説明

新規な材料およびH2の電極触媒発生または取り込みのためのその使用

固体支持体、リンカーアームおよび金属有機錯体を含む新規な材料、ならびにHの電極触媒生成および酸化のためのその使用。このような材料は、エレクトロニクスの分野における電極、とりわけ、燃料電池、電解槽および光電極触媒(PEC)デバイスのための電極の製造のために用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な材料、ならびにHの電極触媒生成および酸化のためのその使用を対象とする。より詳細には、本発明は、エレクトロニクスの分野における電極、とりわけ、燃料電池、電解槽および光電極触媒(PEC)デバイスのための電極の製造のために用いられ得る材料に関する。
【背景技術】
【0002】
水素分子は、好都合なエネルギーベクトルとして広く考えられている。燃料電池におけるその燃焼によって、何ら汚染物質を排出することなく高収率で発電し、唯一の反応生成物が水である。しかし、水素は、地球上で最も豊富な元素の1つであるが、水素分子は、大気中では微量でしか存在せず、何らかのエネルギー投入を必要とするプロセスを経て生成されなければならない。したがって、再生可能な源からHを経済的に実行可能に生成することは、科学界にとって重要な関心事である。電気分解(プロトンからHへの、電気エネルギーによる還元)または光電気分解(プロトンからHへの、追加の電気エネルギーを有する場合がある光エネルギーによる還元)は、水(または好都合なプロトン源)からHを生成するための1つの手段である。プロトンの還元は、一見すると非常に単純な反応である。残念なことに、プロトンの還元は、白金などの貴金属における場合を除いた大部分の電極においてゆっくりと進行する。したがって、水素発生は、平衡に近い電位(水中、pH7においてSHEに対して−400mV)では一般に観察されず、活性化電位とも呼ばれる過電位の適用を必要とする。同様のことが水素酸化でも起こる。したがって、この動力学的限界は、水素の完全な形成/取り込みサイクルの際にエネルギー収率を大幅に低減するため、大部分の工業用途で経済的に制限する。
【0003】
燃料電池は、燃料のエネルギーを直接電気および熱エネルギーに変換する電気化学デバイスである。一般に、燃料電池は、アノードおよびカソードからなっていて、アノードおよびカソードは、これらが電気的に接続される電解質によって分離されている。燃料は、通常は水素であり、電極触媒の助けによって酸化されるアノードに供給される。カソードでは、酸化剤、例えば酸素、通常は空気の還元が起こる。電極における電気化学反応が電流を生成し、これにより、電気エネルギーが生成される。通常は、熱エネルギーもまた平行して生成され、これは、追加の電気を与えるために、または他の目的のために用いられ得る。
【0004】
現在のところ、燃料電池において実施されている最も一般的な電気化学反応は、水を生成させるための水素と酸素との間での反応である。水素分子は、酸化されるアノードに供給されてよく、生成された電子は、外部回路を通過して、酸化剤が還元されるカソードに達する。中間電解質を経て流れるイオンは、電荷的中性を維持する。燃料電池は、メタノール、ヒドラジンまたは天然ガスなどの他の燃料を用いるように適合されてよい。
【0005】
水電解槽は、燃料電池として作製されるが、電極間への電力の適用および水の供給によって逆に操作される。カソードにおいては水素が発生し、アノードにおいては酸素が発生する。
【0006】
種々の難点が燃料電池および水電解槽の技術の商業的開発を妨げてきた。第1の難点は、コストであり、特に、カソードおよびアノードの両方において使用される電極触媒のコストであって、これは、Nafion(登録商標)などのプロトン交換膜をベースとする最も用途の広い技術において、2H+2e→Hの電気化学相互変換を容易にするためのものである。最も一般的に用いられている電極触媒は、白金である。白金は、非常に効率的な触媒であり、燃料電池において高い電流が生成されるのを可能にする。しかし、そのコストは高く、白金は、利用可能性が限定されている。したがって、金属触媒は、燃料電池の費用に大幅に寄与する因子である。さらなる難点は、白金が地球上で限定された量でしか入手できないこと、および、燃料電池の使用がとりわけ車において一般化されると世界的な供給が数十年以上継続して予測され得ないことである(Gordonら、Proc.Natl Acas Sci USA、2006年、1209〜1214頁)。水素の電気発生または電気酸化のいずれかに用いられる活性層は、炭素材料上にコーティングされているPtまたは他の貴金属のナノ粒子を含有する。Ptナノ粒子触媒は、気相中での化学触媒作用について20世紀中頃から研究が始まり、現在に至るまでに大幅に最適化されてきた。この解決策は、今日において、経済的に実行可能である唯一のものであるが、(通常は5nm以上の直径を有する)ナノ粒子は、その表面においては10%以下の原子しか提示しない一方で、金属の質量の90%が不必要に固定化されていて、好ましくないコスト/効率バランスを結果として引き起こす。
【0007】
白金についての別の難点は、一酸化炭素の存在下に不可逆的に不活性化されるという事実に由来している。多くの水素ガス源は一酸化炭素の不純物を含有する。したがって、白金触媒の使用は、一酸化炭素レベルが極めて低い高純度の水素燃料を必要とする。これは、燃料電池を操作するコストを増大させる。
【0008】
結果として、全世界的な水素経済の存在は、水素の生成および取り込みのための新規な卑金属触媒の開発に依存していると思われる。
【0009】
白金触媒の代替物は、多くの研究の目的であった。1つの可能性は、アノードにおけるヒドロゲナーゼ酵素の使用である。ヒドロゲナーゼ酵素と炭素材料との組み合わせをベースとする電極が、WO2003/019705号;米国特許出願公開第2007/0248845号;EP1939961号;WO2004/114494号に開示されており、J.A.Cracknellら、Chem.Rev.2008年、108、2439〜2461頁に、より詳細に開示されている。しかし、ヒドロゲナーゼは、酸素の存在に高度に感受性であることが見出されており、酸化剤として酸素(または、空気などの酸素含有物質)を用いて操作する標準燃料電池において用いられるとき、ある期間にわたって不活性になる。さらに、ヒドロゲナーゼは、触媒活性形態で、相当量で生成することが非常に困難である。代表的な調製物は、触媒の分子量が約55kg.mol−1であるため、少量の活性分子に相当する数mgの酵素のために2週間を必要とする。
【0010】
米国特許出願公開第2006/0093885号には、電気化学電池または燃料電池用の電気化学アセンブリにおいて用いられ得る官能化された炭素材料が開示されている。しかし、触媒は、ポリマー中に分散された貴金属粒子をベースとしている。
【0011】
WO2006063992号および米国特許出願公開第2006/0058500号には、ポリマー樹脂、遷移金属および還元剤から形成される金属粒子、ならびに燃料電池用の電極を作製するためのその使用が開示されている。
【0012】
WO2006074829号には、アニオン伝導膜上のコーティングとして用いられ、さらに還元されて金属粒子を形成する金属有機錯体、および該膜から作製される燃料電池が開示されている。
【0013】
これら3つの最近の文献では、金属イオンが還元されてナノ粒子を形成し、触媒活性は、これらのナノ粒子の使用に依る。
【0014】
金属有機錯体を電極表面に固定化することはまた、同じ目的によって達成されてきた。Kellet、R:M.およびSpiro、T.G.,(Inorg.Chem.1985年、24、2378)によって、中性水溶液中の低い過電圧に関連して、Hの生成のための高い活性度を有する一連のコバルトポルフィリンが報告された。しかし、これらの化合物は、表面のカルボン酸基とのアミド連結部を介して電極に共有結合的にグラフト化されるとき、取り扱いが困難であることが証明されており、フィルム−電極またはフィルム−電解質の界面のいずれかにおけるフィルムの不安定性または破壊プロセスが前提とされていた。別の例においては、プラスに帯電したコバルトポルフィリン錯体をガラス状の炭素電極にコーティングされたNafion(登録商標)膜に組み込むことで、Nafion(登録商標)フィルムの乏しい電子移動特性を反映した、低い電気活性を結果として生じる。T.Abeら(Polym.Adv.Technol.1998年、9、559頁)によって、裸の熱分解黒鉛電極にコーティングされたNafion(登録商標)膜に組み込まれたコバルトテトラフェニルポルフィリンは、かなり低い70h−1のターンオーバー周波数の値でありながら、pH1の水溶液中で、より大きな過電圧(Ag/AgClに対して−0.7V)によってのみプロトンを還元できることが報告された。より良好なターンオーバー周波数(2.10−1)が観察されたが、黒鉛電極にコーティングされたポリ(4−ビニルピリジン−コスチレン)フィルムに組み込まれたコバルトフタロシアニンでは、Ag/AgClに対して−0.90の電位およびpH=1において高い過電圧を依然として有した。この場合においてもまた、触媒的プロトン還元は、マトリックス内での電子移動によって制限された(Zhaoら、J.Mol.Catal.A、1999年、145、245頁)。[CpRh(L)Cl](BF)(L=ビス−4,4’−ビスピロール−1−イルメチル)メトキシカルボニル]−2,2’−ビピリジル)の電解重合は、プロトンの電解還元が可能である安定なフィルムを生ずる。353のターンオーバーに相当する定量的な電流効率が、電解重合されるロジウム錯体によってコーティングされている炭素フェルト電極を用いた、pH1での14時間の電気分解実験の間に観察された。ここでも同様に、ターンオーバー周波数は低く、過電圧が支配する(Cosnierら、J.Chem.Soc.Chem.Comm.1989年、1259頁)。より最近では、ガラス状炭素上でのジアゾニウム塩の電解重合を介して(V.Vijaikanthら、Electrochemistry communication、2005年、7、427〜430頁)、またはポリピロールコーティングを介して(S.K.Ibrahimら、Chem Commun 2007年、1535〜1537頁)のいずれかで、二鉄錯体(水素発生のための分子電極触媒であることも公知である)を炭素材料に固定化することが記載されている。しかし、溶液中の二鉄錯体は有望な電極触媒活性を示すが、グラフト化の後に保持される活性は、ほとんどまたは全くない。
【0015】
文献EP−1914755号には、ナノスケールの電気化学電池アレイであって、各電池がウエルを含むアレイが開示されている。ウエルの壁は、少なくとも1つの電極を含む。分子は、リンカーを介して電極にカップリングされていてよい。電極に共有結合またはイオンによって連結した有機金属錯体が開示されている。しかし、このようなグラフト化によって、触媒活性をほとんどまたは全く保持しない表面が与えられる。
【0016】
文献米国特許出願公開第2004/0202876号には、基材に共有結合的にグラフト化されたポルフィリンオリゴマーまたはポリマーからなる多官能性分子が開示されている。しかし、このような錯体は、触媒活性をほとんどまたは全く保持していない。
【0017】
今日では、水素燃料電池のアノードにおける電極触媒としての白金に効果的に代用される実行可能な解決策は存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO2003/019705号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0248845号
【特許文献3】EP1939961号
【特許文献4】WO2004/114494号
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0093885号
【特許文献6】WO2006063992号
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0058500号
【特許文献8】WO2006074829号
【特許文献9】EP−1914755号
【特許文献10】米国特許出願公開第2004/0202876号
【特許文献11】米国特許第5,985,232号
【特許文献12】米国特許出願公開第2004/057,896号
【特許文献13】WO92/04279号
【特許文献14】米国特許第5,316,636号
【特許文献15】米国特許第5,300,203号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Gordonら、Proc.Natl Acas Sci USA、2006年、1209〜1214頁
【非特許文献2】J.A.Cracknellら、Chem.Rev.2008年、108、2439〜2461頁
【非特許文献3】Kellet、R:M.およびSpiro、T.G.,(Inorg.Chem.1985年、24、2378)
【非特許文献4】T.Abeら(Polym.Adv.Technol.1998年、9、559頁)
【非特許文献5】Zhaoら、J.MoI.Catal.A、1999年、145、245頁
【非特許文献6】Cosnierら、J.Chem.Soc.Chem.Comm.1989年、1259頁
【非特許文献7】V.Vijaikanthら、Electrochemistry communication、2005年、7、427〜430頁
【非特許文献8】S.K.Ibrahimら、Chem Commun 2007年、1535〜1537頁
【非特許文献9】Thessら、Science 273、1996年、483頁
【非特許文献10】Journetら、Nature 388、1997年、756頁
【非特許文献11】Nikolaevら、Chem.Phys.Lett.313、1999年、91〜97頁
【非特許文献12】Kongら、Chem.Phys.Lett.292、1998年、567〜574頁
【非特許文献13】Cassellら、J.Phys.Chem.103、1999年、6484〜6492頁
【非特許文献14】Yan Liら、Chem.Mater.13(3);2001年、1008〜1014頁
【非特許文献15】A.Cassellら、J.Am.Chem.Soc.121、1999年、7975〜7976頁
【非特許文献16】Howardら、Nature 352、1991年、139〜141頁
【非特許文献17】Coord.Chem.Rev.2005年、249頁
【非特許文献18】Comptes Rendus Chimie 2008年、11、8頁
【非特許文献19】Trancikら、Nano Letters 2008年、8、982〜987頁
【非特許文献20】B.J.Hathaway、A.E.Underhill、J.Chem.Soc.1960年、3705頁
【非特許文献21】B.J.Hathaway、D.G.Holah、A.E.Underhill、J.Chem.Soc.1962年、2444頁
【非特許文献22】Wuら、Science 305、2004年、1273〜1276頁
【非特許文献23】DuBoisおよびcoll.(DuBoisら、J.Am.Chem.Soc.2006年、128、358頁)
【非特許文献24】Z.C.Wuら、Science 2004年、305、1273頁
【非特許文献25】M.Hambourgerら、J.Am.Chem.Soc.130、2015頁(2008年)
【非特許文献26】M.A.Alonso−Lomilloら、Nano Lett.7、1603頁(2007年)
【非特許文献27】K.A.Vincent、A.Parkin、F.A.Armstrong、Chem.Rev.107、4366頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、従来技術の課題に対する解決策を提供することであり、とりわけ、燃料電池および電解槽における電極触媒として用いられ得、調製が容易であって、安価な材料をベースとしており、Hの経済的に実行可能な生成および酸化を可能にする材料であって、作業条件下で、低い活性化電位、および耐分解性を有する触媒を示唆する材料を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この課題に対する解決策は、伝統的な電極固体支持体を含む新規な材料であって、配位錯体がリンカーアームを通してグラフト化されている上記材料である。
【0022】
本発明の材料において、固体支持体に一旦グラフト化されても電極触媒活性が保持されている金属有機錯体は、選択されたリンカーの使用によるものであることが見出されている。さらに、固定化は、この手順を介して実施されるときには、溶液中の触媒について観察される過電圧と比較して上昇した過電圧を生じない。本発明の材料は、とりわけリンカーアームの性質により、触媒活性をほとんどまたは全く示さない従来技術の材料と相違する。
【0023】
本発明の材料は、調製が容易であり、燃料電池または電解槽において電極として一体化され得る。本発明の材料は、水素の発生または酸化のための分子電極触媒として作用し、改善された安定性によって特徴づけられる(達成される触媒サイクルの総数によって特徴づけられる)。加えて、触媒層は、光電極触媒デバイスにおいてカソードとして用いられ得るように、透明にされていてよい。
【0024】
本発明の第1の対象は、少なくとも2つの先端を含むリンカーアームによって表面が官能化されている、導電性または半導性材料の固体支持体を含む材料であって、第1の先端が、共有結合によって、またはπ−スタッキング相互作用を介してのいずれかで固体支持体に結合されており、第2の先端が、共有結合によって金属有機錯体(C)に連結されている、上記材料である。このような材料を、下記のスキームAに概略的に説明する。
【0025】
【化1】

【0026】
固体支持体は、プラークの形状を好ましくは有するが、この形状は、様々であってよい。とりわけ、固体支持体は、用いられるデバイスに応じて、ロッド、円筒またはワイヤの形状を有していてよい。
【0027】
固体支持体は、有利には、高い比表面積を有する導電性または半導性材料である。固体支持体は、ナノ構造であっても、ナノ構造でなくてもよい。高い比表面積を有するこの導電性または半導性材料は、高い比表面積を有する電極を形成するために、別の導電性材料の支持体に堆積されていてよい。この別の導電性材料は、任意の導電性材料、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、ステンレス鋼、鉄、銅、ニッケル、コバルト、アルミニウム(特に、新たにブラッシングされている場合)、金、ドープダイヤモンド、チタン、黄銅、または炭素、例えば黒鉛から作製されていてよい。好ましくは、固体支持体は、ITOおよび黒鉛から選択される材料から作製されている。
【0028】
固体支持体の調製のための材料は、金属材料、炭素材料、半導体または導電体の金属酸化物、窒化物またはカルコゲニドから選択され得る。
【0029】
固体支持体は、金属材料であるとき、ケイ素、黄銅、ステンレス鋼、鉄、銅、ニッケル、コバルト、アルミニウム(特に、新たにブラッシングされている場合)、銀、金またはチタンから選択され得る。
【0030】
金属固体支持体での官能化は、リンカー分子に由来するアリール基との反応によって実施され、共有結合によるグラフト化をもたらす。
【0031】
固体支持体は、炭素材料であるとき、
−カーボンブラック、単層または多層カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレンナノ粒子のような曲面炭素ナノ構造体、
−黒鉛、
−ガラス状炭素(膨張もしくは非膨張、または発泡体)、
−グラフェン、
−ドープダイヤモンド
から選択され得る。
【0032】
曲面炭素ナノ構造体として、限定されないが、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレンナノ粒子およびカーボンブラックが挙げられる。
【0033】
CNTの調製のための方法として、黒鉛のレーザ蒸発(Thessら、Science 273、1996年、483頁)、アーク放電(Journetら、Nature 388、1997年、756頁)およびHiPCo(高圧一酸化炭素)プロセス(Nikolaevら、Chem.Phys.Lett.313、1999年、91〜97頁)が挙げられる。CNTを製造するための他の方法として、化学蒸着(Kongら、Chem.Phys.Lett.292、1998年、567〜574頁;Cassellら、J.Phys.Chem.103、1999年、6484〜6492頁);ならびに溶液中および固体基材上の両方での触媒プロセス(Yan Liら、Chem.Mater.13(3);2001年、1008〜1014頁;A.Cassellら、J.Am.Chem.Soc.121、1999年、7975〜7976頁)が挙げられる。
【0034】
フラーレンナノ粒子を調製するための方法は、米国特許第5,985,232号および米国特許出願公開第2004/057,896号に記載されている。フラーレンナノ粒子は、Nano−C Corporation、Westwood Massなどの供給者から市販されている。
【0035】
カーボンブラックは、高度に分散されたアモルファス元素状炭素の粉末化形態である。カーボンブラックは、球およびこれらの融合凝集体の形態の、微細に分割されたコロイド材料である。種々のタイプのカーボンブラックは、一次粒子のサイズ分布、ならびにそれらの凝集および集塊の程度によって区別され得る。
【0036】
カーボンブラックは、石油重質留分および残油などの炭化水素混合物、コールタール生成物、天然ガスならびにアセチレンの制御された気相熱分解および/または熱クラッキングから選択される方法によって作製される。アセチレンブラックは、アセチレンの燃焼によって得られるタイプのカーボンブラックである。チャネルブラックは、堆積物が周期的に擦り取られる鋼板またはチャネル鉄に対してガス炎を衝突させることによって作製される。ファーネスブラックは、耐火物でライニングされた炉において作製されるカーボンブラックの名称である。ランプブラックは、固体を収集するための沈降室が備えられた閉鎖系において重質油または他の炭素質材料を燃焼させることによって作製される。サーマルブラックは、加熱された煉瓦の格子積みに天然ガスを通過させることによって製造され得、ここで、熱的にクラッキングされて比較的粗いカーボンブラックを形成する。カーボンブラックは、Cabot Corpなどの多くの供給者から市販されている。
【0037】
フラーレンはカーボンの球形同素体である。フラーレンは、sp混成状態にある偶数の炭素原子から全体的に構成される分子であり、閉鎖されたケージの形態を取る。フラーレン族のうち、最も豊富な種はC60分子であり、第2の最も豊富な種はC70である。フラーレンは、単層だけでなく積層された層または平行層からなる多層のケージも含む。フラーレンの調製は、とりわけ、WO92/04279号、米国特許第5,316,636号、米国特許第5,300,203号、およびHowardら、Nature 352、1991年、139〜141頁に開示されている。フラーレンは、Carbon Nanotechnologies Incorporated、MER Corporation、Nano−C Corporation、TDA Research Inc.、Fullerene International Corp.、およびLuna Innovationsなどの供給者から商業的に得ることができる。
【0038】
官能化されるには、本発明において用いられる炭素材料として、不飽和を有する炭素材料(黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、ガラス状炭素)が挙げられる。これらは、公知の方法によって官能化される:
−表面において1個または複数のC=C二重結合で実施される付加化学によって官能化される。ジアゾニウム塩の還元によってリンカーアーム前駆体から生成されるアリール基は、このように炭素材料と相互作用する。
−炭素材料のグラフェン層と、フェニル、ビフェニル、アントラセン、ピレン、ペリレンなどの、リンカーアームの芳香族部位、および他のポリ芳香族基とのπ−スタッキング相互作用を介して官能化される。
【0039】
固体支持体は、半導体または導電体の金属酸化物、窒化物またはカルコゲニドであるとき、TiO、NiO、ZnO、ZrO ITO、SnO、WO、Fe、Ta、Ta、TaON、N−ドープTiO、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe、CdTe、ZnTeおよびこれらの材料の複合体、さらには他の元素によって場合によりドープされたものから選択され得る。望ましい金属酸化物は、NiO、TiO、ZnOから選択される。
【0040】
この場合の固体支持体の官能化は、反応/相互作用、例えば、リンカー分子のアリール基と金属酸化物材料との間の共有結合的連結によって実施される。
【0041】
固体支持体に望ましい材料は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、および金属酸化物から選択される。さらにより好ましくは、固体支持体は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)から選択される。
【0042】
リンカーアームは、少なくとも2つの先端を含み、第1の先端は、共有結合によって、またはπ−スタッキング相互作用を介してのいずれかで固体支持体に結合されており、第2の先端は、共有結合によって金属有機錯体に連結されている。
【0043】
リンカーは、有利には、触媒作用に必要とされる配座を分子化合物に取らせるように十分に長くあるべきである。また、好ましくは、リンカーは、導電性または半導性材料の表面に絶縁層を形成することを回避するために、かつ電極から触媒への電子移動を妨げるために、長すぎないようにするべきである。
【0044】
上記リンカーアームは、低い抵抗率を有して良好な電子移動を保証するように固体支持体に結合されている第1の先端、および共有結合によって金属有機錯体に連結されている第2の先端を含む。固体支持体と金属有機錯体との間の良好な電子移動は、層の電気抵抗率の測定を介して評価され得る。低い抵抗率は、リンカーと固体支持体との間の共有結合またはπ−スタッキング相互作用によって達成される。
【0045】
リンカーは、炭化水素分子から選択され得、上記炭化水素分子は、固体支持体との少なくとも1個の共有結合、またはπ−スタッキングを通して固体支持体と相互作用する1個の基を含み、さらには、金属有機錯体との少なくとも1個の共有結合を含む分子である。
【0046】
この炭化水素分子は、以下の式:
【0047】
【化2】

【0048】
に対応するもの、ならびに
【0049】
【化3】

【0050】
(式中、
Arは、C〜Cアルキル、−OH、−NH、−COOH、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CONR”、−COOR”、−SO−、−SR”、−OR”、−NR”から選択される1個または複数の置換基を場合により含むC〜C30芳香族残基を表し、
RおよびR’は、同一または異なり、H、ならびに、−OH、−NH、−COOH、−CONH、トリアゾール、−SH、−Nから選択される1個または複数の置換基を場合により含み、−CONH−、−CO−O−、−CO−O−CO−、−CO−NH−CO−、−CO−S−、−CS−O−、−CS−S−から選択される1個または複数の架橋によって場合により中断されている、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、
R”は、H、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、
Xは、−OH、−NH、−COOH、−CONH、トリアゾール、−SH、−Nから選択される1個または複数の置換基を場合により含み、−CONH−、−CO−O−、−CO−O−CO−、−CO−NH−CO−、−CO−S−、−CS−O−、−CS−S−から選択される1個または複数の架橋によって場合により中断されている、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、
xは、整数であり、1≦x≦5であり、xは、X基上でグラフト化されている官能基Yの数であり、
Yは、単一の共有結合、−O−、−NH−、−S−、−COO−、−CONH−、−CO−S−、−CS−O−、−CS−S−から選択される官能基である)
の還元的オリゴマー化から得られるオリゴマーに対応するもの
から選択される。
【0051】
望ましいリンカーアームは、
【0052】
【化4】

【0053】
のオリゴマー化から得られるものである。
【0054】
リンカーが、
【0055】
【化5】

【0056】
であるとき、リンカーと固体支持体との間の相互作用は、π−スタッキングを介している。
【0057】
リンカーが、
【0058】
【化6】

【0059】
の還元的オリゴマー化から得られるオリゴマーであるとき、リンカーは、Ar基を通して、固体支持体に共有結合されている。
【0060】
式(IA)および(IC)において、望ましい変形例は、以下である。
【0061】
Arは、有利には、C〜C30芳香族残基を表す。Arは、以下のリスト:フェニル、ビフェニル、ピレニル、アントラセニル、フェナントレニル、ペリレニル、ナフタセニルから選択され得る。
【0062】
好ましくは、RおよびR’は、H、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択され、さらにより好ましくは、H、C〜C12アルキルから選択される基を表す。有利には、R=R’=Hである。
【0063】
好ましくは、Xは、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表す。さらにより好ましくは、Xは、C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキルから選択される基を表す。
【0064】
好ましくは1≦x≦3、さらにより好ましくはx=1である。
【0065】
アルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、線状、分枝状、または環状であり得る。
【0066】
上記リンカー分子は、種々の形状を取り得る:上記リンカー分子は、固体支持体と金属有機錯体とを連結する単なる線状鎖であってよいが、数個のアームを含む分枝状分子であってよく、1個または数個のアームが固体支持体に連結されており、1個または数個のアームが金属有機錯体に連結されている一方で、他のアームは遊離状態のままであってよい。この最後の場合は、実験部において特に説明され、リンカーが
【0067】
【化7】

【0068】
の還元的オリゴマー化から得られるオリゴマーである。
【0069】
リンカーは、専ら明確な化合物ではない。オリゴマー化の間に、N分子が各(IC)分子について除去され得る。製造の間に、リンカーの一部のオリゴマー化が起こり得るが、このプロセスは、電極と分子触媒との間の絶縁層の形成を回避するために制御されなければならない。いくつかの異なるリンカーが、同じ固体支持体上でグラフト化されていてよく、および/または同一の金属有機錯体に連結されていてよい。1個のリンカーアームは、2個の異なる官能基によって固体支持体にアンカーをかけていてもよい。1個のリンカーアームが、1個を超える金属有機錯体を有してもよく、これらの金属有機錯体は、同一であっても異なっていてもよい。このような変形は、下記のスキームBおよびCで説明される。
【0070】
【化8】

【0071】
本発明の材料において用いられ得る金属有機錯体は、以下の基準に対応するものから選択される。
【0072】
金属有機錯体は、1個または数個の、好ましくは1、2または3個の金属原子と配位子とを含む分子である。金属原子は、遷移金属、ならびに、特に、元素の周期的分類の原子21〜29、42、44〜46および74〜78および有機配位子から選択される。これらの望ましい遷移金属原子は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Ptである。配位子は、1個または数個の異なる分子から構成されていてよい。金属有機錯体は、溶液中で試験されるとき、リンカーでのグラフト化の前に、水素の発生または取り込みのための電極触媒活性を示す。これは、増加量のプロトン源(目的とする用途で用いられる酸と同等の強度を有する酸)の存在下に対象とする溶媒中でサイクリックボルタモグラムを記録すること、および800mV未満の(操作条件下、H/Hのカップルの平衡電位に関係する)過電圧で、水素発生用のカソードまたは水素取り込み用のアノードのいずれかの電流の向上を観察することによって、簡単に評価することができる。
【0073】
好ましくは、電極触媒作用は、触媒サイクルに沿って活性状態にある触媒の、可逆性、擬似可逆性、または少なくとも化学的に可逆性の電気化学プロセスに依存すべきである。金属有機錯体は、配位球の安定を保証するためのキレートの多座配位子を有し、好ましくは単核または多核であってよい。金属の配位球は、不安定な配位子、または還元もしくは酸化時に容易に除去され得る、効率的な触媒特性が必要とされる配位子を含有しないことが好ましい。
【0074】
本発明の材料において用いられ得る金属有機錯体は、非限定的に、以下の式に対応するものから選択され得る。さらなる例は、Coord.Chem.Rev.2005年、249頁、またはComptes Rendus Chimie 2008年、11、8頁において見出すことができ、2つの専門的な刊行物は、ヒドロゲナーゼおよびモデル化合物を扱っている。
【0075】
−金属ジオキシム/ジイミン錯体、例えば、以下の式:
【0076】
【化9】

【0077】
を有するもの。
【0078】
−金属アミン/イミン/ピリジン錯体、例えば、以下の式:
【0079】
【化10】

【0080】
を有するもの。
【0081】
−金属ポルフィリンおよび関係する(拡大もしくは制限された)ポリピロール大環状化合物もしくは金属フタロシアニン錯体、または金属シクラムおよび関係するポリアザ大環状錯体、例えば、以下の式:
【0082】
【化11】

【0083】
を有するもの。
【0084】
−フェロセノファンおよび関係する錯体例えば、以下の式:
【0085】
【化12】

【0086】
を有するもの。
【0087】
−金属ジホスフィンまたはジホスファイト錯体、例えば、以下の式:
【0088】
【化13】

【0089】
(式中、
Mは、元素周期表の遷移金属から、好ましくは、先に与えたリストから選択される原子を表し、さらにより好ましくは、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、W、Moから選択され、有利には、Mは、NiおよびCoから選択される。
【0090】
は、同一または異なり、H、BF、BPh、B(R、B(OR、BFRから選択される基を表す。
【0091】
Lは、溶媒分子、例えば水、アセトン メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、アニオン性配位子、例えばハロゲン、擬似ハロゲン、例えばSCN−もしくはシアン化物、水素化物、含酸素アニオン、例えば硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、過塩素酸塩、または一般的な単座配位子、例えばピリジン、イミダゾール、トリアゾール、CO、H、ホルミル、ホスフィン、ニトリルもしくはイソニトリル配位子、例えばアセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルイソニトリル、ベンジルイソニトリルから選択される。
【0092】
nは、0と6との間に含まれる数である。
【0093】
、R、Rは、同一または異なり、H、ならびに、−OH、−NH、−COOH、−CONH、トリアゾール環から選択される1個または複数の官能基を場合により含み、−CO−O−CO−、−CO−NH−CO−から選択される1個または複数の架橋によって場合により中断されている、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、R基のうちの少なくとも1個、またはR基もしくはR基の一方が、リンカー分子との共有結合を表し、2個以上のR置換基が一緒に縮合されていてよく、2個以上のR置換基が一緒に縮合されていてよい。)
を有するもの。
【0094】
全てのR基が、少なくとも1個のR基がリンカー分子との共有結合である場合を除いて、同一であることが好ましい。
【0095】
全てのR基が、少なくとも1個のR基がリンカー分子との共有結合である場合を除いて、同一であることが好ましい。
【0096】
好ましくは、金属有機錯体は、金属ジホスフィンまたはジホスファイト錯体、例えば以下の式を有するもの(式中、R、RおよびRは、上記と同様の定義を有する):
【0097】
【化14】

【0098】
から選択される。
【0099】
望ましい変形例は、以下の式(II):
【0100】
【化15】

【0101】
(式中、RおよびRは、上記と同様の定義を有する)
に対応するものから選択される金属有機錯体を有する。
【0102】
有利には、全てのRが、少なくとも1個のR基がリンカー分子との共有結合である場合を除いて、同一であり、
【0103】
【化16】

【0104】
から選択される基を表す。
【0105】
好ましくは、全てのRが同一であり、フェニル基を表す。
【0106】
リンカーアームを通した、金属有機錯体による固体支持体の官能化は、いくつかの手段によって行われ得る:
−(i)金属有機錯体が、リンカーとまずカップリングされ得、このアセンブリは、高い比表面積を有する導電性または半導性材料にグラフト化され得る;
−(ii)高い比表面積を有する導電性または半導性材料が、リンカーによってまず官能化され得、その後、金属有機錯体が、クリック化学の方法を含めた伝統的な有機カップリング反応を用いて、リンカー上にカップリングされ得る;
−(iii)高い比表面積を有する導電性または半導性材料が、金属有機錯体の一部である配位子と既にカップリングされているリンカーによってまず官能化され得る。次いで、該錯体が、このグラフト化された配位子を、錯体の金属塩または金属前駆体と遊離配位子との混合物と反応させることによって形成される。
【0107】
これらの方法のいくつかは、実験部で説明される。
【0108】
リンカーが
【0109】
【化17】

【0110】
であるとき、リンカーと固体支持体との間の相互作用は、π−スタッキングを介する。リンカーは、固体支持体と接触して、リンカーのアリール基と固体支持体との間の相互作用が確立される。リンカーは、このステップの前に、金属有機錯体Cによって、または金属有機錯体の配位子形成部分によって、グラフト化されていても、グラフト化されていなくてもよい。
【0111】
本発明による材料の調製の一例は、リンカーが(IC)のオリゴマー化から得られるオリゴマーである場合、図14において説明される。
【0112】
カーボンナノチューブ支持体(CNT)のような固体支持体は、第1ステップにおいて、リンカーを用いて、
【0113】
【化18】

【0114】
(式中、Ar、X、Y、R、R’およびxは、上記と同じ意味を有し、Zは、反応性基である)のオリゴマー化によって官能化される。この官能化により、固体支持体とオリゴマーとの間に共有結合が生じる。次いで、官能化された固体支持体は、金属有機錯体誘導体CW(式中、Cは、金属有機錯体であり、Wは、Zと反応して共有結合を形成することができる反応性基である)と反応する。
【0115】
本発明の材料の調製の別の概略的代表例は、図15において説明される。
【0116】
固体支持体は、第1ステップにおいて、リンカーを用いて、
【0117】
【化19】

【0118】
(式中、Ar、X、Y、R、R’およびxは、上記と同じ意味を有し、Lは、金属有機錯体の配位子またはその一部である)のオリゴマー化によって官能化される。この官能化により、固体支持体とオリゴマーとの間に共有結合が生じる。次いで、官能化された固体支持体は、金属原子Mと反応し、その結果、金属原子Mと、その配位子Lとが接合して、金属有機錯体Cを形成する。
【0119】
本発明の材料の調製の別の概略的代表例は、図16において説明される。
【0120】
第1ステップにおいて、リンカー前駆体
【0121】
【化20】

【0122】
は、誘導体CW(式中、Ar、R、R’、X、Yおよびxは、上記と同じ意味を有し、WおよびZは、一緒になって共有結合を形成することができる反応性基を表す)との反応を経て金属有機錯体Cのグラフト化によって官能化される。
【0123】
次いで、固体支持体が、リンカーC分子によって官能化されて、リンカーのオリゴマー化および固体支持体とオリゴマーとの間の共有結合の確立がもたらされる。
【0124】
オリゴマー化の程度は、説明目的でこれらの図において任意に選択されていて、限定としてみなされてはならない。
【0125】
本発明の材料をベースとする電極の一例が、図13Aに表されており、本発明の望ましい対象である。
【0126】
本発明の材料をベースとする電極の別の例が、図13Bに表されており、本発明の望ましい対象である。
【0127】
電極の構成要素のアセンブリは、いくつかの経路を用いて行われ得る。
【0128】
高い比表面積を有する導電性または半導性材料が、まず官能化され得、次いで導電性電極材料に堆積され得るか、または異なる順序では;堆積がまず行われ、続いて官能化ステップが行われてよい。
【0129】
導電性支持体に一旦堆積された本発明の材料は、燃料電池、特に水素燃料電池における、または電解槽、特に水電解槽におけるような電子用途のための電極として用いられ得る。これらの新規な電極材料は、プロトンから水素への高い還元速度を初めて示す。さらに、触媒プロセスが低い過電位において行われる。これらの材料は、MWCNTの大きな表面積および伝導率、ならびに分子触媒の、プロトンから水素への還元効率を兼ね備える。さらに、望ましい金属有機錯体である、式(II)のニッケル(II)ジホスフィン錯体は、合成が容易であり、空気に対して高い安定性を示し、一酸化炭素による毒作用はない。
【0130】
望ましい表面改質技術は、官能化されたアリールジアゾニウム塩の還元をベースとする。この技術は、レドックス系触媒を電極上に固定化するための、用途の広い、制御された電気グラフト化方法を付与する。ITO/MWCNTまたは黒鉛/MWCNT電極において、高速の不均一な電子移動が維持される。CNTをベースとする透明電極は、光電気化学電池での用途のために得られ得る(Trancikら、Nano Letters 2008年、8、982〜987頁)。改質された電子を目的とするこのルートは、用途が広く、他の高い表面積の炭素材料または金属酸化物光電極にも移行され得る。これらの低コストの透明電極は、エネルギー変換デバイスに容易に一体化され得る。
【0131】
これらの空気中で安定なナノ構造材料は、HからのHの生成におけるその効率が証明されており、電極触媒デバイスにおいて白金と少なくとも競合する可能性がある。該材料は、有機媒体または水のいずれかにおいて用いられ得る。これらの空気中で安定なナノ構造材料は、Hの触媒酸化におけるその効率が証明されている。
【発明の効果】
【0132】
本発明の新規な触媒材料は、多数の利点を示す。
【0133】
上記材料では、粒子のアプローチと比べて、少量の金属原子のみが用いられる。これは、金属原子に配位する配位子を安く容易に合成することを利用して行われ得る。
【0134】
各金属原子の触媒活性がより高いため、金属電荷の量は低減され得る。
【0135】
分子触媒は、ガスまたは有機汚染物質によって不可逆的に汚染される白金ナノ粒子とは対照的に、その化学基材に対して非常に選択的である。
【0136】
用いる金属は、必ずしも貴金属ではない。
【0137】
分子触媒の安定性は、溶液で報告されているものと比較して、グラフト化の際に増大する。
【0138】
これらの新規な材料は、水電解槽において、カソードの活性層として用いられ得る。金属有機錯体が水素酸化に活性な触媒であることが公知であるため、これらの材料はまた、水素燃料電池におけるアノードの活性層としても用いられ得る。より一般的には、このクラスの材料は、電極触媒作用を必要とするいずれの用途においても用いられ得るが、但し、グラフト化された触媒の性質が用途(ケトンなどの有機基材の電解還元、水からの酸素形成、燃料電池のカソードの活性層での酸素の還元、汚染物質の脱塩素を用いた水の汚染除去、CO還元など)に適合していることを条件とする。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】例に開示する金属有機錯体の合成方法を示す。スキーム1:PPh(下記例において、R=CH16またはR=PhCHCHCOOPht)の合成、スキーム2:[Ni(PPh](BFの合成。
【図2】CDCN中での[Ni(PPhPhCH2CH2COOPht](BFHおよび31P NMRスペクトル。
【図3】CDCN中での[Ni(PPhCH2C16H9](BFHおよび31P NMRスペクトル。
【図4】[Ni(PPh](BFのサイクリックボルタモグラム(1mmol.L−1、ガラス状炭素作用電極、50mV.S−1、MeCN−BuNPF 0.2mol.L−1、電位は、Ag/AgClO、0.01mol.L−1電極に対して見積もられる):実線:R=PhCHCHCOOPht、破線:R=CH16R、点線:R=Ph。
【図5a】(左):0、1.4、2.7、4.1、7.5および11当量の[DMFH]OTfの存在下でのCHCN中での[Ni(PPhPhCH2CH2COOPht](BFのサイクリックボルタモグラム(1mmol.L−1、ガラス状炭素作用電極、50mV.S−1、MeCN−BuNPF 0.2mol.L−1、電位は、Ag/AgClO、0.01mol.L−1電極に対して見積もられる)。
【図5b】(右)0、1.4、2.7、4.1、7.5および11当量の[DMFH]OTfの存在下での[Ni(PPhCH2C16H9](BFのCHCN溶液のサイクリックボルタンメトリ(1mmol.L−1、ガラス状炭素作用電極、50mV.S−1、MeCN−BuNPF 0.2mol.L−1、電位は、Ag/AgClO、0.01mol.L−1電極に対して見積もられる)。
【図6】上記当量の[DMFH](OTf)に対する、(▲)[Ni(PPhPhCH2CH2COOPht](BFおよび(■)[Ni(PPhCH2C16H9](BFの比[I(H)/I(Ni)](式中、I(H)は、接触波のピーク電流であり、I(Ni)は、一電子のNi中心の波のピーク電流である)のトレース。
【図7】Nの1sの結合エネルギー準位における、ITO/MWNT−PhCHCH−NH/−NH電極のXPSスペクトル。
【図8】MeCN−BuNPF 0.2mol.L−1中の官能化されたITO/MWCNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF電極(50mV.S−1、電位は、Ag/AgClO、0.01mol.L−1電極に対して見積もられる)におけるサイクリックボルタンメトリ(3連続走査)。
【図9】官能化されたITO/MWCNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF電極(左:Ni 2p;右:P 2p)のXPSスペクトル。
【図10】MeCN−BuNPF 0.2M中の、(A)種々の濃度の[DMFH]OTf(0、2、3.5および7mM)の存在下でのITO/MWCNT電極、ならびに(B)種々の濃度の[DMFH]OTf(0、0.29、0.60、0.90、1.17、1.75、2.34、3.51、5.85、11.7mM)の存在下での、官能化されたITO/MWCNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF電極(50mV.S−1、電位は、Ag/AgClO、0.01mol.L−1電極に対して見積もられる)の電極挙動。
【図11】上記濃度の[DMFH](OTf)に対する、官能化されたITO/MWCNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF電極の比[I(DMFH)/I(Ni)]のトレース。
【図12】[DMFH](OTf)(0.06mol.L−1)およびn−BuNBF(0.1mol.L−1)のCHCN溶液中、Ag/AgClに対して−0.5Vで平衡が保たれた、(A)ITO/MWCNT電極および(B)ITO/MWNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF(エリア:1cm−1)におけるクーロメトリ。電荷の関数としての発生された水素の体積は、挿入部に表示される。
【図13A】ITO/MWNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF電極の構造の代表例。
【図13B】PTFE/MWCNT−[Ni(PPhNCH16](BF電極の構造の代表例。
【図14】本発明の材料の調製に由来するステップを概略的に示す。
【図15】本発明の材料の調製に由来するステップを概略的に示す。
【図16】本発明の材料の調製に由来するステップを概略的に示す。
【図17A】官能化されたITO/MWCNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF電極のMEB画像。
【図17B】官能化されたITO/MWCNT−PhCHCHNH−[Ni(PPhPhCH2CH2CO](BF電極のMEB画像。
【図18A】ガス拡散層を含有する膜電極アセンブリにおける電気化学測定用デバイス。(1)膜電極アセンブリ(MEA)、(1.0)ガス拡散電極(ディスク直径14mm)、(1.1)触媒材料、(1.2)Nafion(登録商標)NRE212CS膜、(3)金グリッド、(4)PTFEガスケットおよび(8)窒素または水素ガス流。
【図18B】ガス拡散層を含有する膜電極アセンブリにおける電気化学測定用デバイス。(1)膜電極アセンブリ(MEA)、(5)白金メッシュ、(6)硫酸水銀参照電極、(7)窒素バブリングおよび(8)窒素または水素ガス流。
【図19】Nafion膜とアセンブルされたガス拡散層(GDL)からなるMEAにおいて記録された、0.5M HSO水溶液からの水素発生および取り込みのための電気化学測定値。GDLは、リンカー(IC)を用いてニッケル触媒によって官能化されたMWCNTSまたはMWCNTによって改質される。A:回転ディスク測定値。B:リニアボルタンメトリ測定値(2mV.S−1)。C:白金コーティングされたGDLとさらに比較した、リニアボルタンメトリ測定値の対数表現。
【図20】ジアゾニウムルートを介してニッケル触媒によって官能化された膜電極アセンブリにおいて実施された水素の発生(NHEに対して−0.3Vで電気分解)および酸化(NHEに対して+0.3Vで電気分解)の両方についての長期電気分解実験。
【図21】Nafion膜(2mV.S−1)とアセンブルされた、リンカー(IA)を用いてニッケル触媒によって官能化されたガス拡散層(GDL)からなるMEAにおいて記録された0.5M HSO水溶液からの水素の発生および酸化の両方に関する、電位の関数としての電流密度の漸進的変化。
【発明を実施するための形態】
【0140】
実験部
材料。全ての反応を、グローブボックスにおいてまたは標準シュレンク技術を用いてアルゴンの不活性雰囲気下に常套的に実施した。溶媒を脱気し、アルゴン下に蒸留した。ジエチルエーテルをNa/ベンゾフェノン上での還流によって蒸留し、エタノールをマグネシウムジエトキシド上での還流によって蒸留し、乾燥アセトニトリルおよびジクロロメタンをCaHでの蒸留によって得た。NMR溶媒(Eurisotop)を3つの凍結−吸引−解凍サイクルによって脱酸素して、分子篩上で保存した。これを通して窒素をバブリングすることによって、工業用の電気化学用ジメチルホルムアミドを脱気した。支持電解質(n−BuN)BFを(n−BuN)HSO(Aldrich)およびNaBF(Aldrich)から調製し、真空下に80℃で一晩乾燥させた。[Ni(MeCN)](BFを既に記載されている手順にしたがって調製した[B.J.Hathaway、A.E.Underhill、J.Chem.Soc.1960年、3705頁;B.J.Hathaway、D.G.Holah、A.E.Underhill、J.Chem.Soc.1962年、2444頁]。他の化学薬品を受け入れたときのまま用いた。工業用の3100グレードの多層カーボンナノチューブ(>95%)をNanocylから得た。Arkema Carbon Nanotubesから得た工業用グレードのC100多層カーボンナノチューブ(>95%)を受け入れたときのまま、精製ステップを行うことなく用いた。ITO基材は、Prazision Glas & Optik、GmbH(PGO)から提供された。
【0141】
方法および器具類
NMRスペクトルを、Hでは300.0MHzで、13Cでは75.5MHzで、31Pでは121.5MHzで作動する、QNPプローブヘッドを備えたBruker AC300分光計において、または、Hでは400.0MHzで作動するBruker AVANCE DRX400において、5mm管で室温にて記録した。溶媒ピークは、Hおよび13Cの化学シフトについて、MeSiに対する内部標準として用いられる;31P NMRスペクトルをプロトンデカップリングし、HPO(85%)を参照とした。ESI質量スペクトルをFinnigan LCQ thermoquestイオントラップによって記録した。元素分析をICSN/CNRS(Gif/Yvette、フランス)においてMicroanalyses Laboratoryで行った。
【0142】
赤外分光法(IR)については、ATR用のPike Miracleプレートを備えたBruker Vertex70分光計(分解能2cm−1、スペクトルを256回の走査で収集する、MCT検出器)。UV−Visスペクトルを、Perkin Elmer Lambda650分光計を用いて記録した。X線光電子スペクトル(XPS)を、1486.6eVで単色化されたAl Ka源を用いて、Kratos Analytical Axis Ultra DLDにて記録した。本発明者らは、スペクトル全体で50eV、1つの内殻準位に焦点を合わせる場合には20eVのパスエネルギーで作用する半球型分析器を用いた。得られたMWCNT電極のモルホロジーをSEM Hitachi S−4500によって調査した。
【0143】
電気化学測定:
EG&Gポテンシオスタット、273Aモデルを用いて電気化学分析を行った。電気化学実験を、グローブボックス中、高度に制御されたアルゴン乾燥雰囲気下、3電極電気化学電池において実施した。作用電極は、以下に記載のものであった。補助電極は、白金または黒鉛箔であった。参照電極は、Ag/AgClO 10−2Mのカップルをベースとした。代替的には、銀/塩化銀電極を用いた。これらの参照電極は、溶液中にフェロセンを添加し、その半波長電位を測定することによる各実験の後に較正した。この作業において与えられる全ての電位は、別途記述しない限り、(Ag/AgClO)参照電極に対するものである。テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート[BuN]PFを支持電解質として用いて、無水ジクロロメタンまたはアセトニトリル(含水量<50ppm)中で実験を行った。[DMFH](OTf)を、密度が1.28であり、[DMFH]濃度が4.1Mである、ジメチルホルムアミド(4.9mL)とトリフリン酸(2.8mL)との2/1(mol:mol)の新たな混合物として、シリンジによって添加した。
【0144】
非水系媒体中でのバルク電気分解実験では、雰囲気圧にて発生されるガスの体積のモニタリングを可能にするU管に接続された密閉電池を用いた。白金グリッドカウンタ電極を、ガラスフリットによって接続されて電解液で満たされた分離区画に設置した。電池に蓄積された水素を、3mのPorapackカラムおよび熱伝導率検出器(TCD)を備えたDelsi Nermag DN200 GCクロマトグラフを用いて、純度に関して試験した。窒素を1バール下でキャリアガスとして用いた。装置全体を45℃で恒温にした。これらの条件下において、純粋な水素は、78秒の溶出時間を有する。
【0145】
定常状態の回転ディスクリング電極測定を、Bio−logic VMP2マルチポテンシオスタットに接続されたPine E7R9シリーズGCPT電極を用いて実施した。Hg/HgSO電極(NHEに対してE=0.68V)を参照として用い、白金ワイヤを補助電極として用いた。材料をインクとして配合し、触媒粉末を同量のイソプロパノールおよび5質量%のNafion D−521ディスパーション(DuPont Fluoroproducts製)(http://www2.dupont.com/Fuel Cells/en_US/assets/downloads/dfc 103.pdf)と混合して、乾燥後の固体含量で5質量%のNafionに達するようにした。超音波浴にて15分間均一化した後、50μgの粉末に相当する液滴を0.196cmのガラス状炭素ディスク電極に堆積させ、室温で乾燥した。ディスク電極に発生された水素を、NHEに対して600mVで平衡が保たれた同心の白金リング電極にてモニタリングした。工業用白金担持炭素材料(BASF Pt/C 20質量%)のサンプルを用いて較正を用いた。
【0146】
官能化されたガス拡散層の特性決定を、ガス拡散電極セットアップ(図18Aおよび18Bを参照)用の半電池ホルダを用いて達成した。触媒材料(1.1)が堆積されたガス拡散電極(1.0)(ディスク直径14mm)と、Nafion(登録商標)NRE212CS膜(1.2)(DuPont)とを、ホットプレスプロセス(4MPa、135℃で2分30秒間)によって、一緒に直接結合させた。得られた膜電極アセンブリ(MEA)(1)をガス拡散層が上向きになっているサンプルホルダに挿入した。次いで、Nafion膜(φ8mm)の中央を、同じ表面積のガス拡散層に20mL.min−1に設定した窒素または水素流(8)を供給しながら、液体電解質(0.5M HSO)に曝した。金グリッド(3)は、電気接点を提供し、膜側に設定されたPTFEガスケット(4)は、デバイスの密閉を確保する。
【0147】
連続的な窒素バブリング(7)によって通気された、40mlの溶液を含有する、3個の電極、2個の区画のセットアップを用いた。カウンタ電極および参照として機能する白金メッシュ(5)は、硫酸水銀電極(6)(放射計MSE Hg/HgSO−NHEに対してE=0.68V)であった。電気化学実験をコンピュータ制御されたBio−logic VMP2ポテンショスタットにおいて実施した。分極曲線の後に同じ試験計画を実行した:ガス流(8)(窒素または水素)を20mL.min−1に設定しながら、2mV.S−1において0.5VNHEから−0.3VNHEまで5のボルタンメトリサイクル(CV)を記録した。
【0148】
MEAのオーム抵抗を、種々の電位(NHEに対して−0.3、−0.1、0.1および0.3V)で5分間安定化させた後、電気化学インピーダンス分光法によって測定した。適用されたシグナルの振幅は、10mVであり、10進につき10回の測定を200kHzと100mHzとの間で実施した。オーム抵抗を、定位相要素による直列の抵抗および並列に設定された抵抗からなる電子回路RΩ(RCT//QDL)による実験結果をモデル化することによって推定した。RΩは、デバイス全体のオーム抵抗に相当し、QDLは、容量効果(二重層容量および擬似容量)に対する定位相要素であり、RCTは、電荷移動抵抗に起因する。本発明者らのMEAについて見出された典型的なオーム抵抗は、3〜5Ωである。電流値が低いため、抵抗降下のための補正が実施される必要はない。
【0149】
制御された電位クーロメトリ実験の間に、GDLを超えるガス流を2分ごとにサンプリングし(100μL)、40℃で恒温としたporapack Q80/100カラム(6’1/8”)および100℃で恒温としたTCD検出器を備えたPerkin−Elmer Clarus 500ガスクロマトグラフを用いて分析した。白金活性層で担持された工業用GDL(BASF LT140EWSI、白金担持0.5mg.cm−2)を用いて、較正を用いた。
【0150】
合成
試薬および化学薬品は、全て、Aldrichから購入した。言及した場合を除き、試薬および化学薬品を受け入れたときのまま用いた。[Ni(MeCN)](BFを公知の手順[B.J.Hathaway、A.E.Underhill、J.Chem.Soc.1960年、3705頁;B.J.Hathaway、D.G.Holah、A.E.Underhill、J.Chem.Soc.1962年、2444頁]にしたがって調製した。
【0151】
4−(2−アンモニオエチル)ベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート
テトラフルオロ酢酸の50%EtO溶液(0.5mL、3.7mmol)を4−(2−アミノエチル)アニリン(0.5mg、3.7mmol)のMeCN溶液(4mL)にアルゴン下−40℃で添加した。混合物を10分撹拌し、次いでニトロシルテトラフルオロボレート(450mg、3.8mmol)を滴下した。−40℃で30分撹拌した後、EtO(100mL)を添加した。得られた白色沈殿物を濾過し、EtOで2回洗浄すると、白色粉末(1.18g、99%)が与えられた。
【0152】
1H (CD3CN): 3.26 (m, 2H, CH2CH2NH3+), 3.31 (m, 2H, CH2CH2NH3+), 7.82 (d, 2H, J = 9Hz, C6H4), 8.44 (d, 2H, J = 9Hz, C6H4)
IR: ν(cm-1) = 3270, 3201, 3113, 2285, 1589, 1508, 1019, 928, 851, 820, 781
PhPhCH2CH2COOH(スキーム1/図1)
フェニルホスフィン10%のヘキサン溶液(3.3mL、3.0mmol)をパラホルムアルデヒド(180mg、6.0mmol、2当量)の脱気されたEtOH溶液(40mL)に滴下した。混合物を撹拌下80℃で40分間加熱した。3−(4−アミノフェニル)プロパン酸(496mg、3.0mmol、1当量)を添加し、溶液を一晩還流させた。溶液をRTまで冷却させた。白色沈殿物(1.43g、2.4mmol、80%)を濾過し、EtOHで洗浄した。
【0153】
31P (DMSO-d6): -52.0 (br, s)
1H (DMSO-d6): 2.42 (t, 2H, CH2CH2COO, J = 7Hz), 2.67 (t, 2H, CH2CH2COO, J = 7Hz), 4.12 (m, 4H, NCH2P), 4.54 (m, 4H, NCH2P), 6.57-7.03 (m, 8H, NC6H4), 7.47-7.69 (m, 10H, PC6H5), 12.00 (s, 1H, COOH)
IR: ν(cm-1) = 2961, 2921, 1708, 1613, 1515, 1456, 1435, 1379, 1243, 1190, 799, 788, 746
PhPhCH2CH2COOPht(スキーム1/図1)
PhPhCH2CH2COOH(320mg、0.53mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC、191mg、1.23mmol、2.3当量)およびN−ヒドロキシフタルイミド(200mg、1.23mmol、2.3当量)のDMF溶液(2mL)を4時間の間撹拌した。水(80mL)を添加すると、白色沈殿物が得られ、これを濾過してアセトンで洗浄すると、白色粉末(310mg、0.35mmol、65%)が与えられた。
【0154】
31P (CD3CN): -52.6 (br s)
1H (CD3CN): 2.83 (t, 2H, CH2CH2COO, J = 7Hz), 2.95 (t, 2H, CH2CH2COO, J 7Hz), 4.12 (m, 4H, NCH2P), 4.53 (m, 4H, NCH2P), 6.59-7.11 (m, 8H, NC6H4), 7.46-7.67 (m, 10H, PC6H5), 7.90-7.97 (8H, H Pht)
[Ni(PPhPhCH2CH2COOPht](BF(スキーム2/図1)
[Ni(MeCN)](BF(50mg、0.104mmol)の溶液をMeCN(10mL)中PPhPhCH2CH2COOPht(200mg、0.225mmol、2.2当量)の存在下に3時間の間RTで撹拌した。溶液を真空下で濃縮し、EtOを沈殿物に添加して、赤色粉末を沈澱させた。濾過後、赤色生成物(90mg、0.045mmol、40%)をEtOで2回洗浄し、真空中で乾燥した。
【0155】
31P (CD3CN): 3.71 (br s)
1H (CD3CN): 3.02 (m, 16H, CH2CH2COO), 3.93 (d, 8H, J = 5.6Hz, NCH2P), 4.25 (d, 8H, J = 5.6Hz, NCH2P), 7.13-7.23 (m, 16H, NC6H4), 7.32-7.39 (m, 20H, PC6H5), 7.7-7.9 (16H, H Pht)
IR: ν(cm-1) = 1743, 1508, 1187, 1057, 879, 697
UV/Vis(CHCN):λ=290nm(ε=24000)、480nm(ε=1500)
PhCH2C16H9
ピレンメチルアミン塩酸塩(535mg、2.0mmol)をNaOH(120mg、3.0mmol)の水溶液(40mL)に添加した。得られた懸濁液をCHCl(3×20mL)で抽出した。真空下で溶媒を除去すると、白色粉末のピレンメチルアミン(415mg、1.80mmol)が得られた。
【0156】
フェニルホスフィン10%のヘキサン溶液(1.9mL、1.72mmol)をパラホルムアルデヒド(100mg、3.33mmol、2当量)のEtOH溶液(40mL)に滴下した。混合物を撹拌下80℃で40分間加熱した。ピレンメチルアミン(400mg、1.72mmol、1当量)を添加し、溶液を一晩還流させた。RTまで冷却すると、白色沈殿物(1.07g、1.46mmol、85%)が形成され、これを濾過し、EtOHで洗浄した。
【0157】
31P (CD3CN): -48.0 (br s)
IR: ν(cm-1) = 3044, 2872, 2830, 1250, 1068, 837, 739, 711
[Ni(PPhCH2C16H9](BF
[Ni(MeCN)](BF(70mg、0.14mmol)の溶液をMeCN(10mL)中PPhPhCH2CH2COOPht(200mg、0.2mmol、2当量)の存在下に3時間の間RTで撹拌した。溶液を濾過し真空下で濃縮した。EtOを添加して、橙色粉末を沈澱させた。濾過後、赤色−橙色生成物(220mg、0.13mmol、90%)をEtOで2回洗浄し、真空中で乾燥させた。
【0158】
31P (CD3CN): 3.37 (br s)
1H (CD3CN): 3.14 (br d, 8H, J = 20Hz, NCH2P), 3.42 (d, 8H, J = 12 Hz, NCH2C16H9), 4.50 (br d, 8H, J = 55Hz, NCH2P), 6.48-6.92 (m, 20H, PC6H5), 7.73-8.04 (36H, C16H9)
IR: ν(cm-1) = 3061, 1592, 1494, 1194, 1050, 746, 690
UV/Vis(CHCN):λ=313nm(ε=51000)、328nm(ε=105000)、344nm(ε=130000)、471nm(ε=1400)
MWCNT電極の調製
ITO/MWCNT
ITO/MWCNT電極を、混合セルロースエステル膜上での、MWCNT(0.1mg)の水中懸濁液(80mL)の濾過技術によって作製した[2]。膜をITOウエハに堆積させ、MeCNおよびアセトンによる洗浄を通して溶解させた。サンプルを100℃でさらに加熱した。
【0159】
黒鉛/MWCNT
黒鉛/MWCNT電極を、混合セルロースエステル膜上での、MWCNT(0.1mg)の水中懸濁液(80mL)の濾過技術によって作製した(Wuら、Science 305、2004年、1273〜1276頁)。膜を黒鉛ウエハに堆積させ、MeCNおよびアセトンによる洗浄を通して溶解させた。サンプルを100℃でさらに加熱した。
【0160】
PTFE/MWCNT
PTFE/MWCNT電極を、PTFE膜上での、MWCNTのEtOH中懸濁液の濾過によって作製し、いわゆるPTFE/MWCNTバッキーペーパーを得た。
【0161】
GDL/MWCNT
MWCNT(10mg)を純水(250mL)中に分散させ、30分間超音波処理した。溶液を注意深く一晩デカントした。次いで、(UV−可視吸収によって決定された)0.295mg/Lの質量濃度を有する上澄み(100mL)をGDLディスク(BASF LT 1200W、3cm)において濾過し、約0.03mgのMWCNTの堆積物を生じた。サンプルを100℃で1時間さらに加熱した。
【0162】
リンカー(IC)を用いたMWCNT電極の官能化
ITO/MWCNTおよびGDL/MWCNT
ITO/MWCNTおよびGDL/MWCNT電極を、4−(2−アンモニオエチル)ベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(1mmol.L−1)の存在下、3電極電池において作用電極として用いた。ジアゾニウム塩の還元を経て電気グラフト化を実施した。これは、E=−0.26Vにおける制御された電位クーロメトリ、またはサイクリックボルタンメトリ(0.4Vと−0.4Vとの間で、20mV.S−1において3サイクルを記録する)のいずれかを用いて行われ得る。
【0163】
MWCNT電極の表面に導入されたアミン残基と、[Ni(PPhPhCH2CH2COOPht](BFの活性化されたエステル基との間のアミド連結の形成をベースとした官能化後ステップによって、Ni錯体を導入した。このステップは、EtN(2mmol.L−1)の存在下、[Ni(PPhPhCH2CH2COOPht](BF(0.5mmol.L−1)のCHCN溶液にウエハを浸漬することによって達成した。溶液を一晩撹拌した。XPSおよび電気化学実験により、Ni錯体からMWCNTへの共有結合的グラフト化が確認された。グラフト化された電極の構造は、図13Aに示すスキームによって表すことができる。
【0164】
リンカー(IC)を用いたMWCNT電極の官能化
PTFE/MWCNT
官能化されたPTFE/MWCNTバッキーペーパーを、[Ni(PPhCH2C16H9](BF(5mg)の存在下で、MWCNT(0.1mg)のEtOH/CHCl混合物(80/2v:v、80mL)中懸濁液の濾過によって直接調製した。ピレン基を有するNi錯体のπ−スタッキングをXPS分析および電気化学によって確認した。該錯体を図13Bに示す。
【0165】
GDL/MWCNT
[Ni(PPhCH2C16H9](BF(5mg)のCHCl混合物中溶液(10mL)をGDL/MWCNT電極上にゆっくりと濾過した。ピレン基を有するNi錯体のπ−スタッキングをXPS分析および電気化学によって確認した。
【0166】
結果
リンカー(IC)を用いたGDL/MWCNT電極の官能化
活性化されたエステルPPh(R3=PhCHCHCOOPht)をEDCの存在下、PPhR1中のカルボン酸官能基をN−ヒドロキシフタルイミドとカップリングすることによって合成した。ニッケル錯体[Ni(PPh](BF(R=R2およびR3)の合成を、2当量のジホスフィン配位子とニッケル(II)前駆体とをMeCN中で混合することによって達成した(図1−スキーム2)。配位子および錯体は、31P NMRおよびH NMRによって特性決定した。両方の錯体の化学シフトは、[Ni(PPhPh](BF(図2および3)についてDuBoisおよびcoll.(DuBoisら、J.Am.Chem.Soc.2006年、128、358頁)によって得られるものと類似している。
【0167】
Ag/AgClO(0.01mol.L−1)に対してE1/2red1=−0.75〜−0.8およびE1/2red2=−0.95〜−1.05V(表1)の2種の可逆性還元が、ガラス状炭素電極においてMeCN中で観察された(図4)。第1の還元は、第2の還元に比べて遅い電子移動を示す。これは、不均一な移動速度を減速させる第1の電子移動によって引き起こされる配位子再編成におそらく起因する。
【0168】
表1:MeCN−BuNPF 0.2M(電位は、Ag/AgClO、0.01mol.L−1電極に対して見積もられる)中での[Ni(PPh](BFの還元プロセスのレドックス電位
【0169】
【表1】

【0170】
電気化学電池への酸の添加によって、プロトンの還元に対する電極触媒挙動が確認された。Ag/AgClO、0.01mol.L−1に対するEred=−0.5Vでは、還元波が検出され、これは、Ni(II)錯体のプロトン化を示唆した。電極触媒還元は、種々の濃度の酸[DMFH]OTfで実施したサイクリックボルタンメトリによって確認された(図5)。添加されたプロトンの数に対する触媒電流の線形依存性(図6)によって、還元プロセスの電極触媒の性質が確認され、配位子の修飾が触媒の特性に影響を与えなかったことを示した。
【0171】
アミノ官能化されたITO/MWCNTおよび黒鉛/MWCNT電極
ITO/MWCNTおよび黒鉛/MWCNT電極を、可溶性膜技術によってITOまたは黒鉛上にナノチューブの薄いフィルムを堆積させることによって作製した。(Z.C.Wuら、Science 2004年、305、1273頁)。これらの電極をITO/MWCNTまたは黒鉛/MWCNT作用電極におけるジアゾニウム塩(4−(2−アンモニオエチル)ベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート)の還元によって修飾した。サイクリックボルタンメトリを用いてジアゾニウム塩の還元を制御した。不可逆性還元は、2−アミノエチルベンゼンジアゾニウムの還元およびCNT電極でのポリフェニレン層のグラフト化に相当する、Ag/AgClO、0.01mol.L−1に対してEred=−0.26Vにおいて観察される。数回の走査を実施してCNTの良好な官能化を保証した。第2および第3の走査において、還元ピークがより負側の電位にずれることは、ポリフェニレン層の厚さが増加するが、迅速な電子移動が保たれることを示唆している。種々の条件を、電位が制御された電気分解によって試験して、電極表面におけるアミノ基の量を最大にした。ニッケル錯体が固定された可逆性還元システム(以下を参照)をレドックスプローブとして用いて、高い表面濃度の触媒を得るための最良の条件を決定した。
【0172】
官能化されたCNT表面をXPS測定によってさらに特性決定した。N原子の1s軌道のエネルギーのXPSスペクトルは、399.9および401.6eVに2つのピークを示し、アミンおよびアンモニウム基の両方の存在を示唆している(図7)。
【0173】
修飾されたニッケル触媒の固定化ステップ
不均一なアミド化反応を、官能化された電極と活性化されたエステル基を有するニッケル錯体[Ni(PPhR3](BFとの間で実現した。アミン官能化された電極をトリエチルアミンの存在下に[Ni(PPh](BFの溶液中に浸漬した。溶液を一晩撹拌した。サイクリックボルタンメトリ(図8)およびXPS測定(図9)によって錯体の共有結合的グラフト化が確認された。最終の電極材料の構造を図13Aに表す。
【0174】
XPSスペクトル(図9)は、高い酸化状態にあるニッケル原子に相当する、明確なNiの2p1/2および2p3/2のシグナルを示す。
【0175】
サイクリックボルタンメトリ(図8)によって、電極に共有結合的にグラフト化されたニッケルの存在が確認される。溶液中での錯体の第2の還元に相当する、E1/2red=−0.95V(ΔE=140mV)での還元が観察される。ポリフェニレン層に起因する抵抗率は、第1の遅い電子移動を識別するのを妨げ、第1の還元が明確には検出されない。電極の平面領域を考慮して、ニッケル錯体の表面濃度を、酸化または還元波の積分から算出した電荷量から推定する。平均濃度は、10−9mol.cm−2程度であった。これらのナノ構造電極のMEB画像によって、高い表面積の電極が確認された(図17Aおよび17B)。
【0176】
官能化されたナノ構造電極の電極触媒特性
[DMFH](OTf)をプロトン源として添加するとき、還元ピークは、酸の非存在下に達成されて、プロトン化された、固定化されたNi(II)錯体の還元に相当するピークよりも300mV負側の電位で見られた。
【0177】
酸の濃度が増加すると、ピーク電流が比例的に増加する(図10)。支持された電極触媒の挙動は、種々の酸濃度での触媒濃度のトレースによって疑いなく証明される(図11)。
【0178】
電気分解実験を実施して、共有結合の安定性およびHの効果的な生成を調査した。電気分解を、GCクロマトグラフィにカップリングされた電気化学電池においてAg/AgClに対して−0.5Vの電位で実施した。触媒活性は、何時間も安定である。CNT−ITO界面の分解に起因する電荷電流の低下は、ITO/MWCNT電極についての長時間の実験において観察される。この分解は、黒鉛/MWCNT系電極に関しては起こらない。0.3mLのHが生成され、GCによって1時間で特性決定した(図12、実験部分を参照)。同条件下であるがグラフト化されたニッケル触媒の非存在下でカソードを通過する残りの電流を減算するためにブランク実験を考慮すると、これは、3Cの通路に相当する。触媒の表面濃度を考慮すると、ターンオーバー数は、6s−1のターンオーバー頻度に相当する1時間の実験内では15000であると推定された。こうして、Hの生成は、かなり効率的であることが証明された。比較により、溶液中にニッケル錯体のみでは、類似のバルク電気分解条件下で7のターンオーバーを達成することが示された(DuBoisら、J.Am.Chem.Soc.2006年、128、358頁)。
【0179】
初めのアミノ官能化されたCNTの触媒挙動が、−1.2V、すなわち、ニッケル官能化されたMWCNTよりも500mV負側で観察されたことは、注目すべきことである。この試験は、水素が低い過電位において生成され得るような電極の表面での触媒の存在の大きな重要性に関係している。
【0180】
このような分子電極材料が実用化されるには、水性電解質と共に用いることができることが必要とされる。
【0181】
図19は、MWCNTSおよびNi官能化されたMWCNTにおける0.5MのHSO水溶液からの水素発生に関する回転リングディスク電極測定(5mV.S−1)から得られた結果を示す。材料をGCディスクにNafion系インクとして堆積させる。A.上部:ディスク電位;中央:ディスク電流密度(初めのMWCNTS(a)およびNi官能化されたMWCNT(b);下部:両方のサンプルのPtリングの電流−Ptリングを0.6Vで平衡を保つ。B.Nafion膜(2mV.S−1)によってアセンブルしたガス拡散層(GDL)からなるMEAにおいて記録した、0.5MのHSO水溶液からの水素の生成および酸化の両方に関する電位の関数としての電流密度の漸進的変化:(a)官能化されていないGDL;(b)N雰囲気下にNi官能化されたGDL;(c)H雰囲気下にNi官能化されたGDL(10Pa)。x軸をゼロ電流密度に位置付ける。ドットは、種々の電位に10分間設定された電極における安定した電流値を表す。C.Cに示すトレース(a)および(c)に相当する水素の生成および取り込みの両方に関する電位の関数としての電流密度の対数プロット;(d):高度に分散された白金(0.5mgPt.cm−2)を含有する工業用MEAにおける同様の測定。電位は、NHEに対して見積もられる。
【0182】
pH1の希硫酸溶液からの触媒水素の生成を2つの経路で実証した。第1に、本発明者らは、5質量%のNafion(登録商標)溶液に分散された少量のNi官能化されたMWCNT粉末によって被覆されたガラス状炭素ディスク電極を用いた。回転電極測定(図19A)によって、Hがディスク電極において生成され得、同時に、NHEに対して0.6Vで平衡が保たれた同心の白金リングにおいて検出され得ることが確認される。ボルタモグラム分析から、電極触媒水素発生が、初めのMWCNTにおいて観察される過電圧(128mV)よりも著しく低い20mVの過電圧で生じることが明らかになる。第2に、本発明者らの材料を、プロトン交換膜電解槽の技術の状態において見出され、白金系活性層がNi官能化されたMWCNTで置き換えられた実験条件を再現する半電池構造においてアッセイした。膜電極アセンブリ(MEA)を以下の目的で調製した。該アセンブリは、MWCNTが堆積されて、ジアゾニウムルートを用いてニッケルジホスフィン触媒によってさらに官能化されているガス拡散層(GDL)によってホットプレスされたNafion(登録商標)膜からなる。このMEAは、類似の条件下で、水素発生について、官能化されていないGDLまたはアミノ官能化されたMWNTCのものよりも大幅に優れた電極触媒活性を示す(図19C)。重要なことは、これらの条件下では材料の迅速な材料発生が観察されないことである、なぜなら、種々の電位において10分間設定されたMEAにおいて測定された安定した電流値が初期のボルタモグラムの電流値にぴったりと適合するからである。これにより、触媒活性な種としてのニッケル系粒子の形成を排除することが可能になる。いずれの場合においても、Pourbaixダイアグラムから、ニッケル酸化物/水酸化物化合物またはニッケル元素のいずれかがアッセイ条件下で不安定であり得る。この膜電極アセンブリ(MEA)を、NHEに対して−300mVにおいて0.5MのHSO中で10時間平衡を保った。ガスクロマトグラフィを用いて最初の半時間の間モニタリングした水素発生は、定量的なファラデー収率で、触媒中心につき3500のターンオーバーに相当する。電流密度は、100.000を超えるターンオーバーが達成されて、全実験にわたって一定を維持する(図20)。
【0183】
図20は、ジアゾニウムルートを介してニッケル触媒によって官能化された膜電極アセンブリにおいて、HSO(0.5mol.L−1)中、NHEに対して−0.3および+0.3Vでそれぞれ実施した水素の発生および酸化の両方に関しての長期電気分解実験を示す。
【0184】
ここで観察された、水素生成ための予想外に低い過電圧は、本発明者らを、この材料を可逆反応、すなわち、触媒水素酸化用に考慮させる。次いで、同じ膜電極アセンブリを、水素雰囲気を窒素の代わりに用いたことを除いて上記と同じ条件下でアッセイした。対応するボルタモグラムを図19Cに示す。カソード部分−水素生成−は、ほとんど変化しない。該材料は、黒鉛電極に吸着した(M.Hambourgerら、J.Am.Chem.Soc.130、2015頁(2008年)、またはMWCNT電極上に共有結合的に固定化された(M.A.Alonso−Lomilloら、Nano Lett.7、1603頁(2007年))ヒドロゲナーゼについて測定した値の2倍の500mVの過電圧において約2mA.cm−2の電流密度によって触媒水素酸化を明らかに触媒する。触媒電流は、約35.000のターンオーバーの達成に相当する10時間の電気分解実験の間、安定である(図20)。ボルタモグラムの形状は、グラフト化された活性部位における水素の拡散に起因した動力学的限界を示唆する。同じ効果が、固定化されたヒドロゲナーゼで観察されている(K.A.Vincent、A.Parkin、F.A.Armstrong、Chem.Rev.107、4366頁(2007年))。図19Cは、H下で記録したボルタモグラムの対数表現を示す(10Pa)。線形からの重度のずれに相当する電位値は、H/H相互変換の過電圧に相当し、Ni官能化された材料を含有するMEAに関してゼロに近いことを明らかに示している。図19Cはまた、本発明者らのMEAを、高度に分散された白金を含有する工業用のMEA(0.5mg Pt.cm−2)と比較すると、約2桁高い電流密度を示す。
【0185】
リンカー(IA)を用いたGDL/MWCNT電極の官能化
触媒[Ni(PPhCH2C16H19](BF(以下の図を参照)を、MWNTCが初めに堆積されたガス拡散層に固定化した。構造(IA)に相当するこのリンカーと固体支持体、ここではMWCNTとの相互作用は、専らπ−スタッキングを介する。得られた電極は、電気化学測定から決定されるように、4(±1.5)10−9mol.cm−2の表面触媒濃度を示した。
【0186】
【化21】

【0187】
次いで、この電極をNation膜とアセンブルし、同じ条件下でアッセイした。図21は、得られた結果を示し、水素の発生および酸化の両方のための電極触媒活性を持続するためのこのタイプの固定化の電位が確認された。
【0188】
図21は、Nafion膜(2mV.S−1)とアセンブルされたガス拡散層(GDL)からなるMEAにおいて記録された、0.5M HSO水溶液からの水素の発生および酸化の両方に関する、電位の関数としての電流密度の変化を示す。灰色、MWNTCが堆積されたGDL;実線、MWCNTが堆積され、N雰囲気下で[Ni(PPhCH2C16H19](BFがさらに固定化されたGDL;点線、MWCNTが堆積され、H雰囲気下で[Ni(PPhCH2C16H19](BFがさらに固定化されたGDL。電位は、NHEに対して見積もられる。
【0189】
結論として、本発明者らは、本明細書において、ヒドロゲナーゼ酵素の活性部位を含む、安価で強固な、空気中で安定な生体模倣物質を、双方向で作動する、すなわち、低い過電圧での水素の発生および取り込みの両方を持続させる貴金属不含電極触媒ナノ材料に組み入れる可能性を実証した。その名目上の、最適化されていない性能は、工業用の燃料電池で現在用いられているPt担持(0.5mg.cm−2)炭素材料と比較して、電流交換密度が依然として2桁低いままであるが、このことは、触媒担持が、0.06mg.cm−2の地球上で豊富な金属に実際に制限されるという事実によって大きく相殺される。本発明者らによる結果は、本明細書で報告した生体模倣のナノ材料が、サイクルの際に、短時間で数万ものターンオーバーを可能にする特有の安定性を示すこと、および工業用のプロトン交換膜をベースとした、酸性条件において作用する普及したPEM技術に匹敵することを明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの先端を含むリンカーアームによって表面が官能化されている、導電性または半導性材料の固体支持体を含む材料であって、第1の先端が、固体支持体に結合されており、第2の先端が、共有結合によって金属有機錯体に連結されており、リンカーアームが、以下の式:
【化1】

(この場合、リンカーと固体支持体との間の相互作用は、π−スタッキングを介する)
に対応する分子、ならびに
【化2】

(この場合、リンカーは、Ar基を通して固体支持体に共有結合されている)
(式中、
Arは、C〜Cアルキル、−OH、−NH、−COOH、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CONR”、−COOR”、−SO−、−SR”、−OR”、−NR”から選択される1個または複数の置換基を場合により含むC〜C30芳香族残基を表し、
RおよびR’は、同一または異なり、H、ならびに、−OH、−NH、−COOH、−CONH、トリアゾール、−SH、−Nから選択される1個または複数の置換基を場合により含み、−CONH−、−CO−O−、−CO−O−CO−、−CO−NH−CO−、−CO−S−、−CS−O−、−CS−S−から選択される1個または複数の架橋によって場合により中断されている、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、
R”は、H、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、
Xは、−OH、−NH、−COOH、−CONH、トリアゾール、−SH、−Nから選択される1個または複数の置換基を場合により含み、−CONH−、−CO−O−、−CO−O−CO−、−CO−NH−CO−、−CO−S−、−CS−O−、−CS−S−から選択される1個または複数の架橋によって場合により中断されている、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、
xは、整数であり、1≦x≦5であり、
Yは、単一の共有結合、−O−、−NH−、−S−、−COO−、−CONH−、−CO−S−、−CS−O−、−CS−S−から選択される官能基である)
のオリゴマー化から得られるオリゴマーに対応する分子から選択される材料。
【請求項2】
固体支持体が、金属材料、炭素材料、半導体または導電体の金属酸化物、窒化物、カルコゲニドから選択される、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
固体支持体が、多層カーボンナノチューブから選択される、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
リンカーアームが、
【化3】

のオリゴマー化から得られる、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
式(IA)および(IC)において、
Arが、C〜C30芳香族残基を表し、好ましくはフェニル、ビフェニル、ピレニル、アントラセニル、フェナントレニル、ペリレニル、ナフタセニルから選択され、
RおよびR’が、H、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基、好ましくは、R=R’=Hを表し、
Xが、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、
x=1である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
金属有機錯体が、遷移金属から選択される1個または数個の金属原子と、有機配位子とを含む分子から選択され、1個または数個の違った分子から構成されていてよく、金属有機錯体が、溶液中で試験されるとき、水素の発生または取り込みのための電極触媒活性を示す、請求項1から5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
金属有機錯体が、以下の式に対応するもの:
−以下の式を有する金属ジオキシム/ジイミン錯体
【化4】

−以下の式を有する金属アミン/イミン/ピリジン錯体
【化5】

−以下の式を有する金属ポリアザ大環状錯体
【化6】

−以下の式を有するフェロセノファンおよび関係する錯体
【化7】

−以下の式を有する金属ジホスフィンまたはジホスファイト錯体
【化8】

(式中、
Mは、元素周期表の遷移金属から選択される原子を表し、
は、同一または異なり、H、BF、BPh、B(R、B(OR、BFRから選択される基を表し、
Lは、溶媒分子、例えば水、アセトン メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、アニオン性配位子、例えばハロゲン、擬似ハロゲン、例えばSCN−もしくはシアン化物、水素化物、含酸素アニオン、例えば硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、過塩素酸塩、または一般的な単座配位子、例えばピリジン、イミダゾール、トリアゾール、CO、H、ホルミル、ホスフィン、ニトリルもしくはイソニトリル配位子、例えばアセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルイソニトリル、ベンジルイソニトリルから選択され、
nは、0と6との間に含まれる数であり、
、R、Rは、同一または異なり、H、ならびに、−OH、−NH、−COOH、−CONH、トリアゾール環から選択される1個または複数の官能基を場合により含み、−CO−O−CO−、−CO−NH−CO−から選択される1個または複数の架橋を場合により含む、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C30アリール、C〜C30アラルキルから選択される基を表し、R基のうちの少なくとも1個、またはR基もしくはR基の一方が、リンカー分子との共有結合を表し、2個以上のR置換基が一緒に縮合されていてよく、2個以上のR置換基が一緒に縮合されていてよい)
から選択される、請求項6に記載の材料。
【請求項8】
金属有機錯体が、以下の式:
【化9】

に対応するものから選択される、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
全てのR基が、少なくとも1個のR基がリンカー分子との共有結合である場合を除いて、同一であり、全てのR基が、少なくとも1個のR基がリンカー分子との共有結合である場合を除いて、同一である、請求項7または請求項8に記載の材料。
【請求項10】
Mが、Mn、Fe、Co、Ni、W、Moから選択される、請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
別の導電性材料の支持体に堆積された前記請求項のいずれか一項に記載の材料を含む電極。
【請求項12】
別の導電性材料が、インジウムスズ酸化物(ITO)および黒鉛から選択される、請求項11に記載の電極。
【請求項13】
以下の式:
【化10】

に対応する、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
以下の式:
【化11】

に対応する、請求項11に記載の電極。
【請求項15】
請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の電極を含む水電解槽。
【請求項16】
請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の電極を含む燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2012−506492(P2012−506492A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532736(P2011−532736)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【国際出願番号】PCT/IB2009/007333
【国際公開番号】WO2010/046774
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ (85)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【Fターム(参考)】