説明

新規な芳香族化合物およびその製造方法

【課題】高耐熱性、高屈折率などの特性を有する新規な芳香族化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される新規な芳香族化合物は、酸触媒の存在下、下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを反応させることにより得られる。


(式中、環Xは、o−キノンから2つのオキソ基を除いた環、Rは置換基、pは0以上の整数、環Zは芳香族炭化水素環、Rはアルキレン基、qは0以上の整数、rは1以上の整数、Rは置換基、sは0以上の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、o−キノン類(アセナフテンキノン類、フェナントレンキノン類など)の一方のオキソ基が2つの特定の芳香環基に置換した構造を有する新規な芳香族化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリオール(ジオールなど)は、耐熱性などの優れた特性を有しているため、各種ポリマーのモノマーなどとして使用されている。例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのフルオレン骨格を有するジオールは、耐熱性が高い、高屈折率である、複屈折が小さいといった特徴を有しており、光学材料の原料などとして有用である。なお、フルオレン骨格を有するジオールが芳香族ジオールの中でも、特にこのような優れた特性を有する理由は、フルオレン化合物の所謂カルド型構造と呼ばれる特異的な化学構造に起因するためであると考えられている。しかしながら、このような芳香族ジオールの中でも特に、各種特性に優れたフルオレン骨格を有するジオールであっても、耐熱温度や屈折率向上などの点で、さらなる改善が望まれている。
【0003】
このように、モノマー用途などとして、新規な芳香族ポリオールの開発が期待されている。
【0004】
なお、特開2005−326838号公報(特許文献1)には、特定のポリフェノール化合物と、特定の酸発生剤と、酸架橋剤とを含む感放射線レジスト組成物が開示されており、前記ポリフェノール化合物の例として、下記式で表される化合物などを開示している。
【0005】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−326838号公報(特許請求の範囲、段落番号[0269]、[0281])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、高耐熱性、高屈折率などの特性を有する新規な芳香族化合物、およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、上記のような新規な芳香族化合物を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、o−キノン類の一方のオキソ基が、ヒドロキシル基を有する特定の芳香族炭化水素類(ヒドロキシアレーン類、ヒドロキシアルコキシアレーン類など)に2つ置換した新規な芳香族化合物(環集合芳香族化合物)は、高耐熱性、高屈折率などの特性を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の新規な芳香族化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、環Xは、o−キノンから2つのオキソ基を除いた環、Rは置換基、pは0以上の整数、環Zは芳香族炭化水素環、Rはアルキレン基、qは0以上の整数、rは1以上の整数、Rは置換基、sは0以上の整数を示す。ただし、Xがアセナフテンキノン又はo−フェナントレンキノンから2つのオキソ基を除いた環であり、かつZがベンゼン環であるとき、qは1以上の整数である。)
前記式(1)において、o−キノンは、縮合多環式芳香族炭化水素のo−キノン(例えば、アセナフテンキノン、o−アセアントレンキノン、o−フェナントレンキノンなど)であってもよく、特に、前記式(1)で表される化合物は、下記式(1A)又は(1B)で表される化合物であってもよい。
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、p1は0〜3の整数、p2は0〜4の整数を示し、R、Z、R、q、r、R、sは前記と同じ。)
前記式(1)(前記式(1A)および(1B)を含む。以下同じ)において、qは、特に、1以上の整数であってもよい。このようなqが1以上である化合物は、代表的には、前記式(1)において、環Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、qが1〜4であり、rが1〜3である化合物などが含まれる。
【0015】
本発明には、前記新規な芳香族化合物の製造方法も含まれる。このような製造方法は、例えば、酸触媒の存在下、下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを反応させて、前記化合物(前記式(1)で表される化合物)を製造する方法であってもよい。
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、X、R、p、Z、R、q、r、R、sは前記と同じ。)
前記方法において、特に、qは1以上の整数であってもよい。また、前記方法において、酸触媒は、スルホン酸で構成してもよい。スルホン酸で酸触媒を構成すると、前記式(2)で表される化合物と前記式(3)で表される化合物(特に、前記式(3)においてqが1以上である化合物)との反応をより一層効率よく進行させることができる。
【0018】
前記方法では、酸触媒に加えて、さらに、チオール類の存在下で反応させてもよい。このようなチオール類を併用する方法では、代表的には、酸触媒が、アルカンスルホン酸およびハロアルカンスルホン酸から選択された少なくとも1種で構成されており、かつチオール類が、アルキルメルカプタンで構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の新規な芳香族化合物は、高耐熱性、高屈折率などの特性を有している。このような芳香族化合物は、樹脂原料、酸化防止剤、硬化剤などの用途に適用可能である。例えば、本発明の芳香族化合物は、複数のヒドロキシル基を有しているため、樹脂(例えば、ポリエステル樹脂など)のポリオール成分(例えば、ジオール成分)として使用でき、樹脂に前記のような高耐熱性や高屈折率を付与する効果が期待できる。また、本発明の方法では、上記のような新規な芳香族化合物を効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[芳香族化合物]
本発明の新規な芳香族化合物は、下記式(1)で表される。
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、環Xは、o−キノンから2つのオキソ基を除いた環(o−キノンに対応する環)、Rは置換基、pは0以上の整数、環Zは芳香族炭化水素環、Rはアルキレン基、qは0以上の整数、rは1以上の整数、Rは置換基、sは0以上の整数を示す。ただし、Xがアセナフテンキノン又はo−フェナントレンキノンから2つのオキソ基を除いた環であり、かつZがベンゼン環であるとき、qは1以上の整数である。)
上記式(1)において、o−キノンとしては、芳香族複素環(フェナントロリンなど)のo−キノンであってもよいが、通常、芳香族炭化水素のo−キノンが挙げられる。芳香族炭化水素(環)のo−キノンとしては、例えば、ベンゼン環のo−キノン(すなわち、o−ベンゾキノン)、縮合多環式芳香族炭化水素(環)(例えば、インデン、ナフタレン、インダセン、アセナフチレン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、フルオランテン、アセアントリレン、アセフェナントリレン、ピレン、トリフェニレン、ナフタセン、クリセン、ペリレン、ペンタフェン、ジベンゾフェナントレン、ヘキサフェンなどの縮合2乃至10環式芳香族炭化水素(環)、好ましくは縮合2乃至6環式芳香族炭化水素、さらに好ましくは縮合3又は4環式芳香族炭化水素など)のo−キノン[例えば、o−ナフトキノン(1,2−ナフトキノンなど)、アセナフテンキノン、o−アントラキノン(1,2−アントラキノンなど)、o−アセアントレンキノン(1,2−アセアントレンキノンなど)、o−フェナントレンキノン(9,10−フェナントレンキノンなど)、o−クリセンキノン(5,6−クリセンキノンなど)など]などが挙げられる。
【0023】
これらのうち、好ましいo−キノンは、縮合多環式芳香族炭化水素のo−キノン(例えば、アセナフテンキノン、o−アセアントレンキノン、o−フェナントレンキノンなどの縮合2乃至6環式芳香族炭化水素のo−キノン)であり、特に、アセナフテンキノン、o−フェナントレンキノンなどの縮合3又は4環式芳香族炭化水素のo−キノンが好ましい。
【0024】
環Xの置換基Rとしては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、炭化水素基{例えば、アルキル基(メチル、エチル、ブチル、t−ブチル基、ペンチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−10アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基、特にC1−4アルキル基)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)など}、ヒドロキシル基、メルカプト基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基、好ましくはC1−4アルコキシ基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基などのC1−6アルキルチオ基など)、アシル基[ホルミル基、アルキルカルボニル基(例えば、アセチル、プロピオニル基などのC1−6アルキル−カルボニル基)、アロイル基(例えば、ベンゾイル基など)など]、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル基などのC1−6アルコキシ−カルボニル基)、これらの置換基同士が結合した置換基[例えば、アルコキシアリール基(例えば、メトキシフェニル基などのC1−4アルコキシC6−10アリール基)、アルコキシカルボニルアリール基(例えば、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニルC6−10アリール基など)]などが挙げられる。環Xは、これらの置換基を単独又は組み合わせて有していてもよい。
【0025】
代表的なRには、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基(C1−4アルキル基など)、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)、アリール基(C6−8アリール基など)であってもよい。
【0026】
置換基Rの置換数pは、0以上の整数であればよく、環Xの種類にもよるが、例えば、0〜8、好ましくは0〜6、さらに好ましくは0〜3程度であってもよく、特に0であってもよい。
【0027】
芳香族炭化水素環Zとしては、前記o−キノンの項で例示の芳香族炭化水素環が挙げられる。代表的な芳香族炭化水素環は、ベンゼン環、縮合多環式炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合2乃至4環式炭化水素環]などであり、ベンゼン環又はナフタレン環(特に、ベンゼン環)であるのが好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0028】
また、前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2−プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2−10アルキレン基(例えば、C2−6アルキレン基)、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基(特にエチレン基)が挙げられる。なお、qが2以上であるとき、アルキレン基は異なるアルキレン基で構成されていてもよく、通常、同一のアルキレン基で構成されていてもよい。また、2つの芳香族炭化水素環Zにおいて、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0029】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)qは、0以上(例えば、0〜10)であればよく、例えば、0〜8(例えば、1〜8)、好ましくは0〜4(例えば、1〜4)、さらに好ましくは0〜3(例えば、1〜3)、特に0〜1であってもよい。qは、異なる環Zに対して、同一であっても、異なっていてもよい。なお、前記のように、Xがアセナフテンキノンから2つのオキソ基を除いた環(すなわち、アセナフテン環)又はo−フェナントレンキノンから2つのオキソ基を除いた環であり、かつZがベンゼン環であるとき、qは1以上の整数である。
【0030】
また、前記式(1)において、ヒドロキシル基又はヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基[すなわち、−(RO)q−OH]の環Zに対する置換数rは、1以上であればよく、環Zに種類にもよるが、例えば、1〜6(例えば、1〜4)、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。なお、ヒドロキシル基又はヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基の置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。例えば、ヒドロキシル基又はヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基は、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位(例えば、フェニル基の3位、4位など)に置換していればよく、好ましくは4位に置換していてもよい。また、ヒドロキシル基又はヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基は、環Zが縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、環Xに結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位など)に少なくとも置換している場合が多い。
【0031】
環Zの置換基Rとしては、前記Rの項で例示の置換基などが挙げられる。代表的には、基Rは、炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基など)、アルコキシ基、アルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などであってもよい。好ましいRとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などであるのが好ましい。
【0032】
なお、同一の環Zにおいて、sが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、好ましい置換数sは、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2であってもよい。なお、異なる環Zにおいて、置換数sは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0033】
代表的な前記式(1)で表される化合物には、例えば、下記式(1A)で表される化合物(前記式(1)において、Xがアセナフテンキノンから2つのオキソ基を除いた環である化合物)、下記式(1B)で表される化合物(前記式(1)において、Xが9,10−フェナントレンキノンから2つのオキソ基を除いた環である化合物)などが含まれる。
【0034】
【化6】

【0035】
(式中、p1は0〜3の整数、p2は0〜4の整数を示し、R、Z、R、q、r、R、sは前記と同じ。)
上記式において、p1は、好ましくは0〜1、さらに好ましくは0であってもよい。2つのp1は同一又は異なっていてもよい。また、p2は、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0〜1、特に0であってもよい。2つのp2は同一又は異なっていてもよい。なお、上記式(1)において、R、Z、R、q、r、R、sは前記と同じである。そのため、Zがベンゼン環であるとき、qは1以上の整数である。なお、前記式(1A)において、Rの置換位置は、3〜8位のいずれであってもよいが、好ましくは3又は5位、特に5位であってもよい。また、前記式(1B)において、Rの置換位置は、1〜8位のいずれであってもよいが、好ましくは2又は5位であってもよい。
【0036】
具体的な前記式(1A)で表される化合物には、例えば、2,2−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン{例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オンなどの2,2−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン}、2,2−ビス[アルキル−(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン{例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]アセナフテン−1(2H)−オン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]アセナフテン−1(2H)−オンなどの2,2−ビス[アルキル−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン、好ましくは2,2−ビス[C1−6アルキル−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン、さらに好ましくは2,2−ビス[C1−4アルキル−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン}、2,2−ビス[アリール−(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン{例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]アセナフテン−1(2H)−オンなどの2,2−ビス[アリール−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン、好ましくは2,2−ビス[C6−10アリール−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン、さらに好ましくは2,2−ビス[C6−8アリール−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン}、2,2−ビス[ジ又はトリ(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン{例えば、2,2−ビス[3,4−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オンなどの2,2−ビス[ジ又はトリ(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オン}などの前記式(1A)において、環Zがベンゼン環、s=0〜4、qが1以上(例えば、1〜4)およびr=1〜3(ただし、s+r≦5)である化合物;2,2−ビス(ヒドロキシナフチル)アセナフテン−1(2H)−オン[例えば、2,2−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)]アセナフテン−1(2H)−オン、2,2−ビス[2−(6−ヒドロキシナフチル)]アセナフテン−1(2H)−オンなど]、2,2−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]アセナフテン−1(2H)−オン{例えば、2,2−ビス{1−[5−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル]}アセナフテン−1(2H)−オン、2,2−ビス{2−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル]}アセナフテン−1(2H)−オンなどの2,2−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)ナフチル]アセナフテン−1(2H)−オン}などの前記式(1A)において、環Zがナフタレン環、s=0〜4、qが0以上(例えば、0〜4)およびr=1〜3である化合物などが含まれる。
【0037】
また、具体的な前記式(1B)で表される化合物には、例えば、10,10−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン{例えば、10,10−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オンなどの10,10−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン}、10,10−ビス[アルキル−(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン{例えば、10,10−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フェナントレン−9(10H)−オン、10,10−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フェナントレン−9(10H)−オンなどの10,10−ビス[アルキル−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン、好ましくは10,10−ビス[C1−6アルキル−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン、さらに好ましくは10,10−ビス[C1−4アルキル−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン}、10,10−ビス[アリール−(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン{例えば、10,10−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フェナントレン−9(10H)−オンなどの10,10−ビス[アリール−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン、好ましくは10,10−ビス[C6−10アリール−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン、さらに好ましくは10,10−ビス[C6−8アリール−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン}、10,10−ビス[ジ又はトリ(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン{例えば、10,10−ビス[3,4−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オンなどの10,10−ビス[ジ又はトリ(ヒドロキシC2−4アルコキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オン}などの前記式(1B)において、環Zがベンゼン環、s=0〜4、qが1以上(例えば、1〜4)およびr=1〜3(ただし、s+r≦5)である化合物;10,10−ビス(ヒドロキシナフチル)フェナントレン−9(10H)−オン[例えば、10,10−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)]フェナントレン−9(10H)−オン、10,10−ビス[2−(6−ヒドロキシナフチル)]フェナントレン−9(10H)−オンなど]、10,10−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]フェナントレン−9(10H)−オン{例えば、10,10−ビス{1−[5−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル]}フェナントレン−9(10H)−オン、10,10−ビス{2−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル]}フェナントレン−9(10H)−オンなどの10,10−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)ナフチル]フェナントレン−9(10H)−オン}などの前記式(1B)において、環Zがナフタレン環、s=0〜4、qが0以上(例えば、0〜4)およびr=1〜3である化合物などが含まれる。
【0038】
[製造方法]
本発明の新規な芳香族化合物の製造方法としては、特に限定されないが、通常、下記式(2)で表される化合物(o−キノン化合物)と、下記式(3)で表される化合物とを反応させることにより製造することができる。
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、X、R、p、Z、R、q、r、R、sは前記と同じ。)
上記式(2)で表される化合物としては、前記式(1)で表される化合物の項において記載のo−キノン[例えば、o−ベンゾキノン、縮合多環式芳香族炭化水素のo−キノン(例えば、o−ナフトキノン、アセナフテンキノン、o−アセアントレンキノン(1,2−アセアントレンキノンなど)、o−フェナントレンキノン(9,10−フェナントレンキノンなど)などの縮合2乃至10環式芳香族炭化水素のo−キノン、好ましくは縮合2乃至6環式芳香族炭化水素のo−キノン、さらに好ましくは縮合3又は4環式芳香族炭化水素のo−キノン)など]の他、これらのo−キノンに対応し、pが1以上である化合物(例えば、5−ブロモアセナフテンキノンなど)などのo−キノン化合物が挙げられる。
【0041】
なお、前記式(1A)で表される化合物を製造する場合には、前記式(2)で表される化合物として、下記式(2A)で表される化合物(アセナフテンキノン化合物)、前記式(1B)で表される化合物を製造する場合には、下記式(2B)で表される化合物(9,10−フェナントレンキノン化合物)を使用すればよい。
【0042】
【化8】

【0043】
(式中、R、p1、p2は前記と同じ。)
使用するo−キノン化合物の純度は、特に限定されないが、通常、95重量%以上、好ましくは99重量%以上であってもよい。
【0044】
前記式(3)で表される化合物(ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物)は、前記式(1)において、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素環に対応している。すなわち、式(3)において、環Zは前記式(1)における環Zに対応しており、前記例示の芳香族炭化水素環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環)が挙げられる。また、前記式(3)において、R、R、q、rおよびsは前記と同じであり、好ましい態様なども同じである。
【0045】
前記式(3)で表される化合物としては、(i)qが0である化合物と、(ii)qが1以上である化合物とに大別できる。
【0046】
(i)qが0である化合物
前記式(3)においてqが0である代表的な化合物としては、環Zがベンゼン環である化合物、環Zがナフタレン環である化合物が挙げられる。
【0047】
環Zがベンゼン環である化合物としては、フェノール類{例えば、フェノール、置換基を有するフェノール[例えば、アルキルフェノール(例えば、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノールなどのモノ又はジC1−4アルキル−フェノールなど)、シクロアルキルフェノール(例えば、2−シクロヘキシルフェノールなどのC5−8シクロアルキル−フェノール)、アリールフェノール(例えば、o−フェニルフェノールなどのC6−10アリール−フェノール)、アルコキシフェノール(o−メトキシフェノールなどのC1−4アルコキシ−フェノールなど)など]、ポリヒドロキシベンゼン類{例えば、ジヒドロキシベンゼン(カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン)、アルキル−ジヒドロキシベンゼン[ジヒドロキシトルエン、ジヒドロキシキシレンなどのモノ又はジC1−4アルキル−ジヒドロキシベンゼンなど]などのジヒドロキシベンゼン類;トリヒドロキシベンゼン(ヒドロキシヒドロキノン、フロログルシノールなど)などのトリヒドロキシベンゼン類などのジ又はトリヒドロキシベンゼン類}などが挙げられる。
【0048】
また、環Zがナフタレン環である化合物としては、ナフトール類{すなわち、式(3)において環Zがナフタレン環、rが1である化合物、例えば、ナフトール(1−ナフトール、2−ナフトール)、置換基を有するナフトール[例えば、メチルナフトール、エチルナフトール、ジメチルナフトールなどのアルキルナフトール(例えば、C1−4アルキルナフトールなど)など]、アルコキシナフトール(例えば、エトキシナフトールなどのC1−4アルコキシナフトール)など}、これらのナフトール類(又はモノヒドロキシナフタレン類)に対応するポリヒドロキシナフタレン類(すなわち、式(3)において環Zがナフタレン環、rが2以上である化合物、例えば、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,2,4−トリヒドロキシナフタレン、1,3,8−トリヒドロキシナフタレンなどのジ又はトリヒドロキシナフタレン類)などが挙げられる。
【0049】
(ii)qが1以上である化合物
前記式(3)においてqが1以上である代表的な化合物としては、アルキレングリコールモノフェニルエーテル類[例えば、アルキレングリコールモノフェニルエーテル(例えば、2−フェノキシエタノール(エチレングリコールモノフェニルエーテル)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、テトラエチレングリコールモノフェニルエーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノフェニルエーテル)、アルキレングリコールモノアルキルフェニルエーテル(例えば、2−(2−メチルフェノキシ)エタノール、2−(2,6−ジメチルフェノキシ)エタノールなどのC2−4アルキレングリコールモノ(モノ又はジC1−4アルキルフェニル)エーテル)、アルキレングリコールモノ(アリールフェニル)エーテル(例えば、エチレングリコールモノビフェニリルエーテル(エチレングリコールモノ(2−ビフェニリル)エーテルなど)などのC2−4アルキレングリコールモノ(モノ又はジC6−10アリールフェニル)エーテル)、アルキレングリコールモノ(アルキル−アリールフェニル)エーテル(例えば、エチレングリコールモノ(3−メチル−2−ビフェニリル)エーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノ(モノ又はジC1−4アルキル−モノ又はジC6−10アリール−フェニル)エーテル)など]などの前記式(3)において、qおよびrがいずれも1であるアルコール類;ジアルキレングリコールモノフェニルエーテル類[例えば、ジアルキレングリコールモノフェニルエーテル(例えば、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテルなどのジC2−4アルキレングリコールモノフェニルエーテル)など]などのqが1、rが2以上であるアルコール類;これらに対応し、qが3以上であるアルコール類;これらに対応し、環Zがナフタレン環であるアルコール類(例えば、1−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、2−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフタレンなどのアルキレングリコールモノナフチルエーテル類など)などが挙げられる。
【0050】
これらの前記式(3)で表される化合物は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0051】
原料として使用する前記式(3)で表される化合物(例えば、フェノール類、ナフトール類、アルキレングリコールモノフェニルエーテル類など)の純度は特に限定されないが、通常、95重量%以上であり、好ましくは99重量%以上である。
【0052】
反応において、前記式(3)で表される化合物の割合(使用割合)は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、2〜100モル(例えば、2〜80モル)程度の範囲から選択でき、例えば、2〜50モル(例えば、2.1〜40モル)、好ましくは2〜30モル(例えば、2.2〜25モル)、さらに好ましくは2〜20モル(例えば、2.3〜15モル)、特に2〜10モル(例えば、2.5〜8モル)程度であってもよい。
【0053】
前記式(2)で表される化合物と前記式(3)で表される化合物との反応は、特に限定されないが、通常、酸触媒の存在下で行うことができる。酸触媒としては、無機酸{例えば、硫酸、ハロゲン化水素(塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素など)、ハロゲン化水素酸[例えば、塩酸(例えば、5〜36重量%、好ましくは20〜36重量%程度の塩化水素の水溶液など)、臭化水素酸、ヨウ化水素酸など]、リン酸など}、有機酸{例えば、カルボン酸、スルホン酸[例えば、アルカンスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸などのC1−4アルカンスルホン酸など)、アレーンスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸(p−トルエンスルホン酸など)などのC6−10アレーンスルホン酸)、ハロアルカンスルホン酸(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸などのハロC1−4アルカンスルホン酸など)など]など]などが挙げられる。前記硫酸には、希硫酸(例えば、濃度30〜90重量%程度の硫酸)、濃硫酸(例えば、濃度90重量%以上の硫酸)、発煙硫酸などが含まれ、反応系において硫酸に転化可能であれば、硫酸前駆体として、三酸化硫黄を使用してもよい。通常、硫酸として、HSO換算で、80〜99重量%(例えば、85〜98重量%)、好ましくは90〜97.5重量%程度の硫酸(濃硫酸)を使用してもよい。
【0054】
また、酸触媒として固体酸を使用することもできる。固体酸としては、無機固体酸[金属化合物(SiO、Al、TiO、Fe、ZrO、SnO、Vなどの酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、TiO−ZrO、SiO−ZrOなどの複合酸化物、ZnSなどの硫化物、CaSO、Fe(SO、CuSO、NiSO、Al(SO、MnSO、BaSO、CoSO、ZnSOなどの硫酸塩、P、Mo、V、W、Siなどの元素を含有するポリ酸(AlPO、Tiのリン酸塩などのリン酸塩など)など);(NHSOなどの非金属硫酸塩;粘土鉱物(酸性白土、モンモリロナイトなど);ゼオライト(酸性OH基を有するY型、X型、A型、ZSM5、モルデナイト、VIPI、AlPO−5、AlPO−11など);カオリンなど]、有機固体酸(イオン交換樹脂など)などを例示できる。固体酸は、固体酸の種類に応じて多孔性又は非多孔性であってもよい。
【0055】
イオン交換樹脂としては、主に、強酸性陽イオン交換樹脂[例えば、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂[スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーなどの架橋ポリスチレンのスルホン化物、スルホン酸基(又は−CFCFSOH基)を有する含フッ素樹脂(例えば、[2−(2−スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとのブロック共重合体(デュポン社製のナフィオン)などの含フッ素イオン交換樹脂など]など]、弱酸性陽イオン交換樹脂[例えば、カルボン酸基を有するイオン交換樹脂(メタクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマーなど)など]などの陽イオン交換樹脂(酸型イオン交換樹脂)などを使用できる。また、分子内に臭素を導入した耐熱性のイオン交換樹脂も使用できる。これらの固体酸の中でも、陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0056】
イオン交換樹脂は、ゲル型イオン交換樹脂であってもよいが、通常、触媒活性の点より、ポーラス型イオン交換樹脂[ミクロポアーの他にマクロポアー(例えば、孔径が50〜1000Å程度の細孔)を有するイオン交換樹脂]が好ましい。ポーラス型イオン交換樹脂のうち、例えば、ジビニルベンゼンの比率(架橋度)の高いスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーを基体としたイオン交換樹脂は、ハイポーラス樹脂と呼ばれる。ポーラス型イオン交換樹脂の多孔度は、通常、0.03〜0.6cm/g程度であり、例えば、0.05〜0.55cm/g、好ましくは0.1〜0.5cm/g、さらに好ましくは0.15〜0.45cm/g(特に0.2〜0.4cm/g)程度であってもよい。イオン交換樹脂の窒素吸着比表面積は、通常、10〜90m/g程度であり、例えば、15〜80m/g、好ましくは20〜70m/g、さらに好ましくは25〜60m/g(特に30〜50m/g)程度であってもよい。固体酸として、例えば、バイエル社製の「レバチットK2649」;オルガノ社製の「アンバーリスト31」、「アンバーリスト131」、「アンバーリスト121」;デュポン社製の「ナフィオン」などの市販のイオン交換樹脂を使用してもよい。
【0057】
固体酸の形態は、特に制限はなく、膜状であってもよいが、通常、粒状であり、微粒状であってもよい。
【0058】
好ましい酸触媒には、前記式(3)で表される化合物の種類などにもよるが、ハロゲン化水素酸(塩酸など)、硫酸、スルホン酸などが含まれる。
【0059】
なお、通常、前記式(3)で表される化合物は、q=0である化合物(すなわち、フェノール性水酸基を有する化合物)と、qが1以上である化合物(すなわち、アルコール性ヒドロキシル基を有する化合物)とで、前記式(2)で表される化合物に対する反応性が大きく相違する場合が多い。例えば、前記式(3)においてq=0である化合物(例えば、フェノール、クレゾール、ナフトールなど)は、硫酸や塩酸を酸触媒として使用しても、前記式(2)で表される化合物との反応が進行する。一方、前記式(3)においてqが1以上である化合物(例えば、フェノキシエタノールなど)は、硫酸や塩酸を酸触媒として使用すると、前記式(2)で表される化合物との反応が全く進行しないか又は進行しても著しく反応性が低くなるが、酸触媒としてスルホン酸などを使用すると、前記式(2)で表される化合物との反応が効率よく進行する場合が多い。
【0060】
そのため、前記式(3)で表される化合物のうち、特に、qが1以上である化合物を使用する場合には、酸触媒は、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのハロアルカンスルホン酸)で構成してもよい。なお、スルホン酸の使用により触媒活性が向上する理由は定かではないが、スルホン酸に対する前記式(3)で表される化合物の溶解性の高さなども影響しているものと考えられる。
【0061】
酸触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0062】
酸触媒(例えば、前記無機酸又は前記有機酸)の使用量は、酸触媒の種類に応じて選択できるが、例えば、前記式(2)で表される化合物100重量部に対して、0.001〜150重量部、好ましくは0.01〜100重量部、さらに好ましくは0.5〜25重量部程度であってもよい。また、酸触媒の使用量は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、0.1〜100モル(例えば、0.5〜50モル)、好ましくは1〜30モル、さらに好ましくは1.5〜20モル(例えば、2〜15モル)程度であってもよい。特に、前記式(2)においてqが1以上である化合物を使用する場合、酸触媒(スルホン酸)の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、比較的多い割合[例えば、1〜100モル、好ましくは1.5〜50モル、さらに好ましくは2〜30モル、特に2.5〜20モル(例えば、3〜20モル)程度であってもよく、通常1.5〜20モル(例えば、2〜10モル)程度]であってもよい。
【0063】
縮合反応は、通常、酸触媒に加えて、助触媒としてのチオール類を併用して行ってもよい。酸触媒とチオール類とを組み合わせると、縮合反応を有効に進行できる。また、このような組合せにより、簡便にかつ効率よく、残留硫黄分が少ない高純度の生成物を高収率で得ることができる。そのため、これらの組み合わせにより、本発明の化合物を工業的に安価に量産可能である。
【0064】
チオール類としては、助触媒として機能する慣用のチオール類、例えば、メルカプトカルボン酸(チオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸など)、アルキルメルカプタン(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのC1−20アルキルメルカプタン、好ましくはC1−16アルキルメルカプタンなど)、アラルキルメルカプタン(ベンジルメルカプタンなど)などが挙げられる。これらのチオール類のうち、メルカプトC2−6カルボン酸(例えば、β−メルカプトプロピオン酸)、アルキルメルカプタン(例えば、C1−16アルキルメルカプタン)が好ましく、特に、炭素数4以上のアルキルメルカプタン(例えば、ドデカンチオールなどのC6−20アルキルメルカプタン、好ましくはC8−18アルキルメルカプタン、さらに好ましくはC10−16アルキルメルカプタン)などのアルキルメルカプタンが好ましい。チオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0065】
チオール類を使用する場合、チオール類の使用量は、前記式(2)で表される化合物1重量部に対して、0.1〜1重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.005〜0.8重量部、好ましくは0.01〜0.7重量部、さらに好ましくは0.05〜0.5重量部程度であってもよい。また、チオール類の使用量は、前記式(2)で表される化合物100モルに対して、例えば、0.1〜50モル、好ましくは0.5〜30モル、さらに好ましくは1〜20モル(例えば、1.5〜10モル)程度であってもよい。
【0066】
また、チオール類の使用量は、酸触媒1重量部に対して、0.05〜50重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜40重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部程度であってもよい。さらに、チオール類の使用量は、酸触媒100モルに対して、0.001〜20モル程度の範囲から選択でき、例えば、0.05〜15モル、好ましくは0.1〜10モル、さらに好ましくは0.2〜8モル、特に0.3〜5モル(例えば、0.4〜3モル)程度であってもよい。
【0067】
縮合反応は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。本発明では、溶媒を使用しなくても(又は実質的に使用しなくても)、効率よく前記式(2)で表される化合物と前記式(3)で表される化合物との反応を効率よく進行させることができる。必要に応じて溶媒を使用する場合、溶媒としては、前記酸触媒に対して非反応性で、かつ前記式(2)で表される化合物および前記式(3)で表される化合物を溶解可能であれば特に限定されず、幅広い範囲で使用できる。代表的な有機溶媒としては、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ハロゲン系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類など)、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アニソールなど)などが挙げられる。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0068】
溶媒の使用量は、前記式(2)で表される化合物1重量部に対して、0.1〜25重量部程度の範囲から選択でき、例えば、1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部程度であってもよい。
【0069】
反応温度は、使用する前記式(2)で表される化合物、前記式(3)で表される化合物、酸触媒、チオール類などの種類に応じて選択できるが、通常、0〜150℃、好ましくは10〜120℃、好ましくは20〜100℃程度で行う場合が多い。特に、本発明では、比較的低温[例えば、70℃以下(例えば、0〜60℃程度)、好ましくは50℃以下(例えば、10〜40℃程度)、さらに好ましくは常温又は室温(例えば、20〜35℃程度)]であっても、反応を進行させることができる。なお、高温で反応させると、多量体の生成などにより目的生成物の収率や純度が低下する場合がある。また、反応時間は、原料の種類、反応温度や溶媒中の濃度などに応じて調整でき、例えば、30分〜48時間、好ましくは1〜36時間、さらに好ましくは2〜24時間程度であってもよい。
【0070】
また、反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧又は加圧下でおこなってもよい。なお、反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)などにより確認(又は追跡)できる。
【0071】
反応終了後の反応混合物には、通常、生成した前記式(1)で表される化合物以外に、未反応の前記式(2)で表される化合物、未反応の前記式(3)で表される化合物、触媒(酸触媒、チオール類)、副反応生成物などが含まれている。そのため、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0072】
前記晶析溶媒としては、炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタンなど)など]、水、アルコール類[メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコール(C1−3アルカノールなど)]、ケトン類[アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトンなどの低級脂肪族ケトン(C3−7ジアルキルケトンなど)、シクロヘキサノンなど]、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテルなど)などが挙げられる。晶析溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0073】
晶析溶媒の使用量は、特に限定されず、反応混合物(固形分換算)1重量部に対して、0.5〜50重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度であってもよい。このような晶析操作は一回行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。
【0074】
以上のような工程により、前記式(1)で表される化合物を得ることができる。なお、前記式(1)において、qが1以上である化合物は、効率よく反応させるためには、前記方法により製造するのが好ましいが、前記式(3)で表される化合物として、qが0である化合物を用いて、前記式(1)においてqが0である化合物を生成した後、生成した化合物(前記式(1)において、qが0である化合物)と、アルキレン基R(又はオキシアルキレン基OR)に対応する化合物とを反応させて製造することもできる。
【0075】
アルキレン基Rに対応する化合物としては、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド、特にC2−3アルキレンオキシドなど)、アルキレンカーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのC2−4アルキレンカーボネート、特にC2−3アルキレンカーボネートなど)、ハロアルカノール(例えば、3−クロロプロパノールなどのハロC2−6アルカノールなど)などとの反応(又は付加)生成物などが挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、アルキレンオキシド又はアルキレンカーボネートを反応させると、前記式(1)で表される化合物(qが0である化合物)のヒドロキシル基を介して(ポリ)オキシアルキレン単位を導入できる。アルキレンカーボネートを使用する場合、アルキレンカーボネートが付加したのち、脱炭酸反応が生じることにより、オキシアルキレン単位(アルコキシ単位)が導入される。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
なお、実施例において、化合物の特性は以下の方法により測定した。
【0078】
(1)熱重量分析
熱重量分析は、エスアイアイナノテクノロジー(株)製、「EXSTAR TG/DTA 6200」を用いて、窒素雰囲気下(流量20ml/分)中、加熱速度10℃/分で行い、重量が5%減少する熱分解温度(Td(5%))を測定した。
【0079】
(2)屈折率測定
それぞれ、対称物の10%、20%、30%のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を作成し、各濃度の屈折率を測定した。そして、得られた値の近似曲線によって、100%品(純品)の屈折率を計算式から推測した。
【0080】
屈折率測定装置 :(株)アタゴ アッベ屈折計 DR−M2。
【0081】
(実施例1)
窒素で膨らませた風船を付けた3方コックを装着したナスフラスコに、攪拌子、アセナフテンキノン0.87g(4.8mmol)、2−フェノキシエタノール1.87g(13.5mmol)、1−ドデカンチオール0.05g(0.25mmol)、メタンスルホン酸2mL(31mmol)を加え、室温で終夜攪拌し、反応させた。反応混合液に、蒸留水30mL、メタノール10mL、ジクロロメタン20mLを加えて抽出し、有機層を飽和重曹水30mL、飽和食塩水10mLで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥剤をろ過し、エバポレーターで濃縮した。濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン〜トルエン:酢酸エチル=4:6)で精製した後に少量のトルエンを加えて結晶化させ、濾過・乾燥して1.29gの生成物(オレンジ色結晶)を得た。収率は61%であった。また、生成物の融点は132.6℃、Td(5%)は376.0℃、波長589nmにおける屈折率は1.6303であった。
【0082】
以下に、生成物である2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]アセナフテン−1(2H)−オンの化学式、1H−NMR、および13C−NMRスペクトルデータを示す。
【0083】
【化9】

【0084】
H−NMR(CDCl)ppm;8.15(d,1H),8.02(d,1H),7.87(d,1H),7.76(dd,1H),7.66(dd,1H),7.44(d,1H),7.16(d,4H),6.80(d,4H),4.02(t,4H),3.91(m,4H),2.15(brs,2H)
13C−NMR(CDCl)ppm;204.1,157.4,143.2,140.9,135.1,132.2,131.8,130.8,129.7,128.7,128.4,124.1,122.8,122.5,114.2,69.1,68.2,61.4。
【0085】
(実施例2)
窒素で膨らませた風船を付けた3方コックを装着したナスフラスコに、攪拌子、9,10−フェナントレンキノン1.05g(5.04mmol)、2−フェノキシエタノール1.77g(12.8mmol)、1−ドデカンチオール0.04g(0.2mmol)、メタンスルホン酸2mL(315mmol)を加え、室温で終夜攪拌し、反応させた。反応混合液に、蒸留水30mL、メタノール10mL、ジクロロメタン20mLを加えて抽出し、有機層を飽和重曹水30mL、飽和食塩水10mLで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥剤をろ過し、エバポレーターで濃縮した。濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン〜トルエン:酢酸エチル=4:6)で精製した後に少量のトルエンを加えて結晶化させ、濾過・乾燥して1.37gの生成物(オレンジ色結晶)を得た。収率は58%であった。また、生成物の融点は160.6℃、Td(5%)は390.5℃、波長589nmにおける屈折率は1.6452であった。
【0086】
以下に、生成物である10,10−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フェナントレン−9(10H)−オンの化学式、H−NMR、および13C−NMRスペクトルデータを示す。
【0087】
【化10】

【0088】
H−NMR(CDCl)ppm;7.94(m,3H),7.56(m,1H),7.41(m,1H),7.32(m,3H),6.80(m,5H),4.02(m,4H),3.91(m,4H),2.11(m,2H)
13C−NMR(CDCl)ppm;200.3,157.5,141.4,134.2,133.9,131.7,131.1,130.1,128.5,128.2,127.9,127.7,124.1,122.7,113.9,69.0,67.0,61.4。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の新規な芳香族化合物は、高屈折率、高耐熱性などの特性を有しており、樹脂のモノマー、酸化防止剤、硬化剤などとして利用可能である。例えば、本発明の芳香族化合物は、複数のヒドロキシル基を有しているため、樹脂(例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、熱又は光硬化性(メタ)アクリル系樹脂など)のポリオール成分(例えば、ジオール成分)として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

(式中、環Xは、o−キノンから2つのオキソ基を除いた環、Rは置換基、pは0以上の整数、環Zは芳香族炭化水素環、Rはアルキレン基、qは0以上の整数、rは1以上の整数、Rは置換基、sは0以上の整数を示す。ただし、Xがアセナフテンキノン又はo−フェナントレンキノンから2つのオキソ基を除いた環であり、かつZがベンゼン環であるとき、qは1以上の整数である。)
【請求項2】
o−キノンが、縮合多環式芳香族炭化水素のo−キノンである請求項1記載の化合物。
【請求項3】
下記式(1A)又は(1B)で表される化合物である請求項1又は2記載の化合物。
【化2】

(式中、p1は0〜3の整数、p2は0〜4の整数を示し、R、Z、R、q、r、R、sは前記と同じ。)
【請求項4】
qが1以上の整数である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
環Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、qが1〜4であり、rが1〜3である請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
酸触媒の存在下、下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物とを反応させて、請求項1〜5のいずれかに記載の化合物を製造する方法。
【化3】

(式中、X、R、p、Z、R、q、r、R、sは前記と同じ。)
【請求項7】
qが1以上の整数である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
酸触媒が、スルホン酸で構成されている請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
酸触媒に加えて、さらに、チオール類の存在下で反応させる請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
酸触媒が、アルカンスルホン酸およびハロアルカンスルホン酸から選択された少なくとも1種で構成されており、かつチオール類が、アルキルメルカプタンで構成されている請求項9記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−74013(P2011−74013A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227102(P2009−227102)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】