説明

新規な食品製造方法

少なくとも1つの加熱ステップを伴う、食品を製造するための方法であって、前記製造方法における前記食品の中間形態に1種又は複数の酵素を添加することを含み、前記酵素は、前記食品の前記中間形態に存在し前記加熱ステップ中のアクリルアミド形成に関与するアミノ酸のレベルを低下させるのに有効な量で、前記加熱ステップの前に添加されるものである。本発明は、本発明の方法から得られた食品にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの加熱ステップを含んだ食品を製造するための方法と、それによって得られた食品に関する。さらに本発明は、本発明による方法に適した新規な酵素と、この新規な酵素をコードする遺伝子を含む新たに同定されたポリヌクレオチド配列に関する。
【0002】
アクリルアミドは、様々な技術的応用例のために、長い間商業的に生産されており、従ってその毒物学的背景については十分調べられている。アクリルアミドはポリアクリルアミドの生成に使用され、この後者の化合物が、飲料水の製造、土質安定化、工場排水処理、油の採掘、及び実験室での応用例で利用される。
【0003】
アクリルアミドは、動物及びヒトに対して、おそらくは発癌性があるものと見なされている。1991年、食品に関する科学評議会(Scientific Committee on Food)は、食品材料と接触させたモノマーアクリルアミドについて調査し、その評価において、アクリルアミドは遺伝毒性のある発癌性物質であると結論付けた。Bergmarkら(Chem.Res.Toxicol.、10、78〜84(1997))は、アクリルアミドがタバコの煙の成分でもあることを実証し、これが生体物質の加熱とアクリルアミドの形成との最初のリンクであった。最近、オーブンで調理された食品や多くの食品中にアクリルアミドが発生することが公表され(Tarekeら、Chem.Res.Toxicol.13、517〜522(2000))、それが世界的な関心となった。別の調査では、様々な焼き物、揚げ物、及びオーブンで調理された一般的な食品中にかなりの量のアクリルアミドを検出できることが明らかになり、食品中でのアクリルアミドの発生は、ベーキングプロセスを経た結果であることが実証された。
【0004】
食品のアクリルアミド汚染に関する英国での公式の限度は10ppb(キログラム当たり10マイクログラム)に設定され、多くの製品、特にシリアル、パン製品、及びポテトチップにおける上述した値は、この限度値を大幅に超える。
【0005】
投与されるアクリルアミドの用量と腫瘍発生率との関係を動物実験で観察した。この実験では飲料水を介してラットにアクリルアミドを与え、2年間でどのような運命を辿るのかを観察した(Friedman,H.L.ら、Fundam.Appl.Pharmacol.85:154〜168.M.(1986)、及びJohnsonら、Toxicol.Appl.Pharmacol.85:154〜168(1986))。344匹のFischerラットの飲料水に取り込まれたアクリルアミドに関して、慢性毒性及び腫瘍原性の研究がなされた。
【0006】
これらのデータと、ヘモグロビン(N−(2−カルバモイルエチル)バリン)に結合したアクリルアミドがラットの餌に含まれているアクリルアミドの機能であることを研究したTarekeらによって収集された結果とを組み合わせると、アクリルアミドの1日の摂取量は1.6μgアクリルアミド/kgであることが計算され、これはヒトが生涯にわたって曝露され場合の癌リスクが7×10−3であること相当する。
【0007】
メイラード反応の結果として、アミノ酸及び還元糖からアクリルアミドを形成するための経路が、MottramらのNature 419;448(2002)に提案されている。この仮説によれば、アクリルアミドはメイラード反応中に形成されているかもしれない。ベーク中及びロースト中、メイラード反応は主に色、香り、及び味を左右する。メイラードに関連した反応はアミノ酸のStrecker分解であり、アクリルアミドへの経路が提案された。アクリルアミドの形成は、温度が120℃を超えたときに検出可能になり、最も高い形成速度は170℃程度で観察された。アスパラギン及びグルコースが存在する場合はアクリルアミドが最も高いレベルで観察され、一方、グルタミン及びアスパラギン酸ではごく微量であった。アクリルアミドが主にアスパラギン及びグルコースから形成されることは、オーブンで調理し又はローストした植物ベースの製品等のアクリルアミドが高レベルであることを説明することができる。いくつかの植物原材料は、かなりのレベルのアスパラギンを含有することが知られている。ジャガイモでは、アスパラギンが、最も多く含まれる遊離アミノ酸であり(940mg/kg、全アミノ酸含量の40%に相当)、小麦粉では、アスパラギンが、約167mgアスパラギン/kg粉のレベルで存在し、これは全遊離アミノ酸プールの14%に相当する(BelitzとGrosch、Food Chemistry−Springer New York、1999)。
【0008】
従って公衆衛生のため、アクリルアミドが実質的に低レベルであり、又は好ましくはアクリルアミドを含まない食品が至急求められている。第1の例では、食品中でのアクリルアミド形成のメカニズムを明らかにするために研究活動を開始した。これまで、その結果は、依然として満足のいく問題解決策には至っていない。第2に、食品会社は、オーブン調理及びローストプロセスの温度を低下させることによってアクリルアミドの形成を回避する可能性について調査している。当然ながら、このようにすることによって、本質的に味の特性が変わった食品になり(メイラード生成物が少ない)、また、このようにすることによって、サルモネラ菌などの微生物汚染が増大するという危険性が高まる。
【0009】
本発明は、少なくとも1つの加熱ステップを伴う、食品を製造するための方法であって、前記製造方法で前記食品の中間形態に1種又は複数の酵素を添加することを含み、前記酵素が、前記加熱ステップ中のアクリルアミド形成にアミノ酸が関与する前記食品の、前記中間形態に存在するアミノ酸のレベルを低下させるのに有効な量で、前記加熱ステップの前に添加される方法を提供する。
【0010】
本明細書では、中間形態にある食品を、食品の最終形態を得る前の製造過程で生ずる任意の形態と定義する。中間形態は、使用される個々の原材料、及び/又はそれらの混合物、及び/又は添加剤及び/又は加工助剤との混合物、あるいはこれらを引き続き加工した形態を含めることができる。例えば、食品としてのパンの場合、その中間形態には例えば、小麦、小麦粉、これらと例えば水や塩、イースト菌、パン改質組成物などその他のパン成分との初期混合物、ミックス生地、練り生地、発酵生地、半焼き生地が含まれる。
【0011】
食品は、例えばジャガイモやタバコ、コーヒー、ココア、米、穀物、例えば小麦やライ麦、トウモロコシ(corn、maize)、大麦、グロート、ソバ、カラスムギなど、植物由来の少なくとも1種の原材料から作製することができる。小麦は、ここではまた以下において、コムギ(Trticum)属で知られている全ての種、例えばaestivum種、durum種、及び/又はspelta種を包含するものとする。また、1以上の原材料から作製された食品も本発明の範囲に含まれ、例えば小麦(粉)とジャガイモの両方を含む食品がある。
【0012】
本発明による方法を適切に用いることができる食品の例は、任意の穀粉ベースの製品、例えば、パン、ペーストリー、ケーキ、プレッツェル、ベーグル、ダッチハニーケーキ、クッキー、ジンジャーブレッド、ジンジャーケーキ、及びクリスプブレッド、任意のジャガイモベースの製品、例えばフレンチフライ、フライドポテト、ポテトチップス、コロッケである。
【0013】
上述の原材料は、製造方法の加熱ステップ中にアクリルアミドの形成に関与するかなりの量のアミノ酸を含有することが知られている。あるいは、このようなアミノ酸は、原材料以外の供給源、例えば食品製造方法で添加剤として使用される酵母エキスや大豆加水分解物、カゼイン加水分解物などのタンパク質加水分解物から由来し得る。好ましい製造方法は、パンと、小麦粉及び/又はその他の穀物由来の穀粉から得られるその他のベークド製品を焼くことである。別の好ましい製造方法は、ポテトスライスからポテトチップスをたっぷりの油で揚げることである。
【0014】
好ましい加熱ステップは、中間食品の少なくとも一部、例えば食品の表面を、アクリルアミドの形成が促進する温度、例えば110℃以上、最高でも120℃以上の温度に曝すことである。本発明による方法の加熱ステップは、オーブンの中で、例えばパン及びその他のベーカリー製品を焼くように180〜220℃の温度で実施することができ、又は油の中で、ポテトチップを揚げるように例えば160〜190℃の温度で実施することができる。
【0015】
本発明の方法で使用される酵素は、製造方法の加熱ステップ中にアクリルアミドの形成に関与するアミノ酸の側鎖を修飾する酵素であることが好ましく、そのようにすると、前記アミノ酸の分解生成物は、分解していない形のアミノ酸に比べ、アクリルアミドの形成が全く引き起こさず、又は少なくともより少ない程度でしか引き起こさない。酵素は、アスパラギン、グルタミン、システイン、メチオニン、プロリン、セリン、フェニルアラニン、チロシン、及び/又はトリプトファンの少なくとも1種のアミノ酸の側鎖を修飾させることが好ましい。酵素は、酵素製剤として添加することができ、又は前記酵素を産生することが可能な微生物によってその場で生成することができる。酵素製剤は微生物由来であり、当技術分野で知られている発酵プロセスによって得ることが好ましい。その微生物は、細菌、真菌、又は酵母菌でよい。本発明の好ましい実施形態では、方法が、アスパラギナーゼ(EC 3.5.1.1)又はグルタミナーゼ(EC 3.5.1.2)を添加することを含む。
【0016】
アスパラギナーゼは、様々な供給源、例えば植物や動物、例えばエシェリキア(Escherichia)、エルウィニア(Erwinia)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、アスペルギルス(Aspergillus)、バチルス(Baccillus)種などの微生物から得ることができる。適切なエシェリキア株の例は大腸菌である。適切なエルウィニア株の例はErwinia chrysanthemiである。適切なストレプトマイセス株の例は、Streptomyces lividans又はStreptomyces murinusである。適切なアスペルギルス株の例は、コウジ菌(Aspergillus oryzae)、為巣性コウジ菌(Aspergillus nidulans)、又は黒色コウジ菌(Aspergillus niger)である。適切なバチルス株の例は、Bacillus alklophilus、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus brevis、Bacillus circulans、Bacillus coagulans、Bacillus lautus、Bacillus lentus、Bacillus licheniformis、Bacillus megateruim、Bacillus stearothemophilus、Bacillus subtilis、又はBacillus thuringiensisである。バチルス株、ストレプロマイセス株、エシェリア株、又はシュードモナス株からアスパラギナーゼを得るのに適切な方法の例は、WO03/083043に記載されている。しかし、WO03/083043では、本発明で述べるように食品中のアクリルアミドの量を低下させるのにアスパラギナーゼを使用することが開示されていない。
【0017】
食品級の生物、例えばAspergillus nigerやBacillus subtilisを使用することが好ましい。
【0018】
第2の態様では、本発明は、例えばAspergillus nigerから得ることができる新規なアスパラギナーゼをコードする遺伝子を含む、新たに同定されたポリヌクレオチド配列を提供する。新規なアスパラギナーゼは、本発明の食品製造方法、例えば生地からベークド製品を製造する際に使用することができる。
【0019】
(ポリヌクレオチド)
本発明は、新規なアスパラギナーゼ酵素をコードする新規なポリヌクレオチドも提供する。本発明は、配列番号3に基づくアミノ酸配列からなるアスパラギナーゼ又はその機能的均等物であって、暫定的にASPA01と呼ばれるアスパラギナーゼをコードするポリヌクレオチドを提供する。ASPA01をコードする遺伝子の配列は、Aspergillus nigerから得られるゲノミッククローンの配列決定を行うことによって決定した。本発明は、ASPA01アスパラギナーゼの完全長cDNA配列及びそのコード配列と同様に、ASPA01アスパラギナーゼをコードする遺伝子を含むポリヌクレオチド配列を提供する。従って本発明は、配列番号1又は配列番号2によるヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド又はその機能的均等物に関する。
【0020】
より詳細には、本発明は、ストリンジェントな条件下、好ましくは高ストリンジェントな条件下で配列番号1又は配列番号2に基づくポリヌクレオチドとハイブリダイズ可能な、単離されたポリヌクレオチドに関する。そのようなポリヌクレオチドは、糸状菌、特にAspergillus nigerから得られることが有利である。より詳細には、本発明は、配列番号1又は配列番号2によるヌクレオチド配列を有する単離されたポリヌクレオチドに関する。
【0021】
また本発明は、配列番号3によるポリペプチド又はその機能的均等物の少なくとも1つの機能ドメインをコードする単離されたポリヌクレオチドにも関する。
【0022】
本明細書で使用する「遺伝子」及び「組換え遺伝子」という用語は、例えばA.nigerアスパラギナーゼなど、タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む、染色体DNAから単離することができる核酸分子を指す。遺伝子は、コード配列、非コード配列、イントロン、及び調節配列を含んでもよい。さらに遺伝子は、本明細書で定義される単離された核酸分子を指す。
【0023】
配列番号1又は配列番号2のヌクレオチド配列を有する核酸分子又はその機能的均等物などの本発明の核酸分子は、標準的な分子生物学技法及び本明細書に記載する配列情報を使用して単離することができる。例えば、ハイブリダイゼーションプローブとして配列番号1の核酸配列又は配列番号2のヌクレオチド配列の全て又は一部を使用することにより、本発明の核酸分子を、標準的なハイブリダイゼーション及びクローニング技法を使用して単離することができる(例えば、Sambrook,J.、Fritsh,E.F.、及びManiatis,T.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載)。
【0024】
さらに、配列番号1又は配列番号2の全て又は一部を包含する核酸分子は、配列番号1又は配列番号2に含有される配列情報に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって単離することができる。
【0025】
本発明の核酸は、標準的なPCR増幅技法によって、適切なオリゴヌクレオチドプライマーと、鋳型としてのcDNA、mRNA、あるいはゲノムDNAを使用することにより増幅することができる。このように増幅された核酸は、適切なベクターにクローニングすることができ、DNA配列分析によって特徴付けることができる。
【0026】
さらに、本発明によるヌクレオチド配列に対応し又はこの配列とハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドは、標準的な合成技法によって、例えば自動DNA合成装置を使用して調製することができる。
【0027】
好ましい実施形態では、本発明の単離された核酸分子が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む。配列番号2の配列は、A.niger ASPA01 cDNAのコード領域に対応する。このcDNAは、配列番号3によるA.niger ASPA01ポリペプチドをコードする配列を含む。
【0028】
別の好ましい実施形態で、本発明の単離された核酸分子は、配列番号1又は配列番号2に示されるヌクレオチド配列又はこれらヌクレオチド配列の機能的均等物の相補鎖である核酸分子を含む。
【0029】
別のヌクレオチド配列に相補的な核酸分子は、その他のヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができそれによって安定な二重鎖が形成されるよう、他方のヌクレオチド配列に十分相補的なものである。
【0030】
本発明の一態様は、本発明のポリペプチドをコードする単離された核酸分子又はその機能的均等物であって、生物学的に活性のある断片やドメインなど、ならびに本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を同定するためにハイブリダイゼーションプローブとして使用するのに十分な核酸分子、及び核酸分子の増幅又は変異のためのPCRプライマーとして使用するのに適切な核酸分子の断片に関する。
【0031】
「単離されたポリヌクレオチド」又は「単離された核酸」は、それが得られる生物で自然に生ずるゲノムにおいては直接隣接しているコード配列の両方に(一方は5’末端に、他方は3’末端に)、直接隣接していないDNA又はRNAである。従って一実施形態では、単離された核酸が、コード配列に直接隣接する5’末端非コード(例えばプロモーター)配列の一部又は全てを含む。従ってこの用語は、例えば、ベクターに組み込まれ、自律的に複製するプラスミド又はウイルスに組み込まれ、あるいは原核生物又は真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNA、あるいはその他の配列とは無関係の別個の分子(例えば、PCR又は制限酵素処理によって生成されたcDNA又はゲノムDNA断片)として存在する組換えDNAを含む。またこの用語は、(組換えDNA技法によって生成する場合は)細胞性物質、ウイルス性物質、又は培地、あるいは、(化学的に合成する場合は)化学的前駆体又はその他の化学物質を、実質的に含まない追加のポリペプチドをコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含む。さらに、「単離された核酸断片」は、断片として自然に生じることなく、また自然の状態で見出すことのできない核酸断片である。
【0032】
本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」又は「核酸分子」という用語は、DNA分子(例えばcDNA又はゲノムDNA)と、RNA分子(例えばmRNA)と、ヌクレオチド類似体を使用して生成したDNA又はRNAの類似体を含むものである。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖であるが、二本鎖DNAが好ましい。核酸は、オリゴヌクレオチドの類似体又は誘導体(例えばイノシン又はホスホロチオエート型ヌクレオチド)を使用して合成することができる。そのようなオリゴヌクレオチドを使用して、例えば塩基対合能力が変化し又はヌクレアーゼ耐性が増大した核酸を調製することができる。
【0033】
本発明の別の実施形態は、ASPA01核酸分子に対してアンチセンスである単離した核酸分子を提供し、例えばASPA01核酸分子のコーディング鎖である。また本発明の範囲には、本明細書に記載される核酸分子の相補鎖も含まれる。
【0034】
(配列決定エラー)
本明細書で提供される配列情報は、誤って同定された塩基を含める必要があるほど狭く解釈すべきではない。本明細書で開示される特定の配列は、糸状菌、特にA.nigerから完全遺伝子を単離するのに容易に使用することができ、これをさらに簡単に配列分析にかけ、それによって配列決定エラーを特定することができる。
【0035】
他に特に指示しない限り、本明細書でDNA分子の配列決定によって決定された全てのヌクレオチド配列は、自動DNAシーケンサーを使用して決定し、また本明細書で決定したDNA分子によってコードされたポリペプチドのすべてのアミノ酸配列は、上述のように決定されたDNA配列の翻訳によって予測した。従って、この自動化手法により決定された任意のDNA配列に関する技術分野で知られているように、本明細書で決定されたどのヌクレオチド配列も、いくつかのエラーを含む可能性がある。自動化によって決定されたヌクレオチド配列は、配列決定したDNA分子の実際のヌクレオチド配列に対し、典型的な場合には少なくとも約90%が同一であり、より典型的な場合には少なくとも約95%から少なくとも約99.9%が同一である。実際の配列は、当技術分野で周知の手動によるDNA配列決定法を含めたその他の手法によって、より精密に決定することができる。当技術分野でも知られるように、実際の配列と比較したときに決定済みのヌクレオチド配列の1カ所に挿入又は欠失がある場合、その挿入又は欠失は、ヌクレオチド配列のフレームシフト翻訳を引き起こすことになり、その結果、決定済みのヌクレオチド配列によってコードされた予測されるアミノ酸配列は、そのような挿入点又は欠失点を起点として、配列決定済みのDNA分子によって実際にコードされたアミノ酸配列とは完全に異なるようになる。
【0036】
当業者なら、そのように誤って同定された塩基を特定することができ、そのようなエラーをどのように訂正すべきかわかっている。
【0037】
(核酸断片、プローブ、及びプライマー)
本発明による核酸分子は、配列番号1又は配列番号2に示される核酸配列の一部又は断片のみを含んでよく、例えば、プローブ又はプライマーとして使用することができる断片、あるいはASPA01タンパク質の一部をコードする断片を含む。ASPA01遺伝子及びcDNAのクローニングから決定されたヌクレオチド配列によって、その他のASPA01ファミリーメンバーならびにその他の種のASPA01相同体の同定及び/又はクローニングでの使用に向けて設計されたプローブ及びプライマーの生成が可能になる。典型的には、プローブ/プライマーは、好ましくは高ストリンジェントな条件下で、配列番号1又は配列番号2に示されるヌクレオチド配列又はその機能的均等物中の少なくとも約12又は15個、好ましくは約18又は20個、好ましくは約22又は25個、より好ましくは約30、35、40、45、50、55、60、65、又は75個以上の連続したヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を典型的に含む、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含む。
【0038】
ASPA01ヌクレオチド配列に基づくプローブを使用して、例えばその他の生体において同じか又は類似のタンパク質をコードする転写物又はゲノムASPA01配列を検出することができる。好ましい実施形態では、プローブはさらに、そこに結合した標識基を含み、例えばこの標識基は、放射性同位元素、蛍光化合物、酵素、又は酵素補助因子とすることができる。そのようなプローブは、ASPA01タンパク質を発現する細胞を同定するための診断検査キットの一部として使用することもできる。
【0039】
(同一性&相同性)
「相同性」又は「同一性%」という用語は、本明細書では同義として使用する。本発明の目的において、本明細書では、これらは2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列の同一性%を決定するために定義され、これらの配列を、最適な比較が行われるよう整列化する(例えば、第1のアミノ酸配列又は核酸配列にギャップを導入して、第2のアミノ酸配列又は核酸配列に対して最適なアライメントを行うことができる)。次いでアミノ酸残基又はヌクレオチドを、対応するアミノ酸の位置又はヌクレオチドの位置で比較する。第1の配列におけるある位置が、これに対応する第2の配列の位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドで占められる場合、これらの分子はその位置で同一である。2つの配列間の同一性%は、これらの配列によって共有される同一の位置の数の関数である(すなわち、同一性%=同一位置の数/位置の総数(すなわち、重なり位置)×100)。2つの配列は同じ長さであることが好ましい。
【0040】
当業者なら、2つの配列間の相同性を決定するために、いくつかの異なるコンピュータプログラムが利用可能である点に気付くであろう。例えば、配列の比較及び2つの配列間の同一性%の決定は、数学的アルゴリズムを使用して実現することができる。好ましい実施形態で、2つのアミノ酸配列間の同一性%は、Blossom62マトリックス又はPAM250マトリックスのいずれかと、ギャップウェイト16、14、12、10、8、6、又は4と、レングスウェイト1、2、3、4、5、又は6とを使用する、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれたNeedlemanとWunsch(J.Mol.Biol.(48):444〜453(1970))のアルゴリズムを使用して決定する。当業者なら、これら異なるパラメータの全てによってわずかに異なる結果がもたらされるが、2つの配列の全体的な同一性%は、異なるアルゴリズムを使用した場合に著しく変化しないことが理解されよう。
【0041】
さらに別の実施形態では、2つのヌクレオチド配列間の同一性%は、NWSgapdna.CMPマトリックスと、ギャップウェイト40、50、60、70、又は80と、レングスウェイト1、2、3、4、5、又は6とを使用するGCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムを使用して決定する。別の実施形態では、2つのアミノ酸又はヌクレオチド配列間の同一性%は、PAM120ウェイトレズィデュウテーブルと、ギャップレングスペナルティ12と、ギャップペナルティ4とを使用する、ALIGNプログラム(バージョン2.0)(http://vega.igh.cnrs.fr/bin/align−guess.cgiで入手可能)に組み込まれたE.MeyersとW.Millerのアルゴリズム(CABIOS、4:11〜17(1989))を使用して決定する。
【0042】
本発明の核酸及びタンパク質配列は、例えばその他のファミリーメンバー又は関連する配列を同定するために、公用データベースに対して探索を行うための「照会配列」としてさらに使用することができる。そのような探索は、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403〜10のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)を使用して実施することができる。BLASTヌクレオチド探索は、本発明のASPA01核酸分子に類似するヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12により実施することができる。BLASTタンパク質探索は、本発明のASPA01タンパク質分子に類似するアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3により実施することができる。比較のためギャップ付きアライメントを得るには、Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389〜3402に記載されたようにGapped BLASTを利用することができる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合は、それぞれのプログラム(例えばXBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照されたい。
(ハイブリダイゼーション)
【0043】
本明細書で使用する「ハイブリダイジング」という用語は、典型的な場合に、互いに対して少なくとも約50%、少なくとも約40%、少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約85%から90%、より好ましくは少なくとも95%が相同なヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズしたままになる、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件を述べるものとする。
【0044】
そのようなハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な例では、約45℃の6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でハイブリダイズした後、50℃で、好ましくは55℃で、好ましくは60℃で、さらにより好ましくは65℃で、1×SSC、0.1% SDS中で1回又は複数回洗浄する。
【0045】
高ストリンジェントな条件には、例えば5×SSC/5×デンハート溶液/1.0% SDS中、68℃でハイブリダイズし、0.2×SSC/0.1% SDS中、室温で洗浄することが含まれる。あるいは、洗浄を42℃で行ってよい。
【0046】
当業者なら、ストリンジェント及び高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件のいずれの条件を適用すればよいかわかるであろう。そのような条件に関する追加の指針は当技術分野で容易に入手可能であり、例えば、Sambrookら、1989、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、N.Y.;及びAusubelら(編)、1995、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley&Sons、N.Y.)で入手可能である。
【0047】
当然ながら、ポリA配列(mRNAの3’末端ポリ(A)領域)又はT(又はU)残基の相補的領域とだけハイブリダイズするポリヌクレオチドは、本発明の核酸の一部と特異的にハイブリダイズするのに使用される本発明のポリヌクレオチドに含めることができないが、それはこのようなポリヌクレオチドが、ポリ(A)領域又はその相補鎖を含有する任意の核酸分子とハイブリダイズする可能性があるからである(例えば、事実上任意の二本鎖cDNAクローン)。
【0048】
(その他の生物から完全長DNAを得ること)
典型的な手法では、その他の生物、例えば糸状菌、特にAspergillus種から構成されたcDNAライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0049】
例えばAspergillus株は、ノーザンブロット分析により、相同なASPA01ポリヌクレオチドを目的としてスクリーニングすることができる。本発明によるポリヌクレオチドに相同な転写物を検出することにより、当業者に周知の標準的な技法を利用して、適切な株から単離したRNAからcDNAライブラリーを構築することができる。あるいは、本発明によるASPA01ポリヌクレオチドとハイブリダイズするプローブを使用して、トータルゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0050】
相同遺伝子配列は、例えば本明細書で教示するヌクレオチド配列に基づいて設計された、2つの縮重オリゴヌクレオチドプライマープールを使用するPCRを実施することによって、単離することができる。
【0051】
反応用の鋳型は、本発明によるポリヌクレオチドを発現することが知られており又は発現すると考えられる株から調製したmRNAを逆転写して得られたcDNAとすることができる。PCR産物は、増幅した配列が新しいASPS01核酸配列又はその機能的均等物の配列を表すことを確実にするために、サブクローニングし、また配列決定することができる。
【0052】
次いでPCR断片を使用して、様々な既知の方法により完全長cDNAクローンを単離することができる。例えば、増幅した断片を標識し、これを使用してバクテリオファージ又はコスミドcDNAライブラリーをスクリーニングすることができる。あるいは、標識した断片を使用してゲノムライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0053】
PCR技法は、その他の生物から完全長cDNA配列を単離するのにも使用することができる。例えばRNAは、標準的な手順に従って、適切な細胞又は組織源から単離することができる。逆転写反応は、第1鎖の合成を刺激するため、増幅した断片の5’末端に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、RNA上で行うことができる。
【0054】
次いで得られたRNA/DNAハイブリッドを、標準的なターミナルトランスフェラーゼ反応を使用して(例えばグアニンで)「テイルド」し、そのハイブリッドをRNaseHで消化後、次いで第2の鎖合成を刺激することができる(例えばポリCプライマーで)。このため、増幅した断片の上流にあるcDNA配列を、容易に単離することができる。有用なクローニング戦略の概説については、例えば前掲のSambrookら、及び前掲のAusubelらを参照されたい。
【0055】
相同DNA断片が機能的ASPA01タンパク質をコードするか否かは、当技術分野で知られている方法によって容易に試験することができる。
【0056】
(ベクター)
本発明の別の態様は、ASPA01タンパク質をコードする核酸又はその機能的均等物を含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書で使用する「ベクター」という用語は、核酸分子、すなわちそこに結合している別の核酸分子を輸送することができる核酸分子を指す。あるタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメンセグメントをライゲーションすることができる環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムにライゲーションすることができる。ある特定のベクターは、このベクターが導入される宿主細胞内で自律複製することが可能である(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクター、及びエピソーム性哺乳類ベクター)。その他のベクター(例えば非エピソーム性哺乳類ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムと一体化し、それによって宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある特定のベクターは、これが動作可能に結合された遺伝子の発現を誘導することができる。このようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」と呼ぶ。一般に、組換えDNA技法で役立つ発現ベクターは、しばしばプラスミドの形をとる。「プラスミド」及び「ベクター」という用語は、プラスミドが最も一般的に使用される形のベクターであるので、本明細書では同義として使用する。しかし本発明は、同等の機能を発揮するウイルスベクター(例えば複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)など、その他の形の発現ベクターを含むものとする。
【0057】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞での核酸の発現に適切な形をした本発明の核酸を含み、これはすなわち組換え発現ベクターが、発現する核酸配列に動作可能に結合される、発現に使用する宿主細胞に基づいて選択された1つ又は複数の調節配列を含むことを意味する。組換え発現ベクター内で、「動作可能に結合する」とは、問題のヌクレオチド配列がヌクレオチド配列の発現を可能にする手法で(例えばin vitro転写/翻訳系で、又はベクターを宿主細胞に導入する場合には宿主細胞内で)調節配列に結合することを意味するものとする。「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー、及びその他の発現制御要素(例えばポリアデニル化シグナル)を含むものとする。そのような調節配列は、例えばGoeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、CA(1990)に記載されている。調節配列は、多くのタイプの宿主細胞内で、ヌクレオチド配列の構成的発現を誘導するもの、及びある特定の宿主細胞でのみヌクレオチド配列の発現を誘導するもの(例えば、組織特異的調節配列)を含む。当業者なら、形質転換される宿主細胞に何を選択したか、また所望のタンパク質の発現レベルなどのファクタに応じて、発現ベクターの設計を変えることができることが理解されよう。本発明の発現ベクターは宿主細胞に導入することができ、それによって、本明細書に記載する核酸によってコードされたタンパク質又はペプチドを生成することができる(例えばASPA01タンパク質、ASPA01タンパク質の変異形態、それらの断片、変種、又は機能的均等物など)。
【0058】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞又は真核細胞でASPA01タンパク質を発現させるように設計することができる。例えばASPA01タンパク質は、例えば大腸菌のような細菌性細胞や昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用する)、酵母細胞、哺乳類細胞などで発現させることができる。適切な宿主細胞は、Goeddel、Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、CA(1990)でさらに論じられている。あるいは組換え発現ベクターは、例えばT7プロモーター調節配列及びT7ポリメラーゼを使用して、in vitroで転写し翻訳することができる。
【0059】
本発明で有用な発現ベクターには、染色体ベクター、エピソームベクター、及びウイルス由来ベクターが含まれ、例えば細菌性プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体要素、バキュロウイルスやパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルスなどのウイルス由来のベクターと、これらの組合せから得られるベクターであって、コスミドとファージミドなどや、プラスミド及びバクテリオファージ遺伝因子から得られるものなどが含まれる。
【0060】
DNAインサートは、数例挙げると、ファージλPLプロモーター、大腸菌lac、trp、及びtacプロモーター、SV40初期及び後期プロモーター、及びレトロウイルスLTRのプロモーターなどの適切なプロモーターに動作可能に結合すべきである。当業者ならその他の適切なプロモーターがわかるであろう。特定の実施形態では、プロモーターは、糸状菌でのアスパラギナーゼの発現を高レベルで誘導できることが好ましい。そのようなプロモーターは当技術分野で知られている。発現構成体は、転写開始及び終了のための部位を含んでよく、転写領域に、翻訳のためのリボソーム結合部位を含んでよい。この構成体によって発現する成熟転写物のコード部分は、翻訳されるポリペプチドの初めに翻訳開始AUGを、また翻訳されるペプチドの終わりには適切に位置決めされた終止コドンを含むことになる。
【0061】
ベクターDNAは、従来の形質転換又はトランスフェクション技法を介して原核細胞又は真核細胞に導入することができる。本明細書で使用する「形質転換」及び「トランスフェクション」という用語は、外来の核酸(例えばDNA)を宿主細胞に導入するための当技術分野で認められている様々な技法を指すものとし、リン酸カルシウム又は塩化カルシウムの共沈、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、形質導入、感染、リポフェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、又は電気穿孔法が含まれる。宿主細胞を形質転換し又はトランスフェクションするための適切な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989)、Davis他、Basic Methods in Molecular Biology(1986)、及びその他の実験室マニュアルに見出すことができる。
【0062】
哺乳類細胞の安定なトランスフェクションでは、使用される発現ベクター及びトランスフェクション技法に応じて、細胞のごく一部が外来DNAをそのゲノムに組み込むことができることが知られている。これらのインテグラントを同定し選択するために、選択可能なマーカー(例えば抗生物質耐性)をコードする遺伝子は、一般に目的の遺伝子と共に宿主細胞に導入される。好ましい選択可能なマーカーには、G418やハイグロマイシン、メトトレキセートなどの薬物に対する耐性を与えるものが含まれる。選択可能なマーカーをコードする核酸は、ASPA01タンパク質をコードするものと同じベクター上で宿主細胞に導入することができ、又は別個のベクターに導入することができる。導入された核酸を安定した状態でトランスフェクトした細胞は、薬物選択によって同定することができる(例えば、選択可能なマーカー遺伝子を組み込んだ細胞は生存するが、その他の細胞は死ぬ)。
【0063】
原核細胞でのタンパク質の発現は、しばしば、タンパク質の発現を指揮する誘導プロモーターあるいは構成的プロモーターを含有するベクターにより大腸菌で行われる。
【0064】
示したように、発現ベクターは選択可能なマーカーを含有することが好ましい。そのようなマーカーは、真核細胞培養ではジヒドロ葉酸還元酵素又はネオマイシン耐性を、また大腸菌及びその他の細菌における培養ではテトラサイクリン又はアンピシリン耐性を含む。適切な宿主の代表例には、大腸菌やストレプトマイセス、サルモネラ・チフィムリウムなどの細菌細胞;ショウジョウバエS2やスポドプテラSf9などの昆虫細胞;CHOやCOS、Bowesメラノーマなどの動物細胞;及び植物細胞が含まれる。上述の宿主細胞に適切な培地及び条件は、当技術分野で知られている。
【0065】
細菌で使用するのに好ましいベクターには、Qiagen社から入手可能なpQE70、pQE60、PQE−9と、Stratagene社から入手可能なpBSベクター、ファージスクリプトベクター、ブルースクリプトベクター、pNH8A、pNH16A、pNH18A、pNH46Aと、Pharmacia社から入手可能なptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5がある。好ましい真核生物用ベクターには、Stratagene社から入手可能なPWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pZT1、pSGと、Pharmacia社から入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG、pSLVがある。その他の適切なベクターは、当業者に容易に理解されよう。
【0066】
本発明で使用される既知の細菌プロモーターには、大腸菌lacl及びlacZプロモーター、T3及びT7プロモーター、gptプロモーター、λPR、PLプロモーター及びtrpプロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期及び後期SV40プロモーター、レトロウイルスLTRのプロモーターであって例えばラウス肉腫ウイルス(「RSV」)のプロモーター、メタロチオネインプロモーターであって例えばマウスメタロチオネイン−Iプロモーターが含まれる。
【0067】
高等真核生物による本発明のポリペプチドをコードするDNAの転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することによって増やすことができる。エンハンサーは、通常は約10〜300bpであるDNAのシス作動性エレメントであって、所与の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増大させるように働くものである。エンハンサーの例には、100〜270bpの複製開始点の後ろ側に位置付けられたSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後ろ側にあるポリオーマエンハンサー、及びアデノウイスルエンハンサーが含まれる。
【0068】
翻訳されたタンパク質を小胞体の管腔内、細胞周辺腔、又は細胞外環境に分泌する場合は、発現したポリペプチドに適切な分泌シグナルを組み込むことができる。そのようなシグナルは、ポリペプチドに対して内生的なものでよく、又は異種のシグナルでよい。
【0069】
ポリペプチドは、修飾型で発現させてもよく、分泌シグナルだけではなく追加の異なる機能領域を含めてもよい。このため、例えば追加のアミノ酸領域、特に荷電アミノ酸をポリペプチドのN末端に付加することにより、精製中又はその後の取扱い及び貯蔵中において、宿主細胞内での安定性及び持続性を改善することができる。また、ペプチド部分をポリペプチドに付加して、精製を容易にすることもできる。
【0070】
(本発明によるポリペプチド)
本発明は、配列番号3によるアミノ酸配列、適切な宿主中で配列番号1のポリヌクレオチドを発現することによって得ることができるアミノ酸配列、ならびに適切な宿主中で配列番号2のポリヌクレオチド配列を発現することによって得ることができるアミノ酸配列を有する、単離されたポリペプチドを提供する。また、上記ポリペプチドの機能的均等物を含むペプチド又はポリペプチドも、本発明に含まれる。上記ポリペプチドは、まとめて「本発明によるポリペプチド」という用語に含まれる。
【0071】
「ペプチド」及び「オリゴペプチド」という用語は同義と見なされ(一般に認められるように)、各用語は、文脈がペプチド結合によって連結された少なくとも2個のアミノ酸鎖を示す必要があるとき、区別なく使用することができる。「ポリペプチド」という単語は、本明細書では8個以上のアミノ酸残基を含有する鎖に使用する。本明細書のオリゴペプチド及びポリペプチドの全ての式又は配列は、左から右に、またアミノ末端からカルボキシ末端に向かう方向に書かれる。本明細書で使用されるアミノ酸の1文字表記は、当技術分野で一般に知られており、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989)に見出すことができる。
【0072】
「単離された」ポリペプチド又はタンパク質とは、その自然の環境から取り出されたポリペプチド又はタンパク質を意味する。例えば、宿主細胞内で発現した組換え生成によるポリペプチド及びタンパク質は、例えばSmithとJohonson、Gene 67:31〜40(1988)に開示された単一ステップ精製法などの任意の適切な技法によって実質的に精製された天然の又は組換えポリペプチドとして、本発明のために単離されたと見なされる。
【0073】
本発明によるASPA01アスパラギナーゼは、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィ、ホスホセルロースクロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ、及びレシチンクロマトグラフィを含めた周知の方法によって、組換え細胞培養から回収し精製することができる。より好ましくは、高速液体クロマトグラフィ(「HPLC」)を用いて精製を行う。
【0074】
本発明のポリペプチドには、自然に精製された生成物と、化学合成手順による生成物と、例えば細菌、酵母、高等植物、昆虫及び哺乳類細胞を含めた原核又は真核宿主から組換え技法によって生成された生成物が含まれる。組換え生成手順で用いられる宿主に応じて、本発明のポリペプチドがグリコシル化されてもグリコシル化されなくてもよい。さらに本発明のポリペプチドは、場合によっては宿主媒介プロセスの結果として、初期修飾メチオニン残基を含んでもよい。
【0075】
(タンパク質断片)
本発明は、本発明によるポリペプチドの生物学的に活性を有する断片も特徴とする。
【0076】
本発明のポリペプチドの生物学的に活性を有する断片は、完全長タンパク質よりも少ないアミノ酸を含み、かつ対応する完全長タンパク質の少なくとも1つの生物活性を示す、ASPA01タンパク質のアミノ酸配列(例えば配列番号3のアミノ酸配列)と十分に同一なアミノ酸配列又はそのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。典型的な場合、生物学的に活性な断片は、ASPA01タンパク質の少なくとも1つの活性を持つドメイン又はモチーフを含む。
【0077】
本発明のタンパク質の生物学的に活性のある断片は、例えば、アミノ酸の長さが10、25、50、100、又はそれ以上であるポリペプチドとすることができる。さらに、タンパク質の生物学的に活性のある領域以外が欠失しているその他の生物学的に活性のあるタンパク質は、組換え技法によって調製することができ、本発明のポリペプチドの自然の形態の生物活性の1つ又はそれ以上について評価することができる。
【0078】
本発明は、ASPA01タンパク質の上記生物学的に活性を有する断片をコードする核酸断片も特徴とする。
【0079】
(機能的均等物)
「機能的均等物」及び「機能的変種」という用語は、本明細書では同義として使用する。ASPA01 DNAの機能的均等物は、本明細書で定義するASPA01 A.nigerアスパラギナーゼの特定の機能を示すポリペプチドをコードする、単離されたDNA断片である。本発明によるASPA01ポリペプチドの機能的均等物は、本明細書で定義するA.nigerアスパラギナーゼの少なくとも1つの機能を示すポリペプチドである。従って機能的均等物は、生物学的に活性な断片も包含する。
【0080】
機能的なタンパク質又はポリペプチドの均等物は、配列番号3の1つ又は複数のアミノ酸の同類置換、あるいは非必須アミノ酸の置換、挿入、又は欠失のみ含んでよい。従って非必須アミノ酸は、生物学的機能を実質的に変えることなく配列番号3の中で変えることができる残基である。例えば、本発明のASPA01タンパク質の中で保存されるアミノ酸残基は、特に変化しにくいことが予測される。さらに、本発明によるASPA01タンパク質及びその他のアスパラギナーゼの中で保存されるアミノ酸は、変化を受けにくい。
【0081】
「同類置換」という用語は、アミノ酸残基の代わりに同様の側鎖を有するアミノ酸残基が用いられる置換を意味するものとする。これらのファミリーは、当技術分野で知られており、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、及びヒスチジン)、酸性側鎖を持つアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を持つアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖を持つアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝状側鎖を持つアミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を持つアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0082】
機能的核酸均等物は、典型的な場合、サイレント変異又はコードされたポリペプチドの生物学的機能を変化させない変異を含んでよい。従って本発明は、特定の生物活性に必要不可欠なものではないアミノ酸残基の変化を含む、ASPA01タンパク質をコードする核酸分子を提供する。そのようなASPA01タンパク質は、そのアミノ酸配列が配列番号3とは異なっているが、少なくとも1つの生物活性をまだ保持している。一実施形態で、単離された核酸分子は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、このタンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも約40%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上が相同な、実質的に相同なアミノ酸配列を含む。
【0083】
例えば、表現型的にサイレントなアミノ酸置換をどのように行うかに関する指針が、Bowie,J.U.ら、Science 247:1306〜1310(1990)によって提供されており、この著者は、変化に対するアミノ酸配列の耐性を研究するための、2つの主な手法があることを示している。第1の方法では、変異が自然淘汰によって受け入れられ、又は拒絶される進化のプロセスを利用する。第2の手法は、クローニングした遺伝子の特定の位置にアミノ酸の変化を導入するのに遺伝子工学を使用し、機能性を維持する配列を選択し又はスクリーニングする。この著者が主張するように、これらの研究によって、タンパク質が意外にもアミノ酸置換に対して耐性があることが明らかになった。著者はさらに、タンパク質のある特定の位置でどの変化が生じ易いか示している。例えば、ほとんどの隠れたアミノ酸残基は無極性側鎖を必要とし、表面側鎖のごくわずかな特徴は一般的に保存される。このような他の表現型的なサイレント置換については、前掲のBowieら及びそこに引用されている参考文献に記載されている。
【0084】
配列番号3によるタンパク質に相同なASPA01タンパク質をコードする単離された核酸分子は、1つ又は複数のアミノ酸置換、欠失、又は挿入がコードされたタンパク質に導入されるように、1つ又は複数のヌクレオチド置換、付加、欠失を配列番号1又は配列番号2によるコーディングヌクレオチド配列に導入することによって生成することができる。そのような変異は、部位特異的突然変異誘発やPCR媒介突然変異誘発などの標準的な技法によって導入することができる。
【0085】
「機能的均等物」という用語は、A.niger ASPA01タンパク質のオーソログも包含する。A.niger ASPA01タンパク質のオーソログは、その他の株又は種から単離することのできるタンパク質であり、類似の又は同一の生物活性を持つ。そのようなオーソログは、配列番号3に対して実質的に相同なアミノ酸配列を含んでいると容易に同定することができる。
【0086】
本明細書で定義するように、「実質的に相同な」という用語は、第1及び第2のアミノ酸又はヌクレオチド配列が共通のドメインを有するように、第2のアミノ酸又はヌクレオチド配列に対して十分な又は最小限の数の同一又は同等(例えば類似の側鎖を持つ)のアミノ酸又はヌクレオチドを含有する第1のアミノ酸又はヌクレオチド配列を指す。例えば、約40%、好ましくは65%、より好ましくは70%、さらにより好ましくは75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の同一性を有する共通のドメインを含有するアミノ酸又はヌクレオチド配列を、本明細書では十分に同一であると定義する。
【0087】
また、その他のASPA01ファミリーメンバーをコードする核酸、従って配列番号1又は配列番号2とは異なるヌクレオチド配列を有するものも、本発明の範囲内にある。さらに、異なる種から得たASPA01タンパク質をコードする核酸、従って配列番号1又は配列番号2とは異なるヌクレオチド配列を有するものも、本発明の範囲内にある。
【0088】
本発明のASPA01 DNAの変種(例えば天然の対立変種)及び同種に対応する核酸分子は、好ましくは高ストリンジェントなハイブリダイゼーシション条件下での標準的なハイブリダイゼーション技法によるハイブリダイゼーションプローブとして、本明細書に開示されるcDNA又はその適切な断片を使用して本明細書に開示されるASPA01核酸に対するそれらの相同性に基づいて単離することができる。
【0089】
ASPA01配列の天然に生ずる対立変種に加えて、当業者なら、変異によって配列番号1又は配列番号2のヌクレオチド配列に変化を導入することができ、それによって、ASPA01タンパク質の機能を実質的に変えることなくASPA01タンパク質のアミノ酸配列を変化させることができることが理解されよう。
【0090】
本発明の別の態様では、改善されたASPA01タンパク質が提供される。改善されたASPA01タンパク質は、少なくとも1つの生物活性が改善されるタンパク質である。そのようなタンパク質は、飽和突然変異誘発などによりASPA01コード配列の全て又は一部に沿って変異をランダムに導入することによって得ることができ、得られた変異体は、組換えによって発現させることができ、生物活性に関してスクリーニングすることができる。例えば当技術分野は、アスパラギナーゼの酵素活性を測定するための標準的なアッセイを提供し、従って改善されたタンパク質を容易に選択することができる。
【0091】
好ましい実施形態では、ASPA01タンパク質が配列番号3によるアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ASPA01ポリペプチドが配列番号3によるアミノ酸配列と実質的に相同であり、配列番号3によるポリペプチドの少なくとも1つの生物活性を維持するが、上述の天然の変種又は突然変異誘発が原因でアミノ酸配列が異なっている。
【0092】
さらに好ましい実施形態では、ASPA01タンパク質は好ましくは高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下、配列番号1又は配列番号2による核酸とハイブリダイズすることが可能な単離された核酸断片によってコードされたアミノ酸配列を有する。
【0093】
従ってASPA01タンパク質は、配列番号3で示されるアミノ酸配列に対して少なくとも約40%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上相同なアミノ酸配列を含み、配列番号3によるポリペプチドの少なくとも1つの機能的活性を保持するタンパク質である。
【0094】
本発明によるタンパク質の機能的均等物は、例えば、アスパラギナーゼ活性を求めるために、本発明のタンパク質の変異体、例えば切断型変異体などのコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定することもできる。一実施形態では、核酸レベルでのコンビナトリアル突然変異誘発によって変化に富む変種ライブラリーを生成する。変化に富む変種ライブラリーは、例えば、潜在的なタンパク質配列の縮重セットが個々のポリペプチドとして発現可能になるように、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素作用によって遺伝子配列にライゲーションすることによって生成することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から本発明のポリペプチドの潜在的変種のライブラリーを生成するのに使用することができる様々な方法がある。縮重オリゴヌクレオチドを合成するための方法は当技術分野で知られている(例えば、Narang(1983)Tetrahedron 39:3;Itakura他(1984)Annu.Rev.Biochem.53:323;Itakura他(1984)Science 198:1056;Ike他(1983)Nucleic Acid Res.11:477参照)。
【0095】
さらに、本発明のポリペプチドのコード配列の断片ライブラリーを使用して、ポリペプチドの変化に富む集団を生成し、後で選択される変種のスクリーニングに用いることができる。例えば、コード配列断片のライブラリーは、分子1個当たりおよそ1回だけニックが生ずる条件下で、問題のコード配列の二本鎖PCR断片をヌクレアーゼで処理し、その二本鎖DNAを変性させ、そのDNAを再生して、ニックを入れた種々の生成物からのセンス/アンチセンス対を含むことができる二本鎖DNAを形成し、S1ヌクレアーゼで処理することによって改質された二重鎖から一本鎖部分を除去し、得られた断片ライブラリーを発現ベクターにライゲーションすることによって生成することができる。この方法により、問題のタンパク質の様々なサイズのN末端及び内部断片をコードする、発現ライブラリーを得ることができる。
【0096】
切断点変異によって作製されたコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングするための、また選択された性質を有する遺伝子産物に関してcDNAライブラリーをスクリーニングするための、いくつかの技法が当技術分野で知られている。大きい遺伝子ライブラリーをスクリーニングするために、高処理量の分析に適した最も広く使用される技法は、典型的な場合、遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクターにクローニングすること、得られるベクターのライブラリーで適切な細胞を形質転換すること、及び所望の活性の検出によって、その遺伝子産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離を容易にする条件下で、コンビナトリアル遺伝子を発現させることを含む。帰納的アンサンブル突然変異誘発(REM)、すなわちライブラリー内の機能的変異体の頻度を高める技法は、本発明のタンパク質の変種を同定するためにスクリーニングアッセイと組み合わせて使用することができる(Arkin及びYourvan(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7811〜7815;Delgrave他(1993)Protein Engineering 6(3):327〜331)。
【0097】
配列番号1で示されるASPA01遺伝子配列の他、ASPA01タンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらす可能性のあるDNA配列多型が所与の集団の中に存在する可能性があることは、当業者に明らかにされよう。そのような遺伝的多型は、天然の対立変種が原因で、種々の集団からの細胞又はある1つの集団の中の細胞に存在する可能性がある。対立変種は機能的均等物を含んでもよい。
【0098】
本発明によるポリヌクレオチドの断片は、機能的ポリペプチドをコードしないポリヌクレオチドを含んでもよい。そのようなポリヌクレオチドは、PCR反応のプローブ又はプライマーとして機能することができる。
【0099】
本発明による核酸は、これが機能的又は非機能的ポリペプチドをコードするか否かに関わらず、ハイブリダイゼーションプローブ又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーとして使用することができる。ASPA01活性を有するポリペプチドをコードしない本発明の核酸分子の使用には、とりわけ、(1)cDNAライブラリー、例えばA.niger以外の生物から、ASPA01タンパク質をコードする遺伝子又はその対立変種を単離すること、(2)Vermaら、Human Chromosomes:a Manual of Basic Techniques、Pergamon Press、New York(1988)に記載されるような、ASPA01遺伝子の正確な染色体位置を得るための、中期染色体スプレッドとのin situハイブリダイゼーション(例えばFISH)、(3)特定の組織及び/又は細胞におけるASPA01 mRNAの発現を検出するためのノーザンブロット分析、及び(4)所与の生体(例えば組織)サンプル中でASPA01プローブとのハイブリダイゼーションが可能な核酸の存在を分析するための診断ツールとして使用することができるプローブ及びプライマーが含まれる。
【0100】
本発明は、ASPA01遺伝子又はcDNAの機能的均等物を得る方法も包含する。そのような方法では、配列番号3又はその変種の配列の全て又は一部をコードする単離された核酸を含む標識プローブを得ること、そのプローブとライブラリー中の核酸断片とのハイブリダイゼーションが可能になる条件下、標識プローブで核酸断片ライブラリーをスクリーニングし、それによって核酸二重鎖を形成すること、及び任意の標識された二重鎖の核酸断片から完全長遺伝子配列を調製して、ASPA01遺伝子に関係する遺伝子を得ることが含まれる。
【0101】
一実施形態では、本発明のASPA01核酸は、配列番号1、配列番号2に示される核酸配列又はその相補鎖に対し、少なくとも40%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上相同である。
【0102】
別の好ましい実施形態では、本発明のASPA01ポリペプチドは、配列番号3に示されるアミノ酸配列に対し、少なくとも40%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上相同である。
【0103】
(宿主細胞)
別の実施形態では、本発明は、本発明により包含される核酸を含有する細胞、例えば形質転換宿主細胞又は組換え宿主細胞を特徴とする。「形質転換細胞」又は「組換え細胞」は、組換えDNA技法によって、本発明による核酸が内部に導入される細胞(又はその祖先)である。原核細胞と真核細胞のどちらも、例えば細菌、真菌、酵母菌などが含まれており、特に好ましいのは糸状菌、特にAspergillus nigerから得た細胞である。
【0104】
挿入された配列の発現を調節し、又は遺伝子産物を特定の所望の方法で修飾し、プロセッシングする宿主細胞を選択することができる。タンパク質生成物のそのような修飾(例えばグリコシル化)及びプロセッシング(例えば切断)は、タンパク質の最適な機能を促進させることができる。
【0105】
様々な宿主細胞は、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセッシング及び修飾に関して特徴的かつ特異的なメカニズムを有する。発現した外来タンパク質の、望ましく正確な修飾及びプロセッシングを確実にするには、分子生物学及び/又は微生物学の当業者に馴染みのある適切な細胞系又は宿主系を選択することができる。このため、遺伝子産物の一次転写、グリコシル化、及びリン酸化の適正な処理を行うための細胞機構を持つ真核宿主細胞を使用することができる。そのような宿主細胞は問う技術分野で周知である。
【0106】
宿主細胞には、CHOやVERO、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、3T3,WI38、脈絡叢細胞系などの哺乳類細胞系も含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
望むなら、本発明によるポリペプチドは、安定にトランスフェクションした細胞系によって生成することができる。哺乳類細胞の安定なトランスフェクションに適切ないくつかのベクターが公に利用可能であり、そのような細胞系を構成するための方法も、例えばAusubelら(前掲)により公に知られている。
【0108】
別の態様では本発明は、食品を製造するために、既に述べた本発明の方法によって又は既に述べた新規なアスパラギナーゼの使用によって得ることが可能な食品を提供する。これらの食品は、前記加熱ステップ中のアクリルアミドの形成に関わるアミノ酸レベルを低下させるのに有効な量で1種又は複数の酵素を添加することを含まない製造方法によって得られる食品に比べ、アクリルアミドのレベルを著しく低下させることを特徴とする。本発明による方法は、製造した食品のアクリルアミド含量を、従来の方法により得られた食品に比べ、好ましくは50%超、より好ましくは20%超、さらにより好ましくは10%超、最も好ましくは5%超の低下をもたらすのに使用することができる。
【0109】
(材料&方法)
(アクリルアミドの測定)
(サンプルの前処理)
600mgの乾燥し均質化したサンプルを、ミリQ水5mlを使用して抽出する。この抽出物に、内部標準13アクリルアミド溶液(CIL)1μgを添加する。遠心分離(6000rpm)に10分間かけた後、上層3mlをExtreluut−3BTカラム(Merck)に導入する。酢酸エチル15mlを使用して、カラムからアクリルアミドを溶出する。窒素の穏やかな流れの中で、酢酸エチルを約0.5mlになるまで蒸発させる。
【0110】
(クロマトグラフィ条件)
酢酸エチル溶液を、ガスクロマトグラフィを使用して分析する。CP−Wax57(Varian)カラム(長さ25m、内径0.32mm、膜1.2μm)と、キャリアガスとして5.4ml/分の定流であるヘリウムとを使用して、分離を行う。3μlのスプリットレス注入を実施する。オーブンの温度を1分間50℃に保ち、その後、温度を30℃/分で220℃まで上昇させる。220℃の一定温度で12分間過ぎた後、オーブンを冷却し、安定させ、その後に次の注入を行う。検出は、イオン化ガスとしてメタンを使用する、陽イオンモードでのオンライン化学イオン化質量分析を使用して実施する。特性イオンm/z72(アクリルアミド)及びm/z75(13アクリルアミド)を、定量化のためモニタする。
【0111】
(使用した機器)
GC: HP6890(Hewlet Packard)
【0112】
MSD(質量選択的検出器): HP5973(Hewlet Packard)
【0113】
(アスパラギナーゼ活性の測定)
Shirfrinら(Shirfri,S.、Parrott,C.L.、及びLuborsky,S.W.(1974)、Journal of Biological Chemistry 249、1445〜1340)に従ってアスパラギナーゼ活性を測定した。この酵素アッセイのバックグラウンドは、アスパラギナーゼ活性の結果として放出されたNHを測定したものである。
【0114】
放出されたNHを測定するため、以下のピペットスケジュールに従った。
溶液A: 0.1Mクエン酸+0.2M NaHPO・2HO、pH5.5
溶液B: 0.189M L−アスパラギン(Sigma)
溶液C: 0.006M (NHSO(Merck)
溶液D: 25%(v/v) トリクロロ酢酸(Merck)
溶液E: アンモニア着色試薬(Aldrich)
【0115】
アスパラギナーゼ活性測定のため、これらの溶液は新鮮な状態で調製しなければならない。
【0116】
表1に、較正曲線(CP=較正点)に使用した溶液をまとめる。
【0117】
【表1】

【0118】
表1による溶液を直ちに反転させ、反転によって37℃でインキュベートした。30分後、0.1mlの溶液Dを添加することによって反応を終了させた。参照酵素試験では、0.1mlの酵素溶液を後で添加した。これらの溶液を直ちに混合し、遠心分離にかけて、全ての沈殿物を除去した。上澄み0.2mlを、4.3mlの脱イオン水と0.5mlの溶液Eが入っている試験管にピペットで移した。これらの混合物を直ちに混合し、1分後、A 436nmを、較正サンプル、参照物質、及び試験サンプルに関して測定した。
【0119】
較正曲線は、以下の通り作成した。
ΔA436nm較正点=A436nm較正点−A436nm較正点1
較正曲線は、アンモニア(NH3)濃度に対して標準物質のΔA436nmをプロットすることによって作成する。
【0120】
酵素活性は、以下の通り計算した。
ΔA436nm酵素試験=A436nm試験−A436nm試験参照
【0121】
遊離したNHのμモル数は、標準曲線を使用して決定する
【数1】


上式で、V=反応溶液の体積(スケジュール内+0.1mlの溶液D);2.2ml
=NHを決定するために第2の反応で使用した反応溶液の体積;0.2ml
=インキュベーション時間、単位は分;30
=試験をする酵素サンプルの体積;0.1
【数2】


他に特に指示しない限り、1単位のアスパラギナーゼ活性は、pH5.5及び37℃で1分当たりL−アスパラギンから遊離したNH 1μモルと定義する。生地のpHは約5.5であり、従ってこのpHは測定に好ましい。しかし、異なるpH値を持つその他の物質では、この異なるpHをアスパラギナーゼ活性の決定に使用することが好ましい。
【0122】
ppmで表す量は、他に特に指示しない限り、穀粉の量をベースとする。
【0123】
(材料)
アスパラギナーゼは、大腸菌(Sigma、特異的活性が285ユニット/mgである)、Erwinia chrysanthemi(Sigma、特異的活性が100ユニット/mgである)、Bacillus subtilis、又はAspergillus nigerから得た(発酵の詳細については実施例参照)。
【0124】
CSL培地は(1リットル当たりの量で):Corn Steep Solid(Roquette)100g、NaHPO・HO 1g、MgSO・7HO 0.5g、グルコース・HO 10g、及びBasildon(アンチフォーム)0.25gからなるものであった。これらの成分を脱塩水に溶解し、そのpHをNaOH又はHSOでpH5.8に調節し、バッフル及びフォームボールを備えた100mlフラスコに20mlの発酵ブロスを満たし、120℃で20分間滅菌した後、5000IU/mlのペニシリン及び5mg/mlのストレプトマイシンを含有する溶液200μlを、室温に冷却した後に各フラスコに添加した。
【0125】
CSM培地は、マルトース・HO 150g、Soytone(ペプトン)60g、NaHPO・HO 1g、MgSO・7HO 15g、Tween80 0.08g、Basildon(アンチフォーム)0.02g、MES 20g、L−アルギニン 1g(1リットル当たりの量で)からなるものであった。これらの成分を脱塩水に溶解し、そのpHをNaOH又はHSOでpH6.2に調節し、バッフル及びフォームボールを備えた500mlフラスコに100mlの発酵ブロスを満たし、120℃で20分間滅菌した後、5000IU/mlのペニシリン及び5mg/mlのストレプトマイシンを含有する溶液1mlを、室温に冷却した後に各フラスコに添加した。
【0126】
(実施例1)
(Aspergillus nigerの発酵)
本明細書に示されるヌクレオチド配列によってコードされたアスパラギナーゼは、DNA配列を含有する発現プラスミドを構成し、このプラスミドでA.niger株を形質転換し、そのAspergillus niger株を以下の方法で成長させることによって得た。
【0127】
A.niger株の新鮮な胞子(10〜10)を20mlのCSL培地(100mlフラスコ、バッフル)に接種し、20〜24時間、34℃及び170rpmで成長させた。5〜10mlのCSL前培養物を100mlのCSM培地(500mlフラスコ、バッフル)に接種した後、その株を34℃及び170rpmで3〜5日間発酵させた。
【0128】
50mlのGreiner管で遠心分離することにより(30分、5000rpm、4℃)、細胞を含まない上澄みを得て、その後の全てのステップを氷上で実施した。上澄みを、GF/A Whatman Glassマイクロファイバーフィルタ(150mmφ)に通して前濾過することにより大きい粒子を除去し、4N KOHでpH5に調節し(必要に応じて)、吸引により0.2μm(ボトルトップ)フィルタに通して滅菌濾過し、真菌物質を除去した。上澄みを4℃(又は20℃)で保存した。
【0129】
(限外濾液中のAspegillus nigerアスパラギナーゼ含量とアスパラギナーゼ活性の測定)
(ステップ1−限外濾液の調製)
実施例1で得た培養物の上澄みを限外濾過して、より高い酵素濃度を得て、酵素活性の決定及びベーキング試験を妨げる可能性のある低分子汚染を除去した。上澄み300mlの限外濾過は、10kDaカットオフのフィルタを備えたMillipore Labscale TFFシステムで実施した。
【0130】
サンプルを、その色及び体積に応じて10〜30mlの冷却した脱塩水で3〜5回洗浄した。酵素溶液の最終体積は10〜30mlであり、これをさらに「限外濾液」と呼ぶ。
(ステップ2−A280及びHPSECによるアスパラギナーゼ濃度の決定)
【0131】
限外濾液中のAspergillus nigerアスパラギナーゼの濃度を、アスパラギナーゼに起因する280nmでの吸光度(A280)及び計算されたアスパラギナーゼの分子吸光係数から計算した。A280の測定は、Uvikon XL Secomam分光光度計(Beun de Ronde、Abcoude、オランダ)で行った。
【0132】
酵素の分子吸光係数は、酵素分子1個当たりのチロシン、トリプトファン、及びシステイン残基の数から計算することができる(S.C.GillとP.H.von Hippel、Anal.Biochem.182、319〜326(1989))。これらのアミノ酸の分子吸光係数は、それぞれ1280、5690、及び120M−1cm−1である。本発明のAspergillus nigerアスパラギナーゼのチロシン、トリプトファン、及びシステイン残基の数は、配列番号3で示されるタンパク質配列から推論することができる。本発明のAspergillus nigerアスパラギナーゼの計算された吸光係数を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
アスパラギナーゼに起因する280nmでの限外濾液の吸光度(A280)は、酵素サンプルの純度に依存する。この純度は、TSK SW−XLカラム(300×7.8mm;MW範囲10〜300kDa)を用いるHPSEC(高性能サイズ排除クロマトグラフィ)を使用して決定した。溶出緩衝液は、pH6.0の25mMリン酸ナトリウム緩衝液からなり、これを1ml/分の流量で使用した。5〜100μlのサンプルを注入した。280nmでの吸光度を測定した。
本発明のアスパラギナーゼに起因する限外濾液のA280は、クロマトグラムにおけるそれぞれのアスパラギナーゼのピークのピーク表面と、280nmで吸収されるピークの全表面との比から得られる。次いで各アスパラギナーゼに関し、限外濾液中のアスパラギナーゼ濃度を、限外濾液のA280に上述の比を掛けて0.3(計算された吸光係数)で割ることによって計算した。溶液は、40mgタンパク質/mlを含有していた。
【0135】
(ステップ3−アスパラギナーゼ活性の決定)
Aspergillus nigerアスパラギナーゼ溶液は、pH5.5で40000U/mlの活性を示した。従って、タンパク質含量40mg/mlを考慮に入れると、1000ユニット/mgタンパク質の特異的活性が計算できる。
【0136】
(実施例2)
(Aspergillus nigerアスパラギナーゼのpH最適条件)
この実施例では、活性を様々なpH値で測定した。pH値を一定に保ち、緩衝液の効果を修正するために、いくつかのアスパラギナーゼ活性測定を、異なる緩衝液中で同じpH値で実施した。
【0137】
3種の異なる緩衝液を使用して、アスパラギナーゼ活性をpH範囲5〜9で測定した:
1.クエン酸/リン酸緩衝液(pH5〜6.2);
2.リン酸緩衝液(pH8.5〜7.6);及び
3.トリス緩衝液(pH7.2〜8.9)。
【0138】
基質濃度は、アスパラギン17.2mMであった。表3に、A.nigerから得られたアスパラギナーゼに関して、pHに対するアスパラギナーゼ活性を示す。
【0139】
【表3】

【0140】
データからわかるように、このAspergillus nigerアスパラギナーゼは、およそ5.5という生地のpH値で酵素が比較的高い酵素活性を示すので、ベーキングへの適用分野に非常に適している。
【0141】
(実施例3)
(大腸菌及びAspergillus nigerのアスパラギナーゼに関するK値及びVmax値)
値及びVmax値の決定を、大腸菌又はAspergillus nigerアスパラギナーゼのアスパラギナーゼ活性の測定により、pH5.5及び37℃でそれぞれ実施した。表4に、これらの測定結果をまとめる。
【0142】
【表4】

【0143】
A.nigerアスパラギナーゼは、大腸菌アスパラギナーゼよりも著しく高い活性を示す。
【0144】
(実施例4)
(バタールタイプのパンの調製と、Erwinia、大腸菌、及びAspergillus nigerのアスパラギナーゼがパンの皮及び中身のアクリルアミドレベルに及ぼす影響)
生地は、穀粉2000g(100%)、水1040ml(57%)、新鮮なKonings酵母44g、塩40g(5%)、アスコルビン酸136mg(68pm)、本発明によるErwinia(Sigma)又はAspergillus nigerアスパラギナーゼからの指示量のアスパラギナーゼから調製した。これらの成分を、螺旋型混合機Diosna SP12により混合して生地にした(速度1で2分、その後、速度2で全エネルギー入力が85whに達するまでの混合時間)。この後、完成した生地を、32℃で15分間ねかせた。引き続き、350gずつに分けた生地の小片を手でまるめ、32℃で15分間ねかせた。その後、生地の小片をまるめて形作り、最後に75分間ねかせた。ねかせた後、1cmの深さで、生地の小片の上面の長さの切込みを入れた。生地のサンプルを得た直後にベーキングを行って、アクリルアミド含量を決定した。生地の小片は、240℃のオーブンで30分間ベークした。
【0145】
その後、サンプルをパンの皮から得て(外側2mm)、上述のようにアクリルアミドに関して分析した。パンの皮を、バタールの上側から得たが、その皮の部分は、平均的に褐色を示して濃すぎずかつ白すぎない部分を選択した。アクリルアミドの決定では、各条件での1個及び2個のパンの2つの測定値の平均を、下記の表5、6、及び7に示す。
【0146】
【表5】

【0147】
上記の表から、新規なASPA01を含むいくつかのタイプのアスパラギナーゼを使用することによって、パンの皮の中で形成されるアクリルアミドの量を低下させる効果があると結論付けることができる。
【0148】
【表6】

【0149】
上記表から、アスパラギナーゼの量が増加すると、パンの皮の中で形成されるアクリルアミドの量が低下すると結論付けることができる。
【0150】
(実施例5)
(アスパラギンを添加したバタールのアクリルアミドレベルに対してアスパラギナーゼが及ぼす影響)
パンの生地、塊、及びサンプルを、実施例4と同じ手法で調製したが、アスアラギナーゼを添加したステップと同じステップでは、表7に示す量でL−アスパラギン(Sigma)を生地に添加した。得られたサンプル中のアクリルアミドを決定し、その結果を以下に見出すことができる。
【0151】
【表7】

【0152】
表7から、アミノ酸アスパラギンをパンに添加することによって、パンの皮のアクリルアミド含量が著しく増加すると結論付けることができる。しかしこれは、アスパラギナーゼを使用することによって再び低下させることができる。
【0153】
(実施例6)
(様々なパラメータが、パンの皮のアクリルアミドレベルに及ぼす影響)
生地を、全粒小麦粉2000g(100%)(Linde(登録商標)−Meneba、オランダ)又は通常の白い小麦粉(Kolibri(登録商標)−Meneba、オランダ)、水1140ml(57%)、新鮮なKoningsgist(登録商標)47g、塩40g(1.75%)、アスコルビン酸136mg(34ppm)、指示量のL−アスパラギン(Sigma)とAspergillus nigerから得られたアスパラギナーゼASPA01から調製した。これらの成分を、螺旋型混合機Diosna SP12により混合して生地にした(速度1で2分、その後、速度2で全エネルギー入力が85whに達するまでの混合時間)。この後、完成した生地を、32℃で15分間ねかせた。引き続き、350gずつに分けた生地の小片を手でまるめ、32℃で15分間ねかせた。その後、生地の小片をまるめて形作り、最後に90分間ねかせた。ねかせた後、1cmの深さで、生地の上面の長さの切込みを入れた。生地の小片をオーブンでベークした。
【0154】
3つのベーキングプロセスを使用した。
1.240℃で30分
2.300℃で20分
3.320℃で20分
【0155】
ベーキングの後、実施例4に示したようにパンの皮からサンプルを得た。サンプルのアクリルアミド分析の結果を以下に示す。生地内部のアクリルアミドの量は、ベーキングを行う直前に測定した。それぞれの数字は、各条件ごとの、1個のパンに関する2つの測定値の平均である。
【0156】
【表8】

【0157】
表8から、アクリルアミドの形成は、適用されるベーキングプロセスに依存すると結論付けることができる。高温で短いベーキングプロセスでは、アクリルアミドの形成が、低温でベークしたときよりも著しく多い。ベーキングプロセス3では、非常に色の濃い塊が得られた。従って、このベーキング条件下ではさらに実験を行わなかった。
【0158】
【表9】

【0159】
表9から、穀粉のタイプは、形成されるアクリルアミドの量に影響を及ぼすことが明らかである。
【0160】
【表10】

【0161】
糖の存在は、アクリルアミドの形成を刺激した。さらにアスパラギンを添加した場合、この作用はさらに増大した。Aspergillus nigerアスパラギナーゼを、この糖に富む生地系に添加した場合、パンの皮の中のアクリルアミドレベルは著しく低下した。驚くべきことに、アクリルアミドに比較的富む塊では、Aspergillus nigerから得られた同量のアスパラギナーゼを使用したときに、アクリルアミドの低下が非常に大きい。
【0162】
(実施例7)
(ダッチハニーケーキの作製)
ダッチハニーケーキの作製を2段階で行った。第1段階では、プレバターを下記の通り作製した:Koekzoet(登録商標)(Atlanta Dethmers B.V.、Groningen−Holland)4kgと、ばらばらにしたダッチハニーケーキ500gに、水2リットルに加え、温度が116Cに達するまで加熱した。ライ麦粉5kgを加え、これをバターが滑らかになるまで混合する。その後、生地を冷却し、室温で1〜2日間保存する。
【0163】
このプレバター2750グラムに対し、下記の成分を加えた:Koekzoet(登録商標)500グラム、シフトしたダッチハニークックスパイス27.5g、シフトしたKaram(登録商標)ベーキングパウダー22g、Vulkaan(登録商標)ベーキングパウダー16.5g(全てAtlanta Dethmers)。さらに、様々な量のAspergillus nigerアスパラギナーゼを添加したが、その酵素活性は40000U/mlであった(酵素活性は、pH5.5で、実施例1により測定した)。
【0164】
この混合物を、DiosnaミキサタイプSD12(Diosna、Dierks&Sohne、Osnabruck−ドイツ)で6分間、104rpmで混合した。3250gのバターを計り取り、外で湿らせ、ケーキパンに入れた。この後、バターを30℃で105分間保温した。この後、バターを180℃で60分間ベークした。ダッチハニーケーキの外側の層及び内側の部位(「中身(crumb)」)のサンプルを、アクリルアミドの存在に関して分析した。
【0165】
ベーキング後、サンプルを中身(ケーキの中心)と皮(外側2mm)から引き出し、上述のようにアクリルアミドに関して分析した。皮のサンプルでは、平均的な色を示す皮部分を選択することによって、ケーキの上側から採取した。
【0166】
【表11】

【0167】
【数3】


この実施例で示されるように、Aspergillus nigerアスパラギナーゼを添加することによって、処理をしなかったダッチハニーケーキと比較してアクリルアミド含量を5%に低減させた。さらにダッチハニーケーキでは、その中身に高レベルのアクリルアミドが見られることは驚くべきことである。全てのパンの実験で、パンの中身のアクリルアミドの量は、アスパラギン又は糖を添加した場合であってもアクリルアミド分析の検出限界よりも下であった(<30ppb)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの加熱ステップを伴う食品を製造するための方法であって、前記製造方法における前記食品の中間形態に1種又は複数の酵素を添加することを含み、前記酵素は、前記食品の前記中間形態に存在し前記加熱ステップ中のアクリルアミド形成に関与するアミノ酸のレベルを低下させるのに有効な量で、前記加熱ステップの前に添加されるものである方法。
【請求項2】
前記食品が少なくとも1種の植物原料から作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物原料が、穀物粉、好ましくは小麦粉又はジャガイモである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が、前記製造方法の加熱ステップ中のアクリルアミド形成に関与するアミノ酸の側鎖を修飾することができ、前記アミノ酸の分解生成物が、非修飾形態のアミノ酸に比べてアクリルアミドの形成を引き起こすことがなく、又は少なくともより少ない程度にしか引き起こさない、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が、アスパラギン、グルタミン、システイン、メチオニン、プロリン、セリン、フェニルアラニン、チロシン、及び/又はトリプトファンの少なくとも1種のアミノ酸の側鎖を修飾する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素が、酵素製剤として添加され、又は前記酵素を生成することができる微生物によってその場で生成される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記酵素製剤が微生物に由来する、請求項7に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物が、細菌、真菌、又は酵母菌である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酵素がアスパラギナーゼ(EC 3.5.1.1)又はグルタミナーゼ(EC 3.4.1.2)である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
配列番号1のポリヌクレオチドとハイブリダイズ可能な、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
高ストリンジェントな条件下で、配列番号1のポリヌクレオチドとハイブリダイズ可能な、請求項10に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項12】
糸状菌から得ることが可能な、請求項10又は11に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項13】
Aspergillus nigerから得ることが可能な、請求項12に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項14】
配列番号3のアミノ酸配列、又はその機能的均等物、を含むアスパラギナーゼをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号3のアミノ酸配列、又はその機能的均等物、を含むアスパラギナーゼの少なくとも1つの機能的ドメインをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項16】
配列番号1のヌクレオチド配列、又はその機能的均等物、を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項17】
配列番号1からなる、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項10から17に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項19】
請求項10から17に記載の前記ポリヌクレオチド配列が、適切な宿主細胞内での前記ポリヌクレオチド配列の発現に適切な調節配列に、動作可能に結合する、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
前記適切な宿主細胞が糸状菌である、請求項19に記載のベクター。
【請求項21】
前記ポリヌクレオチド又は前記ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞から前記ポリヌクレオチド又は前記ベクターを単離するステップと、を含む、請求項10から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項18から20のいずれか一項に記載のベクターを製造するための方法。
【請求項22】
配列番号3のアミノ酸配列、又はその機能的均等物、を有する、単離されたアスパラギナーゼ。
【請求項23】
Aspergillus nigerから得ることが可能な、請求項22に記載の単離されたアスパラギナーゼ。
【請求項24】
適切な宿主細胞、例えばAspergillus niger中で、請求項10から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項18から20に記載のベクターを発現することによって得ることが可能な、単離されたアスパラギナーゼ。
【請求項25】
請求項22から24のいずれか一項に記載のアスパラギナーゼのいずれかの機能的ドメインを含む、組換えアスパラギナーゼ。
【請求項26】
請求項10から17のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチド又は請求項18から20のいずれか一項に記載のベクターで、適切な宿主細胞を形質転換するステップと、前記ポリヌクレオチドの発現が可能な条件下で前記細胞を培養するステップと、前記細胞又は培地からコードされたポリペプチドを任意に精製するステップと、を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載のアスパラギナーゼを製造するための方法。
【請求項27】
請求項10から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項18から20のいずれか一項に記載のベクター、を含む、組換え宿主細胞。
【請求項28】
請求項22から25のいずれか一項に記載のポリペプチドを発現する、組換え宿主細胞。
【請求項29】
請求項1から9のいずれか一項に記載の食品を製造するための方法における、請求項22から25のいずれか一項に記載のアスパラギナーゼの使用。
【請求項30】
請求項1から9又は請求項29のいずれか一項に記載の方法によって得ることが可能な食品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの加熱ステップを伴う食品を製造するための方法であって、前記製造方法における前記食品の中間形態に1種又は複数の酵素を添加することを含み、前記酵素は、前記食品の前記中間形態に存在し前記加熱ステップ中のアクリルアミド形成に関与するアミノ酸のレベルを低下させるのに有効な量で、前記加熱ステップの前に添加されるものである方法。
【請求項2】
前記食品が少なくとも1種の植物原料から作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物原料が、穀物粉、小麦粉又はジャガイモである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が、前記製造方法の加熱ステップ中のアクリルアミド形成に関与するアミノ酸の側鎖を修飾することができ、前記アミノ酸の分解生成物が、非修飾形態のアミノ酸に比べてアクリルアミドの形成を引き起こすことがなく、又は少なくともより少ない程度にしか引き起こさない、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素が、アスパラギン、グルタミン、システイン、メチオニン、プロリン、セリン、フェニルアラニン、チロシン、及び/又はトリプトファンの少なくとも1種のアミノ酸の側鎖を修飾する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素が、酵素製剤として添加され、又は前記酵素を生成することができる微生物によってその場で生成される、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記酵素製剤が微生物に由来する、請求項7に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物が、細菌、真菌、又は酵母菌である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酵素がアスパラギナーゼ(EC 3.5.1.1)又はグルタミナーゼ(EC 3.4.1.2)である、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
配列番号1又は配列番号2のポリヌクレオチドとハイブリダイズ可能な、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
高ストリンジェントな条件下で、配列番号1又は配列番号2のポリヌクレオチドとハイブリダイズ可能な、請求項10に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項12】
糸状菌から得ることが可能な、請求項10又は11に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項13】
Aspergillus nigerから得ることが可能な、請求項12に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項14】
配列番号3のアミノ酸配列、又はその機能的均等物、を含むアスパラギナーゼをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号3のアミノ酸配列、又はその機能的均等物、を含むアスパラギナーゼの少なくとも1つの機能的ドメインをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項16】
配列番号1又は配列番号2のヌクレオチド配列、又はその機能的均等物、を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項17】
配列番号1又は配列番号2からなる、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項10から17に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項19】
請求項10から17に記載の前記ポリヌクレオチド配列が、適切な宿主細胞内での前記ポリヌクレオチド配列の発現に適切な調節配列に、動作可能に結合する、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
前記適切な宿主細胞が糸状菌である、請求項19に記載のベクター。
【請求項21】
前記ポリヌクレオチド又は前記ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞から前記ポリヌクレオチド又は前記ベクターを単離するステップと、を含む、請求項10から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項18から20のいずれか一項に記載のベクターを製造するための方法。
【請求項22】
配列番号3のアミノ酸配列、又はその機能的均等物、を有する、単離されたアスパラギナーゼ。
【請求項23】
Aspergillus nigerから得ることが可能な、請求項22に記載の単離されたアスパラギナーゼ。
【請求項24】
適切な宿主細胞の中で、請求項10から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項18から20に記載のベクターを発現することによって得ることが可能な、単離されたアスパラギナーゼ。
【請求項25】
請求項22から24のいずれか一項に記載のアスパラギナーゼのいずれかの機能的ドメインを含む、組換えアスパラギナーゼ。
【請求項26】
請求項10から17のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチド又は請求項18から20のいずれか一項に記載のベクターで、適切な宿主細胞を形質転換するステップと、前記ポリヌクレオチドの発現が可能な条件下で前記細胞を培養するステップと、前記細胞又は培地からコードされたポリペプチドを任意に精製するステップと、を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載のアスパラギナーゼを製造するための方法。
【請求項27】
請求項10から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項18から20のいずれか一項に記載のベクター、を含む、組換え宿主細胞。
【請求項28】
請求項22から25のいずれか一項に記載のポリペプチドを発現する、組換え宿主細胞。
【請求項29】
請求項1から9のいずれか一項に記載の食品を製造するための方法における、請求項22から25のいずれか一項に記載のアスパラギナーゼの使用。
【請求項30】
請求項1から9又は請求項29のいずれか一項に記載の方法によって得ることが可能な食品。

【公表番号】特表2006−510354(P2006−510354A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540803(P2004−540803)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014553
【国際公開番号】WO2004/030468
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505074311)
【Fターム(参考)】