以下が例として挙げられる:フェニルまたはナフチル。好ましいアリール基は、フェニルである。特に断らない限り、これらの芳香族基は、メチル、エチル、イソ-プロピル、tert-ブチル、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれた1個以上の基によって置換し得る。
用語“C7-18-アラルキル” (他の基の1部であるアラルキルも含む)は、6個または10個の炭素原子を有する芳香族環系によって置換された1〜8個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルキル基を意味し、同様に、用語“C7-11-アラルキル”は、6個の炭素原子を有する芳香族環系によって置換された1〜4個の炭素原子を有する枝分れおよび枝分れしていないアルキル基を示す。以下が例として挙げられる:ベンジル、1-または2-フェニルエチル。特に断らない限り、これらの芳香族基は、メチル、エチル、イソ-プロピル、tert-ブチル、ヒドロキシ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれた1個以上の基によって置換し得る。
【0014】
上記化合物の調製
式3のルテニウム複合体と式2のプレリガンドとの反応は、不活性溶媒、例えば、CH2Cl2中で約0℃〜80℃の温度にて実施する。CuClを反応混合物に添加するのが有利である。各反応物を一般に当量で使用するが、収率を増大させるためには、価値ある方の成分を各場合においてより少量で使用し得る。また、他のルテニウム化合物とリガンドプレ生成物、例えば、ジヒドロイミダゾリニウム塩とからその場で式3の複合体を生成させて、得られた式3の複合体により、各場合において所望のリガンド組合せを有する式1の新規なメタセシス触媒を得ることも有用であり得る。
リガンド交換反応によって調製した式1のメタセシス触媒は、反応混合物中で不溶性の他の反応生成物から、その溶液の濾過により分別し得、溶液の濃縮後、クロマトグラフィーまたは結晶化により純粋形で得られる。しかしながら、粗生成物または現場生成触媒を使用してメタセシス反応を直接実施することも可能である。
式2のプレリガンドは、それ自体公知の方法で、相応する置換基を含有する芳香族アルデヒドから、オレフィン化反応、例えば、ウィティッグ(Wittig)に従うホスホリリデンとの反応により調製し得る。
とりわけ好ましいのは、必要に応じて相応に置換されたフェニルアリルエーテルから出発し、クライゼン転位および触媒二重結合異性化により必要に応じて相応に置換された2-アルケニル-フェノールに至らしめ、その後、これをアルキル化によりα-ハロカルボン酸エステルと反応させて式2の化合物を得る新規な組合せ方法である。
【0015】
アルキル-フェニルエーテルを形成させるフェノールのアルキル化は、当該技術において周知であり、通常、塩基性物質の存在下に、求核試薬との反応により溶媒中で実施する。α-ハロカルボン酸エステルとの反応は、とりわけスムーズに且つ良好な収率でもって進行する。適切な溶媒としては、例えば、エタノールのようなアルコール類またはジメチルホルムアミドのような非プロトン性極性溶媒がある。また、アルキル化は、相転移条件下においても実施し得る。塩基性物質の例としてはアルカリ金属炭酸塩があり、同様に、遊離芳香族結合OH基を含有する中間生成物のアルカリ金属塩もこの反応において使用し得る。
式2の化合物を調製するのに好ましく使用する合成順序を例示するために、(3-プロペニル-ビフェン-2-イル)(1-メトキシカルボニル-エチル)エーテルの調製を、以下で特定の例として説明する。
2-ヒドロキシビフェニルから出発して、2-アリロキシ-ビフェニルを、炭酸カリウムの存在下溶媒としてのDMF中での塩化アリルによるアルキル化によって得る。その後、トリクロロベンゼン中での190℃の熱転位により、3-アリル-2-ヒドロキシ-ビフェニルを得、これをp-トルエンスルホン酸の存在下にエタノール系溶媒中で触媒転位させ(RhCl3 H2O)、3-プロペニル-2-ヒドロキシビフェニルのE/Z混合物を調製する。この中間生成物の2-ブロモプロピオン酸メチルによるアルキル化により、プレリガンド (3-プロペニル-ビフェン-2-イル)(1-メトキシカルボニル-エチル)エーテルを得る。
式1の化合物は、この種の反応タイプ(RCM、CM、ROMP等)の全てを含む種々のメタセシス反応を実施するのにも成功裏に使用し得る高活性のメタセシス触媒である。
【0016】
実施例1
式1aのメタセシス触媒の調製
1.1) 式2aの新規なプレリガンドの調製
フェニルアリルエーテルのクライゼン転位その後の二重結合異性化により調製した500 mg (3.72ミリモル)の2-プロペニルフェノール(E/Z混合物)、1.02gの炭酸カリウム(0.74ミリモル)、745 mgのrac.2-ブロモプロピオン酸メチル(4.46ミリモル)および10 mlのジメチルホルムアミドの混合物を、RTでオーバーナイト、その後、80℃で4時間撹拌した。その後、反応混合物を40 mlの水に添加し、30 mlのジエチルエーテルで3回抽出した。有機相を5%水酸化ナトリウム溶液で洗浄し、分別し、Na2SO4で乾燥させ、蒸発濃縮させた。685 mg (理論値の83.6%)の事実上純粋な2-(2-プロペニル-フェニロキシ)プロピオン酸メチルを得た。
【化8】

1.2) 式1aのメタセシス触媒の調製
424 mg (0.5ミリモル)の下記のグルッブ(Grubb's)触媒(第2世代)、
【化9】

【0017】
および59 mgのCuCl (0.6ミリモル)をシュレンク(Schlenk)チューブ内に入れ、アルゴン下に、10 mlのCH2Cl2中に溶解した134 mg (0.6ミリモル)の2-(2-プロペニル-フェニロキシ)プロピオン酸メチルの溶液を添加した。混合物を40℃で1時間撹拌し、次いで、蒸発減量し(i.v)、残留物を20 mlの酢酸エチル中に取込ませ、得られた混濁溶液を濾過した。溶媒の蒸発後に得られた粗生成物を2回行ったクロマトグラフィー(メルク(Merck)シリカゲルタイプ9385、1回目溶離液AcOEt/シクロヘキサン 3:7、2回目溶離液AcOEt/シクロヘキサン 1:1)により精製した。193 mg (理論値の58%)の純粋生成物を得た。
HRMS(El):C32H38N2O3Cl2Ru
計算値:[M+]670.13030、分析値:670.13467。
【化10】

【0018】
実施例2
本発明に従って調製した式1aの触媒の使用、およびその活性の既知の式Aの触媒(前述参照)との比較
2.1) 1aを使用しての閉環メタセシス(RCM):
実施例1に従って得られた触媒1aの2.7 mg (0.004ミリモル)の25℃の1 mlのジクロロメタン中の溶液を、20 mlのジクロロメタン中の100 mg (0.4ミリモル)のジエチルアリル-メタリル-マロネート(基質)の溶液に添加した。反応混合物をこの温度に2時間保った。この時間の後、サンプルを採取し、触媒をエチルビニルエーテルの添加により破壊し、サンプルをガスクロマトグラフィーにより分析した(基質および既知の方法で調製した閉環生成物との比較)。基質のメタセシス生成物(1,1-ビス-エトキシカルボニル-3-メチル-シクロペント-3-エン)への転換値は、89%であった。
2.2) 既知の式Aの触媒を使用してのRCM:
同じ基質を実施例2.1に記載したようにして反応させたが、2.5モル%の既知触媒Aを使用した。ガスクロマトグラフィーによる試験は、閉環生成物への転換値が18%であったことを示していた。
【0019】
実施例3
本発明に従って調製した式1aの触媒の使用、およびその活性の既知の式Dの触媒(前述参照)との比較
【化11】

4を10 mlの脱ガストルエン中に溶解し、80℃に加熱し、新たに調製した触媒を窒素下に添加し(1回目)、得られた混合物を80℃で60分間撹拌する。反応をHPLCにより試験し、さらなる量の触媒を添加する(2回目)。さらに60分後、反応をHPLCによりもう1回試験する。
図1は、4の環化率を示す (T = 0分:0.4モル%;T = 60分:0.2モル%)。表1は、HPLC分析の結果を示し、その結果を式Dの既知の触媒 (Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 4038)と比較している。
【0020】
表1

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】化合物4の環化率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式1の化合物:
【化1】

(式中、XおよびX'は、アニオンリガンドを示し;
Lは、中性リガンドを示し;
a、b、c、dは、互いに独立に、H、-NO2、C1-12-アルキル、C1-12-アルコキシまたはフェニルを示し、フェニルは、C1-6-アルキルおよびC1-6-アルコキシの中から選ばれた基によって必要に応じて置換し得;
R1は、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R2は、H、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R3は、H、C1-20-アルキル、C2-20-アルケニル、C2-20-アルキニル、アリールを示す)。
【請求項2】
a、b、cが、Hを示し;dが、C1-6-アルキルおよびC1-6-アルコキシの中から選ばれた基によって置換されているフェニルを示す、請求項1記載の一般式1の化合物。
【請求項3】
a、c、dが、Hを示し;bが、-NO2を示す、請求項1または2記載の一般式1の化合物。
【請求項4】
Lが、式P(R4)3のリガンドを示し;R4が、C1-6-アルキル、シクロアルキルまたはアリールを示す、請求項1〜3のいずれか1項記載の一般式1の化合物。
【請求項5】
Lが、下記の式 L1、L2、L3またはL4のリガンドを示す、請求項1〜3のいずれか1項記載の一般式1の化合物:
【化2】

(式中、R5およびR6は、互いに独立に、H、C1-6-アルキルまたはアリールを示し;
R7およびR8は、互いに独立に、H、C1-6-アルキル、C2-6-アルケニルまたはアリールを示し;或いは、R7およびR8は、一緒になって3または4員のアルキレンブリッジを形成し;
YおよびY'は、ハロゲンを示す)。
【請求項6】
XおよびX'が、Clを示し;Lが、L1を示し;a、b、c、dが、Hを示し;R1が、メチルを示し;R2が、メチルを示し;R3が、Hを示し;R5およびR6が、メシチルを示し;R7およびR8が、Hを示す、請求項5記載の一般式1の化合物。
【請求項7】
下記の式2の化合物:
【化3】

(式中、R3、a、b、cおよびdは、請求項1で示した意味を有し;
R1は、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R2は、H、C1-12-アルキル、C5-6-シクロアルキル、C7-18-アラルキル、アリールを示し;
R11およびR12は、互いに独立に、H、必要に応じて1個以上のハロゲンで置換されたC1-6-アルキル、または必要に応じて1個以上のハロゲンもしくはC1-6-アルキルで置換されたアリールを示す;
但し、R1およびR2は、同時にメチルを示し得ないことを条件とする)。
【請求項8】
各々が1個のオレフィン系二重結合を含有する、または一方が少なくとも2個のオレフィン系二重結合を含有する2つの化合物を反応させ、かつ、請求項1〜6記載の化合物の1つを触媒として使用する、メタセシス反応の実施方法。
【請求項9】
2個のオレフィン二重結合を含有する化合物が基質として、請求項1〜6記載の化合物の1つが触媒として関与する、閉環メタセシス(RCM)または交差メタセシス(CM)の実施方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−501199(P2007−501199A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522282(P2006−522282)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008388
【国際公開番号】WO2005/016944
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】