説明

新規な複合体

本発明は、荷電性ペプチドと二層形成性ガラクトリピドとの複合体のコロイド水溶液に関する。コロイド溶液は、感染症の治療、創傷治癒、および他の疾患における、荷電性ペプチドのための薬物送達系として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドと二層形成性ガラクトリピド材料との新規複合体のコロイド水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬技術の主要な目標は、治療薬の処置から利益を得られる適切な細胞または組織への治療薬の特異的送達を促進させ、そして身体の他の細胞または組織へ不適切に送達されることによるそうした薬剤の一般的な生理的作用を避けるための、方法および組成物を開発することである。このことは特に抗菌性および抗ウイルス性のペプチド化合物の場合に重要である。これらの化合物は典型的には免疫原性または細胞障害作用を有し、感染細胞と同様に非感染細胞にも障害を与え破壊する。さらに、特定の化合物、医薬品または薬剤は、感染細胞に特異的な酵素的または化学的活性により「活性化」され、または化学的に修飾され、こうした化合物の活性化型は特に毒性が強い。したがって、そうした化合物、特にその該「活性」型を、特異的に感染細胞に送達可能にする効率的な送達システムは、そうした薬物治療の治療の効率を促進し、薬物への抵抗性を克服し、それに伴う「副作用」を減少させるだろう。
【0003】
薬物作用の活性および特異性を増大させる数多くの方法が提案されてきた。一つの方法では、目的とする標的細胞表面に発現している受容体に親和性を有するリガンドに、治療剤を連結することを含んでいる。この方法を用いて、抗菌性および抗ウイルス性化合物を、細胞表面上の受容体とリガンドの複合体を形成させ、その後に標的細胞に付着させることが意図されている。次に、リガンド−受容体複合体の内在化の結果、細胞への取り込みが行われるだろう。内在化に続いて、この抗菌性または抗ウイルス性化合物は次に細胞に直接に作用を発現させることができる。
【0004】
米国特許US6,287,590は、共凍結乾燥(co-lyophilization)によるペプチド−脂質複合体の生成方法を開示している。該方法において、1またはそれ以上の脂質およびペプチドを、それぞれ有機溶媒に溶解し、次にこの2つの溶液を混合し、そして凍結乾燥して粉末化し、この粉末はその後に水性溶液中で再構成され小胞を形成し、時には透明な溶液を生じさせることができる。
【0005】
国際特許公開WO2004/067025は、ヒトカテリシジン(cathelicidin)hCAP18のC-末端ペプチドであるペプチドLL-37とガラクトリピドとの混合物が、特定の質量比で、意外にも、安定で透明なコロイド溶液を形成することを証明した。さらに、LL-37のインビトロでの細胞毒性がガラクトリピドと複合体を形成した場合に減少することも示された。
【0006】
国際特許公開WO95/20944は、薬剤の投与におけるガラクトリピドをベースにしたリポソームの使用を開示している。この方法は、一般的なペプチドおよびタンパク質と組み合わせたガラクトリピドの使用、特に、溶液中での複合体の形成、すなわち複合体形成による改善された安定性を示すコロイド溶液の形成のための使用については開示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は安定なペプチド−極性脂質複合体の製造をベースにしており、このペプチドは非共有力を介して脂質に連結している。本発明は、水溶性媒体中での荷電性生理活性化合物、例えば水溶性ペプチドおよびタンパク質、ならびに中性の二層形成性ガラクトリピド材料を含む新規な複合体のコロイド溶液に関している。より特定すれば、本発明は該可溶性ペプチド薬剤のための薬物送達システムとしての新規な複合体の使用に関している。この新規な薬物送達システムは、この薬物の分解を遅らせ、毒性を減少させ、非生物表面への薬物の吸着を防止し、そして包含された薬物の持続的放出を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水溶液中のペプチド−脂質複合体に関し、この複合体は、該脂質が二層形成性ガラクトリピド材料であり、そしてペプチドとガラクトリピド材料との間の質量比が1:5〜1:50であることを特徴としているが、但しこのペプチドはLL-37ではない。
好ましい実施態様によれば、このペプチドとガラクトリピド材料との間の質量比は1:10〜1:50である。
【0009】
本発明は、安定なガラクトリピド−ペプチドのコロイド溶液を開示し、このガラクトリピドおよびペプチドは特定の質量比で複合体を形成する。このペプチドは、安定な複合体を形成するためには、荷電性で両親媒性のそして30 kDaより小さい分子量、例えば、1〜30 kDaを有していなければならない。このペプチドの好ましい分子量は2〜20kDaの範囲である。好ましいペプチドまたはタンパク質は、正に荷電しているアミノ酸を含むものである。リシン、アルギニン、ヒスチジンおよびオルニチンは、全て天然に生じるアミノ酸であり、塩基性側鎖を有し、pH7で正に荷電している。中性のpHで正に荷電している合成アミノ酸もまた、本発明で開示している合成ペプチドに組み込むことが可能である。さらに、好ましいペプチドまたはタンパク質は、4またはそれ以上の正に荷電したアミノ酸を有するものである。荷電したアミノ酸は、Lys-Arg-Lys-Argのような配列を有する連続したものであってはならない。
【0010】
アスパラギン酸、グルタミン酸またはガンマ−カルボキシ−グルタミン酸のような負に荷電したアミノ酸を有するペプチドもまた本発明では開示されている。この負に荷電したアミノ酸は連続してはいけない(Asp-Glu-Asp-Glu)。
【0011】
好ましくは、ガラクトリピドと組み合わせるペプチドまたはタンパク質は、両親媒性であると同時に界面活性でもある。荷電した部分の他に、この分子はまた非極性部分を有しなければならない。このことにより、水溶液中で特異的な二次構造、ならびに水溶液中で凝集形成(自己会合)を生じさせることができる。
【0012】
適切な対イオンは、正に荷電したペプチドでは、酢酸塩、塩化物等であり、そして負に荷電したペプチドでは、ナトリウム、カリウム、アンモニア等である。
【0013】
本発明により用いられるペプチドおよびタンパク質の例は、例えば、水溶液中で二次構造、α−ヘリックス、β−プリーツシートのような構造等を形成するものである。
【0014】
抗菌性ペプチドは、生得の免疫システムの高度に荷電したエフェクター分子であり、宿主を有害な可能性のある微生物から防御するために働いている。これらは進化を通して保存され、そして自然に広く分布している。ヒトにおいては、一握りのものがこれまで同定されたにすぎず、その中でのデフェンシンおよびヒトカテリシジンペプチドhCAP18は上皮の防御に関与している。カチオン性ペプチドが微生物の負に荷電した表面と結合することにより相互作用をしていると提案されてきた。特定の例はカテリシジンであり、これらはヒトカチオン性抗菌性タンパク質(hCAP18)およびそのC末端ペプチドLL-37、PR-39、プロフェニン、インドリシジンを包含し、後者は強い抗真菌活性を有する13残基のカチオン性ペプチド−アミドである。
【0015】
LL-37はガラクトリピドと共にコロイド溶液を形成することがこれまで知られていた。本発明は、カテリシジンのペプチドファミリーに属する他のペプチドもまた安定なコロイド溶液を形成することを証明している。このガラクトリピドおよびペプチドは特定の質量比で複合体を形成する。本発明の特定の実施態様によれば、このペプチドは、分子量が2.5〜5 kDa(遊離の塩基として)であるカチオン性の抗菌性ペプチドである。該ペプチドはガラクトリピド材料と、ペプチド:ガラクトリピドの質量比が1:10〜1:27で複合体を形成する。好ましいペプチドは、LL-25、LL-26、LL-27、LL-28、LL-29、LL-30、LL-31、LL-32、LL- 33、LL-34、LL-35、LL-36のLL-37のN末端部分の少なくとも25個の配列を有するペプチドであり、およびLL-38である。該ペプチドは国際特許公開WO2004/067025に記載されており、そしてそれらの配列は以下に記載されている。
【0016】
【表1】

【0017】
本発明の好ましい複合体は、ペプチドLL-25およびガラクトリピド材料を含んでいる。
他の抗菌活性を有する荷電したペプチドは、グラミシジンS、マガイニン、セクロピン、ヒスタチン、ヒファンシン、シンナマイシン、ブルフォリン1、パラシン1およびプロタミンである。
【0018】
本発明はまた、ペプチドがアポリポプロテインまたはアポリポプロテイン類似体、例えばApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoEである複合体にも関している。Apo AIは分子量が28kDaの単鎖ポリペプチドである。その本来の機能は、HDL(高密度リポプロテイン)複合体の中のLCAT(レシチン−コレステロールアシルトランスフェラーゼ)の活性化であり、コレステロールのエステル化を触媒する。
【0019】
一般にペプチドのために提供されてきた多くの送達システムが存在しているが、そのどれについても、それらのカチオン性ペプチドまたは他の高度に荷電したペプチドについての有用性が見出されなかった。
【0020】
本発明の複合体を形成できるペプチドの他の例は、インスリン、グルカゴン、エリスロポエチン、ダルベポエチンα、およびストレプトキナーゼである。
【0021】
モチリンのようなペプチドホルモンもまた本発明により使用できるペプチドのグループに含まれる。モチリンは、22個のアミノ酸ペプチドであり、小腸近接部の粘膜の内分泌細胞から分泌される。モチリンは、上部胃腸管において平滑筋収縮のパターン制御に関与している。他のペプチドホルモンには、ソマトロピン、デスモプレッシン、オキシトシン、ゴナドレリン、ナファレリン、オクトレオチド、ランレオチド、ガニレリックス、セトロレリックス、テリパラチドおよび鮭カルシトニンがある。
【0022】
二層は通常、水中での極性脂質の層状配置を意味する。アシル鎖が二層の内部の疎水性部分を形成し、そして極性頭部基が親水性部分を形成する。極性溶媒(例えば、水)中の該極性脂質の濃度に依存して、安定なペプチド複合体が形成できる。
【0023】
ペプチドと混合または配合する好ましい極性の二層形成性ガラクトリピド材料は、荷電が中性のものである。特に有用なものは、ジガラクトシルジアシルグリセロール、および他の糖脂質、例えば天然または合成のグリコシルセラミド類であり、その中では非イオン性の炭水化物部分が極性頭部基を構成している。そうした天然または合成による二層形成性ガラクトリピドの例として、ジガラクトシルジアシルグリセロール、またはジガラクトシルジアシルグリセロールに富んだ極性脂質混合物を挙げることができる。ジガラクトシルジアシルグリセロール、DGDG[1,2-ジアシル-3-O-(α-D-ガラクトピラノシル-(1-6)-O-β-D-ガラクトピラノシル-グリセロール]、は植物細胞膜の構成成分として良く知られている、糖脂質ファミリーに属する、脂質の一クラスである。ガラクトリピドまたはガラクトリピド材料、主としてDGDGおよびDGDGに富んだ材料、はこれまで研究されてきており、そして、食品、化粧品および医薬品のような工業的応用において興味のある界面活性材料であることが見出されている。国際特許公開WO 95/20944は、DGDGに富んだ材料、「ガラクトリピド材料」を、製薬、栄養品および化粧品としての使用のために、極性溶媒中で二層形成性材料として使用することを記載している。
【0024】
好ましい局面では、ガラクトリピド材料はCPL-ガラクトリピド、すなわちスエーデン国のLTP Lipid Technologies Provider ABで製造されたガラクトリピド材料である。これは麦由来の精製ガラクトリピド画分である。このCPL-ガラクトリピドは、現在、皮膚用クリーム中に使用されており、良く認容され、そして優れた吸収特性を有することが示されてきている。CPL-ガラクトリピドは周囲温度で安定である。これらのデータに基づき、この複合体は長期にわたって局所的に、例えば創傷治癒において投与が可能であると結論つけることができる。
【0025】
この荷電したペプチドと中性脂質との間の相互作用は、複合体形成を介して、ペプチドを安定化させるために、ならびにインビトロおよびインビボの両方で分解から保護するために充分に強力である。例えば、このペプチドは、生理的な環境下で生じうるタンパク分解酵素(例えば、創傷部位で産生されるエラスターゼまたは各種のプロテアーゼ)および生物体の他の部位(例えば、唾液中または消化管中で)で見られるペプチダーゼによる分解から保護される。このペプチドはまた加水分解または他のあらゆる化学的分解から保護される。しかしながら、一旦作用部位に送達された後には、この複合体からペプチドを放出するために、相互作用は充分に弱いものである。荷電された(両性イオン性)リン脂質は、反対に荷電されたペプチドとは強すぎる静電的相互作用をもたらすだろう。その結果、複合体は、製造の後、多少にかかわらず直に沈殿してしまう傾向がある。例え配合し投与することが可能であったとしても、次に、荷電したリン脂質と荷電したペプチドとの間の強い力のために、ペプチドの放出が非常に遅れるかまたは放出できなくなる(zero release)という危険性が生じる可能性がある。
【0026】
したがって、本発明のペプチド−ガラクトリピド複合体の、薬剤送達の視点からみた主要な利点は、ガラクトリピドがインビトロで物理的および化学的に安定な製剤を提供し、それがインビボでのペプチドの早すぎる酵素的分解から保護することである。そのために、本発明の特定の局面は、ガラクトリピド材料との複合体形成による生物的環境中での分解からペプチドを保護することに関している。
【0027】
水溶液とは、pH、イオン強度、等張性等について生理的または製薬的に受容可能な特性を有する溶液を意味する。例としては、水および他の生物的適合性を有する溶媒の等張液、生理食塩水およびグルコース溶液のような水性溶液、ならびにそれらの混合物が挙げられる。この水性溶液は、例えばリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)のように緩衝化できる。
【0028】
複合体のための適切な水性溶媒はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS;10 mM リン酸ナトリウム、150 mM NaCI、pH 7.4)である。しかしながら、匹敵するイオン強度および適切なpHを有する他のいかなる水性溶液もこの製造のために使用できる。
【0029】
本発明は特に、先に記載した複合体のコロイド溶液に関し、そこでの該複合体の平均サイズは100 nm未満である。
【0030】
本発明はまた、LL-37と二層形成性ガラクトリピド材料との複合体のコロイド溶液に関し、ここで該複合体の平均サイズは100 nm未満である。該コロイド溶液を形成する好ましい複合体は、塩としてのLL-37とCPL-ガラクトリピドの1:5〜1:50、好ましくは1:5〜1:20の比でのものである。そうした複合体のサイズは、対応するCPL-ガラクトリピドにより形成されたペプチドを含まないリポソームのサイズより小さいだろう。
【0031】
定義したコロイド溶液は熱力学的に安定で、そしてリポゾーム分散液と違って、保存中に分離しない。
【0032】
このコロイド溶液は、この複合体の他に、製薬上受容できる賦形剤、例えば組成物中に微生物が増殖するのを防止するための保存剤、抗酸化剤、追加の等張剤、着色剤、非イオン性界面活性剤および親水性重合体のような安定化剤等を含むことができる。
【0033】
他の局面によれば、本発明はまたコロイド溶液の製造方法に関し、この方法は以下の工程で特徴付けられる:
(i)適切な容器(例えばホウケイ酸塩ガラスまたはポリプロピレンプラスチック製のフラスコ)中で、乾燥した自由流動性のある粉末としてガラクトリピド材料を、最終濃度が1〜5 mg/gになるように秤量し、この容器は上部空間が溶液の最終体積と等しいかより大きくなるようにしている;
(ii)イオン強度が100 mMより大きく、pHが適切な、通常4〜10の範囲で、好ましくは7である、水性媒質を選択する;
(iii)他の適切な容器(例えばホウケイ酸塩ガラスまたはポリプロピレンプラスチック製のフラスコ)中で、ペプチドを秤量し、そして選択した水性媒質へ、ペプチド濃度が、ペプチドとガラクトリピド材料の最終質量比が1:5〜1:50に相当するように加える;
(iv)ペプチド溶液(iii)を乾燥ガラクトリピド材料(i)に加える;
(v)(iv)からの混合物を、適切な振盪機を高速度で少なくとも1時間または混合物が透明になるまで、室温で激しく振盪する;そして、
(vi)得られたコロイド溶液を平衡化する。
該平衡化は好ましくは2〜8℃の温度で終夜行う。
【0034】
(v)の混合物が3時間激しく振盪した後でも透明にならない場合は、ペプチドとガラクトリピド材料との間の他の質量比を用いて、および/または異なったイオン強度を有する他の水性溶液を用いて、繰り返す。
【0035】
得られたコロイド溶液は、慣用の分光光度計を用いた光透過度測定により特徴付けられる。適切なコロイド状態中のペプチド−ガラクトリピド複合体は、高い光透過性(低濁度)を現すようになる。こうして得られたペプチド−ガラクトリピド複合体はまた、動的光散乱機器を用いてサイズを測定することにより特性付けることもでき、通常このペプチド−ガラクトリピド複合体の平均サイズは100 nmを十分に下まわっていることがわかっている。この複合体はまた透過性電子顕微鏡と低温ガラス化技術を組み合わせて用いて直接に可視化できる。
【0036】
この方法が、超音波処理機、高速混合機(ultra-turrax)、高圧ホモジナイザー、または他の加工用機器の使用を含まないことに着目するべきであり、このことは技術的および経済的見地から明らかに有利である。さらに、熱処理を必要としないことで、熱感受性の生物活性化合物を含む組成物を製造することが可能になる。最後に、そして最も重要なことに、この方法は有害な可能性のある有機溶媒の使用を含まない。
【0037】
この組成物のコロイドの性質は、最後に無菌的な濾過工程を行うことで、無菌的に製造することを可能にする。これは、組成物が、熱感受性で加熱滅菌のできない生物活性分子を含む場合に特に有利である。
【0038】
本発明の送達システムのコロイド溶液は、生物学的に活性なペプチドの非経口投与(例えば、皮下、静脈内、腹腔内等の投与)のために使用することができる。
このコロイド溶液はまた局所投与(例えば、局所、直腸内、粘膜内投与)により投与できる。この複合体は生物活性ペプチドの分解を防ぎ、薬剤を安定化する。
このシステムはまた該生物活性化合物の経口吸収を改良し、そして生体膜を介した輸送を改良するために用いることができる。
【実施例】
【0039】
一般的方法
水性溶液中の安定なペプチド−ガラクトリピド複合体は、例えば、以下の全般的な方法で形成できる:
ガラクトリピド材料の約60 mgの量を100 mlのガラスフラスコ中で秤量する。ペプチドの約3 mgの量を30 mlのPBS(10 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCI、pH 7.4)に溶解し、そしてこの溶液をガラクトリピド材料に加える。このサンプルを、適切な振盪機を高速度で用いて激しく振盪し、2時間後、この混合物はほとんど透明になり、次に平衡化し、室温で約30分間静置する。場合によっては、このほとんど透明な溶液を、大きな複合体のサイズを取り除くかまたは減少させるために、孔サイズが100 nmまたはそれ以下のポリカーボネート膜を介する押出し成形に付する。その代わりに、このほとんど透明な溶液を、溶液の無菌化のために、孔サイズが0.22 μmまたはそれ以下の無菌フィルターを介する濾過に付す。
【0040】
〔実施例1〕
カテリシジン由来のペプチドおよびガラクトリピド材料の混合物を含む水性溶液の製造
LL-20、LL-25、LL-37およびLL-38ペプチドを、9-フルオレニルメトキシカルボニル/tert-ブチル方法による固相合成を用いて合成した。トリフルオロ酢酸塩としての粗製ペプチドをHPLCにより精製し、そして最後に凍結乾燥で単離した。精製度はHPLCにより測定した。アミノ酸の組成分析により、各アミノ酸の相対的量はそれぞれのペプチドの理論的値に一致していた。ペプチドの抗菌性活性は阻害アッセイ法により試験した。
【0041】
複合体の溶液を製造するために、ペプチドとCPL-ガラクトリピドを100 mlのガラスフラスコ中で秤量し、そして次にPBS(10 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCI、pH 7.4)を加えた。このサンプルを、適切な振盪機を高速度で用いて、1〜2時間または混合物が透明になるまで激しく振盪し、次に平衡化し、室温で約30分間静置した。トリフルオロ酢酸塩としてのLL-20、LL-25、LL-37およびLL-38のサンプル、ならびにCPL-ガラクトリピドを、以下の表1に示した量を用いて製造した。ペプチド混合物は全て0.20 %のCPL-ガラクトリピドを含んでいた。
【0042】
【表2】

【0043】
目視検査を、混合物を室温で貯蔵して2時間後および2日後に行った。これらの検査はLL-25、LL-37およびLL- 38がそれぞれ68〜98 ppm、98〜213 ppmおよび50〜102 ppmの濃度範囲で、透明またはほとんど透明な溶液を与えることを示した。LL-20混合物は、検査した濃度範囲で多量の沈殿物を示した。LL-20の分子量は2.4 kDaと算出された。
【0044】
荷電した抗菌性ペプチドと中性脂質との相互作用は、ペプチドの安定化を達成するためには十分強いと考えられるが、創傷治癒実験で示されたように、一旦作用部位へ送達されると、複合体からのペプチドの放出を行うには十分に弱かった。
【0045】
したがって、このデータは、ペプチドの分子量が>2.5 kDaの場合にのみ、カチオン性ペプチドとCPL-ガラクトリピドとの間で安定複合体が形成されることを証明している。好ましいペプチド:ガラクトリピドの質量比は1:10〜1:27であっていい。
【0046】
〔実施例2〕
LL-20およびLL-25複合体の抗菌活性の試験
抗菌活性は阻止域アッセイ法を用いて試験した。試験用細菌として、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)を用いた。以下のデータが得られた。
【0047】
【表3】

【0048】
このデータは、LL-25が68 ppmの濃度で抗菌活性を有したことを示している。またCPL-ガラクトリピドとの複合体を用いてLL-25が活性を有したことも示している。LL-20との複合体は抗菌活性を持たなかった。
【0049】
〔実施例3〕
LL-37の酵素分解試験−比較研究
ペプチドの酵素的分解を阻害または阻止できれば、無傷のペプチドの半減期を増加させ、そして長期に渡って生物的機能を発揮できるために、薬剤開発の視点から、有利であろう。
【0050】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は普遍的な創傷の病原体であり、細菌感染と闘うために感染した宿主により産生される抗菌性ペプチドを、速やかに分解する活性を有する加水分解酵素であるエラスターゼを産生する。ヒトにおいて、LL-37は最も重要な抗菌性ペプチドであり、そして緑膿菌由来のエラスターゼによるその分解は既に研究されてきた(A. Schmidtchen等、Molecular Microbiology (2002) 46 (1), 157-168)。
【0051】
この研究において、我々は水性緩衝系におけるLL-37の酵素的分解速度を、ガラクトリピド複合体中のLL-37のコロイド溶液の速度と比較した。この酵素的分解の実験方法は実質的に記載の通り、210 nmで操作する逆相HPLCシステム(C-18)を用いた。
【0052】
略記すれば:
2つの保存溶液AおよびBを調製した。溶液A、「参照」、はPBS(pH 7.4)中に100μg/mlのLL-37を含んでいる。溶液B、「複合体」、はPBS(pH 7.4)中に100μg/mlのLL-37と0.2 % (w/w)のガラクトリピドを含んでいる。エッペンドルフチューブ中で2組のサンプルを、各保存溶液からの8個のチューブで調製した。サンプルの各組中の1つのチューブをネガテイブ対照(酵素無添加)として置き、残りのサンプルに緑膿菌由来のエラスターゼの有効量を加え、最終的に酵素の基質(ペプチド)に対する比を約1:2500とした。反応を37℃で維持し、そしてサンプルを予め決められた時間間隔で採取した。反応はサンプルを100℃で5分間加熱することにより停止した。停止後、反応液は分析まで−18℃で保存した。
【0053】
全てのサンプルは2回ずつ分析しそしてLL-37のピーク領域を、ネガテイブ対照のそれ(1.00に設定した)で標準化した。保持時間は、LL-37に対する相対的保持時間(RRT)を1.00と設定して与えられた。緩衝溶液中でのLL-37の分解の間、LL-37の断片を表すいくつもの異なったピークが検出された。全ての断片はLL-37より短い保持時間で溶出されており、これはそれらのより小さい分子量を示している。クロマトグラフィーから、緩衝水性溶液中で、LL-37の分解が速やかであり、このペプチドが段階的に、すなわち最初はRRT = 0.88の相対的に大きな断片で、次いでさらにRRT = 0.66のさらに分解された断片で、分解することが明らかにされた。20時間後、ほぼ全ての材料が、クロマトグラフィーシステムで短い保持時間を有する低分子量断片まで分解された。しかしながら、LL-37がガラクトリピド複合体の形態の場合、いずれのサンプルにも検出できる量の分解産物は見られなかった。結果を以下の表3に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
上記の表から、緩衝化水性溶液中のLL-37が緑膿菌由来のエラスターゼで処理した場合に速やかに分解されることが明らかである。しかしながら、ガラクトリピド複合体の形態でLL-37を同一の実験条件に付した場合は、そうした分解は観察されず、このことはガラクトリピド製剤の保護作用を明白に証明している。
【0056】
本発明はこれらの記載された実施例により範囲を限定されない。したがって、30 kDa未満の分子量を有し、正味の荷電で両親媒性である、他の生物活性化合物を用いてガラクトリピドを基にした同様な複合体を形成することが可能であるはずと期待できる。至適条件、すなわち、ペプチドのガラクトリピド材料に対する質量比、および溶液中の2つの成分の総濃度が実験により得ることができる。水性溶液は、適切な組成、イオン強度およびpHを上記のように有するべきである。このようにして、各固有のペプチドおよびガラクトリピド混合物の最良の組成が上記の技術的に簡単な方法を用いて確立され、確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質が二層形成性ガラクトリピド材料であり、ペプチドとガラクトリピド材料との間の質量比が1:5〜1:50であり、但しこのペプチドはLL-37ではないことを特徴とする、水性溶液中のペプチド−脂質複合体。
【請求項2】
ペプチドとガラクトリピド材料との間の質量比は1:10〜1:50である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
ペプチドが、荷電性で両親媒性で、そして30 kDaより小さい分子量である、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
ペプチドが少なくとも4個の正に荷電したアミノ酸を有している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
ペプチドが製薬上受容できる塩の形態である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
ガラクトリピド材料がジガラクトシルジアシルグリセロールに富んだ極性脂質混合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
ガラクトリピド材料がCPL-ガラクトリピドである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
ペプチドがアポリポプロテインまたはアポリポプロテイン類似体である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項9】
ペプチドがインスリン、グルカゴン、エリスロポイエチン、ダルベポイエチン、ストレプトキナーゼ、ソマトロピン、デスモプレッシン、オキシトシン、ゴナドレリン、ナファレリン、オクトレオチド、ランレオチド、ガニレリックス、セトロレリックス、テリパラチドおよび鮭カルシトニンからなる群から選ばれた、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項10】
ペプチドがマガイニン2、セクロピンおよびヒスタチンからなる群から選ばれる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項11】
ペプチドが、分子量が2.5〜5kDaの、カチオン性抗菌性ペプチドである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項12】
ペプチド:ガラクトリピドが1:10〜1:27の質量比を有する、請求項1〜7および11のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項13】
ペプチドがLL-25、LL-26、LL-27、LL-28、LL-29、LL-30、LL-31、LL-32、LL-33、LL-34、LL-35、LL-36およびLL-38からなる群から選択される、請求項1〜7、11および12のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項14】
ペプチドLL-25およびガラクトリピド材料を含む、請求項1〜7および11〜13のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項15】
複合体の平均サイズが100nm未満の、請求項1〜14のいずれか1項に記載の複合体のコロイド溶液。
【請求項16】
複合体の平均サイズが100nm未満の、LL-37および二層形成性ガラクトリピド材料との間の複合体のコロイド溶液。
【請求項17】
医薬として使用するための、請求項15または16に記載の複合体のコロイド溶液。
【請求項18】
請求項15または16に記載の複合体のコロイド溶液を製造する方法であって、以下の各工程:
(i)適切な容器(例えばホウケイ酸塩ガラスまたはポリプロピレンプラスチック製のフラスコ)中で、乾燥した自由流動性のある粉末としてガラクトリピド材料を、最終濃度が1〜5mg/gになるように秤量し、この容器は上部空間が溶液の最終体積と等しいかより大きくなるようにしてあり、
(ii)イオン強度が100mMより大きく、pHが適切な、通常4〜10の範囲で、好ましくは約7である水性媒質を選択し、
(iii)他の適切な容器(例えばホウケイ酸塩ガラスまたはポリプロピレンプラスチック製のフラスコ)中で、ペプチドを秤量し、そして選択した水性媒質へ、ペプチド濃度が、ペプチドとガラクトリピド材料の最終質量比が1:5〜1:50に相当するように加え、
(iv)ペプチド溶液(iii)を乾燥ガラクトリピド材料(i)に加え、
(v)(iv)からの混合物を、適切な振盪機を高速度で少なくとも1時間または混合物が透明になるまで、室温で激しく振盪し、そして、
(vi)得られたコロイド溶液を平衡化する
ことにより特徴付けられる、上記方法。
【請求項19】
医薬の製造のための、請求項1〜16のいずれか1項に記載の複合体のコロイド溶液の使用。
【請求項20】
感染症、創傷治癒または抗菌活性の不足を伴う他の疾患の治療用医薬の製造のための、請求項15または16に記載の複合体のコロイド溶液の使用。
【請求項21】
感染症、創傷、アトピー性湿疹および抗菌活性の不足を伴う他の症状および/または血管新生の局所的処置用医薬の製造のための、請求項20に記載の複合体のコロイド溶液の使用。

【公表番号】特表2007−523211(P2007−523211A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500715(P2007−500715)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000252
【国際公開番号】WO2005/079860
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(505285087)リポペプチド・アクチエボラーグ (7)
【Fターム(参考)】